説明

樹脂プーリ

【目的】軽量でボス部を小形とし且つ強度が確保された樹脂プーリとすること。
【構成】環状部1の外周側面で且つ軸方向中間箇所から直径方向に突出すると共に周方向に沿って突出部2が形成された金属製のブッシュAと、突出部2が内周側にインサートされるプーリボス部3とプーリボス部3を直径中心として形成される円錐形状の椀状部4と椀状部4の外周に形成されたベルト掛部51が形成された外筒部5を有する樹脂プーリ本体Bとからなること。椀状部4の内側面41の延長線Laと、外側面42の延長線Lbとの間の領域に、突出部2の少なくとも一部が位置し、且つ外側面42の延長線Lbと突出部2とは交わらない構成としてなること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量でボス部を小形とし且つ強度が確保された樹脂プーリに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のプーリの中には、強度を維持しつつ軽量化を実現するために、内周部分にブッシュを配置し、外周部分に樹脂を配置した樹脂製の樹脂プーリが存在する。この種のものが特許文献1に開示されている。以下に、特許文献1について概略する。なお、以下の説明において、部材に付された符号は、特許文献1に記載されたものをそのまま使用する。
【0003】
樹脂プーリ本体bの外筒8の軸方向中心C0は、ベルトが掛かるベルト幅中央(ベルトセンター)となる位置である。外向き環状部4の軸方向中心C1は、樹脂プーリ本体bの外筒8の軸方向中心C0とは軸方向にオフセットOSだけずれて配置されている。
【0004】
このような状態でベルト荷重が掛かると樹脂プーリ本体bは、ずれて移動する側(左側)に倒れようとする力が掛かる。また、上記とは別に、外筒8の軸方向中心C0と外向き環状部4の軸方向中心C1とはオフセットOSだけずれて配置されているため、外筒8と外向き環状部4との間の内向き環状部10は、本願において従来技術を示す図5で見ると左上から右下に橋渡しされるように配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−22923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1において、ベルト荷重は、本願の従来技術を示す図5に示すように、傾斜方向に作用する。このベルト荷重のかかる方向を矢印で示すと、環状段差部4bは前記矢印(本願の従来技術を示す図5に記載された仮想の矢印)より下側(内周)に存在するもので、力の作用する範囲から外れている。したがって、ベルト荷重による力を環状段差部4bは、直接受け止めることは出来ない。
【0007】
つまり、環状段差部4bは、補強の機能が十分に果たされていない。その結果として特許文献1のプーリの強度は低いものであるという課題があった。また、ベルト荷重による力は外向き環状部4の中でも環状段差部4b以外の部分で主に受け止められる。
【0008】
よって、樹脂プーリ本体bの強度を保つため、厚肉嵌合部分6bを厚肉として補強するため、樹脂プーリ本体bは厚くなり、且つ重量が増してしまうという課題があった。本発明の目的(解決しようとする技術的課題)は、強度を向上させると共に、ボス部箇所を小型化することで重量の小さい樹脂プーリを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、発明者は上記課題を解決すべく鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、環状部の外周側面で且つ軸方向中間箇所から直径方向に突出すると共に周方向に沿って突出部が形成された金属製のブッシュと、前記突出部が内周側にインサートされるプーリボス部と該プーリボス部を直径中心として形成される円錐形状の椀状部と該椀状部の外周に形成されたベルト掛部が形成された外筒部を有する樹脂プーリ本体とからなり、前記椀状部の内側面の延長線と、外側面の延長線との間の領域に、前記突出部の少なくとも一部が位置し、且つ前記外側面の延長線と、前記突出部とは交わらない構成としてなる樹脂プーリとしたことにより、上記課題を解決した。
【0010】
請求項2の発明を、請求項1において、前記内側面の延長線と、前記外側面の延長線との間の領域に前記外筒部のベルト掛部の中心が位置する構成としてなる樹脂プーリとしたことにより、上記課題を解決した。請求項3の発明を、請求項1又は2において、前記内側面の延長線と、前記外側面の延長線との間の領域にゲート入口部が位置する構成としてなる樹脂プーリとしたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明では、椀状部の内側面の延長線と、外側面の延長線との間の領域に、突出部の少なくとも一部が位置する構成としたことにより、少なくとも突出部の最外端が内側面の延長線に交わることになる。そのために、椀状部に沿って伝達されたベルト荷重を、強度が高い金属製のブッシュの突出部で受け止めることが出来る。これによって樹脂プーリの強度を向上させることができる。
【0012】
また、椀状部の内側面の延長線上と、外側面の延長線上との間の領域に突出部の少なくとも一部が位置することになり、つまり、突出部は外側面の延長線とは交わることなく突出しないので、突出部を小さいものとでき、金属製のブッシュの外径を小さくして軽量化を実現することができる。よって、樹脂プーリの強度を保ちながらも樹脂プーリの全重量を軽量のものに出来る。
【0013】
請求項2の発明では、外筒部のベルト掛部の軸方向中心位置は、前記内側面の延長線と前記外側面の延長線の範囲内に存在させたことにより、ベルト荷重の発生点であるベルト掛部の中心位置が内側面の延長線と、外側面の延長線との間の領域に配置されることになる。
【0014】
それゆえに、ベルト掛部の軸方向中心、椀状部及び突出部が略一直線に並び、ベルト荷重が椀状部に沿って、突出部に集中し易くなり、突出部はより一層確実にベルト荷重を受け止めることができ、突出部による補強機能が有効に働くものである。
【0015】
請求項3の発明では、内側面の延長線と、外側面の延長線との間の領域に樹脂プーリ本体を成形するゲート入口部が位置するようにしたことで、椀状部における樹脂成形において、樹脂は層流に流れ、成形性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)は本発明の縦断側面図、(B)は(A)の(ア)部拡大図である。
【図2】(A)は本発明において、ベルト荷重に対するブッシュの突出部の作用を示す要部拡大縦断側面である。
【図3】(A),(B)はブッシュの突出部の一部である最外端が樹脂プーリ本体における内側面の延長線と、外側面の延長線との間に挟まれた領域に位置している構成の変形例を示した要部拡大縦断側面である。
【図4】(A)はブッシュがインサートされた樹脂プーリ本体の一部切除した正面図、(B)は(A)の(イ)部拡大図、(C)はブッシュの斜視図、(D)は(C)の(ウ)部拡大図である。
【図5】従来技術を示す一部省略した要部縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。本発明は、図1に示すように、金属製のブッシュAと、樹脂プーリ本体Bとから構成され、ブッシュAが前記樹脂プーリ本体Bにインサートされつつモールド成形されて、プーリが形成されるものである。ブッシュAは、環(リング)形状の環状部1と、環状部1の外周側面に形成される突出部2から構成される。
【0018】
本発明では、ブッシュA及び樹脂プーリ本体Bにおいて共通する軸方向が設定され、共に直径方向に対して直交する方向を軸方向とし、本発明に係る部材について軸方向は共通する。図1(A)には、軸方向を示す軸方向線Lが示されている。
【0019】
環状部1は、内周側に軸孔11が貫通孔として形成され,プーリを駆動するシャフト7が挿通される〔図1(A)参照〕。また、シャフト7の長手方向は、前記軸方向と一致する。該シャフト7は、圧入、リング止め、接着等の方法により固着される。前記ブッシュAの環状部1の外周側には、周方向に沿って突出部2が形成されている。また、突出部2は、環状部1の軸方向において、中間(略中間も含む)箇所に形成される〔図4(B)乃至(D)参照〕。
【0020】
突出部2は、略ギア(歯車)形状をなしており、複数の歯形21,21、…から構成され、前記環状部1の外周側面に等間隔に形成されたものである〔図4(C),(D)参照〕。歯形の形状としてはセレーション歯等である。突出部2の軸方向寸法(厚さ寸法)は、環状部1の軸方向寸法(厚さ寸法)よりも薄く形成されている。
【0021】
したがって、突出部2の軸方向両側には環状部1の外周側面の突出する部位が存在し、この外周部位を周側面12,12と称する。該周側面12は、環状部1の外周側面であり、軸方向に平行な面である〔図4(C),(D)参照〕。ブッシュAは、たとえば、金属粉を焼き固めた焼結体にて形成されている。したがって、切削加工では無く金型によって形成することができる。また、ブッシュAは金属粉を焼き固めた焼結体には限定されるものではなく、通常の金属製であればよい。
【0022】
また、前記ブッシュAの環状部1の外周側と、突出部2との間には円周状膨出部13が形成されることもある。該円周状膨出部13は、突出部2と軸方向寸法が同一であり、円周状膨出部13の軸方向両側に前記両周側面12,12が位置することになる。
【0023】
そして、円周状膨出部13の外周面にギア形状とした突出の歯が歯形21,21,…が周方向に沿って複数形成される。円周状膨出部13は、環状部1において周方向に沿って形成された円筒状の部位であり、樹脂プーリ本体Bへのインサートモールド成形では、突出部2と共に、樹脂プーリ本体Bの内部に食い込み、軸方向における強度を向上させることができる。
【0024】
次に、樹脂プーリ本体Bは、プーリボス部3と、椀状部4と、ベルト掛用の外筒部5とから構成されている(図1参照)。樹脂プーリ本体Bは、グラスファイバー等の繊維が含有されたフェノール樹脂等の樹脂製であり、前記ブッシュAの外周面部分を包み込むように形成されている。
【0025】
具体的には、プーリボス部3にブッシュAがインサートモールド成形にて装着される。プーリボス部3は、椀状部4の直径中心位置において軸方向及び直径方向に厚肉の膨出部位として形成され、略円筒形状であり、ブッシュAの突出部2及び円周状膨出部13が食い込めるように構成されている。ブッシュAが樹脂プーリ本体Bへインサートされた状態は、ブッシュAの軸方向両端側面がプーリボス部3の軸方向端面に対して同一面(略同一面も含む)としている。
【0026】
椀状部4は、前記プーリボス部3の外周から直径方向に拡がるようにして略扁平円錐形の椀形状に形成された部位である。椀状部4は、プーリボス部3と外筒部5と連続する付根箇所を除いて、その肉厚は、均一であり、いずれの位置でも略同一厚さを有している。椀状部4は、扁平円錐形状としたものであり、内側面41と外側面42を有している(図1参照)。
【0027】
前記内側面41は、椀状部4における扁平円錐形状の凹状側の側壁面であり、また、外側面42は凸状側の側壁面である。内側面41と外側面42は、軸方向断面で見ると直線状に形成されている。また、内側面41と外側面42との間隔は、椀状部4の肉厚となる。また、扁平円錐形状の椀状部4の直径方向における面の傾斜角度は、全周面で一定に形成され、具体的には約30度程度である。つまり、椀状部4の内側面41及び外側面42の軸方向に直交する垂直面に対して約30度程度傾いている。
【0028】
椀状部4の直径方向外端にはベルト掛用の外筒部5が形成されている。該外筒部5には、ベルト掛部51が形成され、該ベルト掛部51は、複数のベルト溝51a,51a,…が形成されている〔図1(B)参照〕。外筒部5は、椀状部4の内側面41側に偏って形成されている。
【0029】
つまり、外筒部5は、椀状部4の外周端部から内側面41側にずれる(オフセットされる)位置関係を有するものである(図1参照)。さらに、具体的には、ベルト掛部51の軸方向中心Pは内側面41の延長線Laよりも外側になるように、且つ外側面42の延長線Lbよりも内側になるように形成されている。
【0030】
ベルト6は、無端のVベルトであり、帯状部61の内周側に前記ベルト掛部51のベルト溝51a,51a,…と同等形状且つ同等数のV形凸条62,62,…が形成されている。ベルト6の軸方向中心位置は、外筒部5のベルト掛部51の軸方向中心Pに一致するようになっている。
【0031】
外筒部5には、ベルト6が巻き掛けられて、ベルト掛部51の軸方向中心Pに直径方向に張力がかかると、実際には、椀状部4に、その直径方向外周側から中心側に沿ってベルト荷重Wが伝達されてゆく〔図1(B)、図2参照〕。そして内側面41の延長線La上と、外側面42の延長線Lb上とに挟まれ、且つベルト荷重Wを伝達する領域にブッシュAの突出部2の一部である最外端が位置して、交わっている〔図1(B)、図2参照〕。
【0032】
このような構成としたことによって、ベルト荷重Wがベルト掛部51の軸方向中心Pから椀状部4の延長方向に沿って伝達されたときに、金属製であるブッシュAの突出部2の最外端がベルト荷重Wを受け止める(図2参照)。これによって、ベルト荷重Wによる樹脂プーリ本体Bの強度が向上し、優れた耐久性を有することができる。つまり、ブッシュAの突出部2の一部である最外端の部分がベルト荷重Wが伝わる内側面41の延長線La上に位置し、そのベルト荷重Wを遮断して押し返すように作用するものである。
【0033】
また、内側面41の延長線Laと、外側面42の延長線Lbとの間に挟まれた領域にブッシュAの突出部2の一部である最外端が位置していることから、ブッシュAの突出部2は、外側面42の延長線Lbを越えて突出形成されるものではない。これによりブッシュAの突出部2を小形にでき、コンパクトで、重量を軽減することができる。
【0034】
さらに、前記内側面41の延長線Laと、前記外側面42の延長線Lbとの間の領域に突出部2の一部である最外端と、ベルト掛部51の軸方向中心Pと、プーリボス部3の樹脂成形のゲート入口部31が位置する構成とすることもある。該ゲート入口部31は、プーリボス部3とブッシュAとの境界となる円周の適宜の位置に存在する。
【0035】
そして、ゲート入口部31が前記内側面41の延長線Laと、前記外側面42の延長線Lbとの間の領域に存在することで、プーリボス部3のゲート入口部31が位置する、金型にて本発明における樹脂プーリを成形するときに、溶融した樹脂が最も層流的に流れ、品質が良好なプーリボス部3,椀状部4及び外筒部5が形成できる。
【0036】
また、図3は、ブッシュAの突出部2の一部である最外端が、樹脂プーリ本体Bにおける内側面41の延長線Laと、外側面42の延長線Lbとの間に挟まれた領域に位置している構成の変形例を示したものである。そして、図3(A)は、ブッシュAの突出部2の軸方向における厚さ寸法を比較的大きく設定したものであり、図3(B)は突出部2の直径方向における高さ寸法を比較的大きく設定したものである。
【符号の説明】
【0037】
1…環状部、2…突出部、A…ブッシュ、3…プーリボス部、4…椀状部、
5…外筒部、B…樹脂プーリ本体、41…内側面、42…外側面、
La…内側面の延長線、Lb…外側面の延長線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状部の外周側面で且つ軸方向中間箇所から直径方向に突出すると共に周方向に沿って突出部が形成された金属製のブッシュと、前記突出部が内周側にインサートされるプーリボス部と該プーリボス部を直径中心として形成される円錐形状の椀状部と該椀状部の外周に形成されたベルト掛部が形成された外筒部を有する樹脂プーリ本体とからなり、前記椀状部の内側面の延長線と、外側面の延長線との間の領域に、前記突出部の少なくとも一部が位置し、且つ前記外側面の延長線と前記突出部とは交わらない構成としてなることを特徴とする樹脂プーリ。
【請求項2】
請求項1において、前記内側面の延長線と、前記外側面の延長線との間の領域に前記外筒部のベルト掛部の中心が位置する構成としてなることを特徴とする樹脂プーリ。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記内側面の延長線と、前記外側面の延長線との間の領域にゲート入口部が位置する構成としてなることを特徴とする樹脂プーリ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−104450(P2013−104450A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246781(P2011−246781)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000144810)株式会社山田製作所 (183)
【Fターム(参考)】