説明

樹脂ライナーの製造方法

【課題】樹脂ライナーのパーツ同士の接合面での密着性の向上とレーザー溶着の実効性の向上とを簡便に達成できる新たな製造手法を提供する。
【解決手段】ライナーの軸方向に分割されたバルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eにて樹脂ライナー10を製造するに当たり、エンド側ライナーパーツ10eをレーザー透過性の樹脂成形品とし、バルブ側ライナーパーツ10vをレーザー光により溶融する樹脂成形品とする。この他、ライナーの軸から離れた側からバルブ側ライナーパーツ10vに重なるエンド側ライナーパーツ10eを、大きな熱収縮率とする。その上で、両ライナーパーツの接合後に、アニール処理とレーザー溶着とをこの順に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空形状の樹脂ライナーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空形状の樹脂ライナーは、例えば高圧ガスタンクといった流体貯留容器の内殻として使用される。高圧ガスタンクは、樹脂ライナーの外周に、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂含有のカーボン繊維やガラス繊維をフィラメントワインディング法(以下、FW法)にて繰り返し巻回し、樹脂の熱硬化を経て樹脂ライナーを繊維強化樹脂層で補強する。
【0003】
一般に、タンク形状は、タンク両端のドーム部を円筒状のシリンダー部にて繋げた形状であることから、樹脂ライナーを、こうしたタンク形状のまま一体的に成形することは難しい。このため、タンク形状をなす樹脂ライナーを、ライナーの軸方向に分割し、その分割パーツを接合した接合箇所にて、分割パーツをレーザー光にてレーザー溶着することが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−111036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂ライナーには、タンクに貯留されるガスに対するガスバリア性が求められ、分割パーツの各部位では、パーツ成形用の樹脂にてこうしたガスバリア性が確保される。その一方、分割パーツの接合箇所では、パーツ同士の接合面での密着が不十分となると、レーザー光による樹脂の溶融が進まず未溶着な部位が生じ得る。こうなると、未溶着箇所からのガスリークが起き得るので、上記の特許文献では、分割パーツの接合箇所に形状維持のための環状の保持具を装着した上で、タンク内圧を外圧より高く調整しつつレーザー溶着を行うようにして、分割パーツ同士の接合面での密着性を高めてガスリークの回避のみならず接着強度を高めている。しかしながら、分割パーツ同士の接合面での密着性を高めてレーザー溶着の実効性を高める上では、環状の保持具の装着と内圧調整が不可欠であることから、その簡便化が要請されるに到った。
【0006】
本発明は、上記した課題を踏まえ、樹脂ライナーのパーツ同士の接合面での密着性の向上とレーザー溶着の実効性の向上とを簡便に達成できる新たな製造手法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明は、以下の適用例として実施することができる。
【0008】
[適用例1:樹脂ライナーの製造方法]
中空形状の樹脂ライナーの製造方法であって、
ライナーの軸方向に分割され、その分割箇所を接合箇所として接合することで前記中空形状をなす第1、第2のライナーパーツのうち、前記第1のライナーパーツを、照射を受けたレーザー光により溶融する性状の第1の樹脂による樹脂成形品として準備すると共に、前記前記第2のライナーパーツを、レーザー光を透過させる性状と前記第1の樹脂よりも大きな熱収縮率を有する性状とを併せ持った第2の樹脂による樹脂成形品として準備し、その上で、前記接合箇所における前記第1、第2のライナーパーツの成形形状を、前記第2のライナーパーツが前記ライナーの軸から離れた側から前記第1のライナーパーツに重なって、前記第1のライナーパーツの前記接合面に前記第2のライナーパーツの前記接合面が接合する形状とする第1工程と、
前記準備した第1、第2のライナーパーツを前記接合箇所で接合し、その接合状態を維持したままの前記第1、第2のライナーパーツを、前記ライナーの軸方向に向けた熱収縮を起こす熱処理に処する第2工程と、
前記第1、第2のライナーパーツの前記接合箇所にレーザーを照射する第3工程とを備える
ことを要旨とする。
【0009】
適用例1の樹脂ライナーの製造方法では、ライナーの軸方向に分割された第1、第2のライナーパーツを、前者のパーツにあっては、これを、照射を受けたレーザー光により溶融する性状の第1の樹脂による樹脂成形品とし、後者のパーツにあっては、これを、レーザー光を透過させる性状と第1の樹脂よりも大きな熱収縮率を有する性状とを併せ持った第2の樹脂による樹脂成形品とする。これら第1、第2のライナーパーツは、両ライナーパーツを準備する第1工程に続く第2工程において、分割箇所を接合箇所として接合されて樹脂ライナーとしての中空形状をなす。しかも、第1、第2のライナーパーツの接合箇所においては、上記の各ライナーパーツの成形形状により、第2のライナーパーツは、ライナーの軸から離れた側から第1のライナーパーツに重なって、自身の接合面を第1のライナーパーツの接合面に接合させる。
【0010】
第1、第2のライナーパーツは、こうした接合状態が維持されたまま、熱収縮を起こす熱処理に処される。この熱処理により、第1、第2のライナーパーツは、共にライナーの軸方向に向けて縮径するよう熱収縮を起こすが、第2のライナーパーツの方が樹脂の熱収縮率の相違から大きな熱収縮を起こす。このため、第1のライナーパーツに重なった第2のライナーパーツは、縮径の側への大きな熱収縮により、自身の接合面を、第1のライナーパーツの接合面に接合させた上で、第1のライナーパーツの接合面に押し付ける。これにより、第1、第2のライナーパーツの接合箇所の接合面においては、熱収縮に伴い両ライナーパーツ自体で接合面からライナーの軸に向かう向きの面圧力を掛けて接合状態を維持できる。この結果、上記の適用例1の樹脂ライナーの製造方法では、形状維持のための環状の保持具を装着する必要がないばかりか、接合面での密着性を高めるための加圧調整やライナー軸両側からの過度の押圧力付与等についてもこれを必要としないので、簡便である。
【0011】
加えて、上記の適用例1の樹脂ライナーの製造方法では、第1、第2のライナーパーツを接合したまま熱処理に処すことから、この熱処理の間において、樹脂成形品である両ライナーパーツから水分を除去することができ、両ライナーパーツの接合面に水分を残さないようにできる。そして、熱収縮に伴う面圧力により両ライナーパーツの接合状態を維持するので、両ライナーパーツの接合面に外気中の水蒸気成分が浸入し難くできる。つまりは、両ライナーパーツの接合箇所をその接合面に亘って吸湿状態としないようにできる。
【0012】
上記の適用例1の樹脂ライナーの製造方法は、こうして接合された第1、第2のライナーパーツの接合箇所に、第3工程にて、レーザーを照射する。この場合、第2のライナーパーツはライナーの軸から離れた側から第1のライナーパーツに重なっていることから、照射されたレーザー光は、まず第2のライナーパーツに達する。第2のライナーパーツは、レーザー光を透過させる性状の樹脂成形であることから、レーザー光は、第2のライナーパーツを透過して、当該パーツに接合済みの第1のライナーパーツに達する。第1のライナーパーツは、照射を受けたレーザー光により溶融する性状の樹脂成形品であることから、接合面において溶融し、その熱によって、第2のライナーパーツも溶融する。このため、第1、第2のライナーパーツは、その接合箇所の接合面においてレーザー溶着し、中空形状の樹脂ライナーを得ることができる。
【0013】
一般に、レーザー溶着の対象となる樹脂材同士の接合面に水分が残っていると、レーザー溶着の際の熱により水分が蒸発し、その泡成分により溶着部に未溶着のボイドが発生し、レーザー溶着の実効性が低下する。ところが、上記の適用例1の樹脂ライナーの製造方法では、既述したように両ライナーパーツの接合箇所をその接合面に亘って吸湿状態としないので、ボイドの発生を抑制でき、レーザー溶着の実効性を高めることができる。これらの結果、上記の適用例1の樹脂ライナーの製造方法によれば、樹脂ライナーのパーツ同士の接合面での密着性の向上とレーザー溶着の実効性の向上とを簡便に達成できる。
【0014】
本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、高圧ガスタンクといった流体貯留容器の製造方法等の形態で実現することができる。この形態では、上記した適用例1の樹脂ライナーの製造方法で得られた樹脂ライナーの外周に、熱硬化性樹脂を含浸した繊維を巻回して外郭としての繊維強化樹脂層を形成し、該繊維強化樹脂層の生成済みの樹脂ライナーをライナーの軸回りに回転させつつ熱処理に処して、繊維強化樹脂層を熱硬化させることで、高圧ガスタンクといった流体貯留容器を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例としての樹脂ライナーの製造方法によって製造される樹脂ライナー10を有する高圧水素タンク100の概略構成を示す断面図である。
【図2】バルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eの概略構成を断面視して示しつつその接合の様子を併せて示す説明図である。
【図3】バルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eの接合箇所を拡大して断面視する説明図である。
【図4】高圧水素タンク100の製造工程を示すフローチャートである。
【図5】樹脂ライナー10の製造工程の前半部分を示すフローチャートである。
【図6】樹脂ライナー10の製造工程の後半部分を示すフローチャートである。
【図7】ステップS108におけるアニール処理を受けたバルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eの挙動を模式的に示す説明図である。
【図8】ステップS110におけるレーザー照射の様子を示す説明図である。
【図9】バルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eにおける変形例の接合の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の一実施例としての樹脂ライナーの製造方法によって製造される樹脂ライナー10を有する高圧水素タンク100の概略構成を示す断面図である。図1では、高圧水素タンク100の中心軸に平行で中心軸を通る切断面で切断された断面図を示している。高圧水素タンク100の中心軸は、略円筒状を成す高圧水素タンク本体の円の中心を通る軸と一致する。本実施例において、高圧水素タンク100は、圧縮水素が充填されるためのものである。例えば、高圧水素タンク100は、圧縮水素が充填された状態で、燃料電池に水素を供給するために、燃料電池車に搭載される。
【0017】
高圧水素タンク100は、樹脂ライナー10と、外殻20と、バルブ側口金30と、エンド側口金40と、バルブ50と、を備える。樹脂ライナー10は、内部に水素が充填される空間を備える中空形状とされ、水素が外部に漏れないように内部空間を密閉するガスバリア性を有する。樹脂ライナー10は、ライナーの軸方向に分割されたバルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eとを備える。この両ライナーパーツは、共に樹脂成形品であって、その分割箇所を接合箇所として接合されて中空形状をなす。ライナーパーツの接合およびその溶着については後述する。
【0018】
外殻20は、樹脂ライナー10の外周を覆うように形成された繊維強化樹脂層であって、繊維強化プラスチックとしてのCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)である。この外殻20は、樹脂ライナー10の外周に、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂含有のカーボン繊維やガラス繊維をFW法にて繰り返し巻回し、樹脂の熱硬化を経て形成され、樹脂ライナー10を補強する。
【0019】
バルブ側口金30は、略円筒状を成し、樹脂ライナー10と外殻20との間に嵌入されて、固定されている。バルブ側口金30の略円柱状の開口が、高圧水素タンク100の開口として機能する。本実施例において、バルブ側口金30は、ステンレスから成るが、アルミニウム等他の金属から成るものであってもよいし、樹脂製でもよい。バルブ50は、円柱状の部分に、雄ねじが形成されており、バルブ側口金30の内側面に形成されている雌ねじに螺合されることにより、バルブ50によって、バルブ側口金30の開口が閉じられる。エンド側口金40は、アルミニウムから成り、一部分が外部に露出した状態で組みつけられ、タンク内部の熱を、外部に導く働きをするものである。
【0020】
図2はバルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eの概略構成を断面視して示しつつその接合の様子を併せて示す説明図、図3はバルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eの接合箇所を拡大して断面視する説明図である。図2も、図1と同様に、高圧水素タンク100の中心軸に平行で中心軸を通る切断面で切断された断面図を示している。バルブ側ライナーパーツ10vと、エンド側ライナーパーツ10eとは、樹脂ライナー10を長手方向に垂直に2分割したような形状を成す。
【0021】
バルブ側ライナーパーツ10vは、円筒の一端が縮径した略釣鐘形状を成す。バルブ側ライナーパーツ10vは、その縮径した一端に、バルブ側口金30を圧入可能な口金圧入部11vを備え、他端側の開口部周縁を、エンド側ライナーパーツ10eの後述の接合部12eと接合される接合部12vとする。
【0022】
エンド側ライナーパーツ10eも、バルブ側ライナーパーツ10vと同様に、円筒の一端が縮径した略釣鐘形状を成す。エンド側ライナーパーツ10eは、その縮径した一端に、エンド側口金40を圧入可能な口金圧入部11eを備え、他端側の開口部周縁を、バルブ側ライナーパーツ10vの接合部12vと接合される接合部12eとする。ここで、両接合部について詳述する。
【0023】
図3に示すように、接合部12eは、エンド側ライナーパーツ10eの周壁から拡径側に傾斜して延びる傾斜部13eを備え、その先端を、ストッパ突部14eとする。接合部12vは、バルブ側ライナーパーツ10vの周壁が先端側ほど縮径するように傾斜した傾斜部13vを備え、この傾斜部13vの基部には、バルブ側ライナーパーツ10vの周壁から拡径側に傾斜して延びるストッパ突部14vを備える。この場合、接合部12vにおける傾斜部13vの傾斜した接合面15vと、接合部12eにおける傾斜部13eの傾斜した接合面15eとは、ライナー軸に対して同じ傾斜で形成されている。
【0024】
接合部12vは、傾斜部13vとその基部から延びたストッパ突部14vとで、接合部12eのストッパ突部14eが嵌合する嵌合凹所16vを形成する。よって、バルブ側ライナーパーツ10vは、この嵌合凹所16vに接合部12eのストッパ突部14eが嵌合することで、エンド側ライナーパーツ10eをライナー軸方向に受け止め、両ライナーパーツのライナー軸方向の動きを規制する。既述したように、傾斜部13vの接合面15vと傾斜部13eの接合面15eとはライナー軸に対して同じ傾斜とされているので、嵌合凹所16vへのストッパ突部14eの嵌合を経て、接合部12vの接合面15vと接合部12eの接合面15eとは、その傾斜面範囲に亘って接合し、バルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eの接合面、および後述のレーザー溶着面となる。
【0025】
上記した接合部12vと接合部12eの形状から判るように、エンド側ライナーパーツ10eは、その有する傾斜部13eの形成範囲において、樹脂ライナー10としてのライナー軸から離れた側からバルブ側ライナーパーツ10vに重なる。そして、エンド側ライナーパーツ10eは、自身の傾斜部13eの接合面15eを、バルブ側ライナーパーツ10vの傾斜部13vにおける接合面15vに接合させることになる。そして、この接合した傾斜面に亘って後述するようにレーザー溶着することにより、樹脂ライナー10が完成する。
【0026】
エンド側ライナーパーツ10eは、レーザー透過性を有するレーザー透過性樹脂部品であり、バルブ側ライナーパーツ10vは、レーザー吸収性を有するレーザー吸収性樹脂部品である。本実施例において、バルブ側ライナーパーツ10vおよびエンド側ライナーパーツ10eは、共にナイロン6(PA6)から成る。バルブ側ライナーパーツ10vは、ナイロン6に、黒色の顔料(着色料)を混入することにより、レーザー透過性を低減させて、レーザー吸収性を発揮し、照射を受けたレーザー光により溶融する性状となる。また、エンド側ライナーパーツ10eは、その用いる樹脂としてのナイロン6の性状に起因した熱収縮率を備えたものとなるのに対し、バルブ側ライナーパーツ10vについては、次のようにしてエンド側ライナーパーツ10eよりも小さい熱収縮率を備えるようにできる。例えば、レーザー光により溶融する性状となるよう黒色顔料を配合する際の顔料配合量の調整により、或いは、低熱収縮率の助剤の粉末を配合するようにしてその際の助剤配合量の調整により、エンド側ライナーパーツ10eよりも小さい熱収縮率を備えるようにできる。これらの配合調整という手法を経て、エンド側ライナーパーツ10eを、バルブ側ライナーパーツ10vよりも大きな熱収縮を起こすようにできる。この他、バルブ側およびエンド側の両ライナーパーツの成形に当たってその際の温度、保圧圧力、時間等の成形条件を種々変更して両ライナーパーツに密度差を持たせることにより、或いは、バルブ側およびエンド側の両ライナーパーツでライナー側壁厚みに差を持たせることにより、エンド側ライナーパーツ10eとバルブ側ライナーパーツ10vとで上記した熱収縮率に差を持たせてもよい。これらの手法により、エンド側ライナーパーツ10eを、バルブ側ライナーパーツ10vよりも大きな熱収縮を起こすようにできる。
【0027】
次に、上記した樹脂ライナー10の製造手法について説明する。図4は高圧水素タンク100の製造工程を示すフローチャートである。図4に示すように、まず、樹脂ライナー10を製造する(ステップS100)。樹脂ライナー10の製造工程については、後に詳述する。
【0028】
得られた樹脂ライナー10の外周に、FW法によって、外殻20を形成する。具体的には、ステップS100によって完成された樹脂ライナー10を、マンドレルとして用い、エポキシ樹脂を含浸させたカーボン繊維ECFを、樹脂ライナー10の周囲に、巻き付ける(ステップS202)。その後、エポキシ樹脂を含浸させたカーボン繊維ECFを、樹脂ライナー10の周囲に巻き付けたものを、加熱炉にて加熱して、エポキシ樹脂を硬化させる(ステップS204)。エポキシ樹脂が硬化すると、CFRPから成る外殻20が形成され、高圧水素タンク100が完成する。なお、外殻20を形成する場合に、加熱炉に代わりに、高周波誘導加熱を誘起する誘導加熱コイルを用いて誘導加熱手法を用いることができる。この高周波誘導加熱では、速やかな熱硬化性樹脂の昇温を図ることができる。
【0029】
次に樹脂ライナー10の製造手法について説明する。図5は樹脂ライナー10の製造工程の前半部分を示すフローチャート、図6は樹脂ライナー10の製造工程の後半部分を示すフローチャートである。図5に示すように、まず、バルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eとを樹脂成形すると共に、各ライナーパーツに口金を組み付ける(ステップS102)。具体的には、バルブ側ライナーパーツ10vにはバルブ側口金30を、エンド側ライナーパーツ10eにはエンド側口金40をそれぞれ組み付ける。これら口金をバルブ側ライナーパーツ10vおよびエンド側ライナーパーツ10eの口金圧入部11e、14vに圧入することで、口金の組み付けが完了する。図5では、エンド側ライナーパーツ10eにエンド側口金40を組み付ける図を省略している。
【0030】
このステップS102でのライナーパーツ成形では、バルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eとで、用いる樹脂を異なるものとした上で、各ライナーパーツの接合部12vおよび接合部12eを、図3で説明したような形状とする。エンド側ライナーパーツ10eは、レーザー吸収性を有するナイロン6(PA6)を用いて樹脂成形され、バルブ側ライナーパーツ10vにあっては、黒色顔料の混入済みナイロン6を用いて樹脂成形する。こうすることで、バルブ側ライナーパーツ10vでは、レーザー透過性が低減してレーザー吸収性を発揮し、照射を受けたレーザー光により溶融する。また、エンド側ライナーパーツ10eは、ナイロン6の性状に起因した熱収縮率を備え、バルブ側ライナーパーツ10vは、既述したような黒色顔料の配合調整、低熱収縮率の助剤の粉末の配合調整等により、エンド側ライナーパーツ10eよりも小さい熱収縮率を備える。これにより、エンド側ライナーパーツ10eは、バルブ側ライナーパーツ10vよりも大きな熱収縮を起こすことになる。本実施例では、バルブ側ライナーパーツ10vの熱収縮率は4/1000であり、エンド側ライナーパーツ10eの熱収縮率は5/1000とした。
【0031】
口金の組み付けに続き、バルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eとをそれぞれの接合部12vおよび接合部12eで接合して組み付ける(ステップS104)。この組み付けにより、図3に示すように、エンド側ライナーパーツ10eのストッパ突部14eは、バルブ側ライナーパーツ10vにおける接合部12vの嵌合凹所16vに嵌合され、バルブ側ライナーパーツ10vはエンド側ライナーパーツ10eをライナー軸方向に受け止めて、両ライナーパーツのライナー軸方向の動きを規制する。その上で、エンド側ライナーパーツ10eは、傾斜部13eを、その形成範囲において、ライナー軸から離れた側からバルブ側ライナーパーツ10vに重ねて、傾斜部13eの接合面15eをバルブ側ライナーパーツ10vの傾斜部13vにおける接合面15vに接合させることになる。以下、バルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eとを組み付けたものを、ライナーアッシー10bと称する。
【0032】
こうしてライナーアッシー10bが得られると、上記した接合部12vおよび接合部12eにおける両ライナーパーツの接合状態を維持するよう、ライナー軸の両側からライナーアッシー10bを押圧し、これを保持する(ステップS106)。この場合、エンド側ライナーパーツ10eは、ステップS104にてバルブ側ライナーパーツ10vの嵌合凹所16vにて既にライナー軸方向に留め置かれている。よって、ステップS106でのライナー軸方向の押圧は、その押圧力で両ライナーパーツの接合状態を維持するものの、バルブ側ライナーパーツ10vやエンド側ライナーパーツ10eのライナー外壁に変形が起きるような大きな押圧力を必要とせず、接合状態の維持ができるに足りる小さな押圧力を及ぼすだけでよい。例えば、ライナー軸の両端にスプリングを配設した図示しない簡易な治具を用い、スプリングの反発力にてライナーアッシー10bをその両側から保持すれば足りる。
【0033】
次に、上記したように接合状態を維持したまま、ライナーアッシー10bをアニール処理に処する(ステップS108)。通常、樹脂成形品については、その成形後においてアニール処理に処することで、成形時の歪みを取り除いて成形形状・寸法を維持する。本実施例では、こうしたアニール処理を、両ライナーパーツの組付けを経たライナーアッシー10bに対して行う点が、従来のライナー製造手法と大きく相違する。
【0034】
このようにライナーアッシー10bに対するアニール処理は、図示しない治具にて接合状態が維持されたままのライナーアッシー10bを、その治具と共にアニール炉にセットすることで行われる。本実施例では、ライナーアッシー10bをアニール炉にて140℃x3時間のアニール処理に処し、その後は、炉内で室温まで自然冷却した。上記したアニール処理の温度・時間は、ライナーパーツの原材料として採用したナイロン6のアニール処理として常用される範囲に含まれ、アニール処理を規定する温度x時間を、100〜200℃x0.5〜5時間の範囲から決定すればよい。図7はステップS108におけるアニール処理を受けたバルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eの挙動を模式的に示す説明図である。エンド側ライナーパーツ10eとバルブ側ライナーパーツ10vの両ライナーパーツは、アニール処理を受けて共にライナーの軸方向に向けて縮径するよう熱収縮を起こす。ところが、エンド側ライナーパーツ10eは、バルブ側ライナーパーツ10vよりも大きな熱収縮率(5/1000)を有することから、バルブ側ライナーパーツ10vよりも大きな熱収縮を起こす(図7(A)参照)。このため、バルブ側ライナーパーツ10vに重なったエンド側ライナーパーツ10eは、縮径の側への大きな熱収縮により、自身の傾斜部13eの接合面15eを、バルブ側ライナーパーツ10vの傾斜部13vの接合面15vに接合させた上で、この接合面15vに押し付ける。これにより、両ライナーパーツの接合箇所の接合面15v、15eにおいては、縮径の側への熱収縮に伴う収縮力の差による縮径力Fsの分力が接合面15vに向けて及ぶことになり、両ライナーパーツは、パーツ自体で上記の分力による面圧力を受ける。この面圧力は、アニール処理後においても残るので、両ライナーパーツからなるライナーアッシー10bは、ステップS108の後においても、その接合状態を維持する。なお、両ライナーパーツは、ライナーの軸方向に沿っても熱収縮起こすが、この収縮は、ライナー軸の両側からのライナーアッシー10bの押圧により吸収され、ライナー形状の変形には影響しない。
【0035】
上記したステップS108のアニール処理に続いて、図6に示すように、ライナーアッシー10bにレーザー光を照射して、バルブ側ライナーパーツ10vの接合部12vとエンド側ライナーパーツ10eの接合部12eのレーザー溶着を行う(ステップS110)。図8はステップS110におけるレーザー照射の様子を示す説明図である。このレーザー溶着に当たっては、ライナーアッシー10bを回転させつつ、レーザー発振装置300からレーザー光を照射する。この際、ライナーアッシー10bを所定の回転数だけ回転させる度に(例えば、1回転)、レーザー光の照射位置を変更する。具体的には、図8に示すように、接合面15vと接合面15eの接合範囲の最内周側のスタートポイントLsの周辺を最初のレーザー光照射位置とし、このレーザー光照射位置をライナーアッシー10bの回転の都度に接合面15vと接合面15eの接合範囲の最外周側のエンドポイントLeまで動かす。つまり、ライナーアッシー10bを回転させつつ、レーザー光照射位置が接合面15vに沿って移動するようレーザー光を走査させて照射する。この場合、図8に点線で示すように、ライナーアッシー10bの外側に突出した部分(以下、「リブ」ともいう。)は切削されるので、この点線部位周壁よりもライナーアッシー10bの内部よりの部分がレーザー溶着されればよい。よって、エンドポイントLeは、図における点線部位周壁よりやや外側に設定される。
【0036】
ステップS110においてレーザー発振装置300から照射されたレーザー光は、ライナー軸から離れた側からバルブ側ライナーパーツ10vに重なったエンド側ライナーパーツ10eに達する。このエンド側ライナーパーツ10eは、レーザー光を透過させるので、レーザー光は、エンド側ライナーパーツ10eを透過して、当該パーツに接合済みのバルブ側ライナーパーツ10vに達する。バルブ側ライナーパーツ10vは、レーザー光が照射された接合面15vにおいて溶融し、その熱によって、エンド側ライナーパーツ10eにあっても接合面15eにおいて溶融する。このため、バルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eとは、その接合箇所の接合面15v、15eの形成範囲においてレーザー溶着し、バルブ側とエンド側のライナーパーツが一体となって固定された中空形状のライナーアッシー10bを得ることができる。
【0037】
こうしてステップS110のレーザー溶着が終了すると、リブを切削する(ステップS112)。つまり、ライナーアッシー10bをリブ切削装置にセットして回転させ、装置付属の切削金具によりリブを切断する。その切断位置は、図8に示した点線部位周壁であり、こうしたリブ切削により、図1に示すように、表面に、ほぼ凸凹のない、樹脂ライナー10が完成する。
【0038】
以上説明したように、本実施例の樹脂ライナー10の製造方法では、ライナーの軸方向に分割されたエンド側ライナーパーツ10eとバルブ側ライナーパーツ10vから樹脂ライナー10を製造するに当たり、バルブ側ライナーパーツ10vにあっては、これを、照射を受けたレーザー光により溶融する樹脂成形品とし、エンド側ライナーパーツ10eにあっては、これを、黒色顔料の配合により、レーザー光を透過させる樹脂成形品とした上で、バルブ側ライナーパーツ10vよりも大きな熱収縮率を有する樹脂成形品とする。こうした性状の相違を持たせた上で、上記の両ライナーパーツの接合部12v、12eについては、その形状を、エンド側ライナーパーツ10eがライナーの軸から離れた側からバルブ側ライナーパーツ10vに重なって、接合部12eの傾斜部13eにおける接合面15eが接合部12vの傾斜部13vにおける接合面15vに接合するようにした(ステップS102〜106)。
【0039】
こうして得られたライナーアッシー10bを、上記の両ライナーパーツの接合状態を維持したまま、アニール処理に処す(ステップS108)。このアニール処理により、エンド側ライナーパーツ10eは、既述したように自身の傾斜部13eの接合面15eを、バルブ側ライナーパーツ10vの傾斜部13vの接合面15vに接合させた上で、この接合面15vに押し付ける。よって、両ライナーパーツの接合箇所の接合面15v、15eにおいては、縮径の側への熱収縮に伴う収縮力の差による縮径力Fsの分力が接合面15vに向けて及ぶことになり、両ライナーパーツは、上記の分力による面圧力を受けて、自らその接合状態を維持する。この結果、本実施例の製造方法によれば、バルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eの接合を経て得られたライナーアッシー10bへの形状維持のための環状の保持具の装着や、接合面での密着性を高めるための加圧調整やライナー軸両側からの過度の押圧力付与等についてもこれを必要としないので、その製造工程を簡略化でき、これに伴ってコスト低下を図ることができる。
【0040】
加えて、本実施例の樹脂ライナー10の製造方法では、レーザー溶着に先立つアニール処理の間において、樹脂成形品である両ライナーパーツから水分を除去することができ、ライナーアッシー10bを構成する両ライナーパーツの接合面15e、15vに水分を残さないようにできる。そして、熱収縮に伴う面圧力(図7(B)参照)により両ライナーパーツの接合状態を維持するので、両ライナーパーツの接合面15e、15vへの外気中の水蒸気成分の浸入を回避できる。つまりは、両ライナーパーツの接合箇所をその接合面15e、15vでの接合範囲に亘って吸湿状態としない。
【0041】
本実施例の樹脂ライナー10の製造方法は、こうして接合された両ライナーパーツの接合面15e、15vに、バルブ側口金30からレーザーを照射する。このレーザー照射は、既述したように、ライナーアッシー10bを回転させつつ、レーザー光を接合面15vに沿って走査させて照射する(ステップS110)ので、既述したように、バルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eとを、その接合箇所の接合面15v、15eの形成範囲においてレーザー溶着する。本実施例の樹脂ライナー10の製造方法では、このステップS110におけるレーザー溶着に先立って既述したようにライナーアッシー10bをアニール処理に処する(ステップS108)。このため、接合面15v、15eの形成範囲におけるレーザー溶着を、当該形成範囲が既述したように吸湿状態でない状況下で実行することができるので、溶着箇所でのボイドの発生を抑制でき、レーザー溶着の実効性を高めることができる。これらの結果、本実施例の樹脂ライナー10の製造方法によれば、樹脂ライナー10のパーツ同士の接合面での密着性を簡便に向上できると共に、レーザー溶着の実効性についても、これを簡便に向上できる。しかも、アニール処理にあっては、その処理対象をパーツ接合済みのライナーアッシー10bとした上で、レーザー溶着前に実施すれば足りるので、既存の設備機器や機器設定・制御を行うだけでよく、簡便である。また、従来は、樹脂成形後にその成形品ごとに別々にアニール処理を行っていたが、本実施例の樹脂ライナー10の製造方法では、ライナーアッシー10bに対して行えばよいので、簡便であるばかりか、省エネ化を図ることもできる。
【0042】
以上、本発明の実施の形態を実施例にて説明したが、本発明は上記した実施例や変形例の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。例えば、バルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eについて、その成形後に各ライナーパーツ単独でアニール処理に処しておくこともできる。こうしても、ライナーアッシー10bでのアニール処理により、熱収縮率の相違による接合状態維持や、接合面の吸湿回避が可能であり、既述した効果を奏することができる。
【0043】
また、ステップS108でのアニール処理については、ライナーパーツの原材料として採用した樹脂の性状に応じて、適宜決定できる。
【0044】
また、上記の実施例では、エンド側ライナーパーツ10eをライナーの軸から離れた側からバルブ側ライナーパーツ10vに重なるようにしたが、この逆に、バルブ側ライナーパーツ10vがライナーの軸から離れた側からエンド側ライナーパーツ10eに重なるようにすることもできる。
【0045】
この他、接合面15v、15eについては、完成品としての樹脂ライナー10において傾斜面とするほか、次のように変形することもできる。図9はバルブ側ライナーパーツ10vとエンド側ライナーパーツ10eにおける変形例の接合の様子を示す説明図である。この変形例では、バルブ側ライナーパーツ10vの接合面15vと、エンド側ライナーパーツ10eの接合面15eは、階段状とされ、その段差部においては斜面とされている。こうした形状の接合面であっても、上記した収縮力の相違による面圧力は、接合面15v、15eの傾斜面部は元より、図における平面部(環状部)においても、両パーツの接合面を接合するよう及び、その接合範囲に亘って好適にレーザー溶着でき、既述した効果を奏することができる。この場合、接合面15v、15eの傾斜面部は、ライナー軸方向の動きを規制するよう働くので、アニール処理による熱収縮の前において接合面15v、15eの傾斜面部の密着性を高めるには、嵌合凹所16vとストッパ突部14eの嵌合状況をやや緩くしておけばよい。
【符号の説明】
【0046】
10…樹脂ライナー
10b…ライナーアッシー
10e…エンド側ライナーパーツ
10v…バルブ側ライナーパーツ
11e…口金圧入部
11v…口金圧入部
12e…接合部
12v…接合部
13e…傾斜部
13v…傾斜部
14e…ストッパ突部
14v…ストッパ突部
15e…接合面
15v…接合面
16v…嵌合凹所
20…外殻
30…バルブ側口金
40…エンド側口金
50…バルブ
100…高圧水素タンク
300…レーザー発振装置
Le…エンドポイント
Fs…縮径力
Ls…スタートポイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空形状の樹脂ライナーの製造方法であって、
ライナーの軸方向に分割され、その分割箇所を接合箇所として接合することで前記中空形状をなす第1、第2のライナーパーツのうち、前記第1のライナーパーツを、照射を受けたレーザー光により溶融する性状の第1の樹脂による樹脂成形品として準備すると共に、前記前記第2のライナーパーツを、レーザー光を透過させる性状と前記第1の樹脂よりも大きな熱収縮率を有する性状とを併せ持った第2の樹脂による樹脂成形品として準備し、その上で、前記接合箇所における前記第1、第2のライナーパーツの成形形状を、前記第2のライナーパーツが前記ライナーの軸から離れた側から前記第1のライナーパーツに重なって、前記第1のライナーパーツの前記接合面に前記第2のライナーパーツの前記接合面が接合する形状とする第1工程と、
前記準備した第1、第2のライナーパーツを前記接合箇所で接合し、その接合状態を維持したままの前記第1、第2のライナーパーツを、熱収縮を起こす熱処理に処する第2工程と、
前記第1、第2のライナーパーツの前記接合箇所にレーザーを照射する第3工程とを備える
樹脂ライナーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−104435(P2013−104435A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246294(P2011−246294)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】