説明

樹脂成形体の製造方法、樹脂成形用金型、樹脂成形体及びインシュレータ

【課題】流動性がよくない樹脂材料を用いても、薄肉の樹脂成形体を良好に製造することができる樹脂成形体の製造方法、この製造方法に適した樹脂成形用金型、この製造方法により得られた樹脂成形体、及びインシュレータを提供する。
【解決手段】金型20は、モータ用コア(ティース11)の外周にインシュレータ12を形成するもので、スライドコア23Sを具える。インシュレータ12は、巻線用の嵌合溝12gを有し、溝12gの凹み部分の厚さが0.5mm以下である。スライドコア23Sは、複数の分割片を組み合わせてなり、溝12gを形成するための凹溝部230及び凸条部231を有し、分割片の合わせ目が凹溝部230に位置するように構成される。分割片の合わせ目をガス抜き通路として利用することで十分にガス抜きが行え、流動性が悪い樹脂を用いても、薄肉の樹脂成形体を良好に製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ用の磁性コアとコイルとの間に配置されるインシュレータといった樹脂成形体を射出成形により製造する樹脂成形体の製造方法、射出成形の際に利用する樹脂成形用金型、及び樹脂成形体並びにインシュレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モータの構成部材として、コイルが配置されるティースを有する磁性コアが利用されている。磁性コアは、環状部材に複数のティースが連結された一体型コア(例えば、特許文献1参照)や、弧状部材に一つのティースが連結された分割コアを複数環状に組み合わせて構成される分割型コアがある。
【0003】
ティースとコイル間の絶縁性を高めるために、ティースとコイルとの間に絶縁性樹脂からなるインシュレータを配置することが行われている。インシュレータは、代表的には、樹脂材料を金型に射出して形成する射出成形により製造される。例えば、磁性コアを中子の一部とし、金型と中子とでつくられるキャビティに樹脂材料を射出して、インシュレータの形成とインシュレータの磁性コアへの配置とを同時に行う(特許文献1参照)。或いは、インシュレータを磁性コアと別個に射出成形し、得られたインシュレータを磁性コアに配置する。射出成形の際に用いる金型は、例えば、固定金型、移動金型、及びスライドコアを組み合わせた構造のものがある。
【0004】
射出成形により樹脂成形体を形成する場合、樹脂材料を金型に充填する際に金型のキャビティ内のガス(主として空気)を完全に排出しないと、樹脂材料がキャビティ内に十分に充填されずショートショット(充填不良)が生じたり、樹脂材料の充填に伴ってキャビティ内で圧縮されて高温となったガスにより樹脂が焼ける(樹脂の焼け)といった不良が生じる。従って、通常、ガス抜きが行われる。例えば、図4(I),(II)に示すように丸棒状のピン101を挿入したスライドコア100aを用い、ピン101とピン孔102間にできる微細な隙間gをガス抜き通路に利用する。ピン101は、通常、一つのスライドコア100aに対して一つ配置される。なお、図4(II)では、隙間gを強調して示す。
【0005】
【特許文献1】特開2003-319619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モータに求められる特性として、占積率が高いことがある。例えば、電気自動車やハイブリッド自動車などに用いられるモータでは、占積率を高めてトルクを向上することが望まれる。占積率を高めるには、コイルをつくる巻線を整列させて、コイルを収納する空間(スロット)内のデッドスペースを低減することが効果的である。そこで、インシュレータの一面、特にコイルサイド面に、巻線を整列配置させるための巻線の嵌合溝を設けることが考えられる。なお、コイルサイド面とは、モータを組み立てた際、別のティースと隣り合う側に配される面をいう。
【0007】
一方、占積率を高めることで、コイルへの電流を大きくすることができる。電流が大きくなると、コイルの発熱が大きくなることから、放熱部材として機能する磁性コアにコイルの熱を効率よく伝えられるように、インシュレータは、放熱性に優れることが望まれる。放熱性を向上するために、インシュレータの構成材料を熱伝導性に優れるもの、例えば、熱伝導性に優れるフィラーをベース樹脂に混合したものを用いることが考えられる。また、インシュレータの厚さをできるだけ薄くする、具体的には、最も薄い部分の厚さを0.5mm以下にすることが考えられる。
【0008】
しかし、フィラーを混合した樹脂材料は、射出時の流動性がよくないものがある。そして、流動性のよくない樹脂材料を用いた場合、スライドコア100aのようにピンを用いたガス抜き方法では、十分にガス抜きを行えず、ショートショットや樹脂の焼けなどの不良が生じて、インシュレータといった樹脂成形体の製造性が低下する。特に、上述した嵌合溝のように凸条や凹溝を有する樹脂成形体を射出成形により製造する場合、凸条や凹溝を形成するための凹溝部や凸条部を具える金型を利用することで、樹脂材料が更に流れ難く、かつガスも抜き難い。また、樹脂成形体において凹溝を有する部分の厚さが薄い、特に0.5mm以下であると、この部分を形成するキャビティも狭くなるため、樹脂材料を十分に充填し難く、かつガス抜きも難しい。
【0009】
図4(I)に示すように中子110を配してなる矩形枠状のキャビティ200に対し、枠をつくる各辺の中央に樹脂材料を導入する導入口120を位置させると、射出した樹脂材料は、図4(I)の破線矢印で示すように、スライドコア100aの中央部分で概ね合流する。そのため、このような位置にピン101を配置させることで、ガス抜きを効率よく行える。しかし、このように局所的にピンを配置させると、上述のように流動性のよくない樹脂材料を用いた場合や薄い部分を有する樹脂成形体を形成する場合は、ガス抜きが不十分になる。
【0010】
ガス抜きを効率よく行うために、図4(III)に示すように一つのスライドコア100bに対して複数のピン101を配置することが考えられる。しかし、凸条部や凹溝部を具えるコア100bにおいて、ピン101の円形状の端面が凸条部や凹溝部の長手方向に並ぶように複数のピン101が配置されると、得られた樹脂成形体の凸条部分や凹溝部分にピン101の断面形状(円形状)に沿ったバリが生じ易い。凸条や凹溝が上記巻線の嵌合溝である場合、バリが存在すると巻線を整列できなかったり、巻線の絶縁被覆を損傷する恐れがある。従って、バリを除去する必要があるが、特に樹脂成形体の凹溝部分に形成されたバリを除去することは容易でなく、樹脂成形体の製造性を低下させる。なお、図4(III)に示す複数の平行線のうち、太線は、凹溝部の最も低い部分、細線は、凸条部の最も高い部分を示す。
【0011】
そこで、本発明の目的の一つは、流動性がよくない樹脂材料を用いても、薄肉の樹脂成形体を良好に製造できる樹脂成形体の製造方法を提供することにある。本発明の他の目的は、上記製造方法に適した樹脂成形用金型を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記製造方法により得られる薄肉の樹脂成形体、及び薄肉のインシュレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明樹脂成形体の製造方法は、ピンを用いずにガス抜き通路を構成することで上記目的を達成する。具体的には、複数の分割片を組み合わせてスライドコアを構成し、分割片間の僅かな隙間をガス抜き通路とする。特に、本発明製造方法は、分割片の合わせ目の位置を特定することで、凸条及び厚さが薄い部分を有する樹脂成形体を良好に製造することができる。
【0013】
本発明樹脂成形体の製造方法は、複数面を有する樹脂成形体で、その少なくとも一面に凸条を有する樹脂成形体を射出成形により製造するものであり、以下の工程を具える。
(1) 樹脂成形体の熱伝導度が0.3W/m・K以上となるように、ベース樹脂とフィラーとを混合した樹脂材料を準備する工程。
(2) スライドコアを有する金型に、上記樹脂材料を射出する工程。
特に、本発明製造方法では、上記スライドコアとして、複数の分割片を組み合わせてなるものであって、上記樹脂成形体の凸条を形成する凹溝部を有するものを用いる。そして、上記分割片の合わせ目がスライドコアの凹溝部に位置するように上記スライドコアを配置して上記樹脂材料を射出して、最も薄い部分の厚さが0.5mm以下である樹脂成形体を成形する。
【0014】
上記本発明製造方法には、以下の本発明樹脂成形用金型を用いることが好適である。本発明樹脂成形用金型は、複数面を有する樹脂成形体で、その少なくとも一面に凸条を有する樹脂成形体を射出成形により製造するときに用いるものである。この金型は、複数の分割片を組み合わせてなるスライドコアを具える。このスライドコアは、上記樹脂成形体の凸条を形成する凹溝部を有しており、この凹溝部に分割片の合わせ目が位置するように構成されている。
【0015】
上記本発明製造方法を用いたり、本発明金型を用いた射出成形を行うことで、本発明樹脂成形体が得られる。本発明樹脂成形体は、複数面を有する樹脂成形体で、その少なくとも一面に凸条を有するものであり、ベース樹脂とフィラーとを混合した樹脂材料で構成される。この樹脂成形体は、熱伝導度が0.3W/m・K以上であり、最も薄い部分の厚さが0.5mm以下である。このような樹脂成形体として、具体的には、本発明インシュレータが挙げられる。本発明インシュレータは、磁性材料からなるモータ用コアとこのコアの外周に配置されるコイルとの間に介在されるものであり、ベース樹脂とフィラーとを混合した樹脂材料で構成される。このインシュレータは、熱伝導度が0.3W/m・K以上であり、コイルサイド面にその長手方向に連続するコイル用巻線の嵌合溝を有する。この嵌合溝の凹み部分の厚さは、0.5mm以下である。
【0016】
上記本発明製造方法や本発明金型は、ガス抜き通路として、スライドコアを構成する分割片間の僅かな隙間を利用する。この隙間は、スライドコアの一面に設けられた凹溝部に沿って存在することから、例えば、凹溝部が設けられた面の全長に亘って凹溝部が連続して存在する場合、ガス抜き通路も上記面の全長に亘って連続して存在することになる。従って、本発明製造方法や本発明金型を用いた射出成形は、従来のピン入りスライドコアのようにガス抜き通路が局所的に存在する場合と比較して、十分なガス抜き通路を有するため、キャビティ内のガスを効率よく排出できる。このようなガス抜き通路を有することで、本発明製造方法や本発明金型を用いた射出成形は、流動性のよくない樹脂材料を用いて、厚さ0.5mm以下といった非常に薄い部分を有する樹脂成形体を形成する場合であっても、十分にガス抜きを行え、凸条を有する薄肉の樹脂成形体を良好に製造することができる。特に、薄肉部分に凸条を有するような樹脂成形体であっても、本発明製造方法や本発明金型を用いた射出成形は、良好に製造することができる。
【0017】
また、本発明製造方法や本発明金型を用いた射出成形は、分割片の合わせ目がスライドコアの凹溝部に位置することから、仮に、分割片の合わせ目に沿ったバリが樹脂成形体に形成されたとしても、このバリは樹脂成形体の凸条上に存在し、凹溝上に形成されることがない。従って、バリの除去作業が比較的容易である。また、例えば、樹脂成形体がインシュレータであり、凸条が巻線用の嵌合溝の突出部分である場合、突出部分にバリが存在しても、嵌合溝に巻線が配置可能であり、巻線の絶縁被覆を損傷する恐れがない場合、バリの除去作業を不要にできる。このようにバリの除去作業を軽減或いは不要にできることからも、本発明製造方法や本発明金型を用いた射出成形は、樹脂成形体の製造性に優れる。
【0018】
本発明製造方法や本発明金型を用いた射出成形には、射出成形に適用可能な種々の樹脂が利用できる。特に、流動性のよくない樹脂材料、例えば、ベース樹脂にフィラーを混合した樹脂材料でも、本発明製造方法や本発明金型を用いた射出成形は、樹脂成形体を良好に製造できる。ベース樹脂は、例えば、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、LCP(液晶ポリマー)などが挙げられる。フィラーは、所望の特性の樹脂成形体となるように種々のものが利用できる。例えば、熱伝導性に優れる樹脂成形体とする場合、フィラーは、熱伝導性に優れるもの、具体的には、酸化アルミニウム(アルミナ)、炭化珪素、窒化珪素、ガラス(珪酸塩ガラス)などの無機材料からなるものや、アルミニウム、銅などの金属材料からなるものが利用できる。フィラーの含有量は、所望の特性となるように適宜選択することができる。例えば、上記無機材料からなるフィラーを用いて熱伝導度が0.3W/m・K以上の樹脂成形体を得るにあたり、ベース樹脂をPPS又はLCPとする場合、フィラーの含有量は、40質量%以上、特に、40〜50質量%が好ましい。
【0019】
本発明樹脂成形体は、複数面から構成され、その少なくとも一面に凸条を有するものとする。凸条を有する面は、一つでも複数でもよい。凸条は、一つの面に一つでも複数でもよい。また、凸条は、一つの面にその長手方向に連続的に存在しても、断続的に存在してもよい。例えば、一つの面に複数の凸条が並列した形状、即ち凸条と凹溝とが連続的に並ぶ形状でもよい。凸条及び凹溝を具える樹脂成形体として、例えば、巻線用の嵌合溝を少なくとも一つ具える本発明インシュレータが挙げられる。このような形状の本発明樹脂成形体や本発明インシュレータを製造するにあたり、本発明製造方法は、後述するスライドコアを具える本発明金型を用いる。
【0020】
本発明金型は、所望の形状の樹脂成形体が得られるように、スライドコアに加えて固定金型及び移動金型を具える。スライドコアの移動機構や移動金型の移動機構は、公知の構成が利用できる。
【0021】
本発明製造方法に用いるスライドコアや本発明金型に具えるスライドコアは、その一面に上記樹脂成形体の凸条を形成する凹溝部を有する。凹溝部の数や位置、形状は、樹脂成形体の凸条に適合させて設けておく。このスライドコアは、複数の分割片を組み合わせて一体になるものとし、分割片の合わせ目が凹溝部に位置するところが最大の特徴である。各分割片は、凹溝部を有する面以外の面、特に、分割片同士を重ね合わせる面が平面であると、分割片を形成し易い。このとき、合わせ目は、直線状となる。分割片の数は、樹脂成形体の凸条の数に応じて、適宜選択することができる。複数の凸条を有する樹脂成形体を製造する場合、凸条ごとに合わせ目が設けられるように分割片を構成してもよいし、凸条の数と合わせ目の数とが異なるように分割片を構成してもよい。凸条の数と合わせ目の数とが同数である場合、分割片間につくられる隙間の数が多くなることから、ガス抜きを行い易い。凸条の数と合わせ目の数とが異なる場合、分割片の数が少なくなるため、スライドコアの組立作業性に優れる。
【0022】
本発明製造方法や本発明金型を用いた射出成形では、上記スライドコアを構成する分割片間の隙間(分割片同士が重ね合わされる面間の隙間)をガス抜き通路に利用する。従って、分割片間にガスが通過できる空間が十分に存在するように、分割片同士の結合は、ボルトなどの連結部材を用いて行うことが好ましい。
【0023】
凹溝部に露出する分割片間の隙間は、大きいとガスを抜き易いが、バリも生じ易くなるため、0.1mm以下、特に0.02〜0.08mmとなるように分割片を形成することが好ましい。また、分割片間の隙間は、分割片の重ね合わせ面の全域に亘って等しくなるように分割片を構成してもよいが、部分的に大きさを変えてもよい。例えば、分割片の少なくとも一方の重ね合わせ面の一部に溝を設け、この溝と別の分割片の重ね合わせ面とで囲まれる空間にガスが溜まるように構成すると、ガスがより一層抜け易い。
【0024】
本発明樹脂成形体の形状に応じて、上記スライドコア、及び固定金型と移動金型に加えて中子を用いてもよい。また、所望の部材の外周に樹脂成形体を形成する場合、この部材を金型に配置して樹脂成形体を形成してもよい。例えば、本発明インシュレータを製造する場合、鋼や鉄といった磁性材料からなる磁性コアを金型に配置し、磁性コアの外周にインシュレータを形成してもよいし、磁性コアの代わりに中子を配置して、磁性コアと別個にインシュレータを形成してもよい。磁性コアと別個にインシュレータを形成する場合、インシュレータは、複数の分割片を組み合わせて一体となる構成とすると、磁性コアに配置し易く好ましい。磁性コアは、複数の板材を積層した積層体や粉末を加圧成形した圧粉成形体、或いは板材の積層体と圧粉成形体との組み合せ物などの種々のものが利用できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明樹脂成形体の製造方法や本発明樹脂成形用金型を用いた射出成形は、流動性の良くない樹脂材料を用いても、ガス抜きを十分に行うことができ、樹脂成形体を良好に製造することができる。本発明樹脂成形体や本発明インシュレータは、最も薄い部分の厚さが0.5mm以下であり、熱伝導性に優れる樹脂材料から構成されることで、熱伝導性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
[インシュレータ]
図1(I)は、複数の分割コアを組み合わせてなるステーターの概略構成図、(II)は、インシュレータを具える分割コアをコイルサイド側からみた図、(III)は、分割コアをコイルエンド側からみた図、(IV)は、分割コアのA-A断面図、(V)は、分割コアのB-B断面図、(VI)は、分割コアを鍔側からみた図である。ステーターSは、巻線を巻回してなるコイルCを具える複数の分割コア10と、分割コア10を連結する環状部材Rとを具える。分割コア10は、磁性材料からなる柱状のティース11と、ティース11の外周に配置され、絶縁材料からなるインシュレータ12とを具える。インシュレータ12は、ティース11の外周に一体に成形されている。各分割コア10は、図1(I)に示すように環状に配置され、ティース11の一端面(外周側面)11oが磁性材料からなる環状部材Rに接するように環状部材Rに嵌め込まれることで、白抜き矢印で示すように、隣り合うティース11間に磁束が通過できる。
【0027】
なお、分割コア10においてステーターSを組み立てた際、別の分割コア(ティース)と隣り合う側をコイルサイド側、この側に配される面をコイルサイド面、モータの回転軸Cm方向に配される側(図1(I)において正面に見える側及びその対向側)をコイルエンド側、この側に配される面をコイルエンド面と呼ぶ。
【0028】
ティース11は、四角柱状であり、外周側面11oは、上述のように環状部材Rに接するように外周側に配置され、他端面(内周側面11i)は、ローター(図示せず)に向き合うように内周側に配置される。ティース11のコイルサイド面11sの他端側(内周側)には、コイルサイド面11sから突出する鍔部11fを具える。
【0029】
インシュレータ12は、ティース11のコイルエンド面11e及びコイルサイド面11sを覆う筒状部12Sと、筒状部12Sの一端側においてその全周に亘って突出する外周側フランジ部12foと、他端側においてその全周に亘って突出する内周側フランジ部12fiとを具える。筒状部12Sは、ティース11のコイルエンド面11eを覆うコイルエンド面12eと、ティース11のコイルサイド面11sを覆うコイルサイド面12sとを具え、その外周に巻線が巻回されてコイルCが配置される。筒状部12Sの外周に巻線を巻回する際、巻線を整列し易いように筒状部12Sの一部に巻線用の嵌合溝12gを複数具える。この実施形態では、両コイルサイド面12sにその長手方向に連続して複数の嵌合溝12gを並列に具える。また、この実施形態では、図1(III)に示すように両コイルエンド面12eの一部にも嵌合溝12gを具える。インシュレータ12において両フランジ部12fo,12fiと、筒状部12Sとで囲まれる断面]状の空間がコイルCの収納空間(スロット)となる。
【0030】
インシュレータ12は、ベース樹脂にフィラーを混合してなる樹脂材料を用いて形成された樹脂成形体である。この実施形態では、ベース樹脂:PPS、フィラー:ガラスを用いており、樹脂材料を100質量%とするとき、フィラーを40質量%含む。熱伝導性に優れるフィラーを含む樹脂材料により構成されることで、インシュレータ12は、熱伝導性に優れる(インシュレータ12の熱伝導度≧0.3W/m・K)。
【0031】
インシュレータ12は全体的に薄肉の樹脂成形体であり、特に、コイルCが巻回配置される筒状部12Sは、厚さが薄く、コイルサイド面12sにおいて嵌合溝12gの凹み部分の最も薄い部分の厚さtが0.2mm(≦0.5mm)である。
【0032】
[金型]
上記インシュレータ12は、図2,3に示すようなスライドコア23を具える金型20に上記樹脂材料を射出成形することで製造される。図2は、図1に示すインシュレータの製造に用いる金型の概略を模式的に示す部分断面図であり、(I)は、固定金型に移動金型を近接させた状態、(II)は、固定金型から移動金型を離した状態を示し、いずれもコイルエンド側から見た状態を示す。図3(I)は、金型に具えるスライドコアの配置状態を説明する説明図、(II)は、サイド側スライドコアを模式的に示す断面図である。金型20は、固定金型21と、移動金型22と、四つのスライドコア23(一対のサイド側スライドコア23S,一対のエンド側スライドコア23E)とを具える。
【0033】
インシュレータ12の製造過程の概略を述べると、移動金型22にティース11を配置し、ティース11のコイルサイド面11s,コイルエンド面11eを四つのスライドコア23S,23Eで囲み、この状態で移動金型22を固定金型21側に移動させ、金型20とティース11とでつくられる空間(キャビティ210)に樹脂材料を射出して、インシュレータ12を形成する。
【0034】
固定金型21は、樹脂材料の導入通路21Iを具える。導入通路21Iは、ノズル(図示せず)から樹脂材料が供給されるスプル21sと、スプル21sから四つに分岐された一次ランナ21r1と、一次ランナ21r1からキャビティ210に繋がる二次ランナ21r2とを具える。この実施形態では、図3(I)に示すようにティース11の両コイルサイド面11sの中央部分及び両コイルエンド面11eの中央部分に二次ランナ21r2の出口(導入口21i)を配置させている。また、固定金型21は、スライドコア23がスライドするガイドピン21pを具える。ガイドピン21pは、固定金型21におけるスライドコア23と対向する面から突出するように配置され、コア23が水平方向(図2において左右方向)に所定量移動できるように、垂直方向(同上下方向)に対して傾斜するように配置される。
【0035】
固定金型21においてティース11と接触する面と、ティース11において固定金型21と接触する面(内周側面11i)とには、互いに係合し合う係合部を設けておくと、固定金型21に対するティース11の位置決めが確実に行え、インシュレータ12をより精度よく形成することができる。係合部は、例えば、突起と、この突起が嵌め込まれる係合溝との組み合せが挙げられる。係合部は、一つでも複数でもよく、設ける位置も適宜選択することができる。
【0036】
移動金型22は、固定金型21に対して近接離反するようにスライド可能に構成される。この実施形態では、垂直方向に移動する。スライド機構は、図示しない公知の構成を利用している。また、移動金型22においてティース11が搭載される面と、ティース11において移動金型22と接触する面(外周側面11o)とには、互いに係合し合う係合部を設けておくと、移動金型22に対するティース11の位置決めが簡単に行える。係合部の形状、数、位置は、上記固定金型21の場合と同様である。
【0037】
各スライドコア23S,23Eは、ティース11のコイルサイド側及びコイルエンド側にそれぞれ配置され、移動金型22に配置される。従って、スライドコア23は、移動金型22の移動に伴って、固定金型21に対して近接離反するように垂直方向に移動する。かつ、スライドコア23は、サイド側スライドコア23S同士、及びエンド側スライドコア23E同士が互いに近接離反するように水平方向に移動可能に構成される。具体的には、各スライドコア23S,23Eは、ガイドピン21pが挿入されるガイド孔23hを具える。移動金型22が固定金型21に向かって近付くにつれてガイドピン21pがガイド孔23hに嵌ることでスライドコア同士が近接するように水平方向に移動し、移動金型22が固定金型21から離れるにつれてピン21pがガイド孔23hから抜けることでスライドコア同士が離反するように水平方向に移動する。図2では、サイド側スライドコア23Sのみ示すが、エンド側スライドコア23Eも同様に移動する。
【0038】
金型20の特徴とするところは、サイド側スライドコア23Sの構造にある。サイド側スライドコア23Sは、その一面(サイド形成面23s)がインシュレータ12のコイルサイド面12sを形成する金型部品である。サイド形成面23sは、嵌合溝12gの凸条を形成するための凹溝部230と、溝12gの凹溝を形成するための凸条部231とが連続的に並列するように設けられている。そして、スライドコア23(ここでは、サイド側スライドコア23S)は、複数の分割片(板状部材23b,移動側部材23m,固定側部材23f)を組み合わせて構成される。具体的には、複数の板状部材23bを積層し、この積層体を移動側部材23mと固定側部材23fとで挟むように両部材23m,23fを配置させ、連結部材(ここでは、ボルト240と連結ピン241)で連結することで、一体に構成される。このようなサイド側スライドコア23Sは、移動側部材23mが移動金型22側、固定側部材23fが固定金型21側となるように、移動金型22に配置する。
【0039】
スライドコア23を構成する各分割片は、一面にサイド形成面23sを有するように、即ち、凹溝部230及び凸条部231を有するように分割されている。また、各分割片は、分割片の合わせ目が凹溝部230に位置するように分割されている。従って、凹溝部230は、その長手方向に連続して、分割片の合わせ目が存在する。分割片同士を重ね合わせてなる合わせ目には、僅かな隙間gが存在する。この分割片間の隙間gは、サイド形成面23sからその対向面23s'に亘って連続する空間である。この実施形態では、隙間gの大きさを0.05mmとしている。
【0040】
各分割片は、図3(II)に示すように重ね合わせる面が平面となるように構成される。従って、合わせ目は、直線状である。これら分割片は、ボルト240及び連結ピン241が配されるボルト孔240h,ピン孔241hを有する。また、板状部材23b及び移動側部材23mには、他の分割片と重ね合わされる一方の面に、断面]状のガス溜まり溝23gを具える。ガス溜まり溝23gは、ボルト孔240hよりもサイド形成面23s側寄りに位置し、図3(I)に示すように一方のコイルエンド側から他方のコイルエンド側に亘る全長に設けられている。この溝23gは、他の分割片が重ね合わされることで断面矩形状の空間となり、隙間gに連なる空間である。
【0041】
各分割片は、鋼などの強度や耐熱性に優れる材料で構成することが好ましい。この実施形態では、SK材で構成している。また、各分割片の凹溝部230及び凸条部231は、分割片ごとに形成してもよいが、分割片を組み合わせた状態で形成すると、凹溝部230及び凸条部231を高精度に形成することができる。凹溝部230などの形成は、切削により行うとよい。
【0042】
エンド側スライドコア23Eは、インシュレータ12のコイルエンド面12e(図1)を形成する金型部品であり、ガス抜き用のピン101を具える構成である。コイルエンド面12eは、図1に示すように比較的平面的である。従って、エンド側スライドコア23Eは、サイド側スライドコア23Sのような複数の分割片を組み合わせた構成としなくても、図4に示す従来のスライドコア100aと同様にピン101を用いた構成で十分であると考えられる。
【0043】
[製造手順]
このような金型20を用いてインシュレータ12を製造する手順を説明する。
まず、樹脂材料を用意する。ここでは、PPSとガラス(40質量%)とを混合した樹脂材料を用意し、所定の温度となるように保持して、ノズルに充填する。
【0044】
スライドコア23S,23Eを組み立てておき、移動金型22の所定の位置にティース11を配置して、組み立てたスライドコア23S,23Eをその周囲に配置する。
【0045】
ティース11,スライドコア23S,23Eが配置された移動金型22を固定金型23側に移動させ(垂直方向上方に移動させ)、ティース11の内周側面11iが固定金型21に接するようにし、ティース11,スライドコア23S,23E,及び両金型21,22でつくられるキャビティ210に、導入通路21Iを介して樹脂材料を射出する(図2(I)参照)。このとき、準備した樹脂材料は、比較的流動性が悪い。また、ティース11のコイルサイド面11sとサイド側スライドコア23Sのサイド形成面23sとの間は、最も小さいところで0.2mm程度と狭い。しかし、ティース11のコイルサイド面11sの長手方向の全長に亘って、ガス抜き通路として機能する分割片間の隙間gが存在することから、ガス抜きを十分に行って、キャビティ210に樹脂材料を充填することができる。特に、キャビティ210のコイルサイド側は、嵌合溝12gを形成するために樹脂材料が充填し難い形状であるが、嵌合溝12gの凸条の全長に亘って隙間gが存在するため、ガス抜きを十分に行え、樹脂材料を充填できる。
【0046】
樹脂材料をキャビティ210に充填したら、移動金型22を固定金型21から離れる側に移動させる(垂直方向下方に移動させる)。この移動により、スライドコア23S,23Eもティース11及び樹脂材料により形成されたインシュレータ12から離れる(図2(II)参照)。従って、移動金型22から、ティース11とインシュレータ12とが一体となった分割コア10を取り外すことができる。この手順では、インシュレータ12の形成と、インシュレータ12のティース11への配置とが同時に行える。
【0047】
得られたインシュレータ12は必要に応じてバリの除去作業を行ってもよい。特に、嵌合溝12gの凸条上には、スライドコア23を構成する分割片間の隙間に沿ったバリが生じ易いが、巻線に悪影響が及ばない場合、除去作業を行わなくてもよい。なお、バリを除去することで、凸条上に除去痕が認められることがある。
【0048】
上記構成を具える金型を用いることで、上述のようなベース樹脂とフィラーとを混合した樹脂材料のように流動性がよくない樹脂材料を用いても、ガス抜きを効率よく行うことができ、ショートショットや焼けなどを抑制して、樹脂成形体を良好に製造することができる。特に、上述した嵌合溝を有するインシュレータ12のように、樹脂材料の流動抵抗が高くなるような形状の樹脂成形体であっても、精度よく製造することができる。また、上述したインシュレータ12のように非常に薄い部分を有する樹脂成形体であっても、精度よく製造することができる。
【0049】
なお、上述した実施の形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、以下の変形が考えられる。
(1) 磁性コアとして、ティースの一端側から突出するヨーク部を具えるものを利用する。
(2) スライドコアを構成する板状部材の数を樹脂成形体の凸条の数に応じて適宜変更する。
(3) スライドコアを構成する分割片間の隙間で十分なガス抜きが可能である場合、分割片にガス溜まり溝を設けなくてもよい。
(4) 上記実施の形態では、磁性コアを中子としたアウトサート成形について説明したが、磁性コアの代わりに中子を用いて、磁性コアと別個にインシュレータを形成する。このとき、インシュレータは、複数の分割片を組み合わせて一体にする構成とすると、磁性コアの外周に配置させ易い。
(5) ベース樹脂の組成、フィラーの種類、含有量を適宜変更する。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明樹脂成形体の製造方法は、多面の樹脂成形体で、その少なくとも一面に凸条を有する樹脂成形体の製造に好適に利用することができる。本発明樹脂成形用金型は、上記本発明製造方法に好適に利用することができる。本発明樹脂成形体は、熱伝導性に優れることが望まれる部材に好適に利用することができる。本発明インシュレータは、モータ用コアとコイルとの絶縁部材として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(I)は、複数の分割コアを組み合わせてなるステーターの概略構成図、(II)は、インシュレータを具える分割コアをコイルサイド側からみた図、(III)は、分割コアをコイルエンド側からみた図、(IV)は、分割コアのA-A断面図、(V)は、分割コアのB-B断面図、(VI)は、分割コアを鍔側からみた図である。
【図2】図1に示すインシュレータの製造に用いる金型の概略を模式的に示す部分断面図であり、(I)は、固定金型に移動金型を近接させた状態、(II)は、固定金型から移動金型を離した状態を示す。
【図3】(I)は、金型に具えるスライドコアの配置状態を説明する説明図、(II)は、サイド側スライドコアを模式的に示す断面図である。
【図4】(I)は、従来のスライドコアの配置状態を説明する説明図、(II)は、ピン入りのスライドコアを模式的に示す斜視図、(III)は、複数のピンを具えるスライドコアを模式的に示す正面図である。
【符号の説明】
【0052】
10 分割コア 11 ティース 11o 外周側面 11i 内周側面 11s コイルサイド面
11f 鍔部 11e コイルエンド面 12 インシュレータ 12S 筒状部
12fo 外周側フランジ部 12fi 内周側フランジ部 12e コイルエンド面
12s コイルサイド面 12g 嵌合溝
20 金型 21 固定金型 21I 導入通路 21s スプル 21r1 一次ランナ
21r2 二次ランナ 21i 導入口 21p ガイドピン 22 移動金型 23 スライドコア
23S サイド側スライドコア 23E エンド側スライドコア 23h ガイド孔
23s サイド形成面 23s' サイド形成面の対向面 23b 板状部材 23m 移動側部材
23f 固定側部材 23g ガス溜まり溝
230 凹溝部 231 凸条部 240 ボルト 241 連結ピン 240h ボルト孔
241h ピン孔
100a,100b スライドコア 101 ピン 102 ピン孔 110 中子 120 導入口
200,210 キャビティ
g 隙間 S ステーター C コイル R 環状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数面を有する樹脂成形体で、その少なくとも一面に凸条を有する樹脂成形体を射出成形により製造する樹脂成形体の製造方法であって、
前記樹脂成形体の熱伝導度が0.3W/m・K以上となるように、ベース樹脂とフィラーとを混合した樹脂材料を準備する工程と、
スライドコアを有する金型に前記樹脂材料を射出して、最も薄い部分の厚さが0.5mm以下である樹脂成形体を成形する工程とを具え、
前記スライドコアとして、複数の分割片を組み合わせてなり、前記樹脂成形体の凸条を形成する凹溝部を有するものを用い、
前記分割片の合わせ目が前記凹溝部に位置するように前記スライドコアを配置して前記樹脂材料を射出することを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
複数面を有する樹脂成形体で、その少なくとも一面に凸条を有する樹脂成形体を射出成形により製造するときに用いる樹脂成形用金型であって、
複数の分割片を組み合わせてなるスライドコアを具え、
前記スライドコアは、前記樹脂成形体の凸条を形成する凹溝部を有し、この凹溝部に分割片の合わせ目が位置するように構成されていることを特徴とする樹脂成形用金型。
【請求項3】
複数面を有する樹脂成形体で、その少なくとも一面に凸条を有する樹脂成形体であって、
ベース樹脂とフィラーとを混合した樹脂材料で構成され、
熱伝導度が0.3W/m・K以上であり、
最も薄い部分の厚さが0.5mm以下であることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項4】
磁性材料からなるモータ用コアとこのコアの外周に配置されるコイルとの間に介在されるインシュレータであって、
ベース樹脂とフィラーとを混合した樹脂材料で構成され、
熱伝導度が0.3W/m・K以上であり、
コイルサイド面にその長手方向に連続するコイル用巻線の嵌合溝を有しており、
前記嵌合溝の凹み部分の厚さが0.5mm以下であることを特徴とするインシュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−12228(P2009−12228A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174498(P2007−174498)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】