説明

樹脂成形品を製造する方法およびそれに用いる金型

【課題】溶融樹脂原料の流動性を向上させることと、成形サイクルを短くすることとのトレードオフの問題に好適に対処した成形品製造方法を提供すること。
【解決手段】射出成形によって樹脂成形品を製造する方法であって、(i)型閉じに際して金型Aと金型Bとを相互に嵌合させて、金型キャビティ空間を形成する工程、および、(ii)樹脂原料を金型キャビティ空間に供して成形に付す工程を含んで成り、工程(i)における金型Aと金型Bとの嵌合に際しては、その嵌合により形成される閉空間の空気を型締めの進行に伴って圧縮し、それによって、金型キャビティ空間を形作る金型表面の温度を上昇させることを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品を製造する方法に関し、より詳細には射出成形によって樹脂成形品を製造する方法に関する。また、本発明は、かかる製造方法に用いる金型にも関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、フィルム、シート、パイプ、日用雑貨、建築資材または工業用部品などの種々の製品に利用されている。このようなプラスチック製品の成形方法としては、射出成形や押出成形などをはじめ種々の方法が用いられる。そのなかでも射出成形は広く用いられており、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の成形で用いられている。例えば熱可塑性樹脂の射出成形では、樹脂原料を溶融させて金型へと射出し、金型内部を溶融樹脂材料で充填した後、冷却に付して成形品を得ている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
成形に用いられる金型は、温調された状態で用いられ、特に高温条件に温調されていると、射出された樹脂原料の流動性が向上してショートショットなどの不良発生を防ぐことができる。これは、例えばファインピッチコネクタのような小型・薄肉成形品の射出成形についていえることである。その一方、金型の温度が高温であればあるほど、樹脂を冷却により固化成形する時間が長くなってしまい、成形サイクルが長くなってしまうので、効率的な成形品製造ができなくなってしまう。従って、溶融樹脂原料の流動性を向上させることと、成形サイクルを短くすることは、いわゆる“トレードオフ”の関係にある。
【0004】
かかるトレードオフの問題に対処すべく、射出成形される金型に圧縮空気を導入して、金型キャビティ内の温度を上昇させる方法が提案されている(特許文献1参照)。かかる方法では、金型を閉じた後に、金型外部に設置した空気圧縮室の高圧空気によって、金型キャビティ内の空気圧を上昇させ、その断熱圧縮効果により金型キャビティ内の空気温度を上昇させている。しかしながら、かかる方法では、金型を閉じた後に外部の圧縮室の圧力を金型内へと与えるので、金型内の昇圧工程が別途必要となり、成形サイクルの短縮化には寄与し得ない。また、外部に圧縮室を設置するために射出成形設備が全体として大きくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3552035号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】小川伸著、「プラスチック工業辞典」第4版、株式会社工業調査会、1985年6月、p494
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものである。つまり、本発明の課題は、溶融樹脂原料の流動性を向上させることと、成形サイクルを短くすることとのトレードオフの問題により好適に対処した成形品製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、射出成形によって樹脂成形品を製造する方法であって、
(i)型閉め(および/または型締め)に際して金型Aと金型Bとを相互に嵌合させ、金型キャビティ空間を形成する工程、ならびに
(ii)樹脂原料を金型キャビティ空間に供して成形に付す工程
を含んで成り、
工程(i)における金型Aと金型Bとの嵌合に際しては、その嵌合により形成される閉空間の空気を型閉めの進行に伴って圧縮し、それによって、金型キャビティ空間を形作る金型表面の温度を上昇させることを特徴とする製造方法が提供される。好ましくは、型閉めの進行を瞬時に実施して閉空間における空気を断熱圧縮することによって金型表面の温度を上昇させる。
【0009】
本発明の製造方法では、金型Aと金型Bとの相互の嵌合により形成される閉空間の体積を型閉めの進行に伴って減少させている。特に好ましくは閉空間の体積を瞬時に減少させる。これにより、閉空間における空気が圧縮(好ましくは断熱圧縮)されるので金型表面の温度が上昇し、樹脂原料の射出成形に好ましい金型条件が供される。
【0010】
本明細書において「嵌合より形成される閉空間」とは、一方の金型(金型A)と他方の金型(金型B)とが相互に嵌り合うことによって形成される密閉空間のことを実質的に意味している。
【0011】
また、本明細書において「型閉め」とは、金型の固定側と可動側とを位置的に閉じた状態にする操作を実質的に意味しており、また、「型締め」とは、型閉め状態の金型に対して樹脂の射出圧による金型を開こうとする力以上の締める力を与える操作のことを実質的に意味している。
【0012】
ある好適な態様では、一方の金型Aとして「空気を保持するための面方向に閉じた凸部を備えた金型」を用いる一方、他方の金型Bとして「金型Aの凸部が嵌合する凹部を備えた金型」を用いる。かかる場合、工程(i)では、好ましくは面方向に閉じた凸部内に密閉された空気が圧縮されることになる。より具体的には、金型Bの凹部が嵌り合うことによって金型Aの面方向に閉じた凸部内に密閉された空気が型閉じの進行に伴って圧縮される。
【0013】
ある好適な態様では、空気の圧縮に起因して金型表面温度の調整を行う。好ましくは、かかる金型表面温度の調整によって、金型キャビティ空間に供された樹脂原料の温調を行う。つまり、成形サイクルとの兼ね合いを踏まえた上で溶融樹脂原料の射出成形に適した温度となるように金型表面温度を調整する。例えば、空気を圧縮すると、圧縮による圧力上昇と初期大気圧下での温度および相対湿度から湿り空気線図によって得られる温度にまで温度上昇することになるので、それを利用して温調を好適に図ることができる。
【0014】
別のある好適な態様では、型閉じに際して金型表面温度が所定値を超えた場合、閉空間と金型外部との間を連通させる空気通路の弁を開く。同様に、型閉じに際して閉空間における空気圧力が所定値を超えた場合、閉空間と金型外部との間を連通させる空気通路の弁(エアベント)を開く。更には、閉空間と金型外部との間を連通させる空気通路を介して、閉空間における空気の一部を金型外部へと逃がすことによって、圧縮に付される空気量を調整する(例えば金型Aと金型Bとの嵌合が始まって以降に所望の型閉位置で弁を閉じることによって“圧縮に付される空気量”を調整できる)。これらの操作によって、所望の金型表面温度の制御を行うことができる。尚、金型Aおよび金型Bの周辺の湿り空気の相対湿度および気温を計測し、その計測した値を利用して、金型表面温度を制御してもよい。
【0015】
更に別の好適な態様では、工程(ii)の実施に先立って又はそれと実質的に同時に、閉空間と金型外部との間を連通させる空気通路の弁を開き、金型キャビティ空間内の圧力を減少させる。これにより、キャビティ空間内の圧力に起因した不都合(例えば金型キャビティ空間に射出された溶融樹脂原料がキャビティ空間内の圧力に起因して逆流してしまうことなど)を防止できる。
【0016】
本発明では、上述の製造方法において用いる金型も提供される。かかる本発明の金型は、金型AおよびBから構成されており、金型Aは空気を保持するための面方向に閉じた凸部を有して成る一方、金型Bは該凸部が嵌合することが可能な凹部を有して成ることを特徴とする。尚、金型Aが“固定側”となる一方、金型Bが“可動側”となっていてよく、あるいは、その逆の態様として金型Aが“可動側”となる一方、金型Bが“固定側”となってもよい。
【0017】
本発明の金型の特徴の1つは、金型Aと金型Bとの相互の嵌合により形成される閉空間の体積が型閉じの進行に伴って減少する構造を備えていることである。
【0018】
ある好適な態様では、金型キャビティ空間を形作る金型表面の温度を検知する温度計測手段を更に有して成る。また、金型Aと金型Bとの相互の嵌合により形成される閉空間(または金型キャビティ空間)における空気圧力を計測する圧力計測手段を更に有していてもよい。
【0019】
本発明の金型では、金型キャビティ空間を形作る金型表面温度が型閉じに伴って上昇することになるが、これに対して付加的な別の温調手段を設けてもよい。例えば、断熱圧縮により得られる金型表面温度よりも低い温度に金型全体を調節するための“温調流体用流路”または“ヒートパイプ”を設けてよい。また、金型キャビティ空間を形作る金型表面の温度を付加的に調整するためのペルチェ素子を設けてもよい。
【0020】
ある好適な態様では、閉空間における空気の密閉性を助力するOリングが金型Aの凸部もしくは金型Bの凹部および/またはエジェクタピン擦動部に設けられている。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法では、型閉じに際して形成される閉空間を減じて金型キャビティを形成しており、そのキャビティ形成に際して閉空間における空気を圧縮している。即ち、型閉じ操作時に閉空間の空気を断熱圧縮して金型表面温度を上げることができる。本発明に従えば、このように射出前に金型表面温度を上げることができるので、原料樹脂の射出成形にとって望ましい条件を予め得ることができ、生産性が向上し得る。例えば、金型表面温度が上昇した状態で樹脂が充填されることによって金型表面での樹脂の転写性が向上する(つまり、微細な表面転写が必要となる精密射出成形品の生産性の向上を図ることができる)。また、あくまでも断熱圧縮により熱を発生させているので金型表面を一時的に昇温させることができ、それゆえ、樹脂冷却に要する時間が必要以上に長くなることなく原料樹脂の流動性を向上させることができる。つまり、本発明では、溶融樹脂原料の流動性を向上させることと、成形サイクルを短くすることとのトレードオフの問題に好適に対処することができる。
【0022】
本発明においては、成形に用いる金型自体の構造に起因して金型表面温度を一時的に上昇させることができるので、金型外部に空気圧縮室などを設ける必要はない。つまり、本発明に従えば、全体の設備構成を簡略化できコンパクトな成形設備にすることができる。更にいえば、本発明では、断熱圧縮するのに別途の昇圧工程を必要とせず、型閉じ操作に際して昇圧できるので、その点で成形サイクルの短縮化に有効に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の製造方法を概念的に示した図
【図2】本発明の製造方法が実施される態様を模式的に示した断面図
【図3】本発明の金型の形態を模式的に示した斜視図
【図4】金型Aと金型Bとの相互の嵌合によって閉空間が形成される態様を表した断面図。
【図5】射出成形装置の全体の概略図
【図6】閉空間と金型外部との間を連通させる空気通路を利用する態様を説明するための模式図
【図7】工程フローの一例を示した図
【図8】本発明の金型を模式的に示した断面図
【図9】金型Aの凸部の内周面に封止部材を設ける態様を示した模式図
【図10】金型Bの凹部の外周面に封止部材を設ける態様を示した模式図
【図11】エジェクタピン擦動部に封止部材を設ける態様を示した模式図
【図12】空気遮断手段を設ける態様を示した模式図
【発明を実施するための形態】
【0024】
[本発明の製造方法]
以下にて、本発明の製造方法を詳細に説明する。図1に本発明の製造方法の特徴を概念的に示す。本発明では、金型キャビティ空間の形成に際して得られる金型閉空間を減じて断熱圧縮によって熱を一時的に発生させており(工程(i))、その後、形成された金型キャビティ空間に樹脂原料を射出して成形を行う(工程(ii))。
【0025】
本発明の製造方法の実施に際しては、まず、金型Aと金型Bとを用意する。好ましくは図2(a)に示すように、金型A(50)は、空気を保持するための面方向に閉じた凸部(55)を備えた金型となっている一方、金型B(60)は、凸部(55)が嵌合する凹部(65)を備えた金型となっている。具体的には、特に図2(b)に示すように、金型A(50)の凸部(55)が外側となる一方、金型B(60)の凹部(65)が内側になって相互に嵌り合う構造を金型A/金型Bが有している。更に別の表現を用いて説明すれば、図2および図3に示すように、金型A(50)は、筒状の部材としての凸部(55)を有している一方、金型B(60)は、その筒状部材が嵌り込む溝部(66)を外側に備えた凹部(65)を有している。このような構造に起因して、金型Aの凸部(55)と金型Bの凹部(65)とが相互に嵌り合うと閉空間が形成されることになり、断熱圧縮を好適に行うことができる。つまり、金型Aと金型Bとが相互に嵌り合うことを通じて型閉じを進行させると、成形機の型閉および高圧型締力によって“金型Aの凸部(55)内に密閉された空気”を圧縮することができる(図2(b)および(c)参照)。
【0026】
図4(a)〜(c)を参照して説明すると、金型Aにおける凸部(55)の内周面(55A)と金型Bにおける凹部(65)の外周面(65B)とが相互に密接に合わさるように金型Aと金型Bとが相互に嵌り合うことによって、閉空間(70)が形成される(図4(a)および(b)参照)。かかる閉空間(70)は、金型の型閉じが進行するにつれ、その体積が減じられるので、閉空間(70)の空気が圧縮され、最終的には図4(c)に示すように金型キャビティ(70’)が形成されることになる。
【0027】
特に本発明の製造方法においては、型閉じにより形成される閉空間(70)の体積を減じて金型キャビティ(70’)を形成するが、その体積減少に際して閉空間(70)の空気を圧縮に付して熱を発生させる。好ましくは、金型の閉空間(70)に存在する空気を断熱圧縮して、その圧縮に付した空気の温度を上昇させる。これにより、金型キャビティ空間を形作る金型表面(53,63)の温度が上昇することになる。
【0028】
「断熱圧縮」とは、外界から熱の授受なしに気体が圧縮される現象(等エントロピー圧縮)である。従って、例えば閉空間(70)の体積を減じる速度を大きくすることによって、閉空間(70)で圧縮された空気にて熱がより効率的に発生することになり、その空気と接する金型表面(53,63)の温度を効率的に上昇させることができる。つまり、型閉じ速度、より具体的には金型Aと金型Bとの相互の嵌合速度を調整することによって金型表面(53,63)の温度を調整することができる。ここで、本発明では、閉空間(70)の体積を減じて最終的に金型キャビティ(70’)を得ているので、「閉空間(70)の体積減少に伴う断熱圧縮熱の発生」と「金型キャビティ(70’)の形成」とが実質的に略同時に起こることになる。そして、キャビティ空間を形作る金型表面(53,63)は、上記の断熱圧縮熱に起因して温度が一時的に上昇することになるので、これによって、樹脂冷却に過大な時間を要することなく射出成形にとって好ましい金型温度が供されることになる。
【0029】
減じられることになる閉空間(70)は、減じる前の閉空間の体積(特に金型Aと金型Bとが相互に嵌り合った最初の時点における体積)をV1とし、最終的に減じられた閉空間の体積をV2とすると、V1に対するV2の比(V2/V1)は、好ましくは0.50〜0.95程度、より好ましくは0.70〜0.80程度である。また、閉空間(70)の体積を減じる速度は、圧縮される空気に熱が発生するのであれば特に制限はない。しかしながら、できるだけ瞬時に閉空間体積を減じることが好ましく、例えば0.2s〜1.0s以内で圧縮操作を行うことが好ましい。このように瞬時に閉空間(70)の体積が減じられることによって、閉空間(70)における空気は外界へと熱を逃がすことができず、より効率的に金型表面温度を上昇させることができる。ちなみに、閉空間(70)の空気を断熱圧縮することに起因して上昇する金型表面温度は、およそ10〜50℃程度となり得る。
【0030】
閉空間(70)の体積減少を伴った型閉じを完了して金型キャビティを形成した後においては、樹脂原料の射出を行う。即ち、形成された金型キャビティ空間(70’)に対して溶融樹脂原料を供して成形に付す。ここで、“断熱圧縮”に起因して金型キャビティ空間を形作る金型表面(53,63)はその温度が上昇しているので、その上昇した温度によって、金型キャビティ空間(70’)内の樹脂原料が温調される。特に本発明では金型表面(53,63)の温度が一時的に上昇しているので、溶融樹脂原料につき大きな温度低下を防止して射出することができる。つまり、溶融樹脂原料の流動性が不都合に低下することなく、金型キャビティ内を樹脂原料で好適に満たすことができる。また、金型表面温度が上昇している状態で樹脂が充填されることによって金型表面における樹脂の転写性が向上することにもなる。
【0031】
溶融樹脂原料の射出について説明する。射出成形装置の全体の概略図を図5に示す。樹脂原料は成形機シリンダ(32)において溶融化される。用いられる「成形機シリンダ」とは、射出成形に際して、樹脂原料が溶融化される成形機部分のことを指しており、“スクリュシリンダ”または“バレル”などとも称すことができるものである。かかる成形機シリンダは、一般的な射出成形に常套的に使用される成形機シリンダであってよく、特に新たな機能・構造を必要としない。例えば、本発明で用いるシリンダは、内部にスクリュを備え、外部にバンドヒータを備えた部材であってよい。尚、このようなシリンダを含んだ射出成形機自体も、一般的な射出成形において常套的に使用されるものであってよい。
【0032】
図5を用いて詳述すると次のようになる。まず、固形の樹脂原料(20)(例えばペレット状の樹脂原料)をホッパー(31)を介してシリンダ(32)へと供給する。次いで、シリンダ(32)に供給された樹脂原料(20)は、スクリュ(33)の回転によって前方へと送られる。この際、シリンダ(32)に備えられているヒータ(34)からの熱および/またはスクリュ(33)の回転による摩擦熱などに起因して、樹脂原料は溶融しながらシリンダ(32)の前部へと送られる。シリンダ(32)の先端部には、金型の射出口(51)と流体連通状態となった開口部(35)(ノズル部)が存在する。従って、前方へと送られた「溶融化した樹脂原料」は、最終的には、プランジャー(37)によって押圧され、金型の射出口(51)を介して金型キャビティ内へと射出される。
【0033】
尚、射出に先立っては、閉空間と金型外部(外気)との間を連通させる空気通路(90)の弁(95)を開くことによって、金型キャビティ内の圧力を減じることが好ましい(“空気通路90”および“弁95”については図2(c)参照のこと)。例えば、成形機に射出開始信号を与えるに先立ってあるいはそれと同時に空気通路の弁(95)に対して弁開信号を与えてよい。このような操作によって、金型キャビティ内の圧力を減じることができるので、射出された溶融樹脂原料がキャビティ空間内の圧力に起因して逆流してしまう不都合を防止できる。
【0034】
溶融樹脂原料の射出が行われた後は、樹脂原料が冷却されて成形に付される。そして、冷却が終了すると離型操作が行われて、最終成形品たる樹脂成形品が得られることになる。
【0035】
本発明の製造方法の態様には、その他種々の態様が考えられる。以下それについて詳述する。
【0036】
(閉空間と金型外部との間を繋ぐ空気通路の利用)
かかる態様は、閉空間(70)と金型外部(80)との間を連通させる空気通路(90)を好適に利用する態様である(図6参照)。この空気通路(90)には、閉空間(70)と金型外部(80)との間の連通に対する“開”/“閉”を可能にする弁(95)が設けられている。つまり、弁(95)を開くと、閉空間(70)と金型外部(80)との間が連通状態となる一方、弁(95)を閉じると、閉空間(70)と金型外部(80)との間が非連通状態となる。
【0037】
空気通路(90)を好適に利用する態様を例示すると、以下のケース1〜3を挙げることができる:
ケース1:閉空間と金型外部との間を連通させる空気通路を介すことによって、型閉じに際して閉空間の空気の一部を金型外部へと逃がし、それによって、圧縮に付される空気量を調整する。例えば、型閉じ開始時では弁(95)を開けておき、閉空間(70)の空気量(例えば金型Aの面方向に閉じた凸部内に密閉された空気量)が所望量となった時点で弁(95)を閉じることによって“断熱圧縮に付される空気量”を調整できる。このようにして空気量を調整すると、金型表面(53,63)の温度をより好適に制御できる。
【0038】
ケース2:型閉じに際して金型表面温度が所定値を超えた時点で、閉空間(70)と金型外部(80)との間を連通させる空気通路の弁(95)を開く。これにより、過度な断熱圧縮を防止することができるので、金型表面(53,63)の温度をより好適に制御することができる。このような制御を行うべく、図6に示すように、金型表面(53,63)の温度を検知する温度計測手段(92)を設けることが好ましい。かかる温度計測手段(92)としては、特に制限するわけではないが、熱電対、測温抵抗体、赤外線センサ(特に赤外輻射を利用した放射温度計)などを挙げることができる。このような温度計測手段を用いる場合では、検知された温度が所定値を超えると弁(95)に対して弁開信号を与える制御を行うことができる。
【0039】
ケース3:型閉じに際して、閉空間(70)における空気圧力が所定値を超えた時点で、閉空間(70)と金型外部(80)との間を連通させる空気通路の弁(95)を開く。これにより、過度な断熱圧縮を防止できるので、金型表面(53,63)の温度をより好適に制御できる。このような制御を行うべく、閉空間における空気圧力を計測する圧力計測手段を設けることが好ましい。図6に示すように、圧力計測手段(93)は、閉空間(70)と連通状態にある空気通路(90)に対して設けてよい。このような圧力計測手段を用いた場合では、検知された圧力が所定値を超えると弁(95)に対して弁開信号を与える制御を行うことができる。
【0040】
(金型周辺の湿り空気の計測)
かかる態様では、金型(金型Aおよび金型B)の周辺の湿り空気の相対湿度および気温が計測される。図6には、湿り空気の相対湿度の計測器(96)および気温の計測器(97)が設けられる態様を示している。かかる態様は、断熱圧縮による温度上昇が空気中の水分量(即ち湿度)に依存することを踏まえており、周辺の湿り空気の相対湿度および気温を計測することによって、その計測した値を利用して、金型表面温度を制御する。つまり、計測した値から空気中の水分量(≒絶対湿度)を把握し、それを、断熱圧縮操作のパラメータとして利用する。例えば、湿り空気の初期状態および目標とする金型表面温度から閉空間(70)の空気量や弁制御のための温度もしくは圧力などの閾値を算出し、それを金型表面温度の制御に用いることができる。このような態様に関する工程フローの一例を図7に示す。
【0041】
(付加的な温調)
かかる態様では、“断熱圧縮”以外にも付加的な温度調整手段を用いる態様である。例えば、金型Aおよび金型Bの少なくとも一方に設けられた“温調流体用流路”または“ヒートパイプ”を利用してよく、それによって、金型全体の温調を行うことができる。特に“温調流体用流路”を用いると断熱圧縮で得られる金型表面温度よりも低い温度に金型全体を制御することができる。あるいは、金型Aおよび/または金型Bの表面近傍に設けたペルチェ素子を利用して、「金型キャビティ空間を形作る金型表面」の温度を付加的に制御することもできる。特に、断熱圧縮により得られる金型表面温度よりも低い温度に金型表面近傍の温度調節をするためにペルチェ素子を設けることが好ましい。
【0042】
このように付加的な温調を行うと、より好適に射出成形を行うことができる。例えば、断熱圧縮による金型表面温度上昇と金型全体の温度調節による温度低下との兼ね合いで最終的な金型表面温度が決まるので、圧縮終了から射出までに遅延時間を設けるか、計測した表面温度がピークとなったタイミングで射出信号を与えると、“転写性”がより向上した射出成形を行うことができる。
【0043】
[本発明の金型]
次に、本発明の金型について説明を行う。本発明の金型は、上述の本発明の製造方法において使用されるものであって、金型AおよびBから構成されている。
【0044】
図3に示すように、金型A(50)は、筒状の部材として備えられた凸部(55)を有している一方、金型B(60)は、その筒状部材が嵌り込む溝部(66)を外側に備えた凹部(65)を有している。これにより、金型Aの凸部(55)と金型Bの凹部(65)とが相互に嵌合することによって閉空間が形成され、断熱圧縮を好適に行うことができる。
【0045】
例えば、金型Aの凸部(55)および金型Bの凹部(65)の寸法は、図4に示すように、金型Aにおける凸部(55)の内周面(55A)と、金型Bにおける凹部(65)の外周面(65B)とが相互に密接に合わさって閉空間(70)が形成されるのであるならば、いずれの寸法であってもよい。例えば、図8に示す金型Aの凸部寸法(ha、wa1、wa2)について例示すると、haは10〜100mmであり、wa1は30〜500mmであり、wa2は5〜20mmであってよい一方、金型Bの凹部寸法(hb、wb1、wb2)につき、hbは0.08〜5mmであり、wb1は1〜490mmであり、wb2は「wa1−wb1」から算出される値であってよい。尚、本発明の金型は、特に精密射出成形品の製造に適しており、それゆえ、金型Aと金型Bとから最終的に形成される金型キャビティ空間(70’)の体積は、好ましくは1000〜10000mm程度、より好ましくは3000〜7000mm程度である。
【0046】
本発明の金型の材質は、特に制限なく、一般的な射出成形に常套的に使用される金型の材質と同じであってよい。同様に、金型に付加的に設けられる機器なども、一般的な射出成形に常套的に使用されるものと同様であってよい。
【0047】
特に本発明の金型においては、断熱圧縮に適した閉空間(70)の形成、即ち、密閉空間の形成に資するように封止部材が設けられていることが好ましい。例えば、図9(a)に示すように、金型Aの凸部(55)の内周面(55A)に封止部材(83)(例えばO−リング)が設けられていることが好ましい。即ち、金型A(50)の筒状部材の内壁面に封止部材(83)が設けられていることが好ましい。かかる場合、金型Aと金型Bとの相互の嵌合に際して、より気密的な閉空間(70)を形成することができ、効率的に断熱圧縮を行うことができる(図9(b)参照)。また、図10(a)に示すように、金型Bの凹部(65)の外周面(65B)に封止部材(83’)(例えばO−リング)が設けられていてもよい。即ち、金型B(60)の溝部(66)の内側面に封止部材(83’)が設けられていてよい。かかる場合であっても同様に、金型Aと金型Bとの相互の嵌合に際して、より気密的な閉空間(70)を形成することができ、効率的に断熱圧縮を行うことができる(図10(b)参照)。更にいえば、封止部材はエジェクタピン擦動部(突き出しピン擦動部)にも設けられていてよい。例えば、図11(a)および(b)に示すように、金型B(60)の突き出しピン(82)を包囲するように封止部材(83'’)が設けられていてよい。かかる場合では、断熱圧縮に適した密閉空間(70)を形成できるにも拘わらず、離型時にて成形品(75)の突き出しを好適に行うことができる。
【0048】
本発明の金型は、1回の成形ごとにノズルを後退させて成形する際に閉空間(70)の密閉性を保持するための空気遮断手段を有していてもよい。かかる場合、空気遮断手段は、金型内樹脂流路のノズル接触部からゲート部の少なくとも1ヶ所に設置することが好ましい。例えば、図12に示すような態様で空気遮断手段(89)を設けてよく、これによって、成形機ノズル(35)が接していない状態であっても金型の閉空間、即ちキャビティ空間(70’)の密閉性を保持できる。
【0049】
上述の[本発明の製造方法]で触れたことではあるが、金型表面温度の制御が好適に行われるように、本発明の金型には、閉空間(70)と金型外部(80)との間を連通させる空気通路(90)が設けられていることが好ましく(図6参照)、かかる空気通路(90)には閉空間(70)と金型外部(80)との間の連通に対する“開”/“閉”を可能にする弁(95)が設けられていることが好ましい。同様に、上述の[本発明の製造方法]で触れたことではあるが、本発明の金型には以下の手段・要素が設けられていることが好ましい:
・金型表面(53,63)の温度を検知する温度計測手段(92);
・閉空間(70)/金型キャビティ(70’)の圧力を検知する圧力計測手段(93);
・周辺の湿り空気の相対湿度および気温を計測する手段(96,97);および
・温調流体用流路またはヒートパイプ
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の製造方法ないしは金型を用いると、微細な表面転写が必要となる精密射出成形品のハイサイクル成形が可能となる。よって、本発明は、ファインピッチコネクタのような小型・薄肉成形品の射出成形の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
20 固形の樹脂原料
31 ホッパー
32 成形機シリンダ
33 スクリュ
34 ヒーター
35 ノズル部
37 プランジャー
50 金型A
51 射出口
53 金型キャビティ空間を形作る金型表面
55 金型Aの凸部
55A 金型Aの凸部の内周面
60 金型B
63 金型キャビティ空間を形作る金型表面
65 金型Bの凹部
65B 金型Bの凹部の外周面
66 金型Bの溝部
70 閉空間
70’金型キャビティ
75 成形品
80 金型外部(周辺雰囲気)
82 エジェクタピン(突き出しピン)
83 封止部材
83’封止部材
83”封止部材
89 空気遮断手段
90 閉空間と金型外部とを繋ぐ空気通路
92 温度計測手段
93 圧力計測手段
95 空気通路に設けられた弁(バルブ)
96 湿り空気の相対湿度の計測器
97 湿り空気の気温の計測器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形によって樹脂成形品を製造する方法であって、
(i)型閉じに際して金型Aと金型Bとを相互に嵌合させて、金型キャビティ空間を形成する工程、および
(ii)樹脂原料を前記金型キャビティ空間に供して成形に付す工程
を含んで成り、
前記工程(i)における金型Aと金型Bとの嵌合に際しては、該嵌合により形成される閉空間の空気を型閉じの進行に伴って圧縮し、それによって、前記金型キャビティ空間を形作る金型表面の温度を上昇させることを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
型閉じの進行によって前記閉空間における空気を断熱圧縮することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記一方の金型Aとして、空気を保持するための面方向に閉じた凸部を備えた金型を用いる一方、
前記他方の金型Bとして、前記凸部が嵌合する凹部を備えた金型を用い、
前記工程(i)では、型閉じの進行に伴って、前記面方向に閉じた凸部内に密閉された空気が圧縮されることを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記空気の前記圧縮に起因して上昇した前記金型表面温度によって、前記金型キャビティ空間に供された前記樹脂原料の温調を行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記型閉じに際して前記金型表面温度が所定値を超えた場合、前記閉空間と金型外部との間を連通させる空気通路の弁を開くことを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記型閉じに際して前記閉空間における空気の圧力が所定値を超えた場合、前記閉空間と金型外部との間を連通させる空気通路の弁を開くことを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記閉空間と金型外部との間を連通させる空気通路を介して、該閉空間における空気の一部を該金型外部へと逃がすことによって、圧縮に付される空気量を調整することを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項8】
金型Aおよび金型Bの周辺の湿り空気の相対湿度および気温を計測し、該計測した値を利用して、前記金型表面温度を制御することを特徴とする、請求項4〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程(ii)の実施に先立って、前記閉空間と金型外部との間を連通させる空気通路の弁を開き、前記金型キャビティ空間内の圧力を減じることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法に用いる金型であって、
金型AおよびBから構成されており、
金型Aは、空気を保持するための面方向に閉じた凸部を有して成る一方、金型Bは該凸部が嵌合することが可能な凹部を有して成ることを特徴とする金型。
【請求項11】
金型Aおよび金型Bの少なくとも一方が、前記閉空間と金型外部との間を連通させる空気通路を有して成り、
前記連通に対する開閉を可能にする弁が前記空気通路に設けられていることを特徴とする、請求項10に記載の金型。
【請求項12】
前記金型キャビティ空間を形作る金型表面の温度を検知する温度計測手段を更に有して成ることを特徴とする、請求項10または11に記載の金型。
【請求項13】
前記閉空間における空気の圧力を計測する圧力計測手段を更に有して成ることを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の金型。
【請求項14】
温調流体用流路またはヒートパイプが設けられていることを特徴とする、請求項10〜13のいずれかに記載の金型。
【請求項15】
前記金型キャビティ空間を形作る金型表面の温度を付加的に調整するためのペルチェ素子を更に有して成る、請求項10〜14のいずれかに記載の金型。
【請求項16】
前記閉空間における空気の密閉性を助力するOリングが前記凸部もしくは前記凹部および/またはエジェクタピン擦動部に設けられていることを特徴とする、請求項10〜15のいずれかに記載の金型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−6178(P2012−6178A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141898(P2010−141898)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】