説明

樹脂歯車及びスロットル装置

【課題】有歯部及び無歯部との境界部の径方向内側に凹所を備える樹脂歯車を対象として有歯部の歯の強度及び成形精度の低下を防止する。
【解決手段】スロットルギヤ32は、ギヤ本体34の外周部に歯81を有する有歯部80及び歯を有しない無歯部83と、有歯部80と無歯部83との境界部90の径方向内側に形成された凹所91とを備え、ギヤ本体34側に設定された射出ゲート95から射出された溶融樹脂により形成される。凹所91の有歯部80側を迂回する溶融樹脂の流れと凹所91の無歯部83側を迂回する溶融樹脂の流れとの合流により生成されたウェルド部116が無歯部83に形成される。凹所91の無歯部83側に、溶融樹脂の流れを迂回させるための貫通孔93が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂歯車及びスロットル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子制御式のスロットル装置において、スロットルバルブを設けたスロットルシャフトに樹脂歯車が固定されたものがある(例えば、特許文献1参照)。このような樹脂歯車は、歯車本体の外周部に歯を有する有歯部及び歯を有しない無歯部を備え、歯車本体側に設定された射出ゲートから射出された溶融樹脂により形成されている。なお、樹脂歯車の全周に亘って歯を有する有歯部が形成されたものがある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−84503号公報
【特許文献2】特開2004−358665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に記載された樹脂歯車において、有歯部と無歯部との境界部の径方向内側に凹所を形成する場合がある。この場合、凹所の有歯部側を迂回する溶融樹脂の流れと凹所の無歯部側を迂回する溶融樹脂の流れとの合流により生成されたウェルド部が有歯部に形成されると、有歯部の歯の強度及び成形精度の低下を招くという問題があった。これは、凹所の無歯部側を迂回する溶融樹脂の流れが射出ゲートからウェルド部に達するまでの流動距離が、凹所の有歯部側を迂回する溶融樹脂の流れが射出ゲートからウェルド部に達するまでの流動距離に比べ短いためと考えられる。なお、特許文献2は、歯車本体の全周に亘って有歯部が形成された樹脂歯車で、無歯部が存在していないため、本発明を適用することができない。
本発明が解決しようとする課題は、有歯部及び無歯部との境界部の径方向内側に凹所を備える樹脂歯車を対象として有歯部の歯の強度及び成形精度の低下を防止することのできる樹脂歯車及びスロットル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題は、特許請求の範囲の各請求項に記載された構成を要旨とする樹脂歯車及びスロットル装置により解決することができる。
すなわち、請求項1に記載された樹脂歯車によると、凹所の有歯部側を迂回する溶融樹脂の流れと凹所の無歯部側を迂回する溶融樹脂の流れとの合流により生成されたウェルド部が無歯部に形成されたものである。したがって、有歯部及び無歯部との境界部の径方向内側に凹所を備える樹脂歯車を対象として有歯部にウェルド部が形成される場合と異なり、有歯部の歯の強度及び成形精度の低下を防止することができる。
【0006】
また、請求項2に記載された樹脂歯車によると、複数の射出ゲートから射出された溶融樹脂によりウェルド部が生成されたものである。したがって、それぞれの射出ゲートからウェルド部に達するまでの溶融樹脂の流れの流動距離を短縮することができる。
【0007】
また、請求項3に記載された樹脂歯車によると、凹所の無歯部側に、溶融樹脂の流れを迂回させるための距離調整凹部が形成されたものである。したがって、凹所の無歯部側において、射出ゲートからウェルド部に達するまでの溶融樹脂の流れの流動距離を延長することができる。このため、凹所の有歯部側を迂回する溶融樹脂の流れと凹所の無歯部側を迂回する溶融樹脂の流れとの合流により生成されたウェルド部を無歯部に形成することができる。
【0008】
また、請求項4に記載された樹脂歯車によると、凹所の無歯部側を迂回する溶融樹脂の流動抵抗に比べて、凹所の有歯部側を迂回する溶融樹脂の流動抵抗を小さくする抵抗調整凹部が形成されたものである。したがって、凹所の無歯部側を迂回する溶融樹脂の流動速度に比べて、凹所の有歯部側を迂回する溶融樹脂の流動速度が速くなる。このため、凹所の有歯部側を迂回する溶融樹脂の流れと凹所の無歯部側を迂回する溶融樹脂の流れとの合流により生成されたウェルド部を無歯部に形成することができる。
【0009】
また、請求項5に記載された樹脂歯車によると、抵抗調整凹部が歯車本体の端面に形成される環状の溝部であり、凹所の無歯部側を迂回する側の溝部分の溝深さに比べて、凹所の有歯部側を迂回する側の溝部分の溝深さを浅くしたものである。したがって、歯車本体の端面に形成される環状の溝部を抵抗調整凹部として利用することによって、凹所の無歯部側を迂回する溶融樹脂の流動速度に比べて、凹所の有歯部側を迂回する溶融樹脂の流動速度を速くすることができる。このため、凹所の有歯部側を迂回する溶融樹脂の流れと凹所の無歯部側を迂回する溶融樹脂の流れとの合流により生成されたウェルド部を無歯部に形成することができる。
【0010】
また、請求項6に記載されたスロットル装置によると、スロットルバルブを設けたスロットルシャフトに固定されるスロットルギヤが、請求項1〜5のいずれか1つに記載の樹脂歯車であるスロットル装置を提供することができる。
【0011】
また、請求項7に記載されたスロットル装置によると、スロットルギヤの凹所に、捩じりコイルスプリングのフックが掛止される構成としたものである。したがって、スロットルギヤの凹所を利用して捩じりコイルスプリングのフックを掛止することができる。
【0012】
また、請求項8に記載されたスロットル装置によると、スロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサの永久磁石が、歯車本体の周方向に隣り合う射出ゲートの間の中間部に配置された状態で、スロットルギヤにインサート成形されたものである。したがって、永久磁石に対する両射出ゲートからそれぞれ射出された溶融樹脂の圧力が均等化されるため、溶融樹脂の圧力差による永久磁石の位置ずれを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1に係るスロットル装置を示す断面図である。
【図2】スロットル装置を示す側面図である。
【図3】スロットルギヤサブアッセンブリを示す側面図である。
【図4】スロットルギヤサブアッセンブリを示す下面図である。
【図5】スロットルギヤを示す側面図である。
【図6】スロットルギヤを示す上面図である。
【図7】スロットルギヤを示す下面図である。
【図8】図7のA−A線矢視断面図である。
【図9】図6のB−B線矢視断面図である。
【図10】スロットルギヤの成形型を示す断面図である。
【図11】スロットルギヤの凹所の周辺部における溶融樹脂の流れを示す説明図である。
【図12】図6のC−C線矢視断面図である。
【図13】実施例2に係るスロットルギヤを示す上面図である。
【図14】図13のD−D線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
[実施例1]
本発明の実施例1を説明する。本実施例は、自動車等の車両の内燃機関(以下、「エンジン」という)への吸入空気量を制御する電子制御式のスロットル装置に適用したものであるから、スロットル装置を説明した後、スロットルギヤについて説明する。なお、図1はスロットル装置を示す断面図、図2はスロットル装置を示す側面図である。
【0016】
図1に示すように、スロットル装置10は、スロットルボデー12を備えている。スロットルボデー12は、円筒状の吸気通路14を形成するボア壁部13を有している。ボア壁部13は、図示しないが、内燃機関すなわちエンジンの吸気系の途中すなわちエアクリーナとインテークマニホールドとの間に介装される。また、ボア壁部13の左右両側部には、左右一対の軸受ボス部16,17が同心状に形成されている。両軸受ボス部16,17には、吸気通路14を径方向(図1において左右方向)に横切るスロットルシャフト20の両端部が一対の軸受22,23を介して回転可能に支持されている。スロットルシャフト20には、吸気通路14を開閉するバタフライ型の円板状のスロットルバルブ25が一体的に設けられている。スロットルバルブ25は、制御用モータ40(後述する)を駆動源としてスロットルシャフト20と一体で回動されることにより、吸気通路14を流れる吸入空気量を調整する。
【0017】
前記スロットルボデー12の一側部(図1において左側部)には、該側面の周辺部を取り囲むギヤハウジング部27が形成されている(図2参照)。ギヤハウジング部27の開放端面はギヤカバー30(図1参照)によって閉鎖されており、その内部がギヤ収容室となっている。また、ギヤハウジング部27内の軸受ボス部16に支持された前記スロットルシャフト20の端部(図1において左端部)は、ギヤハウジング部27内へ突出されている。そのスロットルシャフト20の端部には、樹脂製の扇形ギヤからなるスロットルギヤ32が設けられている。スロットルギヤ32の中央部に形成された円筒状のギヤ本体34の内周側には、一対の永久磁石36が対向状に配置されている。なお、スロットルギヤ32については後で説明する。
【0018】
図1に示すように、前記スロットルボデー12には、前記ギヤハウジング部27内に開口する有底筒状のモータ収容部38が形成されている。モータ収容部38内には、例えばDCモータ等の電動モータからなる制御用モータ40が出力回転軸41をギヤハウジング部27内に突出する状態で設置されている。出力回転軸41にはピニオンギヤ43が固定されている。また、制御用モータ40は、図示しないが、自動車のエンジンコントロールユニットいわゆるECU等の電子制御装置によって、アクセルペダルの踏み込み量に関するアクセル信号やトラクション制御信号,定速走行信号,アイドルスピードコントロール信号に応じて駆動制御されるようになっている。なお、制御用モータ40は、本明細書でいう「電動式アクチュエータ」に相当する。
【0019】
前記スロットルボデー12には、前記ギヤハウジング部27に突出するカウンタシャフト45が設置されている。カウンタシャフト45は、前記スロットルシャフト20と前記制御用モータ40の出力回転軸41との間に平行状に配置されている。カウンタシャフト45には、カウンタギヤ47が回転可能に支持されている。カウンタギヤ47は、ギヤ径の異なる大径側のギヤ部47aと小径側のギヤ部47bとを同心状に有している。大径側のギヤ部47aは、前記ピニオンギヤ43と噛み合わされている。また、小径側のギヤ部47bは、前記スロットルギヤ32(詳しくは有歯部80(後述する))と噛み合わされている。したがって、制御用モータ40の駆動により出力回転軸41が正転方向あるいは逆転方向に回転されると、出力回転軸41の回転力がピニオンギヤ43、カウンタギヤ47を介してスロットルギヤ32に伝達されることで、スロットルシャフト20及びスロットルバルブ25が回転すなわち開閉される。なお、ピニオンギヤ43、カウンタギヤ47及びスロットルギヤ32により減速ギヤ機構48が構成されている。
【0020】
前記ギヤカバー30の内側面には、磁気検出素子50が設けられている。磁気検出素子50は、例えばホール素子、ホールIC、磁気抵抗素子等からなり、前記スロットルギヤ32のギヤ本体34内に同心状に遊嵌されている。磁気検出素子50は、スロットルギヤ32の回転にともなって変化する磁界の強さに応じた電圧信号等の電気信号を前記電子制御装置(図示省略)へ出力する。なお、スロットルギヤ32の永久磁石36とギヤカバー30の磁気検出素子50とにより、スロットルバルブ25の開度を検出する非接触式のスロットル開度センサ52が構成されている。
【0021】
前記スロットルボデー12と前記スロットルギヤ32との対向面間には、金属製の捩じりコイルスプリング54が介装されている。捩じりコイルスプリング(以下、「コイルスプリング」という)54は、スロットルギヤ32のギヤ本体34と、スロットルボデー12の軸受ボス部16とに跨って嵌装されている。コイルスプリング54の一方の端面(図1において右端面)は、軸受ボス部16の周囲に形成された座面55に当接されている。コイルスプリング54の他方の端面(図1において左端面)は、スロットルギヤ32のフランジ部57に当接されている。また、コイルスプリング54は、スロットルバルブ25をオープナ開度に弾性的に保持するものである。なお、オープナ開度とは、スロットルバルブ25を全閉位置から僅かに開弁した開度で、退避走行が可能な吸入空気量を得ることのできる開度である。また、スロットルギヤ32とコイルスプリング54とは、予め組付けた状態でスロットルボデー12に組付けられるものである。なお、図3はスロットルギヤサブアッセンブリを示す側面図、図4は同じく下面図である。また、説明の都合上、スロットルギヤサブアッセンブリ(符号、60を付す)については、図3に示すように、スロットルギヤ32のフランジ部57側を上側とし、ギヤ本体34及びコイルスプリング54側を下側として説明を行う。
【0022】
図3及び図4に示すように、前記コイルスプリング54は、1本のばね線材で成形され、リターンスプリング部62とオープナスプリング部64とを有している。リターンスプリング部62とオープナスプリング部64とは、異なる巻き方向で、リターンスプリング部62がオープナスプリング部64の巻数よりも多い巻数をもって巻装されている。コイルスプリング54のオープナスプリング部64及びリターンスプリング部62(詳しくは、オープナスプリング部64側の端部)は、スロットルギヤ32のギヤ本体34に嵌合されている。また、リターンスプリング部62の自由端部には、径方向外方へ突出されたI字状のフック(「I字フック」という)66が形成されている。I字フック66は、前記スロットルボデー12側に掛止される(後述する)。また、オープナスプリング部64の自由端部には、径方向外方へ突出されかつ該スプリング部64の外周側においてコイル部に交差するように折曲されたS字状のフック(「S字フック」という)68が形成されている。S字フック68は、前記スロットルギヤ32に設けられているS字フック掛止部74(後述する)に掛止されている。また、リターンスプリング部62とオープナスプリング部64との間の接続部分には、径方向外方へ突出されたU字状のフック(「U字フック」という)70が形成されている。U字フック70は、スロットルギヤ32の側面に形成された溝状のU字フック掛止部76(後述する)に対して相対的に開方向側(図3において右方)へ移動可能に掛止されている。なお、スロットルギヤ32については後で説明する。
【0023】
前記スロットルギヤ32と前記コイルスプリング54とが組付けられたスロットルギヤサブアッセンブリ60(図3及び図4参照)は、スロットルボデー12に組付けられる(図1及び図2参照)。すなわち、予めスロットルシャフト20、軸受22,23等が組付けられたスロットルボデー12に対して、前記スロットルギヤサブアッセンブリ60が組付けられる。このとき、コイルスプリング54のリターンスプリング部62に縮径方向の捩じり力が付与された状態で、I字フック66がスロットルボデー12側のI字フック掛止部72に掛止される(図2参照)。また、スロットルギヤ32のギヤ本体34に設けられた取付プレート77が、スロットルシャフト20の軸端部に嵌合されかつねじ止め、かしめ、接着等の取付手段を介して一体的に固定される。その後、スロットルボデー12に対して、制御用モータ40、カウンタシャフト45、カウンタギヤ47等が組付けられた後、スロットルボデー12にギヤカバー30が装着される(図1参照)。
【0024】
前記スロットル装置10において、エンジンが始動されると、電子制御装置(ECU)によって制御用モータ40が駆動制御される。これにより、制御用モータ40の出力回転軸41の回転力が、ピニオンギヤ43からカウンタギヤ47を介してスロットルギヤ32に伝達されることで、スロットルシャフト20及びスロットルバルブ25が回転される。その結果、スロットルボデー12の吸気通路14を流れる吸入空気量が調整される。このとき、オープナ開度以上の開度領域では、コイルスプリング54のオープナスプリング部64の付勢によりU字フック70がU字フック掛止部76に係合した状態で、スロットルギヤ32がリターンスプリング部62の付勢に抗して回転される。また、オープナ開度以下の開度領域では、前記スロットルボデー12のギヤハウジング部27内に設けられているオープナ位置ストッパ78に、コイルスプリング54のU字フック70が当接し、それより閉方向への移動が阻止される。このため、スロットルギヤ32がオープナスプリング部64の付勢に抗して回転される。このとき、U字フック70がスロットルギヤ32のU字フック掛止部76から相対的に開方向側(図3において右方)へ移動される。また、エンジン停止時、故障等における制御用モータ40の非通電時には、コイルスプリング54のオープナスプリング部64の付勢によりU字フック70がスロットルギヤ32のU字フック掛止部76に係合されるとともに、リターンスプリング部62の付勢によりU字フック70がオープナ位置ストッパ78に当接される。これによって、スロットルギヤ32がオープナ開度に保持される。
【0025】
次に、前記スロットルギヤ32について説明する。なお、図5はスロットルギヤを示す側面図、図6は同じく上面図、図7は同じく下面図、図8は図7のA−A線矢視断面図、図9は図6のB−B線矢視断面図、図12は図6のC−C線矢視断面図である。また、説明の都合上、スロットルギヤ32については、フランジ部57側を上側とし、ギヤ本体34側を下側として説明を行う。
図5〜図7に示すように、スロットルギヤ32は、溶融樹脂を射出成形することにより形成された樹脂製の歯車いわゆる樹脂歯車である。スロットルギヤ32は、円筒状のギヤ本体34と、ギヤ本体34の上端における外周部に環状に形成されたフランジ部57と、フランジ部57の外周部に形成された所定数の歯81を有する有歯部80及び歯を有しない無歯部83とを備える扇形ギヤとなっている。無歯部83は、フランジ部57の外周部に形成された有歯部80を除いた残りの部分に形成されている。また、ギヤ本体34の上部内には、一対の永久磁石36、及び、その永久磁石36によって磁化される一対のヨーク85が周方向に交互に設けられている。また、ギヤ本体34の下端部内には、金属製の円環状の取付プレート77が同心状に設けられている。永久磁石36、ヨーク85及び取付プレート77は、ギヤ本体34にインサート成形により一体化されている。また、ギヤ本体34の上端面には環状の溝部87が同心状に形成されている(図6及び図12参照)。環状の溝部87の内周部は、永久磁石36及びヨーク85の外周面の一部に部分的に面するように形成されている。なお、ギヤ本体34は、本明細書でいう「歯車本体」に相当する。
【0026】
前記スロットルギヤ32のフランジ部57の下面側外周部には、円弧状の掛止壁部89がギヤ本体34と同心状をなすように形成されている(図7参照)。掛止壁部89は、フランジ部57における有歯部80と前記無歯部83との境界部90の径方向内側に形成されている。すなわち、掛止壁部89の周方向の片半部は有歯部80の径方向内側に形成され、残りの片半部は無歯部83の径方向内側に形成されている。掛止壁部89における無歯部83側の片半部に前記S字フック掛止部74が形成されているとともに、該掛止壁部89における有歯部80側の片半部に前記U字フック掛止部76が形成されている(図5参照)。両フック掛止部74,76は、互いに反対方向に開口するU字溝状に形成されている。また、U字フック掛止部76は、掛止壁部89における下半部に形成されている。両フック掛止部74,76を形成するために、フランジ部57の上面には、周方向に延びる円弧状の凹所91が同心状に形成されている(図6参照)。凹所91は、フランジ部57における有歯部80と無歯部83との境界部90の径方向内側に形成されている。また、凹所91における無歯部83側の端部には、S字フック掛止部74の上面が開口されている。すなわち、凹所91における無歯部83側の端部にS字フック掛止部74が形成されている。さらに、フランジ部57には、凹所91における無歯部83側の端面に連続しかつフランジ部57を上下方向に貫通する円弧状の貫通孔93が形成されている(図6及び図7参照)。貫通孔93は、本明細書でいう「距離調整凹部」に相当する。
【0027】
図7に示すように、前記スロットルギヤ32の樹脂成形に際して溶融樹脂が射出される射出ゲート95は、ギヤ本体34の下面において周方向に各組2点の計4点設定されている。各組2点の射出ゲート95は、その間の中間部に永久磁石36をインサート成形するように設定されている。また、各組2点の射出ゲート95は、一円周線上に点対称状に配置されている。また、射出ゲート95は、前記スロットルギヤ32を樹脂成形する成形型100(後述する)に設定されるものであるが、便宜上、図7に二点鎖線95で示されている。
【0028】
次に、前記スロットルギヤ32の樹脂成形にかかる成形型について説明する。なお、図10はスロットルギヤの成形型を示す断面図である。
図10に示すように、成形型100は、例えば、固定型としての上型102と、上型102に対して型締め、型開き可能な可動型としての下型104を備えている。上型102の下面側には、前記スロットルギヤ32(図5〜図7参照)の上面側に対応する形状の成形面106が形成されている。成形面106には、スロットルギヤ32(詳しくはギヤ本体34)の内周面に対応する形状の中子型107が設けられている。中子型107の下端面は前記取付プレート77の上面に面し、その下端面には取付プレート77の中空孔内に嵌合する突起部108が形成されている。また、成形面106には、スロットルギヤ32の環状の溝部87(図6参照)に対応する形状の凸状部109が形成されている。凸状部109は、永久磁石36及びヨーク85(図6参照)の外周面の一部に部分的に当接することにより、両部材36,85を位置決め(すなわち径方向外方への移動を規制)する。また、下型104の上面には、前記スロットルギヤ32の下面側に対応する形状の成形面110が形成されている。成形面110には、スロットルギヤ32(詳しくはギヤ本体34)の下面側の端部の内周面に対応する形状の中子型112が設けられている。中子型112の上端面は、前記取付プレート77及び上型102の中子型107の突起部108の下面と面している。また、下型104には、溶融樹脂を射出する射出ゲート95が設けられている。なお、図示は省略するが、上型102には、U字フック掛止部76を成形するスライド型が設けられている。
【0029】
上型102に下型104及びスライド型が型締めされることによりキャビティ114が形成される。このとき、キャビティ114内には、両永久磁石36、両ヨーク85及び取付プレート77が配置される。そして、成形型100の射出ゲート95からキャビティ114内に溶融樹脂が所定の射出圧力をもって射出される。これにより、スロットルギヤ32が樹脂成形されるとともに、該スロットルギヤ32に両永久磁石36、両ヨーク85及び取付プレート77がインサート成形される。また、射出完了後で、溶融樹脂の硬化後において、下型104及びスライド型が型開きされ、スロットルギヤ32が取出される。
【0030】
次に、前記樹脂成形時における溶融樹脂の流れについて説明する。なお、図11はスロットルギヤの凹所の周辺部における溶融樹脂の流れを示す説明図である。
図11に示すように、スロットルギヤ32の凹所91の周辺部において、該凹所91に近い2点の射出ゲート95から溶融樹脂が射出されることにより、凹所91(貫通孔93を含む)の有歯部80側を迂回する溶融樹脂(「第1の溶融樹脂」という)の流れ(図11中、矢印Y1参照)と、凹所91の無歯部83側を迂回する溶融樹脂(「第2の溶融樹脂」という)の流れ(図11中、矢印Y2参照)との合流により生成されたウェルド部116が無歯部83に形成されている。すなわち、凹所91に連続する貫通孔93が設けられている。これににより、第2の溶融樹脂の流れ(図11中、矢印Y2参照)が射出ゲート95からウェルド部116に達するまでの流動距離が、第1の溶融樹脂の流れ(図11中、矢印Y1参照)が射出ゲート95からウェルド部116に達するまでの流動距離に比べて長くなっている。このため、両溶融樹脂の流れの合流により生成されたウェルド部116が無歯部83に形成されている。なお、図11の矢印Y1,Y2は、溶融樹脂の流れの主流を示している。
【0031】
なお、仮に、貫通孔93がない場合を想定すると、凹所91の無歯部83側を迂回する第2の溶融樹脂の流れ(図11中、矢印Y3参照)が射出ゲート95からウェルド部116に達するまでの流動距離が、第1の溶融樹脂の流れ(図11中、矢印Y1参照)が射出ゲート95からウェルド部116に達するまでの流動距離に比べて短くなってしまうために、ウェルド部116が有歯部80に形成されることなる。すると、有歯部80の歯81の強度及び成形精度の低下を招くという問題があった。しかしながら、前に述べたように、本実施例によると、ウェルド部116が無歯部83に形成されることにより、前記問題を解消することができる。
【0032】
前記したスロットルギヤ32によると、凹所91の有歯部80側を迂回する溶融樹脂の流れ(図11中、矢印Y1参照)と凹所91の無歯部83側を迂回する溶融樹脂の流れ(図11中、矢印Y2参照)との合流により生成されたウェルド部116が無歯部83に形成されたものである。したがって、有歯部80及び無歯部83との境界部90の径方向内側に凹所91を備えるスロットルギヤ32を対象として有歯部80にウェルド部116が形成される場合と異なり、有歯部80の歯81の強度及び成形精度の低下を防止することができる。
【0033】
また、2点の射出ゲート95から射出された溶融樹脂によりウェルド部116が生成されたものである。したがって、それぞれの射出ゲート95からウェルド部116に達するまでの溶融樹脂の流れの流動距離を短縮することができる。
【0034】
また、凹所91の無歯部83側に、溶融樹脂の流れ(図11中、矢印Y2参照)を迂回させるための貫通孔93が形成されたものである。したがって、凹所91の無歯部83側において、射出ゲート95からウェルド部116に達するまでの溶融樹脂の流れ(図11中、矢印Y2参照)の流動距離を延長することができる。このため、第1の溶融樹脂の流れ(図11中、矢印Y1参照)と第2の溶融樹脂の流れ(図11中、矢印Y2参照)との合流により生成されたウェルド部116を無歯部83に形成することができる。
【0035】
また、前記スロットル装置10(図1及び図2参照)によると、スロットルバルブ25を設けたスロットルシャフト20に前記スロットルギヤ32が固定されたスロットル装置10を提供することができる。
【0036】
また、スロットルギヤ32の凹所91に、捩じりコイルスプリング54のS字フック68が掛止される構成としたものである(図4参照)。したがって、スロットルギヤ32の凹所91を利用して捩じりコイルスプリング54のS字フック68を掛止することができる。
【0037】
また、スロットルバルブ25の開度を検出するスロットル開度センサ52の永久磁石36が、ギヤ本体34の周方向に隣り合う射出ゲート95の間の中間部に配置された状態で、スロットルギヤ32にインサート成形されたものである(図7参照)。したがって、永久磁石36に対する両射出ゲート95からそれぞれ射出された溶融樹脂の圧力が均等化されるため、溶融樹脂の圧力差による永久磁石36の位置ずれを防止することができる。
【0038】
[実施例2]
本発明の実施例2を説明する。本実施例は、前記実施例1のスロットルギヤに変更を加えたものであるから、その変更部分について説明し、重複する説明は省略する。図13はスロットルギヤを示す上面図、図14は図13のD−D線矢視断面図である。
図13及び図14に示すように、本実施例のスロットルギヤ(符号、132を付す)は、前記環状の溝部(符号、187を付す)において、前記凹所91の有歯部80側を迂回する側の溝部分(符号、187aを付す)の溝深さを、前記実施例1における溝部187の溝深さよりも浅く設定している。また同じく、前記凹所91の無歯部83側を迂回する側の溝部分(符号、187bを付す)の溝深さを、前記実施例1における溝部187の溝深さよりも深く設定している。したがって、凹所91の無歯部83側を迂回する側の溝部分187bの溝深さに比べて、前記凹所91の有歯部80側を迂回する側の溝部分187aの溝深さを浅くしている。これにより、スロットルギヤ132の樹脂成形時において、凹所91の無歯部83側を迂回する溶融樹脂の流動抵抗に比べて、凹所91の有歯部80側を迂回する溶融樹脂の流動抵抗を小さくしている。なお、環状の溝部187は、本明細書でいう「抵抗調整凹部」に相当する。
【0039】
本実施例のスロットルギヤ132によっても、前記実施例1のスロットルギヤ32と同様の作用・効果を得ることができる。
また、凹所91の無歯部83側を迂回する溶融樹脂の流動抵抗に比べて、凹所91の有歯部80側を迂回する溶融樹脂の流動抵抗を小さくする環状の溝部187が形成されている。したがって、凹所91の無歯部83側を迂回する溶融樹脂の流動速度に比べて、凹所91の有歯部80側を迂回する溶融樹脂の流動速度が速くなる。このため、凹所91の有歯部80側を迂回する溶融樹脂(「第1の溶融樹脂」という)の流れ(図13及び図14中、矢印y1参照)と、凹所91の無歯部83側を迂回する溶融樹脂(「第2の溶融樹脂」という)の流れ(図13及び図14中、矢印y2参照)との合流により生成されたウェルド部(符号、216を付す)を無歯部83に形成することができる。
【0040】
また、環状の溝部187がギヤ本体34の端面に形成される環状の溝部187であり、凹所91の無歯部83側を迂回する側の溝部分187bの溝深さに比べて、凹所91の有歯部80側を迂回する側の溝部分187aの溝深さを浅くしたものである。すなわち、凹所91の無歯部83側を迂回する側の溝部分187bの溝深さが深いため、溶融樹脂が流れる通路断面積が減少し、溶融樹脂の流動抵抗が増大される。逆に、凹所91の有歯部80側を迂回する側の溝部分187aの溝深さが浅いため、溶融樹脂が流れる通路断面積が増大し、溶融樹脂の流動抵抗が低減される。したがって、ギヤ本体34の端面に形成される環状の溝部187を抵抗調整凹部として利用することによって、凹所91の無歯部83側を迂回する溶融樹脂の流動速度に比べて、凹所91の有歯部80側を迂回する溶融樹脂の流動速度を速くすることができる。
【0041】
また、前記スロットルギヤ132の樹脂成形に際して溶融樹脂が射出される射出ゲートは、前記実施例1の4点から2点に変更されている。すなわち、射出ゲート(符号、195を付す)は、ギヤ本体34の下面において周方向に2点設定されている。両射出ゲート195は、その間の中間部に永久磁石36をインサート成形するように設定されている。また、両射出ゲート195は、一円周線上に点対称状に配置されている。また、射出ゲート195は、前記スロットルギヤ132を樹脂成形する成形型100(図10参照)に設定されるものであるが、便宜上、図13及び図14に二点鎖線195で示されている。
【0042】
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本発明の樹脂歯車は、スロットルギヤ32,132に限定されるものではなく、有歯部80及び無歯部83を備えた歯車全般に適用することができる。また、前記実施例では、スロットルギヤ32の凹所91に連続する距離調整凹部(貫通孔93)を設けることにより無歯部83にウェルド部116を形成したが、射出ゲート95の位置の設定によって、無歯部83にウェルド部116を形成することにより距離調整凹部(貫通孔93)を省略することもできる。また、スロットルギヤ32の凹所91を迂回する射出ゲート95を複数設定する場合には、第1の溶融樹脂の射出速度及び第2の溶融樹脂の射出速度の設定によって無歯部83にウェルド部116を形成することもできる。また、スロットルギヤ32の凹所91を迂回する射出ゲート95は、2点に限らず、1点あるいは3点以上設定することもできる。また、距離調整凹部は、貫通孔93に限らず、凹溝によって形成することもできる。また、距離調整凹部は、凹所91と連続させるもの限らず、凹所91に対して独立的に形成することもできる。また、スロットルギヤ32,132の凹所91には、コイルスプリング54のフック68は、S字状以外の形状、例えばI字状、U字状に形成してもよい。また、コイルスプリング54は、前記実施例のようにリターンスプリング部62とオープナスプリング部64とを一本のばね線材により形成したものに限らず、各スプリング部62,64毎に個別に形成された2つのコイルスプリング54の組合せによって構成してもよい。また、前記実施例2(図13参照)におけるスロットルギヤ132の距離調整凹部(貫通孔93)は省略することもできる。
【符号の説明】
【0043】
10…スロットル装置
12…スロットルボデー
14…吸気通路
20…スロットルシャフト
25…スロットルバルブ
32…スロットルギヤ(樹脂歯車)
34…ギヤ本体(歯車本体)
36…永久磁石
40…制御用モータ(電動式アクチュエータ)
48…減速ギヤ機構
52…スロットル開度センサ
54…コイルスプリング(捩じりコイルスプリング)
68…S字フック(フック)
80…有歯部
81…歯
83…無歯部
90…境界部
91…凹所
93…貫通孔(距離調整凹部)
95…射出ゲート
116…ウェルド部
132…スロットルギヤ(樹脂歯車)
187…環状の溝部(抵抗調整凹部)
216…ウェルド部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車本体の外周部に歯を有する有歯部及び歯を有しない無歯部と、
前記有歯部と前記無歯部との境界部の径方向内側に形成された凹所と
を備え、
前記歯車本体側に設定された射出ゲートから射出された溶融樹脂により形成された樹脂歯車であって、
前記凹所の有歯部側を迂回する溶融樹脂の流れと該凹所の無歯部側を迂回する溶融樹脂の流れとの合流により生成されたウェルド部が前記無歯部に形成されたことを特徴とする樹脂歯車。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂歯車であって、
複数の射出ゲートから射出された溶融樹脂により前記ウェルド部が生成されたことを特徴とする樹脂歯車。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂歯車であって、
前記凹所の無歯部側に、前記溶融樹脂の流れを迂回させるための距離調整凹部が形成されたことを特徴とする樹脂歯車。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の樹脂歯車であって、
前記凹所の無歯部側を迂回する溶融樹脂の流動抵抗に比べて、前記凹所の有歯部側を迂回する溶融樹脂の流動抵抗を小さくする抵抗調整凹部が形成されたことを特徴とする樹脂歯車。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂歯車であって、
前記抵抗調整凹部は、前記歯車本体の端面に形成される環状の溝部であり、
前記凹所の無歯部側を迂回する側の溝部分の溝深さに比べて、前記凹所の有歯部側を迂回する側の溝部分の溝深さを浅くしたことを特徴とする樹脂歯車。
【請求項6】
吸気通路を有するスロットルボデーと、
前記スロットルボデーに回転可能に支持されたスロットルシャフトに設けられかつ回動により前記吸気通路を開閉するスロットルバルブと、
前記スロットルシャフトに固定されたスロットルギヤを含む減速ギヤ機構を介して該スロットルシャフトを開閉駆動する電動式アクチュエータと、
前記スロットルギヤを付勢する捩じりコイルスプリングと
を備えるスロットル装置であって、
前記スロットルギヤが請求項1〜5のいずれか1つに記載の樹脂歯車であることを特徴とするスロットル装置。
【請求項7】
請求項6に記載のスロットル装置であって、
前記スロットルギヤの凹所に、前記捩じりコイルスプリングのフックが掛止される構成としたことを特徴とするスロットル装置。
【請求項8】
請求項8又は7に記載されたスロットル装置であって、
前記スロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサの永久磁石が、前記歯車本体の周方向に隣り合う射出ゲートの間の中間部に配置された状態で、前記スロットルギヤにインサート成形されたことを特徴とするスロットル装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−52811(P2011−52811A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204737(P2009−204737)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】