説明

樹脂皮膜の製造方法および樹脂皮膜で表面を被覆したアクリル系合成樹脂板の製造方法

【課題】紫外線照射により重合硬化させた樹脂皮膜の物性の均一化、安定化による、高品質な樹脂皮膜で表面が被覆されたアクリル系合成樹脂板の製造方法を提供する。
【解決手段】
重合性化合物および光重合開始剤を含む樹脂皮膜原料からなる薄膜に、紫外線を照射して重合硬化させる樹脂皮膜の製造方法において、紫外線照射装置に配設した円筒状の紫外線照射ランプの長さ方向を前記薄膜面と平行に配置し、且つ前記紫外線照射ランプを3本以上並列に配置し、さらに前記紫外線照射ランプから薄膜に対して照射される紫外線の積算光量に関して、薄膜上の任意の箇所で測定される該紫外線の積算光量の最大値が該積算光量の最小値の110%以下となるように前記紫外線照射ランプを配置して、紫外線を照射し薄膜を重合硬化させ樹脂皮膜を形成させる樹脂皮膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の紫外線照射ランプを適切に配置した紫外線照射装置を用いて、重合硬化させることで、品質の高い樹脂皮膜で表面が被覆されたアクリル系合成樹脂板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系合成樹脂板の表面を樹脂皮膜で被覆し、耐擦傷性、耐薬品性や帯電防止などの優れた表面特性を付与したアクリル系合成樹脂板の製造方法については従来から鋭意研究が行われている。中でも、樹脂皮膜原料の紫外線照射による重合硬化は、熱による重合硬化に比べて必要とする設備が簡便となること、重合硬化に要する時間が短くてすむために生産性が高いこと、さらには重合硬化に必要なエネルギーが少なくてすみ、省エネルギーでの生産が可能となることなどから魅力的な手法としてよく用いられている。
【0003】
一方で、紫外線照射により重合硬化を行う場合、塗布した樹脂皮膜原料に対して照射する積算光量にムラがあると、樹脂皮膜層の重合率や架橋が不均一となり、樹脂皮膜層の物理的特性、及び光学的特性の不均一化等の原因となりうる。
【0004】
このように、紫外線照射により重合硬化を行う際、塗布した樹脂皮膜原料に対する照射する積算光量にムラをなくすことは極めて重要である。紫外線照射装置を用いて、樹脂皮膜原料を重合硬化させる方法については、以前より知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。しかし、いずれの文献においても塗布した樹脂皮膜原料に対する照射する積算光量のムラをなくす方法については、何ら言及されていない。
【特許文献1】特公昭60−25253号公報
【特許文献2】特開平4−290707号公報
【特許文献3】特開平4−292638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、紫外線照射により樹脂皮膜原料を重合硬化させて樹脂皮膜を形成させる樹脂皮膜の製造方法において、樹脂皮膜原料を塗布した面に対して、ムラなく光照射を行うことは極めて重要であるにも関わらず、これまでに報告されていない。本発明の目的は、複数の紫外線照射ランプを並列に並べた紫外線照射装置を用いて、ムラのない光照射を実現し、樹脂皮膜の重合率や架橋の度合いが不均一になる等の品質問題を解消し、樹脂皮膜の物理的特性、及び光学的特性を安定化させることで高品質な樹脂皮膜で表面が被覆されたアクリル系合成樹脂板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は、重合性化合物および光重合開始剤を含む樹脂皮膜原料からなる薄膜に、紫外線を照射して重合硬化させる樹脂皮膜の製造方法において、紫外線照射装置に配設した円筒状の紫外線照射ランプの長さ方向を前記薄膜面と平行に配置し、且つ前記紫外線照射ランプを3本以上並列に配置し、さらに前記紫外線照射ランプから薄膜に対して照射される紫外線の積算光量に関して、薄膜上の任意の箇所で測定される該紫外線の積算光量の最大値が該積算光量の最小値の110%以下となるように前記紫外線照射ランプを配置して、紫外線を照射し薄膜を重合硬化させ樹脂皮膜を形成させることを特徴とする樹脂皮膜の製造方法にある。
【0007】
紫外線照射装置の中央部にある紫外線照射ランプと薄膜の距離が、紫外線照射装置の両端部にある紫外線照射ランプと薄膜の距離よりも長く、かつ中央部から端部に向かってi番目の紫外線照射ランプと薄膜の距離L(i=1〜N、紫外線照射ランプの総数は、偶数の場合、2N、奇数の場合、2N+1)が、L≧Li+1となる紫外線照射装置を用いることが好ましい。
【0008】
紫外線照射装置において中央部から端部に向かってi番目(i=1〜N)の紫外線照射ランプから薄膜面に引いた垂線と薄膜面の交点と、紫外線照射装置の中心から薄膜面に引いた垂線と薄膜面の交点との距離をDとしたとき、式(1)、式(2)、式(3)を同時に満たす範囲内にD、Lが含まれることがより好ましい。
【0009】
0.13<L/D<1 (1)
/D>(L/D−0.175)×(−0.6× (D/D) +1) (2)
/D<(L/D+0.175)×(−0.6× (D/D) +1) (3)
また本発明の要旨は、樹脂皮膜原料をアクリル系合成樹脂板表面に塗布して薄膜とし、その上に有機高分子フィルムを密着させ、前記方法により樹脂皮膜とした後、前記有機高分子フィルムを剥離する、樹脂皮膜で表面を被覆したアクリル系合成樹脂板の製造方法にある。
【0010】
さらに本発明の要旨は、樹脂皮膜原料を鋳型表面に塗布して薄膜とし、その上に有機高分子フィルムを密着させ、前記方法により樹脂皮膜とした後、前記有機高分子フィルムを剥離し、前記鋳型内にアクリル系合成樹脂原料を注入し重合硬化させた後、前記鋳型から剥がす、樹脂皮膜で表面を被覆したアクリル系合成樹脂板の製造方法にある。
【0011】
前記鋳型として、相対して同方向へ同一速度で走行する一対のエンドレスベルトを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、複数の紫外線照射ランプを用いた紫外線照射装置を用いて、樹脂皮膜原料に対して照射される紫外線の積算光量を均一とし、重合硬化させることで、高品質な樹脂皮膜で表面が被覆されたアクリル系合成樹脂板の製造方法を提供できることにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0014】
本発明は、重合性化合物および光重合開始剤を含む樹脂皮膜原料からなる薄膜を、紫外線照射装置に配設した円筒状の紫外線照射ランプによって紫外線を照射して重合硬化させる樹脂皮膜の製造方法およびこの樹脂皮膜で表面を被覆したアクリル系合成樹脂板の製造方法である。
【0015】
紫外線照射装置に配設した円筒状の紫外線照射ランプは、その長さ方向を前記薄膜面と平行に配置し、且つ前記紫外線照射ランプを3本以上並列に配置し、さらに前記紫外線照射ランプから薄膜に対して照射される紫外線の積算光量に関して、薄膜上の任意の箇所で測定される該紫外線の積算光量の最大値が該積算光量の最小値の110%以下となるように配置する。
【0016】
紫外線照射装置において、従来から行われているように薄膜面と平行に等間隔で、且つ薄膜からの距離が等しくなるように全ての紫外線照射ランプを配置した場合、薄膜の端部に近づく程、照射される紫外線の積算光量は小さくなり、不均一となる。これは、光は照射距離の2乗に比例して減衰するため、薄膜の端部に近づく程、薄膜と近距離にあるランプの数が減るからである。薄膜の前面に亘って均一、すなわち薄膜上の任意の箇所で測定される該紫外線の積算光量の最大値が該紫外線の積算光量の最小値の110%以下となるようにするには、例えば、紫外線照射装置の中央部にある紫外線照射ランプと薄膜の距離を、紫外線照射装置の端部にある紫外線照射ランプと薄膜の距離よりも長くすることが挙げられる。その場合、中心からi番目の紫外線照射ランプと薄膜の距離L (i=1〜N)を、L≧Li+1とすることが好ましい。ここで紫外線照射ランプの総数については、偶数の場合、2Nであり、奇数の場合、紫外線照射装置の中央部にある紫外線照射ランプの両隣の紫外線照射ランプを1番目とすると、2N+1である。
【0017】
各紫外線照射ランプの配置を調整して積算光量の実測を繰り返した結果、以下の経験式を見出した。すなわち紫外線照射装置の中央部からi番目(i=1〜N)の紫外線照射ランプから薄膜のなす面に引いた垂線と薄膜のなす面の交点と、紫外線照射装置の中心から薄膜に引いた垂線と薄膜のなす面の交点との距離をDとしたとき、式(1)、式(2)、式(3)を同時に満たす範囲内にD、Lが含まれるようにすることがさらに好ましい。
【0018】
0.13<L/D<1 (1)
/D>(L/D−0.175)×(−0.6× (D/D) +1) (2)
/D<(L/D+0.175)×(−0.6× (D/D) +1) (3)
前記の式(1)〜(3)は、各紫外線照射ランプの配置を調整して積算光量の実測を繰り返した結果、得られた経験式である。なお、積算光量の測定は、フォトメーター等、市販の測定器を用いることができる。
【0019】
本発明においては、紫外線照射装置におけるL、Dが0.13<L/D<1の範囲内で決まれば、D、L で規定されるi番目の紫外線照射ランプの配置すべき範囲が決められる。一例として、図1にL/D=0.495となるときのD/D、 L/Dのとるべき範囲を示した。この場合、図1に示したように式(2)、(3)で表される2本の放物線で囲まれた領域に、D/D、 L/Dが含まれ、かつL≧Li+1(i=1〜N)となるようにD、Lを規定することで、紫外線照射ランプの配置すべき範囲が決まる。
【0020】
紫外線照射装置において、L/Dが1以上になるように、紫外線照射ランプを配置すると、紫外線照射ランプから発せられた紫外線のエネルギーが樹脂皮膜を塗布した面に到達するまでにかなり減衰するため、エネルギー的に無駄が多い。また、この場合紫外線照射装置自体が大きくなってしまうため、装置的にも不利である。これらの理由から、L/Dは1より小さく取ることが好ましい。また、紫外線照射ランプを薄膜Aに近づけて配置するほど、つまりL/Dが小さくなるように配置するほど、エネルギー的には無駄が少なくなり、紫外線照射装置も小型化できる。しかし、L/Dが0.13以下になると、薄膜において、紫外線照射ランプの真下にある部分に照射される積算光量が、隣りあった2本の紫外線照射ランプ中間部分の真下にある部分に照射される積算光量に比べて強くなってしまい、薄膜に照射される紫外線の積算光量にムラができてしまう。これらのことから、0.13<L/D<1とすることが好ましい。
【0021】
本発明において、樹脂皮膜原料として用いられる重合性化合物としては、特に制限はされないが、架橋重合性化合物や非架橋重合性化合物等があげられる。例えば、架橋重合性化合物としては、少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を含み、これらの基が好ましくは脂肪族炭化水素基又はその誘導体からなる残基(例えばエーテル結合で結ばれた飽和脂肪族炭化水素基)で結合されている化合物である。これらの化合物の主な例としては多価アルコールと(メタ)アクリル酸又はそれらの誘導体から得られるエステル化物、或いは多価アルコールと多価カルボン酸と(メタ)アクリル酸又はそれらの誘導体から得られるエステル化物である。ここで、「(メタ)アクリ」とは、「メタクリ」あるいは「アクリ」のことをいう。
【0022】
多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、平均分子量が約300〜約1000のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール)、2−エチルヘキシル−1,3−ヘキサンジオール、2,2’−チオジエタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の2価アルコール、トリメチロールプロパン(1,1,1−トリメチロールプロパン)、ペンタグリセロール(1,1,1−トリメチロールエタン)、グリセロール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサトリオール等の3価アルコール、その他ペンタエリスリトール(2,2−ビスヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)、ジグリセロール、ジペンタエリスリトール等である。
【0023】
これらと(メタ)アクリル酸から得られる好ましい架橋重合性化合物としては、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタグリセロールトリアクリレート等を挙げることができる。
【0024】
また多価アルコールと多価カルボン酸と(メタ)アクリル酸もしくはそれらの誘導体とから得られる架橋重合性化合物は、基本的には多価アルコールのヒドロキシル基と多価カルボン酸及び(メタ)アクリル酸両者のカルボキシル基とが最終的には当量となるような混合物を反応させることによって得られる。
【0025】
好ましい架橋重合性化合物としては、多価アルコールとして2価のアルコール又は3価のアルコール又は2価のアルコールと3価のアルコールの混合物を用い、多価カルボン酸として2価カルボン酸を用いて得られたエステル化合物があげられる。3価のアルコールと2価のアルコールの混合物を用いる場合、3価のアルコールと2価のアルコールとのモル比は任意に選ぶことができる。また、2価カルボン酸と(メタ)アクリル酸とのモル比は、2価カルボン酸のカルボキシル基と(メタ)アクリル酸のカルボキシル基との当量比が2:1〜0:1の範囲であることが好ましい。2価カルボン酸のカルボキシル基と(メタ)アクリル酸のカルボキシル基との当量比が上記の範囲内にあると、生成するエステルの粘度が高くなることはなく塗膜の形成は容易になる。
【0026】
2価カルボン酸としては、例えばコハク酸、アジピン酸、セジシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、3,6−エンドメチレンテトラヒドロフタル酸などの脂環族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、チオジグリコール酸、チオジバレリン酸、ジグリコール酸あるいはマレイン酸、フタル酸、イタコン酸などまたはこれらの塩化物、無水物及びエステルを用いることができる。
【0027】
本発明に用いることができる非架橋重合性化合物としては、例えば(メタ)アクリル酸またはそれらのエステル、アクリルニトリル、メタアクリルニトリル、スチレン及びその誘導体の如きモノエチレン系不飽和化合物を挙げることができる。
【0028】
前記の架橋重合性化合物と非架橋重合性化合物を混合して用いることも可能である。
【0029】
樹脂皮膜原料に混合して使用される光重合開始剤は、光照射により活性化してラジカルを発生する化合物であり、例えばベンゾインエーテル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、チオキサントン系化合物等が使用可能で、これらの化合物1種だけでなく、2種以上を組み合わせて用いることも可能である。光重合開始剤は樹脂皮膜原料100質量部に対して、0.1〜20質量部添加することが好ましく、0.5〜10質量部添加することがより好ましい。添加する光重合開始剤の量が0.1質量部以上の場合には皮膜の硬化速度が速くなることから、硬化に必要な紫外線の積算光量が過大となることはない。一方、光重合開始剤の量が20質量部以下の場合には形成させた皮膜の耐候性が向上し、又耐擦傷性が向上する。
【0030】
本発明に用いるアクリル系合成樹脂板の基材原料としては、特に限定するものではないが、例えばメタアクリル酸アルキルエステル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びそれらの混合物を主成分とする常圧で液状鋳込み重合可能な単量体、またはこれら単量体とその一部重合体との混合物があげられる。これらは単独でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。また他の重合体との混合物として使用してもよい。原料として使用する単量体としてはアクリル酸、メタクリル酸、スチレン及びそれらの誘導体が好ましい。特にメチルメタクリレート単独またはメチルメタクリレートを少なくとも50重量%含む単量体混合物、あるいはそれらの部分重合体は最も好ましい原料である。
【0031】
樹脂皮膜原料をアクリル系合成樹脂板表面に塗布して薄膜とし、その上に有機高分子フィルムを密着させ、前記の方法により紫外線を照射して樹脂皮膜とした後、前記有機高分子フィルムを剥離することにより、樹脂皮膜で表面を被覆したアクリル系合成樹脂板を製造することができる。
【0032】
また樹脂皮膜原料を鋳型表面に塗布して薄膜とし、その上に有機高分子フィルムを密着させ、前記の方法により紫外線を照射して樹脂皮膜とした後、前記有機高分子フィルムを剥離し、前記鋳型内にアクリル系合成樹脂原料を注入し重合硬化させた後、前記鋳型から剥がすことにより、樹脂皮膜で表面を被覆したアクリル系合成樹脂板を製造することができる。すなわち、セルキャスト法や連続製板法等、公知の注型重合法に適用できる。
【0033】
前記樹脂皮膜で表面を被覆したアクリル系合成樹脂板の製造方法においては、まず樹脂皮膜原料をガラスあるいは鏡面仕上げされた金属板等の鋳型の表面、及び/または基材である合成樹脂板表面に塗布し、その塗布した鋳型及び/または合成樹脂板の面どうしを、サイドイッチ状に押し付けた状態で、重合硬化せしめるものである。樹脂皮膜原料を鋳型及び/または合成樹脂板表面に塗布する方法としては、ローラーコーティング法、バーコート法、噴霧コート法、エアーナイフコート法、ディッピング法等が挙げられるが、特にいずれかに限定されるものではない。このうち、ロールコート法は皮膜原料の塗布幅の精度制御が容易であることから、より好ましい塗布方法としてあげられる。
【0034】
樹脂皮膜を形成させる場合、樹脂皮膜原料を鋳型及び/または、合成樹脂板表面に塗布して薄膜とし、その上にカバー体として、樹脂皮膜と親和性のない有機高分子フィルムを密着させて空気中の酸素を遮断した上で樹脂皮膜原料を重合硬化させて樹脂皮膜とした後、有機高分子フィルムのみを剥離し、樹脂皮膜をつくることが好ましい。カバー体として用いる有機高分子フィルムとしては、ポリエステル、ポリプロピレン、防湿セロファン、セロファン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール等のフィルムを用いることが好ましい。
【0035】
本発明において、表面を樹脂皮膜で被覆されたアクリル系合成樹脂板の製造する装置として特に限定はないが、生産性を向上させるためには、鋳型として相対して同方向へ同一速度で走行する一対のエンドレスベルトを用いることが好ましい。すなわち、まず紫外線照射ランプの長さ方向をエンドレスベルトの流れ方向と平行に配置し、且つ前述したように紫外線照射ランプを配置してエンドレスベルト上の薄膜面を形成する箇所の積算光量を調整した紫外線照射装置とする。次に樹脂皮膜原料をエンドレスベルト表面に塗布して薄膜とし、その上に有機高分子フィルムを密着させ、前記紫外線照射装置を用いて紫外線を照射してエンドレスベルト上で重合硬化させて樹脂皮膜とした後、前記有機高分子フィルムを剥離する。そして前記一対のエンドレスベルトで形成される鋳型内にアクリル系合成樹脂原料を注入し重合硬化させた後、エンドレスベルトから剥がすことにより、樹脂皮膜で表面を被覆したアクリル系合成樹脂板を製造することができる。
【0036】
紫外線照射ランプとしては、例えば蛍光ケミカルランプ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、アーク灯、キセノン灯等がある。
【0037】
紫外線照射ランプの長さは特に限定しないが、照射される紫外線のエネルギーと紫外線照射ランプにかかるコストを考慮すると、管長400mm〜1200mm、管径25mm〜35mmであることが望ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものではない。なお、以下の記載において「部」は質量基準である。また樹脂皮膜の硬度は、JIS K5600−5−4塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第4節:引っかき硬度(鉛筆法)に準拠して測定した。以下、引っかき硬度(鉛筆法)を「鉛筆硬度」という。紫外線の積算光量は、インターナショナルライト社製IL390Cを用いて測定した。
【0039】
[実施例1]
トリメチロールエタン/コハク酸/アクリル酸をモル比2/1/4で縮合した化合物50部(質量部、以下同じ)と1,6−ヘキサンジオールジアクリレート50部を用い、これに光開始剤としてベンゾインメチルエーテル1.5部を混合した樹脂皮膜原料を調製し、1000mm×1500mmの大きさを有するステンレス鋼板(以下、「SUS板」という。)の鏡面上に前記樹脂皮膜原料を塗布した。ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下「PETフィルム」という。)を、この塗布した樹脂皮膜原料の上に、気泡を含まないように被せ、ゴムロールを用いて過剰な樹脂皮膜原料をしごき出しながら樹脂皮膜原料の厚さ30μmの薄膜Aとした。次いで、管長1198mmの40ワット蛍光ケミカルランプ(東芝ライテック(株)製FL40S−BL)が22本、75mmの取り付け間隔で、樹脂皮膜原料からなる薄膜Aからの高さが紫外線照射装置の中央部から両端部に向かって、390mm,390mm,380mm,380mm,370mm,370mm,360mm,320mm,270mm,220mm,140mmとなるように配置された紫外線照射装置の下に、前記SUS板の1000mm長さを有する辺を紫外線照射ランプの長さ方向と平行にし、かつ紫外線照射装置の中央部とSUS板の中心部が一致するようにSUS板を配置し、全ての紫外線照射ランプを65秒間点灯させることで、樹脂皮膜原料を重合硬化させ、PETフィルムのみを樹脂皮膜から剥離することで、SUS板上に樹脂皮膜を得た。
【0040】
得られた樹脂皮膜の鉛筆硬度を、樹脂皮膜の1000mmの長さを有する辺について中心部で、1500mmの長さを有する辺について中心部と中心部から端部に向かって、左右に100mm,200mm,300mm,400mm,500mm,600mm,700mmの地点について測定した。鉛筆硬度の測定結果を表1に示し、紫外線照射装置の中央部からの各地点における紫外線の積算光量の測定結果を表2に示す。
【表1】

【表2】

【0041】
[実施例2]
樹脂製皮膜原料として、トリメチロールエタントリアクリレート50部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート50部、ベンゾインエチルエーテル1部を用いた以外は実施例1と同様にして得た樹脂製皮膜について、実施例1と同様にして樹脂皮膜の鉛筆硬度を測定した。その結果を表1に示す。
【0042】
[実施例3]
鏡面を有する1500mm×1200mmの大きさを有するSUS板を用いた以外は実施例1と同様にして、樹脂皮膜原料を塗布したPETフィルムを被覆したSUS板を紫外線照射装置の下を、SUS板の1200mm長さを有する辺を紫外線照射ランプの長さ方向と平行にし、かつ1500mmの長さを有する辺の中心部と紫外線照射装置において紫外線照射ランプの長さ方向と垂直をなす辺の中心部を一致させて、紫外線照射ランプの長さ方向に沿ってSUS板を1.0m/minのスピードで通過させることで、樹脂皮膜原料からなる薄膜Aを重合硬化させて樹脂皮膜とした後、PETフィルムのみを樹脂皮膜から剥離することで、SUS板上に樹脂皮膜を得た。
【0043】
得られた樹脂皮膜の鉛筆硬度を、樹脂皮膜の1200mmの長さを有する辺について中心部で、1500mmの長さを有する辺について中心部から0mm、左右に100mm,200mm,300mm,400mm,500mm,600mm,700mmの地点について測定した。その結果を表1、表2に示す。
【0044】
[実施例4]
紫外線照射装置において、管長580mmの20ワット蛍光ケミカルランプ(東芝ライテック(株)製FL20S−BL)22本を樹脂皮膜原料からの高さが紫外線照射装置の中央部から両端部に向かって、180mm,180mm,180mm180mm,170mm,160mm,150mm,140mm,130mm,100mm,70mmとなるように配置したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂皮膜を得た。この時の樹脂皮膜の鉛筆硬度を実施例1と同様にして測定した。その結果を表1、表2に示す。
【0045】
[実施例5]
実施例1と同じくして形成した樹脂皮膜に覆われたSUS板を樹脂皮膜が内側になるようにし、樹脂皮膜に覆われていないもう一枚のSUS板と対向させ、周囲を軟質ポリ塩化ビニル製のガスケットで封じて作った空間内に、メチルメタクリレートモノマー77部に平均重合度約1800のメチルメタクリレートポリマー23部を溶解し、さらに重合開始剤としてアゾビスジメチルバレロニトリル0.065部よりなる基材樹脂原料を注入し、対向するSUS板との間隔を2mmに調整し、80℃の水浴中で1時間、次いで130℃の空気炉中に一時間静置することで、重合をおこなった。その後、これを冷却し、基材樹脂板をSUS板から剥離させたところ、SUS板を覆っていた樹脂皮膜が基材樹脂板の表面に転写され、表面を樹脂皮膜で覆われたアクリル系合成樹脂板を得た。
【0046】
この樹脂皮膜で覆われたアクリル系合成樹脂について、鉛筆硬度を、樹脂皮膜で覆われたアクリル系合成樹脂の1000mmの長さを有する辺について中心部で、1500mmの長さを有する辺について中心部と中心部から端部に向かって、左右に100mm,200mm,300mm,400mm,500mm,600mm,700mmの地点について測定した。その結果を表1、表2に示す。
【0047】
[実施例6]
鏡面仕上げされた厚さ1mm、幅1500mm のステンレス鋼製エンドレスベルトを上下平行に同一方向に1.0m/minの速度で走行させ、上側ベルトは、樹脂板を取り出した後の基材樹脂原料供給部へのもどりの水平区間で、また下側ベルトは、前記延長部の水平区間において、それぞれ樹脂皮膜形成装置を設置した。
【0048】
実施例1に記載の樹脂皮膜原料を上側ベルトは、樹脂板を取り出した後の基材樹脂原料供給部へのもどりの水平区間で、また下側ベルトは、前記延長部の水平区間において、定量ポンプにより各ベルト面に滴下し、その上にポリエチレンテレフタレートフィルム(以下PETフィルム)をプレスローラによりベルトの走行速度と同じ速度で密着し、フィルムとベルトの間に気泡が残らないように樹脂皮膜原料の厚みが30μmになるように均一に塗布した。PETフィルムは巻き出しロールによって連続的に供給した。フィルムで密着された状態で、ベルトは、紫外線照射ランプの長さ方向とベルトの走行方向とが平行になるように設置した実施例1と同様の紫外線照射装置を通過し、その間に塗布した樹脂皮膜原料の薄膜が重合硬化し樹脂皮膜が得られた。
【0049】
その後、PETフィルムのみを剥離して巻き取りロールに巻き取り、硬化皮膜のみをベルト面に残した。皮膜処理されたベルト面間両側辺部のシールのためポリ塩化ビニル製中空パイプをガスケットとして、2本のガスケットと上下2枚のエンドレスベルトにより形成された空間内に、メチルメタクリレートモノマー77部に平均重合度約1800のメチルメタクリレートポリマー23部を溶解し、さらに重合開始剤としてアゾビスジメチルバレロニトリル0.065部を添加した基材樹脂原料を定量ポンプにより注入装置を通じて供給した。これを赤外線ヒーター及び熱風炉で約120℃に加熱した。冷却後、ベルトから厚さ3mmの樹脂板を剥離すると、樹脂皮膜は完全に基材樹脂の方に移行し、表面が樹脂皮膜により被覆された樹脂板が連続的に得られた。
【0050】
得られた樹脂皮膜の鉛筆硬度を、ステンレス鋼製ベルトの幅方向について、中心部と中心部から端部に向かって、左右に100mm,200mm,300mm,400mm,500mm,600mm,700mmの地点について測定した。その結果を表3に示す。
【表3】

【0051】
[比較例1]
紫外線照射装置において、管長1198mmの40ワット蛍光ケミカルランプ(東芝ライテック(株)製FL40S−BL)22本を樹脂皮膜原料からの高さが紫外線照射装置の中央部から両端部に向かって、250mm,250mm,250mm,250mm,250mm,250mm,250mm,250mm,250mm,250mm,250mmとなるように配置したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂製皮膜を得た。この時の樹脂製皮膜の鉛筆硬度を実施例1と同様にして測定した。その結果を表2、表3に示す。
【0052】
[比較例2]
紫外線照射装置において、管長436mmの15ワット蛍光ケミカルランプ(東芝ライテック(株)製FL15BL−A)22本をSUS板からの高さが紫外線照射装置の中央部から両端部に向かって、70mm,70mm,70mm,70mm,70mm,60mm,60mm,50mm,50mm,40mm,40mmとなるように配置したこと、紫外線照射ランプの照射時間を45秒としたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂皮膜を得た。この時の樹脂皮膜の鉛筆硬度を実施例1と同様にして測定した。その結果を表2、表3に示す。
【0053】
[比較例3]
紫外線照射装置において、管長1198mmの40ワット蛍光ケミカルランプ(東芝ライテック(株)製FL40S−BL)22本を樹脂皮膜原料からの高さが紫外線照射装置の中央部から両端部に向かって、800mm,800mm,800mm,800mm,800mm,800mm,800m,800mm,800mm,800mm,800mmとなるように配置したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂皮膜を得た。この時の樹脂皮膜の鉛筆硬度を実施例1と同様にして測定した。その結果を表2、表3に示す。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によって、適切な高さで配置した複数の紫外線照射ランプを有する紫外線照射装置を用いて、樹脂皮膜原料を重合硬化させることで、高品質な樹脂皮膜で表面が被覆されたアクリル系合成樹脂板を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】L/D=0.495の場合のD/D、L/Dのとるべき範囲を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物および光重合開始剤を含む樹脂皮膜原料からなる薄膜に、紫外線を照射して重合硬化させる樹脂皮膜の製造方法において、紫外線照射装置に配設した円筒状の紫外線照射ランプの長さ方向を前記薄膜面と平行に配置し、且つ前記紫外線照射ランプを3本以上並列に配置し、さらに前記紫外線照射ランプから薄膜に対して照射される紫外線の積算光量に関して、薄膜上の任意の箇所で測定される該紫外線の積算光量の最大値が該積算光量の最小値の110%以下となるように前記紫外線照射ランプを配置して、紫外線を照射し薄膜を重合硬化させ樹脂皮膜を形成させることを特徴とする樹脂皮膜の製造方法。
【請求項2】
紫外線照射装置の中央部にある紫外線照射ランプと薄膜の距離が、紫外線照射装置の両端部にある紫外線照射ランプと薄膜の距離よりも長く、かつ中央部から端部に向かってi番目の紫外線照射ランプと薄膜の距離L(i=1〜N、紫外線照射ランプの総数は、偶数の場合、2N、奇数の場合、2N+1)が、L≧Li+1となる紫外線照射装置を用いる請求項1に記載の樹脂皮膜の製造方法。
【請求項3】
紫外線照射装置の中央部から端部に向かってi番目(i=1〜N)の紫外線照射ランプから薄膜面に引いた垂線と薄膜面の交点と、紫外線照射装置の中心から薄膜面に引いた垂線と薄膜面の交点との距離をDとしたとき、式(1)、式(2)、式(3)を同時に満たす範囲内にD、Lが含まれる請求項2に記載の樹脂皮膜の製造方法。
0.13<L/D<1 (1)
/D>(L/D−0.175)×(−0.6× (D/D) +1) (2)
/D<(L/D+0.175)×(−0.6× (D/D) +1) (3)
【請求項4】
樹脂皮膜原料をアクリル系合成樹脂板表面に塗布して薄膜とし、その上に有機高分子フィルムを密着させ、請求項1〜3のいずれかに記載の方法により樹脂皮膜とした後、前記有機高分子フィルムを剥離する、樹脂皮膜で表面を被覆したアクリル系合成樹脂板の製造方法。
【請求項5】
樹脂皮膜原料を鋳型表面に塗布して薄膜とし、その上に有機高分子フィルムを密着させ、請求項1〜3のいずれかに記載の方法により樹脂皮膜とした後、前記有機高分子フィルムを剥離し、前記鋳型内にアクリル系合成樹脂原料を注入し重合硬化させた後、前記鋳型から剥がす、樹脂皮膜で表面を被覆したアクリル系合成樹脂板の製造方法。
【請求項6】
鋳型として、相対して同方向へ同一速度で走行する一対のエンドレスベルトを用いる請求項5に記載の樹脂皮膜で表面を被覆したアクリル系合成樹脂板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−231126(P2007−231126A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−53997(P2006−53997)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】