説明

樹脂組成物および半導体装置

【課題】凝集力に優れ、内部において剥離の発生が防止または抑制される層を形成し得る樹脂組成物、信頼性の高い半導体装置を提供すること。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、半導体素子を支持体に接着する際に用いるものであり、少なくとも1種の熱硬化性樹脂と、充填材とを含有し、当該樹脂組成物の硬化物を、ASTM D3433に規定する破壊エネルギー測定法により測定したとき、測定雰囲気の温度150℃における破壊靭性値が5.0J/m以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクス産業の著しい発展に伴い、トランジスタ、IC、LSI、超LSIへと、半導体素子における回路の集積度は急激に増大している。このため、半導体素子の大きさも、従来長辺が数mm程度だったものが10数mmへと飛躍的に増大している。また、半導体素子の高速化のため外部と電気的に接合するピンの数も200ピンを越えるようになってきている。
【0003】
さらに、半導体装置の実装においても、より高密度化、より薄型化が一段と加速され、その結果、半導体製品自体もQFP(Quad Flat Package)等に代表される従来型のパッケージだけでなく、BGA(Ball Grid Array)等の面実装タイプのパッケージが出現し、パッケージのより薄型化が進んでいる。
【0004】
このような動向の中、半導体素子をリードフレームが備えるダイパッドあるいは基板に接着するダイアタッチ材についても、従来にも増して高接着性が求められ、種々の研究・開発が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平9−199518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のようなダイアタッチ材において、半導体素子とダイアタッチ材との界面、または、ダイパッドあるいは基板とダイアタッチ材との界面での接着性(密着性)は、十分に得られているものの、ダイアタッチ材の層中における凝集力が十分でないことが判ってきた。
【0007】
ここで、半導体装置をマザーボートに実装する際には、例えば、半導体装置が備えるリードと、マザーボードが備える端子とを、半田リフロー処理により接続することが行われる。この半田リフロー処理では、環境対応の一環として、半導体装置からの鉛撤廃が進められ、この処理に用いられる半田も鉛フリー半田が使用されるようになっている。
【0008】
この鉛フリー半田は、その融点が、錫−鉛半田が溶融する温度よりも高い。そのため、鉛フリー半田を用いた半田リフロー処理では、錫−鉛半田を用いる場合よりもリフロー温度が高く設定される。
【0009】
そのため、高温での半田リフロー処理を行うと、ダイアタッチ材の層内における凝集力が十分でないことに起因して、この層内において剥離が生じ、その結果、半導体装置にクラックが発生することが判ってきた。
【0010】
そこで、本発明の目的は、凝集力に優れ、内部において剥離の発生が防止または抑制される層を形成し得る樹脂組成物、信頼性の高い半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、下記(1)〜(10)に記載の本発明により達成される。
(1) 半導体素子を支持体に接着する際に用いる樹脂組成物であって、
少なくとも1種の熱硬化性樹脂と、充填材とを含有し、
当該樹脂組成物の硬化物を、ASTM D3433に規定の破壊エネルギー測定法により測定したとき、測定雰囲気の温度150℃における破壊靭性値が5.0J/m以上であることを特徴とする樹脂組成物。
【0012】
(2) 前記硬化物は、測定雰囲気の温度25℃における前記破壊靭性値が120J/m以上である上記(1)に記載の樹脂組成物。
【0013】
(3) 測定雰囲気の温度25℃における前記硬化物の前記破壊靭性値をA[J/m]とし、測定雰囲気の温度150℃における前記硬化物の前記破壊靭性値をB[J/m]としたとき、前記破壊靭性値の変化率A/Bが40以下である上記(1)または(2)に記載の樹脂組成物。
【0014】
(4) 前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂およびアクリル系化合物のうちの少なくとも一方を含有する上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0015】
(5) 前記熱硬化性樹脂は、前記エポキシ樹脂を含有し、該エポキシ樹脂よりも少量の前記アクリル系化合物を含有する上記(4)に記載の樹脂組成物。
【0016】
(6) 前記熱硬化性樹脂は、2種以上の前記エポキシ樹脂を含有する上記(4)または(5)に記載の樹脂組成物。
【0017】
(7) 前記充填材は、導電性を有する粒子である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0018】
(8) 前記粒子は、主として銀で構成されている上記(7)に記載の樹脂組成物。
【0019】
(9) 前記樹脂組成物は、その25℃における粘度が10〜30Pa・Sである上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0020】
(10) 上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化物により、少なくとも1つの半導体素子を支持体に接着してなることを特徴とする半導体装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、凝集力に優れ、内部において剥離の発生が防止または抑制される層を形成し得る樹脂組成物を得ることができる。
【0022】
また、上記で得られた樹脂組成物により形成された層を備え、高温での半田リフロー処理を経た後でも、この層内での剥離が防止または抑制され、信頼性に優れた半導体装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の樹脂組成物および半導体装置を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0024】
まず、本発明の樹脂組成物を説明するのに先立って、この樹脂組成物を用いて製造された半導体装置について説明する。
【0025】
図1は、半導体装置の一例を示す縦断面図であり、図2は、破壊エネルギー測定法により樹脂組成物の硬化物の破壊靭性値を求める方法を説明するための図である。なお、以下の説明では、図1中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0026】
図1に示す半導体装置10は、QFP(Quad Flat Package)型の半導体パッケージであり、半導体チップ(半導体素子)20と、半導体チップ20を接着層60を介して支持するダイパッド30と、半導体チップ20と電気的に接続されたリード40と、半導体チップ20を封止するモールド部50とを有している。
【0027】
ダイパッド30は、金属基板で構成され、半導体チップ20を支持する支持体として機能を有するものである。
【0028】
このダイパッド30は、例えば、Cu、Fe、Niやこれらの合金(例えば、Cu系合金や、Fe−42Niのような鉄・ニッケル系合金)等の各種金属材料で構成される金属基板や、この金属基板の表面に銀メッキや、Ni−Pdメッキが施されているもの、さらにNi−Pdメッキの表面にPd層の安定性を向上するために設けられた金メッキ(金フラッシュ)層が設けられているもの等が用いられる。
【0029】
また、ダイパッド30の平面視形状は、通常、半導体チップ20の平面視形状に対応し、例えば、正方形、長方形等の四角形とされる。
ダイパッド30の外周部には、複数のリード40が、放射状に設けられている。
【0030】
このリード40のダイパッド30と反対側の端部は、モールド部50から突出(露出)している。
【0031】
また、リード40についてモールド部50からの露出部には、その表面に金メッキ、錫メッキ、半田メッキ、半田コート等の表面処理が施されていてもよい。これにより、マザーボードが備える端子に半田を介して半導体装置10を接続する場合に、半田とリード40との密着性を向上させることができる。
【0032】
さらに、このようなリード40の表面処理は、モールド部50からの露出部に限らず、リード40全体に施されていてもよい。
【0033】
リード40は、導電性材料で構成され、例えば、前述したダイパッド30の構成材料と同一のものを用いることができる。
【0034】
ダイパッド30には、本発明の樹脂組成物(液状樹脂組成物)の硬化物で構成される接着層60を介して半導体チップ20が固着(固定)されている。
【0035】
本発明では、この接着層60の構成に特徴を有する。なお、この接着層60の構成、すなわち樹脂組成物の構成については、後に詳述する。
【0036】
また、半導体チップ20は、電極パッド21を有しており、この電極パッド21とリード40とが、ワイヤー22で電気的に接続されている。これにより、半導体チップ20と各リード40とが電気的に接続されている。
【0037】
このワイヤー22の材質は、特に限定されないが、ワイヤー22は、例えば、Au線やAl線で構成することができる。
【0038】
そして、ダイパッド30、ダイパッド30の上面側に設けられた各部材およびリード40の内側の部分は、モールド部50により封止されている。結果として、リード40の外側の端部がモールド部50から突出している。
【0039】
このモールド部50は、例えば、エポキシ系樹脂等の各種樹脂材料で構成することができる。
【0040】
このような半導体装置10は、公知の方法を用いて、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0041】
まず、ダイパッド(支持体)30と、複数のリード(端子)40とを備えるリードフレームを用意する。
【0042】
次に、例えば、市販のダイボンダー等の吐出装置を用いて、ダイパッド30上に、本発明の樹脂組成物を供給する。
【0043】
次に、樹脂組成物上に、半導体チップ20を載置し、加熱する。これにより、樹脂組成物が硬化して、その硬化物で構成される接着層60が形成される。その結果、接着層60を介して、ダイパッド(支持体)30上に半導体チップ20が接合される。
【0044】
次に、ワイヤーボンディングにより、電極パッド21とリード40との間に導電性ワイヤー22を形成する。これにより、電極パッド21とリード40とが電気的に接続される。
【0045】
次に、例えば、トランスファー成形等によりモールド部50を形成する。
その後、リードフレームから樹脂止めのタイバーを打ち抜き、トリム&フォーム工程を行い、半導体装置10が製造される。
【0046】
このような半導体装置10は、例えば、マザーボード等に実装される。この半導体装置10のマザーボードへの実装は、半導体装置10が備えるリード40と、マザーボード側の端子とを、半田リフロー処理により半田を介して接続することにより行われる。
【0047】
半田リフロー処理に用いられる半田としては、特に限定されないが、環境対応の一環として、鉛フリー半田が好適に用いられる。なお、鉛フリー半田とは、鉛を含まないか、または、鉛を含む場合でも、その含有量が極めて少ない半田のことを言う。
【0048】
このような鉛フリー半田を用いる半田リフロー処理を行では、リード40と、マザーボード側の端子との接合部分の温度が、260℃程度となるように加熱される。本来、半導体装置10の内部は、加熱したくないが、半田リフロー処理に際して不本意に加熱されてしまう。そして、半導体装置10の内部が高温になることが判っている。
【0049】
特に、モールド部50が樹脂材料で構成されていると、半導体装置10内に吸湿水分が存在し、この半田リフロー処理時に、吸湿水分が半導体装置10内で気化して、その水蒸気圧により半導体装置10に内部応力が生じる。
【0050】
そこで、この内部応力により接着層60において剥離が生じ、さらにはこの剥離が亀裂の先端(切っ掛け)となり、モールド部50にクラックが生じるという問題があった。
【0051】
このような接着層60を介した半導体チップ20とダイパッド30との間で生じる剥離は、接着層60の半導体チップ20およびダイパッド30に対する密着性を向上することや、接着層60の低弾性率化を図ることにより改善されることが判ってきたが、上記の問題点を完全に解消するには至っていない。
【0052】
本発明者は、かかる問題点に鑑み鋭意検討を重ねた結果、接着層60の半導体チップ20およびダイパッド30に対する密着性を高めた場合、接着層60内で亀裂(クラック)が生じ、この亀裂を切っ掛けとしてその程度が大きなくり、接着層60内の剥離が生じることが判ってきた。
【0053】
そして、本発明者は、さらに検討を重ねた結果、常温では接着層60中の凝集力が十分に得られていたとしても、半導体装置10の内部が高温になると、接着層60中の凝集力が低下して、接着層60内の亀裂が拡大する場合があることを見出した。具体的には、後述する破壊靭性値(G1C)が常温では、300J/m程度であっても、150℃では、2J/m程度にまで低下して、接着層60内の亀裂が拡大する場合があることが判った。これに対して、接着層60として、150℃における層中の凝集力が十分に高いものを選択すれば、接着層60の内部に微小な亀裂が生じた状態で、たとえ、半導体装置10の内部が、前記接合部分の温度が260℃程度となる半田リフロー処理中に、高温になったとしても、接着層60内の亀裂の拡大を効果的に抑制し得ることを見出した。
【0054】
すなわち、樹脂組成物(液状樹脂組成物)の硬化物において、ASTM D3433に規定する破壊エネルギー測定法により測定したとき、測定雰囲気の温度150℃における破壊靭性値(G1C)が5.0J/m以上であれば、前記問題点を解消し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0055】
ここで、ASTM D3433に規定の破壊エネルギー測定法とは、図2(a)に示す1組の治具61を用いて、予めノッチ(溝)601が形成された、破壊靭性値測定用の接着層600に亀裂が伝播するのに要する荷重L[N]を測定することにより、破壊靭性値(G1C)[J/m]を算出する方法である。
【0056】
具体的には、まず平面611を有する平板状の治具61を一対用意する。この治具61は、その高さが平面611の一端から他端に向かって漸減している。そして、治具61の高さが低くなっている端部に突出部62が設けられている。このような治具61は、例えば、ステンレスで構成されている。
【0057】
また、治具61の表面を、あらかじめ薬品もしくはプライマー処理することが好ましい。これにより、接着層600と治具61との界面で破壊(剥離)が生じるのを防止することができる。
【0058】
このような治具61の表面への処理は、例えば、ステンレス製の治具61を7N塩酸にて15分処理した後に水洗し、93℃にて10分乾燥して、さらに平面611にCRM−1580A(住友ベークライト株式会社製)を薄く塗布して150℃のオーブン中で30分加熱して硬化させる方法が挙げられる。これにより、接着層600と治具61との界面での破壊(剥離)を抑制することが可能である。
【0059】
なお、このようなプライマー処理を治具61に施しても、接着層600と治具61との界面での破壊が生じることがあるが、この場合には、以下での破壊靭性値(G1C)の算出から除外することとする。
【0060】
次に、一対の治具61の平面611同士の間に本発明の液状材料組成物が介在し得るように、一対の治具61を、図2(b)に示すスペーサー63を用いて固定する。
【0061】
スペーサー63は、厚さがともに形成すべき接着層600の厚さとなっている第1の部材631と、第2の部材632とで構成され、第1の部材631の一端には、形成すべきノッチ601の形状に対応する突出部633が設けられている。
【0062】
一対の治具61の固定時には、このスペーサー63を、平面611同士の間に位置させることにより、一対の治具61とスペーサー63とで構成される平面611同士の間に、形成すべき接着層600の形状に対応した空間が形成される。
【0063】
換言すれば、平面611の幅(治具61の厚さ)がb[m]、さらに、形成すべきノッチ601の末端から、2つの貫通孔621の中心同士を通る直線までの距離がa[m]となっている空間が、一対の治具61とスペーサー63とで形成される。
【0064】
この状態で、空間内に樹脂組成物を流し込み、オーブン中で加熱することで樹脂組成物を硬化させる。ここで、ノッチ601の幅は、特に指定はないが、0.1ミリとなるようにした。
【0065】
最後に、一対の治具61からスペーサーを取り除くことで、樹脂組成物の硬化物で構成されたノッチ601を備える破壊靭性値測定用の接着層600が形成される。
【0066】
次に、突出部62に設けられた貫通孔621を作用点として、面611とほぼ直交する方向が作用線となるようにして、一対の治具61を離間する方向(鉛直方向)に力を加える。そして、接着層600のノッチ601の末端を起点として亀裂の伝播に要する荷重L[N]を測定する。
【0067】
次に、破壊靭性値(G1C)が下記式1なる関係を満足し、下記式1中のm[1/m]が下記式2なる関係を満足することから、測定された荷重L[N]に基づいて、破壊靭性値(G1C)[J/m]を算出する。
【0068】
破壊靭性値(G1C)=4Lm/Eb…… 式1
m=3a/h+1/h …… 式2
[ただし、式1または式2中において、Eは接着張力係数(1.99×1011[Pa])であり、bは接着層600の幅[m]であり、hはノッチ601の末端に対応する位置の治具61の高さ[m]であり、aはノッチ601の末端から、2つの貫通孔621の中心同士を通る直線までの距離である。]
【0069】
なお、本明細書中では、治具61およびスペーサー63として、それぞれ、図2に示す、aが2.1×10−2[m]、bが3.9×10−3[m]、cが8.7×10−2[m]、dが2.9×10−2[m]、eが2.0×10−2[m]、fが1.2×10−2[m]、gが1.4×10−2[m]、hが1.45×10−2[m]、iが1.0×10−2[m]、jが4.8×10−2[m]、kが2.0×10−3[m]、lが2.7×10−2[m]、mが7.5×10−2[m]、nが2.0×10−3[m]、oが2.6×10−2[m]、pが0.3×10−3[m]、qが2.5×10−3[m]、rが7.5×10−2[m]のものを使用して、破壊靭性値(G1C)[J/m]を算出することとする。
【0070】
本発明では、上記式1により導き出される、測定雰囲気の温度が150℃における接着層60の破壊靭性値(G1C)の大きさは、5.0[J/m]以上とされるが、8.0[J/m]以上であるのが好ましく、15.0[J/m]以上であるのがより好ましい。接着層60がかかる関係の破壊靭性値を有するものであることにより、半田リフロー処理を施す際に、たとえ、接着層60の内部に微小な亀裂が生じたとしても、接着層60中の凝集力が高く、接着層60内の亀裂が拡大しにくいことから、接着層60内における剥離の発生を効果的に抑制することができる。
【0071】
また、測定雰囲気の温度25℃における接着層60の破壊靭性値(G1C)の大きさは、120[J/m]以上であるのが好ましく、200[J/m]以上であるのがより好ましく、250[J/m]以上であるのがさらに好ましい。これにより、半導体装置10使用時において、接着層60中で剥離が生じるのを効果的に抑制することができる。また、接着層60には、後述する樹脂組成物に含まれる充填材を含有するが、温度25℃における接着層60の破壊靭性値(G1C)をかかる範囲内に設定することにより、充填材を接着層60内に確実に保持することができる。
【0072】
さらに、測定雰囲気の温度25℃における接着層60の破壊靭性値(G1C)をA[J/m]とし、測定雰囲気の温度150℃における接着層60の破壊靭性値(G1C)をB[J/m]としたとき、前記破壊靭性値の変化率A/Bが40以下であるのが好ましく、32以下であるのがより好ましく、1〜20程度であるのがさらに好ましい。このように半田リフロー処理前と処理中とにおける接着層60の破壊靭性値の変化率が小さければ、半田リフロー処理を経た後においても、接着層60は、特性(密着特性、熱伝達特性および導電特性等)を維持することができる。
【0073】
また、このような樹脂組成物は、その硬化前の25℃における粘度が、10〜30Pa・S程度であるのが好ましく、15〜25Pa・S程度であるのがより好ましい。かかる範囲内に設定することにより、例えば、吐出装置による樹脂組成物の供給を、目的とする領域に確実に行うことができるようになる。
【0074】
なお、ここでの硬化前の25℃における粘度の測定は、後述する(粘度−2)の方法を用いて測定される。
【0075】
ところで、液性を示す材料の作業性の指標として、チキソ性が用いられることが多い。ここで、チキソ性とは、異なるせん断速度を与えた時に得られる粘度の比である。このようなチキソ性は、例えば、コーンプレート型の回転粘度計(E型粘度計など)で異なる回転速度(異なるせん断速度)において粘度の値を測定し、その比率を求めることで得ることが可能である。
【0076】
具体的には、例えば、3°コーンを用いたE型粘度計での25℃における0.5rpmでの粘度の値(粘度−1)と、2.5rpmでの粘度の値(粘度−2)とを測定し、その比率(粘度−1)/(粘度−2)を求めることにより、チキソ性(作業性の指標)を得ることができる。
【0077】
本発明では、(粘度−1)/(粘度−2)は、3以上が好ましい。これにより、樹脂組成物に良好な作業性を付与することができる。
【0078】
以上のように、本発明では、接着層(樹脂組成物の硬化物)60は、ASTM D3433に規定する破壊エネルギー測定法により測定したとき、測定雰囲気の温度150℃における破壊靭性値(G1C)が5.0[J/m]以上であり、樹脂組成物は、充填材と、少なくとも1種の熱硬化性樹脂とを含有する。
【0079】
これらの要求を満たす樹脂組成物としては少なくとも1種の熱硬化性樹脂と、充填材とを含有するものであり、該熱硬化性樹脂は加熱することで反応し架橋構造をとるものである。そのため、このため反応に関与する官能基を1分子内に少なくとも1つ有する必要がある。
【0080】
なお、1分子に含まれる官能基の数が多すぎる場合には反応により得られた硬化物の架橋密度が高く、弾性率の高いものとなってしまう。
【0081】
そのため、硬化物の弾性率が高すぎる場合には、例えば、銀メッキした銅フレーム等の比較的難接着性の表面に対する接着強度が低くなる傾向にあり、しばしばこの接着強度の低下に起因した破壊がめっき表面で生じてしまう。
【0082】
このことを考慮して、熱硬化性樹脂としては、1分子あたりの官能基の数が、好ましくは5以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは1または2である化合物を含むものが用いられる。
【0083】
ここで、1分子内に含まれる官能基の数が5以下であれば、反応により得られる硬化物の架橋密度が過度に高くなることはなく、硬化物の高弾性率化を防止して、銅フレーム等の表面に対して、良好な接着力を得ることが可能となる。
【0084】
しかしながら、1分子内に含まれる官能基の数が小さくなり過ぎると、硬化物の架橋密度が低下することに起因して、硬化物中での凝集力が低下することが懸念される。
【0085】
このように、硬化物の凝集力が不足すると、硬化物すなわち接着層60自体の破壊が生じ易くなる、すなわち、破壊靭性値(G1C)が小さくなるため好ましくない。
【0086】
そこで、硬化物の凝集力を向上させるために、各種の方法が用いられるが、例えば、以下に示すような方法が好適に用いられる。
【0087】
すなわち、I:分子鎖の絡みつき(エンタングルメント)により凝集力を向上させる方法、II:分子鎖間の相互作用により凝集力を向上させる方法、III:フィラー(充填材)と熱硬化性樹脂との接着性向上により凝集力を向上させる方法等が挙げられる。
【0088】
ここで、I〜IIIの方法を用いる場合、樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂としては、それぞれ、以下の点を考慮して選択される。
【0089】
I:分子鎖の絡みつき(エンタングルメント)により凝集力を向上させる方法
このIの方法を用いる場合、熱硬化性樹脂が反応することにより成長する分子鎖に絡みつきを生じさせるために、この分子鎖がより成長するように設計する必要、すなわち、熱硬化性樹脂の種類を選択する必要がある。
【0090】
具体的には、熱硬化性樹脂として、主として反応に関与する官能基を1分子内に2つ有する化合物(以下、「2官能の化合物」という。)選択し、この化合物同士を反応させることにより分子鎖を伸張させることが好ましい。なお、熱硬化性樹脂として、1官能の化合物を含む構成とする場合には、1官能の化合物の含有量を、分子鎖の成長が停止するようになるのを好適に抑制し得る量に設定するのが好ましい。
【0091】
II:分子鎖間の相互作用により凝集力を向上させる方法
このIIの方法を用いる場合、熱硬化性樹脂が反応することにより成長する分子鎖の凝集力を向上させるために、この分子鎖に極性基を導入する必要がある。
【0092】
しかしながら、このような極性基の導入は、一般的に、樹脂組成物の高粘度化を招く原因となることから、極性基を導入したとしても樹脂組成物の高粘度化を好適に抑制し得る熱硬化性樹脂を適宜選択するようにする。
【0093】
III:フィラー(充填材)と熱硬化性樹脂との接着性向上により凝集力を向上させる方法
このIIIの方法を用いる場合、フィラー(充填材)と熱硬化性樹脂との接着性を向上させる必要がある。
【0094】
具体的には、フィラー(充填材)と熱硬化性樹脂との間に、フィラーと直接反応可能あるいは相互作用の強いカップリング剤を介在させる方法が特に効果的に用いられる。
【0095】
このように、I〜IIIの方法のうちの少なくとも1つを用いること、すなわち、熱硬化性樹脂に含まれる化合物の官能基の数を適正化すること(Iの方法)、分子鎖の相互作用を適正化すること(IIの方法)、フィラーと良好な反応性あるいは相互作用を得ることが可能なカップリング剤を使用すること(IIIの方法)のうち少なくとも1つを適用することで、硬化物の凝集力を向上させること、測定雰囲気の温度150℃における硬化物の破壊靭性値(G1C)を5.0[J/m]以上のものとすることができる。
【0096】
以下、以上の点を考慮して、適宜選択される、本発明の樹脂組成物の構成材料について詳述する。
【0097】
なお、本明細書において、樹脂組成物(液状樹脂組成物)の硬化物とは、硬化度が85%以上のものを言うこととする。すなわち、樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂が備える官能基の85%以上が反応したものである。
【0098】
ここで、樹脂組成物の硬化度は、例えば、示差走査熱量計(DSC)を用いて、未硬化の状態における樹脂組成物の発熱量と、硬化後の樹脂組成物の発熱量とを測定し、これらの発熱量を比較することにより算出することができる。
【0099】
充填材(A)は、樹脂組成物の硬化物で構成される接着層60に、半導体チップ20の駆動時に発生する熱をダイパッド30側に伝達(放熱)する機能を付与するものである。また、例えば、樹脂組成物に含まれる充填材(A)の含有量を調整することにより、硬化前の樹脂組成物の粘度を調整することもできる。
【0100】
この充填材(A)は、特に限定されないが、半導体チップ20で発生した熱をダイパッド30側に伝達(放熱)する機能を付与する場合には、後述する熱硬化性樹脂の硬化物よりも熱伝導性が高いものであるのが好ましい。これにより、この充填材を介したダイパッド30側への熱の伝達を確実に行うことができる。
【0101】
このような充填材(A)としては、例えば、銀粉、金粉、銅粉、アルミニウム粉、ニッケル粉、パラジウム粉のような金属粉、アルミナ粉末、チタニア粉末、アルミニウムナイトライド粉末、ボロンナイトライド粉末のようなセラミック粉末、ポリエチレン粉末、ポリアクリル酸エステル粉末、ポリテトラフルオロエチレン粉末、ポリアミド粉末、ポリウレタン粉末、ポリシロキサン粉末のような高分子粉末等が挙げられる。
【0102】
また、半導体チップ20とダイパッド30との間で電気的に接続する必要が有る場合、充填材(A)としては、導電性を有する粒子を用いるのが好ましい。これにより、接着層60を介した、半導体チップ20とダイパッド30との間での導通を確実に確保することができる。
【0103】
導電性を有する粒子としては、上述したもののうち、例えば、主として金属紛で構成されているものが好適に用いられ、中でも、特に、銀粉が好適に用いられる。このような金属粉(特に、銀粉)を用いることにより、樹脂組成物の硬化物に、優れた熱伝導性と、導電性を付与することができる。なお、この場合、充填材(A)には、ナトリウム、塩素等のイオン性不純物ができるだけ含まれていないことが好ましい。
【0104】
具体的には、通常、電子材料用として市販されている銀粉が好適に使用される。かかる銀粉は、還元粉、アトマイズ粉等として入手可能である。この電子材料用の銀粉は、イオン性不純物の含有量が少ないことからも、充填材(A)として好適に用いられる。
【0105】
充填材(A)の形状は、特に限定されず、例えば、フレーク状、球状等のいかなる形状であってもよいが、フレーク状であるのが好ましい。これにより、樹脂組成物の硬化物中における充填材(A)同士の接触面積を向上させることができる。その結果、充填材(A)を介した熱伝導性(および導電性)の向上を図ることができる。
【0106】
また、充填材(A)の平均粒径は、特に限定されないが、0.1〜50μm程度であるのが好ましく、1〜30μm程度であるのがより好ましい。かかる平均粒径の充填材(A)を用いることにより、樹脂組成物の粘度を適度なものとすることができる。このため、樹脂組成物をディスペンサー等の吐出装置を用いて吐出する場合には、ディスペンサーが備えるノズルの詰まりを好適に防止することができる。なお、充填材(A)の平均粒径は、レーザ散乱法を用いて測定した粒度分布の体積分率の中心値(D50)とした。
【0107】
充填材(A)の含有量は、樹脂組成物中において、通常、3〜65体積%程度であるのが好ましく、10〜50体積%程度であるのがより好ましい。充填材(A)の含有量をかかる範囲とすることにより、樹脂組成物の粘度をより確実に適度なものとすることができる。また、樹脂組成物に対して、目的とする熱伝導性(および導電性)を確実に付与することができる。
【0108】
熱硬化性樹脂は、その硬化後の硬化物を介して、半導体チップ20とダイパッド30とを接合させるものである。
【0109】
この熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、アクリル系化合物、ポリイミド樹脂およびシアネート樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、中でも、エポキシ樹脂(B)またはアクリル系化合物(C)のうちの少なくとも一方を含有するものを用いるのが好ましい。エポキシ樹脂(B)またはアクリル系化合物(C)のうちの少なくとも一方を含有する液状樹脂の硬化物は、上述したような構成材料で構成されるダイパッド30に対して優れた密着性を有するものとなる。また、エポキシ樹脂(B)を含む熱硬化性樹脂を用いることにより、樹脂組成物の硬化物は、高接着性でかつ高耐湿性および高耐熱性を有するものとなる。一方、アクリル系化合物(C)を含む熱硬化性樹脂を用いることにより、樹脂組成物は、その硬化前が高反応性で、その硬化物が低応力性(高柔軟性)を有するものとなる。
【0110】
さらに、これらエポキシ樹脂およびアクリル系化合物の双方を含有する熱硬化性樹脂を用いるのがより好ましい。これにより、上述したような各樹脂の特性の双方を樹脂組成物の硬化物(接着層60)に付与することができる。さらに、接着層60の層中において、エポキシ樹脂の硬化物とアクリル系化合物の硬化物が互いに絡まりあうようにしてネットワークが形成される。そのため、この層中における凝集力(結合度)の向上を図ることができる。
【0111】
また、エポキシ樹脂およびアクリル系化合物の双方を含有する熱硬化性樹脂を用いる場合、アクリル系化合物は、エポキシ樹脂よりも少量含まれているのが好ましい。これにより、接着層60中における凝集力を確実に向上させることができ、測定雰囲気の温度150℃における破壊靭性値(G1C)を5.0J/m以上の接着層60とすることができる。
【0112】
エポキシ樹脂(B)としては、グリシジル基を有する化合物であれば特に限定されず、例えばビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールAD型エポキシ化合物等のビスフェノール型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等のノボラック型エポキシ化合物、トリグリシジルイソシアネートなどの複素環式エポキシ化合物のほか、ビフェニル型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物等の芳香族環を有するエポキシ化合物、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ジシクロペンタジエンジオキサイド、アリサイクリックジエポキシーアジペイト等の脂環式エポキシ化合物、グリシジルアミン化合物、ポリアルキレンオキサイド骨格およびグリシジルオキシフェニル基を有するエポキシ化合物、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビフェノール、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等を水素添加した後にエピクロルヒドリンと反応、またはポリグリシジルエーテルを直接水素添加した水添型ポリグリシジルエーテル等の脂環式炭化水素またはその連結体基とグリシジル基とを有する化合物があげられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、ビスフェノール型エポキシ化合物(B1)、ポリアルキレンオキサイド骨格およびグリシジルオキシフェニル基を有するエポキシ化合物(B2)、および、脂環式炭化水素またはその連結体基とグリシジル基とを有する化合物(B3)のうちの少なくとも1種を含有するのが好ましい。
【0113】
エポキシ樹脂が、ビスフェノール型エポキシ化合物(B1)を含有することにより、エポキシ樹脂は、良好な反応性を維持するものとなる。
【0114】
このビスフェノール型エポキシ化合物としては、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、ビスフェノールSのジグリシジルエーテル、ビフェノールのジグリシジルエーテルなど1分子内にフェノール性水酸基を2個有する化合物のジグリシジルエーテル化物が挙げられる。
【0115】
また、エポキシ樹脂(B)が、ポリアルキレンオキサイド骨格およびグリシジルオキシフェニル基を有するエポキシ化合物(B2)のように、分子骨格にポリアルキレンオキサイドを有する化合物を含有することにより、樹脂組成物が硬化した硬化物の弾性率を低くすること、すなわち良好な低応力性を硬化物に付与することができる。
【0116】
かかるポリアルキレンオキサイド骨格としては、炭素数2〜6の直鎖状または分枝状のアルキレン基がエーテル結合を介して繰り返し結合したものが好ましい。具体的には、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイドおよびポリテトラメチレンオキサイドのうちの少なくとも1つが好適である。なお、炭素数が6以下のアルキレン基を有する化合物を用いることにより、硬化物中におけるエポキシ樹脂(B)の結晶化を防止して、効果的に硬化物の低弾性率化を図ることができる。
【0117】
ポリアルキレンオキサイド骨格において、アルキレンオキサイドの繰り返し数は、2〜50が好ましく、2〜10がより好ましい。アルキレンオキサイドの繰り返し数がかかる範囲の化合物を用いることにより、より確実な硬化物の低弾性率化が期待できるとともに、樹脂組成物の粘度の増大や硬化性の低下を確実に防止することができる。
【0118】
このポリアルキレンオキサイド骨格およびグリシジルオキシフェニル基を有するエポキシ化合物(B2)は、特に、ポリアルキレンオキサイド骨格の他に、さらにグリシジルオキシフェニル基を有するものとなっている。このようなポリアルキレンオキサイド骨格とグリシジルオキシフェニル基との双方を有する化合物(B2)としては、例えば、下記一般式(B21)で表される化合物が挙げられる。
【0119】
【化1】

[式中、Xは、炭素数1〜6の炭化水素基であり、nは、1〜6の整数であり、mは、1〜50の整数を表す。]
【0120】
なお、前記炭化水素基の炭素数は、2〜4であるのが好ましく、前記nは、1〜4の整数であるのが好ましく、前記mは、3〜15の整数であるのが好ましい。
【0121】
上記一般式(B21)で表される化合物のように、脂肪族炭化水素にグリシジルオキシフェニル基が結合することにより、高い反応性が期待できる。このため、例えばルイス酸、酸無水物等に限られず、後述するエポキシ樹脂の硬化剤(D)として、幅広いものが使用可能となる。また、グリシジルオキシフェニル基を有することにより、電子材料分野において一般的に使用されるフェノール系硬化剤も使用することが可能となる。
【0122】
上記一般式(B21)で表される化合物は、特開2004−156024号公報に記載されているような方法を用いて得ることが可能である。
【0123】
すなわち、まず、ビスフェノールAと、トリエチレングリコールジビニルエーテルとをアセタール化反応させる。これにより、エチレンオキサイドを繰り返し単位として有し、かつ両末端にフェノール性水酸基を有する化合物を得る。その後、この化合物とエピクロルヒドリンと反応させる。これにより、両末端にグリシジルオキシフェニル基を有し、かつポリアルキレンオキサイド骨格を有する化合物を得ることができる。
【0124】
また、同様にして、使用するジビニルエーテルとして、トリエチレングリコールジビニルエーテルに代えて、ポリプロピレンオキサイドのジビニルエーテル、ポリブチレンオキサイドのジビニルエーテル、ポリテトラメチレンオキサイドのジビニルエーテルを選択すること、また、ビスフェノールAに代えて、ビスフェノールF、ビフェノール等のビスフェノール化合物またはその誘導体、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノンまたはこれらの誘導体、ナフタレンジオール、アントラセンジオール等の1分子内に芳香族性水酸基を2つ有する化合物を選択することにより、異なるポリアルキレンオキサイド骨格の化合物を得ることも可能である。
【0125】
さらに、エポキシ樹脂が、脂環式炭化水素またはその連結体基とグリシジル基とを有する化合物(B3)を含むことにより、樹脂組成物の粘度が低下する。また、この化合物は、ポリアルキレンオキサイド骨格およびグリシジルオキシフェニル基を有するエポキシ化合物(B2)との相溶性に優れるため、樹脂組成物が硬化した硬化物を均一な組成とする(接着層60中での組成のばらつきを防止する)ことができる。さらに、その骨格中に脂環構造を有するため、樹脂組成物の硬化物の低弾性率化を図ることができる。
【0126】
このような脂環式炭化水素またはその連結体基とグリシジル基とを有する化合物(B3)としては、例えば、シクロヘキサンまたはその連結体等を含む化合物の一部をグリシジルエーテル基で置換したものが挙げられる。
【0127】
また、脂環式炭化水素またはその連結体基とグリシジル基とを有する化合物は、官能基であるグリシジル基を1分子内に1個以上有していればよいが、2個有しているものであるのが好ましい。このようにグリシジル基を1分子内に2個有するものを用いることにより、樹脂組成物の硬化物の弾性率が高くなり過ぎるのを効果的に防止しつつ、硬化物の分子量が十分に大きくなることから、その凝集力が低下するのを好適に防止または抑制することができる。その結果、例えば、エポキシ樹脂として、グリシジル基を1分子内に2個有する化合物の他に、化合物(B21)のように分子量に対して官能基が少ない(エポキシ当量が大きい)化合物を含むものを使用したとしても、高温雰囲気下(200℃程度)において、接着層60のダイパッド30または半導体チップ20に対する接着力の低下を招くのを好適に防止することができる。
【0128】
また、このような化合物(B3)は、樹脂組成物の硬化物が形成される際の硬化反応中に系内に取り込まれるため、ボイド等の発生を好適に防止することができる。
【0129】
これらのことを考慮して、脂環式炭化水素またはその連結体基とグリシジル基とを有する化合物(B3)としては、例えば、下記一般式(B31)または下記一般式(B32)で表される化合物が好適に用いられる。
【0130】
【化2】

[式中、R、R、R、Rは、それぞれ独立して、水素、メチル基およびエチル基のうちのいずれかを表し、Rは、単結合または炭素数1〜3の炭化水素基を表し、Gはグリシジル基を表す。]
【0131】
【化3】

[式中、R、Rは、それぞれ独立して、水素またはアルキル基を表し、nは1〜10の整数を表し、Gはグリシジル基を表す。]
【0132】
また、化合物(B3)には、ナトリウム、塩素等のイオン性不純物ができるだけ含まれていないことが好ましい。
【0133】
具体的には、上記一般式(B31)に示される化合物としては、電子材料用に市販されている水素添加したジグリシジルビスフェノールA、水素添加したジグリシジルビスフェノールF、水素添加したジグリシジルビフェノールおよびこれらの置換体等が好適に使用される。一方、上記一般式(B32)に示される化合物としては、ジメチロールシクロヘキサンジグリシジルエーテルが好適に使用される。
【0134】
ここで、エポキシ樹脂において、ポリアルキレンオキサイド骨格およびグリシジルオキシフェニル基を有するエポキシ化合物(B2)を単独で用いた場合でも、弾性率の低い低応力性に優れる硬化物(接着層60)を得ることは可能であるが、硬化前のこの化合物(B2)の粘度が高いため、その結果として得られる樹脂組成物も、高粘度となり、その作業性が悪くなる傾向を示す。
【0135】
これに対して、脂環式炭化水素またはその連結体基とグリシジル基とを有する化合物(B3)を単独で用いた場合には、低粘度で作業性に優れた樹脂組成物を得ることは可能であるが、この樹脂組成物の硬化物は、特に100℃以上の高温での機械的強度が低くなる傾向を示す。
【0136】
このようなことから、エポキシ樹脂(B)は、化合物(B2)と化合物(B3)とを含有するのが好ましい。これにより、得られる接着層60に、良好な低応力性、接着特性、作業性を付与することが可能となる。しかしながら、ポリアルキレンオキサイド骨格およびグリシジルオキシフェニル基を有するエポキシ化合物(B2)では分子量に対して官能基が少ない(エポキシ当量が大きい)こと、脂環式炭化水素またはその連結体基とグリシジル基とを有する化合物(B3)ではグリシジル基が脂肪族性炭素原子に結合していることに起因して、反応性が低下する傾向を示す。そのため、エポキシ樹脂(B)は、これらの他に、さらにビスフェノール型エポキシ化合物(B1)を含むことが好ましい。これにより、エポキシ樹脂すなわち樹脂組成物を良好な反応性を有するものとすることができる。
【0137】
以上のようなエポキシ樹脂(B)が樹脂組成物に含まれる場合、エポキシ樹脂(B)は、少なくとも1種含まれていればよいが、2種以上含まれているのが好ましく、化合物(B1)、(B2)、(B3)のうちの異なる化合物を2種以上含まれているのがより好ましい。これにより、上述したような各化合物(B1)、(B2)、(B3)の特性を相乗的に発揮させることができるとともに、測定雰囲気の温度150℃における破壊靭性値を5.0J/m以上の接着層60とすることができる。
【0138】
また、エポキシ樹脂(B)中に含まれる、化合物(B1)、(B2)および(B3)の配合量は、それぞれ、以下のようになっているのが好ましい。
【0139】
すなわち、エポキシ樹脂(B)の全体量のうち、化合物(B1)としては、20〜80重量%程度であるのが好ましく、20〜50重量%程度であるのがより好ましく、20〜45重量%程度であるのがさらに好ましい。
【0140】
化合物(B2)としては、エポキシ樹脂(B)の全体量のうち、50重量%以下であるのが好ましく、10〜50重量%程度であるのがより好ましく、20〜50重量%程度であるのがさらに好ましい。
【0141】
化合物(B3)としては、エポキシ樹脂(B)の全体量のうち、50重量%以下であるのが好ましく、10〜50重量%程度であるのがより好ましく、10〜40重量%程度であるのがさらに好ましい。
【0142】
さらに、エポキシ樹脂(B)中に、化合物(B1)、(B2)および(B3)以外のエポキシ樹脂(特に1官能のエポキシ樹脂、以下「化合物B4」という)が含まれないのが特に好ましいが、化合物B4を含む場合、エポキシ樹脂(B)中に含まれる、化合物(B4)の配合量は、25重量%以下であるのが好ましく、15重量%以下であるのがより好ましい。
【0143】
エポキシ樹脂(B)に含まれる各化合物の含有量をかかる範囲内に設定することにより、接着性、耐湿性および耐熱性等の特性のバランスに優れたエポキシ樹脂(B)とすることができる。
【0144】
上述したようなエポキシ樹脂(B)を含有する樹脂組成物には、エポキシ樹脂の硬化剤(D)や、硬化促進剤(E)を含有するのが好ましい。これにより、例えば、加熱等の処理により樹脂組成物の硬化反応を比較的容易に制御することができる。
【0145】
エポキシ樹脂の硬化剤(D)としては、公知のものが使用可能であるが、本発明は半導体用途であるので、好ましくはフェノール系化合物が、より好ましくはフェノール性水酸基が1分子内に2つ以上あるものが、さらに好ましくはフェノール性水酸基が1分子内に2〜5つのものが用いられる。これにより、樹脂組成物の硬化物における耐湿信頼性の向上を図ることができる。
【0146】
フェノール性水酸基が1分子内に2つ以上有するフェノール系化合物(D1)としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビフェノール等のビスフェノール類、トリ(ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,1−トリ(ヒドロキシフェニル)エタン等の3官能フェノール化合物、フェノールノボラック、およびクレゾールノボラック等が挙げられる。
【0147】
このようなエポキシ樹脂の硬化剤(D)を含有する場合、エポキシ樹脂の硬化剤(D)の配合量は、エポキシ樹脂(B)に対して、5〜50重量%程度であるのが好ましく、10〜50重量%程度であるのがより好ましく、10〜40重量%程度であるのがさらに好ましい。
【0148】
また、硬化促進剤(E)としては、イミダゾール系化合物(E1)や、リン系、アミン系等の反応触媒(E2)が好適に用いられる。
【0149】
イミダゾール系化合物(E1)としては、特に限定されないが、2−メチルイミダゾールと2,4−ジアミノ−6−ビニルトリアジンとの付加物または2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールであるのが好ましい。
【0150】
この場合、このイミダゾール系化合物(E1)は、その含有量が、エポキシ樹脂(B)に対して、0.5〜10重量%程度であるのが好ましく、1〜5重量%程度であるのがより好ましく、1〜4重量%程度であるのがさらに好ましい。かかる範囲に設定することにより、樹脂組成物は、優れた硬化性を維持しつつ、得られる硬化物に優れた硬化物特性(例えば、Ni−Pdメッキを施したダイパッド30との接着性、耐リフロー性)を付与することができる。また、形成される接着層60を、測定雰囲気の温度150℃における破壊靭性値が5.0J/m以上のものとすることができる。
【0151】
また、リン系、アミン系等の反応触媒(E2)のうち、アミン系の反応触媒としては、特に限定されず、例えば、ジシアンジアミドや、アジピン酸ヒドラジド、ドデカン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ヒドラジド、p−オキシ安息香酸ジヒドラジドのようなカルボン酸ヒドラジド等が挙げられる。
【0152】
リン系、アミン系等の反応触媒(E2)の含有量としては、イミダゾール系化合物(E1)で挙げたのと同様の含有量に設定される。
【0153】
アクリル系化合物(C)としては、特に限定されず、1分子内にアクリロイル基を少なくとも1個有する化合物であればよいが、1分子内にアクリロイル基を2個有する化合物(C1)であるのが好ましい。このような1分子内にアクリロイル基を2個有する化合物(C1)は、低粘度であり、特に上述したようなエポキシ樹脂(B)との相溶性に優れるためアクリル系化合物(C)として好適に用いられる。すなわち、化合物(C1)を含むアクリル系化合物(C)を用いることにより、低粘度で作業性に優れる樹脂組成物を得ることが可能になる。
【0154】
なお、本明細書中で、アクリロイル基とは、アクリロイル基のα位またはβ位の水素原子がアルキル基、アルケニル基、フェニル基等の炭素数1〜8の有機基で置換されているものを含むこととする。
【0155】
さらに、樹脂組成物が、後述する有機過酸化物等の反応触媒(反応開始剤)(F)を含むと、アクリル系化合物(C)の硬化反応を速やかに進行させることができる。その結果、アクリル系化合物(C)を含む樹脂組成物を硬化性に優れ、この液状材料組成物の硬化物を、高温に晒された場合においても、優れた硬化物特性を発揮するものとできる。
【0156】
なお、アクリロイル基の数が1個の場合、樹脂組成物の硬化物の凝集力が低下するおそれがあり、3個以上の場合、樹脂組成物の硬化物における弾性率が高くなり、ダイパッド30との剥離が生じるおそれがある。かかる観点からも、アクリル系化合物(C)としては化合物(C1)が好適である。
【0157】
1分子内にアクリロイル基を2個有する化合物(C1)としては、例えば、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジンクジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジエタノールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジアルキルアルコールジ(メタ)アクリレート、ジメタノールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−エチレンビス(メタ)アクリルアミド、1,2−ジ(メタ)アクリルアミドエチレングリコールなどが挙げられる。中でも好ましい化合物(C1)は、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジメタノールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0158】
化合物(C)配合量は、熱硬化性樹脂の合計量((B)+(C))に対して、80重量%以下であるのが好ましく、10〜50重量%程度であるのがより好ましく、20〜40重量%程度であるのがさらに好ましい。かかる範囲内に設定することにより、樹脂組成物の低粘度化でき、かつ樹脂組成物の硬化物に優れた接着性を付与することができる。また、形成される接着層60を、測定雰囲気の温度150℃における破壊靭性値が5.0J/m以上のものとすることができる。
【0159】
このようなアクリル系化合物を含有する樹脂組成物には、反応触媒(反応開始剤)(F)を添加するのが好ましい。これにより、例えば、加熱等の処理により樹脂組成物の硬化反応を確実に進行させることができるようになる。
【0160】
反応触媒(F)としては、特に限定されないが、有機過酸化物(F1)であるのが好ましい。なお、本明細書において、有機過酸化物(F1)とは、分子内に−O−O−結合を有し、加熱することにより遊離ラジカルを発生し得るものである。
【0161】
有機過酸化物(F1)としては、特に限定されず、例えば、ケトンパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、パーオキシエステル類等が挙げられる。
【0162】
これらの中でも、急速加熱試験(試料1gを電熱板の上にのせ、4℃/分で昇温した時の分解開始温度)における分解温度が40〜140℃程度であるものが好ましい。これにより、樹脂組成物の常温における保存性が低下するのを防止しつつ、樹脂組成物の硬化時間の長時間化を確実に防止することができる。
【0163】
有機過酸化物(F1)の具体例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、t−ブチルハイドロパーオキサイド、P−メンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α、α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、イソブチリルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、桂皮酸パーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−3−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、α、α’−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルへキサノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−m−トルオイルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(t−ブチルパーオキシ)イソフタレート、t−ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0164】
反応触媒(F)の配合量は、アクリル系化合物(C)に対して、好ましくは0.1〜20重量%程度であり、より好ましくは0.1〜10重量%程度であり、さらに好ましくは0.1〜8重量%程度である。
【0165】
なお、本発明の樹脂組成物は、通常蛍光灯等の照明下で使用されるので光重合開始剤が含まれていると使用中に反応により粘度上昇が観察されるため実質的に光重合開始剤を含有することは好ましくない。実質的にとは、粘度上昇が観察されない程度で光重合開始剤が微量に存在してもよく、好ましくは、含有しないことである。
【0166】
また、本発明の樹脂組成物には、カップリング剤(G)を添加するようにしてもよい。これにより、熱硬化性樹脂の硬化物で構成される接着層60が接触する半導体チップ20やダイパッド30との密着性が向上する。
【0167】
さらには、熱硬化性樹脂の硬化物と充填材(A)との密着性が向上して、樹脂組成物の硬化物(接着層60)中での凝集力(結合度)を優れたものとすることができる。
【0168】
ここで、図3および図4に、それぞれ、カップリング剤(G)の一例としてビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)(日本ユニカー社製、「A−1289」)、単独のDSC曲線、およびA−1289と銀粉を重量比1対1で混合したサンプルのDSC曲線を示す。なお、測定条件は、サンプル重量約30mg、昇温を室温から10℃/分で行った。
【0169】
それぞれの図から明らかなように、図3には明確なピークは見られないが、図4では60℃付近から発熱が観察され始め、ピーク温度が約100℃ 、反応の終了では約130℃と非常にブロードな発熱ピークが観察される。この発熱ピークは、銀粉とA−1289が同時に存在する時に始めて観察されることから、銀粉とA−1289の反応と考えられる。
【0170】
このようにカップリング剤(G)は、銀粉表面と反応すること、しかも60℃付近から非常に緩やかに反応し始めることが確認できた。このことから、室温以下で保存している間にはカップリング剤(G)は銀粉表面と反応せず硬化反応中に反応し始めるため、カップリング剤(G)は樹脂組成物の硬化反応時に、半導体チップ20やダイパッド30の表面および充填材(A)の表面の双方に作用することが可能であることを示している。その結果、半導体チップ20やダイパッド30との接着力向上と同時に、充填材(A)と熱硬化性樹脂との間の結合が強固になるため、樹脂組成物の硬化物における凝集力を向上させることが可能となる。
【0171】
以上のことを考慮してカップリング剤(G)としては、半導体チップ20および/またはダイパッド30の表面を構成する構成材料や、充填材(A)の構成材料に対して反応性を有する官能基を備えるものが好適に用いられる。
【0172】
また、樹脂組成物に反応触媒(F)として有機過酸化物(F1)が含まれる場合、樹脂組成物の保存中でも有機過酸化物(F1)の分解は進行しており、特に分解温度の低い有機過酸化物(F1)を用いた場合には分解により発生したラジカルがアクリル系化合物(C)の反応を引き起こし、樹脂組成物の粘度が上昇する傾向を示す。
【0173】
そのため、通常ハイドロキノン等の禁止剤を添加することで粘度上昇を抑えることが考えられるが、禁止剤を多量に配合すると硬化性の悪化が著しくなる場合や、硬化物特性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0174】
これに対して、スルフィド結合は発生したラジカルをトラップすることが可能であることから、スルフィド結合を有するカップリング剤(G)が禁止剤として働き粘度上昇を抑制することが可能であると共に、硬化開始温度の上昇は見られるが汎用の禁止剤ほどの悪影響は認められない。なかでも硬化物特性への悪化は見られないので、禁止剤として好適に使用することが可能である。
【0175】
したがって、このようなカップリング剤(G)を含む構成とすることにより、樹脂組成物の保存安定性を維持することができる。
【0176】
これらのことから、カップリング剤(G)としては、好ましくは1分子内にトリアルコキシシリル基を有するもの、より好ましくはトリアルコキシシリル基を2個有するものが挙げられ、これらの中でも、さらにスルフィド結合を有するものが特に好適に用いられる。
【0177】
このような特に好ましいカップリング剤(G)としては、ビス(トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリブトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(ジメトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(ジブトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(トリブトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(ジメトキシメチルシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(ジエトキシメチルシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(ジブトキシメチルシリルプロピル)ジスルフィドなどが挙げられる。
【0178】
なお、反応性を有する官能基としては、上述したものの他、例えば、ビニル基、アクリロイル基およびエポキシ基が挙げられ、これらの官能基を備えるカップリング剤(G)としては、1分子内に少なくとも1つのトリアルコキシシリル基と、これらの官能基とを有するものが挙げられる。このような官能基を備えるカップリング剤(G)は、上述した特に好ましいカップリング剤(G)と併用して好適に用いられる。
【0179】
カップリング剤(G)の配合量は、熱硬化性樹脂の合計量((B)+(C))に対して、0.1〜10重量%程度であるのが好ましく、0.1〜5重量%程度であるのがより好ましく、0.5〜5重量%程度であるのがさらに好ましい。かかる範囲内に設定することにより、形成される接着層60を、確実に測定雰囲気の温度150℃における破壊靭性値が5.0J/m以上のものとすることができる。
【0180】
なお、本発明の樹脂組成物には、上述したような化合物(B)〜(G)の他、必要により消泡剤、界面活性剤等の添加剤を添加することができる。
【0181】
また、添加剤としては、樹脂組成物の粘度を低く設定するという観点から、低粘度で反応に直接関与しない溶剤を用いることもできるが、実質的に溶剤を含まないことが好ましい。これにより、ボイド等の発生を確実に低減することができる。
【0182】
このような溶剤としては、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルカルビトール、エチルカルビトール、シクロヘキサノール、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
【0183】
本発明では、樹脂組成物の硬化物における測定雰囲気の温度150℃における破壊靭性値(G1C)が5.0[J/m]以上となるように、各化合物(B)〜(G)の組み合わせおよびそれらの含有量が設定される。
【0184】
具体的には、このような各化合物(B)〜(G)の組み合わせとしては、好ましくは、エポキシ樹脂(B)中に含まれる2官能のエポキシ化合物の割合が75〜100重量%程度、化合物(B+C)中に含まれる2官能のアクリル系化合物(C)の割合が0〜80重量%程度、エポキシ樹脂(B)に対する2官能以上のエポキシ樹脂の硬化剤(D)の割合が5〜50重量%程度、エポキシ樹脂(B)に対する硬化促進剤(E)の割合が、0.5〜10重量%程度、アクリル系化合物(C)に対する反応触媒(F)の割合が0.1〜20重量%程度、化合物(B+C)に対するカップリング剤(G)の割合が0.1〜10重量%程度であるものの組み合わせが挙げられる。
【0185】
より好ましくは、エポキシ樹脂(B)中に含まれる2官能のエポキシ化合物の割合が75〜100重量%程度、化合物(B+C)中に含まれる2官能のアクリル系化合物(C)の割合が10〜50重量%程度、エポキシ樹脂(B)に対する2官能以上のエポキシ樹脂の硬化剤(D)の割合が10〜50重量%程度、エポキシ樹脂(B)に対する硬化促進剤(E)の割合が、1〜5重量%程度、アクリル系化合物(C)に対する反応触媒(F)の割合が0.1〜10重量%程度、化合物(B+C)に対するカップリング剤(G)の割合が0.1〜5重量%程度であるものの組み合わせが挙げられる。
【0186】
さらに好ましくは、エポキシ樹脂(B)中に含まれる2官能のエポキシ化合物の割合がほぼ100重量%、化合物(B+C)中に含まれる2官能のアクリル系化合物(C)の割合が20〜40重量%程度、エポキシ樹脂(B)に対する2官能以上のエポキシ樹脂の硬化剤(D)の割合が10〜40重量%程度、エポキシ樹脂(B)に対する硬化促進剤(E)の割合が、1〜4重量%程度、アクリル系化合物(C)に対する有機過酸化物(F1)の割合が0.1〜8重量%程度、化合物(B+C)に対するカップリング剤(G)の割合が0.5〜5重量%程度であり、充填材(A)として主として銀紛を配合するものの組み合わせが挙げられる。
【0187】
さらに、最も好ましい形態としては、エポキシ樹脂(B)に対する2官能のエポキシ化合物の割合がほぼ100重量%であり、2官能のエポキシ化合物は、化合物(B1)、化合物(B2)および化合物(B3)からなる群から選択される少なくとも1種であり、化合物(B+C)中に含まれる2官能のアクリル系化合物(C)の割合が20〜40重量%程度、エポキシ樹脂(B)に対する2官能以上のエポキシ樹脂の硬化剤(D)の割合が10〜40重量%程度、エポキシ樹脂(B)に対する硬化促進剤(E)の割合が、1〜4重量%程度、アクリル系化合物(C)に対する有機過酸化物(F1)の割合が0.1〜8重量%程度、化合物(B+C)に対するカップリング剤(G)の割合が0.5〜5重量%程度であり、充填材(A)として主として銀紛を配合するものの組み合わせが挙げられる。
【0188】
以上のような本発明の樹脂組成物は、例えば各成分を予備混合した後、3本ロールを用いて混練した後真空下脱泡することにより製造することができる。
【0189】
以上、本発明の樹脂組成物および半導体装置について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0190】
例えば、本発明の半導体装置は、QFP型の半導体パッケージに適用した場合ついて説明したが、このような場合に限定されず、例えば、DIP(Dual In−line Package)型、SOP(Small Out−line Package)型、LF−CSP(Lead Frame Chip Scale Package)型およびBGA(Ball Grid Array)型の半導体パッケージにも適用することができる。
【0191】
さらに、本発明の半導体装置は、1つの半導体チップ(半導体素子)がダイパッド(支持体)上に固定されている場合について説明したが、これに限定されず、複数の半導体素子が支持体上に固定されていてもよい。
【0192】
また、半導体チップを支持する支持体としては、ダイパッドの他、ヒートシンク、ヒートスプレッダーのような放熱部材等であってもよい。
【0193】
本発明の半導体装置の各部の構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成のものを付加することもできる。
【実施例】
【0194】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.樹脂組成物の調製
まず、以下に示すような実施例1〜8および比較例の樹脂組成物を調製した。
【0195】
[実施例1〜8、比較例]
充填材(A)としては、平均粒径8μm、最大粒径30μmのフレーク状銀粉(以下充填材A1)と、平均粒径2μmの球状ポリオルガノシルセスキオキサン粉末(KMP−590、信越シリコーン社製、以下充填材A2)を用意した。
【0196】
エポキシ樹脂(B)としては、ビスフェノール型エポキシ化合物(B1)としてビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応により得られるジグリシジルビスフェノールA(エポキシ当量180、室温で液体、1分子内にグリシジル基を2個有する化合物、以下化合物B1)を、ポリアルキレンオキサイド骨格およびグリシジルオキシフェニル基を有するエポキシ化合物(B2)として上記一般式(B21)で表される化合物であるポリアルキレンオキサイドジビニルエーテルとビスフェノールAの反応物のジグリシジルエーテル化物(EXA−4850−1000、大日本インキ化学工業(株)製、以下化合物B21)を、脂環式炭化水素またはその連結体基とグリシジル基とを有する化合物(B3)として、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、YX−8000、エポキシ当量205、一般式(B31)のR、R、R、Rが−H、Rが−C(CH−、以下化合物B31)と、ジメチロールシクロヘキサンジグリシジルエーテル(東都化成(株)製、ZX−1658GS、エポキシ当量130〜140、一般式(B32)のR,RがH、nが1、以下化合物B32)とを、単官能エポキシ化合物(B4)として、クレジルグリシジルエーテル(エポキシ当量185、以下化合物B4)をそれぞれ用意した。
【0197】
エポキシ樹脂の硬化剤(D)としては、フェノール系化合物(D1)として、ビスフェノール−F(DIC−BPF、大日本インキ工業社製、水酸基当量100、1分子内に2個のフェノール性水酸基を有する成分の割合が89%以上、以下化合物D1)と、フェノールノボラック樹脂(PR−51470、住友ベークライト社製、水酸基当量104、1分子内に3個以上のフェノール性水酸基を有する成分の割合が90%以上、以下化合物D2)とをそれぞれ用意した。
【0198】
硬化促進剤(E)としては、イミダゾール系化合物(E1)として、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール(キュアゾール2P4MHZ:四国化成工業(株)製、以下化合物E1)と、リン系、アミン系の反応触媒(E2)として、ジシアンジアミド(以下化合物E2)を、それぞれ用意した。
【0199】
アクリル系化合物(C)としては、1分子内にアクリロイル基を2個有する化合物(C1)として、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート(ライトエステル1、6HX、共栄社化学社製、以下化合物C1)を用意した。
【0200】
反応開始剤(F)としては、有機過酸化物(F1)としてジクミルパーオキサイド(パーミクルD、日本油脂社製、急速加熱試験における分解温度:126℃、以下化合物F)を用意した。
【0201】
カップリング剤(G)としては、スルフィド結合を有するものとして、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(A−1289、日本ユニカー社製、以下化合物G)を用意した。
【0202】
次に、表1に示すようにして、充填材(A)と、熱硬化性樹脂(化合物(B)〜(G))とを配合し、3本ロールを用いて混練し脱泡することにより、実施例1〜8および比較例の樹脂組成物を得た。
【0203】
なお、各実施例および比較例とも、充填材および熱硬化性樹脂の各化合物の配合割合は、樹脂組成物中における、充填材および熱硬化性樹脂の各化合物の重量%を表す。
【0204】
【表1】

【0205】
2.評価
2−1.樹脂組成物の硬化物の評価
次に、図2(a)に示すステンレス製の一対の治具61を用い、各パラメータを以下に示すように設定して、測定雰囲気の温度150℃および25℃における各実施例および比較例の亀裂の伝播に要する荷重Lを、上述した方法により、それぞれ10回測定した。そして、この測定結果に基づいて、上記式1および上記式2を用いて、各実施例および比較例について、測定雰囲気の温度150℃および25℃における破壊靭性値(G1C)を算出し、それぞれの平均値を求めた。
【0206】
以上のようにして得られた各実施例および比較例の樹脂組成物の硬化物における破壊靱性値(G1C)の平均値を、それぞれ、下記の表2に示す。
【0207】
2−2.半導体装置(耐リフロー性)の評価
[耐リフロー性評価用の半導体装置の作製]
−1A− まず、ダイパッドと、リードとを備える金フラッシュしたNi−Pdリードフレームを用意した。
【0208】
−2A− 次に、ダイボンダーを用いて、ダイパッド上に、実施例1の樹脂組成物を供給した。
【0209】
−3A− 次に、樹脂組成物上に、6×6mmの半導体素子を載置した後、加熱して、樹脂組成物を硬化した。これにより、半導体素子を固定した。なお、半導体素子の加熱は、150℃のオーブン中で、60分間行った。
【0210】
−4A− 次に、ワイヤーボンディングにより、半導体チップとリードとを、金線で接続した。
【0211】
−5A− 次に、封止材料(スミコンEME−G700H、住友ベークライト社製)を用いてトランスファー成形によりモールド部を形成した。これにより、ダイパッド、半導体素子およびリードの一部等を封止した。
【0212】
−6A− その後、リードフレームからダイパッドと、リードとを切断・分離することにより、QFP(14×20×2.0mm)パッケージの実施例1の(耐リフロー性評価用)半導体装置を40個製造した。
【0213】
また、前記工程−2A−において、ダイパッド上に供給する樹脂組成物を実施例2〜8および比較例の樹脂組成物に代えた以外は、それぞれ、上記と同様にして、実施例2〜8および比較例の(耐リフロー性評価用)半導体装置を製造した。
【0214】
[耐リフロー試験]
次に、各実施例および比較例の(耐リフロー性評価用)半導体装置について、それぞれ、10個ずつ、下記の条件下に晒し、その後、リフロー処理(260℃、10秒、3回リフロー)を行った。そして、リフロー処理後の半導体装置を超音波探傷装置(透過型)により接着層の剥離の程度を測定し、接着層の剥離面積が10%未満の場合を接着層に剥離が生じていない(合格)とした。
【0215】
なお、各条件下に晒された各実施例および比較例の半導体装置において、それぞれ、10個のうち9個以上の半導体装置に接着層の剥離が発生していない場合に、各条件下の耐リフロー試験をクリアしている(○)と評価し、それ以外の場合に、各条件下の耐リフロー試験をクリアしていない(×)と評価した。
【0216】
条件1 :温度30℃、湿度60%RHの条件下に192時間晒した。
条件2 :温度60℃、湿度60%RHの条件下に120時間晒した。
条件3 :温度85℃、湿度60%RHの条件下に168時間晒した。
条件4 :温度85℃、湿度85%RHの条件下に168時間晒した。
【0217】
以上のようにして得られた各実施例および比較例の半導体装置における耐リフロー試験の評価結果を、それぞれ、下記の表2に示す。
【0218】
2−3.半導体装置(熱拡散率変化)の評価
ここで、樹脂組成物の硬化物には半導体チップ(半導体素子)から発する熱による耐熱疲労性を向上させるために、熱伝導性が必要とされる。この熱伝導性は、半田リフロー処理や使用環境で樹脂組成物の硬化物に剥離やクラックなどが生じることにより劣化がおこり、耐熱疲労性に悪影響を及ぼしてしまう。このため、劣化の少ない熱伝導性は樹脂組成物の硬化物の重要な特性といえる。
【0219】
樹脂組成物の硬化物の熱伝導性は、熱伝導率λ[W/cm]で表され、物質の比熱容量をCp[J/g・K]、熱拡散係数をα[cm/sec]、密度をρ[g/cm]とすると、λ=α・Cp・ρの関係が成り立つ。
【0220】
この関係式から明らかなように、樹脂組成物の硬化物に剥離やクラックが生じることで、半導体装置の熱拡散係数αが低下し、その結果、熱伝導性の劣化が起こる。このため、組立工程(製造工程)において、半導体装置の熱拡散率αの変化が小さいことが、安定した熱伝導性を発揮する半導体装置を得るために重要な要素となってくる。
【0221】
そこで、半導体装置の熱拡散率αを評価することを目的に、まず、以下のような熱拡散率評価用の半導体装置を作製した。
【0222】
[熱拡散率評価用の半導体装置の作製]
−1B− まず、ダイパッドと、リードとを備えるAgリングメッキされた銅リードフレームを用意した。
【0223】
−2B− 次に、ダイボンダーを用いて、ダイパッド上に、実施例1の液状樹脂組成物を供給した。
【0224】
−3B− 次に、液状樹脂組成物上に、4×4mmの半導体素子を載置した後、加熱して、液状樹脂組成物を硬化した。これにより、半導体素子を固定した。なお、半導体素子の加熱は、150℃のオーブン中で、60分間行った。
【0225】
−4B− 次に、ワイヤーボンディングにより、半導体チップとリードとを、金線で接続した。
【0226】
−5B− 次に、封止材料(スミコンEME−G770HC、住友ベークライト社製)を用いてトランスファー成形によりモールド部を形成した。これにより、複数のダイパッドおよび半導体素子をパネル状に封止した。
【0227】
−6B− その後、ダイシングソーにより個片化することで、LF−CSP(サイズ:8×8mm、パッドサイズ:6×6mm、ダイサイズ:4×4×0.2mm、リードフレーム厚さ:0.24mm、パッケージ厚さ:0.65mm)の実施例1の半導体装置を10個製造した。
【0228】
また、前記工程−2B−において、ダイパッド上に供給する樹脂組成物を実施例2〜8および比較例の樹脂組成物に代えた以外は、それぞれ、上記と同様にして、実施例2〜8および比較例の半導体装置を製造した。
【0229】
[熱拡散率評価試験]
まず、各実施例および比較例の半導体装置について、それぞれ、10個ずつ、熱定数測定装置(TC−7000、アルバック理工(株)製)を用いてレーザーフラッシュ法(t1/2法)により、以下に示す処理を施す前(処理前)の熱拡散率を算出した。
【0230】
次に、処理前の熱拡散率を測定した、各実施例および比較例の半導体装置について、それぞれ、上述した条件1の条件下に晒し、その後、リフロー処理(260℃、10秒、3回リフロー)を行った。さらに、リフロー処理後の半導体装置を温度サイクル試験(65℃〜150℃、1000サイクル)を行った。
【0231】
これらの処理を行った、各実施例および比較例の半導体装置について、処理前と同様の測定法を用いて、処理後の熱拡散率を算出した。そして、各実施例および比較例の半導体装置について、処理前および処理後に測定された熱拡散率から、それぞれ、熱拡散率変化を求めた([|熱拡散率(処理前)−熱拡散率(処理後)|/熱拡散率(処理前)]×100(%))。
【0232】
なお、レーザーフラッシュ法(t1/2法)による熱拡散率の算出は、半導体装置の一方の面側(例えば、ダイパッド上に半導体素子が載置されている側)から、半導体装置を、レーザ照射することにより、瞬時加熱し、その後、他方の面における温度履歴を測定することにより行うことができる。
【0233】
以上のようにして得られた各実施例および比較例の半導体装置における熱拡散率変化を、それぞれ、下記の表2に示す。
【0234】
【表2】

【0235】
ここで、通常、条件1の条件をクリアすれば、良好な耐リフロー性を有している半導体装置と判断されるが、表2に示すように、各実施例の半導体装置、すなわち、測定雰囲気の温度150℃における破壊靭性値Bが5.0[J/m]以上である接着層を備える半導体装置は、比較例の半導体装置、すなわち、測定雰囲気の温度150℃における破壊靭性値Bが5.0[J/m]以下である接着層を備える半導体装置と比較して、特に優れた耐リフロー性を有していた。
【0236】
また、表2に示すように、各実施例の半導体装置では、熱拡散率変化が小さく(10%未満に)抑えられていたのに対して、比較例の半導体装置では、熱拡散率変化が大きく(60%)なっていた。
【0237】
これらのことから、本発明の半導体装置では、接着層における剥離が好適に防止されていることが明らかとなった。
【0238】
また、各実施例の半導体装置のうち、測定雰囲気の温度150℃における破壊靭性値Bが大きく、さらに測定雰囲気の温度25℃における接着層の破壊靭性値Aが大きく、かつ、接着層の破壊靭性値の変化率A/Bが小さい接着層を備えるものほど、優れた耐リフロー性を有する傾向を示した。
【0239】
このような破壊靭性値Aおよび破壊靭性値Bが大きく、さらに破壊靭性値の変化率A/Bが小さくなる傾向は、実施例1〜3と、実施例4〜6とを比較して明らかなように、エポキシ樹脂(B)として、1官能のもの(B4)を含まず、2官能のもの(B1〜B32)で構成されている場合に認められた。さらに、実施例4〜6を比較して明らかなように、2官能のエポキシ樹脂(B1〜B32)とアクリル系化合物(C)との配合比が適切な量となっている場合に顕著に認められた。
【図面の簡単な説明】
【0240】
【図1】半導体装置の一例を示す縦断面図である。
【図2】破壊エネルギー測定法により樹脂組成物の硬化物の破壊靭性値を求める方法を説明するための図である。
【図3】カップリング剤の一例であるA−1289のDSC曲線である。
【図4】銀粉とカップリング剤の一例であるA−1289との混合物のDSC曲線である。
【符号の説明】
【0241】
10 半導体装置
20 半導体チップ
21 電極パッド
22 導電性ワイヤー
30 ダイパッド
40 リード
50 モールド部
60 接着層
600 接着層
601 ノッチ
61 治具
611 平面
62 突出部
621 貫通孔
63 スペーサー
631 第1の部材
632 第2の部材
633 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子を支持体に接着する際に用いる樹脂組成物であって、
少なくとも1種の熱硬化性樹脂と、充填材とを含有し、
当該樹脂組成物の硬化物を、ASTM D3433に規定の破壊エネルギー測定法により測定したとき、測定雰囲気の温度150℃における破壊靭性値が5.0J/m以上であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記硬化物は、測定雰囲気の温度25℃における前記破壊靭性値が120J/m以上である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
測定雰囲気の温度25℃における前記硬化物の前記破壊靭性値をA[J/m]とし、測定雰囲気の温度150℃における前記硬化物の前記破壊靭性値をB[J/m]としたとき、前記破壊靭性値の変化率A/Bが40以下である請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂およびアクリル系化合物のうちの少なくとも一方を含有する請求項1ないし3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂は、前記エポキシ樹脂を含有し、該エポキシ樹脂よりも少量の前記アクリル系化合物を含有する請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂は、2種以上の前記エポキシ樹脂を含有する請求項4または5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記充填材は、導電性を有する粒子である請求項1ないし6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記粒子は、主として銀で構成されている請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂組成物は、その25℃における粘度が10〜30Pa・Sである請求項1ないし8のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化物により、少なくとも1つの半導体素子を支持体に接着してなることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−13294(P2009−13294A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176789(P2007−176789)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】