説明

機器筐体

【課題】熱吸収性と熱放射性に優れ、筐体内部の温度を効率よく低下させることが可能な機器筐体を提供する。
【解決手段】本発明によれば、内部に発熱源を有する筐体を構成する面のうち、少なくとも1面を成す金属板の両面の赤外線放射率が0.7以上であり、且つ、該金属板に、表面積向上率が10%以上100%以下となる凹凸を設けた機器筐体が提供される。かかる機器筐体は、熱吸収性と熱放射性に優れ、筐体内部の温度を効率よく低下させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に発熱源を有する機器の筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
家電分野、機械分野、自動車分野等で内部に発熱源を有する機器の筐体に表面の放射率を高めた金属板を用いることで内部に発生した熱を効率的に筐体外部に放出する特許文献技術が特許文献1〜4に公開されている。当該技術は、特に家電分野の電子回路を発熱源とする機器や部品の筐体に使用されており、当該金属板を用いることで、塗膜で電子回路の発熱量を抑制することができるため、近年、広がりつつある。
【0003】
【特許文献1】特開2004−256871号公報
【特許文献2】特開2006−175804号公報
【特許文献3】特開2004−74145号公報
【特許文献4】特開2004−74412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、各種機器の機能向上、性能向上にともない、各種機器の発熱量が増加し、更なる熱対策に対する要望が高まってきている。例えば、家電分野においては、各種家電製品のデジタル化に伴い、家電製品に搭載する電子回路数が増大、または、搭載する電子回路の性能が向上し、集積回路から発生する発熱量が増加している。電子部品は熱に弱いため、発熱量が増加すると、例えば、電子回路の演算効率が低下するため、機器筐体内部の温度をより低下させたいとの要望が高まってきている。特に電子部品においては、1度の温度低下でも電子回路の作動効率が上がるため、温度を下げたいとの要望がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来技術の現状に鑑み、熱吸収性と熱放射性に優れ、筐体内部の温度を効率よく低下させることが可能な機器筐体を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために完成されたものであって、本発明がその要旨とするところは、以下の通りである。
【0007】
(1) 内部に発熱源を有する筐体を構成する面のうち、少なくとも1面を成す金属板の両面の赤外線放射率が、各々0.7以上であり、且つ、該金属板に、下記式1で定義される表面積向上率が10%以上100%以下となる凹凸を設けたことを特徴とする、機器筐体。
(2) 前記凹凸の凸部の山の勾配斜面と凸部を設けていない平面部とのなす角度を勾配角度θと定義した場合、θ≦45°であることを特徴とする、前記(1)に記載の機器筐体。
(3) 前記筐体の少なくとも一面を構成する前記金属板の両面が、熱吸収性材と、バインダーとしての樹脂と、を含有する熱吸収性皮膜であることを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載の機器筐体。
(4) 前記筐体の少なくとも一面を構成する前記金属板が、38%以上の伸びを有する金属板に予め熱吸収性皮膜を被覆したものを成形加工して得られるものであることを特徴とする、(1)〜(3)いずれかに記載の機器筐体。
(5) 前記筐体の少なくとも一面を構成する前記金属板の少なくとも内面側が、熱伝導性を有する熱吸収性皮膜であることを特徴とする、前記(1)〜(4)に記載の機器筐体。
(6) 前記熱伝導性を有する熱吸収性皮膜が、熱吸収性物質と、熱伝導性物質と、バインダーとしての樹脂と、を含有する皮膜であることを特徴とする、前記(5)に記載の機器筐体。
(7) 前記熱伝導性物質が、100℃での熱伝導率が80w/m・K以上である物質であり、且つ、乾燥皮膜中の前記熱伝導性物質の添加量が、10vol%以上であることを特徴とする、前記(6)に記載の機器筐体。
(8) 前記熱吸収性皮膜が下記a)〜d)の条件を満たすことを特徴とする、前記(6)又は(7)に記載の機器筐体。
a)バインダー樹脂が、数平均分子量5000〜25000、ガラス転移温度10〜35℃であるポリエステル樹脂をアミノプラスト樹脂またはイソシアネートで架橋したものである。
b)熱吸収性物質が、カーボンブラックである。
c)熱伝導性物質が粒状であり、且つ、その平均粒径Dが、熱吸収性皮膜の膜厚tに対して0.8t≦D≦1.2tの範囲内である。
d)熱吸収性皮膜中にフッ素系ワックスが添加されている。
(9) 前記筐体の少なくとも一面を構成する熱吸収性皮膜を被覆した金属板が、プレコート金属板であることを特徴とする、前記(3)〜(8)に記載の機器筐体。
【0008】
【数1】

・・・(式1)

【発明の効果】
【0009】
本発明により、内部に発熱源を有する機器筐体の内部温度を低下させ、機器の発熱問題を低減することが可能となる。また、熱源が電気・電子回路である電気・電子機器、特にデジタル家電の筐体に本発明技術を用いると、電気機器筐体内部の温度が低減するため、電気・電子機器が効率的に作動し、電気・電子機器の作動効率化または省エネルギー化に寄与することができる。従って、本発明は産業上、極めて価値の高い発明であると言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0011】
本発明は内部に発熱源を有する機器の筐体に関するものであり、特に、例えば、家電用、機械用、自動車用の部品または本体を覆う筐体に関する。
【0012】
本願発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討したところ、以下に示すような知見に想到した。すなわち、発熱体を内部に有する機器の筐体に表裏面の赤外線放射率が高い金属板を適用し、且つ、その金属板の表面積を成形加工により高め、成形加工前の平滑な面と比較して10%以上の表面積向上率を得ることで、機器筐体内部の温度を1℃以上低下させることができることを見出した。
【0013】
更に、金属板表面に被覆されている放射率を高めるための熱吸収性皮膜の熱伝導率を高めることで、更に機器筐体内部の温度を低下させることができることを見出した。
【0014】
ここで、金属板の表面積を高めるためには、表層に多数の凹凸を成形加工によって設けなければならず、公知となっている表面の赤外線放射率が高い金属板に多数の凹凸を設けようとすると、金属板が破断してしまったり、成形時にプレス金型と金属板表面が擦れて表面に被覆された赤外線放射率を高めるための表面処理皮膜が剥離したりするなどの問題があった。
【0015】
そこで、本願発明者らは更に検討を重ね、伸び率の高い金属板に、比較的分子量が高く且つ常温付近のガラス転移温度を持つ樹脂に、熱吸収性顔料と、特定の熱伝導性物質と、特定のワックスと、を添加した皮膜を被覆することで、成形加工によって皮膜が剥離することなく赤外線放射率の高い金属板に多数の凹凸を設けることができることを見出した。
【0016】
更に、本願発明者らは、熱吸収性皮膜の熱伝導率を高めると、筐体内面で吸収した熱をより効率よく筐体外面に伝えて筐体外部に放出することが可能となるため、筐体の熱吸収効率が高まり、筐体内部の温度がより低くなることを見出した。
【0017】
以下に、上記知見を基に完成された本願発明について、詳細に説明する。
【0018】
本発明は、内部に発熱源を有する筐体(例えば、立方体形状またはこれに準ずる形状等の多面体形状)の少なくとも一面が表面に赤外線放射性を有する金属板であり、且つ、該金属板の外面と内面の両面の赤外線放射率がそれぞれ0.7以上であり、且つ、該金属板に凹凸を設け、その凹凸が下記式1に定義した表面積向上率が10%以上100%以下となることによって達成される。この表面積向上率は、より好ましくは10%以上60%以下である。
【0019】
ここで、凹凸形状は特に限定するものではないが、例えば図1に示したような形状が例示できる。表面積向上率が10%未満であると、筐体内部の温度が低下しないため、好ましくない。また、面積向上率は10%以上であれば、高いほど良いが、折り曲げ加工で断面が三角形状に加工した場合に、凹凸の凸部の山の斜面と凸部を設けていない平面部とのなす角度である勾配角度θを60°とした場合が経験的な加工限界であり、これよりθが大きいと、加工が困難になる。
【0020】
ここで、この様に曲げ加工にて加工した三角断面の波型形状の山の高さを6mmとして表面積向上率を計算すると、表面積向上率は95%程度であるため、この値を面積向上率の限界値とすることができる。更に、凹凸形状を曲げ加工ではなく、張り出し成形又は絞り成形で加工した場合、世の中にある金属板の単軸引張試験による伸び率は60%程度が限界であり、この様に伸びの高い金属板を用いて凹凸加工を施しても面積向上率は60%が限界であると考えられるため、上限は60%であるとより好ましい。また、面積向上率を60%超100%以下とするためには、後述する凹凸の凸部の山の斜面と凸部を設けていない平面部との角度で定義される勾配角度θが45°超となる恐れがあり、熱吸収効率が低下する恐れがある。
【0021】
【数2】

・・・(式1)

【0022】
更に、前記凹凸の凸部の山の斜面と凸部を設けていない平面部との角度を勾配角度θと定義した場合、θ≦45°であると熱放射性により優れるため、より好ましい。凸部の山の勾配斜面と凸部を設けていない平面部との角度(勾配角度)θは、例えば図2に示す角度θを表す。θ>45°となる構造であると、例えば図3に示すように、凸部の山の裾野付近から放射した熱が、隣接する凸部と干渉して、隣接する凸部表面で吸収される恐れがある。
【0023】
本発明の赤外線放射率が0.7未満であると、熱吸収性機能が低下し、筐体内部の温度が低下しないため、好ましくない。ここで、本発明における赤外線放射率とは、80℃以上のいずれかの温度で測定した波数600〜3000cm−1の領域における全放射率である。波数600cm−1未満、または、3000cm−1超の波数領域の放射線は、熱に与える影響が非常に小さいため、これらの波数領域の放射線を含めた放射率は好ましくない。
【0024】
本発明の金属板表面の赤外線放射率を0.7以上にするためには、バインダー樹脂と熱吸収性物質とを含有する熱吸収性皮膜で金属板を被覆することで達することができる。本発明に用いる熱吸収性材は、一般に公知の赤外線吸収性の高い材料、例えば、カーボン、グラファイトなどを用いることができる。特にカーボンブラックはバインダー樹脂などと混合しやすく、より好適である。なお、赤外線放射率の上限値は特に定めないが、理論的に1.0が上限値であり、これが実質的な上限値となる。
【0025】
また、熱吸収性物質の添加量は、熱吸収材の種類によっても異なるため、必要に応じて適宜選定することができる。
【0026】
本発明の金属板に凹凸を設ける方法は、一般に公知の加工方法、例えば、折り曲げ加工、張り出し加工、絞り加工などにて加工することができる。プレス機を用いて加工するプレス加工や金属ロールで成形するロールフォーミング加工などで行うと、効率よく加工でき、より好ましい。凹凸の形状は特に規定するものではないが、図1に例示したような断面形状の凹凸を多数設けることで得ることができる。
【0027】
各形状のサイズ、凹凸の個数は特に規定するものではなく、金属板の表面積向上率が10%以上となる形状であれば、任意に選ぶ事ができる。鋼材や筐体としての取り扱いの観点からは、凹凸の高さは例えば20mm以下が好ましい。表面積の向上率や凹凸の数や加工形状の観点からは、凹凸の高さは例えば1mm以上が好ましい。図1の断面形状は例示であり、金属板の表面積向上率が10%以上となる形状であれば、例示した以外の形状でも良い。更に、予め熱吸収性皮膜を被覆した金属板、いわゆるプレコート鋼板を前記方法で凹凸を設けたものであると、生産工程が簡便で、より好ましい。
【0028】
本発明の金属板筐体の少なくとも内面側の熱吸収性皮膜に、熱伝導率の高い材料(以降熱伝導性物質と称する。)が含まれていると、皮膜最表層で吸収した熱を熱伝導性の高い材料を介して皮膜下の金属板表層までより効率的に伝えやすくなるため、好ましい。更に、熱伝導性物質が導電性を有していると、電気・電子機器から発生する電気や電磁波漏洩を防ぐためのアースや電磁波シールド特性が付与でき、より好ましい。本発明に用いる熱伝導性物質は、例えば、100℃で80w/m・K以上の高い熱伝導率を有しているものであり、且つ、その添加量が皮膜全体の体積濃度で10vol%以上であると、皮膜に熱伝導性が付与されて効率良く筐体内部の熱を筐体外部に放出するため、好ましい。
【0029】
更に、本発明に用いる熱伝導性物質は、100℃で200w/m・K以上の高い熱伝導率を有しているものであり、且つ、その添加量が皮膜全体の体積濃度で10vol%以上であるものであってもよい。このような熱伝導性物質を用いることで、皮膜に熱伝導性が付与され、効率良く筐体内部の熱を筐体外部に、より効率よく熱を放出することが可能となる。
【0030】
本発明に用いる熱伝導率の高い材料は、一般に公知の熱伝導材料を用いることができ、例えば、Ni、Al、銅などの金属微粒子やグラファイトなどを用いることできる。より詳細には、100℃で80W/m・K以上の熱伝導率を有するものとしては、例えば、マグネシウム、ニッケルなどを用いる事ができ、100℃で200W/m・K以上の熱伝導性物質としては、例えば、アルミニウム、銅、窒化アルミニウム、銀、金などを用いる事ができる。熱伝導率の上限値は特に定めないが、既知の熱伝導物質のなかで最も高い熱伝導率を有するグラファイトシートの熱伝導率が700〜1600W/m・K(例えば、松下電器産業社製の「GPSグラファイトシート」など)であることから、実質的な上限値は、例えば1600W/m・Kとなる。
【0031】
また、前記熱伝導性の高い熱伝導性物質は、粒子であり、且つ、その粒子の平均粒径Dが0.8t≦D≦1.2tであると、皮膜最表層で吸収した熱を熱伝導性の高い材料を介して皮膜下の金属板表層までより効率的に伝えやすくなるため、好ましい。ここで、上記式中のtは、熱吸収性皮膜の膜厚である。
【0032】
本発明に用いる樹脂は、例えば、ガラス転移温度が10〜35℃であることが好ましい。ガラス転移温度が10℃未満の場合、加工時の皮膜傷入りや、加工のプレス金型によって皮膜が削り取られる現象(一般に皮膜カジリと呼ばれる。)が起こる恐れがある。また、ガラス転移温度が35℃超の場合は、皮膜が脆くなり、これを加工して凹凸を設けて表面積を10%以上広くする際に、皮膜が破壊され亀裂や剥離が生ずる恐れがある。
【0033】
本発明に用いる熱吸収性皮膜に用いるバインダー樹脂は、一般に公知のコーティング用バインダー樹脂、例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などを用いることができる。架橋材を用いた熱硬化型バインダー樹脂であるとより効果的である。特に、数平均分子量5000〜25000、ガラス転移温度10〜35℃であるポリエステル樹脂をアミノプラスト樹脂またはイソシアネートで架橋したものであると、カーボンブラックなどの熱吸収性材を添加し、且つ、熱伝導性を有する熱伝導性物質を10vol%以上添加したときに、皮膜が脆くならず、皮膜の加工性にも優れるため、より効果的である。
【0034】
樹脂の数平均分子量が5000未満の場合、または、ガラス転移温度が35℃超の場合は、皮膜が脆くなり、これを加工して凹凸を設けて表面積を10%以上広くする際に皮膜が破壊され、亀裂や剥離が生ずる恐れがある。また、樹脂の数平均分子量が25000超の場合、または、ガラス転移温度が10℃未満の場合は、これを加工して凹凸を設けて表面積を10%以上広くする際に、皮膜に傷が入ったり、加工のプレス金型によって皮膜が削り取られたりする現象(一般に皮膜カジリと呼ばれる。)が起こる恐れがある。
【0035】
本発明の熱吸収性皮膜中にフッ素系ワックスが添加されていると、熱吸収性皮膜を予め塗装した金属板を成形加工して凹凸を設けて表面積を10%以上広くする際に、加工のプレス金型による皮膜カジリが起こりにくく、より好ましい。
【0036】
皮膜中にワックスを添加して、皮膜カジリを抑制する技術は、一般的に知られているが、通常のワックス、例えばカルナバワックスやポリエチレンワックスは、これらを添加した皮膜を焼き付けて効果させる際に、熱溶融して皮膜の表層に濃化したり、熱伝導性の高い熱伝導性物質の周りに吸着したりして熱伝導性や導電性の機能発揮を阻害することが課題であった。本願発明者らは鋭意検討し、熱伝導性の高い熱伝導性物質とフッ素系ワックスとを併用して用いることで、高い熱伝導性と高い導電性とを担保して、高い摺動性を得ることができることを見出した。フッ素系ワックスは、皮膜を焼付け硬化する時の熱で溶融しにくく、樹脂自身の比重も高いため、塗膜表層に濃化したり、熱伝導性の高い熱伝導性物質表面に吸着しにくいためである。
【0037】
本願発明で用いる金属板は、一般に公知の38%以上の伸びを有する金属板、例えば、アルミ板、銅板、鋼板などを使用することができる。めっきされた金属板を用いても良い。本発明の金属板の伸びが38%未満であると、成形加工して凹凸を設ける際に、板破断が発生するため好ましくない。特に、本願発明の鋼板の使用を想定している筐体は、熱放射性に加え電磁波シールド性を要求される場合が殆どである。従って、他部材との接合部については、平坦であることが望ましく、例えば用いる鋼板が長方形の場合、接合部となる4辺がフラットで、接合に関係のない内部のみに凹凸を形成することとなり、鋼板には、より厳しい加工特性が要求されることとなる。この成形加工に関して、より好ましくは、ランクフォード値r≧1.5である事が好ましい。r値が1.5未満であると、厳しい絞り加工や張出し加工によって凹凸を設ける際に、母材である金属板が破断する恐れがある。
【0038】
伸びが38%以上の金属板としては、JIS.G3141に記載されている冷間圧延鋼板(以降、冷延鋼板)SPCDの板厚0.6mm以上のものやSPCEの板厚0.4mm以上のもの、JIS.G3302に記載されている溶融亜鉛めっき鋼板SGCD2の板厚0.6mm以上のもの、SGCD3の板厚0.4mm以上のもの、SGCD3、JIS.G3313に記載されている電機亜鉛めっき鋼板SECDの板厚0.6mm以上のものやSECEの板厚0.4mm以上のものなどを使用する事ができる。金属板は、熱伝導率の高いものであれば、金属板筐体内側の面で吸収した熱をより効率良く金属板筐体の外側へ伝達し、放熱することができるため、より好ましい。金属板の熱伝導率は、例えば、200W/m・K以上であるとより好適である。
【0039】
めっきされた金属板の場合、めっきの種類は特に限定するものではないが、例えば、電気めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛−アルミ合金めっき鋼板、合金化亜鉛めっき鋼板、亜鉛―ニッケル合金めっき鋼板、アルミめっき鋼板を用いることができる。特に導電性の視点では、めっき層に不純物が少なく製造工程でめっき層が酸化し難い電気亜鉛めっき鋼板を用いると、より好ましい。しかし、熱伝導性という視点から考えると、めっき層は、熱伝導率の高いものであれば、金属板筐体内側の面で吸収した熱をより効率良く金属板筐体の外側へ伝達し、放熱することができるため、より好ましい。めっき層の熱伝導率は、例えば、200W/m・K以上であると、より好ましい。また、200W/m・K以上の熱伝導率を有するめっき層を施しためっきされた金属板の場合、めっき層の厚みは片面あたり50μm以上であると、熱伝導性の効果がより発揮されるため、より好ましい。
【0040】
金属板表面には、熱吸収性皮膜との密着性を高めるために化成処理を施しても良い。化成処理は、一般に公知のもの、例えば、クロメート処理、シランカップリング剤系の処理、樹脂系の処理、シリカ系の処理を使用することができる。これらの処理を組み合わせた、または、混合した複合処理を用いても良い。市販の化成処理を施しても良く、例えば、日本パーカライジング社製のクロメート処理「ZM−1300AN」、日本パーカライジング社製のクロメートフリー化成処理「CT−E300N」、日本ペイント社製の3価クロム系化成処理「サーフコート(登録商標) NRC1000」等を使用することもできる。ただし、環境負荷物質低減の観点から、6価クロムを含まない化成処理を用いるとより好適である。
【実施例】
【0041】
[実施例−1]
以下、実施例−1の実験について詳細を説明する。
まず、実施例−1の実験に用いたトップ塗料について詳細を説明する。
東洋紡社製の非晶性ポリエステル樹脂である「バイロン(登録商標)GK140」(Tg:20℃、数平均分子量:13000、以降、ポリエステルと称す)に、架橋剤と触媒を添加してクリヤー塗料を作製した。ポリエステル樹脂は、ペレット状態の樹脂を溶剤に溶解して用いた。溶剤は、シクロヘキサノンとソルベッソ150を質量比で[シクロヘキサンノン]:[ソルベッソ150]=1:1で種混合したものを用いた。架橋剤は、アミノプラスト樹脂である三井サイテック社製の完全アルキル型メチル化メラミン樹脂「サイメル(登録商標)303」を用い、ポリエステル樹脂固形分100質量部に対して、アミノプラスト樹脂固形分が20質量部となる様に添加した。触媒は、三井サイテック社製の揮発性塩基性物質で中和したタイプである「キャタリスト602」を用い、ポリエステル樹脂とアミノプラスト樹脂の合計固形分を100質量部に対して、0.5質量部添加した。
【0042】
次に、作製したクリヤー塗料に、熱吸収材として東海カーボン社製のカーボンブラック「トーカブラック(登録商標)#7350/F」を、熱伝導性物質して熱伝導率が81W/m・Kで平均粒径が2.6〜3.3μmであるNi粒(INCO社製「ニッケルパウダー287」)及び熱伝導率が398W/m・Kである銅粉を平均粒径が3.0μmとなるように粉砕、分級したものを添加した。熱吸収材の添加量は、ポリエステル樹脂の固形分100質量部に対して、15質量部添加した。熱伝導性物質については、ポリエステル100質量部に対して30質量部添加したもの、89質量部添加したもの、134質量部添加したもの、178質量部添加した塗液をそれぞれ作成した。熱伝導性物質を添加しない塗液も作成した。
【0043】
なお、ポリエステル樹脂の比重を1.25(カタログ値)、アミノプラスト樹脂の比重を1.2(カタログ値)、カーボンブラックの比重を1.85(文献値)、Ni粒の比重を8.9(文献値)として体積濃度を計算すると、ポリエステル100質量部に対して30質量部添加した熱伝導性物質(銅粉、Ni粒)の体積濃度は3.1vol%、89質量部添加した導電材の体積濃度は8.4vol%、134質量部添加したものは12.5vol%、178質量部添加したもの16vol%となる。
【0044】
更に、作成した塗液にはフッ素系ワックスとして、ダイキン工業社性のPTFE系ワックス「ルブロン(登録商標)L−5」を、ポリエステル樹脂固形分に対して2質量部添加した。
【0045】
以下、実施例−1の実験に用いた金属板について詳細を説明する。
【0046】
板厚0.6mmの電気亜鉛めっき鋼板(SECE、伸び42%、r値1.8、亜鉛付着量片面あたり20g/m)を原板として準備した。なお、以降、電気亜鉛めっき鋼板をEGと称する。
【0047】
次に、準備した原板を、日本パーカライジング社製のアルカリ脱脂液「FC−4336」の3質量%濃度、50℃水溶液にてスプレー脱脂し、水洗後、乾燥した後に、日本パーカライジング社製のクロメートフリー化成処理である「CT−E300N」をロールコーターにて塗布し、熱風オーブンにて乾燥させた。熱風オーブンでの乾燥条件は、金属板の到達板温で60℃とした。クロメートフリー処理の付着量は、全固形分で200mg/m付着するように塗装した。
【0048】
次に、化成処理を施した金属板の両方の面に、作製した塗液をロールコーターにてそれぞれ塗装し、熱風を吹き込んだ誘導加熱炉にて金属板の到達板温が230℃となる条件で乾燥硬化した。そして、乾燥硬化後に、塗装された金属板へ水をスプレーにて拭きかけ、水冷することでサンプル金属板を作成した。
【0049】
作製したサンプル金属板の熱吸収性皮膜の膜厚は、3μmとした。なお、各膜厚はKET社製の電磁膜厚計「LE−200J」にて測定した。
【0050】
以下、作成した金属板の加工について詳細を説明する。
【0051】
平たいプレス金型に、直径12.5mmの半球状の凸部を有するプレス金型と、この凸部に合う様に凹部を設けたプレス金型を作成した(凸部と凹部とのクリアランスは1.0mmとした。)。これらをプレス機にセットした後、凹凸金型の間に150mm×285mmサイズに切断したサンプル金属板を挿入してプレス加工することで、凹凸を有する筐体金属板を得た。また、金属板に設ける凹凸の個数によって、金属板の表面積をコントロールした。そして、それぞれの表面積向上率を計算した。更に半球状の凸部の高さをプレス機によって調整することで、図2に示すθを調整した。θは、プレス後の凸部の断面を切断することで断面形状から測定した。また、プレス加工により図4に示すような波型形状の筐体金属板も得た。波型の形状は、図4(a)の台形形状及び図4(b)の三角形状(以降、三角Iと称する。)のものをそれぞれ作成した。台形形状の場合、図2(A)の各斜面及び水平面の長さL4=L5=L6=L7=5mmとし、凸部の山の高さH=5mmとした。三角形状の場合、図2(D)の各斜面及び水平面の長さL1=L2=L3=5mmとし、凸部の山の高さは台形、三角形のいずれの形状もH=5mmとした。また、台形や三角形の波型形状の各コーナーは、R=1mmの丸みを設けた。また、折り曲げ加工によって、図4(c)に示す三角形状(以降、三角IIと称する。)のサンプルも作成した。三角IIの各寸法は図2(D)の各斜面及び水平面の長さL1=L2=5mm、L3=0mmとし、凸部の山の高さH=6mmとした。なお、図4においては、形成した凸部の個数は、省略して図示している。
【0052】
以下、作成した筐体金属板の評価試験について詳細を説明する。
【0053】
1)表面処理金属板の放射率測定
日本分光社製のフーリエ変換赤外分光光度計「VALOR−III」を用いて、表面処理金属板の板温度を80℃にしたときの波数600〜3000cm−1の領域における赤外発光スペクトルを測定し、これを標準黒体の発光スペクトルと比較することで、表面処理金属板の全赤外線放射率を測定した。なお、標準黒体は鉄板にタコスジャパン社販売(オキツモ社製造)の「THI−1B黒体スプレー」を30±2μmの膜厚でスプレー塗装したものを用いた。なお、放射率は金属板両面について測定した。
【0054】
2)筐体熱特性測定試験
図5に示す測定箱(筐体)を作成して試験を行った。測定箱1は、未処理の板厚0.6mmの電気亜鉛めっき鋼板で作成された、上面が解放された(金属板の無い)箱状のものである。この測定箱の解放された面に、熱吸収性金属板2(すなわち、サンプル金属板)で覆い、この状態で、熱源であるヒーター3に温度コントローラー4にて10Wの投入電力を入れ、測定箱1内に設置した熱電対5の温度を、デジタル温度計6で測定した。
【0055】
評価は、作成したサンプルにプレス加工により凹凸をつけたもので測定した筐体内部温度(凹凸有り温度)と、凹凸有り温度を測定したときと同じ熱吸収性金属板で凹凸をつけなかった平坦なもの(プレス加工しなかったもの)で測定した筐体内部温度(凹凸無し温度)とについて、同じ水準サンプル間で比較し、以下の基準で評価した。なお、作製した各種サンプルを熱吸収性金属板2として測定箱の解放した面で覆う際に、成形精度の悪かったサンプルや波型形状サンプルについては隙間が生じたため、この隙間は、信越化学工業社製の一液型「シリコーンRTVゴム」にて埋めた。
【0056】
以下、凹凸有無の違いで測定した温度の評価基準を説明する。
[{(凹凸有り温度)−(凹凸無し温度)}≧3℃]のとき:◎
[{(凹凸有り温度)−(凹凸無し温度)}≧2℃]のとき:○
[{(凹凸有り温度)−(凹凸無し温度)}≧1℃]のとき:△
[{(凹凸有り温度)−(凹凸無し温度)}<1℃]のとき:×
【0057】
また、同じ表面積向上率を有する熱吸収性金属板で、導電顔料(Ni粒)が未添加の熱吸収性金属板を用いて測定した温度(熱伝導性物質無し温度)と、各評価試験水準の金属板(熱伝導性物質有り温度)と、を比較し、以下の基準で評価した。
【0058】
以下、熱伝導性物質有無の違いで測定した温度の評価基準を説明する。
[{(熱伝導性物質有り温度)−(熱伝導性物質無し温度)}≧3℃]のとき:◎
[{(熱伝導性物質有り温度)−(熱伝導性物質無し温度)}≧2℃]のとき:○
[{(熱伝導性物質有り温度)−(熱伝導性物質無し温度)}≧1℃]のとき:△
[{(熱伝導性物質有り温度)−(熱伝導性物質無し温度)}<1℃]のとき:×
【0059】
3)皮膜加工性評価
プレス加工により凹凸を設けた金属板の凹凸加工部を、目視と10倍ルーペにて観察し、凹凸加工部に皮膜の亀裂の発生有無を評価した。
【0060】
以下、皮膜加工部の評価基準を説明する
10倍ルーペで観察しても皮膜に亀裂が認められないとき:○
10倍ルーペで観察すると皮膜に亀裂が認められるが、目視では認められないとき:△
目視でも皮膜の亀裂が認められるとき:×
【0061】
4)皮膜密着性評価
プレス加工により凹凸を設けた金属板の表面を目視にて観察し、プレス金型とのカジリによる皮膜剥離発生有無を評価した。
【0062】
以下、プレス金型による皮膜カジリの評価基準を説明する
プレス金型とのカジリによる皮膜剥離、キズが発生していないとき:○
プレス金型とのカジリにより皮膜にキズは入っているが、塗膜剥離はないとき:△
プレス金型とのカジリにより皮膜が剥離していたとき:×
【0063】
5)導電性試験
作成した表面処理金属板の導電性を有する熱伝導性物質を含む皮膜面側の導電性を、測定した。測定方法は、三井化学社製の抵抗率計「Loresta−EP/MCP−T360」の四端子法にて表面処理金属板の表面の抵抗率を測定し、以下の基準で評価した。
【0064】
抵抗率が0.1×10−2Ω未満の場合:○
抵抗率が0.1×10−2以上1.0×10−1Ω未満の場合:△
抵抗率が1.0×10−1Ω以上の場合:×
【0065】
以下評価結果の詳細について述べる。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に実施例1の評価結果を示す。本発明の金属筐体(本発明例−1〜12)は、表面積向上率を10%以上にすることで、凹凸を設けていない平坦な金属板で作成した筐体(比較例−15)より筐体内部の温度をより低くすることができることを確認した。また、熱伝導率が80W/m・K以上の熱伝導性物質を熱吸収性皮膜中に添加したもの(本発明例−1〜5及び8〜11)は、導電性に優れるため、好適である。特に100℃での熱伝導率が200W/m・K以上のものを皮膜中に10vol%以上添加したもの(本発明例1〜3及び7〜9)は、筐体の熱特性にもより優れ、より好適である。
【0068】
また、面積向上率が最も大きくできたものは本発明例−11であり、これよりも面積向上率を大きくしたものは板破断などが発生し、作成することはできなかった。
【0069】
凹凸を設けても表面積向上率が10%未満のもの(比較例−14)は、凹凸を設けない比較例−13と比べて筐体内温度が殆ど変わらないため、不適である。
【0070】
[実施例−2]
以下、実施例−2の実験について詳細を説明する。
まず、実施例−2の実験に用いたトップ塗料について、詳細を説明する。
【0071】
実施例−2では、バインダー樹脂として東洋紡績社製の「バイロン(登録商標)650」(Tg:10℃、数平均分子量:23000、比重:1.21)、「バイロン(登録商標)GK130」(Tg:15℃、数平均分子量:7000、比重:1.25)、「バイロン(登録商標)BX1001」(Tg:−18℃、数平均分子量:28000、比重:1.19)、「バイロン(登録商標)600」(Tg:47℃、数平均分子量:7000、比重:1.25)を用いた。更に、架橋剤として、アミノプラスト樹脂「サイメル(登録商標)303」と住化バイエルウレタン社製のイソシアネート「デスモジュール(登録商標)BL4265SN」(比重:1.03)を用いた。アミノプラスト樹脂を使用する場合は、実施例−1で用いた触媒を用いた、触媒やアミノプラスト樹脂の添加量も実施例−1と同じにした。イソシアネートを硬化剤に使用する場合は、ポリエステル樹脂のOH基当量とイソシアネートのNCO基当量が同じとなるように添加した。その他、クリヤー塗料の作製方法は、実施例−1と同じにした。
【0072】
次に、作製したクリヤー塗料に、熱吸収材として東海カーボン社製のカーボンブラック「トーカブラック(登録商標)#7350/F」を、熱伝導性物質として100℃での熱伝導率が398w/m・Kで平均粒径が3.0μmとなるように粉砕、分級した銅粉を添加した。熱吸収材の添加量は、ポリエステル樹脂の固形分100質量部に対して15質量部、熱伝導性物質はポリエステル樹脂固形分100質量に対して178質量部添加した塗液を作成した。比較に用いる熱伝導性物質を添加しない塗液も作成した。
【0073】
なお、熱伝導性物質の添加量は、文献より各金属の比重を調べて、計算で皮膜中の体積濃度が16vol%となるように添加した。
【0074】
以下、実施例−2の実験に用いた金属板について詳細を説明する。
0.6mmの電気亜鉛めっき鋼板(SECE、伸び42%、r値1.8、亜鉛付着量片面あたり20g/m)を原板として準備した。また、0.4mmの電気めっき鋼板(SECC、伸び34%、r値1.0、亜鉛付着量片面あたり20g/m)と0.6mmの電気亜鉛めっき鋼板(SECD、伸び39%、r値1.4、亜鉛付着量片面あたり20g/m、本材料を以降SECD−1と称する。)、0.6mmの電気亜鉛めっき鋼板(SECD、伸び37%、r値1.4、亜鉛付着量片面あたり20g/m、本材料を以降SECD−2と称する。)も準備した。これら原板に、実施例−1で用いたと同じ方法で作成した塗液を被覆して、熱吸収性皮膜を塗装した。熱吸収性皮膜の膜厚も実施例−1と同じとした。
【0075】
以下、作成した金属板の加工について詳細を説明する。
実施例−1の本発明例−1で用いたと同じ方法で凹凸を設けた。凹凸の個数は、何れも512個で、金属板表面の表面積向上率も、何れも12.6%とした。
【0076】
以下、実施例−2で作成した筐体金属板の評価試験について詳細を説明する。
実施例−1で実施した1)〜5)と同じ評価試験を実施した。ただし、2)筐体熱特性測定試験については、凹凸有無の比較のみを行なった。
【0077】
以下実施例−2の評価結果の詳細について述べる。
【0078】
【表2】

【0079】
本発明の金属筐体に被覆する熱吸収性皮膜のバインダー樹脂においては、一般に公知のバインダー樹脂を用いても良いが、数平均分子量5000〜25000、ガラス転移温度10〜35℃であるポリエステル樹脂をアミノプラスト樹脂またはイソシアネートで架橋したもの(本発明例−16〜23)であると、加工性や密着性に優れ好適である。ガラス転移温度が10℃未満で数平均分子量が25000超の樹脂を用いたもの(本発明例−20)は、皮膜密着性に劣り、ガラス転移温度が35℃超で数平均分子量が5000未満のもの(本発明例−21)や、数平均分子量は5000〜25000であるがガラス転移温度が35℃超のものは、加工性に劣る傾向がある。更に、熱吸収性皮膜中にフッ素系ワックスを添加しなかったもの(本発明例−19)は、プレス加工時の皮膜密着性(塗膜カジリ性)が低下する傾向がある。また、母材の伸び率が38%以上でもr値が1.5未満のもの場合(本発明例−23)は、加工した凸部の裾の付近で母材の肉厚が局部的に薄くなっており、母材破談が発生する寸前の状態であったため、r値は1.5以上がより好適である。また、原板である金属板に38%未満の伸びを有するもの(比較例−24、25)を用いると、凹凸を設けた際に母材である金属板が破断してしまうため、不適である。
【0080】
[実施例−3]
以下、実施例−3の実験について詳細を説明する。
【0081】
まず、実施例−3の実験に用いたトップ塗料について詳細を説明する。
実施例−1と同じ東洋紡社製の非晶性ポリエステル樹脂である「バイロン(登録商標)GK140」(Tg:20℃、数平均分子量:13000、以降、ポリエステルと称する。)に、三井サイテック社製のアミノプラスト樹脂「サイメル(登録商標)303」と三井サイテック社製の揮発性塩基性物質で中和したタイプである「キャタリスト602」を添加してクリヤー塗料を作成した。樹脂、硬化剤、触媒の添加量は、実施例−1と同じにした。
【0082】
次に、作製したクリヤー塗料に、熱吸収材として東海カーボン社製のカーボンブラック「トーカブラック(登録商標)#7350/F」を、ポリエステル樹脂の固形分100質量部に対して15質量部添加した。次に、熱伝導性物質として、鉄粉(100℃での熱伝導率:71.9W/m・K)、銅粉(100℃での熱伝導率:393W/m・K)、スズ粉(100℃での熱伝導率:63W/m・K)、亜鉛粉(100℃での熱伝導率:113W/m・K)、ニッケル粉(100℃での熱伝導率:81W/m・K)の試薬を準備し、これを必要に応じて機械的に粉砕し、分級することで、平均粒径2μm、3μm、4μmの各金属粉の微粒子を得た。また、INCO社製のニッケルフレーク「HCA−1」を分級して平均粒径が3μmとなるものを準備して用いた。熱伝導性物質の添加量は、文献より各金属の比重を調べて、計算で皮膜中の体積濃度が16vol%となるように添加した。
【0083】
更に、作成した塗液にはフッ素系ワックスとして、ダイキン工業社性のPTFE系ワックス「ルブロン(登録商標)L−5」を、ポリエステル樹脂固形分に対して2質量部添加した。
【0084】
以下、実施例−3の実験に用いた金属板について詳細を説明する。
作成した塗液を実施例−1と同じ方法で金属板に塗装した。用いた金属板も実施例−1と同じにした。ただし、実施例−3ではロールコーターの周速や塗液の希釈率を調整することで、異なる膜厚の熱吸収性皮膜を塗装した。金属板の表裏面の熱吸収性皮膜の膜厚は同じにした。
【0085】
以下、作成した金属板の加工について詳細を説明する。
実施例−1の本発明例−1で用いたと同じ方法で凹凸を設けた。凹凸の個数は何れも512個で、金属板表面の表面積向上率も何れも12.6%とした。
【0086】
以下、実施例−2で作成した筐体金属板の評価試験について詳細を説明する。
実施例−1で実施した1)〜5)と同じ評価試験を実施した。ただし、2)筐体熱特性測定試験については、熱伝導性物質有無の比較のみを行った。比較は、実施例−1の本発明例−6の熱伝導性物質を添加しない熱吸収性皮膜を有する金属板に凹凸を設けて表面積向上率を13.2%としたものを用いた。
【0087】
以下実施例−3の評価結果の詳細について述べる。
【0088】
【表3】

【0089】
本発明の熱吸収性皮膜に80W/m・K以上の熱伝導率を有する熱伝導性物質を添加したもの(本発明例−26〜28)は、80W/m・K未満の熱伝導率を有する熱伝導性物質を添加したもの(本発明例−29,30)と比べて筐体の熱特性が優れる傾向であるため、より好適である。また、熱伝導性物質が粒状であり、且つ、平均粒径Dが熱吸収性皮膜の膜厚tに対して0.8t≦D≦1.2tの範囲を満たすもの(本発明例−26〜31,34)は、0.8t2≦D≦1.2tの範囲を満たさないもの(本発明例−32,33,35,36)と比べて筐体の熱特性に優れる傾向であるため、より好適である。更に、熱伝導性物質がフレーク状のもの(本発明例−37)より同じ熱伝導性物質でも粒状のもの(本発明例−28)の方が筐体の熱特性に優れる傾向であるため、より好適である。
【0090】
[実施例−4]
板厚0.6mmのアルミめっき鋼板(SA1E、伸び率40%、r値1.6、アルミ付着量片面あたり60g/m)を原板に用いて、実施例−1の本発明例−1〜6及び比較例−14,15と同じ金属板サンプルを作成し、実施例−1実施と同じ評価試験を行った。なお、アルミ付着量片面あたり60g/mのめっき層は、めっき厚み約22μmとなる(アルミの比重より換算)ため、アルミめっき鋼板(SA1E、アルミ付着量片面あたり60g/m)を以降、Al鋼板22と称する。
【0091】
以下実施例−4の評価結果の詳細について述べる。
【0092】
【表4】

【0093】
表4に実施例−4の評価結果を示す。本発明の金属筐体(本発明例−38〜43)は、原板に熱伝導率が200W/m・K以上のめっき層を施していても、表面積向上率を10%以上にすることで、凹凸を設けていない平坦な金属板で作成した筐体(比較例−45)より筐体内部の温度をより低くすることができることを確認した。また、実施例−1の表1の本発明例−2と表4の本発明例−38とを比較、および、表1の本発明例−3と本発明例−40とを比較すると、原板にAl鋼板22を用いた方が、EGを用いたものより筐体熱特性(凹凸有無の比較)が好適であり、めっき層の熱伝導率が200W/m・K以上であること好適であることを確認した。
【0094】
[実施例−5]
板厚0.6mmのアルミめっき鋼板(SA1E、伸び率40%、r値1.6、アルミ付着量片面あたり200g/m)を原板に用いて、実施例−1の本発明例−1〜6及び比較例−7,8と同じ金属板サンプルを作成し、実施例−1実施と同じ評価試験を行った。なお、アルミ付着量片面あたり200g/mのめっき層は、めっき厚み約74μmとなる(アルミの比重より換算)ため、アルミめっき鋼板(SA1E、伸び率40%、r値1.6、アルミ付着量片面あたり200g/m)を以降、Al鋼板74と称する。
【0095】
以下実施例−5の評価結果の詳細について述べる。
【0096】
【表5】

【0097】
表5に実施例−5の評価結果を示す。本発明の金属筐体(本発明例−46〜51)は、原板に熱伝導率が200W/m・K以上のめっき層を50μm以上施していても、表面積向上率を10%以上にすることで、凹凸を設けていない平坦な金属板で作成した筐体(比較例−53)より筐体内部の温度をより低くすることができることを確認した。また、実施例−4の表4の本発明例−39と表5の本発明例−47とを比較すると、200W/m・K以上のめっき層の厚みを50μm以上にした方(実施例−47)が、50μm未満のもの(実施例−39)より筐体熱特性(凹凸有無の比較)が好適であった。
【0098】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】金属板に凹凸を設けた際の断面形状の例を説明するための説明図である。
【図2】勾配角度θについて説明するための説明図である。
【図3】勾配角度θについて説明するための説明図である。
【図4】本実施例で製造したサンプル金属板について説明するための説明図である。
【図5】筐体の熱特性試験方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0100】
1 試験筐体
2 熱吸収性金属板
3 ヒーター
4 温度コントローラー
5 熱電対
6 デジタル温度計


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に発熱源を有する筐体を構成する面のうち、少なくとも1面を成す金属板の両面の赤外線放射率が、各々0.7以上であり、
且つ、該金属板に、下記式1で定義される表面積向上率が10%以上100%以下となる凹凸を設けたことを特徴とする、機器筐体。
【数1】

・・・(式1)

【請求項2】
前記凹凸の凸部の山の勾配斜面と凸部を設けていない平面部とのなす角度を勾配角度θと定義した場合、θ≦45°であることを特徴とする、請求項1に記載の機器筐体。
【請求項3】
前記筐体の少なくとも一面を構成する前記金属板の両面が、熱吸収性材と、バインダーとしての樹脂と、を含有する熱吸収性皮膜であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の機器筐体。
【請求項4】
前記筐体の少なくとも一面を構成する前記金属板が、38%以上の伸びを有する金属板に予め熱吸収性皮膜を被覆したものを成形加工して得られるものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の機器筐体。
【請求項5】
前記筐体の少なくとも一面を構成する前記金属板の少なくとも内面側が、熱伝導性を有する熱吸収性皮膜であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の機器筐体。
【請求項6】
前記熱伝導性を有する熱吸収性皮膜が、熱吸収性物質と、熱伝導性物質と、バインダーとしての樹脂と、を含有する皮膜であることを特徴とする、請求項5に記載の機器筐体。
【請求項7】
前記熱伝導性物質が、100℃での熱伝導率が80w/m・K以上である物質であり、
且つ、乾燥皮膜中の前記熱伝導性物質の添加量が、10vol%以上であることを特徴とする、請求項6に記載の機器筐体。
【請求項8】
前記樹脂のガラス転移温度が10〜35℃であることを特徴とする、請求項3〜7のいずれかに記載の機器筐体。
【請求項9】
前記熱吸収性皮膜が下記a)〜d)の条件を満たすことを特徴とする、請求項6または7に記載の機器筐体。
a)バインダー樹脂が、数平均分子量5000〜25000、ガラス転移温度10〜35℃であるポリエステル樹脂をアミノプラスト樹脂またはイソシアネートで架橋したものである。
b)熱吸収性物質が、カーボンブラックである。
c)熱伝導性物質が粒状であり、且つ、その平均粒径Dが、熱吸収性皮膜の膜厚tに対して0.8t≦D≦1.2tの範囲内である。
d)熱吸収性皮膜中にフッ素系ワックスが添加されている。
【請求項10】
前記筐体の少なくとも一面を構成する熱吸収性皮膜を被覆した金属板が、プレコート金属板であることを特徴とする、請求項3〜9に記載の機器筐体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−286092(P2009−286092A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144288(P2008−144288)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】