説明

機能性フィルムの製造方法

【課題】 貼り合わせ型のガスバリアフィルムのように、貼り合わせ型の機能性フィルムの製造方法において、薄膜化や低コスト化を目的として基材を薄くした場合でも、所定の性能を有する機能性フィルムを安定して作製する。
【解決手段】 貼り合わせ型のガスバリアフィルムを製造するに際し、少なくとも1枚の材料フィルムが、基材の厚さが50μm以下で、かつ、無機膜および下地層を有するものであり、この材料フィルムの作製時に、下地層の成膜で生じた反りを、無機層の成膜で補正することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリアフィルム等の目的とする機能を発現する機能性フィルムの製造方法に関し、詳しくは、複数枚の機能性フィルムを接着してなる貼り合わせ型の機能性フィルムの製造において、薄く、かつ、目的とする機能を十分に発現する機能性フィルムを、安定して製造することを可能にする機能性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、半導体装置、薄膜太陽電池等の各種の装置における防湿性を要求される部位や部品、食品、衣料品、電子部品等の包装に用いられる包装材料に、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の基材フィルムに、ガスバリア性を発現する膜を成膜してなる、ガスバリアフィルムが利用されている。
このようなガスバリアフィルムに成膜されるガスバリア性を発現する膜としては、窒化シリコン、酸化シリコン、酸化アルミニウム等の各種の無機物(無機化合物)からなる膜が知られている。
【0003】
また、より高いガスバリア性を得ることを目的として、有機膜(有機化合物膜)と無機膜(無機化合物膜)など、複数の膜を積層してなるガスバリアフィルムも知られている。
さらに、複数のガスバリアフィルムを積層して接着することにより、より、ガスバリア性能を向上してなる、貼り合わせ型のガスバリアフィルムも知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、基材(基材フィルム)上にガスバリア層を有するガスバリアフィルムを、2枚以上、接着層を介して接着してなる貼り合わせ型のガスバリアフィルム(複合ガスバリアフィルム)が記載されている。
また、この特許文献1には、基材上に形成されるガスバリア層を、少なくとも一層の無機膜(無機層)と、少なくとも一層の有機膜(有機(ポリマー)層)とを積層した構成とすることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−67040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機膜と無機膜とを積層したガスバリアフィルムにおいては、ガスバリア性(ガスバリア性能)は、主に、有機膜および無機膜によって得られるものであり、基材となるPETフィルム等には、ガスバリア性は求められない場合が、殆どである。従って、製造コストの観点からは、基材フィルムを薄くするのが好ましい。
また、複数枚のガスバリアフィルムを積層/接着してなる貼り合わせ型のガスバリアフィルムでは、通常のガスバリアフィルムに比して、全体の膜厚が厚くなってしまう。従って、貼り合わせ型のガスバリアフィルムにおいては、膜厚という観点からも、個々のガスバリアフィルムの基材フィルムは、薄くするのが好ましい。
【0007】
ところが、このような複数枚のガスバリアフィルムを接着してなる貼り合わせ型のガスバリアフィルムにおいては、無機層と、この無機層の下地層をなる有機層とを有するガスバリアフィルムの基材フィルムを薄くすると、ガスバリア性が劣化してしまい、積層/接着する複数枚のガスバリアフィルムに応じた、目的とするガスバリア性能が得られない場合が、多々、生じてしまう。
【0008】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、複数枚のガスバリアフィルムを積層/接着してなる貼り合わせ型のガスバリアフィルム等、複数の機能性フィルムを材料フィルムとして積層/接着してなる、貼り合わせ型の機能性フィルムの製造において、無機層と下地層とを有する材料フィルムの基材を薄くした場合であっても、積層/接着した材料フィルムに応じた、目的とする機能を発現する機能性フィルムを安定して製造することができ、例えば、ガスバリアフィルムであれば、目的とするガスバリア性を有する貼り合わせ型のガスバリアフィルムを安定して製造することができる、機能性フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の機能性フィルムの製造方法は、基材の表面に所定の機能を発現する機能層を成膜してなる材料フィルムを、複数枚、接着してなる機能性フィルムを製造するに際し、前記材料フィルムの少なくとも一枚は、前記基材の厚さが50μm以下で、かつ、無機膜と、この無機膜の下地層とを有するものであり、さらに、この基材の厚さが50μm以下の材料フィルムの製造工程において、前記下地層の成膜によって生じた反りを、前記無機膜の成膜によって補正することを特徴とする機能性フィルムの製造方法を提供する。
【0010】
このような本発明の機能性フィルムの製造方法において、前記無機膜の下地層が、有機膜であるのが好ましい。
また、前記無機膜の膜厚を調整することにより、前記反りを補正するのが好ましく、また、前記無機膜の成膜レートを調整することにより、前記反りを補正するのが好ましく、さらに、前記無機膜の成膜中にエネルギーアシストを行なうことにより、前記反りを補正するのが好ましく、この際において、前記エネルギーアシストが、プラズマアシストであるのが好ましい。
また、前記無機膜が、ガスバリア膜であるのが好ましく、また、全ての材料フィルムが、無機層と、この無機層の下地層とを有するのが好ましく、また、前記基材が最も外層となるように、2枚の材料フィルムを貼着するのが好ましく、さらに、前記複数の材料フィルムを接着する接着層の厚さが、5μm以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
上記構成を有する本発明によれば、複数の材料フィルムを積層して接着してなる貼り合わせ型の機能性フィルムの製造において、用いる複数の材料フィルムに応じた、目的とする機能を発現する機能性フィルムを安定して製造することでき、例えば、ガスバリアフィルムであれば、目的とするガスバリア性を有する貼り合わせ型のガスバリアフィルムを、安定して製造することができる。
また、本発明の機能性フィルムは、材料フィルムの少なくとも1枚は、基材の厚さが50μm以下であるので、従来の貼り合わせ型の機能性フィルムに比して、薄く、さらに、製造コストの点でも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の製造方法によるガスバリアフィルムの一例の概念図である。
【図2】本発明の製造方法を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の機能性フィルムの製造方法について、添付の図面に示される好適実施例を基に、詳細に説明する。
【0014】
図1に、本発明の機能性フィルムの製造方法によって製造した、貼り合わせ型のガスバリアフィルムの一例を概念的に示す。
【0015】
図1に示すガスバリアフィルム10は、基材(基材フィルム)12の上に、有機膜14を成膜し、この有機膜14の上に無機膜16を成膜してなる第1ガスバリアフィルム18と、基材20の上に、有機膜24を成膜し、この有機膜24の上に無機膜26を成膜してなる第2ガスバリアフィルム28とを、互いの無機膜16および26を対面した状態で積層して、接着剤層30によって接着してなるものである。
【0016】
本発明の機能性フィルムの製造方法においては、積層/接着する複数の材料フィルムの内、少なくとも1枚は、基材の厚さが50μm以下で、かつ、無機膜と、この無機膜の下地層とを有するものである。
図示例のガスバリアフィルム10においては、第1ガスバリアフィルム18が、これに当たる材料フィルムである。従って、第1ガスバリアフィルム18は、基材12の厚さが50μm以下で、かつ、図1に示すように、無機膜16と、この無機膜16の下地層としての有機膜14を有する。
【0017】
ここで、図示例においては、第1ガスバリアフィルム18および第2ガスバリアフィルム28は、第1ガスバリアフィルム18は基材12の厚さが50μm以下で、第2ガスバリアフィルム28は基材20の厚さが、例えば100μmや200μmなど、50μmを超える点で異なるが、共にガスバリアフィルムであり、かつ、基材、有機層および無機層からなる、同様の層構成を有する。
しかしながら、本発明の製造方法は、これに限定はされず、少なくとも1つの材料フィルムが、基材の厚さが50μm以下で、かつ、無機膜と、この無機膜の下地層とを有するものであれば、それ以外の各材料フィルムの層構成や基材の厚さには、限定は無く、全く異なる構成の材料フィルムを用いてもよい。また、積層/接着する材料フィルムも、2枚には限定されず、3枚以上の材料フィルムを積層/接着してもよい。
【0018】
従って、図示例で例示すれば、第2ガスバリアフィルム28は、第1ガスバリアフィルム18とは全く異なる層構成を有するものであってもよく、また、ガスバリアフィルムではなくてもよい。
すなわち、本発明の製造方法においては、少なくとも1つの材料フィルムが、基材の厚さが50μm以下で、かつ、無機膜と下地層とを有するものであれば、プラスチックフィルム等を基材として、その上に、保護層、接着層、光反射層、遮光層、偏光層、平坦化層、緩衝層、応力緩和層等の、各種の機能を得るための層(膜)が、1層以上、成膜された、各種の公知の機能性フィルムが、全て、材料フィルムとして利用可能であり、さらに、同構成もしくは異なる構成の同種類の機能性フィルムを組み合わせても、異なる種類の機能性フィルムを組み合わせてもよい。
【0019】
言い換えれば、本発明においては、材料フィルムは、ガスバリアフィルム以外にも、偏光フィルム、光拡散フィルム、防曇フィルム等の各種の機能性フィルムが利用可能であり、さらに、ガスバリアフィルムとガスバリアフィルムとを接着してなるガスバリアフィルムのように、同種類の機能性フィルムの組み合わせ以外にも、ガスバリアフィルムと偏光フィルムとを接着してなる機能性フィルムや、光拡散アフィルムと防曇フィルムとを接着してなる機能性フィルム等、異なる機能性フィルムの組み合わせであってもよい。
【0020】
また、図示例においては、第2ガスバリアフィルム28は、基材20の厚さが50μmを超える。
しかしながら、本発明は、これに限定はされず、全ての材料フィルムが、第1ガスバリアフィルム18と同様に、基材の厚さが50μm以下で、かつ、無機膜と、この無機膜の下地層とを有するものであってもよい。従って、この場合には、全ての材料フィルムの作製において、無機膜の成膜時に、後述する反りの補正を行なう。
【0021】
なお、前述のように、本発明による機能性フィルムは、ガスバリアフィルムに限定はされず、また、材料フィルムも、ガスバリアフィルムには限定はされない。
しかしながら、後述する本発明の効果を最も効果的に得られる等の点で、本発明の製造方法においては、少なくとも1つの材料フィルム(特に、基材の厚さが50μm以下で、無機層と下地層を有する材料フィルム)は、ガスバリアフィルムであるのが好ましく、特に、全ての材料フィルムがガスバリアフィルムであるのが好ましい。
中でも、本発明の効果を最も効果的に得られる、良好なガスバリア性を得ることができる等の点で、全ての材料フィルムが、無機膜と、この無機膜の下地層となる有機膜を有するガスバリアフィルムであるのが好ましく、特に、上記理由に加え、主にガスバリア性を発現する無機膜を好適に保護できる点で、最外層が基材となるように、各材料フィルムを積層して接着するのが好ましく、その中でも特に、図示例のように、2枚のガスバリアフィルムを、互いの無機膜を対面した状態で、積層/接着するのが好ましい。
また、後述するが、接着剤層は薄い方が水蒸気の進入経路を小さくでき、好ましい。
【0022】
本発明の製造方法において、基材18(基材20)には、特に限定はなく、ガスバリアフィルム等の機能性フィルムの製造に利用されるシート状物が、各種、利用可能である。
具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどの有機物からなるシート状のプラスチックフィルム(樹脂フィルム)が、好適に例示される。
【0023】
また、本発明においては、プラスチックフィルム等を基材として、その上に、保護層、接着層、光反射層、遮光層、平坦化層、緩衝層、応力緩和層等の、各種の機能を得るための層(膜)が成膜されている物を基材12として用いてもよい。この際においては、基材の上に1層のみの層が成膜された物を基材12として用いてもよく、あるいは、基材の上に、複数層の膜が成膜されたものを、基材12として用いてもよい。
【0024】
なお、図示例のように、材料フィルム(すなわち図示例においては第1ガスバリアフィルム18と第2ガスバリアフィルム28)が、同じ構成を有する場合には、各材料フィルムを構成する基材(同基材12および20)は、同じ材料で形成されても、異なる材料で形成されてもよい。
この点に関しては、材料フィルムを構成する他の膜(層)においても、同様である。
【0025】
なお、いずれの場合であっても、第1ガスバリアフィルム18の基材12(無機膜および下地層を有する、少なくとも1つの材料フィルムの基材)は、厚さが50μm以下であるのは、前述の通りである。
【0026】
図示例において、有機膜14(有機膜24)は、無機膜16(無機膜26)の下地層として成膜される有機物(有機化合物)の膜である。この有機膜14は、基板12(基板20)が有する表面の凹凸を補正(埋没)して、無機膜16の成膜面を平滑にすることにより、無機膜16が有するガスバリア性を、確実かつ十分に発現させると共に、水蒸気の進入経路を長くして、ガスバリア性を向上するために設けられる。
【0027】
本発明において、有機膜14には、特に限定はなく、各種の有機物からなる膜が、全て利用可能である。
中でも、有機膜14は、有機ポリマーを主成分とする、有機ポリマー層であることが好ましい。具体的には、ポリエステル、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル、アクリロイル化合物、などの熱可塑性樹脂、あるいはポリシロキサン、その他の有機珪素化合物の膜が好適に例示される。
なお、有機膜14は、単独の材料からなっていても混合物からなっていても良い。
また、2層以上の有機膜で、有機膜14を構成しても良い。この場合、各膜が同じ組成であっても異なる組成であっても良い。さらに、米国公開特許2004−46497号明細書に開示されるように、無機膜16(あるいは下層)との界面が明確で無く、組成が膜厚方向で連続的に変化する膜であっても良い。
中でも、ガスバリア性に効く平滑性、耐熱性の観点から、ラジカル重合性化合物および/またはエーテル基を官能基に有するカチオン重合性化合物の重合物から構成された有機膜14等は、好適に例示される。
【0028】
また、有機膜12の厚さにも、特に限定はなく、要求されるガスバリア性(機能)、基板12の凹凸の大きさ等に応じて、必要な膜厚を、適宜、設定すればよい。
【0029】
本発明の製造方法において、有機膜14の成膜方法には、特に、限定は無く、公知の有機膜の成膜方法が、全て、利用可能である。
一例として、有機物を溶媒に溶解(分散)した塗料、有機物モノマー等を溶媒に溶解した塗料、有機物モノマーと重合開始剤等を溶媒に溶解した塗料など、有機膜14となる有機物を含有する塗料を調整して、基材12に塗布し、硬化する方法が例示される。
【0030】
有機膜14となる塗料の塗布方法には、特に限定はなく、例えば、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、カーテンフローコート、スプレーコート、バーコート、スピンコート等、塗膜の成膜に用いられる公知の方法が、各種、利用可能である。また、フラッシュ蒸着も、利用可能である。
また、硬化方法も、紫外線(UV)照射(UV硬化)、プラズマ照射(プラズマ硬化)、電子線照射(電子線硬化)、光照射(光硬化)、加熱(熱硬化)等、有機膜14となる有機物に応じた方法を、適宜、選択して用いればよい。
【0031】
このような有機膜14を下地層として成膜される無機膜16(無機膜26)は、各種の無機物(無機化合物)からなる膜である。
図示例において、無機膜16としては、ガスバリア性(水蒸気バリア性)を発現する、無機物の膜が、各種、利用可能である。具体的には、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、珪素、チタン、亜鉛、スズの酸化物、窒化物、酸窒化物、炭化物、水素化物等が挙げられる。これらは純物質でもよいし、複数組成からなる混合物や傾斜材料層でもよい。
中でも、硬く、緻密な無機物であることから、酸化珪素や酸化アルミニウム等の無機酸化物は、好適に例示される。
【0032】
無機膜16の厚さには、特に限定はなく、要求されるガスバリア性(機能)、無機膜16の形成材料等に応じて、必要な膜厚を、適宜、設定すればよい。
【0033】
本発明において、無機膜16の成膜方法には、特に限定はなく、無機物の膜を成膜可能な方法が、各種、利用可能である。
具体的には、真空蒸着、プラズマCVD、スパッタリング等の各種の気相成膜法が例示される。中でも、プラズマCVDやスパッタリングに比して、数十倍や数百倍の高速成膜が可能であり、それによるコスト低減が可能である等の理由により、真空蒸着は、好適に利用される。
【0034】
図示例においては、このような第1ガスバリアフィルム18と、第2ガスバリアフィルム28とを、互いの無機膜16および26対面して積層し、接着剤層30によって接着して、貼り合わせ型のガスバリアフィルム10を作製する。
ここで、本発明においては、材料フィルムの1以上が50μm以下の基材を用い、かつ無機膜と下地層とを有するものである。図示例においては、前述のように、第1ガスバリアフィルム18の基材12が50μm以下である。本発明においては、このような構成を有することにより、2枚のガスバリアフィルムを積層してなる貼り合わせ型のガスバリアフィルム10(複数の材料フィルムを積層して接着した貼り合わせ型の機能性フィルム)の膜厚を、通常の貼り合わせ型のガスバリアフィルムに比して、大幅に薄くすることができ、さらに、製造コストも低減することができる。
【0035】
ところが、前述のように、従来の製造方法では、貼り合わせ型のガスバリアフィルムでは、1つのガスバリアフィルムが、基材が50μm以下であり、かつ、無機膜と、この無機膜の下地層(有機膜)とを有すると、目的とするガスバリア性が得られない場合が、多々、生じる。
【0036】
本発明者らは、この原因について、鋭意検討を重ねた結果、下地層である有機膜の反りに原因が有ることを見出した。
複数のガスバリアフィルムを積層/接着してなる貼り合わせ型のガスバリアフィルムは、どうしても厚くなり、コストアップとなってしまう。必要なガスバリア性能を維持しつつ、このような不都合を回避するためには、ガスバリア性に寄与しない基材を薄くするのが効果である。特に、少なくとも1枚のガスバリアフィルムの基材の厚さを50μm以下とすることにより、薄型化およびコスト低減の点で、好適な効果を得ることができる。
【0037】
ここで、本発明者らの検討によれば、貼り合わせ型のガスバリアフィルムでは、高いガスバリア性を得るためには、各ガスバリアフィルムを、薄い接着剤層で、十分な接着力で、かつ、全面的に均一に接着することが重要である。
接着剤層は、無機膜に比してガスバリア性が低く、端部(端面)からの水蒸気の進入経路となってしまう。そのため、ガスバリア性の点では、接着剤層は薄い方が有利である。また、接着強度の低下、接着が弱い領域や、接着が不十分な領域等が生じると、水蒸気の進入経路ができ易く、すなわちガスバリア性が低下してしまう。
【0038】
ところが、有機膜の硬化時には、硬化収縮が生じる。そのため、通常の100μm程度の基材を用いた場合には何の問題も生じないが、基材を50μm以下にすると、基材が薄い為に、この有機膜の硬化収縮に耐えることができず、基材と有機膜との積層体が有機膜側を凹にして反ってしまう。
しかも、基材が50μm以下のように薄い場合には、厚い場合に比して表面の凹凸が大きくなるので、凹凸を完全に補正するためには、有機膜を通常よりも厚く成膜する必要がある。そのため、基材と有機膜との積層体の反りは、より、大きくなってしまう。
そのため、有機膜の上に無機膜を成膜しても、ガスバリアフィルムには、反りが残った状態となってしまう。
【0039】
このように、一方(あるいは全て)のガスバリアフィルムが反った状態で、ガスバリアフィルムを積層/接着すると、接着剤層との接着強度の低下、接着強度の部分的な変動、接着剤層の膜厚不均一が生じてしまう。前述のように、このような接着強度の低下、接着強度の不均一、さらには、接着剤層の膜厚不均一を生じると、水蒸気の進入経路ができ易くなってしまい、すなわち、ガスバリア性が低下してしまう。
接着剤層を厚くすることで、ある程度、このような不都合は回避できるが、貼り合わせ型のガスバリアフィルムでは、接着剤層を厚くすると、ガスバリア性が低下してしまうのは、前述のとおりである。
【0040】
なお、貼り合わせ型の機能性フィルムにおいて、1枚の材料フィルムに反りが生じて、接着が均一に出来ない場合には、要求性能を発揮できない、強度が不十分である等の不都合が生じるのは、ガスバリアフィルム以外でも、同様である。
【0041】
ここで、前述のように、有機膜は、膜側を凹にして反りを生じるが、無機膜は、膜側を凸にして反る。すなわち、無機膜の反りの方向は、有機膜と反対である。
本発明は、これを利用することにより、上記不都合を回避したものであり、この有機膜14の成膜によって生じた反りを補正(抑制)するように、無機膜16を成膜する。言い換えれば、反りの方向が異なる有機膜と無機膜とで、反りを相殺する。
【0042】
すなわち、本発明においては、図2に、その一例を模式的に示すように、厚さが50μm以下の基材12に有機膜14を成膜する。この状態では、積層体には、有機膜14側を凹にした反りが生じる。
次いで、後述するように無機膜14の膜厚や成膜レートを調整して、この有機膜14による反りを補正するように、無機膜16を成膜して、第1ガスバリアフィルム18を作製する。これにより、第1ガスバリアフィルム18は、反りが無い状態、あるいは、反りが有っても第2ガスバリアフィルム28との接着に影響がない程度の状態となる。
【0043】
他方、別途作製あるいは購入等により、基材20、有機膜24および無機膜26からなる第2ガスバリアフィルム28を準備する。
第1ガスバリアフィルム18および第2ガスバリアフィルム28を準備したら、第2ガスバリアフィルム28の無機膜26(あるいは、第1ガスバリアフィルム18の無機膜16)に、接着剤を塗布して接着層30を形成し、次いで、無機膜16と無機膜26とを対面した状態で両ガスバリアフィルムを積層し、接着することにより、貼り合わせ型のガスバリアフィルム10を作製する。
【0044】
このように、本発明によれば、第1ガスバリアフィルム18の基材を50μmとして、厚さを薄くし、かつ、製造コストを低減できると共に、第1ガスバリアフィルムの反りが無い(もしくは、影響がない程度の反りの状態)で、第1ガスバリアフィルム18と第2ガスバリアフィルム28との接着を行なうことができるので、薄い接着剤層で、十分な接着力で、かつ、全面的に均一に接着することができる。
従って、本発明によれば、薄く、かつ、製造コストが低い上に、第1ガスバリアフィルム18と第2ガスバリアフィルム28とのガスバリア性を十二分に発揮し、かつ、両ガスバリアフィルムの相乗効果による優れたガスバリア性を有するガスバリアフィルムを、安定して製造することができる。
【0045】
無機膜16の成膜による、有機膜14の成膜によって生じた反りの補正方法には、特に限定はなく、各種の方法が利用可能ある。
一例として、無機膜16の膜厚を厚くするほど、有機膜14の成膜によって生じた反りを強く補正することができる。これを利用して、基材12と有機膜14との積層体(以下、単に積層体とも言う)の反りが大きい場合には、無機膜16を必要以上に厚くする等、反りの状態に応じて無機膜16の膜厚を調整することにより、有機膜14の成膜によって生じた反りを補正する方法が、例示される。
この方法は、言い換えれば、反りを補正するために、要求されるガスバリア性に応じた設計厚さに、反りを補正するための厚さを加えて、無機膜16を成膜する。
【0046】
また、無機膜16の密度が高いほど、有機膜14の成膜によって生じた反りを強く補正することができる。また、無機膜16の密度は、成膜レートが高いほど、高くできる。
従って、これを利用して、積層体の反りが大きい場合には無機膜16の成膜レートを高くする等、反りの状態に応じて無機膜16の成膜レートを調整することにより、有機膜14の成膜によって生じた反りを補正する方法が、例示される。
【0047】
加えて、無機膜16の密度は、成膜時に、成膜系内の雰囲気をプラズマ雰囲気にする、成膜面にプラズマ照射やイオン照射等を行なう、いわゆるプラズマアシストやイオンアシストなどのエネルギーアシストを行なうことで、高くすることができる。具体的には、エネルギーアシストを行なうことで、無機膜16を形成する粒子の粒径が小さくなり、膜が緻密になるので、膜の密度を向上できる。
従って、これを利用して、積層体の反りが大きい場合には、エネルギーアシストを行なう、あるいは、エネルギーアシストの強度を上げる等、反りの状態に応じて無機膜16成膜時のエネルギーアシストを調整することにより、有機膜14の成膜によって生じた反りを補正する方法が、例示される。
【0048】
また、膜厚調整による補正と成膜レートの調整による補正等、複数の補正方法を併用してもよい。
【0049】
有機膜14の成膜によって生じた反り(反りの大きさ)の検出方法には、特に限定は無いが、一例として、有機膜14の厚さが例示される。
基材12と有機膜14との積層体の反りの大きさは、有機膜14の膜厚が厚いほど、大きくなる。従って、有機膜14の膜厚が厚い場合には、無機膜16の膜厚を厚くする等、有機膜14の厚さによって積層体の反りを検出し、有機膜14の厚さに応じて、無機膜16の膜厚、成膜レート、エネルギーアシスト等の調整を行なうことにより、積層体の反りを好適に補正できる。
また、有機膜14のモノマー収縮率が大きいほど、積層体の反りは大きくなり、また、補正に大きな力が必要となる。従って、この有機膜14の収縮率を、前記塗料の調製の際に知見することで積層体の反りを検出し、有機膜14の収縮率に応じて、厚さと同様に無機膜16の膜厚、成膜レート、エネルギーアシスト等の調整を行なうことにより、積層体の反りを好適に補正できる。
【0050】
あるいは、有機膜14を成膜した後の積層体の反りの大きさを、直接的に検出して、無機膜16を調整してもよい。
例えば、積層体の凸側を下にして水平面に載置した最における、鉛直方向の最高位置と最低値(すなわち水平面)との鉛直方向の距離を、積層体の反りの大きさとする。その上で、積層体の反りの大きさに応じて、無機膜16の膜厚、成膜レート、エネルギーアシスト等の調整を行なうことにより、反りを好適に補正できる。
【0051】
本発明において、接着層30の厚さには、特に限定は無いが、薄い方がガスバリア性等の点で有利である反面、薄過ぎると十分な接着力を得ることができない。
以上の点を考慮すると、接着層30の厚さは、0.2〜5μm、特に、0.5〜1.5μmが好ましい。
【0052】
第1ガスバリアフィルム18と第2ガスバリアフィルムの接着方法には、特に、限定は無く、ローラ対を用いるラミネータによる接着、面状のプレスを利用する接着等、公知の複数枚のシート状物の接着方法が、全て、利用可能である。また、必要に応じて、接着時に、加熱等を行なってもよい。
【0053】
以上、本発明の機能性フィルムの製造方法について、詳細に説明したが、本発明は、上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0054】
[実施例1]
厚さが50μmおよび100μmの長尺なPETフィルム(東洋紡社製 A4300)を、基材12および20として用意した。
【0055】
アクリレート系モノマーと、光重合開始剤(ランベルディー社製 KTO−46)とをMEK(メチルエチルケトン)に溶解して、塗料を調製した。
基材12および20の表面に、調製した塗料をダイコータで5μmの厚さで塗布、乾燥して、紫外線を照射して硬化することにより、有機膜14および24を成膜した。得られた有機膜の厚さは、1.3μmであった。
なお、この時点で、基材12(厚さ50μm)と有機膜14との積層体には有機膜を凹とする反りが生じていた。他方の基材20(厚さ100μm)と有機膜24との積層体には、反りは認められなかった。また、両有機膜の表面粗さRaは、0.7nmであり、十分に平滑であることが確認できた。
【0056】
両積層体の有機膜14および24の上に、成膜材料としてSiOペレットを用いて、真空蒸着によって無機膜16および26を成膜し、第1ガスバリアフィルム18および第2ガスバリアフィルム28を作製した。すなわち、本例において、無機膜16および26は、酸化珪素(SiOx)膜である。
成膜圧力は2×10-3Paとし、成膜材料の加熱は出力100mAの電子線で行なった(EB蒸着)。成膜レートは、30Å/secであった。
なお、第1ガスバリアフィルム18の無機膜16の膜厚は80nm、第2ガスバリアフィルム28の無機膜26の膜厚は80nmとした。
また、第1ガスバリアフィルム18および第2ガスバリアフィルム28共に、反りは、殆ど認められなかった。
【0057】
大日精化社製の2液硬化型ウレタン樹脂の接着剤を用いたドライラミネート法を用いて、作製した第1ガスバリアフィルム18と第2ガスバリアフィルム28とを接着して、ガスバリアフィルム10を作製した。
ドライラミネート法は、フィルム表面に接着剤を塗布した後、溶剤を乾燥装置内で溶剤を蒸発させ、ロールを用いて第2基材と圧着する方法である。なお、接着剤の厚さは1μmとした。
得られたガスバリアフィルム10は、外観から接着層30に気泡は確認できず、また、全面的に十分かつ均一な接着強度を有し、接着層30の厚さも均一なものであった。
【0058】
[比較例]
第1ガスバリアフィルム18の無機膜16の厚さを50nmとした以外は、実施例1と全く同様にして、貼り合わせ型のガスバリアフィルムを作製した。
得られたガスバリアフィルムは、外観から接着層30に接着剤内の残留有機溶剤による気泡発生が確認され、また、接着強度および接着層30のバラツキが確認された。
【0059】
[実施例2]
第1ガスバリアフィルム18の無機膜16の厚さを50nmとし、さらに、成膜材料を加熱する電子線の出力を500mAとして、成膜レートを150Å/secとした以外は、実施例1と全く同様にして、貼り合わせ型のガスバリアフィルム10を作製した。
得られたガスバリアフィルム10は、外観から接着層30に気泡は確認できず、また、全面的に十分かつ均一な接着強度を有し、接着層30の厚さも均一なものであった。
【0060】
[実施例3]
第1ガスバリアフィルム18の無機膜16の厚さを50nmとし、さらに、無機膜16の成膜時に、成膜系内をAr雰囲気にして、ホローカソードによるArプラズマ用いたエネルギーアシストを行なった以外は、実施例1と全く同様にして、貼り合わせ型のガスバリアフィルム10を作製した。
得られたガスバリアフィルム10は、外観から接着層30に気泡は確認できず、また、全面的に十分かつ均一な接着強度を有し、接着層30の厚さも均一なものであった。
【0061】
得られた4種の貼り合わせ型のガスバリアフィルムについて、カルシウム腐食法によってガスバリア性を評価した。
カルシウム腐蝕法は、G.Nisatoらの方法(2001 IDW Conference Proceedings)に従った。すなわち、ガスバリアフィルム試料上に真空蒸着法により金属カルシウム薄膜を作製し、これを直ちにガラス板とエポキシ系接着剤XNR−5516−HV(ナガセケムテックス製)で封止してテストセルを作製した。このテストセルを40℃相対湿度90%の環境下に静置し、水蒸気透過率への換算値を求めた。
その結果、実施例1のガスバリアフィルム10の水蒸気透過率は0.005g/m2・day、実施例2のガスバリアフィルム10の水蒸気透過率は0.0025g/m2・day、実施例3のガスバリアフィルム10の水蒸気透過率は0.002g/m2・dayであるのに対し、比較例のガスバリアフィルムの水蒸気透過率は0.025g/m2・dayであった。
【0062】
参考のために、実施例1における第1ガスバリアフィルム18および第2ガスバリアフィルム28、ならびに、比較例における第1ガスバリアフィルム18および第2ガスバリアフィルム28のガスバリア性を、モコン法で40℃90%RHの条件下で、個々に確認した。なお、モコン法は、前記カルシウム腐蝕法では測りえない低バリア(〜0.005g/m2・day)を測定可能な手法である。
【0063】
その結果、実施例1の第1ガスバリアフィルム18および第2ガスバリアフィルム28の水蒸気透過率は、共に0.02g/m2・dayであり、比較例の第1ガスバリアフィルム18の水蒸気透過率は0.03g/m2・day、第2ガスバリアフィルム28の水蒸気透過率は0.02g/m2・dayであった。
この結果から想定される実施例1の貼り合わせ型のガスバリアフィルム10の水蒸気透過率は0.01g/m2・day以下であり、比較例の貼り合わせ型のガスバリアフィルムの水蒸気透過率は0.012g/m2・day以下である。
すなわち、実施例1では、第1ガスバリアフィルム18および第2ガスバリアフィルム28のガスバリア性に応じて、両者の性能を十分に発現した優れた貼り合わせ型のガスバリアフィルムが得られているのに対し、比較例では、2枚のガスバリアフィルムの貼り合わせ効果が、全く得られていないことが確認された。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、ガスバリアフィルム等の機能性フィルムの製造に、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0065】
10 ガスバリアフィルム
12,20 基材
14,24 有機膜
16,26 無機膜
18 第1ガスバリアフィルム
28 第2ガスバリアフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に所定の機能を発現する機能層を成膜してなる材料フィルムを、複数枚、接着してなる機能性フィルムを製造するに際し、
前記材料フィルムの少なくとも一枚は、前記基材の厚さが50μm以下で、かつ、無機膜と、この無機膜の下地層とを有するものであり、さらに、この基材の厚さが50μm以下の材料フィルムの製造工程において、前記下地層の成膜によって生じた反りを、前記無機膜の成膜によって補正することを特徴とする機能性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記無機膜の下地層が、有機膜である請求項1に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記無機膜の膜厚を調整することにより、前記反りを補正する請求項1または2に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記無機膜の成膜レートを調整することにより、前記反りを補正する請求項1〜3のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記無機膜の成膜中にエネルギーアシストを行なうことにより、前記反りを補正する請求項1〜4のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記エネルギーアシストが、プラズマアシストである請求項5に記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記無機膜が、ガスバリア膜である請求項1〜6のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項8】
全ての材料フィルムが、無機層と、この無機層の下地層とを有する請求項1〜7のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記基材が最も外層となるように、2枚の材料フィルムを貼着する請求項1〜8のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記複数の材料フィルムを接着する接着層の厚さが、5μm以下である請求項1〜9のいずれかに記載の機能性フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−31434(P2011−31434A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178407(P2009−178407)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】