説明

機能性粒子及びその製造方法

【課題】 目的の生理活性物質を高効率に固定化可能で、かつ固定化された目的の生理活性物質を高効率に回収可能な機能性粒子を提供することである。
【解決手段】 芯材粒子と、当該芯材粒子の表面に形成されたニッケル膜またはニッケル合金膜と、当該ニッケル膜またはニッケル合金膜の表面に形成された貴金属膜とを有し、磁性を帯びていることを特徴とする機能性粒子。貴金属膜は金膜、金合金膜、白金膜又は白金合金膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の生理活性物質を結合するための機能性粒子およびその製造方法に関する。更に詳細には、本発明は、細菌分離担体、核酸精製担体、タンパク質精製担体、固定化酵素担体、固定化抗体担体として使用するのに有用な機能性粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素や抗体等の生理活性物質は、特定の物質に対して高い選択性を有しているものが多く、従来より、このような生理活性物質の性質は、特定の生体物質の成分を高い精度で検出するために利用されている。特に、目的物質と反応する生理活性物質を担体に固定化した後、検体を接触させ、さらに目的物質と特異的に結合する標識タンパク質と反応させて目的物質の測定を行う方法(イムノアッセイ法)は、免疫検査においてよく用いられている。
【0003】
特定の生理活性物質を担体に固定化する方法としては、分子間の特異的な親和性を利用した方法が用いられる。また、生理活性物質を固定化する材料としては、シラノール誘導体からなるものが公知である(例えば、特許文献1参照)。生理活性物質を担体に固定化するには、まず固定化材料をシランカップリング剤により基材に導入し、次いでこれを活性化し、しかる後に活性化された固定化材料に生理活性物質を接触させる。この固定化材料は、鎖長を任意に変えることにより、任意の生理活性物質を基材に固定化できるという利点を有するが、分解されやすい結合を含有しており、固定化材料自身は安定性が悪いという問題点がある。
【0004】
また、生理活性物質として、酵素、抗体、補酵素等の機能を持つタンパク質、糖タンパク質、糖類等が挙げられるが、その中でも酵素を固定化するための担体が知られている(例えば、特許文献2及び3参照)。前者は、酵素に対して親和性のある官能基と疎水性の官能基を有するカップリング剤を結合した酵素固定化用無機質または有機質担体である。一方、後者は特殊な官能基を持つシランカップリング剤で処理した無機担体であり、これに酵素を固定化し、洗浄、乾燥した後、脂肪酸を含浸させて固定化酵素担体を得ている。
【0005】
金は、硫黄化合物であるチオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基と親和性を有することが知られており、担体上に金膜を形成することにより、チオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基を介して生理活性物質を固定化することができる。例えば、バイオセンサー等の用途において、平坦な基板上に金属膜を形成したものが用いられる(例えば、特許文献4及び5参照)。前者は、ガラス、ポリエチレンテレフタレート等の基板に、金、銀、白金等の金属膜を直接形成したもので、生理活性物質はチオール基を介して前記金属膜に固定化される。この生理活性物質の結合性は、表面プラズモン共鳴分析により検出される。後者は、プラスチックから成る微粒子を基板上に配列し、その上から金を蒸著したものである。微粒子表面の一部が金で被覆され、この金表面に生理活性物質を固定化する。しかし、これらは、生理活性物質の結合性の測定には適しているが、目的物質以外の物質まで結合しやすいので、生理活性物質の精製には適していない。
【0006】
生理活性物質の精製用途としては、ポリマーの表面を金で被覆してなる0.1μm〜10μmサイズの粒子が公知である(例えば、特許文献6参照)。この機能性粒子は、ポリマー粒子の表面をチオール基と親和性を有する金で被覆してなるので、チオール基を介して生理活性物質を固定化することができると共に、目的物質以外の物質を結合しにくいので、生理活性物質の精製に適する。
【0007】
しかしながら、特許文献6に記載された生理活性物質精製用途の機能性粒子は、必要に応じて随時凝集が可能な構成を有していないので、検体中に分散された状態から高能率に回収することができず、したがって目的とする生理活性物質の回収効率が低いという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平5−344885号公報
【特許文献2】特開平5−219952号公報
【特許文献3】特開平9−257号公報
【特許文献4】特開2003−194820号公報
【特許文献5】特開平11−326193号公報
【特許文献6】特開2004−150841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、目的の生理活性物質を高効率に固定化可能で、かつ固定化された目的の生理活性物質を高効率に回収可能な機能性粒子及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段として請求項1に係る発明は、芯材粒子と、当該芯材粒子の表面に形成されたニッケル膜またはニッケル合金膜と、当該ニッケル膜またはニッケル合金膜の表面に形成された貴金属膜とを有し、磁性を帯びていることを特徴とする機能性粒子である。
【0011】
前記課題を解決するための手段として請求項2に係る発明は、前記磁性は、保磁力が0.80kA/m〜15.92kA/m(10エルステッド〜200エルステッド)の範囲で、飽和磁化が0.5A・m/kg〜50A・m/kg(0.5emu/g〜50emu/g)の範囲であることを特徴とする請求項1記載の機能性粒子である。
【0012】
前記課題を解決するための手段として請求項3に係る発明は、前記芯材粒子の平均粒子サイズが0.1μm〜50μmの範囲であることを特徴とする請求項1又は2記載の機能性粒子である。
【0013】
前記課題を解決するための手段として請求項4に係る発明は、前記ニッケル膜またはニッケル合金膜の厚みが0.1μm〜10μmの範囲であり、前記貴金属膜の厚みが50nm〜2μmの範囲であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の機能性粒子である。
【0014】
前記課題を解決するための手段として請求項5に係る発明は、前記貴金属膜の表面に形成されたスペーサ層を更に有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の機能性粒子である。
【0015】
前記課題を解決するための手段として請求項6に係る発明は、前記スペーサ層は、一般式、RSH、RSR、RSSR(式中、Rは、炭素原子の個数が20個以下で、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン、チオール基、ニトロ基、アルデヒド基、カルボニル基、スルホニル基、スルホン酸基、ニトロソ基、アミド基及びアジド基からなる群から選択される少なくとも1個の官能基を有する、直鎖状または分枝鎖状アルキル基、直鎖状または分岐鎖状アルケニル基、直鎖状または分岐鎖状アルキニル基、脂環族基、芳香族基、縮合環式基または複素環式基である。)で示されるチオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基を含む化合物を介して下部の貴金属膜に結合することにより形成されていることを特徴とする請求項5記載の機能性粒子である。
【0016】
前記課題を解決するための手段として請求項7に係る発明は、前記貴金属膜は金、金合金、白金及び白金合金からなる群から選択される1種類の貴金属の膜であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の機能性粒子。
【0017】
前記課題を解決するための手段として請求項8に係る発明は、(1)芯材粒子の外表面を陽イオン系界面活性剤で処理する工程、
(2)前記芯材粒子の外表面にパラジウム触媒核を付着させる工程、
(3)前記芯材粒子の外表面を塩酸水溶液で処理する工程、
(4)前記芯材粒子を無電解ニッケルめっき浴に浸漬し、前記芯材粒子の外表面にニッケル膜又はニッケル合金膜を形成する工程、及び
(5)前記ニッケル膜またはニッケル合金膜が外表面に形成された芯材粒子を置換型無電解貴金属めっき浴に浸漬し、前記ニッケル膜またはニッケル合金膜に貴金属膜を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の機能性粒子の製造方法。
【0018】
前記課題を解決するための手段として請求項9に係る発明は、(6)前記貴金属膜の表面にスペーサ層を形成する工程を更に含むことを特徴とする請求項8記載の機能性粒子の製造方法である。
【0019】
前記課題を解決するための手段として請求項10に係る発明は、前記スペーサ層は、一般式、RSH、RSR、RSSR(式中、Rは、炭素原子の個数が20個以下で、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン、チオール基、ニトロ基、アルデヒド基、カルボニル基、スルホニル基、スルホン酸基、ニトロソ基、アミド基及びアジド基からなる群から選択される少なくとも1個の官能基を有する、直鎖状または分枝鎖状アルキル基、直鎖状または分岐鎖状アルケニル基、直鎖状または分岐鎖状アルキニル基、脂環族基、芳香族基、縮合環式基または複素環式基である。)で示されるチオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基を含む化合物を介して下部の貴金属膜に結合することにより形成されることを特徴とする請求項9記載の機能性粒の製造方法である。
【0020】
前記課題を解決するための手段として請求項11に係る発明は、前記陽イオン系界面活性剤が、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−プチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン及びトリメチルドデシルアンモニウムクロライドに代表されるアルキル第四級モニウム塩から選ばれる少なくとも一種の陽イオン系界面活性剤であることを特徴とする請求項8記載の機能性粒子の製造方法である。
【0021】
前記課題を解決するための手段として請求項12に係る発明は、前記貴金属膜は金、金合金、白金及び白金合金からなる群から選択される1種類の貴金属の膜であることを特徴とする請求項8〜11の何れかに記載の機能性粒子の製造方法である。
【0022】
前記課題を解決するための手段として請求項13に係る発明は、少なくとも請求項1〜7の何れかに記載の機能性粒子からなり、前記機能性粒子の表面に生理活性物質を結合させることにより、目標とする生理活性物質を捕捉し、回収及び精製することを特徴とする生理活性物質捕捉・回収・精製キットである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の機能性粒子は最外表面に金膜、金合金膜、白金膜又は白金合金膜からなる貴金属膜を有するので、この貴金属膜に対して親和性を有するチオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基を分子内に含有する生理活性物質を捕捉することができる。しかも、本発明の機能性粒子は磁性を帯びているので、磁界を作用させることにより、機能性粒子に捕捉された生理活性物質を効率的に回収・精製することができる。
【0024】
チオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基を分子内に含有しない生理活性物質は金膜、金合金膜、白金膜又は白金合金膜からなる貴金属膜に結合しないが、機能性粒子の最外層に特定のスペーサ層を設けることにより、チオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基を有しない生理活性物質も捕捉することができる。例えば、チオール基を有するメルカプタン化合物を先ず貴金属膜に結合させてスペーサ層を設けておき、スペーサ層を形成するメルカプタン化合物の官能基を介して各種の生理活性物質を捕捉することができる。また、メルカプタン化合物中の官能基を適宜選択することにより、特定の生理活性物質を選択的に捕捉することもできる。このスペーサ層を有する機能性粒子も磁性を帯びているので、磁界を作用させることにより、この機能性粒子に捕捉されたタンパク質などの生理活性物質を効果的に回収・精製することができる。
従って、本発明の機能性粒子は磁性を活用しても、または活用しなくても効率的に特定の生理活性物質を効率的に捕捉したり、回収・精製したりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の機能性粒子について具体的に説明する。図1は本発明の機能性粒子の一例の概要断面図である。本発明の機能性粒子1Aは、基本的に、芯材粒子3を核とし、この芯材粒子の外表面にニッケル膜又はニッケル合金膜5を有し、該ニッケル膜又はニッケル合金膜5の外表面に貴金属膜7を有する。
【0026】
図2は本発明の機能性粒子の別の例の概要断面図である。図2に示される機能性粒子1Bは、図1に示された機能性粒子1Aと同様に、芯材粒子3を核とし、この芯材粒子の外表面にニッケル膜又はニッケル合金膜5を有し、該ニッケル膜又はニッケル合金膜5の外表面に金膜、金合金膜、白金膜又は白金合金膜からなる貴金属膜7を有するが、機能性粒子1Aと異なり、貴金属膜7の外表面に、特定の生理活性物質と結合するスペーサ層9を更に有する。
【0027】
本発明の機能性粒子1A及び1Bは、0.80kA/m〜15.92kA/m(10エルステッド〜200エルステッド)の範囲内の保磁力と、0.5A・m/kg〜50A・m/kg(0.5emu/g〜50emu/g)の範囲内の飽和磁化の磁気特性を有する磁性粒子である。
【0028】
ニッケルは磁性金属材料であるので、機能性粒子1A及び1Bにニッケル膜またはニッケル合金膜5を形成すると、機能性粒子1A及び1Bに磁性が付与される。そして、磁性が付与された機能性粒子1A及び1Bは、磁界に対して応答性を示し、磁界を操作することによって検体中への分散および検体中での凝集が随時可能になるので、検体中からの回収が容易な機能性粒子となる。なお、機能性粒子1A及び1Bの磁気特性を、保磁力が0.80kA/m〜15.92kA/m(10エルステッド〜200エルステッド)の範囲で、飽和磁化が0.5A・m/kg〜50A・m/kg(0.5emu/g〜50emu/g)の範囲とすることにより、磁界に対する応答性を実用上十分なものにすることができる。
【0029】
一方、金、金合金、白金又は白金合金からなる貴金属はチオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基と親和性が高い金属材料であり、機能性粒子の最表面に金、金合金、白金又は白金合金からなる貴金属膜を形成することにより、機能性粒子にチオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基を介して生理活性物質を固定化することができる。よって、芯材粒子3と当該芯材粒子の表面に形成されたニッケル膜またはニッケル合金膜5と当該ニッケル膜またはニッケル合金膜の表面に形成された金、金合金、白金又は白金合金からなる貴金属膜7とを有する機能性粒子1Aは、所望の生理活性物質の回収効率を高めることができる。
【0030】
機能性粒子1Aの最表面に貴金属膜7が存在しても、チオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基を分子内に含有しない生理活性物質は貴金属膜7に結合することができない。そのため、本発明の機能性粒子1Bでは、機能性粒子の最外層に特定のスペーサ層9を設けることにより、チオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基を有しない生理活性物質も捕捉可能にした。例えば、チオール基を有するメルカプタン化合物を先ず貴金属膜膜7に結合させてスペーサ層9を設けておき、スペーサ層を形成するメルカプタン化合物の官能基を介して各種の生理活性物質を捕捉することができる。また、メルカプタン化合物中の官能基を適宜選択することにより、特定の生理活性物質を選択的に捕捉することもできる。
【0031】
本発明の機能性粒子1A及び1Bにおいて、前記芯材粒子3の平均粒子サイズは0.1μm〜50μmの範囲である事が好ましい。芯材粒子3の平均粒子サイズが小さすぎると、磁界を印加しない場合にも粒子同士が凝集しやすくなるため、検体(試料)中への分散性が悪くなる。一方、芯材粒子の平均粒子サイズが大きすぎると、比表面積が大きくなるために、生理活性物質の固定化効率が低下する。本発明者等の実験によれば、芯材粒子3の平均粒子サイズを0.1μm〜50μmの範囲にすることにより、検体(試料)中への分散性が良好で、生理活性物質の固定化効率が高い機能性粒子とすることができる。
【0032】
芯材粒子3は、アクリル、ポリスチレン、ポリジビニルベンゼン、シリカ、アルミナ、チタニヤ、カーボン、セラミックス、金属または合金、もしくはこれらの混合物など、任意の材料をもって形成することができる。また、芯材粒子3の形状に関しては、針状、板状、球状、楕円状、立方状などの各種の形状のものを使用できるが、溶液中での分散性が良好で生理活性物質を高効率に固定化できることから、球状のものが特に好ましい。
【0033】
ニッケル膜又はニッケル合金膜5は、機能性粒子1A及び1Bに、保磁力が0.80kA/m〜15.92kA/m(10エルステッド〜200エルステッド)の範囲で、飽和磁化が0.5A・m/kg〜50A・m/kg(0.5emu/g〜50emu/g)の範囲の磁性を帯有させるため、0.1μm〜10μmの厚みに形成される。ニッケル合金膜は、例えばNiP合金やNiB合金などの磁性ニッケル合金を用いて形成される。
【0034】
機能性粒子1A及び1Bの磁気特性は、ニッケル膜またはニッケル合金膜5の厚みに依存して変動する。即ち、ニッケル膜またはニッケル合金膜5の厚みが0.1μm未満の場合、前述した所要の保磁力及び飽和磁化を得られなくなり、ニッケル膜またはニッケル合金膜5の厚みが10μmを超えると、磁界応答性が飽和する。よって、ニッケル膜またはニッケル合金膜の厚みを0.1μm〜10μmの範囲とすることにより、磁界に対する応答性が良好で、しかも経済的な機能性粒子とすることができる。
【0035】
本発明の機能性粒子1Aにおいて、金、金合金、白金又は白金合金からなる貴金属膜7の厚さは50nm〜2μmの範囲内であることが好ましい。機能性粒子における生理活性物質の固定化効率は、貴金属膜の厚みに依存して変動する。即ち、貴金属膜の厚みが50nm未満の場合、生理活性物質の固定化効率が過小になり、貴金属膜の厚みが2μmを超えると、生理活性物質の固定化効率が飽和する。よって、貴金属膜の厚みを50nm〜2μmの範囲とすることにより、生理活性物質の固定化効率が高く、しかも経済的な機能性粒子とすることができる。金合金膜は、例えばAuPd合金などのチオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基と親和性を有する金合金を用いて形成される。白金合金膜は、例えば、PtRuなどのチオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基と親和性を有する白金合金を用いて形成される。
【0036】
本発明の機能性粒子1Bにおいて、スペーサ層9は貴金属膜7にチオール基(−SH)、スルフィド基(−S−)或いはジスルフィド基(−S−S−)を介して結合する。チオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基は金又は金合金と親和性が高く、非常に結合し易いという特性を有する。従って、スペーサ層9としては、一般式、RSH、RSR、RSSR(式中、Rは、炭素原子の個数が20個以下で、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン、チオール基、ニトロ基、アルデヒド基、カルボニル基、スルホニル基、スルホン酸基、ニトロソ基、アミド基及びアジド基からなる群から選択される少なくとも1個の官能基を有する、直鎖状または分枝鎖状アルキル基、直鎖状または分岐鎖状アルケニル基、直鎖状または分岐鎖状アルキニル基、脂環族基、芳香族基、縮合環式基または複素環式基である。)で示されるチオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基含有化合物を使用することができる。従って、スペーサ層9は貴金属膜(例えば、金膜)7に対して、例えば、Au−S−R、Pt−S−Rのように結合している。スペーサ層9を構成するチオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基含有化合物の種類に応じて回収可能な生理活性物質を適宜変更することができるので、機能性粒子1Bの多用途化を図ることができる。
【0037】
本発明の機能性粒子1Aは最外表面に金膜、金合金膜、白金膜又は白金合金膜からなる貴金属膜7を有するので、この貴金属膜7に対して親和性を有するチオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基を分子内に含有する生理活性物質(例えば、グルタチオン等)を捕捉することができる。しかも、機能性粒子1Aは磁性を帯びているので、磁界を作用させることにより、機能性粒子1Aに捕捉された生理活性物質を効果的に回収・精製することができる。
【0038】
機能性粒子1Aは分子内にチオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基を有する生理活性物質は捕捉できるが、チオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基を有しない生理活性物質を捕捉することはできない。これに対して、機能性粒子1Bはスペーサ層9を構成するチオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基を含有する化合物中の様々な官能基により各種の生理活性物質を捕捉することができる。また、この官能基を適宜選択することにより、特定の生理活性物質を選択的に捕捉することもできる。機能性粒子1Aと同様に、機能性粒子1Bも磁性を帯びているので、磁界を作用させることにより、機能性粒子1Bに捕捉された生理活性物質を効果的に回収・精製することができる。
【0039】
本発明の機能性粒子において、前記ニッケル膜又はニッケル合金膜および貴金属膜は、無電解めっき法により形成される事が好ましい。無電解めっき法によれば、芯材粒子の表面にニッケル膜又はニッケル合金膜を均一かつ高能率に形成することができ、また、ニッケル膜又はニッケル合金膜の表面に貴金属膜を均一かつ高能率に形成することができるので、高性能の機能性粒子を安価に製造することができる。
【0040】
従って、本発明の機能性粒子1Aの製造方法は下記の(1)〜(5)の工程を含む。
(1)芯材粒子の外表面を陽イオン系界面活性剤で処理する工程、
(2)前記芯材粒子の外表面にパラジウム触媒核を付着させる工程、
(3)前記芯材粒子の外表面を塩酸水溶液で処理する工程、
(4)前記芯材粒子を無電解ニッケルめっき浴に浸漬し、前記芯材粒子の外表面にニッケル膜またはニッケル合金膜を形成する工程、及び
(5)前記ニッケル膜またはニッケル合金膜が外表面に形成された芯材粒子を置換型無電解貴金属めっき浴に浸漬し、前記ニッケル膜またはニッケル合金膜に貴金属膜を形成する工程。
【0041】
また、本発明の機能性粒子1Bの製造方法は下記の(1)〜(6)の工程を含む。
(1)芯材粒子の外表面を陽イオン系界面活性剤で処理する工程、
(2)前記芯材粒子の外表面にパラジウム触媒核を付着させる工程、
(3)前記芯材粒子の外表面を塩酸水溶液で処理する工程、
(4)前記芯材粒子を無電解ニッケルめっき浴に浸漬し、前記芯材粒子の外表面にニッケル膜またはニッケル合金膜を形成する工程、及び
(5)前記ニッケル膜またはニッケル合金膜が外表面に形成された芯材粒子を置換型無電解貴金属めっき浴に浸漬し、前記ニッケル膜またはニッケル合金膜に貴金属膜を形成する工程、及び
(6)前記貴金属膜と、一般式RSH、RSR、RSSR(式中、Rは前記に定義した通りのものである)で示されるチオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基を含有する化合物を反応させ、スペーサ層を形成する工程。
【0042】
芯材粒子の表面に無電解ニッケルめっきを行う場合、芯材粒子の表面に触媒として金属パラジウム微粒子を予め付着させる必要がある。一般的に使用されている一液系のパラジウム触媒の塩酸溶液中では、パラジウムイオンは塩化第一錫により下記の反応式(1)のように還元され、金属パラジウムコロイドとして存在している。
PdCl+SnCl=Pd+SnCl ・・・(1)
【0043】
この金属パラジウムコロイドの外周には塩素イオンが存在しているため、コロイドの外周はマイナスにチャージしている。従って、金属パラジウムコロイドを芯材粒子の表面に化学吸着させるためには、芯材粒子の表面をプラスにチャージした状態にする必要がある。このために、芯材粒子の表面を予め陽イオン系界面活性剤で処理する。
【0044】
本発明の機能性粒子の製造方法において使用可能な陽イオン系界面活性剤としては、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−プチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン及びトリメチルドデシルアンモニウムクロライドに代表されるアルキル第四級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも一種の陽イオン系界面活性剤を挙げることができる。上記した陽イオン系界面活性剤の中でアミン系陽イオン界面活性剤は、水溶液中で加水分解してシラノール基とアンモニウム陽イオンを生じる。例えば、アミン系陽イオン界面活性剤として3−アミノプロピルトリメトキシシランを用いた場合、下記の反応式(2)に示す反応が起こる。
NHSi(OCH+4H
=NSi(OH)+3CHOH+OH ・・・(2)
【0045】
この反応で生じたシラノール基が芯材表面の酸素と水素結合し、その結果、芯材表面はアンモニウム陽イオンで覆われ、芯材粒子最表面をプラスにチャージした状態にすることができる。従って、アミン系陽イオン界面活性剤での前処理を施すことにより、表面がマイナスにチャージした金属パラジウムコロイドを静電的に芯材粒子表面に化学吸着させることができる。アミン系陽イオン界面活性剤を水に溶解し、その濃度を1〜10wt%にして使用することが好ましい。
【0046】
また、芯材粒子がポリスチレンやポリジビニルベンゼン等の非極性材料である場合、陽イオン系界面活性剤としてトリメチルドデシルアンモニウムクロライドに代表されるアルキル第四級アンモニウム塩を使用する事が出来る。非極性材料の芯材粒子表面とはアルキル第四級アンモニウム塩中のアルキル鎖が有機−有機のファンデルワールス力により非極性材料表面と相互作用し、その結果、アンモニウム陽イオンを非極性材料表面の外周部に配置させる事が出来る。その結果、ポリスチレンやポリジビニルベンゼン等の非極性材料である芯材粒子を使用しても、外周がマイナスに帯電したPd触媒コロイド粒子を静電的に吸着させる事が可能となり、その結果、非極性芯材粒子表面上に無電解ニッケルめっきを行う事が可能となる。アルキル第四級アンモニウム塩を水に溶解し、その濃度を1〜10wt%にして使用することが好ましい。
【0047】
金属パラジウムコロイドを芯材粒子表面に化学吸着させた後、錫の塩化物を塩酸水溶液で除去し、金属パラジウムを表面に露出させる。この状態で芯材粒子を無電解ニッケルめっき浴に浸漬すると、金属パラジウムが触媒核となりニッケルを還元析出させることが可能となる。
【0048】
無電解ニッケルめっき浴として、次亜燐酸を還元剤にして使用する場合、低リン浴を用いることが好ましい。高リン浴を用いた場合、形成したニッケル膜中のリン濃度が増加してニッケル-リン膜の飽和磁化が減少するか、または非磁性となり、磁場を用いた集磁性が低下する。このような観点から、ニッケル-リン膜中のリン含有量は22at%未満であることが好ましい。更に好ましくは、ニッケル-リン膜中のリン含有量は3at%〜16at%である。
ジメチルアミンボラン或いは水素化ホウ素ナトリウムを還元剤として使用すると、ニッケル-ホウ素膜を得る事が出来る。この場合、ホウ素濃度は最高で22at%である。しかし、ニッケル-リン膜と異なり、この組成においてもニッケル-ホウ素膜は磁性を示すため、集磁性の劣化は生じない。好ましくは、ニッケル-ホウ素膜中のホウ素含有量は3at%〜10at%である。
Ni膜又はNi合金膜のメッキ厚を0.1μm〜10μmに制御するには、めっき浴温度を一定にした場合、芯材粒子をメッキ浴に浸漬する時間で制御することができる。一般的に、Ni膜又はNi合金膜のメッキ膜析出速度はめっき浴温度が80℃〜90℃で、3nm/秒〜7nm/秒である。この析出速度をもとに、芯材粒子の浸漬時間でNi膜又はNi合金膜のメッキ膜厚を制御できる。また、別法として、予め目標とするNi膜又はNi合金膜のメッキ膜厚を得るためのNi又はNi合金イオンの必要量を算出後、必要量のイオンを含むメッキ浴を建浴し、例えば、めっき浴を常温から80℃に昇温して、還元反応を完結させる。この方法によってもNi膜又はNi合金膜のメッキ厚を制御できる。
【0049】
続いて、この芯材粒子を無電解貴金属めっき浴に浸漬すると、ニッケル膜又はニッケル合金膜上に貴金属膜を形成することができる。貴金属膜は金膜、金合金膜、白金膜又は白金合金膜である。一般的な貴金属めっきには置換型貴金属めっき浴を使用することが好ましい。例えば、置換型金めっきではニッケルと金のイオン化傾向の差を利用し、下記の反応式(3)に従ってニッケル膜上に金が析出する。
3Ni+2Au3+=3Ni2++2Au ・・・(3)
また、置換型白金めっきではニッケルと白金のイオン化傾向の差を利用し、下記の反応式(4)に従ってニッケル膜上に白金が析出する。
2Ni+Pt4+=2Ni2++Pt ・・・(4)
【0050】
置換型貴金属メッキでは、基本的にニッケル表面が貴金属で覆われると反応が停止し、その厚さは50nm〜100nmである。100nm以上の貴金属めっきを行う場合には、アスコルビン酸(ビタミンC)を還元剤とする無電解貴金属めっき浴を使用することにより、約2μm程度の厚さの貴金属めっきが可能となる。
一般的な置換型貴金属めっき浴では、その析出速度は0.1nm/秒〜0.2nm/秒である。この析出速度をもとに、貴金属の膜厚を制御することができる。100nmより厚い貴金属膜を得るためには、アスコルビン酸等の還元剤を含むめっき浴を使用する。一般的な還元剤含有型貴金属めっき浴では、貴金属の析出速度は0.3nm/秒〜0.5nm/秒であり、この析出速度をもとに貴金属膜の膜厚を制御することができる。
【0051】
金属Fe、金属Co及びFe、γ−Fe等の鉄酸化物も磁性を示すが、本発明で使用することは不適当である。金属Feは金属Niに比べてイオン化傾向が高く、陽イオンとして溶出しやすい。金属Coは金属Niに比べてコストが高く、安価に製造することができない。一方、Feやγ−Feの酸化鉄粒子では、その外表面を置換型無電解金めっき法により完全に被覆することができない。γ−Feは酸性下で使用されるとイオンとして流出してしまう。Feは耐酸性を有するが、金でその粒子表面を完全に被覆することができないため、露出したFe表面で生理活性物質のペプチド結合が切断される場合がある。従って、イオン化傾向の高さ、コスト高、金膜での完全被覆不可、生理活性物質の切断分解等の理由により、生理活性物質を回収・精製するときには金属Fe、金属Coや酸化鉄がたとえ磁性体であっても、ニッケルの代わりに使用することはできない。
【0052】
図3は本発明の機能性粒子の使用方法の一例を示す概念図である。ステップ(1)において、ビーカー11などのような適当な容器内に例えば、実験動物の血液などの分析試料13を充填する。この分析試料13には様々なタンパク質15〜17が含有されている。この分析試料13に本発明の機能性粒子1A又は1Bを投入し、十分に撹拌混合して、分析試料13に含まれる特定のタンパク質15を結合させる。次いで、ステップ(2)において、ビーカー11の分析試料13を例えば、分液ロート19等に移し替え、分液ロート19の外部から磁石21などにより磁界を作用させ、本発明の機能性粒子1A又は1Bを磁界周辺に集め、ロート19内の残余の分析試料13は廃棄する。その後、ステップ(3)において、回収された機能性粒子1A又は1Bを別の容器23に移し、これに分離用液体(例えば、生理食塩水など)24を加えると、機能性粒子1A又は1Bからタンパク質15が離れるので、上澄み液を回収すれば、特定のタンパク質15だけを効率的に分離することができる。
【0053】
図4は本発明の機能性粒子の使用方法の別の例を示す概念図である。本発明の機能性粒子は磁性を有するので図3に示すような磁力選別法で使用するのが好ましいが、こような磁力選別法以外でも使用できる。例えば、ステップ(1)に示されるように、本発明の機能性粒子1A又は1Bを公知のマイクロ化学チップ25のマイクロチャネル27内に閉じ込めておき、マイクロチャネル27の上流側から分析試料13を流す。この分析試料13には様々なタンパク質15〜17が含有されている。次いで、ステップ(2)において、分析試料13と機能性粒子1A又は1Bとを十分に接触させることにより、機能性粒子1A又は1Bに特定のタンパク質15を結合させ、不要な分析試料13をマイクロチャネル27外に流し去る。その後、マイクロチャネル27の上流側から分離用液体(例えば、生理食塩水など)24を流し、機能性粒子1A又は1Bからタンパク質15を分離させ、分離した特定のタンパク質15を下流側で回収する。
【0054】
図5は本発明の機能性粒子の使用方法の他の例を示す概念図である。本発明の機能性粒子は酵素免疫測定(ELISA)法のための担体として好適に使用できる。図5はELISA法の直接吸着法を説明する概念図である。ステップ(1)において、本発明の機能性粒子1A又は1Bの固相表面(すなわち、担体表面)に抗原(例えば、HIV抗原)29を結合させておく。ステップ(2)において、被検サンプル(例えば、血清)を加える。サンプル中に抗体(例えば、抗HIV抗体(HIVに感染すると平均12週位で産生され、HIV抗原に特異的に結合する))30があれば、抗原29と反応し、結合する。次いで、ステップ(3)において、標識物質として、酵素付き二次抗体32を加える。この酵素付き二次抗体32は被検サンプル中の抗体30と特異的に結合することができる。その後、ステップ(4)において、酵素付き抗体32の酵素と反応して発色する物質34を加える。ステップ(5A)において、反応生成物36の発色状態を測定する。ステップ(5B)に示されるように、被検サンプル中に抗体(例えば、抗HIV抗体)30がなければ、発色物質34を加えても反応しないので発色しない。このような一連の反応は図4に示されるようなマイクロ化学チップ25のマイクロチャネル27内で実施することができる。従って、本発明の機能性粒子1A又は1Bの固相表面(すなわち、担体表面)に結合できる抗原を予めじめ突き止めておけば、この抗原と特異的に反応する抗体をELISA法により容易に検出することができる。
【実施例1】
【0055】
粒径5μmのアクリル粒子を陽イオン系界面活性剤である3−アミノプロピルトリメトキシシラン水溶液(5wt%水溶液)で処理し、水洗後、Pd触媒核の塩酸水溶液中で3分間混合した。濾過、水洗後、この粒子を1規定のHCl水溶液に加え、3分間混合した。濾過、水洗後、次亜燐酸ナトリウムを還元剤とする無電解ニッケルめっき浴(85℃)に加え5分間攪拌した。この操作により、アクリル粒子上にニッケル−リン合金膜がめっきされた。引き続き、この粒子を置換型無電解金めっき浴に10分間浸漬し、ニッケルめっき膜上に金膜をめっきした。走査型電子顕微鏡観察により、得られた機能性粒子は球状粒子であり、その平均粒子径は約9μmであることが分かった。また、本機能性粒子の断面を集束イオンビーム(FIB)加工により露出させ、走査型電子顕徴鎖で観察した結果、図6に示すように芯材粒子3の表面にニッケル-リン膜5および金膜7がこの順に形成されており、ニッケル-リン膜の膜厚が2μm、金膜の膜厚が0.1μmであることが分かった。エネルギー分散型X線分光装置を用いてニッケル-リン膜の組成を分析した結果、Ni97(at%)である事が分かった。また、振動試料型磁力計を用いて磁気特性を測定した結果、保磁力が3.98kA/m(50エルステッド)で、飽和磁化が11.2A・m/kg(11.2emu/g)であった。保磁力は、797kA/m(10キロエルステッド)の磁界を印加して磁化した後、磁界をゼロに戻し、さらに磁界を逆方向に徐々に増加させた際、磁化量がゼロになる印加磁界の値から求めた。また、飽和磁化は、797kA/mの磁界を印加したときの磁化量から求めた。更に、本機能性粒子を水中に分散させた後、磁石による集磁性が十分ある事が確認された。
【実施例2】
【0056】
粒径5μmのポリスチレン粒子を陽イオン系界面活性剤であるトリメチルドデシルアンモニウムクロライド水溶液(5wt%水溶液)で処理し、水洗後、Pd触媒核の塩酸水溶液中で3分間混合した。濾過、水洗後、この粒子を1規定のHCl水溶液に加え、3分間混合した。濾過、水洗後、次亜燐酸ナトリウムを還元剤とする無電解ニッケルめっき浴(85℃)に加え2.5分間攪拌した。この操作により、ポリスチレン粒子上にニッケル−リン合金膜がめっきされた。引き続き、この粒子を置換型無電解金めっき浴に10分間浸漬し、ニッケルめっき膜上に金膜をめっきした。引き続き、アルコルビン酸を還元剤として含有する無電解金めっき浴に試料を1時間浸漬し、金めっきを行った。走査型電子顕微鏡観察によりその断面を観察した結果、その平均粒子径は約9μmであることが分かった。また、本機能性粒子の断面を集束イオンビーム(FIB)加工により露出させ、走査型電子顕徴鎖で観察した結果、図6と同様な構造(芯材はポリスチレン)である事が確認された。更に、ニッケル-リン膜の膜厚が1μm、金膜の膜厚が1.0μmであることが分かった。エネルギー分散型X線分光装置を用いてニッケル-リン膜の組成を分析した結果、Ni964(at%)である事が分かった。また、振動試料型磁力計を用いて磁気特性を測定した結果、保磁力が4.22kA/m(53エルステッド)で、飽和磁化が10.7A・m/kg(10.7emu/g)であった。保磁力は、797kA/m(10キロエルステッド)の磁界を印加して磁化した後、磁界をゼロに戻し、さらに磁界を逆方向に徐々に増加させた際、磁化量がゼロになる印加磁界の値から求めた。また、飽和磁化は、797kA/mの磁界を印加したときの磁化量から求めた。更に、本機能性粒子を水中に分散させた後、磁石による集磁性が十分ある事が確認された。
【実施例3】
【0057】
粒径5μmのアクリル粒子を陽イオン系界面活性剤である3−アミノプロピルトリメトキシシラン水溶液(5wt%水溶液)で処理し、水洗後、Pd触媒核の塩酸水溶液中で3分間混合した。濾過、水洗後、この粒子を1規定のHCl水溶液に加え、3分間混合した。濾過、水洗後、次亜燐酸ナトリウムを還元剤とする無電解ニッケルめっき浴(85℃)に加え5分間攪拌した。この操作により、アクリル粒子上にニッケル−リン合金膜がめっきされた。引き続き、この粒子を置換型無電解白金めっき浴に10分間浸漬し、ニッケルめっき膜上に白金膜をめっきした。走査型電子顕微鏡観察により、得られた機能性粒子は球状粒子であり、その平均粒子径は約9μmであることが分かった。また、本機能性粒子の断面を集束イオンビーム(FIB)加工により露出させ、走査型電子顕徴鎖で観察した結果、芯材粒子の表面にニッケル-リン膜および白金膜がこの順に形成されており、ニッケル-リン膜の膜厚が2μm、白金膜の膜厚が0.1μmであることが分かった。エネルギー分散型X線分光装置を用いてニッケル-リン膜の組成を分析した結果、Ni964(at%)である事が分かった。また、振動試料型磁力計を用いて磁気特性を測定した結果、保磁力が3.82kA/m(48エルステッド)で、飽和磁化が12.0A・m/kg(12.0emu/g)であった。保磁力は、797kA/m(10キロエルステッド)の磁界を印加して磁化した後、磁界をゼロに戻し、さらに磁界を逆方向に徐々に増加させた際、磁化量がゼロになる印加磁界の値から求めた。また、飽和磁化は、797kA/mの磁界を印加したときの磁化量から求めた。更に、本機能性粒子を水中に分散させた後、磁石による集磁性が十分ある事が確認された。
【実施例4】
【0058】
粒径5μmのポリスチレン粒子を陽イオン系界面活性剤であるトリメチルドデシルアンモニウムクロライド水溶液(5wt.%水溶液)で処理し、水洗後、Pd触媒核の塩酸水溶液中で3分間混合した。濾過、水洗後、この粒子を1規定のHCl水溶液に加え、3分間混合した。濾過、水洗後、次亜燐酸ナトリウムを還元剤とする無電解ニッケルめっき浴(85℃)に加え2.5分間攪拌した。この操作により、ポリスチレン粒子上にニッケル−リン合金膜がめっきされた。引き続き、この粒子を置換型無電解白金めっき浴に10分間浸漬し、ニッケルめっき膜上に白金膜をめっきした。引き続き、還元剤を含有する無電解白金めっき浴に試料を1時間浸漬し、白金めっきを行った。走査型電子顕微鏡観察によりその断面を観察した結果、その平均粒子径は約9μmであることが分かった。また、本機能性粒子の断面を集束イオンビーム(FIB)加工により露出させ、走査型電子顕徴鎖で観察した結果、図6と同様な構造(芯材はポリスチレン)である事が確認された。更に、ニッケル-リン膜の膜厚が1μm、白金膜の膜厚が1.0μmであることが分かった。エネルギー分散型X線分光装置を用いてニッケル-リン膜の組成を分析した結果、Ni964(at%)である事が分かった。また、振動試料型磁力計を用いて磁気特性を測定した結果、保磁力が3.90kA/m(49エルステッド)で、飽和磁化が10.2A・m/kg(10.2emu/g)であった。保磁力は、797kA/m(10キロエルステッド)の磁界を印加して磁化した後、磁界をゼロに戻し、さらに磁界を逆方向に徐々に増加させた際、磁化量がゼロになる印加磁界の値から求めた。また、飽和磁化は、797kA/mの磁界を印加したときの磁化量から求めた。更に、本機能性粒子を水中に分散させた後、磁石による集磁性が十分ある事が確認された。
【比較例1】
【0059】
平均粒径5μmのシリカ粒子2gを純水100ml中に分散し、1%塩化金酸水溶液1mlと1%クエン酸ナトリウム水溶液5mlを加えて攪拌した。この混合物にクエン酸ナトリウムを加え、さらに攪拌した。80℃に加熱し30分間攪拌した後、濾過、乾燥した。走査型電子顕微鏡観察により、得られた機能性粒子は球状粒子であることがわかった。この機能性粒子の断面を集束イオンビーム(FIB)加工により露出させ、走査型電子顕徴鎖で観察した結果、金膜の膜厚が0.03μmであること、更に、シリカ表面全体を金膜が被覆していないことが分かった。
【実施例5】
【0060】
実施例1〜4及び比較例1で得られた機能性粒子について、生理活性物質の吸着実験を行った.生理活性物質としては金及び白金に対して親和性のあるチオール基を有するトリペプチドであるグルタチオンを用いた。一定量の機能性粒子とグルタチオン標準溶液を混合し、攪拌した後に数分間放置した。上清中のグルタチオンの濃度を比色定量し、機能性粒子に吸着したグルタチオン量を算出した。結果を下記の表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
前記表1に示された結果より明らかなように、実施例1〜4の機能性粒子は、グルタチオンの吸着効率に優れている。更に実施例1〜4の機能性粒子は、磁性を有しているので、磁石で回収することができ、吸着したグルタチオンを高効率に回収することができた。これに対して、比較例1の機能性粒子は、グルタチオンの吸着効率が低く、しかも磁性を有していないので、吸着したグルタチオンを高効率に回収することができなかった。
【実施例6】
【0063】
実施例1〜4で得られた機能性粒子にスペーサ層を設け、特定のタンパク質を捕捉した例を示す。まず、実施例1〜4で得られた機能性粒子と末端にアミノ基を有するメルカプタン化合物である8−アミノ−1−オクタンチオールを混合し、機能性粒子表面にアミノ基を導入した。次に、アミノ基を導入した機能性粒子をトリス塩酸バッファー(pH7.5)に分散し、特定のタンパク質としてペルオキシダーゼを加え、機能性粒子にペルオキシダーゼを捕捉した。捕捉したペルオキシダーゼの量および活性を測定する方法として、TOOS−4−AA系の発色反応を使用した。この発色反応は、ペルオキシダーゼにより触媒される過酸化水素の還元によって生成した酸素と、TOOS〔N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン〕および4−AA(4−アミノアンチピリン)の反応により、波長546nmに吸収を有する色素が生成することを利用したものである。その結果、この機能性粒子に対するペルオキシダーゼ捕捉率はそれぞれ80.2%、81.2%、82.0%及び82.2%であることが分かった。
【実施例7】
【0064】
実施例1〜4で得られた機能性粒子と末端にカルボキシル基を有するメルカプタン化合物である10−カルボキシ−1−デカンチオールを混合し、機能性粒子表面にカルボキシル基を導入した。次に、カルボキシル基を導入した機能性粒子をリン酸バッファー(pH7.0)に分散し、カルボジイミド塩酸塩を加え、特定のタンパク質としてウサギ抗体IgGを加え、機能性粒子に抗体を捕捉した。捕捉した抗体の量は波長280nmにおける吸光度から決定した。その結果、この機能性粒子に対するウサギ抗体捕捉率はそれぞれ79.8%、80.1%、81.2%及び80.5%であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の機能性粒子は磁性を帯有すると共に、最表面にチオール基、スルフィド基及びジスルフィド基と親和性が高い金膜又は金合金膜を有するので、タンパク質などの生理活性物質の回収効率が高く、磁場を用いたタンパク質などの生理活性物質の精製に適用することができる。
新薬の開発では実験動物の体液(例えば、血液)などの分析試料から病気に関係するタンパク質を分離し、その性質を詳細に調べたり、その働きを抑える化合物などの新薬候補物質を探索することがあるが、本発明の機能性粒子はこのような目的に好適に使用することができる。また、特定の新薬候補物質と強く結合するタンパク質を探す研究にも使用できる。
更に、本発明の機能性粒子はBSEやアルツハイマー病などのような特定のタンパク質が関連する疾病の検査又は診断などの目的にも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の機能性粒子の一例の概要断面図である。
【図2】本発明の機能性粒子の別の例の概要断面図である。
【図3】本発明の機能性粒子の使用方法の一例の概念図である。
【図4】本発明の機能性粒子の使用方法の別の例の概念図である。
【図5】本発明の機能性粒子の使用方法の他の例の概念図である。
【図6】実施例1で得られた本発明の機能性粒子の走査型電子顕微鏡による断面写真図である。
【符号の説明】
【0067】
1A,1B 本発明の機能性粒子
3 芯材粒子
5 ニッケル膜又はニッケル合金膜
7 金膜又は金合金膜
9 スペーサ層
11 容器
13 分析試料
15,16,17 タンパク質
19 分液ロート
21 磁石
23 容器
24 分離用液体
25 マイクロ化学チップ
27 マイクロチャネル
29 抗原
30 抗体
32 酵素付き二次抗体
34 発色試薬
36 反応生成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材粒子と、当該芯材粒子の表面に形成されたニッケル膜またはニッケル合金膜と、当該ニッケル膜またはニッケル合金膜の表面に形成された貴金属膜とを有し、磁性を帯びていることを特徴とする機能性粒子。
【請求項2】
前記磁性は、保磁力が0.80kA/m〜15.92kA/m(10エルステッド〜200エルステッド)の範囲で、飽和磁化が0.5A・m/kg〜50A・m/kg(0.5emu/g〜50emu/g)の範囲であることを特徴とする請求項1記載の機能性粒子。
【請求項3】
前記芯材粒子の平均粒子サイズが0.1μm〜50μmの範囲であることを特徴とする請求項1又は2記載の機能性粒子。
【請求項4】
前記ニッケル膜またはニッケル合金膜の厚みが0.1μm〜10μmの範囲であり、前記貴金属膜の厚みが50nm〜2μmの範囲であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の機能性粒子。
【請求項5】
前記貴金属膜の表面に形成されたスペーサ層を更に有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の機能性粒子。
【請求項6】
前記スペーサ層は、一般式、RSH、RSR、RSSR(式中、Rは、炭素原子の個数が20個以下で、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン、チオール基、ニトロ基、アルデヒド基、カルボニル基、スルホニル基、スルホン酸基、ニトロソ基、アミド基及びアジド基からなる群から選択される少なくとも1個の官能基を有する、直鎖状または分枝鎖状アルキル基、直鎖状または分岐鎖状アルケニル基、直鎖状または分岐鎖状アルキニル基、脂環族基、芳香族基、縮合環式基または複素環式基である。)で示されるチオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基を含む化合物を介して下部の貴金属膜に結合することにより形成されていることを特徴とする請求項5記載の機能性粒子。
【請求項7】
前記貴金属膜は金、金合金、白金及び白金合金からなる群から選択される1種類の貴金属の膜であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の機能性粒子。
【請求項8】
(1)芯材粒子の外表面を陽イオン系界面活性剤で処理する工程、
(2)前記芯材粒子の外表面にパラジウム触媒核を付着させる工程、
(3)前記芯材粒子の外表面を塩酸水溶液で処理する工程、
(4)前記芯材粒子を無電解ニッケルめっき浴に浸漬し、前記芯材粒子の外表面にニッケル膜又はニッケル合金膜を形成する工程、及び
(5)前記ニッケル膜またはニッケル合金膜が外表面に形成された芯材粒子を置換型無電解貴金属めっき浴に浸漬し、前記ニッケル膜またはニッケル合金膜に貴金属膜を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の機能性粒子の製造方法。
【請求項9】
(6)前記貴金属膜の表面にスペーサ層を形成する工程を更に含むことを特徴とする請求項8記載の機能性粒子の製造方法。
【請求項10】
前記スペーサ層は、一般式、RSH、RSR、RSSR(式中、Rは、炭素原子の個数が20個以下で、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン、チオール基、ニトロ基、アルデヒド基、カルボニル基、スルホニル基、スルホン酸基、ニトロソ基、アミド基及びアジド基からなる群から選択される少なくとも1個の官能基を有する、直鎖状または分枝鎖状アルキル基、直鎖状または分岐鎖状アルケニル基、直鎖状または分岐鎖状アルキニル基、脂環族基、芳香族基、縮合環式基または複素環式基である。)で示されるチオール基、スルフィド基或いはジスルフィド基を含む化合物を介して下部の貴金属膜に結合することにより形成されることを特徴とする請求項9記載の機能性粒の製造方法。
【請求項11】
前記陽イオン系界面活性剤が、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−プチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン及びトリメチルドデシルアンモニウムクロライドに代表されるアルキル第四級モニウム塩から選ばれる少なくとも一種の陽イオン系界面活性剤であることを特徴とする請求項8記載の機能性粒子の製造方法。
【請求項12】
前記貴金属膜は金、金合金、白金及び白金合金からなる群から選択される1種類の貴金属の膜であることを特徴とする請求項8〜11の何れかに記載の機能性粒子の製造方法。
【請求項13】
少なくとも請求項1〜7の何れかに記載の機能性粒子からなり、前記機能性粒子の表面に生理活性物質を結合させることにより、目標とする生理活性物質を捕捉し、回収及び精製することを特徴とする生理活性物質捕捉・回収・精製キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−169623(P2006−169623A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−43882(P2005−43882)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】