説明

歯車の製造方法

【課題】熱間で相対的な位置精度を高く保持しつつ素材に歯形、孔およびスプライン溝を形成することにより、ブローチ工程によらずに寸法精度に優れた歯車の製造方法を提供する。
【解決手段】歯形形成工程S300において熱間で素材12に歯形16aを形成して素材13とし、次に位置決め工程S400において素材13に形成された歯形16aに係合する係合部材20により素材13を位置決めして固定し、続いて孔・スプライン溝形成工程S500において外周面にスプライン溝16fに対応する形状の突起が形成された押圧部材40を熱間で素材13に押圧することにより素材13に孔16eおよびスプライン溝16fを形成して素材14とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車の製造方法に関する。より詳細には、外形の熱間鍛造時に併せて歯車の内径スプラインを成型する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のデファレンシャルギア用のサイドギアは、熱間鍛造工程、冷間コイニング工程、ブローチ工程といった一連の工程を経て製造される。例えば、特許文献1に記載の如くである。
熱間鍛造工程は、サイドギアの素材たる略円柱形状または略円筒形状の素材を所定の温度(通常は再結晶温度以上)に昇温した状態で、荒地加工、すえ込み、歯形形成、芯抜き等の一連の加工を施すことにより、サイドギアの大まかな形状を成型する工程である。
冷間コイニング工程は大まかな形状が成型されたサイドギアの歯形の歯底を冷間でしごいてフィルアップすることにより、当該歯形の形状を更に整える工程である。
ブローチ工程は芯抜きによりサイドギアの略中央部に形成された孔の内周面に冷間でスプライン溝を形成する(ブローチ加工を行う)工程である。
【0003】
また、冷間コイニング工程において専用のパンチを用いてスプライン溝を成型することによりブローチ工程を省略可能とする方法も知られている。例えば、特許文献2に記載の如くである。
【0004】
一般に、ブローチ工程は、サイドギアを位置決めして固定し、ブローチと呼ばれる専用の工具をサイドギアの孔に通して引き抜くことにより、当該孔の内周面にスプライン溝を形成する。
ブローチは主たる構造体である軸の外周面に荒刃、中仕上げ刃、仕上げ刃等の多数の加工刃が設けられたものである。これらの加工刃は、荒刃、中仕上げ刃、仕上げ刃の順にサイドギアの孔の内周面に接触するように軸の外周面に配列され、ブローチを一回引き抜くことにより、スプライン溝の荒加工、中仕上げ加工、仕上げ加工といった一連の加工が連続的に行われる。
【0005】
しかし、従来のサイドギアの製造方法は以下の問題点を有する。
【0006】
第一に、ブローチ工程において用いられるブローチは引き抜き方向に長い形状であることから引き抜きに要するストロークが大きく、専用の設備を必要とし、設備が大型化して高価なものとなる。従って、ブローチ工程に用いられる設備の導入コストが大きい。
【0007】
第二に、スプライン溝の高い寸法精度を達成するためにはブローチ自身にも高い寸法精度が要求されることから、ブローチは一般に高価なものとなる。また、ブローチは多数の加工刃を有し、これらの加工刃の一つ一つについての寸法精度を管理する負担(労力、コスト)が大きい。
例えば、ブローチの加工刃の材質を超硬合金からより安価なSKD61等に変更してブローチの製造コストを下げると、その分ブローチの耐久性が低下する。しかし、ブローチの加工刃の耐久性の低下を補うために加工刃に表面処理を施すと、その分ブローチの製造コストが増大する。また、ブローチの引き抜き速度を上げて生産性を上げた場合、その分ブローチにかかる加工時の負荷が大きくなり、ブローチの耐久性が低下する。
このように、ブローチ工程に係るコストとブローチ加工の寸法精度とは相反する関係にあり、ブローチ工程におけるスプライン溝の寸法精度を確保しつつコストを削減することは困難である。
【0008】
第三に、使用時におけるサイドギアの滑らかな回転を達成するためにはサイドギアに形成される歯形、孔およびスプライン溝の個々の寸法精度だけでなく、これらの間の相対的な位置精度も要求されるが、従来の方法では熱間鍛造工程とブローチ工程とで別の設備を用いて行うため、サイドギアをブローチ工程において再度精度良く位置決めして固定する作業が困難となる。また、歯形、孔およびスプライン溝を加工する際に相対的な位置精度を確保するための作業が煩雑となり、作業性の観点から好ましくない。
【特許文献1】特開2004−34037号公報
【特許文献2】特開平7−51789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は以上の如き状況に鑑み、熱間で相対的な位置精度を高く保持しつつ素材に歯形、孔およびスプライン溝を形成することにより、ブローチ加工によらずに寸法精度に優れた歯車の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1においては、
熱間で素材に歯形を形成する歯形形成工程と、
前記素材に形成された歯形に係合する係合部材により前記素材を位置決めして固定する位置決め工程と、
外周面にスプライン溝に対応する形状の突起が形成された押圧部材を熱間で前記素材に押圧することにより、前記素材に孔およびスプライン溝を形成する孔・スプライン溝形成工程と、
を具備するものである。
【0012】
請求項2においては、
前記係合部材は前記素材に形成された歯形の少なくとも三箇所に係合するものである。
【0013】
請求項3においては、
前記押圧部材は、
外周面が所定のテーパ角を成してテーパしたテーパ面およびその両端に延設されたR面からなる先端部と、
前記先端部に延設され、外周面の直径が略一定となるストレート部と、
前記ストレート部に延設され、外周面にスプライン溝に対応する形状の突起が形成されたスプライン部と、
を具備するものである。
【0014】
請求項4においては、
前記歯形形成工程において前記素材に凹み部を形成し、
前記凹み部の内周面のテーパ角を、前記先端部の外周面のテーパ角度の10°以上15°以下とするものである。
【0015】
請求項5においては、
前記ストレート部の押圧方向における長さを0.3mm以上0.5mm以下とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、ブローチ加工によらずに寸法精度に優れた歯車を製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下では、図1から図7までを用いて本発明に係る歯車の製造方法の実施の一形態について説明する。
【0018】
図1および図2に示す如く、本発明に係る歯車の製造方法の実施の一形態は、素材10に加工を施してサイドギア16を製造する方法である。サイドギア16は自動車のデファレンシャルギアの構成要素の一つであり、いわゆるかさ歯車である。
以下の説明においては、「軸線方向」はサイドギア16の回転軸の長手方向に平行な方向を指し、「半径方向」はサイドギア16の回転軸の長手方向に垂直な方向を指すものとする。
【0019】
素材10はサイドギア16の原材料(出発材)となるものであり、丸棒状の機械構造用鋼を所定の長さで切断して略円柱形状に成型したものである。
【0020】
本実施例における素材10は機械構造用鋼からなるが、本発明に係る歯車の製造方法の素材はこれに限定されず、歯車の材料として用い得る金属材料からなるものを広く含む。
また、本発明に係る歯車の製造方法の素材の形状は略円柱形状に限定されず、略円筒形状等の他の形状でも良い。
本実施例はかさ歯車たるサイドギア16の製造方法であるが、本発明に係る歯車の製造方法はかさ歯車に限定されず、平歯車、はすば歯車、やまば歯車、各種のかさ歯車(すぐばかさ歯車、まがりばかさ歯車、ゼロールかさ歯車)、フェースギア、ハイポイドギア等の種々の歯車の製造に適用可能である。また、本発明に係る歯車は、一部に歯形が形成された部品等を広く含む。
【0021】
図1に示す如く、本発明に係る歯車の製造方法の実施の一形態は主として荒地加工工程S100、すえ込み工程S200、歯形形成工程S300、位置決め工程S400、孔・スプライン溝形成工程S500、冷間コイニング工程S600等を具備する。このうち、冷間コイニング工程S600を除く他の工程は熱間で行われる。
【0022】
「熱間」は対象となる材料の再結晶温度以上の温度を指し、「冷間」は対象となる材料の再結晶温度未満の温度を指す。
また、「再結晶温度」は対象となる材料において再結晶が起こる下限の温度を指す。
再結晶温度は、対象となる材料の種類(例えば、材料を構成する元素の種類やそのモル比)、結晶組織(例えば、結晶構造、粒径およびその分布)、加工度(転位密度およびその分布)等により変動し得る。
鉄鋼材料の場合、通常は当該材料の焼き鈍し温度の下限値(例えば、JIS規格等で定められた焼き鈍し温度の下限値)と当該下限値から数十℃低い温度との間に再結晶温度が存在する。
【0023】
図1および図2に示す如く、荒地加工工程S100は熱間で素材10を軸線方向に圧縮し、太鼓状に塑性変形させる(素材10に荒地加工を施して素材11とする)工程である。
荒地加工工程S100が終了したらすえ込み工程S200に移行する。
【0024】
図1および図2に示す如く、すえ込み工程S200は熱間で素材11をすえ込み用の金型(不図示)の内部で軸線方向に圧縮し、素材11の軸線方向の長さを更に短くするとともに素材11の半径方向に流動させ、サイドギア16の胴体部分の大まかな形状を形成する(素材11にすえ込みを施して素材12とする)工程である。
すえ込み工程S200が終了したら歯形形成工程S300に移行する。
【0025】
図1および図2に示す如く、歯形形成工程S300は熱間で素材12を歯形形成用の金型(不図示)を用いて素材12の略中央部を軸線方向に押圧し、素材12の半径方向に流動させてサイドギア16の歯形16aの大まかな形状を形成する(素材12に歯形16aを形成して素材13とする)工程である。
本実施例の場合、歯形形成工程S300において、素材12の半径方向への流動を促進するために素材12の略中央部の上下面(軸線方向に垂直な面)にそれぞれ凹み部16c・16dが形成される。また、素材13の下部外周面にはテーパ面16bも形成される。
歯形形成工程S300が終了したら位置決め工程S400に移行する。
【0026】
図1、図2、図3および図4に示す如く、位置決め工程S400は素材13に形成された歯形16aに係合する係合部材20・20・20により素材13を位置決めして固定する工程である。
【0027】
以下では、図2、図3および図4を用いて位置決め工程S400の詳細について説明する。
まず、素材13が受け部材21の上面に形成された位置決め孔21aに係合するように配置される。位置決め孔21aの内周面の上端部には受け部材21の上面に向かって拡径するようにテーパ面21bが形成されており、テーパ面21bと素材13のテーパ面16bとが当接する。位置決め孔21aに係合した素材13は、この時点ではテーパ面16bとテーパ面21bとが当接した状態を維持しつつ、受け部材21に対して軸線を中心として相対回転することが可能である。
【0028】
次に、図2、図3および図4に示す如く、加工ユニット19が受け部材21の上に配置された素材13に接近する方向に移動(本実施例の場合、下降)し、係合部材20・20・20が素材13の歯形16aに当接して係合する。
【0029】
加工ユニット19は位置決め工程S400および後述する孔・スプライン溝形成工程S500において用いられるものであり、主として係合部材20・20・20、胴体部材30、摺動リング31、フランジ部材32、ガイド部材33・33、ナット34・34、バネ35・35、押圧部材40等を具備する。
【0030】
図2および図3に示す如く、係合部材20はアーム20aとボール20bとを具備する。
アーム20aは棒状の部材であり、その一端にボール20bが固定される。ボール20bは球状の部材であり、歯形16aの谷の部分(隣り合う歯の対向する歯面)に当接する。
【0031】
図3に示す如く、胴体部材30は略円柱形状の部材であり、その外周面には長手方向に延びたキー30aが形成される。
【0032】
摺動リング31はリング状の部材であり、その内周面にはキー30aに対応する形状のキー溝31aが形成される。摺動リング31は胴体部材30に摺動可能に貫装される。
胴体部材30のキー30aは摺動リング31のキー溝31aに係合し、摺動リング31は胴体部材30に対して長手方向に摺動可能であるが、相対回転不能である。
【0033】
胴体部材30はその長手方向、すなわち摺動リング31の摺動方向が受け部材21の上に配置された素材13の軸線方向に一致する向き(本実施例の場合、上下方向)となるように配置される。摺動リング31において素材13に対向する側の端面(下面)に係合部材20・20・20が設けられる。
【0034】
フランジ部材32は胴体部材30の一端(上端)固定される略円盤形状の部材である。
フランジ部材32の周縁部は胴体部材30の外周面よりも半径方向に突出し、フランジ部材32の周縁部には胴体部材30の長手方向(上下方向)に貫通する貫通孔32a・32aが形成される。
【0035】
ガイド部材33・33は棒状の部材であり、その一端は摺動リング31に固定され、その他端はフランジ部材32の貫通孔32a・32aにそれぞれ摺動可能に貫装される。ガイド部材33・33の他端には脱落防止のためのナット34・34が螺設される。
【0036】
バネ35・35は摺動リング31をフランジ部材32から離間する方向、すなわち係合部材20・20・20を受け部材21の上に配置された素材13に接近する方向に付勢する部材であり、それぞれガイド部材33・33に外嵌された状態で摺動リング31とフランジ部材32との間に介装される。
【0037】
押圧部材40は胴体部材30の他端(下端)に固定される部材であり、後述する孔・スプライン溝形成工程S500において素材13に孔16eおよびスプライン溝16f・16f・・・を形成するための部材である。押圧部材40の詳細については後述する。
【0038】
加工ユニット19はアクチュエータ(例えば、油圧シリンダ等)により受け部材21の上に配置された素材13に接近する方向および素材13から離間する方向に移動する。
【0039】
図3に示す如く、係合部材20・20・20が素材13の歯形16aに当接して係合すると、素材13は受け部材21に対して位置決めされた状態で固定される。
より厳密には、素材13は受け部材21の所定位置において軸線を中心として相対回転不能、かつ軸線方向および半径方向に相対移動不能に固定される。なお、この時点では押圧部材40は素材13から離間した位置にあり、素材13に接触していない。
位置決め工程S400が終了したら孔・スプライン溝形成工程S500に移行する。
【0040】
本実施例では係合部材20・20・20のボール20b・20b・20bの形状を球状としたが、本発明に係る歯車の製造方法の係合部材の形状はこれに限定されず、歯車に形成された歯形に係合して当該歯形の相対移動および相対回転を規制することが可能であれば他の形状でも良い。
また、素材を確実に位置決めして固定(所定の位置に回転不能かつ移動不能に固定)するためには、少なくとも係合部材が素材に形成された歯形の三箇所に係合することが望ましい。
【0041】
図1および図2に示す如く、孔・スプライン溝形成工程S500は外周面にスプライン溝に対応する形状の突起43a・43a・・・が形成された押圧部材40を熱間で素材13に押圧することにより、孔16eおよびスプライン溝16f・16f・・・を形成する(素材13に孔16eおよびスプライン溝16f・16f・・・を形成して素材14とする)工程である。
孔16eおよびスプライン溝16f・16f・・・はサイドギア16に回転軸等の他の部材を相対回転不能に固定するために形成されるものである。
【0042】
図3に示す如く、押圧部材40は先端部41、ストレート部42、スプライン部43を具備する。
【0043】
先端部41は、押圧部材40において素材13に最初に接触する部分であり、その外周面は、押圧部材40を素材13に押圧する方向、すなわち素材13の軸線方向に対して所定のテーパ角θ1を成して先端に向かって縮径した形状のテーパ面41b、およびその両端に延設されたR面41a・41cからなる。
【0044】
ストレート部42は先端部41に延設され、外周面の直径が略一定となる、言い換えれば外周面のテーパ角が0°である部分である。
【0045】
スプライン部43はストレート部42に延設される部分であり、外周面にはスプライン溝16f・16f・・・に対応する形状の突起43a・43a・・・が形成される。
【0046】
押圧部材40は先端部41が素材13に対向し、押圧部材40の軸線方向が受け部材21の上に配置された素材13の軸線方向に一致する向きとなるように胴体部材30の他端(下端)に固定される。
【0047】
図3に示す如く、孔・スプライン溝形成工程S500において、係合部材20・20・20により素材13が位置決めされて固定された状態を保持しつつ、加工ユニット19がさらに下降すると、押圧部材40のスプライン部43の突起43a・43a・・・が素材13に接触する前に、押圧部材40の先端部41のR面41aが素材13の凹み部16cの内周面に接触する。
【0048】
図2および図5に示す如く、加工ユニット19がさらに下降すると、押圧部材40の先端部41のR面41aに続いてテーパ面41b、R面41cが順次素材13の凹み部16cの内周面に接触し、凹み部16cの内周面を半径方向に押し広げつつ素材13の略中央部を下方に押圧する。その結果、素材13には軸線方向に貫通する孔16eが形成される。
また、突起43a・43a・・・も素材13に接触し、突起43a・43a・・・により孔16eの内周面にスプライン溝16f・16f・・・が形成される。
【0049】
先端部41のテーパ面41bの両端にR面41a・41cを形成することにより、R面41a・41cのそれぞれによる二段階の芯抜きを行うことが可能であり、孔16eの形成時における加工負荷の低減および加工精度の確保が可能である。
孔・スプライン溝形成工程S500が終了したら冷間コイニング工程S600に移行する。
【0050】
以上の如く、本発明に係る歯車の製造方法の実施の一形態は、
熱間で素材12に歯形16aを形成する(素材12に歯形16aを形成して素材13とする)歯形形成工程S300と、
素材13に形成された歯形16aに係合する係合部材20・20・20により素材13を位置決めして固定する位置決め工程S400と、
外周面にスプライン溝16fに対応する形状の突起43a・43a・・・が形成された押圧部材40を熱間で素材13に押圧することにより、素材13に孔16eおよびスプライン溝16f・16f・・・を形成する(素材13に孔16eおよびスプライン溝16f・16f・・・を形成して素材14とする)孔・スプライン溝形成工程S500と、
を具備するものである。
このように構成することにより、熱間で相対的な位置精度を高く保持しつつ素材13に歯形16aと孔16eおよびスプライン溝16f・16f・・・を形成することが可能であり、ブローチ加工によらずに寸法精度に優れたサイドギア16を製造することが可能である。
また、冷間で行われるブローチ工程を省略することにより、歯車の製造コストの削減に寄与する。
【0051】
なお、二段階の芯抜きを行うことにより加工負荷を低減して歯形16aとスプライン溝16f・16f・・・の相対的な位置精度を確保し、かつ突起43a・43a・・・の摩耗を防止するという観点から、凹み部16cの内周面のテーパ角θは、先端部41のテーパ面41bのテーパ角度θの10°以上15°以下とする(θ+10°≦θ≦θ+15°)ことが望ましい。
これは、θ<θ+10°の場合には先端部41のR面41a・41cによる荷重の分担が小さくなり、その分突起43a・43a・・・の先端部分への荷重の負担が大きくなることから突起43a・43a・・・の先端部分の摩耗が促進されやすくなることによる。
また、θ>θ+15°の場合には孔16eの形成の際の負荷が過大となって孔16eの上端部側のエッジ部分の素材13の軸線方向への流動が大きくなり、孔16eの上端部側のエッジ部分の寸法精度が低下することによる。
【0052】
なお、本実施例では素材13に凹み部16cが形成され、凹み部16cの内周面と押圧部材40の先端部41の外周面とが接触する構成としたが、本発明に係る歯車の製造方法はこれに限定されず、素材の種類(素材を構成する材料)、「熱間」の温度、歯車の形状や大きさ等により素材に孔やスプライン溝を形成する際の負荷が小さい場合には素材に予め凹み部を形成する必要がない場合もあり得る。
【0053】
また、突起43a・43a・・・の摩耗を防止しつつ装置の小型化を図る観点から、ストレート部42の軸線方向(押圧方向)における長さを0.3mm以上0.5mm以下とすることが望ましい。
これは、ストレート部42の軸線方向(押圧方向)における長さが0.3mm未満の場合には押圧部材40の先端部41が凹み部16cの内周面に当接した後すぐに突起43a・43a・・・が素材13に当接するため、突起43a・43a・・・への荷重の負担が大きくなり、突起43a・43a・・・の摩耗が促進されやすいことによる。
また、ストレート部42の軸線方向(押圧方向)における長さが0.5mmを超える場合には、それ以上長くしても更なる突起43a・43a・・・の先端部分への荷重の負担軽減という効果が得られず、却ってストレート部42の外周面と孔16eの内周面との間の摩擦が大きくなって押圧に要する力が増大し、ひいては大きな力で押圧可能なアクチュエータ等が必要となって装置が大型化することによる。
【0054】
また、突起43a・43a・・・の半径方向の高さは1mm以下とすることが望ましい。
これは、突起の半径方向の高さを過大とすると、加工時の負荷が大きく、突起が摩耗してスプライン溝の寸法精度が低下することによる。
【0055】
冷間コイニング工程S600は素材14に冷間で加工を施すことにより、素材14に形成された歯形16a、孔16e、スプライン溝16f・16f・・・の形状を整える(素材14に形成された歯形16a、孔16e、スプライン溝16f・16f・・・の形状を整えて素材15とする)工程である。
冷間コイニング工程S600においては、図6および図7に示す冷間スプライン加工ユニット50を用いてスプライン溝16f・16f・・・の形状が整えられる(冷間加工が施される)。
冷間スプライン加工ユニット50はダイス51、上パンチ52、ベース部材53、マンドレル54、ガイド部材55・55、バネ56・56等を具備する。
【0056】
ダイス51および上パンチ52は素材14を位置決めして固定する部材である。
ダイス51の上面には素材14を収容するための凹みである収容凹み部51aが形成される。収容凹み部51aの形状は素材14の歯形16aを下方に向けたときの素材14の形状に対応する。また、ダイス51には収容凹み部51aとダイス51の下面とを貫通する貫通孔51bが形成される。上パンチ52は素材14を上方からダイス51に押し当てる部材である。
収容凹み部51aに収容され、上パンチ52により押し当てられた素材14は、歯形16aが収容凹み部51aに係合し、半径方向および軸線方向に相対移動不能かつ相対回転不能となる。このとき、素材14に形成された孔16eの軸線方向とダイス51に形成された貫通孔51bの軸線方向とは上下方向で一致し、かつ、両軸線が一直線となる。
【0057】
ベース部材53は冷間スプライン加工ユニット50の下半部を成す構造体である。
マンドレル54はベース部材53に対して相対回転不能かつ相対移動不能に固定され、ベース部材53の上方に突出した部材であり、その先端部の外周面にはスプライン溝16f・16f・・・に対応する形状の突起54a・54a・・・が形成される。マンドレル54軸線方向とダイス51の貫通孔51bの軸線方向は上下方向で一致し、かつ両軸線は一直線となる。
【0058】
ガイド部材55・55は棒状の部材であり、その一端はダイス51の下面周縁部に固定され、その他端はベース部材53の上面に形成された摺動孔53a・53aにそれぞれ摺動可能に貫装される。
バネ56・56はダイス51をベース部材53から離間する方向、すなわち上方に付勢する部材であり、それぞれガイド部材55・55に外嵌された状態でダイス51とベース部材53との間に介装される。
【0059】
図6に示す如く、素材14がダイス51および上パンチ52により位置決めされ、固定された時点では、マンドレル54の先端部は貫通孔51bの中途部に位置し、マンドレル54と素材14とは接触していない。
【0060】
図7に示す如く、油圧シリンダ等のアクチュエータによりバネ56・56の付勢力に抗してダイス51および上パンチ52を下方に押し下げると、マンドレル54の先端部が素材14に形成された孔16eに嵌挿され、突起54a・54a・・・によりスプライン溝16f・16f・・・の形状が整えられる。
図2に示す如く、冷間コイニング工程S600が終了したら、その後素材15に仕上げのための切削加工や研磨等が施されるとともに浸炭が施され、サイドギア16が完成する。
【0061】
このように、冷間スプライン加工ユニット50を用いることにより、歯形16aを利用して容易に素材14を位置決めして精度良くスプライン溝16f・16f・・・の形状を整えることが可能であり、作業性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る歯車の製造方法の実施の一形態を示すフロー図。
【図2】本発明に係る歯車の製造方法の実施の一形態における素材の形状変化を示す図。
【図3】本発明に係る歯車の製造方法の実施の一形態の位置決め工程における加工ユニットを示す側面一部断面図。
【図4】本発明に係る歯車の製造方法の実施の一形態の位置決め工程における素材と係合部材との位置関係を示す平面図。
【図5】本発明に係る歯車の製造方法の実施の一形態の孔・スプライン溝形成工程における加工ユニットを示す側面一部断面図。
【図6】本発明に係る歯車の製造方法の実施の一形態の冷間コイニング工程の位置決め時における素材と冷間スプライン加工ユニットとの位置関係を示す側面一部断面図。
【図7】本発明に係る歯車の製造方法の実施の一形態の冷間コイニング工程の加工時における素材と冷間スプライン加工ユニットとの位置関係を示す側面一部断面図。
【符号の説明】
【0063】
12・13・14 素材
16 サイドギア(歯車)
16a 歯形
16e 孔
16f スプライン溝
20 係合部材
40 押圧部材
43a 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間で素材に歯形を形成する歯形形成工程と、
前記素材に形成された歯形に係合する係合部材により前記素材を位置決めして固定する位置決め工程と、
外周面にスプライン溝に対応する形状の突起が形成された押圧部材を熱間で前記素材に押圧することにより、前記素材に孔およびスプライン溝を形成する孔・スプライン溝形成工程と、
を具備することを特徴とする歯車の製造方法。
【請求項2】
前記係合部材は前記素材に形成された歯形の少なくとも三箇所に係合することを特徴とする請求項1に記載の歯車の製造方法。
【請求項3】
前記押圧部材は、
外周面が所定のテーパ角を成してテーパしたテーパ面およびその両端に延設されたR面からなる先端部と、
前記先端部に延設され、外周面の直径が略一定となるストレート部と、
前記ストレート部に延設され、外周面にスプライン溝に対応する形状の突起が形成されたスプライン部と、
を具備することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の歯車の製造方法。
【請求項4】
前記歯形形成工程において前記素材に凹み部を形成し、
前記凹み部の内周面のテーパ角を、前記先端部のテーパ面のテーパ角度の10°以上15°以下とすることを特徴とする請求項3に記載の歯車の製造方法。
【請求項5】
前記ストレート部の押圧方向における長さを0.3mm以上0.5mm以下とすることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の歯車の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−36642(P2008−36642A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210358(P2006−210358)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】