説明

気体圧縮機

【課題】気体圧縮機において、吸入側が吐出側よりも高圧となる状況下においても、内部からの油分の流出を防止する。
【解決手段】圧縮機本体60の圧縮室48の出口からサイクロンブロック70における内筒部材72の下端縁72cに至る冷媒ガスGの経路(吐出孔23、ガス流路71f,71g、吹出し孔71a、本体部材71の内周面と内筒部材72の外周面とで囲まれた略円筒状の空間、内筒部材72の内周面側の空間、吐出室21、吐出ポート11a)のうち、液状冷媒Gで堰き止められた上流側の経路(吐出孔23、ガス流路71f,71g、吹出し孔71a、本体部材71の内周面と内筒部材72の外周面とで囲まれた略円筒状の空間)から、圧力Pの一部を下流の吐出室21に逃がす分岐路71bが、サイクロンブロック70に形成され、圧力Pは分岐路71bを通って吐出室21に逃がされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気体圧縮機に関し、詳細には、圧縮気体から油分を遠心分離によって分離する油分離器を有する気体圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気調和システム(以下、空調システムという。)には、冷媒ガスなどの気体を圧縮して、空調システムに気体を循環させるための気体圧縮機(コンプレッサ)が用いられている。
【0003】
ここで、一般的なコンプレッサは、気体を圧縮して吐出する圧縮機本体と、この圧縮機本体から吐出された圧縮冷媒ガスから冷凍機油等の油分を分離する油分離器とを備えた構成となっている。
【0004】
油分離器としては、例えば、一端が端壁部で閉じられた略円柱状の空間を有する本体部材と、本体部材の前記略円柱状の空間と略同軸であって本体部材の内側に設けられた略筒状の内筒部材とを有している遠心分離タイプのものが知られている(特許文献1)。
【0005】
この遠心分離タイプの油分離器は、本体部材の内周面と内筒部材の外周面との間の略円筒状の空間に吹き出された気体が、この空間を螺旋状に旋回しながら降下し、この旋回中に遠心力を受けて、気体に含まれる油分が遠心分離されて本体部材の内周面で凝集して下方に流れ落ちて回収され、一方、油分が分離された気体は、内筒部材が途切れた下方まで降下した後に、本体部材の底面で反射し、内筒部材の内側空間(略円柱状の空間)を通って上昇し、油分離器から排出される。
【特許文献1】特開2005−171859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、カーエアコンなどに用いられている気体としての冷媒ガスは低温になると液化する。そして、液相となった冷媒には、内部の潤滑等を目的として用いられている冷凍機油等のオイル(油分)が溶け込み易く、液相の冷媒とオイルとは混合された状態となる。
【0007】
そして、例えば冬季などのように、車外気温が比較的低く、かつエアコンの作動頻度が少ない状況下では、車両のエンジンルーム内など外気環境に晒されたコンプレッサ内の冷媒は液化し、コンプレッサのハウジング内の上部まで液状の冷媒が溜められる。
【0008】
この状態で、車室内(エバポレータ側)が日射等によって暖められると、コンプレッサの、エバポレータに接続された吸入側配管内の圧力が、車外のコンデンサに接続された吐出側配管内の圧力よりも高圧になり、吸入側の圧力がコンプレッサの圧縮機本体を介して吐出側に逃げようとする。
【0009】
このとき、圧縮機本体を介して吐出側に逃げる圧力は、コンプレッサの通常運転状態において圧縮機本体から吐出される冷媒ガスの経路を通過するため、ハウジング内の上部まで液状冷媒が溜まって油分離器の内筒部材の下端縁が液状冷媒に浸かった状態では、逃げようとする圧力がこの液面を押し下げ、この結果、本来であれば油分が分離された後の圧縮気体が通る内筒部材の内側空間を、液面の押し下げられた液状冷媒が通り、この液状冷媒は、吐出側配管を通ってコンプレッサの外部に送り出される。
【0010】
ここで、冷媒は空調システム内を循環するため、冷媒が液相のままでコンプレッサから送り出された場合であっても、空調システムには特別な支障を生じることはないが、液相の冷媒には、上述したように冷凍機油が溶け込んでいるため、冷媒とともに多くの冷凍機油がコンプレッサから流出することになり、コンプレッサ内の冷凍機油の減少は、種々の問題を誘発する。
【0011】
例えばベーンロータリ形式のコンプレッサでは、冷凍機油によってベーンを突出させているため、冷凍機油の減少は、ベーンの突出不足となって冷媒ガスの圧縮圧力の急速な上昇を妨げ、また、内部の潤滑が不十分になって摺動部のロックを招く虞がある。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、吸入側が吐出側よりも高圧となる状況下においても、内部からの油分の流出を防止することができる気体圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る気体圧縮機は、圧縮室から吐出された圧縮気体が通過する経路内の圧力の一部を外部に逃がす分岐路を設けることで、吸入側が吐出側よりも高圧となる状況下において、その吸入側からの圧力を分岐路を通じて外部に逃がし、液化した被圧縮媒体(気体)と油分とが混合された液の液面が、その圧力によって押圧されるのを防止し、これによって、油分が外部に排出されるのを防止したものである。
【0014】
すなわち、本発明に係る気体圧縮機は、圧縮機本体と、締結部材によって前記圧縮機本体に組み付けられた、前記圧縮機本体から吐出された圧縮気体から油分を分離する油分離器とを備え、前記油分離器は、略円柱状の空間を有する本体部材と、前記略円柱状の空間の、前記本体部材における開口から、前記略円柱の軸方向に沿って挿入され、前記略円柱状の空間に配設された略筒状の内筒部材とを有し、前記圧縮機本体の圧縮室の出口から油分離器における前記内筒部材の下端縁に至る前記圧縮気体の経路から、前記経路内の圧力の一部を外部に逃がす分岐路が形成されていることを特徴とする。
【0015】
このように構成された本発明に係る気体圧縮機によれば、気体圧縮機の内部で、液化した気体に油分が溶け込んだ状態となり、この液面が油分離器における内筒部材の下端縁よりも上方に位置し、吸入側が吐出側よりも高圧となる状況下において、吸入側から圧縮機本体内部を通って、圧縮機本体の出口から油分離器への流通気体の経路に作用する圧力(高圧)は、圧縮室の出口から油分離器における内筒部材の下端縁に至る圧縮気体の経路内の圧力の一部を外部に逃がす分岐路を通って外部に逃がされるため、経路に作用する圧力が液面を過度に押圧することがなく、これにより、液状の被圧縮媒体(冷媒ガス等の気体。以下、同じ。)とともに油分が、油分離器の内筒部材の内側を通って外部に流出するのを防止することができる。
【0016】
本発明に係る気体圧縮機においては、前記分岐路の出口側は、前記油分離器によって前記油分が分離された状態の前記圧縮気体が吐き出される空間に連通していることが好ましい。
【0017】
圧縮気体が吐き出される空間は、圧縮室の出口から油分離器における内筒部材の下端縁に至る圧縮気体の経路とは、圧縮機本体の周壁や油分離器の周壁(内側周壁(内筒部材)を含む。以下、同じ。)のみを介して隣接している空間であるため、これら圧縮機本体の周壁や油分離器の周壁に形成する分岐路の長さを短いものとすることができ、従来の気体圧縮機に対する変更をごく僅かなものとすることができ、製品の製造コストの上昇を抑制することができる。
【0018】
本発明に係る気体圧縮機においては、前記気体は冷媒ガスであり、前記分岐路の出口側は、前記冷媒ガスが液相にあるときの液面よりも上方において開口していることが好ましい。
【0019】
本発明に係る気体圧縮機においては、分岐路の出口が、液相の冷媒ガスの液面を下方に押し下げる側の空間に形成されてさえいなければ、出口は液面よりも下方に形成されていてもよいが、液面よりも下方に形成されている構成の場合、経路の圧力が分岐路の出口から逃げるときに液面下で気泡を生じ、この気泡の放出音が異音となり、また、気泡の発生が液面で飛沫を発生させて、液の流出を起こし得る。
【0020】
これに対して、分岐路の出口が、冷媒ガスが液相にあるときの液面よりも上方において開口しているものでは、そのような問題の発生を回避することができる。
【0021】
本発明に係る気体圧縮機においては、前記分岐路は、前記油分離器の前記本体部材に形成されていることが好ましい。
【0022】
このように構成された本発明に係る気体圧縮機によれば、分岐路を、油分離器の本体部材の壁に形成することで、分岐路の長さを非常に短くすることができる。
【0023】
本発明に係る気体圧縮機においては、前記分岐路は、前記油分離器の前記内筒部材に形成されていることが好ましい。
【0024】
このように構成された本発明に係る気体圧縮機によれば、分岐路を、油分離器の内筒部材の壁に形成することで、分岐路の長さを非常に短くすることができる。
【0025】
本発明に係る気体圧縮機においては、前記分岐路は、前記経路からの分岐部において、前記経路に対して略直交する方向に延びて形成されていることが好ましい。
【0026】
本発明に係る気体圧縮機によれば、通常の運転状態においては、圧縮機本体の圧縮室の出口から油分離器における内筒部材の下端縁に至る圧縮気体の経路を流れる圧縮気体が、分岐路にも僅かに流れ込むことになるが、上述した好ましい構成の気体圧縮機では、分岐路が、圧縮気体の流れ方向(経路の方向)に対して略直交する方向に延びているため、圧縮気体は分岐路に流れ込み難くなり、分岐路が、通常運転状態における気体からの油分の分離作用(油分離器への気体の流れ)に対して与える影響を抑制することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る気体圧縮機によれば、吸入側が吐出側よりも高圧となる状況下においても、内部からの油分の流出を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の気体圧縮機に係る最良の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0029】
図1は、本発明に係る気体圧縮機の一実施形態であるベーンロータリ式コンプレッサ100を示す縦断面図、図2(a)は図1におけるサイクロンブロック(油分離器)単体を圧縮機本体側から見た図、図2(b)は図1と同じ断面による図である。
【0030】
図示のコンプレッサ100は、例えば、冷却媒体の気化熱を利用して冷却を行なう空気調和システム(以下、単に空調システムという。)の一部として構成され、この空調システムの他の構成要素である凝縮器、膨張弁、蒸発器等(いずれも図示を省略する。)とともに、冷却媒体の循環経路上に設けられている。
【0031】
そして、コンプレッサ100は、空調システムの蒸発器から取り入れた気体状の冷却媒体としての冷媒ガスG(気体)を圧縮し、この圧縮された冷媒ガスGを空調システムの凝縮器に供給する。凝縮器は、圧縮された冷媒ガスGを液化させ、高圧で液状の冷媒として膨張弁に送出する。
【0032】
高圧で液化した冷媒Gは、膨張弁で低圧化され、蒸発器に送出される。低圧の液状冷媒Gは、蒸発器において周囲の空気から吸熱して気化し、この気化熱との熱交換により蒸発器周囲の空気を冷却する。
【0033】
また、コンプレッサ100は、ケース11とフロントヘッド12とからなるハウジング10の内部に収容され、回転軸51が回転することにより冷媒ガスG(気体)を圧縮する圧縮機本体60と、圧縮機本体60に組み付けられた、圧縮機本体60から吐出された高圧の冷媒ガスGから冷凍機油R(油分)を分離するサイクロンブロック70(油分離器)と、圧縮機本体60の回転軸51に伝達すべき回転駆動力を断接する駆動力断接部80とを備えた構成である。
【0034】
ハウジング10内に収容された圧縮機本体60は、軸回りに回転駆動される回転軸51と、この回転軸51と一体的に回転する円柱状のロータ50と、ロータ50の外周面の外方を取り囲む断面輪郭略楕円形状の内周面49を有するとともに両端が開放されたシリンダ40と、ロータ50の外周に、外方に向けて突出可能に埋設され、その突出側の先端がシリンダ40の内周面49の輪郭形状に追従するように突出量が可変とされ、回転軸51回りに等角度間隔でロータ50に埋設された5枚の板状のベーン58と、シリンダ40の両側開放端面の外側からそれぞれ開放端面を覆うように固定されたフロントサイドブロック30およびリヤサイドブロック20とからなる。
【0035】
そして、2つのサイドブロック20,30、ロータ50、シリンダ40、および回転軸51の回転方向に相前後する2つのベーン58,58によって画成された各圧縮室48の容積が、回転軸51の回転にしたがって増減を繰り返すことにより、各圧縮室48に吸入された冷媒ガスGを圧縮して吐出するように構成されている。
【0036】
なお、ロータ50の両端面側からそれぞれ突出した回転軸51の部分のうち一方の部分は、フロントサイドブロック30の軸受部32に軸支されるとともに、フロントヘッド12を貫通して外方まで延びている。
【0037】
同様に回転軸51の突出部分のうち他方の側は、リヤサイドブロック20の軸受部22により軸支されている。
【0038】
ケース11は、一端が閉塞された筒状体を呈し、フロントヘッド12は、このケース11の開放された他端側の開放部分を覆うように組み付けられて、ハウジング10の内部に収容空間を形成している。
【0039】
駆動力断接部80は、ラジアルボールベアリング14を介してフロントヘッド12のボスの外側で回転自在に支持されたプーリ82と、プーリ82の内部に形成された環状空間内に配置され、フロントヘッド12に固定された電磁コイル81と、回転軸51に固定され、電磁コイル81への通電によって発生した磁力によりプーリ82の側壁82aに当接してプーリ82と一体的に回転するアーマチュア83とを備えている。
【0040】
フロントヘッド12には、蒸発器から低圧の冷媒ガスGが吸入される吸入ポート12aが形成されており、この吸入ポート12aには、冷媒ガスGの逆流を防ぐ逆止弁12bが配設されている。
【0041】
そして、この吸入ポート12aは、ハウジング10の内部に収容された圧縮機本体60のフロントサイドブロック30とフロントヘッド12との間に形成された吸入室34に連通し、冷媒ガスGは、吸入室34から吸入孔31を介して圧縮機本体60の圧縮室48内に吸引される。
【0042】
一方、ケース11には、圧縮機本体60で圧縮された高圧の冷媒ガスGを凝縮器に吐出する吐出ポート11aが形成されている。
【0043】
そして、この吐出ポート11aは、ハウジング10の内部に収容された圧縮機本体60のリヤサイドブロック20とケース11との間に形成された吐出室21に連通し、圧縮室48からリヤサイドブロック20の吐出孔23を通じて吐出された冷媒ガスGは、サイクロンブロック70を介して吐出室21に吐出される。
【0044】
このサイクロンブロック70は、図1および図2に示すように、略円柱状の空間71dを有する本体部材71と、略円柱状の空間71dの、本体部材71における開口71eから、略円柱の軸C1方向に沿って挿入され、略円柱状の空間71dに配設された略筒状の内筒部材72とを有し、本体部材71を圧縮機本体60(リヤサイドブロック20)に締結部材等(図示省略)で組み付けられている。
【0045】
内筒部材72は、詳しくは、冷媒ガスGから遠心分離作用によって冷凍機油Rを分離させる円筒状の空間を形成する細筒部72bの他に、細筒部72bよりも直径が大きい太筒部72aが連なって形成されており、この太筒部72aは、本体部材71の略円柱状の空間71dの一部である開口部71eに圧入されており、この圧入によって、内筒部材72は本体部材70に対して固定され、さらに本体部材71が加締められて、圧入部分が緩んだ場合にも内筒部材72が脱落するのを防止している。
【0046】
本体部材71は、図2(a)に示す、リヤサイドブロック20に接する接合面に、リヤサイドブロック20の吐出孔23が連通するガス流路71fが形成されており、このガス流路71fは、吐出孔23の出口側開口がガス流路71fの端部71hに向かい合うように形成されている。
【0047】
なお、このコンプレッサ100には、吐出孔23の、回転軸51回りに軸対称となる位置に、さらにもう一つの吐出孔23が形成されているが、この吐出孔23は図示の煩雑を避けるために、図1においてその記載を省略している。そして、この図示を省略した側の吐出孔23の出口側開口が向かい合う位置に、端部71iを有する他のガス流路71gが形成されている。
【0048】
この2つのガス流路71f,71gは、各吐出孔23,23に対向する端部71h,71iとは反対側の端部が共通して形成されており、この共通する端部において、本体部材71の内側の略円柱状の空間と各ガス流路71f,71gとを連通させる吹出し孔71aが形成されている。
【0049】
ここで、各吐出孔23,23からは時系列的に交互に冷媒ガスGが吐出され、各吐出孔23,23から吐出された冷媒ガスGは、それぞれの吐出孔23,23に対応するガス流路71f,71gを通って、吹出し孔71aを通じて本体部材71の内部空間71d内に吹き出される。
【0050】
吹出し孔71aは、本体部材71の略円柱状の円柱の周面に対して接線方向に沿って吹き出すように形成されており、これにより、吹き出された冷媒ガスGは、本体部材71の内周面と内筒部材72の外周面とで囲まれた略円筒状の空間内を旋回しながら下方に降下していく(螺旋状に降下する)。
【0051】
そして、この旋回している間に冷媒ガスGに作用する遠心力によって、冷媒ガスGに混入して圧縮室48から吐出された冷凍機油Rが冷媒ガスGから遠心分離され、分離された冷凍機油Rは、略円柱状空間71dの下部に形成された油抜き孔71cを通って、吐出室21の下部に溜められ、吐出室21の高い内圧を受けて、ベーン58を突出させる作動油として、あるいは摺動部分に対する潤滑油として、圧縮機本体60内に供給される。
【0052】
一方、冷凍機油Rが分離された後の冷媒ガスGは、本体部材71の略円柱状空間下面で反射されて、内筒部材72の細筒部72bの内側を通って上昇に、吐出室21を介して吐出ポート11aからシステム(凝縮器(コンデンサ))に高温高圧の熱交換媒体として供給される。
【0053】
ここで、例えば冬季などのように、車外気温が比較的低く、かつエアコンの作動頻度が少ない状況下では、車両のエンジンルーム内など外気環境に晒されたコンプレッサ100内の冷媒ガスGは液化し、コンプレッサ100のハウジング10内の上部まで液状の冷媒(ガス)Gが溜められる(例えば、図2(b)参照)。
【0054】
この状態で、車室内(エバポレータ側)が日射等によって暖められると、コンプレッサ100の、エバポレータに接続された吸入側配管内(吸入ポート12a)の圧力が、車外のコンデンサに接続された吐出側配管内(吐出ポート11a)の圧力よりも高圧になり、吸入側の圧力Pがコンプレッサ100の圧縮機本体60を介して吐出側(吐出ポート11a)に逃げようとする。
【0055】
このとき、圧縮機本体60を介して吐出側に逃げる圧力Pは、コンプレッサ100の通常運転状態において圧縮機本体60から吐出される冷媒ガスGの経路(吐出孔23、ガス流路71f,71g、吹出し孔71a、本体部材71の内周面と内筒部材72の外周面とで囲まれた略円筒状の空間、内筒部材72の内周面側の空間、吐出室21、吐出ポート11a)を通過するため、ハウジング10内の上部まで液状冷媒Gが溜まってサイクロンブロック70の内筒部材72の下端縁72cが液状冷媒Gに浸かった状態(図2(b))の場合、従来のコンプレッサであれば、逃げようとする圧力Pがこの液面Sを押し下げ、この結果、本来であれば冷凍機油Rが分離された後の圧縮冷媒ガスGが通る内筒部材72の内側空間を、略円筒状の部分において液面Sを押し下げられた液状冷媒G(および冷凍機油R)が通り、この液状冷媒Gはコンプレッサ100の外部に送り出される。
【0056】
ここで、冷媒Gは空調システム内を循環するため、冷媒Gが液相のままでコンプレッサから送り出された場合であっても、空調システムには特別な支障を生じることはないが、液相の冷媒Gには、上述したように冷凍機油Rが溶け込んでいるため、冷媒Gとともに多くの冷凍機油Rがコンプレッサから流出することになり、コンプレッサ100内の冷凍機油Rの減少は、種々の問題(例えば、圧縮機本体60の摺動部の焼付きなど)を誘発する。
【0057】
しかし、本実施形態に係るコンプレッサ100は、圧縮機本体60の圧縮室48の出口からサイクロンブロック70における内筒部材72の下端縁72cに至る冷媒ガスGの上述した経路(吐出孔23、ガス流路71f,71g、吹出し孔71a、本体部材71の内周面と内筒部材72の外周面とで囲まれた略円筒状の空間、内筒部材72の内周面側の空間、吐出室21、吐出ポート11a)のうち、液状冷媒Gで堰き止められた液面Sよりも上流側の経路(吐出孔23、ガス流路71f,71g、吹出し孔71a、本体部材71の内周面と内筒部材72の外周面とで囲まれた略円筒状の空間)から、この経路内の圧力Pの少なくとも一部を、液状冷媒Gで堰き止められた部分よりも下流側(外部;本実施形態では例えば吐出室21)に逃がす分岐路71b(図2(a),(b)参照)が、サイクロンブロック70(本体部材71)に形成されているため、上記圧力Pは、分岐路71bを通って吐出室21に逃がされ、これによって、液状冷媒Gよりも上流側の圧力Pが液状冷媒Gの液面Sを過度に押圧することがなく、液状冷媒Gとともに冷凍機油Rが、サイクロンブロック70の内筒部材72の内側を通ってコンプレッサ100の外部に流出するのを防止することができる。
【0058】
また、本実施形態に係るコンプレッサ100は、分岐路71bの出口側は、吐出室21(サイクロンブロック70によって冷凍機油Rが分離された状態の冷媒ガスGが吐き出される空間)に連通していて、吐出室21は、本体部材71の周壁の厚さのみを介して、冷媒ガスGの経路に隣接している空間であるため、この本体部材71の周壁に形成される分岐路71bの長さを短いものとすることができ、従来のコンプレッサに対する変更をごく僅かなものとすることができ、製品の製造コストの上昇を抑制することができる。
【0059】
また、本実施形態に係るコンプレッサ100は、分岐路71bの出口側は、冷媒ガスGが液相にあるときの液面Sよりも上方である吐出室21において開口しているため、液面Sよりも下方に形成されている構成と比べると、液面Sの下方で気泡が生じて異音が発生したり気泡の発生で液面Sで飛沫を発生させることがない。
【0060】
さらに、本実施形態に係るコンプレッサ100は、分岐路71bが、サイクロンブロック70の本体部材71に形成されているため、本体部材71の壁の厚さ分だけ分岐路71bを形成すればよく、分岐路71bの長さを非常に短くすることができる。
【0061】
なお、本実施形態に係るコンプレッサ100における分岐路71bは、冷媒ガスGの経路からの分岐部、すなわち分岐路71bの入口部が開口した経路であるガス流路71fにおいて、このガス流路71fに対して略直交する方向に延びて形成されている。
【0062】
したがって、このコンプレッサ100の、通常の運転状態においては、圧縮機本体60の圧縮室48の出口からサイクロンブロック70における内筒部材72の下端縁72cに至る冷媒ガスGの経路を流れる冷媒ガスGが、分岐路71bにも僅かに流れ込むことになるが、分岐路71bが、冷媒ガスGの流れ方向(ガス流路71fに沿った方向)に対して略直交する方向に延びているため冷媒ガスGはその流れの勢いによって、分岐路71bに流れ込み難くなり、分岐路71bが、通常運転状態における冷媒ガスGからの冷凍機油Rの分離作用(サイクロンブロック70への冷媒ガスGの流れ)に対して与える影響を抑制することができる。
【0063】
以上のように構成された本実施形態に係るコンプレッサ100によれば、吸入側(吸入ポート12a側)が吐出側(吐出ポート11a側)よりも高圧となる状況下においても、コンプレッサ100から、過度の冷凍機油Rが流出を防止することができる。
【0064】
また、コンプレッサ100から冷凍機油Rが過度に流出しないことによって、空調システムのエバポレータやコンデンサ等の外部熱交換器に、冷凍機油Rが過度に付着するのを防止することができ、冷凍機油Rが過度に付着した場合に生じる性能低下を防止することができる。
(変形例)
上述した実施形態に係るコンプレッサ100(図1,2)は、分岐路71bをサイクロンブロック70の本体部材71に形成した例であるが、本発明に係る気体圧縮機は、この形態に限定されるものではなく、圧縮機本体60の圧縮室48の出口からサイクロンブロック70における内筒部材72の下端縁72c(液状冷媒Gの液面S)に至る冷媒ガスGの経路において、その入口部が開口し、液状冷媒Gよりも下流側において出口部が開口したものであればよい。
【0065】
すなわち、例えば、図3(a),(b)に示すように、サイクロンブロック70の内筒部72に、圧縮機本体60の圧縮室48の出口からサイクロンブロック70における内筒部材72の下端縁72c(液状冷媒Gの液面S)に至る冷媒ガスGの経路の圧力Pを液状冷媒Gよりも下流側に逃がす分岐路72dを形成したものであってもよい。
【0066】
なお、本変形例のコンプレッサ100は、図3に示したサイクロンブロック70以外の構成部分については、図1に示した実施形態のコンプレッサ100と同じ構成を有し、特に説明を行わない作用についても、図1に示した実施形態のコンプレッサ100と同様であるものとする。
【0067】
このように構成された実施形態(変形例)のコンプレッサ100によっても、上述した実施形態とのコンプレッサ100と同様に、圧力Pは、分岐路72dを通って吐出室21に逃がされ、これによって、液状冷媒Gよりも上流側の圧力Pが液状冷媒Gの液面Sを過度に押圧することがなく、液状冷媒Gとともに冷凍機油Rが、サイクロンブロック70の内筒部材72の内側を通ってコンプレッサ100の外部に流出するのを防止することができる。
【0068】
また、本変形例に係るコンプレッサ100は、分岐路72dの出口側は、吐出室21(サイクロンブロック70によって冷凍機油Rが分離された状態の冷媒ガスGが吐き出される空間)に連通していて、吐出室21は、内筒部材72の細筒部72bの厚さのみを介して、冷媒ガスGの経路(旋回する略円筒状の空間)に隣接して連通する空間であるため、この内筒部材72に形成される分岐路72dの長さを非常に短いものとすることができ、従来のコンプレッサに対する変更をごく僅かなものとすることができ、製品の製造コストの上昇を抑制することができる。
【0069】
また、本変形例に係るコンプレッサ100は、分岐路72dの出口側は、冷媒ガスGが液相にあるときの液面Sよりも上方である吐出室21に連通する空間に開口しているため、液面Sよりも下方に形成されている構成と比べると、液面Sの下方で気泡が生じて異音が発生したり気泡の発生で液面Sで飛沫を発生させることがない。
【0070】
さらに、本実施形態に係るコンプレッサ100は、分岐路72dが、サイクロンブロック70の内筒部材72に形成されているため、内筒部材72の細筒部72bの厚さ分だけ分岐路72dを形成すればよく、分岐路72dの長さを非常に短くすることができる。
【0071】
なお、本変形例に係るコンプレッサ100における分岐路72dは、冷媒ガスGの経路からの分岐部、すなわち分岐路72dの入口部が開口した経路(冷媒ガスGが旋回する略円筒状の空間)において、この円周状の経路に対して略直交する方向(内筒部材72の細径部72bの直径方向)に延びて形成されている。
【0072】
したがって、このコンプレッサ100の、通常の運転状態においては、圧縮機本体60の圧縮室48の出口からサイクロンブロック70における内筒部材72の下端縁72cに至る冷媒ガスGの経路を流れる冷媒ガスGが、分岐路72dにも僅かに流れ込むことになるが、分岐路72dが、冷媒ガスGの流れ方向(旋回する周状の経路に沿った方向=略円周方向)に対して略直交する方向(半径方向)に延びているため、冷媒ガスGはその流れの勢いによって、分岐路72dに流れ込み難くなり、分岐路72dが、通常運転状態における冷媒ガスGからの冷凍機油Rの分離作用(サイクロンブロック70への冷媒ガスGの流れ)に対して与える影響を抑制することができる。
【0073】
以上のように構成された本実施形態に係るコンプレッサ100によれば、吸入側(吸入ポート12a側)が吐出側(吐出ポート11a側)よりも高圧となる状況下においても、コンプレッサ100から、過度の冷凍機油Rが流出を防止することができる。
【0074】
また、コンプレッサ100から冷凍機油Rが過度に流出しないことによって、空調システムのエバポレータやコンデンサ等の外部熱交換器に、冷凍機油Rが過度に付着するのを防止することができ、冷凍機油Rが過度に付着した場合に生じる性能低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係る気体圧縮機の一実施形態であるベーンロータリ式コンプレッサを示す縦断面図である。
【図2】図1に示した実施形態であって、(a)は図1におけるサイクロンブロック(油分離器)単体のうち本体部材を、圧縮機本体に接する面側から見た図であり、(b)はサイクロンブロック単体のうち内筒部材を、図1と同じ断面で見た図、をそれぞれ示す。
【図3】変形例であって、(a)はサイクロンブロック(油分離器)単体のうち本体部材を、圧縮機本体に接する面側から見た図であり、(b)はサイクロンブロック単体のうち内筒部材を、図1と同じ断面で見た図、をそれぞれ示す。
【符号の説明】
【0076】
21 吐出室(外部)
48 圧縮室
60 圧縮機本体
70 サイクロンブロック(油分離器)
71 本体部材
71b 分岐路
72 内筒部材
72c 下端縁
100 コンプレッサ(気体圧縮機)
G 冷媒ガス
P 圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機本体と、前記圧縮機本体に組み付けられた、前記圧縮機本体から吐出された圧縮気体から油分を分離する油分離器とを備え、
前記油分離器は、略円柱状の空間を有する本体部材と、前記略円柱状の空間の、前記本体部材における開口から、前記略円柱の軸方向に沿って挿入され、前記略円柱状の空間に配設された略筒状の内筒部材とを有し、
前記圧縮機本体の圧縮室の出口から油分離器における前記内筒部材の下端縁に至る前記圧縮気体の経路から、前記経路内の圧力の一部を外部に逃がす分岐路が形成されていることを特徴とする気体圧縮機。
【請求項2】
前記分岐路の出口側は、前記油分離器によって前記油分が分離された状態の前記圧縮気体が吐き出される空間に連通していることを特徴とする請求項1に記載の気体圧縮機。
【請求項3】
前記気体は冷媒ガスであり、前記分岐路の出口側は、前記冷媒ガスが液相にあるときの液面よりも上方において開口していることを特徴とする請求項1または2に記載の気体圧縮機。
【請求項4】
前記分岐路は、前記油分離器の前記本体部材に形成されていることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項に記載の気体圧縮機。
【請求項5】
前記分岐路は、前記油分離器の前記内筒部材に形成されていることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1に記載の気体圧縮機。
【請求項6】
前記分岐路は、前記経路からの分岐部において、前記経路に対して略直交する方向に延びて形成されていることを特徴とする請求項1から5のうちいずれか1項に記載の気体圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−127441(P2009−127441A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300412(P2007−300412)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(504217742)カルソニックコンプレッサー株式会社 (101)
【Fターム(参考)】