説明

気化方法

【課題】反応管の経路を長く確保することができるうえ、その内部を通過する際に発生す
る遠心力により原料溶液を分散したキャリアガスが通過方向と交差する方向に攪拌される
ことにより満遍なくヒータからの輻射熱による気化を促進することができる気化方法を提供
する。
【解決手段】螺旋状の反応管103に液体若しくは粉体からなる原料溶液を分散したキャ
リアガスが上流側から供給され、反応管103内を通過する原料溶液を分散したキャリア
ガスがヒータ104の輻射熱により気化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応管内を通過する原料溶液を分散させたキャリアガスをヒータの輻射熱で気化するための気化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスの分野においては、回路の高密度化と共に電子デバイスの一層の小型化および高性能化が望まれており、例えば、トランジスタの組み合わせで情報の記憶動作を行うSRAM(Static Random Access read write Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)、或いはトランジスタとキャパシタの組み合わせで情報の記憶動作を行うDRAM(Dynamic Random Access Memory)などのように、電子デバイスの機能を単に回路構成のみで達成するばかりではなく、機能性薄膜等の材料自体の特性を利用してデバイスの機能を実現することが有利になりつつある。
【0003】
そのため、電子部品に用いられる誘電体材料などの薄膜化が望まれている。このような材料を薄膜化する一つの方法として、CVD法がある。
【0004】
このCVD法は、PVD法、ゾルゲル法、その他の成膜法に比べて成膜速度が大きく、多層薄膜の製造が容易であるなどの特徴を有している。また、MOCVD法は、有機物を含む化合物を薄膜形成用の原料として用いるCVD法であり、安全性が高く、膜中のハロゲン化物の混入がないなどの利点を有する。
【0005】
MOCVD法に用いられる原料は、一般的に固体粉末あるいは液体であり、これらの原料を容器に入れ、一般的に減圧中で加熱して原料を気化器で気化させた後、キャリアガスによって薄膜成膜装置内に送り込んでいる。
【0006】
図4は、このようなMOCVD法の気化システムのシステムブロック図(特許文献1参照)である。
【0007】
この図4において、10は複数の原料溶液等を気化器1へと供給する供給部である。
【0008】
供給部10は、キャリアガス(例えば、N2又はAr)が充填されたガスボンベ11と、酸素が充填された酸素ボンベ12と、冷却水が貯留された貯水タンク13と、強誘電体薄膜用の原料(例えば、3種類の有機金属錯体としてSr(DPM)2、Bi(C653、Ta(OC255)並びに溶剤としてTHF(テトラヒドロフラン)を貯留した複数のリザーブタンク14〜17と、ガスボンベ11と気化器1とに接続されたガス供給管18と、酸素ボンベ12と気化器1とに接続された酸素供給管19と、貯水タンク13と気化器1とに接続された給水管20並びに配水管21と、リザーブタンク14〜17と気化器1とに接続された液体供給管22〜25と、リザーブタンク14〜17とガスボンベ11とに接続された多岐管26とを備えている。
【0009】
ガス供給管18の経路中にはバルブ18aとマスフローコントローラ18bとが設けられ、酸素供給管19の経路中にはバルブ19aとマスフローコントローラ19bとバルブ19cとが設けられ、給水管20の経路中にはバルブ20aが設けられ、溶剤用の液体供給管22の経路中にはバルブ22aとマスフローコントローラ22bとが設けられ、錯体用の液体供給管23〜25の経路中にはバルブ23a〜25aとマスフローコントローラ23b〜25bとが設けられ、多岐管26の経路中にはバルブ26a〜26dとエアパージ26eとバルブ26fとが設けられている。尚、液体供給管23〜25は、液体供給管22と接続されるように分岐されており、それぞれバルブ23c〜25cが設けられている。
【0010】
ガスボンベ11に充填されたキャリアガスは、ガス供給管18のバルブ18aを開くことにより、マスフローコントローラ18bに流量制御されて気化器1へと供給される。また、ガスボンベ11に充填されたキャリアガスは、多岐管26のバルブ26f並びにバルブ26a〜26dを開くと共にエアパージ用のバルブ26eの放出状態を閉とすることによりキャリアガスがリザーブタンク14〜17に送り込まれる。これにより、リザーブータンク14〜17内はキャリアガスにより加圧され、貯留された原料溶液はその溶液内に先端が臨んでいる液体供給管22〜25内を押し上げられてマスフローコントロ―ラ22b〜25bにより流量制御された後、気化器1の接続管2〜5に輸送される。
【0011】
また、同時に、酸素ボンベ12からマスフローコントローラ19bで一定流量に制御された酸素(酸化剤)が気化器1へと輸送される。
【0012】
さらに、給水管20のバルブ20aを開くことにより貯水タンク13内の冷却水が気化器1の内部を循環して気化器1を冷却する。
【0013】
尚、接続管27〜30は、図示例では気化器1の軸線方向に沿って並設されているが、実際には貯水タンク13からの給水管20又は配水管21と接続される接続管31,32とで放射状に交互に設けられている。
【0014】
リザーブタンク14〜16内に貯留された原料溶液は、溶剤であるTHFに常温で液体又は固体状の有機金属錯体(Sr(DPM)2、Bi(C653、Ta(OC255)を溶解しているため、そのまま放置しておくとTHF溶剤の蒸発によって有機金属錯体が析出し、最終的に固形状になる。従って、原液と接触した液体供給管23〜25の内部がこれによって閉塞されることを防止するため、成膜作業終了後の液体供給管23〜25内及び気化器1内をリザーブタンク17内のTHFで洗浄すればよい。この際の洗浄は、マスフローコントローラ23b〜25bの出口側から気化器1までの区間とし、作業終了後にリザーブタンク17内に貯留されたTHFで洗い流すものである。
【0015】
図3は、気化器1の要部の構成を示す断面図である。この図3において、気化器1は、ガス供給管18が接続される分散器2と、分散器2の下流側に連続して接続された反応管3と、反応管3の周囲を覆うヒータ4とを備えている。
【0016】
分散器2は、ガス供給管18と同軸上に位置するガス通路5を有する。このガス通路5の始端上流口5aと終端噴射口5bとの間には、各接続管27〜30の先端が臨んでおり(図では対向配置された接続管28,29のみ図示)、これによりリザーブタンク14〜16内に貯留された原料溶液がこのガス通路5内に供給可能となっている。また、分散器2には、接続管31,32に連通して貯水タンク13内の冷却水が循環するための冷却経路6が形成されている。さらに、分散器2には、ガス供給管18の始端上流口5aよりも上流側に一端が位置すると共に終端噴射口5bに他端が位置するロッド7と、このロッド7の他端を支持するピン8とを備えている。尚、ロッド7の一端はガス供給管18の端部付近に設けられたピン9により保持されている。
【0017】
ヒータ4は、反応管3を略全長に跨って包囲する円筒形状のセラミックヒータ若しくは螺旋状に形成されたものが使用されている。
【0018】
このような構成においては、分散器2の内部に穴を貫通し、その穴の軸線と同軸上に位置するように、穴の内径(4.50mm)のよりも小さな外径(4.48mm)を有するロッド7を埋め込む。分散器2とロッド7との間に形成された空間によりガス通路5が形成される。ロッド7はビス9により位置決め状態で保持されている。
【0019】
尚、ガス通路5の断面幅は0.02mmとなる。この際、ガス通路5の断面幅は、0.005〜0.10mmが好ましい。これは、0.005mm未満では加工が困難であり、0.10mmを超えるとキャリアガスを高速化するために高圧のキャリアガスを用いる必要が生じてしまうからである。
【0020】
ガス通路5の上流からは、ガス供給管18からキャリアガスが導入される。このキャリアガスには、ガス通路5の中途部に位置する各接続管27〜30の先端から原料溶液が滴下されるため、この原料溶液がガス通路5を通過するキャリアガスに分散される。
【0021】
これにより、ガス通路5の下流の終端噴射口5bから反応管3に原料溶液を分散したキャリアガスが噴射され、反応管3内を流れる原料溶液を分散したキャリアガスをヒータ4で加熱し気化した後、図示を略する薄膜成膜装置へと送り込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2000−216150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
ところで、上記の如く構成された気化器1にあっては、反応管3の周囲をヒータ4で覆っている構成であるため、反応管3の長さに相当する原料溶液を分散したキャリアガスの気化経路長(反応時間)を長く確保することが困難であり、反応管3の外周付近と中心付近とではヒータ4の輻射熱による加熱温度に差が生じることと相俟って、原料溶液の種類や分散量等によっては気化器1の大きさを変更しないと充分な気化を行うことができないという問題が生じていた。
【0024】
本発明は、上記問題を解決するため、キャリアガスの反応時間を長く確保することができる気化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
その目的を達成するため、請求項1に記載の気化方法は、液体若しくは粉体からなる原料溶液を分散したキャリアガスが上流側から供給される螺旋状の反応管と、該反応管内を通過する原料溶液を分散したキャリアガスを輻射熱で加熱して気化させるヒータとを備える気化方法において、前記原料溶液を分散したキャリアガスは、前記螺旋状の反応管内を通過する間に、遠心力により、通過方向と交差する方向に攪拌されて、まんべんなく、ヒータからの輻射熱により気化を促進され、また、前記螺旋状の反応管内を通過することにより、前記原料溶液を分散したキャリアガスは、キャリアガスの反応時間を長く確保することを要旨とする。
【0026】
請求項2に記載の気化方法は、前記ヒータが前記反応管の内側に配置されており、前記ヒータからの輻射熱により、前記原料溶液を分散したキャリアガスの気化が促進されることを要旨とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の気化方法によれば、螺旋状の反応管に液体若しくは粉体からなる原料溶液を分散したキャリアガスが上流側から供給され、反応管内を通過する原料溶液を分散したキャリアガスがヒータの輻射熱により気化されることにより、反応管の経路を長く確保することができるうえ、その内部を通過する際に発生する遠心力により原料溶液を分散したキャリアガスが通過方向と交差する方向に攪拌されることにより満遍なくヒータからの輻射熱による気化が促進される。
【0028】
請求項2に記載の気化方法によれば、ヒータが反応管の内側に配置されていることにより、気化器の小型化に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の気化器の要部を示し、(A)は要部の正面図、(B)は反応管の断面図である。
【図2】本発明の気化器を有するMOCVD用の気化システムのシステムブロック図である。
【図3】気化器の分散部の縦断面図である。
【図4】従来の気化器を有するMOCVD用の気化システムのシステムブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、本発明の気化器をMOCVD用の気化器に適用し、図面に基づいて説明する。
【0031】
図2は、本発明の気化器を有するMOCVD用の気化システムのシステムブロック図、図1は本発明の気化器の要部を示し、図1(A)は要部の正面図、図1(B)は反応管の断面図である。
【0032】
図2において、10は複数の原料溶液等を気化器101へと供給する供給部である。尚、この供給部10並びに分散器2の構成は図4に示した従来技術と同一であるため、その詳細な説明は省略する。
【0033】
気化器101は、ガス供給管18が接続される分散器2と、分散器2の下流側に連続して接続された反応管103と、反応管103の周囲を覆うヒータ104とを備えている。
【0034】
反応管103は、その中途部が螺旋状に形成されており、例えば、分散器2から図示を略する薄膜成膜装置までの機械的離間距離は従来技術で説明したものと同一距離となっており、気化システム全体の装置の大きさを略同一とすることができる。また、反応管103は、螺旋状に形成されていることにより、分散器2から図示を略する薄膜成膜装置までの距離のうち実質的な反応部分の距離が長く確保されている。
【0035】
ヒータ104は、セラミックヒータなどの棒状のものが反応管103の螺旋部分の中心に略全長に跨って配置されている。尚、ヒータ104を反応管103の内側若しくは外側に位置する螺旋状の管体から構成しても良いし、これらを併用しても良い。
【0036】
このような構成においては、分散部2に接続された各接続管27〜30の先端から原料溶液が滴下され、ガス供給管18から導入されたキャリアガスに原料溶液が分散される。
【0037】
これにより、分散部2の下流から反応管103に原料溶液を分散したキャリアガスが噴射され、反応管103内を流れる原料溶液を分散したキャリアガスがヒータ104で加熱されて気化した後、図示を略する薄膜成膜装置へと送り込まれる。
【0038】
この際、反応管103が螺旋状に形成されていることから、図1(B)に示すように、反応管103内ではその搬送方向と交差する方向に遠心力に伴う乱流が発生し、反応管の内側と外側とでキャリアガスが攪拌された状態となり、ヒータ104からの輻射熱により満遍なく気化することができる。
【符号の説明】
【0039】
101…気化器
103…反応管
104…ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体若しくは粉体からなる原料溶液を分散したキャリアガスが上流側から供給される螺旋状の反応管と、該反応管内を通過する原料溶液を分散したキャリアガスを輻射熱で加熱して気化させるヒータとを備える気化方法において、
前記原料溶液を分散したキャリアガスは、前記螺旋状の反応管内を通過する間に、遠心力により、通過方向と交差する方向に攪拌されて、まんべんなく、ヒータからの輻射熱により気化を促進され、また、前記螺旋状の反応管内を通過することにより、前記原料溶液を分散したキャリアガスは、キャリアガスの反応時間を長く確保することを特徴とする気化方法。
【請求項2】
前記ヒータが前記反応管の内側に配置されており、前記ヒータからの輻射熱により、前記原料溶液を分散したキャリアガスの気化が促進されることを特徴とする請求項1に記載の気化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−67995(P2010−67995A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279849(P2009−279849)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【分割の表示】特願2003−335605(P2003−335605)の分割
【原出願日】平成15年9月26日(2003.9.26)
【出願人】(591277382)株式会社渡辺商行 (34)
【出願人】(596005001)
【Fターム(参考)】