説明

気筒間空燃比ばらつき異常検出装置

【課題】異常気筒特定時におけるエミッションの悪化等を防止する。
【解決手段】多気筒内燃機関の複数の気筒に対し、触媒と、触媒温度を検出する温度センサと、触媒前後の空燃比センサである触媒前センサおよび触媒後センサとを設ける。温度センサの検出値に基づき、複数の気筒における気筒間空燃比ばらつき異常を検出したとき、異常気筒を特定する。異常気筒特定時、触媒前後センサの出力に基づく主・補助空燃比制御を複数の気筒に対して実行する。触媒後センサ出力に基づく補助空燃比制御量ΔVrgの収束値に基づき異常気筒を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒内燃機関の気筒間空燃比のばらつき異常を検出するための装置に係り、特に、多気筒内燃機関において気筒間の空燃比が比較的大きくばらついていることを検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、触媒を利用した排気浄化システムを備える内燃機関では、排気中有害成分の触媒による浄化を高効率で行うため、内燃機関で燃焼される混合気の空気と燃料との混合割合、すなわち空燃比のコントロールが欠かせない。こうした空燃比の制御を行うため、内燃機関の排気通路に空燃比センサを設け、これによって検出された空燃比を所定の目標空燃比に一致させるようフィードバック制御を実施している。
【0003】
一方、多気筒内燃機関においては、通常全気筒に対し同一の制御量を用いて空燃比制御を行うため、空燃比制御を実行したとしても実際の空燃比が気筒間でばらつくことがある。このときばらつきの程度が小さければ、空燃比フィードバック制御で吸収可能であり、また触媒でも排気中有害成分を浄化処理可能なので、排気エミッションに影響を与えず、特に問題とならない。
【0004】
しかし、例えば一部の気筒の燃料噴射系が故障するなどして、気筒間の空燃比が大きくばらつくと、排気エミッションを悪化させてしまい、問題となる。このような排気エミッションを悪化させる程の大きな空燃比ばらつきは異常として検出するのが望ましい。特に自動車用内燃機関の場合、排気エミッションが悪化した車両の走行を未然に防止するため、気筒間空燃比ばらつき異常を車載状態(オンボード)で検出することが要請されており、最近ではこれを法規制化する動きもある。
【0005】
例えば特許文献1に記載の装置では、触媒の前後に設置された空燃比センサの出力乖離に基づき、気筒間空燃比ばらつき異常を検出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−30455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、気筒間空燃比ばらつき異常が検出された場合、そのばらつき異常の原因となっている気筒(異常気筒)を特定するのが好ましい。異常気筒を特定できれば後の修理(例えばインジェクタの交換等)を迅速、的確に行えるからである。
【0008】
異常気筒特定については、気筒毎に燃料噴射量を強制的に増量または減量したときの触媒温度の変化に基づき異常気筒を特定する方法がある。
【0009】
しかし、このような強制増量または減量を行う方法は、エミッションを悪化させるなどの問題がある。
【0010】
そこで本発明は、異常気筒特定時にエミッションの悪化等を防止することができる気筒間空燃比ばらつき異常検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一の態様によれば、
多気筒内燃機関の複数の気筒に対して設けられた触媒と、
前記触媒の温度を検出する触媒温度検出手段と、
前記触媒温度の検出値に基づき、前記複数の気筒における気筒間空燃比ばらつき異常を検出する異常検出手段と、
前記ばらつき異常が検出されたとき、異常気筒を特定する特定手段と、
を備え、
前記特定手段が、
前記触媒の上流側に設けられた空燃比センサとしての触媒前センサと、
前記触媒の下流側に設けられた空燃比センサとしての触媒後センサと、
前記触媒前センサの出力に基づく主空燃比制御と、前記触媒後センサの出力に基づく補助空燃比制御とを、前記複数の気筒に対して実行する空燃比制御手段と、
前記触媒後センサの出力に基づき前記補助空燃比制御のための制御量を算出する制御量算出手段と、
前記制御量の収束値に基づき異常気筒を特定する異常気筒特定手段と、
を備えることを特徴とする気筒間空燃比ばらつき異常検出装置が提供される。
【0012】
好ましくは、前記制御量が、触媒後センサ学習値と補助空燃比補正量のいずれか一方からなる。
【0013】
本発明の他の態様によれば、
多気筒内燃機関の複数の気筒に対して設けられた触媒と、
前記触媒の温度を検出する触媒温度検出手段と、
前記触媒温度の検出値に基づき、前記複数の気筒における気筒間空燃比ばらつき異常を検出する異常検出手段と、
前記ばらつき異常が検出されたとき、異常気筒を特定する特定手段と、
を備え、
前記特定手段が、
前記触媒の上流側に設けられた空燃比センサとしての触媒前センサと、
前記触媒前センサの出力変動の度合いに基づいて異常気筒を特定する異常気筒特定手段と、
を備えることを特徴とする気筒間空燃比ばらつき異常検出装置が提供される。
【0014】
好ましくは、前記異常気筒特定手段は、触媒前センサ出力の変動度合いに相関する空燃比変動パラメータの値に基づき異常気筒を特定し、
前記空燃比変動パラメータは、異なる二つのタイミングにおける前記空燃比センサ出力の差に基づく値である。
【0015】
好ましくは、前記異常検出手段が、前記内燃機関の冷間始動時から所定時間経過した時点での前記触媒温度の検出値に基づき、気筒間空燃比ばらつき異常を検出する。
【0016】
好ましくは、前記複数の気筒が、不等間爆発を起こすような複数の気筒からなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、異常気筒特定時にエミッションの悪化等を防止することができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の概略図である。
【図2】触媒前センサおよび触媒後センサの出力特性を示すグラフである。
【図3】空燃比制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】主空燃比補正量の算出マップである。
【図5】補助空燃比補正量の設定ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】触媒後センサ出力差とその積算の様子を示すタイムチャートである。
【図7】補助空燃比補正量の算出マップである。
【図8】気筒間空燃比ばらつき度合いに応じた排気空燃比の変動を示すグラフである。
【図9】インバランス割合と触媒温度との関係を示すグラフである。
【図10】内燃機関の冷間始動後の触媒温度の推移を示すタイムチャートである。
【図11】触媒劣化度に応じた補正を説明するためのタイムチャートである。
【図12】酸素吸蔵容量の計測方法を説明するためのタイムチャートである。
【図13】インバランス割合と触媒後センサ学習値との関係を示すグラフである。
【図14】異常気筒を変えたときの触媒後センサ学習値の収束値の相違を示すグラフである。
【図15】1エンジンサイクル内の触媒前センサ出力の変動を示すタイムチャートである。
【図16】異常気筒を変えたときの空燃比変動パラメータの相違を示すグラフである。
【図17】強制増量または減量を伴う異常気筒特定の原理を説明するための図である。
【図18】ばらつき異常検出ルーチンの第1の例を示すフローチャートである。
【図19】酸素吸蔵容量と補正係数の関係を予め規定したマップを示す図である。
【図20】ばらつき異常検出ルーチンの第2の例を示すフローチャートである。
【図21】内燃機関の冷間始動後に車両を走行させたときの各値の推移を示すタイムチャートである。
【図22】触媒温度推定ルーチンを示すフローチャートである。
【図23】ばらつき異常検出の変形例に係るルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき説明する。
図1に本実施形態に係る内燃機関を概略的に示す。図示される内燃機関(エンジン)1は自動車用のV型8気筒火花点火式内燃機関(ガソリンエンジン)である。エンジン1は第1のバンク4と第2のバンク5とを有し、第1のバンク4には奇数番気筒すなわち#1,#3,#5,#7気筒が設けられ、第2のバンク5には偶数番気筒すなわち#2,#4,#6,#8気筒が設けられている。#1,#3,#5,#7気筒が第1の気筒群をなし、#2,#4,#6,#8気筒が第2の気筒群をなす。
【0020】
各気筒#1〜#8にインジェクタ(燃料噴射弁)2が設けられている。インジェクタ2は、対応気筒の吸気通路特に吸気ポート6内に向けて燃料を噴射する。
【0021】
吸気を導入するための吸気通路7は、前記吸気ポート6の他、集合部としてのサージタンク8と、各気筒の吸気ポート6およびサージタンク8を結ぶ複数の吸気マニホールド9と、サージタンク8の上流側の吸気管10とを含む。吸気管10には、上流側から順にエアフローメータ11と電子制御式スロットルバルブ12とが設けられている。エアフローメータ11は吸気流量に応じた大きさの信号を出力する。各気筒には、筒内の混合気に点火するための点火プラグ13が設けられる。
【0022】
第1のバンク4に対して第1の排気通路14Aが設けられ、第2のバンク5に対して第2の排気通路14Bが設けられる。これら第1および第2の排気通路14A,14Bは下流側の合流部Wで合流されている。この合流部Wより上流側の排気系統の構成は両バンクで同一なので、ここでは第1のバンク4側についてのみ説明し、第2のバンク5側については図中同一符号を付して説明を省略する。
【0023】
第1の排気通路14Aは、#1,#3,#5,#7の各気筒の排気ポート15と、これら排気ポート15の排気ガスを集合させる排気マニホールド16と、排気マニホールド16の下流側に設置された排気管17とを含む。そして排気マニホールド16と排気管17の間には三元触媒からなる触媒18が設けられている。
【0024】
触媒18の上流側及び下流側(直前及び直後)にそれぞれ排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ、即ち触媒前センサ20及び触媒後センサ21が設置されている。これらセンサは排気中の酸素濃度に基づいて空燃比を検出する。
【0025】
このように、一方のバンクに属する複数の気筒(あるいは気筒群)に対して、触媒18、触媒前センサ20及び触媒後センサ21が各一つずつ設けられている。
【0026】
合流部Wより下流側の排気通路すなわち合流排気通路14Cにも三元触媒からなる触媒19が設置されている。以下、便宜上、合流部Wより上流側に設けられた触媒18を上流触媒、合流部Wより下流側に設けられた触媒19を下流触媒ともいう。
【0027】
なお、第1および第2の排気通路14A,14Bを合流させないで、これらに個別に下流触媒19を設けることも可能である。
【0028】
上述の点火プラグ13、スロットルバルブ12及びインジェクタ9等は、制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)100に電気的に接続されている。ECU100は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECU100には、図示されるように、前述のエアフローメータ11、触媒前センサ20、触媒後センサ21のほか、内燃機関1のクランク角を検出するクランク角センサ22、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ23、内燃機関1の冷却水の温度を検出する水温センサ24、上流触媒18の温度(床温)を検出する温度センサ25、その他の各種センサが図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU100は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ13、スロットルバルブ12、インジェクタ2等を制御し、点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。なおスロットル開度は通常アクセル開度に応じた開度に制御される。
【0029】
温度センサ25は、その温度検出部(素子部)が上流触媒18に挿入されて触媒床温を直接検出するようになっている。その温度検出部の位置については基本的には任意であるが、本実施形態では後述する理由から、上流触媒18の流路長Lの中間位置L/2よりも上流側(前側)とされている。
【0030】
触媒前センサ20は所謂広域空燃比センサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能である。図2に触媒前センサ20の出力特性を示す。図示するように、触媒前センサ20は、検出した排気空燃比(触媒前空燃比A/Ff)に比例した大きさの電圧信号Vfを出力する。排気空燃比がストイキ(理論空燃比、例えばA/F=14.5)であるときの出力電圧はVreff(例えば約3.3V)である。
【0031】
他方、触媒後センサ21は所謂O2センサからなり、ストイキを境に出力値が急変する特性を持つ。図2に触媒後センサ21の出力特性を示す。図示するように、排気空燃比(触媒後空燃比A/Fr)がストイキであるときの出力電圧、すなわちストイキ相当値はVrefr(例えば0.45V)である。触媒後センサ21の出力電圧は所定の範囲(例えば0〜1V)内で変化する。排気空燃比がストイキよりリーンのとき、触媒後センサの出力電圧はストイキ相当値Vrefrより低くなり、排気空燃比がストイキよりリッチのとき、触媒後センサの出力電圧はストイキ相当値Vrefrより高くなる。
【0032】
上流触媒18及び下流触媒19は、それぞれに流入する排気ガスの空燃比A/Fがストイキ近傍のときに排気中の有害成分であるNOx、HCおよびCOを同時に浄化する。この三者を同時に高効率で浄化できる空燃比の幅(ウィンドウ)は比較的狭い。
【0033】
そこで、上流触媒18に流入する排気ガスの空燃比をストイキ近傍に制御するための空燃比制御(ストイキ制御)がECU100により実行される。この空燃比制御は、触媒前センサ20によって検出された排気空燃比を所定の目標空燃比であるストイキに一致させるような主空燃比制御(主空燃比フィードバック制御)と、触媒後センサ21によって検出された排気空燃比をストイキに一致させるような補助空燃比制御(補助空燃比フィードバック制御)とからなる。
【0034】
空燃比制御と、後述の気筒間空燃比ばらつき異常検出および異常気筒特定とは、バンク単位で若しくはバンク毎に行われる。例えば第1のバンク4側の触媒前センサ20および触媒後センサ21の検出値は、第1のバンク4に属する#1,#3,#5,#7気筒の空燃比フィードバック制御にのみ用いられ、第2のバンク5に属する#2,#4,#6,#8気筒の空燃比フィードバック制御には用いられない。逆も同様である。あたかも独立した直列4気筒エンジンが二つあるように、空燃比制御等が実行される。
【0035】
図3に空燃比制御ルーチンを示す。このルーチンはECU100により1エンジンサイクル(=720°クランク角)毎に繰り返し実行される。
【0036】
まずステップS101では、筒内混合気の空燃比をストイキとするような基本の燃料噴射量即ち基本噴射量Qbが算出される。基本噴射量Qbは例えば、エアフローメータにより検出された吸入空気量Gaに基づき、式:Qb=Ga/14.5により算出される。
【0037】
ステップS102では触媒前センサ20の出力Vfが取得される。ステップS103では、このセンサ出力Vfとストイキ相当センサ出力Vreff(図2参照)との差、即ち触媒前センサ出力差ΔVf=Vf−Vreffが算出される。
【0038】
ステップS104では、この触媒前センサ出力差ΔVfに基づき、図4に示したようなマップ(関数でもよい、以下同様)から主空燃比補正量(補正係数)Kfが算出される。触媒前センサ出力差ΔVf及び主空燃比補正量Kfは、主空燃比制御のための制御量をなす。例えばゲインをPfとするとKf=Pf×ΔVfで表される。そしてステップS105では、図5に示す別ルーチンで設定された補助空燃比補正量Krの値が取得される。最後に、ステップS106にて、インジェクタ2から噴射すべき最終的な燃料噴射量即ち最終噴射量Qfnlが式:Qfnl=Kf×Qb+Krにより算出される。
【0039】
図4のマップによれば、触媒前センサ出力Vfがストイキ相当センサ出力Vreffより大きい(ΔVf>0)ほど、即ち実際の触媒前空燃比がストイキからリーン側に離れるほど、1に対しより大きな補正量Kfが得られ、基本噴射量Qbは増量補正される。反対に、触媒前センサ出力Vfがストイキ相当センサ出力Vreffより小さい(ΔVf<0)ほど、即ち実際の触媒前空燃比がストイキからリッチ側に離れるほど、1に対しより小さな補正量Kfが得られ、基本噴射量Qbは減量補正される。こうして、触媒前センサ20によって検出された空燃比をストイキに一致させるような主空燃比フィードバック制御が実行される。
【0040】
ステップS106で得られた最終噴射量Qfnlの値は、対象バンクの全気筒に対し一律に用いられる。即ち、1エンジンサイクルの間、最終噴射量Qfnlに等しい量の燃料が対象バンクの各気筒のインジェクタ2から順次噴射され、次のエンジンサイクルでは新たに計算された最終噴射量Qfnlの燃料が対象バンクの各気筒のインジェクタ2から順次噴射される。
【0041】
なお、周知のように、最終噴射量Qfnlの算出に当たっては他の補正(水温補正、バッテリ電圧補正等)を追加することも可能である。
【0042】
図5には補助空燃比補正量の設定ルーチンを示す。このルーチンはECU100により所定の演算周期で繰り返し実行される。
【0043】
まずステップS201では、ECU100に装備されたタイマのカウントが実行され、ステップS202では、触媒後センサ17の出力Vrが取得される。ステップS203では、このセンサ出力Vrとストイキ相当センサ出力Vrefr(図2参照)との差、即ち触媒後センサ出力差ΔVr=Vrefr−Vrが算出され、この触媒後センサ出力差ΔVrが前回積算値に積算される。図6には触媒後センサ出力差ΔVrとその積算の様子を示す。
【0044】
ステップS204では、タイマ値が所定値tsを超えたか否かが判断される。所定値tsを超えていなければルーチンが終了される。
【0045】
タイマ値が所定値tsを超えている場合、ステップS205で、この時点での触媒後センサ出力差積算値ΣΔVrが、触媒後センサ学習値ΔVrgとして更新記憶される。そしてステップS206で、この触媒後センサ学習値ΔVrgに基づき、図7に示したようなマップから、補助空燃比補正量Krが算出され、この補助空燃比補正量Krが更新記憶される。触媒後センサ学習値ΔVrg及び補助空燃比補正量Krは、補助空燃比制御のための制御量をなす。例えばゲインをPrとするとKr=Pr×ΔVrgで表される。最後に、ステップS207にて、触媒後センサ出力差積算値ΣΔVr及びタイマがリセットされる。
【0046】
触媒後センサ出力差ΔVrを所定時間tsの間積算する理由は、触媒後センサ出力Vrのストイキ相当センサ出力Vrefrに対する時間平均的なズレ量を検知するためである。積算時間を規定する所定値tsは1エンジンサイクルより遙かに長い時間であり、よって触媒後センサ学習値ΔVrg及び補助空燃比補正量Krの更新は1エンジンサイクルより長い周期で行われる。
【0047】
図7のマップによれば、触媒後センサ出力Vrが時間平均的にストイキ相当センサ出力Vrefrより小さい(ΔVrg>0)ほど、即ち実際の触媒後空燃比がストイキからリーン側に離れるほど、0に対しより大きな補正量Krが得られ、最終噴射量算出の際に基本噴射量Qbは増量補正される。反対に、触媒後センサ出力Vrが時間平均的にストイキ相当センサ出力Vrefrより大きい(ΔVrg<0)ほど、即ち実際の触媒後空燃比がストイキからリッチ側に離れるほど、0に対しより小さな補正量Krが得られ、基本噴射量Qbは減量補正される。こうして、触媒後センサ21によって検出された触媒後空燃比をストイキに一致させるような補助空燃比フィードバック制御が実行される。触媒前センサ20の劣化等の理由で主空燃比フィードバック制御を実行してもその結果がストイキからズレることがあるので、このズレを補正する目的で、補助空燃比フィードバック制御が実行される。
【0048】
なお、この例では新たな学習値ΔVrg及び補正量Krが算出される度にこれらの値自身で更新を行うようにしたが、なまし等の平均化処理を行って更新速度を遅らせるようにしてもよい。
【0049】
さて、例えば全気筒のうちの一部の気筒のインジェクタが故障し、気筒間に空燃比のばらつき(インバランス:imbalance)が発生したとする。例えば#1気筒が他の#2〜#8気筒よりも燃料噴射量が多くなり、#1気筒の空燃比が他の#2〜#8気筒の空燃比よりも大きくリッチ側にずれる場合等である。このとき、#1気筒を含む第1のバンク4について、前述の主空燃比フィードバック制御により比較的大きな補正量を与えれば、トータルガスの空燃比をストイキに制御できる場合がある。しかし、気筒別に見ると、#1気筒がストイキより大きくリッチ、#3,#5,#7気筒がストイキよりリーンであり、全体のバランスとしてストイキとなっているに過ぎず、エミッション上好ましくないことは明らかである。そこで本実施形態では、かかる気筒間空燃比ばらつき異常を検出する装置が装備されている。
【0050】
図8は、本実施形態と異なる典型的な直列4気筒エンジンにおける空燃比センサ出力の変動を示す。図示するように、空燃比センサによって検出される排気空燃比A/Fは、1エンジンサイクル(=720°CA)を1周期として周期的に変動する傾向にある。そして気筒間空燃比ばらつきが発生すると、1エンジンサイクル内での変動が大きくなる。(B)の空燃比線図a,b,cはそれぞればらつき無し、1気筒のみ20%のインバランス割合でリッチずれ、及び1気筒のみ50%のインバランス割合でリッチずれの場合を示す。見られるように、ばらつき度合いが大きくなるほど空燃比変動の振幅が大きくなる。本実施形態のようなV型8気筒エンジンでも、片バンクについて同様の傾向がある。
【0051】
ここでインバランス割合(%)とは、気筒間空燃比のばらつき度合いを表すパラメータである。即ち、インバランス割合とは、全気筒のうちある1気筒のみが燃料噴射量ズレを起こしている場合に、その燃料噴射量ズレを起こしている気筒(インバランス気筒)の燃料噴射量がどれくらいの割合で、燃料噴射量ズレを起こしていない気筒(バランス気筒)の燃料噴射量即ち基準噴射量からズレているかを示す値である。インバランス割合をIB、インバランス気筒の燃料噴射量をQib、バランス気筒の燃料噴射量即ち基準噴射量をQsとすると、IB=(Qib−Qs)/Qsで表される。インバランス割合IBが大きいほど、インバランス気筒のバランス気筒に対する燃料噴射量ズレが大きく、空燃比ばらつき度合いは大きい。
【0052】
[気筒間空燃比ばらつき異常検出]
上述のような空燃比ばらつきが発生し、図8に示したような1エンジンサイクル間における排気空燃比の変動が生じると、上流触媒18において短い周期で酸化還元反応が繰り返され、上流触媒18の活性が促進される。その結果、空燃比ばらつきが無いときに比べ、上流触媒18の温度が上昇する。ここで上流触媒18(下流触媒19も同様)は酸素吸蔵能(O2ストレージ能)を有し、供給された排気ガスの空燃比がストイキよりリーンのときに排気ガス中の過剰酸素を吸着保持する一方、供給された排気ガスの空燃比がストイキよりリッチのときには吸着保持していた酸素を放出する。このときの酸素吸着が酸化反応、酸素放出が還元反応である。図8に示したように、空燃比ばらつきが発生すると上流触媒18に供給される排気ガスの空燃比が1エンジンサイクル間でリーン、リッチと変化するので、その度に酸化還元反応が行われ、上流触媒18の温度が上昇する。
【0053】
図9にはインバランス割合(%)と上流触媒18の触媒温度(℃)との関係を示す。図中の三角及び菱形は、内燃機関1を搭載した車両がそれぞれ120km/h及び60km/hで定速走行したときのデータである。見られるように、インバランス割合(%)が0%からずれるほど、即ち空燃比ばらつき度合いが大きくなるほど、触媒温度は上昇する傾向にある。
【0054】
本実施形態では、かかる空燃比ばらつき度合い(インバランス割合)と触媒温度との間の相関関係に着目し、温度センサ25による触媒温度の検出値(「検出触媒温度」という)に基づき空燃比ばらつき異常の有無を判定し、当該異常を検出する。
【0055】
特に、本実施形態の特徴は、検出触媒温度に基づき温度パラメータを算出すると共に、内燃機関1の冷間始動時から所定時間経過した時点での温度パラメータの値に基づき、気筒間空燃比ばらつき異常を検出する点にある。
【0056】
図10に、内燃機関1の冷間始動時以降の触媒温度(検出触媒温度)の推移を示す。時刻t1が内燃機関1の冷間始動時である。始動後、触媒温度は徐々に上昇するが、このとき気筒間空燃比ばらつき度合いが大きいほど(すなわちインバランス割合IBが大きいほど)、触媒温度の上昇速度は速くなる。その理由は前述したように気筒間空燃比ばらつき度合いが大きいほど、触媒内でより活発に酸化還元反応が繰り返され、触媒の活性が促進されるからである。
【0057】
よって、最も単純な例では、内燃機関1の冷間始動時t1から所定時間経過した時点t2において、検出触媒温度Tcを、異常判定値である所定の判定温度Txと比較することにより、気筒間空燃比ばらつき異常の有無を判定することができる。この場合、検出触媒温度Tcそのものが温度パラメータとされ、検出触媒温度Tcに等しい値が温度パラメータとして算出される。
【0058】
図示例では、五つの線図a〜eのうち、時刻t2で判定温度Txを下回る線図a〜cについては、気筒間空燃比ばらつき異常無しと判定される。触媒温度の上昇速度が比較的遅く、気筒間空燃比ばらつき度合いが小さいと判断し得るからである。他方、時刻t2で判定温度Tx以上となっている線図d,eについては、気筒間空燃比ばらつき異常有りと判定される。触媒温度の上昇速度が比較的早く、気筒間空燃比ばらつき度合いが大きいと判断し得るからである。
【0059】
この方法は、特に冷間始動時からの触媒温度を考慮する点に特徴がある。冷間始動時では、触媒温度が外気温付近に安定しているため、触媒温度の初期条件を検出時毎に揃えることができるからである。従って気筒間空燃比ばらつき異常の検出精度を向上することが可能となる。
【0060】
ここで、「冷間始動時」とは、直近の内燃機関停止時から所定時間以上経過しており(内燃機関がもはや暖機状態になく)、且つ、水温、油温等の内燃機関1の代表温度が所定値以下にあるときに内燃機関1が始動された時をいう。ここでいう代表温度の所定値は、所定の常温(例えば20℃)より若干高い値に設定することができる。この「冷間始動」に対し、内燃機関の暖機状態での始動が「温間始動」である。「冷間始動」をコールドスタート、「温間始動」をホットスタートということもある。
【0061】
冷間始動時t1から時点t2(これを判定時点ともいう)までの間の所定時間は、冷間始動時t1からエンジンの暖機終了時点までの間の時間よりも遙かに短く、例えば25秒程度である。
【0062】
異常検出の代替例として次のものも可能である。すなわち、図10に示すように、検出触媒温度Tcとその初期値Tciとの差ΔTcを温度パラメータとして算出する。また前記判定温度Txと初期値Tciとの差ΔTxを、温度パラメータΔTcと比較すべき異常判定値とする。冷間始動時t1から所定時間経過した時点t2において、温度パラメータΔTcが異常判定値ΔTxより小さければ気筒間空燃比ばらつき異常無しと判定し、温度パラメータΔTcが異常判定値ΔTx以上であれば気筒間空燃比ばらつき異常有りと判定する。これによっても線図a〜eに関して同様の結果が得られる。
【0063】
この方法は、単純に検出触媒温度Tcを温度パラメータとする場合に比べ次の点で有利である。すなわち、初期値Tciとの差を採ることにより、検出時毎の初期値Tciのばらつきの影響を大幅に抑制することができ、検出精度の向上に有利である。
【0064】
なお、上流触媒18においては、その上流端(前端)から供給ガスを受けるので、その上流端から下流側(後側)に向けて徐々に温度変化するようになる。よって上流触媒18の温度変化を即座に検知すべく、温度センサ25の温度検出部は、本実施形態の如く上流触媒18の流路長Lの中間位置L/2よりも上流側に位置されるのが好ましく、より言えばできるだけ上流側に位置されるのが好ましい。
【0065】
気筒間空燃比ばらつき異常検出については、上記の如き触媒温度を利用する方法の他に、空燃比センサ出力変動や補助空燃比制御の制御量を利用する方法がある。しかし、本実施形態のV8エンジンのような不等間爆発が起こるエンジン(気筒間の点火、爆発ないし燃焼間隔が等間隔でないエンジン)の場合や、空燃比センサに対するガス当たり強さが気筒間で著しく異なるエンジンの場合には、空燃比センサ出力変動や補助空燃比制御量を利用する方法が適用困難な場合がある。一方、触媒温度を利用する方法にはこのような困難性が少ない。よって両エンジンの場合に触媒温度を利用する方法は極めて有利であり、また当該方法を採用することにより正確なばらつき異常検出を実施することが可能である。
【0066】
[触媒劣化度に応じた補正]
ところで、触媒は劣化するほど反応部位が少なくなり、触媒温度は低下する傾向にある。そのため、先の冷間始動時からの触媒温度上昇速度も、触媒が劣化するほど遅くなる傾向にある。また冷間始動時から所定時間経過した時点における触媒温度自体も、触媒が劣化するほど低下する傾向にある。
【0067】
これを図示したのが図11である。図11は図10に類似のタイムチャートである。実線が劣化度の小さい触媒(小劣化触媒)の場合を示し、破線が劣化度の大きい触媒(大劣化触媒)の場合を示す。図示するように、大劣化触媒の場合には、小劣化触媒の場合に比べて触媒温度上昇速度が遅く、所定時間経過時点t2における触媒温度も低い。つまり大劣化触媒の温度特性は小劣化触媒の温度特性から矢印aのように低温側に変化する。
【0068】
このように、触媒の劣化度を考慮しないと、検出精度を低下させる可能性があり、また実際には気筒間空燃比ばらつき異常が有るのにそれを無いと誤検出してしまう可能性がある。
【0069】
そこで本実施形態では、触媒の劣化度に関する触媒劣化パラメータを計測する。そして、所定時間経過時点での温度パラメータの値または異常判定値を、計測された触媒劣化パラメータの値に応じて補正する。これにより、触媒劣化度の影響を排除して検出精度をより向上することが可能となる。なお、触媒劣化パラメータの計測対象となる触媒は当然ながら温度検出対象としての上流触媒18である。
【0070】
温度パラメータの値を補正する場合、図11の矢印bで示すように、温度パラメータの値を高温側に補正する。また異常判定値を補正する場合、図11の矢印cで示すように、異常判定値を低温側に補正する。
【0071】
ここで、触媒劣化パラメータとしては様々なものが採用可能であるが、本実施形態では触媒の酸素吸蔵容量OSCを採用する。以下、触媒の酸素吸蔵容量OSCの計測方法について説明する。
【0072】
本実施形態の上流触媒18および下流触媒19は、前述したように酸素吸蔵能を有する。一方、触媒が熱ストレスを受けて経時劣化すると、触媒の酸素吸蔵能が低下する。触媒の劣化度と酸素吸蔵能の低下度との間には相関関係がある。そこで本実施形態では、現状の触媒が吸蔵し得る最大酸素量である酸素吸蔵容量(OSC;O2 Storage Capacity、単位はg)を、触媒劣化パラメータとして計測する。
【0073】
計測に際しては、混合気の空燃比ひいては触媒前空燃比A/Ffを、ストイキを中心にリッチ及びリーンに交互に振るアクティブ空燃比制御を実行する。
【0074】
図12において、(A)は目標空燃比A/Ft(破線)と、触媒前センサ20で検出された触媒前空燃比A/Ff(実線)とを示す。また(B)は触媒後センサ出力Vrを示す。(C)は触媒11から放出された酸素量即ち放出酸素量OSAaの積算値を示し、(D)は触媒に吸蔵された酸素量即ち吸蔵酸素量OSAbの積算値を示す。
【0075】
図示するように、アクティブ空燃比制御の実行により、触媒に流入する排気ガスの空燃比は所定のタイミングで強制的にリーン及びリッチに交互に切り替えられる。例えば時刻t1より前では目標空燃比A/Ftがストイキよりリーン(例えば15.0)に設定され、触媒11にはリーンガスが流入されている。このとき触媒11は酸素を吸収し続け、排気中のNOxを還元して浄化するが、飽和状態即ち満杯まで酸素を吸収した時点でそれ以上酸素を吸収できなくなり、リーンガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後センサ21の出力がリーン側に反転し、触媒後センサ21の出力がストイキ相当値Vrefrに達する(時刻t1)。この時点で、目標空燃比A/Ftがストイキよりリッチ(例えば14.0)に切り替えられる。
【0076】
そして今度は触媒11にリッチガスが流入される。このとき触媒11では、それまで吸蔵していた酸素を放出し続け、排気中のリッチ成分(HC,CO)を酸化して浄化するが、やがて触媒11から全ての吸蔵酸素が放出され尽くすとその時点で酸素を放出できなくなり、リッチガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後空燃比がリッチ側に変化し、触媒後センサ21の出力がストイキ相当値Vrefrに達する(時刻t2)。この時点で、目標空燃比A/Ftがリーン空燃比に切り替えられる。このようにして、空燃比のリッチ・リーンへの切替えが繰り返し実行される。
【0077】
(C)に示すように、時刻t1〜t2の放出サイクルでは、極短い所定周期毎の放出酸素量OSAaが順次積算されていく。より詳しくは、触媒前センサ20の出力がストイキ相当値に達した時刻t11から、触媒後センサ21の出力がリーン側に反転した(Vrefrに達した)時刻t2まで、1演算周期毎の放出酸素量dOSA(dOSAa)が次式(1)により計算され、この1演算周期毎の値が周期毎に積算されていく。こうして1放出サイクルで得られた最終的な積算値が、触媒の酸素吸蔵容量に相当する放出酸素量OSAaの計測値となる。
【0078】
【数1】

【0079】
Qは燃料噴射量であり、A/Fsはストイキである。空燃比差ΔA/Fに燃料噴射量Qを乗じると過剰又は不足分の空気量を計算できる。Kは空気に含まれる酸素割合(約0.23)である。
【0080】
時刻t2〜t3の吸蔵サイクルでも同様に、(D)に示すように、触媒前センサ20の出力がストイキ相当値に達した時刻t21から、触媒後センサ21の出力がリッチ側に反転した(Vrefrに達した)時刻t3まで、1演算周期毎の吸蔵酸素量dOSA(dOSAb)が前式(1)により計算され、この1演算周期毎の値が周期毎に積算されていく。こうして1吸蔵サイクルで得られた最終的な積算値が、触媒の酸素吸蔵容量に相当する吸蔵酸素量OSAbの計測値となる。こうして放出サイクルと吸蔵サイクルを繰り返すことにより、複数ずつの放出酸素量OSAaと吸蔵酸素量OSAbとが計測、取得される。
【0081】
触媒が新品に近いほど、触媒が酸素を放出或いは吸蔵し続けることのできる時間が長くなり、大きな放出酸素量OSAa或いは吸蔵酸素量OSAbの計測値が得られる。また、原理上は、触媒が放出できる酸素量と吸蔵できる酸素量とが等しいので、放出酸素量OSAaの計測値と吸蔵酸素量OSAbの計測値もほぼ等しい。
【0082】
相隣接する一対の放出サイクルと吸蔵サイクルとで計測された放出酸素量OSAaと吸蔵酸素量OSAbとの平均値が求められ、これが1吸放出サイクルに係る1単位の酸素吸蔵容量の計測値とされる。そして複数の吸放出サイクルについて複数単位の酸素吸蔵容量計測値が求められ、その平均値が最終的な酸素吸蔵容量OSCの計測値、すなわち触媒劣化パラメータとして算出される。
【0083】
なお、触媒劣化パラメータとしては、酸素吸蔵容量OSC以外にも、例えばアクティブ空燃比制御時の触媒後センサ21の出力軌跡長或いは出力面積等が採用可能である。アクティブ空燃比制御時、触媒劣化度が大きいほど触媒後センサ21の出力変動が大きくなるので、この特性を利用したものである。
【0084】
[異常気筒特定]
ところで、気筒間空燃比ばらつき異常が検出された場合、そのばらつき異常の原因となっている気筒(異常気筒)を特定するのが好ましい。異常気筒を特定できれば後の修理(例えばインジェクタの交換等)を迅速、的確に行えるからである。そこで本実施形態では異常気筒を特定する手段が設けられている。
【0085】
異常気筒特定については、気筒毎に燃料噴射量を強制的に増量または減量したときの触媒温度の変化に基づき異常気筒を特定する方法がある。
【0086】
しかし、このような強制増量または減量を行う方法は、エミッションを悪化させるなどの問題がある。
【0087】
そこで、本実施形態では別の異常気筒特定方法を採用する。まず第1の方法は、補助空燃比制御のための制御量、すなわち触媒後センサ学習値ΔVrgと補助空燃比補正量Krの少なくとも一方を利用する方法である。
【0088】
図5〜図7を用いて説明したように、補助空燃比フィードバック制御においては、所定時間毎に、触媒後センサ学習値ΔVrgと補助空燃比補正量Krとが学習ないし更新される。
【0089】
一方、片バンクについて、1気筒のみが異常でその空燃比が大きくリッチ側にずれたとする。このとき主空燃比制御が実行されていると、全気筒の排ガスが合流した後のトータルの排ガスの空燃比は、暫くしてストイキに制御される。しかしながら、異常気筒の空燃比はストイキより大きくリッチであり、残りの正常気筒の空燃比はストイキよりリーンであり、全体のバランスとしてストイキになっているに過ぎない。しかも異常気筒から水素が多量に発生される結果、触媒前センサ20の出力は、真の空燃比よりもリッチ側にずれた空燃比を誤ってストイキとして表示する。
【0090】
他方、水素を含む排ガスが上流触媒18を通過すると、水素が浄化されてその影響が取り除かれる。従って、触媒後センサ21の出力は、真の空燃比、即ちストイキよりリーンな空燃比を表示することとなる。このようにリッチずれ異常が生じると触媒前センサ20の出力がリッチ側にずれること、および触媒前センサ20および触媒後センサ21の出力の間に乖離が生じることは、例えば特許文献1により公知である。
【0091】
異常発生から所定時間が経過すると、触媒後センサ21の出力は、リッチずれの度合いに応じた一定値に収束する。この一定値は、ストイキよりリーンな値であり、燃料噴射量をリッチ側に補正しようとする値である。この触媒後センサ21の出力変化に追従して、触媒後センサ学習値ΔVrgと補助空燃比補正量Krも、燃料噴射量をリッチ側に補正するような正の一定値に収束する。
【0092】
これを示すのが図13である。図13は、ある1気筒のみの燃料噴射量がストイキ相当量からずれたときのインバランス割合(%)と、触媒後センサ学習値ΔVrgとの関係を調べた試験結果である。インバランス割合はリッチずれのときが正、リーンずれのときが負である。図示するように、インバランス割合がリッチずれ方向に大きくなるほど、触媒後センサ学習値ΔVrgはより大きな値、即ち空燃比をよりリッチ側に補正するような値に収束する傾向にある。図示しないが、補助空燃比補正量Krにも同様の傾向がある。
【0093】
なお、1気筒のみの空燃比が大きくリーン側にずれることもあり、この場合には、触媒後センサ学習値ΔVrgの値は、図13に負のインバランス割合領域で示される如くなる。こちらの領域の勾配は正のインバランス割合領域の勾配よりも緩い。ここでリーンずれとは、燃料噴射量が規定量よりも少なくなることであり、ある気筒で大きなリーンずれが起きた場合、当該気筒は通常は失火に陥る。よってリーンずれによるばらつき異常は別の失火検出手段によって検出可能である。本実施形態の異常検出はリッチずれ異常に対して特に有利である。
【0094】
ところで、本発明者らの研究結果によれば、本実施形態のV8エンジンのような不等間爆発が起こるエンジンの場合や、空燃比センサ(触媒前センサ20)に対するガス当たり強さが気筒間で著しく異なる場合には、主・補助空燃比制御(特にストイキ制御)の実行時における触媒後センサ学習値ΔVrgおよび補助空燃比補正量Krの収束値が、どの気筒が異常かによって異なることが判明した。
【0095】
ここで、本実施形態の場合、両バンクの全気筒単位で見れば点火間隔は等間隔であるが、第1のバンク4と第2のバンク5とで交互に点火が行われる訳ではないので、片バンク単位で見れば点火間隔は不等間隔となる。気筒間のガス当たり強さの相違は主に触媒前センサ20の設置位置や、センサ上流側の排気通路構造に起因する。このガス当たり強さの相違は予め実験的に把握でき、また気筒番号とガス当たり強さとの対応関係はECU100に予め情報として入力しておくことができる。
【0096】
図14は、第1のバンク4について異常気筒を変えたときの触媒後センサ学習値ΔVrgの収束値の相違を示す試験結果である。(A)はいずれの気筒も正常な場合、(B)は#1気筒のみが異常で+60%のインバランス割合のリッチずれが生じている場合、(C)〜(E)は同様に#3、#5、#7気筒のみが異常で+60%のインバランス割合のリッチずれが生じている場合である。
【0097】
(A)に示されるように、いずれの気筒も正常な場合には収束値がほぼゼロである。これに対し、いずれか1気筒が異常であると、その異常気筒に応じて収束値は異なってくる。最大の収束値を示すのが(D)に示される#5気筒異常の場合で、この場合収束値は所定の第2閾値ΔVrg2(但し0<ΔVrg2)より大きい。他方、最小の収束値を示すのが(E)に示される#7気筒異常の場合で、この場合収束値は所定の第1閾値ΔVrg1(但し0<ΔVrg1<ΔVrg2)より小さい。中間の収束値を示すのが(B)に示される#1気筒異常の場合と、(C)に示される#3気筒異常の場合で、これらの場合、収束値は第1閾値ΔVrg1と第2閾値ΔVrg2の間となる。
【0098】
そこでこの特性を利用し、異常気筒を特定することが可能である。すなわち、触媒後センサ学習値ΔVrgの収束値が第2閾値ΔVrg2以上のときには#5気筒を異常と特定し、当該収束値が第1閾値ΔVrg1未満のときには#7気筒を異常と特定し、当該収束値が第1閾値ΔVrg1以上で且つ第2閾値ΔVrg2未満のときには#1と#3のいずれかの気筒を異常と特定する。
【0099】
これにより、燃料噴射量の強制増量または減量を実施することなく異常気筒を特定することができ、異常気筒特定時におけるエミッションや燃焼の悪化等を防止することができる。
【0100】
ところで、図14のような結果が得られる理由は次の通りと考えられる。本実施形態の場合、第1のバンク4について説明すると、#5気筒の点火から次気筒の点火までの間に270°CAの間隔があり、#1気筒の点火から次気筒の点火までの間に180°CAの間隔があり、#3気筒の点火から次気筒の点火までの間に180°CAの間隔があり、#7気筒の点火から次気筒の点火までの間に90°CAの間隔がある。
【0101】
すると、ある気筒の点火により発生した排気ガスが、当該気筒と触媒前センサ20の間の排気通路に滞留するときのガス滞留時間は、#5気筒が最も長く、#1気筒と#3気筒が中間程度の長さであり、#7気筒が最も短い。このようなガス滞留時間の違いが触媒後センサ学習値ΔVrgの収束値の違いとなって現れるものと考えられる。すなわち、異常気筒のガス滞留時間が長いほど、その影響度は大きく、触媒後センサ学習値ΔVrgの収束値は大きくなる。
【0102】
触媒後センサ学習値ΔVrgの代わりに補助空燃比補正量Krを用いたときも同様の結果が得られる。従って、触媒後センサ学習値ΔVrgと補助空燃比補正量Krのいずれか一方を用いることで異常気筒特定が可能である。精度向上等のため両方を用いることも可能である。
【0103】
ガス当たり強さの違いについても同様の傾向がある。すなわち、異常気筒がガス当たりの強い気筒であるほど、触媒後センサ学習値ΔVrgの収束値は大きくなる。但し、ガス当たり強さの違いによる影響度は、ガス滞留時間の違いによる影響度よりも大きい。ガス当たり強さの違いは、触媒後センサ学習値ΔVrgの収束値のより明確な違いとなって現れる。
【0104】
ここでは第1のバンク4のみについて説明したが、第2のバンク5についても同様の方法により異常気筒を特定することが可能である。
【0105】
次に、異常気筒特定に関する第2の方法を説明する。この第2の方法は、空燃比センサ(触媒前センサ20)の出力変動を利用する方法である。
【0106】
図8を用いて説明したように、空燃比ばらつき異常が発生すると触媒前センサ20の出力変動が大きくなる。ところで本発明者らの研究結果によれば、本実施形態のV8エンジンのような不等間爆発が起こるエンジンの場合や、空燃比センサ(触媒前センサ20)に対するガス当たり強さが気筒間で著しく異なるエンジンの場合には、主・補助空燃比制御(特にストイキ制御)の実行時における触媒前センサ出力変動の大きさが、どの気筒が異常かによって異なることが判明した。
【0107】
この出力変動の相違を説明する前に、出力変動の大きさを表すパラメータについて説明する。ここでは、出力変動の度合いに相関する空燃比変動パラメータなるパラメータを用いる。ばらつき異常検出後、空燃比変動パラメータを算出すると共に、この空燃比変動パラメータに基づいて異常気筒を特定する。ここで空燃比変動パラメータの算出はバンク毎に、対応する空燃比センサである触媒前センサ20の出力を用いて行う。
【0108】
以下に空燃比変動パラメータの算出方法を説明する。図15は図8のU部に相当する拡大図であり、特に1エンジンサイクル内の触媒前センサ出力の変動を示す。触媒前センサ出力としては、触媒前センサ20の出力電圧Vfを空燃比A/Fに換算した値を用いる。但し触媒前センサ20の出力電圧Vfを直接用いることも可能である。
【0109】
図15(B)に示すように、ECU100は、1エンジンサイクル内において、所定のサンプル周期τ(単位時間、例えば4ms)毎に、触媒前センサ出力A/Fの値を取得する。そして今回のタイミング(第2のタイミング)で取得した値A/Fnと、前回のタイミング(第1のタイミング)で取得した値A/Fn-1との差ΔA/Fnの絶対値を次式(2)により求める。この差ΔA/Fnは今回のタイミングにおける微分値あるいは傾きと言い換えることができる。
【0110】
【数2】

【0111】
最も単純には、この差ΔA/Fnが触媒前センサ出力の変動を表す。変動度合いが大きくなるほど空燃比線図の傾きが大きくなり、差ΔA/Fnが大きくなるからである。そこで所定の1タイミングにおける差ΔA/Fnの値を空燃比変動パラメータとすることができる。
【0112】
但し、本実施形態では精度向上のため、複数の差ΔA/Fnの平均値を空燃比変動パラメータとする。本実施形態では、1エンジンサイクル内において、各タイミング毎に差ΔA/Fnを積算し、最終積算値をサンプル数Nで除し、1エンジンサイクル内の差ΔA/Fnの平均値を求める。そしてさらに、Mエンジンサイクル分(例えばM=100)だけ差ΔA/Fnの平均値を積算し、最終積算値をサイクル数Mで除し、Mエンジンサイクル内の差ΔA/Fnの平均値を求める。こうして求められた最終的な平均値を空燃比変動パラメータとし、以下「X」で表示する。触媒前センサ出力の変動度合いが大きいほど空燃比変動パラメータXは大きくなる。
【0113】
なお、触媒前センサ出力A/Fは増加する場合と減少する場合とがあるので、これら各場合の一方についてだけ上記差ΔA/Fnあるいはその平均値を求め、これを空燃比変動パラメータとしても良い。特に1気筒のみリッチずれの場合、当該1気筒に対応した排気ガスを触媒前センサが受けた時にその出力が急速にリッチ側に変化(すなわち急減)するので、減少側のみの値をリッチずれ検出のために用いることも可能である。もっとも、これに限定されず、増加側の値のみを用いることも可能である。
【0114】
また、触媒前センサ出力の変動度合いに相関する如何なる値をも空燃比変動パラメータとすることができる。例えば、1エンジンサイクル内における触媒前センサ出力の最大ピークと最小ピークの差(所謂ピークトゥピーク; peak to peak)、または2階微分値の最大ピークまたは最小ピークの絶対値に基づいて、空燃比変動パラメータを算出することもできる。触媒前センサ出力の変動度合いが大きいほど、触媒前センサ出力の最大ピークと最小ピークの差は大きくなり、また2階微分値の最大ピークまたは最小ピークの絶対値も大きくなるからである。
【0115】
ところで、前述したように、本実施形態のV8エンジンのような不等間爆発が起こるエンジンの場合や、空燃比センサ(触媒前センサ20)に対するガス当たり強さが気筒間で著しく異なるエンジンの場合には、主・補助空燃比制御(特にストイキ制御)の実行時における空燃比変動パラメータXの値が、どの気筒が異常かによって異なる。
【0116】
図16は、第1のバンク4について異常気筒を変えたときの空燃比変動パラメータXの相違を示す試験結果である。図中の菱形、丸、四角および三角の各プロットは、それぞれ、#1、#3、#5、#7気筒のみが異常で且つ+60%のインバランス割合のリッチずれが生じている場合のデータである。
【0117】
図中のモニタ領域とは、異常気筒特定のベースとして空燃比変動パラメータXが使用可能である吸入空気量Gaの領域のことをいう。触媒前センサ出力変動ひいては空燃比変動パラメータXの異常気筒に応じた明確な差を得るには、一定流速以上の排気ガスが触媒前センサに当たっている必要がある。そこで本実施形態では、排気ガス流量の代用値である吸入空気量Gaが所定値Ga1(例えば20g/s)以上のときの空燃比変動パラメータXに限って、異常気筒特定に用いるようにしている。
【0118】
図示されるように、モニタ領域内では、どの気筒が異常かによって空燃比変動パラメータXの値が異なる。最大値を示すのが四角で示される#5気筒異常の場合で、この場合空燃比変動パラメータXの値は所定の第2閾値X2(但し0<X2)より大きい。他方、最小値を示すのが丸で示される#3気筒異常の場合で、この場合空燃比変動パラメータXの値は所定の第1閾値X1(但し0<X1<X2)より小さい。中間値を示すのが菱形で示される#1気筒異常の場合と、三角で示される#7気筒異常の場合で、これらの場合、空燃比変動パラメータXの値は第1閾値X1と第2閾値X2の間となる。
【0119】
そこでこの特性を利用し、異常気筒を特定することが可能である。すなわち、空燃比変動パラメータXの値が第2閾値X2以上のときには#5気筒を異常と特定し、当該値が第1閾値X1未満のときには#3気筒を異常と特定し、当該値が第1閾値X1以上で且つ第2閾値X2未満のときには#1と#7のいずれかの気筒を異常と特定する。
【0120】
これにより、燃料噴射量の強制増量または減量を実施することなく異常気筒を特定することができ、異常気筒特定時におけるエミッションや燃焼の悪化等を防止することができる。
【0121】
ガス当たり強さの違いについても同様の傾向がある。すなわち、異常気筒がガス当たりの強い気筒であるほど、空燃比変動パラメータXの値は大きくなる。但し、ガス当たり強さの違いによる影響度は、ガス滞留時間の違いによる影響度よりも大きい。ガス当たり強さの違いは、空燃比変動パラメータXのより明確な違いとなって現れる。
【0122】
ここでは第1のバンク4のみについて説明したが、第2のバンク5についても同様の方法により異常気筒を特定することが可能である。
【0123】
上記の第1の方法と第2の方法は任意に選択可能である。例えば、第1の方法では異常気筒特定が困難な場合に第2の方法を採用することができるし、その逆も可能である。検出精度向上等のため、第1の方法と第2の方法を組み合わせることも可能である。
【0124】
ところで、第1または第2の方法によっても異常気筒特定が困難な場合がある。上記の第1の方法の場合、#1気筒と#3気筒のいずれかが異常と特定されても、#1気筒と#3気筒のいずれが異常であるかまでは特定することができない。また上記の第2の方法の場合、#1気筒と#7気筒のいずれかが異常と特定されても、#1気筒と#7気筒のいずれが異常であるかまでは特定することができない。
【0125】
そこで異常特定が困難な気筒に対してのみ燃料噴射量の強制増量または減量を実施することが考えられる。こうすることでエミッションの悪化等を最小限に抑えつつ異常気筒を特定することが可能である。この異常特定が困難な気筒とは、第1の方法の場合#1気筒と#3気筒であり、第2の方法の場合#1気筒と#7気筒である。
【0126】
以下に強制増量または減量を伴う異常気筒特定の原理を、図17を参照しつつ、通常の直列4気筒エンジンを例にとって説明する。
【0127】
例えば図17(A)に示すように、#1気筒が異常であって#1気筒の燃料噴射量がストイキ相当量に対し40%の割合で多くなっており(即ちインバランス割合が+40%)、他の#2,#3,#4気筒では燃料噴射量がストイキ相当量となっている(即ちインバランス割合が0%)場合を想定する。このとき、主・補助空燃比制御をある程度の時間実行すると、やがて図17(B)に示すように、トータルの燃料噴射量がストイキ相当量となるように#1気筒では+30%のインバランス割合、他の#2,#3,#4気筒ではそれぞれ−10%のインバランス割合となる。このときにもやはり各気筒でストイキ相当量に対し+または−の噴射量ずれが生じている。よって1エンジンサイクル間で触媒の酸化還元反応が起こり、全気筒で噴射量ずれが生じていない場合に比べ触媒温度は高くなる。
【0128】
この図17(B)の状態から、例えば図17(C)に示すように、#1気筒の燃料噴射量をストイキ相当量の40%だけ強制的に減量する。こうすると#1気筒は−10%のインバランス割合となり、他の#2,#3,#4気筒のインバランス割合と等しくなる。
【0129】
この状態から、#1気筒の燃料噴射量減量状態を維持しつつ、主・補助空燃比制御をある程度の時間実行すると、やがて図17(D)に示すように、各気筒の燃料噴射量が+10%ずつ補正され、各気筒の燃料噴射量がストイキ相当量になる(即ち各気筒のインバランス割合は0%)。よって触媒温度は全気筒で噴射量ずれが生じていないときのレベルにまで低下する。このことから、燃料噴射量を強制的に減量したときに触媒温度が所定値以上低下した気筒は異常気筒(特にリッチずれ異常気筒)であると特定することができる。
【0130】
一方、図17(B)の状態から、例えば図17(E)に示すように、正常な#2気筒において燃料噴射量をストイキ相当量の40%だけ強制的に減量したとする。こうすると各気筒のインバランス割合は#1気筒では変わらず+30%、#2気筒では−50%、#3,#4気筒では変わらずー10%となる。
【0131】
この状態から、#2気筒の燃料噴射量減量状態を維持しつつ、主・補助空燃比制御をある程度の時間実行すると、やがて図17(F)に示すように、トータルの燃料噴射量がストイキ相当量となるように#1気筒では+40%、#2気筒では−40%、#3,#4気筒では0%となる。この場合にも、1エンジンサイクル間で触媒の酸化還元反応が起こり、全気筒で噴射量ずれが生じていない場合に比べ触媒温度は高くなる。このことから、燃料噴射量を強制的に減量したときに触媒温度が所定値以上低下しなかった気筒は異常気筒ではなく、正常気筒であると特定することができる。
【0132】
図示しないが、逆のパターンで、例えば図17(A)の例のうち#1気筒のみが異常でその燃料噴射量が−40%少なくなっている(即ちインバランス割合が−40%)場合を想定する。すると、気筒毎に燃料噴射量を強制的に増量した場合に、触媒温度が所定値以上低下した気筒は異常気筒(特にリーンずれ異常気筒)であり、触媒温度が所定値以上低下しなかった気筒は正常気筒であると特定することができる。
【0133】
従って、第1の方法において、#1気筒と#3気筒のいずれかの気筒が異常と特定されたとき、これら#1、#3気筒に対して燃料噴射量の増減を実施すれば、いずれが異常かを確実に特定できる。また第2の方法において、#1気筒と#7気筒のいずれかの気筒が異常と特定されたとき、これら#1、#7気筒に対して燃料噴射量の増減を実施すれば、いずれが異常かを確実に特定できる。
【0134】
[異常気筒特定後の補正]
上記の方法により異常気筒を特定した後には、通常制御において、異常気筒の燃料噴射量を増量または減量補正するのが好ましい。異常発生に伴うエミッション悪化や触媒温度上昇を抑制できるからである。例えば異常気筒においてリッチずれが生じている場合には、そのリッチずれを解消するよう燃料噴射量を減量補正し、逆に異常気筒においてリーンずれが生じている場合には、そのリーンずれを解消するよう燃料噴射量を増量補正するのが好ましい。
【0135】
[気筒間空燃比ばらつき異常検出ルーチン]
次に、図18を用いて、気筒間空燃比ばらつき異常検出ルーチンの第1の例を説明する。このルーチンはECU100により所定の演算周期τ毎に繰り返し実行される。またこのルーチンはバンク毎に実行される。
【0136】
まずステップS301では、異常判定フラグがオンか否かが判断される。異常判定フラグは、初期状態がオフであり、後述のステップS308で異常判定された時にオンとなるフラグである。異常判定フラグがオンのときにはステップS310に進み、異常判定フラグがオフのときにはステップS302に進む。
【0137】
ステップS302では、異常検出を行うのに適した所定の前提条件が成立したか否かが判断される。この前提条件が成立するためには、少なくとも、エンジン1が冷間始動されたことが必要である。例えば、前述したように、直近のエンジン停止時から所定時間以上経過しており、且つ、水温センサ24で検出された水温が所定値以下であるという条件下で、エンジン1が始動されたときに、エンジン1が冷間始動されたと判断される。なお前提条件成立のための必要条件に他の条件を含めることもできる。
【0138】
前提条件が成立していない場合にはルーチンが終了される。他方、前提条件が成立した場合には、ステップS303において、触媒温度差ΔTcが積算される。ここでは、触媒温度差の積算値すなわち積算触媒温度差ΣΔTcが「温度パラメータ」として使用される。積算触媒温度差ΣΔTcを温度パラメータとして使用することにより、触媒温度上昇過程での上昇の仕方も考慮することができ、検出精度向上に有利である。
【0139】
触媒温度差ΔTcとは、図10を参照して説明したように、また図11にも示すように、検出触媒温度Tcとその初期値Tciとの差であり、ΔTc=Tc−Tciから求められる値である。初期値Tciは、ステップS302で初めて前提条件が成立した時の検出触媒温度Tcの値である。
【0140】
図11に示すように、触媒温度差ΔTcは演算周期τ毎に算出および積算される。今回値をn、前回値をn−1で表すと、今回の演算タイミングで算出される触媒温度差の積算値ΣΔTcnは次式(3)の通りである。
【0141】
【数3】

【0142】
次いでステップS304において、エアフローメータ11により算出された吸入空気量Gaが積算される。ここでは、吸入空気量の積算値すなわち積算吸入空気量ΣGaが所定値G1以上に達した時点が、「内燃機関の冷間始動時から所定時間経過した時点」とされる。このように所定時間が経過したか否かを積算吸入空気量ΣGaに基づき判断することにより、触媒温度上昇過程での負荷状態を考慮することができ、検出精度向上に有利である。
【0143】
次のステップS305では、積算吸入空気量ΣGaが所定値G1以上に達したか否かが判断される。達していなければルーチンが終了され、達していればステップS306に進む。
【0144】
ステップS306では、触媒温度差ΔTcおよび吸入空気量Gaの積算が終了される。そしてその時点での積算触媒温度差ΣΔTcの値が、計測された酸素吸蔵容量OSCの値により、補正される。
【0145】
酸素吸蔵容量OSCとしては過去に計測された直近の値が用いられる。そして図19に示すような予めECU100に記憶されたマップから、酸素吸蔵容量OSCに対応した補正係数K1が求められる。補正係数K1は積算触媒温度差ΣΔTcに乗じられる補正値である。図から分かるように、酸素吸蔵容量OSCが少ないほど補正係数K1が大きくなり、積算触媒温度差ΣΔTcがより大きな値に補正される。これは前述したように、触媒劣化度が大きいほど触媒温度の上昇速度が遅くなるのでこれを補償するためである。図示例では、新品触媒の場合にOSC=1(g)、K1=1.0とされ、触媒が新品状態から劣化してOSCの値が小さくなるにつれ、K1が1.0から大きくなるようにされている。
【0146】
こうして補正係数K1が求められたら、次式(4)により、補正後の積算触媒温度差ΣΔTc’が算出される。
【0147】
【数4】

【0148】
次に、ステップS307において、補正後の積算触媒温度差ΣΔTc’が所定の異常判定値αと比較される。
【0149】
補正後の積算触媒温度差ΣΔTc’が異常判定値αより小さい場合、ステップS312に進んで、気筒間空燃比ばらつき異常無しすなわち正常と判定され、ルーチンが終了される。
【0150】
他方、補正後の積算触媒温度差ΣΔTc’が異常判定値α以上であるときには、ステップS308に進んで、気筒間空燃比ばらつき異常有りすなわち異常と判定される。なおこの異常判定と同時に、異常の事実をユーザに知らせるべくチェックランプ等の警告装置を起動させるのが好ましい。
【0151】
ステップS308で異常判定されると、ステップS309に進んで異常判定フラグがオンとされる。そしてステップS310,S311の異常気筒特定処理に進む。なお異常判定と同時に異常判定フラグがオンとなることから、次回以降のルーチン実行時には、ステップS301から直接ステップS310に進んで異常気筒特定処理が実行されることとなる。
【0152】
ここでは、前記第1の方法、すなわち補助空燃比制御のための制御量、特に触媒後センサ学習値ΔVrgの収束値を用いて異常気筒を特定する方法を採用する。ステップS310では、主・補助空燃比制御の実行中に触媒後センサ学習値ΔVrgが収束したか否かが判断される。例えば、ストイキ制御の実行中、触媒後センサ学習値ΔVrgが所定時間内において所定範囲内にあるとき、触媒後センサ学習値ΔVrgが収束したと判断される。
【0153】
触媒後センサ学習値ΔVrgが収束していない場合にはルーチンが終了され、触媒後センサ学習値ΔVrgが収束した場合にはステップS311に進む。
【0154】
ステップS311では、触媒後センサ学習値ΔVrgの収束値に基づき異常気筒が特定される。すなわち、図14を用いて説明したように、例えば第1のバンク4については、触媒後センサ学習値ΔVrgの収束値が第2閾値ΔVrg2以上のときには#5気筒が異常と特定され、当該収束値が第1閾値ΔVrg1未満のときには#7気筒が異常と特定され、当該収束値が第1閾値ΔVrg1以上で且つ第2閾値ΔVrg2未満のときには#1と#3のいずれかの気筒が異常と特定される。第2のバンク4についても同様の方法で異常気筒が特定される。
【0155】
こうして異常気筒が特定されたならばルーチンが終了される。
【0156】
なお、ステップS311において、#1と#3のいずれかの気筒が異常と特定された場合、これら気筒に対し燃料噴射量の増減を実施し、いずれが異常であるかをさらに特定してもよい。ステップS306を省略してもよい。
【0157】
次に、図20を用いて、気筒間空燃比ばらつき異常検出ルーチンの第2の例を説明する。この第2の例は前述の第1の例とほぼ同様であり、異なるのは異常気筒特定方法だけである。第2の例のステップS401〜S409は第1の例のステップS301〜S309と同じである。第2の例のステップS410,S411のみが第1の例のステップS310,S311と異なる。
【0158】
ここでは、前記第2の方法、すなわち空燃比変動パラメータXを用いて異常気筒を特定する方法を採用する。ステップS410では、空燃比変動パラメータX、すなわち触媒前センサ出力差ΔA/FnのMエンジンサイクル内の平均値が算出されたか否かが判断される。なおこの算出はストイキ制御中の触媒前センサ出力差ΔA/Fnを用いて行われる。
【0159】
空燃比変動パラメータXが算出されていない場合にはルーチンが終了され、空燃比変動パラメータXが算出された場合にはステップS411に進む。
【0160】
ステップS411では、算出された空燃比変動パラメータXに基づき異常気筒が特定される。すなわち、図16を用いて説明したように、例えば第1のバンク4については、空燃比変動パラメータXの値が第2閾値X2以上のときには#5気筒が異常と特定され、当該値が第1閾値X1未満のときには#3気筒が異常と特定され、当該値が第1閾値X1以上で且つ第2閾値X2未満のときには#1と#7のいずれかの気筒が異常と特定される。
【0161】
こうして異常気筒が特定されたならばルーチンが終了される。なお、ステップS411において、#1と#7のいずれかの気筒が異常と特定された場合、これら気筒に対し燃料噴射量の増減を実施し、いずれが異常であるかをさらに特定してもよい。
【0162】
[暖機終了後の気筒間空燃比ばらつき異常検出]
次に、気筒間空燃比ばらつき異常検出の変形例を説明する。この変形例は、概略的に述べると、内燃機関の暖機終了後に、触媒温度の検出値と、機関運転状態に基づき推定された触媒温度の推定値とに基づき、気筒間空燃比ばらつき異常を検出するものである。
【0163】
気筒間空燃比ばらつきが発生すると触媒温度が上昇し、ばらつき度合いが大きいほど触媒温度の上昇度合いも大きいことは前述した通りである。ここでは、温度センサ25により実際の触媒温度を検出する一方、触媒温度推定手段としてのECU100により機関運転状態に基づき触媒温度を推定する。推定された触媒温度は気筒間空燃比のばらつき度合いに無関係な値であり、他方、検出された触媒温度は気筒間空燃比のばらつき度合いを反映した値である。気筒間空燃比ばらつき異常が発生すると、両者が比較的大きく乖離するので、このことを利用し、触媒温度の検出値と推定値に基づいて気筒間空燃比ばらつき異常を検出する。
【0164】
ここで、エンジンの冷間始動後に検出を行う前記基本例と、エンジンの暖機終了後に検出を行う当該変形例との間の検出タイミングの相違について説明する。図21は、エンジンの冷間始動後に車両を走行させたときの(A)車速、(B)水温、(C)触媒温度の推移をそれぞれ示す。時刻t0がエンジンの冷間始動時点である。
【0165】
時刻t0から数10秒程度経過した時点である時刻t1が、前記基本例の検出タイミング、すなわち温度パラメータの取得タイミングである。前記基本例は、エンジンの冷間始動直後の所定期間t0〜t1内における触媒温度の昇温度合いに基づき、気筒間空燃比ばらつき異常を検出するものである。
【0166】
これに対し、当該変形例における検出タイミングは、水温が所定値(例えば75℃)以上となっている時刻t2以降のタイミングである。このように、当該変形例では前記基本例よりも検出タイミングが遅い。
【0167】
以下、触媒温度推定について説明する。図22に、上流触媒18の温度を推定するためのルーチンを示す。このルーチンはECU100により所定の演算周期毎に繰り返し実行される。またこのルーチンはバンク毎に行われる。
【0168】
まずステップS501では、触媒温度推定のための所定の前提条件が成立しているか否かが判断される。例えば、エンジンが始動後で、且つ水温センサ24で検出された水温が所定温度(例えば−40℃)より高いと、前提条件成立となる。なお前提条件についてはこの例に限られない。前提条件が成立していない場合にはルーチンが終了され、他方、前提条件が成立している場合にはステップS502に進む。
【0169】
ステップS502においては、前回のルーチン実行時(n−1)に算出された触媒温度の推定値、即ち推定触媒温度Te(n−1)の値が取得される。
【0170】
次いでステップS503においては、今回のルーチン実行時(n)における、排気ガスからの供給熱による触媒温度変化量A(n)が算出される。この触媒温度変化量A(n)は次式(5)により求められる。
【0171】
【数5】

【0172】
L1は適合等によって定め得る所定値である。L2は所定のなまし率であり、1より大きい値として予め設定される。Bは吸入空気量Gaに応じて変化するパラメータ(空気量パラメータ)であり、予め定められたマップに従い、エアフローメータ11により検出された吸入空気量Gaの値に基づき決定される。吸入空気量Gaの値が大きいほど大きな空気量パラメータBの値が得られる。この空気量パラメータBがエンジン運転状態を表す主なパラメータである。ここでは、第2項の大括弧内の値、即ち空気量パラメータBに基づき算出された今回の温度変化分を、なまし率L2によりなまして前回の触媒温度変化量A(n−1)に加算し、今回の触媒温度変化量A(n)を求めている。エンジン運転状態が変化してもその影響が触媒温度に反映されるまでに時間差があるので、これに対応してかかるなまし演算を行っている。
【0173】
次いで、ステップS504においては、今回のルーチン実行時(n)における、触媒内反応熱による触媒温度変化量C(n)が算出される。この触媒温度変化量C(n)は次式(6)により求められる。
【0174】
【数6】

【0175】
L3は適合等によって定め得る所定値である。L4は所定のなまし率であり、1より大きい値として予め設定される。Dは推定触媒温度Teに応じて変化するパラメータ(推定温パラメータ)であり、予め定められたマップに従い、ステップS502で取得された前回の推定触媒温度Te(n−1)の値に基づき決定される。推定触媒温度Teの値が大きいほど大きな推定温パラメータDの値が得られる。ここでもステップS503同様、第2項の大括弧内の値、即ち推定温パラメータDに基づき算出された今回の温度変化分を、なまし率L4によりなまして前回の触媒温度変化量C(n−1)に加算し、今回の触媒温度変化量C(n)を求めている。
【0176】
次いで、ステップS505においては、今回のルーチン実行時(n)における、触媒からの放射熱による触媒温度変化量E(n)が算出される。この触媒温度変化量E(n)は次式(7)により求められる。
【0177】
【数7】

【0178】
L5は適合等によって定め得る所定値である。Taは外気温であり、図示しない外気温センサにより検出される値である。Fは、エンジンが搭載される車両の速度(即ち車速)Vhに応じて変化するパラメータ(車速パラメータ)であり、予め定められたマップに従い、図示しない車速センサにより検出された車速Vhの値に基づき決定される。車速Vhの値が大きいほど大きな車速パラメータFの値が得られる。外気温Taが低いほど、また車速Vhが高いほど、大きな触媒温度変化量E(n)が得られる。
【0179】
次いで、ステップS506においては、今回のルーチン実行時(n)における、推定触媒温度Te(n)が算出される。この推定触媒温度Te(n)は次式(8)により求められる。こうして今回のルーチンが終了となる。
【0180】
【数8】

【0181】
以上の推定方法から分かるように、推定触媒温度Teは気筒間空燃比ばらつき度合いに無関係な値であり、気筒間空燃比ばらつき異常が発生していても、それが発生していないときと同じ値になる。よって、推定触媒温度Teを基準とした、温度センサ25により検出された触媒温度(検出触媒温度Tc)の乖離度合いを検出することにより、気筒間空燃比ばらつき異常の有無を判定することが可能である。
【0182】
次に、図23を用いて変形例のルーチンを説明する。このルーチンはECU100により所定の演算周期τ毎に繰り返し実行される。またこのルーチンはバンク毎に実行される。
【0183】
まずステップS601では、異常判定フラグがオンか否かが判断される。異常判定フラグは、初期状態がオフであり、後述のステップS610で異常判定された時にオンとなるフラグである。異常判定フラグがオンのときにはステップS612に進み、異常判定フラグがオフのときにはステップS602に進む。
【0184】
ステップS602では、異常検出を行うのに適した所定の前提条件が成立しているか否かが判断される。この前提条件は、例えば、エンジンの暖機が終了しており、触媒前後のセンサ20,21が活性化しており、且つ上下流の触媒18,19が活性化しているときに成立となる。エンジン暖機終了の条件は例えば検出水温が所定値(例えば75℃)以上となっていることである。触媒前後センサ活性化の条件は、ECU100により検出される両センサのインピーダンスがそれぞれ所定の活性温度相当の値になっていることである。上下流触媒活性化の条件は、両触媒の推定触媒温度が所定の活性温度になったことである。なお下流触媒19の推定触媒温度は図示しない別ルーチンにより算出される。
【0185】
前提条件が成立していない場合、ルーチンが終了される。他方、前提条件が成立している場合、ステップS603において、温度センサ25により検出された上流触媒18の温度、即ち検出触媒温度Tsの値が取得される。
【0186】
次いでステップS604において、図22の触媒温度推定ルーチンにより推定された上流触媒18の温度、即ち推定触媒温度Teの値が取得される。
【0187】
次のステップS605では、ステップS603及びS604でそれぞれ取得された検出触媒温度Ts及び推定触媒温度Teの値がそれぞれ積算される。即ち、前提条件成立時以降、ルーチン実行時毎に検出触媒温度Ts及び推定触媒温度Teの値がそれぞれ個別に積算されるようになっている。今回のルーチン実行時には、前回のルーチン実行時まで積算された検出触媒温度Ts及び推定触媒温度Teの積算値に、今回取得された検出触媒温度Ts及び推定触媒温度Teの値が足し込まれ、今回の検出触媒温度Ts及び推定触媒温度Teの積算値ΣTs、ΣTeが算出される。
【0188】
次に、ステップS606では、前記ステップS304(図18)と同様、エアフローメータ11の検出値である吸入空気量Gaが積算される。
【0189】
次のステップS607では、積算吸入空気量ΣGaが所定値G2以上に達したか否かが判断される。達していなければルーチンが終了され、達していればステップS608に進む。
【0190】
ステップS608では、検出触媒温度Ts、推定触媒温度Teおよび吸入空気量Gaの積算が終了される。そして最終的な検出触媒温度及び推定触媒温度の積算値ΣTs、ΣTe同士の差(絶対値)TD=|ΣTs−ΣTe|が算出される。さらにこの差TDが、ステップS306(図18)で行われたのと同じように、触媒劣化パラメータとしての酸素吸蔵容量OSCの値に基づき補正される。酸素吸蔵容量OSCの値に対応した補正係数K2が、図19に類似の所定のマップから算出される。ここで暖機終了の前後という条件の違いがあることから、補正係数K2を算出するためのマップには、図19のマップと比較して、傾向は同じだが異なる値が入力されている。
【0191】
こうして補正係数K2が求められたら、次式(9)により、補正後の差TD’が算出される。
【0192】
【数9】

【0193】
次に、ステップS609において、補正後の差TD’が所定の異常判定値TDsと比較される。
【0194】
補正後の差TD’が異常判定値TDsより小さい場合、ステップS614において、気筒間空燃比ばらつき異常無し、つまり正常と判定され、ルーチンが終了される。
【0195】
他方、補正後の差TD’が異常判定値TDs以上の場合、ステップS610において気筒間空燃比ばらつき異常ありと判定される。なおこの異常判定と同時に、異常の事実をユーザに知らせるべくチェックランプ等の警告装置を起動させるのが好ましい。
【0196】
ステップS610で異常判定されると、ステップS611に進んで異常判定フラグがオンとされる。そしてステップS612,S613の異常気筒特定処理に進む。なお異常判定と同時に異常判定フラグがオンとなることから、次回以降のルーチン実行時には、ステップS601から直接ステップS612に進んで異常気筒特定処理が実行されることとなる。
【0197】
ステップS612,S613の異常気筒特定処理は、図18に示したステップS310,S311の異常気筒特定処理と同じである。すなわち、補助空燃比制御のための制御量特に触媒後センサ学習値ΔVrgの収束値を用いて異常気筒が特定される。
【0198】
代替的に、ステップS612,S613の異常気筒特定処理を、図20に示したステップS410,S411の異常気筒特定処理と同じとしてもよい。この場合、空燃比変動パラメータXの値を用いて異常気筒が特定される。
【0199】
こうして異常気筒が特定されたならばルーチンが終了される。
【0200】
以上、本発明の好適な実施形態を詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。本発明は上述したように不等間爆発が起こるエンジンもしくは気筒群、および空燃比センサに対するガス当たり強さが気筒間で著しく異なるエンジンもしくは気筒群に好適であり、上述したようなV8エンジンにも好適である。しかしながら、これら以外のエンジンにも本発明は適用可能である。
【0201】
本発明における「複数の気筒」には、多気筒内燃機関の全気筒である場合と、その全気筒のうちの一部の気筒である場合とが含まれる。本実施形態は後者の例であり、すなわち、全8気筒のうち各バンクの4気筒ずつが「複数の気筒」に該当する。前者の例としては、全気筒を出力向上等の目的で不等間爆発させるエンジンが挙げられる。
【0202】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0203】
1 内燃機関(エンジン)
2 インジェクタ
4 第1のバンク
5 第2のバンク
18 上流触媒
20 触媒前センサ
21 触媒後センサ
25 温度センサ
100 電子制御ユニット(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒内燃機関の複数の気筒に対して設けられた触媒と、
前記触媒の温度を検出する触媒温度検出手段と、
前記触媒温度の検出値に基づき、前記複数の気筒における気筒間空燃比ばらつき異常を検出する異常検出手段と、
前記ばらつき異常が検出されたとき、異常気筒を特定する特定手段と、
を備え、
前記特定手段が、
前記触媒の上流側に設けられた空燃比センサとしての触媒前センサと、
前記触媒の下流側に設けられた空燃比センサとしての触媒後センサと、
前記触媒前センサの出力に基づく主空燃比制御と、前記触媒後センサの出力に基づく補助空燃比制御とを、前記複数の気筒に対して実行する空燃比制御手段と、
前記触媒後センサの出力に基づき前記補助空燃比制御のための制御量を算出する制御量算出手段と、
前記制御量の収束値に基づき異常気筒を特定する異常気筒特定手段と、
を備えることを特徴とする気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項2】
前記制御量が、触媒後センサ学習値と補助空燃比補正量のいずれか一方からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項3】
多気筒内燃機関の複数の気筒に対して設けられた触媒と、
前記触媒の温度を検出する触媒温度検出手段と、
前記触媒温度の検出値に基づき、前記複数の気筒における気筒間空燃比ばらつき異常を検出する異常検出手段と、
前記ばらつき異常が検出されたとき、異常気筒を特定する特定手段と、
を備え、
前記特定手段が、
前記触媒の上流側に設けられた空燃比センサとしての触媒前センサと、
前記触媒前センサの出力変動の度合いに基づいて異常気筒を特定する異常気筒特定手段と、
を備えることを特徴とする気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項4】
前記異常気筒特定手段は、触媒前センサ出力の変動度合いに相関する空燃比変動パラメータの値に基づき異常気筒を特定し、
前記空燃比変動パラメータは、異なる二つのタイミングにおける前記空燃比センサ出力の差に基づく値である
ことを特徴とする請求項3に記載の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項5】
前記異常検出手段が、前記内燃機関の冷間始動時から所定時間経過した時点での前記触媒温度の検出値に基づき、気筒間空燃比ばらつき異常を検出する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。
【請求項6】
前記複数の気筒が、不等間爆発を起こすような複数の気筒からなる
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の気筒間空燃比ばらつき異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−117464(P2012−117464A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268602(P2010−268602)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】