説明

水中情報収集システム

【課題】水中航走体の移動領域の制約を低減すること。
【解決手段】水中航走体1は、自己の有する動力で水中を移動可能であり、水中情報を収集するサイドスキャンソーナ10C等と、サイドスキャンソーナ10C等が集めた水中の情報を送信可能な水中側第1音響モデム12Hとを有している。水上移動体2は、水中側第1音響モデム12Hと通信可能であり、水中側第1音響モデム12Hから送信された水中情報を受信する水面側第1音響モデム22Hと、水中航走体1の位置を検出する水中位置計測装置21とを有する。そして、水上移動体2は、水中航走体1の位置を検出しながら、水中航走体1の移動に合わせて水面Hを移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中航走体を水上移動体において管制しながら、水中情報を収集する水中情報収集システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水中航走体は、水中を自力で航行するための推進装置と、水中の情報を収集する観測装置とを備えて、水中を航行し、海中や海底のデータを収集するものである。特許文献1には、本船から光ファイバを介してレーザー光を水中航走体に送出するとともに、水中航走体からレーザー光を水中に照射し、探査対象物からの反射光を水中航走体に搭載するカメラヘッドに取り込んで、反射光に基づく映像を本船に送出することが開示されている。また、特許文献2には、水中航走体に超音波を送出する送信機を設けるとともに、水中の所定の3以上の場所に水中航走体の送信機から送出される超音波を受けるための受波器を設置し、水中航走体の送信機から送出された超音波を水中に設けられた受波器によって受信することで、水中航走体の位置を検出する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−294841号公報
【特許文献2】特開2004−138568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、光ファイバの長さによる制約から、水中航走体の移動領域に制約を受けるという問題があるために、水中の情報収集の効率が低下するという問題があった。また、特許文献2に開示された方法では、水中航走体の移動領域に所定の間隔で受波器を設置しなければならず、水中航走体の移動領域が制限されてしまうという問題があった。本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、水中航走体の移動領域の制約を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明に係る水中情報収集システムは、水中の情報を収集する水中情報収集手段と、当該水中情報収集手段が集めた水中の情報を送信可能な第1の音響通信装置とを有して、水中を移動可能な水中航走体と、前記第1の音響通信装置と通信可能であり、当該第1の音響通信装置から送信された前記水中の情報を受信する第2の音響通信装置と、前記水中航走体の位置を検出する位置検出手段とを有し、前記水中航走体の位置を検出しながら、前記水中航走体の移動に合わせて水面を移動する水上移動体と、を含むことを特徴とする。
【0005】
本発明のように、水中航走体の移動に合わせて水上移動体を移動させるとともに、両者の間では、音響通信装置を用いた無線の通信でデータを伝送することにより、その通信可能範囲内であれば、水上移動体と水中航走体との間で移動の制約はない。これによって、母船は水上移動体を経由して水中航走体が収集した情報を入手できるので、母船は、敢えて航行しにくい水域に進入しなくとも情報収集が可能となる。また、水上移動体は、水中航走体の母船とは異なり、機動性が高いため、水中航走体の動きに追従しやすくなり、水中の情報を収集する際の自由度が向上する。
【0006】
本発明の好ましい態様としては、前記水中情報収集システムにおいて、前記水上移動体は、前記第2の音響通信装置の姿勢を所定の姿勢に維持できる安定化支持構造を有することが望ましい。これにより、水上移動体の揺動が、音響通信装置を用いた通信に与える影響を低減できる。
【0007】
本発明の好ましい態様としては、前記水中情報収集システムにおいて、前記安定化支持構造は、互いに直交した2本の揺動軸を少なくとも有しており、前記第2の音響通信装置は、それぞれの前記揺動軸の周りを揺動できるように構成されることが望ましい。これにより、水上移動体の揺動が、音響通信装置を用いた通信に与える影響を低減できる。
【0008】
本発明の好ましい態様としては、前記水中情報収集システムにおいて、前記水上移動体は、動力を有して自力で航行可能な動力船と、当該動力船に曳航される曳航体とで構成され、少なくとも前記第2の音響通信装置は前記曳航体に搭載されることが望ましい。自力で航行可能な動力船は、動力源や動力伝達装置の振動により船体が揺動し、また、それらが発するノイズにより音響通信装置を用いた通信に影響を与えるおそれがあるが、本発明の構成により、第2の音響通信装置は、動力源を搭載しない曳航体に搭載される。これによって、動力源や動力伝達装置の振動に起因する揺動及びノイズの影響はないので、音響通信装置を用いた通信が確実に実現できる。
【0009】
本発明の好ましい態様としては、前記水中情報収集システムにおいて、前記水中航走体は、前記水中情報取得手段によって取得された水中の情報を所定の単位で順次圧縮する処理装置を有し、前記第1の音響通信装置は、圧縮された前記水中の情報を、圧縮された順に送信することが望ましい。一般に音響通信装置を用いた通信は通信速度が遅いが、取得された水中の情報を所定の単位で順次圧縮してから、圧縮された順に送信することにより、水中航走体からの情報の送信と、水上での受信との時間遅れを低減できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、水中航走体の移動領域の制約を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の説明により本発明が限定されるものではない。また、下記の説明における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0012】
図1は、本実施形態に係る水中情報収集システムの概要を示す概念図である。水中情報収集システム100は、水中を移動可能な水中航走体1と、水面Hを移動可能な水上移動体2とを含んでいる。そして、水中航走体1により、水中の情報(以下、水中情報という)、例えば、水底の様子を収集し、音響通信装置を介して収集した水中情報を水上移動体2へ送信する。水上移動体2は、受信した水中情報を、通信衛星4(あるいは電波通信)を介して、水中航走体1が水中情報を収集している場所とは離れた場所にいる母船3へ送信する。図1は、水底に沈んだ捜索対象Qを水中航走体1で捜索する例であり、水中航走体1が水中を移動しながら水底を観測する。そして、捜索対象Qが発見されたら、水中航走体1は、その位置まで接近して捜索対象Qのより詳細な情報を収集する。その後、水中航走体1は、元の移動経路へ復帰する。次に、水中情報収集システム100の構成を説明する。
【0013】
図2は、本実施形態に係る水中情報収集システムの構成を示すシステム構成図である。水中航走体1は、水中を移動しながら水中の情報を収集するもので、動力を備えており自力で水中を移動するものである。水中航走体1は、水中の情報を収集する水中情報収集手段と、水中情報収集手段が集めた水中の情報を送信可能な第1の音響通信装置とを有している。水中情報収集手段として、本実施形態では、CCDカメラ10A、水中音響カメラ10B及びサイドスキャンソーナ(SSS)10Cである。これによって、本実施形態では、水中の情報を画像として収集する。なお、水中情報収集手段はこれに限定されるものではなく、例えば、サブボトムプロファイラ、マルチビームエコーサウンダー、磁気センサ、温度センサ、汚染物質検出装置等であってもよい。CCDカメラ10Aと水中音響カメラ10Bとサイドスキャンソーナ10Cとは、選択手段である入力切替スイッチS1、S2により、いずれか一つが選択されて、選択された水中情報収集手段によって、水中情報が収集される。
【0014】
第1の音響通信装置は、第1音響モデム(水中側第1音響モデム)12Hである。本実施形態において、水中航走体1は、水中側第1音響モデム12Hの他に第2音響モデム(水中側第2音響モデム)12Lを備える。水中側第1音響モデム12Hの方が、水中側第2音響モデム12Lよりも通信速度が速い。このため、水中側第1音響モデム12Hは、主として画像データのように情報量が大きい情報を送受信する場合に用いられる。水中側第2音響モデム12Lは、例えば、水中航走体1の運動を管制するための情報を送受信したり、水中航走体1が異常状態になったときの異常発生通信を送信したりする際に用いられる。
【0015】
水中航走体1は、水中情報の収集や通信を制御したり、水中航走体1の動作を制御したりするための処理装置(水中航走体処理装置)13が備えられる。水中航走体処理装置13は、コンピュータで構成されており、水中情報収集手段によって収集された水中情報を処理する情報処理部13Aと、水中航走体1の通信を制御する通信制御部13Bとを少なくとも備える。情報処理部13Aは、入力切替スイッチS2が接続されており、CCDカメラ10Aと水中音響カメラ10Bとサイドスキャンソーナ10Cとのうち、いずれか一つが収集した水中情報が入力される。通信制御部13Bには、水中側第1音響モデム12H及び水中側第2音響モデム12Lが接続されており、情報処理部13Aが加工した水中情報を送信したり、処理装置13が要求する水中航走体1の運動を管制するための情報を送受信したりする。
【0016】
水中航走体処理装置13には、記憶装置14が接続されており、例えば、水中航走体1の動作を制御するためのコンピュータプログラムやデータや、水中航走体1と水上移動体2との通信を行う際に必要なコンピュータプログラムや、水中情報収集手段によって収集された水中情報を処理するためのコンピュータプログラム等が格納されている。水中航走体処理装置13は、記憶装置14からこれらのコンピュータプログラムやデータを読み出して、水中航走体1の動作を制御したり、水中航走体1の通信を制御したりする。なお、記憶装置14には、水中情報収集手段によって収集された水中情報を格納してもよい。
【0017】
水中航走体1には、トランスポンダ11が搭載されている。トランスポンダ11は、水上移動体2が備える水中位置計測装置21(後述する)から送信された信号を受信し、受信した前記信号に対する応答信号を水中位置計測装置21に送信する。例えば、トランスポンダ11は、水中位置計測装置21から送信されてくるパルス音を瞬時に返信させる音響機器である。次に、水上移動体2の構成を説明する。
【0018】
水上移動体2は、水中航走体1が備える第1の音響通信装置である水中側第1音響モデム12Hと通信可能であり、かつ水中側第1音響モデム12Hから送信された水中情報を受信する第2の音響通信装置と、水中航走体1の位置を検出する位置検出手段とを有しており、水中航走体1の位置を検出しながら、水中航走体1に合わせて水面Hを移動する。第2の音響通信装置は、第1音響モデム(水面側第1音響モデム)22Hである。
【0019】
本実施形態において、水上移動体2は、水面側第1音響モデム22Hの他に第2音響モデム(水面側第2音響モデム)22Lを備える。水面側第1音響モデム22Hの方が、水面側第2音響モデム22Lよりも通信速度が速い。水面側第1音響モデム22Hは、水中航走体1が備える水中側第1音響モデム12Hと対になっており、また、水面側第2音響モデム22Lは、水中航走体1が備える水中側第2音響モデム12Lと対になっている。すなわち、水面側第1音響モデム22Hと水中側第1音響モデム12Hとの間、及び水面側第2音響モデム22Lと水中側第2音響モデム12Lとの間で通信が行われる。
【0020】
本実施形態において、位置検出手段は、水中位置計測装置21である。水中位置計測装置21は、水中を航走している水中航走体1に対して信号を送信するとともに、前記信号に対する水中航走体1からの応答信号を受信し、この応答信号に基づいて水上移動体2に対する水中航走体1の相対位置を計測する。このため、水中位置計測装置21は、水上移動体2の船底等に設けられ、水中に対して信号を送出できるとともに、水中を伝搬してきた信号を受信できるような構成とされている。水中位置計測装置21は、例えば、SSBL(Super Short Base Line)測位システム等であり、水中航走体1に向かって定期的にパルス音を発進し、この音を受信した水中航走体1のトランスポンダ11が返信したエコーを受信するまでの時間を計測することで、水中航走体1までの距離を求める。水中位置計測装置21は、少なくとも3個の音響センサで前記エコーを受信することで、三角測量により水中航走体の相対位置を計測するものである。
【0021】
水中位置計測装置21により、水上移動体2に対する水中航走体1の位置が分かる。したがって、水上移動体2は、水中航走体1を検出しながら、自身の位置と水中航走体1の位置とが、音響通信装置を用いて通信できる範囲内にある状態を保持して、水中航走体1の移動に合わせて移動する。
【0022】
水上移動体2には、水上移動体2の外部との通信や水中航走体1の測位等を制御するための処理装置(水上移動体処理装置)23が備えられる。水上移動体処理装置23は、コンピュータで構成されている。水上移動体処理装置23には、水中位置計測装置21、水面側第1音響モデム22H、水面側第2音響モデム22L、衛星通信ユニット24が接続されている。処理装置23は、水面側第1音響モデム22Hを介して取得した水中情報を、衛星通信ユニット24を介してアンテナ25から通信衛星4へ送信する。また、水上移動体処理装置23は、水面側第2音響モデム22Lを介して、水中航走体1の水中航走体処理装置13へ、水中航走体1を制御するためのコマンドを送信して、水中航走体1を制御する。次に、母船3の構成を説明する。
【0023】
母船3は、水中航走体1及び水上移動体2とは離れた水域で待機して、水中航走体1が収集し、水上移動体2が通信衛星4へ送信した水中情報を、通信衛星4から受信する。母船3は、衛星通信ユニット34と、これに接続されたアンテナ35と、コンソール33とを備える。コンソール33は、コンピュータで構成された情報処理装置33Aと、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)で構成される表示装置(CRT)33Dとを有する。情報処理装置33Aは、アンテナ35及び衛星通信ユニット34を介して、水中航走体1が収集した水中情報を取得し、所定の復号処理を施して表示装置33Dに表示させる。水中航走体1は、収集した水中情報に対して所定の処理を施した後、水上移動体2へ送信し、水上移動体2は、受信した水中情報を通信衛星4に送信し、母船3は、通信衛星4から水中情報を受け取って表示装置33Dに表示させる。これによって、水中航走体1によって収集された水中情報は、情報処理及び通信に要する時間の遅れは存在するものの、略リアルタイムで水中航走体1とは遠隔地で待機する母船3の表示装置33Dで観測できる。
【0024】
本実施形態では、動力を有し、自力で航行可能な水上移動体2が水中航走体1の位置を検出しながら、水中航走体1に合わせて水面を移動するとともに、無線により水中航走体1と水上移動体2との間で通信する。これによって、データの伝送用のケーブルが不要になるので、ケーブルの水中抵抗を考慮する必要がなくなり、水中航走体1の動力を無闇に大きくすることなく、水中情報を収集できる。また、本実施形態では、水中航走体1に伝送用のケーブルを搭載する必要はないので、ケーブルの長さによって水中航走体1の行動範囲が制限されることもない。その結果、本実施形態では、水中航走体の移動領域の制約を低減できる。
【0025】
図3は、水上移動体が備える第2の音響通信機器のカバーエリアと水中航走体との関係を示す概念図である。図4は、本実施形態における第2の音響通信機器の姿勢を維持する安定化支持構造の説明図である。図5は、本実施形態に係る安定化支持構造を適用した場合における水中位置計測装置のカバーエリアと水中航走体との関係を示す概念図である。図3には、水上移動体2に搭載される水面側第1音響モデム(第2の音響通信機器)22Hのカバーエリアを示す。水上移動体2が水平である場合における前記カバーエリアは、実線CA1であり、水上移動体2が水平面に対して傾斜した場合における前記カバーエリアは、点線CA2である。
【0026】
水上移動体2は、水面Hに浮かんで水中航走体1の水中側第1音響モデム12H(第1の音響通信機器)から送信される水中情報を受信する。このため、水上移動体2は、波や風の影響を受けて揺動する。したがって、水上移動体2に水面側第1音響モデム22Hが固定されている場合、水上移動体2の揺動とともに水面側第1音響モデム22Hも揺動し、水面側第1音響モデム22Hのカバーエリア(受信可能な領域)も変化する。このため、図3のCA1に示すように、水面側第1音響モデム22Hのカバーエリアに水中航走体1が入っていても、水上移動体2が揺動すると、図3のCA2に示すように、水中航走体1は、水面側第1音響モデム22Hのカバーエリアから外れることがある。すると、水中側第1音響モデム12Hから送信された水中情報を水面側第1音響モデム22Hが受信できなくなり、水中情報を水上移動体2へ送信できなくなってしまう。
【0027】
これを回避するため、本実施形態では、少なくとも水中情報を受信する第2の音響通信機器、すなわち、水面側第1音響モデム22Hに対しては、水面側第1音響モデム22Hの姿勢を維持する安定化支持構造26(図4参照)によって水面側第1音響モデム22Hを水上移動体2に支持する。図4に示すように、安定化支持構造26は、2軸のジンバル機構を利用したものであり、水上移動体2の底部に取り付けられて、水面側第1音響モデム22Hの受信面22HCが常に水中航走体2の方向を向く姿勢を維持できるように水面側第1音響モデム22Hを支持・姿勢制御する。なお、水中航走体2の位置は、水中位置計測装置21で計測している。
【0028】
本実施形態において、安定化支持構造26は、互いに直交した2本の揺動軸X、Yを少なくとも有しており、水面側第1音響モデム22Hは、それぞれの揺動軸X、Yの周りを揺動できるように構成される。ここで、本実施形態において、揺動軸Xは、水上移動体2の前後方向と平行である。このような構造の安定化支持構造26を介して水面側第1音響モデム22Hが水上移動体2に取り付けられるので、水上移動体2が揺動しても、水面側第1音響モデム22Hの受信面22HCは、常に水中航走体2の方向を向く姿勢が維持される。そして、図5に示すように、水上移動体2が揺動した場合でも、水面側第1音響モデム22Hのカバーエリアに入っている水中航走体1は、その状態が維持される。これによって、水中側第1音響モデム12Hから水面側第1音響モデム22Hへの安定した送信が実現できるので、水中情報の安定した送信が実現できる。なお、安定化支持構造26は、上述した構成に限定されるものではなく、例えば、3本以上の揺動軸を備えていてもよいし、球面軸受を利用して安定化支持構造を構成してもよい。また、水面側第2音響モデム22Lも安定化支持構造26で支持してもよい。
【0029】
図6は、水中情報の送信方法の説明図である。本実施形態において、水中航走体1の水中航走体処理装置13は、サイドスキャンソーナ10C等の水中情報取得手段によって取得された水中情報を所定の単位で順次圧縮する。そして、水中側第1音響モデム12Hは、圧縮された水中情報を、圧縮された順に送信する。図6に示すように、水中情報IWは、水中航走体1が移動しながら水中情報取得手段が取得する。本実施形態において、水中情報は、CCDカメラ10A、水中音響カメラ10Bあるいはサイドスキャンソーナ10Cにより、画像情報として取得される。一般に画像情報は情報量が大きいため、そのまま水中側第1音響モデム12Hから水面側第1音響モデム22Hへ送信すると、これらは通信速度が遅いので、水中情報の伝送に時間を要してしまう。もし、所定の単位における水中情報の収集時間よりも伝送に要する時間が長くなれば、連続的な情報伝達ができなくなり、システムは成立しなくなるおそれがある。
【0030】
このため、本実施形態では、水中航走体処理装置13の情報処理部13Aが、水中情報取得手段によって取得された水中情報IWを所定の単位(本実施形態では時間tmであるが、所定のデータサイズとしてもよい)で順次圧縮し、水中側第1音響モデム12Hは、圧縮された順序で所定の単位の水中情報を送信する。図6において、水中情報取得手段が連続して取得した水中情報IWは、記憶装置14に一時的に格納されており、所定の時間tmが経過したら(あるいは所定のデータ量が蓄積されたら)、情報処理部13Aは、所定の時間tmで蓄積された水中情報(単位水中情報)の処理を開始する(時間t=t1)。
【0031】
本実施形態において、情報処理部13Aは、まず、単位水中情報(データ1)を記憶装置14から読み出し、データ1から静止画像のデータを作成する(処理1)。この場合、情報処理部13Aは、例えば、連続して取得された水中情報IWのデータ1から所定のサンプリング周期で画像を取り出し、これを静止画像としてもよい。
【0032】
そして、情報処理部13Aは、作成した静止画像を圧縮して(処理2)、圧縮画像データ(圧縮データ1)を作成する。処理2において、情報処理部13Aは、例えば、作成した静止画像をJPEGのファイル形式に変換する。圧縮データ1が作成されたら、通信制御部13Bは、水中側第1音響モデム12Hから圧縮データ1を送信する。ttは、圧縮データ1の送信に要する時間である。
【0033】
水面側第1音響モデム22Hが圧縮データ1を受信したら、水上移動体2の水上移動体処理装置23は、衛星通信ユニット24を介して通信衛星4へ圧縮データ1を送信し、母船3の情報処理装置33Aは、通信衛星ユニット34を介して圧縮データ1を受信する。情報処理装置33Aは、受信した圧縮データ1を復元(解凍)し、連続画像に再構築してから、表示装置33Dに表示させる。
【0034】
ここで、再構築された水中情報が表示装置33Dに表示される時間はt2である。衛星通信、圧縮画像データの復元、再構築が処理3である。圧縮データ1の送信が完了したら、水中航走体処理装置13の情報処理部13Aは、データ1の後に蓄積された単位水中情報であるデータ2について処理1、処理2を実行し、データ2以降の単位水中情報に対しても、順次処理1、2を実行する。
【0035】
図6に示す例では、時間t=t0で水中情報の取得が開始される。音響モデムのような音響通信装置を用いた場合、データ伝送に要する時間が長く、処理1〜3に要する時間は前記データ伝送と比較すると、短時間で済む。本実施形態では、水中情報を圧縮して送信するので、その分、データ伝送に要する時間を短くできる。その結果、水中情報の収集が開始されてから、母艦の表示装置33Dに再構築された水中情報が表示されるまでの遅れ時間tdを短くすることができる。
【0036】
(変形例)
図7は、本実施形態の変形例に係る水上移動体を示す概念図である。図8、図9は、本実施形態の変形例に係る水上移動体を示す構成図である。図10、図11は、本実施形態の変形例に係る水上移動体を構成する曳航体の状態を示す模式図である。本変形例は、上記実施形態と略同様であるが、水上移動体は、動力を有して自力で航行可能な動力船と、動力船に曳航される曳航体とで構成され、少なくとも第2の音響通信装置である水面側第1音響モデムは、曳航体に搭載される点が異なる。他の構成は、上記実施形態と同様である。
【0037】
図7に示すように、本変形例において、水上移動体は、動力船2aと、ワイヤ2Wを介して動力船2aに曳航される曳航体2bとで構成される。水中航走体1は、曳航体2bの水面下方(鉛直方向側)に潜行して水中を移動しながら水中情報を収集する。曳航体2bは、動力船2aによって曳航されて、水中航走体1の移動に合わせて水面Hを移動する。図8、図9に示すように、曳航体2bは、浮力体50と、浮力体係維部材(ロープ等を含む)52と、浮上力発生体51A、51Bと、フレーム53とを含んで構成される。
【0038】
浮上力発生体51A、51Bは、フレーム53に取り付けられる。また、浮力体50は、浮力体係維部材52によってフレーム53に取り付けられる。浮上力発生体51A、51Bと、フレーム53には、水面側第1音響モデム22H、水面側第2音響モデム22L、図2に示す水中位置計測装置21等の音響通信機器が取り付けられる。具体的には、図9に示すように、浮上力発生体51Aに水面側第2音響モデム22Lが取り付けられ、浮上力発生体51Bに水面側第1音響モデム22Hが取り付けられ、フレーム53に水中位置計測装置21が取り付けられる。水面側第1音響モデム22Hは、上述したように、安定化支持構造26を介して浮上力発生体51Bに取り付けられる。この安定化支持構造26により、水面側第1音響モデム22Hは、揺動軸X、Yの周りをそれぞれ独立に揺動できる。なお、本実施形態では、水面側第1音響モデム22Hのみを安定化支持構造26で支持しているが、水面側第2音響モデム22Lも安定化支持構造26で支持してもよい。
【0039】
浮力体50には、GPS(Global Positioning System:全方向測位システム)装置55が取り付けられる。動力船2aは、GPS装置55から得られる曳航体2bの位置情報を元に曳航体2bを曳航して、水中航走体1を誘導する。この場合、GPS装置55によって、曳航体2bの絶対位置を知ることができるので、水中航走体1の誘導精度が向上する。すなわち、GPS装置55から得られる曳航体2bの緯度と経度が、捜索したい場所の緯度と経度となるように曳航体2bを曳航すれば、水中航走体1を捜索したい場所へ正確に誘導できる。
【0040】
上述したように、曳航体2bは、ワイヤ2Wを介して動力船2aに曳航されるが、曳航速度が比較的低速である場合、例えば、水中航走体1の移動に合わせて曳航体2bが移動する場合、図10に示すように、音響通信機器が取り付けられる部分、すなわち、浮上力発生体51A、51B及びフレーム53(図9参照)は水没し、水面Hの下となる。このとき、浮力体50によって曳航体2bの浮力が得られる。これによって、曳航体2bの重心を低くできるので、曳航体2bの揺動を抑制できる。このように、音響通信機器を用いて水中航走体1と通信する場合には、音響通信機器類が取り付けられる部分を水没させて、曳航体2b全体の揺動を抑制するので、安定した通信が実現できる。
【0041】
一方、水中航走体1を母船3に回収し、比較的高速で移動する場合、図11に示すように、動力船2aに曳航される曳航体2bは、浮上力発生体51A、51Bが発生させる浮力により、浮力体50及び浮上力発生体51A、51Bの一部が水面Hの上に現れる。これによって、曳航体2bの抵抗が低減されるので、動力船2aが曳航体2bを曳航する際の負担が低減される。なお、図8に示す浮力体係維部材52をロープやワイヤとして、動力船2aによって浮力体50を曳航してもよい。
【0042】
上述した構成により、図7に示すように、水中航走体1は、動力船2aに曳航される曳航体2bの下方を移動しながら、水中情報収集手段で水中情報を収集する。図7に示す例では、水中情報収集手段として、例えば、サイドスキャンソーナを用いて水底の情報(図7のSS1で示す領域における水底の情報)を収集する。水中航走体1の位置情報は、曳航体2bの位置検出手段が取得し(図7のMP)、水中情報収集手段が収集した水中情報は、水中航走体1及び曳航体2bに搭載された音響通信装置を介して曳航体2b側へ伝送される(図7のTRI)。水中航走体1の位置情報及び水中情報収集手段が収集した水中情報は、曳航体2bから直接通信衛星4へ送信されるか、曳航体2bから動力船2aに送られた後、動力船2aから通信衛星4へ送信される。
【0043】
動力船2aは、自己の動力で航行するので、動力発生手段や動力伝達系の振動が発生する。上述した実施形態の水上移動体2は、動力発生手段を搭載しているため、動力発生手段や動力伝達装置の振動により水上移動体2自体が動揺し、その影響が水中航走体1と水上移動体2間における音響通信装置を用いたデータの伝送に影響を与えるおそれがある。これを回避するためには、動力発生手段や動力伝達装置の制振対策が必要になる。一方、本変形例では、音響通信機器は、動力を持たない曳航体2bに搭載されているので、動力発生手段や動力伝達装置の振動は発生しない。これによって、動力発生手段や動力伝達装置の制振対策は不要になり、波や風等による曳航体2bの揺動を、安定化支持構造26で吸収すればよい。
【0044】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態及び変形例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上のように、本発明に係る水中情報収集システムは、水中航走体を水上移動体で管制しながら、水中航走体1を用いて水中情報を収集することに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施形態に係る水中情報収集システムの概要を示す概念図である。
【図2】本実施形態に係る水中情報収集システムの構成を示すシステム構成図である。
【図3】水上移動体が備える第2の音響通信機器のカバーエリアと水中航走体との関係を示す概念図である。
【図4】本実施形態における第2の音響通信機器の姿勢を維持する安定化支持構造の説明図である。
【図5】本実施形態に係る安定化支持構造を適用した場合における水中位置計測装置のカバーエリアと水中航走体との関係を示す概念図である。
【図6】水中情報の送信方法の説明図である。
【図7】本実施形態の変形例に係る水上移動体を示す概念図である。
【図8】本実施形態の変形例に係る水上移動体を示す構成図である。
【図9】本実施形態の変形例に係る水上移動体を示す構成図である。
【図10】本実施形態の変形例に係る水上移動体を構成する曳航体の状態を示す模式図である。
【図11】本実施形態の変形例に係る水上移動体を構成する曳航体の状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0047】
1 水中航走体
2 水上移動体
2W ワイヤ
2a 動力船
2b 曳航体
3 母船
4 通信衛星
10A CCDカメラ
10B 水中音響カメラ
10C サイドスキャンソーナ
11 トランスポンダ
12H 水中側第1音響モデム(第1音響モデム)
12L 水中側第2音響モデム(第2音響モデム)
13 水中航走体処理装置(処理装置)
13A 情報処理部
13B 通信制御部
14 記憶装置
21 水中位置計測装置
22H 水面側第1音響モデム(第1音響モデム)
22L 水面側第2音響モデム(第2音響モデム)
22HC 受信面
23 水上移動体処理装置(処理装置)
24、34 衛星通信ユニット
25、35 アンテナ
26 安定化支持構造
33 コンソール
33A 情報処理装置
33D 表示装置(CRT)
50 浮力体
51A、51B 浮上力発生体
52 浮力体係維部材
53 フレーム
55 GPS装置
100 水中情報収集システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の情報を収集する水中情報収集手段と、当該水中情報収集手段が集めた水中の情報を送信可能な第1の音響通信装置とを有して、水中を移動可能な水中航走体と、
前記第1の音響通信装置と通信可能であり、当該第1の音響通信装置から送信された前記水中の情報を受信する第2の音響通信装置と、前記水中航走体の位置を検出する位置検出手段とを有し、前記水中航走体の位置を検出しながら、前記水中航走体の移動に合わせて水面を移動する水上移動体と、
を含むことを特徴とする水中情報収集システム。
【請求項2】
前記水上移動体は、前記第2の音響通信装置の姿勢を所定の姿勢に維持できる安定化支持構造を有することを特徴とする請求項1に記載の水中情報収集システム。
【請求項3】
前記安定化支持構造は、互いに直交した2本の揺動軸を少なくとも有しており、前記第2の音響通信装置は、それぞれの前記揺動軸の周りを揺動できるように構成されることを特徴とする請求項2に記載の水中情報収集システム。
【請求項4】
前記水上移動体は、動力を有して自力で航行可能な動力船と、当該動力船に曳航される曳航体とで構成され、少なくとも前記第2の音響通信装置は前記曳航体に搭載されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の水中情報収集システム。
【請求項5】
前記水中航走体は、前記水中情報取得手段によって取得された水中の情報を所定の単位で順次圧縮する処理装置を有し、
前記第1の音響通信装置は、圧縮された前記水中の情報を、圧縮された順に送信することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の水中情報収集システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−139270(P2010−139270A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313609(P2008−313609)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】