説明

水中映像取得装置及び取得方法

【課題】受信信号のデータ量を低減し、電子回路規模の削減及び装置の小型化を可能とし、ノイズ及び高調波成分を抑制して、明瞭な水中音響画像を得る。
【解決手段】送波器104に入力する電気信号の周波数を変更して送波器104から放射される音波の送波ビームを水平方向または垂直方向にステアリングし、目標からの反射音波を収束させる音響レンズを受波器の前面に備える。受波器は、送波器104のステアリング方向と直角な方向に分割された複数の受波素子105により構成され、受信された目標からの反射信号(受信信号)のそれぞれと、送信周波数に合わせて周波数設定された局部発振器信号との2つの信号を掛け合わせることにより、各受波素子からの受信信号をある一定の周波数にダウンコンバートした受信信号とする複数のアクティブ・ミキサ107と、周波数変換された受信信号から水中映像を生成する信号処理/制御手段101とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中映像取得装置及び取得方法に係り、特に、ソーナー、魚群探知機等の広帯域かつ周波数掃引される周波数の超音波を送受信して水中の映像を生成する水中映像取得装置及び取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピエゾ素子等の電気音響変換素子により構成される超音波送波器に入力する電気信号の周波数を変更することによって超音波の送波ビームのステアリングを可能とする周波数掃引方式を適用し、目標からの反射音波を処理して映像化する水中映像取得装置の技術が、例えば、特許文献1等に記載されて知られている。この水中映像取得装置は、目標からの反射波を収束させる音響レンズを、送波器と同様にピエゾ素子等により構成される受波器の前面に備えることにより、効率的に水中映像を取得することができるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−535195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術による水中映像取得装置は、送波器に入力する電気信号の周波数を変更することによって超音波送波ビームのステアリングを可能とする周波数掃引方式を適用し、目標からの反射音波を収束させる音響レンズを受波器の前面に備えることにより、効率的に音響画像を取得することができる装置であるが、受信信号のデータ量が多く、データ伝送を含む信号処理及び演算に要する電子回路規模が大きくなり、装置の小型・軽量化を困難とさせるという問題点を有している。
【0005】
すなわち、従来技術で使用している周波数掃引方式は、送波ビームを周波数でステアリングするため、受信周波数の使用周波数帯域幅が、この方式の原理上、下限周波数をfaとすると、上限周波数が約2×faとなり、fa〜2×faの帯域幅になる。このため、送波器、受波器及び受信回路には、この使用周波数帯域幅の信号を送受信すべく広帯域な特性が要求される。しかし、前述した従来技術による装置は、送波器、受波器の周波数毎に異なる出力レベルを効果的に補正し、送受波音響性能を最適にする手段がなく、ノイズ及び高調波成分が取得した音響画像に表示され、音響画像を不明瞭なものにしてしまうという問題点を生じさせている。
【0006】
本発明の目的は、前述した従来技術の問題点を解決し、受信信号のデータ量を低減し、電子回路規模の削減及び装置の小型化を可能とすると共に、ノイズ及び高調波成分を抑制し、送受波音響性能を最適にすることにより、明瞭な音響画像を得ることができるようにした水中映像取得装置及び取得方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば前記目的は、送波器に入力する電気信号の周波数を変更する周波数掃引方式を用いて前記送波器から放射される音波の送波ビームを水平方向または垂直方向にステアリングし、目標からの反射音波を収束させる音響レンズを受波器の前面に備えた水中映像取得装置において、前記受波器は、前記送波器のステアリング方向と直角な方向に分割された複数の受波素子により構成され、前記複数の受波素子により受信された目標からの反射信号(受信信号)のそれぞれと、送信周波数に合わせて周波数設定された局部発振器信号との2つの信号を掛け合わせることにより、各受波素子からの受信信号をある一定の周波数に周波数変換(ダウンコンバーティング)した受信信号とする複数のアクティブ・ミキサと、一定の周波数に周波数変換された受信信号から水中映像を生成する信号処理/制御手段とを備えることにより達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電子回路規模の削減及び装置の小型化を図ることができ、明瞭な音響画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態による水中映像取得装置の構成を示すブロック図である。
【図2】周波数掃引方式を適用した送波器、受波器の動作原理を説明する図である。
【図3】周波数掃引方式での超音波の送波ビームの方位について説明する図である。
【図4】送波器、受波器の周波数毎の出力レベル誤差の例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明による水中映像取得装置及び取得方法の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は本発明の一実施形態による水中映像取得装置の構成を示すブロック図、図2は周波数掃引方式を適用した送波器、受波器の動作原理を説明する図、図3は周波数掃引方式での超音波の送波ビームの方位について説明する図、図4は送波器、受波器の周波数毎の出力レベル誤差の例について説明する図である。
【0012】
図1に示す本発明の実施形態による水中映像取得装置の構成を説明する前に、まず、図3を参照して周波数掃引方式での超音波の送波ビームの方位について説明する。
【0013】
本発明の実施形態に使用する送波器は、図3に示すように、極性を交互に反転させて複数の電気音響変換素子を水平方向に配列して構成されている。この電気音響変換素子は、例えば、チタン酸バリウム等により構成される。なお、図3には電気音響変換素子が2列水平方向に配列されているとして示しているが、1列であってもよい。
【0014】
前述のように構成される送波器は、前述の複数の電気音響変換素子の全てに、送信回路から異なる周波数の送信電気信号(周波数掃引された送信電気信号)が入力されるだけで、送波ビームをステアリングすることができる。また、図示送波器から送信される超音波は、その送信方位によって周波数が異なるため、受信側では、目標からの反射信号を音響レンズ及び受波器で受波し、その受信信号をFFT(高速フーリエ変換)するだけで受波方位に分離することができる。
【0015】
なお、本発明の実施形態で使用する超音波信号の周波数帯域幅は、すでに説明したように、その原理上、下限周波数をfaとすると、上限周波数が約2×faとなり、fa〜2×faの帯域幅になる。
【0016】
いま、送波器及び受波器の使用周波数範囲における下限周波数を500kHzとすると、上限周波数は1MHzとなる。この場合、送波器に対する制御部からの制御に従い送信回路が周波数f1として1MHzの送信電気信号を送波器に入力すると、超音波送波ビームは、図3に示すように、矢印(A)の方向に送出され、周波数f2が500kHzの送信電気信号を送波器に入力すると、超音波送波ビームは、矢印(B)の方向に送出される。
【0017】
前述から判るように、送波器に送信電気信号を入力する送信回路が周波数f1〜f2まで周波数を変化させながら送信電気信号を送波器に入力すると、送波器は、周波数の変化に従って図3に模式的に示しているように、狭い扇形のビームを水平方向に(A)から(B)の方向にステアリングさせながら超音波ビームを送信し、所定の角度範囲の水平方向に対してビームの照射を行うことになる。なお、周波数f1〜f2まで周波数を変化させながら送信電気信号を送波器に入力すると、送波器は、図3に示すように、水平方向に対して素子の中心から角度θだけ偏倚した2群の照射範囲を形成するが、従来技術として知られているように、いずれか一方を不使用とすることができ、また、より広い連続した照射範囲を得たい場合には、2組の送波器を所定の角度だけずらせて配置し、超音波の照射範囲を2組の送波器からの照射範囲が連続するようにすればよい。また、前述において、送波器が周波数の変化に従って放射する水平方向の狭い扇形の超音波ビームは、垂直方向(図3を描いている紙面に対して垂直な方向)に対して広い範囲を照射している。これにより、水中映像を取得しようとしている目標物の水平方向、垂直方向の所定の範囲に対して超音波ビームを照射することができる。
【0018】
そして、目標物に照射されて反射した超音波信号は、受波器の前面に設けられた音響レンズを介して、送波器と同様に複数の電気音響変換素子を配列して構成した受波器に収束される。もし、目標物が図3に示す矢印(A)の位置にある場合、周波数1MHzの超音波の反射波が受波器に到来し、目標物が矢印(B)の位置にある場合、周波数500kHzの超音波の反射波が受波器に到来することになる。
【0019】
前述で説明した従来技術は、受波器により音響電気変換された電気信号(受信信号)を、500kHzから1MHzの広帯域な受信周波数を保持した状態で、受信を行えるように受信回路を構成し信号処理を実施する必要があった。
【0020】
この場合、受波器を構成する各振動子(電気音響変換素子)のそれぞれからのアナログ受信信号に対して信号処理を実施するため、アナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器のサンプリング周波数は、扱う信号周波数の2倍、説明している例では、2MHz以上が必要となり、変換されたデジタル信号のデータ量が膨大となって、回路規模の増大を招いていた。なお、ここで示すデジタル信号のデータ量は、受波器の振動子の数、AD変換器のビット数、サンプリング周波数を掛け合わせた値で定義されるものである。
【0021】
そして、広帯域な受信信号、高速なサンプリング周波数及びクロック周波数は、受信回路内において、ノイズ及び高調波成分を発生させる要因であり、その結果、得られた映像にノイズ及び高調波成分が重畳されることとなり、取得した音響画像を不明瞭なものとしてしまっていた。
【0022】
そこで、本発明の実施形態では、受波器の複数の振動子のそれぞれから受信回路に入力される目標からの反射信号(受信信号)と、その受信信号の周波数、すなわち、送信周波数に応じて周波数設定された局部発振器信号(LO信号)との2信号を、アクティブ・ミキサにより掛け合わせることによって、ある一定の周波数に周波数変換(ダウンコンバーティング)した信号を受信信号として処理することとしている。
【0023】
ここで、アクティブ・ミキサの動作について説明すると、次のようになる。すなわち、
いま、受信信号をa(t)、LO信号をb(t)、それぞれの周波数をf1、f2(f1>f2)、信号a(t)、b(t)の振幅をA、Bとし、周波数を単一正弦波であるω1=2πf1、ω2=2πf2とすると、受信信号a(t)、LO信号b(t)は、
a(t)=Asin(ω1t) ……(1)
b(t)=Bsin(ω2t) ……(2)
として表すことができる。
【0024】
そして、この2つの信号を、アクティブ・ミキサに入力して掛け合わせると、
a(t)×b(t)=AB・sin(ω1t)・sin(ω2t)
=AB/2・[cos(ω1−ω2)t−cos(ω1+ω2)t] ……(3)
となる。
【0025】
この(3)式から判るように、2つの信号a(t)とb(t)とをアクティブ・ミキサにより掛け合わせることによって、信号a(t)と信号b(t)との和及び差の周波数成分が生み出される。
【0026】
本発明の実施形態ではアクティブ・ミキサにより掛け合わせて得られる和及び差の周波数成分の信号の差側の信号をある一定の周波数となるように周波数変換(ダウンコンバーティング)することとする。そのため、受信信号の周波数、すなわち、送信周波数に応じてアクティブ・ミキサからの差側の信号が一定の周波数となるように周波数設定された局部発振器信号(LO信号)を用意する。
【0027】
例えば、送信周波数、すなわち、受信信号の周波数が1MHzのとき、LO信号の周波数を900kHzに設定する。このとき(3)式により、アクティブ・ミキサ処理後の差の周波数成分を持つ受信信号の周波数は100kHzになる。また、送信周波数、すなわち、受信信号の周波数が500kHzのとき、LO信号の周波数を400kHzに設定する。このとき(3)式により、アクティブ・ミキサ処理後の差の周波数成分を持つ受信信号の周波数は100kHzになる。このことから判るように、送信周波数を1MHzから500kHzに連続して変化させていって超音波ビームを水平方向にステアリングさせて映像を作成する場合、LO信号の周波数を900kHzから400kHzに連続して変化させると、送信周波数の変化にかかわらず、アクティブ・ミキサからは、その差の周波数成分を持つ受信信号として、周波数が変化しない周波数100kHzの信号を得ることができることになる。
【0028】
前述したように、受信信号に対して、ある一定の周波数に周波数変換(ダウンコンバーティング)を行うことにより、受波器の振動子毎に必要であるAD変換器のサンプリング周波数を下げることが可能となる。
【0029】
ちなみに、従来技術の場合には、上限周波数1MHzの受信信号をAD変換器によりデジタル信号に変換するためには、2MHz以上のサンプリング周波数が必要であったのに対して、本発明の実施形態では、前述で説明したように、上限周波数1MHzの受信信号をアクティブ・ミキサにより、100kHzに周波数変換することにより、AD変換器のサンプリング周波数を200kHzにすることができ、受信回路、演算を含む信号処理に要するデータの量を1/10程度に削減することが可能となる。
【0030】
次に、図2を参照して周波数掃引方式を適用した送波器、受波器の動作と、受波器により得た受信信号から2次元静止画像を形成する方法とについて説明する。
【0031】
なお、図2(a)は図3により説明した周波数掃引方式での超音波の送波ビームの方位と周波数掃引によりステアリングされた送波ビームの反射波を受波器が音響レンズを介して受信する様子を説明する図であり、図2(b)は2次元静止画像を形成する方法を説明する図である。
【0032】
図2(a)の上段左側には、周波数掃引方式での水平方向への超音波の異なる周波数での送波ビーム(狭ビーム)が周波数掃引されてステアリングされて全体で30度の動作セクタ範囲に照射される様子を示している。これらの各照射送波ビーム(狭ビーム)からの反射波が音響レンズを介して受波器に入力される様子を図2(a)の上段右側に示している。ここで、受波器としては、音響レンズによる収束特性に合わせた受波器アレイ(素子アレイ)により形成されたのものが用意される。この場合、受波器のチャネル分割はなく、周波数により決まる音波到来方位からの周波数の受信信号が受波器に入力されて検出されることになる。
【0033】
また、図2(a)の下段左側には、水平方向への超音波の異なる周波数での送波ビーム(狭ビーム)のそれぞれが垂直方向へビームの照射を行う様子を示している。図3によりすでに説明したように、前述の狭ビームは、垂直方向に対して広い範囲(図2(a)に示す例では30度の動作セクタ範囲)を照射している。このような照射送波ビームからの反射波が音響レンズを介して受波器に入力される様子を図2(a)の下段右側に示している。ここで、受波器としては、音響レンズによる収束特性を合わせた受波器アレイ(素子アレイ)により形成されたのものが用意される。この場合、受波器は、チャネル分割されたものが使用される。図2(a)に示す例では64分割、すなわち、受波器は64個の受波素子による受波器アレイにより構成されているものとしている。そして、音波到来方位に依存した音響レンズにより、音波到来方位に依存して音線が収束されるので、64分割されたチャネルの各受波素子からの信号を検出することにより、反射された超音波信号の到来方位を算出することができる。
【0034】
図2(a)で説明したように、図3に示した送波器からの扇形の超音波ビームを目標物体に向け放射すると、送波器の各素子から放射された音波の合成波面は、その周波数により定まる方向に形成される。このため、周波数を掃引することによりビームをステアリングさせ、動作セクタ全体を照射することができる。この超音波照射を受けた物体面からの反射波は、音響レンズと受波器とにより音響像として結像させられることになる。
【0035】
図2(a)に示すようにして受波器が反射波を受信するが、次に、図2(b)を参照して、受波器の受信信号から2次元静止画像を形成する方法を説明する。
【0036】
受波器は、図2(b)に示すように垂直方向に64分割されて複数の受波素子により構成されており、各受波素子からのch出力のそれぞれを周波数分析すると周波数成分に対応して、物体の水平方向の各位置からの反射波の受信信号が得られる。また、垂直方向の位置は、分割した各受波素子の位置に対応しているので、各受波素子に対応して、物体の垂直方向の各位置からの反射波の受信信号として得られることになる。
【0037】
図2(b)左側には、H型の目標物に前述までに説明したようにして超音波を照射した場合の反射波の各受波素子が周波数掃引によりステアリングされて、水平方向の反射波を受信する様子を示しており、また、図2(b)右側には、各受波素子での掃引周波数(水平方向位置)対応の受信信号の受信レベルを示している。本発明の実施形態では、各ch毎のこのような受信信号の全てを合成して処理することにより、目標物の画像を取得することができる。
【0038】
ところで、本発明の実施形態のように周波数掃引方式を適用して水中映像取得装置を構成する場合、広帯域な使用周波数帯域幅が要求される送波器及び受波器において、周波数毎に出力レベルに誤差が生じる。この周波数毎に生じるレベル誤差が、不明瞭な音響画像を生成してしまう要因の1つであった。
【0039】
誤差を抑制する方法として、電気的な整合回路を用いて送受波器の共振周波数を変化させる方法、送信周波数毎に送信信号の振幅レベルに対して重み付けする方法、また、デジタル信号に変換された後の受信信号に対して周波数毎にレベル補正を行う方法等がある。但し、前述の各方法は、誤差を抑制することができるものの、SN比の改善を図ることができず、感度が低下する、使用周波数範囲外に雑音が生じる、回路規模が大きくなる等の短所も有している。
【0040】
そこで、本発明の実施形態では、送受信周波数毎にアクティブ・ミキサの変換利得(LO信号の振幅レベル)を調整することにより、送波器及び受波器の周波数毎に異なる出力レベルを補正することとしている。なお、アクティブ・ミキサは、トランジスタ、FET等の能動素子を用いて構成されているものとする。
【0041】
次に、本発明の実施形態において、周波数掃引される周波数毎に生じる送波器及び受波器の出力レベル誤差を抑制する方法について説明する。
【0042】
送波器、受波器の周波数毎の出力レベル誤差の例について説明する図4に示すように、例えば、送波器、受波器が、送信周波数600kHzのとき最大出力レベル、800kHzのとき最小出力レベルとなるような特性を持つものとする。このような特性を持った送波器から超音波の送波ビームを送出した場合、受波器から受信回路に入力される目標からの反射信号(受信信号)は、仮に、受波器が周波数毎のレベル誤差がないとしたとき、600kHzのとき最大信号レベル、800kHzのとき最小信号レベルの信号となることが容易に理解できる。
【0043】
そこで、本発明の実施形態では、送波器及び受波器の周波数毎に異なる出力レベルが補正できるように、前述で説明した(3)式に示すLO信号の振幅レベルBの値を、送受信周波数に合わせて調整することとしている。その結果、目標からの反射信号(受信信号)と送受信周波数毎に振幅レベル設定されたLO信号とを、アクティブ・ミキサにより掛け合わせることによって、処理後の受信信号の周波数特性を平坦なものとすることができ、明瞭な音響画像の取得が可能となる。
【0044】
前述において、本発明の実施形態は、アクティブ・ミキサによりある一定の周波数に周波数変換し、かつ、送波器及び受波器の周波数毎に異なる出力レベルを補正するようにしているものであることを説明した。但し、(3)式に示すように、アクティブ・ミキサの処理後には、差の周波数成分だけでなく和の周波数成分が発生する。
【0045】
本発明の実施形態で必要なのは、差の周波数成分のみであるため、アクティブ・ミキサの出力側には、オペアンプ、コンデンサ及び抵抗により構成される差の周波数成分だけを通過させるアクティブ通過フィルタを設け、不要な信号、ノイズ及び高調波成分を除去している。また、超音波が到達した距離による受信信号の減衰は、制御信号によって増幅率を設定できる可変利得増幅器により、補正を施すこととする。
【0046】
次に、前述で説明したような考察に基づいて構成した本発明の実施形態による水中映像取得装置の構成を図1を参照して説明する。
【0047】
本発明の実施形態による水中映像取得装置は、送信信号の生成及び局部発振器信号(LO信号)の周波数、振幅レベルの設定を行う信号処理/制御部101と、信号処理/制御部101で生成された送信信号を所定の大きさまで増幅する送信回路102と、送信回路102からの信号の電力増幅を行う増幅器103と、増幅器103からの信号を超音波に変換して水中に放射する送波器104と、送波器104から放射された超音波の反射波を受信する受波器を、図示しない音響レンズと共に構成する複数の受波素子105(図2により説明した例の場合64個設けられ、各受波素子は、垂直方向の異なる64方向からの超音波信号を受信する)と、複数の受波素子105のそれぞれに接続され、各受波素子105からの電気的な受信信号を増幅する複数の初段増幅器106と、各初段増幅器106からの出力信号及び局部発信器信号(LO信号)が入力されて周波数変換を行うオペアンプ、コンデンサ及び抵抗により構成される複数のアクティブ・ミキサ107と、各アクティブ・ミキサ107の出力からダウンコンバーティングされた所定の周波数の出力信号を通過させる複数の帯域通過型アクティブ・フィルタ(BPF)108と、各BPF108からの信号を受けその信号が、超音波の照射、反射による伝播距離による減衰を受けて減衰しているのを補償するために、各BPF108からの信号を可変増幅する複数の可変利得増幅器109と、各可変利得増幅器109からのアナログ信号をデジタル信号に変換する複数のAD変換器110と、複数のAD変換器110からのデジタル信号を多重化するデータ多重化部111と、データ多重化部111からのデジタル電気信号を光信号に変換して光ファイバーによる信号ケーブルを介して信号処理/制御部101に送信し、信号処理/制御部101からの光信号をデジタル電気信号に変換するEO変換器112と、信号処理/制御部101からの指示に従って、周波数、振幅レベルの設定を行って局部発信器信号(LO信号)を生成する局部発振器113と、信号処理/制御部101からの指示に従って、可変利得増幅器109の増幅度を制御する制御信号を生成する制御信号生成部114とにより構成される。
【0048】
前述において、信号処理/制御部101は、送信信号を生成すると共に、局部発振器信号(LO信号)の周波数及び振幅レベルの設定、及び、可変利得増幅器109の増幅度の設定を行う。送信信号は、送信回路102により増幅された後、増幅器103により電力増幅された後、信号ケーブルを介して送波器104に供給されて電気音響変換されることにより、音響媒体である水中に超音波として送出される。局部発振器信号(LO信号)の周波数及び振幅レベルの設定を行う設定信号は、局部発振器113に入力され、局部発振器113に図4で説明した送波器及び受波器の周波数特性を補償する振幅レベルを持ち、周波数掃引されている送信信号の周波数を所定の周波数に変換するための周波数を持ったLO信号を生成させる。また、可変利得増幅器109の増幅度の設定を行う指示信号は、制御信号生成部114に入力され、制御信号生成部114に可変利得増幅器109の増幅度の設定を行う制御信号を生成させる。
【0049】
また、受波器を構成する複数の受波素子105のそれぞれにより音響電気変換された電気信号(受信信号)は、初段増幅106、局部発振器113、アクティブ・ミキサ107、BPFフィルタ108、可変利得増幅器109、AD変換器110を含む受信回路により受信され、データ多重化部111、EO変換器112を経て、信号ケーブルを介して、信号処理/制御部に渡されてOE変換、演算処理等が加えられて表示装置に表示されることになる。
【0050】
本発明の実施形態は、周波数掃引方式を採用しているため、水平方位(送波器の向きを垂直に変えれば垂直方位となる)により送出された超音波の周波数が掃引されて異なっており、受波素子105の1つで受信された電気信号を周波数分析(FFT)することにより、図2(a)の上段、図2(b)で説明したように、水平方向の1ch分の画像が得られる。
【0051】
すなわち、目標物で反射した超音波は、音響レンズを介して受波器の各受波素子105に収束される。もし、目標が送波周波数f1の位置にある場合は、周波数f1の反射波が、目標が送波周波数fnの位置にある場合は、周波数fnの反射波が、受波器に到来して音響電気変換されることになって、水平方向の1ch分の画像が得られることになる。
【0052】
一方、垂直方向からの反射波は、音響レンズにより、受波器を構成する複数の受波素子105へその超音波が収束されるが、この収束位置が垂直方位により異なっている。従って、収束位置毎に受波器を垂直方向にch分割して配置することにより、各受波素子105から垂直方位を分割した画像を、図2(a)の下段、図2(b)で説明したように得ることができる。
【0053】
前述したように、本発明の実施形態によれば、前述で説明した水平方向の1ch分の画像と、垂直方位を分割した画像とから2次元の音響画像を取得することができる。
【0054】
前述までに説明した本発明の実施形態によれば、送波器に入力する電気信号の周波数を変更することによって送波ビームのステアリングを可能とする周波数掃引方式を適用し、目標からの反射音波を収束させる音響レンズを受波器の前面に備え、目標からの反射信号(受信信号)と、送信周波数に合わせて周波数設定された局部発振器信号(LO信号)の2信号を、アクティブ・ミキサにより掛け合わせることによって、受信信号をある一定の周波数に周波数変換(ダウンコンバーティング)することにより、受信信号のデータ量を低減することができる。本発明の実施形態によれば、これにより、水中映像取得装置における電子回路規模及びデータ量を低減し、装置を小型化することが可能となると共に、ノイズ及び高調波成分を抑制し、送受波音響性能を最適にすることにより、明瞭な音響画像を得ることができる。
【0055】
また、前述した本発明の実施形態によれば、受信信号に対して周波数変換(ダウンコンバーティング)を行っていることにより、受波器の振動子(受波素子)毎に必要であるAD変換器のサンプリング周波数を下げることが可能となり、デジタル変換された受信信号のデータ量を削減することができ、また、データ伝送を含む信号処理及び演算に要する回路規模を削減することが可能となる。
【0056】
また、前述した本発明の実施形態によれば、送受信周波数毎にアクティブ・ミキサの変換利得(LO信号の振幅レベル)を調整することとしているので、送波器及び受波器の周波数毎に異なる出力レベルを補正し、使用周波数範囲内の特性を平坦にし、かつ、SN比の向上を図ることができ、ひいては、取得する音響画像の明瞭化を図ることができる。
【0057】
さらに、前述した本発明の実施形態によれば、周波数変換及び周波数毎に異なる出力レベルを補正した受信信号に対し、制御信号によって増幅率を設定できる可変利得増幅器により、超音波が到達した距離による減衰の補正を施し、かつ、BPFを有することにより、ある一定の周波数に周波数変換された受信信号のみを通過させ、不要な信号、ノイズ及び高調波成分を除去し、電子回路の規模を最小限の大きさとして、取得する音響画像の明瞭化を図ることができる。
【符号の説明】
【0058】
101 信号処理/制御部
102 送信回路
103 増幅器
104 送波器
105 受波素子
106 初段増幅器
107 アクティブ・ミキサ
108 帯域通過型アクティブ・フィルタ(BPF)
109 可変利得増幅器
110 AD変換器
111 データ多重化部
112 EO変換器
113 局部発振器
114 制御信号生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送波器に入力する電気信号の周波数を変更する周波数掃引方式を用いて前記送波器から放射される音波の送波ビームを水平方向または垂直方向にステアリングし、目標からの反射音波を収束させる音響レンズを受波器の前面に備えた水中映像取得装置において、
前記受波器は、前記送波器のステアリング方向と直角な方向に分割された複数の受波素子により構成され、
前記複数の受波素子により受信された目標からの反射信号(受信信号)のそれぞれと、送信周波数に合わせて周波数設定された局部発振器信号との2つの信号を掛け合わせることにより、各受波素子からの受信信号をある一定の周波数に周波数変換(ダウンコンバーティング)した受信信号とする複数のアクティブ・ミキサと、一定の周波数に周波数変換された受信信号から水中映像を生成する信号処理/制御手段とを備えることを特徴とする水中映像取得装置。
【請求項2】
前記信号処理/制御手段は、前記送波器及び受波器の周波数毎に異なる出力レベルを補正するため、送受信周波数毎に前記局部発振器信号の振幅レベルを調整することにより、前記アクティブ・ミキサの変換利得を制御することを特徴とする請求項1記載の水中映像取得装置。
【請求項3】
前記複数のアクティブ・ミキサのそれぞれには、その後段にBPF及び可変利得増幅器が接続されており、前記BPFは、ある一定の周波数に周波数変換された受信信号のみを通過させるものであり、前記可変利得増幅器は、前記信号処理/制御手段からの制御により、超音波の照射、反射による伝播距離により減衰している受信信号のレベルを補償するためのものであることを特徴とする請求項1または2記載の水中映像取得装置。
【請求項4】
送波器に入力する電気信号の周波数を変更する周波数掃引方式を用いて前記送波器から放射される音波の送波ビームを水平方向または垂直方向にステアリングし、目標からの反射音波を収束させる音響レンズを受波器の前面に備えた水中映像取得方法において、
前記受波器は、前記送波器のステアリング方向と直角な方向に分割された複数の受波素子により構成され、
前記複数の受波素子により受信された目標からの反射信号(受信信号)のそれぞれと、送信周波数に合わせて周波数設定された局部発振器信号との2つの信号を、アクティブ・ミキサにより掛け合わせることにより、各受波素子からの受信信号をある一定の周波数に周波数変換し、一定の周波数に周波数変換された受信信号から水中映像を取得することを特徴とする水中映像取得方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−58886(P2011−58886A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207276(P2009−207276)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】