説明

水可溶性イソフラボン組成物およびその製造方法並びにその用途

α−グルコシルイソフラボンと、イソフラボンと、必要によりイソフラボンアグリコンとを含むイソフラボン組成物であって、 α−グルコシルイソフラボン中のアグリコン量に対する、イソフラボンとイソフラボンアグリコンとの合計中に含まれるアグリコン量の比[α−グルコシルイソフラボン中のアグリコン量/(イソフラボン中のアグリコン量+イソフラボンアグリコン量)]が、2.5/1以上である水可溶性イソフラボン組成物、または、 α−グルコシルイソフラボンとイソフラボンとイソフラボンアグリコンとを含むイソフラボン組成物であって、該組成物中のイソフラボンアグリコン量が、該組成物中の全アグリコン量の0.01〜20%である水可溶性イソフラボン組成物、あるいは、該組成物を含む飲料、化粧品、医薬品又は飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水可溶性イソフラボン組成物およびその製造方法並びにその用途に関し、さらに詳しくは、水可溶性に優れ、吸収における即効性と、吸収後の薬理作用の持続性等に優れた水可溶性イソフラボン組成物およびその製造方法並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
イソフラボンおよびその誘導体(イソフラボン誘導体)は、骨のカルシウムの過剰な流出を防ぎ、補給したカルシウムを逃さない効果があり、高齢者に多い骨粗鬆症を防止し、また女性ホルモンのアンバランスを緩和し、女性ホルモンの役割を果たすものを補充して更年期障害を防止し、コレステロールの酸化を防ぎ動脈硬化を防止し、高脂血症等の成人疾患の防止に有効であることが知られている。そのため大豆イソフラボンおよびその誘導体の摂取が推奨され、大豆イソフラボンおよびその誘導体を抽出する方法が種々提案されている。
【0003】
例えば、上記した骨粗鬆症の薬剤による治療法としては、従来よりカルシウム剤、活性ビタミンD剤、女性ホルモン剤などの投与が挙げられる。また、骨粗鬆症の発症を予防するには、日ごろから食事、運動を含めた生活習慣の改善を図ることによって骨密度を低下させないようにすることが有効である。特に閉経後の女性では、女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が低下するが、その影響を受けて動脈硬化、高脂血症、高血圧などの更年期障害に加えて、閉経後骨粗鬆症の発症のリスクも高まる。したがって、そうした疾患に対する予防策としても大豆イソフラボンおよびその誘導体などを積極的に摂取することが望ましい。
【0004】
また、もし、体内に速やかに吸収され、かつ、より長期間体内に高濃度で止まることができるイソフラボン誘導体あるいはその組成物が開発できれば、その意義は大きい。
【0005】
しかしながら、これまでのところ、その栄養分や薬効成分が速やかに吸収され、吸収後はより長期間体内に止まり、骨粗鬆症、動脈硬化、更年期障害などの発症をより積極的に防止しうるような、栄養分や薬効成分を含む食品や医薬品などは提案されていない。
【0006】
そのため、日常的に食品または健康食品などを摂取することによりカルシウムの流出を低減・防止でき、骨密度を維持させ、骨粗鬆症の発症を予防でき、あるいは骨粗鬆症を治療できれば、その有用性は高い。このため手軽にそして安全に骨密度を向上させ、骨粗鬆症を予防できるような新規な健康食品または医薬品の出現が望まれていた。
【0007】
これと同様に、女性ホルモンのアンバランスを緩和し、女性ホルモンの役割を果たすものを補充して更年期障害を防止し、コレステロールの酸化を防ぎ動脈硬化を防止し、高脂血症等の成人疾患を予防できるような新規な健康食品、医薬品あるいは化粧品の出現も望まれていた。
【0008】
さらにまた、本発明者らは、従来より提案されている、大豆イソフラボン誘導体の抽出方法、あるいはその水可溶性を向上させる方法、さらには、それにより得られたものなどについても鋭意検討した。
【0009】
大豆イソフラボン誘導体を抽出する方法あるいはその水可溶性を向上させる方法などとしては、例えば、大豆抽出液を合成吸着樹脂に接触させて該樹脂にイソフラボンを吸着させた後、有機溶媒または有機溶媒と水との混合物でイソフラボンを溶出させる方法(特開昭62−126186号公報:特許文献1)、
大豆胚芽を水可溶性有機溶媒で抽出し濃縮した後、疎水性有機溶媒により親油性成分を除去し、再び濃縮、精製、乾燥してイソフラボン化合物を製造する方法(特開平11−263786号公報:特許文献2)、
大豆由来のイソフラボン誘導体抽出物をエタノール溶液中で分岐型マルトシルα−サイクロデキストリンの共存下で加温溶解し、冷却後不溶物を除去する、水溶解性イソフラボン誘導体抽出物の製造方法(特開2002−155072号公報:特許文献3)、また、
大豆原料から得た粗抽出物を、水溶液中でサイクロデキストリンと混合させた後、不溶物を除去する、水易溶性大豆イソフラボンの製造方法(特開平10−298175号公報:特許文献4)、
などが挙げられる。
【0010】
また、イソフラボン誘導体をβ−またはγ−サイクロデキストリンで包接させてなり、苦味などが抑制され、水に対する溶解性が高く、体内への吸収効率の高い包接物(特開平9−309902号公報:特許文献5)も提案されている。
【0011】
しかしながら、例えば、上記特開昭62−126186号公報、特開平11−263786号公報に記載の方法で得られた抽出物は、特開2002−155072号公報にも記載されているように、水溶液への溶解性が悪い。同様に、特開平9−309902号公報に記載の包接物も、水溶液への溶解性、水溶液中での安定性の点で改良の余地がある。
【0012】
また、上記特開2002−155072号公報に記載の方法によれば、イソフラボン誘導体抽出物を効率的に回収できる旨記載されているが、大豆粗抽出物中のエタノール可溶性の不純物までも濾液中に流出し回収されてしまうため、イソフラボンあるいはその誘導体の収率などの点で更なる改良の余地があり、また得られたイソフラボンあるいはその誘導体の包接物は、次いで、糖および糖転移酵素の存在下にα−グルコシル化して用いようとすると、含まれているエタノールが酵素活性を阻害するため、酵素処理に先立ちエタノールを揮散・除去しておく必要がある。また、特開平10−298175号公報に記載の方法では、上記特開2002−155072号公報にも記載されているように、約10%程度回収できるに過ぎず、イソフラボンあるいはその誘導体の収率の点で更なる改良の余地がある。
【0013】
なお、特開2000−327691号公報(特許文献6)には、大豆及び/または大豆加工品からpH8以上のアルカリ性溶液でイソフラボン誘導体を抽出し、あるいは熱水または有機溶媒でイソフラボン誘導体を抽出し、次いで、α−グリコシル糖化合物と糖転移酵素を作用させα−グリコシルイソフラボン誘導体を生成した後、pH5.5以下の酸性にするか冷却することにより不純物を沈澱として除去する、大豆由来イソフラボン誘導体またはそのアグリコンの製造方法が記載されている。
【0014】
しかしながら、この公報(特開2000−327691号公報)に記載の方法では、得られた大豆由来α−グルコシルイソフラボン誘導体は、イソフラボンおよびその誘導体以外の大豆不純物を含みアルカリ側で酵素反応を行っているため、不純物に由来する色価が高く、また分解反応も起こりやすく、改良の余地があった。
【0015】
【特許文献1】特開昭62−126186号公報
【特許文献2】特開平11−263786号公報
【特許文献3】特開2002−155072号公報
【特許文献4】特開平10−298175号公報
【特許文献5】特開平9−309902号公報
【特許文献6】特開2000−327691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、体内に速やかに吸収され、かつより長期間に亘り体内に高濃度で止まることができ、骨密度の向上、骨粗鬆症の予防・治療などの効果が期待でき、骨密度向上剤などの医薬品として利用でき、さらに一般飲食物、健康食品、機能性食品あるいは飼料に添加して用いることにより、骨代謝の改善をバランスよく効率的に図ることができる酵素処理イソフラボン類組成物(イソフラボン誘導体組成物)を提供することを目的としている。
【0017】
本発明は、水可溶性イソフラボン組成物の特性を生かした化粧品など、水可溶性イソフラボン組成物の好適な用途を提供することを目的としている。
【0018】
本発明は、原料として大豆イソフラボン類を含む大豆イソフラボン抽出物を用いて、酵素処理されたイソフラボン類を高収率で製造し得るような、酵素処理イソフラボン類の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、鋭意研究を進めた結果、驚くべきことに特定組成比のフラボノイド類を摂取すると、従来のフラボノイド類を摂取する場合に比して、より長期間に亘って体内に止まり、骨密度の向上、骨粗鬆症の予防・治療などに効果が期待できること、また、上記特定組成比のフラボノイド類は、骨密度向上剤などの医薬品として利用でき、さらに一般飲食物、健康食品、機能性食品および飼料に添加して用いることにより、骨代謝の改善をバランスよく効率的に図ることができることなどを見出して本発明を完成するに至った。
【0020】
さらに、本発明者らは、水可溶性イソフラボン組成物の調製に好適に用い得るイソフラボン誘導体自体の抽出効率を上げるべく鋭意研究を重ねた結果、大豆イソフラボン類を含む粗大豆抽出物からイソフラボン類を抽出するに際して、特開2002−155072号公報に示すようにエタノールを用いるのではなくアルカリを用い、またサイクロデキストリンによる包接後は、不純物を酸の存在下に沈殿させると、濾別にて効率よく濾液からイソフラボン類を分取でき、さらに必要により、容易に酵素処理反応を行って水可溶性イソフラボン組成物あるいはその調製用などとして好適に用いることもできることなどを見出して本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0021】
本発明に係る水可溶性イソフラボン組成物は、α−グルコシルイソフラボンと、イソフラボンと、必要によりイソフラボンアグリコンとを含むイソフラボン組成物であって、
α−グルコシルイソフラボン中のアグリコン量に対する、イソフラボンとイソフラボンアグリコンとの合計中に含まれるアグリコン量の比=[α−グルコシルイソフラボン中のアグリコン量/(イソフラボン中のアグリコン量+イソフラボンアグリコン量)]が、2.5/1以上、好ましくは5/1以上であることを特徴としている。
【0022】
本発明に係る水可溶性イソフラボン組成物は、α−グルコシルイソフラボンとイソフラボンとイソフラボンアグリコンとを含むイソフラボン組成物であって、該組成物中のイソフラボンアグリコン量が、該組成物中の全アグリコン量の0.01〜20%であることを特徴としている。
【0023】
本発明においては、上記α−グルコシルイソフラボンは、イソフラボンにグルコースがα−結合にて平均2.0〜20個付加したものであることが望ましい。
【0024】
本発明においては、上記イソフラボン組成物は、α−グルコシルイソフラボンと、イソフラボンと、イソフラボンアグリコンとを含むことが好ましい。
【0025】
本発明においては、上記α−グルコシルイソフラボンが、イソフラボン及びイソフラボン誘導体を含む組成物に、サイクロデキストリンと糖転移酵素とを作用させて得られたものであることが好ましい。
【0026】
本発明においては、上記α−グルコシルイソフラボンが、イソフラボン及びイソフラボン誘導体を含む組成物に、サイクロデキストリンを作用させ、次いで、酸性条件下に冷却して生じた沈殿物を濾別除去した後、糖転移酵素を作用させることにより得られたものであることが好ましい。
【0027】
本発明においては、上記何れの態様においても、上記サイクロデキストリンが、β−サイクロデキストリンまたは分岐β−サイクロデキストリンであることが水可溶性良好のものが得られるため好ましい。
【0028】
本発明に係る飲食物、化粧品、医薬又は飼料は、上記の何れかに記載の水可溶性イソフラボン組成物を含むことを特徴としている。
【0029】
本発明においては、上記飲食物が酸性飲料であることが好ましい。
【0030】
本発明においては、上記飲食物は、さらに、酵素処理ヘスペリジンおよび/または酵素処理ルチンを含んでいてもよい。
【0031】
本発明においては、大豆イソフラボン抽出物を水又は水性媒体に懸濁させ、得られた懸濁液にサイクロデキストリンを加え、40〜100℃に加熱してサイクロデキストリンを溶解させた後、得られた溶液に、アルカリを添加混合してpH8〜13に調整してイソフラボン類を溶解させると共に、イソフラボン類をサイクロデキストリンに包接させ、次いで、
サイクロデキストリンに包接されたイソフラボン類の含有液に、酸を添加混合してpH5.5〜2.0に調整した後降温し、生じた沈殿物を濾過にて除去し、得られた濾液を、次いで、pH5.0〜7.0に調整して、濾液中に含まれているイソフラボン類の酵素処理を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、体内に速やかに吸収され即効性を有し、かつより長期間に亘り体内に高濃度で止まることができ効果の持続性を有し、骨密度の向上、骨粗鬆症の予防・治療などのより優れた効果が期待でき、骨密度向上剤などの医薬品として利用でき、さらに一般飲食物、健康食品、機能性食品あるいは飼料に添加して用いることにより、骨代謝の改善をバランスよく効率的に図ることができる水可溶性イソフラボン組成物(酵素処理イソフラボン類組成物)が提供される。
【0033】
本発明によれば、水可溶性イソフラボン組成物の特性を生かした用途である飲食物、化粧品、医薬品、飼料などが提供される。
【0034】
本発明によれば、原料として(粗)大豆イソフラボン抽出物を用いて、酵素処理イソフラボン類を製造するに際して、粗大豆イソフラボン抽出物からエタノール溶解に依らずに、アルカリを用いてイソフラボン類の溶解、抽出などを行っているため、イソフラボン類の酵素処理に先立つエタノールの除去工程が不要であり、より少ない工程数で、効率よく酵素処理イソフラボン類を製造でき、しかも、エタノールを使用しないため、抽出液(溶解液)中にエタノール可溶性の不純物の流入がなく、高収率で高純度の酵素処理イソフラボン類を製造し得るような、酵素処理イソフラボン類の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明に係る水可溶性イソフラボン組成物およびその製造方法並びにその用途について、具体的に説明する。
【0036】
<水可溶性イソフラボン組成物>
本発明に係る水可溶性イソフラボン組成物は、α−グルコシルイソフラボンと、イソフラボンと、必要によりイソフラボンアグリコンとを含み、
α−グルコシルイソフラボン中のアグリコン量に対する、イソフラボンとイソフラボンアグリコンとの合計中に含まれるアグリコンの量の比(Cg)=[α−グルコシルイソフラボン中のアグリコン量/(イソフラボン中のアグリコン量+イソフラボンアグリコン量)]が、2.5/1以上であることが水溶液中での安定性と、経口摂取時の吸収における即効性と、吸収後の薬効の持続性の点から望ましい。
【0037】
なお、アグリコン量比は、重量比、モル比の何れでもよいが、特に断らない限り重量比で示す。また、上記アグリコン量比(Cg)の算出等に際し、α−グルコシルイソフラボン中のアグリコン量、イソフラボン中のアグリコン量、イソフラボンアグリコン中のアグリコン量等は、何れも、ゲニステインに換算して求める。
【0038】
なお、このアグリコン量比(Cg)の上限値は、通常25/1かそれ以下であることが、該組成物が体内に速やかに吸収され即効性を有し、かつより長期間に亘り体内に高濃度で止まることができ効果の持続性を有し、骨密度の向上、骨粗鬆症の予防・治療などのより優れた効果が期待でき、骨密度向上剤などの医薬品として利用でき、さらに一般飲食物、健康食品、機能性食品あるいは飼料に添加して用いることにより、骨代謝の改善をバランスよく効率的に図ることができる点から望ましい。
【0039】
なお、このイソフラボン組成物中の上記アグリコン量比(Cg)(重量比)が2.5/1未満では、該組成物の溶液安定性が低くなることから、特に飲料等の液体中での使用に好ましくない。
【0040】
また本発明では、上記α−グルコシルイソフラボンにおいて、イソフラボンにα−結合したグルコース(G)の数が平均2.0〜20個であることが該組成物中のイソフラボンとイソフラボンアグリコンが水溶液中での安定性を保つことができる点から望ましい。
【0041】
本発明に係る上記イソフラボン組成物には、α−グルコシルイソフラボンとイソフラボンとが必須成分として含まれているが、その好ましい態様においては、α−グルコシルイソフラボンと、イソフラボンと、イソフラボンアグリコンとが含まれていることが上記効果、すなわち、体内により速やかに吸収され強い即効性を有し、かつより長期間に亘り体内に高濃度で止まることができ効果のより優れた持続性を有し、骨密度の向上、骨粗鬆症の予防・治療などのより優れた効果が期待でき、骨密度向上剤などの医薬品として利用でき、さらに一般飲食物、健康食品、機能性食品あるいは飼料に添加して用いることにより、骨代謝の改善をバランスよく効率的に図ることができる点から望ましい。
【0042】
本発明に係る上記イソフラボン組成物には、上記α−グルコシルイソフラボンと、イソフラボンと、必要により含まれるイソフラボンアグリコン以外に、デキストリン(サイクロデキストリン(CD)を含む。)、オリゴ糖などの糖類、タンパク質、ペプチド、他のフラボノイド類などが、本発明の目的に反しない範囲で含まれていてもよい。
【0043】
なお、イソフラボンアグリコンは、下記式[I]:
【0044】

【0045】
【表1】

【0046】
で表されるイソフラボンにおいて、その基RがHである構造のものである。(式[I]中、R、R、Rの定義は、上記表1の通りである。)
本発明では、α−グルコシルイソフラボンの付加糖数(付加グルコース数)(n)、すなわち、上記式[I]の化合物におけるRが、α−結合で連なる複数のグルコースからなる場合にこのα−結合にて付加したグルコースの数が、平均2.0個以上であることが、本発明のイソフラボン組成物の水可溶性の向上、該組成物中のイソフラボンとイソフラボンアグリコンの水溶液中での安定性を保つ点から望ましい。なお、該α−グルコシルイソフラボンの付加糖数(n)の上限値は、特に限定されないが、通常、20個程度までである。
【0047】
このようなアグリコン量比(Cg)のイソフラボン組成物を得るには、α−グルコシルイソフラボンと、イソフラボンと、必要により用いられるイソフラボンアグリコンとを、(Cg)=[α−グルコシルイソフラボンのアグリコン/(イソフラボンのアグリコン−イソフラボンアグリコン)](重量比)で2.5/1以上となるようにこれら成分を配合するか、あるいはイソフラボンのα−グルコシル化反応等を実施すればよい。
【0048】
なお、重量比では、α−グルコシルイソフラボンにおける付加糖数が多いほど、単位α−グルコシルイソフラボン重量におけるアグリコン重量の割合は減るから、その付加糖数を考慮して、α−グルコシルイソフラボン重量を増加させる必要がある。
【0049】
また、本発明では、上記α−グルコシルイソフラボンが、後述するように、イソフラボン及びイソフラボン誘導体を含む組成物に、サイクロデキストリンを作用させ、次いで、酸性条件下に冷却して生じた沈殿物を濾別除去した後、イソフラボン及びイソフラボン誘導体を含む濾液にpH5.0〜7.0で糖転移酵素を作用させることにより得られたものであると、イソフラボン及びイソフラボン誘導体の分解がほとんど生じず、収率良くα−グルコシルイソフラボン及びその組成物が得られることから好ましい。
【0050】
本発明では、上記サイクロデキストリンとしては、α−タイプ、β−タイプ、γ−タイプが挙げられる。これらのうちでは、β−サイクロデキストリンまたは分岐β−サイクロデキストリンが、イソフラボンを効率よく包接し、安定化させることから、該組成物の製造上好ましい。
【0051】
また、本発明に係る水可溶性イソフラボン組成物は、α−グルコシルイソフラボンとイソフラボンとイソフラボンアグリコンとを含むイソフラボン組成物であって、該組成物中のイソフラボンアグリコン量が、該組成物中の全アグリコン量の0.01〜20%であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜10.0%であることが望ましい。
【0052】
このような量でイソフラボンアグリコンを含む水可溶性イソフラボン組成物は、特に即効性と持続性に優れる傾向がある。なお、このイソフラボンアグリコン量が特に0.01%に満たないと即効性に欠ける傾向があり、また20%を超えると溶液中で沈殿を生じやすい傾向にある。
【0053】
<用途(飲食物、医薬など)>
本発明に係る飲食物、化粧品、医薬又は飼料(これらをまとめて、「飲食物等」ともいう。)は、上記の水可溶性イソフラボン組成物を含むことを特徴としている。
【0054】
例えば、この飲食物中に含まれる水可溶性イソフラボン組成物は、水可溶性に優れ、例えば、5℃の水1リットルに、1gの量で溶解させることができ、呈味は良好であり、苦味、渋味、収斂味などの異味が殆どない。
【0055】
またこの飲食物中に含まれる水可溶性イソフラボン組成物は、水や、天然ジュース、コーヒー、ウーロン茶、紅茶、麦茶、緑茶、コーラ、ラムネ、サイダー、ミルクココア、ココアなどの清涼飲料、加工乳、発酵乳、乳製品、乳酸菌飲料などの水性飲料;
みそ、醤油、そばつゆ、めんつゆ、焼き肉のたれ、だし汁、ソース、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシング等の液体または半固体の調味料;
ゼリー、プリン等の水性菓子;
などへの溶解性に優れており、その配合量は、特に限定されず、飲食物の種類などに応じて適宜設定できる。
【0056】
これらの飲食物のうちでは、特に酸性飲料に対する溶解性に優れ、例えば、柑橘ジュース、リンゴジュース、トマトジュース、パイナップルジュース、コーラ、乳酸菌飲料などの酸性飲料1リットル中に、0.001〜10gの量で用いることが好ましい。
【0057】
このような飲食物、あるいは化粧品、医薬又は飼料は、さらに酵素処理ヘスペリジンおよび/または酵素処理ルチンを水可溶性イソフラボン組成物に対して任意の割合で含んでいてもよい。この酵素処理ヘスペリジンと上記水可溶性イソフラボン組成物、または酵素処理ヘスペリジンと酵素処理ルチンと上記水可溶性イソフラボン組成物を含む飲食物は、骨粗鬆症の予防および改善効果、循環器疾患の改善という点で優れている。
【0058】
本発明に係る水可溶性イソフラボン組成物は、経口摂取すると、体内に速やかに吸収される即効性を有し、かつより長期間に亘り体内に高濃度で止まることができ効果の持続性を有し、骨密度の向上、骨粗鬆症の予防・治療などのより優れた効果が期待でき、骨密度向上剤、骨粗鬆症予防・治療剤、更年期障害予防・治療剤、ガン細胞増殖抑制剤などの医薬品として利用できる。
【0059】
このように上記用途の医薬品あるいは健康食品などとして、水可溶性イソフラボン組成物を用いる場合には、体重1kg当たり、0.0002〜2g/日の量で経口摂取すればよい。
【0060】
この水可溶性イソフラボン組成物を、さらに一般飲食物、健康食品、機能性食品、嗜好品、飼料、医薬部外品などに任意量で添加して用いることにより、骨代謝の改善などをバランスよく効率的に図ることができる。
【0061】
一般飲食物としては、より具体的には、例えば、菓子、洋菓子、氷菓、シロップ、果実加工品、野菜加工品、漬け物、魚肉、ハム、ソーセージ、缶詰、瓶詰め品、酒類等;嗜好品としては、タバコ、ガム等;飼料としては、家畜、家禽、魚、ペットなどの飼料、餌等;化粧品としては、口紅、リップクリーム、化粧水、乳液、クリーム等の美容液や整髪料等;医薬部外品としては、練り歯磨きなどが挙げられる。
【0062】
このように本発明の水可溶性イソフラボン組成物を、上記用途に経口剤、外用剤、薬用剤として用い、また各種食品用、化粧品用、飼料用の添加剤として用いてもよい。
【0063】
<水可溶性イソフラボン組成物の製造>
本発明に係る水可溶性イソフラボン組成物は、大豆イソフラボン類を0.05〜0.35%(重量%)の量で含む大豆胚芽、大豆粉、脱脂加工大豆、きな粉、豆乳、おから等の粗大豆抽出物(粗大豆加工品)を用いることもできるが、好ましくはイソフラボンを5〜90%含有する大豆イソフラボン抽出物を用い、まず大豆イソフラボン抽出物を水あるいは水性媒体1リットル当たり、1〜200g程度加え混合し、次いで、得られた懸濁液に前記サイクロデキストリン、好ましくは優れた溶解性、経済性の点からβ−サイクロデキストリンまたは分岐β−サイクロデキストリンを加え、40〜100℃に加熱してサイクロデキストリンを溶解させる。
【0064】
この際のサイクロデキストリン使用量は、懸濁液1リットル当たり、0.1〜4000g、好ましくは1〜2000gの量で用いられる。
【0065】
このように懸濁液にサイクロデキストリンを溶解させた後、得られた溶液に、アルカリを添加混合してpH8〜13、好ましくはpH9〜12に調整してイソフラボン類を溶解させると共に、イソフラボン類をサイクロデキストリンに包接させる。
【0066】
アルカリとしては、KOH、NaOH、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0067】
なお、イソフラボン類がサイクロデキストリンに包接されたことは、懸濁液が透明になることから確認できる。
【0068】
次いで、本発明では、サイクロデキストリンに包接されたイソフラボン類の含有液に、酸を添加混合してpH5.5〜2.0、好ましくはpH4.5〜3.0に調整した後、通常、1〜60℃、好ましくは13〜20℃に降温して沈殿を生じさせる。酸としては、有機酸でも無機酸でもよく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、クエン酸等が挙げられる。
【0069】
次いで、生じた沈殿物を濾過にて除去し、さらに、下記のように酵素処理して水可溶性イソフラボン組成物を調製する。
【0070】
すなわち、本発明では、上記のように沈殿物を濾過にて除去して得られた上記濾液を酵素活性の良好な条件である、pH5.0〜9.0、好ましくはpH5.5〜7.0に調整して、常法により酵素処理を行う。
【0071】
このようにサイクロデキストリンに包接されたイソフラボン類の酵素処理を行なうと、イソフラボン類にサイクロデキストリン由来の糖が転移される。この糖は、通常、イソフラボン類を包接しているサイクロデキストリンの一部(あるいは全部)を利用すればよいが、酵素処理に際し、新たに澱粉やその部分分解物、糖などを添加し、これを糖転移に利用してもよい。
【0072】
酵素としては、イソフラボン類に糖転移可能な酵素であれば特に制限されないが、本発明では、バチルス・ステアロサーモフィラスやバチルス・マセランス等バチルス属の微生物由来のサイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase)などが好ましく使用でき、バチルス・ステアロサーモフィラス由来のCGTaseが糖転移効率が高い点からより好ましい。その他に、バチルス・メガテリウム、バチルス・サーキュランス等の同じバチルス属に属する微生物由来のCGTaseも使用できる。本発明では、2種以上の酵素を併用してもよい。酵素使用量、酵素処理条件(温度、水量、pH、時間)などは、常法によればよい。
【0073】
このように酵素処理された水可溶性イソフラボン組成物は、酵素処理前のイソフラボン類と同様の生理活性を有し、水可溶性の点で未処理物に比して、非常に優れている。
【0074】
このように酵素処理された水可溶性イソフラボン組成物は、必要により、予め10〜99.5%(重量%)エタノールなどの含水有機溶媒、有機溶媒などで活性化された無極性多孔性吸着樹脂に、上記酵素処理イソフラボン類の水溶液として通液し、水洗した後、10〜99.5%(重量%)エタノールなどの含水有機溶媒、有機溶媒などを通液して、吸着しているイソフラボン類を溶出させ、溶出液を回収し、溶媒を留去した後、凍結乾燥等してもよい。このように、多孔性吸着樹脂による処理を行うと、酵素処理イソフラボン類の「総イソフラボン含量」(定義は後述する。)は、通常20〜80%程度にまで高めることができる。なお、多孔性吸着樹脂としては、特開2000−327691号公報第4頁[0009]欄に記載のもの、例えば、「ダイヤイオンHP」、「デュオライトS」、「アンバーライトXAD」等を使用すればよい。また、このように多孔性吸着樹脂を使用して総イソフラボン含量を高める代わりに、クロマト分離により総イソフラボン含量を高めても良い。
【0075】
この水可溶性イソフラボン組成物(乾燥固形物)中の総イソフラボン含量は、通常、5〜90%、好ましくは20〜40%であることが前記比(Cg)を好ましい範囲に維持する点から望ましい。
【0076】
本発明の水可溶性イソフラボン組成物の製造においては、酵素反応に供するイソフラボン類の溶解用としてエタノールを使用していないため、その後の酵素処理に先立ち、酵素活性を阻害するエタノールの除去工程が不要化できる。その結果、より少ない工程数で、効率よく水可溶性イソフラボン組成物を製造できる。
【0077】
さらに、本発明では、大豆イソフラボン抽出物(抽出液)を用いた水可溶性イソフラボン組成物の製造工程でこのようにエタノールを使用しないため、抽出液中にエタノール可溶性の不純物の流入がなく、高収率でα−グルコシルイソフラボンを製造し得るような、水可溶性イソフラボン組成物の製造方法が提供される。
【0078】
本発明の水可溶性イソフラボン組成物では、該組成物中に含まれるα−グルコシルイソフラボンの平均付加糖数(n)が、2.0個以上であることが望ましい。
【0079】
上記のようにして得られた水可溶性イソフラボン組成物は、前記イソフラボン組成物中の上記アグリコン量比(Cg)が2.5/1以上となるようにそのままで用い、またはα−グルコシルイソフラボンとイソフラボンアグリコンとイソフラボンとを適宜配合すればよい。なお、このアグリコン量比(Cg)の上限値は特に限定されないが通常25/1程度である。
【0080】
本発明に係る上記水可溶性イソフラボン組成物は、その好ましい態様においては、α−グルコシルイソフラボンとイソフラボンとイソフラボンアグリコンとを含むイソフラボン組成物であって、該組成物中のイソフラボンアグリコン量が、前述したように、該組成物中の全アグリコン量の0.01〜20%であることが好ましいが、このようにイソフラボンアグリコン量を調整するには、例えば、酵素処理イソフラボン中に含まれるα−グルコシルイソフラボンとイソフラボン中のアグリコン量に対して、所定量となるように既知のイソフラボンアグリコンを添加し、アルカリ溶解した後、所望のpHに調整すればよい。
【0081】
以下、本発明について実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、係る実施例により何ら限定されるものではない。
【0082】
以下の実施例、比較例などで、「%」は、特に断らない限り、「重量%」の意味である。
【0083】
<総イソフラボン含量の測定>
総イソフラボン含量(イソフラボン含量(単位:重量%)の総和を意味する。)は、酵素処理イソフラボンの場合は、糖転移酵素(CGTase)の作用によりイソフラボンに付加されている糖を加水分解酵素(グルコアミラーゼ)で外して測定する。
【0084】
具体的には、試料の酵素処理イソフラボン1gを25℃の水0.1リットルに溶解し、グルコアミラーゼを0.01g添加した後、pH5.0、温度50℃の条件で3時間反応させて、酵素処理イソフラボン中のα−1,4結合で結合している糖(G)を加水分解させてから、既知の方法((財)日本健康・栄養食品協会発行、健康補助食品規格規準集に記載された、大豆イソフラボンの試験方法に準拠)に基づき、下記の条件下でHPLC(高速液体クロマトグラフィー)にてイソフラボン量を測定する。
【0085】
HPLC条件
使用機器:Waters996(ウォーターズ社製)
使用カラム:資生堂カプセルパックODS−C18 UG120(250mm×4.6mmI.D.)
カラム温度:40℃
流速:1.0ml/min.
溶離液:水/メタノール/酢酸=65/30/5(v/v/v)
検出:UV 254nm
注入量:10μl
【0086】
<付加糖数の測定>
酵素処理イソフラボン5gを25℃のイオン交換水50mlに溶解し、吸着樹脂50mlに通液・水洗してα−グルコシルイソフラボン以外の物質を除去する。吸着画分を60%エタノール150mlで脱着し、アルコールを留去した後、グルコアミラーゼを0.01g添加して、pH5.0、温度50℃で5時間作用させる。
【0087】
グルコアミラーゼ処理した液は、水を用いて同様の処理した液をブランクとし、市販のグルコース測定キット(ムタロターゼ・GOD法)により、グルコース量を求め、そのモル数を算出する(D)。
【0088】
一方、上述した総イソフラボン含量の測定方法で求めた酵素処理イソフラボン中の総イソフラボン量をゲニスチンに換算し、そのモル数を求める(E)。
【0089】
平均付加糖数(個)は、(D)を(E)で割る、次式により求める。
付加糖数(個)=D/E
【0090】
<(Cg)の測定>
試料A:0.05gを25℃のイオン交換水100mlに溶解し、総イソフラボン含量の測定の項目で既述したHPLC条件と同じ条件で測定する。(財)日本健康・栄養食品協会発行の健康補助食品規格基準集の「大豆イソフラボンの試験方法」に基づき、試料中のイソフラボン(F)およびイソフラボンアグリコン(G)を、標準としてダイズイン標準品を使用し、ゲニステインとしてアグリコン量を求める。すなわち、アグリコン量は、ゲニステインに換算して求めた量である。
【0091】
また、上述した総イソフラボン含量の測定方法に従い、試料中の総イソフラボンをゲニステインとして測定し、これより、上記(F)および(G)を引いた値をα−グルコシルイソフラボンのアグリコン量とする。
【実施例1】
【0092】
<サイクロデキストリンによる包接工程>
40%(重量%)の量でイソフラボンを含む大豆イソフラボン抽出物3gを600mlのイオン交換水に懸濁させた。次に、得られた懸濁液にβ−サイクロデキストリン27gを加え、70℃に加温し、β−サイクロデキストリンを溶解させた。この溶液に、濃度15%の水酸化ナトリウム水溶液を9ml添加混合しpH11.3に調整してイソフラボンを完全に溶解し、イソフラボンをβ−サイクロデキストリンに包接させた。
【0093】
次に、β−サイクロデキストリンに包接されたイソフラボンの含有液に、濃度20%の硫酸5.5mlを60℃で添加混合してpH4.0に調整した後降温し、液温が12℃になるまで冷却した。
【0094】
その結果生じた沈殿物を濾過にて取り除き、濾液を分取した。(これを、「試料C」ともいう。)
<酵素処理反応工程(酵素処理)>
得られた濾液を、15%水酸化ナトリウム溶液1mlを用いてpH5.5に調整した。
【0095】
次いで、この濾液610mlにバチルス・ステアロサーモフィラス由来のサイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ[(株)林原生物化学研究所製、0.3ml]を添加して60℃で一晩加温し、イソフラボンに糖を転移反応させた。
【0096】
なお、イソフラボンに、糖が転移したことは、HPLCにより確認した。
【0097】
このようにイソフラボンへの糖の転移反応を行った後、反応液を90℃以上の温度で1時間加温し酵素を失活させた。その後、濾過を行った。分取された濾液を濃縮後に凍結乾燥し、乾燥物27.6gを得た。
該乾燥物中の「総イソフラボン含量」は4.02%であった。
【0098】
<多孔性吸着樹脂による精製工程>
次いで、予め50%エタノールを通液して活性化させた無極性多孔性吸着樹脂(オルガノ(株)製、型番:XAD−7)に、上記乾燥物の水溶液(濃度:5.5重量%)500mlを通液してイソフラボン類を該樹脂に吸着させた後、1000mlの水を流下させて該樹脂を水洗し、サイクロデキストリン(CD)およびCD分解物を溶出・除去した。その後、50%エタノールを通液して吸着していたイソフラボン類を溶出させた。イソフラボンを含んだ出液を回収し、出液中のアルコールを留去した後、凍結乾燥させ、固形物3.5gを得た。本品(水可溶性イソフラボン組成物)の総イソフラボン含量は35.8%であった(これを「試料A」とする)。本品を分析したところ、α−グルコシルイソフラボン(イソフラボンとして)29.2%(アグリコンとして18.3%)、イソフラボン6.6%(アグリコンとして4.1%)、イソフラボンアグリコン0%であり、平均付加糖数は、3.6であった。
【0099】
[比較例1]
<サイクロデキストリンによる包接工程>
総イソフラボン含量40%の大豆イソフラボン抽出物1.2gに、濃度約30%のエタノール水溶液38mlを添加して混合し、次いで、この大豆イソフラボン抽出物の9倍量のβ−サイクロデキストリン10.8gを添加した後、攪拌下に60℃に加熱して、その温度で30分間保持して、イソフラボン類をβ−サイクロデキストリンに包接させた。
【0100】
次いで、常温(25℃)まで放冷した後に濾過した。分取された濾液よりエタノールを留去させ、濃縮乾固して固形物2.67gを得た(特開2002−155072号公報に準拠。)(試料Bとする)。
【0101】
得られた固形物のHPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析を行い、総イソフラボン含量を求めたところ、3.85%となった。
<酵素処理反応工程>
次いで、上記試料Bを用いて、サイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させて酵素処理反応を行なう際に、溶媒が30%エタノールの場合は酵素の作用が低下し、酵素処理がほとんど進行せず、酵素処理前にエタノールを留去する必要があった。
【0102】
また本発明の実施例1における、大豆イソフラボン抽出物1.2gをpH8以上にして溶解し、β−サイクロデキストリン10.8gに包接させ酸性域に戻した後に濾過をした、実施例1における酵素処理直前のもの(試料C)を、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析したところ、試料Cの総イソフラボン含量は4.12%となった。
【0103】
試料Bと試料Cの総イソフラボン量を比較検討した。
<考察>
(1)総イソフラボン含量は、HPLC分析の結果、30%エタノールを溶媒として包接させた試料Bの総イソフラボン含量3.85%に対して、本発明の試料Cの総イソフラボン含量は4.12%と、総イソフラボン含量が高い。その理由は、試料Bでは大豆イソフラボン抽出物のエタノール可溶性の不純物が濾液中に流出し回収されてしまうが、試料Cでは調整時にエタノールを使わないため、濾液中への不純物の混入が抑えられて総イソフラボン含量が高くなったものと思われる。
【0104】
(2)比較例1では、サイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させて酵素処理反応を行なう際に、溶媒が30%エタノールの場合は酵素の作用が低下し、酵素処理がほとんど進行せず、酵素処理前にエタノールを留去する必要があった。
これに対し、本発明の実施例1では、pH8以上にしてイソフラボンを溶解してサイクロデキストリンで包接させたのち、中性域にpH調整しており、エタノールを留去する必要が無く、そのまま酵素反応へと進めることができるため、酵素処理反応の工程をより簡便にすることができるという利点がある。
【0105】
[血中動態試験]
(i)5週齢のSprague−Dawley(SD)系の雄ラット(体重範囲:108〜134g)を日本チャールズリバー株式会社より購入し、7日間の検疫を行ない、検疫期間終了後に用いた。
(ii)ラットは、室温22±3℃、相対湿度50±20%、換気回数10回以上/時間(オールフレッシュエアー方式)、照明12時間/日(午前6時より午後6時まで照明、150〜300ルクス)に設定した飼育室で、ステンレス製のラット用ブラケットケージ、1ケージあたり1匹ずつ収容し、飼育した。
(iii)飼料は、精製飼料(AIN−76A配合固形飼料、オリエンタル酵母株式会社製)をケージ付属の給餌器により与え、入荷時から自由摂取させた。また、飲料水は自家用水道水をポリカーボネイト製給水瓶により与え、自由摂取させた。
(iv)群分けは、健康状態を評価し健康な動物の中から体重の層別無作為化法により9匹づつ3群に配分し、各群の平均体重ができるだけ等しくなるようにした。投与開始日のラットの週齢は6週齢、体重範囲は137〜179gであった。
(v)群構成は、酵素処理イソフラボン投与群、イソフラボンのアグリコン投与群、α−グルコシルイソフラボン/(イソフラボン+イソフラボンのアグリコン)のアグリコン重量比が3.6/1の混合試料投与群の3群構成とした。
【0106】
被験物質として、イソフラボンのアグリコンには、「ソイアクトW」(イソフラボンのアグリコン33.3%含有、キッコーマン株式会社 製)を使用し、酵素処理イソフラボンには、実施例1で作った「試料A」を用いた。
【0107】
混合試料は、試料AとソイアクトWをアルカリ溶解し、pH5.5に調整したものを使用した。
【0108】
【表2】

【0109】
(vi)被験物質は、それぞれ0.5%カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)水溶液に懸濁、または溶解した。これを18時間の絶食を行なったラットに、ラット用経口ゾンデを用いてラット体重あたり50μmolとなるように強制経口投与した。投与24時間後の採血、および尿の採取まで、給餌は行なわず給水のみとした。
(vii)被験物質投与前(以下0時間とする)、および投与から0.5、1、2、4、8、12、16、24時間後に頚静脈より2mlづつ採血し、それぞれプラスチックチューブに入れ、ハイキャパシティ冷却遠心器(株式会社久保田製作所製)により遠心分離(3500×G、4℃、10分間)をし、血漿を分離した。また、24時間尿を採取して尿量を測定し、血液と同様に遠心分離した。得られた血漿、および24時間尿は分析するまでサンヨー超低温フリーザー(三洋電機株式会社製)にて−80℃で冷凍保存した。
(viii)得られた血漿0.5mlと、1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)0.5mlを1.5ml容量のエッペンドルフチューブに取り、充分に攪拌した後に37℃で2分間、プレインキュベーションした。次に、β−グルクロニダーゼ/スルファターゼ(シグマ社製、Type−H−2;10500units/ml,4300units/ml)を、5.5×10units/ml、2×10units/mlになるように添加し、37℃で20分間インキュベーションした。その後、直ちに氷冷し、0.01Mシュウ酸0.5mlを加えて攪拌し、8000rpm、4℃で5分間遠心分離した。得られた上清を予めメタノールにて活性化させておいた「Sep−Pack C18 Cartridge」(ウォーターズ社製)に注入し、0.01Mシュウ酸1ml、イオン交換水10mlを順次に流して洗浄した。吸着物を25%メタノール5ml、100%メタノール10mlで溶出し、試験管に分取した。
【0110】
これをロータリーエバポレーター(EYELAN−2、東京理化器械株式会社製)を用いて減圧乾固した。これを分析直前まで、サンヨー超低温フリーザー(三洋電機株式会社製)にて−80℃で冷凍保存した。
(ix)HPLC分析は、得られた減圧乾固残留物に100%メタノール100μlを加えて溶解し、15000rpm、0℃で2分間遠心分離(SIGMA KUBOTA3615:株式会社久保田製作所製)してHPLC試料とし、以下に示すHPLC条件にて分析し、定量した。
【0111】
なお、本分析では、標準物質として、ダイゼイン(関東化学製)、ゲニステイン(関東化学製)を用いてそれぞれの検量線を作成することにより定量し、ダイゼインとダイゼイン抱合体を併せてダイゼイン量として、同様にゲニステインとゲニステイン抱合体を併せてゲニステイン量として算出した。これらを合わせて、血中の総イソフラボン含量とした。(なお、上記ダイゼイン抱合体、ゲニステイン抱合体とは、ダイゼインやゲニステインのグルクロン酸抱合体や硫酸抱合体のことを意味する。)
その結果を図1および表3に示す。
【0112】
【表3】

【0113】
<HPLC条件>
前記に同じ。
すなわち、使用機器:Waters996(ウォーターズ社製)
使用カラム:資生堂カプセルパックODS−C18 UG(250mm×4.6mmI.D.)
カラム温度:40℃
流速:1.0ml/min.
溶離液:水/メタノール/酢酸=65/30/5(v/v/v)
検出:UV 254nm
注入量:10μl。
【0114】
<考察>
図1、および表3からもわかるように、本発明の「水可溶性イソフラボン組成物」、および「水可溶性イソフラボン組成物とイソフラボンアグリコンの混合物」は、イソフラボンアグリコンに比べ、血中での初期総イソフラボン濃度も高く、かつ高い総イソフラボン濃度を長時間維持(持続)できることがわかる。
【0115】
[溶解安定性試験1]
α−グルコシルイソフラボン中のアグリコン量に対する、イソフラボンとイソフラボンアグリコンとの合計中に含まれるアグリコン量の比(Cg)=[α−グルコシルイソフラボン中のアグリコン量/(イソフラボン中のアグリコン量+イソフラボンアグリコン量)]を、溶解安定性の点から調べた。
【0116】
被験物質として、イソフラボンアグリコンに「ソイアクトW」(イソフラボンアグリコン33.3%、キッコーマン株式会社製)を使用し、酵素処理イソフラボンには実施例1で作った「試料A」を用いた。
【0117】
これらを全アグリコン量として250ppmとなるように適宜量の水に分散し、15%水酸化ナトリウムにてpH12.0で溶解後、20%硫酸にて中和し組成比(Cg)が、2.0/1、2.5/1、3.0/1の試験液(サンプルSA、SB、SC)とした。
【0118】
結果を表4に示す。
【0119】
【表4】

【0120】
なお、表4中、「組成比(Cg)」は、[α−グルコシルイソフラボン中のアグリコン量/(イソフラボン中のアグリコン量+イソフラボンアグリコン量)]を示す。
【0121】
表4中の記号の意味は、以下の通り。
「−」:析出なし。「±」:僅かに析出する。「+」:析出する。
【0122】
[溶解安定性試験2]
即効性と持続性を有する組成物において、即効性の面からイソフラボンアグリコンの添加は、重要な要因となる。しかしその量が多くなり過ぎると析出が生じ、商品ライフに大きな影響をきたす結果となる。
【0123】
そこで、組成物中のイソフラボンアグリコン量と全アグリコン量との関係が長期保存下で析出にどのように影響するかを調べた。
【0124】
被験物質としてイソフラボンアグリコンに「ソイアクトW」(イソフラボンアグリコン33.3%、キッコーマン株式会社製)を使用し、酵素処理イソフラボンには実施例1で作った「試料A」を用いた。
【0125】
これらを全アグリコン量として250ppmとなるように適宜量の水に分散し、15%水酸化ナトリウムにてpH12.0で溶解後、20%硫酸にて中和し、重量比「イソフラボンアグリコン/全アグリコン」が表5に示すように、それぞれ3.0/100、10.0/100、20.0/100、30.0/100の試験液(サンプルSD〜SG)を調製した。該試験液を1ヶ月間、常温で保存し、保存に伴う析出の有無を調べた。
【0126】
結果を、表5に示す。
【0127】
【表5】

【0128】
表5中の記号の意味は、以下の通り。
「−」:析出なし。「±」:僅かに析出する。「+」:析出する。
【0129】
[飲食物の調製例1]
<清涼飲料>
表6に示す配合組成を有し、水可溶性イソフラボン組成物(Cg=4.0/1、イソフラボンアグリコン=2.2%)と他の骨密度改善効果を有する物質とを併含する清涼飲料を調製した。
【0130】
【表6】

【0131】
このように、水可溶性イソフラボン組成物と、他の骨密度改善効果を持つ成分と併用することによって、骨密度の維持・回復効果が期待できる清涼飲料が得られる。
【0132】
[飲食物の調製例2]
<オレンジジュース>
表7に示す配合組成を有し、水可溶性イソフラボン組成物(Cg=4.0/1、イソフラボンアグリコン=2.2%)を含有するオレンジジュース飲料を調製した。
【0133】
【表7】

【0134】
本製品(オレンジジュース)は、イソフラボンの沈殿を生じない果汁飲料として、骨粗鬆症を気にするヒトに好適に利用可能である。
【0135】
[飲食物の調製例3]
<乳酸飲料>
表8に示す配合組成を有し、水可溶性イソフラボン組成物(Cg=4.0/1、イソフラボンアグリコン=2.2%)を含有する乳酸飲料を調製した。
【0136】
【表8】

【0137】
この乳酸飲料は、pHが低い(酸性)にも拘わらず、析出の生じないイソフラボン含有乳酸飲料として利用できる。
【0138】
[飲食物の調製例4]
<ゼリー>
表9に示す配合組成を有し、水可溶性イソフラボン組成物(Cg=4.3/1、イソフラボンアグリコン=1.2%)を含有するゼリーを調製した。
【0139】
【表9】

【0140】
本製品(ゼリー)は、(半)固形物であるにも拘わらず濁りがなく、味質に影響のない澄明なイソフラボン含有ゼリーとして利用できる。
【0141】
[化粧料組成物の調製例1]
<含水化粧料>
表10に示す配合組成を有し、水可溶性イソフラボン組成物(Cg=4.3/1、イソフラボンアグリコン=1.2%)を含有する、弱酸性の柔軟化粧水を調製した。
【0142】
【表10】

【0143】
[化粧料組成物の調製例2]
<クリーム化粧料>
表11に示す配合組成を有し、水可溶性イソフラボン組成物(Cg=4.3/1、イソフラボンアグリコン=1.2%)を含有するクリーム化粧料を調製した。
【0144】
【表11】

【0145】
このクリーム化粧料は、イソフラボンの持つ「肌の老化を防ぐ」作用を持ちつつ、クリームとして安定している。
【0146】
また、クリームの配合組成を化粧水用に変えることにより、化粧水としても水可溶性の安定な商品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0147】
[図1]図1は、水可溶性イソフラボン組成物(◆)、「水可溶性イソフラボン組成物とイソフラボンアグリコンの混合物」である混合試料(■)、イソフラボンアグリコン(▲)を25時間に亘って、被験動物に経口投与し、投与開始からの経過時間(h)(横軸)と、血中総イソフラボン濃度(nmol/ml)(縦軸)との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0148】
▲・・・・・イソフラボンアグリコン投与群
■・・・・・混合試料投与群
◆・・・・・水可溶性イソフラボン組成物投与群
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−グルコシルイソフラボンと、イソフラボンと、必要によりイソフラボンアグリコンとを含むイソフラボン組成物であって、
α−グルコシルイソフラボン中のアグリコン量に対する、イソフラボンとイソフラボンアグリコンとの合計中に含まれるアグリコン量の比[α−グルコシルイソフラボン中のアグリコン量/(イソフラボン中のアグリコン量−イソフラボンアグリコン量)]が、2.5/1以上であることを特徴とする水可溶性イソフラボン組成物。
【請求項2】
α−グルコシルイソフラボンとイソフラボンとイソフラボンアグリコンとを含むイソフラボン組成物であって、該組成物中のイソフラボンアグリコン量が、該組成物中の全アグリコン量の0.01〜20%であることを特徴とする水可溶性イソフラボン組成物。
【請求項3】
上記α−グルコシルイソフラボンは、イソフラボンにα−結合にてグルコースが平均2.0〜20個付加したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の水可溶性イソフラボン組成物。
【請求項4】
上記イソフラボン組成物は、α−グルコシルイソフラボンと、イソフラボンと、イソフラボンアグリコンとを含むことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の水可溶性イソフラボン組成物。
【請求項5】
上記α−グルコシルイソフラボンは、イソフラボン及びイソフラボン誘導体を含む組成物に、サイクロデキストリン共存下で糖転移酵素を作用させて得られたものであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の水可溶性イソフラボン組成物。
【請求項6】
上記α−グルコシルイソフラボンは、イソフラボン及びイソフラボン誘導体を含む組成物に、サイクロデキストリンを作用させ、次いで、酸性条件下に冷却して生じた沈殿物を濾別除去した後、糖転移酵素を作用させることにより得られたものであることを特徴とする、請求項5に記載の水可溶性イソフラボン組成物。
【請求項7】
上記サイクロデキストリンは、β−サイクロデキストリンまたは分岐β−サイクロデキストリンであることを特徴とする請求項5または6に記載の水可溶性イソフラボン組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の水可溶性イソフラボン組成物を含むこと特徴とする飲食物、化粧品、医薬品または飼料。
【請求項9】
上記飲食物が酸性飲料であることを特徴とする請求項8に記載の飲食物、化粧品、医薬品または飼料。
【請求項10】
さらに、酵素処理ヘスペリジンおよび/または酵素処理ルチンを含むことを特徴とする請求項8または9に記載の飲食物、化粧品、医薬品または飼料。
【請求項11】
大豆イソフラボン抽出物を水又は水性媒体に懸濁させ、得られた懸濁液にサイクロデキストリンを加え、40〜100℃に加熱してサイクロデキストリンを溶解させた後、得られた溶液に、アルカリを添加混合してpH8〜13に調整してイソフラボン類を溶解させると共に、イソフラボン類をサイクロデキストリンに包接させ、次いで、
サイクロデキストリンに包接されたイソフラボン類の含有液に、酸を添加混合してpH5.5〜2.0に調整した後降温し、生じた沈殿物を濾過にて除去し、次いで、得られた濾液をpH5.0〜7.0に調整して、濾液中に含まれるイソフラボン類の酵素処理を行うことを特徴とする水可溶性イソフラボン組成物の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/103380
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506336(P2005−506336)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006726
【国際出願日】平成16年5月19日(2004.5.19)
【出願人】(591061068)東洋精糖株式会社 (17)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】