説明

水性フェノール樹脂組成物及びバインダー

【課題】 スチレン・ブタジエン系ラテックス(SBRラテックス)、ニトリル・ブタジエン系ラテックス(NBRラテックス)、メタクリル酸エステル・ブタジエン系ラテックス(MBRラテックス)等合成ゴムラテックスと混合出来、柔軟性の付与や風合いの改善、接着性の改善を行う事が出来、繊維状基材、ガラスロービングなど各種の基材への含浸やコーティング用として有用な水溶性フェノール樹脂組成物、これを含有するバインダーを提供すること。
【解決手段】 ホルムアルデヒド(F)に対するフェノール(P)のモル比(F/P)を1.0/1.0〜3.0/1.0とし、触媒として水酸化リチウムをフェノールに対して0.10〜0.50モル用いて反応させて得られた水溶性フェノール樹脂組成物と該水溶性フェノール樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性の付与、風合いの改善、接着性の改善可能な、バインダー用途に好適なスチレン・ブタジエン系ラテックス(SBRラテックス)、ニトリル・ブタジエン系ラテックス(NBRラテックス)、メタクリル酸エステル・ブタジエン系ラテックス(MBRラテックス)などの合成ゴムラテックスと水性フェノール樹脂とを含有した安定な組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂はその硬化物の耐熱性、機械的強度の高さなどにより、各種の基材に含浸或いは塗布されて使用されたり、各種有機、無機基材のバインダーとして使用されたりしている。この場合、接着性、風合い、耐久性等の特性向上の為フェノール樹脂の硬さ、脆さを改善する事も実用化されている。硬さや脆さを改善し柔軟化を達成する手段としてはフェノール樹脂をエポキシ樹脂や熱可塑性樹脂で変性する事や、使用時に混合する事が知られている。エポキシ樹脂や熱可塑性樹脂でフェノール樹脂を変性する事や混合する事を容易にする為、レゾール型フェノール樹脂にアルコールや、ケトン等の溶剤を加え、所謂溶剤可溶型の樹脂にする事が多い。しかしながら、溶剤を含んでいる場合は作業環境や外気への放出、引火に危険性があり防爆型の加工設備が必要とされ、溶剤型の樹脂は使用が制限される場合が多い。
【0003】
レゾール型フェノール樹脂を得る際の触媒として水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化バリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、トリエチルアミン、アンモニアなどのアミン類などのアルカリ条件下で反応する事が知られている。特に水溶性を保つ為には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどメチロール基を多く生成させ、フェノール性OH基とフェノラートを生成させる触媒が一般的である。
【0004】
また、水溶性の柔軟化剤としてスチレン・ブタジエン系ラテックス(SBRラテックス)、ニトリル・ブタジエン系ラテックス(NBRラテックス)、メタクリル酸エステル・ブタジエン系ラテックス(MBRラテックス)等の合成ゴムラテックス、水性のアクリル樹脂などを水性フェノール樹脂と混合して使用する必要が生じている。この場合、風合いの自由な調整や接着性を改善する為、混合使用するフェノール樹脂は完全な水溶性が求められる。この目的でフェノール樹脂を製造する際に乳化剤や保護コロイドを用いて転相乳化させる方法や、自己乳化性を持たせたフェノール系樹脂が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この様なフェノール樹脂系樹脂は乳化剤や保護コロイドを使用する為、接着性の低下など特性の低下が認められた。
【0005】
【特許文献1】特開平7−268181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、スチレン・ブタジエン系ラテックス(SBRラテックス)、ニトリル・ブタジエン系ラテックス(NBRラテックス)、メタクリル酸エステル・ブタジエン系ラテックス(MBRラテックス)等合成ゴムラテックスと混合出来、柔軟性の付与や風合いの改善、接着性の改善を行う事が出来、繊維状基材、ガラスロービングなど各種の基材への含浸やコーティング用として有用な水溶性フェノール樹脂組成物、これを含有するバインダーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく、鋭意検討の結果、レゾール型フェノール樹脂を得る際の触媒として、水酸化リチウムを必須成分として有する塩基性化合物を用いると、合成ゴムラテックスとの相溶性が良好であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、ホルムアルデヒド(F)に対するフェノール(P)のモル比(F/P)を1.0/1.0〜3.0/1.0とし、触媒として水酸化リチウムをフェノールに対して0.10〜0.50モル用いて反応させて得られた水溶性フェノール樹脂組成物と該水溶性フェノール樹脂組成物と合成ゴムラテックスとを含有するバインダーを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、乳化剤を用いることなく各種の合成ゴムラテックスとの相溶性に優れ、柔軟性、風合いの調整が容易であり、ガラス等の無機繊維状基材、アラミド繊維、アクリル繊維等の有機繊維基材処理用バインダーやコーティング剤、無機粉末状基材の接着剤、木材パルプなどのバインダーとして有用な水溶性組成物を提供する事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の水性フェノール樹脂組成物は、水溶性レゾール型フェノール樹脂を必須成分とするもので、その他の成分としては、たとえば、水、有機溶剤、後述する添加剤等を必要に応じて含有するものである。
【0011】
本発明に用いる水溶性レゾール型フェノール樹脂は、ホルムアルデヒド(F)、フェノール(P)を、触媒として特定量の水酸化リチウム或いは水酸化リチウムと水酸化カリウムを後述するモル比条件下で反応させレゾール化したものである。この際に、触媒として用いる水酸化リチウム或いは水酸化リチウムと水酸化カリウムが、フェノール樹脂の水酸基とフェノラートを形成し、これにより水溶化することが可能となっている。
【0012】
水溶性レゾール型フェノール樹脂を得る際の、ホルムアルデヒド(F)に対するフェノール(P)のモル比(F/Pモル比)は、1.0/1.0〜3.0/1.0であることが必要である。
【0013】
反応時のF/Pモル比は1.0以下の場合は未反応のフェノールモノマーが多く残存し、合成ゴムラテックスとの混合性が低下し好ましくない。又、3.0以上になると、未反応フェノールモノマーは少なくなるが、未反応のホルムアルデヒドが多く残り、臭気問題など実用上使用が困難である。好ましいホルムアルデヒド/フェノールのモル比は1.5/1〜2.5/1の範囲である。
【0014】
触媒として用いる水酸化リチウム、水酸化カリウム、及びこれらの混合触媒の量はフェノール1モルに対して0.05モル〜0.5モルであり、より好ましくは0.1〜0.4の範囲である。0.05モル以下の場合は充分な水溶性を得る事が出来ず合成ゴムラテックス類との混合安定性を保つ事が出来ない。また、0.5モル以上の場合は充分な水溶性が保てるがこの場合も合成ゴムラテックス類との混合性が悪くなる。また、本発明に用いられる水酸化リチウムは通常1水和物(LiOH・H0)である。また、本発明のレゾール型フェノール樹脂組成物は、通常、水溶液、若しくは、水分散液の形で用いられるが、その不揮発分としては、40〜90重量%が好ましい。
【0015】
水性フェノール樹脂組成物には添加剤としてエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、メトキシプロパノールなどの水溶性溶剤を添加しても良い。
【0016】
更に、前記触媒を用いて製造したレゾール型フェノール樹脂に添加剤として尿素、ジシアンジアミドなどのアミン化合物を添加するとラテックスとの相溶性がより改善され好適である。尿素、ジシアンジアミドの添加量は何れも水性フェノール樹脂100重量部に対して、1〜20重量部であることが好ましい。その添加量としては、何れの添加剤も添加量が1重量部以下だとラテックスとの相溶性改善効果は少なく、20重量部を越すと樹脂に対する溶解性が低下し沈殿を生じたりするので好ましくない。
【0017】
本発明のバインダーは、前記水性フェノール樹脂組成物と合成ゴムラテックスとを含有するものである。前記合成ゴムラテックス類としては、メタアクリル酸エステル系単量体、芳香族ビニル系単量体、脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン性不飽和カルボン酸系単量体を主要成分として用いたスチレン・ブタジエン系ラテックス(SBRラテックス)、ニトリル・ブタジエン系ラテックス(NBRラテックス)、メタクリル酸エステル・ブタジエン系ラテックス(MBRラテックス)等の合成ゴムラテックスが好ましい。
【0018】
本発明のバインダーは、水性フェノール樹脂組成物と合成ゴムラテックスを混合することで得られるが、この際に更に水溶性の高分子物質を配合添加しても良い。水溶性高分子物質の例としてはポリビニルアルコールが代表例であり他に、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等がある。
【0019】
各種の基材への密着性を向上させる目的で水溶性フェノール樹脂の添加剤としてアミノ基やエポキシ基等を官能基としたシランカップリング剤を添加しても良い。
【実施例】
【0020】
以下本発明を実施例により詳細に説明する。実施例で用いる「部」及び「%」は全て重量部、重量%を示すものとする。
【0021】
実施例1
4つ口フラスコにフェノール941部、50%ホルムアルデヒド1200部(F/Pモル比=2.0)、水酸化リチウム1水塩54.6部(0.13モル/フェノール1モル)を仕込み、70℃迄昇温した。70℃にて3時間反応し常温まで冷却した。得られた水溶性フェノール樹脂組成物の粘度は31mPa・s/25℃、135℃で測定した固形分は53%、純水を加えた時の水希釈能は10倍以上であった。(水希釈能10倍以上とは25℃に於いて樹脂に対して純水を10倍量以上添加しても白濁、沈殿等変化しない事を表す。)
【0022】
実施例2
4つ口フラスコにフェノール941部、50%ホルムアルデヒド900部(F/Pモル比=1.5)、水酸化リチウム一水塩31部(0.075モル/フェノール1モル)、水酸化カリウム88g(0.075モル/フェノール1モル)を仕込み、70℃迄昇温した。70℃にて3時間反応した後常温まで冷却した。得られた水溶性フェノール樹脂組成物の粘度は35mPa・s/25℃、135℃で測定した固形分60%、水希釈能は10倍以上であった。
【0023】
実施例3
4つ口フラスコにフェノール941部、50%ホルムアルデヒド1500部(F/Pモル比=2.5)、水酸化リチウム一水塩62部(0.15モル/フェノール1モル)を仕込み、70℃迄昇温した。70℃にて3時間反応したのち得られた樹脂100重量部に対して尿素2.5重量部、ジシアンジアミド2.5重量部を添加溶解させ常温まで冷却した。得られた水溶性フェノール樹脂組成物の粘度は41mPa・s/25℃、135℃で測定した固形分63%、水希釈能は10倍以上であった。
【0024】
比較例1
4つ口フラスコにフェノール941部、50%ホルムアルデヒド900部(F/Pモル比=1.5)、水酸化リチウム一水塩12.6部(0.03モル/フェノール1モル)を仕込み、70℃迄昇温した。70℃にて3時間反応し常温まで冷却した。得られた水溶性フェノール樹脂組成物の粘度は15mPa・s/25℃、135℃で測定した固形分は56%、水希釈能は2.5倍であった。
【0025】
比較例2
4つ口フラスコにフェノール941部、50%ホルムアルデヒド1200部(F/Pモル比=2.0)、48%水酸化ナトリウム125部(0.15モル/フェノール1モル)を仕込み、70℃迄昇温した。70℃にて3時間反応し常温まで冷却した。得られた水溶性フェノール樹脂組成物の粘度は43mPa・s/25℃、135℃で測定した固形分は52%、水希釈能10倍以上であった。
【0026】
比較例3
4つ口フラスコにフェノール941部、50%ホルムアルデヒド1200部(F/Pモル比=2.0)、48%水酸化カリウム56.1部(0.10モル/フェノール1モル)70℃迄昇温した。70℃にて3時間反応し常温まで冷却した。得られた水溶性フェノール樹脂組成物の粘度は38mPa・s/25℃、135℃で測定した固形分は54%、水希釈能10倍以上であった。
【0027】
実施例1〜4、比較例1〜3で得られたフェノール樹脂と合成ゴムラテックスとの混合性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
評価法は下記のとおりである。
○;混合直後、3日経過後共に増粘、固化等を起こさない。
×;混合直後、或いは3日以内に増粘、ゲル化を起こし流動性が失われたもの。
【0030】
実施例、比較例で使用したラテックスは次の通りである。
ラテックスA;NBRラテックス ラックスター1570B(固形分42.5%)
ラテックスB;SBRラテックス ラックスターDS−801K(固形分50%)
ラテックスC;MBRラテックス ラックスター7200A(固形分41.6%)
全て大日本インキ化学工業(株)製
【0031】
表中の水溶性フェノール樹脂組成物の固形分は全て50%に調整し混合した。
水溶性フェノール樹脂組成物とラテックス類の比率は全て固形分比で1/1とした。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルムアルデヒド(F)とフェノール(P)とを、ホルムアルデヒド(F)とフェノール(P)のモル比(F/P)を1.0/1.0〜3.0/1.0で、且つ、フェノール(P)1モルに対して、触媒として水酸化リチウムを0.10〜0.50モルの範囲で用いて、反応して得られる水溶性レゾール型フェノール樹脂を含有することを特徴とする水性フェノール樹脂組成物。
【請求項2】
前記水溶性レゾール型フェノール樹脂が、触媒として水酸化リチウムに加えて、更に、水酸化カリウムを併用して得られたものである請求項1記載の水性フェノール樹脂組成物。
【請求項3】
ホルムアルデヒド(F)とフェノール(P)とを反応させる際に、添加剤として尿素及び/又はジシアンジアミドを、得られる水溶性レゾール型フェノール樹脂100重量部に対して1〜20重量部添加して得られる水性フェノール樹脂組成物と合成ゴムラテックスとを混合して得られた請求項1記載の水性フェノール樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の水性フェノール樹脂組成物と合成ゴムラテックスとを含有するバインダー。
【請求項5】
合成ゴムラテックスがニトリル・ブタジエン系ラテックス、スチレン・ブタジエン系ラテックス、及びメタクリル酸エステル・ブタジエン系ラテックスからなる群からなる1種類以上のラテックスである請求項4記載のバインダー。




【公開番号】特開2007−204624(P2007−204624A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25555(P2006−25555)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】