説明

水晶振動子及びその製造方法

【課題】 反りの問題を解消するべく、水晶振動片と外枠とを一体に形成した水晶板の上下面に上下水晶板を陽極接合により一体に接合し得る積層構造の水晶振動子を提供する。
【解決手段】 水晶振動片5と外枠6とを一体に形成した中間水晶板2の上下面に、それぞれ中間水晶板との対向面に水晶振動片を収容するキャビティを画定する凹部14,15を有する上側及び下側水晶板3,4を積層する。上側及び下側水晶板は、中間水晶板との接合面にアルミニウムなどのアルカリ金属をドープしたドーピング層16,17を有し、該接合面と導電膜9,11を形成した中間水晶板の外枠上下面とを陽極接合により気密に接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音叉型または厚みすべり振動モードの水晶振動片をパッケージに気密に収容した水晶振動子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より電子機器の小型化、薄型化に伴い、水晶振動子などの圧電デバイスはより一層の小型化・薄型化が要求されると共に、回路基板等への実装に適した表面実装型のものが多用されている。一般に表面実装型の圧電デバイスは、セラミックなどの絶縁材料で形成したパッケージに圧電振動片を封止する構造が広く採用されている。このような従来のパッケージ構造は、低融点ガラスを用いたりシーム溶接などによりベースとリッドとを接合する。そのため、低融点ガラスから発生するガスやシーム溶接の高熱の影響で、水晶振動片の周波数特性が低下したり劣化する虞がある。また、低融点ガラスは鉛を含んでいる場合が多く、そのような低融点ガラスの使用は環境に影響を及ぼす虞があることから、好ましくない。
【0003】
そこで、かかる問題を解消するため、水晶振動子と一体に形成した外枠の上下面に金属層を設け、該金属層とガラスからなる蓋及びケースとを陽極接合した水晶振動子が提案されている(例えば特許文献1,2を参照)。また、この水晶振動子における水晶材料とガラス材料のように熱膨張率が異なる材料同士を接合する場合には、接合後に反りが生じ易い。これを防止するために、第1の基板をそれと熱膨張率が異なりかつ互いに同程度の熱膨張率を有する第2,第3の基板でサンドイッチ構造に挟装することにより、反りを相殺する方法が知られている(例えば特許文献3を参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−68780号公報
【特許文献2】特開平8−340231号公報
【特許文献3】特開平7−86106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ガラス材料を陽極接合する場合には、ガラス中に含まれるナトリウムなどのアルカリ金属が、電圧の印加によって接合面と反対側の表面に移動してリッチな状態になるので、耐水性が劣化する虞がある。これに対し、接合後にナトリウムリッチ層を研磨除去したり、別のガラス板を貼り付けてナトリウムを移動させる方法や、その表面を樹脂等で被覆することにより耐水性を確保する方法もあるが、いずれも作業が面倒でコストを増大させることになる。
【0006】
更に、熱膨張率が異なる基板を互いに接合して多層のサンドイッチ構造にする場合、それら基板を同時に積層する必要がある。そのため、多層構造の各基板の位置合せは作業が非常に煩雑で多大な手間を要し、実作業効果を低下させる虞がある。また、基板間の熱膨張率の違いをサンドイッチ構造で吸収解消しようとしても、以前として熱膨張率に起因して中間層の基板にクラックが発生したり、構造全体に反りを生じる虞がある。その結果、基板の接合条件例えば接合温度が制約され、十分な接合強度、気密性を確保することが困難になる虞がある。
【0007】
そこで本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、水晶振動片と外枠とを一体に形成した水晶板に接合する上下基板を、熱膨張率が同じ水晶板で形成し、反りの問題を解消すると同時に、陽極接合により一体に接合することができる水晶振動子を提供することにある。
【0008】
更に、熱膨張率を合わせることにより、各基板を、同時に接合することなく多層構造に形成することができ、しかもその製造工程において煩雑な位置合せを必要とせず、また、より幅広い接合条件を可能にする水晶振動子を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明の目的は、かかる水晶振動子を簡単にかつ低コストで製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、上記目的を達成するために、水晶振動片と外枠とを一体に形成した中間水晶板と、該中間水晶板の上面及び下面にそれぞれ接合される上側及び下側水晶板とを有し、中間水晶板と上側及び下側水晶板とにより画定されるキャビティ内に水晶振動片が浮いた状態で保持され、上側及び下側水晶板が、それぞれ中間水晶板との接合面に、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムの中から選択した1種又は2種以上であるアルカリ金属のドーピング層を有し、該接合面において中間水晶板の外枠と陽極接合により気密に接合されている水晶振動子が提供される。
【0011】
これにより、中間水晶板に上側及び下側水晶板を良好な状態で、反りや耐水性の劣化を生じることなく、一体に陽極接合することができる。また、このような水晶板の積層構成により、従来の水晶振動子に比して、より一層大幅に小型化及び薄型化を図ることができる。
【0012】
或る実施例では、上側及び下側水晶板が、それぞれ中間水晶板との対向面に形成された凹部を有することにより、水晶振動片を収容するキャビティを画定することができる。
【0013】
別の実施例では、中間水晶板が、同様に上側及び下側水晶板との間で前記キャビティを画定するように、外枠の板厚を水晶振動片よりも厚く形成することができる。この場合、中間水晶板の外枠が、その板厚を厚み方向上下両方に水晶振動片より厚く形成することができ、それにより上側及び下側水晶板の中間水晶板との対向面に凹部を設ける必要を無くすことができる。または、上側及び下側水晶板の少くともいずれか一方に、前記キャビティを画定するように中間水晶板との対向面に凹部を形成することができる。
【0014】
或る実施例では、中間水晶板が外枠の上面に形成されかつ水晶振動片の一方の励振電極に接続された上側導電膜と、外枠の下面に形成されかつ水晶振動片の他方の励振電極に接続された下側導電膜と、外枠の下面に下側導電膜から電気的に分離させて形成されかつ外枠に設けたスルーホールを介して上側導電膜に電気的に接続された引出導電膜とを有し、下側水晶板が、その下面に形成されかつそれぞれ下側導電膜または引出導電膜と電気的に接続された複数の外部電極を有する。このような簡単な構成によって、表面実装型の水晶振動子が得られる。
【0015】
別の実施例では、下側水晶板が外部からキャビティに連通する封止孔を有し、かつ封止孔がシール材料で気密に閉塞されている。これにより、水晶振動子のキャビティ内部を所望の真空状態または雰囲気に維持し、水晶振動子の劣化やそれによる周波数の変動を防止することができる。
【0016】
本発明の別の側面によれば、水晶振動片と外枠とを一体にした中間水晶板を形成する工程と、中間水晶板との接合面にアルカリ金属のドーピング層を有する上側水晶板を形成する工程と、中間水晶板との接合面にアルカリ金属のドーピング層を有する下側水晶板を形成する工程と、中間水晶板を挟んでその上下面に前記上側及び下側水晶板を、中間水晶板と上側及び下側水晶板とにより画定されるキャビティ内に水晶振動片が浮いた状態で保持されるように重ね合わせ、上側及び下側水晶板の接合面と中間水晶板の外枠とを陽極接合により気密に接合する工程とを有する水晶振動子の製造方法が提供される。
【0017】
これにより、上述した水晶板の積層構成からなり、より一層の小型化・薄型化が可能で反りや耐水性の劣化を生じない水晶振動子を比較的簡単にかつ低コストで製造することができる。
【0018】
或る実施例では、上側水晶板を、水晶振動子を収容するキャビティを画定するための凹部を中間水晶板との対向面に有するように形成し、かつ下側水晶板を、上側水晶板の前記凹部と協働して前記キャビティを画定するための凹部を中間水晶板との対向面に有するように形成する。
【0019】
別の実施例では、中間水晶板を、上側及び下側水晶板との間で前記キャビティを画定するように、外枠の板厚を水晶振動片より厚く形成することができる。この場合、中間水晶板を、外枠の板厚をその厚み方向上下に水晶振動片より厚くするように形成し、上側及び下側水晶板の中間水晶板との対向面に凹部を設ける必要を無くすことができる。または、上側及び下側水晶板の少くともいずれか一方を、前記キャビティを画定する凹部を中間水晶板との対向面に有するように形成することができる。
【0020】
或る実施例では、中間水晶板が複数の水晶振動片と外枠とを形成した中間水晶ウエハからなり、上側水晶板が、中間水晶ウエハの水晶振動片及び外枠に対応させて複数の凹部を形成した上側水晶ウエハからなり、下側水晶板が、中間水晶ウエハの水晶振動片及び外枠に対応させて複数の凹部を形成した下側水晶ウエハからなり、中間水晶ウエハを挟んでその上下面に上側及び下側水晶ウエハを重ね合わせかつそれらを陽極接合により一体に接合する工程と、接合した上側、中間及び下側水晶ウエハを個々の水晶振動子に切断する工程とを有する。これにより、多数の水晶振動子を同時に製造することができ、生産性の向上及びコストの低下を図ることができる。
【0021】
別の実施例では、下側水晶板が外部から水晶振動片を収容するキャビティに連通する封止孔を有するように形成され、かつ中間水晶板と上側及び下側水晶板とを陽極接合した後に、封止孔をシール材料で気密に閉塞する工程を更に有する。これにより、水晶振動子のキャビティ内部を所望の真空状態または雰囲気に維持し、水晶振動子の劣化やそれによる周波数の変動を防止した水晶振動子を容易に得ることができる。
【0022】
更に別の実施例では、中間水晶板と上側及び下側水晶板とを陽極接合した後、封止孔をシール材料で気密に閉塞する工程の前に、上側または下側水晶板を介してレーザ光を水晶振動片に照射し、その励振電極を部分的に除去してその周波数を調整する工程を更に有する。これにより、水晶振動子の周波数を高精度に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
図1は、本発明による水晶振動子の好適な第1実施例を示している。水晶振動子1は、図1(A)に示すように、中間水晶板2を挟んでその上面及び下面にそれぞれ上側及び下側水晶板3,4を一体に積層した構造を有する。
【0024】
中間水晶板2は、図2(A)、(B)に示すように、音叉型水晶振動片5と外枠6とが一体に形成されている。水晶振動片5は、外枠6に結合された基端部7から延出する1対の振動腕を有し、その表面に形成された一方の励振電極8が基端部7から引き出されて、外枠6上面に形成された上側導電膜9と電気的に接続されている。前記振動腕の表面に形成された他方の励振電極10は、同様に基端部7から引き出されて、外枠6下面に形成された下側導電膜11と電気的に接続されている。水晶振動片基端部7を結合した外枠6の長手方向端部には、2個のスルーホール12が設けられている。この外枠6の長手方向端部の下面には、下側導電膜11から分離させた引出導電膜13が形成され、スルーホール12内部の導電膜を介して上側導電膜9と電気的に接続されている。本実施例において、前記励振電極及び導電膜はアルミニウムで形成されているが、従来から知られているクロム、チタンなどの様々な導電材料を使用することができる。
【0025】
上側及び下側水晶板3,4には、それぞれ中間水晶板2との対向面に、互いに協働して水晶振動片5を収容するキャビティを画定するように凹部14,15が形成されている。このキャビティ内に、水晶振動片5はその基端部7において片持ちに浮いた状態で保持される。上側及び下側水晶板3,4の接合面と導電膜9,11を形成した中間水晶板2即ち外枠6の上下面とは、後述するように陽極接合されている。図1(C)に示すように、上側及び下側水晶板3,4の中間水晶板2との接合面には、アルカリ金属をドープしたドーピング層16,17がそれぞれ設けられている。アルカリ金属としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムの中から選択した1種又は2種以上を使用する。このドーピング層を設けたことによって、上側及び下側水晶板3,4と中間水晶板2の上下面とは、良好な状態で気密に陽極接合され、前記キャビティを気密に封止する。
【0026】
下側水晶板4の下面には、各角部にそれぞれ外部電極18,19が設けられている。更に下側水晶板4には、各角部に1/4円形の欠け20,21が形成されている。この欠けは、例えば大型の水晶板から個々の水晶板を分割する際に縦横切断線の交点に形成するキャスタレーション(円形貫通孔)が切断後に残ったものである。欠け20,21の内面にはそれぞれ導電膜が形成されており、前記各欠けに隣接する外部電極18,19とそれから覗く中間水晶板2の下側導電膜11及び引出導電膜13とを電気的に接続している。
【0027】
また、下側水晶板4の略中央には、前記キャビティと外部とを連通する封止孔22が貫設されている。封止孔22はシール材料23で気密に閉塞され、水晶振動片5を収容した前記キャビティ内部を気密に封止して、所望の真空状態または雰囲気に維持している。シール材料23は、例えばAu−Sn等の低融点金属材料を用いることができ、外部からレーザ光などで封止孔22内に溶着させる。その場合、封止孔22内面は予め金属膜で被覆しておくことが好ましい。また、シール材料23は樹脂材料で封止することもでき、その場合に封止孔22内面を金属膜で被覆する必要はない。
【0028】
次に、図3を参照して、本発明の方法により水晶振動子を製造する工程を説明する。図3−1(A)に示すように、図1の複数の水晶振動片5及び外枠6を縦及び横方向に連続して配置した大型の中間水晶ウエハ30を準備する。水晶振動片5及び外枠6の外形は、フォトリソグラフィ技術を利用して水晶ウエハをエッチングすることにより形成する。各水晶振動片5及び外枠6の表面には、例えばアルミニウムなどの導電材料を蒸着することにより、前記励振電極及び導電膜を所望のパターンに成膜する。
【0029】
また、複数の上側水晶板3を縦及び横方向に連続して配置した大型の上側水晶ウエハ31を準備する。上側水晶ウエハ31の中間水晶ウエハ30との対向面には、中間水晶ウエハの各水晶振動片5及び外枠6に対応する複数の凹部14が形成されている。これらの凹部は、例えば水晶ウエハ表面をエッチングまたはサンドブラスト加工することにより、容易に形成することができる。
【0030】
同様にして、複数の下側水晶板4を縦及び横方向に連続して配置した大型の上側水晶ウエハ32を準備する。下側水晶ウエハ32の中間水晶ウエハ30との対向面には、中間水晶ウエハの各水晶振動片5及び外枠6に対応する複数の凹部15が、エッチングまたはサンドブラスト加工などにより形成されている。更に下側水晶ウエハ32には、各凹部15の略中央に封止孔22が貫設され、かつ縦及び横方向に直交する下側水晶板4の外郭線の交点にそれぞれ円形貫通孔33が形成されている。下側水晶板4の下面には、導電材料をスパッタリングなどにより成膜することにより、複数の外部電極18,19が予め所定の位置に形成されている。また、上述した低融点金属材料をシール材料23に用いる場合、封止孔22の内面に前記導電材料などの金属膜を予め形成する。
【0031】
更に、本発明によれば、上側及び下側水晶板3,4の中間水晶板2との各接合面にアルカリ金属を公知の方法によりドープして、図1(C)に示すようなドーピング層16,17を形成する。前記ドーピング層の深さは、本実施例において数μm程度であるが、中間水晶板2と良好に陽極接合するのに十分な深さであれば良く、例えば数μmから2,30μmの範囲で適当に設定することができる。
【0032】
中間水晶ウエハ30を挟んでその上下面に上側及び下側水晶ウエハ31,32を重ね合わせる。この状態で、図3−2(B)に示すように、直流電源34,35の両方の正極を中間水晶ウエハ30に、各負極をそれぞれ上側及び下側水晶ウエハ31,32に接続し、所定の直流電圧を印加する。これにより、3枚の水晶ウエハ30〜32を図3−2(C)に示すように一体に接合する。
【0033】
最後に、このように接合した水晶ウエハ積層体36を縦横に直交する水晶振動子の外郭線37に沿ってダイシングなどにより切断分割する。分割した各水晶振動子は、上側及び下側水晶板3,4が透明なことから、外部からレーザ光などを容易に照射でき、それにより周波数調整することができる。周波数調整した各水晶振動子は真空雰囲気に配置し、封止孔22を気密に閉塞する。これにより、図1に示す水晶振動子1が完成する。
【0034】
図4は、本発明による水晶振動子の第2実施例を示している。図1の第1実施例と同様に、水晶振動子41は、図4(A)に示すように、中間水晶板42を挟んで上側及び下側水晶板43,44が一体に積層されている。中間水晶板42は、図5(A)、(B)に示すように、音叉型水晶振動片45と外枠46とが一体に形成されているが、外枠46の板厚を水晶振動片45よりも厚くした点において、上記第1実施例と異なる。特に本実施例では、外枠46の板厚をその厚み方向上下両方に等しい大きさで厚くし、水晶振動片の基端部47と外枠46とは上下面両側でそれぞれ段差をもって結合されている。
【0035】
水晶振動片45の振動腕表面に形成された一方の励振電極48は、基端部47から上側の前記段差を介して外枠46上面の上側導電膜49に連続し、かつ他方の励振電極50は前記基端部から下側の前記段差を介して外枠46下面の下側導電膜51に連続している。水晶振動片基端部47と結合した外枠46の長手方向端部は、スルーホール52内部の導電膜を介して、該長手方向端部の下面に下側導電膜51から分離して形成された引出導電膜53と上側導電膜49とが電気的に接続している。
【0036】
更に本実施例では、上側及び下側水晶板43,44がそれぞれ中間水晶板42との対向面を平坦にした平板である点において、上記第1実施例と異なる。中間水晶板42の外枠46の板厚を水晶振動片45よりも厚くしたことによって、該中間水晶板を挟んで上側及び下側水晶板43,44を積層すると、その内部に水晶振動片45を収容するキャビティ54が画定される。このキャビティ内に水晶振動片45は、同様に基端部47において片持ちに浮いた状態で保持される。
【0037】
上側及び下側水晶板43,44の接合面と導電膜49,51を形成した中間水晶板42の外枠46上下面とは、上記第1実施例と同様に陽極接合されている。図4(B)に示すように、外枠46の上下各面に対応する上側及び下側水晶板43,44の接合面には、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムの中から選択した1種又は2種以上のアルカリ金属をドープしたドーピング層55,56がそれぞれ設けられている。これにより、上側及び下側水晶板43,44と中間水晶板42の上下面とが良好な状態で気密に陽極接合され、キャビティ54を気密に封止する。
【0038】
前記ドーピング層の深さは、中間水晶板42と良好に陽極接合するのに十分な深さで良く、本実施例では数μm程度であるが、例えば数μmから2,30μmの範囲で適当に設定することができる。別の実施例では、前記ドーピング層を上側及び下側水晶板43,44の中間水晶板42との対向面全面に形成することができる。
【0039】
第2実施例の水晶振動子41も、図3に示す工程に従って本発明の方法により製造することができる。このとき、多数の上側及び下側水晶板43,44を構成する上側及び下側水晶ウエハは、それぞれ両面共平坦なウエハで形成できるので、有利である。
【0040】
図6は、本発明による水晶振動子の第2実施例の変形例を示している。水晶振動子61は、図6(A)に示すように中間水晶板62を挟んで上側及び下側水晶板63,64が一体に積層され、かつ中間水晶板62が水晶振動片65よりも外枠66の板厚を厚くした点において、上記第2実施例と同じであるが、この変形例は次の点で上記第2実施例と異なる。即ち、中間水晶板62は、図7(A)、(B)に示すように一体に形成された水晶振動片65及び外枠66の下面を同一平面上に配置し、かつ外枠66の板厚をその厚み方向上方にのみ厚くし、水晶振動片基端部67と外枠66とが上面側で段差をもって結合されている。
【0041】
水晶振動片65の振動腕表面に形成された一方の励振電極68は、基端部67から前記段差を介して外枠66上面の上側導電膜69に連続し、かつ他方の励振電極70は前記基端部からそのまま外枠46下面の下側導電膜71に連続している。水晶振動片基端部67と結合した外枠66の長手方向端部は、スルーホール72内部の導電膜を介して、該長手方向端部の下面に下側導電膜71から分離して形成された引出導電膜73と上側導電膜69とが電気的に接続している。
【0042】
更に本実施例では、上側水晶板63が中間水晶板62との対向面を平坦にした平板である点において上記第2実施例と共通するが、下側水晶板64が、第1実施例の下側水晶板4と同様に中間水晶板62との対向面に凹部74を形成した点において、上記第2実施例と異なる。これら中間水晶板と上側及び下側水晶板63,64とを積層すると、その内部に水晶振動片65を収容するキャビティ75が画定され、このキャビティ内に水晶振動片65が基端部67において片持ちに浮いた状態で保持される。
【0043】
上側及び下側水晶板63,64の接合面と導電膜69,71を形成した中間水晶板62の外枠66上下面とは、上記各実施例と同様に陽極接合されている。図6(B)に示すように、外枠66の上下各面に対応する上側及び下側水晶板63,64の接合面には、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムの中から選択した1種又は2種以上のアルカリ金属をドープしたドーピング層76,77がそれぞれ設けられている。これにより、上側及び下側水晶板63,64と中間水晶板62の上下面とが良好な状態で気密に陽極接合され、キャビティ75を気密に封止する。別の実施例では、上側水晶板63の中間水晶板42との対向面全面にドーピング層76を形成することができる。
【0044】
本実施例の水晶振動子61も、同様に図3に示す工程に従って本発明の方法により製造することができる。このとき、多数の上側水晶板64を構成する上側水晶ウエハは、両面共平坦なウエハで形成でき、また多数の中間水晶板62を構成する中間水晶ウエハは、上面側からのエッチング加工のみで形成できるので、有利である。
【0045】
更に別の実施例では、図6の水晶振動子の構成を上下逆にすることができる。即ち、中間水晶板は、水晶振動片及び外枠の上面を同一平面上に配置しかつ外枠の板厚をその厚み方向下方にのみ厚くし、上側水晶板は中間水晶板との対向面に凹部を形成し、下側水晶板は中間水晶板との対向面を平坦にした平板で構成する。また、別の実施例では、図4の第2実施例において、上側及び/又は下側水晶板の中間水晶板との対向面に凹部を形成することができる。
【0046】
以上、本発明の好適実施例について詳細に説明したが、当業者に明らかなように、本発明はその技術的範囲内において上記各実施例に様々な変更・変形を加えて実施することができる。例えば、音叉型水晶振動子に代えて厚みすべり振動モードの水晶振動子についても同様に適用することができる。その場合、下側水晶板に設けた封止孔は省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】(A)図は本発明による水晶振動子の第1実施例の断面図、(B)図は平面図、(C)図は部分拡大断面図。
【図2】(A)図は図1に示す中間水晶板の上面図、(B)図は下面図。
【図3】図3−1及び図3−2は本発明の方法による水晶振動子の製造工程を順に示し、(A)図は貼り合わせる3枚の水晶ウエハを示す概略斜視図、(B)図は陽極接合の要領を示す説明図、(C)図は接合した水晶ウエハの概略斜視図。
【図4】(A)図は本発明による水晶振動子の第2実施例の断面図、(B)図はその部分拡大断面図。
【図5】(A)図は図4に示す中間水晶板の上面図、(B)図は下面図。
【図6】(A)図は第2実施例の変形例の断面図、(B)図はその部分拡大断面図。
【図7】(A)図は図6に示す中間水晶板の上面図、(B)図は下面図。
【符号の説明】
【0048】
1,41,61…水晶振動子、2,42,62…中間水晶板、3,43,63…上側水晶板、4,44,64…下側水晶板、5,45,65…水晶振動片、6,46,66…外枠、7,47,67…基端部、8,10,48,50,68,70…励振電極、9,49,69…上側導電膜、11,51,71…下側導電膜、12,52,72…スルーホール、13,53,73…引出導電膜、14,15,74…凹部、16,17,55,56,76,77…ドーピング層、18,19…外部電極、20,21…欠け、22…封止孔、23…シール材料、30…中間水晶ウエハ、31…上側水晶ウエハ、32…下側水晶ウエハ、33…円形貫通孔、34,35…直流電源、36…水晶ウエハ積層体、37…外郭線、54,75…キャビティ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶振動片と外枠とを一体に形成した中間水晶板と、前記中間水晶板の上面及び下面にそれぞれ接合される上側及び下側水晶板とを有し、
前記中間水晶板と前記上側及び下側水晶板とにより画定されるキャビティ内に前記水晶振動片が浮いた状態で保持され、
前記上側及び下側水晶板が、それぞれ前記中間水晶板との接合面にアルカリ金属のドーピング層を有し、前記接合面において前記中間水晶板の前記外枠と陽極接合により気密に接合されていることを特徴とする水晶振動子。
【請求項2】
前記アルカリ金属がナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムの中から選択した1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動子。
【請求項3】
前記上側及び下側水晶板が、前記キャビティを画定するようにそれぞれ前記中間水晶板との対向面に形成された凹部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の水晶振動子。
【請求項4】
前記中間水晶板が、前記上側及び下側水晶板との間で前記キャビティを画定するように、前記外枠の板厚を前記水晶振動片よりも厚くしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の水晶振動子。
【請求項5】
前記中間水晶板の前記外枠が、その板厚を厚み方向上下両方に前記水晶振動片より厚くしたことを特徴とする請求項4に記載の水晶振動子。
【請求項6】
前記上側及び下側水晶板の少くともいずれか一方が、前記キャビティを画定するように前記中間水晶板との対向面に形成された凹部を有することを特徴とする請求項4に記載の水晶振動子。
【請求項7】
前記中間水晶板が、前記外枠の上面に形成されかつ前記水晶振動片の一方の励振電極に接続された上側導電膜と、前記外枠の下面に形成されかつ前記水晶振動片の他方の励振電極に接続された下側導電膜と、前記外枠の下面に前記下側導電膜から電気的に分離させて形成されかつ前記外枠に設けたスルーホールを介して前記上側導電膜に電気的に接続された引出導電膜とを有し、
前記下側水晶板が、その下面に形成されかつそれぞれ前記下側導電膜または前記引出導電膜と電気的に接続された複数の外部電極を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の水晶振動子。
【請求項8】
前記下側水晶板が外部から前記キャビティに連通する封止孔を有し、かつ前記封止孔がシール材料で気密に閉塞されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の水晶振動子。
【請求項9】
水晶振動片と外枠とを一体にした中間水晶板を形成する工程と、
前記中間水晶板との接合面にアルカリ金属のドーピング層を有する上側水晶板を形成する工程と、
前記中間水晶板との接合面にアルカリ金属のドーピング層を有する下側水晶板を形成する工程と、
前記中間水晶板を挟んでその上下面に前記上側及び下側水晶板を、前記中間水晶板と前記上側及び下側水晶板とにより画定されるキャビティ内に前記水晶振動片が浮いた状態で保持されるように重ね合わせ、前記上側及び下側水晶板の前記接合面と前記中間水晶板の前記外枠とを陽極接合により気密に接合する工程とを有することを特徴とする水晶振動子の製造方法。
【請求項10】
前記上側水晶板を、前記キャビティを画定するための凹部を前記中間水晶板との対向面に有するように形成し、かつ、前記下側水晶板を、前記上側水晶板の前記凹部と協働して前記キャビティを画定するための凹部を前記中間水晶板との対向面に有するように形成することを特徴とする請求項9に記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項11】
前記中間水晶板を、前記上側及び下側水晶板との間で前記キャビティを画定するように、前記外枠の板厚を前記水晶振動片より厚く形成することを特徴とする請求項9に記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項12】
前記中間水晶板を、前記外枠の板厚をその厚み方向上下に前記水晶振動片より厚く形成することを特徴とする請求項11に記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項13】
前記上側及び下側水晶板の少くともいずれか一方を、前記キャビティを画定する凹部を前記中間水晶板との対向面に有するように形成することを特徴とする請求項11に記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項14】
前記中間水晶板が複数の前記水晶振動片と前記外枠とを形成した中間水晶ウエハからなり、前記上側水晶板が、前記中間水晶ウエハの前記水晶振動片及び外枠に対応させて複数の前記凹部を形成した上側水晶ウエハからなり、前記下側水晶板が、前記中間水晶ウエハの前記水晶振動片及び外枠に対応させて複数の前記凹部を形成した下側水晶ウエハからなり、前記中間水晶ウエハを挟んでその上下面に前記上側及び下側水晶ウエハを重ね合わせかつそれらを陽極接合により一体に接合する工程と、接合した前記上側、中間及び下側水晶ウエハを個々の水晶振動子に切断する工程とを有することを特徴とする請求項9乃至13のいずれかに記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項15】
前記下側水晶板が外部から前記キャビティに連通する封止孔を有するように形成され、かつ前記中間水晶板と前記上側及び下側水晶板とを陽極接合した後に、前記封止孔をシール材料で気密に閉塞する工程を更に有することを特徴とする請求項9乃至14のいずれかに記載の水晶振動子の製造方法。
【請求項16】
前記中間水晶板と前記上側及び下側水晶板とを陽極接合した後、前記封止孔をシール材料で気密に閉塞する工程の前に、前記上側または下側水晶板を介してレーザ光を前記水晶振動片に照射し、その励振電極を部分的に除去してその周波数を調整する工程を更に有することを特徴とする請求項15に記載の水晶振動子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−94372(P2006−94372A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280137(P2004−280137)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】