水系塗布型制振材

【課題】シーラーの剥離若しくは変形を抑制すると共に、耐ブリスター性を向上させることができる水系塗布型制振材を提供する。
【解決手段】水性の樹脂エマルジョンと、無機充填材と、前記樹脂エマルジョンの水分を保水する保水剤と、加熱することにより揮発して膨張する膨張剤をバルーンに内包すると共に、前記膨張剤により水の沸点以下の加熱温度条件で膨張を開始するマイクロバルーン粒子と、を少なくとも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂エマルジョンと無機質充填剤とを含有した水系塗布型制振材に係り、特に、車両のフロア等に用いるに好適な水系塗布型制振材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のフロア等には振動を防止するために、アスファルトを主成分としたシート状の制振材が設置されていた。しかし、シート状の制振材を設置する場合には、設置する部分の形状に合わせて、作業者が制振材を切断し、これを設置しなければならず、自動化の障害になり工程時間の短縮を阻害していた。
【0003】
このような点を鑑みて、ロボットによる自動化の可能な塗装式の制振組成物(水系塗布型制振材)が開発されている。例えば、このような水系塗布型制振材として、樹脂エマルジョンと、無機充填材と、加熱膨張型有機中空材と、を含む水系塗布型制振材が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
このような水系塗布型制振材は、塗装ロボットによる自動化が可能であり工程時間を短縮できるだけでなく、水系塗料であるため、施工時に従来のシート状制振材におけるアスファルト臭や有機溶剤系塗料における有機溶剤臭を発生しない。
【0005】
さらに、加熱膨張型有機中空材を用いることにより、従来の水系樹脂塗料と比較して飛躍的に高いワキ・クラックが発生しない限界膜厚を有する水系塗料を実現し、一度に厚膜に塗装できるため従来のシート状制振材と何ら変わらぬ制振性能を有する。
【0006】
【特許文献1】特開平7−145331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の水系塗布型制振材を用いた場合であって、水系塗布型制振材と鋼板の表面にシーラーを重ね塗りした状態で数時間放置した場合には、シーラーの剥離若しくは変形が発生することがあった。
【0008】
これは、図3(a)に示すように、水系塗布型制振材の塗膜95とシーラー92を塗装鋼板91に重ね塗りした状態で、数時間放置した場合、乾燥により塗膜95の表面95aに皮が張り、塗膜(水系塗布型制振材)95内の水抜けが悪い状態となる。このシーラー92は、鋼板の接合部や継ぎ目部における水や塵の侵入、錆の発生を回避することを目的としたシーリング用組成物である。
【0009】
この結果、水抜けが悪い状態で焼付けすると、図3(b)に示すように、塗膜95内の水分が蒸発する際に、制振材95とシーラー92の隙間側へも水蒸気が溜まってしまう。塗膜(水系塗布型制振材)95より、シーラー92のほうが、ゲル化のタイミングが早いため、密着性揮発前に、水蒸気圧が高くなると水蒸気によりシーラー92の剥離若しくは変形が発生することになる。
【0010】
このことを鑑みて、例えば、水系塗布型制振材に保水剤を含有させて、表面の皮張りを抑制することも考えられるが、保水剤の含有量が多い場合には、焼付け時に電着ブリスターが発生することがある。この電着ブリスターとは、塗布型制振材を車体パネル等の電着塗料の塗膜の上から塗布して焼付けを行うことによって、保水剤が電着塗膜を膨潤・軟化させ、その後温水、浸漬を行うことによって、軟化した電着塗膜中に温水が浸入して電着塗膜と鋼板との界面に入り込み、電着塗膜に細かいブツブツ(膨れ)が発生する現象をいう。
【0011】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、シーラーの剥離若しくは変形を抑制すると共に、耐ブリスター性を向上させることができる水系塗布型制振材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決すべく、本発明に係る水系塗布型制振材は、水性の樹脂エマルジョンと、無機充填材と、前記樹脂エマルジョンの水分を保水する保水剤と、加熱することにより揮発して膨張する膨張剤をバルーンに内包すると共に、前記膨張剤により水の沸点以下の加熱温度条件で膨張を開始するマイクロバルーン粒子と、を少なくとも含む水系塗布型制振材を特徴とする。
【0013】
本発明によれば、塗布される水系塗布型制振材を加熱することにより、マイクロバルーン粒子に内包された膨張剤が揮発してバルーンに内圧を加える。これによりマイクロバルーン粒子が膨張して、まだ硬化していない半固体状の水系塗布型制振材を押し広げて、制振材に亀裂を発生させ、これを発泡させることができる。
【0014】
特に、本発明に係る水系塗布型制振材(制振材)のマイクロバルーン粒子は、水の沸点以下の加熱温度で膨張開始するので、焼付硬化時に発生する制振材内の水蒸気が、シーラーへアタックする前に、制振材の内部及び表面に微細孔が形成される。これにより、水分が制振材内部で突沸すること無く制振材から外部へ速やかに排出され、シーラーの変形及び剥離を抑制することができる。
【0015】
また、このような制振材内の水抜け性の向上により、ブリスターが発生し難いので、添加する保水剤を増量することができる。これにより、塗布後の水系塗布型制振材の表面の乾燥性を鈍くすることができ、表面の皮張りを抑制することができ、加熱時における膨れも抑えることができる。
【0016】
本発明に係る水系塗布型制振材は、前記保水剤を1.5〜3.0質量%含有していることがより好ましい。本発明によれば、このような範囲となるように保水剤を含有することにより、シーラーの変形を抑制し、電着ブリスターを抑制することができる。
【0017】
保水剤の含有量が1.5質量%未満の場合には、塗膜の表面に皮張りが発生しやすく、水抜けが悪くなる傾向にある。そして、焼付け時には、制振材内の水分が蒸発する際に、制振材とシーラーの隙間側へも水蒸気が溜まりやすく、シーラーの剥離若しくは変形が発生し易くなる。また、保水剤の含有量が3.0質量%超えの場合には、保水剤に保水される水分が多いため、電着ブリスターが発生し易い。
【0018】
本発明に係る水系塗布型制振材は、前記マイクロバルーン粒子の膨張が開始する温度は、80℃以上であることがより好ましい。本発明によれば、マイクロバルーン粒子が80℃以上で膨張することにより、塗布後の焼付け時において、好適にマイクロバルーン粒子を膨張させることができる。すなわち、80℃未満で膨張する場合には、水系塗布型制振材を塗布する前に、マイクロバルーン粒子が膨張するおそれがあり、塗布前の水系塗布型制振材を保管するのにコストがかかってしまう。
【0019】
本発明に係る水系塗布型制振材は、前記マイクロバルーン粒子が、前記加熱により8倍以上の体積に膨張するように、前記膨張剤を内包していることがより好ましい。本発明によれば、焼付け時(水沸点以上に加熱した時)に、未膨張の状態から8倍以上の体積に膨張することにより、焼付け時における水系塗布型制振材の水抜け性をさらに向上させることができる。
【0020】
本発明に係る水系塗布型制振材は、前記膨張剤が炭化水素であり、前記保水剤がプロピレングリコールであることがより好ましい。本発明によれば、これらの材料を用いることにより、低コストで前記機能を有した水系塗布型制振材を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、シーラーの剥離若しくは変形を抑制すると共に、耐ブリスター性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
まず、本発明の実施形態に係る水系塗布型制振材の製造方法について説明する。まず、はじめに、カップまたはビーカーに液体状の樹脂エマルジョンを入れて、これに添加剤を添加し、無機質充填剤を混入して、均一になるまで混合する。さらに、保水剤とマイクロバルーン粒子とを、さらに均一になるまで混合し、その後、脱泡用の容器に移して、脱泡装置に入れて真空ポンプで吸引しながら攪拌することによって脱泡する。以上の工程で、水系塗布型制振材の製造が完了する。
【0023】
本実施形態では、樹脂エマルジョンとしてスチレンエマルジョンを用い、無機質充填剤として炭酸カルシウム及びマイカ(雲母)を用い、保水剤としてプロピレングリコール、制振材の発泡剤としてマイクロバルーン粒子を配合する。これに加えて、その他公知の添加剤(消泡剤、分散剤、増粘剤、タレ止め剤)を配合し、塗装用に粘度などの性質を調整してもよい。
【0024】
水性の樹脂エマルジョンとして、本実施形態では、アクリル樹脂の水性エマルジョンを例示したが、これ以外にも、スチレン−ブタジエン共重合体エマルジョン及びアクリルエマルジョン、アクリル−スチレンエマルジョン、スチレン―ブタジエン―ラテックス(SBR)エマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−アクリルエマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、フェノール樹脂エマルジョン、ポリエステル樹脂エマルジョン、アクリロニトリル―ブタジエン―ラテックス(NBR)エマルジョンであってもよい。このような樹脂エマルジョンに含まれる樹脂は、ガラス転移温度付近での振動エネルギーを熱エネルギーに変換する分子特性を有し、この分子特性により制振性を有するものであれば特に限定されるものではない。
【0025】
無機質充填剤として、本実施形態では炭酸カルシウム及びマイカを例示したが、この他にも、タルク(滑石)、珪藻土、硫酸バリウム、ゼオライト、炭酸マグネシウム、グラファイト、ケイ酸カルシウム、クレー、ガラスフレーク、ヒル石、カオリナイト、ワラストナイト等を用いることができる。
【0026】
特に、炭酸カルシウム、硫化バリウム、又はタルクなどは、充填フィラーとして作用し、マイカ、ワラストナイトなどは、制振性フィラーとして作用し、この制振性フィラーにより、焼付け時に樹脂エマルジョンに含まれる樹脂と絡み合うことにより、さらなる制振性を向上させることができる。
【0027】
保水剤として、本実施形態では、汎用性の観点からプロピレングリコールを例示したが、この他にも、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール、グリセリンなどのグリセロール、又は、ポリエチレングリコール、ポリグリセリンなどのポリオール、並びに、それらの誘導体及びそれらの混合物からなる群より選ばれたものを挙げることができ、樹脂エマルジョンに含まれる水分を保水することにより、水系塗布型制振材を塗布後に、その表面の乾燥を抑制することができるものであれば、特に限定されるものではない。
【0028】
また、発明者らの後述する実験から、保水剤は、水系塗布型制振材に対して1.5〜3.0質量%含有することがより好ましい。このような範囲となるように保水剤を含有することにより、シーラーの変形を抑制し、電着ブリスターを抑制することができる。すなわち、保水剤が1.5質量%よりも低い場合には、制振材に覆われたシーラーが焼付け時に変形する場合があり、さらには、シーラーの電着塗装界面の剥離が発生することがある。また、保水剤が、3.0質量%よりも多い場合には、電着ブリスターが発生するおそれがある。
【0029】
マイクロバルーン粒子は、膨張収縮可能な高分子化合物を外殻とするバルーン内に、液体の炭化水素の膨張剤を内包した粒子であり、水の沸点温度以下の加熱温度条件で膨張を開始する粒子である。ここで、水の沸点は、水系塗布型制振材に含まれる水分に対しての沸点であり、一般に、1気圧の圧力環境下での水の沸点は、100℃である。例えば、一般的な圧力環境下である1気圧では、100℃以上でマイクロバルーン粒子10Aが膨張すればよく、本発明の目的は、塗布後の焼付け時において、水系塗布型制振材の水(樹脂エマルジョンの水分)が沸騰する前に、マイクロバルーン粒子10Aは膨張を開始することが重要であり、焼付け時の圧力環境下に応じて変化する水の沸点に合わせて、マイクロバルーン粒子10Aの膨張開始温度を決定することが好ましい。
【0030】
具体的には、図1に示すように、マイクロバルーン粒子10Aは、高分子樹脂化合物の外殻(シェル)となるバルーン11と、該バルーンに内包された膨張剤12とを有し、マイクロバルーン粒子10Aの粒径は10〜20μmである。このように、マイクロバルーン粒子10Aは、微小球体であるため、加熱膨張時において、制振材内に微細孔が形成される。
【0031】
バルーン11は、ポリビニリデンクロライド、ポリアクリルニトリル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、あるいはこれらの共重合体等の樹脂材からなり、これらのうち、特に、水の沸点以下の温度範囲に、ガラス転移温度となる樹脂であることがより好ましい。
【0032】
膨張剤12としては、少なくとも水の沸点以下の加熱温度で、揮発してガス化して膨張するものであり、例えば、ブタン、イソブタン、など、炭素数が4〜6の低沸点炭化水素の液体膨張剤が好ましい。このような炭化水素の膨張剤12は、他の膨張剤に比べて低比重であり、図1に示すように、少なくとも80℃以上で加熱することにより揮発(ガス化)し、バルーン11に内圧を与え、マイクロバルーン粒子10Aをより高い体積膨張率のマイクロバルーン粒子10Bに膨張させることができるので好適である。
【0033】
さらに、マイクロバルーン粒子10Aの体積膨張率は、バルーン11を構成する樹脂の選定及び、内包させる炭化水素の膨張剤12の割合によって決定することができ、マイクロバルーン粒子10Aは、80℃以上で膨張が開始することがより好ましい。また、この際に、後述する発明者らの実験によれば、膨張開始温度が80℃で、マイクロバルーン粒子10Aが室温(未膨張の状態)から、加熱温度が120℃で、8倍以上の体積のマイクロバルーン粒子10Bに膨張するように、膨張剤を内包することがさらに好ましい。
【0034】
このようなマイクロバルーン粒子10Aとしては、立体プリント用インキなどに使用されるものであり、マツモトマイクロスフェアーF−30、同F−30VS、同F−46、同F−50、同F−55、同F−77、同F−80シリーズ、同F−100(以上、松本油脂製薬株式会社製)、未膨張エクスパンセルマイクロスフェアー051、同053、同092シリーズ、同009−80、同551シリーズ、同461(以上、日本フィライト株式会社製)、セルパウダーシリーズ、エマーセルBA(以上、永和化成工業株式会社製)等を挙げることができる。
【0035】
このような水系塗布型制振材は以下のように用いられる。まず、図2(a)に示すように、塗装鋼板21にシーラー22を配置する。このシーラー22は、鋼板の接合部や継ぎ目部における水や塵の侵入、錆の発生を回避することを目的としたシーリング用組成物である。次に、吹付け塗装用のスプレーガンやエアレス塗装法によって、シーラー22を含む塗装鋼板の表面に、マイクロバルーン粒子10Aを含む水系塗布型制振材を塗布により塗り重ねて、水系塗布型制振材の塗膜25を設ける。
【0036】
そして、塗膜25を、通常70℃〜200℃の温度で5〜30分間で焼付硬化させる。この際は、保水剤を用いたことにより、塗膜25の表面25aの乾燥が抑制されるため、塗布後の表面25aの皮張りが抑制されると共に、図2(b)に示すように、水系塗布型制振材24のマイクロバルーン粒子10Aが膨張して、まだ硬化していない半固体状の水系塗布型制振材を押し広げて亀裂を発生させる。
【0037】
これにより、塗膜25中の水分を速やかに逃がすと共に、水分の突沸による塗膜の膨れを抑制することができる。特に、水の沸点以下の加熱温度条件(例えば80℃)で、マイクロバルーン粒子は膨張を開始するので、塗膜25内の水蒸気がシーラー22へアタックする前に、塗膜の表面25aに微細孔が形成され、シーラー22の変形及び剥離を抑制することができる。
【0038】
また、マイクロバルーン粒子10Aの膨張により、水抜け性が向上するため、保水剤を増加させることができる。この保水剤の増量により、塗膜25の表面の乾燥性が鈍くなり、表面25aの皮張りを抑制することができ、加熱時における膨れも抑制される。さらに、加熱前のウエット放置時においても、塗膜にクラックが発生しにくく、アプリケーションにおけるノズル先端の乾燥ブツも発生しにくくなる。
【実施例】
【0039】
以下に本発明を実施形態により説明する。
(実施例1)
まず容器に水性の樹脂エマルジョンとしてアクリルエマルジョンを入れて、これに添加剤として保水剤、膨張剤、分散剤、消泡剤、カーボンブラックを添加し、さらに無機質充填剤として炭酸カルシウム及びマイカを混入して、ディスパーで均一になるまで混合する。その後、脱泡用の容器に移して、脱泡装置に入れて真空ポンプで吸引しながら約15分程度攪拌することによって脱泡し、水系塗布型制振材を製造した。
【0040】
ここで、混合する各材料の割合は、アクリルエマルジョン40部(NV50%)、炭酸カルシウム40部、マイカ10部、添加剤10部、とし、添加剤のうち保水剤を1.5質量%とし、マイクロバルーン粒子を1.0重量%となるようにした。また、保水剤にプロピレングリコールを用い、マイクロバルーン粒子は、液状のイソブタン(炭化水素)をポリアクリルニトリルのバルーンに内在すると共に、80℃以上の温度条件で膨張を開始し(膨張開始温度は80℃)、最大体積膨張倍率(最大発泡倍率)が8倍(120℃)となる、粒径10〜20μmのマイクロバルーン粒子を用いた点である。
【0041】
そして、鋼板表面上に、シーラーと水系塗布型制振材とを重ね塗りし、数時間放置後、この状態で130℃にまで加熱して、シーラーの変形性を確認した。この結果、シーラーの変形および剥離はなかった。
【0042】
(比較例1)
実施例1と同じようにして、水系塗布型制振材を製造した。実施例1と相違する点は、膨張剤の量等を調整して100℃(水の沸点)を超えた温度条件で膨張開始するマイクロバルーン粒子を用いた点である。そして、実施例1と同じようにして、シーラーの変形性を確認した。
【0043】
[結果1]
実施例1では、シーラーの変形及び剥離はなかったが、比較例1では、シーラーの変形及び部分的な剥離、部分的な塗膜の膨れを確認した。この結果から、実施例1の水系塗布型制振材は、これに含まれる水分が突沸する前の水の沸点以下の温度でマイクロバルーン粒子が膨張するので、塗膜内部に含まれる水分を速やかに逃がし、水分の突沸による塗膜の膨れを抑制することができたと考えられる。
【0044】
また、水の沸点以下の加熱温度で、実施例1のマイクロバルーン粒子は膨張を開始するので、塗膜内の水蒸気がシーラーへアタックする前に、塗膜の表面に微細孔が形成され、シーラーの変形及び剥離を抑制することができたと考えられる。
【0045】
このように、塗膜内の水分を好適に逃がすことができるので、水系塗布型制振材への保水剤の量を増量させることができ、塗膜形成後の表面の乾燥性が鈍くなり、その表面の皮張りを抑制することができ、加熱時の塗膜の膨れを抑制することができる。
【0046】
(実施例2)
実施例1と同じように、水系塗布型制振材を製造した。実施例1と同じようにして、鋼板表面上に、シーラーと水系塗布型制振材とを重ね塗りして加熱し、シーラーの変形性と電着ブリスター性を確認した。この結果を、表1に示す。
【0047】
(実施例3)
実施例1と同じように、水系塗布型制振材を製造した。実施例1と相違する点は、保水剤のプロピレングリコールの含有量を3.0質量%にした点である。そして、実施例2と同様に、この水系塗布型制振材を用いて、シーラーの変形性と電着ブリスター性を確認した。この結果を、表1に示す。
【0048】
(比較例2,3)
実施例1と同じように、水系塗布型制振材を製造した。実施例1と相違する点は、比較例2及び3は、保水剤であるプロピレングリコールの含有量を順次、0.5質量%、4.0質量%にした点である。そして、実施例2と同様に、この水系塗布型制振材を用いて、シーラーの変形性と電着ブリスター性を確認した。
【0049】
(比較例4,5)
実施例1と同じようにして、水系塗布型制振材を製造した。実施例1と相違する点は、比較例4及び5は、いずれも、マイクロバルーン粒子に含まれるイソブタンの量を調整して、膨張開始温度は90℃、最大体積膨張倍率(最大発泡倍率)が4倍(120℃時)のマイクロバルーン粒子を用いた点と、比較例4は、保水剤であるプロピレングリコールの含有量を1.0質量%とし、比較例5は、保水剤であるプロピレングリコールの含有量を4.0質量%とした点である。そして、実施例2と同様に、この水系塗布型制振材を用いて、シーラーの変形性と電着ブリスター性を確認した。
【0050】
【表1】

【0051】
[結果2]
実施例2、3は、シーラーの剥離及び変形はなく、電着ブリスターも発生しなかった。しかし、比較例2、3(保水剤の量が1.5質量%未満)は、電着ブリスターの発生はなかったが、シーラーの電着界面における剥離が発生する場合があった。また、比較例3(保水剤の量が3.0質量%超え)は、シーラーの剥離及び変形はなかったが、電着ブリスターが発生する場合があった。
【0052】
この結果から、比較例2のように、保水剤の量が1.5質量%未満の場合には、塗膜の表面に皮はりが発生しやすく、塗膜内の水抜けが悪くなったと考えられる。これにより、水抜けが悪い状態で焼付けすると、制振材内の水分が蒸発する際に、制振材(塗膜)とシーラーの隙間側へも水蒸気が溜まる。そして、制振材よりシーラーのゲル化のタイミングが早いため、密着性揮発前に、水蒸気圧が高くなると水蒸気によりシーラーの剥離若しくは変形が発生したと考えられる。また、比較例3のように、保水剤の量が4.0質量%以上の場合には、保水剤に保水される水分が多いため、電着ブリスターが発生したと考えられる。以上より、水系塗布型制振材に含有させる保水剤の量は、1.5〜3.0質量%含有することが好ましいと考えられる。
【0053】
[結果3]
また、比較例5は、シーラーの変形した箇所が認められ、電着ブリスターが発生していた。これは、実施例2及び3に比べて、比較例5は、発泡開始温度が高く、さらには、体積膨張率が低いことによると考えられる。すなわち、実施例2及び3に比べて塗膜内の微細孔が形成され難いため、水分の抜け性が悪く、制振材とシーラーの隙間側へも水蒸気が溜まったことによると考えられる。このことから、マイクロバルーン粒子の膨張開始温度は、より低いことが好ましく、さらには、最大膨張率は、8倍以上がより好ましいと考えられる。
【0054】
以上、本発明の実施形態および実施例を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施形態に係る水系塗布型制振材に含有するマイクロバルーン粒子を説明するための図。
【図2】本実施形態に係る水系塗布型制振材を塗布後の塗膜の状態を説明するための図であり、(a)は、制振材の塗布直後の塗膜の状態を説明するための図であり、(b)は、塗膜の焼付け時における制振材の状態を説明するための図。
【図3】従来の水系塗布型制振材を塗布後の塗膜の状態を説明するための図であり、(a)は、制振材の塗布直後の塗膜の状態を説明するための図であり、(b)は、塗膜の焼付け時における制振材の状態を説明するための図。
【符号の説明】
【0056】
10A:膨張前のマイクロバルーン粒子、10B:膨張後のマイクロバルーン粒子、11:バルーン、12:膨張剤、21:鋼板、22:シーラー、25:塗膜、25a:塗膜の表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性の樹脂エマルジョンと、無機充填材と、前記樹脂エマルジョンの水分を保水する保水剤と、加熱することにより揮発して膨張する膨張剤をバルーンに内包すると共に、前記膨張剤により水の沸点以下の加熱温度条件で膨張を開始するマイクロバルーン粒子と、を少なくとも含む水系塗布型制振材。
【請求項2】
前記水系塗布型制振材は、前記保水剤を1.5〜3.0質量%含有していることを特徴とする請求項1に記載の水系塗布型制振材。
【請求項3】
前記マイクロバルーン粒子の膨張が開始する温度は、80℃以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水系塗布型制振材。
【請求項4】
前記マイクロバルーン粒子は、前記加熱により8倍以上の体積に膨張するように、前記膨張剤を内包していることを特徴とする請求項3に記載の水系塗布型制振材。
【請求項5】
前記膨張剤は炭化水素であり、前記保水剤はプロピレングリコールであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水系塗布型制振材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−111746(P2010−111746A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284456(P2008−284456)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】