説明

水素の貯蔵供給ステーション

【課題】水素の貯蔵供給ステーションにおいて、水素等を車輛によって搬入する際に、利用者に与える不安感や圧迫感を軽減し、かつ万が一の火災発生時にも利用者に対する安全性を一層高める。
【解決手段】水素の貯蔵供給ステーション1は、水素の貯蔵容器2と、貯蔵容器2に貯蔵された水素を昇圧するための圧縮機15と、圧縮機15で昇圧された水素を蓄圧するための蓄圧器4と、を有し、さらに水素の貯蔵容器2と、圧縮機15と、蓄圧器4と、を内側に収容する隔離壁3と、水素の供給対象に水素を供給するための、蓄圧器4に接続され隔離壁3の外側に設置された水素供給手段6と、を有している。隔離壁3の内側には、水素の貯蔵容器2に水素を供給するための車輛の駐車空間8が設けられ、隔離壁3は車輛が出入りするための開閉可能な出入口9を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を燃料とする車輛に水素を供給するための水素の貯蔵供給ステーションに関する。
【背景技術】
【0002】
水素を燃料として使用する燃料電池自動車の開発が進められている。このようなタイプの燃料電池自動車の普及を図るためには、燃料電池や車輛自体の性能向上は勿論のこと、インフラストラクチャー面においても、水素供給ステーションを多くの場所に設置することが必要である。
【0003】
水素供給ステーションには、他の場所で製造された水素をトレーラ等の専用車輛によって水素供給ステーションまで運搬し、水素供給ステーションでは貯蔵と供給のみを行うタイプや、水素の原料物質をトレーラ等の専用車輛によって水素供給ステーションまで運搬し、水素供給ステーションで水素製造と、貯蔵及び供給を行うタイプがある(例えば、特許文献1)。
【0004】
水素供給ステーションはその性質上、火災に対する安全性が要求されることから、火災対策を目的とした技術が検討されている。特許文献2には、隔壁と天井で水素タンクを覆い、天井付近に換気口を設ける技術が開示されている。同文献にはまた、水素供給を行う自動車の停止空間の上方に、隔壁を起点として端部に向けて徐々に高くなるように傾斜を設けた屋根を有する給水素ステーションが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−126351号公報
【特許文献2】特開平7−101316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの技術は水素の滞留を防ぎ火災発生を防止することを目的としているが、トレーラから水素あるいは水素の原料物質を水素供給ステーションに搬入する際の利用者の心理的不安感については十分に対処されているとはいえない。すなわち、トレーラがステーション内に進入する際には、トレーラは利用者の滞在エリアと隣接するエリアに駐車し、必要な作業を行うことになる。しかし、利用者の滞在エリアとトレーラの駐車エリアは何の障壁もない共通の空間となっているため、利用者は心理的な不安感や圧迫感を受ける可能性がある。また、万が一作業中に火災が発生した場合に、特に水素の燃焼は炎が見えないために、利用者が火災の発生に気付かず、予想外の被害を受ける可能性が皆無とはいえない。
【0007】
本発明は、水素等を車輛によって搬入する際に、利用者に与える不安感や圧迫感を軽減することができ、かつ万が一の火災発生時にも利用者に対する安全性を一層高めることの可能な水素の貯蔵供給ステーションを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様による水素の貯蔵供給ステーションは、水素の貯蔵容器と、貯蔵容器に貯蔵された水素を昇圧するための圧縮機と、圧縮機で昇圧された水素を蓄圧するための蓄圧器と、を有し、さらに水素の貯蔵容器と、圧縮機と、蓄圧器と、を内側に収容する隔離壁と、水素を燃料として使用する車輛に水素を供給するための、蓄圧器に接続され隔離壁の外側に設置された水素供給手段と、を有している。隔離壁の内側には、水素の貯蔵容器に水素を供給するための車輛の駐車空間が設けられ、隔離壁は車輛が出入りするための開閉可能な出入口を備えている。
【0009】
水素の貯蔵容器、圧縮機、及び蓄圧器は隔離壁によって外部から物理的及び視覚的に遮断され、さらに、水素の貯蔵容器に水素を供給するための車輛の駐車空間も隔離壁の内側に設けられるため、外部から物理的及び視覚的に遮断される。車輛は利用者から区画された空間に駐車し、作業が行われるため、作業時に利用者に与える不安感や圧迫感を軽減することができる。また、万が一作業中に火災が発生しても、利用者を火災発生エリアから隔離することができるため、利用者に対する安全性を高めることができる。
【0010】
本発明の他の実施態様による水素の貯蔵供給ステーションは、水素の原料物質の貯蔵容器と、原料物質から水素を製造するための水素製造設備と、水素製造設備によって製造された水素の貯蔵容器と、貯蔵容器に貯蔵された水素を昇圧するための圧縮機と、圧縮機で昇圧された水素を蓄圧するための蓄圧器と、を有し、さらに、原料物質の貯蔵容器と、水素製造設備と、水素の貯蔵容器と、圧縮機と、蓄圧器と、を内側に収容する隔離壁と、水素を燃料として使用する車輛に水素を供給するための、蓄圧器に接続され隔離壁の外側に設置された水素供給手段と、を有している。隔離壁の内側には、原料物質の貯蔵容器に水素の原料物質を供給するための車輛の駐車空間が設けられ、隔離壁は車輛が出入りするための開閉可能な出入口を備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水素等を車輛によって搬入する際に、利用者に与える不安感や圧迫感を軽減することができ、かつ万が一の火災発生時にも利用者に対する安全性を一層高めることの可能な水素の貯蔵供給ステーションを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る水素の貯蔵供給ステーションを示す概念的構成図である。
【図2】図1に示す水素の貯蔵供給ステーションの平面図である。
【図3】他の実施形態に係る水素の貯蔵供給ステーションの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の水素の貯蔵供給ステーションの第1の実施形態について説明する。図1,2を参照すると、貯蔵供給ステーション1は、水素の貯蔵容器2を備えている。水素の貯蔵容器2は隔離壁3の内側に収容されている。水素の貯蔵容器2は、鋼などで製作された容器である。水素は、貯蔵容器2の内圧を抑えるために、液化された状態または液体成分が支配的な状態で貯蔵されている。(削除)貯蔵供給ステーション1は、水素を圧縮し昇圧する手段である圧縮機15と、昇圧された水素を蓄圧するための蓄圧器4と、蓄圧器4と後述する水素供給手段6との間に設けられた冷却機5と、を備えている。水素の貯蔵容器2に貯蔵された水素は圧縮機15で昇圧され、蓄圧器4に送られる。蓄圧器4は水素の車輛への最終充填に用いられる設備で、充填に適した高圧で水素が充填されている。蓄圧器4は、鋼あるいはカーボン繊維強化プラスチック(CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic))で製作されている。蓄圧器4は車輛の燃料タンクよりも高圧にされており、例えば、車輛の燃料タンクの圧力が70MPaの場合、蓄圧器4の圧力は80MPa程度である。蓄圧器4は、差圧充填用高圧蓄圧器やバンク充填用中間蓄圧器などが用いられる。冷却機5は、水素を車輛へ急速充填する際に水素温度が高くなることから、充填前にあらかじめ水素を冷却するための設備で、場合によっては省略することもできる。水素の貯蔵容器2に貯蔵された、蓄圧器4内の水素より低圧の水素を直接車輛に充填可能とするため、圧縮機15と蓄圧器4とをバイパスして、水素の貯蔵容器2と水素供給手段6とを配管7を介して直接結ぶラインも設けられている。水素を内包するこれらの蓄圧器4、圧縮機15及び冷却器5も、隔離壁3の内側に収容されている。隔離壁3の内側には、以上述べた設備の付帯設備として、冷却器5用の冷媒冷却装置、純水供給設備、圧縮機15の冷却水供給設備等も設けられている。
【0014】
隔離壁3は万が一の火災の際にも、利用者をその影響から保護する構造を備えていることが望ましい。隔離壁3は鉄筋コンクリートや軽量発泡コンクリート(ALC)などの適宜の構造材料で製作することができるが、水素の貯蔵容量や貯蔵供給ステーション1の配置計画などを考慮し、場合によってはより簡易な間仕切り的な壁体でも構わない。水素はガソリン等と異なり、燃焼時に炎が見えないため、万が一の火災発生時に利用者がそれに気付かず、貯蔵容器2に接近する恐れがある。このような状況においても、隔離壁3があることで不測の事態を防止することが容易となる。
【0015】
隔離壁3の上部は屋根で覆われていてもよい。これによって貯蔵容器2などを雨水から守ることができ、また、水素の搬入作業も容易となる。ただし、屋根を設ける場合は、万一の水素漏えいの際の水素の滞留を防止するため、換気口を設けることが望ましい。
【0016】
隔離壁3の外側には、水素の供給対象である燃料電池自動車11に水素を供給するための水素供給手段が設けられている。なお、以下では自動車を例にとって説明するが、水素が供給される対象は水素を燃料として使用する車輛全般である。水素供給手段は例えば、ホース(図示せず)と、ホースの先端に取り付けられ、燃料電池自動車11が搭載する水素タンクに水素を供給する供給ノズル(図示せず)と、必要な計量装置(図示せず)と、を備えたスタンド式のディスペンサ6である。ディスペンサ6は隔離壁3を貫通する配管7によって水素の貯蔵容器2に接続されている。
【0017】
隔離壁3の外側にはサービスルーム10も設置されている。サービスルーム10は、待合室やトイレを備えた利用者の一時滞在エリアで、従来のガソリンスタンドに設置されている設備と同等のものである。
【0018】
隔離壁3の内側には、水素の貯蔵容器2に水素を供給するための車輛12の駐車空間8が設けられている。車輛12は、水素を運搬する容器を備えていれば特に限定されない。隔離壁3は車輛12が出入りするための開閉可能な出入口9を備えている。車輛12の駐車空間8は、利用者の滞在空間(燃料電池自動車11の停車位置及びサービスルーム10)と仕切られた別の場所に設けられるので、利用者の圧迫感や不安感が軽減する。
【0019】
なお、貯蔵容器2として20〜40MPa程度の内圧の高圧ガス容器を用いることも可能である。この場合には一例として、タンクを搭載したトレーラ部分をトラクタ部(牽引車)から駐車空間8で分離し、分離したトレーラ部分をそのまま水素の貯蔵容器2として用いる、「トレーラ置き」と呼ばれる方法が適用可能である。また、ボンベ状の多数の容器を一組に束ねた貯蔵ユニットをトラック等で運搬し、隔離壁3の内部の所定のエリアに設置して水素の貯蔵容器2として用いる、「カードル置き」と呼ばれる方法も適用可能である。これらの場合も、トレーラやカードルに貯蔵されている水素は圧縮機15で昇圧され、蓄圧器4に送られ、必要に応じて冷却機5を介して、ディスペンサ6に送られる。
【0020】
図3を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、水素は貯蔵供給ステーション1’内に設置された水素製造設備で製造される。従って、貯蔵供給ステーション1’には水素の原料物質が搬入される。原料物質は、水素を製造するための一般的な物質であれば特に限定されないが、例えばナフサ、灯油、LPG、都市ガスなどを挙げることができる。貯蔵容器13は、このような水素の原料物質を貯蔵する。水素製造設備14は、原料物質から水素を取り出すことが可能であれば特に限定されないが、上記に列挙した原料物質を用いる場合の一例として、水蒸気改質装置や、水素PSA(Pressure Swing Adsorption)精製装置等を挙げることができる。
【0021】
水素製造設備14で製造された水素は貯蔵容器2に送られる。水素の貯蔵容器2よりも下流側の構成は第1の実施形態と同様である。これらの原料物質の貯蔵容器13と、水素製造設備14と、蓄圧器4と、圧縮機15と、冷却機5は隔離壁3の内側に収容されている。従って、利用者に対する安全性を一層高めることができる。
【0022】
隔離壁3の外側には、第1の実施形態と同様の水素供給手段(ディスペンサ6)とサービスルーム10が設けられている。
【0023】
隔離壁3の内側には、原料物質の貯蔵容器13に水素の原料物質を供給するための車輛12’の駐車空間8’が設けられ、隔離壁3は車輛12’が出入りするための開閉可能な出入口9’を備えている。これらについても基本的な構成は第1の実施形態と同様である。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態を燃料自動車用の水素の貯蔵供給ステーションを例に説明したが、本発明は、より一般的な水素の貯蔵供給システムに適用することもできる。
【符号の説明】
【0025】
1,1’ 貯蔵供給ステーション
2 貯蔵容器
3 隔離壁
4 蓄圧器
5 冷却器
6 ディスペンサ
7 配管
8,8’ 駐車空間
9,9’ 出入口
10 サービスルーム
11 燃料電池自動車
12,12’ 車輛
13 貯蔵容器
14 水素製造設備
15 圧縮機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素の貯蔵容器と、前記貯蔵容器に貯蔵された水素を昇圧するための圧縮機と、前記圧縮機で昇圧された水素を蓄圧するための蓄圧器と、
前記水素の貯蔵容器と、前記圧縮機と、前記蓄圧器と、を内側に収容する隔離壁と、
水素を燃料として使用する車輛に水素を供給するための、前記蓄圧器に接続され前記隔離壁の外側に設置された水素供給手段と、
を有し、
前記隔離壁の内側には、前記水素の貯蔵容器に水素を供給するための車輛の駐車空間が設けられ、前記隔離壁は前記車輛が出入りするための開閉可能な出入口を備えている、
水素の貯蔵供給ステーション。
【請求項2】
水素の原料物質の貯蔵容器と、前記原料物質から水素を製造するための水素製造設備と、前記水素製造設備によって製造された水素の貯蔵容器と、前記貯蔵容器に貯蔵された水素を昇圧するための圧縮機と、前記圧縮機で昇圧された水素を蓄圧するための蓄圧器と、
前記原料物質の貯蔵容器と、前記水素製造設備と、前記水素の貯蔵容器と、前記圧縮機と、前記蓄圧器と、を内側に収容する隔離壁と、
水素を燃料として使用する車輛に水素を供給するための、前記蓄圧器に接続され前記隔離壁の外側に設置された水素供給手段と、
を有し、
前記隔離壁の内側には、前記原料物質の貯蔵容器に水素の原料物質を供給するための車輛の駐車空間が設けられ、前記隔離壁は前記車輛が出入りするための開閉可能な出入口を備えている、
水素の貯蔵供給ステーション。
【請求項3】
前記蓄圧器と前記水素供給手段との間に設けられ、前記蓄圧器から前記水素供給手段に送られる水素の冷却手段を有し、前記水素の冷却手段は、前記隔離壁の内側に収容されている、請求項1または2に記載の水素の貯蔵供給ステーション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−33070(P2011−33070A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177520(P2009−177520)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】