説明

水素ガスセンサ及びその製造方法

【課題】水素ガスに対して、常温で高感度、高速に応答し、信頼性、再現性、安全性が高く、安価で消費電力が低く、製造が容易な水素ガスセンサとその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の水素ガスセンサは、水素ガスを解離、吸着して水生成の触媒作用を奏するPdナノ粒子2が集積された水素検出素子と、水素検出素子が架橋される一対の電極1a,1bを備えた水素ガスセンサであって、Pdナノ粒子2が液体中のレーザーアブレーションによって形成され、水素検出素子がPdナノ粒子2の誘電泳動で集積されて形成されたことを特徴とし、その製造方法はPdを液体中でレーザーアブレーションし、このPdナノ粒子2を誘電泳動によって一対の電極間1a.1bに集積したことを主要な特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温で高感度、高速に応答し、安価で消費電力が低い水素ガスセンサと、製造が容易なその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池自動車、家庭用燃料電池発電装置などの開発が精力的に行われ、今後、水素ガスを供給する水素ガスプラント、水素ステーション等のインフラ整備も進んでいくと予想されている。この燃料としての水素ガスは、ある意味無尽蔵とも言え、環境に与える負荷が小さいなど、優れた特徴を有している。反面、水素ガスは常温常圧の空気中で濃度4%(下限濃度)以上になると急激に反応することも知られている。従って、今後燃料電池の普及を進める上で、水素ガスが漏洩したときこれを高感度、迅速に検知できる水素ガスセンサ、さらにこれを備えた安全装置などの開発が急がれている。
【0003】
さて、従来の代表的な水素ガスセンサの1つとしてFET型ガスセンサがある(例えば、特許文献1)。このFET型ガスセンサはMISFET(金属−絶縁ゲート型FET)を使ったガスセンサであって、ゲート電極としてパラジウム(Pd、以下Pd)を用い、Pd−SiO−Si構造を有するものである。そしてこのガスセンサは、Si基板の上に形成したSiO、Siなどの絶縁層上に、ガス感応膜であるパラジウム(Pd、以下Pd)のゲート電極を設け、この絶縁層が部分的に露出するようにしたものであり、理想的な特性をもたせるべく、予め水素を含有する気体中で熱処理するものである。なお、白金(Pt、以下Pt)、イリジウム等のゲート電極でもよいとされている。
【0004】
そして、この特許文献1のFET型ガスセンサの動作を説明すると、検出すべき水素ガスがPd表面で吸着、解離されて原子状態のHとなり、拡散によってSiO界面に達して界面電位を発生し、この結果FETの特性パラメータである閾値電圧が変化し、この閾値電圧の変化を測定することによって水素ガスの濃度を検出するものである。しかし、このような処理をしたからといって、正確な濃度測定を行うにはまだバラツキがあり、また、十分な感度を得るためには数十℃、できれば数百℃に加熱する必要があった。さらに、応答速度も十分とは言えなかった。
【0005】
このほかの従来の水素ガスセンサとして、熱電変換材料とPt触媒を組み合わせて水素の燃焼熱を検出するセンサが提案されている(非特許文献1)。この水素ガスセンサは熱電膜、Pt触媒膜を順にSi基板上に形成したもので、熱電膜を熱電酸化物(ここではリチウムをドープした酸化ニッケル)の薄膜としてRFスパッタ蒸着によって形成する。そして、さらにこれを高温処理して結晶化している。このセンサの場合も動作温度は60℃〜180℃であり、とくに80℃から100℃が好適な範囲とされており、室温付近で水素ガスの濃度を正確に測定することは難しい。また、測定結果をみると水素1%の変化で1mV程度の変化しか検出できず、温度補正が必要で、その他の誤差を考えると高精度の水素ガスセンサであるとは言い難く、応答速度も十分とは言えない。
【0006】
また、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いたPt薄膜熱抵抗変化型水素ガスセンサも提案されている(非特許文献2)。このPt薄膜熱抵抗変化型水素ガスセンサは水晶基板上にPt薄膜抵抗パターンを形成し、このパターンの下の基板をエッチングで除去し、基板の影響を受けないPt熱抵抗体を作製するものである。しかし、この場合も自己発熱で80℃以上になってしまい、測定値は理論値と大きく乖離した値を示し、結果的には水素濃度2%の変化で0.01V程度の変化量しか示さず、実用面で課題を残している。構造的にも量産化が難しく、高コスト化するものであった。同様に、MEMS技術を用いたサーモパイルとPt触媒を組み合わせた水素センサも提案されている(非特許文献3)。ただ、この技術も非特許文献2と同様、発熱量と環境温度の関係で精度を上げるには限度があり、また量産化が難しく、高コスト化するものであった。
【0007】
ところで、水素選択性が最も優れている金属はPdである。しかも、Pdは水素を大量に吸蔵する水素吸蔵金属として知られている。このため従来Pdナノワイヤを使った水素センサが提案された(特許文献2、非特許文献4参照)。これはPdが水素ガスに曝された場合に抵抗が減少する作用を利用するものである。Pdナノワイヤは、塩化パラジウム(PdCl)及び過塩素酸(HClO)の溶液から電気的にバイアスがかけられたグラファイト段状リッジ上に電着により作製され、作製されたナノワイヤはシアノアクリレートフィルムを使用して絶縁ガラス基板に転写される。直径は55ナノメートル(nm)程度の小ささであり、ナノ間隙ブレイクジャンクション(break-junction)を有し、この間隙ブレイクジャンクションは、これらのワイヤに高い抵抗を付与する。
【0008】
ナノワイヤは水素ガスに触れると水素化パラジウム(PdH)を形成し、また、水素ガスの濃度が2%(空気中)に達すると、室温(25℃)においてαからβへ結晶の相が変化する。この相変化に関連して、金属の格子定数において3〜5%の増加がある。この増加は、ナノワイヤの「膨張」、従って、ナノ間隙ブレイクジャンクションの架橋、言葉を変えれば連結をもたらし、そしてナノワイヤの長さに沿った抵抗の全体的な減少をもたらす。この挙動は、このようなナノワイヤに特有のものであり、これらの間隙はナノワイヤが水素含有環境から取り出されると再び開き、膨張したナノワイヤは、それらの膨張前の状態に復帰するものである。
【0009】
しかし、特許文献2は上記のナノワイヤを使った方法には3つの欠点があると指摘し、別の方法を提案している。その欠点とは、第1に段状グラファイトリッジの信頼性がないことであり、第2にシアノアクリレート(接着剤)を使用することで転写する際にナノワイヤに損傷を与える可能性が高い点、第3に水素ガス濃度と温度の制限がある点が指摘されている。第3の点は、このセンサは25℃まで水素ガスを検出できず、50℃で4%〜5%が検出できる、という点である。これらはこの温度では水素の上記下限濃度(4%)を超えていることを示し、常温で使用する水素ガスセンサとしては役に立たない。また、後述するように、膨張したナノ粒子は水素含有環境から取り出されたとき再び膨張前の状態に復帰するとは限らず、繰り返し使用することは難しい。
【0010】
このため特許文献2が提案したのは、Pd−Agナノワイヤ(Ag0%〜26%)をフォトリソグラフィーによって作製することである。すなわち、Si基板にSiOをプラズマ蒸着し、更にこれにTi等の金属を蒸着して、フォトマスクとUV光によってパターン形成する。その後Ti等の金属層はエッチングされ、Ti等のナノスケール壁を形成し、この壁に沿って電気化学的にPdを蒸着し、ナノワイヤを形成する。しかし、Pd−Agナノワイヤを作製する工程は複雑で、ナノ間隙ブレイクジャンクションを確実に形成するのは難しく、コストも高くなる。また、基本的にPd−Agナノワイヤを使うため、Pdの有する水素選択性や再現性などの優れた特性が制限を受ける。
【0011】
さて、本出願の発明者の1人は、以上の水素ガスセンサとは別に、従来から不平等電界を印加してマイクロサイズの微小物体を分極させ、この分極した微小物体を誘電泳動力で操作することでマイクロ電極に捕集するDEPIM(Dielectrophoretic Impedance Measurement Method)法を研究してきた(特許文献3)。そして、最近このシーズ技術であるDEPIM法を使って、ガスセンサとして半導体カーボンナノチューブガスセンサを提案した(特願2005−153365)。この方法を使うことにより、他の方法では得られないカーボンナノチューブの凝集体の優れた特性を引き出すことに成功した。
【0012】
【特許文献1】特開平9−159633号公報
【特許文献2】特表2005−537469号公報
【特許文献3】特開2003−224号公報
【非特許文献1】申ウソク他、“熱電酸化物を用いた新型水素ガスセンサの開発”、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)平成12年度採択産業技術研究助成事業の成果報告書、[online]、平成18年8月21日、インターネット<URL:http://www.nedo.go.jp/itd/teian/ann-mtg/fy14/yokopdf/san/g60-63/g61-y.pdf>
【非特許文献2】チンウドンポン エッカリン他、「MEMS技術を用いた白金薄膜熱抵抗変化型水素ガスセンサの研究」,平成18年電気学会全国大会講演論文集 論文3−179、2006年、p.257
【非特許文献3】中田嘉昭他、「サーモパイルとPt触媒を組み合わせた水素センサ」,平成18年電気学会全国大会講演論文集 論文3−182、2006年、p.260
【非特許文献4】F.Favier他「Hydrogen Sensors and Switches fromElectrodeposited Palladium Mesowire Arrays」,Science,2001年,293,p.2227−2231
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上説明したように、FET型ガスセンサは、正確な濃度測定を行うにはまだ個体間でバラツキが多く、また、十分な感度を得るには数十℃〜数百℃に加熱する必要があった。しかも、水素選択性、応答性も十分ではなかった。また、熱電変換材料とPt触媒を組み合わせて水素の燃焼熱を検出するセンサも、動作温度は60℃〜180℃、とくに80℃から100℃が好適な範囲であり、室温(25℃)付近で水素ガスの濃度を正確に測定することはきわめて難しい。また、このセンサは水素1%の変化で1mV程度の変化しか検出できず、温度補正、誤差を考慮すると、高精度のガス検出はできない。さらに、応答性も十分ではない。
【0014】
このように従来の水素ガスセンサで水素ガス濃度を検出するには加熱することが必要で、このため常時ヒータに通電しなければならず、センサの消費電力が大きくなる。そして、水素ガス近くの環境にヒータを置くこと自体が問題であり、測定結果に対して温度補正等を行わなければ精度は見込めない。
【0015】
そして、今後設置されるであろう水素ガスプラント、水素ガスステーションなどでは、離れた多数の検出点にそれぞれ水素ガスセンサを設置する可能性が高く、この場合バッテリー駆動が最も合理的であり、バッテリー電源だけで長時間の検出動作をしなければならない。従って、水素ガスセンサとしては低温、低消費電力であることが求められる。
【0016】
MEMS技術を用いるPt薄膜熱抵抗変化型水素ガスセンサも、発熱作用で80℃以上になってしまい、精度的には水素濃度2%の変化で0.01V程度の変化しか検出できない。量産化も難しく、高コスト化するものである。同様に、サーモパイルとPt触媒を組み合わせた水素センサも提案されているが、この技術も発熱量と環境温度の関係で精度を上げるには限度があり、また量産化が難しく、高コスト化するものであった。基本的に誤差が少なく、再現性に優れ、高感度の水素ガスセンサが望まれる。
【0017】
さらに、Pdナノワイヤを使った水素センサは、段状グラファイトリッジの信頼性の欠如、シアノアクリレートで転写する際のナノワイヤの損傷、水素ガス濃度と温度に対する使用制限がある点で課題を残している。さらに、Pd−Agナノワイヤを使った水素センサは、作製する工程が複雑で、ナノ間隙ブレイクジャンクション形成の確実性に欠け、コストも高くなる。
【0018】
以上説明したことをまとめると、今後の水素ガスセンサに期待される性能としては、第1に水素選択性に優れること、第2に高感度であること、第3に常温で測定でき、信頼性、再現性が高いこと、第4に低コストであること、第5に低消費電力であること、などが挙げられる。そして、本出願の発明者の1人が提案したDEPIM法によって、ナノサイズの粒子の配置、ギャップをコントロールすることができれば、既に提案済みの半導体カーボンナノチューブガスセンサと同様に、水素ガスセンサの感度、信頼性、再現性などの課題を一挙に飛躍させることが期待できる。
【0019】
そこで本発明は、水素ガスに対して、常温で高感度、高速に応答し、信頼性、再現性、安全性が高く、安価で消費電力が低く、製造が容易な水素ガスセンサを提供することを目的とする。
【0020】
また、本発明は、水素ガスに対して、常温で高感度、高速に応答し、信頼性、再現性、安全性が高く、小型且つ安価で消費電力が低く、製造が容易な水素ガスセンサを製造する製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の水素ガスセンサは、水素ガスを解離、吸着して水生成の触媒作用を奏する金属微小粒子が集積された水素検出素子と、水素検出素子が架橋される一対の電極を備えた水素ガスセンサであって、金属微小粒子が液体中のレーザーアブレーションによって形成され、水素検出素子が金属微小粒子の誘電泳動で集積されて形成されたことを主要な特徴とする。
【0022】
また、本発明の水素ガスセンサの製造方法は、水素ガスを解離、吸着して水生成の触媒作用を奏する金属材料を液体中でレーザーアブレーションし、このレーザーアブレーションで形成された多数の金属微小粒子を誘電泳動によって一対の電極間に集積して、金属微小粒子が集積された水素検出素子を電極間に形成することを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の水素ガスセンサとその製造方法によれば、水素ガスに対して、常温で高感度、高速に応答し、信頼性、再現性、安全性が高く、小型且つ安価で消費電力が低く、製造が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の第1の形態は、水素ガスを解離、吸着して水生成の触媒作用を奏する金属微小粒子が集積された水素検出素子と、水素検出素子が架橋される一対の電極を備えた水素ガスセンサであって、金属微小粒子が液体中のレーザーアブレーションによって形成され、水素検出素子が金属微小粒子の誘電泳動で集積されて形成されたことを特徴とする水素ガスセンサである。この構成によって、水素検出素子が触媒作用を奏する金属微小粒子を誘電泳動することによって形成され、水素ガスに対して、常温で高感度、高速に応答し、信頼性、再現性、安全性が高く、小型且つ安価で消費電力が低く、製造が容易になる。
【0025】
本発明の第2の形態は、第1の形態に従属する形態であって、金属微小粒子が、3nm〜20nmを主体とする範囲で様々の異径の粒子から構成されていることを特徴とする水素ガスセンサである。この構成によって、誘電泳動して溶媒を乾燥したとき金属微小粒子間にギャップが多数形成され、これが水素ガスと接触したとき短絡され、常温で高感度、高速に応答し、信頼性、再現性、安全性が高い水素ガスセンサを提供できる。
【0026】
本発明の第3の形態は、第1または第2の形態に従属する形態であって、金属微小粒子がパラジウムまたは白金の粒子であることを特徴とする水素ガスセンサである。この構成によって、水素ガスを解離、吸着して水生成する触媒作用が強く、これによる発熱作用と別特性としての水素吸蔵作用が大きく、常温で高感度、高速に応答し、信頼性、再現性、安全性が高い水素ガスセンサを提供できる。
【0027】
本発明の第4の形態は、第1〜第3のいずれかの形態に従属する形態であって、電極間のコンダクタンス変化から周囲の水素ガス濃度が検出されることを特徴とする水素ガスセンサであり、コンダクタンス変化から常温で高感度、高速に応答する水素ガスセンサを提供できる。
【0028】
本発明の第5の形態は、第4の形態に従属する形態であって、水素ガスに未暴露の状態で使用され、電極間のコンダクタンス変化が一度検出されると再使用されないことを特徴とする水素ガスセンサである。この構成によって、使い捨てタイプの常温で高感度、高速に応答する水素ガスセンサを提供できる。
【0029】
本発明の第6の形態は、第4の形態に従属する形態であって、水素ガスに既暴露の状態で使用され、電極間のコンダクタンス変化が繰り返し検出されることを特徴とする水素ガスセンサである。この構成によって、繰り返し使用可能な常温で高感度、高速に応答する水素ガスセンサを提供できる。
【0030】
本発明の第7の形態は、第6の形態に従属する形態であって、既暴露の状態が、未暴露の状態での使用若しくは水素ガス雰囲気での熱処理によって形成されたことを特徴とする水素ガスセンサであり、繰り返し使用可能な水素ガスセンサを容易に、また所望の性能に製造することができる。
【0031】
本発明の第8の形態は、第1〜第3のいずれかの形態に従属する形態であって、水素検出素子の発熱を熱電変換する熱電部材を備え、熱電部材による電圧変化から周囲の水素ガス濃度が検出されることを特徴とする水素ガスセンサである。この構成によって、熱電変換により発熱が電圧差として検出でき、常温で高感度、高速に応答する水素ガスセンサを提供できる。
【0032】
本発明の第9の形態は、水素ガスを解離、吸着して水生成の触媒作用を奏する金属材料を液体中でレーザーアブレーションし、このレーザーアブレーションで形成された多数の金属微小粒子を誘電泳動によって一対の電極間に集積して、金属微小粒子が集積された水素検出素子を電極間に形成することを特徴とする水素ガスセンサの製造方法である。この構成によって、水素ガスに対して、常温で高感度、高速に応答し、信頼性、再現性、安全性が高く、小型且つ安価で消費電力が低い水素検出素子の性能を管理しながら容易に製造できる。
【0033】
本発明の第10の形態は、第9の形態に従属する形態であって、レーザーアブレーションで3nm〜20nmを主体とする範囲の金属微小粒子を形成することを特徴とする水素ガスセンサの製造方法である。この構成によって、誘電泳動して溶媒を乾燥したとき金属微小粒子間にギャップが多数形成され、これが水素ガスと接触したとき短絡され、常温で高感度、高速に応答し、信頼性、再現性、安全性が高い水素ガスセンサを製造できる。
【0034】
本発明の第11の形態は、第8の形態に従属する形態であって、金属材料がパラジウムまたは白金であることを特徴とする請求項9または10記載の水素ガスセンサの製造方法である。この構成によって、水素ガスを解離、吸着して水生成する反応の触媒作用が強く、これによる発熱作用と別特性としての水素吸蔵作用が大きく、常温で高感度、高速に応答し、信頼性、再現性、安全性が高い水素ガスセンサを製造できる。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
以下、本発明の実施例1の水素ガスセンサとその製造方法について説明をする。図1(a)は本発明の実施例1における水素ガスセンサの説明図、図1(b)は(a)の水素ガスセンサの外観図、図2は本発明における誘電泳動によって電極間に集積されたパラジウムナノ粒子のSEM写真、図3(a)は本発明の実施例1におけるパラジウムナノ粒子を製造する製造装置の説明図、図3(b)は(a)のパラジウムナノ粒子形成前後の容器の比較写真、図4(a)は本発明の実施例1における水素ガスセンサを構成するパラジウムナノ粒子のTEM像、図4(b)は(a)のパラジウムナノ粒子の粒径分布図、図5は本発明の実施例1における水素ガスセンサを装着して水素ガスを検出するガス検出装置の構成図、図6は本発明の実施例1におけるPdナノ粒子泳動装置の構成図、図7は本発明の実施例1における水素ガスセンサの水素ガス中での応答図である。
【0036】
図1(a)(b)において、1は水素ガスを検出するため基板化された水素ガスセンサ(図1(b)参照)、1a,1bはキャッスルウォール型電極、櫛歯型電極等の形状を備えたアルミニウム等の一対の電極、2は集積して架橋状態となったPdナノ粒子(本発明の金属微小粒子)、3a,3bは誘電泳動を実施可能にする不平等電界を発生する屈曲した縁部(エッジ)等の電界集中用縁部、4は絶縁基板、5a,5bは電極1a,1bの接続端子である。Pdナノ粒子2が実施例1におけるPdナノ水素検出素子(本発明の水素検出素子)となる。6はPdナノ粒子2の架橋端が電極1a,1bと電気的に接合される接合部、7は出力端子である。なお、ここで集積して架橋状態となったPdナノ粒子2とは、ナノサイズの大小様々のPdナノ粒子2が一部接触し、残りは小さな間隙(ギャップ)を介して誘電泳動された位置にバラバラに配置されながら、電極1a,1b間に凝集体の物理的な架橋をかけることを意味する。
【0037】
まず、この架橋である実施例1におけるPdナノ水素検出素子の説明をする。材質としてPdを使ったPdナノ粒子2として説明するが、Pt、イリジウムなど白金族の他の金属でも同様である。しかし、水素選択性、再現性の観点からPdが好適で、Ptがこれに次ぐ。ナノ粒子とはnm(10−9m)スケールの直径の粒子を意味するが、この「ナノ」とはあくまで中央値がナノサイズであって、中にはこれより大きなサイズ、数十nm〜数百nmの粒子が混入する可能性があるのは製法上避けられない。
【0038】
誘電泳動(DEPIM法)でPdナノ粒子2を電極1a,1bに集積する場合、Pdナノ粒子2は一旦水等の溶媒に混合し、この懸濁液中の電極1a,1bへ交流電圧を印加し、これによって発生する不平等電界の中で電界強度が最も大きくなる電界集中用縁部3a,3b(図1(a)、図2参照)間にPdナノ粒子2を誘電泳動によって集積する。この場合溶媒は水がよい。なお、誘電泳動でPdナノ水素検出素子を製造する製造方法については後述する。集積後に溶媒が蒸散され、電極間1a,1b間において大小様々のPdナノ粒子2が一部接触し残りの箇所では小さなギャップを保って凝集した状態で物理吸着される。
【0039】
ところで、実施例1で使用するPdナノ粒子2は、液中レーザーアブレーションによって作製する。純水中にPdの板を置き、これにレーザーを30分照射することによって液中レーザーアブレーションを行う。図3(a)はPdナノ粒子2を製造する製造装置の概略図を示し、図3(b)はPdナノ粒子形成前後の水溶液を比較したものである。図3(a)において、8はレーザー装置、9は板状となったPd原材料(本発明の金属材料)、10は水等の溶媒である。なお、28は溶媒10を貯めた容器であって、これについては後述する。
【0040】
図3(b)に示す左図(左側容器写真)は、30分のレーザー照射でPd原材料9が溶融し、溶融した金属が表面張力で球状となって凝固し浮遊することを示している。図3(b)の右図(右側容器写真)はレーザー照射前の状態を示す。このときのレーザー装置8はQスイッチNd:YAGレーザーを使い、エネルギーフルエンスは7〜128J/cmであった。また、この照射で形成されたPdナノ粒子2は可溶性の性質を有し、純水中にそのまま分散されて溶け、図4(a)のTEM像のようになる。
【0041】
このレーザー照射によって得られたPdナノ粒子2の粒径分布は、図4(b)のように3nm〜20nmを主体とする範囲で分布しており、3nm〜5nm付近を中央値としてこの付近に多数の粒子が存在し、5nmから20nm付近にかけて漸減する分布を示す。なお、1nmから5nmは少ない。従って、Pdナノ粒子2で架橋するときには、この分布からみて、同一径のPdナノ粒子2を集積した場合より多数の粒子を凝集させることが可能で、粒子間に非常に多くの接触点若しくは接近点を形成することができる。すなわち、比較的大きな粒子が接触している空間内に、小さな粒子が存在するような場合が凝集領域全体に発生し、この粒径の相違から無数のギャップが形成される。このため本来的に小さなコンダクタンスをもつことになる。そして、この液中レーザーアブレーションによれば、異径の粒径分布をもつPd粒子の形成が容易であり、しかもその後の処理のため液中へ分散させるための処理が不要となる。
【0042】
続いて、電極1a,1bについて説明すると、図1(a)に示すキャッスルウォール型電極は、電極1a,1bの互いに対向する側に1ピッチ(例えば30μm〜100μm)おきに矩形の突出部が多数形成されたものであり、互いに例えば5μm〜10μm離して対向して配設される。電極1a,1bの突出部のエッジ部分が電界集中用縁部3a,3bであり、この電界集中用縁部3a,3b間にとくに電界が集中する。矩形に限らず、櫛歯状、鋸歯状のものなど多くの形状が利用できる。なお、櫛歯状の櫛歯型電極は、櫛のように歯(例えば30μm〜100μm幅)を形成された一対の電極が溝に入れ子状に挿入、組み合わされ、狭いギャップ(例えば5μm〜10μm幅)で対向した電極であり、主として厚さ方向のエッジ間の溝に不平等電界が形成され、これによってPdナノ粒子2が集積されるものである。
【0043】
実施例1の電極1a,1bはアルミニウム等の薄膜電極とし、ガラス、プラスチック、酸化シリコンなどの絶縁基板4にメッキ、あるいは蒸着、スパッタリング等で成膜し、フォトリソグラフィー等でエッチングして形成する。薄膜の厚さは50nm〜200nm程度が望ましい。電極1a,1bの材質は誘電泳動で交流電圧を印加したとき電気分解が生じないようなイオン化傾向の小さい金属が望ましい。
【0044】
続いて、実施例1の水素ガス濃度を検出するガス検出装置と、水素ガスセンサ1を作製するためのPdナノ粒子泳動装置について説明する。ガス検出装置の一例を図5に示す。図5に示したAはガス検出制御装置である。このガス検出制御装置Aは、測定時使用するだけでなく、Pdナノ水素検出素子の作製時に、Pdナノ粒子2を誘電泳動させるPdナノ粒子泳動装置にそのまま利用できるものである。このとき、共通の装置を使って水素ガス濃度の検出と、水素ガスセンサ1のPdナノ水素検出素子の形成とが実施できる。
【0045】
さて、図5において、11は電極1a,1b間に測定用の交流電圧を印加する電源部、12は電極1a,1b間のコンダクタンスを測定することができる測定部、13はマイクロプロセッサ等から構成され、プログラムやデータを読み込んで機能し、少なくとも電源部11及び測定部12を制御するとともに演算を行う演算制御部、14は表示部、15はプログラムやデータを記憶したメモリ部、15aは水素ガスのコンダクタンス変化の校正データを格納した校正データ部、16は計時部である。なお、27aは水素ガスセンサ1を収容して水素ガス雰囲気にすることができ、この水素ガス濃度を検知することができる検知用の密閉チャンバである。
【0046】
電源部11は直流または交流電源であり、電源は演算制御部13によって制御される。本実施例1においては、直流電圧の場合振幅0.5V〜10V、交流の場合は更に周波数を1kHz〜10MHzの間で調整することができる。なお、実施例1では、交流電圧として正弦波を印加するが、ほぼ一定の周期で流れの向きを変える三角波、方形波等の電圧を意味し、正負両サイドの電流の平均値が等しいものである。
【0047】
測定部12には1kΩ程度の電流検出用の抵抗が設けられ、図5に示す電圧印加回路に直列に挿入されている。密閉チャンバ27a内に水素ガスを充満して周波数100kHz、振幅0.5Vの正弦波高周波電圧を印加し、電極1a,1b間のコンダクタンスを測定することによりガス濃度を求める。所定の直流電圧を印加した場合は、上記抵抗によって電流の大きさを測定し、電極1a,1b間のコンダクタンスを算出し、校正データ部15aの校正データからガス濃度を算出する。
【0048】
続いて、実施例1のPdナノ水素検出素子を作製するためのPdナノ粒子泳動装置について説明する。図6は本発明の実施例1におけるPdナノ粒子泳動装置の構成図である。図6のBは誘電泳動制御を行う誘電泳動制御装置である。図6において、21は電極1a,1b間に誘電泳動を発生させるために交流電圧を印加する誘電泳動用の電源部、22は電極1a,1b間のインピーダンスを測定することができる測定部、23はマイクロプロセッサ等から構成され、プログラムやデータを読み込んで機能し、少なくとも電源部21及び測定部22を制御するとともに演算を行う演算制御部、24はディスプレィに表示を行う表示部、25はプログラムやデータを記憶したメモリ部、25aは集積量と時間を収めたデータ部、26は計時部である。誘電泳動制御装置Bの構成は、ガス検出制御装置Aと共通の構成であり、このときガス検出制御装置Aと誘電泳動制御装置Bはいわばガス検知/誘電泳動制御装置となる。
【0049】
次に、27は水等の溶媒にPdナノ粒子2を分散した懸濁液を誘電泳動させるために導入するための泳動用の密閉チャンバである。28はPdナノ粒子2を分散した溶媒を貯めた容器、29は溶媒を密閉チャンバ27に送るポンプ、30は超音波振動を与える等の攪拌装置、31,32は電磁弁である。なお、実施例1の場合既にPdナノ粒子2は分散状態にあり、Pdナノ粒子2は溶媒中に十分溶けているが、攪拌装置30は必要に応じて適宜使用される。
【0050】
そこで、Pdナノ水素検出素子、従って水素ガスセンサ1を作製するときのプロセスを説明する。薄膜電極の電極1a,1bを絶縁基板4に形成し、容器28内の例えば濃度1μg/ml程度のPdナノ粒子2の懸濁水を必要に応じて攪拌装置30で攪拌する。攪拌無しでもよい。分散が確かめられた時点に、電磁弁31,32を開きポンプ29を運転し、懸濁液を0.5ml/minで15μl程度の容積の密閉チャンバ27内に送る。
【0051】
次いで電極1a,1b間に100kHz、振幅5Vの高周波の正弦波電圧を印加し、不平等電界によって誘電泳動を開始する。このタイミングから計時部26がカウントを開始し、1時間程度誘電泳動する。計時部26による時間の測定とともに、測定部22で電流を測定する。演算制御部23は、Pdナノ水素検出素子の予定の性能に対応した所定の電流値をデータ部25aから読み出して制御し、計時部26がカウントアウトしたら電気の供給を停止し、ポンプ29を止め、落水後に電磁弁31,32を閉止する。
【0052】
その後、密閉チャンバ27内を室温のまま空気を循環し、水を蒸散させる。短時間で乾燥できる。乾燥後、Pdナノ粒子2が電極間に集積、架橋されたPdナノ水素検出素子を取り出す。このように誘電泳動とレーザーアブレーションを組み合わせることにより、様々な粒径の粒径分布をもつPd粒子の作製、さらにPdナノ粒子2の凝集状況、凝集によって形成されるギャップ状況をコントロールでき、高感度で信頼性の高いPdナノ水素検出素子を作製することができる。
【0053】
ところで、誘電泳動力FDEPは複素数表現でFDEP=2πε・a・Re[K]▽Eで表現できる。ここに、ε:懸濁液の誘電率、a:球形近似したときのPdナノ粒子2の半径、Re[K]:微小物体と懸濁液の複素誘電率に依存するパラメータ、E:電界強度である。このRe[K]は、誘電泳動に用いる電界の周波数fをパラメータとして、正負に変化する。特定の周波数域、例えば10kHz〜1MHzで正の誘電泳動力が働き、それ以外では負の誘電泳動力が働く。従って周波数を選んで、正の最大の誘電泳動力FDEPを作用させて効果的にPdナノ粒子2を集積する必要がある。なお、Pdナノ粒子2の粒径が大きい粒子ほど誘電泳動力FDEPが大きく、大きい粒子が接触し合って骨格を形成し、その間隙を埋めるように小さなPdナノ粒子2が収まって集積されると考えられる。
【0054】
従って、水素ガスセンサ1は、電界的に安定した位置で大きい粒子が接触して物理吸着され、その間に微小なギャップで配置された小さな粒子が多数形成される。大きな粒子間においてもギャップが形成される場合もある。そして、水の蒸散が行われるとき、最後に表面張力で張り付いた水が接触点や接近点付近で蒸発し、その際の物理力や残渣成分がギャップ形成に更に寄与することも考えられる。この構成によって、Pdナノ粒子2間にギャップ(ナノ間隙ブレイクジャンクション)が形成され、このPdナノ水素検出素子に高い抵抗を付与する。
【0055】
そして、実施例1のレーザー装置8のエネルギーフルエンス等のパラメータを変化させれば、Pdナノ粒子2の粒径分布をコントロールすることができ、さらにこれに対して誘電泳動力を制御することで、コントロールすることが難しいPdナノ粒子2のギャップのコントロールが可能になる。
【0056】
このように実施例1の水素ガスセンサ1は、電気力学現象である誘電泳動を利用してPdナノ粒子2をマイクロ電極上に集積し、電極1a,1b間に容易に架橋を形成することができ、低コストで水素ガスセンサ1を容易に製造することができる。
【0057】
続いて、以上説明した実施例1の水素ガスセンサ1の実験結果について説明する。図7は本発明の実施例1における水素ガスセンサの水素ガス中での応答図である。Pdナノ粒子泳動装置によって作成した水素ガスセンサ1を200mlの密閉チャンバ27aに収め、1%濃度の水素ガスを供給して図5に示したガス検出装置で測定したものである。測定温度は30℃(室温25℃+発熱上昇温度分5℃)である。周波数100KHz、振幅0.5Vの正弦波電圧を印加した。
【0058】
図7の実験結果によれば、密閉チャンバ27a内の空気に触れていた水素ガスセンサ1に濃度1%の水素ガスを導入したが、水素ガス暴露後(導入開始後)2分程度でコンダクタンスGが急激に上昇し、14分間の水素ガス暴露によって初期値8μSからその4倍の32μSにまで達した。この間、当初の急峻な変化を示す変化率(勾配)から徐々に変化率は低下して、ほぼ一定に近い漸増状態の変化率を示すようになった。その後、空気に切り換えて、密閉チャンバ27a内に導入すると、コンダクタンスGは僅かに変化率を増しながら上昇する。
【0059】
その後10分して、再び濃度1%の水素ガス雰囲気に曝すと、コンダクタンスGは急激に低下した。しかし、これも20秒程度で安定し、再びほぼ一定に近い漸増状態の変化率で増加した。この2回目の水素ガス暴露で出現したコンダクタンス曲線は、1回目のコンダクタンス曲線の漸増部分の延長上に存在している。すなわち、1回目の水素ガス暴露が継続したままで、空気に暴露した期間がない場合に相当するコンダクタンス曲線と、ほぼ重なった曲線となる。その後、空気と水素ガスの暴露を交互に繰返すと、暴露の度毎に、空気の暴露で上昇していたコンダクタンスが、この素子の特性としてのコンダクタンス曲線に沿った位置まで急激に低下し、その後この特性に従って漸増する。
【0060】
さて、この水素ガスセンサ1の応答のメカニズムは次のように考えることができる。すなわち、図7の(A)の領域では、第1に、pdナノ粒子2は水素ガスに暴露されると水素を吸蔵し、水素化パラジウム(PdH)を形成する。非特許文献4が指摘するように水素濃度が所定濃度になると、室温においてαからβへ結晶の相が変化する。この相変化のため、pdナノ粒子2の膨張が起こり、この膨張はpdナノ粒子2間のギャップを喪失させ、pdナノ粒子2の架橋方向に沿ってコンダクタンスの上昇をもたらす。
【0061】
また、第2に、領域(A)では、pd表面に接触している空気中のHとOが触媒作用で解離、吸着し、これらが発熱反応してHOを生成する。この発熱でpdナノ粒子2表面では溶融が起こる。ナノサイズの金属粒子の融点はバルク金属に比べて大幅に低下するが、pdナノ粒子2は図4(b)に示すように3nm〜5nm付近が大半であって、融点が大幅に低下している。従ってこの発熱で表面が溶融し、pdナノ粒子2同士が物理的につながり、水素吸蔵による膨張と同様に、コンダクタンスを上昇させる。
【0062】
しかし、pdナノ粒子2は触媒反応に伴う発熱作用によって電気抵抗率が上昇する。従って、この発熱反応はコンダクタンスG低下を招来する。この発熱反応が第3のコンダクタンスの変化要因であり、第3の変化要因は第1、第2の変化要因と異なって唯一コンダクタンスGを低下させる。
【0063】
以上のことから、(A)の領域では第1、第2、第3の変化要因の総和、相乗効果として図7のような特性を示すと考えられる。図7によれば最初の水素ガス暴露でコンダクタンスGが急激に上昇している。これは第1の変化要因の水素吸蔵反応と第2の変化要因のPd溶融作用が非可逆的で大きな変化を起こし、これがコンダクタンス変化への大きく寄与しているからと考えられる。すなわち、Pdナノ粒子2間に存在していたギャップは水素ガス暴露で水素吸蔵によって短絡し物理的に元の状態には戻り難くなり、また、pdナノ粒子2間で溶融が起こった後は短絡した状態で安定する。これらはいずれも非可逆的な反応である。従って、まず、コンダクタンス変化が急激に起こり、その後はこれら反応が安定化し、第3の変化要因である発熱作用に基づくコンダクタンス変化が支配的となり、(A)の領域のようなコンダクタンスGの変化を示すものと考えられる。
【0064】
次に、図7の領域(B)について説明すると、空気中では上記水素吸蔵反応とPd溶融作用、さらに発熱作用も生じないから、発熱作用が止まったことに原因する温度低下でコンダクタンス上昇が起こる。これが(B)の領域でのコンダクタンスGが漸増する原因と考えられる。
【0065】
しかし、図7の(C)の領域において2回目の水素ガス暴露が行われると、非可逆的な反応である水素吸蔵作用とPd溶融作用はほぼ飽和状態にあり、主として発熱による温度上昇でコンダクタンスの低下だけが起こる。これが領域(C)のコンダクタンスGが急激に減少した原因であり、その後主たる作用である発熱作用に基づいて微増傾向を示しているものと考えられる。
【0066】
以上のことから、図7を基にして、タイプの異なった次の2種類の水素ガスセンサ1を提供することができる。第1のタイプは、領域(A)の大きなコンダクタンス変化を利用する水素ガスセンサである。これは主として水素吸蔵作用とPd溶融作用を利用するものである。このタイプの水素ガスセンサ1はコンダクタンスGの変化が大きく、高感度の水素ガスセンサ1を提供することが可能である。
【0067】
ただ、水素吸蔵作用とPd溶融作用は未暴露の状態で1回暴露したときだけに得られるから、いわば、使い捨て形式で利用するのがよい。水素ガスセンサ1は何よりも感度が優先されるセンサであり、また、短時間に何度も漏洩が発生することは考え難く、十分経済性のあるセンサとなる。そして、常温でも高感度、高速応答し、信頼性、再現性が高く、消費電力が低いセンサとなる。
【0068】
第2のタイプは、図7の領域(C)のコンダクタンス変化を利用する水素ガスセンサである。第1のタイプよりコンダクタンス変化が小さく感度は1/3程度になるが、主に触媒作用に基づく発熱作用を利用しているので繰返して利用することができる。
【0069】
従って、第2のタイプの水素ガスセンサ1は経済性を最も重視したセンサとなる。この水素ガスセンサ1は、第1のタイプの水素ガスセンサ1を1回暴露しただけで交換するのではなく、2回以上繰返して使用することでも得られる。ただ、繰返して測定したときの特性を向上させるため、予め水素ガス中で100℃程度の加熱処理を行い、2回目以降の暴露を水素ガス検知に使用するのがよい。
【0070】
なお、上述したように、実施例1の水素ガスセンサ1には水素ガス雰囲気に置かれてからの状態がコンダクタンスGの変化として忠実にメモリされる。すなわち、2回目以降の水素ガス暴露で出現したコンダクタンス曲線は、1回目の水素ガス暴露から継続している場合に相当するコンダクタンス曲線とほぼ重なった曲線、傾向を示す。従って、コンダクタンスGを測定すれば、どのような経緯(暴露からの時間)で水素ガスに曝されたのか、容易に知ることができる。これはとくに第1のタイプの水素ガスセンサ1で有効であり、このメモリ効果を使うと、小型で水素ガスの濃度変化をセンサ自体で記録することができる水素ガスセンサが可能になる。
【0071】
このように本発明の実施例1の水素ガスセンサとその製造方法によれば、1回水素ガスを検知したら使い捨てする高感度で高速応答が可能なメモリ効果のある水素ガスセンサとすることも、感度や応答性だけでなく繰り返し使用可能な水素ガスセンサとすることもできる。すなわち、常温で高感度、高速に応答し、信頼性、再現性が高く、ヒータがないため安全性も高い水素ガスセンサを提供することができる。
【0072】
また、Pdナノ水素検出素子はレーザー装置で液中アブレーションして誘電泳動するだけで得られ、安価で容易に製造することができ、レーザー装置のエネルギーフルエンス等のパラメータを変化させれば、Pdナノ粒子の粒径分布をコントロールすることができ、さらにこれに対して誘電泳動力を制御することで、コントロールすることが難しいPdナノ粒子のギャップコントロールが可能になる。
(実施例2)
本発明の実施例2水素ガスセンサとその製造方法について説明をする。実施例2の水素ガスセンサは、実施例1と同様にPdナノ水素検出素子を使った水素ガスセンサではあるが、Pdナノ粒子自体のコンダクタンス変化を検出するのではなく、Pdナノ粒子の発熱に伴う温度変化を別の測温体を用いて検出するものである。図8は本発明の実施例2における水素ガスセンサの説明図である。しかし、Pdナノ水素検出素子の構成、Pdナノ粒子泳動装置、レーザー装置などの詳細は実施例1と同様であり、その説明は実施例1に譲って省略する。
【0073】
図8に示す水素ガスセンサ1はサーモパイルとPdナノ水素検出素子を組み合わせたものである。図8において、41は支持基板であるSi基板であり、裏側からのエッチングでダイヤフラム構造となっている。42はポリシリコン等の熱電材料である半導体薄膜、43は熱電材料となるアルミニウム等の金属薄膜である。
【0074】
44は電極1a,1b間に架橋されたpdナノ粒子2と金属薄膜43とが接触した位置で発熱温度を検知する温度検知部である。温度検知部44は、金属薄膜43と半導体薄膜42が接続され、且つ上部にPdナノ粒子2が集積された位置(発熱する位置)に設けられる。45は金属薄膜43と半導体薄膜42が接続された他端で環境温度を検出する環境温度検知部である。46a,46b,46cは絶縁層であり、47a,47bは出力端子である。
【0075】
実施例2の水素ガスセンサ1は、温度検知部44と環境温度検知部45の間に生じる温度差によってゼーベック効果で金属薄膜43と半導体薄膜42間に熱起電力が生じ、金属薄膜43と半導体薄膜42接続された出力端子47a,47bから温度差に相当する電圧を出力する。従って、Pdナノ水素検出素子の発熱温度を検出するため応答速度を上げることができ、高感度の水素ガスセンサ1とすることができる。なお、実施例2においては、サーモパイルとPdナノ水素検出素子を組み合わせた水素ガスセンサとしたが、熱電変換材料膜を使ったその他の熱電式水素ガスセンサでも同様である。
【0076】
このように本発明の実施例2の水素ガスセンサとその製造方法によれば、触媒作用に基づく発熱を使って検知するので、常温で高感度、高速に応答し、信頼性、再現性が高く、ヒータがなく安全性も高い水素ガスセンサを提供することができる。Pdナノ水素検出素子はレーザー装置で液中アブレーションして誘電泳動するだけで得られ、安価で容易に製造することができ、レーザー装置のエネルギーフルエンス等のパラメータを変化させれば、Pdナノ粒子の粒径分布をコントロールすることができ、さらにこれに対して誘電泳動力を制御することで、コントロールすることが難しいPdナノ粒子のギャップコントロールが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、水素ガスプラントや水素ステーション、あるいは燃料電池の水素ガスの漏洩を検知する水素ガスセンサに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】(a)本発明の実施例1における水素ガスセンサの説明図、(b)(a)の水素ガスセンサの外観図
【図2】本発明における誘電泳動によって電極間に集積されたパラジウムナノ粒子のSEM写真
【図3】(a)本発明の実施例1におけるパラジウムナノ粒子を製造する製造装置の説明図、(b)(a)のパラジウムナノ粒子形成前後の容器の比較写真
【図4】(a)本発明の実施例1における水素ガスセンサを構成するパラジウムナノ粒子のTEM像、(b)(a)のパラジウムナノ粒子の粒径分布図
【図5】本発明の実施例1における水素ガスセンサを装着して水素ガスを検出するガス検出装置の構成図
【図6】本発明の実施例1におけるPdナノ粒子泳動装置の構成図
【図7】本発明の実施例1における水素ガスセンサの水素ガス中での応答図
【図8】本発明の実施例2における水素ガスセンサの説明図
【符号の説明】
【0079】
1 水素ガスセンサ
1a,1b 電極
2 Pdナノ粒子
3a,3b 電界集中用縁部
4 絶縁基板
5a,5b 接続端子
6 接合部
7 出力端子
8 レーザー装置
9 Pd原材料
10 溶媒
11,21 電源部
12,22 測定部
13,23 演算制御部
14,24 表示部
15,25 メモリ部
15a 校正データ部
16,26 計時部
25a データ部
27,27a 密閉チャンバ
28 容器
29 ポンプ
30 攪拌装置
31,32 電磁弁
A ガス検出制御装置
B 誘電泳動制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスを解離、吸着して水生成の触媒作用を奏する金属微小粒子が集積された水素検出素子と、前記水素検出素子が架橋される一対の電極を備えた水素ガスセンサであって、前記金属微小粒子が液体中のレーザーアブレーションによって形成され、前記水素検出素子が前記金属微小粒子の誘電泳動で集積されて形成されたことを特徴とする水素ガスセンサ。
【請求項2】
前記金属微小粒子が、3nm〜20nmを主体とする範囲で様々の異径の粒子から構成されていることを特徴とする請求項1記載の水素ガスセンサ。
【請求項3】
前記金属微小粒子がパラジウムまたは白金の粒子であることを特徴とする請求項1または2記載の水素ガスセンサ。
【請求項4】
前記電極間のコンダクタンス変化から周囲の水素ガス濃度が検出されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された水素ガスセンサ。
【請求項5】
水素ガスに未暴露の状態で使用され、前記電極間のコンダクタンス変化が一度検出されると再使用されないことを特徴とする請求項4記載の水素ガスセンサ。
【請求項6】
水素ガスに既暴露の状態で使用され、前記電極間のコンダクタンス変化が繰り返し検出されることを特徴とする請求項4記載の水素ガスセンサ。
【請求項7】
前記既暴露の状態が、未暴露の状態での使用若しくは水素ガス雰囲気での熱処理によって形成されたことを特徴とする請求項6記載の水素ガスセンサ。
【請求項8】
前記水素検出素子の発熱を熱電変換する熱電部材を備え、前記熱電部材による電圧変化から周囲の水素ガス濃度が検出されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された水素ガスセンサ。
【請求項9】
水素ガスを解離、吸着して水生成の触媒作用を奏する金属材料を液体中でレーザーアブレーションし、このレーザーアブレーションで形成された多数の金属微小粒子を誘電泳動によって一対の電極間に集積して、前記金属微小粒子が集積された水素検出素子を前記電極間に形成することを特徴とする水素ガスセンサの製造方法。
【請求項10】
前記レーザーアブレーションで3nm〜20nmを主体とする範囲の金属微小粒子を形成することを特徴とする請求項9記載の水素ガスセンサの製造方法。
【請求項11】
前記金属材料がパラジウムまたは白金であることを特徴とする請求項9または10記載の水素ガスセンサの製造方法。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−51672(P2008−51672A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228656(P2006−228656)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】