説明

水素分離膜

【課題】金属多孔質基材とパラジウム又はパラジウム合金からなる水素選択透過膜との界面の密着力が強い水素分離膜を提供すること。
【解決手段】金属多孔質基材と、前記金属多孔質基材の上に形成されたPd又はPd合金からなる水素選択透過膜と、前記金属多孔質基材と前記水素選択透過膜との間に形成された中間層とを備え、前記中間層は、前記金属多孔質基材を構成する少なくとも1つの主要金属元素とPdとを含む水素分離膜。中間層に含まれるPd量は、30〜80at%が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素分離膜に関し、燃料電池のアノード、改質ガス発生装置などに用いられる水素分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、使用する電解質の種類に応じて、固体高分子型、固体酸化物型、アルカリ型、リン酸型等に分類される。電解質の種類によらず、燃料電池の燃料ガスには、一般に、純水素又は改質ガスが用いられる。改質ガスは、純水素を用いる場合に比べて種々の利点を有しているが、水素以外にCO、CO2などを含んでいるので、改質ガスを燃料電池用の燃料ガスとして用いるためには、改質ガスから水素を分離する必要がある。Pd又はその合金は、水素の選択透過性を有しているので、改質ガスのような水素を含む混合気体から水素を分離するための水素分離膜として使用されている。
【0003】
Pd又はその合金は高価であるので、Pd又はその合金を単独で水素分離膜として使用することはなく、通常は、多孔質支持体の表面に極めて薄いPd薄膜又はPd合金薄膜を形成したものが水素分離膜として用いられている。しかしながら、Pd薄膜又はPd合金薄膜と多孔質支持体とは異種材料であるので、接合強度が不十分となったり、あるいは、構成元素が相互に拡散することによる水素分離能の低下が生ずる場合があった。
【0004】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、ステンレス鋼製焼結金属管の表面に無電解メッキにより銀薄膜を形成し、その上に無電解メッキによりパラジウム薄膜を形成した水素分離膜が開示されている。同文献には、焼結金属管とパラジウム薄膜の間に銀薄膜を形成すると、焼結金属管を構成する元素のパラジウム薄膜への拡散を阻止できる点が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−262082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属多孔質基材とパラジウム薄膜の間に銀薄膜を介在させた場合であっても、金属多孔質基材とパラジウム薄膜とは異種材料であるので、界面の密着力は相対的に弱い。そのため、このような水素分離膜を長期間使用すると、パラジウム薄膜が剥離するおそれがある。また、パラジウム薄膜の密着力を高めた水素分離膜が提案された例は、従来にはない。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、金属多孔質基材とパラジウム又はパラジウム合金からなる水素選択透過膜との界面の密着力が強い水素分離膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に水素分離膜は、
金属多孔質基材と、
前記金属多孔質基材の上に形成されたPd又はPd合金からなる水素選択透過膜と、
前記金属多孔質基材と前記水素選択透過膜との間に形成された中間層とを備え、
前記中間層は、前記金属多孔質基材を構成する少なくとも1つの主要金属元素とPdとを含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
金属多孔質基材と水素選択透過膜との間に、金属多孔質基材を構成する少なくとも1つの主要金属元素とPdとを含む中間層を設けると、金属多孔質基材と水素選択透過膜との密着力が強くなる。そのため、長期間使用した場合であっても、水素選択透過膜の剥離を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
図1に、本発明に係る水素分離膜の概略構成図を示す。図1において、水素分離膜10は、金属多孔質基材12と、水素選択透過膜14と、中間層16とを備えている。
[1. 金属多孔質基材]
[1.1. 金属多孔質基材の構造]
金属多孔質基材は、水素分離膜全体の機械的強度を担う機能、及び、原料ガスを実質的に無損失で水素選択透過膜まで拡散させる機能を持つ。従って、金属多孔質基材は、水素分離膜全体の強度を保持するのに十分な相対的に厚い厚さと、原料ガスを実質的に無損失で拡散させるのに十分な相対的に大きな孔径を有する開気孔及び相対的に大きな気孔率を持つものを用いる。
金属多孔質基材は、開気孔の平均孔径及び気孔率が均一である単一層のみからなるものでも良く、あるいは、平均孔径が相対的に大きな開気孔を有する少なくとも1つの層(粗大孔層)と、平均孔径が相対的に小さな開気孔を有する少なくとも1つの層(微細孔層)からなる多層構造を備えたものでも良い。特に、多層構造を備えた金属多孔質基材は、水素分離膜全体の強度を高め、原料ガスの拡散抵抗を小さくし、かつ、緻密で厚さの薄い水素選択透過膜を形成することができるという利点がある。
ここで、「平均孔径」とは、金属多孔質基材(多層構造を有する金属多孔質基材の場合は、各層)に含まれる開気孔の径の平均値をいう。「平均孔径」は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)で金属多孔質基材の表面を観察し、一定区画内のすべての孔について縦方向と横方向の孔径を求めてその平均を算出することにより求めることができる。
【0011】
[1.2. 開気孔の平均孔径]
金属多孔質基材の表面には、水素選択透過膜が形成される。そのため、金属多孔質基材の表面の開気孔が大きくなりすぎると、ピンホールのない健全な水素選択透過膜を形成するのが困難となる。従って、金属多孔質基材は、水素選択透過膜が形成される面の開気孔の平均孔径が5μm以下であるものが好ましい。
【0012】
最適な平均孔径は、金属多孔質基材の構造により異なる。
例えば、金属多孔質基材が単一層のみからなる場合において、金属多孔質基材の開気孔の平均孔径が小さくなりすぎると、原料ガスの拡散抵抗が大きくなる。従って、このような場合において、原料ガスを実質的に無損失で水素選択透過膜まで拡散させるためには、金属多孔質基材の開気孔の平均孔径は、0.1μm以上が好ましい。平均孔径は、さらに好ましくは、1μm以上である。
【0013】
また、例えば、金属多孔質基材が多層構造を有する場合において、粗大孔層の開気孔の平均孔径は、上述した単一層のみの場合と同様の理由から、0.1〜5μmが好ましく、さらに好ましくは、0.3〜5μmである。
一方、微細孔層は、その厚さが適度な厚さであれば、開気孔の平均孔径が小さくなっても、原料ガスの拡散抵抗を相対的に小さく維持することができる。むしろ、微細孔層の開気孔の平均孔径が小さくなるほど、金属多孔質基材の表面が平滑となるので、水素選択透過膜を薄く、均一で、かつ平滑に形成するのが容易化する。金属多孔質基材が多層構造を有する場合において、水素選択透過膜を薄く、均一で、かつ平滑に形成するためには、微細孔層の開気孔の平均孔径は、0.1μm以下が好ましい。
微細孔層が2層以上からなる場合、各層の開気孔の平均孔径は、それぞれ、0.1μm以下が好ましい。各層の開気孔の平均孔径は、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていてもよい。特に、水素選択透過膜側にある微細孔層の開気孔の平均孔径を粗大孔層側に形成された微細孔層の開気孔の平均孔径より小さくすると、原料ガスの拡散抵抗を相対的に小さく維持したまま、水素選択透過膜を薄く、均一で、かつ平滑に形成するのが容易化する
【0014】
[1.3. 気孔率]
一般に、金属多孔質基材の気孔率が小さくなりすぎると、原料ガスの拡散抵抗が大きくなる。一方、金属多孔質基材の気孔率が大きくなりすぎると、水素分離膜全体の機械的強度が低下する。従って、金属多孔質基材の気孔率は、その構造に応じて最適な値を選択するのが好ましい。
例えば、金属多孔質基材が単一層からなる場合において、原料ガスを実質的に無損失で水素選択透過膜まで拡散させるためには、金属多孔質基材の気孔率は、30%以上が好ましい。一方、水素分離膜全体の機械的強度の低下を抑制するためには、金属多孔質基材の気孔率は、95%以下が好ましい。
【0015】
また、例えば、金属多孔質基材が多層構造を有する場合において、粗大孔層の気孔率は、上述した単一層のみの場合と同様の理由から、30〜95%が好ましい。
一方、微細孔層は、その厚さが適度な厚さであれば、気孔率が小さくなっても、原料ガスの拡散抵抗を相対的に小さく維持することができる。しかしながら、微細孔層の気孔率が小さくなりすぎると、原料ガスの拡散抵抗が大きくなる。従って、微細孔層の気孔率は、15%以上が好ましい。微細孔層の気孔率は、水素選択透過膜の均一性及び健全性を損なわない限りにおいて、大きいほどよい。
微細孔層が2層以上からなる場合、粗大孔層の最表面に形成された微細孔層の気孔率を15%以上とするのが好ましい。各層の気孔率は、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていてもよい。特に、水素選択透過膜側にある微細孔層の気孔率を粗大孔層側に形成された微細孔層の気孔率より小さくすると、原料ガスの拡散抵抗を相対的に小さく維持したまま、水素選択透過膜を薄く、均一で、かつ平滑に形成するのが容易化する。
【0016】
[1.4. 厚さ]
一般に、金属多孔質基材の厚さが薄くなりすぎると、水素分離膜全体の機械的強度が低下する。一方、金属多孔質基材の厚さが厚くなりすぎると、実益がないだけでなく、原料ガスの拡散抵抗が大きくなる。従って、金属多孔質基材の厚さは、その構造に応じて最適な値を選択するのが好ましい。
例えば、金属多孔質基材が単一層からなる場合において、実用上十分な強度を得るためには、多孔質基材の厚さは、50μm以上が好ましい。多孔質基材の厚さは、さらに好ましくは、100μm以上である。
【0017】
また、例えば、金属多孔質基材が多層構造を有する場合において、粗大孔層の厚さは、上述した単一層のみの場合と同様の理由から、50μm以上が好ましく、さらに好ましくは、100μm以上である。
一方、微細孔層の厚さが厚くなりすぎると、原料ガスの拡散抵抗が大きくなる。従って、微細孔層の厚さは、50μm以下が好ましく、さらに好ましくは、30μm以下である。この点は、微細孔層が2層以上からなる場合も同様である。
【0018】
[1.5. 表面粗度]
一般に、金属多孔質支持体の表面粗度(多層構造を有する場合には、最表面にある微細孔層の表面粗度)が粗くなるほど、水素選択透過膜にピンホールができやすくなる。厚さが薄く、均一で、かつ、健全な水素選択透過膜を形成するためには、金属多孔質支持体の表面粗度Raは、1μm以下(Rzで8μm以下)が好ましい。金属多孔質支持体の表面粗度Raは、さらに好ましくは、0.1μm以下(Rzで0.8μm以下)である。
【0019】
[1.6. 材質]
金属多孔質基材の材質は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の材料を用いることができる。金属多孔質基材の材質としては、具体的には、Ni、Fe、Co、若しくは、これらのいずれか1以上の元素を含む合金(例えば、ステンレス鋼、Ni合金など)などがある。
金属多孔質基材が多層構造を有する場合、金属多孔質基材には、それぞれ、これらのいずれか1種の材料を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。例えば、粗大孔層及び微細孔層には、それぞれ、同一の材料を用いても良く、あるいは、異なる材料を用いても良い。また、微細孔層が複数層からなる場合、各層には、それぞれ、同一の材料を用いても良く、あるいは、異なる材料を用いても良い。
【0020】
また、微細孔層の少なくとも1つは、以下の条件を満たす多層粉末からなる粉末層を粗大孔層の表面に形成し、還元雰囲気下で焼結させることにより得られるものが好ましい。多層粉末は、還元性雰囲気下で加熱することによって構成元素の少なくとも一部を金属にすることができる化合物(例えば、酸化物、水酸化物、有機化合物(例えば、シュウ酸塩)など)からなるもの(多層化合物粉末)であっても良く、あるいは、構成元素の少なくとも一部が初めから金属状態にあるもの(多層金属粉末)でも良い。
(a) 多層粉末は、還元雰囲気下において還元可能な易焼結性金属元素を主成分とし、前記還元雰囲気下において還元されない難焼結性金属元素を副成分として含む。
(b) 多層粉末に含まれる難焼結性金属元素の含有量は、中心部より表面の方が少ない。
また、多層粉末は、上述の条件に加えて、さらに以下の条件を備えているものが好ましい。
(c) 多層粉末は、その表面に易焼結性金属元素を主成分とする板状粒子が放射状に配置されている。
【0021】
上述の条件を満たす多層粉末は、表面に含まれる難焼結性金属元素の量が相対的に少ないので、還元性雰囲気下で加熱すると、表面において粒子間の焼結が容易に進行する。一方、内部においては、難焼結性金属元素の量が相対的に多いので、粒子の粗大化、すなわち、細孔の収縮や消滅を抑制することができる。そのため、このような多層粉末を用いると、機械的強度が高く、かつ、開気孔の平均孔径が小さい微細孔層を形成することができる。
特に、その表面に易焼結性金属元素を主成分とする板状粒子が放射状に付着している多層粉末は、粉末間の焼結が専ら板状粒子の先端で生ずるので、開気孔の気孔径が相対的に小さく、かつ、気孔率が相対的に大きい微細孔層を形成することができる。
なお、このような多層粉末の構成及び製造方法に関する詳細は、後述する。
【0022】
[2. 水素選択透過膜]
水素選択透過膜は、金属多孔質基材の上に形成される。水素選択透過膜には、Pd膜又はPd合金膜を用いることができる。Pd合金膜としては、具体的には、Pd/Ag合金膜、Pd/Cu合金膜、Pd/Au合金膜、Pd/Rh合金膜、Pd/Au/Rh合金膜などがある。
水素選択透過膜は、高価なPdを主成分として使用しているので、水素選択透過膜の厚さが厚くなるほど、高コスト化する。水素分離膜の製造コストを低減するためには、水素選択透過膜の厚さは、20μm以下が好ましい。水素選択透過膜の厚さは、さらに好ましくは、10μm以下である。
なお、一般に、水素選択透過膜の厚さを薄くすると、ピンホールが生成しやすくなるが、金属多孔質基材の構造、気孔径、及び気孔率を最適化すると、薄く、均一で、かつ健全な水素選択透過膜を形成することができる。特に、金属多孔質基材を多層構造にすると、従来の方法に比べて水素選択透過膜の厚さを薄くすることができる。
【0023】
[3. 中間層]
中間層は、金属多孔質基材と水素選択透過膜との間に形成される。中間層は、金属多孔質基材を構成する少なくとも1つの主要金属元素とPdとを含む。ここで、「主要金属元素」とは、金属多孔質基材に含まれる最も含有量が多い金属元素をいう。金属多孔質基材に含有量がほぼ同等である複数の主要金属元素が含まれる場合には、中間層は、これらの複数の主要金属元素のいずれか1以上が含まれていればよい。また、金属多孔質基材が粗大孔層と微細孔層の多層構造を備えている場合、「主要金属元素」とは、金属多孔質基材の最表面に形成される微細孔層に含まれる最も含有量が多い金属元素(含有量がほぼ同等である複数の主要金属元素が含まれる場合には、微細孔層に含まれる複数の主要金属元素のいずれか1以上)をいう。
中間層は、Pdと主要金属元素の合金であっても良く、あるいは、これらの混合物でも良い。また、中間層は、緻密質であっても良く、あるいは、多孔質でも良い。
【0024】
中間層に含まれるPd量が少なくなると、中間層を透過する水素量が少なくなる。また、中間層と水素選択透過膜との密着性が低下する。相対的に大きな水素透過量及び相対的に大きな密着性を得るためには、Pd量は、30at%以上が好ましい。Pd量は、さらに好ましくは、40at%以上である。
一方、中間層に含まれるPd量が過剰になると、中間層と金属多孔質基材との密着性が低下する。相対的に大きな密着性を得るためには、Pd量は、80at%以下が好ましい。Pd量は、さらに好ましくは70at%以下である。
【0025】
中間層の厚さが薄くなりすぎると、水素選択透過膜が剥離しやすくなる。従って、中間層の厚さは、0.3μm以上が好ましい。
一方、中間層の厚さが厚くなりすぎると、水素透過量が減少する。従って、中間層の厚さは、1.0μm以下が好ましい。
【0026】
次に、本発明に係る水素分離膜の製造方法について説明する。
金属多孔質基材は、所定の組成及び粒径を有する原料粉末を成形し、焼結させることにより製造することができる。一般に、原料粉末の粒径が大きくなるほど、金属多孔質基材に形成される開気孔の孔径を大きくすることができる。
焼結時の雰囲気は、真空中又は還元雰囲気が好ましい。焼結温度及び焼結時間は、金属多孔質基材の組成、要求される開気孔径及び気孔率に応じて最適なものを選択する。一般に、焼結温度が高くなる程、及び/又は、焼結時間が長くなる程、開気孔が収縮又は消滅しやすくなる。焼結は、常圧で行っても良く、あるいは、ホットプレス、HIP等を用いて加圧下で行っても良い。
【0027】
多層構造を有する金属多孔質基材は、上述した方法を用いて粗大孔層を形成した後、粗大孔層の表面に所定の組成及び粒径を有する原料粉末からなる粉末層を形成し、焼結させることにより製造することができる。
粉末層の形成方法は、特に限定されるものではなく、ドクターブレード法などによって粗大孔層上に原料粉末層を均一に形成後、金型プレスを行う方法などが挙げられる。
焼結条件は、粗大孔層を製造する場合と同様であり、粗大孔層及び微細孔層の組成、要求される開気孔径及び気孔率に応じて、最適な条件を選択すればよい。
【0028】
水素選択透過膜は、スパッタ、レーザーアブレーション、イオンプレーティング等のPVD、CVD、無電解メッキなどを用いて金属多孔質基材表面に形成することができる。あるいは、適当な基板表面に形成した水素選択透過膜を金属多孔質基材表面に転写し、熱処理しても良い。
【0029】
金属多孔質基材と水素選択透過膜との間に中間層を形成する方法には、以下のような方法がある。
第1の方法は、上述した方法を用いて、金属多孔質基材の上に直接、水素選択透過膜を形成した後、熱処理する方法である。熱処理により金属多孔質基材に含まれる元素と水素選択透過膜に含まれるPdとが拡散し、界面に中間層が形成される。
熱処理温度は、中間層の組成に影響を与える。一般に、熱処理温度が低すぎると、中間層に含まれるPd濃度が低くなり、密着力が低下する。高い密着力を得るためには、熱処理温度は、500℃以上が好ましい。熱処理温度は、さらに好ましくは510℃以上、さらに好ましくは520℃以上、さらに好ましくは530℃以上である。
一方、熱処理温度が高くなりすぎると、中間層に含まれるPd量が少なくなり、水素透過量が減少する。高い水素透過能を得るためには、熱処理温度は、620℃以下が好ましい。熱処理温度は、さらに好ましくは610℃以下、さらに好ましくは600℃以下、さらに好ましくは590℃以下、さらに好ましくは580℃以下である。
【0030】
第2の方法は、金属多孔質基材の上に、スパッタ、レーザーアブレーション等の方法を用いて、金属多孔質基材に含まれる少なくとも1つの主要金属元素とPdとを含む中間層を形成し、その上にさらに上述した方法を用いて水素選択透過膜を形成する方法である。水素選択透過膜を形成した後、さらに熱処理しても良い。熱処理すると、金属多孔質基材と水素選択透過膜との密着力を高めることができる。好適な熱処理条件は、第1の方法と同様であるので、説明を省略する。
【0031】
次に、易焼結性金属元素と難焼結性金属元素を含む多層粉末について説明する。
[1. 易焼結性元素と難焼結性元素]
本発明において、「易焼結性金属元素」とは、多層粉末を焼結させる際の還元雰囲気下において、金属状態が安定であるものをいう。また、「難焼結性金属元素」とは、多層粉末を焼結させる際の還元雰囲気下において、酸化物、水酸化物又は有機化合物の状態が安定であるものをいう。
易焼結性金属元素としては、具体的には、Fe、Co、Ni、Ag、Mo、Cuなどがある。これらは、いずれも比較的低い温度で焼結させることができる。微細孔層を形成するための多層粉末には、これらのいずれか1種が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
また、難焼結性金属元素としては、具体的には、2A族元素、Al、Ba、In、Si、Ge、Mn、W、Ti、Zr、Cr、Sc、Y、Znなどがある。これらは、いずれも少量で焼結の進行を阻害させることができる。微細孔層を形成するための多層粉末には、これらのいずれか1種が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0032】
各種化合物の標準状態の生成エンタルピー、エントロピーの値は、既知である。従って、これらを用いると、融解等の相変化がない場合、5%の誤差の範囲内で、ある種の金属元素の酸化物、水酸化物又は有機化合物がH2、COなどの還元ガスによって金属状態に還元される時の、平衡状態における温度と還元ガスの分圧との関係を熱力学的に算出することができる。
例えば、CuOを600℃においてH2又はCOで還元する場合、平衡状態におけるH2の分圧及びCOの分圧は、いずれも1気圧より遙かに小さい。従って、温度600℃において、1気圧のH2又は1気圧のCOで還元する還元雰囲気下において、Cuは、「易焼結性金属元素」と判断することができる。他の元素も同様である。
【0033】
[2. 難焼結性元素の含有量]
表面における難焼結性金属元素の含有量が中心部より少ない多層粉末の具体的態様には、以下のようなものがある。
(a) 多層粉末は、コア(中心層)と、コアの表面に配されたシェル(表面層)からなり、コアは難焼結性金属元素を含み、シェルは実質的に難焼結性金属元素を含まない。
(b) 多層粉末は、コアと、コアの表面に配されたシェルからなり、シェルは難焼結性金属元素を含むが、その含有量はコアの難焼結性金属元素の含有量より少ない。
(c) 多層粉末は、コアと、コアの表面に配されたシェルからなり(コアの周囲に複数層のシェルがある場合を含む)、中心から表面に向かって難焼結性金属元素の含有量が段階的又は連続的に減少している。
(d) 多層粉末は、コアと、コアの表面に放射状に配置された板状粒子からなり、コアは難焼結性金属元素を含み、板状粒子は実質的に難焼結性元素を含まない。
(e) 多層粉末は、コアと、コアの表面に放射状に配置された板状粒子からなり、板状粒子は難焼結性金属元素を含むが、その含有量はコアの難焼結性金属元素の含有量より少ない。
(f) 多層粉末は、コアと、コアの表面に配されたシェルと、シェルの表面に放射状に配置された板状粒子からなり、難溶性金属元素の含有量がコア>シェル>板状粒子になっている。
【0034】
上述したいずれの態様においても、多層粉末中に含まれる全金属元素のモル数Bに対する多層粉末中に含まれる難焼結性金属元素のモル数Aの比は、次の(1)式を満たすことが好ましい。
0.005≦A/B≦0.05 ・・・(1)
A/B比が小さくなりすぎると、多層粉末を焼結させて微細孔層を作製する際に、難焼結性金属元素による焼結の阻害効果が不十分となる。その結果、微細孔層内の開気孔が消滅するおそれがある。従って、A/B比は、0.005以上が好ましい。
一方、A/B比が大きくなりすぎると、難焼結性金属元素による焼結の阻害効果が強く現れすぎて、多層粉末の焼結性が低下する。従って、A/B比は、0.05以下が好ましい。
【0035】
[3. 多層粉末の大きさ]
一般に、粉末を焼結させて多孔体を作製する場合、多孔体に含まれる開気孔の大きさは、出発原料として用いる粉末の粒径に依存する。この点は、上述した構成を有する多層粉末を用いて微細孔層を形成する場合も同様である。
多層粉末の粒径が小さすぎると、難焼結性金属元素による多層粉末の粗大化の抑制が不十分となり、細孔が消滅するおそれがある。従って、多層粉末の粒径は、0.2μm以上が好ましい。
一方、多層粉末の粒径が大きくなりすぎると、開気孔の平均孔径が大きくなり、水素選択透過膜を薄くかつ均一に形成するのが困難となる。従って、多層粉末の粒径は、3μm以下が好ましい。
【0036】
なお、多層粉末の粒径は、例えば、次のようにして測定することができる。
すなわち、走査型電子顕微鏡(SEM)にて多数の多層粉末を観察し、一定区画内にあるすべての多層粉末の縦方向と横方向の長さを求め、その平均値を粒径とする。この場合において、多層粉末が球状でないときには、多層粉末の最も長い方向の長さと、これと直角方向の長さの平均値を多層粉末の粒径とする。
【0037】
次に、易焼結性金属元素及び難焼結性金属元素を含む多層粉末の製造方法について説明する。
[1. 第1混合工程]
まず、易焼結性金属元素の塩と難焼結性金属元素の塩とを水に溶解させ、第1原料液を作製する(第1混合工程)。易焼結性金属元素の塩及び難焼結性金属元素の塩には、それぞれ、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、酢酸塩等を用いることができる。
第1原料液に含まれる易焼結性金属元素のモル数は、難焼結性金属元素のモル数より多くする。この時のモル比によって、析出粒子(コア)の組成が決まる。
【0038】
第1原料液に含まれる易焼結性金属元素の塩の濃度が低すぎると、析出粒子を回収する際に廃液が多量に発生するおそれがある。従って、第1原料液に含まれる易焼結性金属元素の塩の濃度は、0.01モル/L以上が好ましい。
一方、易焼結性金属元素の塩の濃度が高すぎると、粒子の析出が急激に進行し、形状及び組成が均一な析出粒子を得るのが困難となるおそれがある。従って、易焼結性金属元素の塩の濃度は、4.0モル/L以下が好ましい。
【0039】
[2. 第1析出工程]
次に、第1原料液と、シュウ酸水溶液又はアルカリ金属水酸化物水溶液からなる第1反応液とを混合する(第1析出工程)。これにより、易焼結性金属元素イオン及び難焼結性金属元素イオンと、シュウ酸イオン又は水酸化物イオンとが反応し、難溶性の金属シュウ酸塩又は金属水酸化物からなる析出粒子が析出する。
第1原料液と第1反応液との混合は、錯化剤共存下で行う必要がある。錯化剤共存下で第1原料液と第1反応液との混合を行わないと、粒径が制御された粉末が得られない。第1原料液、第1反応液、及び、錯化剤の混合は、第1原料液と錯化剤とを均一に混合後、第1反応液と直接混合することにより行っても良く、あるいは、錯化剤を水に溶解させた錯化剤水溶液中に両者を少量ずつ攪拌しながら添加することにより行っても良い。 特に、後者の方法は、粒径が制御された粉末を得る方法として好適である。いずれの混合方法を用いる場合であっても、第1反応液は、シュウ酸又はアルカリ金属水酸化物が、第1原料液中に含まれる金属イオンの等量(モル)以上となるように添加するのが好ましい。
【0040】
第1反応液としてシュウ酸水溶液を用いる場合、第1反応液中のシュウ酸の濃度が低すぎると、析出粒子を回収する際に廃液が多量に発生するおそれがある。従って、第1反応液に含まれるシュウ酸の濃度は、0.01モル/L以上が好ましい。
一方、シュウ酸の濃度が高すぎると、粒子の析出が急激に進行し、形状及び組成が均一な析出粒子を得るのが困難となるおそれがある。従って、シュウ酸の濃度は、1.0モル/L以下が好ましい。なお、シュウ酸の濃度を1.0モル/Lとする時には、80℃以上の温度において、第1反応液と第1原料液とを反応させるのが好ましい。これは、溶解度の低いシュウ酸を溶解した第1反応液と第1原料液とを反応させるためである。
また、第1反応液としてアルカリ金属水酸化物水溶液を用いる場合、同様の理由から、アルカリ金属水酸化物の濃度は、0.01〜4.0モル/Lが好ましい。
【0041】
錯化剤共存下で第1原料液と第1反応液とを混合する場合において、錯化剤の種類を最適化すると、錯化剤の種類に応じて析出粒子の形状を制御することができる。
錯化剤としては、金属イオンに配位する窒素原子を分子内に有する有機化合物(例えば、アンモニア、1,3−プロパンジアミン、グリオキシムなど)を用いることができる。錯化剤の種類は、第1析出工程において析出させようとするコア粒子の形状に応じて最適なものを選択する。例えば、第1析出工程において球状のコア粒子を析出させる場合、錯化剤には、アンモニアを用いるのが好ましい。
【0042】
錯化剤水溶液中に第1原料液及び第1反応液を滴下する場合において、錯化剤水溶液中の錯化剤の濃度が低すぎると十分な量の錯体を形成することができず、析出粒子の形状を制御するのが困難となる。従って、錯化剤の濃度は、0.05モル/L以上が好ましい。
一方、錯化剤水溶液中の錯化剤の濃度が高すぎると、錯体が安定化しすぎて、析出粒子の回収量が低下するおそれがある。従って、錯化剤の濃度は、4.0モル/L以下が好ましい。
【0043】
第1原料液と第1反応液との反応が終了した後、析出粒子をろ過・水洗し、さらに粉砕する。第1原料液と第1反応液との反応条件(例えば、濃度、温度、試薬の種類等)を最適化すると、粒径が0.2〜3μmである析出粒子を得ることができる。また、析出粒子の粒径のバラツキが大きい時には、析出粒子を粉砕・分級することにより、粒径が0.2〜3μmの析出粒子を選別することができる。
【0044】
[3. 第2混合工程]
次に、易焼結性金属元素の塩、及び、必要に応じて難焼結性金属元素の塩を水に溶解させ、第2原料液を作製する(第2混合工程)。易焼結性金属元素の塩及び難焼結性金属元素の塩には、それぞれ、第1混合工程と同様のものを用いることができる。
第2原料液に含まれる難焼結性金属元素のモル数は、第1原料液中のモル数より少なくする。この時のモル比によって、シェル又は板状粒子の組成が決まる。
第2原料液に含まれる易焼結性金属元素の塩の濃度は、第1原料液と同様に、0.01〜4.0モル/Lが好ましい。
【0045】
[4. 第2析出工程]
次に、第1析出工程で得られた析出粒子と、第2原料液と、シュウ酸又はアルカリ金属水酸化物水溶液からなる第2反応液とを混合する(第2析出工程)。これにより、易焼結性金属元素イオン(及び、必要に応じて添加された難焼結性金属元素イオン)と、シュウ酸イオン又は水酸化物イオンとが反応し、析出粒子(コア)の表面に難溶性の金属シュウ酸塩又は金属水酸化物からなるシェル又は板状粒子が付着している多層析出粒子を得ることができる。
第2原料液と第2反応液との混合は、錯化剤共存下で行う必要がある。錯化剤共存下で第2原料液と第2反応液との混合を行わないと、粒径が制御された粉末が得られない。第2原料液、第2反応液、及び、錯化剤の混合は、第2原料液と錯化剤溶液とを混合後、第2反応液と直接混合することにより行っても良く、あるいは、錯化剤水溶液中に両者を少量ずつ攪拌しながら添加することにより行っても良い。 特に、後者の方法は、粒径が制御された粉末を得る方法として好適である。いずれの混合方法を用いる場合であっても、第2反応液は、シュウ酸又はアルカリ金属水酸化物が、第2原料液中に含まれる金属イオンの等量(モル)以上となるように添加するのが好ましい。
【0046】
第2反応液としてシュウ酸水溶液を用いる場合、第2反応液中のシュウ酸の濃度は、0.01〜1.0モル/Lが好ましい。また、シュウ酸の濃度が1.0モル/Lである第2反応液を用いる場合80℃以上の温度において、第2反応液と第2原料液とを反応させるのが好ましい。
また、第2反応液としてアルカリ金属水酸化物水溶液を用いる場合、第2反応液中のアルカリ金属水酸化物の濃度は、0.01〜4.0モル/Lが好ましい。
【0047】
錯化剤共存下で第2原料液と第2反応液とを混合する場合において、錯化剤の種類を最適化すると、錯化剤の種類に応じて析出粒子の表面に析出する析出物の形状を制御することができる。
錯化剤としては、金属イオンに配位する窒素原子を分子内に有する有機化合物(例えば、アンモニア、1,3−プロパンジアミン、グリオキシムなど)を用いることができる。
例えば、第2析出工程において析出粒子(コア)の表面にシェルを析出させる場合、錯化剤には、アンモニアなどを用いるのが好ましい。
一方、析出粒子(コア)の表面に、板状粒子を放射状に析出させる場合、錯化剤には、1,3−プロパンジアミン、グリオキシムなどを用いるのが好ましい。
さらに、錯化剤水溶液中に第2原料液及び第2反応液を滴下する場合において、錯化剤水溶液中の錯化剤の濃度は、0.05〜4.0モル/Lが好ましい。
【0048】
第2原料液と第2反応液との反応が終了した後、多層析出粒子をろ過・水洗し、さらに粉砕する。第2原料液と第2反応液との反応条件(例えば、濃度、温度、試薬の種類等)を最適化すると、粒径が0.2〜3μmである多層析出粒子を得ることができる。また、多層析出粒子の粒径のバラツキが大きい時には、多層析出粒子を粉砕・分級することにより、粒径が0.2〜3μmの多層析出粒子を選別することができる。
なお、第2混合工程及び第2析出工程を複数回繰り返しても良い。この時、第2原料液に含まれる難焼結性金属元素の濃度を段階的に少なくすると、中心から表面に向かって難焼結性金属元素の濃度が段階的又は連続的に減少している多層析出粒子を得ることができる。
【0049】
[5. 還元工程]
次に、第2析出工程で得られた多層析出粒子を還元雰囲気下で加熱する(還元工程)。これにより、多層析出粒子を構成する金属シュウ酸塩、金属水酸化物又は金属酸化物の少なくとも一部が金属に還元され、構成元素の少なくとも一部が金属状態である多層粉末を得ることができる。
還元ガスには、水素、一酸化炭素などを用いる。
加熱温度が低すぎると、還元ガスによる還元が不十分となる。還元が不十分な多層粉末を用いると、成形時に多層粉末が金型に付着しやすくなる。そのため、平滑な微細孔層を得るのが困難になり、あるいは、成形時に金型に離型剤を塗布する必要が生ずる場合がある。従って、加熱温度は、300℃以上が好ましい。
一方、加熱温度が高すぎると、還元時に粒子間の結合が起こりやすくなる。その結果、多層粉末の充填性が低下し、均質な成形体を得るのが困難になるおそれがある。従って、加熱温度は、600℃以下が好ましい。
【0050】
なお、多層析出粒子を還元することなく、そのまま成形し、還元雰囲気下で加熱しても良い。非金属状態にある多層析出粒子の成形体を還元雰囲気下で加熱すると、多層析出粒子の還元と同時に、還元により生成した金属状態の多層粉末を焼結させることができる。
また、多層粉末の製造方法は、上述した液相合成法に限られるものではない。
多層粉末を得る他の方法としては、例えば、
(1) コア粒子を製造した後、スピンコートや旋回流を利用してコア粒子の表面にシェル又は板状粒子を付着させる方法、
(2) コア粒子と、これより細かい粉末(粒径比<1/5)を回転体の中で混合する方法、
(3) コア粒子の表面に、CVD、スパッタなどの物理的成膜法を用いてシェル又は板状粒子を付着させる方法、
(4) 共沈法やゾルゲル法を用いて、コア粒子の表面にシェル又は板状粒子を付着させる方法、
などがある。
【0051】
次に、本発明に係る水素分離膜の作用について説明する。
金属多孔質基材には、通常、Ni、Ni合金、SUS、Coなどの貴金属以外の材料が用いられる。このような金属多孔質基材表面にPd膜又はPd合金膜を形成すると、Pdと金属多孔質基材との界面の密着力が弱いために、長期間の使用により剥離する可能性がある。
これに対し、金属多孔質基材とPd膜又はPd合金膜の間に所定の組成を有する中間層を挿入すると、水素選択透過膜/中間層界面、及び中間層/金属多孔質基材界面には、いずれも同種の金属が存在する。そのため、界面における相互拡散が容易となり、金属多孔質基材と水素選択透過膜との密着力が向上する。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
[1. 試料の作製]
[1.1. 微細孔層用多層Ni粉末の作製]
まず、水に1.98モル/L相当のNiSO4と、0.02モル/L相当のZnSO4とを溶解させたNiSO4/ZnSO4水溶液(第1原料液)と、濃度4モル/LのNaOH水溶液(第1反応液)とを作製した。
次に、濃度2.0モル/LのNH3水溶液(錯化剤水溶液)100mLを500mLのトールビーカーに入れ、ウォーターバスにて40℃に保持した。次いで、1000rpmで回転する攪拌棒でNH3水溶液を攪拌しつつ、これに第1原料液及び第1反応液を、それぞれ、毎分0.7mLずつ15分間供給した。その結果、水酸化ニッケルを主成分とする析出粒子が析出した。この析出粒子は、水酸化ニッケルの他にもZnを含有する。Znは、水酸化ニッケルのニッケルサイトにある一部のNiと置換されていると考えられる。得られた析出粒子をろ過により回収し、析出粒子を水洗して乾燥させた。
【0053】
次に、濃度1.0モル/LのNiSO4水溶液(第2原料液)、及び、濃度2.0モル/LのNaOH水溶液(第2反応液)を作製した。析出粒子、及び、濃度1.0モル/Lの1,3−プロパンジアミン水溶液(錯化剤水溶液)100mLを500mLのトールビーカーに入れ、温度0℃に保持した。次いで、2000rpmで回転する攪拌棒によって、1,3−プロパンジアミン水溶液を攪拌しつつ、これに第2原料液及び第2反応液とを、それぞれ、毎分0.7mLずつ30分間供給した。これにより、析出粒子の表面に、水酸化ニッケルからなる板状粒子が放射状に付着している多層析出粒子を得た。得られた多層析出粒子をろ過により回収し、多層析出粒子を水洗して乾燥させた。多層析出粒子は、中心部(析出粒子)の直径が約0.2μm、表面部(板状粒子)の粒径が約0.3μmであった。
得られた多層析出粒子を、水素ガス中において450℃×1hrの加熱処理を行った。これにより、水酸化ニッケルがNiに還元され、多層Ni粉末が得られた。多層Ni粉末の粒径は、0.2μmであった。
【0054】
[1.2. 粗大孔層の作製]
粒径1μmの市販Ni粉末を金型に充填し、0.3t/cm2(30MPa)でプレス成形した。成形体を、水素/N2混合ガス中において、500℃×1hで仮焼した。その後、成形体にさらにプレス圧(200MPa)を加えた後、再度、水素/N2混合ガス中において、500℃×2hの熱処理を行い、粗大孔層を得た。得られた粗大孔層の厚さは250μm、開気孔径は5μm以下であった。
【0055】
[1.3. 微細孔層の作製]
粗大孔層の表面に、[1.1.]で得られた多層Ni粉末を厚さ0.2mm程度に塗布し、プレス成形(圧力:30MPa)した。成形後、水素/N2混合ガス中において、400℃×1h程度の仮焼を行った。その後、成形体にさらにプレス圧(200MPa)を加えた後、再度、水素/N2混合ガス中において、500℃×1hの熱処理を行い、金属多孔質基材を得た。微細孔層の厚さは15μm、開気孔径は0.05μm以下、気孔率は20%であった。
【0056】
[1.4. 水素選択透過膜及び中間層の作製]
金属多孔質基材の表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて7μmのPd膜を成膜した。成膜後、500〜700℃で熱処理を行い、水素分離膜を得た。
【0057】
[2. 評価]
得られた水素分離膜の水素透過能をガスクロマトグラフにより測定した。また、中間層に含まれるPd濃度をオージェ電子分光分析法により測定した。図2に、中間層のPd濃度と水素流束との関係を示す。
熱処理温度500〜600℃の場合、水素流束は4〜6ml/cm2/minを示したが、熱処理温度700℃の場合、水素流束は1ml/cm2/minに低下した。
【0058】
(実施例2)
Ni板上に厚さ約0.3μmのPd膜をスパッタ成膜した後、還元雰囲気中において500〜700℃で熱処理した。熱処理後、オージェ分析により界面の元素の拡散の様子を観察した。その結果、PdとNiとの間に相互拡散が認められた。
表面のPd濃度は、500℃では85%であったが、600℃では38at%まで低下した。700℃ではPdが完全にNi内部まで拡散しており、表面Pd濃度は15%まで低下した。水素透過能の結果と合わせて考えると、熱処理は、600℃以下、より好ましくは、550℃以下で行うことが望ましい。
【0059】
(実施例3、比較例1)
実施例1と同様の手順に従い、微細孔層/粗大孔層からなる金属多孔質基材の表面に厚さ7μmのPd膜を形成し、熱処理によって金属多孔質基材/Pd膜の界面に中間層を形成した水素分離膜を作製した(実施例3)。なお、熱処理温度は550℃とした。また、中間層のPd濃度は、55at%であった。
比較として、微細孔層/粗大孔層からなる金属多孔質基材の表面に厚さ7μmのPd膜のスパッタ成膜のみを行った水素分離膜を作製した(比較例1)。
【0060】
得られた水素分離膜の表面に、厚さ2μmのSrZrInO3膜を酸素分圧0.13MPaで成膜し、水素分離膜型燃料電池単セルを作製した。図3に、成膜後の単セルを示す。中間層を形成しなかった単セル(図3(a))は、Pd膜の剥離が見られ、金属多孔質基材から浮き上がっていた。一方、中間層を形成した単セル(図3(b))は、このような剥離は見られず、Pd膜/中間層/金属多孔質基材が一体となっていた。
【0061】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る水素分離膜は、燃料電池用のアノード、改質ガス生成システム用の水素分離膜などに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る水素分離膜の概略構成図である。
【図2】中間層のPd濃度と水素流束との関係を示す図である。。
【図3】図3(a)は、中間層を形成しない単セル(比較例1)の外観写真であり、図3(b)は、中間層を形成した単セル(実施例3)の外観写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属多孔質基材と、
前記金属多孔質基材の上に形成されたPd又はPd合金からなる水素選択透過膜と、
前記金属多孔質基材と前記水素選択透過膜との間に形成された中間層とを備え、
前記中間層は、前記金属多孔質基材を構成する少なくとも1つの主要金属元素とPdとを含む水素分離膜。
【請求項2】
前記金属多孔質基材は、前記水素選択透過膜が形成される面の開気孔の平均孔径が5μm以下である請求項1に記載の水素分離膜。
【請求項3】
前記金属多孔質基材は、Ni、Ni合金、ステンレス鋼、又は、Coからなる請求項1又は2に記載の水素分離膜。
【請求項4】
前記中間層に含まれるPd量は、30〜80at%である請求項1から3までのいずれかに記載の水素分離膜。
【請求項5】
前記中間層の厚さは、0.3〜1.0μmである請求項1から4までのいずれかに記載の水素分離膜。
【請求項6】
前記水素選択透過膜の厚さは、20μm以下である請求項1から5までのいずれかに記載の水素分離膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−212812(P2008−212812A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53084(P2007−53084)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】