説明

水素製造装置

【課題】還元性ガス利用水蒸気電解による水素製造プロセスにおいて、プロセスの高効率化を図るために、効果的にSOFCを組み合わせる方法、効果的な還元性ガスの改質方法、水素の製造方法、およびこれらの方法を実施するための装置を提供する。
【解決手段】本発明の一態様によれば、固体酸化物電解質隔膜によって電解槽をアノード室とカソードに仕切った高温水蒸気電解装置のカソード室に水蒸気を供給し、アノード室に還元性ガスを供給して、カソード室において水蒸気の電気分解を行うことによって水素を製造する方法において、高温水蒸気電解装置と並行して固体酸化物型燃料電池を運転し、固体酸化物型燃料電池の燃料室から排出される排ガスを高温水蒸気電解装置のアノード室に供給し、固体酸化物型燃料電池によって得られる電力を高温水蒸気電解装置の電力として用いることを特徴とする水素製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気の高温電解あるいは電気化学的分解により水素を製造する方法及び装置に関するものであり、特に、固体酸化物電解質隔膜によって電解部をアノード側とカソード側に仕切った電解装置のカソード側に水蒸気を供給し、アノード側に還元性のガスを供給して電解を行うことによって、電解電力を低減した電解方法において用いるのに適した電解装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素製造を目的とした水の電解法には、アルカリ水電解、固体高分子水電解、高温水蒸気電解等がある。室温付近で電解されるアルカリ水電解、固体高分子水電解では電解電圧に1.8V以上を必要とし、水素製造に必要な電力量が大きいため、経済的な水素製造法とは言えない。これに対し、固体酸化物電解質を隔膜として用いる高温水蒸気電解法(SOEC)は、高温であるために水の分解に熱エネルギーが利用できるため、電解電圧は1.5V以下に小さくすることができ、水素製造に必要な電力量を低減できる。さらに、最近、電解槽のアノード側に天然ガスを供給することによって、固体酸化物電解質隔膜中をカソード側からアノード側へ移動する酸化物イオン(O2−)をアノード側で反応させて、その化学ポテンシャルを水の分解に使用することにより、大幅に消費電力を低下させることのできる電解法(還元ガス補助固体酸化物電解セル:Deoxidizer Gas Assisted Solid Oxide Electrolysis Cell:本明細書においてはSOECという)が提案されている(特許文献1)。また、本発明者らが出願した特許においては、SOECにおいて、アノード側に供給することのできるガスとしては、天然ガス(メタン)に限定されず、還元性ガスであれば炭化水素、バイオマス由来のガス化ガスあるいは有機物を熱分解して得られるガスでもよいことを示した(特許文献2)。
【0003】
上記特許文献1で提案されている方法では、電解部のアノード側に天然ガスを直接供給して、アノード側に存在する酸化物イオンと反応させて、その反応エネルギーをカソード側での水の分解に利用する。この場合、原理的にはメタンによる復極作用が水の電解電圧を下げるので、理論電解電圧はほぼ0となる。実用的な水電解装置では、これに過電圧を加えた電圧が必要となるが、トータル電圧として約0.5Vで水電解が可能となると上記特許文献1では主張している。しかし、外部から供給する電力は高価であるため、効率的に・安価に電力を得るための水素を製造するという目的を達成するためには、さらにより効率的に・安価に水素を製造できるプロセスが求められている。
【特許文献1】米国特許第6,051,125号
【特許文献2】特開2004−060041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
効率的に電力を得る方法としては、固体酸化物型燃料電池(SOFC)が知られている。したがって、SOFCと還元性ガスを利用する高温水蒸気電解とを組み合わせることで、より効率的な高純度水素製造プロセスが成立すると考えられる。しかし、単に還元性ガス利用高温水蒸気電解用の電源として別個に設置されたSOFCを用いるだけでは、全体プロセスとしての効率化の検討が不十分である。
【0005】
また、高純度水素製造プロセスを構築する際に、還元性ガスとしてメタンなどの炭化水素を用いる場合には、電解槽における電極への炭素析出を抑制するために、原料ガス(還元性ガス)の水蒸気改質あるいは部分酸化改質を行う必要がある。さらに水蒸気改質においては必要な熱の効果的な供給が重要であり、全体のプロセスとして熱供給が効率的に行えることが求められている。
【0006】
本発明は、還元性ガス利用水蒸気電解による水素製造プロセスにおいて、プロセスの高効率化を図るために、効果的にSOFCを組み合わせる方法、効果的な還元性ガスの改質方法、水素の製造方法および装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決して効率的に高純度を水素を製造することのできるシステムを提供すべく鋭意研究を重ねた結果、固体酸化物電解質膜を用いた高温水蒸気電解装置によって水素を製造するシステムにおいて、高温水蒸気電解装置と並行して固体酸化物電解質膜を用いた燃料電池を運転し、電解装置のアノード室と燃料電池の燃料室とを連通させて、電解装置の還元性ガスを燃料電池における燃料ガスとしても利用し、且つ燃料電池で発生させた電力を高温水蒸気電解装置の電解用電力として用いることによって、水蒸気電解による水素製造プロセスの効率を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。以下に、本発明の構成を説明する。
【0008】
まず、本発明において使用される固体酸化物電解質膜を用いた高温水蒸気電解装置による水素の製造装置の基本原理を図1を参照して説明する。
高温水蒸気電解槽1は、固体酸化物電解質の隔膜6によって、アノード(陽極)3を配置したアノード室5と、カソード(陰極)2を配置したカソード室4とに仕切られている。高温水蒸気9を電解槽のカソード室4に、炭化水素などの還元性ガス10を電解槽のアノード室5に供給して、電力7をAC−DC変換器8で直流に変換してアノード3及びカソード2に通電すると、カソード室4に供給された高温水蒸気9は電解作用で水素イオンと酸素イオンに分解される。生成した酸素は酸化物イオン13となって、固体酸化物電解質膜6を選択的に通過してアノード室5に移動する。これによりカソード室4からは水素11が得られる。なお、カソード室4から排出されるガスには水蒸気が含まれている。この水蒸気を凝縮器や吸着乾燥機等によって除去することにより、高純度の水素ガスを得ることができる。アノード室5には炭化水素などの還元性ガス10が供給され、カソード室4から電解質膜6を通って移動してきた酸化物イオン13と還元性ガス10とが反応する。これによって酸素が消費されて、酸化物イオンの濃度勾配の形成に寄与するので、水の電解に必要な電圧が下がり、電力消費量は大幅に低減される。アノード室5からは、二酸化炭素、水蒸気などの反応生成物を含む排ガス12が排出される。
【0009】
一方、本発明において使用される固体酸化物電解質膜を用いた燃料電池の基本原理を図2を参照して説明する。
固体酸化物型燃料電池セル31は、固体酸化物電解質の隔膜36によって、燃料室34と空気室35とに仕切られている。電解質膜36の両側には電極32及び33が配置され、負荷(外部回路)を介して電気的に接続されている。電極32及び33は、それぞれ、燃料極、空気極と呼ばれる。炭化水素、水素などを含む燃料ガス37を燃料室34に供給し、酸素又は酸素を含む空気38を空気室35に供給する。空気室に供給された空気中の酸素又は酸は、空気極33から電子を受け取って酸化物イオン41となり、電解質膜36中を拡散して燃料室34に移動する。燃料室34では、燃料ガス37中の水素又は炭化水素が、電解質膜36を通して空気室35から移動してきた酸化物イオン41と反応して水又は二酸化炭素を生成する。この反応の際に放出された電子が燃料極32から外部回路を経て空気極33に移動する。これによって発電が行われる。したがって、燃料極32はアノード(負極)、空気極33はカソード(正極)として機能する。燃料室34からは二酸化炭素、水(水蒸気)などを含む排ガス39が排出され、空気室35からは酸素が減少した空気40が排出される。
【0010】
本発明の一態様に係る方法においては、上記に説明した固体酸化物電解質膜を用いた高温水蒸気電解装置と固体酸化物電解質膜を用いた燃料電池とを並行して運転し、固体酸化物型燃料電池の燃料室から排出される排ガスを高温水蒸気電解装置のアノード室に供給する。また、本発明の他の態様に係る方法においては、同様に固体酸化物電解質膜を用いた高温水蒸気電解装置と固体酸化物電解質膜を用いた燃料電池とを並行して運転し、高温水蒸気電解装置のアノード室から排出される排ガスを固体酸化物型燃料電池の燃料室に供給する。即ち、本発明の一態様は、固体酸化物電解質隔膜によって電解槽をアノード室とカソードに仕切った高温水蒸気電解装置のカソード室に水蒸気を供給し、アノード室に還元性ガスを供給して、カソード室において水蒸気の電気分解を行うことによって水素を製造する方法において、高温水蒸気電解装置と並行して固体酸化物型燃料電池を運転し、固体酸化物型燃料電池の燃料室から排出される排ガスを高温水蒸気電解装置のアノード室に供給し、固体酸化物型燃料電池によって得られる電力を高温水蒸気電解装置の電力として用いることを特徴とする水素製造方法に関する。また、本発明の他の態様は、固体酸化物電解質隔膜によって電解槽をアノード室とカソード室に仕切った高温水蒸気電解装置のカソード室に水蒸気を供給し、アノード室に還元性ガスを供給して、カソード室において水蒸気の電気分解を行うことによって水素を製造する方法において、高温水蒸気電解装置と並行して固体酸化物型燃料電池を運転し、高温水蒸気電解装置のアノード室から排出される排ガスを固体酸化物型燃料電池の燃料室に供給し、固体酸化物型燃料電池によって得られる電力を高温水蒸気電解装置の電力として用いることを特徴とする水素製造方法に関する。更に、本発明はかかる水素製造方法を実施するための装置にも関する。即ち、本発明の更に他の態様は、固体酸化物電解質隔膜によって電解槽をアノード室とカソード室に仕切ってアノード室に還元性ガスを供給する高温水蒸気電解装置と、固体酸化物電解質膜によって発電セルを燃料室と空気室に仕切った固体酸化物型燃料電池とから構成される水素製造装置であって、高温水蒸気電解装置のアノード室と固体酸化物型燃料電池の燃料室とが連通しており、固体酸化物型燃料電池によって得られる電力が高温水蒸気電解装置の電解用電力として供給されることを特徴とする水素製造装置に関する。
【0011】
図3に本発明の一態様に係る水素製造装置の概念を示す。図3に示す水素製造装置は、上流側に固体酸化物型燃料電池31が配置され、下流側に固体酸化物電解質膜を用いた高温水蒸気電解装置1が配置され、燃料電池31の燃料室34から排出される排ガス39が、還元性ガスとして、高温水蒸気電解装置1のアノード室5に供給されるように構成されている。高温水蒸気電解装置1及び燃料電池31の各構成要素に関しては、図1及び図2と同じ参照番号を用いる。また、図1及び図2に関して説明したものと同じメカニズムについては適宜説明を省略する。
【0012】
固体酸化物型燃料電池31の燃料室34に、炭化水素、水素などを含む還元性ガスを燃料ガス37として供給する。燃料ガスとしてメタンなどの炭化水素を用いる場合には、電極上での炭素析出を抑制するために燃料中に水蒸気を導入して改質触媒層に通してメタンをCO、Hに変化させる水蒸気改質を行ったガスを、燃料ガス37として固体酸化物型燃料電池31の燃料室34に供給することができる。固体酸化物型燃料電池31の空気室35には空気38を供給する。上記に記載したメカニズムによって空気38中の酸化物イオン41が空気室35から固体酸化物電解質膜36を通って燃料室34に移動し、燃料ガス中のCH,CO,Hと反応して、それぞれCO及びH、CO,HOとなる。この反応の際に放出された電子が燃料極32から外部回路を経て空気極33に移動する。これによって発電が行われる。
【0013】
固体酸化物型燃料電池31の燃料室34から排出される排ガス39は、下流に配置されている固体酸化物電解質膜高温水蒸気電解装置1のアノード室5に供給される。固体酸化物型燃料電池31の燃料室34では、上記のように燃料ガス中のCH,CO,Hが酸素と反応して、それぞれCO及びH、CO,HOとなるが、燃料中の一部のCHなどが反応しているだけであるので、相当割合のCHなどが未反応で排ガス中に残存している。したがって、固体酸化物型燃料電池31の燃料室34からの排ガス39を高温水蒸気電解装置1のアノード室5に供給することで、排ガス39中の還元性ガス成分を有効に利用して水蒸気電解を行うことができる。また、上述の反応によって固体酸化物型燃料電池31の燃料室34において燃料ガスが更に改質されることになるので、高温水蒸気電解装置1における電極への炭素析出をより抑制することができる。高温水蒸気電解装置1のカソード室4には高温の水蒸気9が供給される。図3に示す本発明装置では、前段の固体酸化物型燃料電池31の燃料極32及び空気極33が、それぞれ、後段の高温水蒸気電解装置1のカソード2及びアノード3に接続されている。固体酸化物型燃料電池31は変換効率が高いので、固体酸化物型燃料電池31で発電される電気量によって、固体酸化物電解質膜高温水蒸気電解装置1の運転に必要な電気量を十分に賄うことができる。固体酸化物型燃料電池31から供給された電力によって、上記に説明したメカニズムによって高温水蒸気電解装置1のカソード室4において水蒸気の電気分解が行われ、水素11が製造される。このように、本発明に係る水素製造方法によれば、還元性ガスの一部を用いて固体酸化物型燃料電池によって発電を行なってその電力を水蒸気電解装置に供給し、燃料電池において還元性ガスの改質も行いながら、燃料電池の排ガスを水蒸気電解装置のアノード室に導入することで、水蒸気電解に必要な電力を固体酸化物型燃料電池で効率的に発電すると共に、水蒸気電解装置へ供給する還元性ガスの改質も合わせて行うことができる。本発明によれば、原料ガスとして供給した還元性ガスを利用して固体酸化物型燃料電池で発電し、これによって得られた電力を高温水蒸気電解に用いるため、外部からの電力供給は不要である。さらに固体酸化物型燃料電池の特徴として変換効率が高いため、通常の火力発電による電力を用いた電解に比べて、システム全体として水素への変換効率も向上するというメリットを生む。また、上流の固体酸化物型燃料電池において燃料ガスの改質も合わせて行われるので、下流側の高温水蒸気電解装置には改質されたガスが供給されることになり、原料ガスの改質プロセスを一部省略することができる。
【0014】
また、固体酸化物型燃料電池31では、酸化反応による発熱(化学的な反応熱)と発生電力のオーミックロス(電気抵抗によるジュール熱)のため、大きな熱を発生する。一方、固体酸化物電解質膜高温水蒸気電解装置1は効率的な運転のためには500〜1100℃の高温が必要である。したがって、固体酸化物型燃料電池31の燃料室34から排出される高温の排ガス39を還元性ガスとして高温水蒸気電解装置1のアノード室5に供給することにより、高温水蒸気電解装置1において必要な熱の一部を賄うことができる。更に、固体酸化物型燃料電池31の空気室35から排出される排気40も高温となっており、この排気の熱を、高温水蒸気9の加熱源として利用することができる。更に、上述した改質触媒層を用いる場合には、水蒸気改質が大きな吸熱反応であるので、改質触媒層に速やかに熱を供給することが重要である。本発明方法では、例えば、固体酸化物型燃料電池31の空気室35からの排気40の熱を改質触媒層への供給熱源として利用することもできる。更には、後段の高温水蒸気電解装置1のアノード室5からの排ガス12及びカソード室4からの水素ガス11も高温の状態で排出される。したがって、これらのガスの熱を、高温水蒸気9の加熱源或いは改質触媒層への供給熱源として利用することもでき、熱の利用効率の高いシステムとすることができる。なお、このように、排ガスなどの熱を熱源として再利用して熱利用効率の高いシステムを構築する場合、熱の移動距離が短いほどロスが少なく有効利用できるため、固体酸化物型燃料電池と、高温水蒸気電解装置或いは改質触媒層とを同じ高温容器内に隣接して配置することが望ましい。
【0015】
図4に本発明の他の態様に係る水素製造装置の概念を示す。図4に示す水素製造装置は、上流側に固体酸化物電解質膜を用いた高温水蒸気電解装置1が配置され、下流側に固体酸化物型燃料電池31が配置され、高温水蒸気電解装置1のアノード室5から排出される排ガス12が燃料ガスとして燃料電池31の燃料室34に供給されるように構成されている。高温水蒸気電解装置1及び燃料電池31の各構成要素に関しては、図1及び図2と同じ参照番号を用いる。また、図1及び図2に関して説明したものと同じメカニズムについては適宜説明を省略する。
【0016】
固体酸化物電解質膜高温水蒸気電解装置1のアノード室5に炭化水素、水素などを含む還元性ガス10を供給する。ここで、還元性ガス10として、炭化水素を含むガスに水蒸気を導入して改質触媒層に通してメタンなどの炭化水素をCO、Hに変化させる水蒸気改質を行ったガスを用いることができる。高温水蒸気電解装置1のカソード室4には高温の水蒸気9が供給される。後述するように、後段の固体酸化物型燃料電池31で発電された電気が高温水蒸気電解装置の電極2,3に供給され、上記に説明したメカニズムによって高温水蒸気電解装置1のカソード室4において水蒸気の電気分解が行われ、水素ガス11が製造される。固体酸化物電解質膜高温水蒸気電解装置1のアノード室5から排出される排ガス12は、燃料ガスとして、下流に配置された固体酸化物型燃料電池31の燃料室34に供給される。
【0017】
高温水蒸気電解装置1のアノード室5では、還元性ガス中のCH,CO,Hが固体酸化物電解質膜6を通して移動してきた酸素と反応して、それぞれCO及びH、CO,HOとなるが、還元性ガス中の一部のCHなどが反応しているだけであるので、相当割合のCHなどが未反応で排ガス中に残存している。したがって、高温水蒸気電解装置1のアノード室5からの排ガスを固体酸化物型燃料電池31の燃料室34に供給することで、排ガス12中の未反応の還元性ガス成分を有効に利用して燃料電池での反応を行うことができる。また、高温水蒸気電解装置1のアノード室5において還元性ガスが改質されることになるので、固体酸化物型燃料電池31における電極への炭素析出を抑制することができる。
【0018】
固体酸化物型燃料電池31の空気室35には空気38を供給する。上記に記載したメカニズムによって空気38中の酸化物イオン41が空気室35から固体酸化物電解質膜36を通って燃料室34に移動し、燃料ガス中のCH,CO,Hと反応して、それぞれCO及びH、CO,HOとなる。この反応の際に放出された電子が燃料極32から外部回路を経て空気極33に移動する。これによって発電が行われる。
【0019】
図4に示す本発明装置では、下流の固体酸化物型燃料電池31の燃料極32及び空気極33が、それぞれ、上流側の高温水蒸気電解装置1のカソード2及びアノード3に接続されている。固体酸化物型燃料電池31は変換効率が高いので、固体酸化物型燃料電池31で発電される電気量によって、固体酸化物電解質膜高温水蒸気電解装置1の運転に必要な電気量を十分に賄うことができる。固体酸化物型燃料電池31から供給された電力によって、高温水蒸気電解装置1での電気分解が行われる。このように、本発明に係る水素製造方法によれば、還元性ガスの一部を用いて高温水蒸気電解を行い、還元性ガスの改質も行いながら、高温水蒸気電解装置の排ガスを固体酸化物型燃料電池の燃料室に導入することで、高温水蒸気電解装置と固体酸化物型燃料電池の両方の運転を効率的に行うと共に、水蒸気電解に必要な電力を固体酸化物型燃料電池で効率的に発電することによって、外部からの電力供給を行うことなく高温水蒸気電解装置の運転を行うことができる。さらに固体酸化物型燃料電池の特徴として変換効率が高いため、通常の火力発電による電力を用いた電解に比べて、システム全体として水素への変換効率も向上するというメリットを生む。また、上流の高温水蒸気電解装置において還元性ガスの改質も合わせて行われるので、下流側の固体酸化物型燃料電池には改質されたガスが供給されることになり、原料ガスの改質プロセスを一部省略することができる。
【0020】
また、固体酸化物型燃料電池31では、酸化反応による発熱(化学的な反応熱)と発生電力のオーミックロス(電気抵抗によるジュール熱)のため、大きな発熱を発生する。一方、固体酸化物電解質膜高温水蒸気電解装置1は効率的に運転するためには500〜1100℃の高温が必要である。したがって、固体酸化物型燃料電池31の燃料室34から排出される高温の排ガス39及び空気室35から排出される高温の排気40を還元性ガス10や高温水蒸気9の加熱源として利用することによって、システム全体の熱効率を向上させることができる。更に、上述した改質触媒層を用いる場合には、水蒸気改質が大きな吸熱反応であるので、改質触媒層に速やかに熱を供給することが重要である。本発明方法では、例えば、固体酸化物型燃料電池31の燃料室34から排出される高温の排ガス39及び空気室からの高温の排気40の熱を改質触媒層への供給熱源として利用することもできる。更には、高温水蒸気電解装置1のカソード室4からの水素11も高温の状態で排出されるので、この水素ガスの熱を、高温水蒸気9や還元性ガス10の加熱源或いは改質触媒層への供給熱源として利用することもでき、熱の利用効率の高いシステムとすることができる。なお、このように、排ガスなどの熱を熱源として再利用して熱利用効率の高いシステムを構築する場合、熱の移動距離が短いほどロスが少なく有効利用できるため、固体酸化物型燃料電池と、高温水蒸気電解装置或いは改質触媒層とを同じ高温容器内に隣接して配置することが望ましい。
【0021】
本発明にかかる水素製造装置の構成要素である固体酸化物型燃料電池31及び高温水蒸気電解装置1のいずれにおいても、機能発現の最重要部材であるセルは、主に固体電解質隔膜と膜の両面に配置される電極(アノード・カソード)で構成される。固体酸化物電解質としては、酸化物イオンを伝導する、イットリウム、カルシウム、或いはスカンジウムなどを添加した酸化ジルコニウム(YSZ,CSZ、ScSZ)などを用いることができる。
【0022】
酸化物電解質の伝導性は、高温になるほど良くなるため、通常500〜1100℃の高温で用いることが好ましい。また、抵抗低減のため、酸化物電解質膜はできるだけ薄膜化することが望まれる。
【0023】
電極材料としては、高温酸化雰囲気に曝される側の電極、即ち高温水蒸気電解装置1ではアノード3、固体酸化物型燃料電池31では酸素(空気)が供給される側の電極である空気極33に関しては、導電性酸化物である例えばランタンコバルタイト、ランタンマンガネートなどを用いることができる。また、還元的条件に曝される側の電極、即ち高温水蒸気電解装置1ではカソード2、固体酸化物型燃料電池31では還元性ガスが導入される側の電極である燃料極32の材料としては、高温・還元雰囲気に曝されるため、Ni,Ruなどの金属とセラミックスのサーメットを用いることができる。いずれの電極も、ガスの拡散性を保つため、多孔質材料で形成することが望ましい。
【0024】
還元性ガスを利用した高温水蒸気電解では、固体酸化物型燃料電池や単なる高温水蒸気電解とは異なり、アノード側、カソード側ともに還元雰囲気になるため、両方ともに金属サーメット電極を用いてよりシンプルな構成とすることができる。
【0025】
いずれのプロセスにおいても、還元性ガス又は燃料ガスとしては、天然ガスや灯油、メタノールなどの炭化水素やこれらの改質ガス、バイオマス由来のガス化ガスやメタン発酵ガス、あるいはアンモニアガスなどを用いることができる。
【0026】
還元性ガス又は燃料ガス中に含まれる硫黄化合物は改質触媒や電極の活性を低下させるため、これらの原料ガスに対して前処理として脱硫処理などを行うことが望ましい。この他、原料ガス中に有機珪素化合物などが含まれる場合には、これが高温で分解して無機の粒子となり、多孔質電極の特性を低下させることが懸念されるため、前処理にて吸着除去などを行うことが望ましい。
【0027】
還元性ガス又は燃料ガスに炭化水素系化合物が多く含まれる場合、高温で熱分解して炭素を析出し、この炭素が電極などに悪影響を与えることが考えられるため、水蒸気改質を促進して炭素析出を抑制するために、適当量の水蒸気を添加することが望ましい。
【0028】
また、原料ガスとして炭化水素ガスを用いる場合には、炭化水素類の水蒸気改質を行って還元性ガス及び水素を含む改質ガスとした後に本発明にかかる水素製造装置に供給することが好ましい。この目的で用いることのできる改質器としては、Ni、Ru、Pt、Rh、Pdなどの金属触媒或いはこれらの合金触媒を単独あるいは複合して、アルミナ、ジルコニア、シリカなどの担体に保持したものを充填した改質触媒層に、加熱下で被処理ガス(原料ガス)及び水蒸気を導入する構成の装置を用いることができる。また、金属触媒としては、上記の他にも、Co,Fe,Cu,Ag,Ir等の合金を用いることもでき、担体としてはセリア、ランタンコバルタイト、ランタンマンガネート、ランタンガレートなどの酸化物を用いることもできる。
【0029】
また、燃料電池及び/又は水蒸気電解装置に供給する水蒸気及び/又は空気及び/又は原料ガスを加圧することで電流密度を高めることができ、更に水蒸気電解装置から加圧水素を直接得ることもできる。加圧の際の圧力範囲については、大気圧以上300気圧以下であることが好ましいが、加圧する場合には、反応容器を少なくともその圧力に安全マージンを加えた耐圧構造とすることが必要である。
【0030】
固体酸化物電解質膜を用いる燃料電池及び高温水蒸気電解装置では、通常、高速の加熱或いは冷却は、熱応力の観点からできるだけ避けることが望ましく、本発明のプロセスにおいても、連続運転によって高速の加熱或いは冷却を避けることが好ましい。
【0031】
本発明に係る水素製造装置の起動・停止を行う場合においても注意が必要であり、室温からの起動には時間を要するため、運転を停止する場合においても、例えば温度は150℃以上に保つなどして、昇温時の熱応力の発生を抑制し、起動時間を短縮するなどの方法をとることが望ましい。また、本発明にかかる水素製造装置を連続運転する場合には、製造された水素を貯蔵することが好ましい。水素貯蔵の目的で、高圧ガスボンベ、水素貯蔵合金などを使用することができる。また、発電された電力が余る場合には、二次電池に電力を貯蔵するなどして、水素の必要量の変動に対応することができる。
【0032】
本発明にかかる高温水蒸気電解装置と固体酸化物型燃料電池とを組み合わせた水素製造装置の具体的な構成例を図5に示す。以下の図5,6,8,9,10においては、燃料電池及び水蒸気電解装置の各構成要素に関しては、図1〜4で用いた参照番号と同じ番号を用いる。また、また、図1〜4に関して説明したものと同じメカニズムについては適宜説明を省略する。
【0033】
図5(a)に示す装置は、容器内に、一端が閉止した円筒形状の固体酸化物電解質膜36、6が配置されて、固体酸化物型燃料電池31、高温水蒸気電解装置1が構成される。円筒形状の固体酸化物電解質膜36、6の両側には電極が配置される(図示せず)。円筒形状の固体酸化物電解質膜36、6の内側には円筒管50を配置して、ガスの流路を形成することができる。燃料電池31を構成する固体酸化物電解質膜36の外側が燃料電池の燃料室34、内側が空気室35として機能し、電解装置1を構成する固体酸化物電解質膜6の外側が電解装置のカソード室4,内側がアノード室5として機能する。燃料電池31の燃料室34と高温水蒸気電解装置1のカソード室4とは仕切りによって区切られている。図5(a)に示す装置においては、円筒形状の固体酸化物電解質膜36の外側の空間と、円筒形状の固体酸化物電解質膜6の内側の空間とが開口51によって連通している。
【0034】
図5(a)に示す装置においては、還元性ガス(燃料ガス)37が、燃料電池の燃料室34(円筒形状の固体酸化物電解質膜36の外側)に導入される。一方、円筒形状の固体酸化物電解質膜36の内側に配置された円筒管50には空気38が導入され、空気室35に導かれる。円筒形状の固体酸化物電解質膜36の外側の領域が固体酸化物型燃料電池の燃料室34、円筒形状の固体酸化物電解質膜36の内側の領域が固体酸化物型燃料電池の空気室35として機能し、上記に説明したメカニズムによって反応が進行して燃料極と空気極との間に電力が発生する。発生した電力は、隣の高温水蒸気電解装置1のアノード及びカソードに供給される。空気室35中のガスは空気40として排出される。燃料室34中のガスは、燃料室34下部の開口51から、隣の高温水蒸気電解装置1のアノード室5(円筒形状の固体酸化物電解質膜6の内側)に導かれる。高温水蒸気電解装置1のカソード室4には、高温水蒸気9が導入される。固体酸化物電解質膜6を通してカソード室4からアノード室5への酸化物イオンの移動が起こり、高温水蒸気の電解反応が進行して、水素11が回収される。高温水蒸気電解装置1のアノード室5に導入されたガスは、円筒形状の固体酸化物電解質膜6の内側に配置された円筒管50を通して排ガス12として排出される。
【0035】
図5(b)に示す装置は、開口51の代わりに、燃料電池31を構成する円筒形状の固体酸化物電解質膜36の内側の空間と、電解装置1を構成する円筒形状の固体酸化物電解質膜6の外側の空間とが、円筒管50によって連通している。燃料電池31を構成する固体酸化物電解質膜36の外側が燃料電池の空気室35、内側が燃料室34として機能し、電解装置1を構成する固体酸化物電解質膜6の外側が電解装置のアノード室5,内側がカソード室4として機能する。
【0036】
図5(b)に示す装置においては、還元性ガス(燃料ガス)37が、円筒形状の固体酸化物電解質膜36の内側(燃料室34)に導かれる。一方、空気38が円筒形状の固体酸化物電解質膜36の外側(空気室35)に導かれる。円筒形状の固体酸化物電解質膜36の外側の領域が燃料電池の空気室35、円筒形状の固体酸化物電解質膜36の内側の領域が燃料電池の燃料室34として機能し、上記に説明したメカニズムによって反応が進行して燃料極と空気極との間に電力が発生する。発生した電力は、隣の高温水蒸気電解装置1のアノード及びカソードに供給される。空気室35中のガスは空気40として排出される。燃料室34中のガスは、円筒形状の固体酸化物電解質膜36の内側に配置された円筒管50を通して、隣の高温水蒸気電解装置1のアノード室5(円筒形状の固体酸化物電解質膜6の外側の領域)に導かれる。電解装置1のカソード室4(円筒形状の固体酸化物電解質膜6の内側の領域)には、円筒管50を通して高温水蒸気9が導入される。固体酸化物電解質膜6を通してカソード室4からアノード室5への酸化物イオンの移動が起こり、高温水蒸気の電解反応が進行して、水素11が回収される。高温水蒸気電解装置1のアノード室5に導入されたガスは、開口52から排ガス12として排出される。
【0037】
図5(c)に示す装置は、燃料電池31を構成する円筒形状の固体酸化物電解質膜36の内側の空間と、電解装置1を構成する円筒形状の固体酸化物電解質膜6の内側の空間とが、円筒管50によって連通している。燃料電池31を構成する固体酸化物電解質膜36の外側が燃料電池31の空気室35、内側が燃料室34として機能し、電解装置1を構成する固体酸化物電解質膜6の外側が高温水蒸気電解装置1のカソード室4、内側がアノード室5として機能する。
【0038】
図5(c)に示す装置においては、還元性ガス(燃料ガス)37が、円筒形状の固体酸化物電解質膜36の内側(燃料室34)に導かれる。一方、空気38が円筒形状の固体酸化物電解質膜36の外側(空気室35)に導かれる。円筒形状の固体酸化物電解質膜36の外側の領域が固体酸化物型燃料電池31の空気室35、円筒形状の固体酸化物電解質膜36の内側の領域が固体酸化物型燃料電池31の燃料室34として機能し、上記に説明したメカニズムによって反応が進行して燃料極と空気極との間に電力が発生する。発生した電力は、隣の高温水蒸気電解装置1のアノード及びカソードに供給される。空気室35中のガスは空気40として排出される。燃料室34中のガスは、円筒形状の固体酸化物電解質膜36の内側に配置された円筒管50を通して、隣の高温水蒸気電解装置1のアノード室5(円筒形状の固体酸化物電解質膜6の内側の領域)に導かれる。電解装置1のカソード室4(円筒形状の固体酸化物電解質膜6の外側の領域)には、高温水蒸気9が導入される。固体酸化物電解質膜6を通してカソード室4からアノード室5への酸化物イオンの移動が起こり、高温水蒸気の電解反応が進行して、水素11が回収される。高温水蒸気電解装置1のアノード室5に導入されたガスは、円筒管50を通して排ガス12として排出される。
【0039】
図5(a)〜(c)では、固体酸化物型燃料電池31を上流側に、高温水蒸気電解装置1を下流側に配置して、固体酸化物型燃料電池31の燃料室34から排出される排ガスを下流の高温水蒸気電解装置1のアノード室5に導入する形態を示しているが、図5(a)〜(c)において、還元性ガス(燃料ガス)37から排ガス12に至る流れを逆に設定すれば、高温水蒸気電解装置1を上流側に、固体酸化物型燃料電池31を下流側に配置して、高温水蒸気電解装置1のアノード室5から排出される排ガスを下流の固体酸化物型燃料電池31の燃料室34に導入するように装置を構成することができる。
【0040】
なお、図3〜5では、高温水蒸気電解装置又は固体酸化物型燃料電池のいずれか一方を上流側に他方を下流側に配置して高温水蒸気電解と発電とを逐次行う方法を説明したが、一つの反応容器内に高温水蒸気電解装置と固体酸化物型燃料電池の両方を構成して、高温水蒸気電解装置のアノード室と固体酸化物型燃料電池の燃料室とを共通の空間とし、ここに還元性ガスを供給し、電解装置のカソード室に高温水蒸気を、燃料電池の空気室に空気を供給して、高温水蒸気電解反応と燃料電池反応とを同時に進行させることもでき、かかる形態も本発明の範囲内に含まれる。即ち、本発明の他の態様は、固体酸化物電解質隔膜によって電解槽をアノード室とカソード室に仕切った高温水蒸気電解装置のカソード室に水蒸気を供給し、アノード室に還元性ガスを供給して、カソード室において水蒸気の電気分解を行うことによって水素を製造する方法において、電解槽内に、更に、固体酸化物電解質隔膜で仕切った室を形成してこれを固体酸化物型燃料電池の空気室として用い、電解槽のアノード室を固体酸化物型燃料電池の燃料室として併用して供給される還元性ガスを燃料ガスとして用い、空気室に空気を供給することによって高温水蒸気電解装置と並行して固体酸化物型燃料電池を運転し、固体酸化物型燃料電池によって得られる電力を高温水蒸気電解装置の電力として用いることを特徴とする水素製造方法に関する。
【0041】
本発明のかかる形態の方法を実施するための装置の一具体例を図6に示す。図6に示す装置は、図5(a)〜(c)に示す装置と類似の構造であるが、固体酸化物型燃料電池31と高温水蒸気電解装置1との間の仕切をなくして、固体酸化物型燃料電池31を構成する円筒形状の固体酸化物電解質膜36の外側の空間と高温水蒸気電解装置1を構成する円筒形状の固体酸化物電解質膜6の外側の空間とを同一の空間としている。円筒形状の固体酸化物電解質膜36及び6の外側の空間が、それぞれ燃料電池31の燃料室34及び電解装置1のアノード室5として機能する。円筒形状の固体酸化物電解質膜36及び6の内側の空間は、それぞれ燃料電池31の空気室35及び電解装置1のカソード室4として機能する。
【0042】
還元性ガス(燃料ガス)37が、燃料電池の燃料室34(円筒形状の固体酸化物電解質膜36の外側)に導入される。一方、円筒形状の固体酸化物電解質膜36の内側に配置された円筒管50には空気38が導入され、空気室35に導かれる。円筒形状の固体酸化物電解質膜36の外側の領域が燃料電池の燃料室34、円筒形状の固体酸化物電解質膜36の内側の領域が燃料電池の空気室35として機能し、上記に説明したメカニズムによって反応が進行して燃料極と空気極との間に電力が発生する。発生した電力は、隣の高温水蒸気電解装置1のアノード及びカソードに供給される。空気室35中のガスは空気40として排出される。燃料室34中のガスは、固体酸化物電解質膜36を通って移動してきた酸化物イオンと反応して改質されて、容器内を円筒形状の固体酸化物電解質膜6の外側(高温水蒸気電解装置1のアノード室5として機能する)に移動する。高温水蒸気電解装置1のカソード室4(円筒形状の固体酸化物電解質膜6の内側の領域)には、円筒管50を通して高温水蒸気9が導入される。固体酸化物電解質膜6を通してカソード室4からアノード室5への酸化物イオンの移動が起こり、高温水蒸気の電解反応が進行して、水素11が回収される。高温水蒸気電解装置1のアノード室5内のガスは、排ガス12として排出される。
【0043】
本発明の水素製造方法においては、固体酸化物型燃料電池からの電気出力を、高温水蒸気電解装置への電力供給のみではなく外部へも取り出せるようにすることで、外部出力用途のみの発電を行ったり、固体酸化物型燃料電池で発生する電力を全て水蒸気電解に使用して水素を製造したり、或いは中間的に、外部に電力を出力しながら水素を製造することもできる。また、外部に電力を出力しながら水素を製造する場合、外部への出力と水蒸気電解装置への出力との比を任意に制御することができる。さらに、外部より水蒸気電解装置に電力を供給できるようにすれば、固体酸化物型燃料電池での発電能力以上の電力を水蒸気電解装置に供給することによって、水素の製造量を増やすこともできる。
【0044】
本発明の水素製造装置の運転制御については、水素製造の全体プロセスに対して固体酸化物型燃料電池における還元性ガスの利用率(又は発電量)を変化させることで、電力需要又は水素需要に合わせた運転を行うことが可能である。例えば、固体酸化物型燃料電池による発電と高温水蒸気電解装置による水素製造量とを、還元性ガス量と電力の需給としてバランスさせ、本発明の装置を効率的な水素製造として用いることはもちろん、固体酸化物型燃料電池による発電を主体にすれば、電解部で余剰となる電力を外部に出力させることもでき、また、固体酸化物型燃料電池による発電量を小さくすることで電解部に必要な電力の一部のみを固体酸化物型燃料電池によって供給し、不足分は外部から供給することにより、水素製造を主体とすることもできる。
【0045】
本発明の水素製造装置の具体的な運転制御の一例として、水素製造量と外部への電力供給量をバランスさせながら、電力需要の少ない時間帯(例えば夜間)には水素製造を主とし、一方で電力需要の多い時間帯(例えば昼間)には水素製造を抑制して電力の外部出力を主とする、という制御を行うことによって電力需要変動に対応する方法が挙げられる。本発明に係る装置は、このような電力供給−水素製造複合装置として、高効率な分散型システムとして、工場、ビル、及び地域単位において有効に利用することができる。
【0046】
電解に必要な電力を固体酸化物型燃料電池による発電で全てまかなう場合においては、固体酸化物型燃料電池の出力と高温水蒸気電解装置で消費される電力とが等しくなる運転条件にバランスさせることが好ましい。このためには、1つ又は複数の固体酸化物型燃料電池と複数の高温水蒸気電解装置とを組み合わせることが好ましい。
【0047】
例えば、高温水蒸気電解装置を二つ、固体酸化物型燃料電池を一つ配置し、それぞれを直列に電気接続することによって本発明に係る水素製造装置を構成することができる。この場合、電気的接続が全て直列であれば、電気回路全体としての電流は一定(A0)であるため、個々の電解装置にかかる電圧の合計(V1+V2)が燃料電池で出力される電圧(V0)と同じになる電流になるように運転条件を設定するとよい(図7参照)。
【0048】
固体酸化物型燃料電池で出力される電力は、例えば電流密度が0.2A/cm〜0.5A/cmの時には電圧が0.8〜0.6Vであるのに対し、還元性ガスを利用する高温水蒸気電解に必要な電圧は同じ電流密度で0.5V以下の小さい電圧でよいため、電解装置の配置数をその分多くすることができる。
【0049】
例えば図7のように、一つの燃料電池に対して電解装置を2セット接続すれば、燃料電池で利用される還元性ガスは、電解装置で反応する還元性ガスの半分程度になる(燃料電池での還元性ガスの利用率は、計算上、装置全体で利用する還元性ガスの3分の1程度である)。電解装置の数を増した場合、その分電解装置での還元性ガス利用率が高まるメリットはあるが、流れる電流は小さくなるため、電解装置1つ当たりの水素製造量が少なくなる。したがって、電解装置の接続数については、燃料電池での発電量に合わせて適切に設定することが望ましい。具体的には、例えば、燃料電池の還元性ガス利用率を変化させて燃料電池の出力全体を調整したり、燃料電池から電解装置へ供給する電力量を調整したり、複数の電解装置を配置してそれらの接続形式を変化させるなどの方法を採用することによって、燃料電池と電解装置との接続形態を好適に設計することができる。
【0050】
また、前述のように、高温熱源である燃料電池から水蒸気電解装置への熱供給を速やかに行うことがプロセス効率向上に繋がる。
一つ又は複数の燃料電池と複数の水蒸気電解装置とを組み合わせて本発明に係る水素製造装置を構成する場合の、各要素の配置およびガスの流し方についての好ましい具体例を図8,9に示す。本発明においては、熱源となる燃料電池から電解装置への熱移動性を高めるため、燃料電池と電解装置とを交互に近接して配置すると共に、ガスの流れと熱の流れを合わせるなどの工夫を行うことが効果的である。図8、9では、一つの容器内に、図5,6で説明したような一端が閉止されている円筒形状の固体酸化物電解質膜を複数個配置することによって燃料電池及び水蒸気電解装置を構成し、円筒形状の固体酸化物電解質膜の外側の空間を、燃料電池の燃料室及び電解装置のアノード室として共通に使用し、円筒形状の固体酸化物電解質膜の内側の空間を燃料電池の空気室又は電解装置のカソード室として使用する。図8,9においても、燃料電池及び水蒸気電解装置の各構成要素に関しては、図1〜6で用いた参照番号と同じ番号を用いる。また、ガスの流れ及び各箇所における反応については図5,6に関して詳しく説明したものと同様であるので、説明は省略する。
【0051】
図8に示す装置では、高温水蒸気電解装置の還元性ガス37の入り口に燃料電池を直交して設置した例を示す。導入された還元性ガス37は、燃料電池部31において反応(発電を伴う反応)を行いながら改質及び高温化し、電解装置部1に還元性ガスとして供給されて、電解装置部1において高温水蒸気9から水素11が製造される反応が行われる。これにより、水素製造装置内での熱の再利用効率を高めることができる。
【0052】
また、図9では、一つの容器内に燃料電池部31と電解装置部1とを同列に隣接して配置した例を示す。この形態では、水素製造装置全体に亘って燃料電池から電解装置への熱伝導性を高めることができる。
【0053】
図9のように、一つの容器内に複数の燃料電池31と複数の電解装置1とを同列に隣接して配置する場合には、図10に示すような種々の配置の仕方が考えられる。図10(c),(d)においては、それぞれの円は燃料電池又は電解装置のいずれかを指す。
【0054】
また、本発明においては、固体酸化物型燃料電池の燃料室と高温水蒸気電解装置のアノード室との間にガス改質器を配置することもできる。具体的には、前段に固体酸化物型燃料電池が配される場合には、固体酸化物型燃料電池の燃料室から排出される排ガスをガス改質器に導入すると共に、ガス改質器に更に炭化水素ガス(燃料ガス)及び水蒸気を導入して加熱下で燃料の水蒸気改質を行い、得られる改質ガスを後段の高温水蒸気電解装置のアノード室に還元性ガスとして導入することができる。また、前段に高温水蒸気電解装置が配される場合には、高温水蒸気電解装置のアノード室から排出される排ガスをガス改質器に導入すると共に、ガス改質器に更に炭化水素ガス(燃料ガス)及び水蒸気を導入して加熱下で燃料の水蒸気改質を行い、得られる改質ガスを後段の固体酸化物型燃料電池の燃料室に燃料ガスとして供給することができる。このような目的で使用されるガス改質器としては、上述で説明したような、Ni、Ru、Pt、Rh、Pdなどの金属触媒或いはこれらの合金触媒を単独あるいは複合して、アルミナ、ジルコニア、シリカなどの担体に保持したものを充填した改質触媒層に、加熱下で被処理ガス(原料ガス)及び水蒸気を導入する構成の装置を用いることができる。
【0055】
このような態様にかかる装置の具体的構成例を図11及び図12に示す。なお、図11及び12の装置において、図3及び4と同じ要素については同じ番号を付し、説明を省略する。
【0056】
図11は、固体酸化物型燃料電池を上流側、高温水蒸気電解装置を下流側に設置し、固体酸化物型燃料電池の燃料室34と高温水蒸気電解装置のアノード室5との間に改質器91を設置している。また、固体酸化物型燃料電池31の前段にも改質器95を配置して、メタンなどの炭化水素を改質器95で水蒸気改質した改質ガス37を固体酸化物型燃料電池の燃料室34に供給することもできる。改質器91には、還元性アノードガスの原料としてメタンなどの炭化水素及び水蒸気92を供給して、原料ガスの水蒸気改質を行う。また、固体酸化物型燃料電池の燃料室34から排出される排ガス39を改質器91に導入する。水蒸気改質には、例えばメタン1モルに対してHOが2.5モル以上必要であるが、固体酸化物型燃料電池の燃料室34から排出される排ガス39を改質器91に導入することで、排ガス39中に含まれる高温水蒸気をそのまま利用することができる。メタン1モルを用いて後段の固体酸化物型燃料電池31を発電させた場合、反応率を80%と仮定すると、燃料室のオフガス39にはHOが3.9モル含まれる。後段の高温水蒸気電解装置において2モルのメタンを用いる場合、水蒸気としてはHOが5モル分必要になるが、3.9モル分がオフガス39から供給されるため、追加で供給するHO量は、1.1モルでよいことになる。また、オフガス39中には、未反応の燃料ガスが20%、計算上はCOが0.2モル、水素が0.6モル含まれている。これも高温水蒸気電解装置1のアノード室5に導入されるため、高温水蒸気電解装置1での反応率を80%と仮定すると、(0.2+0.6)モル×0.8(反応率)=0.64モル分、高純度水素の製造量を増やすことができる。
【0057】
また、このような構成の装置の熱収支について考察する。図11において各装置での熱収支を示す。ここでは以下のような物質バランスで運転が行われると仮定する。固体酸化物型燃料電池31の前段に更に改質器を配置して、96としてメタン1モルと水2.5モルを供給してCO 1モル、H 3モル、HO 1.5モルの改質ガスを調製する。これを固体酸化物型燃料電池31の燃料室34に供給して反応を行わせ、CO 0.8モル、CO 0.2モル、H 0.6モル、HO 3.9モルのオフガス39が燃料室34から排出される。このオフガス39を改質器91に供給すると共に、改質器91に更に92としてメタン2モル及びHO 1.1モルを追加供給してガス改質を行い、CO 2.2モル,H 6.6モル,HO 3モル,CO 0.8モルの改質ガス93を得る。この改質ガス93を高温水蒸気電解装置1のアノード室5に供給する。
【0058】
改質器91及び95では、水蒸気改質反応のための熱と、夫々の原料ガス、特に水から高温水蒸気を生成するための熱が必要となる。また、改質器91では、2モルのメタンを改質するに当たり、451kJの熱供給が必要となる。これに対し、固体酸化物型燃料電池31での発熱量が328kJ、高温水蒸気電解装置1での発熱量が0.3Vの過電圧のとき408kJ、0.2Vの時272kJであり、両方の熱を利用することで、改質反応に必要な熱量をすべて賄うことができ、更に水の加熱などにも用いることができる。改質器95については、オフガス中に含まれる燃料ガスを触媒燃焼することでも、熱を供給することができる。装置全体の熱収支は、吸熱量のトータルが1612kJであるのに対して、発熱量のトータルが1850kJであり、外部から熱を供給することなく装置を運転して水素製造を行うことができる。
【0059】
なお、改質器91に固体酸化物型燃料電池および高温水蒸気電解装置から熱を迅速に供給するために、改質器91の触媒層を固体酸化物型燃料電池及び/又は高温水蒸気電解装置のセル容器内に設置することも効果的である。
【0060】
図12は、高温水蒸気電解装置を上流側、固体酸化物型燃料電池を下流側に設置し、高温水蒸気電解装置のアノード室5と固体酸化物型燃料電池の燃料室34の間に改質器101を設置している。また、高温水蒸気電解装置1の前段にも改質器105を配置して、メタンなどの炭化水素106を改質器105で水蒸気改質した改質ガス10を高温水蒸気電解装置のアノード室5に供給することもできる。改質器101には、燃料電池用の原料ガスとしてメタンなどの炭化水素102を供給して、原料ガスの水蒸気改質を行う。また、高温水蒸気電解装置のアノード室5から排出される排ガス12を改質器101に導入する。高温水蒸気電解装置1において2モルのメタンを用いて電解を行った場合、反応率を80%と仮定すると、計算上、アノード室のオフガスにはHOが7.8モル、Hが2モル、COが0.4モル、COが1.6モル含まれることになる。改質器101では、メタン1モルを改質する場合にHOが2.5モル必要であるが、高温水蒸気電解装置1のアノード室5のオフガス12の約1/3〜1/2を改質器に導入すれば、オフガス12中の高温水蒸気でHO量は充足するので、水蒸気を系外から導入することなしにガス改質反応を行うことができる。また、アノード室5のオフガス12中のH 0.4モルとCO約0.13モルも固体酸化物型燃料電池の燃料室に供給されるので、発電量が増す。
【0061】
改質器101での吸熱量は約225kJであり、固体酸化物型燃料電池セルでの発熱でも十分まかなえるため、固体酸化物型燃料電池のセル容器の中に改質触媒層を設けることで熱収支をとることができる。一方、改質器105の反応に必要な熱量を全て高温水蒸気電解装置の発熱でまかなうことはできないため、例えば、改質器105を分割し、外部改質器と高温水蒸気電解装置セル容器内の内部改質器を設けることにより、高温水蒸気電解装置内での熱バランスを取るようにすることが熱効率を高める上で効果的である。また、改質器105の加熱用に高温水蒸気電解装置のオフガスを燃焼させて得られる熱を利用してもよい。
【0062】
高温水蒸気電解装置のアノード室と固体酸化物型燃料電池の燃料室との間に改質器を配置する具体的な幾つかの形態を図13〜14に示す。図13aは、図5aに示す構成の装置において固体酸化物型燃料電池の燃料室34のガス出口部分に改質器110を配置している。図13bは、図6に示す構成の装置において固体酸化物型燃料電池の燃料室34と高温水蒸気電解装置のアノード室5との間に改質器110を配置している。いずれの形態においても、燃料室34の排出ガスが改質器110に導入されると共に、改質器110に更に原料ガス及び水蒸気111が導入され、改質されたガスが高温水蒸気電解装置のアノード室5に導入される。
【0063】
また、図14aは、図8に示す構成の装置において、固体酸化物型燃料電池の燃料室34と高温水蒸気電解装置のアノード室5との間に改質器110を配置している。また、図14bは、図9に示す構成の装置において、固体酸化物型燃料電池の燃料室34と高温水蒸気電解装置のアノード室5との間に改質器110を配置している。いずれの形態においても、上流側の装置の排ガスが改質器110に導入されると共に、改質器110に更に原料ガス及び必要な場合には水蒸気111が導入され、改質されたガスが下流側の装置に導入される。
【0064】
図13及び14に示す形態においては、熱源となる後段の固体酸化物型燃料電池セルあるいは高温水蒸気電解装置セルからの改質触媒層への熱移動性を高めるため、これらを同一容器内に収納し、交互に近接・配置すると共に、ガスの流れと熱の流れを合わせるなどの工夫を行うことが好ましい。改質触媒層を、高温水蒸気電解装置と固体酸化物型燃料電池の隔壁に設けることで、両方のセルからの伝熱を高めることもできる。
【0065】
本発明の実施形態は以下の通りである。
1.固体酸化物電解質隔膜によって電解槽をアノード室とカソードに仕切った高温水蒸気電解装置のカソード室に水蒸気を供給し、アノード室に還元性ガスを供給して、カソード室において水蒸気の電気分解を行うことによって水素を製造する方法において、高温水蒸気電解装置と並行して固体酸化物型燃料電池を運転し、固体酸化物型燃料電池の燃料室から排出される排ガスを高温水蒸気電解装置のアノード室に供給し、固体酸化物型燃料電池によって得られる電力を高温水蒸気電解装置の電力として用いることを特徴とする水素製造方法。
【0066】
2.固体酸化物電解質隔膜によって電解槽をアノード室とカソード室に仕切った高温水蒸気電解装置のカソード室に水蒸気を供給し、アノード室に還元性ガスを供給して、カソード室において水蒸気の電気分解を行うことによって水素を製造する方法において、高温水蒸気電解装置と並行して固体酸化物型燃料電池を運転し、高温水蒸気電解装置のアノード室から排出される排ガスを固体酸化物型燃料電池の燃料室に供給し、固体酸化物型燃料電池によって得られる電力を高温水蒸気電解装置の電力として用いることを特徴とする水素製造方法。
【0067】
3.固体酸化物電解質隔膜によって電解槽をアノード室とカソード室に仕切った高温水蒸気電解装置のカソード室に水蒸気を供給し、アノード室に還元性ガスを供給して、カソード室において水蒸気の電気分解を行うことによって水素を製造する方法において、電解槽内に、更に、固体酸化物電解質隔膜で仕切った室を形成してこれを固体酸化物型燃料電池の空気室として用い、電解槽のアノード室を固体酸化物型燃料電池の燃料室として併用して供給される還元性ガスを燃料ガスとして用い、空気室に空気を供給することによって高温水蒸気電解装置と並行して固体酸化物型燃料電池を運転し、固体酸化物型燃料電池によって得られる電力を高温水蒸気電解装置の電力として用いることを特徴とする水素製造方法。
【0068】
4.炭化水素ガスを水蒸気改質にかけて還元性ガス及び水素を含む改質ガスに転化させ、得られた改質ガスを固体酸化物型燃料電池の燃料室に供給する上記第1項又は第3項に記載の方法。
【0069】
5.炭化水素ガスを水蒸気改質にかけて還元性ガス及び水素を含む改質ガスに転化させ、得られた改質ガスを高温水蒸気電解装置のアノード室に供給する上記第2項又は第3項に記載の方法。
【0070】
6.固体酸化物型燃料電池の燃料室から排出される排ガスを水蒸気改質にかけ、得られた改質ガスを高温水蒸気電解装置のアノード室に供給する上記第1項又は第3項又は第4項に記載の方法。
【0071】
7.高温水蒸気電解装置のアノード室から排出される排ガスを水蒸気改質にかけ、得られた改質ガスを固体酸化物型燃料電池の燃料室に供給する上記第2項〜第4項のいずれかに記載の方法。
【0072】
8.水蒸気改質を、Ni、Ru、Pt、Rh、Pdなどの金属触媒或いはこれらの合金触媒を単独あるいは複合して、アルミナ、ジルコニア、シリカなどの担体に保持した触媒を充填した触媒層を用いて行う上記第4項〜第7項のいずれかに記載の方法。
【0073】
9.固体酸化物型燃料電池で発生する熱を高温水蒸気電解装置の加熱用の熱源として用いる上記第1項〜第8項のいずれかに記載の方法。
10.固体酸化物電解質隔膜によって電解槽をアノード室とカソード室に仕切ってアノード室に還元性ガスを供給する高温水蒸気電解装置と、固体酸化物電解質膜によって発電セルを燃料室と空気室に仕切った固体酸化物型燃料電池とから構成される水素製造装置であって、高温水蒸気電解装置のアノード室と固体酸化物型燃料電池の燃料室とが連通しており、固体酸化物型燃料電池によって得られる電力が高温水蒸気電解装置の電解用電力として供給されることを特徴とする水素製造装置。
【0074】
11.固体酸化物電解質隔膜によって電解槽をアノード室とカソード室に仕切ってアノード室に還元性ガスを供給しカソード室に高温水蒸気を供給する高温水蒸気電解装置において、電解槽内に、更に、固体酸化物電解質隔膜で仕切った室を形成してこれを固体酸化物型燃料電池の空気室として用い、電解槽のアノード室を固体酸化物型燃料電池の燃料室として併用して供給される還元性ガスを燃料ガスとして用い、空気室に空気を供給することによって高温水蒸気電解装置と並行して固体酸化物型燃料電池が運転されるように構成されており、固体酸化物型燃料電池によって得られる電力が高温水蒸気電解装置の電力として供給されることを特徴とする水素製造装置。
【0075】
12.炭化水素ガスを水蒸気改質にかけて還元性ガス及び水素を含む改質ガスに転化させるガス改質器を更に具備し、ガス改質器の改質ガス排出口が高温水蒸気電解装置のアノード室又は固体酸化物型燃料電池の燃料室に接続されている上記第10項又は第11項に記載の水素製造装置。
【0076】
13.高温水蒸気電解装置のアノード室と固体酸化物型燃料電池の燃料室との間に炭化水素ガスを水蒸気改質にかけるガス改質器が配置されている上記第10項又は第12項に記載の水素製造装置。
【0077】
14.炭化水素ガスを水蒸気改質にかけるガス改質器が、電解槽内における高温水蒸気電解装置のアノード室と燃料電池の燃料室との間に配置されている上記第11項又は第12項に記載の水素製造装置。
【0078】
15.ガス改質器が、Ni、Ru、Pt、Rh、Pdなどの金属触媒或いはこれらの合金触媒を単独あるいは複合して、アルミナ、ジルコニア、シリカなどの担体に保持した触媒を充填した触媒層を具備する上記第12項〜第14項のいずれかに記載の水素製造装置。
【0079】
16.固体酸化物型燃料電池で発生する熱が高温水蒸気電解装置の加熱用の熱源として供給される上記第10項〜第15項のいずれかに記載の装置。
【実施例】
【0080】
図8に示す装置を用いて、燃料電池での発電を行い、発電された電力を直流電源として高温水蒸気電解装置に供給して、水素の製造実験を行った。電解装置1は、一端が閉止した円筒形のイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)を固体酸化物電解質膜6として用い、その内外にNi−ジルコニアサーメット電極を配置した。同様に、燃料電池31は、一端が閉止した円筒形のイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)を固体酸化物電解質隔膜36として用い、外側にNi−ジルコニアサーメット電極、内側にランタンマンガネート電極を配置した。
【0081】
これを容器内に配置して、800℃において、円筒セルの外側の空間には、メタンガスを改質触媒層を通して改質したガス37を供給し、燃料電池セル31の内側の空間には空気38を供給して、まず、燃料電池13での発電を確認した。
【0082】
次に、燃料電池31のプラス極(空気極:円筒形の固体酸化物電解質膜36の内側の電極)を電解装置1のアノード電極(円筒形状の固体酸化物電解質膜6の外側の電極)に接続し、燃料電池31のマイナス極(燃料極:円筒形の固体酸化物電解質膜36の外側の電極)を電解装置のカソード極(円筒形状の固体酸化物電解質膜6の内側の電極)に接続して、電解装置1の円筒形セルの内側の空間に水蒸気9を導入した。
【0083】
電解装置1の円筒形セルの内側において水素が生成し、水素ガス11として回収されたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、固体酸化物電解質膜を用いる高温水蒸気電解装置を固体酸化物型燃料電池と組み合わせて、水蒸気電解装置の還元性ガスと燃料電池の燃料ガスとして共通のガスを使用すると共に、燃料電池で発生させた電力を水蒸気電解装置の電解用の電力源として使用することにより、極めて効率よく高純度水素を製造することができる。本発明によれば、外部からの電力供給を行うことなく高温水蒸気電解による水素製造を行うことができる。更に、本発明の好ましい態様によれば、燃料電池で発生した熱を高温水蒸気電解反応に必要な熱源として再利用することにより、熱効率の極めて優れた水素製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】固体酸化物電解質膜を用いた高温水蒸気電解装置による水素の製造装置の基本原理を示す図である。
【図2】固体酸化物電解質膜を用いた燃料電池の基本原理を示す図である。
【図3】本発明の一態様に係る水素製造装置の概念を示す図である。
【図4】本発明の他の態様に係る水素製造装置の概念を示す図である。
【図5】本発明の一態様に係る水素製造装置の具体的な構成例を示す図である。
【図6】本発明の他の態様に係る水素製造装置の具体的な構成例を示す図である。
【図7】一つの燃料電池と二つの電解装置を直列に電気接続した場合の燃料電池と電解装置の電圧・電流の関係を示す図である。
【図8】本発明の他の態様に係る水素製造装置の具体的な構成例を示す図である。
【図9】本発明の他の態様に係る水素製造装置の具体的な構成例を示す図である。
【図10】複数の電解装置と燃料電池とを配列する場合の配列の各種形態を示す図である。
【図11】本発明の他の態様に係る水素製造装置の概念を示す図である。
【図12】本発明の他の態様に係る水素製造装置の概念を示す図である。
【図13】本発明の他の態様に係る水素製造装置の具体的な構成例を示す図である。
【図14】本発明の他の態様に係る水素製造装置の具体的な構成例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物電解質隔膜によって電解槽をアノード室とカソード室に仕切った高温水蒸気電解装置のカソード室に水蒸気を供給し、アノード室に還元性ガスを供給して、カソード室において水蒸気の電気分解を行うことによって水素を製造する方法において、高温水蒸気電解装置と並行して固体酸化物型燃料電池を運転し、固体酸化物型燃料電池の燃料室から排出される排ガスを高温水蒸気電解装置のアノード室に供給し、固体酸化物型燃料電池によって得られる電力を高温水蒸気電解装置の電力として用いることを特徴とする水素製造方法。
【請求項2】
固体酸化物電解質隔膜によって電解槽をアノード室とカソード室に仕切った高温水蒸気電解装置のカソード室に水蒸気を供給し、アノード室に還元性ガスを供給して、カソード室において水蒸気の電気分解を行うことによって水素を製造する方法において、高温水蒸気電解装置と並行して固体酸化物型燃料電池を運転し、高温水蒸気電解装置のアノード室から排出される排ガスを固体酸化物型燃料電池の燃料室に供給し、固体酸化物型燃料電池によって得られる電力を高温水蒸気電解装置の電力として用いることを特徴とする水素製造方法。
【請求項3】
固体酸化物電解質隔膜によって電解槽をアノード室とカソード室に仕切った高温水蒸気電解装置のカソード室に水蒸気を供給し、アノード室に還元性ガスを供給して、カソード室において水蒸気の電気分解を行うことによって水素を製造する方法において、電解槽内に、更に、固体酸化物電解質隔膜で仕切った室を形成してこれを固体酸化物型燃料電池の空気室として用い、電解槽のアノード室を固体酸化物型燃料電池の燃料室として併用して供給される還元性ガスを燃料ガスとして用い、空気室に空気を供給することによって高温水蒸気電解装置と並行して固体酸化物型燃料電池を運転し、固体酸化物型燃料電池によって得られる電力を高温水蒸気電解装置の電力として用いることを特徴とする水素製造方法。
【請求項4】
炭化水素ガスを水蒸気改質にかけて還元性ガス及び水素を含む改質ガスに転化させ、得られた改質ガスを固体酸化物型燃料電池の燃料室に供給する請求項1又は3に記載の方法。
【請求項5】
炭化水素ガスを水蒸気改質にかけて還元性ガス及び水素を含む改質ガスに転化させ、得られた改質ガスを高温水蒸気電解装置のアノード室に供給する請求項2又は3に記載の方法。
【請求項6】
固体酸化物型燃料電池の燃料室から排出される排ガスを水蒸気改質にかけ、得られた改質ガスを高温水蒸気電解装置のアノード室に供給する請求項1又は3又は4に記載の方法。
【請求項7】
高温水蒸気電解装置のアノード室から排出される排ガスを水蒸気改質にかけ、得られた改質ガスを固体酸化物型燃料電池の燃料室に供給する請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
水蒸気改質を、Ni、Ru、Pt、Rh、Pdなどの金属触媒或いはこれらの合金触媒を単独あるいは複合して、アルミナ、ジルコニア、シリカなどの担体に保持した触媒を充填した触媒層を用いて行う請求項4〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
固体酸化物型燃料電池で発生する熱を高温水蒸気電解装置の加熱用の熱源として用いる請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
固体酸化物電解質隔膜によって電解槽をアノード室とカソード室に仕切ってアノード室に還元性ガスを供給する高温水蒸気電解装置と、固体酸化物電解質膜によって発電セルを燃料室と空気室に仕切った固体酸化物型燃料電池とから構成される水素製造装置であって、高温水蒸気電解装置のアノード室と固体酸化物型燃料電池の燃料室とが連通しており、固体酸化物型燃料電池によって得られる電力が高温水蒸気電解装置の電解用電力として供給されることを特徴とする水素製造装置。
【請求項11】
固体酸化物電解質隔膜によって電解槽をアノード室とカソード室に仕切ってアノード室に還元性ガスを供給しカソード室に高温水蒸気を供給する高温水蒸気電解装置において、電解槽内に、更に、固体酸化物電解質隔膜で仕切った室を形成してこれを固体酸化物型燃料電池の空気室として用い、電解槽のアノード室を固体酸化物型燃料電池の燃料室として併用して供給される還元性ガスを燃料ガスとして用い、空気室に空気を供給することによって高温水蒸気電解装置と並行して固体酸化物型燃料電池が運転されるように構成されており、固体酸化物型燃料電池によって得られる電力が高温水蒸気電解装置の電力として供給されることを特徴とする水素製造装置。
【請求項12】
炭化水素ガスを水蒸気改質にかけて還元性ガス及び水素を含む改質ガスに転化させるガス改質器を更に具備し、ガス改質器の改質ガス排出口が高温水蒸気電解装置のアノード室又は固体酸化物型燃料電池の燃料室に接続されている請求項10又は11に記載の水素製造装置。
【請求項13】
高温水蒸気電解装置のアノード室と固体酸化物型燃料電池の燃料室との間に炭化水素ガスを水蒸気改質にかけるガス改質器が配置されている請求項10又は12に記載の水素製造装置。
【請求項14】
炭化水素ガスを水蒸気改質にかけるガス改質器が、電解槽内における高温水蒸気電解装置のアノード室と燃料電池の燃料室との間に配置されている請求項11又は12に記載の水素製造装置。
【請求項15】
ガス改質器が、Ni、Ru、Pt、Rh、Pdなどの金属触媒或いはこれらの合金触媒を単独あるいは複合して、アルミナ、ジルコニア、シリカなどの担体に保持した触媒を充填した触媒層を具備する請求項12〜14のいずれかに記載の水素製造装置。
【請求項16】
固体酸化物型燃料電池で発生する熱が高温水蒸気電解装置の加熱用の熱源として供給される請求項10〜15のいずれかに記載の装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2007−51328(P2007−51328A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237081(P2005−237081)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】