説明

油供給装置

【課題】コンパクトな油供給装置を提供する。
【解決手段】油供給装置100は、弁体47が、当該弁体47の軸心を中心に弁体47の径方向に突出する第1ランド47X及び第2ランド47Yと、第1ランド47Xと第2ランド47Yとを軸方向に連接する少なくとも第1ランド47X及び第2ランド47Yの外径よりも小径の小径部47aとを備えて構成され、ロータ2の回転数が低い順に第1回転域、第2回転域、第3回転域と設定し、第1回転域の時に、第2吐出ポート32からの作動オイルを、小径部47aを介して第1油路61に送給し、第2回転域の時に、第2吐出ポート32からの作動オイルを、小径部47aを介して帰還油路66に送給し、第2ランド47Yにより第2油路62が帰還油路66に対して遮断された後の第3回転域の時に、第2吐出ポート32からの作動オイルを第1油路61に送給するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用エンジンの潤滑及び被油圧制御装置の制御に用いられる油供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車において、エンジンの潤滑や被油圧制御装置(油圧制御弁など)の制御を行うために作動オイルが用いられる。このような作動オイルは、油供給装置により自動車の各部に送給され、当該油供給装置はエンジンの回転数に応じて作動オイルの吐出圧を適切に調節できる吐出量可変構造を有して構成される。この種の油供給装置として下記に出典を示す特許文献1に記載のものがある。
【0003】
特許文献1に記載の油供給装置は、クランクシャフトと同期して駆動するロータの回転に伴って作動オイルを吸い込む吸込ポートを備えると共に、ロータの回転に伴って作動オイルを吐出する第1吐出ポート及び第2吐出ポートを備えたポンプ本体を備える。更に、この油供給装置は、少なくとも第1吐出ポートからの作動オイルを作動オイル被送給部に送給する第1油路と、第2吐出ポートからの作動オイルを第1油路に送給する第2油路と、第1油路への作動オイルの油圧に応答して作動する弁体を備えた油圧制御バルブからの作動オイルを吸込ポート及びオイルパンの少なくとも一方に返送するリリーフ油路とを備える。
【0004】
このような油供給装置において、弁体には第1弁体油路及び第2弁体油路が設けられる。そして、第1油路への作動オイルの油圧が所定域の時に第2吐出ポートからの作動オイルを第1弁体油路経由で第1油路に送給し、第1油路への作動オイルの油圧が所定域よりも大きい時に第2吐出ポートからの作動オイルを第2弁体油路経由で第1油路に送給するように構成されている。
【0005】
第1油路の作動オイルの油圧が所定域の時に第2吐出ポートからの作動オイルを第1弁体油路経由で第1油路に送給可能に構成すると、この時の第1油路への作動オイルの送給量は、第1吐出ポートの吐出量と第2吐出ポートの吐出量とを合わせた量となる。内燃機関の回転数及びロータの回転数が増し、第1吐出ポートからの作動オイルだけで必要油圧が確保された場合には、第1油路からの作動オイルと第2油路からの作動オイルとを合流させる必要がない。この場合、第2油路における余剰の作動オイルを第1油路に送給することなくリリーフ油路に帰還させる。
【0006】
一方、作動オイル被送給部によっては、ロータ回転数が高速域である時、多量の作動オイルの供給が必要となる。そのため、当該油供給装置では、第1油路への作動オイルの油圧が所定域よりも大きい時に、第2吐出ポートからの作動オイルを第2弁体油路経由で第1油路に送給するように構成した。この時、第1油路への作動オイルの送給量が一旦、第1吐出ポートからの作動オイルのみとなった後であっても、第1油路への作動オイルの送給量を、再度第1吐出ポートの吐出量と第2吐出ポートの吐出量とを合わせた量とすることができる。このような構成とすることで、ロータ回転数が高速域にある場合でも、送給できる作動オイルの容量を増大できるので、作動オイル被送給部に送給する必要油量を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−140022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のエンジンの油供給装置では、第1吐出ポート及び第2吐出ポートからの作動オイルを油圧制御バルブに作用する油圧に応じて第1油路及びリリーフ油路に送給するために、油圧制御バルブの軸方向に並んだ3つの径方向突出部(第1弁部、第2弁部、及び分割体)を有する油圧制御バルブが用いられていた。このため、油圧制御バルブの全長が長くなると共に、3つの径方向突出部に応じた第1吐出ポート及び第2吐出ポートを形成する必要があった。したがって、油供給装置のサイズが大きくなるので、材料コストが高くなると共に配置上の規制を受け搭載性が良くなかった。
【0009】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、コンパクトな油供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に油供給装置の特徴構成は、駆動源によって駆動するロータの回転に伴って作動オイルを吸い込む吸込ポートを備えると共に、前記ロータの回転に伴って作動オイルを吐出する第1吐出ポート及び第2吐出ポートを備えたポンプ本体と、作動オイル被送給部に作動オイルを送給する送給油路と、少なくとも前記第1吐出ポートからの作動オイルを前記送給油路に送給する第1油路と、前記第2吐出ポートからの作動オイルを弁室に送給する第2油路と、前記弁室からの作動オイルを前記吸込ポート及びオイルパンの少なくとも一方に返送する帰還油路と、前記送給油路に送給された作動オイルの油圧に応答して作動することにより、前記第2油路を前記第1油路及び前記帰還油路と断接させる弁体を備えた油圧制御バルブと、を有し、前記弁体が、当該弁体の軸心を中心に前記弁体の径方向に突出する第1ランド及び第2ランドと、前記第1ランドと前記第2ランドとを軸方向に連接する少なくとも前記第1ランド及び前記第2ランドの外径よりも小径の小径部とを備えて構成され、前記ロータの回転数が低い順に第1回転域、第2回転域、第3回転域と設定し、前記第1回転域の時に、前記第2吐出ポートからの作動オイルを、前記小径部を介して前記第1油路に送給し、前記第2回転域の時に、前記第2吐出ポートからの作動オイルを、前記小径部を介して前記帰還油路に送給し、前記第2ランドにより前記第2油路が前記帰還油路に対して遮断された後の前記第3回転域の時に、前記第2吐出ポートからの作動オイルを、前記第1油路に送給するように構成してある点にある。
【0011】
このような特徴構成とすれば、第1ランド及び第2ランドの2つのランドで、第2油路と、第1油路及び帰還油路との連通状態を制御することができる。このため、3つ以上のランドを有する弁体に比べて、小型化することができる。また、弁体の小型化に応じて、弁体の全ストローク長が短くなるので、油供給装置自体も小型化することが可能となる。したがって、搭載性の良い油供給装置を実現できる。
【0012】
また、前記第1ランドの外径が、前記第2ランドの外径よりも大きく構成されていると好適である。
【0013】
このような構成とすれば、第1ランドが摺動可能に構成された弁室の内壁部と、第2ランドとの間に隙間を設けることができる。したがって、この隙間を作動オイルが流通する連通路として利用することが可能となる。
【0014】
また、前記第1回転域の時に、前記帰還油路に連通する帰還ポートが前記第1ランドで閉弁されていると好適である。
【0015】
このような構成とすれば、第1回転域の時には、第1吐出ポート及び第2吐出ポートの双方からの作動オイルの全てを送給油路に送給することが可能となる。したがって、ロータ回転数が低速域の場合であっても、作動オイル被送給部に適切な量の作動オイルを供給することができる。
【0016】
また、前記第2回転域の時に、前記帰還油路に連通する帰還ポートが開弁され、前記第1油路と前記第2油路とが仕切られると好適である。
【0017】
このような構成とすれば、第1吐出ポートからの作動オイルのみを送給油路に送給することが可能となる。このため、エンジンの回転数及びロータの回転数が増し、第1吐出ポートからの作動オイルだけで必要油圧が確保された場合には、第2吐出ポートからの作動オイルを第1油路に送給することなく帰還流路に流通させることができる。したがって、余剰油圧を低減することができるので、効率的に作動する油供給装置を実現することができる。
【0018】
また、前記第3回転域の時に、前記帰還油路に連通する帰還ポートが開弁され、前記第1油路と前記第2油路とが連通すると好適である。
【0019】
このような構成とすれば、ロータ回転数が高速域である場合においても、作動オイル被送給部に多量の作動オイルを供給することができると共に、必要な量以外の作動オイルは帰還流路に流通することができる。したがって、余剰油圧を低減することができるので、効率的に作動する油供給装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】油供給装置を模式的に示した図である。
【図2】油供給装置を自動車のエンジンに搭載した例を示す図である。
【図3】ロータの回転数が低速域である場合の作動オイルの流れを模式的に示す図である。
【図4】ロータの回転数が第1中速域である場合の作動オイルの流れを模式的に示す図である。
【図5】ロータの回転数が第1中速域である場合の作動オイルの流れを模式的に示す図である。
【図6】ロータの回転数が第2中速域である場合の作動オイルの流れを模式的に示す図である。
【図7】ロータの回転数が高速域である場合の作動オイルの流れを模式的に示す図である。
【図8】ロータ回転数と作動オイルの吐出量との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.油供給装置の構成
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明に係る油供給装置100は、自動車のクランクシャフト等の駆動源と同期して駆動するロータ2の回転に伴って作動オイルを被油圧制御装置(作動オイル被送給部7)に効率良く供給する機能を備えている。図1は油供給装置100の概略構成を模式的に示した図であり、図2は油供給装置100が自動車のエンジンに搭載された状態を示す図である。図1及び図2に示されるように、油供給装置100は、ポンプ本体1、油圧制御バルブ4、送給油路5、第1油路61、第2油路62、帰還油路66を備えて構成される。
【0022】
1−1.ポンプ本体
ポンプ本体1は、金属製(例えばアルミ系合金、鉄系合金)であり、ポンプ本体1内部にはポンプ室10が形成される。ポンプ室10には、多数個の内歯11を備えたドリブンギヤを構成する内歯車部12が形成される。
【0023】
ポンプ室10には金属製のロータ2が回転自在に配置されている。ロータ2は駆動源としての自動車のエンジンのクランクシャフトに接続され、クランクシャフトと共に回転する。ロータ2の回転数は、例えば、600〜7000rpm程度となる様に設計される。ロータ2には、多数個の外歯21を備えたドライブギヤを構成する外歯車部22が形成される。内歯11及び外歯21はトロコイド曲線又はサイクロイド曲線等の数学曲線によって規定される。ロータ2の回転方向は矢印A1方向であり、ロータ2の回転に伴いロータ2の外歯21が内歯11に次々と入り込み、内歯車部12も同方向に回転する。外歯21と内歯11とにより空間22a〜22kが形成される。図1の状態では、空間22kは最も容積が大きなものであり、空間22e及び22fは最も容積が小さくなっている。この時、ロータ2の回転に応じて、例えば、空間22eから空間22aまで移行するに従い、次第に容積が大きくなるため吸込圧が生成され、作動オイルの吸込作用が得られる。また、ロータ2の回転に応じて、空間22j〜22fは、次第に容積が小さくなるため吐出圧が生成され、作動オイルの吐出作用が得られる。
【0024】
ポンプ本体1には、第1吐出ポート(メイン吐出ポート)31及び第2吐出ポート(サブ吐出ポート)32を備えた吐出ポート群33が形成される。すなわち、吐出ポート群33は、ロータ2の回転に伴ってポンプ室10から作動オイルを吐出するポートである。メイン吐出ポート31は端辺31a、31cを備えており、サブ吐出ポート32は端辺32a、32cを備えている。また、ポンプ本体1には、吸込ポート36が形成されている。吸込ポート36は、ロータ2の回転に伴ってポンプ室10に作動オイルを吸い込むポートである。吸込ポート36は端辺36a、36cを備えている。
【0025】
本実施形態では、矢印A1に示す回転方向において、吸込ポート36を始点と、メイン吐出ポート31はサブ吐出ポート32よりも上流に位置している。またメイン吐出ポート31の開口面積は、サブ吐出ポート32の開口面積に比較して大きく設定されている。なお本発明は、メイン吐出ポート31の開口面積及びサブ吐出ポート32の開口面積の面積差、或いは面積比で限定されるものではない。すなわち、例えばメイン吐出ポート31の開口面積及びサブ吐出ポート32の開口面積は同一となるように構成しても良いし、異なるように構成しても良い。また、メイン吐出ポート31の開口面積及びサブ吐出ポート32の開口面積が異なるように構成している場合には、メイン吐出ポート31の開口面積及びサブ吐出ポート32の開口面積のうち、どちらを大きくしても構わない。
【0026】
メイン吐出ポート31とサブ吐出ポート32とは、仕切部37によって仕切られているため、メイン吐出ポート31とサブ吐出ポート32とは互いに独立した吐出機能を有する。なお、仕切部37の幅(ロータ2の周方向に沿った長さ)は、ロータ回転による内歯11と外歯21の歯間の空間の圧縮工程の中で歯間の作動オイル閉じ込みによる油圧上昇が起きる場合には、メイン吐出ポート31とサブ吐出ポート32との間に位置する歯間の幅より狭くすると好適である。
【0027】
1−2.作動オイル供給油路
送給油路5は、作動オイル被送給部7に作動オイルを送給する油路である。作動オイル被送給部7は、例えば、給油を必要とするすべり軸受やベアリング等の潤滑装置、エンジンの動弁機構、エンジンのシリンダやピストン等の駆動機構が挙げられる。
【0028】
第1油路61は、メイン吐出ポート31と送給油路5とをつなぐ油路である。したがって、少なくともメイン吐出ポート31から吐出された作動オイルを送給油路5に送給する機能を有する。
【0029】
第2油路62は、後述する油圧制御バルブ4の弁室40とサブ吐出ポート32とをつなぐ油路である。したがって、サブ吐出ポート32から吐出された作動オイルを弁室40に送給する機能を有する。この際、サブ吐出ポート32から吐出された作動オイルは、弁室40、及び第1油路61を経由して送給油路5に送給される。
【0030】
帰還油路66は、弁室40からの作動オイルを吸込ポート36及びオイルパン69の少なくとも何れか一方に返送する油路である。図1では、帰還油路66は、吸込ポート36に返送する形態で示されている。
【0031】
また、作動オイルをオイルパン69から吸い込む通路66nが吸込ポート36に連通して設けられる。
【0032】
1−3.油圧制御バルブ
油圧制御バルブ4は、送給油路5に送給された作動オイルの油圧に応答して作動する弁体47を備えると共に、当該弁体47を摺動可能に収容する弁室40を備えている。弁体47は、弁室40において、バネ49により矢印B1方向に付勢された状態で収容されている。
【0033】
弁体47には、当該弁体47の軸心を中心に弁体47の径方向に突出する2つの径方向突出部が備えられる。この2つの径方向突出部は、第1ランド47X及び第2ランド47Yが相当する。本実施形態では、第1ランド47X及び第2ランド47Yの夫々は、弁体47の同芯円状で、且つ、弁体47の軸方向両端に設けられる。また、第1ランド47Xの外径は、第2ランド47Yの外径よりも大きく形成される。このような第1ランド47Xと第2ランド47Yとを軸方向に連接するように、弁体47には少なくとも第1ランド47X及び第2ランド47Yの外径よりも小さい小径部47aが設けられる。したがって、第1ランド47X、小径部47a、及び第2ランド47Yとで、ランド間空間47cが形成される。
【0034】
また、油圧制御バルブ4の弁室40には、弁ポート41、帰還ポート42、ドレーンポート43が設けられる。弁ポート41は、弁室40の第2内壁部56に設けられ、第2油路62に連通する。これにより、第2吐出ポート32からの作動オイルを弁室40に導入することが可能となる。帰還ポート42は、弁室40の第1内壁部55に設けられ、帰還油路66に連通する。これにより、油圧制御バルブ4からの作動オイルを吸込ポート36に返送することが可能となる。ドレーンポート43もまた、弁室40の第1内壁部55に設けられ、帰還油路66に連通する。これにより、ドレーンポート43を介して弁室40に作動オイルを吸込又は吐出を行うことにより、弁体47の摺動をスムーズに行うことが可能となる。
【0035】
第1ランド47Xの外径は、第1ランド47Xが第1内壁部55の内周面に沿って弁体47の軸方向に摺動可能に、第1内壁部55の内径に応じて形成される。また、第2ランド47Yの外径は、第2ランド47Yが第2内壁部56の内周面に沿って弁体47の軸方向に摺動可能に、第2内壁部56の内径に応じて形成される。本実施形態では、上述のように、第1ランド47Xの外径は、第2ランド47Yの外径よりも大きく形成される。このため、第1ランド47Xを摺動可能に収容する弁室40の第1内壁部55の内径は、第2ランド47Yを摺動可能に収容する弁室40の第2内壁部56の内径よりも大きく構成されている。なお、上述の仕切部37は第2内壁部56の一部を構成する。
【0036】
具体的には、第1ランド47Xの外径は、第1内壁部55の内径に対して、例えば数μm程度小さく形成すると好適である。また、第2ランド47Yの外径は、第2内壁部56の内径に対して、例えば数μm程度小さく形成すると好適である。したがって、第1内壁部55、第2内壁部56、第1ランド47X、及び第2ランド47Yは、径の大きい順に、第1内壁部55の内径、第1ランド47Xの外径、第2内壁部56の内径、第2ランド47Yの外径となるように設定される。
【0037】
また、第1内壁部55と第2内壁部56との間には、内径変更部57が形成される。このような内径変更部57は、第1内壁部55と第2内壁部56とを連接するように設けられる。したがって、弁室40においてバネ49により矢印B1方向に付勢された状態で収容されている弁体47は、内径変更部57により規制される。これにより、弁体47は、第2油路62を、第1油路61及び帰還油路66と断接させることになる。断接させるとは、連通しない状態、又は連通している状態にすることを意味する。したがって、弁体47は、第2油路62を、第1油路61及び帰還油路66と連通しない状態にしたり、連通している状態にしたりする。このような第2油路62と、第1油路61及び帰還油路66との断接形態については、以下で説明する。本油供給装置100は、このように構成される。
【0038】
2.作動オイルの供給形態
上述のように構成される油供給装置100においては、ロータ2の回転数の増加に伴い、油圧制御バルブ4の弁体47は、以下に示される供給形態A〜Eを呈する。理解を容易にするために、ロータ2の回転数を低い順に第1回転域、第2回転域、第3回転域として設定されているとして説明する。
【0039】
2−1.供給形態A
エンジン始動直後等、ロータ2の回転数が少ない低速域の場合(例えば1500回転程度まで)、吐出ポート群33から吐出された第1油路61の作動オイルの油圧により送給油路5へ作動オイルを送給する。このような低速域が、第1回転域に相当する。このときの油圧は、第1ランド47Xの軸方向中央面48a及び弁体47の底部48bに作用する。これにより弁体47を駆動させる弁体駆動力F1が生じる(図1参照)。弁体駆動力F1がバネ49の付勢力F3よりも小さな時には(F1<F3)、バネ49により弁体47は矢印B1方向に移動する(図1)。これにより、帰還油路66に連通する帰還ポート42が第1ランド47Xの外周面により閉弁される。
【0040】
この時、図3に示されるように、弁体47の第1ランド47Xが帰還ポート42を閉弁すると共に、弁ポート41と第1油路61とが連通した状態となる。これにより、小径部47aと仕切部37とで第1連通路91が形成される。したがって、サブ吐出ポート32からの作動オイルを、小径部47aを介して、すなわち第1連通路91を介して第1油路61に送給可能となる。
【0041】
つまり、供給形態Aにおいては、送給油路5への作動オイルの送給量は、メイン吐出ポート31の吐出量とサブ吐出ポート32の吐出量とを合わせた量となる。この時、送給油路5へ送給される油量は、図8のO―P線で示される特性、すなわち、ロータ2の回転数が増加するに伴い、メイン吐出ポート31からの作動オイルの吐出量が増加し、第1油路61の油圧が増大すると共に、サブ吐出ポート32からの作動オイルの吐出量が増加し、第2油路62の油圧が増大する特性となる。
【0042】
2−2.供給形態B
駆動源であるエンジンのクランクシャフトの回転数の増加に伴ってロータ2の回転数が増加し、ロータ2の回転数が所定回転数(N1:例えば1500回転)を越える第1中速域において、弁体駆動力F1が増加してバネ49の付勢力F3に打ち勝つと(F1>F3)、弁体駆動力F1と付勢力F3とが均衡するまで弁体47は矢印B2方向(図1参照)に移動する。このような第1中速域は、第2回転域に相当する。
【0043】
この時、図4に示されるように、帰還油路66に連通する帰還ポート42が開弁される。また、弁ポート41と第1油路61とが連通した状態も維持される。即ち、弁体47が後述する供給形態Cに移行する中間状態となる。これにより、小径部47aと第1内壁部55とで第2連通路92が形成される。したがって、サブ吐出ポート32からの作動オイルを、小径部47aを介して、すなわち第2連通路92を介して帰還油路6に送給可能となる。また、メイン吐出ポート31からの作動オイルの一部も、第1連通路91を介して帰還流路6に送給される。
【0044】
つまり、供給形態Bの場合、送給油路5への作動オイルの送給量は、メイン吐出ポート31の吐出量の一部となる。この時、送給油路5へ送給される油量は、図8のP−Q線で示される特性となる。つまり、サブ吐出ポート32と帰還油路6とが連通する状態となるため、ロータ2の回転数の増加に対する吐出量の増加割合が小さくなる。
【0045】
ここで、図8には、作動オイル被送給部7としてVVT(バルブ開閉時期制御装置)の必要油量とエンジンのロータ回転数との関係も示される。例えば、エンジン始動直後は、メイン吐出ポート31の吐出量とサブ吐出ポート32の吐出量とを合わせた総吐出量程度の油量が必要であるが、ロータ回転数が所定回転数(N1)を越えると総吐出量は必要なくなって、やがてメイン吐出ポート31の吐出量のみで必要油量が確保できるようになる(図8のVで示した領域)。そのため、図8のO―P、P−Q線のそれぞれの傾きが、VVT必要油量Vを上回るように油供給装置100を構成すると好適である。なお本発明は、VVTの必要油量に換えて若しくは加えて、他の油圧アクチュエータを基準にして、それを上回るように油供給装置100を構成しても良い。
【0046】
2−3.供給形態C
ロータの回転数が更に上昇するN2(例えば2500回転)以上になると、弁体47はさらに矢印B2方向(図1参照)に移動する。このような状態も第1中速域として規定され、第2回転域に相当する。これにより、第1油路61と第2油路62とが仕切部37と第2ランド47Yとで仕切られる。
【0047】
この時、図5に示されるように、弁ポート41と第1油路61とが連通しない状態となると共に、弁体47の第1ランド47Xによる帰還ポート42の閉弁が完全に解除される。即ち、送給油路5への作動オイルの油圧が所定域より大きい時に、メイン吐出ポート31からの作動オイルを送給油路5に送給し、サブ吐出ポート32からの作動オイルを、弁室40を経由して帰還油路66に送給可能となる。この時、送給油路5へ送給される油量は、図8のQ−R線で示される特性となる。つまり、供給形態Cの場合、送給油路5への油量はメイン吐出ポート31からの油量と等しくなる。
【0048】
2−4.供給形態D
ロータ2の回転数がさらに上昇するN3(例えば4000回転)以上の第2中速域になると、弁体47は更に矢印B2方向(図1参照)に移動する。このような第2中速域は、第2回転域に相当する。
【0049】
この時、図6に示されるように、弁ポート41と第1油路61とが連通した状態となると共に、弁体47の第2ランド47Y(弁体47の底部48b)により、作動オイルの帰還ポート42への移送が妨げられる。したがって、第2ランド47Yにより第2油路62が帰還油路66に対して遮断された状態となる。この状態では、弁体47の底部48bと弁室40の第2内壁部56とで第3連通路93が形成される。したがって、サブ吐出ポート32からの作動オイルを、第3連通路93を介して第1油路61に送給可能となる。
【0050】
つまり、供給形態Dの場合、送給油路5への作動オイルの送給量は、再度、メイン吐出ポート31の吐出量とサブ吐出ポート32の吐出量とを合わせた量となる。この時、送給油路5への油量は、図8のR―T線で示される特性となる。つまり、弁ポート41と第1油路61とが連通した後、作動オイルの帰還ポート42への移送が停止するため、帰還ポート42へ移送されていた作動オイルの移送先が送給油路5に変更される。そのため、送給油路5への作動オイルの送給量が上昇し(図8:R―S線)、その後、メイン吐出ポート31の吐出量とサブ吐出ポート32の吐出量とを合わせた量となる(図8:S―T線)。
【0051】
2−5.供給形態E
ロータ2の回転数が更に上昇するN4(例えば4500回転)以上になる高速域になると、弁体47は更に矢印B2方向(図1参照)に移動する。このような高速域は、第3回転域に相当する。
【0052】
この時、図7に示されるように、帰還油路66に連通する帰還ポート42が開弁され、第1油路61と第2油路62とが連通する状態とされる。これにより、第2ランド47Yと第1内壁部55とで第4連通路94が形成される。したがって、メイン吐出ポート31からの作動オイルの一部及びサブ吐出ポート32からの作動オイルの一部を、第4連通路94を介して帰還油路66に送給可能となる。なお、この状態においては、弁体47の底部48bと第2内壁部56とで第3連通路93も形成される。したがって、上述のように、第2ランド47Yにより第2油路62が帰還油路66に対して遮断された後、サブ吐出ポート32からの作動オイルを、第3連通路93を介して第1油路61にも送給可能となる。
【0053】
つまり、供給形態Eの場合、メイン吐出ポート31の一部の吐出量とサブ吐出ポート32の一部の吐出量とを合わせた量となる。この時、送給油路5へ送給される油量は、図8のT―U線で示される特性となる。つまり、帰還油路66への経路が連通する状態となるため、ロータ2の回転数の増加に対する吐出量の増加割合が小さくなる。
【0054】
ここで、図8には、作動オイル被送給部7としてピストン用ジェットの必要油量とエンジンのロータ回転数との関係も示される。例えば、ロータ回転数が高速域付近では、メイン吐出ポート31の吐出量とサブ吐出ポート32の吐出量とを合わせた総吐出量程度の油量が必要であるが、ロータ回転数が所定回転数(N4)を越えると総吐出量は必要なくなる(図8のWで示した領域)。そのため、図8のT−U線の傾きが、ピストン用ジェット必要油量Wを上回るように油供給装置100を構成すると好適である。なお本発明は、ピストン用ジェットの必要油量に換えて若しくは加えて、他の油圧アクチュエータを基準にして、それを上回るように油供給装置100を構成しても良い。
【0055】
以上をまとめると、送給油路5への作動オイルの油圧が所定域の時に、サブ吐出ポート32からの作動オイルを第1油路61経由で送給油路5に送給可能に構成すると、この時の送給油路5への作動オイルの送給量は、メイン吐出ポート31の吐出量とサブ吐出ポート32の吐出量とを合わせた量となる(図8:O−P線)。
【0056】
エンジンの回転数及びロータ2の回転数が増してメイン吐出ポート31から吐出された作動オイルの油圧が所定域よりも大きくなり、やがてメイン吐出ポート31からの作動オイルだけで送給油路5の必要油圧が確保された場合には、第1油路61からの作動オイルと第2油路62からの作動オイルとを合流させる必要がなくなる(図8:P−Q線、Q−R線)。
【0057】
第1油路61のみで必要油圧が確保された場合には、第2油路62における余剰の作動オイルを送給油路5に送給することなく帰還油路66に帰還させれば、余剰油圧を低減できる。
【0058】
一方、例えば、ピストン用ジェット等の作動オイル被送給部7においては、ロータ回転数が高速域である時、迅速にピストンに対して多量の作動オイルを供給する必要がある。
そのため、本発明では、送給油路5への作動オイルの油圧が所定域よりも大きい時に、サブ吐出ポート32からの作動オイルを第3連通路93経由で送給油路5に送給するように構成した。この時、送給油路5への作動オイルの送給量は、再度、メイン吐出ポート31の吐出量とサブ吐出ポート32の吐出量とを合わせた量(図8:S−T線)とすることができる。これにより、ロータ回転数が高速域においても、再度、送給できる作動オイルの容量を増大できるため、送給する必要油量を確実に確保できる。その後、メイン吐出ポート31の吐出量とサブ吐出ポート32の吐出量とを合わせた量となる(図8:S―T線)。
【0059】
3.供給形態の設定
3−1.P点の設定
例えば、弁室40の軸方向における、第2油路62と帰還ポート42との間隔を長くし、帰還油路66へ送給するタイミングが遅くなるように設定すると、図8におけるP点をO−P線に沿って高回転数側に設定することが可能である。また、例えば、弁室40の軸方向における、第2油路62と帰還ポート42との間隔を短くし、帰還油路66へ送給するタイミングが早くなるように設定すると、図8におけるP点をO−P線に沿って低回転側に設定することが可能である。
【0060】
3−2.Q点及びR点の設定
バネ49の付勢力を強くすることにより、図8におけるQ点及びR点を吐出量が大きくなる側に設定することが可能である。また、バネ49の付勢力を弱くすることにより、図8におけるQ点及びR点を吐出量が小さくなる側に設定することが可能である。
【0061】
3−3.S点及びT点の設定
第2ランド47Yの軸方向長さを長くすることにより、図8におけるS点及びT点をS−T線の延長方向に沿って吐出量が大きくなる側に設定することが可能である。また、第2ランド47Yの軸方向長さを短くすることにより、図8におけるS点及びT点をS−T線の延長方向に沿って吐出量が小さくなる側に設定することが可能である。
【0062】
一方、第1ランド47Xと第2ランド47Yとの距離を軸方向に長くすることにより、図8におけるS点及びT点をS−T線の延長方向に沿って吐出量が大きくなる側に設定することが可能である。また、第1ランド47Xと第2ランド47Yとの距離を軸方向に短くすることにより、図8におけるS点及びT点をS−T線の延長方向に沿って吐出量が小さくなる側に設定することが可能である。
【0063】
このように、油圧制御バルブ4の各部の設定を変更することにより、図8における特性を適宜設定することが可能である。したがって、吐出量と回転数との関係に応じて特性を設定することができるので、圧損を少なくして効率の良い油供給装置100を実現することができる。
【0064】
P点、S点及びT点の設定は、前述した設定方法に換えて若しくは加えて、バネ49の付勢力を変更することにより、変更が可能となる。例えば、バネ49の付勢力を強くすることにより、P点、S点及びT点のそれぞれを高回転側に設定でき、バネ49の付勢力を弱くすることにより、P点、S点及びT点のそれぞれを低回転側に設定できる。
【0065】
本油供給装置100によれば、第1ランド47X及び第2ランド47Yの2つのランドで、第2油路62と、第1油路61及び帰還油路66との連通状態を制御することができる。したがって、3つ以上のランドを有する弁体に比べて、小型に形成することができる。また、弁体47の小型化に応じて、弁体47の全ストローク長が短くなるので、油供給装置100自体も小型化することが可能となる。したがって、搭載性の良い油供給装置100を実現できる。
【0066】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態では、図1において、帰還油路66が吸込ポート36に返送する油路であるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。帰還油路66は、油圧制御バルブ4からの作動オイルをオイルパン69に返送する油路として構成することも可能であるし、油圧制御バルブ4からの作動オイルを吸込ポート36及びオイルパン69の双方に返送する油路として構成することも可能である。
【0067】
本発明は、例えば自動車用内燃機関の潤滑及び被油圧制御装置の制御に用いられる油供給装置に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1:ポンプ本体
2:ロータ
4:油圧制御バルブ
5:送給油路
7:作動オイル被送給部
31:第1吐出ポート(メイン吐出ポート)
32:第2吐出ポート(サブ吐出ポート)
36:吸込ポート
40:弁室
42:帰還ポート
47:弁体
47a:小径部
47X:第1ランド
47Y:第2ランド
61:第1油路
62:第2油路
66:帰還油路
69:オイルパン
100:油供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源によって駆動するロータの回転に伴って作動オイルを吸い込む吸込ポートを備えると共に、前記ロータの回転に伴って作動オイルを吐出する第1吐出ポート及び第2吐出ポートを備えたポンプ本体と、
作動オイル被送給部に作動オイルを送給する送給油路と、
少なくとも前記第1吐出ポートからの作動オイルを前記送給油路に送給する第1油路と、
前記第2吐出ポートからの作動オイルを弁室に送給する第2油路と、
前記弁室からの作動オイルを前記吸込ポート及びオイルパンの少なくとも一方に返送する帰還油路と、
前記送給油路に送給された作動オイルの油圧に応答して作動することにより、前記第2油路を前記第1油路及び前記帰還油路と断接させる弁体を備えた油圧制御バルブと、を有する油供給装置において、
前記弁体が、当該弁体の軸心を中心に前記弁体の径方向に突出する第1ランド及び第2ランドと、前記第1ランドと前記第2ランドとを軸方向に連接する少なくとも前記第1ランド及び前記第2ランドの外径よりも小径の小径部とを備えて構成され、
前記ロータの回転数が低い順に第1回転域、第2回転域、第3回転域と設定し、
前記第1回転域の時に、前記第2吐出ポートからの作動オイルを、前記小径部を介して前記第1油路に送給し、
前記第2回転域の時に、前記第2吐出ポートからの作動オイルを、前記小径部を介して前記帰還油路に送給し、
前記第2ランドにより前記第2油路が前記帰還油路に対して遮断された後の前記第3回転域の時に、前記第2吐出ポートからの作動オイルを、前記第1油路に送給するように構成してある油供給装置。
【請求項2】
前記第1ランドの外径が、前記第2ランドの外径よりも大きく構成されている請求項1に記載の油供給装置。
【請求項3】
前記第1回転域の時に、前記帰還油路に連通する帰還ポートが前記第1ランドで閉弁されている請求項1又は2に記載の油供給装置。
【請求項4】
前記第2回転域の時に、前記帰還油路に連通する帰還ポートが開弁され、前記第1油路と前記第2油路とが仕切られる請求項1から3のいずれか一項に記載の油供給装置。
【請求項5】
前記第3回転域の時に、前記帰還油路に連通する帰還ポートが開弁され、前記第1油路と前記第2油路とが連通する請求項1から4のいずれか一項に記載の油供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−122341(P2012−122341A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271289(P2010−271289)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】