説明

波長可変干渉フィルター、光モジュール、および電子機器

【課題】環境性および帯電除去性に優れた波長可変干渉フィルター、光モジュール、及び電子機器を提供すること。
【解決手段】エタロン5は、可動基板52と、可動基板52に対向する固定基板51と、可動基板52の固定基板51に対向する面に設けられた可動反射膜57と、固定基板51の可動基板52に対向する面に設けられ、可動反射膜57とギャップを介して対向する固定反射膜56と、可動反射膜57の固定基板51に対向する面と端面とを被覆するとともに、エタロン5の外周部に延びる第一引出部を有する可動保護膜59と、固定反射膜56の可動基板52に対向する面と端面とを被覆するとともに、エタロン5の外周部に延びる第二引出部を有する固定保護膜58と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光から所望の目的波長の光を選択して出射する波長可変干渉フィルター、この波長可変干渉フィルターを備えた光モジュール、及びこの光モジュールを備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対の反射膜間で光を多重干渉させて、所望の波長の光を出射させる波長可変干渉フィルターが知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の光学フィルター装置(波長可変干渉フィルター)は、対向配置された第一基板、および第二基板を有し、第一基板および第二基板の互いに対向する面には光学反射膜がそれぞれ設けられている。第一基板と第二基板をシリコン膜および金薄膜で接合することで光学反射膜間の距離の制御を行うことができ、入射光から、光学反射膜間のギャップ寸法に応じた波長の光を取り出すことが可能となる。
【0003】
このような波長可変干渉フィルターは、光学反射膜として、例えば、Ag合金の単層膜や、高屈折層をTiO、低屈折層をSiOとした誘電体多層膜を用いることができる。これらの光学反射膜には帯電が発生することがあり、この帯電により光学反射膜間のギャップ寸法の制御が困難となる場合がある。
【0004】
ここで、光学膜の表面に炭素膜を設けることで、耐擦傷性および帯電防止性を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
特許文献2のカメラやビデオなどの撮像系に用いられるND(ニュートラルデンシティー)フィルターは、SiOとTi金属化合物とが交互に積層され、その最外層に耐擦傷性および帯電防止性に優れた炭素膜が積層された構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−76749号公報
【特許文献2】特開2006−84994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の波長可変干渉フィルターは、光学膜が形成された後の製造工程において、光学反射膜が様々な薬品やガスに曝されることで劣化しやすい。特に、光学反射膜としてAg合金の単層膜を用いると劣化しやすい。このため、光学反射膜は耐薬品性やガスバリア性などの耐環境性に優れていることが求められている。
また、特許文献2では、NDフィルターの最外層に炭素膜が設けられたことで多少の帯電防止は可能かもしれないが、炭素膜は電気的に浮遊しているため、完全に帯電防止することはできない。また、NDフィルターの上面は炭素膜で覆われているが、端面は露出しているため、製造工程において、様々な薬品やガスに曝されることになり、フィルターが劣化するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑みて、耐環境性および帯電除去性に優れた波長可変干渉フィルター、光モジュール、及び電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の波長可変干渉フィルターは、第一基板と、前記第一基板に対向する第二基板と、前記第一基板の前記第二基板に対向する面に設けられた第一反射膜と、前記第二基板の前記第一基板に対向する面に設けられ、前記第一反射膜とギャップを介して対向する第二反射膜と、前記第一反射膜の前記第二基板に対向する面と端面とを被覆する第一保護膜と、前記第二反射膜の前記第一基板に対向する面と端面とを被覆する第二保護膜と、を備え、前記第一保護膜は、当該波長可変干渉フィルターの外周部に延びて前記第一保護膜に帯電する電荷を逃がす第一引出部を有し、前記第二保護膜は、前記外周部に延びて前記第二保護膜に帯電する電荷を逃がす第二引出部を有することを特徴とする。
【0009】
この発明では、第一保護膜が第一反射膜の第二基板に対向する面と端面とを被覆することで、第一反射膜は、第一保護膜と第一基板により完全に被覆された状態となる。したがって、第一反射膜を成膜した後に第一保護膜を成膜すれば、それ以降の製造工程において第一反射膜が薬品やガスに曝されることがない。すなわち、耐環境性に優れるため、第一反射膜の劣化を防止することができる。同様に、第二保護膜が第二反射膜の第一基板に対向する面と端面とを被覆することで、第二反射膜は、第二保護膜と第二基板により完全に被覆された状態となる。したがって、第二反射膜を成膜した後に第二保護膜を成膜すれば、それ以降の製造工程において第二反射膜が薬品やガスに曝されることがない。すなわち、耐環境性に優れるため、第二反射膜の劣化を防止することができる。
【0010】
また、第一保護膜は、波長可変干渉フィルターの外周部に延びる第一引出部を介して、第一反射膜に帯電する電荷を外部に逃がすことができる。同様に、第二保護膜は、波長可変干渉フィルターの外周部に延びる第二引出部を介して、第二反射膜に帯電する電荷を外部に逃がすことができる。したがって、第一反射膜または第二反射膜を形成するときに存在する電荷、形成後の製造工程で蓄えられる電荷、および静電駆動によって蓄えられる電荷を完全に除去することができる。このように、帯電防止性に優れるため、帯電により制御が困難とされていた第一反射膜と第二反射膜との間のギャップを精度よく制御することができる。したがって、第一反射膜と第二反射膜とのギャップ精度を良好に維持でき、波長可変干渉フィルターの分解能を向上させることができる。
【0011】
本発明の波長可変干渉フィルターにおいて、前記第一保護膜および前記第二保護膜の抵抗率は、8×10Ω・cm以上かつ1010Ω・cm以下であることが好ましい。
【0012】
この発明では、第一保護膜および第二保護膜の抵抗率が上記範囲内となっている。抵抗率が8×10Ω・cm未満であると、第一反射膜と第二反射膜との間のギャップ寸法の制御が困難となる可能性がある。また、抵抗率が1010Ω・cmを超えると、電荷を逃がしにくくなり、電荷を完全に除去できない可能性がある。したがって、抵抗率が上記範囲内であることにより、第一保護膜は第一引出部を介して電荷を外部に逃がしやすく、帯電防止性により優れる。同様に、第二保護膜は第二引出部を介して電荷を外部に逃がしやすく、帯電防止性により優れる。
【0013】
本発明の波長可変干渉フィルターにおいて、前記第一保護膜および前記第二保護膜は、炭素膜であることが好ましい。
【0014】
炭素膜は、緻密な組成を有し硬度が高いため、薬品やガスに対する耐性(耐環境性)に優れ、第一反射膜および第二反射膜に対して高い保護性能を得ることができる。また、炭素膜は、表面抵抗値が無機絶縁物系の誘電体膜に比べて表面抵抗値が低いため、帯電防止性に優れている。したがって、第一保護膜および第二保護膜にこのような炭素膜を用いることで、耐環境性および帯電防止性に優れた波長可変干渉フィルターを提供することができる。
【0015】
なお、炭素膜は、ダイヤモンド構造、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)構造、またはグラファイト構造を持つことが知られ、これらの中でもDLC構造を有する炭素膜(以降、DLC膜と称す)を用いることが好ましい。
DLC膜は、1層で耐環境性と帯電防止性とを備えるため、波長可変干渉フィルターとしての構造が簡素化され、低コスト化を図ることができる。また、DLC膜は、Oプラズマ処理でエッチング可能であるため、製造工程を簡素化することができ、低コスト化を図ることができる。
【0016】
本発明の波長可変干渉フィルターにおいて、前記第一反射膜および前記第二反射膜は、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した誘電体多層膜であり、前記第一保護膜および前記第二保護膜は、前記誘電体多層膜の最外層に隣接する層と同じ屈折率を有することが好ましい。
【0017】
この発明では、第一反射膜および第二反射膜は、誘電体多層膜である。誘電体多層膜は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層されることで、所定の光学特性を得ることができる。第一保護膜および第二保護膜は、誘電体多層膜の最外層に積層され、この最外層に隣接する層と同じ屈折率を有している。例えば、最外層が低屈折率層の場合、最外層に隣接する層は高屈折率層となるため、第一保護膜および第二保護膜は、この高屈折率層と同じ屈折率を有する。ここで、同じとは、完全に一致するという意味ではなく、最外層に対して高い屈折率を有していればよいため、ある程度の範囲を持つものである。
このように、第一保護膜および第二保護膜は、第一反射膜および第二反射膜を兼ねることができるため、光学特性を損なうことがない。すなわち、所定の光学特性を維持することができる。
【0018】
本発明の光モジュールは、上述のような波長可変干渉フィルターと、前記波長可変干渉フィルターを透過した光を検出する検出部と、を備えたことを特徴とする。
この発明では、上述したように、波長可変干渉フィルターは、耐環境性と帯電防止性に優れるため、第一反射膜および第二反射膜の劣化を防止するとともに、第一反射膜および第二反射膜のギャップ精度が向上し、高分解能を実現できる。したがって、このような波長可変干渉フィルターを備えた光モジュールでは、高い分解能で取り出された所望波長の光を検出部で受光させることができ、所望波長の光の光量を正確に検出することができる。
【0019】
本発明の光モジュールにおいて、前記第一引出部および前記第二引出部に接続するグラウンド配線をさらに備えたことが好ましい。
この発明では、第一引出部がグラウンドに接続されるため、第一保護膜に帯電した電荷を、第一引出部およびグラウンド配線を介して外部に逃がすことができる。同様に、第二引出部がグラウンドに接続されるため、第二保護膜に帯電した電荷を、第二引出部およびグラウンド配線を介して外部に逃がすことができる。したがって、第一反射膜やその周辺および第二反射膜やその周辺に帯電する電荷を完全に除去することができるので、第一反射膜および第二反射膜のギャップ精度が向上し、高分解能を実現できる。
【0020】
本発明の電子機器は、上述のような光モジュールを備えたことを特徴とする。
ここで、電子機器としては、上記のような光モジュールにより検出された光の光量に基づいて、干渉フィルターに入射した光の色度や明るさなどを分析する光測定器、ガスの吸収波長を検出してガスの種類を検査するガス検出装置、受光した光からその波長の光に含まれるデータを取得する光通信装置などを例示することができる。
本発明では、上述したように、光モジュールにより、所望波長の光の正確な光量を検出することができるため、電子機器は、このような正確なデータに基づいて、正確な光分析処理を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る第一実施形態の測色装置の概略構成を示す図である。
【図2】第一実施形態の波長可変干渉フィルターであるエタロンの概略構成を示す平面図である。
【図3】第一実施形態のエタロンの概略構成を示す断面図である。
【図4】第一実施形態のエタロンの固定基板の製造工程を示す図である。
【図5】第一実施形態のエタロンの可動基板の製造工程を示す図である。
【図6】本発明に係る第二実施形態のエタロンの概略構成を示す要部断面図である。
【図7】本発明に係る他の実施形態の電子機器の一例であるガス検出装置を示す概略図である。
【図8】前記ガス検出装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明に係る他の実施形態の電子機器の一例である食物分析装置を示す概略図である。
【図10】本発明に係る他の実施形態の電子機器の一例である分光カメラを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔第一実施形態〕
以下、本発明に係る第一実施形態について、図面に基づいて説明する。
〔1.測色装置の全体構成〕
図1は、本発明に係る実施形態の測色装置(電子機器)の概略構成を示す図である。
この測色装置1は、本発明の電子機器であり、図1に示すように、被検査対象Aに光を射出する光源装置2と、本発明の光モジュールである測色センサー3と、測色装置1の全体動作を制御する制御装置4とを備えている。そして、この測色装置1は、光源装置2から射出される光を被検査対象Aにて反射させ、反射された検査対象光を測色センサー3にて受光し、測色センサー3から出力される検出信号に基づいて、検査対象光の色度、すなわち被検査対象Aの色を分析して測定する装置である。
【0023】
〔2.光源装置の構成〕
光源装置2は、光源21、複数のレンズ22(図1には1つのみ記載)を備え、被検査対象Aに対して白色光を射出する。複数のレンズ22には、コリメーターレンズが含まれていてもよく、この場合、光源装置2は、光源21から射出された白色光をコリメーターレンズにより平行光とし、図示しない投射レンズから被検査対象Aに向かって射出する。
なお、本実施形態では、光源装置2を備える測色装置1を例示するが、例えば被検査対象Aが液晶パネルなどの発光部材である場合、光源装置2が設けられない構成としてもよい。
【0024】
〔3.測色センサーの構成〕
測色センサー3は、本発明の光モジュールを構成する。この測色センサー3は、図1に示すように、本発明の波長可変干渉フィルターを構成するエタロン5と、エタロン5を透過する光を受光して検出する検出部31と、エタロン5で透過させる光の波長を可変する電圧制御部6と、を備えている。また、測色センサー3は、エタロン5に対向する位置に、被検査対象Aで反射された反射光(検査対象光)を、内部に導光する図示しない入射光学レンズを備えている。そして、この測色センサー3は、エタロン5により、入射光学レンズから入射した検査対象光のうち、所定波長の光のみを分光し、分光した光を検出部31にて受光する。
検出部31は、複数の光電交換素子により構成されており、受光量に応じた電気信号を生成する。そして、検出部31は、制御装置4に接続されており、生成した電気信号を受光信号として制御装置4に出力する。
【0025】
(3−1.エタロンの構成)
図2は、本発明の波長可変干渉フィルターを構成するエタロン5の概略構成を示す平面図であり、図3は、エタロン5の概略構成を示す断面図である。
エタロン5は、図2に示すように、平面正方形状の板状の光学部材であり、一辺が例えば10mmに形成されている。このエタロン5は、図3に示すように、本発明の第二基板である固定基板51、および本発明の第一基板である可動基板52を備えている。これらの2枚の基板51,52は、それぞれ例えば、ソーダガラス、結晶性ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラスなどの各種ガラスや、水晶などにより形成されている。そして、これらの2つの基板51,52は、後述の接合部513,523が、例えば常温活性化接合やプラズマ重合膜を用いたシロキサン接合などにより、接合されることで、一体的に構成されている。
【0026】
固定基板51には、本発明の第二反射膜を構成する固定反射膜56が設けられ、可動基板52には、本発明の第一反射膜を構成する可動反射膜57が設けられている。ここで、固定反射膜56は、固定基板51の可動基板52に対向する面に固定され、可動反射膜57は、可動基板52の固定基板51に対向する面に固定されている。また、これらの固定反射膜56および可動反射膜57は、ギャップを介して対向配置されている。
さらに、固定基板51と可動基板52との間には、固定反射膜56および可動反射膜57の間のギャップの寸法を調整するための静電アクチュエーター54が設けられている。この静電アクチュエーター54は、固定基板51側に設けられる固定電極541と、可動基板52側に設けられる可動電極542とを備えている。
【0027】
(3−1−1.固定基板の構成)
固定基板51は、厚みが例えば500μmに形成されるガラス基材を加工することで形成される。具体的には、図3に示すように、固定基板51には、エッチングにより電極形成溝511および反射膜固定部512が形成されている。この固定基板51は、可動基板52に対して厚み寸法が大きく形成されている。
【0028】
電極形成溝511は、図2に示すようなエタロン5を厚み方向から見た平面視(以降、エタロン平面視と称す)において、平面中心点を中心とした円形に形成されている。反射膜固定部512は、前記平面視において、電極形成溝511の中心部から可動基板52側に突出して形成される。
また、固定基板51には、電極形成溝511から、固定基板51の外周縁の頂点方向(例えば図2における右上方向)に向かって延出する引出形成溝が設けられている。
また、固定基板51には、電極形成溝511から、固定基板51の外周縁の頂点方向(例えば図2における左上方向)に向かって延出する帯電防止用の引出形成溝が設けられている。
【0029】
そして、固定基板51の電極形成溝511の溝底部である電極形成面511Aには、C字形状の固定電極541が形成されている。この固定電極541は、導電性を有し、後述する可動基板52の可動電極542との間で電圧を印加することで、固定電極541および可動電極542間に静電引力を発生させることが可能なものであれば、特に限定されないが、本実施形態では、ITO膜を用いる。
また、この固定電極541の外周縁から、引出形成溝(図2では、右上方向)に沿って伸びる固定引出電極541Aが設けられている。この固定引出電極541Aの先端には、固定電極パッド541Bが形成され、この固定電極パッド541Bが電圧制御部6に接続されている。この固定引出電極541Aは、固定電極541の成膜時に同時に形成されるものであり、固定電極541と同様、ITO膜で構成されている。
【0030】
反射膜固定部512は、上述したように、電極形成溝511と同軸上で、電極形成溝511よりも小さい径寸法となる円柱状に形成されている。なお、本実施形態では、図3に示すように、反射膜固定部512の可動基板52に対向する反射膜固定面512Aが、電極形成面511Aよりも可動基板52に近接して形成される例を示すが、これに限らない。電極形成面511Aおよび反射膜固定面512Aの高さ位置は、反射膜固定面512Aに固定される固定反射膜56、および可動基板52に形成される可動反射膜57の間のギャップの寸法、固定電極541および可動基板52に形成される後述の可動電極542の間の寸法、固定反射膜56や可動反射膜57の厚み寸法により適宜設定される。例えば反射膜56,57として、誘電体多層膜を用い、その厚み寸法が増大する場合、電極形成面511Aと反射膜固定面512Aとが同一面に形成される構成や、電極形成面511Aの中心部に、円柱凹溝上の反射膜固定溝が形成され、この反射膜固定溝の底面に反射膜固定面512Aが形成される構成などとしてもよい。
ただし、固定電極541および可動電極542の間に作用する静電引力は、固定電極541および可動電極542の距離の二乗に反比例する。したがって、これら固定電極541および可動電極542の距離が近接するほど、印加電圧に対する静電引力も増大し、ギャップの変動量も大きくなる。特に、本実施形態のエタロン5のように、ギャップの可変寸法が微小な場合(例えば250nm〜450nm)、ギャップの制御が困難となる。したがって、上記のように、反射膜固定溝を形成する場合であっても、電極形成溝511の深さ寸法をある程度確保する方が好ましく、本実施形態では、例えば、1μmに形成されることが好ましい。
【0031】
また、反射膜固定部512の反射膜固定面512Aは、エタロン5を透過させる波長域をも考慮して、溝深さが設計されることが好ましい。例えば、固定反射膜56および可動反射膜57の間のギャップの初期値(固定電極541および可動電極542間に電圧が印加されていない状態のギャップの寸法)が450nmに設定され、固定電極541および可動電極542間に電圧を印加することにより、ギャップが例えば250nmになるまで可動反射膜57を変位させることが可能な設定とする場合、固定反射膜56および可動反射膜57の膜厚および反射膜固定面512Aや電極形成面511Aの高さ寸法は、ギャップGを250nm〜450nmの間で変位可能な値に設定されていればよい。
【0032】
そして、反射膜固定面512Aには、円形状に形成される固定反射膜56が固定されている。この固定反射膜56としては、金属の単層膜により形成されるものであってもよく、誘電体多層膜により形成されるものであってもよく、さらには、誘電体多層膜上にAg合金が形成される構成などとしてもよい。金属単層膜としては、例えばAg合金の単層膜を用いることができ、誘電体多層膜の場合は、例えば高屈折層をTiO、低屈折層をSiOとした誘電体多層膜を用いることができる。
本実施形態では、固定反射膜56として、Ag合金の単層膜を形成しており、エタロン5で分光可能な波長域として可視光全域をカバーできる反射膜を形成することが可能となる。一方、誘電体多層膜により固定反射膜56を形成する場合、エタロン5で分光可能な波長域がAg合金単層膜よりも狭いが、分光された光の透過率が大きく、透過率の半値幅も狭く分解能を良好にできる。
【0033】
また、固定反射膜56には、固定反射膜56の可動基板52側の面およびその端面(側面)を完全に被覆する領域に固定保護膜58が形成されている。すなわち、固定反射膜56は、固定保護膜58と反射膜固定部512で完全に被覆された状態となる。
この固定保護膜58の外周縁から、帯電防止用の引出形成溝(図2では、左上方向)に沿って延びる帯電防止配線58Aが設けられている。この帯電防止配線58Aの先端には、帯電防止パッド58Bが形成され、この帯電防止パッド58Bがグラウンドに接続されている。固定保護膜58は、固定電極541の内側に形成されているため、固定電極541のC字形状の隙間に帯電防止配線58Aを通して帯電防止パッド58Bに接続させることができる。なお、帯電防止配線58Aおよび帯電防止パッド58Bは、本発明の第二引出部である。
【0034】
固定保護膜58、帯電防止配線58A、および帯電防止パッド58Bは、固定保護膜58の成膜時に同時に形成されるものであり、同一材料および同一膜厚で形成されている。固定保護膜58、帯電防止配線58A、および帯電防止パッド58Bとしては、DLC膜が用いられる。DLC膜は、炭素膜の一種であり、耐薬品性、ガスバリア性等の耐環境性に優れるとともに、帯電防止性もある。有効な帯電防止性を得るためにも、固定保護膜58の抵抗率は、8×10Ω・cm以上かつ1010Ω・cm以下の範囲であることが好ましい。
また、炭素膜は、緻密な組成を有し硬度が高いので、薬品等に対する耐性があり耐環境性に優れるとともに、無機絶縁物系の誘電体膜に比べて表面抵抗値が低く、帯電防止性がある。DLC構造以外に、ダイヤモンド構造またはグラファイト構造を有している膜を用いてもよい。
【0035】
さらに、固定基板51は、可動基板52に対向する上面とは反対側の下面において、固定反射膜56に対応する位置に図示略の反射防止膜(AR)が形成されている。この反射防止膜は、低屈折率膜および高屈折率膜を交互に積層することで形成され、固定基板51の表面での可視光の反射率を低下させ、透過率を増大させる。
【0036】
(3−1−2.可動基板の構成)
可動基板52は、厚みが例えば200μmに形成されるガラス基材をエッチングにより加工することで形成される。
具体的には、可動基板52は、図2に示すような平面視において、基板中心点を中心とした円形の可動部521と、可動部521と同軸であり可動部521を保持する保持部522と、を備えている。
【0037】
可動部521は、保持部522よりも厚み寸法が大きく形成され、例えば、本実施形態では、可動基板52の厚み寸法と同一寸法である200μmに形成されている。また、可動部521は、反射膜固定部512に平行な可動面521Aを備え、この可動面521Aに、固定反射膜56とギャップを介して対向する可動反射膜57が固定されている。
ここで、この可動反射膜57は、上述した固定反射膜56と同一の構成の反射膜が用いられる。
【0038】
また、可動反射膜57には、上述した固定保護膜58と同一の構成の可動保護膜59が形成されている。すなわち、可動反射膜57は、可動保護膜59と可動部521で完全に被覆された状態となり、上述した固定保護膜58と同一材料および同一膜厚で形成されている。
可動保護膜59の外周縁の一部からは、帯電防止用の引出形成溝(図2では、左上方向)に沿って延びる帯電防止配線59Aが設けられている。この帯電防止配線59Aの先端には、帯電防止パッド59Bが形成され、この帯電防止パッド59Bがグラウンドに接続されている。この帯電防止配線59Aおよび帯電防止パッド59Bは、可動保護膜59の成膜時に同時に形成されるものであり、可動保護膜59と同様の構成を有している。
【0039】
さらに、可動部521は、可動面521Aとは反対側の上面において、可動反射膜57に対応する位置に図示略の反射防止膜(AR)が形成されている。この反射防止膜は、固定基板51に形成される反射防止膜と同様の構成を有し、低屈折率膜および高屈折率膜を交互に積層することで形成される。
【0040】
保持部522は、可動部521の周囲を囲うダイヤフラムであり、例えば厚み寸法が50μmに形成されている。このため、保持部522は可動部521よりも撓みやすく、僅かな静電引力により固定基板51側に撓ませることが可能となる。この際、可動部521は、保持部522よりも厚み寸法が大きく、剛性が大きくなるため、静電引力により可動基板52を撓ませる力が作用した場合でも、可動部521の撓みはほぼなく、可動部521に形成された可動反射膜57の撓みも防止できる。
そして、この保持部522の固定基板51に対向する面には、固定電極541と、約1μmの隙間を介して対向する、C字形状の可動電極542が形成されている。可動電極542の内側には可動保護膜59が形成されているため、この可動電極542のC字形状の隙間に帯電防止配線59Aを通して帯電防止パッド59Bに接続させることができる。なお、帯電防止配線59Aおよび帯電防止パッド59Bは、本発明の第一引出部である。
【0041】
また、可動電極542の外周縁の一部からは、可動引出電極542Aが外周方向に向かって形成されている。具体的には、可動引出電極542Aは、エタロン平面視において、固定基板51に形成される引出形成溝とは反対の方向に延びて設けられている。また、可動引出電極542Aは、先端部には、可動電極パッド542Bが形成され、電圧制御部6に接続されている。
この可動引出電極542Aは、可動電極542の成膜時に同時に形成されるものであり、可動電極542と同様の構成を有している。可動引出電極542Aは、可動基板52の可動部521と同等の厚み寸法を有する部分に成膜されているため、静電引力により可動基板52を撓ませる力が作用した場合でも、可動引出電極542Aが成膜された部分の撓みはない。
【0042】
(3−2.電圧制御手段の構成)
電圧制御部6は、制御装置4からの入力される制御信号に基づいて、静電アクチュエーター54の固定電極541および可動電極542に印加する電圧を制御する。
【0043】
〔4.制御装置の構成〕
制御装置4は、測色装置1の全体動作を制御する。
この制御装置4としては、例えば汎用パーソナルコンピューターや、携帯情報端末、その他、測色専用コンピューターなどを用いることができる。
そして、制御装置4は、図1に示すように、光源制御部41、測色センサー制御部42、および測色処理部43などを備えて構成されている。
光源制御部41は、光源装置2に接続されている。そして、光源制御部41は、例えば利用者の設定入力に基づいて、光源装置2に所定の制御信号を出力し、光源装置2から所定の明るさの白色光を射出させる。
測色センサー制御部42は、測色センサー3に接続されている。そして、測色センサー制御部42は、例えば利用者の設定入力に基づいて、測色センサー3にて受光させる光の波長を設定し、この波長の光の受光量を検出する旨の制御信号を測色センサー3に出力する。これにより、測色センサー3の電圧制御部6は、制御信号に基づいて、利用者が所望する光の波長のみを透過させるよう、静電アクチュエーター54への印加電圧を設定する。
測色処理部43は、検出部31により検出された受光量から、被検査対象Aの明るさや色度を分析する。
【0044】
〔5.エタロンの製造方法〕
次に、上記エタロン5の製造方法を、図面に基づいて説明する。
(5−1.固定基板の製造)
まず、固定基板51の製造素材である石英ガラス基板の表面粗さRaが1nm以下となるまで両面を精密研磨し、厚み寸法が500μmのガラス基板(固定基板51)を作製する。そして、このガラス基板の両面にレジストを塗布し、可動基板52に対向する面に電極形成溝511形成用のレジストを塗布して、塗布されたレジストをフォトリソグラフィ法により露光・現像して、電極形成溝511が形成される箇所をパターニングする。そして、フッ酸水溶液を用いたウェットエッチングにより、反射膜固定面512Aの深さ寸法(例えば0.5μm)までガラス基板をエッチングする。エッチング終了後、レジストを剥離する。次に、ガラス基板の両面にレジストを塗布し、電極形成面511Aを形成するためのレジストパターニングを施す。そして、フッ酸水溶液を用いたウェットエッチングによりエッチング処理(例えば0.5μm)し、レジストを剥離することで、図4(A)に示すように、電極形成面511Aを形成する。
【0045】
次に、固定基板51の可動基板52に対向する側の面全体に、スパッタリングによるITO膜を厚み寸法が250nmとなるように成膜する。そして、ITO膜の上にレジストを塗布し、固定電極541と固定引出電極541Aと固定電極パッド541Bとを形成するためのレジストパターニングを施す。そして、酸性の液でITO膜をエッチングし、レジストを剥離することで、図4(B)に示すように、固定電極541、固定引出電極541A、および固定電極パッド541Bを形成する。
【0046】
次に、固定基板51の可動基板52側の面全体に、スパッタリングによるAg合金の単膜を厚み寸法が50nmとなるように成膜する。そして、Ag合金の単膜の上にレジストを塗布し、固定反射膜56を形成するためのレジストパターニングを施す。そして、例えばりん硝酢酸水溶液でAg合金の単膜をエッチングし、レジストを剥離することで、図4(C)に示すように、固定反射膜56を形成する。
【0047】
次に、固定基板51の可動基板52側の面全体に、DLC膜をプラズマCVD法により膜厚10nmで成膜する。具体的には、高周波電源(RF)2500Wを印加し、2.5sccmの流量でトルエン(C)ガス、および2.5sccmの流量で窒素(N)ガスを流し、基板の加熱温度を常温で成膜する。
そして、DLC膜上にレジストを塗布し、固定保護膜58、帯電防止配線58A、および帯電防止パッド58Bのレジストパターニングを施し、酸素(O)プラズマ処理によりDLC膜を除去し、レジストを剥離することで、図4(D)に示すように、固定保護膜58、帯電防止配線58A、および帯電防止パッド58Bを形成する。
【0048】
この後、固定基板51の可動基板52側の面に、接合部513が形成される領域だけが露出するメタルマスクまたはシリコンマスクをアライメントして固定基板51に貼り合わせ、ポリオルガノシロキサンを用いたプラズマ重合膜をプラズマCVD法により厚み寸法が100nmとなるように成膜し、マスクを除去する。以上により、図4(E)に示すように、接合部513が形成され、固定基板51が完成する。
【0049】
(5−2.可動基板の製造)
可動基板52の製造素材である石英ガラス基板を用意し、図5(A)に示すように、このガラス基板の表面粗さRaが1nm以下となるまで両面を精密研磨し、厚み寸法が200μmのガラス基板を作製する。
そして、このガラス基板の両面に、Cr膜(厚み寸法50nm)とAu膜(厚み寸法500nm)をスパッタリングにより成膜し、固定基板51とは反対側となる面に保持部522および固定基板51の固定電極パッド541B上の空間を形成するためのレジストパターニングを施し、Au膜をヨウ素とヨウ化カリウムとの混合液によりエッチングし、Cr膜を硝酸セリウムアンモニウム水溶液でエッチングする。そして、ガラス基板をフッ酸水溶液に浸すことで、保持部522および固定基板51の固定電極パッド541B上の部分となる箇所を170μmエッチングし、ガラス基板の両面に残ったCr/Au膜を剥離する。これにより、図5(B)に示すように、可動部521と厚さ30μmの保持部522が形成される。
【0050】
次に、ガラス基板の固定基板51に対向する側となる面全体に、スパッタリングにより、厚み寸法が200nmとなるようにITO膜を成膜する。そして、ITO膜の上にレジストを塗布し、可動電極542と可動引出電極542Aと可動電極パッド542Bとを形成するためのレジストパターニングを施す。そして、酸性の液でITO膜をエッチングし、レジストを剥離することで、図5(C)に示すように、可動電極542、可動引出電極542A、および可動電極パッド542Bを形成する。
【0051】
次に、ガラス基板の固定基板51側となる面全体に、スパッタリングによるAg合金の単膜を厚み寸法が50nmとなるように成膜する。そして、Ag合金の単膜の上にレジストを塗布し、可動反射膜57を形成するためのレジストパターニングを施す。そして、例えばりん硝酢酸水溶液でAg合金の単膜をエッチングし、レジストを剥離することで、図5(D)に示すように、可動反射膜57を形成する。
【0052】
次に、ガラス基板の固定基板51側となる面全体に、DLC膜をプラズマCVD法により膜厚10nmで成膜する。具体的には、高周波電源(RF)2500Wを印加し、2.5sccmの流量でトルエン(C)ガス、および2.5sccmの流量で窒素(N)ガスを流し、基板の加熱温度を常温で成膜する。
そして、DLC膜上にレジストを塗布し、可動保護膜59、帯電防止配線59A、および帯電防止パッド59Bのレジストパターニングを施し、酸素(O)プラズマ処理によりDLC膜を除去し、レジストを剥離することで、図5(E)に示すように、可動保護膜59、帯電防止配線59A、および帯電防止パッド59Bを形成する。
【0053】
この後、ガラス基板の固定基板51側となる面に、接合部523が形成される領域だけが露出するメタルマスクまたはシリコンマスクをアライメントしてガラス基板に貼り合わせ、ポリオルガノシロキサンを用いたプラズマ重合膜をプラズマCVD法により厚み寸法が100nmとなるように成膜し、マスクを除去する。以上により、図5(F)に示すように、接合部523が形成され、可動基板52が完成する。
【0054】
(5−3.固定基板及び可動基板の接合)
固定基板51及び可動基板52の接合では、まず、固定基板51の接合部513及び可動基板52の接合部523をそれぞれ活性化させる表面活性化工程を実施する。この表面活性化工程では、接合部513や接合部523の表面の分子結合が切断し、終端化されていない結合手を生じさせる。具体的には、Oプラズマ処理またはUV処理を行う。Oプラズマ処理の場合、O流量30cc/分、圧力27Pa、RFパワー200Wの条件で30秒間実施する。また、UV処理の場合、UV光源としてエキシマUV(波長172nm)を用いて3分間処理を行う。このとき、固定反射膜56および可動反射膜57に活性エネルギーが加わるとダメージが発生するため、接合部513,523のみが露出するメタルマスク等を装着し、接合部513,523のみに活性化エネルギーが加わるようにする。
プラズマ重合膜に活性化エネルギーを付与した後、2つの基板のアライメントを行い、固定接合部513および可動接合部523を重ね合わせて荷重をかけることにより、基板同士を接合させる。
【0055】
〔6.第一実施形態の作用効果〕
上述したように、上記実施形態のエタロン5は、固定反射膜56が固定保護膜58により完全に被覆され、可動反射膜57が可動保護膜59により完全に被覆された状態に形成されている。固定保護膜58および可動保護膜59はDLC膜により形成されているため、固定反射膜56および可動反射膜57は耐環境性に優れ、固定反射膜56および可動反射膜57が形成された後の製造工程において薬品やガスに曝されることで受けるダメージを防止することができる。すなわち、耐環境性に優れている。
また、DLC膜の抵抗率が8×10Ω・cm以上かつ1010Ω・cm以下の範囲であり、DLC膜は帯電防止配線58A,59A、および帯電防止パッド58B,59Bを介してグラウンド(GND)に接続されているため、DLC膜に帯電する電荷を外部に逃がすことができる。このため、固定反射膜56および可動反射膜57を形成するときに存在する電荷、固定反射膜56および可動反射膜57の形成後の製造工程で蓄えられる電荷、および静電駆動によって蓄えられる電荷を完全に除去することができる。このように、帯電防止性に優れるため、帯電により制御が困難とされていた固定反射膜56と可動反射膜57との間のギャップを精度よく制御することができる。したがって、可動反射膜57と固定反射膜56とのギャップ精度を良好に維持でき、エタロン5の分解能を向上させることができる。
【0056】
固定保護膜58および可動保護膜59は、DLC膜の1層形成で耐環境性と帯電防止性とを備えるため、波長可変干渉フィルターとしての構造が簡素化され、低コスト化を図ることができる。また、DLC膜は、Oプラズマ処理でエッチング可能であるため、製造工程を簡素化することができ、低コスト化を図ることができる。
【0057】
〔第二実施形態〕
次に、本発明の第二実施形態を図6に基づいて説明する。なお、以降の説明において、上記第一実施形態と同様の構成については、同符号を付し、その説明を省略または簡略する。
図6に示すように、第二実施形態のエタロン5の固定反射膜56Aは、固定基板51側からTiO膜(膜厚100nm)/SiO膜(膜厚160nm)/TiO膜(膜厚100nm)/SiO膜(膜厚160nm)の順で成膜された誘電体多層膜で構成され、固定保護膜58(膜厚100nm)が固定反射膜56Aを完全に被覆している。同様に、可動反射膜57Aは、可動基板52側からTiO膜(膜厚100nm)/SiO膜(膜厚160nm)/TiO膜(膜厚100nm)/SiO膜(膜厚160nm)の順で成膜された誘電体多層膜で構成され、可動保護膜59(膜厚100nm)が可動反射膜57Aを完全に被覆している。
【0058】
(第二実施形態の作用効果)
上記第二実施形態のエタロン5では、第一実施形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、第二実施形態では、固定反射膜56Aが誘電体多層膜で構成されているため、誘電体多層膜の最外層となるSiO膜は帯電しやすいが、固定反射膜56Aが固定保護膜58で被覆されていることから、固定保護膜58、帯電防止配線58Aおよび帯電防止パッド58Bを介して帯電した電荷を外部に逃がすことができる。このため、固定反射膜56Aを形成するときに存在する電荷、固定反射膜56Aの形成後の製造工程で蓄えられる電荷、および静電駆動によって蓄えられる電荷を完全に除去することができる。また、可動反射膜57Aについても同様の効果を得ることができる。
このように、帯電防止性に優れるため、帯電により制御が困難とされていた固定反射膜56Aと可動反射膜57Aとの間のギャップを精度よく制御することができる。したがって、可動反射膜57Aと固定反射膜56Aとのギャップ精度を良好に維持でき、エタロン5の分解能を向上させることができる。
【0059】
また、誘電体多層膜の最外層となるSiO膜にDLC膜を積層させている。DLC膜の屈折率(2.0〜2.4)はTiO膜の屈折率(2.5〜2.7)に近いため、SiO膜にDLC膜を積層させても従来と変わらない光学特性を発揮することができる。すなわち、優れた光学特性を維持したまま、耐環境性および帯電防止性に優れている。
【0060】
〔他の実施形態〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0061】
例えば、上記実施形態では、固定保護膜58に帯電する電荷を除去するための帯電防止配線58Aおよび帯電防止パッド58Bを設けたが、固定電極541がグラウンド接続される場合は、固定保護膜58を固定引出電極541Aに接続してもよい。この場合、固定保護膜58に帯電する電荷を、固定引出電極541Aおよび固定電極パッド541Bを介して外部に逃がすことができ、固定引出電極541Aおよび固定電極パッド541Bが本発明の第二引出部となる。
同様に、可動保護膜59に帯電する電荷を除去するための帯電防止配線59Aおよび帯電防止パッド59Bを設けたが、可動電極542がグラウンド接続される場合は、可動保護膜59を可動引出電極542Aに接続してもよい。これによれば、可動保護膜59に帯電する電荷を、可動引出電極542Aおよび可動電極パッド542Bを介して外部に逃がすことができ、可動引出電極542Aおよび可動電極パッド542Bが本発明の第一引出部となる。
【0062】
また、上記実施形態では、可動基板52には、ダイヤフラム状の保持部522が形成される例を示したがこれに限定されない。
保持部522としては、可動部521を固定基板51に対して進退移動可能に保持する構成であればよく、例えば、複数の架橋部により構成されていてもよい。この場合、これらの架橋部の全部、または、可動基板52の中心点に対して対象となる位置に設けられる架橋部に可動電極542を形成する。これにより、架橋部の撓みバランスを良好にでき、可動反射膜57を固定反射膜56に対して平行に維持した状態で、可動部521を移動させることができる。
【0063】
また、上記実施形態では、対向する固定反射膜56と可動反射膜57との間の寸法が、対向する固定電極541と可動電極542との寸法より小さい構造のエタロン5について説明したが、固定反射膜と可動反射膜との間の寸法が、固定電極と可動電極との寸法より大きい構造の光フィルターであっても、本実施形態と同様の効果を奏する。
【0064】
本発明の電子機器として、測色装置1を例示したが、その他、様々な分野により本発明の波長可変干渉フィルター、光モジュール、電子機器を用いることができる。
例えば、特定物質の存在を検出するための光ベースのシステムとして用いることができる。このようなシステムとしては、例えば、本発明の波長可変干渉フィルターを用いた分光計測方式を採用して特定ガスを高感度検出する車載用ガス漏れ検出器や、呼気検査用の光音響希ガス検出器などのガス検出装置を例示できる。
このようなガス検出装置の一例を以下に図面に基づいて説明する。
【0065】
図7は、波長可変干渉フィルターを備えたガス検出装置の一例を示す概略図である。
図8は、図7のガス検出装置の制御系の構成を示すブロック図である。
このガス検出装置100は、図7に示すように、センサーチップ110と、吸引口120A、吸引流路120B、排出流路120C、および排出口120Dを備えた流路120と、本体部130と、を備えて構成されている。
本体部130は、流路120を着脱可能な開口を有するセンサー部カバー131、排出手段133、筐体134、光学部135、フィルター136、エタロン5(波長可変干渉フィルター)、および受光素子137(受光部)等を含む検出部(光モジュール)と、検出された信号を処理し、検出部を制御する制御部138、電力を供給する電力供給部139等から構成されている。また、光学部135は、光を射出する光源135Aと、光源135Aから入射された光をセンサーチップ110側に反射し、センサーチップ側から入射された光を受光素子137側に透過するビームスプリッタ―135Bと、レンズ135C,135D,135Eと、により構成されている。
また、図8に示すように、ガス検出装置100の表面には、操作パネル140、表示部141、外部とのインターフェイスのための接続部142、電力供給部139が設けられている。電力供給部139が二次電池の場合には、充電のための接続部143を備えてもよい。
さらに、ガス検出装置100の制御部138は、図8に示すように、CPU等により構成された信号処理部144、光源135Aを制御するための光源ドライバー回路145、エタロン5を制御するための電圧制御部146、受光素子137からの信号を受信する受光回路147、センサーチップ110のコードを読み取り、センサーチップ110の有無を検出するセンサーチップ検出器148からの信号を受信するセンサーチップ検出回路149、および排出手段133を制御する排出ドライバー回路150などを備えている。
【0066】
次に、上記のようなガス検出装置100の動作について、以下に説明する。
本体部130の上部のセンサー部カバー131の内部には、センサーチップ検出器148が設けられており、このセンサーチップ検出器148でセンサーチップ110の有無が検出される。信号処理部144は、センサーチップ検出器148からの検出信号を検出すると、センサーチップ110が装着された状態であると判断し、表示部141へ検出動作を実施可能な旨を表示させる表示信号を出す。
【0067】
そして、例えば利用者により操作パネル140が操作され、操作パネル140から検出処理を開始する旨の指示信号が信号処理部144へ出力されると、まず、信号処理部144は、光源ドライバー回路145に光源作動の信号を出力して光源135Aを作動させる。光源135Aが駆動されると、光源135Aから単一波長で直線偏光の安定したレーザー光を射出される。また、光源135Aには、温度センサーや光量センサーが内蔵されており、その情報が信号処理部144へ出力される。そして、信号処理部144は、光源135Aから入力された温度や光量に基づいて、光源135Aが安定動作していると判断すると、排出ドライバー回路150を制御して排出手段133を作動させる。これにより、検出すべき標的物質(ガス分子)を含んだ気体試料が、吸引口120Aから、吸引流路120B、センサーチップ110内、排出流路120C、排出口120Dへと誘導される。
【0068】
また、センサーチップ110は、金属ナノ構造体が複数組み込まれ、局在表面プラズモン共鳴を利用したセンサーである。このようなセンサーチップ110では、レーザー光により金属ナノ構造体間で増強電場が形成され、この増強電場内にガス分子が入り込むと、分子振動の情報を含んだラマン散乱光、およびレイリー散乱光が発生する。
これらのレイリー散乱光やラマン散乱光は、光学部135を通ってフィルター136に入射し、フィルター136によりレイリー散乱光が分離され、ラマン散乱光がエタロン5に入射する。そして、信号処理部144は、電圧制御部146を制御し、エタロン5に印加する電圧を調整し、検出対象となるガス分子に対応したラマン散乱光をエタロン5で分光させる。この後、分光した光が受光素子137で受光されると、受光量に応じた受光信号が受光回路147を介して信号処理部144に出力される。
信号処理部144は、上記のようにして得られた検出対象となるガス分子に対応したラマン散乱光のスペクトルデータと、ROMに格納されているデータとを比較し、目的のガス分子か否かを判定し、物質の特定をする。また、信号処理部144は、表示部141にその結果情報を表示させたり、接続部142から外部へ出力したりする。
【0069】
なお、上記図7,8において、ラマン散乱光をエタロン5により分光して分光されたラマン散乱光からガス検出を行うガス検出装置100を例示したが、ガス検出装置として、ガス固有の吸光度を検出することでガス種別を特定するガス検出装置として用いてもよい。この場合、センサー内部にガスを流入させ、入射光のうちガスにて吸収された光を検出するガスセンサーを本発明の光モジュールとして用いる。そして、このようなガスセンサーによりセンサー内に流入されたガスを分析、判別するガス検出装置を本発明の電子機器とする。このような構成でも、本発明の波長可変干渉フィルターを用いてガスの成分を検出することができる。
【0070】
また、特定物質の存在を検出するためのシステムとして、上記のようなガスの検出に限られず、近赤外線分光による糖類の非侵襲的測定装置や、食物や生体、鉱物等の情報の非侵襲的測定装置等の、物質成分分析装置を例示できる。
以下に、上記物質成分分析装置の一例として、食物分析装置を説明する。
【0071】
図9は、エタロン5を利用した電子機器の一例である食物分析装置の概略構成を示す図である。
この食物分析装置200は、図9に示すように、検出器210(光モジュール)と、制御部220と、表示部230と、を備えている。検出器210は、光を射出する光源211と、測定対象物からの光が導入される撮像レンズ212と、撮像レンズ212から導入された光を分光するエタロン5(波長可変干渉フィルター)と、分光された光を検出する撮像部213(受光部)と、を備えている。
また、制御部220は、光源211の点灯・消灯制御、点灯時の明るさ制御を実施する光源制御部221と、エタロン5を制御する電圧制御部222と、撮像部213を制御し、撮像部213で撮像された分光画像を取得する検出制御部223と、信号処理部224と、記憶部225と、を備えている。
【0072】
この食物分析装置200は、システムを駆動させると、光源制御部221により光源211が制御されて、光源211から測定対象物に光が照射される。そして、測定対象物で反射された光は、撮像レンズ212を通ってエタロン5に入射する。エタロン5は電圧制御部222の制御により所望の波長を分光可能な電圧が印加されており、分光された光が、例えばCCDカメラ等により構成される撮像部213で撮像される。また、撮像された光は分光画像として、記憶部225に蓄積される。また、信号処理部224は、電圧制御部222を制御してエタロン5に印加する電圧値を変化させ、各波長に対する分光画像を取得する。
【0073】
そして、信号処理部224は、記憶部225に蓄積された各画像における各画素のデータを演算処理し、各画素におけるスペクトルを求める。また、記憶部225には、例えばスペクトルに対する食物の成分に関する情報が記憶されており、信号処理部224は、求めたスペクトルのデータを、記憶部225に記憶された食物に関する情報を基に分析し、検出対象に含まれる食物成分、およびその含有量を求める。また、得られた食物成分および含有量から、食物カロリーや鮮度等をも算出することができる。さらに、画像内のスペクトル分布を分析することで、検査対象の食物の中で鮮度が低下している部分の抽出等をも実施することができ、さらには、食物内に含まれる異物等の検出をも実施することができる。
そして、信号処理部224は、上述のようにした得られた検査対象の食物の成分や含有量、カロリーや鮮度等の情報を表示部230に表示させる処理をする。
【0074】
また、図9において、食物分析装置200の例を示すが、略同様の構成により、上述したようなその他の情報の非侵襲的測定装置としても利用することができる。例えば、血液等の体液成分の測定、分析等、生体成分を分析する生体分析装置として用いることができる。このような生体分析装置としては、例えば血液等の体液成分を測定する装置として、エチルアルコールを検知する装置とすれば、運転者の飲酒状態を検出する酒気帯び運転防止装置として用いることができる、また、このような生体分析装置を備えた電子内視鏡システムとしても用いることができる。
さらには、鉱物の成分分析を実施する鉱物分析装置としても用いることができる。
【0075】
さらには、本発明の波長可変干渉フィルター、光モジュール、電子機器としては、以下のような装置に適用することができる。
例えば、各波長の光の強度を経時的に変化させることで、各波長の光でデータを伝送させることも可能であり、この場合、光モジュールに設けられた波長可変干渉フィルターにより特定波長の光を分光し、受光部で受光させることで、特定波長の光により伝送されるデータを抽出することができ、このようなデータ抽出用光モジュールを備えた電子機器により、各波長の光のデータを処理することで、光通信を実施することもできる。
【0076】
また、電子機器としては、本発明の波長可変干渉フィルターにより光を分光することで、分光画像を撮像する分光カメラ、分光分析機などにも適用できる。このような分光カメラの一例として、波長可変干渉フィルターを内蔵した赤外線カメラが挙げられる。
図10は、分光カメラの概略構成を示す模式図である。分光カメラ300は、図10に示すように、カメラ本体310と、撮像レンズユニット320と、撮像部330とを備えている。
カメラ本体310は、利用者により把持、操作される部分である。
撮像レンズユニット320は、カメラ本体310に設けられ、入射した画像光を撮像部330に導光する。また、この撮像レンズユニット320は、図10に示すように、対物レンズ321、結像レンズ322、及びこれらのレンズ間に設けられたエタロン5を備えて構成されている。
撮像部330は、受光素子により構成され、撮像レンズユニット320により導光された画像光を撮像する。
このような分光カメラ300では、エタロン5により撮像対象となる波長の光を透過させることで、所望波長の光の分光画像を撮像することができる。
【0077】
さらには、本発明の波長可変干渉フィルターをバンドパスフィルターとして用いてもよく、例えば、発光素子が射出する所定波長域の光のうち、所定の波長を中心とした狭帯域の光のみを波長可変干渉フィルターで分光して透過させる光学式レーザー装置としても用いることができる。
また、本発明の波長可変干渉フィルターを生体認証装置として用いてもよく、例えば、近赤外領域や可視領域の光を用いた、血管や指紋、網膜、虹彩などの認証装置にも適用できる。
【0078】
さらには、光モジュールおよび電子機器を、濃度検出装置として用いることができる。この場合、波長可変干渉フィルターにより、物質から射出された赤外エネルギー(赤外光)を分光して分析し、サンプル中の被検体濃度を測定する。
【0079】
上記に示すように、本発明の波長可変干渉フィルター、光モジュール、および電子機器は、入射光から所定の光を分光するいかなる装置にも適用することができる。そして、本発明の波長可変干渉フィルターは、上述のように、1デバイスで複数の波長を分光させることができるため、複数の波長のスペクトルの測定、複数の成分に対する検出を精度よく実施することができる。したがって、複数デバイスにより所望の波長を取り出す従来の装置に比べて、光モジュールや電子機器の小型化を促進でき、例えば、携帯用や車載用の光学デバイスとして好適に用いることができる。
【0080】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造および手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などに適宜変更できる。
【符号の説明】
【0081】
1…電子機器としての測色装置、3…光モジュールとしての測色センサー、5…波長可変干渉フィルターとしてのエタロン、31…検出部、43…測色処理部、51…第二基板としての固定基板、52…第一基板としての可動基板、56…第二反射膜としての固定反射膜、57…第一反射膜としての可動反射膜、58…第二保護膜としての固定保護膜、59…第一保護膜としての可動保護膜、521…可動部、522…保持部、541…固定電極、542…可動電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一基板と、
前記第一基板に対向する第二基板と、
前記第一基板の前記第二基板に対向する面に設けられた第一反射膜と、
前記第二基板の前記第一基板に対向する面に設けられ、前記第一反射膜とギャップを介して対向する第二反射膜と、
前記第一反射膜の前記第二基板に対向する面と端面とを被覆する第一保護膜と、
前記第二反射膜の前記第一基板に対向する面と端面とを被覆する第二保護膜と、を備え、
前記第一保護膜は、当該波長可変干渉フィルターの外周部に延びて前記第一保護膜に帯電する電荷を逃がす第一引出部を有し、
前記第二保護膜は、前記外周部に延びて前記第二保護膜に帯電する電荷を逃がす第二引出部を有する
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項2】
請求項1に記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記第一保護膜および前記第二保護膜の抵抗率は、8×10Ω・cm以上かつ1010Ω・cm以下である
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記第一保護膜および前記第二保護膜は、炭素膜である
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターにおいて、
前記第一反射膜および前記第二反射膜は、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した誘電体多層膜であり、
前記第一保護膜および前記第二保護膜は、前記誘電体多層膜の最外層に隣接する層と同じ屈折率を有する
ことを特徴とする波長可変干渉フィルター。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の波長可変干渉フィルターと、
前記波長可変干渉フィルターを透過した光を検出する検出部と、を備えた
ことを特徴とする光モジュール。
【請求項6】
請求項5に記載の光モジュールにおいて、
前記第一引出部および前記第二引出部に接続するグラウンド配線をさらに備えた
ことを特徴とする光モジュール。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の光モジュールを備えた
ことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−173315(P2012−173315A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31848(P2011−31848)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】