説明

波長変換素子、レーザ光出力装置、画像表示装置及び波長変換素子の製造方法

【課題】簡単に且つ高精度に適切な方向に設置できる波長変換素子、レーザ光出力装置、画像表示装置及び波長変換素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】波長変換素子100は、入射面100aの一端部に、切り欠き部101を有する。波長変換素子の製造方法は、内部に分極反転部が形成された複数の波長変換素子100を1列に並べたバー122を、複数整列配置する配置工程と、バー122より各波長変換素子100を切り離す切断予定線に対して切り欠き部101を形成する切り欠き部形成工程と、切り欠き部101が形成された切断予定線に沿って、バー122より各波長変換素子を切り離す切り離し工程と、を有する。切り欠き部形成工程では、第1の切断予定線グループにおいて幅広の切り込みを形成し、切り離し工程では、バー122を第2の切断予定線グループにおいて切断する。波長変換素子100は、レーザ光出力装置又は画像表示装置に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換素子、レーザ光出力装置、画像表示装置及び波長変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像表示装置の光源に半導体レーザを用いる技術が注目されている。この半導体レーザは、従来から画像表示装置に多用されてきた水銀ランプに比較して、色再現性がよい点、瞬時点灯が可能である点、長寿命である点、高効率で消費電力を低減できる点、並びに小型化が容易である点など、種々の利点を有している。
【0003】
このような画像表示装置では、光の3原色である赤、緑、青のレーザ光が必要とされる。しかしながら、緑色レーザ光を直接出力する半導体レーザに高出力のものがない。このため、画像表示装置に用いられるレーザ光源装置において、半導体レーザから励起用レーザ光を出力させ、この励起用レーザ光で固体レーザ素子を励起させて赤外レーザ光を出力させ、この赤外レーザ光の波長を「波長変換素子」で変換して緑色レーザ光を出力するようにした技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
この波長変換素子は、略直方体の形状に加工され、対向する一対の面がレーザ光の入射面及び出射面とされる。入射面及び出射面には、波長に応じてレーザ光を透過又は反射する機能(つまり、選択的透過性及び選択的反射性)を有する膜が形成される。但し、入射面に形成される膜と出射面に形成される膜とは、透過又は反射するレーザ光の波長が異なる。すなわち、入射面に形成される膜と出射面に形成される膜とは、光学特性が異なる。
【0005】
従って、波長変換素子をレーザ光源装置に組み付ける際には、固体レーザ素子のレーザ光の出力側に波長変換素子の入射面が向くように、波長変換素子を適切な方向に配置する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−16833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記した通り、波長変換素子の入射面に形成される膜と出射面に形成される膜とは、光学特性の相違に起因して反射光及び透過光の波長が異なるので、見た目に微妙な違いが生じる。
【0008】
しかしながら、レーザ光源装置に組み付けられる波長変換素子は一辺の長さが高々1〜3ミリ程度に加工されているため、見た目の違いに基づいて波長変換素子を適切な方向に設置することは難しい。すなわち、この波長変換素子の分極反転方向は、通常の組立作業者が肉眼で即座に判別できるものではない。
【0009】
また、分極反転部を形成する際に用いた電極は、その後除去される。このため、電極を目印にした分極反転方向による波長変換素子の設置も困難である。
【0010】
また、波長変換素子の製造工程の最終段には剪断工程及び研磨工程などで生じた塵を洗浄する工程が設けられており、この洗浄工程において波長変換素子はランダムな方向を向いてしまう。このため、波長変換素子を一定の方向に揃えた状態にすることが困難である。
【0011】
このような波長変換素子の設置困難性は、設置方向の間違いを誘発させる要因となり、レーザ光源装置の量産を著しく妨げる原因となっている。
【0012】
本発明の目的は、簡単に且つ高精度に適切な方向に設置できる波長変換素子、レーザ光出力装置、画像表示装置及び波長変換素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の波長変換素子は、略直方体の形状を有し、入射面から第1のレーザ光を入射し第2のレーザ光を前記入射面と対向する出射面から出射し、前記入射面から前記出射面への方向に、分極反転領域と非分極反転領域とを交互に繰り返し有する、波長変換素子であって、前記入射面及び前記出射面のうちのいずれかの一端部に切り欠き部を有する構成を採る。
【0014】
本発明のレーザ光出力装置は、上記した波長変換素子と、前記第1のレーザ光を集光し、集光された前記第1のレーザ光を前記入射面へ入射する集光部と、を具備し、前記切り欠き部は、前記入射面の一端部に設けられる構成を採る。
【0015】
本発明のレーザ光出力装置は、上記波長変換素子と、前記波長変換素子を保持する保持部と、を有し、前記保持部は、前記入射面及び前記出射面のうち前記切り欠き部が設けられていない面と接し且つ前記切り欠き部が設けられている面と接せずに、前記波長変換素子を保持する構成を採る。
【0016】
本発明の画像表示装置は、上記したレーザ光出力装置を具備する。
【0017】
本発明の波長変換素子の製造方法は、略直方体の形状を有し、入射面から第1のレーザ光を入射し第2のレーザ光を前記入射面と対向する出射面から出射し、前記入射面から前記出射面への方向に、分極反転領域と非分極反転領域とを交互に繰り返し有する、波長変換素子の製造方法であって、内部に分極反転部が形成された複数の波長変換素子を1列に並べた波長変換素子列を、複数整列配置する配置工程と、前記波長変換素子列より各波長変換素子を切り離す切断予定位置に対して切り欠き部を形成する切り欠き部形成工程と、前記切り欠き部が形成された切断予定位置に沿って、前記波長変換素子列より各波長変換素子を切り離す切り離し工程と、を有する。
【0018】
本発明の波長変換素子の製造方法は、略直方体の形状を有し、入射面から第1のレーザ光を入射し第2のレーザ光を前記入射面と対向する出射面から出射し、前記入射面から前記出射面への第1の方向に、分極反転領域と非分極反転領域とを交互に繰り返し有する、波長変換素子の製造方法であって、短手方向に前記分極反転領域と前記非分極反転領域とを交互に繰り返し有する棒状帯に対して、前記第1の方向と略直角を成す2つの面の内の一方の面の上に設定される第1の切断予定位置グループにおいて、幅広の切り込みを形成する切り込み形成ステップと、前記棒状帯を第2の切断予定位置グループにおいて切断することにより、複数の波長変換素子を形成する切断ステップと、を具備し、前記第2の切断予定位置グループは、前記第1の切断予定位置グループを含み、前記第1の切断予定位置グループ及び前記第2の切断予定位置グループを構成する複数の切断予定位置は、前記分極反転領域の深さ方向と略平行に設定され、前記第1の切断予定位置グループは、前記第2の切断予定位置グループを構成する複数の切断予定位置の内、一つ置きに設定された切断予定位置群から構成される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡単に且つ高精度に適切な方向に容易に設置することができる波長変換素子、レーザ光出力装置、画像表示装置及び波長変換素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態に係る波長変換素子の斜視図
【図2】波長変換素子の製造工程を示すフロー図
【図3】波長変換素子の製造工程を示す模式図
【図4】波長変換素子の製造工程の切り欠き加工を説明する模式図
【図5】図2の製造工程によって得られる切り欠きパターンの説明に供する図
【図6】図2の製造工程によって得られる切り欠きパターンの説明に供する図
【図7】波長変換素子の実施例に係る画像表示装置の概略構成図
【図8】緑色レーザ光源装置におけるレーザ光の状況を示す模式図
【図9】緑色レーザ光源装置の斜視図
【図10】緑色レーザ光源装置の断面図
【図11】波長変換素子ホルダの分解斜視図
【図12】緑色レーザ光源装置を一部分解して示す斜視図
【図13】波長変換素子ホルダにおける波長変換素子の固定構造を示す斜視図
【図14】接着剤による波長変換素子の付勢状況を模式的に示す断面図
【図15】変形例に係る波長変換素子の製造工程を示す模式図
【図16】図15の製造工程によって得られる切り欠きパターンの説明に供する図
【図17】図15の製造工程によって得られる切り欠きパターンの説明に供する図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
[波長変換素子の構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る波長変換装置の構成を示す斜視図である。
【0023】
図1に示すように、波長変換素子100は、略直方体の形状を有し、いわゆるSHG(Second Harmonics Generation)素子である。波長変換素子100は、強誘電体結晶に分極反転領域111と非分極反転領域112とが交互に形成された、周期的な「分極反転構造」を備える。非線形光学効果を得るには、複屈折率を有する非線形光学結晶を使用する必要があり、LiNbO(ニオブ酸リチウム:PPLN)などの強誘電体非線形結晶を周期的に分極反転させ作製されている。
【0024】
波長変換素子100では、分極反転周期方向(分極反転領域111の配列方向)に基本波長レーザ光が入射される。すなわち、図1の入射面100aに基本波長レーザ光が入射される。これにより、擬似位相整合による入射光の第2次高調波発生で2倍の周波数、すなわち1/2の波長のレーザ光を得ることができる。波長変換素子100によって得られた緑色レーザ光が出射面100bから出力される。
【0025】
また、本実施の形態の波長変換素子100は、入射面100aの一端部に、切り欠き部101を有することを特徴とする。すなわち、基本波長レーザ光は、波長変換素子100の入射面100aの略中心部に入射されるので、切り欠き部101は、レーザ光の進行に影響を及ぼさない位置に設けられている。また、切り欠き部101は、分極反転領域の深さ方向に略平行に設けられる。
【0026】
なお、図1では、説明の便宜上、波長変換素子100の側面100c,100dに周期電極113及び対向電極114を図示したが、この周期電極113及び対向電極114は、後述する波長変換素子列(バー)122(図3参照)の段階でエッチングにより削除される。
【0027】
[波長変換素子の製造工程]
図2は、波長変換素子100の製造工程を示すフロー図である。
【0028】
ステップS1において、強誘電体結晶からなるウエハ120(図3参照)を洗浄する。
【0029】
ステップS2において、ウエハ120に電極薄膜を積層する。洗浄したウエハ120の表裏面に、スパッタ装置により電極用金属材料を成膜する。金属膜は、アルミニウム膜、クロム膜、タンタル膜、チタン膜など基板との密着性が確保できれば、いずれでも構わない。
【0030】
ステップS3において、フォトリソグラフィによりパターンニングする。コーター・デベロッパ装置により金属膜を成膜したMgLN基板にフォトレジストを塗布し、マスクパターンに従って感光させフォトリソグラフィによるレジストパターニングを行う。このレジストパターニングにより、分極反転パターンに従った周期電極を形成するためのレジストパターンが形成される。
【0031】
ステップS4において、エッチングにより周期電極と対向電極の電極パターンを形成する。パターニングしたレジストをマスクにして金属膜をエッチングし、電界印加用の電極パターンを形成する。
【0032】
ステップS5において、電極パターンが形成されたウエハ120からスタック121(後述する図3参照)を切り出す。
【0033】
ステップS6において、スタック121に対して、周期電極113と対向電極114を用いて、単分極した強誘電体結晶に分極方向と逆方向にパルス電界印加を行う。パルス電界の印加により、周期電極113に対応する部分の分極方向が反転し、分極反転領域111が周期電極113から対向電極114に向けて楔形状に形成される。
【0034】
ステップS7において、エッチングにより分極反転処理に用いた周期電極113及び対向電極114を除去する。
【0035】
ステップS8において、分極反転構造が形成されたスタック121が適当な大きさに切断され、短冊状のバー122(図3参照)が形成される。
【0036】
ステップS9において、波長変換素子100の入射面100a及び出射面100bとなるバー122の端面を光学研磨する。
【0037】
ステップS10において、入射面100a及び出射面100bのそれぞれに、誘電体多層膜(つまり、光学膜)を形成する。ここで、入射面100aに形成される第1の光学膜と、出射面100bに形成される第2の光学膜とでは、光反射特性及び光透過特性が異なる。
【0038】
ステップS11において、誘電体多層膜が形成されたバー122に対して、切り欠きを形成する加工処理を施す。
【0039】
本実施の形態は、バー122に対して、入射面及び出射面のうちのいずれかの一端部に切り欠き部を形成する切り欠き加工を有することが特徴である。上記切り欠き加工の詳細については、図3及び図4により後述する。
【0040】
ステップS12において、バー122から1つの波長変換素子100となるチップを切り出す。
【0041】
ステップS13において、切り出されたチップを洗浄し、波長変換素子100が完成する。
【0042】
図3は、波長変換素子100の製造工程を示す模式図である。
【0043】
まず、図3(a)に示すように、強誘電体結晶からなるウエハ120に電極薄膜を積層する。次いで、フォトリソグラフィ及びエッチングにより周期電極と対向電極の電極パターンを形成する。
【0044】
図3(b)に示すように、電極パターンが形成されたウエハ120からスタック121を切り出し、図3(c)に示すように、適当な大きさに切断する。これにより得られた短冊状のバー122に対して、電極を用いて電圧を印加する分極反転処理を実施して、バー122に分極反転構造を形成する。また、波長変換素子100の入射面100a及び出射面100bとなるバー122の端面123,124を光学研磨する。このように比較的大きな寸法であるバー122の段階で光学研磨を行うため、バー122を確実に位置決めして光学研磨を行うことができ、これにより入射面100a及び出射面100bの平面度及び平行度を高精度に確保することができる。
【0045】
図3(d)に示すように、バー122から1つの波長変換素子100となるチップを切り出す。
【0046】
図4は、波長変換素子100の製造工程の切り欠き加工を説明する模式図であり、図3(c)の切断工程の詳細を示す。図4(a)は、周期電極113側から見たバー122の上面図、図4(b)は、その断面図である。図4(c)は、入射面で整列させた各バー122の上面図、図4(d)は、その断面図である。
【0047】
図4(a)に示すように、分極反転領域111と非分極反転領域112との繰り返し方向と略直角を成す2つの面の内の一方の面の上に設定される第1の切断予定線グループ(つまり、第1の切断予定位置グループ)において、切り込み102を形成する。第1の切断予定線グループは、図4(a)(c)では、一点鎖線によって表された切断予定線群(つまり、切断予定位置群)から構成される。この切り込み102は、第1の切断予定線グループの各切断予定線を含む領域を切り欠くことにより形成される。
【0048】
切り込み102は、チップ切り出し後に、切り欠き部101として残存するように、幅広の溝形状に形成される。例えば、切り込み102は、幅が0.3〜0.7ミリメートルであり、深さが0.15〜0.35ミリメートルである。
【0049】
また、図4(c)(d)に示すように、切り欠き部101形成工程は、複数のバー122に対して同時に実行してもよい。この場合には、図4(c)(d)に示すように、入射面100aとなるバー122の面を上にして(つまり、入射面100aとなるバー122の面を加工面又は切り離し開始面として)複数のバー122を平行に配置し、図4の紙面上から処理を実行すればよい。
【0050】
前記図3(d)に戻って、切り込み102(図4(a)参照)が形成されたバー122から1つの波長変換素子100となるチップを切り出す。
【0051】
具体的には、図4(a)(c)に示すように、バー122を第2の切断予定線グループにおいて切断することにより、複数の波長変換素子を形成する。ここで、第2の切断予定線グループは、第1の切断予定線グループを含んでいる。また、第1の切断予定線グループ及び第2の切断予定線グループを構成する複数の切断予定線は、分極反転領域の深さ方向と平行に設定される。また、第1の切断予定線グループは、第2の切断予定線グループを構成する複数の切断予定線の内、一つ置きに設定された切断予定線群から構成される。
【0052】
波長変換素子の切り出しには、例えば、0.1ミリメートルの刃が用いられる。こうして切り出された波長変換素子100においては、分極反転領域の深さ方向から見た場合に切り欠き部101を規定する2辺の長さは、それぞれ0.15〜0.35ミリメートルとなる。
【0053】
以上の工程により、図5及び図6に示される、2種類の波長変換素子100が得られる。図5に示される波長変換素子100と図6に示される波長変換素子100とは、切り欠き部101を上にした場合の、分極反転領域の深浅方向が逆になっている。
【0054】
ここで、分極反転領域111は、深さ方向に沿って厚さが次第に小さくなる楔形状をなし、入射するレーザ光に対して、分極反転領域111の深さ方向に波長変換素子100を移動させることで、レーザ光の光路上に位置する分極反転領域111と非分極反転領域112との割合が変化し、これに応じて波長変換効率が変化する。そこで、波長変換効率が最大となる、すなわちレーザ光の出力が最大となるように、レーザ光の光軸に対する波長変換素子100の位置が調整される。
【0055】
[波長変換素子の実施例]
図7は、波長変換素子100を備える画像表示装置1の概略図である。画像表示装置1は、所要の画像をスクリーンに投影表示するものであり、緑色レーザ光を出力する緑色レーザ光源装置2と、赤色レーザ光を出力する赤色レーザ光源装置3と、青色レーザ光を出力する青色レーザ光源装置4と、映像信号に応じて各レーザ光源装置2〜4からのレーザ光の変調を行う液晶反射型の空間光変調器5と、各レーザ光源装置2〜4からのレーザ光を反射させて空間光変調器5に照射させるとともに空間光変調器5から出射された変調レーザ光を透過させる偏光ビームスプリッタ6と、各レーザ光源装置2〜4から出射されるレーザ光を偏光ビームスプリッタ6に導くリレー光学系7と、偏光ビームスプリッタ6を透過した変調レーザ光をスクリーンに投射する投射光学系8と、を備えている。
【0056】
画像表示装置1は、いわゆるフィールドシーケンシャル方式でカラー画像を表示するものであり、各レーザ光源装置2〜4から各色のレーザ光が時分割で順次出力され、各色のレーザ光による画像が視覚の残像効果によってカラー画像として認識される。
【0057】
リレー光学系7は、各レーザ光源装置2〜4から出射される各色のレーザ光を平行ビームに変換するコリメータレンズ11〜13と、コリメータレンズ11〜13を通過した各色のレーザ光を所要の方向に導く第1及び第2のダイクロイックミラー14,15と、ダイクロイックミラー14,15により導かれたレーザ光を拡散させる拡散板16と、拡散板16を通過したレーザ光を収束レーザに変換するフィールドレンズ17と、を備えている。
【0058】
投射光学系8からスクリーンSに向けてレーザ光が出射される側を前側とすると、青色レーザ光源装置4から青色レーザ光が後方に向けて出射され、この青色レーザ光の光軸に対して緑色レーザ光の光軸及び赤色レーザ光の光軸が互いに直交するように、緑色レーザ光源装置2及び赤色レーザ光源装置3から緑色レーザ光及び赤色レーザ光が出射され、この青色レーザ光、赤色レーザ光、及び緑色レーザ光が、2つのダイクロイックミラー14,15で同一の光路に導かれる。すなわち、青色レーザ光と緑色レーザ光が第1のダイクロイックミラー14で同一の光路に導かれ、青色レーザ光及び緑色レーザ光と赤色レーザ光が第2のダイクロイックミラー15で同一の光路に導かれる。
【0059】
第1及び第2のダイクロイックミラー14,15は、表面に所定の波長のレーザ光を透過及び反射させるための膜が形成されたものであり、第1のダイクロイックミラー14は、青色レーザ光を透過するとともに緑色レーザ光を反射させる。第2のダイクロイックミラー15は、赤色レーザ光を透過するとともに青色レーザ光及び緑色レーザ光を反射させる。
【0060】
これらの各光学部材は、筐体21に支持されている。この筐体21は、各レーザ光源装置2〜4で発生した熱を放熱する放熱体として機能し、アルミニウムや銅などの熱伝導性の高い材料で形成されている。
【0061】
緑色レーザ光源装置2は、側方に向けて突出した状態で筐体21に形成された取付部22に取り付けられている。この取付部22は、リレー光学系7の収容スペースの前方と側方にそれぞれ位置する前壁部23と側壁部24とが交わる角部から側壁部24に直交する向きに突出した状態で設けられている。赤色レーザ光源装置3は、ホルダ25に保持された状態で側壁部24の外面側に取り付けられている。青色レーザ光源装置4は、ホルダ26に保持された状態で前壁部23の外面側に取り付けられている。
【0062】
赤色レーザ光源装置3及び青色レーザ光源装置4は、いわゆるCANパッケージで構成され、レーザ光を出力するレーザチップが、ステムに支持された状態で缶状の外装部の中心軸上に光軸が位置するように配置されたものであり、外装部の開口に設けられたガラス窓からレーザ光が出射される。この赤色レーザ光源装置3及び青色レーザ光源装置4は、ホルダ25,26に開設された取付孔27,28に圧入するなどしてホルダ25,26に対して固定される。青色レーザ光源装置4及び赤色レーザ光源装置3のレーザチップの発熱は、ホルダ25,26を介して筐体21に伝達されて放熱され、各ホルダ25,26は、アルミニウムや銅などの熱伝導率の高い材料で形成されている。
【0063】
緑色レーザ光源装置2は、励起用レーザ光を出力する半導体レーザ31と、半導体レーザ31から出力された励起用レーザ光を集光する集光レンズであるFAC(Fast-Axis Collimator)レンズ32及びロッドレンズ33と、励起用レーザ光により励起されて基本レーザ光(赤外レーザ光)を出力する固体レーザ素子34と、基本レーザ光の波長を変換して半波長レーザ光(緑色レーザ光)を出力する波長変換素子(光学素子)100と、固体レーザ素子34とともに共振器を構成する凹面ミラー36と、励起用レーザ光及び基本波長レーザ光の漏洩を阻止するガラスカバー37と、各部を支持する基台38と、各部を覆うカバー体39と、を備えている。
【0064】
この緑色レーザ光源装置2は、基台38を筐体21の取付部22に取り付けて固定され、緑色レーザ光源装置2と筐体21の側壁部24との間に所要の幅(例えば0.5mm以下)の間隙が形成される。これにより、緑色レーザ光源装置2の熱が赤色レーザ光源装置3に伝わりにくくなり、赤色レーザ光源装置3の昇温を抑制して、温度特性の悪い赤色レーザ光源装置3を安定的に動作させることができる。また、赤色レーザ光源装置3の所要の光軸調整代(例えば0.3mm程度)を確保するため、緑色レーザ光源装置2と赤色レーザ光源装置3との間に所要の幅(例えば0.3mm以上)の間隙が設けられている。
【0065】
図8は、緑色レーザ光源装置2におけるレーザ光の状況を示す模式図である。半導体レーザ31のレーザチップ41は、波長808nmの励起用レーザ光を出力する。FACレンズ32は、レーザ光のファースト軸(光軸方向に対して直交し且つ図の紙面に沿う方向)の拡がりを低減する。ロッドレンズ33は、レーザ光のスロー軸(図の紙面に対して直交する方向)の拡がりを低減する。
【0066】
固体レーザ素子34は、いわゆる固体レーザ結晶であり、ロッドレンズ33を通過した波長808nmの励起用レーザ光により励起されて波長1064nmの基本波長レーザ光(赤外レーザ光)を出力する。この固体レーザ素子34は、Y(イットリウム)VO4(バナデート)からなる無機光学活性物質(結晶)にNd(ネオジウム)をドーピングしたものであり、より具体的には、母材であるYVO4のYに蛍光を発する元素であるNd+3に置換してドーピングしたものである。
【0067】
固体レーザ素子34におけるロッドレンズ33に対向する側には、波長808nmの励起用レーザ光に対する反射防止と、波長1064nmの基本波長レーザ光及び波長532nmの半波長レーザ光に対する高反射の機能を有する膜42が形成されている。固体レーザ素子34における波長変換素子100に対向する側には、波長1064nmの基本波長レーザ光及び波長532nmの半波長レーザ光に対する反射防止の機能を有する膜43が形成されている。
【0068】
波長変換素子100は、固体レーザ素子34から出力される波長1064nmの基本波長レーザ光(赤外レーザ光)の波長を変換して波長532nmの半波長レーザ光(緑色レーザ光)を生成する。
【0069】
波長変換素子100における固体レーザ素子34に対向する側には、波長1064nmの基本波長レーザ光に対する反射防止と、波長532nmの半波長レーザ光に対する高反射の機能を有する膜44が形成されている。波長変換素子100における凹面ミラー36に対向する側には、波長1064nmの基本波長レーザ光及び波長532nmの半波長レーザ光に対する反射防止の機能を有する膜45が形成されている。また、波長変換素子100における固体レーザ素子34に対向する面(つまり、入射面100a)の一端部には、切り欠き部101が設けられている。
【0070】
凹面ミラー36は、波長変換素子100に対向する側に凹面を有し、この凹面には、波長1064nmの基本波長レーザ光に対する高反射と、波長532nmの半波長レーザ光に対する反射防止の機能を有する膜46が形成されている。これにより、固体レーザ素子34の膜42と凹面ミラー36の膜46との間で、波長1064nmの基本波長レーザ光が共振して増幅される。
【0071】
波長変換素子100では、固体レーザ素子34から入射した波長1064nmの基本波長レーザ光の一部が波長532nmの半波長レーザ光に変換され、変換されずに波長変換素子100を通過した波長1064nmの基本波長レーザ光は、凹面ミラー36で反射されて波長変換素子100に再度入射し、波長532nmの半波長レーザ光に変換される。この波長532nmの半波長レーザ光は、波長変換素子100の膜44で反射されて波長変換素子100から出射される。
【0072】
ここで、固体レーザ素子34から波長変換素子100に入射して波長変換素子100で波長変換されて波長変換素子100から出射されるレーザ光のビームB1と、凹面ミラー36で一旦反射されて波長変換素子100に入射して膜44で反射されて波長変換素子100から出射されるレーザ光のビームB2とが互いに重なり合う状態では、波長532nmの半波長レーザ光と波長1064nmの基本波長レーザ光とが干渉を起こして出力が低下する。
【0073】
そこでここでは、波長変換素子100を光軸方向に対して傾斜させて、入射面100a及び出射面100bでの屈折作用により、レーザ光のビームB1、B2が互いに重なり合わないようにして、波長532nmの半波長レーザ光と波長1064nmの基本波長レーザ光との干渉を防ぐようにしており、これにより出力低下を避けることができる。
【0074】
なお、図7に示したガラスカバー37には、波長808nmの励起用レーザ光及び波長1064nmの基本波長レーザ光が外部に漏洩することを防止するため、これらのレーザ光を透過しない膜が形成されている。
【0075】
図9は、緑色レーザ光源装置2の斜視図である。図10は、緑色レーザ光源装置2の断面図である。
【0076】
図9に示すように、半導体レーザ31、FACレンズ32、ロッドレンズ33、固体レーザ素子34、波長変換素子100、及び凹面ミラー36は、基台38に一体的に支持されている。基台38の底面51は光軸方向に対して平行となる。なおここでは、基台38の底面51に対して直交する方向を高さ方向とし、この高さ方向及び光軸方向に対して直交する方向を幅方向とする。また、基台38の底面51に近接する側を下、底面51と相反する側を上として説明するが、これは実際の装置の上下方向と必ずしも一致するものではない。
【0077】
半導体レーザ31は、レーザ光を出力するレーザチップ41をマウント部材52に実装したものである。レーザチップ41は、光軸方向に長い帯板状をなし、光出射面をFACレンズ32側に向けた状態で、板状をなすマウント部材52の一面の幅方向の略中心位置に固着されている。この半導体レーザ31は、取付部材53を介して基台38に固定される。この取付部材53は、銅あるいはアルミ等の熱伝導性の高い金属で形成されており、これによりレーザチップ41の発熱が基台38に伝達されて放熱することができる。
【0078】
FACレンズ32及びロッドレンズ33は、集光レンズホルダ54に保持される。この集光レンズホルダ54は、基台38に一体的に形成された支持部55に支持される。集光レンズホルダ54は、光軸方向に移動可能に支持部55に連結されており、これにより集光レンズホルダ54、すなわちFACレンズ32及びロッドレンズ33の位置が、光軸方向に調整される。FACレンズ32及びロッドレンズ33は位置調整作業の前に集光レンズホルダ54に接着剤で固定され、位置調整作業の後に、集光レンズホルダ54と支持部55とが接着剤で互いに固定される。
【0079】
固体レーザ素子34は、基台38に一体的に形成された固体レーザ素子支持部56に支持される。固体レーザ素子支持部56は、図10に示すように、基台38に隔壁状に立設され、固体レーザ素子34を保持する固体レーザ素子保持部57が側方に突出するように設けられている。固体レーザ素子支持部56には、ロッドレンズ33から出射されたレーザ光を固体レーザ素子34に導く光路孔63が形成されている。固体レーザ素子34と固体レーザ素子保持部57とは接着剤で互いに固定される。
【0080】
再び図9に戻って、波長変換素子100は、波長変換素子ホルダ58に保持される。この波長変換素子ホルダ58は、波長変換素子100の幅方向の位置及び光軸方向に対する傾斜角度を調整することができるように、基台38に対して、幅方向に移動可能に、且つ光軸方向に対して略直交する軸周りに回動可能に設けられている。この波長変換素子ホルダ58については後に詳しく説明する。波長変換素子100は位置調整作業の前に波長変換素子ホルダ58に接着剤で固定され、位置調整作業の後に、波長変換素子ホルダ58と基台38とが接着剤で互いに固定される。
【0081】
凹面ミラー36は、基台38に一体的に形成された凹面ミラー支持部61に支持される。
【0082】
図10に示すように、基台38には、凹面ミラー支持部61の上端と固体レーザ素子支持部56の上端とを相互に連結するように架設部64が設けられており、この架設部64には、後に詳述する調整治具が挿入される開放部65が形成されている。また、凹面ミラー36の下側にも調整治具が挿入される開放部66が形成されている(開放部65,66の構造については、図12も併せて参照されたい)。
【0083】
なお、前記の各部材、例えば波長変換素子ホルダ58と基台38との固定に用いる接着剤は、例えばUV硬化型接着剤が好適である。
【0084】
図11は、波長変換素子ホルダ58の分解斜視図である。図12は、緑色レーザ光源装置2を一部分解して示す斜視図である。
【0085】
図11に示すように、波長変換素子ホルダ58は、ホルダ本体81と、これとは別体に形成された1対の狭持部材82とで構成される。ホルダ本体81には、波長変換素子100から出射されたレーザ光を凹面ミラー36に導く光路孔83が形成されている。この光路孔83の出射側は漏斗状に広がっている(図10を併せて参照されたい)。
【0086】
前記のように、波長変換素子100では、入射面100a及び出射面100bのみ、精密な研磨により高い精度で平面度及び平行度が確保されている。このため、精度が確保されている出射面100bを、光路孔83が開口する取付基準面84に当接させて、波長変換素子100の位置決めが行われる。ここで、切り欠き部101は、入射面100aの一端部に設けられている。すなわち、波長変換素子ホルダ58は、切り欠き部101が設けられていない出射面100bと接し且つ切り欠き部101が設けられている入射面100aと接せずに、波長変換素子100を保持する。こうすることにより、切り欠き部101を目印に用いることができるので、入出力の方向を間違えることなく、波長変換素子100を適切な方向に設置できる。また、切り欠き部101を目印に用いることにより、波長変換素子100の設置方向の間違えをチェックすることができる。
【0087】
狭持部材82は、波長変換素子100における分極反転領域111の深さ方向に相対する2つの側面100c,100dに当接し、波長変換素子100を左右から挟み込むように取り付けられる。ホルダ本体81には、狭持部材82が嵌合するガイド溝85が形成されており、このガイド溝85により狭持部材82の高さ方向の位置が規定される。ホルダ本体81と狭持部材82とは接着剤で固定され、狭持部材82には接着剤が装填される孔86が形成されている。
【0088】
狭持部材82において、波長変換素子100の側面100c,100dに当接する当接面87には導電性接着剤が塗布される。また、ホルダ本体81及び狭持部材82は金属材料などの導電性材料からなる。これにより、波長変換素子100の側面100c,100d同士が電気的に接続され、側面100c,100dを同一の電位に維持して、チャージアップによる屈折率の変化を抑えることができる。
【0089】
ホルダ本体81には、取付基準面84の上下に突出部88が形成され、その中心には、接着剤が装填される凹部89が形成されている。これにより、波長変換素子100の頂面100e及び底面100fに接着剤が付着し、この接着剤を介して波長変換素子100とホルダ本体81とが互いに固定される。
【0090】
なお、ここでは、ホルダ本体81と別体に形成された1対の狭持部材82で波長変換素子100を左右から挟み込むものとしたが、波長変換素子100を左右から挟み込む狭持部を波長変換素子ホルダに予め一体的に形成した構成も可能である。この場合、狭持部において波長変換素子100の側面100c,100dに当接する面に、導電性接着剤が装填される凹部を形成するとよい。
【0091】
図10に示したように、基台38には、光軸方向に対して直交する平面をなす第1の基準面91,92が設けられている。この第1の基準面91,92は、基台38に一体的に形成された上下のホルダ支持部59,60の凹面ミラー36側に形成されている。上側のホルダ支持部59は、固体レーザ素子支持部56と凹面ミラー支持部61とを相互に連結する架設部64に設けられている。
【0092】
一方、波長変換素子ホルダ58には、第1の基準面91,92に当接する1対の軸部93,94が設けられている。この1対の軸部93,94は、同一径の円柱状をなし、互いに同軸的に配置され、ホルダ本体81に互いに相反する向きに突出した状態で設けられている(図11を併せて参照されたい)。第1の基準面91,92は、光軸方向に対して直交する同一の平面上に配置されており、軸部93,94が第1の基準面91,92で規制されることで、波長変換素子ホルダ58の光軸方向の位置が規定される。
【0093】
軸部93,94は、第1の基準面91,92に沿って幅方向に摺動させることができ、これにより波長変換素子ホルダ58の光軸方向の位置を変化させない状態で、波長変換素子ホルダ58を基台38に対して幅方向に(分極反転領域の深さ方向)に移動させることができる。また、第1の基準面91,92に当接した状態で軸部93,94を回動させることができ、これにより波長変換素子ホルダ58を光軸方向に対して略直交する軸周りに回動させることができる。
【0094】
波長変換素子100は、波長変換素子ホルダ58において光路孔83が開口する取付基準面84で位置決めされ、この取付基準面84は軸部93,94の円筒面を形成する母線と平行に配置されている。固体レーザ素子34は、光路孔63が開口する取付基準面95に入射面34aを当接させて位置決めされる。したがって、波長変換素子ホルダ58において波長変換素子100の取付基準面84と軸部93,94の中心線との平行度を管理するとともに、基台38において固体レーザ素子34の取付基準面95と第1の基準面91,92との平行度を管理することで、波長変換素子100の入射面100a及び出射面100bと、固体レーザ素子34の入射面34a及び出射面34bとの平行度を確保することができる。
【0095】
下側のホルダ支持部60には、第1の基準面91,92に対して直交する平面をなす第2の基準面96が形成されている。この第2の基準面96は、光軸方向及び波長変換素子100の分極反転領域の深さ方向に対して平行に配置されている。
【0096】
一方、波長変換素子ホルダ58には、第2の基準面96に当接する脚部97が設けられている。この脚部97は、板状部98と、その下面に形成された2つのボス99及び段部200で構成されている(図11参照)。板状部98は、波長変換素子100の取付基準面84が形成された基部201からL字形の断面形状をなすように延出され、波長変換素子100及び固体レーザ素子34の下側に配置される。これにより、波長変換素子100及び固体レーザ素子34の下側のスペースを有効利用して、装置の小型化を図ることができる。下側の軸部94は、段部200から突出した状態で設けられている。
【0097】
2つのボス99は、分極反転領域の深さ方向に離間し、段部200は、2つのボス99に対して、分極反転領域の深さ方向の中間に位置するとともに光軸方向にずれた位置に配置され、2つのボス99及び段部200の端面は、同一の高さに設定されている。これにより、波長変換素子ホルダ58の軸部93,94が、高さ方向、すなわち光軸方向及び分極反転領域の深さ方向に対して直交する正規の方向から傾くことを避けることができる。
【0098】
波長変換素子ホルダ58の脚部97を第2の基準面96に当接した状態に保持するばね202が設けられている。このばね202は、コ字形状の断面をなす板ばねで構成され、波長変換素子ホルダ58の脚部97と第2の基準面96を備えたホルダ支持部60とを挟み込む態様で取り付けられている。これにより、波長変換素子ホルダ58を傾かせることなく幅方向に移動させることができ、位置角度調整作業が容易になる。ばね202の付勢力は、位置角度調整時の仮止めに用いられ、位置角度調整作業後に接着剤で波長変換素子ホルダ58とホルダ支持部60とが固定される。
【0099】
図12に示すように、ばね202においてホルダ支持部60の下面側に当接する部分には、ホルダ支持部60の下面に形成された突起203に嵌り合う切り欠き204が形成されており、これによりばね202がホルダ支持部60に対して光軸方向及び幅方向に移動することが規制される。ばね202において波長変換素子ホルダ58の脚部97の上面側に当接する部分には、球面状の当接部205が形成されており、これによりホルダ支持部60に固定されたばね202に対して、波長変換素子ホルダ58の脚部97を円滑に摺動させることができる。
【0100】
図13は、波長変換素子ホルダ58における波長変換素子100の固定構造を示す斜視図である。図14は、接着剤206による波長変換素子100の付勢状況を模式的に示す断面図である。
【0101】
図13に示すように、波長変換素子100は、凹部89内に装填される接着剤206で波長変換素子ホルダ58に固定される。凹部89は、波長変換素子100側と、手前側、すなわち入射面100a側とが開放されており、波長変換素子100を入射面100a側から押圧して出射面100bを取付基準面84に密着させた状態で、凹部89内に接着剤206を装填して、その接着剤206を硬化させると、接着剤206を介して波長変換素子100とホルダ本体81とが互いに固定される。接着剤206を凹部89内に装填するにはディスペンサを用いるとよく、また接着剤206にはUV硬化型のものを用いるとよい。
【0102】
図14に示すように、接着剤206は、波長変換素子100において出射面100bに隣接する頂面100e及び底面100fに付着する。また接着剤206は、波長変換素子ホルダ58において取付基準面84に隣接してこれに略平行に形成された凹部89の底面207とこれに略直交する側面208とに付着する。
【0103】
このように波長変換素子100の頂面100e及び底面100fと、取付基準面84に略平行となる底面207とで形成される角隅部に接着剤206が付着すると、波長変換素子100の頂面100e及び底面100fにおいて接着剤206が接触する接着面では、接着剤206の硬化に伴う収縮力により、波長変換素子100の出射面100bを取付基準面84に押し付ける向きの付勢力Fが発生し、波長変換素子100の出射面100bが取付基準面84に緊密に当接した状態に保持される。これにより波長変換素子100の取付精度を高めることができる。
【0104】
特にここでは、接着剤206が、波長変換素子100における互いに相反する頂面100e及び底面100fに付着するようにしたため、接着剤206の硬化に伴う収縮力が、波長変換素子100の互いに相反する頂面100e及び底面100fに沿ってバランスよく作用するため、波長変換素子ホルダ58に対する波長変換素子100の取付精度をより一層高めることができる。
【0105】
さらに、接着剤206が、波長変換素子100における回動軸方向に相対する頂面100e及び底面100fに付着するようにしたため、硬化した接着剤206により波長変換素子100が回動軸方向から支持される。これにより、図13の矢印Cで示す方向での波長変換素子100の取付角度を高精度に確保することができる。
【0106】
さらに、図13に示したように、取付基準面84に当接する出射面100bは略長方形状をなし、その長辺方向が、軸部93,94の中心線(回動軸)に平行となるように波長変換素子100が配置されている。このため、出射面100bの短辺を中心にして傾く方向には波長変換素子100が倒れにくくなる。これにより、図13の矢印Cで示す方向での波長変換素子100の取付角度を高精度に確保することができる。
【0107】
このように図13の矢印Cで示す方向、すなわち取付基準面84に平行で且つ回動軸方向に対して直交する方向の軸周りに傾く方向での波長変換素子100の取付角度を高精度に確保することができるため、この方向での波長変換素子100の傾斜角度の調整が不要となる。
【0108】
一方、図13の矢印Bで示す方向、すなわち出射面100bの長辺を中心にして傾く方向には波長変換素子100が倒れやすくなるが、この矢印Bで示す方向は、波長変換素子ホルダ58の角度調整が行われるため、波長変換素子ホルダ58に対する波長変換素子100の取付角度が多少変化しても、その取付角度のずれは波長変換素子ホルダ58の角度調整で解消されるため、特に支障はない。
【0109】
なおここでは、図14に示したように、凹部89において接着剤206が付着する底面207を、波長変換素子100の頂面100e及び底面100fに対して略直交する角度に配置する、すなわち接着剤206が付着する底面207と取付基準面84とを略平行に配置することで、接着剤206の硬化に伴う収縮力による付勢力Fを大きくことができるが、図示する例のように、接着剤206が付着する底面207と取付基準面84とが同一の平面上に位置する構成に限定されるものではなく、接着剤が付着する面と取付基準面との間に段差を有する構成も可能である。
【0110】
以上詳細に説明したように、本実施の形態の波長変換素子100は、入射面100aの一端部に、切り欠き部101を有する。
【0111】
また、本実施の形態の波長変換素子の製造方法は、内部に分極反転部が形成された複数の波長変換素子100を1列に並べたバー122(波長変換素子列)を、複数整列配置する配置工程と、バー122より各波長変換素子100を切り離す切断予定線に対して切り欠き部101を形成する切り欠き部形成工程と、切り欠き部101が形成された切断予定線に沿って、バー122より各波長変換素子を切り離す切り離し工程と、を有する。例えば、図4に示すように、切り欠き部形成工程では、第1の切断予定線グループにおいて幅広の切り込みを形成し、切り離し工程では、バー122を第2の切断予定線グループにおいて切断する。
【0112】
こうすることにより、切り欠き部101を目印に用いることができるので、入出力の方向を間違えることなく、波長変換素子100を適切な方向に設置することができる。波長変換素子に詳しくない者であっても波長変換素子の分極反転方向が判別可能となり、波長変換素子を正しい方向に容易に取り付けることができる。正しい方向に取り付けられた波長変換素子の変換効率は高い。また、正しい方向に容易に取り付けることができるので、量産性を向上させることができる。
【0113】
本実施の形態では、切り欠き部101を、入射面の一端部に形成するようにしている。入射面は出射面よりもビーム径が小さいので、波長変換効率を落とさずに済む効果がある。
【0114】
なお、上記した実施の形態は以下のような変形を加えてもよい。
【0115】
(変形例1)
入射面100aの代わりに、出射面100bの一端部に切り欠き部101を設けてもよい。但し、入射面100aの固体レーザ素子34に対向する側(つまり、波長変換素子100の前段)には、集光レンズであるFACレンズ32及びロッドレンズ33が設けられている。このため、入射面100aに入射されるレーザ光のビーム径は、出射面100bから出射されるレーザ光のビーム径よりも小さい。従って、切り欠き部101を出射面100bに設けるよりも入射面100aに設けた方が波長変換効率の点で有利である。
【0116】
この場合、上記した波長変換素子100の製造工程のステップS11及びステップS12においては、次のような変更が施される。すなわち、出射面100bとなるバー122の面を上にして(つまり、出射面100bとなるバー122の面を加工面又は切り離し開始面として)複数のバー122を平行に配置し、その面から処理を実行する。これにより、切り欠き部101は分極反転領域の深さ方向に平行に設けられる。
【0117】
(変形例2)
上記した実施の形態では、切り欠き部101は入射面100aの一端部に且つ分極反転領域の深さ方向と略平行に設けられたが、深さ方向と略直角の方向に設けられてもよい。
【0118】
この場合、上記した波長変換素子100の製造工程のステップS11及びステップS12においては、次のような変更が施される。すなわち、ステップS11において、図15に示すように、誘電体多層膜が形成されたバー122に対して、分極反転領域と非分極反転領域との繰り返し方向と略直角を成す2つの面の内の一方の面の一端部に、切り込み102を形成する。
【0119】
ステップS12において、バー122を、分極反転領域の深さ方向と略平行に(つまり、切り込み102の長手方向と略直角に)設定された切断予定線グループにおいて切断することにより、複数の波長変換素子を形成する。
【0120】
また、図15に示すように、ステップS11の加工処理及びステップS12の切り出し処理は、複数のバー122に対して同時に実行してもよい。この場合には、図15に示すように、入射面100aとなるバー122の面を上にして(つまり、入射面100aとなるバー122の面を加工面又は切り離し開始面として)複数のバー122を平行に詰めて配置し、図15の紙面上から、隣接する2つのバー122の境界部に対して、処理を実行すればよい。
【0121】
以上の工程により、図16及び図17に示される、2種類の波長変換素子100が得られる。図16に示される波長変換素子100と図17に示される波長変換素子100とは、切り欠き部101を縦にした場合の、分極反転領域の深浅方向が逆になっている。
【0122】
(変形例3)
切り欠き部101は出射面100bの一端部に且つ分極反転領域の深さ方向と略直角の方向に設けられてもよい。
【0123】
この場合、上記した波長変換素子100の製造工程のステップS11及びステップS12においては、次のような変更が施される。すなわち、ステップS11において、誘電体多層膜が形成されたバー122に対して、分極反転領域と非分極反転領域との繰り返し方向と略直角を成す2つの面の内の一方の面の一端部に、切り込み102を形成する。
【0124】
ステップS12において、バー122を、分極反転領域の深さ方向と略平行に(つまり、切り込み102の長手方向と略直角に)設定された切断予定線グループにおいて切断することにより、複数の波長変換素子を形成する。
【0125】
また、ステップS11の加工処理及びステップS12の切り出し処理は、複数のバー122に対して同時に実行してもよい。この場合には、出射面100bとなるバー122の面を上にして(つまり、出射面100bとなるバー122の面を加工面又は切り離し開始面として)複数のバー122を平行に詰めて配置し、隣接する2つのバー122の境界部に対して、処理を実行すればよい。
【0126】
なお、上記説明では、切り込み102の形状が直方体であるものとしたが、その形状はこれに限定されるものではなく、例えば、三角柱であってもよい。すなわち、波長変換素子100を分極反転領域の深さ方向から見た場合に切り欠き部101を規定する形状は、L字に限定されるものではなく、例えば、1つの線分であってもよい。
【0127】
以上のように、波長変換素子100は、要するに、入射面100a及び出射面100bのうちのいずれかの一端部に切り欠き部101を有していればよい。こうすることにより、切り欠き部101を目印に用いることができるので、入出力の方向を間違えることなく、波長変換素子100を適切な方向に設置できる。
【0128】
以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されることはない。
【0129】
上記実施の形態では、波長変換素子の製造方法及び波長変換素子という名称を用いたが、これは説明の便宜上であり、光機能素子の製造方法、光半導体素子等であってもよい。
【0130】
さらに、上記波長変換素子の製造方法を構成する各工程、例えば切り欠き工程の種類・方法などは前述した実施の形態に限られない。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の波長変換素子、レーザ光出力装置、画像表示装置及び波長変換素子の製造方法は、波長変換素子を簡単に且つ高精度に適切な方向に設置できる効果を有し、画像表示装置の光源に用いられるレーザ光源装置などとして有用である。
【符号の説明】
【0132】
1 画像表示装置
2 緑色レーザ光源装置
58 波長変換素子ホルダ(素子保持部)
71 分極反転領域
72 非分極反転領域
84 取付基準面
100 波長変換素子(光学素子)
100a 入射面
100b 出射面
101 切り欠き部
102 切り込み


【特許請求の範囲】
【請求項1】
略直方体の形状を有し、入射面から第1のレーザ光を入射し第2のレーザ光を前記入射面と対向する出射面から出射し、前記入射面から前記出射面への方向に、分極反転領域と非分極反転領域とを交互に繰り返し有する、波長変換素子であって、
前記入射面及び前記出射面のうちのいずれかの一端部に切り欠き部を有する、
波長変換素子。
【請求項2】
前記切り欠き部は、前記分極反転領域の深さ方向に平行である、
請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項3】
前記切り欠き部は、前記第1のレーザ光の光軸に対して直交する方向である、
請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項4】
前記入射面に設けられた第1の光学膜と、
前記出射面に設けられた第2の光学膜と、
を有し、
前記第1の光学膜と前記第2の光学膜とでは、光反射特性及び光透過特性が異なる、
請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の波長変換素子と、
前記第1のレーザ光を集光し、集光された前記第1のレーザ光を前記入射面へ入射する集光部と、
を具備し、
前記切り欠き部は、前記入射面の一端部に設けられる、
レーザ光出力装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の波長変換素子と、
前記波長変換素子を保持する保持部と、
を有し、
前記保持部は、前記入射面及び前記出射面のうち前記切り欠き部が設けられていない面と接し且つ前記切り欠き部が設けられている面と接せずに、前記波長変換素子を保持する、
レーザ光出力装置。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載のレーザ光出力装置を具備する画像表示装置。
【請求項8】
略直方体の形状を有し、入射面から第1のレーザ光を入射し第2のレーザ光を前記入射面と対向する出射面から出射し、前記入射面から前記出射面への方向に、分極反転領域と非分極反転領域とを交互に繰り返し有する、波長変換素子の製造方法であって、
内部に分極反転部が形成された複数の波長変換素子を1列に並べた波長変換素子列を、複数整列配置する配置工程と、
前記波長変換素子列より各波長変換素子を切り離す切断予定位置に対して切り欠き部を形成する切り欠き部形成工程と、
前記切り欠き部が形成された切断予定位置に沿って、前記波長変換素子列より各波長変換素子を切り離す切り離し工程と、
を有する波長変換素子の製造方法。
【請求項9】
前記配置工程では、前記波長変換素子の分極反転方向及び前記波長変換素子列の列方向と並行な面のうちのいずれか1つを上向きにして、前記波長変換素子列の列方向と直交する方向に前記波長変換素子列を複数並べて配置する、
請求項8に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項10】
前記切り離し工程では、前記波長変換素子の分極反転方向及び前記波長変換素子列の列方向と並行な面に対して前記前記波長変換素子列の列方向と直交する方向に切断して各波長変換素子を切り離す、
請求項8に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項11】
前記波長変換素子列において前記波長変換素子の分極反転方向及び前記波長変換素子列の列方向と並行な2つの面に対して、互いに異なる光反射/透過特性を有した反射膜をそれぞれ設ける反射膜形成工程を有し、
前記配置工程では、前記異なる光反射/透過特性を有する反射膜のうちの一方が設けられた面を上向きにして、前記波長変換素子列の列方向と直交する方向に前記波長変換素子列を複数並べて配置する、
請求項8に記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項12】
略直方体の形状を有し、入射面から第1のレーザ光を入射し第2のレーザ光を前記入射面と対向する出射面から出射し、前記入射面から前記出射面への第1の方向に、分極反転領域と非分極反転領域とを交互に繰り返し有する、波長変換素子の製造方法であって、
短手方向に前記分極反転領域と前記非分極反転領域とを交互に繰り返し有する棒状帯に対して、前記第1の方向と略直角を成す2つの面の内の一方の面の上に設定される第1の切断予定位置グループにおいて、幅広の切り込みを形成する切り込み形成ステップと、
前記棒状帯を第2の切断予定位置グループにおいて切断することにより、複数の波長変換素子を形成する切断ステップと、
を具備し、
前記第2の切断予定位置グループは、前記第1の切断予定位置グループを含み、
前記第1の切断予定位置グループ及び前記第2の切断予定位置グループを構成する複数の切断予定位置は、前記分極反転領域の深さ方向と略平行に設定され、
前記第1の切断予定位置グループは、前記第2の切断予定位置グループを構成する複数の切断予定位置の内、一つ置きに設定された切断予定位置群から構成される、
波長変換素子の製造方法。
【請求項13】
前記切り込み形成ステップの前段に、前記2つの面に第1の光学膜及び第2の光学膜をそれぞれ形成する光学膜形成ステップを具備し、
前記第1の光学膜と前記第2の光学膜とでは、光反射特性及び光透過特性が異なる、
請求項12に記載の波長変換素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図4】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−83767(P2013−83767A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223016(P2011−223016)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】