説明

流体噴射装置及び流体噴射方法

【課題】接続流路管を長く、または剛性が低い材料にしても強いパルス流を噴射できる流体噴射方法を実現する。
【解決手段】流体噴射装置1の流体噴射方法は、第1脈流発生部20と第2脈流発生部30と、第1脈流発生部20に流体を供給するポンプ10と、第1脈流発生部20と第2脈流発生部30とを接続する接続流路管4とが備えられ、第1脈流発生部20と第2脈流発生部30それぞれに備えられる圧電素子21,31に入力される駆動信号の周期が同じであって、第2脈流発生部30の駆動信号を第1脈流発生部20の駆動信号よりも、第1脈流発生部20と第2脈流発生部30との間の距離を圧力波が伝播するのに要する時間だけ位相を遅延させるよう制御する。このことにより、接続流路管を長く、または剛性が低い材料にしても強いパルス流を噴射できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の脈流発生部を直列に接続する流体噴射装置と、流体噴射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧力室の容積を容積変更手段により急激に変更して流体を脈流に変換し、この脈流を剛性を有する接続流路管内に流体の圧力波を伝播させ流体噴射開口部からパルス状に流体を高速噴射させる流体噴射装置というものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−82202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような特許文献1による流体噴射装置は、接続流路管が剛性を有しているために脈流発生部によって変換された脈流の圧力波を流体噴射開口部まで伝達しやすく、流体をパルス状に高速噴射させることができる。この流体噴射装置を生体組織の切除や切開を行う手術具として用いる場合、被切除対象物の場所や術式によっては接続流路管を長くしたり、剛性が低い材料にする方が好ましいことがある。
【0005】
しかしながら、接続流路管を長くしたり、剛性を低い材料にした場合、流体の脈流を流体噴射開口部まで伝達しにくくなり、流体をパルス状に高速噴射させることができなくなることが考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例に係る流体噴射装置は、圧力室と前記圧力室の容積を変更する容積変更手段とをそれぞれ有する複数の脈流発生部と、前記複数の脈流発生部のうち最も上流側の脈流発生部に流体を供給する流体供給手段と、前記複数の脈流発生部を互いに直列に接続する接続流路管と、各前記容積変更手段に入力される駆動信号の周期が同じであって、隣り合う前記脈流発生部のうち前記流体供給手段から遠い位置の前記容積変更手段の駆動信号が、前記流体供給手段に近い前記容積変更手段の駆動信号よりも二つの前記脈流発生部の距離を圧力波が伝播するのに要する時間だけ位相を遅延させるよう駆動信号を入力する駆動制御部と、が備えられていることを特徴とする。
【0008】
脈流発生部によって脈流に変換された流体は、接続流路管が長い場合や剛性が低い材料を用いた場合、接続流路管を伝播する間に圧力波が減衰してしまい、流体をパルス状に高速噴射することができない。そこで、本適用例では、接続流路管の流路に複数の脈流発生部を配設することで、最下流の脈流発生部まで確実に圧力波を伝播させることにより、接続流路管が長い場合や剛性が低い材料の場合であっても流体をパルス状に高速噴射させることができる。
【0009】
また、流体の圧力波が、流体供給手段に近い位置(上流側と表すことがある)の流体噴射装置から遠い位置(下流側と表すことがある)の脈流発生部まで伝播するのに時間を要するため、上流側と下流側の脈流発生部への流体供給のタイミングと流体吐出のタイミングがずれてしまう。
【0010】
そこで、本適用例では、下流側の容積変更手段の駆動信号を、隣り合う上流側の容積変更手段の駆動信号よりもそれらの間の距離を圧力波が伝播するのに要する時間だけ位相を遅延させるよう駆動制御部により制御している。従って、上流側の脈流発生部からの圧力波が下流側の脈流発生部に到達するタイミングと、下流側の脈流発生部が圧力波を発生するタイミングを合わせることにより、接続流路管が長い場合や剛性が低い材料の場合であっても流体を強いパルス流噴射させることができる。
【0011】
[適用例2]上記適用例に係る流体噴射装置は、前記複数の脈流発生部のうち、少なくとも前記流体供給手段から最も遠い位置にある脈流発生部の最大径が、前記接続流路管の外径とほぼ同じであることが好ましい。
【0012】
このようにすれば、最も下流側の脈流発生部を細管組織内や深く狭い部位に挿入して切開や切除を行うことができる。なお、複数の脈流発生部のうちの下流側に配設される多くの脈流発生部を接続流路管と同じ外径を有する形態にすれば、より長い細管組織や深く狭い術部の切除や切開を行うことができるという効果がある。
【0013】
なお、脈流発生部の最大径を接続流路管の外径とほぼ同じにするということは、脈流発生部を小型化することにほかならない。小型化により流体の脈動が小さくなる傾向があるが、上流側にも脈流発生部を設けることで、下流側の脈流発生部は小型化しても強いパルス流を噴射させることができる。
【0014】
[適用例3]上記適用例に係る流体噴射装置は、前記接続流路管の一部または全部が柔軟性を有していることが望ましい。
【0015】
このように、接続流路管が柔軟性を有していても複数の脈流発生部を配設することにより、上述した適用例1または適用例2で説明した理由により流体をパルス状に高速噴射させることができる。従って、細管組織が曲がっている場合や、狭く深い術部に対しても接続流路管を曲げて使用することができ、術部に対する適用制約を低減することができる。
【0016】
[適用例4]本適用例に係る流体噴射方法は、圧力室と前記圧力室の容積を変更する容積変更手段とをそれぞれ有する複数の脈流発生部と、前記複数の脈流発生部のうち最も上流側の脈流発生部に流体を供給する流体供給手段と、前記複数の脈流発生部を互いに直列に接続する接続流路管と、が備えられ、各前記容積変更手段に入力される駆動信号の周期が同じであって、隣り合う前記脈流発生部のうち前記流体供給手段から遠い位置の前記容積変更手段の駆動信号を、前記流体供給手段に近い前記容積変更手段の駆動信号よりも二つの前記脈流発生部の距離を圧力波が伝播するのに要する時間だけ位相を遅延させるよう制御することを特徴とする。
【0017】
本適用例によれば、下流側の容積変更手段の駆動信号を、上流側の容積変更手段の駆動信号よりもこれら脈流発生部の距離を圧力波が伝播するのに要する時間だけ位相を遅延させるように制御している。従って、上流側の脈流発生部からの圧力波が下流側の脈流発生部に到達するタイミングと、下流側の脈流発生部が圧力波を発生するタイミングを合わせることにより、接続流路管が長い場合や剛性が低い材料の場合であっても強いパルス流を噴射させることができる。
【0018】
[適用例5]上記適用例に係る流体噴射方法は、二つの前記脈流発生部の距離を圧力波が伝播するのに要する時間をT、前記流体供給手段から遠い位置の前記容積変更手段の駆動信号と、前記流体供給手段に近い前記容積変更手段の駆動信号との位相差をT2、前記流体供給手段に近い位置の前記容積変更手段が前記圧力室の容積を縮小する方向に駆動している時間をT3、としたとき、(T+T3)>T2>Tの範囲で制御することが望ましい。
【0019】
ここで、上流側の脈流発生部が圧力室の容積を縮小して、圧力室の内部圧力を高めるのに時間を要する。従って、上流側の脈流発生部からの圧力波が下流側の脈流発生部の圧力室を通過するとき、または、通過し終わる寸前に下流側の脈流発生部を駆動する方がより効率的に圧力波を伝播させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態1に係る流体噴射装置を示す構成説明図。
【図2】実施形態1に係る第1脈流発生部の構成を示す断面図。
【図3】実施形態1に係る第2脈流発生部の構成を示す断面図。
【図4】第1脈流発生部と第2脈流発生部それぞれのあるタイミングにおける駆動波形を示し、(a)は第1脈流発生部の駆動波形、(b)は第2脈流発生部の駆動波形を示す駆動波形図。
【図5】第1脈流発生部と第2脈流発生部の駆動信号の出力タイミングを示す駆動波形図。
【図6】実施形態2に係る流体噴射装置の構成を示す構成説明図。
【図7】実施形態2に係る第3脈流発生部の構成を示す部分断面図。
【図8】第2脈流発生部と第3脈流発生部それぞれのあるタイミングにおける駆動波形を示し、(a)は第3脈流発生部の駆動波形、(b)は第2脈流発生部の駆動波形を示す駆動波形図。
【図9】第2脈流発生部と第3脈流発生部の駆動信号の出力タイミングを示す駆動波形図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
以下の説明で参照する図は説明の都合上、各部位を強調するために各構成要素の寸法の比率、縮尺・拡大等は、実際のものとは異なる模式図である。
なお、本発明による流体噴射装置は、生体組織を切開または切除することに好適な流体噴射装置を例示して説明する。従って、実施形態にて用いる流体は、水または生理食塩水等の液体である。
(実施形態1)
【0022】
図1は、実施形態1に係る流体噴射装置を示す構成説明図である。図1において、流体噴射装置1は、流体を収容する流体供給容器2と、流体供給手段としてのポンプ10と、ポンプ10から供給される流体を脈流(以降、パルス流と表すことがある)に変換させる第1脈流発生部20及び第2脈流発生部30と、第1脈流発生部20と第2脈流発生部30とを直列に接続する接続流路管4と、ポンプ10と第1脈流発生部20とを接続する流体供給チューブ3と、第1脈流発生部20と第2脈流発生部30とポンプ10の駆動制御を行う駆動制御部40と、によって構成されている。
【0023】
なお、ポンプ10に近い方を上流側、ポンプ10から遠い方を下流側と表し説明することがある。
【0024】
第1脈流発生部20は、圧力室23と、圧力室23の容積を変更する容積変更手段としての圧電素子21とを有している。同様に、第2脈流発生部30は、圧力室33と、圧力室33の容積を変更する容積変更手段としての圧電素子31と、を有し、先端部には流体噴射開口部36が開口されている。第1脈流発生部20及び第2脈流発生部30の詳細な説明は、図2、図3を参照して後述する。
【0025】
第1脈流発生部20は、より強いパルス流を吐出するものであって流路の上流側に配設される。下流側に配設される第2脈流発生部30の最大径は、接続流路管4の外径とほぼ同じ大きさであって筒状の形態を有している。
【0026】
駆動制御部40は、ポンプ10の駆動制御を行うポンプ駆動回路42と、第1脈流発生部20(具体的には、圧電素子21)の駆動を制御する圧電素子駆動回路43と、第2脈流発生部30(具体的には、圧電素子31)の駆動を制御する圧電素子駆動回路44とを有している。また、これら各駆動回路を制御する制御回路41が備えられている。駆動制御部40には、さらに制御回路41の起動及び停止を行うメインスイッチ(図示せず)が備えられている。
【0027】
なお、制御回路41には、ポンプ10からの流体供給流量(つまり、供給圧力)を決定するポンプ10の駆動周波数と、パルス1個当りの切除力(切除深さ)を決定する圧力室33の容積変化量(排除体積)と、切除速度(単位時間当りの切除軌跡長さ)を決定する圧力室33の容積変化の周波数(圧電素子31の駆動周波数に相当する)と、圧力室23の容積変化量及び容積変化の周波数と、圧電素子21と圧電素子31それぞれの駆動信号の出力タイミングと、を設定するプログラムが格納されている。
【0028】
続いて、第1脈流発生部20の構成について説明する。
図2は、本実施形態に係る第1脈流発生部の構成を示す断面図である。図2において、第1脈流発生部20は、ポンプ10から流体供給チューブ3を介して圧力室23に流体を供給する入口流路24と、圧力室23の容積を変化させる容積変更手段としての圧電素子21及びダイアフラム22と、圧力室23に連通する出口流路25と、を有して構成されている。入口流路24には流体供給チューブ3が接続されている。
【0029】
ダイアフラム22は円盤状の金属薄板からなり、圧電素子21の一方の端部が固着されている。本実施形態では、圧電素子21は積層型圧電素子を採用している。
【0030】
出口流路25には、接続流路26を有する接続流路管4が接続され、接続流路管4は、第2脈流発生部30の入口流路34に接続されている。
【0031】
次に、本実施形態における第1脈流発生部20のパルス流噴射動作について図1、図2を参照して説明する。本実施形態の第1脈流発生部20の流体吐出は、入口流路24側の合成イナータンスL1と出口流路25側の合成イナータンスL2の差によって行われる。
【0032】
まず、イナータンスについて説明する。
イナータンスLは、流体の密度をρ、流路の断面積をS、流路の長さをhとしたとき、L=ρ×h/Sで表される。流路の圧力差をΔP、流路を流れる流体の流量をQとした場合に、イナータンスLを用いて流路内の運動方程式を変形することで、ΔP=L×dQ/dtという関係が導き出される。
【0033】
つまり、イナータンスLは、流量の時間変化に与える影響度合いを示しており、イナータンスLが大きいほど流量の時間変化が少なく、イナータンスLが小さいほど流量の時間変化が大きくなる。
【0034】
ここで、入口流路24側の合成イナータンスL1は、入口流路24の範囲において算出される。また、出口流路25側の合成イナータンスL2は、本実施形態では出口流路25と接続流路26の範囲のイナータンスである。なお、接続流路管4は、剛性を有する金属管でも、柔軟性を有するチューブでもよい。
【0035】
そして、本実施形態では、入口流路24側の合成イナータンスL1が出口流路25側の合成イナータンスL2よりも大きくなるように、入口流路24の流路長及び断面積、出口流路25の流路長及び断面積を設定する。
【0036】
ポンプ10によって入口流路24には、所定の圧力で流体が供給されている。なお、ポンプ10からの流体供給流量はパルス流噴射流量とほぼ等しい量であればよい。ここで、圧電素子21が動作を行わない場合、ポンプ10の吐出力と入口流路24側全体の流路抵抗の差によって流体は圧力室23内に流動する。
【0037】
圧電素子21に駆動信号が入力され、圧電素子21がダイアフラム22の圧力室23側の面に対して垂直方向(矢印A方向)に急激に伸長したとすると、伸長した圧電素子21によってダイアフラム22が押圧され、ダイアフラム22が圧力室23の容積を縮小する方向に変形する。圧力室23内の圧力は、入口流路24側及び出口流路25側の合成イナータンスL1,L2が十分な大きさを有していれば急速に上昇して数十気圧に達する。
【0038】
この圧力は、入口流路24に加えられていたポンプ10による圧力よりはるかに大きいため、入口流路24から圧力室23内への流体の流入はその圧力によって減少し、出口流路25からの流出は増加する。
【0039】
さらに、入口流路24側の合成イナータンスL1は、出口流路25側の合成イナータンスL2よりも大きいため、入口流路24から圧力室23へ流入する流量の減少量よりも、出口流路25から吐出される流体の増加量のほうが大きいため、接続流路26にパルス状の液体吐出、つまり、脈流が発生する。この吐出の際の圧力変動が、接続流路管4(接続流路26)を伝播して、第2脈流発生部30に向かって圧力波と共に流体が噴射される。
【0040】
ここで脈流とは、流体の流れる方向が一定で、流体の流量または流速が周期的または不定期な変動を伴った流体の流動を意味する。脈流には、流体の流動と停止とを繰り返す間欠流も含むが、流体の流量または流速が周期的または不定期な変動をしていればよいため、必ずしも間欠流である必要はない。
【0041】
同様に、流体をパルス状に噴射するとは、噴射する流体の流量または移動速度が周期的または不定期に変動した流体の噴射を意味する。パルス状の噴射の一例として、流体の噴射と非噴射とを繰り返す間欠噴射が挙げられるが、噴射する流体の流量または移動速度が周期的または不定期に変動していればよいため、必ずしも間欠噴射である必要はない。
【0042】
続いて、第2脈流発生部30の構成について説明する。
図3は、本実施形態に係る第2脈流発生部の構成を示す断面図である。図3において、第2脈流発生部30は、第1脈流発生部20からの脈流を接続流路管4を介して圧力室33に導入する入口流路34と、圧力室33の容積を変化させる容積変更手段としての圧電素子31及びダイアフラム32と、圧力室33に連通する出口流路35と、を有して構成されている。
【0043】
ダイアフラム32は、概ね四角形の金属薄板からなり、圧力室33に対して反対方向の表面に圧電素子31が固着されている。従って、本実施形態の容積変更手段はユニモルフ型圧電素子を例示している。
出口流路35の末端部には、流路断面積が縮小された流体噴射開口部36が開口されている。
【0044】
次に、本実施形態における第2脈流発生部30のパルス流噴射動作について図3を参照して説明する。第2脈流発生部30のパルス流噴射動作は、形態は異なるものの前述した第1脈流発生部20と同様であるため詳しい説明は省略するが、入口流路34側の合成イナータンスL3と出口流路35側の合成イナータンスL4の差によって行われる。但し、入口流路34には、第1脈流発生部20から圧力波を含むパルス流が流入する。
【0045】
第2脈流発生部30を駆動すると流体は脈動され、脈流が出口流路35から吐出される。ここで、流体噴射開口部36の流路断面積は、出口流路35の流路径よりも縮小されているので、流体はさらに高圧となり、パルス状の液滴となって高速噴射される。
【0046】
以上、説明したように、流体供給容器2に収容された流体は、ポンプ10によって吸引され、一定の圧力で流体供給チューブ3を介して第1脈流発生部20に供給される。第1脈流発生部20では、圧電素子21を駆動して圧力室23内において流体を脈動させ、圧力波を含む流体を接続流路管4を介して第2脈流発生部30に流入させる。そして、第2脈流発生部30では、圧電素子31を駆動して圧力室33内において流体を脈動させ、流体を流体噴射開口部36からパルス状に噴射させる。
【0047】
続いて、第1脈流発生部20と第2脈流発生部30の駆動タイミングについて説明する。
図4は、第1脈流発生部と第2脈流発生部それぞれのあるタイミングにおける駆動波形を示し、(a)は第1脈流発生部の駆動波形、(b)は第2脈流発生部の駆動波形を示す駆動波形図である。脈動発生部の駆動波形は、容積変更手段を駆動させるための信号波形に相当し、本実施例においては、第1脈流発生部20の圧電素子21、または第2脈流発生部30の圧電素子31を駆動する電圧に相当する。例えば、本実施例の第1脈動発生部20では、圧電素子21に正の電圧を印加した場合に、圧力室23の容積が縮小する方向に圧電素子21およびダイアフラム22が変形するように構成されている。同様に、第2脈流発生部30では、圧電素子31に正の電圧を印加した場合に、圧力室33の容積が縮小する方向に圧電素子31およびダイアフラム32が変形するように構成されている。
【0048】
図示したように、第1脈流発生部20の駆動波形及び第2脈流発生部30の駆動波形はそれぞれSin波形の信号が離散的に入力されており、互いの駆動波形の周期T1は同じである。ここで、第1脈流発生部20と第2脈流発生部30とは距離Kを有して接続流路管4で接続されている。距離Kが非常に短い場合には、第1脈流発生部20と第2脈流発生部30の駆動信号は同じタイミングで出力すればよい。しかし、距離Kが長い場合、この距離Kを圧力波が伝播するには無視できない時間を要する。
【0049】
なお、距離Kは、第1脈流発生部20のダイアフラム22の表面(図2、参照)から、第2脈流発生部30の圧力室33の端部(図3、参照)までの距離とする。
【0050】
そこで、圧力波の伝播速度について説明を加える。接続流路26を進む水中の圧力波の伝播速度をVとすると、距離Kを圧力波が伝播するのに要する時間Tは次式で表される。
【0051】
(数1)
T=K/V (式1)
【0052】
圧力波の伝播速度Vについてさらに説明する。流体を水とする場合、水の圧縮率を4.6×10-5とし、水の密度を1000kg/m3とすると、水中における伝播速度Vは次式で表される。
【0053】
(数2)
V=((4.6×10-5/9.8/1002)×1000)1/2 (式2)
=1.46×103(m/sec)
【0054】
従って、圧力波が距離K(m)を有する接続流路を伝播する時間をTとすれば、T=(L/1.46)×10-3(sec)となり、流体供給と流体吐出のタイミング、つまり、適正な第1脈流発生部20による圧力波発生タイミングに対して、第2脈流発生部30に達するタイミングは時間Tだけ遅延することになる。従って、第2脈流発生部30の駆動信号は、第1脈流発生部20の駆動信号より時間Tだけ遅延して出力すればよい。
【0055】
図5は、第1脈流発生部と第2脈流発生部の駆動信号の出力タイミングを示す駆動波形図である。図5に示すように、第2脈流発生部30の駆動波形は、第1脈流発生部20の駆動波形に対して時間(位相差)T2だけ遅延して出力している。なお、時間(位相差)T2は上述した時間Tに相当する。このようにすることで、第1脈流発生部20からの圧力波が第2脈流発生部30に達するタイミングと、第2脈流発生部30が圧力室33の容積を縮小させるタイミングと、を一致させることができる。
【0056】
ここで、図5は、第2脈流発生部30の駆動波形出力タイミングを第1脈流発生部20の駆動波形に対して時間T2だけ遅延させているが、さらに効率よく圧力波を伝播させるためには、駆動信号の出力遅延時間は、第1脈流発生部20からの圧力波が第2脈流発生部30を通過するとき、または通過し終わる寸前の方がよい。
【0057】
つまり、第1脈流発生部20において、圧力室23の容積を縮小開始から最大縮小量に達するまである時間を要する。この時間は駆動波形の電圧上昇時間T3に相当する。従って、第1脈流発生部20の駆動波形に対する第2脈流発生部30の駆動波形の出力タイミングは、(T+T3)>T2>Tの範囲で制御することがより好ましい。
【0058】
従って、本実施形態に係る流体噴射装置1の構成、及び流体噴射方法によれば、ポンプ10に対して下流側の第2脈流発生部30の圧電素子31の駆動信号を、上流側の第1脈流発生部20の圧電素子21の駆動信号よりも距離Kを圧力波が伝播するのに要する時間T2だけ位相を遅延させるよう駆動制御部40により制御する。従って、第1脈流発生部20からの圧力波が第2脈流発生部30に到達するタイミングと、第2脈流発生部30が圧力波を発生するタイミングを一致させることができ、接続流路管が長い場合や剛性が低い材料の場合であっても流体をパルス状に高速噴射させることができる。
【0059】
また、第2脈流発生部30の最大径は、接続流路管4の外径とほぼ同じである。このようにすれば、第2脈流発生部30を細管組織内や深く狭い部位に挿入して切開や切除を行うことができる。
【0060】
なお、第2脈流発生部30の最大径を接続流路管4の外径とほぼ同じにするということは、第2脈流発生部30を小型化することにほかならない。小型化により流体の脈動が小さくなる傾向があるが、上流側に第1脈流発生部20を設けることで、下流側の第2脈流発生部30は小型化しても強いパルス流を噴射させることができる。
【0061】
また、接続流路管4の一部または全部が柔軟性を有している場合には、手術対象の細管組織が曲がっている場合、細管組織に倣って接続流路管を挿入させることが可能となる。術部が狭く深い場合においても接続流路管4を曲げて使用することが可能となり、流体噴射装置1の術部に対する使用制約を低減することができる。
【0062】
さらに、第1脈流発生部20の駆動波形に対する第2脈流発生部30の駆動波形の出力タイミングは、(T+T3)>T2>Tの範囲で制御することがより好ましい。つまり、第1脈流発生部20からの圧力波が第2脈流発生部30の脈動による圧力波が通過するとき、または通過し終わる寸前にすることにより、第2脈流発生部30の圧力室33の容積縮小時に、第1脈流発生部20からの圧力波により圧力室33内を加圧するため、より強いパルス流を噴射させることができる。
(実施形態2)
【0063】
続いて、実施形態2に係る流体噴射装置の構成、及び流体噴射方法について説明する。前述した実施形態1に係る流体噴射装置は、接続流路管4の上流側と下流側にそれぞれ1個の脈流発生部を配設する構成及び流体噴射方法を説明したが、実施形態2は、脈流発生部をさらに増やしていることに特徴を有している。なお、脈流発生部の数は接続流路管の長さ、材質によってさらに増加させることが可能であるが、実施形態2では3個の脈流発生部を配設する構成を例示して説明する。
【0064】
図6は、本実施形態に係る流体噴射装置の構成を示す構成説明図である。なお、実施形態1との共通要素については同じ符号を附し、詳しい説明は省略する。流体噴射装置1は、流体を収容する流体供給容器2と、ポンプ10と、流体を脈流に変換させる第1脈流発生部20と第2脈流発生部30と第3脈流発生部50と、第1脈流発生部20と第3脈流発生部50とを接続する接続流路管4と、第3脈流発生部50と第2脈流発生部30とを接続する接続流路管5と、から構成されている。
【0065】
また、ポンプ10、第1脈流発生部20、第2脈流発生部30、第3脈流発生部50それぞれの駆動制御を行う駆動制御部40がさらに備えられている。
【0066】
駆動制御部40は、ポンプ10の駆動制御を行うポンプ駆動回路42と、第1脈流発生部20の駆動を制御する圧電素子駆動回路43と、第2脈流発生部30の駆動を制御する圧電素子駆動回路44と、第3脈流発生部50の駆動を制御する圧電素子駆動回路45と、を有している。また、これら各駆動回路を制御する制御回路41が備えられ、さらに制御回路41の起動及び停止を行うメインスイッチ(図示せず)が備えられている。
【0067】
なお、制御回路41には、ポンプ10からの流体供給流量(つまり、供給圧力)を決定するポンプ10の駆動周波数と、パルス1個当りの切除力を決定する圧力室33の容積変化量と、切除速度を決定する圧力室33の容積変化の周波数と、第1脈流発生部20と第3脈流発生部50の駆動信号、各脈流発生部の駆動信号出力タイミングと、を設定するプログラムが格納されている。
【0068】
第1脈流発生部20及び第2脈流発生部30の構成は、前述した実施形態1(図2、図3、参照)と同じものを採用できるので説明を省略する。第3脈流発生部50は、基本構成は第2脈流発生部30と同じであるが、両端部に接続流路管接続部を有して構成されている。
【0069】
図7は、実施形態2に係る第3脈流発生部の構成を示す部分断面図である。第3脈流発生部50は、容積変更手段としての圧電素子31及びダイアフラム32、圧力室33、入口流路34、出口流路35の構成要素は第2脈流発生部30と同じ仕様のものを採用可能である。
【0070】
第3脈流発生部50の最大径は接続流路管4,5とほぼ同じであって筒状の形態を有しており、両端部に接続流路管4と接続流路管5を接続するための嵌着部50a,50bが形成されている。
【0071】
続いて、本実施形態に係る流体噴射方法について図面を参照して説明する。流体供給容器2に収容された流体はポンプ10によって吸引され、一定の圧力で流体供給チューブ3を介して第1脈流発生部20に供給される。第1脈流発生部20では、圧電素子21を駆動して圧力室23内において流体を脈動させ、圧力波を含む流体を接続流路管4を介して第3脈流発生部50に流入させる。そして、第3脈流発生部50では、圧電素子31を駆動して圧力室33内において流体を脈動させ、圧力波を含む流体を接続流路管5を介して第2脈流発生部30に流入させる。第2脈流発生部30は、圧電素子31を駆動して流体を流体噴射開口部36からパルス状に噴射させる。
【0072】
次に、第1脈流発生部20と第2脈流発生部30と第3脈流発生部50の駆動タイミングについて説明する。なお、第1脈流発生部20に対する第3脈流発生部50の駆動タイミングは、前述した実施形態1(図4、図5、参照)における第1脈流発生部20に対する第2脈流発生部30の駆動タイミングと同じ考え方を踏襲できるので説明を省略する。
【0073】
図8は、第2脈流発生部と第3脈流発生部それぞれのあるタイミングにおける駆動波形を示し、(a)は第3脈流発生部の駆動波形、(b)は第2脈流発生部の駆動波形を示す駆動波形図である。
【0074】
図示したように、第2脈流発生部30の駆動波形及び第3脈流発生部50の駆動波形はそれぞれSin波形の信号が離散的に入力されており、互いの駆動波形の周期T1は同じである。ここで、第2脈流発生部30と第3脈流発生部50とは距離K1を有して接続流路管5で接続されている。距離K1が非常に短い場合には、第2脈流発生部30と第3脈流発生部50の駆動信号は同じタイミングで出力すればよい。しかし、距離K1が長い場合、この距離K1は圧力波の伝播には無視できない時間を要する。
【0075】
なお、距離K1は、互いに対向する第2脈流発生部30の圧力室33の端部から第3脈流発生部50の圧力室33の端部までの距離とする。
【0076】
また、圧力波の伝播速度V、接続流路管5を圧力波が伝播する時間T4は、前述した実施形態1(数式1、数式2、参照)と同様な考え方で算出できる。従って、圧力波が距離K1(m)を有する接続流路37を伝播する時間をTとすれば、時間Tは、T=(L1/1.46)×10-3(sec)となり、流体供給と流体吐出のタイミング、つまり、第2脈流発生部30による圧力波の発生タイミングに対して、第3脈流発生部50に圧力波が達するタイミングは時間Tだけ遅延することになる。従って、第2脈流発生部30の駆動信号は、第3脈流発生部50の駆動信号より時間Tだけ遅延して出力すればよい。
【0077】
図9は、第2脈流発生部と第3脈流発生部の駆動信号の出力タイミングを示す駆動波形図である。図9に示すように、第2脈流発生部30の駆動波形は、第3脈流発生部50の駆動波形に対して時間(位相差)T4だけ遅延して出力している。なお、時間(位相差)T4は上述した接続流路37を伝播する時間Tに相当する。このようにすることで、第3脈流発生部50からの圧力波が第2脈流発生部30に達するタイミングと、第2脈流発生部30が圧力室33の容積を縮小させるタイミングと、を一致させることができる。
【0078】
なお、図9は、第2脈流発生部30の駆動波形出力タイミングを第3脈流発生部50の駆動波形に対して時間T4だけ遅延させているが、さらに効率よく圧力波を伝播させるためには、駆動信号の出力遅延時間は、第3脈流発生部50からの圧力波が第2脈流発生部30を通過するとき、または通過し終わる寸前の方がよい。
【0079】
第3脈流発生部50において、圧力室33の容積を縮小開始から最大縮小量に達するまでの時間は、駆動波形の電圧上昇時間T5に相当する。従って、第3脈流発生部50の駆動波形に対する第2脈流発生部30の駆動波形の出力タイミングは、(T+T5)>T4>Tの範囲で制御することがより好ましい。
【0080】
従って、本実施形態に係る流体噴射装置の構成及び流体噴射方法によれば、上流側と下流側に加えそれらの中間に脈流発生部を備えることにより、実施形態1の構成よりもさらに長い接続流路管やより柔軟性有する材質を用いても強いパルス流を噴射させることができる。
【0081】
また、第2脈流発生部30と第3脈流発生部50の最大径を接続流路管4,5の外径と同じにすることで、より長い細管組織内や深く狭い部位に挿入して切開や切除を行うことができる。
【0082】
なお、以上説明した実施の形態は、本発明を実現するために例示したものであって、特に限定されるものではない。
例えば、実施形態1及び実施形態2では、積層型圧電素子を用いる第1脈流発生部20と、ユニモルフ型圧電素子を用いる第2脈流発生部30、第3脈流発生部50とを組み合わせて使用する構成を例示しているが、各脈流発生部をどちらか一方だけの構成としてもよい。
【0083】
また、各脈流発生部の駆動波形は、それぞれの周期T1を同じにすれば、ゲイン等は、接続流路管の長さや柔軟性に合わせて適宜選択することができる。
【0084】
さらに、最下流の脈流発生部(例えば、第2脈流発生部30)の先端部に、ノズル(流体噴射開口部)を有する吐出流路管を突設させる構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上、説明した流体噴射装置は、生体組織を切開または切除することに好適な手術を例示して説明したが、インク等を用いた描画、細管構造物や細密な物体洗浄等様々に採用可能である。
【符号の説明】
【0086】
1…流体噴射装置、2…流体供給容器、4…接続流路管、10…ポンプ、20…第1脈流発生部、21,31…圧電素子、30…第2脈流発生部、40…駆動制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力室と前記圧力室の容積を変更する容積変更手段とをそれぞれ有する複数の脈流発生部と、
前記複数の脈流発生部のうち最も上流側の脈流発生部に流体を供給する流体供給手段と、
前記複数の脈流発生部を互いに直列に接続する接続流路管と、
各前記容積変更手段に入力される駆動信号の周期が同じであって、隣り合う前記脈流発生部のうち前記流体供給手段から遠い位置の前記容積変更手段の駆動信号が、前記流体供給手段に近い前記容積変更手段の駆動信号よりも二つの前記脈流発生部の距離を圧力波が伝播するのに要する時間だけ位相を遅延させるよう駆動信号を入力する駆動制御部と、
が備えられていることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体噴射装置において、
前記複数の脈流発生部のうち、少なくとも前記流体供給手段から最も遠い位置にある脈流発生部の最大径が、前記接続流路管の外径とほぼ同じであることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の流体噴射装置において、
前記接続流路管の一部または全部が柔軟性を有していることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項4】
圧力室と前記圧力室の容積を変更する容積変更手段とをそれぞれ有する複数の脈流発生部と、前記複数の脈流発生部のうち最も上流側の脈流発生部に流体を供給する流体供給手段と、前記複数の脈流発生部を互いに直列に接続する接続流路管と、が備えられ、
各前記容積変更手段に入力される駆動信号の周期が同じであって、隣り合う前記脈流発生部のうち前記流体供給手段から遠い位置の前記容積変更手段の駆動信号を、前記流体供給手段に近い前記容積変更手段の駆動信号よりも二つの前記脈流発生部の距離を圧力波が伝播するのに要する時間だけ位相を遅延させるよう制御することを特徴とする流体噴射方法。
【請求項5】
請求項4に記載の流体噴射方法において、
二つの前記脈流発生部の距離を圧力波が伝播するのに要する時間をT、
前記流体供給手段から遠い位置の前記容積変更手段の駆動信号と、前記流体供給手段に近い前記容積変更手段の駆動信号との位相差をT2、
前記流体供給手段に近い位置の前記容積変更手段が前記圧力室の容積を縮小する方向に駆動している時間をT3、としたとき、
(T+T3)>T2>Tの範囲で制御することを特徴とする流体噴射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−52595(P2011−52595A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202335(P2009−202335)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】