説明

流体噴射装置

【課題】吐出環境の低下を防ぐこと。
【解決手段】流体噴射ヘッドから流体を噴射するときの第一状態に配置された流体タンクの流体室のうち流体流出口よりも鉛直方向下側に位置する空間の基準体積が、第一状態に対して90度傾いた第二状態に配置された流体タンクの流体室のうち流体流入口よりも鉛直方向下側に位置する空間の体積よりも小さくなるように、流体流入口及び流体流出口が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘッドの噴射面に形成されたノズル開口からターゲットに流体を噴射する流体噴射装置として、例えば、インクジェット式印刷装置(以下、単に「印刷装置」という。)が広く知られている。このような印刷装置のうち、ヘッドの噴射面が水平面に対して傾斜した状態(例えば、垂直に立った状態)でターゲットに流体を噴射する構成の印刷装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような、いわゆる縦型ヘッドを有する印刷装置においても、増粘したインクによるノズル開口の目詰まり抑制、及びヘッド内のインク中に混入した気泡や塵埃の排出等を目的として、ヘッド内から増粘等したインクを強制的に吸引して排出する吸引動作が行われる。
【0004】
吸引動作においては、例えばヘッドの噴射面に対向するようにキャップ部材を配置させて行っている。この場合、キャップ部材の開口部(噴射面を密閉する部分)が横向きになるため、インクがこぼれないように、例えばキャップ部材の内部にインク吸収材を配置させた状態で吸引動作を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03−293150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記構成においては、印刷装置が傾いた状態となる場合(例えば、倒された場合など)や、上下が逆になった状態となる場合(例えば、運搬時など)がある。この場合、例えばインクがキャップ部材の開口部側へ流れる可能性があり、キャッピング動作等を行うとキャッピング動作等を行うとヘッドの噴射面にインクが付着する可能性がある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明は、吐出環境の低下を防ぐことが可能な流体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る流体噴射装置は、流体を噴射する噴射面を有する流体噴射ヘッドと、前記流体噴射ヘッドから噴射される前記流体を受ける流体受部と、前記噴射面を保湿する前記流体を溜める流体室を有する流体タンクと、前記流体室を吸引する吸引部と、前記流体受部に接続された流体流入口を前記流体室に有し、前記流体受部で受けた前記流体を前記流体流入口から前記流体室へ流入させる流体流入部と、前記吸引部に接続された流体流出口を前記流体室に有し、前記流体室の前記流体を前記流体流出口から前記吸引部へ流出させる流体流出部とを備え、前記流体噴射ヘッドから前記流体を噴射するときの第一状態に配置された前記流体タンクの前記流体室のうち前記流体流出口よりも鉛直方向下側に位置する基準空間の体積が、前記第一状態に対して90度傾いた第二状態に配置された前記流体タンクの前記流体室のうち前記流体流入口よりも鉛直方向下側に位置する空間の体積よりも小さくなるように、前記流体流入口及び前記流体流出口が配置されていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、第一状態に配置された流体タンクの流体室に保持される流体は、流体流出口の鉛直方向下側に位置する空間の基準体積に一致する。加えて、当該基準体積が、第二状態に配置された流体タンクの流体室のうち流体流入口よりも鉛直方向下側に位置する空間の体積よりも小さいため、流体タンクが第二状態となった場合でも、流体の上面が流体流入口よりも鉛直方向の下側に配置されることになる。したがって、流体が流体流入口に接触せずに済むため、流体室の流体が流体流入口から流体受部へ戻されるのを防ぐことができる。これにより、噴射面に流体が付着するのを防ぐことができるため、吐出環境の低下を防ぐことが可能となる。
【0010】
上記の流体噴射装置は、前記流体流入口及び前記流体流出口は、前記第二状態に配置された前記流体タンクの前記流体室のうち前記流体流出口よりも鉛直方向下側に位置する空間の体積が、前記基準体積よりも大きくなるように配置されていることを特徴とする。
本発明によれば、流体タンクが第二状態となった場合でも、流体の上面が流体流出口よりも鉛直方向の下側に配置されることになる。流体が流体流出口に接触せずに済むため、流体室の流体が流体流出口から必要以上に流出してしまうのを防ぐことができる。流体室に流体を確実に保持させることができるため、噴射面を保湿することができる。これにより、吐出環境の低下を防ぐことが可能となる。
【0011】
上記の流体噴射装置は、前記流体流入口及び前記流体流出口は、前記第一状態に対して180度傾いた第三状態に配置された前記流体タンクの前記流体室のうち前記流体流入口よりも鉛直方向下側に位置する空間の体積が前記基準体積よりも大きくなるように配置されていることを特徴とする。
本発明によれば、流体タンクが第三状態となった場合でも、流体の上面が流体流入口よりも鉛直方向の下側に配置されることになる。流体が流体流入口に接触せずに済むため、流体室の流体が流体流入口から流体受部に戻されるのを防ぐことができる。これにより、噴射面に流体が付着するのを防ぐことができるため、吐出環境の低下を防ぐことが可能となる。
【0012】
上記の流体噴射装置は、前記流体流入口及び前記流体流出口は、前記第三状態に配置された前記流体タンクの前記流体室のうち前記流体流出口よりも鉛直方向下側に位置する空間の体積が前記基準体積よりも大きくなるように配置されていることを特徴とする。
本発明によれば、流体タンクが第三状態となった場合でも、流体の上面が流体流出口よりも鉛直方向の下側に配置されることになる。流体が流体流出口に接触せずに済むため、流体室の流体が流体流出口から必要以上に流出してしまうのを防ぐことができる。流体室に流体を確実に保持させることができるため、噴射面を保湿することができる。これにより、吐出環境の低下を防ぐことが可能となる。
【0013】
上記の流体噴射装置は、前記流体タンクは、前記流体室に前記流体が溜められた状態になっていることを特徴とする。
本発明によれば、流体室に流体が溜められた状態になっているため、流体受部への流体の逆流を防ぐことができると共に、流体室からの流体の流出を防ぐことができる。
【0014】
上記の流体噴射装置は、前記流体噴射ヘッドは、前記噴射面が水平面に対して傾斜状態となるように配置されていることを特徴とする。
本発明によれば、流体噴射ヘッドが噴射面が水平面に対して傾斜状態となるように配置されている場合においても、流体受部への流体の逆流を防ぐことができると共に、流体室からの流体の流出を防ぐことができ、吐出環境の低下を防ぐことが可能となる。
【0015】
上記の流体噴射装置は、前記流体受部は、前記噴射面との間に密閉空間を形成可能に設けられると共に、前記密閉空間を大気に連通可能な大気開放口を有することを特徴とする。
本発明によれば、流体受部が噴射面との間に密閉空間を形成可能に設けられると共に、密閉空間を大気に連通可能な大気開放口を有する場合において、例えば逆流した流体が大気開放口に到達し大気開放口が塞がれてしまう、といった問題が生じるのを回避することができる。これにより、信頼性の高い流体噴射装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る印刷装置の構成を示す概略図。
【図2】本実施形態に係る印刷装置の一部の構成を示す断面図。
【図3】本実施形態に係る印刷装置の一部の構成を示す断面図。
【図4】本実施形態に係る印刷装置の一部の構成を示す断面図。
【図5】本実施形態に係る印刷装置の一部の構成を示す断面図。
【図6】本実施形態に係る印刷装置の電気的な構成を示すブロック図。
【図7】本実施形態に係る印刷装置の他の構成を示す断面図。
【図8】本実施形態に係る印刷装置の他の構成を示す断面図。
【図9】本実施形態に係る印刷装置の他の構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本実施形態に係る印刷装置PRT(液体噴射装置)の概略構成を示す図である。本実施形態では、印刷装置PRTとして例えばインクジェット型の印刷装置を例に挙げて説明する。
【0018】
図1に示す印刷装置PRTは、例えば、紙、プラスチックシートなどのシート状の媒体Mを搬送しつつ印刷処理を行う装置である。印刷装置PRTは、筐体PBと、媒体Mにインクを噴射するインクジェット機構IJと、インクジェット機構IJにインクを供給するインク供給機構SPと、媒体Mを搬送する搬送機構CVと、インクジェット機構IJの保全動作を行うメンテナンス機構MNと、これら各機構を制御する制御装置CONTとを備えている。
【0019】
以下、XYZ直交座標系を設定し、当該XYZ直交座標系を適宜参照しつつ各構成要素の位置関係を説明する。本実施形態では、水平面上の所定の方向をX方向とし、当該水平面上においてX方向に直交する方向をY方向とし、当該水平面に垂直な方向をZ方向と表記する。また、X軸周りの回転方向をθX方向、Y軸周りの回転方向をθY方向、Z軸周りの回転方向をθZ方向とする。
【0020】
筐体PBは、例えばY方向を長手とするように形成されている。筐体PBには、上記のインクジェット機構IJ、インク供給機構SP、搬送機構CV、メンテナンス機構MN及び制御装置CONTの各部が取り付けられている。筐体PBには、例えばプラテン13が設けられている。プラテン13は、媒体Mを支持する支持部材である。プラテン13は、例えば+X方向に向けられた平坦面13aを有している。当該平坦面13aは、媒体Mを支持する支持面として用いられる。
【0021】
搬送機構CVは、例えば搬送ローラーや当該搬送ローラーを駆動するモーターなどを有している。搬送機構CVは、例えば筐体PBの+Z側から当該筐体PBの内部に媒体Mを搬送し、当該筐体PBの+X側、−X側あるいは+Z側から当該筐体PBの外部に排出する。搬送機構CVは、筐体PBの内部において、媒体Mがプラテン13上を通過するように当該媒体Mを搬送する。搬送機構CVは、例えば制御装置CONTによって搬送のタイミングや搬送量などが制御されるようになっている。
【0022】
インクジェット機構IJは、インクを噴射するヘッドHと、当該ヘッドHを保持して移動させるヘッド移動機構ACとを有している。ヘッドHは、プラテン13上に送り出された媒体Mに向けてインクを噴射する。ヘッドHは、インクを噴射する噴射面Haを有している。ヘッドHは、噴射面Haが水平面(XY平面)に対して傾斜状態となるように配置されている。ここで、傾斜状態とは、例えば水平面に対して垂直に配置された状態を含むものである。本願では、垂直とは、水平面に対して85°以上95°以下の範囲で傾いた状態を言う。また、傾斜状態は、水平面に対して例えば40°より大きく85°未満の範囲で傾いた状態を含むものである。噴射面Haは、例えばプラテン13の支持面13aに対向するように配置されている。
【0023】
ヘッド移動機構ACは、キャリッジ4を有している。ヘッドHは、当該キャリッジ4に固定されている。キャリッジ4は、筐体PBの長手方向(Y方向)に架けられたガイド軸8に当接されている。ヘッド移動機構ACは、キャリッジ4の他、例えば不図示のパルスモーター、駆動プーリー、遊転プーリー、タイミングベルトなどを有している。キャリッジ4は、当該タイミングベルトに接続されている。キャリッジ4は、タイミングベルトの回転に伴ってY方向に移動可能に設けられている。Y方向へ移動する際、キャリッジ4は、ガイド軸8によって案内されるようになっている。
【0024】
インク供給機構SPは、ヘッドHにインクを供給する。インク供給機構SPには、例えば複数のインクカートリッジ6が収容されている。本実施形態の印刷装置PRTは、インクカートリッジ6がヘッドHとは異なる位置に収容される構成(オフキャリッジ型)である。インク供給機構SPは、例えばヘッドHとインクカートリッジ6とを接続する供給チューブTBを有している。インク供給機構SPは、当該供給チューブTBを介してインクカートリッジ6内に貯留されるインクをヘッドHに供給する不図示のポンプ機構を有している。本実施形態では、インクとして、例えば媒体成分(溶媒成分若しくは分散媒成分)に色素成分を溶解あるいは分散させた構成となっている。
【0025】
メンテナンス機構MNは、ヘッドHのホームポジションに配置されている。このホームポジションは、例えば媒体Mに対して印刷が行われる領域から外れた領域に設定されている。本実施形態では、例えばプラテン13の+Y側にホームポジションが設定されている。ホームポジションは、例えば印刷装置PRTの電源がオフである時や、長時間に亘って記録が行われない時などに、ヘッドHが待機する場所である。
【0026】
メンテナンス機構MNは、例えばヘッドHの噴射面Haを覆うキャッピング機構(流体受部)CPや、当該噴射面Haを払拭するワイピング機構WP、ヘッドHから排出されたインクを溜めておくタンク機構(流体タンク)TKなどを有している。タンクTKには、例えば吸引ポンプなどの吸引機構SCが接続されている。
【0027】
図2は、ヘッドH、キャッピング機構CP、タンクTK及び吸引機構SCの構成を示す断面図である。
図2に示すように、キャッピング機構CPは、キャップ部材40を有している。キャップ部材40は、例えば底部41及び縁部42を有している。キャップ部材40は、ヘッドHの噴射面Ha側から見て例えば矩形に形成されている。
【0028】
底部41は、平坦に形成された底面を有する。当該底面は例えば噴射面Haに向けられている。縁部42は、底部41の周縁部に設けられており、例えば噴射面Ha側から見て矩形の領域を囲むように形成されている。縁部42は、例えば底部41の周縁部に壁状に形成されている。縁部42のうち噴射面Ha側の端面には、シール部材42aが設けられている。
【0029】
シール部材42aは、例えば樹脂など、弾性変形可能な材料によって形成されている。シール部材42aは、例えばヘッドHの噴射面Haに当接され、当該噴射面Haを密閉可能になっている。底部41上のうち縁部42によって囲まれた空間は、インクがこぼれないように一時的に収容される収容部40aとなっている。収容部40aには、インク保持部43が配置されている。
【0030】
底部41のうち重力方向下側(−Z側)には、インク流通路44が設けられている。インク流通路44は、インク流入部70に接続されている。インク流入部70は、タンクTKに接続されたインク流入管71を有している。インク流入部70は、インク流入管71を介してインクをタンクTKへ流入させる。インク流通路44には、例えばヘッドHから排出されたインクが流通するようになっている。
【0031】
一方、縁部42を構成する4辺の壁部のうち例えば+Z側の壁部には、大気開放口46が設けられている。大気開放口46は、例えば収容部40aの内外を連通するように形成された貫通孔を有している。大気開放口46には、例えば不図示の電磁弁などが設けられている。当該電磁弁は、例えば制御装置CONTの制御によって開閉するようになっている。
【0032】
タンクTKは、キャッピング機構CP側からのインクを溜めるインク室60を有している。インク室60には、インク流入管71の一部が挿入されており、当該インク流入管71の端部であるインク流入口71aが設けられている。インク流入口71aは、インク流入管71を介してキャッピング機構CPに接続されている。
【0033】
インク室60には、インクDが溜められた状態になっている。インク室60に溜められたインクDの媒体成分は、当該インク流入口71a及びインク流入管71を介してキャッピング機構CPに到達可能となっている。このため、例えばキャッピング機構CPがヘッドHの噴射面Haをキャッピングした状態において、当該噴射面Ha(もしくはノズルNZ)を保湿可能となっている。
【0034】
吸引機構SCは、タンクTKのインク室60内を吸引可能である。吸引機構SCとしては、例えば吸引ポンプなどが用いられる。吸引機構SCは、インク流出部80に接続されている。インク流出部80は、タンクTKのインク室60に接続されたインク流出管81を有している。インク流出部80は、インク流出管81を介してインクをタンクTKのインク室60から流出させる。インク室60には、インク流出管81の一部が挿入されており、当該インク流出管81の端部であるインク流出口81aが設けられている。インク流出口81aは、インク流出管81を介して吸引機構SCに接続されている。
【0035】
本実施形態の構成では、吸引機構SCは、インク流出管81、インク流出口81aからインク室60に接続されていると共に、インク室60からインク流入口71a及びインク流入管71を介してキャッピング機構CPの収容部40aにも接続されている。このため、吸引機構により、インク室60及び収容部40aを共に吸引することができるようになっている。
【0036】
ここで、本実施形態におけるインク流入口71a及びインク流出口81aのインク室60における配置について説明する。インク流入口71a及びインク流出口81aは、ヘッドHからインクを媒体Mなどに噴射するときの第一状態(例えば、図2に示す状態)に配置されたタンクTKのインク室60のうち、インク流出口81aよりも鉛直方向下側(−Z側)に位置する基準空間60Aの体積が、図2に対して例えば90度に傾いた第二状態(例えば、図3に示す状態)に配置されたタンクTKのインク室60のうちインク流入口71aよりも鉛直方向下側に位置する空間60Bの体積よりも小さくなるように、それぞれ配置されている。すなわち、基準空間60Aの体積をVA、空間60Bの体積をVBとすると、
VA<VB・・・(1)
となるようにインク流入口71a及びインク流出口81aが配置されることになる。
【0037】
吸引機構SCは、インク流出口81aに接触しているインクを吸引するが、インク流出口81aに接触していないインクを吸引することは無い。このため、インク流出口81aよりも鉛直方向下側に配置されたインクは、当該インク流出口81aに接触しないため、吸引機構SCには吸引されない。したがって、図2の状態に配置されたタンクTKのインク室60に保持されるインクの最大体積は、インク流出口81aの鉛直方向下側に位置する空間の基準体積VAに一致する。
【0038】
本実施形態では、この基準体積VAが、空間60Bの体積よりも小さいため、流体タンクが例えば図3に示す第二状態となった場合でも、インクDの上面Daがインク流入口71aよりも鉛直方向の下側(−Z側)に配置されることになる。したがって、インクDがインク流入口71aに接触せずに済むため、インク室60内のインクDがインク流入口71aからキャッピング機構CPへ戻されるのを防ぐことができる。
【0039】
なお、本実施形態では、インク流入口71aがインク室60のX方向中央部に対して+X側に配置されており、例えば第二状態のうち図4に示す状態においては、VBの値が図3に示す状態よりも大きくなる。このため、上記式(1)を満たすことになる。よって、この場合もインクDがキャッピング機構CPへ戻されるのを防ぐことができる。
【0040】
上記式(1)に加えて、本実施形態では、インク流入口71a及びインク流出口81aは、第二状態(例えば、図4に示す状態:第二状態の別の態様)に配置されたタンクTKのインク室60のうちインク流出口81aよりも鉛直方向下側に位置する空間60Cの体積VCが、上記基準体積VAよりも大きくなるように配置されている。すなわち、インク流入口71a及びインク流出口81aは、
VA<VC・・・(2)
を満たすように配置されている。
【0041】
本発明によれば、タンクTKが図4に示す第二状態となった場合でも、インクDの上面Daがインク流出口81aよりも鉛直方向の下側に配置されることになる。インクがインク流出口81aに接触せずに済むため、インク室60のインクがインク流出口81aから必要以上に流出してしまうのを防ぐことができる。インク室60にインクDを確実に保持させることができるため、噴射面Haを確実に保湿することができる。
【0042】
なお、本実施形態では、インク流出口81aがインク室60のX方向中央部に対して−X側に配置されており、例えば第二状態のうち図3に示す状態においては、VCの値が図4に示す状態よりも大きくなる。このため、上記式(2)を満たすことになる。よって、この場合もインク室60のインクがインク流出口81aから必要以上に流出してしまうのを防ぐことができる。
【0043】
また、上記式(1)及び式(2)に加えて、インク流入口71a及びインク流出口81aは、第一状態に対して180度傾いた第三状態(例えば、図5に示す状態)に配置されたタンクTKのインク室60のうちインク流入口71aよりも鉛直方向下側に位置する空間60Dの体積VDが上記基準体積VAよりも大きくなるように配置されている。すなわち、インク流入口71a及びインク流出口81aは、
VA<VD・・・(3)
を満たすように配置されている。
【0044】
このため、タンクTKが第三状態となった場合でも、インクDの上面Daがインク流入口71aよりも鉛直方向の下側に配置されることになる。インクDがインク流入口71aに接触せずに済むため、インク室60のインクがインク流入口71aからキャッピング機構CPに戻されるのを防ぐことができる。
【0045】
また、上記式(1)〜(3)に加えて、インク流入口71a及びインク流出口81aは、図5に示す第三状態に配置されたタンクTKのインク室60のうちインク流出口81aよりも鉛直方向下側に位置する空間60Eの体積VEが、上記基準体積VAよりも大きくなるように配置されている。すなわち、インク流入口71a及びインク流出口81aは、
VA<VE・・・(4)
を満たすように配置されている。
【0046】
このため、タンクTKが第三状態となった場合でも、インクDの上面Daがインク流出口81aよりも鉛直方向の下側に配置されることになる。インクDがインク流出口81aに接触せずに済むため、インク室60のインクがインク流出口81aから必要以上に流出してしまうのを防ぐことができる。
【0047】
図6は、印刷装置PRTの電気的な構成を示すブロック図である。
本実施形態における印刷装置PRTは、全体の動作を制御する制御装置CONTを備えている。制御装置CONTには、印刷装置PRTの動作に関する各種情報を入力する入力装置59と、印刷装置PRTの動作に関する各種情報を記憶した記憶装置MRとが接続されている。
【0048】
制御装置CONTには、インクジェット機構IJ、搬送機構CR、メンテナンス機構MNなど、印刷装置PRTの各部が接続されている。印刷装置PRTは、ヘッドHに入力する駆動信号を発生する駆動信号発生器62を備えている。駆動信号発生器62は、制御装置CONTに接続されている。
【0049】
駆動信号発生器62には、ヘッドHに入力する吐出パルスの電圧値の変化量を示すデータ、及び吐出パルスの電圧を変化させるタイミングを規定するタイミング信号が入力される。駆動信号発生器62は、入力されたデータ及びタイミング信号に基づいて吐出パルス等の駆動信号を発生する。
【0050】
次に、上記のように構成された印刷装置PRTの動作を説明する。
ヘッドHによる印刷動作を行う場合、制御装置CONTは、搬送機構CRによって媒体Mを上記支持面13a上に配置させる。媒体Mを配置させた後、制御装置CONTは、印刷する画像の画像データに基づいて、ヘッドHに駆動信号を入力する。この動作により、ヘッドHの噴射面Haに形成されたノズルNZからインクが−X方向に噴射され、噴射されたインクによって、媒体Mに所望の画像が形成される。
【0051】
制御装置CONTは、ヘッドHのメンテナンス動作として、例えばキャッピング動作、キャップ部材40内のインクの排出(クリーニング)動作を行わせる。キャッピング動作を行わせる場合、制御装置CONTは、ヘッドHをホームポジションに移動させ、ヘッドHとキャップ部材40とを対向させる。
【0052】
この状態で、制御装置CONTは、例えばヘッドHの噴射面Haがキャップ部材40に平行になるようにキャップ部材40の姿勢を微調整する。同時に、制御装置CONTは、図示しないカム部材を回転させることにより、キャップ部材40をヘッドH側へ押圧する。この動作により、キャップ部材40とヘッドHとの間が密閉状態となる。
【0053】
ヘッドHをキャップ部材40に当接させた後、制御装置CONTは例えば大気開放口46を閉状態として吸引機構SCを作動させる。当該吸引機構SCに連通されたインク流出管81、インク室60、インク流入管71にそれぞれ連通された収容部40aは、吸引機構SCによって吸引されて負圧となる。この負圧により、ヘッドHの各ノズルNZからインクが−X方向に吸引(排出)され、ノズルNZ内のインクの粘度が適正に保持されることになる。
【0054】
ノズルNZから吸引(排出)されたインクは、インク流通路44からインク流入管71及びインク流入口71aを介してタンクTKのインク室60に流入する。インク室60に流入したインクDは徐々に溜まっていき、上面Daがインク流出口81aに接触すると当該インク流出口81aから吸引される。このため、インク室60では、体積VAのインクDが溜められた状態が維持されることになる。このインクDは、例えば溶媒成分気化することによりインク流入口71aからインク流入管71を経てキャップ部材40内を保湿する。このため、キャップ部材40内にインク吸収材を設けることなく、ヘッドHの噴射面Ha(ノズルNZ)を保湿することができる。
【0055】
インクの吸引動作が終了した後、制御装置CONTは、大気開放口46を開状態とする。この動作により、キャップ部材40の収容部40aが大気開放され、負圧状態が解除される。負圧状態を解除した後、制御装置CONTは、シール部材42aとヘッドHの噴射面Haとを密着させたまま、吸引機構SCによって再度の吸引を行わせる。この動作により、インク吸収材43に溜まったインクをインク流通路44を介してタンクTKに流入させる。その後、制御装置CONTは、キャップ部材40をヘッドHから離し、吸引動作を終了させる。
【0056】
このような動作を繰り返し行う過程で、印刷装置PRTが傾いた状態となる場合(例えば、倒された場合など)や、上下が逆になった状態となる場合(例えば、運搬時など)がある。この場合、例えばインクがキャップ部材の開口部側へ流れる可能性があり、キャッピング動作等を行うとヘッドHの噴射面Haにインクが付着する可能性がある。
【0057】
これに対して、本実施形態においては、インク流入口71a及びインク流出口81aは、インク室60における上記基準空間60Aの体積が上記空間60Bの体積よりも小さくなるように、それぞれ配置されているため、タンクTKが第二状態となった場合でも、インクDの上面Daがインク流入口71aよりも鉛直方向の下側に配置されることになる。したがって、インクDがインク流入口71aに接触せずに済むため、インク室60のインクがインク流入口71aからキャッピング機構CPへ戻されるのを防ぐことができる。これにより、噴射面Haに流体が付着するのを防ぐことができるため、吐出環境の低下を防ぐことが可能となる。
【0058】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
例えば、インク流入口71a及びインク流出口81aの配置は、上記実施形態の構成に限られず、他の構成であっても構わない。
【0059】
例えば、上記実施形態では、インク流入口71a及びインク流出口81aが上記式(1)〜式(4)の全てを満たすように配置された構成を例に挙げたが、これに限られることは無く、少なくとも式(1)を満たす構成であれば良い。この場合、式(2)〜(4)を満たすことが好ましいことはいうまでも無い。
【0060】
また、例えば、図7に示すように、インク流入口71aをインク流出口81aと同一の高さ(Z座標)としても構わない。また、インク流入口71a及びインク流出口81aは、共にインク室60の中央部よりも−Z側に配置されている。この場合、基準体積VAを抑えることができる。
【0061】
また、例えば図8に示すように、インク流入口71a及びインク流出口81aを同一の高さ(Z座標)とし、共にインク室60の中央部よりも+Z側に配置させた構成としても構わない。また、図8においては、インク流入口71a及びインク流出口81aは、インク室60の中央部に対して共に−X方向に配置された構成となっている。このように、X方向の位置を変化させても構わない。
【0062】
また、例えば図9に示すように、インク流入口71a及びインク流出口81aが共にインク室60の中央部よりも−Z側に配置されると共に、インク流入口71aがインク流出口81aよりも+Z側に配置された構成としても構わない。
【0063】
また、例えば、上記実施形態においては、ヘッドHの噴射面Haが水平方向に対して傾斜状態になるように配置された構成を例に挙げて説明したが、これに限られることは無く、例えば噴射面Haが水平方向に平行になるように配置された構成であっても、本発明の適用は可能である。
【0064】
また、例えば上記説明において、インク流入管71及びインク流出管81が可撓性を有する材料によって形成され、インク室60において適宜変形可能に設けられた構成としても構わない。この場合、例えばインク流入口71a及びインク流出口81aに、インクDに対して浮上するフロート部材を取り付ける構成であっても構わない。これにより、インク流入口71a及びインク流出口81aを確実にインクDの上面Daから離すことができる。
【0065】
また、上記説明においては、インク流入部70としてインク流入管71を用いた構成を例に挙げて説明したが、これに限られることは無く、例えばインクが流通可能な構成であれば管状の構成に限られることは無い。例えばタンクTKの内壁の一部に突起部が設けられると共に、当該突起部に内壁の内外を貫通する貫通孔が設けられ、当該貫通孔にインク流入管71を接続させた構成としても構わない。この場合、貫通孔の開口部がインク流入口71aとなり、インク流入部70としては壁部の突起部も含まれることになる。インク流出部80として用いるインク流出管81についても同様である。
【0066】
また、上述の実施形態では、本発明の流体噴射装置をインクジェット式のプリンターに適用しているが、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置に適用してもよい。すなわち、微小量の液滴を吐出する流体噴射ヘッド等を備える各種の流体噴射装置に適用可能である。なお、液滴とは、上述流体噴射装置から吐出される流体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう流体とは、流体噴射装置が噴射させることができるような材料であれよい。
【0067】
例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての流体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散または混合されたものなどを含む。また、流体の代表的な例としては、上述実施形態で説明したようなインクが挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インクおよび油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種流体組成物を包含するものとする。
【0068】
流体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む流体を噴射する流体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる流体を噴射する流体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。
【0069】
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置を採用してもよい。
【符号の説明】
【0070】
PRT…印刷装置 M…媒体 IJ…インクジェット機構 MN…メンテナンス機構 CONT…制御装置 H…ヘッド Ha…噴射面 CP…キャッピング機構 TK…タンク(流体タンク) SC…吸引機構 D…インク(流体) Da…上面 NZ…ノズル 60…インク室 60A…基準空間 60B〜60E…空間 70…インク流入部 71a…インク流入口 80…インク流出部 81a…インク流出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を噴射する噴射面を有する流体噴射ヘッドと、
前記流体噴射ヘッドから噴射される前記流体を受ける流体受部と、
前記噴射面を保湿する前記流体を溜める流体室を有する流体タンクと、
前記流体室を吸引する吸引部と、
前記流体受部に接続された流体流入口を前記流体室に有し、前記流体受部で受けた前記流体を前記流体流入口から前記流体室へ流入させる流体流入部と、
前記吸引部に接続された流体流出口を前記流体室に有し、前記流体室の前記流体を前記流体流出口から前記吸引部へ流出させる流体流出部と
を備え、
前記流体噴射ヘッドから前記流体を噴射するときの第一状態に配置された前記流体タンクの前記流体室のうち前記流体流出口よりも鉛直方向下側に位置する基準空間の体積が、前記第一状態に対して90度傾いた第二状態に配置された前記流体タンクの前記流体室のうち前記流体流入口よりも鉛直方向下側に位置する空間の体積よりも小さくなるように、前記流体流入口及び前記流体流出口が配置されている
流体噴射装置。
【請求項2】
前記流体流入口及び前記流体流出口は、前記第二状態に配置された前記流体タンクの前記流体室のうち前記流体流出口よりも鉛直方向下側に位置する空間の体積が前記基準空間の体積よりも大きくなるように配置されている
請求項1に記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記流体流入口及び前記流体流出口は、前記第一状態に対して180度傾いた第三状態に配置された前記流体タンクの前記流体室のうち前記流体流入口よりも鉛直方向下側に位置する空間の体積が前記基準空間の体積よりも大きくなるように配置されている
請求項1又は請求項2に記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記流体流入口及び前記流体流出口は、前記第三状態に配置された前記流体タンクの前記流体室のうち前記流体流出口よりも鉛直方向下側に位置する空間の体積が前記基準空間の体積よりも大きくなるように配置されている
請求項3に記載の流体噴射装置。
【請求項5】
前記流体タンクは、前記流体室に前記流体が溜められた状態になっている
請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の流体噴射装置。
【請求項6】
前記流体噴射ヘッドは、前記噴射面が水平面に対して傾斜状態となるように配置されている
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の流体噴射装置。
【請求項7】
前記流体受部は、前記噴射面との間に密閉空間を形成可能に設けられると共に、前記密閉空間を大気に連通可能な大気開放口を有する
請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載の流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−255644(P2011−255644A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134237(P2010−134237)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】