説明

流体封入式エンジンマウント

【課題】弁体のサイズが小さくされて、マウントの小型化が有利に図られ得る、新規な構造の流体封入式エンジンマウントを提供する。
【解決手段】第二のオリフィス通路14を通じての流体流路上の弁体案内孔48に配設される弁体84の外周面において、変位方向の全長に亘って延びる連通溝88を形成して、弁体84が変位方向の一方の側で弁体案内孔48の端部内面に当接して連通溝88が閉塞されるようにする一方、弁体84が変位方向の他方の側で連通溝88が連通状態とされて第二のオリフィス通路92を構成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーユニットを車両ボデーに対して防振支持させるエンジンマウントに係り、特に内部に封入された流体の流動作用に基づいて防振効果が発揮される流体封入式エンジンマウントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、パワーユニットと車両ボデーの間に装着されて両者を防振連結乃至は防振支持せしめるエンジンマウントの一種として、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で相互に連結して、壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成された受圧室と、壁部の一部が変形容易な可撓性膜で構成された平衡室を形成し、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、両室を相互に連通せしめるオリフィス通路を設けた構造の流体封入式エンジンマウントが知られている。このような流体封入式エンジンマウントでは、オリフィス通路を通じて流動せしめられる流体の共振作用等の流動作用を利用して防振効果が得られることから、例えば自動車用エンジンマウント等への適用が検討されている。
【0003】
ところで、上述の流体封入式エンジンマウントにおいては、走行状態等に応じて、異なる周波数域の振動が入力されることから、複数の異なる周波数域の振動に対して、何れも有効な防振効果が発揮されることが望ましい。しかし、オリフィス通路を通じて流動せしめられる流体の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮されるのは、オリフィス通路が予めチューニングされた比較的に狭い周波数域に限られるという問題があった。
【0004】
そこで、かかる問題を解決するために、例えば特許文献1(特開昭59−151637号公報)には、受圧室と平衡室を仕切る仕切部材に第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路をそれぞれ形成して、第二のオリフィス通路を第一のオリフィス通路よりも高周波数域にチューニングすると共に、それら第一及び第二のオリフィス通路をソレノイドへの通電によって発生する磁界の作用で駆動変位せしめられる弁体で切り換えるようにした流体封入式エンジンマウントが提案されている。このような構造によれば、ソレノイドへの通電を走行状態等に応じて制御することにより、複数の周波数域の振動に対する防振効果が得られる。
【0005】
ところが、このような特許文献1に記載のエンジンマウントにおいては、ソレノイドが収容配置されたハウジングが第二の取付部材から外方に大きく突出していることから、マウント全体のサイズや重量が大きくなってしまうという問題があった。
【0006】
このような問題に対処するため、例えば、特許文献2(米国特許第6921067号明細書)にも示されているように、強磁性の弁部材を、仕切部材に形成された第二のオリフィス通路に配設すると共に、ソレノイドを仕切部材における第二のオリフィス通路の周りに設けて、ソレノイドへの通電を制御して弁部材を開閉作動させる構造が考えられる。これによって、ソレノイドアクチュエータがマウント内に組み込まれて、マウント全体の小型化が図られる。
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の流体封入式エンジンマウントにおいては、前述の弁部材が、筒状部の一方の端部から径方向外方に広がる鍔状部を有しているいることから、仕切部材における弁部材の収容スペースの径寸法が大きくなってしまう。また、弁部材の筒状部内から周壁部を貫通して径方向外方に延び出して第二のオリフィス通路が形成されていることから、かかる第二のオリフィス通路を径方向に延び出させるための径方向スペースが必要となる。そのために、マウントの径方向サイズが大きくなってしまうという問題があった。
【0008】
加えて、ソレノイドの中空孔内に配された弁部材の筒状部内を利用して第二のオリフィス通路が形成されていることから、第二のオリフィス通路の通路断面積を大きくするには弁部材の筒状部を大径化する必要があり、その結果、弁部材の外周側に配されるソレノイド延いてはマウント全体が大径化してしまう。そのために、マウント外径サイズを小さく抑えつつ、第二のオリフィス通路の通路断面積を大きくすることが難しかったのである。
【0009】
【特許文献1】特開昭59−151637号公報
【特許文献2】米国特許第6921067号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、弁体のサイズが小さくされて、マウントの小型化が有利に図られ得る、新規な構造の流体封入式エンジンマウントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意な組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0012】
すなわち、本発明の特徴とするところは、パワーユニットと車両ボデーの一方に取り付けられる第一の取付部材と、パワーユニットと車両ボデーの他方に取り付けられる第二の取付部材とを本体ゴム弾性体で連結して、第二の取付部材で支持された仕切部材を挟んだ両側に、壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室を形成して、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、受圧室と平衡室を相互に連通せしめる第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路を仕切部材にそれぞれ形成して、第一のオリフィス通路よりも第二のオリフィス通路を高周波数域にチューニングする一方、第二のオリフィス通路を連通させる連通位置と遮断させる遮断位置とに変位せしめられる弁体と、弁体を駆動するソレノイドアクチュエータを設けた流体封入式エンジンマウントにおいて、第二のオリフィス通路を通じての流体流路上に弁体案内孔を形成すると共に、弁体を強磁性材で形成して弁体を弁体案内孔に変位可能に収容配置する一方、弁体を変位方向の片方に付勢する付勢手段を設けると共に、弁体の周りにソレノイドを配設してソレノイドへの通電により弁体を該付勢手段による付勢方向と反対側に変位させるソレノイドアクチュエータを構成し、更に、弁体の外周面において変位方向の全長に亘って延びる連通溝を形成して、弁体が変位方向の一方の側で弁体案内孔の端部内面に当接して連通溝が閉塞されるようにする一方、弁体が変位方向の他方の側で連通溝が連通状態とされて第二のオリフィス通路を構成するようにした流体封入式エンジンマウントにある。
【0013】
このような本発明に従う構造とされた流体封入式エンジンマウントにおいては、弁体が仕切部材に形成された弁体案内孔に収容配置されていると共に、ソレノイドが弁体の周りに設けられていることによって、弁体とソレノイドからなるソレノイドアクチュエータが仕切部材に設けられている。これにより、ソレノイドアクチュエータを収容配置するハウジングが既存の仕切部材で実現されて、部品点数の減少が図られると共に、マウントがコンパクトになる。
【0014】
特に本構造では、第二のオリフィス通路の一部を構成する連通溝が、弁体において周方向寸法の大きな外周面に形成されていることから、例えば弁体の内側に貫設された通孔だけで第二のオリフィス通路を構成する場合に比して、第二のオリフィス通路の通路断面積を、弁体の外径寸法が制限された条件下でも効果的に大きく確保することが出来る。
【0015】
これにより、弁体のサイズを小さくした場合においても、第二のオリフィス通路のチューニング自由度が大きく確保されて、第二のオリフィス通路を通じての流体の流動作用に基づく防振効果をより効果的に得ることが可能となる。また、弁体の小形化による軽量化に基づき、消費電力の削減やソレノイドの小形化も図られ得る。
【0016】
それ故、本発明に従う構造とされた流体封入式エンジンマウントにおいては、第二のオリフィス通路を通じて流動する流体の通路断面積を確保して第二のオリフィス通路による防振効果を維持しつつ、弁体やソレノイド、それらを収容配置する仕切部材、仕切部材を支持する第二の取付部材の軸直角方向サイズを小さくすることが出来るのであり、マウントの小型化も達成され得るのである。
【0017】
また、本発明に係る流体封入式エンジンマウントにおいては、弁体が中実構造とされており、連通溝だけによって第二のオリフィス通路が構成されている構造が、採用されても良い。このような構造によれば、弁体の外周面に連通溝を複数形成することで、中実部分で弁体の部材強度を維持しつつ、周長が大きくて大きな断面積を得易い外周部分の連通溝によって第二のオリフィス通路の断面積を一層効果的に確保出来る。更に、第二のオリフィス通路が連通溝だけによって構成されており、弁体の端面の中央部分には第二のオリフィス通路が開口していないことから、この弁体の端面が当接される弁体案内孔の端部において、その中央部分に対して弁体の当接で閉塞される通孔を形成する等することによって、第二のオリフィス通路の連通および遮断構造が一層簡単な構造で実現可能となる。
【0018】
また、本発明に係る流体封入式エンジンマウントにおいては、弁体における変位方向の他方の側の端面に当接突部を設けて、弁体の該他方の側への変位端で当接突部が弁体案内孔の端部内面に当接することにより連通溝が開口状態に維持されるようにすると共に、付勢手段としての圧縮コイルスプリングを弁体における他方の側の端面と弁体案内孔の端部内面との間に配設して当接突部によって位置決めした構造が、採用されても良い。このような構造によれば、付勢手段としてコイルスプリングが採用されて、かかるコイルスプリングが弁体に対して当接突部を利用して軸直角方向に位置決めされる。
【0019】
さらに、上述の構造では、弁体が、ソレノイドの通電によりコイルスプリングの付勢力に抗して一方から他方に向けて変位せしめられて、弁体の変位方向他方の側の端面に設けられた当接突部が弁体案内孔の端部内面に当接することにより、弁体の他方の変位端が規定されて、第二のオリフィス通路の連通状態が好適に維持される。
【0020】
また、本発明に係る流体封入式エンジンマウントにおいては、弁体が円筒外周面形状を有しており、弁体の外周面上で周方向に等間隔に位置して連通溝が複数設けられている構造が、採用されても良い。このような構造によれば、弁体の組み付けに際して周方向の位置決めが不要となる。
【0021】
また、本発明に係る流体封入式エンジンマウントにおいては、弁体案内孔において第二のオリフィス通路の受圧室側から平衡室側に向けて弁体が付勢手段で付勢されている一方、付勢手段による付勢方向側の変位端で弁体が弁体案内孔の端部内面に当接して連通溝が閉塞されると共に、受圧室と平衡室の圧力が弁体の変位方向の各一方の面に及ぼされるようになっており、振動入力時に受圧室に発生する負圧によって弁体が付勢手段による付勢力に抗して変位せしめられて連通溝が連通状態とされるようになっている構造が、採用されても良い。このような構造によれば、衝撃的な大荷重が入力されて、受圧室に過大な負圧が生ぜしめられた際に、負圧の作用で弁体が付勢力に抗して変位せしめられて第二のオリフィス通路の流体流路の一部を構成する連通孔が連通状態となり、受圧室と平衡室が連通孔を通じて短絡せしめられる。これにより、受圧室の過負圧状態が解消されて、かかる過負圧状態が保持されることに起因するキャビテーション気泡の発生等に起因する異音の発生が有利に抑えられる。
【0022】
すなわち、本構造に係る流体封入式エンジンマウントにおいては、弁体の変位方向一方の面に受圧室の圧力が及ぼされると共に、弁体の変位方向他方の面に平衡室の圧力が及ぼされる構造のものが採用されていることによって、受圧室の過負圧状態下で受圧室と平衡室を短絡せしめる短絡機構を、かかる弁体の他に特別な部品の追加なく簡易に実現できる。なお、このような第二のオリフィス通路の切換用弁体を利用したキャビテーション防止機能は、例えば、米国特許第6921067号明細書に示されている如き従来構造の切換用弁体では、到底発揮され得ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。先ず、図1,2には、本発明の流体封入式エンジンマウントに係る一実施形態としての自動車用エンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と、第二の取付部材としての第二の取付金具14が、本体ゴム弾性体16で連結された構造とされている。そして、第一の取付金具12が図示しない自動車のパワーユニット側の取付部材に取り付けられると共に、第二の取付金具14が図示しない自動車のボデー側の取付部材に取り付けられる。これにより、パワーユニットが車両ボデーに対してエンジンマウント10を介して弾性的に支持されるようになっている。
【0024】
なお、図1,2では、自動車に装着する前のエンジンマウント10の単体での状態が示されているが、自動車へのマウント装着状態では、パワーユニットの吊り下げによるパワーユニットの分担支持荷重がマウント軸方向(図1中、上下)に入力されることにより、第一の取付金具12と第二の取付金具14がマウント軸方向で相互に接近する方向に変位して、本体ゴム弾性体16が弾性変形する。また、かかる装着状態下、防振すべき主たる振動は、略マウント軸方向に入力されることとなる。以下の説明中、特に断りのない限り、上下方向は、マウント軸方向となる図1中の上下方向をいう。
【0025】
より詳細には、第一の取付金具12は、裁頭円錐台形状乃至は円柱形状を呈している。また、第一の取付金具12の中央部分には、上端面に開口する螺子穴18を備えており、図示しないパワーユニット側の部材が固定ボルトを介して螺子穴18に螺着固定されることにより、第一の取付金具12が、パワーユニットに固定的に取り付けられるようになっている。
【0026】
また、第二の取付金具14は、大径の略円筒形状とされており、特に、軸方向中間部分から上部にかけての部位には、径寸法が次第に大きくなる逆テーパが付されている。更に、第二の取付金具14の上端部には、軸直角方向外方に延び出す円環形状の外フランジ状部20が形成されていると共に、第二の取付金具14の下端部には、軸直角方向内方に延び出す内フランジ状部22が形成されている。この第二の取付金具14には、図示しないブラケット金具が固定されるようになっており、ブラケット金具が図示しない車両ボデー側の部材に固定されることで、第二の取付金具14が車両ボデーに対して固定的に取り付けられるようになっている。
【0027】
これら第一の取付金具12と第二の取付金具14が、相互に同一中心軸上に配設されると共に、第一の取付金具12が第二の取付金具14の外フランジ状部20側の開口端面と軸方向に所定距離を隔てて対向位置せしめられている。第一の取付金具12と第二の取付金具14の間には、本体ゴム弾性体16が介装されている。
【0028】
本体ゴム弾性体16は、全体として略裁頭円錐台形状を呈する厚肉のゴム弾性体であって、その下端中央部分には、軸方向下方に向かって開口する逆すり鉢形状の大径凹所24が形成されている。そして、本体ゴム弾性体16の上端部に対して第一の取付金具12の軸方向中間部から下端部に至る部分が埋め込まれるように加硫接着されていると共に、本体ゴム弾性体16の下端部の外周面に対して第二の取付金具14のテーパ部分の内周面が重ね合わされて加硫接着されている。これにより、本体ゴム弾性体16が第一の取付金具12と第二の取付金具14を一体的に備えた一体加硫成形品として形成されていると共に、第二の取付金具14の一方(図1中、上)の開口部が本体ゴム弾性体16によって流体密に閉塞されている。また、第二の取付金具14における軸方向中間部分から下端部分にかけての内周面には、本体ゴム弾性体16と一体形成された薄肉のシールゴム層26が全体に亘って被着形成されている。なお、本体ゴム弾性体16における大径凹所24の開口端面の外周縁部がシールゴム層26の内周面よりも軸直角方向内側に位置せしめられていることによって、本体ゴム弾性体16とシールゴム層26の境界部分には、円環形状の段差部28が形成されている。
【0029】
また、第二の取付金具14の軸方向下側の開口部分には、仕切部材30が組み付けられている。仕切部材30は、全体として略円形ブロック形状を呈しており、仕切部材本体32のと上板金具34を含んで構成されている。なお、仕切部材30は、磁化されない材料で形成されていることが望ましい。
【0030】
仕切部材本体32は、略円形ブロック形状を呈しており、本実施形態では、硬質の合成樹脂材で形成されている。また、仕切部材本体32の軸方向の略中央部分の外周面には、互いに軸方向に離隔してそれぞれ周方向に連続して延びる第一の係止溝36と第二の係止溝38が形成されている。
【0031】
さらに、仕切部材本体32の外周面には、周溝40が開口形成されている。周溝40は、仕切部材本体32における第一及び第二の係止溝36,38を軸方向に跨いだ両側で、それぞれ周方向に所定の長さで延びる一対の溝部を備えており、一対の溝部の各周上の一箇所で、仕切部材本体32をトンネル上に延びる接続穴39で相互に接続された形態を有している。また、周溝40の周方向一方の端部となる、上側の溝部における接続穴39と反対側の端部には、仕切部材本体32の上端面を貫通して連通窓44が形成されている。
【0032】
また、仕切部材本体32の中央部分には、下端面に開口する浅底円形状の下側凹所42が形成されている。更に、周溝40の周方向他方の端部となる、下側の溝部における接続穴39と反対側の端部には、仕切部材本体32において下側凹所42の周壁部を構成する部位を貫通して連通窓46が形成されている。即ち、周溝40と下側凹所42は、連通窓46を通じて相互に接続されている。
【0033】
さらに、仕切部材本体32の下側凹所42よりも上方の中央部分には、弁体案内孔48が形成されている。弁体案内孔48は、その一方の端部(面)が下側凹所の底面よりも所定の距離だけ上方に位置せしめられていると共に、他方の端部(面)が仕切部材本体32の上端面に開口しており、下側凹所42に比して小形の円形断面で軸方向に連続して延びている。
【0034】
これにより、仕切部材本体32の中央部分において、弁体案内孔48の一方の端面と下側凹所42の底面の間の部分が、薄肉の円板形状を呈しており、この円板形状の部分によって、本実施形態に係る弁座50が形成されている。弁座50の中央部分には、連通孔52が貫設されている。
【0035】
仕切部材本体32における弁体案内孔48の周壁部の周りには、ソレノイドとしてのコイル部材54が埋設されている。コイル部材54は、ヨーク56とコイル58を含んで構成されている。ヨーク56は、鉄等の強磁性体からなる複数の部材を組み合わせて、径方向内側に向かって矩形凹状に開口する断面で周方向の全周に亘って連続して延びる筒状とされている。そして、コイル58がヨーク56の内側に巻回された形態で配設されていることにより、略円筒形状を呈するコイル部材54が構成されている。
【0036】
このようなコイル部材54は、弁体案内孔48と同軸的に配置されており、弁体案内孔48を全周に亘って取り囲むように仕切部材本体32の内部に埋設されている。なお、本実施形態では、コイル部材54が、例えば、仕切部材本体32が射出成形等の手段で形成される際に金型に予めセットされる等して、仕切部材本体32の成形時に内部に埋め込まれている。
【0037】
仕切部材本体32には、リード線60が設けられていて、リード線60の一方の端部が仕切部材本体32の内部においてコイル58に接続されていると共に、リード線60の他方の端部が仕切部材本体32の仕切部材本体の外周面から外部に延びて電源装置62に接続されている。これにより、電源装置62からリード線60を通じてコイル58に通電可能となっている。なお、電源装置62には、例えば、装着される自動車の電気系統の電源等が、好適に採用され得る。
【0038】
仕切部材本体32の上面には、上板金具34が重ね合わされている。上板金具34は、薄肉の略円板形状を呈しており、例えば鋼板等の金属材料で形成された高剛性の部材とされている。上板金具34の外径が仕切部材本体32の外径と略等しくなっている。更に、上板金具34の略中央部分における中心軸周りには、小形の通孔の複数からなる透孔64が厚さ方向(図1中、上下)に貫設されていると共に、上板金具34の外周部分には、切り欠き状の連通窓66が形成されている。
【0039】
このような上板金具34が、仕切部材本体32と同軸的に配されて、仕切部材本体32の上面に重ね合わせられていることにより、仕切部材30が構成されている。ここで、透孔64は、仕切部材本体32の弁体案内孔48の開口周縁部よりも径方向内側に位置せしめられている。また、仕切部材本体32と上板金具34は、図示しない位置決め手段によって周方向に互いに位置決めされており、上板金具34の連通窓66が仕切部材本体32の周溝40の一方の端部に形成された連通窓44と軸方向で投影する位置に位置せしめられている。かかる位置決め手段としては、例えば仕切部材本体32の上端部と上板金具34の一方における周方向の所定の位置に突部を突設すると共に、それら他方における周方向の所定の位置に通孔を貫設して、突部を通孔に挿通することで仕切部材本体32と上板金具34の周方向の変位を規制する、係止機構が好適に採用される。
【0040】
特に、仕切部材本体32と上板金具34の組み付けにおいて、仕切部材本体32の弁体案内孔48の開口部分が上板金具34の中央部分で覆蓋されていることによって、仕切部材30の中央部分には、軸方向に一定の円形断面で延びる弁収容領域68が構成されている。
【0041】
弁収容領域68の軸方向一方(図1中、下)の端部には、弁座50が位置せしめられており、弁座50の中央にある連通孔52を通じて、弁収容領域68と下側凹所42が相互に連通せしめられている。
【0042】
弁収容領域68における弁座50と軸方向で対向位置せしめられる軸方向他方(図1中、上)の端部には、透孔64を備えた上板金具34の中央部分が位置せしめられており、かかる透孔64を通じて、弁収容領域68が上板金具34の上部外方に連通せしめられている。
【0043】
この仕切部材30が第二の取付金具14の下側開口部から軸方向に差し入れられ、上板金具34の外周部分が第二の取付金具14の環状段差部28に重ね合わせられることによって、仕切部材30の第二の取付金具14に対する軸方向の挿入端が規定されている。また、第二の取付金具14に対して外方から八方絞り等の縮径加工が施されて、第二の取付金具14の軸方向中間部分から下端部にかけての筒状部分が、上板金具34および仕切部材本体32の上端部乃至は軸方向中間部分に至る部位に嵌着固定されていることに基づいて、仕切部材30が第二の取付金具14に固定されている。また、第二の取付金具14の縮径加工による変形に伴い、第二の取付金具14の軸方向下端部に設けられた内フランジ状部22が、仕切部材本体32の第一の係止溝36に対して係合せしめられていることにより、仕切部材30が第二の取付金具14に対して軸方向に位置決め固定されている。
【0044】
仕切部材30の下方には、可撓性膜としてのダイヤフラム70が配設されている。ダイヤフラム70は、充分な弛みを有する薄肉のゴム膜で形成されており、略円形ドーム形状を呈している。また、ダイヤフラム70の外周縁部には、固定金具72が加硫接着されている。固定金具72は、薄肉の略円筒形状を呈しており、その上端部には径方向内方に延び出す内フランジ状部が74形成されている。また、固定金具72の軸方向下側の内周面乃至は下端縁部にダイヤフラム70の外周縁部が加硫接着されていると共に、固定金具72の軸方向中間部分乃至は上側の内周面にはダイヤフラム70と一体成形された薄肉のシールゴム層76が全面に亘って加硫接着されている。
【0045】
固定金具72が仕切部材30の下端部から軸方向に外挿されると共に、固定金具72に縮径加工が施されて、固定金具72が仕切部材30の軸方向下側部分に嵌着固定されることによって、ダイヤフラム70が仕切部材30に対して固定的に組み付けられている。なお、固定金具72の仕切部材30に対する軸方向の挿入端は、ダイヤフラム70の外周部分が仕切部材本体32の下端部分の外周側に重ね合わせることによって規定されている。また、固定金具72の縮径加工による変形に伴い、固定金具72の上端部に形成された内フランジ状部74が、仕切部材本体32の第二の係止溝38に対して係合せしめられていることにより、ダイヤフラム70が、仕切部材30延いては第二の取付金具14に対して軸方向に位置決め固定されている。上述の説明からも明らかなように、本実施形態では、ダイヤフラム70が、仕切部材30を介して第二の取付金具14に固定的に支持せしめられていると共に、第二の取付金具14の下方の開口部が、仕切部材30およびダイヤフラム70によって流体密に閉塞されている。
【0046】
このようにして仕切部材30とダイヤフラム70が第一及び第二の取付金具12,14を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に組み付けられることにより、仕切部材30を挟んだ軸方向一方(図1中、上)の側において、本体ゴム弾性体16の大径凹所24が仕切部材30で閉塞された領域には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて振動入力時に圧力変動が生ぜしめられる受圧室78が形成されている。また、仕切部材30を挟んだ軸方向他方(図1中、下)の側において、固定金具72の開口が仕切部材30で閉塞された固定金具72の内側領域には、壁部の一部がダイヤフラム70で構成されて容積変化が容易に許容される平衡室80が形成されている。これら受圧室78と平衡室80には、非圧縮性流体が封入されている。封入される非圧縮性流体としては、例えば水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油等が採用されるが、特に流体の共振作用等の流動作用に基づく防振効果を有効に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。また、受圧室78や平衡室80への非圧縮性流体の封入は、例えば、第一及び第二の取付金具12,14を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に対する仕切部材30やダイヤフラム70の組み付けを非圧縮性流体中で行うことによって、好適に実現される。更に好適には、仕切部材30とダイヤフラム70が、同時に非圧縮性流体中で本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に組み付けられることにより、大径凹所24や固定金具72の内側等に空気が残留する問題が解消されて、残留空気に起因する受圧室78や平衡室80での気泡の発生が抑えられる。
【0047】
仕切部材30が第二の取付金具14に組み付けられることに伴い、仕切部材30の上部外周面が、第二の取付金具14に被着されたシールゴム層26を介して第二の取付金具14の内周面に流体密に重ね合わされることによって、仕切部材30の周溝40の上側溝部が流体密に閉塞されている。更に、ダイヤフラム70の固定金具72が仕切部材30に組み付けられることに伴い、仕切部材30の下部外周面が、固定金具72に被着されたシールゴム層76を介して固定金具72の内周面に流体密に重ね合わされることによって、仕切部材30の周溝40の下側溝部が流体密に閉塞されている。これにより、第二の取付金具14の内周面や固定金具72の内周面、周溝40の壁面が協働して、仕切部材30の外周部分を周方向に所定の長さで延びる第一のオリフィス通路82が形成されている。第一のオリフィス通路82の一方の端部が、仕切部材本体32の連通窓44および上板金具34の連通窓66を通じて受圧室78に接続されていると共に、第一のオリフィス通路82の他方の端部が、仕切部材本体32の連通窓46を通じて平衡室80に接続されている。それによって、受圧室78と平衡室80が第一のオリフィス通路82を通じて相互に連通せしめられて、それら両室78,80間で、第一のオリフィス通路82を通じての流体流動が許容されるようになっている。
【0048】
また、仕切部材30に設けられた弁収容領域68は、上板金具34の透孔64を通じて受圧室78に連通されていると共に、仕切部材本体32の連通孔52を通じ平衡室80に連通されており、その弁収容領域68には、受圧室78や平衡室80と同様に非圧縮性流体が封入されている。
【0049】
ここで、弁収容領域68には、弁体としての弁金具84が収容配置されている。弁金具84は、鉄やケイ素鋼等の強磁性材料を用いて形成されていると共に、軸方向に延びる円柱形状の中軸構造とされている。弁金具84の外径寸法が、弁収容領域68の横寸法となる弁体案内孔48の径寸法に比して僅かに小さくされている。
【0050】
特に本実施形態では、弁金具84の上端部分の中央に、弁金具84よりも小形の円柱形状の当接突部86が一体形成されており、軸方向上方に向かって延びている。この当接突部86を備えた弁金具84の高さ寸法が、弁収容領域68の縦寸法となる弁体案内孔48の高さ寸法に比して、所定の大きさだけ小さくされている。
【0051】
さらに、弁金具84の外周面には、周方向に離隔して複数の連通溝88が形成されている。連通溝88は外周面に開口する略一定の凹状断面で軸方向に連続に延びており、弁金具84の上端部分と下端部分の両面に開口している。特に本実施形態では、同一の形状や大きさの3つの連通溝88,88,88が、弁金具84の外周面上で等間隔に形成されている。
【0052】
かかる弁金具84が弁収容領域68を構成する弁体案内孔48の開口部から軸方向に内挿され、弁収容領域68の周壁部に沿って延びるように配設されている。これにより、弁金具84が、弁収容領域68延いては弁収容領域68の周壁部の周りに設けられたコイル部材54と略同軸的に位置決め配置されている。なお、弁収容領域68(弁体案内孔48)の周壁部と弁金具84の外周面の間には、全周にわたって微小な隙間が形成されており、かかる隙間の存在によって弁金具84の軸方向変位等が好適に許容されるようになっているが、隙間を通じての流体流動はほとんど生ぜしめられないように、隙間の大きさ、即ち弁収容領域68の周壁部と弁金具84の間の離隔距離が設定されている。
【0053】
また、弁金具84の当接突部86が、上板金具34において弁収容領域68の壁部の一部を構成する透孔64の内側の中央部分と軸方向に対向位置せしめられていると共に、弁金具84の下端部が、仕切部材本体32において弁収容領域68の壁部の一部を構成する弁座50と軸方向に対向位置せしめられており、弁金具84の全長が弁収容領域68の高さ寸法に比して小さくされていることによって、弁金具84が弁収容領域68において軸方向に変位可能に収容配置されている。
【0054】
特に、弁金具84の弁収容領域68への配設状態下において、弁金具84の外周面に形成された連通溝88が、弁座50に形成された連通孔52と軸方向で互いに投影しない位置に配されている一方、上板金具34に形成された透孔64を構成する通孔の適数個と軸方向で投影する位置に配されている。
【0055】
ここにおいて、受圧室78と平衡室80は、上板金具34の透孔64や弁収容領域68、弁金具84の連通溝88、弁座50の連通孔52を通じて相互に連通せしめられており、本実施形態では、受圧室78と平衡室80を相互に連通する第二のオリフィス通路92が、それら透孔64、弁収容領域68、複数の連通溝88および連通孔52によって構成されている。また、中実構造の弁金具84においてオリフィス通路92を構成する部位は、複数の連通溝88だけとされている。
【0056】
特に本実施形態では、第一のオリフィス通路82を通じて流動せしめられる流体の共振周波数が、例えば、該流体の共振作用に基づいてエンジンシェイク等に相当する10Hz前後の低周波数域の振動に対して有効な防振効果(高減衰効果)が発揮されるようにチューニングされている。一方、第二のオリフィス通路92を通じて流動せしめられる流体の共振周波数が、例えば該流体の共振作用に基づいてアイドリング振動や低速こもり音等に相当する20〜40Hz程度の中周波数域乃至は高周波数域の振動に対して有効な防振効果が得られるようにチューニングされている。即ち、第二のオリフィス通路92のチューニング周波数が、第一のオリフィス通路82のチューニング周波数に比して高周波数域に設定されている。これら第一のオリフィス通路82や第二のオリフィス通路92のチューニングは、例えば、受圧室78や平衡室80の各壁ばね剛性、即ちそれら各室78,80を単位容積だけ変化させるのに必要な圧力変化量に対応する本体ゴム弾性体16やダイヤフラム70等の各弾性変形量に基づく特性値を考慮しつつ、各オリフィス通路82,92の通路長さと通路断面積を調節することによって行うことが可能であり、一般に、オリフィス通路82,92を通じて伝達される圧力変動の位相が変化して略共振状態となる周波数を、それらオリフィス通路82,92のチューニング周波数として把握することが出来る。
【0057】
また、弁収容領域68における上板金具34と弁金具84の軸方向間には、付勢手段(付勢スプリング)としてのコイルスプリング94が配設されている。コイルスプリング94の一方(図1中、下)の端部が、弁金具84の当接突部86に外挿されて、弁金具84の当接突部86周りの上端面に軸方向に重ね合わされていると共に、軸直角方向で当接突部86に重ね合わされている。即ち、コイルスプリング94が、当接突部86によって弁金具84と同一中心軸上に配されるように軸直角方向に位置決めされている。また、コイルスプリング94の他方(図1中、上)の端部が、上板金具34の透孔64の周りに重ね合わされており、本実施形態では、上板金具34と弁金具84の間で予圧縮された状態で配設されている。
【0058】
弁金具84がコイルスプリング94により軸方向下方に向かって付勢されて、弁座50に対して軸方向上方から押し当てられることにより、弁金具84の弁収容領域68における変位方向(本実施形態ではマウント軸方向)の一方(図1中、下)の変位端が規定されるようになっている。ここで、弁座50の連通孔52と弁金具84に形成された連通溝88は、軸方向で互いに投影しない位置に、換言すると径方向で互いに異なる位置に設けられていることから、弁金具84の下端部が弁座50に重ね合わせられた状態下、連通孔52が弁金具84の中央部分によって閉塞せしめられていると共に、連通溝88が弁座50の連通孔52よりも径方向外側の径方向中間部分乃至は外周部分によって閉塞せしめられている。
【0059】
従って、コイル58に通電せずに、コイルスプリング94の付勢力に基づき弁金具84が弁座50に重ね合わされた状態において、弁金具84の連通溝88および弁座50の連通孔52の閉塞に伴い、弁収容領域68と平衡室80が弁座50と弁金具84によって流体密に仕切られており、第二のオリフィス通路92が遮断状態とされるようになっている。なお、第二のオリフィス通路92の遮断状態は、受圧室78と平衡室80の間で第二のオリフィス通路92を通じての流体流路による流体流動作用が有効に生ぜしめられない状態をいう。上述の説明からも明らかなように、弁体案内孔48の端部内面が、弁座50の上端面を含んで構成されている。
【0060】
一方、コイル58に対して電源装置62から通電されると、コイル部材54と強磁性材で形成された弁金具84の間に発生する磁力によって、弁金具84がコイルスプリング94による付勢力に抗して弁体案内孔48に沿って軸方向上方に吸引変位せしめられるようになっている。
【0061】
かかる弁金具84の吸引変位によって、下端部が弁座50から軸方向上方に離隔せしめられることから、弁金具84の連通溝88および弁座50の連通孔52が連通状態とされて、弁収容領域68と平衡室80が相互に連通せしめられる。その結果、第二のオリフィス通路92が連通状態とされて、受圧室78と平衡室80の間で第二のオリフィス通路92を通じての流体流路による流体流動作用が有効に生ぜしめられる状態になる。
【0062】
要するに、コイル58への電力供給を制御することにより、弁金具84を弁座50に対して接近方向と離隔方向に変位せしめることが出来て、第二のオリフィス通路92の遮断状態と連通状態を切り換えることが可能となっている。
【0063】
特に本実施形態では、コイル58への通電による磁界の作用で弁金具84が弁座50から離隔せしめられると、弁金具84の当接突部86が上板金具34の中央部分に当接する位置にまで吸引変位せしめられるようになっており、更にかかる当接状態を維持するように、コイル58への電力供給を制御している。即ち、上板金具34において当接突部86と当接する、コイルスプリング94の端部を支持する部位よりも径方向内側の部位が、ストッパ96として構成されており、当接突部86が仕切部材30のストッパ96に当接することで、弁金具84の弁収容領域68における変位方向の他方(図1中、上)の変位端が規定され、しかもかかる当接状態が維持されることで、第二のオリフィス通路92が連通状態に保持されるのである。
【0064】
さらに、本実施形態では、受圧室78の圧力が、上板金具34の透孔64を通じて、弁金具84の変位方向の他方(図1中、上)に向かう、当接突部86および弁金具84の上端面に及ぼされるようになっている一方、平衡室80の圧力が、仕切部材本体32の連通孔52を通じて、弁金具84の変位方向の一方(図1中、下)に向かう下端面に及ぼされるようになっている。そして、コイル58に通電せずに、コイルスプリング94の付勢力に基づき弁金具84が弁座50に重ね合わされて、第二のオリフィス通路92を遮断せしめた状態において、衝撃的に大きな振動が入力されること等により受圧室78に大きな負圧が発生して、受圧室78と平衡室80の相対的な圧力差が大きくなると、前述の弁金具84の両面や当接突部86の上端面に受圧室78の過負圧作用が及ぼされることにより、弁金具84がコイルスプリング94による付勢力に抗して弁座50から離隔して、第二のオリフィス通路92を連通状態とするようになっている。要するに、コイル58の非通電状態下、受圧室78が過負圧状態になると、コイル58に通電せずとも、弁金具84が変位して、第二のオリフィス通路92が連通せしめられるのであり、それによって、受圧室78と平衡室80が第二のオリフィス通路92を通じて短絡せしめられて、受圧室78の過負圧状態が通常の圧力状態に移行するのである。
【0065】
上述の如き構造とされた自動車用エンジンマウント10においては、自動車の走行時に、外部の電源装置62によるコイル58への通電を行わないことで、コイルスプリング94の付勢力で弁金具84が弁座50に当接する状態が維持せしめられて、第二のオリフィス通路92が遮断状態に維持されるようになっている。これにより、自動車の走行時に問題となるエンジンシェイクが入力されると、第二のオリフィス通路92を通じての圧力漏れが阻止されて、受圧室78と平衡室80の相対的な圧力差に基づいて第一のオリフィス通路82を通じての流体流動が有効に生ぜしめられることとなり、受圧室と平衡室90の間で流動せしめられる流体の共振作用等の流動作用に基づいて防振効果が有利に発揮される。
【0066】
一方、自動車の停車時には、電源装置62によって外部からコイル58に給電されるようになっており、コイル58が磁場を形成することによって、弁金具84が磁力の作用により軸方向上方に向かって吸引変位されるようになっている。そして、図2にも示されているように、弁金具84の下端部が弁座50から軸方向上方に離隔せしめられると共に、弁金具84の当接突部86が仕切部材30のストッパ96に当接することにより、弁座50に形成された連通孔52や弁金具84に形成された連通溝88が何れも連通せしめられた状態に保持されて、第二のオリフィス通路92の連通状態が保持されている。これにより、自動車の停車状態で、第一のオリフィス通路82のチューニング周波数よりも高周波数域において問題となるアイドリング振動当が入力された際に、第一のオリフィス通路82を通じての流体流動作用が実質的に生ぜしめられない一方、第二のオリフィス通路92を通じての流体流路による共振作用等の流動作用が有効に生ぜしめられて、かかる流動作用に基づき優れた防振効果が得られる。
【0067】
特に本実施形態では、弁金具84とコイル部材54からなるソレノイドアクチュエータが仕切部材30に設けられていることから、ソレノイドアクチュエータを収容配置するハウジングを特別に新たに設ける必要がなくなり、それによって、部品点数の削減に基づき低コスト化が有利に図られ得ることに加え、マウント10のコンパクト化が有利に図られ得る。
【0068】
また、本実施形態では、弁金具84が、コイル58の通電によりコイルスプリング94の付勢力に抗して第二のオリフィス通路92を遮断する一方の変位側から第二のオリフィス通路92を連通する他方の変位側に向けて変位せしめられて、ストッパ96に当接することにより、弁金具84の他方の変位端が規定される。それによって、第二のオリフィス通路92の遮断状態が安定して保持されることから、例えばストッパ96を設けずに弁金具を弁座から離隔せしめるだけで第二のオリフィス通路の連通状態を保持するようにした構造のエンジンマウントに比して、連通状態を保持するのに必要な電力の最小値が容易に設定されるのであって、使用コストの削減が有利に図られ得る。
【0069】
そこにおいて、本実施形態に係る自動車用エンジンマウント10では、第二のオリフィス通路92の一部を構成する連通溝88が、弁金具84において周方向寸法の大きな外周面に形成されていることから、例えば弁金具84の内側に貫設された通孔だけで第二のオリフィス通路92を構成する場合に比して、第二のオリフィス通路92の通路断面積が十分に確保される。
【0070】
これにより、例示の如くマウントの軸直角方向のサイズに比して弁金具84の軸直角方向サイズを小さくした場合においても、第二のオリフィス通路92のチューニング自由度が充分に確保されて、第二のオリフィス通路92を通じての流体の流動作用に基づく防振効果が有利に発揮され得る。また、弁金具84の小形化に伴い弁体案内孔48を小さくして、コイル部材54と弁金具84の間の微小ギャップを有効に確保しつつ、コイル58の通電による磁界の作用を効果的に生ぜしめることも可能となることに加えて、弁金具84の小形化による軽量化に基づき、消費電力の削減化乃至はソレノイドの小形化が有利に図られ得る。
【0071】
それ故、本実施形態に係る自動車用エンジンマウント10においては、弁金具84やコイル部材54、それらを収容配置する仕切部材30、仕切部材30を支持する第二の取付金具14の軸直角方向サイズ等がスリムとなり、マウントが有利に小型化されるのである。
【0072】
しかも、本実施形態では、コイルスプリング94によって弁金具84に及ぼされる付勢力が適当に調節されており、大振幅振動の入力によって受圧室78に大きな負圧が生じた場合には、コイルスプリング94の付勢力に基づき弁座50に当接状態にある弁金具84が、負圧の作用によってコイルスプリング94の付勢力に抗して弁座50から離隔せしめられるようになっている。これにより、コイル58の通電により弁金具84を吸引変位せしめなくとも、第二のオリフィス通路92が連通状態とされて、第二のオリフィス通路92を通じての流体流動により受圧室78の圧力と平衡室80の圧力が速やかに平衡状態とされるようになっている。それ故、受圧室78の過大な負圧に起因すると考えられるキャビテーションによる異音や振動の発生が有利に抑えられる。
【0073】
特に本実施形態では、弁金具84に中実構造が採用されていることによって、弁金具84が小形ながらも、駆動安定性に必要な質量が好適に確保されていることに加えて、弁金具84の外周面に3つの連通溝88,88,88が等間隔に形成されていることによって、弁金具84の質量バランスの偏りが抑えられている。それ故、弁金具84の駆動変位が安定して、第二のオリフィス通路の遮断状態と連通状態が確実に切り換えられると共に、前述の受圧室78の過負圧作用に伴う弁金具84の駆動変位も安定して、キャビテーションの問題が一層効果的に抑えられるのである。
【0074】
以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、かかる実施形態における具体的な記載によって、本発明は、何等限定されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様で実施可能であり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【0075】
例えば、弁金具84や仕切部材30、第一のオリフィス通路82、第二のオリフィス通路92、コイル部材54、コイルスプリング94等における形状や大きさ、構造、数、配置等の形態は、例示の如き形態に限定されるものではない。
【0076】
具体的に前記実施形態では、弁金具84として中実構造のものが採用されていたが、例えば有底円筒形状の弁金具を採用して、弁金具の筒状部の外周面に連通溝を形成する一方、仕切部材のストッパに当接する部分を筒状部の開口端部または弁金具の底板部等で構成することも可能である。また、必要に応じて弁金具の底板部や筒状部の内周面等に第二のオリフィス通路の一部を構成する孔や溝を形成することも可能である。更に、コイルスプリングの一方の端部を筒状部に内挿して、筒状部によってコイルスプリングを弁金具に対して軸直角方向に位置決めするようにしても良い。
【0077】
また、前記実施形態では、弁金具84において第二のオリフィス通路92を構成する部位が、外周面に形成された連通溝88だけとされていたが、例えば中心軸上に通孔を貫設して、連通溝と共に第二のオリフィス通路を構成することも可能である。
【0078】
さらに、前記実施形態における連通溝88は、弁金具84の変位方向となる軸方向に一定の断面形状で延びていたが、変位方向で断面の大きさを異ならせたり、連通溝を変位方向に対して傾斜させたり、或いは連通溝が変位方向で湾曲したり屈曲したりしていても良い。
【0079】
更にまた、前記実施形態では、複数の連通溝88に、形状や大きさ、構造等の規格が同じものを採用していたが、それぞれ規格の異なるものを採用しても良いことは勿論である。また、複数の連通溝88を弁体の外周面上で必ずしも等間隔に形成する必要はない。
【0080】
また、前記実施形態では、仕切部材30と弁金具84の間に配されたコイルスプリング94により弁金具84を一方向に付勢して、第二のオリフィス通路92を遮断状態とする一方、ソレノイドアクチュエータによる駆動力により弁金具85をコイルスプリング94の付勢力に抗して他方に向けて変位させることで、第二のオリフィス通路92を連通状態としていたが、それら弁金具の変位に基づく第二のオリフィス通路の連通状態と遮断状態を、互いに逆に設定することも可能である。
【0081】
また、例えば、本出願人が先に出願した特願2007−11253号の明細書および図面等にも示されているように、仕切部材の下側凹所の開口部を覆蓋するようにして弾性変形可能な可動ゴム膜を配設し、可動ゴム膜の固有振動数を、第二のオリフィス通路のチューニング周波数と同様に、自動車の問題となる中乃至高周波数域にチューニングすることによって、アイドリング振動の入力時に第二のオリフィス通路を通じての流体流動が、可動ゴム膜の共振作用によって有利に実現されるようにしても良い。
【0082】
また、前記実施形態では、コイル58の周りに強磁性材で形成されたヨーク56が配されているが、ヨークは必ずしも必要ではなく、例えば、コイルが非磁性の合成樹脂材料で形成されたボビンに組み付けられた状態で仕切部材の内部に配設される等しても良い。
【0083】
また、仕切部材30は、必ずしも外周面の一部が外部に露出されている必要はなく、例えば、筒状とされた第二の取付金具の内周側に圧入されることにより、第二の取付金具に組み付けられるようになっていても良い。
【0084】
加えて、前記実施形態では、本発明を自動車用エンジンマウントに適用したものの具体例について説明したが、本発明は、自動車用ボデーマウントやデフマウント等の他、自動車以外の各種振動体の防振装置に対して、何れも、適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の一実施形態としての自動車用エンジンマウントの縦断面図。
【図2】図1のII―II断面図。
【図3】同自動車用エンジンマウントの一作動状態を示す縦断面図。
【符号の説明】
【0086】
10:自動車用エンジンマウント、12:第一の取付金具、14:第二の取付金具、16:本体ゴム弾性体、30:仕切部材、48:弁体案内孔、52:連通孔、54:コイル部材、58:コイル、64:透孔、68:弁収容領域、70:ダイヤフラム、78:受圧室、80:平衡室、82:第一のオリフィス通路、84:弁金具、88:連通溝、92:第二のオリフィス通路、94:コイルスプリング、96:ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーユニットと車両ボデーの一方に取り付けられる第一の取付部材と、該パワーユニットと該車両ボデーの他方に取り付けられる第二の取付部材とを本体ゴム弾性体で連結して、該第二の取付部材で支持された仕切部材を挟んだ両側に、壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室を形成して、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、該受圧室と該平衡室を相互に連通せしめる第一のオリフィス通路と第二のオリフィス通路を該仕切部材にそれぞれ形成して、該第一のオリフィス通路よりも該第二のオリフィス通路を高周波数域にチューニングする一方、該第二のオリフィス通路を連通させる連通位置と遮断させる遮断位置とに変位せしめられる弁体と、該弁体を駆動するソレノイドアクチュエータを設けた流体封入式エンジンマウントにおいて、
前記第二のオリフィス通路を通じての流体流路上に弁体案内孔を形成すると共に、前記弁体を強磁性材で形成して該弁体を該弁体案内孔に変位可能に収容配置する一方、該弁体を変位方向の片方に付勢する付勢手段を設けると共に、該弁体の周りにソレノイドを配設して該ソレノイドへの通電により該弁体を該付勢手段による付勢方向と反対側に変位させる前記ソレノイドアクチュエータを構成し、更に、該弁体の外周面において変位方向の全長に亘って延びる連通溝を形成して、該弁体が変位方向の一方の側で該弁体案内孔の端部内面に当接して該連通溝が閉塞されるようにする一方、該弁体が変位方向の他方の側で該連通溝が連通状態とされて該第二のオリフィス通路を構成するようにしたことを特徴とする流体封入式エンジンマウント。
【請求項2】
前記弁体が中実構造とされており、前記連通溝だけによって前記第二のオリフィス通路が構成されている請求項1に記載の流体封入式エンジンマウント。
【請求項3】
前記弁体における変位方向の他方の側の端面に当接突部を設けて、該弁体の該他方の側への変位端で該当接突部が前記弁体案内孔の端部内面に当接することにより前記連通溝が開口状態に維持されるようにすると共に、前記付勢手段としての圧縮コイルスプリングを該弁体における該他方の側の端面と該弁体案内孔の端部内面との間に配設して該当接突部によって位置決めした請求項1又は2に記載の流体封入式エンジンマウント。
【請求項4】
前記弁体が円筒外周面形状を有しており、該弁体の外周面上で周方向に等間隔に位置して前記連通溝が複数設けられている請求項1乃至3の何れか一項に記載の流体封入式エンジンマウント。
【請求項5】
前記弁体案内孔において前記第二のオリフィス通路の前記受圧室側から前記平衡室側に向けて前記弁体が前記付勢手段で付勢されている一方、該付勢手段による付勢方向側の変位端で該弁体が該弁体案内孔の端部内面に当接して前記連通溝が閉塞されると共に、該受圧室と該平衡室の圧力が該弁体の変位方向の各一方の面に及ぼされるようになっており、振動入力時に該受圧室に発生する負圧によって該弁体が該付勢手段による付勢力に抗して変位せしめられて該連通溝が連通状態とされるようになっている請求項1乃至4の何れか一項に記載の流体封入式エンジンマウント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−52589(P2009−52589A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217468(P2007−217468)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】