説明

流体封入式防振装置

【課題】装置本体に対して取り外し可能とされたオリフィス部材によってオリフィス通路の一部を構成した流体封入式防振装置において、高周波小振幅振動に対する優れた防振効果を得ることの出来る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供すること。
【解決手段】第一の取付部材12にオリフィス部材84を組み付けてオリフィス通路104を形成すると共に、該オリフィス通路104の外側開口部分100に平衡室92を形成し、更に、該オリフィス通路104の受圧室76への開口部分38を、本体ゴム弾性体16の中心軸36上で該受圧室76に向かって直線的に延びるように形成すると共に、第二の取付部材14の中央部分に設けたゴム弾性膜で可動膜74を構成し、該可動膜74を該開口部分38に対して該本体ゴム弾性体16および該受圧室76の中心軸36上で対向位置せしめた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用エンジンマウント等として用いられて、内部に封入された非圧縮性流体の流動作用を利用して防振効果を得るようにした流体封入式防振装置に係り、特に、装置本体に対して取り外し可能とされたオリフィス部材によってオリフィス通路の一部を構成した流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に装着される防振連結体や防振支持体の一種として、流体封入式の防振装置が知られている。このような防振装置は、一般に、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結せしめて、本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成された受圧室と、変形容易な可撓性膜で壁部の一部が構成された平衡室を設けて、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入した構造とされている。そして、第一の取付部材と第二の取付部材の間への振動入力時に受圧室と平衡室の間に惹起される相対的な圧力変動に基づいて、それら受圧室と平衡室を相互に連通するようにして形成されたオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて防振効果を発揮し得るようになっている。
【0003】
特に近年では、そのような流体封入式防振装置において、例えば特許文献1に記載されているように、防振対象部材と一体的に振動せしめられるオリフィス部材を本体ゴム弾性体の上方に取り外し可能に配設すると共に、かかるオリフィス部材で平衡室の壁部の一部を構成する一方、オリフィス部材に形成された狭窄流路を用いて受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路の一部を構成した流体封入式防振装置が提案されている。このような構造によれば、受圧室と平衡室を仕切るために装置本体内に配設される仕切部材が不要とされることから、より簡易な構造を実現することが出来て、製造コストの軽減も図られ得る。更に、オリフィス部材が取り外し可能とされて容易に交換可能であることから、異なる形状の狭窄流路を有するオリフィス部材に付け替えることによって、防振特性をより容易且つ高精度にチューニングすることが出来る。
【0004】
ところが、特許文献1に記載の如き流体封入式防振装置においては、オリフィス通路を流れる流体が少量であっても流速が大きいことから良好なオリフィス効果を得られる反面、高周波の振動が入力された場合における反共振の影響も大きい。従って、オリフィス通路のチューニング周波数を超えた高周波小振幅振動が入力された場合には、反共振による著しい高動ばね化に起因して、良好な防振効果が得られ難いという問題があった。
【0005】
このような問題に対処するために、特許文献1には、オリフィス通路の平衡室側の開口部と平衡室との間にゴム弾性膜を配設して、かかるゴム弾性膜の微小変位や変形によって小振幅振動を吸収する構造が提案されている。しかし、高周波小振幅振動の入力時には、受圧室とゴム弾性膜との間に介在せしめられたオリフィス通路が実質的な閉塞状態とされていることから、受圧室の微小圧力変動がゴム弾性膜の配設位置まで伝達され難く、ゴム弾性膜による液圧吸収効果が十分に得られないというおそれを有しており、高周波小振幅振動に対する防振効果としては未だ十分とは言えなかったのである。
【0006】
【特許文献1】特表2006−505751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、装置本体に対して取り外し可能とされたオリフィス部材によってオリフィス通路の一部を構成した流体封入式防振装置において、高周波小振幅振動に対する優れた防振効果を得ることの出来る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、前述の如き課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0009】
すなわち、本発明の第一の態様は、大径側端面に開口する中央凹所を有する円錐台形状の本体ゴム弾性体に対して、その小径側端部に第一の取付部材を固着する一方、その大径側端部に第二の取付部材を固着して該中央凹所を覆蓋することにより受圧室を形成すると共に、該第一の取付部材にオリフィス部材を組み付けて、該受圧室から該第一の取付部材側に延び出すオリフィス通路を該オリフィス部材を利用して形成し、更に該オリフィス部材における該オリフィス通路の外側開口部分に壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室を形成して、振動入力時に該受圧室と該平衡室の間で該オリフィス通路を通じての流体流動が生ぜしめられるようにした流体封入式防振装置において、前記オリフィス通路の前記受圧室への開口部分を、前記本体ゴム弾性体の中心軸上で該受圧室に向かって直線的に延びるように形成すると共に、前記第二の取付部材の中央部分に窓部を設けると共に該窓部をゴム弾性膜で閉塞せしめて可動膜を構成し、該可動膜を該オリフィス通路の該受圧室への開口部分に対して該本体ゴム弾性体および該受圧室の中心軸上で対向位置せしめたことを、特徴とする。
【0010】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、オリフィス通路がチューニングされた低周波数域の振動が入力された場合には、オリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が発揮される。一方、オリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波数域の振動が入力された場合には、受圧室の圧力変動をゴム弾性膜の微小な弾性変形によって軽減乃至は解消することが出来る。これにより、オリフィス通路の反共振現象としての実質的な閉塞化に起因する著しい高動ばね効果を回避することが出来て、高周波小振幅振動に対しても有効な防振効果を得ることが出来る。
【0011】
そして、特に本態様においては、オリフィス通路の受圧室への開口部分とゴム弾性膜が、本体ゴム弾性体および受圧室の中心軸上に配設されていることから、オリフィス通路の受圧室への開口部分から流動せしめられる流体の液圧をゴム弾性膜に対してより有効に及ぼすことが出来て、ゴム弾性膜の微小変位に基づく液圧吸収作用によって、受圧室の圧力変動をより有利に軽減乃至は解消することが出来る。これにより、高周波小振幅振動に対するより優れた防振効果を得ることが可能とされるのである。
【0012】
なお、このようにオリフィス通路の受圧室への開口部分とゴム弾性膜を対向配置したことに因って発揮される、ゴム弾性膜による液圧吸収作用乃至は低動ばね作用の向上効果は、未だ十分に理論的に解明されていないが、次のように推考できる。即ち、入力振動がオリフィス通路のチューニング周波数域より高周波数域とされてオリフィス通路の流体流通抵抗が著しく大きくなった状態では、第一の取付部材と第二の取付部材の間への入力振動に対する受圧室の圧力変動の位相が反転して逆相となる。それ故、かかる状態下では、入力振動に対して逆相でオリフィス通路に惹起される僅かな流体流動に基づく受圧室の圧力変動を、オリフィス通路の受圧室への開口部分に対して対向配置せしめたゴム弾性膜に対して効率的に及ぼすことにより、オリフィス通路を通じての流体流動に起因して受圧室に惹起されるより一層の圧力変動を低減することが出来る。即ち、オリフィス通路を逆相で流動せしめられる流体の圧力変動が受圧室の周壁部に及ぼされることで一層の高動ばね化が惹起されるが、オリフィス通路の受圧室への開口部分がゴム弾性膜に対向位置せしめられていることにより、オリフィス通路を逆相で流動せしめられる流体によって受圧室に及ぼされる圧力変動がゴム弾性膜に対して特に集中的に作用せしめられる結果、ゴム弾性膜の弾性変形に基づくオリフィス通路を逆相で流動せしめられる流体の圧力変動が、受圧室の壁部の周壁部に及ぼされる前の段階で、速やかに且つ効率的に吸収、低減される。その結果、受圧室の圧力低減が効率的に図られて、防振装置の高動ばね化に起因する防振性能の低下が軽減されるものと考えられるのである。
【0013】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る流体封入式防振装置において、前記ゴム弾性膜の面積が前記オリフィス通路の前記受圧室への開口部分の開口面積よりも大きくされており、該開口部分の全体が、前記本体ゴム弾性体の中心軸上で該ゴム弾性膜に対向位置せしめられていることを、特徴とする。本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、オリフィス通路を逆相で流動せしめられる流体の圧力変動をゴム弾性膜で有効に吸収低減することが出来る。
【0014】
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係る流体封入式防振装置において、前記オリフィス通路の前記受圧室への開口部分が円形断面とされていると共に、該開口部分の内径寸法よりも大きな外径寸法を有する円板形状をもって前記ゴム弾性膜が形成されていることを、特徴とする。本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、ゴム弾性膜の面積がオリフィス通路の開口部分の面積よりも大きくされることによって、オリフィス通路を逆相で流動せしめられる流体の圧力変動をゴム弾性膜で有効に吸収低減することが出来る。更に、ゴム弾性膜が円板形状とされていることから、受圧室に及ぼされる圧力変動に基づくゴム弾性膜の弾性変形を、ゴム弾性膜の周方向で略均等に生ぜしめることが出来て、ゴム弾性膜の弾性変形に基づく液圧吸収作用をより安定して得ることが出来る。
【0015】
本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の何れか一つの態様に係る流体封入式防振装置において、前記ゴム弾性膜は、その内面が全体に亘って前記受圧室に直接に晒されて、前記オリフィス通路の前記受圧室への開口部分に対して直接に対向位置せしめられていると共に、該ゴム弾性膜の外面の全体に亘って大気圧が及ぼされるようになっていることを、特徴とする。本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、ゴム弾性膜の表面がより容易に変形せしめられることから、ゴム弾性膜の低動ばね効果を一層有利に得ることが出来て、低動ばね効果に基づく液圧吸収作用を一層有利に得ることが出来る。
【0016】
本発明の第五の態様は、前記第一乃至第四の何れか一つの態様に係る流体封入式防振装置において、前記本体ゴム弾性体における前記中央凹所の底面には、その中央部分において前記オリフィス通路が開口せしめられていると共に、このオリフィス通路の開口周縁部において該中央凹所に向かって突出する環状突出部が設けられていることを、特徴とする。
【0017】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、オリフィス通路の受圧室への開口部分が、受圧室の内周面から受圧室の内方に向けて突出するような形状とされる。これにより、オリフィス通路の受圧室への開口部分とゴム弾性膜との離隔距離を小さく出来ることから、受圧室の圧力変動をより有利にゴム弾性膜に及ぼすことが出来る。また、環状突出部が設けられることによって、振動入力に伴う中央凹所の形状変化の影響を受け難くすることが出来て、オリフィス通路の開口部分の形状をより安定化することが出来る。これにより、オリフィス通路を流れる流体の流動量をより安定して確保することも出来る。
【0018】
本発明の第六の態様は、前記第一乃至第五の何れか一つの態様に係る流体封入式防振装置において、前記オリフィス部材が組み付けられるオリフィス組付部材の外周面に対して補強カップ金具がその開口部で重ね合わされて固着されていると共に、それらオリフィス組付部材と補強カップ金具で画成された内部にゴム弾性体が充填されることによって、前記第一の取付部材が形成されており、前記本体ゴム弾性体の中心軸上で該補強カップ金具が該オリフィス組付部材から前記受圧室に向かって突出位置せしめられていると共に、該補強カップ金具とその内部に充填された該本体ゴム弾性体を中心軸方向に貫通して前記受圧室から該オリフィス組付部材にまで直線的に延びるようにして、前記オリフィス通路の該受圧室への開口部分が形成されていることを、特徴とする。
【0019】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、振動入力時の本体ゴム弾性体の不規則な変形を抑えることが出来て、安定した防振効果を得ることが出来る。更に、オリフィス通路の受圧室への開口部分が補強カップ金具を貫通して形成されていることから、開口部形状を安定して保持することが出来る。それ故、開口部分を流動せしめられる流体の流動量を安定して確保することが出来ると共に、ゴム弾性膜に対して受圧室の圧力変動を安定して及ぼすことが出来る。
【0020】
本発明の第七の態様は、前記第一乃至第六の何れか一つの態様に係る流体封入式防振装置において、前記ゴム弾性膜の外周部分を取り囲むようにして前記第二の取付部材から外方に突出する保護壁を設けたことを、特徴とする。本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、ゴム弾性膜を他部材の当接から保護することが出来る。
【0021】
本発明の第八の態様は、前記第一乃至第七の何れか一つの態様に係る流体封入式防振装置において、前記ゴム弾性膜を前記第二の取付部材から前記受圧室の内方へ入り込ませた位置に配設したことを、特徴とする。本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、オリフィス通路の受圧室への開口部分とゴム弾性膜との対向距離をより小さく出来ることから、ゴム弾性膜に対して受圧室の圧力変動をより有効に及ぼすことが出来て、ゴム弾性膜による液圧吸収効果をより有効に発揮することが出来る。
【0022】
本発明の第九の態様は、前記第一乃至第八の何れか一つの態様に係る流体封入式防振装置において、前記第一の取付部材が、前記本体ゴム弾性体の中心軸に対して直交する方向に延びる筒部材を含んで構成されており、この筒部材に対して前記オリフィス部材が嵌め入れられて組み付けられていると共に、該オリフィス部材の外周面に形成された凹溝が該筒部材で覆蓋されることで、該第一の取付部材の内部を湾曲や屈曲して延びるように前記オリフィス通路が形成されていることを、特徴とする。
【0023】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、オリフィス部材を第一の取付部材に対して容易に組み付けることが出来ると共に、オリフィス通路を容易に形成することが出来る。また、オリフィス部材に形成される凹溝の長さや断面積等の形状を調節することによって、オリフィス通路による防振特性を容易に調節することが出来る。
【0024】
本発明の第十の態様は、前記第九の態様に係る流体封入式防振装置において、前記第一の取付部材における一方の開口部が前記可撓性膜で覆蓋されることで前記平衡室が形成されていると共に、該可撓性膜で覆蓋された該第一の取付部材における一方の開口部に位置せしめられた前記オリフィス部材の端面において前記オリフィス通路が開口して該平衡室に接続されていることを、特徴とする。本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、平衡室を容易に形成することが出来る。
【0025】
本発明の第十一の態様は、前記第一乃至第十の何れか一つの態様に係る流体封入式防振装置において、前記防振対象部材の分担支持荷重が及ぼされた振動未入力時における前記オリフィス通路の前記受圧室への開口部分と前記ゴム弾性膜との対向面間距離:aと振動入力時における該開口部分の該ゴム弾性膜方向への最大変位量:bが、b<aとされていることを、特徴とする。
【0026】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、大振幅振動が入力されて、オリフィス通路の受圧室への開口部分とゴム弾性膜が接近せしめられた場合でも、開口部分とゴム弾性膜が衝突するようなことを防ぐことが出来る。なお、本態様においては、特に、b<a<2bとされることがより好ましい。このようにすれば、オリフィス通路の受圧室への開口部分とゴム弾性膜との衝突を防ぎつつ、開口部分とゴム弾性膜との距離が離れ過ぎることも回避されて、受圧室の圧力変動をゴム弾性膜に有効に及ぼすことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0028】
図1乃至図3に、本発明の一実施形態である流体封入式防振装置としての自動車用エンジンマウント10を示す。エンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16で連結されたマウント本体17に対して、図示しない防振対象部材としてのパワーユニットに取り付けられてパワーユニットと一体的に振動せしめられるオリフィス部材としてのアーム部材18が差し込まれることによって、第一の取付部材12がパワーユニット側に取り付けられる一方、第二の取付部材14がボデーに取り付けられることにより、パワーユニットをボデーに対して、他の図示しないエンジンマウント等と協働して防振支持せしめるようになっている。そして、そのような状態下、当該マウント10には、パワーユニットの分担支持荷重の入力により本体ゴム弾性体16が弾性変形することに伴って、第一の取付部材12と第二の取付部材14が図1中の上下方向に所定量だけ接近して相対変位せしめられると共に、防振すべき主たる振動が、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間に対して、図1中の略上下方向に入力されるようになっている。なお、本実施形態のエンジンマウント10は、その装着状態下で、図1に示すように、マウント中心軸が略鉛直方向とされており、以下の説明中では、特に断りのない限り、上下方向とは、図1中の上下方向をいうものとする。また、図1は、振動が入力されていない状態でパワーユニットの分担支持荷重が及ぼされて、第一の取付部材12が第二の取付部材14に対する接近方向に所定量だけ変位せしめられた状態を示す。
【0029】
より詳細には、第一の取付部材12は、筒形状を有するオリフィス組付部材としての筒金具19において下方に位置せしめられた底部20の外面に、補強カップ金具としての第一のリテーナ金具22が固着されると共に、これら筒金具19と第一のリテーナ金具22で画成された内部に本体ゴム弾性体16が充填された構造とされている。
【0030】
筒金具19は、略一定の矩形断面形状をもってストレートに延びる略矩形筒形状を有しており、その底部20における中央部分には、円形断面をもって板厚方向に貫通する連通孔24が形成されている。一方、第一のリテーナ金具22は、上方開口部に向かって次第に拡開するテーパ状周壁部を備えており、開口周縁部において、筒金具19の底部20の外周面に固着されている。更に、第一のリテーナ金具22の底面には、円形断面をもって板厚方向に貫通する連通孔26が形成されており、第一のリテーナ金具22は、その連通孔26が、筒金具19に形成された連通孔24と同一中心軸上となる位置に位置決めされた状態で、筒金具19に固着されている。なお、第一のリテーナ金具22に形成された連通孔26の径寸法は、筒金具19に形成された連通孔24の径寸法よりも僅かに小さくされている。
【0031】
そして、筒金具19および第一のリテーナ金具22に対して本体ゴム弾性体16が加硫接着されている。本体ゴム弾性体16は、大径の略円錐台形状とされており、その中央部分には、大径側端面に開口する大きな肉抜上の中央凹所としての円形凹所28が形成されている。円形凹所28は、全体として下方に向かって次第に拡径して本体ゴム弾性体16の大径側端面に開口する有底の逆向き円形穴とされている。特に本実施形態においては、円形凹所28は、軸方向中間部分に水平方向で外径方向に広がる拡径部30が形成された段付形状とされており、かかる拡径部30の上方に小径凹所32が形成される一方、下方に小径凹所32よりも大径の大径凹所34が形成されている。また、それら小径凹所32および大径凹所34のそれぞれの下端縁部は、一定の径寸法をもって軸方向に延びる円筒形状とされている。これにより、本体ゴム弾性体16は、全体として厚肉の略逆カップ形状とされている。
【0032】
そして、本体ゴム弾性体16の軸方向上方の小径側端面に筒金具19が、本体ゴム弾性体16の中心軸36に対して直交する方向に延びる状態で重ね合わされて、かかる筒金具19および第一のリテーナ金具22に対して本体ゴム弾性体16が加硫接着されている。ここにおいて、第一のリテーナ金具22の内部にも、本体ゴム弾性体16が充填されており、本実施形態においては、筒金具19と第一のリテーナ金具22、およびこれら筒金具19と第一のリテーナ金具22によって画成された内部に本体ゴム弾性体16によって、第一の取付部材12が構成されている。そして、かかる第一の取付部材12が、本体ゴム弾性体16の小径側端部に固着されることとなり、第一のリテーナ金具22が、本体ゴム弾性体16の中心軸36上で筒金具19から円形凹所28に向けて突出位置せしめられる。ここにおいて、筒金具19の軸寸法(図1中、左右方向寸法)は、本体ゴム弾性体16に形成された円形凹所28の下端縁部の開口径寸法よりも大きくされている。
【0033】
さらに、本体ゴム弾性体16の中心軸36上には、円形凹所28の上底面から軸方向上方に向けて延びる接続路38が厚さ方向に貫設されて形成されている。接続路38は、筒金具19の連通孔24および第一のリテーナ金具22の連通孔26を通って、筒金具19と第一のリテーナ金具22で画成された内部に充填せしめられた本体ゴム弾性体16を中心軸36方向に貫通してストレートに延びる略一定の円形断面を有する形状とされている。そして、接続路38の上方の端部となる上側開口部40が、筒金具19の底部20の内周面に被着せしめられた後述する狭圧ゴム層45上に開口せしめられている一方、下方の端部となる下側開口部42が、円形凹所28の上底面の中央部分に開口せしめられている。
【0034】
ここにおいて、下側開口部42の周囲には、全周に亘って円形凹所28の内方に突出する環状突出部44が形成されている。これにより、下側開口部42は、円形凹所28の内面から、円形凹所28の内方に向けてノズル状に僅かに突出せしめられている。なお、下側開口部42の開口端縁部は、下方に行くに連れて僅かに拡径せしめられている。
【0035】
また、本体ゴム弾性体16の軸方向上方の小径側端面は更に上方に延び出されて、筒金具19の内外周面の全体に被着せしめられている。これにより、筒金具19の内周面には、本体ゴム弾性体16と一体形成された薄肉の狭圧ゴム層45が全体に被着せしめられている。
【0036】
また、図2にも示すように、本体ゴム弾性体16の軸方向上方の小径側端部において、筒金具19の一方(図1における左方)の開口部46が位置せしめられた部位には、上方に延び出された壁部50が一体的に形成されており、かかる壁部50によって、筒金具19の一方の開口部46の全体が覆蓋されている。これにより、筒金具19は、内周面の全体に狭圧ゴム層45が被着されると共に、一方の開口部46が壁部50によって覆蓋せしめられている。一方、筒金具19における壁部50と反対側の開口部は、マウント本体17の外部に開口せしめられており、マウント本体17の外部空間と連通せしめられた差込穴52とされている。
【0037】
そして、筒金具19の一方の開口部46を覆蓋する壁部50の中央部分には、可撓性膜としてのダイヤフラム54が一体形成されている。ダイヤフラム54は、中央部分に十分な撓みを持たせて変形容易とした薄肉のゴム膜が本体ゴム弾性体16と一体形成されて構成されている。図2に示すように、ダイヤフラム54は、上下両端部において水平方向に広がる直線の両端が一対の円弧で接続された略円周トラック形状とされており、直線形状とされた上下両端部の上下方向の離隔距離が、筒金具19の開口部46の上下寸法と略等しくされると共に、円弧形状とされた左右両端部の左右方向の最大離隔距離が、筒金具19の開口部46の左右寸法と略等しくされている。これにより、ダイヤフラム54は、筒金具19の開口部46の開口部の面積よりもやや小さく、開口部46の略全体に広がる大きさ寸法をもって形成されており、筒金具19の開口部46が、ダイヤフラム54によって覆蓋されることとなる。
【0038】
また、筒金具19の上面に被着された本体ゴム弾性体16の上端面には、上方に向けて三角断面形状をもって突出する多数の緩衝ゴム部56が縦横方向に並んで形成されている。更に、筒金具19の上面に被着された本体ゴム弾性体16の差込穴52側の端部には、上方に突出する係止壁部58が一体形成されている。係止壁部58は、差込穴52の端部から上方に突出する立上壁部60の上端縁部に、差込穴52の開口方向に向けて水平方向で突出する板状部62が一体形成されている。更にまた、図2に示すように、筒金具19の左右両側面の外面に被着された本体ゴム弾性体16には、水平方向外方に突出するストッパゴム部63が一体形成されている。なお、図面からは明らかではないが、ストッパゴム部63は、水平方向外方に突出せしめられると共に、筒金具19の延び出し方向(図3における上下方向)に所定量だけ延びる略厚板形状とされている。
【0039】
一方、本体ゴム弾性体16の大径側端部には、大径の略円環形状を有する取付金具64が略埋設状態で加硫接着されている。取付金具64は、略円環形状のゴム固着部65に対して、その外周縁部から軸方向下方に向かって突出する嵌着筒部66が一体形成された構造とされている。なお、ゴム固着部65の内周部分は、中央に向かって次第に下方に傾斜せしめられたテーパ状の傾斜形状とされている。
【0040】
そして、取付金具64の中心軸が本体ゴム弾性体16の中心軸36と同軸上で、第一の取付部材12に対して下方に離隔配置されると共に、ゴム固着部65の内方部分が、本体ゴム弾性体16の大径側端部に外周面から差し入れられたような状態で加硫接着されている。なお、取付金具64のゴム固着部65の上面は、径方向中間部分より内方の部位に本体ゴム弾性体16が被着せしめられており、ゴム固着部65の径方向中間部分より外方の部位および嵌着筒部66の外周面は、本体ゴム弾性体16から外部に露出せしめられている。また、取付金具64には、ゴム固着部65および嵌着筒部66の内面の略全体を覆うようにして、シールゴム層67が本体ゴム弾性体16と一体形成されて被着されている。このようにして、本体ゴム弾性体16は、第一の取付部材12と取付金具64を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0041】
さらに、ゴム固着部65の上面に被着された本体ゴム弾性体16において差込穴52の下方に位置せしめられる部位には、高さ方向で肉厚寸法が大きくされたストッパ部68が一体形成されている。なお、ストッパ部68の上端面は、水平方向に広がる平坦面とされている。
【0042】
また、本体ゴム弾性体16において拡径部30が形成された軸方向中間部分には、略円環板形状の第二のリテーナ金具69が固着されることによって、本体ゴム弾性体16のばね特性が調節されている。
【0043】
さらに、第一の取付部材12および取付金具64を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品には、取付金具64の軸方向下方の開口部側から第二の取付部材14を構成する底金具70が組み付けられている。底金具70は、略円環板形状とされており、その外周縁部から上方に突出する円筒形状の固定筒部71が一体形成されている。
【0044】
また、底金具70の中央部分には、裁頭円錐台形状をもって下方に突出する下方突出部72が形成されており、かかる下方突出部72の中央部分には、円形断面をもって板厚方向に貫通する窓部73が形成されている。そして、窓部73には、ゴム弾性膜としての可動ゴム膜74が加硫接着されている。可動ゴム膜74は、変形容易な薄肉の円板形状とされており、その径寸法が本体ゴム弾性体16に形成された下側開口部42の内径寸法よりも大きくされることによって、下側開口部42の開口面積よりも大きな面積をもって形成されている。これにより、後述する受圧室76の圧力変動を可動ゴム膜74に有効に及ぼすことが可能とされている。また、かかる可動ゴム膜74によって、窓部73が閉塞せしめられており、本実施形態においては、可動ゴム膜74によって可動膜が構成されている。
【0045】
そして、このような構造とされた底金具70が、本体ゴム弾性体16の軸方向下方の大径側端面に下方から重ね合わされると共に、底金具70の固定筒部71が、取付金具64の嵌着筒部66に外挿される。そして、固定筒部71の上端部がかしめられて、本体ゴム弾性体16の外部に露出せしめられた取付金具64の上端面に重ね合わされることによって、底金具70が、取付金具64のゴム固着部65に対してシールゴム層67を介して流体密に重ね合わされた状態で、第一の取付部材12および取付金具64を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に対して組み付けられており、これにより、第一の取付部材12と、底金具70によって構成される第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16で連結されることとなる。
【0046】
このようにして、本体ゴム弾性体16に形成された円形凹所28における、取付金具64の中央孔を通じて下方に開口せしめられた開口部分が、底金具70および可動ゴム膜74によって流体密に覆蓋される。これにより、円形凹所28の内面、底金具70、および可動ゴム膜74で壁部が構成されて、第一の取付部材12と第二の取付部材14への振動入力時に、本体ゴム弾性体16の弾性変形に伴って圧力変動が生ぜしめられる受圧室76が形成される。
【0047】
そして、底金具70および可動ゴム膜74によって、本体ゴム弾性体16に形成された接続路38の下側開口部42に対向する受圧室76の壁部が構成されると共に、可動ゴム膜74が、下側開口部42に対して同軸上で対向位置せしめられる。これにより、下側開口部42の全体が可動ゴム膜74に対してマウント中心軸となる本体ゴム弾性体16の中心軸36上で直接に対向位置せしめられる。ここにおいて、本体ゴム弾性体16の中心軸36は、受圧室76の中心軸と一致せしめられており、本実施形態においては、本体ゴム弾性体16の弾性主軸の一つとされる。また、本実施形態においては、かかる中心軸36が、防振すべき主たる振動の入力方向に一致せしめられている。
【0048】
かかる底金具70の組み付け状態において、可動ゴム膜74において受圧室76の壁部を構成する内表面、換言すれば、下側開口部42と対向位置せしめられる可動ゴム膜74の内表面75は、全体に亘って受圧室76に直接に晒されて、下側開口部42と直接に対向位置せしめられている。一方、可動ゴム膜74における内表面75と反対側の外表面77は、全体に亘ってマウント本体17の外部に晒されており、大気圧が及ぼされるようになっている。なお、これら内表面75および外表面77は、何れも、何等の部材に拘束されることも無く自由な変形が許容された自由表面とされている。これにより、可動ゴム膜74の低動ばね効果を有利に得ることが出来て、後述する可動ゴム膜74による液圧吸収効果をより有利に得ることが可能とされている。
【0049】
さらに、底金具70の下方には、下カバー金具78が組み付けられている。図3に示すように、下カバー金具78は、略円板形状とされた円板状部79および円板状部79から左右方向に延び出す板状の板状部81が一体的に形成された形状とされている。なお、本実施形態においては、左右に形成される板状部81の形状が異ならされており、一方(本実施形態においては、図3中、右側)の板状部81が、他方(本実施形態においては、図3中、左側)の板状部81に比して大きく形成されている。更に、下カバー金具78の両端縁部には、上方に突出する圧入壁部80が下カバー金具78の全長に亘って一体形成されていると共に、円板状部79に形成された圧入壁部80には、円板状部79の周方向で所定距離を隔てて一対のかしめ部83が一体形成されている。そして、下カバー金具78の圧入壁部80が底金具70における固定筒部71に外挿状態で圧入されることによって、円板状部79が底金具70の下面に重ね合わされると共に、かしめ部83が底金具70の上面に重ね合わされるようにかしめられることによって、下カバー金具78が底金具70の下方に組み付けられるようになっている。ここにおいて、下カバー金具78における円板状部79には、下方に突出する円筒状の保護壁としてのカバー筒部82が一体形成されており、底金具70への組み付け状態において、可動ゴム膜74を含む下方突出部72の全体が、カバー筒部82内に収容状態で配設されるようになっている。
【0050】
そして、このような構造とされたマウント本体17の差込穴52に対して、アーム部材18に一体的に形成された差込突部84が差し込まれて固定されている。差込突部84は、筒金具19に差込可能な大きさの略矩形ブロック形状とされており、突出方向(図1中、左方向)の先端部に行くに連れて、厚さ寸法および幅寸法が僅かに小さくなるようにされている。
【0051】
また、アーム部材18における差込突部84の基端部の上端面には、上方に突出する板状の係止板部86が一体形成されている。また、アーム部材18における差込突部84の基端部からやや後方(差込突部84の突出方向と反対方向であって、図1中の右方向)には、下方に突出する板状のストッパ突部88が一体形成されている。
【0052】
そして、かかる差込突部84の突出端部が、マウント本体17の差込穴52に差し入れられて、壁部50に向けて押し込まれることによって、差込突部84が、筒金具19内に嵌め入れられると共に、狭圧ゴム層45によって狭持固定されるようになっている。このように、本実施形態においては、筒金具19によってオリフィス部材が組み付けられる筒部材が構成されている。ここにおいて、差込突部84の差込量は、係止板部86が、差込穴52の上方に形成された係止壁部58の立上壁部60に係止せしめられることによって制限されるようになっており、かかる差込状態において、差込突部84の突出先端となる突出端面90と、筒金具19の壁部50側の端縁部の位置が略等しくなるようにされている。要するに、差込突部84の差込状態において、筒金具19の内部の全体に差込突部84が差し込まれるようになっている。また、差込突部84の差込状態において、係止板部86の上面に、係止壁部58の板状部62が重ね合わされるようになっている。
【0053】
これにより、差込突部84が、本体ゴム弾性体16を挟んで受圧室76と反対側の上方に配設される。そして、差込突部84の突出端面90と狭圧ゴム層45によって、筒金具19の開口部46が流体密に覆蓋されると共に、かかる突出端面90と壁部50および壁部50に形成されたダイヤフラム54によって壁部の一部が構成されて、壁部50に形成されたダイヤフラム54の弾性変形に基づいて容積変化が容易に許容される平衡室92が形成されている。
【0054】
そして、受圧室76および平衡室92には、非圧縮性流体が封入されている。かかる非圧縮性流体としては、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油等が何れも採用可能であるが、後述する流体の共振作用に基づく防振効果を有効に得るためには、0.1Pa・s以下の粘度を有する低粘性流体が望ましい。また、非圧縮性流体の受圧室76および平衡室92への封入は、例えば、マウント本体17への差込突部84の差込を非圧縮性流体中で行なうこと等によって実現される。
【0055】
さらに、差込突部84の上面には、図3にも示すように、上面に開口して差込突部84の上面を一周弱の長さで湾曲して延びる上側凹溝94が形成されていると共に、差込突部84の下面には、下面に開口して差込突部84の下面を一周弱の長さで湾曲して延びる下側凹溝96が形成されている。そして、これら上側凹溝94および下側凹溝96の一方の端部は、差込突部84の内部に形成されて上下方向に延びる接続孔98によって接続されている。また、上側凹溝94の他方の端部は、差込突部84の突出端面90に開口せしめられた平衡室側開口部100とされている。一方、下側凹溝96の他方の端部は差込突部84の略中央部分に位置せしめられて、下方に開口せしめられた受圧室側開口部102とされている。
【0056】
そして、差込突部84の差込状態において、上側凹溝94および下側凹溝96の開口部が、狭圧ゴム層45で流体密に覆蓋されると共に、平衡室側開口部100が平衡室92に開口せしめられる一方、受圧室側開口部102が、本体ゴム弾性体16に形成された接続路38の上側開口部40と重ね合わされて接続される。これにより、上下凹溝94、96およびそれらを接続する接続孔98によって狭窄流路が形成されており、狭窄流路の一部を構成する上凹溝94と本体ゴム弾性体16に形成された接続路38が接続されることによって、これら上下凹溝94,96、接続孔98および接続路38によって、受圧室76と平衡室92を相互に連通するオリフィス通路104が形成されている。このことから明らかなように、本実施形態においては、オリフィス通路104は、第一の取付部材12の内部を湾曲して延びるように形成されており、本体ゴム弾性体16に形成された接続路38が、受圧室76への開口部分とされていると共に、差込突部84に形成された平衡室側開口部100が、平衡室92への開口部とされている。ここにおいて、オリフィス通路104の受圧室76への開口部分となる接続路38は、本体ゴム弾性体16の中心軸36上で、受圧室76から筒金具19に亘って直線状に延びるように形成されている。そして、振動入力時に、受圧室76と平衡室92の間に生ぜしめられる圧力差に基づき、オリフィス通路104を通じて流動する流体の流動作用によって、所定の防振効果が発揮されるようになっている。なお、本実施形態では、オリフィス通路104を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて、シェイク等の低周波振動に対して有効な防振効果が発揮されるように、オリフィス通路104の流路断面積や長さ等が設定されている。
【0057】
また、アーム部材18に形成されたストッパ突部88の突出先端面は、本体ゴム弾性体16に形成されたストッパ部68の上端面に対して、振動が入力されておらず、パワーユニットの分担支持荷重が及ぼされた状態で、軸方向で所定距離:bを隔てて位置せしめられており、振動が入力されて第一の取付部材12が第二の取付部材14側に過大に変位せしめられた場合には、ストッパ突部88がストッパ部68に当接することによって、第一の取付部材12の最大変位量が制限されている。従って、受圧室76に開口せしめられた下側開口部42の可動ゴム膜74への最大変位量は、距離:bと等しくされる。ここにおいて、振動が入力されておらず、パワーユニットの分担支持荷重が及ぼされた状態における前述の受圧室76に開口せしめられた下側開口部42と可動ゴム膜74との軸方向での離隔距離:aは、b<a<2bを満たす範囲内に設定されていることが好ましい。
【0058】
けだし、下側開口部42と可動ゴム膜74との離隔距離:aがストッパ突部88とストッパ部68との離隔距離:bよりも小さいと、振動入力によって下側開口部42が下方に過大変位せしめられた場合には、可動ゴム膜74と接触する可能性が生じてしまう一方、下側開口部42と可動ゴム膜74との離隔距離:aがストッパ突部88とストッパ部68との離隔距離:bよりも大き過ぎると、後述する受圧室76の圧力変動が可動ゴム膜74に有効に伝達されず、可動ゴム膜74による液圧吸収作用が十分に得られなくなるおそれがあるからである。
【0059】
また、マウント本体17の上方には、マウント本体17の上方を覆うように上カバー金具106が配設されている。上カバー金具106は、上面視において下カバー金具78と対応する形状とされると共に、長手方向中間部分の高さ寸法が最も高く形成された略門形状とされている。そして、かかる上カバー金具106がマウント本体17の上方に被せられるようにして下カバー金具78に重ね合わされると共に、上カバー金具106の両端縁部が、下カバー金具78の圧入壁部80に圧入固定されて組み付けられる。かかる組み付け状態において、マウント本体17の上端面に形成された緩衝ゴム部56と上カバー金具106の上底面との間には上下方向で所定寸法の空隙が形成されており、第一の取付部材12が上方へ過大変位せしめられた場合には、上カバー金具106に緩衝ゴム部56が当接せしめられることによって、第一の取付部材12の上方への過大変位が緩衝的に制限される。更に、上カバー金具106に形成された当接壁部108が、マウント本体17の両側に延び出すストッパゴム部63と水平方向で所定の距離を隔てて配設されており、第一の取付部材12が左右方向へ過大変位せしめられた場合には、これら当接壁部108とストッパゴム部63が当接せしめられることによって、第一の取付部材12の水平方向の過大変位が緩衝的に制限されるようになっている。
【0060】
このような構造とされたエンジンマウント10は、下カバー金具78の板状部81上に形成されて、上カバー金具106および下カバー金具78を板厚方向に貫通するボルト挿通孔110に螺着されるボルト等によって、下カバー金具78が車両ボデーに取り付けられる。これにより、第二の取付部材14が車両ボデー側に取り付けられる。一方、アーム部材18が、ボルト挿通孔112に螺着されるボルト等によって、図示しないパワーユニットに取り付けられることによって、第一の取付部材12がパワーユニット側に取り付けられる。このようにして、エンジンマウント10によって、パワーユニットが車両ボデーに対して防振支持せしめられるようになっている。
【0061】
上述の如き構造とされたエンジンマウント10においては、マウント本体17の外部から差込突部84を差し込むことによって平衡室92および平衡室92と受圧室76を連通するオリフィス通路104が形成されることから、本体ゴム弾性体16の内部に仕切部材を収容状態で組み付けることも不要とされる。これにより、より簡易な構成が実現されると共に、製造コストの軽減を図り得る。加えて、差込突部84に形成された上下側凹溝94,96やそれらを接続する接続孔98の形状を調節することによってオリフィス通路のチューニングを容易に行なうことも出来る。
【0062】
そして、エンジンマウント10における自動車への装着状態下で第一の取付部材12と第二の取付部材14の間に略上下方向の振動が入力されると、それが例えばエンジンシェイクのような低周波数域の振動である場合には、受圧室76と平衡室92の間に相対的な圧力差が生ぜしめられることに基づいて、それら両室76,92間において、オリフィス通路104を通じて流動せしめられる流体の共振作用に基づいて有効な防振効果が発揮される。
【0063】
ここにおいて、特に本実施形態においては、オリフィス通路104の受圧室76への開口部分となる接続路38の外周部分で軸方向の略全体に亘って、第一のリテーナ金具22が配設されている。これにより、振動入力時における接続路38の形状を安定せしめることが出来て、オリフィス通路104を流れる流体の流動量を安定して確保することが出来る。
【0064】
一方、入力される振動が、走行こもり音などのオリフィス通路104のチューニング周波数よりも高周波数域の振動である場合には、オリフィス通路104の流動抵抗が著しく増大することに伴って受圧室76に惹起される圧力変動が、可動ゴム膜74の微小な弾性変形によって軽減乃至は解消されることとなり、かかる可動ゴム膜74の液圧吸収作用によって、オリフィス通路104の反共振現象としての実質的な閉塞化に起因する著しい高動ばね化が回避されて有効な防振効果が発揮されることとなる。
【0065】
そして、特に本実施形態においては、可動ゴム膜74が、オリフィス通路104の受圧室76への開口部分である接続路38に対して軸方向で対向位置せしめられると共に、それら可動ゴム膜74と接続路38の開口となる下側開口部42が、何等の部材も介在せしめることなく、直接に対向せしめられている。これにより、受圧室76の圧力変動を可動ゴム膜74に有効に及ぼすことが出来て、可動ゴム膜74による液圧吸収作用がより有効に発揮され得る。また、下側開口部42および可動ゴム膜74が、本体ゴム弾性体16の弾性中心軸上に位置せしめられていることから、受圧室76の圧力変動をより有利に可動ゴム膜74に及ぼすことが出来る。
【0066】
加えて、特に本実施形態においては、接続路38の下側開口部42が、受圧室76の内面からノズル状に下方に突出せしめられている。これにより、振動入力に際して本体ゴム弾性体16の形状が変形せしめられた場合でも、下側開口部42の形状を安定せしめることが出来て、受圧室76の圧力変動を、より安定して可動ゴム膜74に及ぼすことが出来る。更に、かかる下側開口部42の外周部分に、第一のリテーナ金具22が配設されていることによって、下側開口部42の形状安定性が一層有利に向上せしめられているのである。
【0067】
以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。なお、以下の説明において、前記実施形態と同様な構造とされた部材および部位については、それぞれ、図中に、前記実施形態と同一の符号を付することにより、それらの詳細な説明を省略する。
【0068】
例えば、前記実施形態においては、ゴム弾性膜が底金具における下方突出部に設けられて、受圧室の内方から離隔せしめられるように配設されていたが、図4に示す本発明の異なる態様としてのエンジンマウント120のように、底金具70の中央部分に上方に突出する上方突出部122を設けて、かかる上方突出部122の中央部分に可動ゴム膜74を設ける等しても良い。このようにすれば、可動ゴム膜74を、受圧室76の内方に入り込むように位置せしめることが出来て、下側開口部42と可動ゴム膜74との離隔距離をより小さく出来ることから、受圧室76の圧力変動をより有効に可動ゴム膜74に及ぼすことが出来る。
【0069】
また、可動ゴム膜の具体的な組み付け態様は何等限定されるものでは無い。例えば、前記実施形態においては、底金具70を取付金具64に対して外嵌固定していたが、取付金具64を底金具70に対して外嵌固定する等しても良い。具体的には、前記実施形態における底金具70の固定筒部71を、取付金具64の嵌着筒部66よりも小径に形成すると共に、嵌着筒部66をより下方に延び出させて、嵌着筒部66の内周面にシールゴム層67を薄肉状に被着せしめる。そして、底金具70の固定筒部71に対して嵌着筒部66を外挿せしめた状態で絞り加工を施すことによって、シールゴム層67を介して取付金具64の嵌着筒部66で底金具70の固定筒部71を狭圧固定することによって、取付金具64を底金具70に対して外嵌固定する等しても良い。或いは、取付金具64を用いることなく、底金具70を本体ゴム弾性体16の大径側端面に重ね合わせた状態で直接に加硫接着する等しても良い。
【0070】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施形態としての流体封入式防振装置を示す縦断面図であって、図2におけるI−I断面の要部拡大図。
【図2】同流体封入式防振装置の側面図。
【図3】同流体封入式防振装置の上面図。
【図4】本発明の異なる態様としての流体封入式防振装置を示す縦断面図。
【符号の説明】
【0072】
10:エンジンマウント、12:第一の取付部材、14:第二の取付部材、16:本体ゴム弾性体、36:中心軸、38:接続路、42:下側開口部、54:ダイヤフラム、74:可動ゴム膜、76:受圧室、90:突出端面、92:平衡室、104:オリフィス通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大径側端面に開口する中央凹所を有する円錐台形状の本体ゴム弾性体に対して、その小径側端部に第一の取付部材を固着する一方、その大径側端部に第二の取付部材を固着して該中央凹所を覆蓋することにより受圧室を形成すると共に、該第一の取付部材にオリフィス部材を組み付けて、該受圧室から該第一の取付部材側に延び出すオリフィス通路を該オリフィス部材を利用して形成し、更に該オリフィス部材における該オリフィス通路の外側開口部分に壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室を形成して、振動入力時に該受圧室と該平衡室の間で該オリフィス通路を通じての流体流動が生ぜしめられるようにした流体封入式防振装置において、
前記オリフィス通路の前記受圧室への開口部分を、前記本体ゴム弾性体の中心軸上で該受圧室に向かって直線的に延びるように形成すると共に、前記第二の取付部材の中央部分に窓部を設けると共に該窓部をゴム弾性膜で閉塞せしめて可動膜を構成し、該可動膜を該オリフィス通路の該受圧室への開口部分に対して該本体ゴム弾性体および該受圧室の中心軸上で対向位置せしめたことを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記ゴム弾性膜の面積が前記オリフィス通路の前記受圧室への開口部分の開口面積よりも大きくされており、該開口部分の全体が、前記本体ゴム弾性体の中心軸上で該ゴム弾性膜に対向位置せしめられている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記オリフィス通路の前記受圧室への開口部分が円形断面とされていると共に、該開口部分の内径寸法よりも大きな外径寸法を有する円板形状をもって前記ゴム弾性膜が形成されている請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記ゴム弾性膜は、その内面が全体に亘って前記受圧室に直接に晒されて、前記オリフィス通路の前記受圧室への開口部分に対して直接に対向位置せしめられていると共に、該ゴム弾性膜の外面の全体に亘って大気圧が及ぼされるようになっている請求項1乃至3の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項5】
前記本体ゴム弾性体における前記中央凹所の底面には、その中央部分において前記オリフィス通路が開口せしめられていると共に、このオリフィス通路の開口周縁部において該中央凹所に向かって突出する環状突出部が設けられている請求項1乃至4の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項6】
前記オリフィス部材が組み付けられるオリフィス組付部材の外周面に対して補強カップ金具がその開口部で重ね合わされて固着されていると共に、それらオリフィス組付部材と補強カップ金具で画成された内部にゴム弾性体が充填されることによって、前記第一の取付部材が形成されており、前記本体ゴム弾性体の中心軸上で該補強カップ金具が該オリフィス組付部材から前記受圧室に向かって突出位置せしめられていると共に、該補強カップ金具とその内部に充填された該本体ゴム弾性体を中心軸方向に貫通して前記受圧室から該オリフィス組付部材にまで直線的に延びるようにして、前記オリフィス通路の該受圧室への開口部分が形成されている請求項1乃至5の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項7】
前記ゴム弾性膜の外周部分を取り囲むようにして前記第二の取付部材から外方に突出する保護壁を設けた請求項1乃至6の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項8】
前記ゴム弾性膜を前記第二の取付部材から前記受圧室の内方へ入り込ませた位置に配設した請求項1乃至7の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項9】
前記第一の取付部材が、前記本体ゴム弾性体の中心軸に対して直交する方向に延びる筒部材を含んで構成されており、この筒部材に対して前記オリフィス部材が嵌め入れられて組み付けられていると共に、該オリフィス部材の外周面に形成された凹溝が該筒部材で覆蓋されることで、該第一の取付部材の内部を湾曲や屈曲して延びるように前記オリフィス通路が形成されている請求項1乃至8の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項10】
前記第一の取付部材における一方の開口部が前記可撓性膜で覆蓋されることで前記平衡室が形成されていると共に、該可撓性膜で覆蓋された該第一の取付部材における一方の開口部に位置せしめられた前記オリフィス部材の端面において前記オリフィス通路が開口して該平衡室に接続されている請求項9に記載の流体封入式防振装置。
【請求項11】
前記防振対象部材の分担支持荷重が及ぼされた振動未入力時における前記オリフィス通路の前記受圧室への開口部分と前記ゴム弾性膜との対向面間距離:aと振動入力時における該開口部分の該ゴム弾性膜方向への最大変位量:bが、b<aとされている請求項1乃至10の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−223836(P2008−223836A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60849(P2007−60849)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】