説明

流体軸受装置およびこれを備えたモータ

【課題】 低コストに製造可能で、かつ軸受性能に優れた流体軸受装置を提供する。
【解決手段】 微量インク14の集合体をもって、軸部2の外周面2aに、軸受スリーブ8との間にラジアル軸受隙間を形成するラジアル軸受面Aとなる領域を形成すると共に、軸部2の外周面2aのラジアル軸受面Aとハブ部固定領域2bとの間に凸部Bを形成する。ラジアル軸受面Aとなる領域および凸部Bが外周面2aに形成された軸部2をインサート部品として、ハブ部9を樹脂でインサート成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受隙間に生じる流体の潤滑膜によって回転部材を非接触支持する流体軸受装置およびこれを備えたモータに関するものである。この流体軸受装置は、情報機器、例えばHDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置等のスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、その他の小型モータ用として好適である。
【背景技術】
【0002】
上記各種モータには、高回転精度の他、高速化、低コスト化、低騒音化等が求められている。これらの要求性能を決定づける構成要素の1つに当該モータのスピンドルを支持する軸受があり、近年では、上記要求性能に優れた特性を有する流体軸受の使用が検討され、あるいは実際に使用されている。
【0003】
この種の流体軸受は、軸受隙間内の潤滑油に動圧を発生させるための動圧発生部を備えた動圧軸受と、動圧発生部を備えていない、いわゆる真円軸受(軸受断面が真円形状である軸受)とに大別される。
【0004】
例えば、HDD等のディスク駆動装置のスピンドルモータに組み込まれる流体軸受装置では、回転部材を構成する軸部材をラジアル方向に支持するラジアル軸受部およびスラスト方向に支持するスラスト軸受部の双方を動圧軸受で構成する場合がある。この種の流体軸受装置におけるラジアル軸受部としては、例えば軸受スリーブの内周面と、これに対向する軸部材の外周面との何れか一方に、動圧発生部としての動圧溝を形成すると共に、両面間にラジアル軸受隙間を形成するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−239951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これら回転部材をはじめとする流体軸受装置の各構成部品には、情報機器の益々の高性能化に伴って必要とされる高い回転性能を確保すべく、高い加工精度や組立て精度が要求される。その一方で、情報機器の低価格化の傾向に伴い、流体軸受装置に対するコスト低減の要求も益々厳しくなっている。
【0006】
上記低コスト化のための一手段として、流体軸受装置を構成する部品の樹脂化が考えられる。例えば、流体軸受装置をHDD等のディスク駆動装置用スピンドルモータに組み込んで使用する場合、回転部材を構成し、ディスクを保持するためのハブ部(ディスクハブ)を、同じく回転部材を構成する金属製の軸部材をインサート部品として樹脂材料で型成形する方法が考えられる。
【0007】
ハブ部のインサート成形時、軸部材は、その外周面のうちディスクハブの固定部となる領域以外の領域を成形金型に密着させた状態で、成形金型内の所定位置に保持される。その際、軸部材外周面の寸法精度あるいは金型精度の如何によっては、外周面とこれに密着すべき金型面との間に無視できない大きさの径方向隙間が生じることがある。このような隙間の存在により、キャビティ内に充填した溶融樹脂が、本来充填が不必要な領域にまで流れ込み、軸受性能などに好ましくない影響を及ぼす恐れがある。あるいは、上記隙間に流れ込んだ溶融樹脂が、成形後、樹脂製ディスクハブのバリとして軸部材のディスクハブ固定部付近に残る可能性もある。この種のバリは、例えば欠落してシール空間に入り込んだり、軸受内部に侵入して油に混入したりすることで、潤滑油の劣化や軸受(回転)性能の低下を招く恐れがある。
【0008】
特に、動圧発生部としての動圧溝を、軸受スリーブの内周面ではなく、軸部材の外周面に形成する場合、動圧溝の径方向段差(溝高さ)分を考慮して金型面の内径寸法を設定する必要が生じる。そのため、軸部材の外周平滑面(動圧溝形成領域以外の領域)とこれに対向する金型面との間に少なくとも溝高さに相当する大きさの径方向隙間が生じ、充填不要箇所への樹脂の流れ込みが避けられない恐れがある。
【0009】
本発明の課題は、低コストに製造可能で、かつ軸受性能に優れた流体軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、軸受部材と、軸受部材に対して相対回転する回転部材と、軸受部材と回転部材との間のラジアル軸受隙間に生じる流体の潤滑膜で回転部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部とを備え、回転部材は、軸受部材の内周に挿入される金属製の軸部と、軸部に固定されたハブ部とを有するものにおいて、ハブ部は軸部をインサート部品とした樹脂の型成形品で、かつ軸部の外周面の、ラジアル軸受隙間に面する領域とハブ部固定領域との間に凸部が形成されていることを特徴とする流体軸受装置を提供する。
【0011】
このように、回転部材を構成するハブ部を、樹脂材料で成形することにより、機械加工等により成形された金属製のハブ部と比べて軽量化が可能となり、かつ、低コストで製造することができる。また、ハブ部を、軸部をインサート部品として型成形(インサート成形。アウトサート成形も含む。以下同じ。)すれば、ハブ部の成形工程と、ハブ部と軸部との間の組付け工程とを同時に行うことができ、両者を別工程で行っていた従来品に比べて低コスト化を図ることができる。
【0012】
また、樹脂製ハブ部のインサート部品となる軸部の外周面の、ラジアル軸受隙間に面する領域とハブ部固定領域との間に形成された凸部は、ハブ部のインサート成形時、軸部外周面とこれに密着すべき金型面との間の径方向隙間に流れ込む溶融樹脂の流れ止めとして作用する。これにより、充填不要な箇所に溶融樹脂が充填されるといった事態を避けて、本来充填すべき箇所のみを充填することができると共に、成形後のバリの発生を抑えて、潤滑油の劣化や軸受(回転)性能の低下を防ぐことができる。
【0013】
軸部外周面のラジアル軸受隙間に面する領域は、断面輪郭真円状の平滑な面とすることもできるが、例えば流体の動圧作用を生じるための動圧発生部を形成したものであってもよい。この場合、凸部の径方向高さは、動圧発生部の径方向高さに比べて多少低くても、例えば起動・停止時の摺動接触面積を凸部と動圧発生部とでシェアすることで動圧発生部の摩耗抑制に寄与可能であるが、望ましくは、動圧発生部の径方向高さ以上とするのがよい。ここで、凸部の径方向高さは、軸部外周の基準面(凸部および動圧発生部以外の領域)から、凸部の最外径部分までの径方向間隔を意味する。また、動圧発生部の径方向高さは、動圧発生部が動圧溝からなる場合には軸部外周の基準面(凸部の場合と同一の基準面)から動圧溝を区画する部分の最外径部分までの径方向間隔を、動圧発生部が溝以外の形状からなる場合には軸部外周の基準面から動圧発生部中最も外径側に位置する部分までの径方向間隔をそれぞれ意味する。
【0014】
このように、凸部の径方向高さを動圧発生部の径方向高さ以上とすることで、ハブ部のインサート成形時における溶融樹脂の充填不要箇所への流れ込みをより確実に防ぐことができる。また、軸受装置の起動・停止時に、回転部材(軸部材)と軸受部材(軸受スリーブ)とが摺動接触する箇所を、ラジアル軸受隙間に面する領域以外の箇所で優先的に摺動接触させることが可能となる。これにより、軸部のラジアル軸受面における摺動摩耗を一層軽減することができる。
【0015】
動圧発生部は、例えば軸部外周面に供給された微量インクの集合体を硬化させることで形成することができる。凸部も、同様に、軸部外周面に供給された微量インクの集合体を硬化させることで形成可能である。
【0016】
上記構成の流体軸受装置は、例えば流体軸受装置を備えたディスク装置のスピンドルモータとして提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上より、本発明によれば、低コストに組立て可能で、かつ回転性能に優れた流体軸受装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る流体軸受装置1を組込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。この情報機器用スピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部2を備えた回転部材3を回転自在に非接触支持する流体軸受装置(動圧軸受装置)1と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5と、モータブラケット6とを備えている。ステータコイル4はモータブラケット6の外周に取付けられ、ロータマグネット5は回転部材3の外周に取付けられる。流体軸受装置1のハウジング7は、モータブラケット6の内周に固定される。回転部材3には、図示は省略するが、磁気ディスク等のディスク状情報記録媒体(以下、単にディスクという。)が一又は複数枚保持される。このように構成されたスピンドルモータにおいて、ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間に発生する電磁力でロータマグネット5が回転し、これに伴って、回転部材3および回転部材3に保持されたディスクが軸部2と一体に回転する。
【0020】
図2は、流体軸受装置1を示している。この流体軸受装置1は、ハウジング7と、ハウジング7に固定された軸受スリーブ8と、ハウジング7および軸受スリーブ8に対して相対回転する回転部材3とを主な構成要素として構成されている。この実施形態では、ハウジング7および軸受スリーブ8が軸受部材に相当する。なお、説明の便宜上、ハウジング7の底部7bの側を下側、底部7bと反対の側(ハウジング7の開口側)を上側として以下説明する。
【0021】
ハウジング7は、金属材料あるいは樹脂材料で形成され、円筒状の側部7aと、側部7aの下端に設けられた底部7bとを一体に備えている。
【0022】
側部7aの開口側端面(上端面)の全面または一部環状領域には、スラスト軸受面7cが設けられる。この実施形態では、スラスト軸受面7cに、スラスト動圧発生部として、例えば図示は省略するが、複数の動圧溝をスパイラル形状に配列した領域が形成される。
【0023】
側部7aの上方部外周には、上方に向かって漸次拡径するテーパ面7eが形成される。
【0024】
軸受スリーブ8は例えば金属製の非孔質体あるいは焼結金属からなる多孔質体で円筒状に形成される。この実施形態では、銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成され、接着(ルーズ接着や圧入接着を含む)、圧入、溶着等の固定手段によってハウジング7の内周面7dの所定位置に固定される。
【0025】
回転部材3は、例えばハウジング7の開口側に配置されたハブ部9と、軸受スリーブ8の内周に挿入される軸部2とで構成される。
【0026】
ハブ部9は、ハウジング7の開口側(上側)を覆う円盤部9aと、円盤部9aの外周部から軸方向下方に延びた筒状部9bと、筒状部9bの外周に設けられたディスク搭載面9cおよび鍔部9dとを備えている。図示されていないディスクは、円盤部9aの外周に外嵌され、ディスク搭載面9cに載置される。そして、図示しない適当な保持手段(クランパなど)によってディスクがハブ部9に保持される。
【0027】
円盤部9aの下端面9a1は、ハウジング7の一端開口側に設けられたスラスト軸受面7cと軸方向に対向し、軸部2(回転部材3)の回転時には、スラスト軸受面7cとの間に後述するスラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間を形成する(図2を参照)。
【0028】
筒状部9bの内周面9b1は、ハウジング7の外周上端に設けられたテーパ面7eと径方向に対向し、このテーパ面7eとの間に径方向寸法が上方に向かって漸次縮小するテーパ状のシール空間Sを形成する。このシール空間Sは、ハブ部9(回転部材3)の回転時、スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間の外径側と連通する。また、ハブ部9の筒状部9bの下端内周には、軸部2(回転部材3)の軸方向上方への相対変位時、ハウジング7と軸方向で係合して、軸部2を係止する係止部材10が取付けられている。
【0029】
軸部2は、例えばステンレス鋼等の金属材料で軸状に形成される。軸部2の外周面2aには、ラジアル動圧発生部としての動圧溝が形成される。この実施形態では、へリングボーン形状に配列された複数の動圧溝Abと、各動圧溝Abを区画形成する部分Aaとを含むラジアル軸受面Aが軸方向に離隔して2箇所形成される。このラジアル軸受面Aは軸受スリーブ8の内周面8aと対向し、軸部2(回転部材3)の回転時には、内周面8aとの間に後述するラジアル軸受部R1、R2のラジアル軸受隙間をそれぞれ形成する(図2を参照)。
【0030】
軸部2の外周面2aの、ハブ部9が固定される領域2bとラジアル軸受面A(この図示例では上側のラジアル軸受面A)との間には、帯状の凸部Bが外周面2aの全周に亘って形成される。この凸部Bおよびラジアル軸受面Aとなる領域は、この実施形態では、共に軸部2の素材2’表面に微量インクの集合体(樹脂組成物)を供給することによって形成される。
【0031】
以下、ラジアル軸受面Aとなる領域および凸部Bの形成工程(A)と、ハブ部9の成形工程(B)の一例を、工程(A)、(B)の順に説明する。なお、樹脂組成物の供給方法の一例として、本実施形態では、流動状態のインクをノズルから微小液滴の状態で吐出し、定着すべき軸部2の外周面2aに着弾させて動圧溝Abを区画形成する区画部Aaおよび凸部Bを印刷するインクジェット方式を採用する。
【0032】
(A)ラジアル軸受面Aとなる領域および凸部Bの形成工程
図3は、インクジェット方式の印刷装置の概要を示す図である。図示のように、この印刷装置は、回転支持機構11と、回転支持機構11によって回転支持される軸部2の素材2’の外周面2a’と対向させた一又は複数のノズルヘッド12と、ノズルヘッド12に対してその円周方向位置を異ならせて配置した、好ましくは図示のように素材2’を挟んだ状態でノズルヘッド12と対向させて配置した硬化部13とを主要な構成要素とする。ノズルヘッド12には、微小液滴状態のインク14を吐出する複数のノズル15が軸方向に配設される。このノズル15の列は、一列でもよく、並列させた状態で複数列設けてもよい。インク14は、例えば光硬化性樹脂、好ましくは紫外線硬化樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物であり、必要に応じて有機溶媒を適量配合したものが使用される。硬化部13は、樹脂組成物を硬化させるための光を照射する光源で、例えば紫外線ランプが使用される。
【0033】
素材2’を回転させながらノズルヘッド12を軸方向に往復スライドさせ、ノズル15からインク14を吐出することにより、インク14の微小液滴が素材2’の外周面2a’の所定位置に着弾する。この微小液滴が多数集合することで、素材2’の外周面2a’に、動圧発生部としての、例えばへリングボーン形状に配列された複数の動圧溝Abと、動圧溝Abを区画形成する区画部Aaとを有する動圧溝パターン(ラジアル軸受面Aとなる領域)が形成される。また、この動圧溝パターンと共に、凸部Bとなる帯状の領域が形成される(図3を参照)。
【0034】
この実施形態では、動圧溝パターンおよび凸部Bの印刷は素材2’の回転に伴って徐々に円周方向に進行する形で行われ、印刷部分が硬化部13の対向領域に達すると、紫外線の照射を受けたインク14が重合反応を起こして順次硬化する。各ノズル15からのインク14の供給・停止を適宜切替えながら素材2’を1〜数十回転させて、素材2’の全周に動圧発生部を構成する区画部Aaおよび凸部Bを形成する。このとき、ノズルヘッド12と硬化部13とは素材2’を挟む対向位置に配置されているので、硬化部13から照射される紫外線は素材2’に遮蔽され、ノズル15から吐出されるインク14には重合反応による硬化作用は及ばない。従って、硬化したインク14によるノズル15の目詰まり等を防止して、効率よく区画部Aaおよび凸部Bを形成することができる。この実施形態では、凸部Bの径方向高さが動圧発生部(区画部Aa)の径方向高さ以上となるように、両者B、Aaを形成している。
【0035】
なお、インク14の定着方式としては、上述のインクジェット方式に限らず、例えば電気泳動を利用して液滴を吐出・着弾させる方法や、いわゆるノズルレスタイプの液滴吐出方式、あるいはマイクロピペットを介してインクを液滴の状態ではなく連続的に素材の表面に吐出する方式、あるいは素材表面までの距離を短縮し、インクを吐出と同時に定着面に接触させる方式などを採用することができる。
【0036】
上述のように軸部2にラジアル軸受面Aとなる領域および凸部Bを、樹脂組成物を着弾又は滴下させた後、硬化させ区画形成する方法、例えばインクジェット法により形成したことにより、従来のエッチング等を用いた手法と比べて工程の簡略化が可能となる。さらに、余剰インクの供給および印刷型等の消耗品が不要となることから、工程省略、消耗品削減が可能となる。
【0037】
(B)ハブ部9の成形工程
ハブ部9は、工程(A)を経てラジアル軸受面Aとなる領域(区画部Aa)および凸部Bを外周に形成した金属製の軸部2をインサート部品として、例えばPPSやLCP、PEEK等をベース樹脂とする樹脂組成物を型成形することで、図2に示す形状に成形される。
【0038】
ハブ部9のインサート成形に用いる成形金型は、例えば図4に示すように、主に二つ(可動側と固定側)の金型16、17で構成される。このうち、固定側となる金型16には、溶融樹脂を金型16、17間に形成されたキャビティ18内に充填するためのゲート16aが設けられる。この実施形態では、ゲート16aは、成形すべきハブ部9の上端面外周部に対応する位置に環状に設けられる。
【0039】
インサート部品となる軸部2は、この実施形態では可動側となる金型17の内周に収容される。軸部2を金型17の内周に収容した状態では、軸部2の外周面2aにラジアル軸受面Aの区画部Aa以上の径方向高さに形成された凸部Bと、これに対向する金型17の内周面17aとの間の径方向隙間は僅かなものとなる。なお、同図では、上記径方向隙間の理解の容易化のため、この径方向隙間を他の箇所(例えばハブ部9対応領域の径方向寸法)よりも誇張して描いている。
【0040】
上述のように金型16、17および軸部2を配した状態で、ゲート16aを介してキャビティ18内に溶融樹脂を供給し、この溶融樹脂で成形すべきハブ部9の対応領域を充填する。この際、軸部2の外周面2aに形成された凸部Bと金型17の内周面17aとの径方向隙間は僅かなため、凸部Bより軸方向下側(ハブ部固定領域2bと反対の側)の隙間C(軸部外周面2aの平滑部分と、金型17の内周面17aとの間の径方向隙間)への溶融樹脂の流れ込みが遮断される。これにより、ラジアル軸受面Aとなる領域と軸受スリーブ8の内周面8aとの間でのラジアル軸受隙間の形成に支障を来すことなく、また、バリの発生が抑えられることで、欠落したバリが異物として軸受隙間に侵入するといった事態を回避することができる。
【0041】
なお、凸部Bの径方向高さを区画部Aaの高さ以上にして、凸部Bを金型17の内周面17aに密着させるようにすることで、上記隙間への溶融樹脂の流れ込みを確実に遮断することもできる。また、この密着の際、凸部Bが変形し、寸法に多少の狂いが生じたとしても、凸部Bの径方向高さは、ラジアル軸受隙間を形成するラジアル軸受面A(の区画部Aa)のそれとは異なり、それほど高い精度を要求される箇所ではないため、特に問題にはならない。
【0042】
流体軸受装置1の内部には、軸受スリーブ8の内部気孔(多孔質体組織の気孔)を含め、潤滑油が充填される(図2中の散点領域)。潤滑油の油面は常にシール空間S内に維持される。
【0043】
軸部2(回転部材3)の回転時、軸部2の外周面2aのラジアル軸受面A(上下2箇所の動圧溝Ab形成領域)は、軸受スリーブ8の内周面8aとラジアル軸受隙間を介して対向する。そして、軸部2の回転に伴い、上記ラジアル軸受隙間の潤滑油が各ラジアル軸受面Aにおける動圧溝Abの軸方向中心側に押し込まれ、その圧力が上昇する。このような動圧溝Abの動圧作用によって、軸部2をラジアル方向に非接触支持する第一ラジアル軸受部R1と第二ラジアル軸受部R2がそれぞれ構成される。
【0044】
同時に、ハブ部9の下端面9a1とこれに対向するハウジング7のスラスト軸受面(動圧溝形成領域)7cとの間のスラスト軸受隙間にも、動圧溝の動圧作用により潤滑油の油膜が形成され、この油膜の圧力によって、ハブ部9(回転部材3)をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部T1が構成される。
【0045】
本実施形態では、上述のように、凸部Bの径方向高さが、動圧溝Abを区画形成する区画部Aaの径方向高さ以上となるように、凸部Bおよび区画部Aaを形成している。そのため、軸部2の起動・停止時に、軸部2の外周面2aとこれに対向する軸受スリーブ8の内周面8aとの間で接触摺動が生じる場合であっても、その接触摺動は軸部2のラジアル軸受面Aよりも上端側に設けられた凸部Bと軸受スリーブ8の内周面8aとの間で優先的に生じる。そのため、ラジアル軸受面Aを構成する樹脂組成物で形成された区画部Aaが内周面8aと接触摺動し、摩耗するといった事態を回避することができる。特に、この実施形態のように、軸部2の上部にハブ部9およびディスク(図示は省略)を装着した状態では、軸部2にモーメント荷重が作用し、軸部2と軸受スリーブ8とが軸受上部で接触摺動し易いが、上述のように凸部Bをハブ部固定領域2bとラジアル軸受面A(ハブ部9寄りの側)との間に設けることで、両面A、8a間の摺動摩耗を極力抑えることができる。
【0046】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではない。
【0047】
以上の実施形態では、凸部Bとして、外周面2aの全長に亘って形成されると共に、帯状をなし、かつ断面形状を矩形としたものを例示したが、溶融樹脂の流れ込みを防止する作用を有する限り、種々の形態を採ることが可能である。また、凸部Bによる摩耗抑制効果をさらに高めるために、凸部Bに加えて、さらに一以上の凸部を外周面2aの他所(ハブ部固定領域2bやラジアル軸受面A、凸部B以外の領域)に形成することができる。図2でいえば二つのラジアル軸受面A、A間に、あるいは下側のラジアル軸受面Aのさらに下方に凸部Bを追加形成することができる。
【0048】
また、以上の実施形態では、凸部Bを、動圧溝Abを区画形成する区画部Aaと共に、微量インクの集合体(樹脂組成物)で形成した場合を説明したが、凸部Bおよび区画部Aaは必ずしも樹脂で形成する必要はない。凸部Bを軸部2本体と共に金属で形成し、区画部Aaを樹脂で形成した構成とすることもでき、区画部Aaを軸部2本体と共に金属で形成し、凸部Bを樹脂で形成した構成とすることもできる。あるいは、凸部Bと区画部Aaとを何れも軸部2本体と共に金属で形成した構成とすることもできる。凸部Bと区画部Aaのうち樹脂製の部位は、上述のインクジェット法をはじめとする上述の印刷方法で形成可能である。また、凸部Bや区画部Aaのうち金属製の部位は、鍛造等の塑性加工で軸部2本体と一体に形成可能である。
【0049】
また、以上の実施形態では、スラスト軸受部T1となるスラスト軸受隙間を、ハウジング7の側部7a上端のスラスト軸受面7cとこれに対向するハブ部9の円盤部9aの下端面9a1との間に形成した場合を説明したが、これ以外の箇所に設けることも可能である。例えば図示は省略するが、上述の位置に代えて、軸部2の下端に別部材としてのフランジ部を装着し、このフランジ部の下端面とこれに対向するハウジング7の底部7bとの間にスラスト軸受隙間を形成することも可能である。あるいは、上記何れか一方の位置にスラスト軸受隙間を形成すると共に、フランジ部(図示略)の上端面と軸受スリーブ8の下端面とを対向させ、この対向面間にスラスト軸受隙間を形成することもできる。この際、潤滑油の動圧作用を生じるための動圧発生部(動圧溝)は、上記各軸受隙間を形成する対向両面の何れの側に形成してもよい。上記図示しない何れの形態にしても、底部7bは、側部7aとは別体に形成され、後付けで側部7aに固定される。
【0050】
また、以上の実施形態では、ラジアル軸受部R1、R2およびスラスト軸受部T1を構成する軸受として、例えばへリンボーン形状やスパイラル形状に配列された複数の動圧溝からなる動圧発生部を有する軸受を例示しているが、動圧発生部の構成はこれに限定されるものではない。
【0051】
例えば、ラジアル軸受部R1、R2として、軸方向に延びる動圧溝を円周方向の複数箇所に形成した、いわゆるステップ軸受や、円周方向複数箇所でラジアル軸受隙間を円周方向の一方又は双方にくさび状に縮小させた形状とした、いわゆる多円弧軸受を採用してもよい。
【0052】
図5は、ラジアル軸受部R1、R2の一方又は双方を多円弧軸受で構成した場合の一例を示している。同図において、軸部2の外周面2aのラジアル軸受面となる領域は、複数の円弧面2a3(この図では3円弧面)で構成されている。各円弧面2a3は、回転軸心Oからそれぞれ等距離オフセットした点を中心とする偏心円弧面であり、円周方向で等間隔に形成される。各偏心円弧面2a3の間には軸方向の分離溝2a4がそれぞれ形成される。
【0053】
上記構成の軸部2を軸受スリーブ8の内周面8aに挿入することにより、軸部2外周の偏心円弧面2a3および分離溝2a4と、軸受スリーブ8の真円状内周面8aとの間に、第一および第二ラジアル軸受部R1、R2の各ラジアル軸受隙間がそれぞれ形成される。ラジアル軸受隙間のうち、偏心円弧面2a3と真円状内周面8aとで形成される領域は、隙間幅を円周方向の一方で漸次縮小させたくさび状隙間2a5となる。くさび状隙間2a5の縮小方向は軸部2の回転方向に一致している。
【0054】
図6は、第一および第二ラジアル軸受部R1、R2を構成する多円弧軸受の他の実施形態を示すものである。この実施形態では、図5に示す構成において、各偏心円弧面2a3の最小隙間側の所定領域θが、それぞれ回転軸心Oを中心とする同心の円弧で構成されている。従って、各所定領域θにおけるラジアル軸受隙間(最小隙間)2a6は一定となる。このような構成の多円弧軸受は、テーパ・フラット軸受と称されることもある。
【0055】
図7では、軸部2の外周面2aのラジアル軸受面となる領域が3つの円弧面2a7で形成されると共に、3つの円弧面2a7の中心は、回転軸心Oから等距離オフセットされている。3つの偏心円弧面2a7で区画される各領域において、ラジアル軸受隙間2a8は、円周方向の両方向に対してそれぞれ漸次縮小した形状を有している。
【0056】
以上説明した第一および第二ラジアル軸受部R1、R2の多円弧軸受は、何れもいわゆる3円弧軸受であるが、これに限らず、いわゆる4円弧軸受、5円弧軸受、さらには6円弧以上の数の円弧面で構成された多円弧軸受を採用してもよい。また、ラジアル軸受部R1、R2のように、2つのラジアル軸受部を軸方向に離隔して設けた構成とする他、軸部2の外周面2aの上下領域に亘って1つのラジアル軸受部を設けた構成としてもよい。
【0057】
また、スラスト軸受部T1(スラスト軸受部を2箇所設けた場合にはその一方又は双方)は、例えば図示は省略するが、スラスト軸受面となる領域に、複数の半径方向溝形状の動圧溝を円周方向所定間隔に設けた、いわゆるステップ軸受、いわゆる波型軸受(ステップ型が波型になったもの)等で構成することもできる。
【0058】
また、以上の実施形態では、ラジアル軸受部R1、R2やスラスト軸受部T1を動圧軸受で構成した場合を説明したが、これ以外の軸受で構成することもできる。例えば図示は省略するが、ラジアル軸受面となる軸部2の外周面2aを、動圧発生部としての動圧溝Abや円弧面2a3を設けない真円内周面とし、この内周面と対向する軸受スリーブ8の真円状内周面8aとで、いわゆる真円軸受を構成することができる。また、上記スラスト軸受部を動圧発生部を有しない軸受で構成することもでき、一例として、いわゆるピボット軸受が挙げられる。
【0059】
また、以上の実施形態では、流体軸受装置1の内部に充満し、ラジアル軸受隙間や、スラスト軸受隙間に潤滑膜を形成する流体として、潤滑油を例示したが、それ以外にも各軸受隙間に潤滑膜を形成可能な流体、例えば空気等の気体や、磁性流体等の流動性を有する潤滑剤、あるいは潤滑グリース等を使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施形態に係る流体軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの断面図である。
【図2】流体軸受装置の断面図である。
【図3】インクジェット方式の印刷装置の概要図である。
【図4】ハブ部の成形工程を概念的に示す断面図である。
【図5】ラジアル軸受部の他の構成例を示す断面図である。
【図6】ラジアル軸受部の他の構成例を示す断面図である。
【図7】ラジアル軸受部の他の構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 流体軸受装置
2 軸部
2a 外周面
2b ハブ部固定領域
3 回転部材
4 ステータコイル
5 ロータマグネット
7 ハウジング
8 軸受スリーブ
9 ハブ部
9a 円盤部
9b 筒状部
10 係止部材
12 ノズルヘッド
13 硬化部
14 インク
15 ノズル
16、17 金型
16a ゲート
18 キャビティ
A ラジアル軸受面
Aa 区画部
Ab 動圧溝
B 凸部
S シール空間
R1、R2 ラジアル軸受部
T1 スラスト軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受部材と、軸受部材に対して相対回転する回転部材と、軸受部材と回転部材との間のラジアル軸受隙間に生じる流体の潤滑膜で回転部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部とを備え、回転部材は、軸受部材の内周に挿入される金属製の軸部と、軸部に固定されたハブ部とを有する流体軸受装置において、
ハブ部は軸部をインサート部品とする樹脂の型成形品で、かつ軸部の外周面の、ラジアル軸受隙間に面する領域とハブ部固定領域との間に凸部が形成されていることを特徴とする流体軸受装置。
【請求項2】
軸部外周面のラジアル軸受隙間に面する領域に、流体の動圧作用を生じるための動圧発生部が形成された請求項1記載の流体軸受装置。
【請求項3】
凸部の径方向高さが、動圧発生部の径方向高さ以上である請求項2記載の流体軸受装置。
【請求項4】
凸部が、軸部外周面に供給された微量インクの集合体を硬化させて形成されたものである請求項1〜3の何れかに記載の流体軸受装置。
【請求項5】
動圧発生部が、軸部外周面に供給された微量インクの集合体を硬化させて形成されたものである請求項2又は3に記載の流体軸受装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の流体軸受装置を備えたディスク装置のスピンドルモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−207774(P2006−207774A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24138(P2005−24138)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】