説明

流体軸受装置

【課題】ハウジングの材質によらず、また、コストの高騰を招くことなく、十分な蓋部材の抜け耐力を得ることのできる流体軸受装置を提供する。
【解決手段】蓋部材10をブラケット6に固定し、あるいは、蓋部材10とブラケット6を一体成形し、蓋部材10の抜け耐力をブラケット6で受け持つ。これにより、ハウジング7と蓋部材10との間に要求される固定力を軽減し、あるいはこれらの固定を不要とすることができるため、ハウジング7の材質に関わらず蓋部材10の抜け耐力を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジアル軸受隙間に形成される流体膜で軸部材を回転可能に支持する流体軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体軸受装置は、その高回転精度および静粛性から、情報機器、例えばHDD等の磁気ディスク駆動装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク駆動装置、MD、MO等の光磁気ディスク駆動装置等のスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、プロジェクタのカラーホイールモータ、あるいは電気機器の冷却ファン等に使用されるファンモータなどの小型モータ等に利用される。
【0003】
例えば、特許文献1に示されている流体軸受装置(動圧軸受装置)は、軸方向両端に開口したハウジングと、ハウジングの内周に配された軸受スリーブと、軸受スリーブの内周に挿入された軸部材と、ハウジングの一端開口部を閉塞する蓋部材とを備える。蓋部材は略円盤状に形成され、その外周面がハウジングの内周面に固定される。このような流体軸受装置は、ハウジングの外周面をブラケットの内周面に固定することによりモータに組み込まれる。
【0004】
【特許文献1】特開2007−285414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、HDDのスピンドルモータに用いられる流体軸受装置では、スピンドルモータに衝撃荷重が加わると、ディスクを搭載した軸部材がハウジングの開口部を閉塞する蓋部材に突き当たり、蓋部材に大きな衝撃が加わる。このような衝撃により蓋部材がハウジング開口部から外れることを防止するため、蓋部材には一定以上の抜け耐力(蓋部材をハウジング開口部から外そうとする力に対する耐力)が要求される。
【0006】
しかし、上記のように蓋部材をハウジングに固定する構成において、ハウジングを樹脂で形成し、蓋部材を金属で形成した場合、一般に樹脂と金属との接着等による固定力は金属同士や樹脂同士の場合と比べて低いため、蓋部材とハウジングとの間で十分な固定力が得られず、蓋部材の抜け耐力が不足する恐れが高い。
【0007】
また、蓋部材とハウジングとの固定面を高精度に加工し、両者の嵌合精度を高めることにより、蓋部材の抜け耐力を向上させることも考えられるが、このような高精度な加工は蓋部材及びハウジングの加工コストの高騰につながる。
【0008】
上記のような事情より、本発明は、ハウジングの材質によらず、また、コストの高騰を招くことなく、十分な蓋部材の抜け耐力を得ることのできる流体軸受装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、ブラケットの内周面に固定され、軸方向両側に開口した外側部材と、外側部材の一端側の開口部を閉塞する蓋部材と、外側部材の内周に収容された軸部材と、軸部材の外周面が面するラジアル軸受隙間とを備えた流体軸受装置において、蓋部材をブラケットに固定したことを特徴とするものである。あるいは、上記の流体軸受装置において、蓋部材とブラケットを一体成形したことを特徴とするものである。
【0010】
このように、本発明の流体軸受装置では、蓋部材をブラケットに固定することにより、あるいは、蓋部材とブラケットを一体成形することにより、蓋部材の抜け耐力をブラケットで受け持つこととした。これにより、十分な蓋部材の抜け耐力を得るために、ハウジングと蓋部材との間に要求される固定力を軽減し、あるいはこれらの固定を不要とすることができるため、ハウジングの材質に関わらず蓋部材の抜け耐力を維持することができる。また、ハウジングと蓋部材との固定力の負担を軽減することで、両部材の固定面の加工精度が緩和することができ、これらの部材の加工コストを低減することができる。このような流体軸受装置において、さらに蓋部材を外側部材に固定すれば、蓋部材の抜け耐力をより一層高めることができる。
【0011】
また、蓋部材に、外側部材の開口部を覆うプレート部と、プレート部の外径端から軸方向に延びた固定部を設け、この固定部の外周面をブラケットに固定すれば、プレート部を薄肉化して装置の軽量化を図った場合でも、蓋部材と外側部材との固定面の面積を確保することができる。すなわち、軸受装置の軽量化と蓋部材の抜け耐力の向上とを同時に達成することができる。
【0012】
上記に示したような流体軸受装置と、ブラケットの外周面に固定されたステータコイルと、ステータコイルの電磁力で相対回転するロータマグネットとを備えたモータは、蓋部材の抜け耐力に優れているため、複数枚のディスクを搭載したHDDのスピンドルモータ等のように、軸部材側の重量が大きい用途に好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の流体軸受装置によると、ハウジングの材質によらず、また、コストの高騰を招くことなく、蓋部材の十分な抜け耐力を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る流体軸受装置1(動圧軸受装置1)を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置1と、軸部材2に装着されたディスクハブ3と、動圧軸受装置1の外周に取り付けられるブラケット6と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5とを備えている。ステータコイル4は、ブラケット6の外周面に設けられた取り付け部に取り付けられ、ロータマグネット5は、ディスクハブ3の内周に取り付けられる。ディスクハブ3には、磁気ディスク等のディスクDが複数枚(図示例では2枚)保持される。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が相対回転し、それによって、ディスクハブ3および軸部材2が一体となって回転する。
【0016】
図2は、動圧軸受装置1を示している。この動圧軸受装置1は、軸方向両端を開口した外側部材Aとしてのハウジング7と、ハウジング7の一端開口部を閉塞する蓋部材10と、ハウジング7の内周面7aに固定される軸受スリーブ8と、ハウジング7の内周に挿入される軸部材2とで構成される。尚、説明の便宜上、ハウジング7の開口側を上側、ハウジング7が蓋部材10で閉塞されている側を下側として説明を進める。
【0017】
軸部材2は、ステンレス鋼等の金属材料で形成され、軸部2aと軸部2aの下端に一体又は別体に設けられたフランジ部2bとを備えている。軸部材2の全体を金属で形成する他、例えばフランジ部2bの全体あるいはその一部(例えば両端面)を樹脂で構成することにより、金属と樹脂のハイブリッド構造とすることもできる。
【0018】
軸受スリーブ8は、例えば、焼結金属からなる多孔質体、特に銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成され、ハウジング7の内周面7aの所定位置に、圧入、接着、接着剤介在の下での圧入等により固定される。
【0019】
軸受スリーブ8の内周面8aの軸方向に離隔した2箇所の領域には、例えば図3(a)に示すようなヘリングボーン形状の動圧溝8a1、8a2が形成される。図3(a)のクロスハッチングで示す領域は、周辺領域より内径向きに突出した丘部を示し、この丘部のうち、環状の平滑部から軸方向両側に斜めに延びた部分の円周方向間に前記動圧溝8a1、8a2が設けられる。上側の動圧溝8a1は、上側の丘部の軸方向略中央部に設けられた環状の平滑部に対して軸方向非対称に形成されており、環状平滑部より上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている。下側の動圧溝8a2は、軸方向対称に形成されている。上下に離隔した動圧溝8a1、8a2形成領域の軸方向間の領域は、動圧溝8a1、8a2と同一径に形成され、これらと連続している。
【0020】
軸受スリーブ8の下側端面8cには、例えば図3(b)に示すようなスパイラル形状の動圧溝8c1が形成される。また、軸受スリーブ8の外周面8dには、任意の本数の軸方向溝8d1が軸方向全長に亙って形成され、図示例では3本の軸方向溝8d1を円周等間隔に形成している。
【0021】
図3(c)に示すように、軸受スリーブ8の上側端面8bは、半径方向の略中央部に設けられた円周溝8b1により内径側領域8b2と外径側領域8b3に区画され、内径側領域8b2には1本又は複数本の半径方向溝8b21が形成される。図示例では、3本の半径方向溝8b21が円周等間隔に形成されている。
【0022】
ハウジング7は、略円筒状に形成され、ハウジング7の上端開口部をシールするシール部9が一体に設けられている。ハウジング7の外周面には、大径外周面7dと、下端開口部に設けられた小径外周面7eと、大径外周面7dと小径外周面7eとの間に形成される段部7fとが設けられる。段部7fは、下方へ向けて漸次縮径したテーパ状に形成される。小径外周面7eの上端部の軸方向位置は、下側のラジアル軸受部R2を越えて上方まで達している。ハウジング7の小径外周面7eには蓋部材10が固定され、内周面7aには軸受スリーブ8が固定される。なお、シール部9は、ハウジング7と別体に構成することもできる。
【0023】
ハウジング7及びシール部9は、例えば、液晶ポリマー(LCP)やポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の結晶性樹脂、あるいはポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)等の非晶性樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物を射出成形することで形成される。上記の樹脂に充填する充填材の種類は特に限定されないが、例えば、充填材として、ガラス繊維等の繊維状充填材、チタン酸カリウム等のウィスカー状充填材、マイカ等の鱗片状充填材、カーボンファイバー、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、金属粉末等の繊維状又は粉末状の導電性充填材を用いることができる。これらの充填材は、単独で用い、あるいは、二種以上を混合して使用しても良い。
【0024】
蓋部材10は、略円盤状を成し、ハウジング7の下端開口部を覆うプレート部10aと、プレート部10aの外径端から軸方向に延びた円筒状の固定部10bとを有し、例えば、黄銅等の金属材料のプレス加工で一体に形成される。プレート部10aの上側端面10a1には、例えば図4に示すようなスパイラル形状の動圧溝10a11が形成される。蓋部材10の固定部10bの端面10b3とハウジング7の段部7fとの間には、外径へ向けて軸方向寸法を漸次拡大した楔状の空間Gが設けられ、この空間Gはハウジング7の外周に開口している。固定部10bの上端部の軸方向位置は、下側のラジアル軸受部R2を越えてその上方まで達している。プレート部10aの上側端面10a1とハウジング7の下端部7gとの間には、スラスト軸受隙間を設定するための調整代となる軸方向隙間が形成される。
【0025】
蓋部材10の固定部10bの内周面10b2は、ハウジング7の小径外周面7eに隙間嵌めで嵌合し、例えば接着により固定される(この固定部を内側固定部Bと称す)。また、蓋部材10の固定部10bの外周面10b1は、ブラケット6の内周面に、例えば接着により固定される(この固定部を外側固定部Cと称す)。
【0026】
このように、蓋部材10をブラケット6に固定することにより、蓋部材10の抜け耐力をハウジング7と間の内側固定部Bだけでなくブラケット6との間の外側固定部Cで受け持つことができるため、内側固定部Bに要求される固定力を軽減することができる。これにより、内側固定部Bの固定方法の選択の幅が広がり、接着以外にも、例えばねじ結合、加締め、あるいは溶接等による固定が可能となる。また、内側固定部Bに要求される固定力が軽減されることで、内側固定部Bの固定面、すなわち蓋部材10の固定部10bの内周面10b2及びハウジング7の小径外周面7eの加工精度を緩和することができるため、蓋部材10及びハウジング7の加工コストを低減することができる。尚、外側固定部Cのみで蓋部材10の抜け耐力が十分に得られる場合は、内側固定部Bを省略することもできる。また、外側固定部Cにおける固定方法は上記に限らず、圧入、圧入接着、あるいは溶接等の手段を採用することができる。
【0027】
また、蓋部材10に、プレート部10aから上方に延びた固定部10bを設け、この固定部10bの外周面10b1をブラケット6に固定することで、蓋部材10とブラケット6との固定面(外側固定部C)の軸方向寸法をプレート部10aの肉厚よりも大きくすることができる。これにより、蓋部材10とブラケット6との固定力が高められ、蓋部材10の抜け耐力のさらなる向上が図られる。また、蓋部材10のブラケット6への固定面を固定部10bに設けることで、プレート部10aを薄型化した場合でも蓋部材10とブラケット6との固定力を維持(あるいは増大)することができる。このようにプレート部10aを薄型化することにより、動圧軸受装置1の薄型化が図られ、あるいは、動圧軸受装置1の軸方向寸法を拡大することなく、蓋部材10を薄型化した分だけ軸受スリーブ8の軸方向寸法を拡大することができるため、ラジアル軸受部R1およびR2の軸方向間隔を拡大することで、ラジアル方向の軸受剛性を高めることができる。
【0028】
また、蓋部材10の固定部10bの上端面10b3とハウジング7の段部7fとの間に楔状の空間Gが設けられることにより、内側固定部Bの接着剤がこの空間Gまではみ出した場合でも、毛細管力により内側固定部B側に引き込むことができる。また、外径へ向けて軸方向間隔を拡大することで、空間Gの容積を大きく取ることができるため、ブラケット6と動圧軸受装置1の間の接着剤溜りとして機能し、これらの固定力を高めることができる。尚、このような効果は、ハウジング7の段部7fを平坦に形成すると共に、蓋部材10の固定部10bの上端部を下方へ向けて漸次拡径したテーパ状に形成することによっても得ることができる。
【0029】
ところで、例えば内側固定部Bの上端部を下側のラジアル軸受部R2の軸方向領域内に配した場合、ラジアル軸受部R2の外周には、ハウジング7のうち、蓋部材10に接着固定される部分(小径外周面7e)と、楔状の空間Gに臨む部分(段部7f)とが配され、さらにブラケット6に接着固定される部分(大径外周面7d)が配されることもある。これらの各部分では、径方向の肉厚や塗布される接着剤の量、あるいは接着される相手材から受ける締付力等が異なるため、ハウジング7の縮径量に差が生じる恐れがある。このようなハウジング7の収縮量差の影響が軸受スリーブ8の内周面8aに及ぶと、ラジアル軸受部R2の軸受隙間の幅精度が悪化して軸受性能を低下させることとなる。これに対し本実施形態では、内側固定部Bの上端部の軸方向位置が下側のラジアル軸受部R2の上方まで達しているため、ラジアル軸受部R2の軸方向領域全体にハウジング7の小径外周面7eが配され、この面が蓋部材10に接着固定される。これにより、ラジアル軸受部R2の軸方向領域において、ハウジング7の径方向の肉厚や接着剤の塗布量が均一化されると共に、この領域のハウジング7が円筒面状の蓋部材10の内周面10b2に接着固定されるため、この領域においてハウジング7を均一に収縮させることができ、ラジアル軸受部R2の軸受性能の低下を回避できる。尚、このような効果は、内側固定部Bの上端部を下側のラジアル軸受部R2よりも下方に配することによっても得ることができる。
【0030】
シール部9の内周面9aは、軸部2aの外周に設けられたテーパ面2a2と所定のシール空間Sを介して対向し、毛細管力で潤滑油を保持する毛細管シールを構成する。尚、図示のように、軸部2aのテーパ面2a2を上側に向かって漸次縮径させておけば、軸部材2の回転時にシール空間Sを遠心力シールとしても機能させることができる。シール空間Sの容積は、軸受装置の使用温度範囲内において、軸受装置の内部に保持された潤滑油の熱膨張量よりも大きくする。これにより、軸受装置の使用温度範囲内では、潤滑油がシール空間Sから漏れ出すことはなく、油面が常時シール空間S内に保持される(バッファ機能)。
【0031】
軸部材2が回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aと軸部材2の外周面2a1との間にラジアル軸受隙間が形成されると共に、軸受スリーブ8の下側端面8cと軸部材2のフランジ部2bの上側端面2b1との間、及び蓋部材10のプレート部10aの上側端面10a1との間にそれぞれスラスト軸受隙間が形成される。そして、軸受スリーブ8の内周面8aの動圧溝8a1、8a2が上記ラジアル軸受隙間の潤滑油に動圧作用を発生させることにより、軸部材2の軸部2aをラジアル方向に回転自在に非接触支持するラジアル軸受部R1、R2が構成される。同時に、軸受スリーブ8の下側端面8cの動圧溝8c1、及び蓋部材10のプレート部10aの上側端面10a1の動圧溝10a11が、上記各スラスト軸受隙間の潤滑油に動圧作用を発生させることにより、軸部材2のフランジ部2bを両スラスト方向に回転自在に非接触支持する第1スラスト軸受部T1及び第2スラスト軸受部T2が構成される。このとき、ラジアル軸受隙間の下端は、第1スラスト軸受部T1の軸受隙間の外径端につながる。
【0032】
前述したように、軸受スリーブ8の内周面8aの動圧溝8a1は、軸方向略中央部の環状平滑部に対して軸方向非対称に形成されており、環状平滑部より上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている(図3(a)参照)。そのため、軸部材2の回転時、動圧溝8a1による潤滑油の引き込み力(ポンピング力)は上側領域が下側領域に比べて相対的に大きくなる。この引き込み力の差圧によって、ラジアル軸受隙間の潤滑油が下方に流動し、第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間→軸方向溝8d1→シール部9の下側端面9bと軸受スリーブ8の上側端面8bとの間の空間、という経路を循環して、ラジアル軸受隙間に再び引き込まれる。このように、潤滑油がハウジング7の内部空間を流動循環するように構成することで、内部空間内の潤滑油の圧力が局部的に負圧になる現象を防止して、負圧発生に伴う気泡の生成、気泡の生成に起因する潤滑油の漏れや振動の発生等の問題を解消することができる。また、何らかの理由で潤滑油中に気泡が混入した場合でも、気泡が潤滑油に伴って循環する際にシール空間S内の潤滑油の油面(気液界面)から外気に排出されるので、気泡による悪影響はより一層効果的に防止される。
【0033】
以上の構成を有する流体軸受装置の組立は、ハウジング7の内周に軸受スリーブ8を挿入してハウジング7と軸受スリーブ8を接着等により固定した後、軸受スリーブ8の内周に軸部材2を挿入し、さらにハウジング7の開口部に蓋部材10を固定することにより行われる。この際、蓋部材10のハウジング7に対する軸方向位置を調整することで、スラスト軸受隙間の隙間幅が規定値に管理される。このとき、蓋部材10の固定部10bの内周面10b2とハウジング7の小径外周面eとが隙間嵌めで嵌合していることにより、蓋部材10とハウジング7との相対移動を容易に行うことができるため、スラスト軸受隙間の幅設定作業がしやすくなり、幅設定を精度良く行うことができる。その後、シール空間Sから軸受装置の内部に潤滑油を注入し、軸受スリーブ8の内部気孔を含めてハウジングの内部空間を全て潤滑油で満たすことにより、動圧軸受装置1が完成する。この動圧軸受装置1のハウジング7の大径外周面7d及び蓋部材10の外周面10b1をブラケット6の内周面に固定することにより、動圧軸受装置1がモータに組み込まれる。
【0034】
本発明の実施形態は上記に限られない。なお、以下の説明において、上記実施形態と同一の機能を有する箇所には、同一の符合を付し、説明を省略する。
【0035】
図5に、本発明の第2の実施形態に係る動圧軸受装置21を示す。この動圧軸受装置21では、ハウジング7と軸受スリーブ8とが軸受部材11として樹脂材料一体成形され、この軸受部材11が外側部材Aとなる。シール部9はハウジング7と別体に形成され、軸受部材11の上端開口部に固定され、その下側端面9bは軸受スリーブ8の上側端面8bと当接する。シール部9の内周面9aは、上方へ向けて漸次拡径したテーパ面を有し、この内周面9aと軸部2aの円筒状外周面2a1との間にシール空間Sを形成する。軸部2aの外周面2a1には、ヘリングボーン形状の動圧溝2a11、2a12が軸方向に離隔した2箇所に形成され、軸部材2の回転時には、該動圧溝形成領域がラジアル軸受隙間R1、R2の潤滑油に動圧作用を発生させる。蓋部材10は、軸受部材11の下端に設けられた小径外周面7eに固定される。このように、軸受部材11を樹脂で形成した場合、軸受部材11と金属製のブラケット6との接着固定力が十分に得られない恐れがあるが、図示例のように金属製の蓋部材10の外周面10b1とブラケット6とを固定することで、ブラケット6と動圧軸受装置1とを強固に固定することができる。
【0036】
図6に、本発明の第3の実施形態に係る動圧軸受装置31を示す。この動圧軸受装置31は、蓋部材10とブラケット6を一体成形した点で上記実施形態と異なる。この一体成形品12は、蓋部材10のプレート部10aに相当する部分と、ブラケット6に相当する部分とを一体に備え、例えば樹脂材料で射出成形される。この一体成形品12のブラケット6相当部分の内周面がハウジング7の外周面7dに接着等により固定される。こうして、蓋部材10とブラケット6とが一体成形されることにより、蓋部材10の抜け耐力をより一層高めることができる。この動圧軸受装置31の組立は、ハウジング7の内周に軸受スリーブ8及び軸部材2を収容した状態で、ハウジング7の外周面7dに上記の一体成形品12を固定することにより行われる。
【0037】
尚、上記の第2及び第3実施形態に係る動圧軸受装置21、31では、ハウジング7の下端面7gをプレート部10a相当部分の上側端面10a1と当接させ、これによりスラスト軸受部T1、T2のスラスト軸受隙間の幅設定を行っている。これらの動圧軸受装置21、31においても、上記第1の実施形態に係る動圧軸受装置1と同様にハウジング7の下端面7gとプレート部10aの上側端面10a1との間に、スラスト軸受隙間の幅設定を行うための調整代となる軸方向隙間を設けても良い。
【0038】
また、上記の第1の実施形態及び第2の実施形態では、動圧軸受装置を組み立ててからブラケット6の内周に固定しているが、これに限られない。例えば、ブラケット6とハウジング7を固定した後、蓋部材10の固定や注油を行っても良い。あるいは、ブラケット6と蓋部材10を固定した後、ハウジング7の固定や注油を行っても良い。
【0039】
以上の実施形態では、ハウジング7が樹脂で形成されているが、これに限らず、例えば金属材料で形成してもよい。また、以上では、蓋部材10やブラケット6が金属材料で形成されているが、これを樹脂材料で形成してもよい。以上では、軸受スリーブ8が焼結金属で形成されているが、その他の金属材料や、樹脂材料で形成してもよい。
【0040】
また、以上の実施形態では、ラジアル軸受部R1、R2の潤滑油に動圧作用を発生させる動圧発生部(ラジアル動圧発生部)として、ヘリングボーン形状の動圧溝8a1、8a2が形成され、スラスト軸受部T1、T2の潤滑油に動圧作用を発生させる動圧発生部(スラスト動圧発生部)として、スパイラル形状の動圧溝8c1、10a11が形成されているが、これに限らない。例えばラジアル動圧発生部として、スパイラル形状の動圧溝や、ステップ軸受、あるいは多円弧軸受等を形成することもできる。また、スラスト軸受発生部として、ヘリングボーン形状の動圧溝や、ステップ軸受、波型軸受(ステップ軸受が波型形状となったもの)等を形成することもできる。
【0041】
また、ラジアル動圧発生部は、軸受スリーブ8の内周面8aおよび軸部2aの外周面2a1の何れに設けてもよい。また、第1スラスト軸受部T1のスラスト動圧発生部は、軸受スリーブ8の下側端面8cおよびフランジ部2bの上側端面2b1の何れに設けてもよく、第2スラスト軸受部T2のスラスト動圧発生部は、蓋部材10の端面10a1およびフランジ部2bの下側端面2b2の何れに設けても良い。
【0042】
また、以上の実施形態では、軸部材2がフランジ部2bを備えているが、フランジ部を有さない円筒状の軸部材を使用することもできる。例えば、軸部材2が下端面を有し、この下端面と蓋部材10の端面10a1との間に形成されるスラスト軸受隙間の潤滑油の動圧作用で、スラスト軸受部を形成することができる。あるいは、下端に球面状凸部を有する軸部材2を使用し、この球面状凸部と蓋部材の端面とで、いわゆるピボット軸受を構成することもできる。このとき、ラジアル軸受隙間の一端は、蓋部材10で密閉された空間、すなわちスラスト軸受隙間や、球面状凸部と蓋部材10との間に形成される空間につながる。
【0043】
また、以上の実施形態では、ラジアル軸受部R1、R2が軸方向で離隔して設けられているが、これらを軸方向で連続的に設けてもよい。あるいは、これらの何れか一方のみを設けてもよい。
【0044】
また、軸受スリーブ8の内周面8aおよび軸部2aの外周面を何れも真円形状とし、ラジアル軸受部を、いわゆる真円軸受で構成することもできる。
【0045】
また、以上の実施形態では、軸受装置内部に充満される潤滑流体として潤滑油が使用されているが、これに限らず、例えば潤滑グリースや、磁性流体、あるいは空気等の気体も使用可能である。
【0046】
また、本発明の動圧軸受装置は、上記のようにHDD等のディスク駆動装置に用いられるスピンドルモータに限らず、光ディスクの光磁気ディスク駆動用のスピンドルモータ等、高速回転下で使用される情報機器用の小型モータ、レーザビームプリンタのポリゴンスキャナモータ、あるいは電気機器の冷却ファン用のファンモータにも好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】動圧軸受装置を組込んだスピンドルモータの断面図である。
【図2】動圧軸受装置の断面図である。
【図3】軸受スリーブの(a)断面図((c)のa−a方向)、(b)下面図、(c)上面図である。
【図4】蓋部材の上面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る動圧軸受装置の断面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る動圧軸受装置の断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 動圧軸受装置(流体軸受装置)
2 軸部材
3 ディスクハブ
4 ステータコイル
5 ロータマグネット
6 ブラケット
7 ハウジング
7a 内周面
7d 大径外周面
7e 小径外周面
7f 段部
8 軸受スリーブ
9 シール部
10 蓋部材
10a プレート部
10b 固定部
A 外側部材
B 内側固定部
C 外側固定部
R1、R2 ラジアル軸受部
T1、T2 スラスト軸受部
S シール空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラケットの内周面に固定され、軸方向両側に開口した外側部材と、外側部材の一端側の開口部を閉塞する蓋部材と、外側部材の内周に収容された軸部材と、軸部材の外周面が面するラジアル軸受隙間とを備えた流体軸受装置において、
蓋部材をブラケットに固定したことを特徴とする流体軸受装置。
【請求項2】
さらに、蓋部材を外側部材に固定した請求項1記載の流体軸受装置。
【請求項3】
蓋部材に、外側部材の開口部を覆うプレート部と、プレート部の外径端から軸方向に延びた固定部を設け、この固定部の外周面をブラケットに固定した請求項1記載の流体軸受装置。
【請求項4】
ブラケットの内周面に固定され、軸方向両端に開口した外側部材と、外側部材の一端側の開口部を閉塞する蓋部材と、外側部材の内周に収容された軸部材と、軸部材の外周面が面するラジアル軸受隙間とを備えた流体軸受装置において、
蓋部材とブラケットを一体成形したことを特徴とする流体軸受装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の流体軸受装置と、ブラケットの外周面に固定されたステータコイルと、ステータコイルの電磁力で相対回転するロータマグネットとを備えたモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−138878(P2009−138878A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317382(P2007−317382)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】