説明

流体軸受装置

流体軸受装置の低コスト化を図ると共に、静電気の帯電を防止する。ハウジングの内部に軸受スリーブを固定し、軸受スリーブの内周面に軸部材を挿入する。軸受スリーブの内周面と軸部材の外周面との間の軸受隙間に、潤滑油の動圧作用で圧力を発生させて軸部材をラジアル方向で非接触支持する。軸部材の軸端部をハウジング底部と接触させて通電可能とすると共に、ハウジングをカーボンナノファイバーを配合した導電性樹脂組成物で形成し、その体積固有抵抗10Ω・cm以下に設定する。

【発明の詳細な説明】
発明の背景
本発明は、ラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の油膜によって回転部材を非接触支持する流体軸受装置、および軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用によって回転部材を非接触支持する動圧軸受装置(流体動圧軸受装置)に関する。これらの軸受装置は、情報機器、例えばHDD、FDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置などのスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、あるいは電気機器、例えば軸流ファンなどの小型モータ用として好適である。
上記各種モータには、高回転精度の他、高速化、低コスト化、低騒音化などが求められている。これらの要求性能を決定づける構成要素の一つに当該モータのスピンドルを支持する軸受があり、近年では、上記要求性能に優れた特性を有する流体軸受の使用が検討され、あるいは実際に使用されている。
この種の流体軸受は、軸受隙間内の潤滑油に動圧を発生させる動圧発生手段を備えたいわゆる動圧軸受と、動圧発生手段を備えていない、いわゆる真円軸受(軸受面が真円形状である軸受)とに大別される。
例えば、HDD等のディスク装置のスピンドルモータやLBPのポリゴンスキャナモータに組込まれる流体軸受装置では、ハウジングの内周に軸受スリーブを固定すると共に、軸受スリーブの内周に軸部材を配置した構造が知られている(特開2002−061636号公報等参照)。この軸受装置では、軸部材の回転により、軸受スリーブの内周と軸部材の外周との間のラジアル軸受隙間に流体の動圧作用で圧力を発生させ、この圧力で軸部材をラジアル方向に非接触状態で支持する。
従来、上記流体軸受装置のハウジングとしては、真鍮や銅等の金属の旋削品が使用されている。しかしながら、金属の旋削品では製作コストが高騰し、軸受装置の低コスト化を図る上で障害となる。
その一方、上記構造の流体軸受装置では、その回転時に軸部材とハウジングの間が潤滑油によって絶緑されるため、磁気ディスク等の回転体と空気との摩擦によって発生した静電気が逃げることができず、回転体に帯電しやすい。この帯電を放置すると、磁気ディスクと磁気ヘッドの間で電位差を生じたり、静電気の放電により周辺機器が損傷する等の不具合を招くおそれがある。
ところで、例えば、HDD等のディスク駆動装置のスピンドルモータに組込まれる動圧軸受装置では、軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、軸部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とが設けられ、ラジアル軸受部として、軸受スリーブの内周面又は軸部材の外周面に動圧発生用の溝(動圧溝)を設けた動圧軸受が用いられる。スラスト軸受部としては、例えば、軸部材のフランジ部の両端面、又は、これに対向する面(軸受スリーブの端面や、ハウジングに固定されるスラスト部材の端面等)に動圧溝を設けた動圧軸受が用いられる。あるいは、スラスト軸受部として、軸部材の一端面をスラストプレートによって接触支持する構造の軸受(いわゆるピボット軸受)が用いられる場合もある。
通常、軸受スリーブはハウジングの内周の所定位置に固定され、また、ハウジングの内部空間に注油した潤滑油が外部に漏れるのを防止するために、ハウジングの開口部にシール部材を配設する場合が多い。あるいは、ハウジングの開口部にシール部を一体に形成する場合もある。さらに、潤滑油の漏れを防止するために、軸部材の外周面や、ラジアル軸受隙間に通じるハウジングの外側面、シール部材の内周面に溌油剤を塗布することも行われている
上記構成の動圧軸受装置は、ハウジング、軸受スリーブ、軸部材、スラスト部材、及びシール部材といった部品で構成され、情報機器の益々の高性能化に伴って必要とされる高い軸受性能を確保すべく、各部品の加工精度や組立精度を高める努力がなされている。その一方で、情報機器の低価格化の傾向に伴い、この種の動圧軸受装置に対するコスト低減の要求も益々厳しくなっている。
そこで、本発明は、低コスト化を達成でき、かつ静電気の帯電を確実に防止することのできる流体軸受装置の提供を目的とする。
また、本発明の課題は、この種の動圧軸受装置におけるハウジングの製造コストを低減すると共に、部品点数の削減、加工工程及び組立工程の簡略化を図り、より一層低コストな動圧軸受装置を提供することである。
発明の要約
上記課題を解決するため、本発明にかかる流体軸受装置は、ハウジングと、ハウジングの内部に配置された軸受スリーブと、軸受スリーブの内周面に挿入された軸部材と、軸受スリーブの内周面と軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の油膜で、軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部とを有するものであって、さらに軸部材とハウジングとの間を通電可能とする通電手段を備え、かつハウジングが、通電性のある樹脂で形成されていることを特徴とするものである。
このようにハウジングを樹脂製とすれば、これを射出成形等の型成形により高精度かつ低コストに成形することが可能となる。特にハウジングを、軸受スリーブをインサート部品として樹脂の型成形(インサート成形)で形成すれば、ハウジングと軸受スリーブの組立作業が不要となるので、組立コストのさらなる低減を図ることができる。
その一方、一般に樹脂は絶縁材料であるため、上記樹脂製ハウジングでは、帯電した静電気をハウジングを通じて接地側に放電させることができず、静電気の帯電が問題となる。この対策として、軸部材とハウジングとの間に、これらの間を通電可能とする通電手段を設け、さらにハウジングを通電性のある樹脂(導電性樹脂組成物)で形成すれば、軸部材と軸受スリーブとの相対回転時、ディスク等に蓄積された静電気を、軸部材、通電手段、さらにはハウジングを経て接地側の部材(ケーシング6等)に放電させることが可能となり、静電気の帯電を確実に防止することができる。
この場合、ハウジングは、体積固有抵抗10Ω・cm以下の導電性樹脂組成物で形成するのが望ましい。体積固有抵抗が10Ω・cmを超えると、ハウジングの導電性が不十分となるため、通電手段で軸部材とハウジングの間の通電性が確保されていても静電気を接地側に放電することが難しくなる。
通電手段の具体例として、例えば導電性の潤滑油を使用することができる。この潤滑油は軸受隙間を満たすものであるから、静電気は、軸部材→潤滑油→軸受スリーブ(通常は導電性を有する焼結合金や軟質金属で形成される)→ハウジングというルートを通って接地側に放電される。このルートの他、軸受スリーブを経ることなく、軸部材→潤滑油→ハウジングというルートを経て放電される場合もある。
また、通電手段として、軸部材をスラスト方向に接触支持するスラスト軸受部を使用することもできる。この場合、静電気は、主として軸部材→スラスト軸受部→ハウジングというルートを通って接地側に放電される。また、導電性の潤滑油も併せて使用することもでき、この場合、静電気は、軸部材から潤滑油を通ってハウジングに至るルートによっても放電されることとなる。
ハウジングの導電性を確保する手段として、基材樹脂に導電化剤として金属粉や炭素繊維を配合することも考えられる。しかしながら、これらの導電化剤は、一般に粒径や線径が数十μm〜数百μm程度に達する大径であり、しかも導電性確保のために配合量を多くする必要がある。そのため、樹脂の流動性が低下して成形品の寸法精度が悪化したり、ハウジングが他部材と摺動する際(例えばハウジング内周に軸受スリーブを圧入する際、あるいはハウジングをモータに組み付ける際)にこれら導電化剤が基材樹脂から脱落し、コンタミネーション発生の要因となるおそれがある。
これに対し、ハウジングを、平均粒径が1μm以下の粉末状導電化剤を8重量%以下配合し、あるいは平均線径が10μm以下で平均繊維長が500μm以下の繊維状導電化剤(例えば炭素繊維)を20重量%以下配合した導電性樹脂組成物で形成すれば、導電化剤の径が小さく、かつ配合量も少なくて済むことから、溶融状態で良好な流動性を確保でき、かつ導電化剤が基材樹脂から脱落しにくくなり、コンタミネーションの問題を回避することができる。
導電化剤としては、カーボンナノマテリアルを使用するのが望ましい。カーボンナノマテリアルは、従来から導電化剤として用いられているカーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、金属粉などと比較して、次のような特徴を有する。
(1)高い導電性を有し、少量の添加で良好な導電性が得られる。
(2)高アスペクト比を有するため、マトリックス中で分散されやすい。また、アブレッシブ摩耗に強く、摩擦による脱落が少ない。
(3)添加量が少なくてすむため、樹脂本来の物性を損なうことがなく、溶融状態における樹脂の流動性も良好である。
(4)不純物が少なく、従来の導電化剤(特に炭素系)に比べてアウトガスが少ない。
従って、ハウジングを、導電化剤としてカーボンナノマテリアルを配合した導電性樹脂組成物で形成すれば、樹脂の流動性低下やコンタミネーションの発生を回避しつつ、ディスク等に帯電した静電気を確実に接地側に放電することができる。具体的には、導電性樹脂組成物におけるカーボンナノマテリアルの配合量を1〜10wt%に設定すれば、上記体積固有抵抗値(10Ω・cm以下)を実現することができる。
カーボンナノマテリアルとしては、カーボンナノファイバーやC60に代表されるフラーレンなどが有名である。このうち、フラーレンは一般に絶縁体であるので、本発明では良好な導電性を有するカーボンナノファイバーを使用するのが望ましい。ここでいうカーボンナノファイバーには、直径が40〜50nm以下の「カーボンナノチューブ」と呼ばれるものも含まれる。
このカーボンナノファイバーの具体例として、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カップ積層型カーボンナノファイバー、あるいは気相成長炭素繊維などが知られているが、本発明では、これら何れのカーボンナノファイバーも使用することができる(これらを一種のみ使用するほか、二種以上の混合物として使用することもできる)。
これらのカーボンナノファイバーは、アーク放電法、レーザ蒸着法、あるいは化学的気相成長法などによって製造することができる。
軸受の運転中、ハウジングは発生した熱により昇温されるが、その際の膨張量が大きいと軸受スリーブの変形を招き、動圧溝の精度を低下させるおそれがある。かかる事態を防止するため、ハウジングは線膨張係数、特に径方向の線膨張係数が5×10−5/℃以下の樹脂組成物で形成するのが望ましい。
軸受スリーブは、金属の他、体積固有抵抗が10Ω・cm以下の上記各種導電性樹脂組成物で形成することもできる。これにより軸受スリーブの導電性が確保されるので、ディスク等に蓄積した静電気を導電性のハウジングを介して確実に接地側に放電することが可能となる。
以上のように、本発明によれば、軸受装置の低コスト化を図ることができる。また、静電気の帯電を確実に防止することができるので、この軸受装置を搭載した情報機器の動作安定性を高めることができる。
また、本発明は、ハウジングと、ハウジングの内部に固定された軸受スリーブと、ハウジング及び軸受スリーブに対して相対回転する回転部材と、軸受スリーブと回転部材との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で回転部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、ハウジングと回転部材との間のスラスト軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で回転部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とを備えた動圧軸受装置において、ハウジングは、樹脂材料を型成形して形成されると共に、スラスト軸受部を構成するスラスト軸受面を有し、かつ、スラスト軸受面に型成形と同時に成形された動圧溝を有する構成を提供する。
樹脂材料を型成形(射出成形等)して形成された樹脂製のハウジングは、旋削等の機械加工による金属製ハウジングに比べて低コストで製造することができると共に、プレス加工による金属製ハウジングに比べて比較的高い精度を確保することができる。
また、ハウジングにスラスト軸受面を設けることにより、スラスト軸受面を有する他の部材を別途配置する必要がなくなるので、部品点数及び組立工数の削減になる。さらに、ハウジングのスラスト軸受面の動圧溝を、ハウジングの型成形と同時に成形することにより(ハウジングを成形する成形型に上記動圧溝を成形する型形状を加工しておく。)、上記動圧溝を別途加工する必要がなくなるので、加工工数の削減になり、しかも、金属部品に対して上記動圧溝を機械加工やエッチング、電解加工等により形成する場合に比べて、動圧溝の形状や溝深さ等の精度を高めることができる。
上記のスラスト軸受面は、ハウジングの一端側の内底面に設け、あるいは、ハウジングの他端側の端面に設けることができる。
また、ハウジングに段部を設け、軸受スリーブの一端側の端面をハウジングの段部に当接させることにより、軸受スリーブのハウジングに対する軸方向位置決めを簡易に行なうことができる。特に、ハウジングの内底面から軸方向に所定寸法だけ離れた位置に段部を設けることにより、スラスト軸受隙間を精度良くかつ簡易に設定することができる。
ハウジングを形成する樹脂は熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、例えば、非晶性樹脂として、ポリサルフォン(PFS)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSF)、ポリエーテルイミド(PEI)等、結晶性樹脂として、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等を用いることができる。
また、上記の樹脂に充填する充填材の種類も特に限定されないが、例えば、充填材として、ガラス繊維等の繊維状充填材、チタン酸カリウム等のウィスカー状充填材、マイカ等の鱗片状充填材、カーボンファイバー、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、金属粉末等の繊維状又は粉末状の導電性充填材を用いることができる。これらの充填材は、単独で用い、あるいは、二種以上を混合して使用しても良い。
例えば、HDD等のディスク駆動装置のスピンドルモータに組み込まれる動圧軸受装置では、磁気ディスク等のディスクと空気との摩擦によって発生した静電気を接地側に逃がすために、ハウジングに導電性が要求される場合がある。このような場合、ハウジングを形成する樹脂に上記の導電性充填材を配合することにより、ハウジングに導電性を与えることができる。
上記の導電性充填材としては、導電性の高さ、樹脂マトリックス中での分散性の良さ、耐アブレッシブ摩耗性の良さ、低アウトガス性等の点から、カーボンナノマテリアルが好ましい。カーボンナノマテリアルとしては、カーボンナノファイバーが好ましい。このカーボンナノファイバーには、直径が40〜50nm以下の「カーボンナノチューブ」と呼ばれるものも含まれる。
カーボンナノファイバーの具体例として、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カップ積層型カーボンナノファイバー、気相成長炭素繊維などが知られているが、本発明ではこれらの何れのカーボンナノファイバーも使用することができる。また、これらのカーボンナノファイバーは一種又は二種以上を混合して使用することができ、さらに他の充填材と混合して使用することもできる。導電性充填材としてこれらカーボンナノマテリアルを使用する場合、その配合量は2〜8wt%とするのが好ましい。
また、上記の導電性充填材として、平均繊維径が10μm以下のカーボンファイバー、特に平均繊維径が10μm以下で平均繊維長が500μm以下のカーボンファイバーも、径が小さく、かつ、配合量も少なくて済むことから、樹脂の溶融状態での良好な流動性を確保でき、しかも充填材が樹脂基材から脱落しにくく、コンタミネーションの問題を回避することができるので好ましい。導電性充填材としてこれらカーボンファイバーを使用する場合、その配合量は5〜20wt%とするのが好ましい。
本発明によれば、この種の動圧軸受装置におけるハウジングの製造コストを低減すると共に、部品点数の削減、加工工程及び組立工程の簡略化を図り、より一層低コストな動圧軸受装置を提供することができる。
以上に述べたように、この種の流体軸受装置の低コスト化を図る手段として、ハウジングを樹脂材料で射出成形することが考えられる。しかしながら、射出成形の態様、特に溶融樹脂をキャビティー内に充填するゲートの形状や位置の設定によって、ハウジングの所要の成形精度が確保できない場合があり、また、射出成形後の樹脂ゲート部の除去加工(機械加工)によって形成されるゲート除去部が溌油性を必要とされる表面に現れ、該表面に溌油剤を塗布した場合であっても、充分な溌油効果が得られない場合がある。
例えば、図14(a)に示すような、筒状の側部7b’と、側部7b’の一端部から内径側に一体に連続して延びたシール部7a’とを備えたハウジング7’を、樹脂材料で射出成形する場合、一般に、図14(b)に示すように、成形金型のキャビティー17’の一端側中心部にディスクゲート17a’を設け、ディスクゲート17a’からキャビティー17’内に溶融樹脂Pを充填する方法が採られている。しかしながら、この成形方法では、成形後の成形品は、図14(c)に示すように(A部)、シール部7a’の外側面7a2’の内周縁部に樹脂ゲート部7d’が繋がった形態になる。そこで、成形後に、図14(c)におけるX線又はY線に沿って除去加工(機械加工)を行い、樹脂ゲート部7d’を除去している。その結果、X線に沿って樹脂ゲート部7d’の除去加工を行った場合では、シール部7a’の外側面7a2’の内周縁部にゲート除去部(機械加工面)が現れ、Y線に沿って樹脂ゲート部7d’の除去加工を行った場合では、シール部7a’の外側面7a2’の全領域にゲート除去部(機械加工面)が現れる。
一般に、溌油剤の溌油性能は、溌油剤を塗布する母材表面の状態によって大きな影響を受け、樹脂の機械加工面では成形面に比べて溌油剤の溌油性能は小さくなる。一方、シール部7a’の外側面7a2’面において、最も溌油性が要求される部位はシール面となる内周面7a1’に近い内周側領域である。上記の成形方法では、樹脂ゲート部7d’を除去加工することにより形成されるゲート除去部が、X線、Y線に沿った除去加工の何れの場合においても、外側面7a2’の内周側領域に存在することとなる結果、外周面7a2’に溌油剤を塗布した場合であっても、充分な溌油効果が得られないことが多い。
上記課題を解決するため、本発明は、ハウジングと、ハウジングの内部に配置された軸受スリーブと、軸受スリーブの内周面に挿入された軸部材と、軸受スリーブの内周面と軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の油膜で軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部とを備えた流体軸受装置において、ハウジングは、樹脂材料を射出成形して形成され、筒状の側部と、側部の一端部から内径側に一体に連続して延びたシール部とを備え、シール部は、軸部材の外周面との間にシール空間を形成する内周面と、内周面に隣接する外側面とを有し、かつ、外側面の外周縁部に、樹脂ゲート部を除去加工することにより形成されたゲート除去部を有する構成を提供する。
ハウジングを樹脂材料の射出成形で形成することにより、旋削等の機械加工による金属製ハウジングに比べて低コストで製造することができると共に、プレス加工による金属製ハウジングに比べて比較的高い精度を確保することができる。また、ハウジングにシール部を一体に具備させることにより、別体のシール部材をハウジングに固定する場合に比べて、部品点数及び組立工数を削減することができる。
また、ハウジングは、シール部の外側面の外周縁部に、樹脂ゲート部を除去加工することにより形成されたゲート除去部を有しており、言い換えれば、シール部の外側面は、ゲート除去部が存在する外周縁部を除いて、成形面であり、このような表面状態の外側面に溌油剤を塗布することにより、充分な溌油効果が発揮され、ハウジング内部からの潤滑油の漏れが効果的に防止される。
ゲート除去部は、成形金型のゲートの形状によって、シール部の外側面の外周縁部に1点状、複数点状、又は環状に表れるが、溶融樹脂を金型のキャビティー内に均一に充填し、ハウジングの成形精度を高める観点から、ゲートを環状に形成した場合、ゲート除去部は環状に現れる。したがって、ゲート除去部の形状は環状であることが好ましい。
ハウジングを形成する樹脂は熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、非晶性樹脂の場合は、例えば、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSF)、ポリエーテルイミド(PEI)を用いることができる。また、結晶性樹脂の場合は、例えば、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いることができる。
また、上記の樹脂に充填する充填材の種類も特に限定されないが、例えば、充填材として、ガラス繊維等の繊維状充填材、チタン酸カリウム等のウィスカー状充填材、マイカ等の鱗片状充填材、カーボン繊維、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、金属粉等の繊維状又は粉末状の導電性充填材を用いることができる。
例えば、HDD等のディスク駆動装置のスピンドルモータに組み込まれる流体軸受装置では、磁気ディスク等のディスクと空気との摩擦によって発生した静電気を接地側に逃がすために、ハウジングに導電性が要求される場合がある。このような場合、ハウジングを形成する樹脂に上記の導電性充填材を配合することにより、ハウジングに導電性を与えることができる。
上記の導電性充填材としては、導電性の高さ、樹脂マトリックス中での分散性の良さ、耐アブレッシブ摩耗性の良さ、低アウトガス性等の点から、カーボンナノマテリアルが好ましい。カーボンナノマテリアルとしては、カーボンナノファイバーが好ましい。このカーボンナノファイバーには、直径が40〜50nm以下の「カーボンナノチューブ」と呼ばれるものも含まれる。
また、本発明は上記課題を達成するため、ハウジングと、ハウジングの内部に配置された軸受スリーブと、軸受スリーブの内周面に挿入された軸部材と、軸受スリーブの内周面と軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の油膜で軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部とを備えた流体軸受装置、の製造方法において、ハウジングを、樹脂材料の射出成形により、筒状の側部と、側部の一端部から内径側に一体に連続して延びたシール部とを備えた形態に成形するハウジング成形工程を含み、シール部は、軸部材の外周面との間にシール空間を形成する内周面と、内周面に隣接する外側面とを有し、ハウジング成形工程において、シール部の外側面の外周縁部に対応する位置に環状のフィルムゲートを設け、フィルムゲートからハウジングを成形するキャビティー内に溶融樹脂を充填する構成を提供する。
ハウジング成形工程において、シール部の外側面の外周縁部に対応する位置に環状のフィルムゲートを設け、フィルムゲートからハウジングを成形するキャビティー内に溶融樹脂を充填することにより、溶融樹脂がキャビティーの円周方向及び軸方向に均一に充填され、寸法形状精度の高いハウジングを得ることができる。
ここで、「フィルムゲート」とは、ゲート幅の小さいゲートであり、ゲート幅は、樹脂材料の物性や射出成形条件等によっても異なるが、例えば0.2mm〜0.8mmである。このようなフィルムゲートをシール部の外側面の外周縁部に対応する位置に設けているため、成形後の成形品は、シール部の外側面の外周縁部にフィルム状の(薄い)樹脂ゲート部が環状に繋がった形態になる。多くの場合、フィルム状の樹脂ゲート部は成形金型の型開動作によって自動的に切断され、成形品を成形金型から取り出した状態では、シール部の外側面の外周縁部に樹脂ゲート部の切断部が残る。このような樹脂ゲート部を除去加工することによって形成されるゲート除去部は、シール部の外側面の外周縁部に幅の狭い環状形状で現れる。
本発明によれば、ハウジングの製造コストを低減すると共に、組立工程の効率化を図り、より一層低コストな流体軸受装置を提供することができる。また、本発明によれば、樹脂の射出成形によるハウジングの成形精度を高めることができる。さらに、本発明によれば、樹脂の射出成形によるハウジングにおいて、ゲート除去部による溌油効果低下の問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明にかかる流体軸受装置の一実施形態を示す断面図である。
図2は、本発明にかかる流体軸受装置の他の実施形態を示す断面図である。
図3は、上記流体軸受装置を組み込んだスピンドルモータの断面図である。
図4は、本発明の実施形態に係る動圧軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの断面図である。
図5は、本発明の実施形態に係る動圧軸受装置を示す断面図である。
図6は、ハウジングを図5のA方向から見た図である。
図7aは軸受スリーブの断面図、図7bは軸受スリーブの下側端面を示す図、図7cは軸受スリーブの上側端面を示す図である。
図8は、本発明の他の実施形態に係る動圧軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの断面図である。
図9は、本発明の他の実施形態に係る動圧軸受装置を示す断面図である。
図10は、ハウジングを図9のB方向から見た図である。
図11は、本発明に係る流体軸受装置を使用した情報機器用スピンドルモータの断面図である。
図12は、本発明に係る流体軸受装置の実施形態を示す断面図である。
図13a、13bは、ハウジングの成形工程を概念的に示す断面図である。
図14a、14b、14cは、一般的なハウジングの成形工程を概念的に示す断面図である。
好ましい実施例の記述
以下、本発明の実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。
図3は、この実施形態にかかる流体軸受装置1を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に非接触支持する流体軸受装置1と、軸部材2に圧入等の手段で装着されたディスクハブ3と、半径方向のギャップを介して対向させたモータステータ4およびモータロータ5とを備えている。ステータ4はケーシング6の外周に取り付けられ、ロータ5はディスクハブ3の内周に取り付けられる。流体軸受装置1のハウジング7は、ケーシング6の内周に装着される。ディスクハブ3には、磁気ディスク等のディスクDが一または複数枚保持される。ステータ4に通電すると、ステータ4とロータ5との間の励磁力でロータ5が回転し、それによってディスクハブ3および軸部材2が一体となって回転する。
図1は、上記流体軸受装置1の拡大断面図である。図示のように、この流体軸受装置1は、ハウジング7と、円筒状の軸受スリーブ8と、軸部材2とを主要な構成部品としている。なお、以下の説明では、ハウジング7の開口側(シール側)を上方とし、ハウジング7の閉塞側を下方として説明を進める。
軸部材2は、ステンレス鋼等の導電性の金属材で形成される。軸部材2の軸端部(図示例では下端)は球面状に形成され、その軸端部2dをハウジング7の底部7eで接触支持することにより、軸部材2をスラスト方向に支持するピボット型のスラスト軸受部Tが構成される。スラスト軸受部Tの接触部分は、後述するように軸部材2とハウジング7の間での通電を確保する通電手段としても機能する。図示のように、軸部材2の軸端部2dをハウジング底部7eの内側面7e1に直接接触させる他、ハウジング底部7eに低摩擦性の適宜の材料(樹脂等)からなるスラストプレートを配置し、これに軸端部2dを摺接させることもできる。
軸受スリーブ8は、ハウジング7の内周面、より詳細には側部7bの内周面7cの所定位置に圧入等の手段で固定される。軸受スリーブ8のハウジング内周への固定方法は、両者間が通電状態となる限り特に問わず、部分的に接着することにより固定することもできる。
軸受スリーブ8は、焼結金属からなる多孔質体で円筒状に形成される。焼結金属としては、例えば、銅、鉄、及びアルミニウムの中から選択される1種以上の金属粉末、若しくは銅被覆鉄粉などの被覆処理を施した金属粉末や合金粉末を主原料とし、必要に応じて、すず、亜鉛、鉛、黒鉛、二硫化モリブデン等の粉末又はこれらの合金粉末を混合し、成形し、焼結して得られたものを用いることができる。このような焼結金属は、内部に多数の気孔(内部組織としての気孔)を備えていると共に、これら気孔が外表面に通じて形成される多数の開孔を備えている。この焼結金属は、潤滑油や潤滑グリースを含浸させた含油焼結金属として用いられる。なお、焼結金属に限らず、軟質金属等の他の金属材料で軸受スリーブ8を形成することも可能であるが、少なくとも導電性の金属材料で形成するのが望ましい。
軸受スリーブ8の内周面8aと軸部材2の外周面2cとの間には、第一ラジアル軸受部R1と第二ラジアル軸受部R2とが軸方向に離隔して設けられる。軸受スリーブ8の内周面8aには、第一ラジアル軸受部R1と第二ラジアル軸受部R2のラジアル軸受面となる上下二つの領域が軸方向に離隔して設けられ、これら二つの領域には、動圧発生手段として、例えばヘリングボーン形状の動圧溝がそれぞれ形成される。尚、動圧発生手段として、スパイラル形状や軸方向の溝を形成したり、あるいはラジアル軸受面を非真円形状(例えば複数の円弧で形成する)にすることもできる。また、ラジアル軸受面となる領域は、軸部材2の外周面2cに形成することもできる。
ハウジング7は、上記軸受スリーブ8をインサート部品として、66ナイロン、LCP、PES等の樹脂材料を射出成形(インサート成形)することにより形成される。このようにして形成されたハウジング7は、一端を開口すると共に、他端を閉じた有底筒状で、円筒状の側部7bと、側部7bの上端から内径側に一体に延びた環状のシール部7aと、側部7bの下端と一体に連続した底部7eとを備えている。シール部7aの内周面7a1は、軸部材2の外周面2cと所定のシール空間Sを介して対向する。尚、この実施形態では、シール部7aの内周面7a1と対向してシール空間Sを形成する軸部材2の外周面2cを、上方(ハウジング7の外方向)に向かって漸次縮径するテーパ形状に形成している。軸部材2と軸受スリーブ8の相対回転時(本実施形態では軸部材2の回転時)、テーパ形状の外周面2aは、いわゆる遠心力シールとしても機能する。シール空間Sは、このようなテーパ状の空間とする他、軸方向で同径の円筒状に形成することもできる。
この樹脂製ハウジング7の線膨張係数が大きいと、軸受運転中に発生した熱で昇温したハウジング7が膨張して軸受スリーブ8を変形させ、これによって内周面8aに形成した動圧溝の精度が低下するおそれがある。かかる事態を防止するため、ハウジング7は径方向の線膨張係数が5×10−5/℃以下の樹脂組成物で形成するのが望ましい。
軸部材2は、軸受スリーブ8の内周面8aに挿入され、軸端部2dをハウジング底部7eの内側面7e1に接触させている。シール部7aで密封されたハウジング7の内部空間には潤滑油が給油され、ラジアル軸受部R1、R2のラジアル軸受隙間がそれぞれ潤滑油で満たされている。
軸部材2が回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域(上下二箇所の領域)は、それぞれ軸部材2の外周面とラジアル軸受隙間を介して対向する。そして、軸部材2の回転に伴い、ラジアル軸受隙間に潤滑油の油膜が形成され、その動圧で軸部材2がラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持する第一ラジアル軸受部R1と第二ラジアル軸受部R2とが構成される。一方、軸部材2は、スラスト方向でピボット形式のスラスト軸受部Tによって回転自在に支持される。
本発明では、上述のようにハウジング7を樹脂製としているが、この樹脂製ハウジング7は、溶融状態の樹脂材料に導電化剤を配合することにより導電性を持つように形成される。導電性の良否は、ハウジング7の体積固有抵抗で評価することができ、本発明においては、体積固有抵抗が10Ω・cm以下となるように導電化剤が配合される。ここで、体積固有抵抗とは、1cm×1cm×1cmの物体を電流が流れる時の抵抗をいい、単位長さを辺とする立方体の対向する面間の抵抗で定義される。
なお、軸部材2の軸端部2dをスラストプレートに接触させる場合、スラストプレートも同様に導電化剤を配合した樹脂、もしくは導電性の金属で形成する。
導電化剤としては、粉末状あるいは繊維状のものを使用することができる。導電化剤の粒径が大きすぎたりその配合量が多すぎる場合、ハウジング7を射出成形する際に樹脂の溶融流動性が低下し、成形品の寸法精度が低下したり、ハウジング7をケーシング6の内周に圧入する際等に作用する摺動摩擦により基材樹脂から導電化剤が脱落し、コンタミネーションの問題が発生するおそれがある。本発明者が検討した結果、粉末状の導電化剤を使用する場合は、平均粒径が1μm以下のものを8重量%以下(望ましくは5重量%以下)配合し、繊維状の導電化剤を使用する場合は、平均線径が10μm以下で繊維長が500μm以下のものを20重量%以下(望ましくは15重量%以下)配合すれば、上記不具合を回避できることが判明した。
上記の条件を満たす導電化剤の一例として、カーボンナノマテリアル、特にカーボンナノファイバーを挙げることができる。この導電化剤1〜10重量%、好ましくは2〜7重量%を基材樹脂に配合することにより、少ない配合量でもハウジング7に高い導電性(体積固有抵抗10Ω・cm以下)を付与することができる。
カーボンナノファイバーとしては、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、カップ積層型カーボンナノファイバー、あるいは気相成長炭素繊維(VGCF)なとが使用可能である。ちなみにSWCNTは外径0.4〜5nmで、長さ1〜数十μm、MWCNTは外径10〜50nm(内径3〜10nm)で、長さ1〜数十μm、カップ積層型カーボンナノファイバーは外径0.1〜数百μmであり、その長さは最大30cmである。
軸部材2の回転中は、空気との摩擦で磁気ディスクDに静電気が生じる。上述のように本発明ではハウジング7に導電性を持たせているため、この静電気は、ディスクハブ3、軸部材2、軸端部2dとハウジング底部7eの接触部、ハウジング7を経てケーシング6に伝わり、接地側に放電される。これにより、磁気ディスクDの帯電を確実に防止することができ、磁気ディスクDと磁気ヘッドとの間の電位差の形成や、蓄積した静電気の放電による機器の損傷を防止することができる。
なお、通電手段として、上記スラスト軸受部Tに加え、導電性の潤滑油を使用すれば、軸部材2とハウジング7との間の通電が、軸端部2dとハウジング底部7eとの接触部だけでなく、潤滑油、並びに潤滑油と軸受スリーブ8を介しても行われるので、静電気の帯電防止機能をさらに高めることができる。
ハウジング7は、インサート成形の他、上記樹脂材料の射出成形(インサート部品を使用しない)で形成することもできる。図2は、その一例で、ハウジング7の少なくとも側部7bを樹脂で円筒状に射出成形したもので、この場合、ハウジング7の底部10は樹脂または他の材料(金属等)からなる別部材で形成される。側部7bの一端開口部に底部10を圧入、接着、あるいは溶着等の手段で固定することにより、有底円筒状のハウジング7が形成される。側部7bの内周面には軸受スリーブ8が圧入等の手段で固定されている。さらに側部7bの他端開口部にシール部材9を固定することにより、その内周面9aと軸部材2の外周面との間にシール空間Sが形成される。
この構成でもハウジング7を形成する樹脂材料に上記導電化剤を配合することにより、ハウジング7に導電性を付与することができ、高い帯電防止機能を得ることができる。
図1に示す実施形態では、スラスト軸受部Tとして、軸部材2の端部を接触支持するピボット軸受を例示しているが、この軸受部Tとしては、ラジアル軸受部R1、R2と同様に、動圧溝等の動圧発生手段により軸受隙間(スラスト軸受隙間)に生じた潤滑油の動圧効果で圧力を発生させ、この圧力で軸部材2をスラスト方向で非接触支持する動圧軸受を使用することもできる。
図2は動圧軸受からなるスラスト軸受部Tの一例を示すもので、軸部材2に軸部2aとフランジ部2bとを設け、軸受スリーブ8の端面8cとフランジ部2bの上端面2b1との間、およびハウジング底部10の内側面10aとフランジ部2bの他端面2b2との間にそれぞれスラスト軸受隙間を形成した例である。動圧発生手段としての動圧溝は、軸受スリーブ端面8cとフランジ部上端面2b1の何れか一方、およびハウジング底部10の内側面10aとフランジ部下端面2b2の何れか一方に形成することができる。
この場合、軸部材2の回転中は、軸部材2はハウジング7および軸受スリーブの双方と非接触状態となるが、通電手段として導電性の潤滑油を使用することにより、軸部材2とハウジング7の間で通電させることが可能となる。すなわち、軸部材2の静電気は、軸受隙間(ラジアル軸受隙間のみならずスラスト軸受隙間も含む)に満たされた潤滑油を介し、軸受スリーブ8を経てハウジング7に流れ込み、あるいは潤滑油を介して直接ハウジング7に流れ込む。従って、図1に示す実施形態と同様に帯電防止効果を得ることができる。
なお、本発明は、ラジアル軸受部R1、R2の何れか一方または双方をいわゆる真円軸受で構成した流体軸受装置にも同様に適用可能である。
また、以上の説明では、軸受スリーブ8を焼結金属や軟質金属等の金属材料で形成した場合を例示したが、軸受スリーブを上述した体積固有抵抗10Ω・cm以下の導電性樹脂組成物で形成しても同様の効果が得られる。
以下、本発明の実施形態について説明する。
図4は、この実施形態に係る動圧軸受装置(流体動圧軸受装置)1を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置1と、軸部材2に装着されたロータ(ディスクハブ)3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータ4およびロータマグネット5とを備えている。ステータ4はブラケット6の外周に取付けられ、ロータマグネット5はディスクハブ3の内周に取付けられる。動圧軸受装置1のハウジング7は、ブラケット6の内周に装着される。ディスクハブ3には、磁気ディスク等のディスクDが一又は複数枚保持される。ステータ4に通電すると、ステータ4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、それによって、ディスクハブ3および軸部材2が一体となって回転する。
図5は、動圧軸受装置1を示している。この動圧軸受装置1は、ハウジング7と、ハウジング7に固定された軸受スリーブ8およびシール部材9と、軸部材2とを構成部品して構成される。
軸受スリーブ8の内周面8aと軸部材2の軸部2aの外周面2a1との間に第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが軸方向に離隔して設けられる。また、軸受スリーブ8の下側端面8cと軸部材2のフランジ部2bの上側端面2b1との間に第1スラスト軸受部T1が設けられ、ハウジング7の底部7eの内底面7e1とフランジ部2bの下側端面2b2との間に第2スラスト軸受部T2が設けられる。尚、説明の便宜上、ハウジング7の底部7eの側を下側、底部7eと反対の側を上側として説明を進める。
ハウジング7は、例えば、結晶性樹脂としての液晶ポリマー(LCP)に、導電性充填材としてのカーボンナノチューブを2〜8wt%配合した樹脂材料を射出成形して有底筒状に形成され、円筒状の側部7bと、側部7bの下端に一体に設けられた底部7eとを備えている。図6に示すように、第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受面となる、底部7eの内底面7e1には、例えばスパイラル形状の動圧溝7e2が形成される。この動圧溝7e2は、ハウジング7の射出成形時に成形されたものである。すなわち、ハウジング7を成形する成形型の所要部位(内底面7e1を成形する部位)に、動圧溝7e2を成形する溝型を加工しておき、ハウジング7の射出成形時に上記溝型の形状をハウジング7の内底面7e1に転写することにより、動圧溝7e2をハウジング7の成形と同時成形することができる。また、内底面(スラスト軸受面)7e1から軸方向上方に所定寸法xだけ離れた位置に段部7gが一体に形成されている。
軸部材2は、例えば、ステンレス鋼等の金属材料で形成され、軸部2aと、軸部2aの下端に一体又は別体に設けられたフランジ部2bとを備えている。
軸受スリーブ8は、例えば、焼結金属からなる多孔質体、特に銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成され、ハウジング7の内周面7cの所定位置に固定される。
この焼結金属で形成された軸受スリーブ8の内周面8aには、第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2のラジアル軸受面となる上下2つの領域が軸方向に離隔して設けられ、該2つの領域には、例えば図7(a)に示すようなヘリングボーン形状の動圧溝8a1、8a2がそれぞれ形成される。上側の動圧溝8a1は、軸方向中心m(上下の傾斜溝間領域の軸方向中央)に対して軸方向非対称に形成されており、軸方向中心mより上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている。また、軸受スリーブ8の外周面8dには、1又は複数本の軸方向溝8d1が軸方向全長に亙って形成される。この例では、3本の軸方向溝8d1を円周方向等間隔に形成している。
第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受面となる、軸受スリーブ8の下側端面8cには、例えば図7(b)に示すようなスパイラル形状の動圧溝8c1が形成される。
図7(c)に示すように、軸受スリーブ8の上側端面8bは、半径方向の略中央部に設けられた円周溝8b1により、内径側領域8b2と外径側領域8b3に区画され、内径側領域8b2には、1又は複数本の半径方向溝8b21が形成される。この例では、3本の半径方向溝8b21が円周等間隔に形成されている。
シール部材9は、例えば、ハウジング7の側部7bの上端部内周に固定され、その内周面9aは、軸部2aの外周に設けられたテーパ面2a2と所定のシール空間Sを介して対向する。尚、軸部2aのテーパ面2a2は上側(ハウジング7に対して外部側)に向かって漸次縮径し、軸部材2の回転により遠心力シールとしても機能する。また、シール部材9の下側端面9bの外径側領域9b1は内径側領域よりも僅かに大径に形成されている。
この実施形態の動圧軸受装置1は、例えば、次のような工程で組立てる。
まず、軸部材2を軸受スリーブ8に装着する。そして、軸受スリーブ8を軸部材2と伴にハウジング7の側部7bの内周面7cに挿入し、その下側端面8cをハウジング7の段部7gに当接させる。これにより、ハウジング7に対する軸受スリーブ8の軸方向位置が決まる。そして、この状態で、軸受スリーブ8を適宜の手段、例えば超音波溶着によってハウジング7に固定する。
つぎに、シール部材9をハウジング7の側部7bの上端部内周に挿入し、その下側端面9bの内径側領域を軸受スリーブ8の上側端面8bの内径側領域8b2に当接させる。そして、この状態で、シール部材9を適宜の手段、例えば超音波溶着によってハウジング7に固定する。尚、シール部材9の外周面に凸状のリブ9cを設けておくと、溶着による固定力を高める上で効果的である。
上記のようにして組立が完了すると、軸部材2の軸部2aは軸受スリーブ8の内周面8aに挿入され、フランジ部2bは軸受スリーブ8の下側端面8cとハウジング7の内底面7e1との間の空間部に収容された状態となる。その後、シール部材9で密封されたハウジング7の内部空間は、軸受スリーブ8の内部気孔を含め、潤滑油で充満される。潤滑油の油面は、シール空間Sの範囲内に維持される。
軸部材2の回転時、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域(上下2箇所の領域)は、それぞれ、軸部2aの外周面2a1とラジアル軸受隙間を介して対向する。また、軸受スリーブ8の下側端面8cのスラスト軸受面となる領域はフランジ部2bの上側端面2b1とスラスト軸受隙間を介して対向し、ハウジング7の内底面7e1のスラスト軸受面となる領域はフランジ部2bの下側端面2b2とスラスト軸受隙間を介して対向する。そして、軸部材2の回転に伴い、上記ラジアル軸受隙間に潤滑油の動圧が発生し、軸部材2の軸部2aが上記ラジアル軸受隙間内に形成される潤滑油の油膜によってラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが構成される。同時に、上記スラスト軸受隙間に潤滑油の動圧が発生し、軸部材2のフランジ部2bが上記スラスト軸受隙間内に形成される潤滑油の油膜によって両スラスト方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をスラスト方向に回転自在に非接触支持する第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2とが構成される。第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間(δ1とする。)と第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間(δ2とする。)は、ハウジング7の内底面7e1から段部7gまでの軸方向寸法xと、軸部材2のフランジ部2bの軸方向寸法(wとする。)とにより、x−w=δ1+δ2として精度良く管理することができる。
前述したように、第1ラジアル軸受部R1の動圧溝8a1は、軸方向中心mに対して軸方向非対称に形成されており、軸方向中心mより上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている{図7(a)}。そのため、軸部材2の回転時、動圧溝8a1による潤滑油の引き込み力(ポンピング力)は上側領域が下側領域に比べて相対的に大きくなる。そして、この引き込み力の差圧によって、軸受スリーブ8の内周面8aと軸部2aの外周面2a1との間の隙間に満たされた潤滑油が下方に流動し、第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間→軸方向溝8d1→シール部材9の下側端面9bの外径側領域9b1と軸受スリーブ8の上側端面8bの外径側領域8b3との間の環状隙間→軸受スリーブ8の上側端面8bの円周溝8b1→軸受スリーブ8の上側端面8bの半径方向溝8b21という経路を循環して、第1ラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間に再び引き込まれる。このように、潤滑油がハウジング7の内部空間を流動循環するように構成することで、内部空間内の潤滑油の圧力が局部的に負圧になる現象を防止して、負圧発生に伴う気泡の生成、気泡の生成に起因する潤滑油の漏れや振動の発生等の問題を解消することができる。また、何らかの理由で潤滑油中に気泡が混入した場合でも、気泡が潤滑油に伴って循環する際にシール空間S内の潤滑油の油面(気液界面)から外気に排出されるので、気泡による悪影響はより一層効果的に防止される。
図8は、他の実施形態に係る動圧軸受装置(流体動圧軸受装置)11を組み込だ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材12を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置11と、軸部材12に装着されたロータ(ディスクハブ)13と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータ14およびロータマグネット15とを備えている。ステータ14はブラケット16の外周に取付けられ、ロータマグネット15はディスクハブ13の内周に取付けられる。動圧軸受装置11のハウジング17は、ブラケット16の内周に装着される。ディスクハブ13には、磁気ディスク等のディスクが一又は複数枚保持される。ステータ14に通電すると、ステータ14とロータマグネット15との間の電磁力でロータマグネット15が回転し、それによって、ディスクハブ13および軸部材12が一体となって回転する。
図9は、動圧軸受装置11を示している。この動圧軸受装置11は、ハウジング17と、ハウジング17に固定された軸受スリーブ18と、軸部材12とを構成部品して構成される。
軸受スリーブ18の内周面18aと軸部材12の外周面12aとの間に第1ラジアル軸受部R11と第2ラジアル軸受部R12とが軸方向に離隔して設けられる。また、ハウジング17の上側端面17fと、軸部材12に固定されたディスクハブ(ロータ)13の下側端面13aとの間にスラスト軸受部T11が形成される。尚、説明の便宜上、ハウジング17の底部17eの側を下側、底部17eと反対の側を上側として説明を進める。
ハウジング17は、例えば、前述した樹脂材料を射出成形して有底筒状に形成され、円筒状の側部17bと、側部17bの下端に一体に設けられた底部17eとを備えている。図10に示すように、スラスト軸受部T11のスラスト軸受面となる上側端面17fには、例えばスパイラル形状の動圧溝17f1が形成される。この動圧溝17f1は、ハウジング17の射出成形時に成形されたものである。すなわち、ハウジング17を成形する成形型の所要部位(上側端面17fを成形する部位)に、動圧溝17f1を成形する溝型を加工しておき、ハウジング17の射出成形時に上記溝型の形状をハウジング17の上側端面17fに転写することにより、動圧溝17f1をハウジング17の成形と同時成形することができる。また、ハウジング17は、その上方部外周に、上方に向かって漸次拡径するテーパ状外壁17hを備え、このテーパ状外壁17hで、ディスクハブ13に設けられた鍔部13bの内壁13b1との間に、上方に向かって漸次縮小するテーパ状のシール空間S’を形成する。このシール空間S’は、軸部材12及びディスクハブ13の回転時、スラスト軸受部T11のスラスト軸受隙間の外径側と連通する。
軸部材12は例えばステンレス鋼等の金属材料で形成され、軸受スリーブ18は例えば焼結金属からなる多孔質体、特に銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成される。軸部材12は軸受スリーブ18の内周面18aに挿入され、軸受スリーブ18は適宜の手段、例えば超音波溶着によってハウジング17の内周面17cの所定位置に固定される。尚、図9に示す軸部材12及びディスクハブ13の停止時において、軸部材12の下側端面12bとハウジング17の内底面17e1との間、軸受スリーブ18の下側端面18cとハウジング17の内底面17e1との間にはそれぞれ僅かな隙間が存在する。
焼結金属で形成された軸受スリーブ18の内周面18aには、第1ラジアル軸受部R11と第2ラジアル軸受部R12のラジアル軸受面となる上下2つの領域が軸方向に離隔して設けられ、該2つの領域には、例えば図7(a)に示すものと同様のヘリングボーン形状の動圧溝がそれぞれ形成される。また、軸受スリーブ18の外周面18dには、例えば3本の軸方向溝18d1が円周方向等間隔で軸方向全長に亙って形成される。
動圧軸受装置11の組立完了後、ハウジング17の内部空間等は潤滑油で充満される。すなわち、潤滑油は、軸受スリーブ18の内部気孔を含め、軸受スリーブ18の内周面18aと軸部材12の外周面12aとの間の隙間部、軸受スリーブ18の下側端面18c及び軸部材12の下側端面12bとハウジング17の内底面17e1との間の隙間部、軸受スリーブ18の軸方向溝18d1、軸受スリーブ18の上側端面18bとディスクハブ13の下側端面13aとの間の隙間部、スラスト軸受部T11、及びシール空間S’に充満される。
軸部材12及びディスクハブ13の回転時、軸受スリーブ18の内周面18aのラジアル軸受面となる領域(上下2箇所の領域)は、それぞれ、軸部材12の外周面12aとラジアル軸受隙間を介して対向する。また、ハウジング17の上側端面17fのスラスト軸受面となる領域は、ディスクハブ13の下側端面13aとスラスト軸受隙間を介して対向する。そして、軸部材12及びディスクハブ13の回転に伴い、上記ラジアル軸受隙間に潤滑油の動圧が発生し、軸部材12が上記ラジアル軸受隙間内に形成される潤滑油の油膜によってラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材12及びディスクハブ13をラジアル方向に回転自在に非接触支持する第1ラジアル軸受部R11と第2ラジアル軸受部R12とが構成される。同時に、上記スラスト軸受隙間に潤滑油の動圧が発生し、ディスクハブ13が上記スラスト軸受隙間内に形成される潤滑油の油膜によってスラスト方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材12及びディスクハブ13をスラスト方向に回転自在に非接触支持するスラスト軸受部T11が構成される。
また、第1ラジアル軸受部R11の動圧溝による潤滑油の引き込み力(ポンピング力)と、第2ラジアル軸受部R12の動圧溝による潤滑油の引き込み力との差圧によって、軸受スリーブ18の内周面18aと軸部材12の外周面12aとの間の隙間に満たされた潤滑油が下方に流動し、軸受スリーブ18の下側端面18cとハウジング17の内底面17e1との間の隙間→軸方向溝18d1→ディスクハブ13の下側端面13aと軸受スリーブ18の上側端面18bとの間の隙間という経路を循環して、第1ラジアル軸受部R11のラジアル軸受隙間に再び引き込まれる。このように、潤滑油が上記隙間部を流動循環するように構成することで、ハウジング17の内部空間及びスラスト軸受部T11のスラスト軸受隙間内の潤滑油圧力が局部的に負圧になる現象を防止して、負圧発生に伴う気泡の生成、気泡の生成に起因する潤滑油の漏れや振動の発生等の問題を解消することができる。また、潤滑油の外部への漏れは、シール空間S’の毛細管力と、スラスト軸受部T11の動圧溝17f1による潤滑油の引き込み力(ポンピング力)によって、より効果的に防止される。
以下、本発明の一実施形態について説明する。
図11は、この実施形態に係る流体軸受装置(流体動圧軸受装置)1を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に非接触支持する流体軸受装置1と、軸部材2に装着されたロータ(ディスクハブ)3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータ4およびロータマグネット5とを備えている。ステータ4はブラケット6の外周に取付けられ、ロータマグネット5はディスクハブ3の内周に取付けられる。流体軸受装置1のハウジング7は、ブラケット6の内周に装着される。ディスクハブ3には、磁気ディスク等のディスクDが一又は複数枚保持される。ステータ4に通電すると、ステータ4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、それによって、ディスクハブ3および軸部材2が一体となって回転する。
図12は、流体軸受装置1を示している。この流体軸受装置1は、ハウジング7と、ハウジング7に固定された軸受スリーブ8およびスラスト部材10と、軸部材2とを構成部品して構成される。
軸受スリーブ8の内周面8aと軸部材2の軸部2aの外周面2a1との間に第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが軸方向に離隔して設けられる。また、軸受スリーブ8の下側端面8cと軸部材2のフランジ部2bの上側端面2b1との間に第1スラスト軸受部T1が設けられ、スラスト部材10の端面10aとフランジ部2bの下側端面2b2との間に第2スラスト軸受部T2が設けられる。尚、説明の便宜上、スラスト部材10の側を下側、スラスト部材10と反対の側を上側として説明を進める。
ハウジング7は、例えば、結晶性樹脂としての液晶ポリマー(LCP)に、導電性充填材としてのカーボンナノチューブ又は導電カーボンを2〜30vol%配合した樹脂材料を射出成形して形成され、円筒状の側部7bと、側部7bの上端部から内径側に一体に連続して延びた環状のシール部7aとを備えている。シール部7aの内周面7a1は、軸部2aの外周面2a1、例えば、外周面2a1に形成されたテーパ面2a2との間に所定のシール空間Sを形成する。尚、軸部2aのテーパ面2a2は上側(ハウジング7に対して外部側)に向かって漸次縮径し、軸部材2の回転により遠心力シールとしても機能する。
軸部材2は、例えば、ステンレス鋼等の金属材料で形成され、軸部2aと、軸部2aの下端に一体又は別体に設けられたフランジ部2bとを備えている。
軸受スリーブ8は、例えば、焼結金属からなる多孔質体、特に銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成され、ハウジング7の内周面7cの所定位置に固定される。
この焼結金属で形成された軸受スリーブ8の内周面8aには、第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2のラジアル軸受面となる上下2つの領域が軸方向に離隔して設けられ、該2つの領域には、例えばヘリングボーン形状の動圧溝がそれぞれ形成される。
第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受面となる、軸受スリーブ8の下側端面8cには、例えばスパイラル形状やヘリングボーン形状の動圧溝が形成される。
スラスト部材10は、例えば、樹脂材料又は黄銅等の金属材料で形成され、ハウジング7の内周面7cの下端部に固定される。この実施形態において、スラスト部材10は、その端面10aの外周縁部から上方に延びた環状の当接部10bを一体に備えている。当接部10bの上側端面は軸受スリーブ8の下側端面8cと当接し、当接部10bの内周面はフランジ部2bの外周面と隙間を介して対向する。第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受面となる、スラスト部材10の端面10aには、例えばヘリングボーン形状やスパイラル形状の動圧溝が形成される。スラスト部材10の当接部10bとフランジ部2bの軸方向寸法を管理することにより、第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間を精度良く設定することができる。
シール部7aで密封されたハウジング7の内部空間には、軸受スリーブ8の内部気孔を含めて、潤滑油が充填される。潤滑油の油面は、シール空間Sの範囲内に維持される。また、シール部7aの内周面7a1に隣接する外側面7a2には溌油剤Fが塗布される。さらに、シール部7aを貫通してハウジング7の外部に突出した軸部材2の外周面2a3にも溌油剤Fが塗布される。
軸部材2の回転時、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面となる領域(上下2箇所の領域)は、それぞれ、軸部2aの外周面2a1とラジアル軸受隙間を介して対向する。また、軸受スリーブ8の下側端面8cのスラスト軸受面となる領域はフランジ部2bの上側端面2b1とスラスト軸受隙間を介して対向し、スラスト部材10の端面10aのスラスト軸受面となる領域はフランジ部2bの下側端面2b2とスラスト軸受隙間を介して対向する。そして、軸部材2の回転に伴い、上記ラジアル軸受隙間に潤滑油の動圧が発生し、軸部材2の軸部2aが上記ラジアル軸受隙間内に形成される潤滑油の油膜によってラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが構成される。同時に、上記スラスト軸受隙間に潤滑油の動圧が発生し、軸部材2のフランジ部2bが上記スラスト軸受隙間内に形成される潤滑油の油膜によって両スラスト方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をスラスト方向に回転自在に非接触支持する第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2とが構成される。
図13(a)は、上記のような流体軸受装置1におけるハウジング7の成形工程を概念的に示している。固定型と可動型とで構成される成形金型に、ランナー17b、フィルムゲート17a、キャビティー17が設けられる。フィルムゲート17aは、シール部7aの外側面7a2の外周縁部に対応する位置に環状に形成され、そのゲート幅δは例えば0.3mmである。
図示されていない射出成形機のノズルから射出された溶融樹脂Pは、成形金型のランナー17b、フィルムゲート17aを通ってキャビティー17内に充填される。このように、シール部7aの外側面7a2の外周緑部に対応する位置に設けた環状のフィルムゲート17aからキャビティー17内に溶融樹脂Pを充填することにより、溶融樹脂Pがキャビティー17の円周方向及び軸方向に均一に充填され、寸法形状精度の高いハウジング7を得ることができる。
キャビティー17内に充填された溶融樹脂Pが冷却されて固化した後、可動型を移動させて成形金型を型開きする。フィルムゲート17aをシール部7aの外側面7a2の外周縁部に対応する位置に設けているため、型開き前の成形品は、シール部7aの外側面7a2の外周縁部にフィルム状の(薄い)樹脂ゲート部が環状に繋がった形態になるが、この樹脂ゲート部は成形金型の型開動作によって自動的に切断され、成形品を成形金型から取り出した状態では、図13(b)に示すように、シール部7aの外側面7a2の外周縁部に樹脂ゲート部7dの切断部が残った状態になる。その後、樹脂ゲート部7dを同図に示すZ線に沿って除去加工(機械加工)して仕上げると、ハウジング7が完成される。
完成後のハウジング7において、樹脂ゲート部7dを除去加工することにより形成されたゲート除去部7d1は、シール部7aの外側面7a2の外周縁部に幅の狭い環状形状で現れる。したがって、シール部7aの外側面7a2は、ゲート除去部7d1が存在する外周縁部を除いて、成形面であり、このような表面状態の外側面7a2に溌油剤Fを塗布することにより、充分な溌油効果が発揮され、ハウジング7の内部からの潤滑油の漏れが効果的に防止される。
尚、本発明は、スラスト軸受部として、いわゆるピボット軸受を採用した流体軸受装置や、ラジアル軸受部として、いわゆる真円軸受を採用した流体軸受装置にも同様に適用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、ハウジングの内部に配置された軸受スリーブと、軸受スリーブの内周面に挿入された軸部材と、軸受スリーブの内周面と軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の油膜で、軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部とを有するものであって、
さらに軸部材とハウジングとの間を通電可能とする通電手段を備え、かつハウジングが、通電性のある樹脂で形成されていることを特徴とする流体軸受装置。
【請求項2】
ハウジングが、体積固有抵抗10Ω・cm以下の導電性樹脂組成物で形成されている請求項1記載の流体軸受装置。
【請求項3】
ハウジングが、平均粒径が1μm以下の粉末状導電化剤を8重量%以下配合した導電性樹脂組成物で形成されている請求項1記載の流体軸受装置。
【請求項4】
ハウジングが、平均径が10μm以下で平均繊維長が500μm以下の繊維状導電化剤を20重量%以下配合した導電性樹脂組成物で形成されている請求項1記載の流体軸受装置。
【請求項5】
ハウジングが、導電化剤としてカーボンナノマテリアルを配合した導電性樹脂組成物で形成されている請求項1記載の流体軸受装置。
【請求項6】
カーボンナノマテリアルの配合量が1〜10wt%である請求項5記載の流体軸受装置。
【請求項7】
カーボンマテリアルとして、単層または複層のカーボンナノチューブ、カップ積層型カーボンナノファイバー、および気相成長炭素繊維のうち少なくとも何れか一種を使用した請求項5記載の流体軸受装置。
【請求項8】
ハウジングの径方向の線膨張係数が、5×10−5/℃以下である請求項1〜7何れか記載の流体軸受装置。
【請求項9】
通電手段として、導電性の潤滑油を有する請求項1記載の流体軸受装置。
【請求項10】
通電手段として、軸部材をスラスト方向に接触支持するスラスト軸受部を有する請求項1記載の流体軸受装置。
【請求項11】
軸受スリーブを、金属または体積固有抵抗が10Ω・cm以下の導電性樹脂組成物で形成した請求項1記載の流体軸受装置。
【請求項12】
ハウジングと、該ハウジングの内部に固定された軸受スリーブと、前記ハウジング及び前記軸受スリーブに対して相対回転する回転部材と、前記軸受スリーブと前記回転部材との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で前記回転部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、前記ハウジングと前記回転部材との間のスラスト軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で前記回転部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とを備えた動圧軸受装置において、
前記ハウジングは、樹脂材料を型成形して形成されると共に、前記スラスト軸受部を構成するスラスト軸受面を有し、かつ、該スラスト軸受面に前記型成形と同時に成形された動圧溝を有することを特徴とする動圧軸受装置。
【請求項13】
前記スラスト軸受面は、前記ハウジングの一端側の内底面に設けられていることを特徴とする請求項12に記載の動圧軸受装置。
【請求項14】
前記ハウジングは、前記軸受スリーブの一端側の端面と当接する段部を有することを特徴とする請求項13に記載の動圧軸受装置。
【請求項15】
前記段部は、前記ハウジングの内底面から軸方向に所定寸法だけ離れた位置に設けられていることを特徴とする請求項14に記載の動圧軸受装置。
【請求項16】
前記スラスト軸受面は、前記ハウジングの端面に設けられていることを特徴とする請求項12に記載の動圧軸受装置。
【請求項17】
前記ハウジングを形成する樹脂材料は、導電性を有する充填材が配合されていることを特徴とする請求項12から16の何れかに記載の動圧軸受装置。
【請求項18】
前記導電性を有する充填材として、カーボンファイバー、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、及び金属粉末の中から選択される一種又は二種以上が配合されていることを特徴とする請求項17に記載の動圧軸受装置。
【請求項19】
ハウジングと、該ハウジングの内部に配置された軸受スリーブと、該軸受スリーブの内周面に挿入された軸部材と、前記軸受スリーブの内周面と前記軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の油膜で前記軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部とを備えた流体軸受装置において、
前記ハウジングは、樹脂材料を射出成形して形成されると共に、筒状の側部と、該側部の一端部から内径側に一体に連続して延びたシール部とを備え、
前記シール部は、前記軸部材の外周面との間にシール空間を形成する内周面と、該内周面に隣接する外側面とを有し、かつ、該外側面の外周縁部に、樹脂ゲート部を除去加工することにより形成されたゲート除去部を有することを特徴とする流体軸受装置。
【請求項20】
前記ゲート除去部は環状に形成されていることを特徴とする請求項19に記載の流体軸受装置。
【請求項21】
前記シール部の外側面に溌油剤が塗布されていることを特徴とする請求項19又は20に記載の流体軸受装置。
【請求項22】
ハウジングと、該ハウジングの内部に配置された軸受スリーブと、該軸受スリーブの内周面に挿入された軸部材と、前記軸受スリーブの内周面と前記軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の油膜で前記軸部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部とを備えた流体軸受装置、の製造方法において、
前記ハウジングを、樹脂材料の射出成形により、筒状の側部と、該側部の一端部から内径側に一体に連続して延びたシール部とを備えた形態に成形するハウジング成形工程を含み、
前記シール部は、前記軸部材の外周面との間にシール空間を形成する内周面と、該内周面に隣接する外側面とを有し、
前記ハウジング成形工程において、前記シール部の外側面の外周縁部に対応する位置に環状のフィルムゲートを設け、該フィルムゲートから前記ハウジングを成形するキャビティー内に溶融樹脂を充填することを特徴とする流体軸受装置の製造方法。
【請求項23】
請求項1、12、または19記載の軸受装置を備えた情報機器用モータ。

【国際公開番号】WO2004/092600
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505355(P2005−505355)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004560
【国際出願日】平成16年3月30日(2004.3.30)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】