説明

流路基板の製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法

【課題】クロストーク防止に十分なリザーバ容積の確保をしながらも、流路基板になるシリコン基板に高精度でノズルを加工形成できるようにした流路基板の製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法を提供する。
【解決手段】ノズル孔11と、キャビティ12と、所定の容積を有するリザーバ13とで構成される液体流路を1つのシリコン基板からなる流路基板基材に形成する流路基板1の製造方法であって、流路基板基材の一方の面から、ノズル孔11、キャビティ12及びリザーバ13になる部分を所定の深さまでエッチング加工する際、流路基板基材に貫通させるアライメント用貫通孔部を併せて形成しておき、ノズル孔を所定の深さまでエッチングした後、流路基板基材をアライメントして、流路基板基材の他方の面からノズル孔を貫通させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル孔と、キャビティと、リザーバとを1つのシリコン基板に形成する流路基板の製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法に関し、特にリザーバ容積を確保するために、所定の厚みのあるシリコン基板を用い、そのシリコン基板に加工精度の高いノズル孔を形成する流路基板の製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコン等を加工して微小な素子等を形成する微細加工技術(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)が急速に進歩している。この微細加工技術により形成される微細加工素子としては、たとえば、液滴吐出方式のプリンタのような記録(印刷)装置で用いられている液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)やマイクロポンプ、光可変フィルタ、モータのようなアクチュエータ、圧力センサ等がある。このうち、液滴吐出装置(インクジェット記録装置)のインク液滴を吐出させる方式には、静電気力を駆動手段に利用する方式(静電駆動方式)や、圧電振動子を駆動手段に利用する方式、発熱素子を駆動手段に利用する方式等がある。
【0003】
このような液滴吐出装置に搭載されているインクジェットヘッドは、インク液滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズルプレートと、このノズルプレートに接合され、ノズル孔に連通する吐出室(キャビティ)、リザーバ等のインク流路が形成されたインク流路基板であるキャビティプレートとを備えるように構成されることが多い。そして、インクジェットヘッドには、印刷速度の高速化及びカラー化を目的として、ノズル列を複数有することが要求されている。また、ノズル密度の高密度化及び長尺化(1列当りのノズル数の増加)が進行し、それに伴いインクジェットヘッド内のアクチュエータ数も益々増加している。すなわち、インクジェットヘッドには、アクチュエータ数を増加させたとしても、インク吐出性能を向上させ、高い信頼性を実現することが要求されている。
【0004】
そのようなものとして、「複数のノズル開口と圧力発生室とインク供給路とを有するインクジェットヘッドにおいて、同一基板内の一平面側に前記圧力発生室と前記インク供給路を、他平面側に前記ノズル開口を一体形成した流路基板に、前記流路基板と熱膨張係数を等しくする振動板が接合され、前記振動板上の前記圧力発生室に対応する位置に圧力発生素子が設けられている」インクジェットヘッドが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
また、「ノズル及びこのノズルがノズル連通路を介して連通する流路を形成する流路部材を備えた液滴吐出ヘッドにおいて、前記流路部材は、シリコン基板にノズル厚さに相当するエッチングマスク層を用いてエッチングにより前記ノズルが形成された後、前記シリコン基板に前記エッチングマスク層と反対面からノズル連通路用マスクを用いてエッチングによりノズル連通路が形成され、更に液室用マスクを用いてエッチングにより液室が形成されたものである」インクジェットヘッドが提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平5−229114号公報(第2−3頁、第2図)
【特許文献2】特開2003−326724号公報(第4頁、第4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インクジェットヘッドのインク吐出性能を向上させるためには、ノズルプレートに形成するノズル孔を高精度で加工することが要求される。また、アクチュエータ数を増加させたインクジェットヘッドには、1つのキャビティからインクが吐出されたときに、そのキャビティに隣接するキャビティが影響を受けてしまうという、いわゆるクロストークを防止するために十分なリザーバ容積の確保を可能としながらも、インク吐出性能を向上させることが要求される。
【0008】
特許文献1に記載の技術では、面方位が(100)のシリコン基板に、ノズル、キャビティ及びリザーバをKOHウェットエッチングにて一体形成するようにしている。しかしながら、流路基板は面方位が(100)のシリコン基板に限定されているので、ノズルの側壁角度が54.7度となり、ノズルの高密度化が困難であるという問題があった。また、ウェットエッチングによるノズル形成工程では、サイドエッチング量の制御が難しく、ノズル径精度を確保するのが困難であるといった問題もあった。
【0009】
特許文献2に記載の技術では、流路基板にノズル長さと等しい厚みをもつエッチングストップ層を形成し、ノズルをストップ層に、キャビティ、リザーバ及びノズル連通穴を流路基板に形成するようにしている。しかしながら、メニスカス制御の観点からノズル長は最低でも10μm程度は必要であり、このような厚みのストップ層を形成するのは非常に困難であり、仮にできたとしてもコストがかかってしまうという問題があった。また、製造プロセスが曖昧(たとえば凹凸面へのマスク形成方法(図6のマスク38等参照)や、2度目のウェットエッチングでの形状制御(ノズル貫通穴37の側壁保護等)に関する記載がない)であるために、現実的ではなかった。
【0010】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたもので、クロストーク防止に十分なリザーバ容積の確保をしながらも、流路基板になるシリコン基板に高精度でノズルを加工形成できるようにした流路基板の製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る流路基板の製造方法は、ノズル孔と、ノズル孔に連通するキャビティと、キャビティに連通し、所定の容積を有するリザーバとで構成される液体流路を1つのシリコン基板に形成する流路基板の製造方法であって、シリコン基板の一方の面から、ノズル孔、キャビティ及びリザーバになる部分を所定の深さまでエッチング加工する際、シリコン基板に貫通させるアライメント用貫通孔部を併せて形成しておき、ノズル孔を所定の深さまでエッチングした後、シリコン基板をアライメントして、シリコン基板の他方の面からノズル孔を貫通させることを特徴とする。
【0012】
ノズル孔、キャビティ及びリザーバを1つのシリコン基板に形成し、流路基板とするために、リザーバ容積を確保しようとすると、シリコン基板に所定の厚さ(たとえば、200μm以上)が必要になる。そこで、流路基板となるシリコン基板に、ノズル孔、キャビティ及びリザーバを形成する際に、併せてアライメント用貫通孔部を形成しておくことで、所定の厚みのあるシリコン基板であっても、ノズル孔の加工精度を向上させることができる。また、アライメントマークを別途形成する手間を省略することができ、製造効率が向上する。さらに、高精度なアライメントが実現でき、吐出面側(シリコン基板の他方の面側)からノズル孔を貫通させる際に、加工面側(シリコン基板の一方の面側)から形成したノズル孔との軸線がズレることが無く、ノズル孔の加工精度が向上する。
【0013】
本発明に係る流路基板の製造方法は、ノズル孔の径及びアライメント用貫通孔部の径を、シリコン基板の一方の面から他方の面に向かって段階的に小さくするように形成するものにおいて、シリコン基板の全面に酸化膜を形成し、ノズル孔、キャビティ、リザーバ及びアライメント用貫通孔部になる部分におけるシリコン基板の一方の面の酸化膜にフォトリソグラフィーにより、各部の膜厚を変化させてパターニングし、各部を順次ドライエッチングで加工する際に、アライメント用貫通孔部のみを貫通させ、熱酸化によりシリコン基板の加工部の内壁に酸化膜を形成してから、シリコン基板をアライメントして、シリコン基板の反対の面における酸化膜に、ノズル孔になる部分をフォトリソグラフィーによりパターニングし、ノズル孔をドライエッチングで貫通させることを特徴とする。
【0014】
したがって、アライメント用貫通孔部の形成を流路と同時に行うことで、パターニング及びドライエッチング加工の工程を減少でき、製造に要する負担を軽減することができる。また、酸化膜の膜厚を各部で変更させて、各部のパターニング及びドライエッチング加工することができ、製造に要する負担を軽減することができるとともに、加工精度を向上させることができる。
【0015】
本発明に係る流路基板の製造方法は、シリコン基板に貫通させたアライメント用貫通孔部の小さい方の開口面の平面形状から基準点を算出し、その基準点に基づいて、シリコン基板をアライメントすることを特徴とする。したがって、吐出面側からノズル孔を貫通させる際に、加工面側から形成したノズル孔との軸線がズレることが無くなり、高精度なアライメントが実現できる。
【0016】
本発明に係る流路基板の製造方法は、平面形状を複数の頂点を有する1又は2以上の多角形状としたことを特徴とする。アライメントマークとして利用するアライメント用貫通孔部の平面形状を特段限定することなく種々の平面形状を利用して、アライメント用貫通孔部を加工形成することができるので、アライメント用貫通孔部の形成に余分な手間を要することがない。したがって、製造に要する手間や負担を軽減することができる。
【0017】
本発明に係る流路基板の製造方法は、シリコン基板の一方の面からICPドライエッチングでノズル孔、キャビティ、リザーバ及びアライメント用貫通孔部になる部分を加工形成し、シリコン基板の他方の面からRIEドライエッチングでノズル孔を貫通させることを特徴とする。したがって、ICPドライエッチングによってシリコン基板を垂直に加工することができるとともに、RIEドライエッチングによってノズル孔のエッチングマスクとなる酸化膜を高精度に開口することができ、ノズル孔を高精度に開口形成することができる。
【0018】
本発明に係る流路基板の製造方法は、シリコン基板の厚さを200μm以上としたことを特徴とする。これにより、クロストークを防止するために十分なリザーバ容積の確保をすることが可能となる。また、このような厚さのあるシリコン基板であっても、ノズル孔を高精度で加工することができる。
【0019】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記の流路基板に、流路基板のキャビティ内に圧力を発生させる振動板を有する振動板基板を接合し、振動板を変形させてキャビティ内に圧力変化を与えるアクチュエータを形成することを特徴とする。したがって、ノズル孔を高精度で加工形成することができるために、インク液滴の飛行曲がりをなくし、安定性及び信頼性の高い液滴吐出ヘッドを提供することができる。
【0020】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、振動板基板に圧電素子を設け、振動板基板に設けた圧電素子とは反対側の面に流路基板を接合させることを特徴とする。したがって、加工精度が高く、かつ高出力な駆動を実現することが可能になる。
【0021】
本発明に係るノズルプレートの製造方法は、振動板基板の流路基板の接合面とは反対側の面に、振動板に一定距離を隔てた電極を形成する電極用凹部が設けられた電極基板を接合することを特徴とする。したがって、加工精度が高く、かつ安価な液滴吐出ヘッドを提供することが可能になる。
【0022】
本発明に係る液滴吐出装置の製造方法は、上記の液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して液滴吐出装置を製造することを特徴とする。したがって、上記の効果を有するとともに、インク液滴の吐出性能及び信頼性が高く、かつ安価な液滴吐出装置を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド10を分解した状態を示す分解斜視図である。また、図2は、液滴吐出ヘッド10の断面構成を示す縦断面図である。図1及び図2に基づいて、液滴吐出ヘッド10の構成及び動作について説明する。この液滴吐出ヘッド10は、圧電駆動方式のアクチュエータ(駆動手段)の代表として、流路基板の表面側に設けられたノズル孔から液滴を吐出するフェイスイジェクトタイプの液滴吐出ヘッドを例として表している。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。
【0024】
図1及び図2に示すように、この液滴吐出ヘッド10は、流路基板(ノズルプレート)1と、振動板基板2とが積層されるように接合されることで構成されている。図1及び図2に示すように、この液滴吐出ヘッド10を構成する流路基板1には、インク流路になるリザーバ13と、オリフィス14と、キャビティ12と、ノズル孔11とが加工形成されている。そして、リザーバ13に所定の容積を確保するために、流路基板1には所定の厚さ(たとえば、200μm以上)が必要となる。
【0025】
流路基板1は、たとえば厚さ300μm、面方位(100)のシリコン基板で構成されている。流路基板1には、複数のノズル孔11が所定のピッチで垂直に貫通形成されている。各ノズル孔11は、振動板基板2との接合面(加工面)から反対側の面(吐出面)に向かって段階的または徐々に小さくなるように形成されている。この実施の形態1では、段階的に小さくなるように形成されており、径の小さい孔から順に、第1ノズル孔11a、第2ノズル孔11b、第3ノズル孔11cの3段構成となっている。このように構成することで、ノズル長が長くなることによる流路抵抗の増加を抑制することができる。また、吐出口に向かってノズル径が小さくなるので、整流作用によりインク吐出方向の直進性を高めることもできる。
【0026】
また、流路基板1において、振動板基板2との接合面には、各ノズル孔11に独立して連通し、内部に圧力を発生させて各ノズル孔11よりインクを吐出させるキャビティ12になるキャビティ用凹部12aと、各キャビティ12に供給するインクを溜めるリザーバ13になるリザーバ用凹部13aと、各キャビティ12とリザーバ13とを連通する複数のオリフィス14とが形成されている。なお、オリフィス14の幅は、流路抵抗を調整するため、キャビティ用凹部12aの幅よりも小さく形成するとよい。
【0027】
振動板基板2は、たとえば厚さ30μmのステンレスで構成されている。振動板基板2において、キャビティ12と対向する部分が振動板21となっており、振動板21のキャビティ12と反対側の面(吐出面)には圧電素子22が設置されている。圧電素子22は、たとえばピエゾ素子などからなる圧電体膜(PZT)23の両面に、上電極膜24及び下電極膜25が形成された構成を有している。この実施の形態1では、下電極膜25を圧電素子22の共通電極とし、上電極膜24を圧電素子22の個別電極としている場合を例に示しているが、駆動回路や配線の都合でこれらを逆にしてもよい。
【0028】
また、振動板基板2には、外部のインクカートリッジ(図示省略)内のインクを流路基板1のリザーバ13に供給するためのインク供給孔26が貫通形成されている。このインク供給孔26は、流路基板1に形成されるリザーバ13に対応する位置に貫通形成するとよい。なお、以下の説明において、圧電素子22と、この圧電素子22の駆動により変位が生じる振動板21とを合わせて圧電アクチュエータと称する場合がある。また、ここでは、振動板基板2がステンレスで構成されている場合を例に説明しているが、振動板基板2の構成材料を特に限定するものではない。
【0029】
ここで、液滴吐出ヘッド10の動作について説明する。液滴吐出ヘッド10には、外部のインクカートリッジ内のインクがインク供給孔26を通じてリザーバ13内に供給されている。このインクは、各オリフィス14を介してそれぞれのキャビティ12に供給される。そして、ノズル孔11の先端までインクで満たされていることになる。なお、この液滴吐出ヘッド10の動作を制御するためのドライバIC等の駆動制御回路(図示せず)が、圧電素子22の各個別電極となる上電極膜24と共通電極となる下電極膜25との間に接続されている。したがって、この駆動制御回路により圧電素子22に駆動信号(パルス電圧)が印加されると、下電極膜25、圧電体膜及び振動板21がたわみ変形し、キャビティ12内の圧力が高まり、ノズル孔11からインク滴が吐出される。
【0030】
実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド10によれば、ノズル孔11、キャビティ12及びリザーバ13を1枚の流路基板1に形成したので、部材費と組立コストを低減することができる。また、キャビティ12と振動板21とを別々の基板で形成したので、キャビティ12の底面を振動板21とした構造と比較して、キャビティ12の深さと振動板21の厚みとに制約されることなく、流路基板1の厚みを自由に選択することができる。このため、十分な厚さの基板を流路基板1として選択することで、吐出に最適なキャビティ12の深さを確保しながら、クロストーク防止に十分なリザーバ容積も確保することが可能となる。
【0031】
流路基板1の厚みを自由に選択することができる結果、ノズル孔11を構成精度に加工形成することが要求されることになる。つまり、ノズル孔11は、厚みのある流路基板1(200μm以上のシリコン基板)に貫通形成されるが、片側からノズル孔11をICP(Inductively Coupled Plasma)ドライエッチングで貫通させようとすると、エッチング時間が長くなるために、特に第1ノズル孔11aの加工精度が低下してしまう。そこで、液滴吐出ヘッド10は、反対面(吐出面)側からICPドライエッチングを行ない、第1ノズル孔11aを貫通させるようにしている。
【0032】
次に、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド10の流路基板1の製造方法について、図3及び図4を用いて説明する。なお、以下において示す基板の厚さやエッチング深さ、温度、圧力等の値はあくまでも一例を示すものであり、本発明はこれらの値によって限定されるものではない。また、ここでは、流路基板1の製造方法について説明し、圧電素子22を有する振動板基板2の製造方法については従来公知の製造方法を用いることができるため説明を省略する。
【0033】
(a)厚さ300μm、面方位(100)のシリコン基板から構成される流路基板基材100を用意し、この流路基板基材100の外面に厚さ2.8μmの熱酸化膜101を形成する。そして、振動板基板2と接着する側の面Aの熱酸化膜101に、第2ノズル孔11b、第3ノズル孔11c、キャビティ12、オリフィス14、リザーバ13、第1貫通孔部20a、第2貫通孔部20b及び第3貫通孔部20cになるそれぞれの部分111b、111c、112、114、113、120a、120b及び120cを、フォトリソグラフィー法により開口する。すなわち、流路基板基材100に、両面アライメント用の貫通孔部20(第1貫通孔部20a、第2貫通孔部20b及び第3貫通孔部20cで構成されるアライメント用貫通孔部)を形成するのである。
【0034】
このとき、A面における各部分111b、111c、112、114、113、120a、120b及び120cの熱酸化膜101の残し膜厚が、次の関係になるようにエッチングする。すなわち、第1貫通孔部20aになる部分120a=0<第2ノズル孔11bになる部分111b=第2貫通孔部20bになる部分120b<第3ノズル孔11cになる部分111c=リザーバ13になる部分113=第3貫通孔部20cになる部分120c<キャビティ12になる部分112=オリフィス14になる部分114となるように熱酸化膜101の残し膜厚を決定する。
【0035】
(b)次に、A面の第1貫通孔部20aになる部分120aを、ICPドライエッチングで100μm程、エッチング加工する。
(c)それから、熱酸化膜101を適量エッチング除去して、第2ノズル孔11bになる部分111b、及び第2貫通孔部20bになる部分120bを開口させ、ICPドライエッチングで第2ノズル孔11bになる部分111b、及び第2貫通孔部20bになる部分120bを50μm程エッチング加工する。
【0036】
(d)次に、熱酸化膜101を適量エッチング除去して、第3ノズル孔11cになる部分111c、第3貫通孔部20cになる部分120c及びリザーバ13になる部分113を開口させ、ICPドライエッチングで第3ノズル孔11cになる部分111c、第3貫通孔部20cになる部分120c及びリザーバ13になる部分113を170μm程エッチング加工する。
(e)そして、熱酸化膜101を適量エッチング除去して、キャビティ12になる部分112及びオリフィス14になる部分114を開口させ、ICPドライエッチングでキャビティ12になる部分112及びオリフィス14になる部分114を80μm程エッチングする加工する。
【0037】
このとき、リザーバ13になる部分113も同様にエッチングされ、キャビティ用凹部12a、オリフィス14及びリザーバ用凹部13aがそれぞれ所望の深さに形成されることになる。また、第2ノズル孔11bになる部分111b、第3ノズル孔11cになる部分111c、第1貫通孔部20aになる部分120a、第2貫通孔部20bになる部分120b及び第3貫通孔部20cになる部分120cも同様にドライエッチングされ、流路基板基材100を貫通する貫通穴部20が形成される。
【0038】
(f)次に、熱酸化処理を行い、エッチング加工部の内壁に厚さ1μmの熱酸化膜102を形成する。このとき、第1貫通孔部20aの底部に熱酸化膜101を残すようにしておくことで、A面とは反対側の面(吐出面)をフラットにしてパターニングを容易にし、ICPドライエッチング加工時のHeリークも防止できる。
(g)そして、この貫通孔部20をアライメントマークとして、第1ノズル孔11aになる部分111aの熱酸化膜101を、下面側から除去する。
【0039】
つまり、貫通穴部20を構成する第1貫通孔部20aをアライメントマークとして利用し、フォトリソグラフィー法で第1ノズル部11aとなる部分111aを開口するのである。このとき、第1ノズル部11aのパターン精度を確保し、上面側(A面側)の保護を不要とするため、熱酸化膜101の開口はRIE(Reactive Ion Etching)ドライエッチングにより行なうことができる。また、フッ酸等のウェットエッチングで開口する場合は、上面側にドライフィルム等を貼付して、保護するとよい。
【0040】
(h)その後、第1ノズル孔11aとなる部分111aをICPドライエッチングで20μmエッチング加工する。
(i)第1ノズル孔11aとなる部分111aをエッチング加工したら、第1ノズル孔11aと、第2ノズル孔11bとの間に存在する熱酸化膜102を除去して、連通させることによって、ノズル孔11が貫通形成される。そして、熱酸化膜101を除去した後に、再度、厚さ0.1μmの熱酸化膜103をインク保護膜として形成する。以上のように、流路基板1が作製される。
【0041】
このように作製された流路基板1に、圧電素子22及びインク供給孔26が形成された振動板基板2をエポキシ樹脂等の接着剤を用いて接着し、液滴吐出ヘッド10が作製される。以上のように、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド10の製造方法では、流路基板基材100に貫通孔部20を形成することによって、この貫通孔部20(特に、第1貫通孔部20a)をアライメントマークとして利用でき、流路基板基材100の位置合わせ高精度で実行することができる。すなわち、ノズル孔11を両側からエッチング加工する場合であっても、加工精度の向上を図ることができるのである。
【0042】
また、流路基板基材100に各部位(ノズル孔11、キャビティ12、オリフィス14リザーバ13及び貫通孔部20)を形成する際には、その各部位(ノズル孔11、キャビティ12、オリフィス14、リザーバ13及び貫通孔部20)のそれぞれに対応した開口パターンの全てが形成された熱酸化膜101を一つのマスク部材として利用できるので、各部位を形成する度に、その部位に対応したマスク部材を形成し直す方法に比べて、各部位の位置合わせ精度及び形状精度を向上させることができる。さらに、各部位全てをドライエッチングで形成するため、各部位を高精度に形成できる。
【0043】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2に係る液滴吐出ヘッド50を分解した状態を示す分解斜視図である。また、図6は、液滴吐出ヘッド50の断面構成を示す縦断面図である。図5及び図6に基づいて、液滴吐出ヘッド50の構成及び動作について説明する。この液滴吐出ヘッド50は、静電駆動方式のアクチュエータ(駆動手段)の代表として、流路基板の表面側に設けられたノズル孔から液滴を吐出するフェイスイジェクトタイプの液滴吐出ヘッドを例として表している。なお、この実施の形態2では上述した実施の形態1との相違点を中心に説明するものとし、実施の形態1と同一部分には、同一符号を付して説明を省略するものとする。
【0044】
実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド10では、流路基板1のリザーバ13部分をドライエッチングのみを利用することで加工形成した場合を例に説明したが、実施の形態2に係る液滴吐出ヘッド50では、流路基板1aのリザーバ13部分をドライエッチング及びウェットエッチングの両方を利用することで加工形成する場合を例に説明する。また、実施の形態2に係る液滴吐出ヘッド50は、静電駆動方式であるために、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド10の振動板基板2に設けられていた圧電素子22が削除されている。
【0045】
図5及び図6に示すように、この液滴吐出ヘッド50は、流路基板(ノズルプレート)1aと、振動板基板(キャビティプレート)2aと、電極基板3とが積層されるように接合されることで構成されている。図5及び図6に示すように、この液滴吐出ヘッド50を構成する流路基板1aには、インク流路になるリザーバ13と、オリフィス14と、キャビティ12と、ノズル孔11とが加工形成されている。そして、リザーバ13に所定の容積を確保するために、流路基板1aには所定の厚さ(たとえば、200μm以上)が必要となる。
【0046】
流路基板1aは、流路基板1と同様に、たとえば厚さ300μm、面方位(100)のシリコン基板で構成されている。振動板基板2aは、たとえば可撓性を有する(110)面方位のシリコン基板等で構成するとよい。また、振動板基板2aの少なくとも電極基板3側の面には、たとえばTEOS(Tetraethylorthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン、珪酸エチル)を原料としたプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法)によるSiO2 膜からなる絶縁膜が、たとえば0.1μmの厚さで形成されているものとする(図示せず)。この絶縁膜は、液滴吐出ヘッド50の駆動時における絶縁破壊や短絡を防止するために設けられている。
【0047】
振動板基板2aの流路基板1aと反対側の面(吐出面)には、電極基板3が接合されている。電極基板3は、たとえば厚さ約1mmのガラス材で構成するとよい。電極基板3には、振動板基板2の各振動板21及び流路基板1aの各キャビティ12に対向する表面の位置に、それぞれ電極用凹部31が形成されている。各電極用凹部31は、たとえばエッチングにより約0.3μmの深さで形成するとよい。そして、各電極用凹部31の底面には、一般に、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)からなる個別電極32が、たとえば0.1μmの厚さでスパッタにより形成されている。また、電極基板3には、振動板基板2aに形成されるインク供給孔26と連通するインク供給孔34が形成される。このインク供給孔34は、振動板基板2aにインク供給孔26を通じてリザーバ13に連通している。
【0048】
振動板21と個別電極32との間に形成されるギャップG(空隙)は、この電極用凹部31の深さ、個別電極32及び振動板21を覆う絶縁膜の厚さにより決定することになる。このギャップGは、液滴吐出ヘッド50の吐出特性に大きく影響するため、厳格な精度管理が要求される。この実施の形態2では、ギャップGが0.2μmとなっている場合を例に説明する。このギャップGの開放端部は、エポキシ接着剤等からなる封止材33により気密に封止されている。これにより、異物や湿気等がギャップGに侵入するのを防止することができ、液滴吐出ヘッド50の信頼性を高く保持することができる。
【0049】
なお、個別電極32をITOで構成した場合を例に説明したが、これに限定するものではなく、たとえばIZO(Indium Zinc Oxide)あるいは金、銅等の金属を用いて構成してもよい。ただし、ITOは、透明であるので振動板21の当接具合の確認が行いやすいことなどの理由から、一般にはITOが用いられることが好ましい。また、ここでは、振動板21と、振動板21に一定距離(ギャップG)を隔てて対向配置された個別電極32とで静電アクチュエータが構成されており、振動板21と個別電極32との間に電圧を印加することにより発生する静電気力によって振動板21を変位させるようにしている。
【0050】
ここで、液滴吐出ヘッド50の動作について説明する。液滴吐出ヘッド50には、外部のインクカートリッジ内のインクがインク供給孔34及びインク供給孔26を通じてリザーバ13内に供給されている。このインクは、各オリフィス14を介してそれぞれのキャビティ12に供給される。そして、ノズル孔11の先端までインクで満たされていることになる。なお、この液滴吐出ヘッド50の動作を制御するためのドライバIC等の駆動制御回路(図示せず)が、各個別電極32と振動板基板2aに設けられた図示省略の共通電極との間に接続されている。
【0051】
したがって、この駆動制御回路により選択された個別電極32に駆動信号(パルス電圧)が印加され、その個別電極32をプラス(正)に帯電させる。一方、このとき、共通電極を介して振動板21には負の極性を有する電荷が供給され、正に帯電された個別電極32に対応する位置における振動板21を相対的にマイナス(負)に帯電させる。そのため、選択された個別電極32と振動板21との間には静電気力(クーロン力)が発生することになる。そうすると、振動板21は、静電気力によって個別電極32側に引き寄せられて撓むことになる。これによって、キャビティ12の容積が増大する。
【0052】
その後、個別電極32へのパルス電圧をオフにすると、振動板21と個別電極32との間の静電気力がなくなり、振動板21はその弾性力により元の状態に復元する。このとき、キャビティ12の容積が急激に減少するため、キャビティ12内部の圧力が急激に上昇する。これにより、キャビティ12内のインクの一部がインク滴となってノズル孔11から吐出されることになる。このインク滴が、たとえば記録紙に着弾することによって印刷等が行われるようになっている。その後、インク滴がリザーバ13からオリフィス14を通じてキャビティ12内に補給され、初期状態に戻る。
【0053】
この実施の形態2に係る液滴吐出ヘッド50によれば、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド10とほぼ同様の作用効果を得ることが可能になる。また、駆動手段としてのアクチュエータを静電アクチュエータとしたため、実施の形態1の圧電アクチュエータを用いた場合に比べて、微細化が容易で、構造を単純なものとすることができる。したがって、高密度で多数のノズル孔11を形成した液滴吐出ヘッド50を比較的安価に作製することができる。
【0054】
次に、実施の形態2に係る液滴吐出ヘッド50の流路基板1aの製造方法について、図7〜図9を用いて説明する。なお、以下において示す基板の厚さやエッチング深さ、温度、圧力等の値はあくまでも一例を示すものであり、本発明はこれらの値によって限定されるものではない。また、ここでは、流路基板1aの製造方法について説明し、振動板基板2a及び電極基板3の製造方法については従来公知の製造方法を用いることができるため説明を省略する。
【0055】
(a)厚さ300μm、面方位(100)のシリコン基板から構成される流路基板基材100aを用意し、この流路基板基材100aの外面に厚さ2.8μmの熱酸化膜101を形成する。そして、振動板基板2aと接着する側の面Aの熱酸化膜101に、第2ノズル孔11b、第3ノズル孔11c、キャビティ12、オリフィス14、リザーバ13、第1貫通孔部20a、第2貫通孔部20b及び第3貫通孔部20cになるそれぞれの部分111b、111c、112、114、113、120a、120b及び120cを、フォトリソグラフィー法により開口する。すなわち、流路基板基材100aに、両面アライメント用の貫通孔部20(第1貫通孔部20a、第2貫通孔部20b及び第3貫通孔部20cで構成される)を形成するのである。
【0056】
このとき、A面における各部分111b、111c、112、114、113、120a、120b及び120cの熱酸化膜101の残し膜厚が、次の関係になるようにエッチングする。すなわち、第1貫通孔部20aになる部分120a=0<第2ノズル孔11bになる部分111b=第2貫通孔部20bになる部分120b<第3ノズル孔11cになる部分111c=リザーバ13になる部分113=第3貫通孔部20cになる部分120c<キャビティ12になる部分112=オリフィス14になる部分114となるように熱酸化膜101の残し膜厚を決定する。
【0057】
(b)次に、A面の第1貫通孔部20aになる部分120aを、ICPドライエッチングで100μm程、エッチング加工する。
(c)それから、熱酸化膜101を適量エッチング除去して、第2ノズル孔11bになる部分111b、及び第2貫通孔部20bになる部分120bを開口させ、ICPドライエッチングで第2ノズル孔11bになる部分111b、及び第2貫通孔部20bになる部分120bを50μm程エッチング加工する。
【0058】
(d)次に、熱酸化膜101を適量エッチング除去して、第3ノズル孔11cになる部分111c及び第3貫通孔部20cになる部分120cを開口させ、ICPドライエッチングで第3ノズル孔11cになる部分111c及び第3貫通孔部20cになる部分120cを170μm程エッチング加工する。
(e)そして、熱酸化膜101を適量エッチング除去して、キャビティ12になる部分112、オリフィス14になる部分114及びリザーバ13になる部分113をそれぞれ開口させ、ICPドライエッチングでキャビティ12になる部分112、オリフィス14になる部分114及びリザーバ13になる部分113を80μm程エッチング加工する。
【0059】
こうすることにより、キャビティ用凹部12a及びオリフィス14がそれぞれ所望の深さに形成されることになる。なお、リザーバ13になる部分113については、まだ製造途中であり、ここではキャビティ12及びオリフィス14と同じ深さまでエッチング加工されている。また、第2ノズル孔11bになる部分111b、第3ノズル孔11cになる部分111c、第1貫通孔部20aになる部分120a、第2貫通孔部20bになる部分120b及び第3貫通孔部20cになる部分120cも同様にドライエッチングされ、流路基板基材100aを貫通する貫通穴部20が形成される。
【0060】
(f)そして、熱酸化膜101を除去した後に、再度、厚さ1.1μmの熱酸化膜102を形成する。この熱酸化膜102は、次の(g)の工程で、リザーバ13の残部をウェットエッチングにより形成する際のマスク部材として用いられるものである。
(g)次に、開口部131が形成されたシリコン製のマスク基板130を流路基板基材100aのA面側に密着させ、RIEにより熱酸化膜102をドライエッチングし、リザーバ13に対応する部分に開口140を形成する。
【0061】
ここでのエッチングとしてドライエッチングを用いることにより、流路基板基材100a全体に形成された熱酸化膜102のうち、リザーバ13が途中まで形成されて凹状となった部分の底面部分の熱酸化膜102から、リザーバ13に対応する部分だけを的確にエッチング除去することが可能となる。このとき、第1貫通孔部20aの底部に熱酸化膜101を残すようにしておくことで、A面とは反対側の面(吐出面)をフラットにしてパターニングを容易にし、ICPドライエッチング加工時のHeリークも防止できる。
【0062】
(h)そして、流路基板基材100aを25%のKOH溶液によるウェットエッチングに浸漬し、リザーバ13となる部分113を170μm程度エッチングしてリザーバ13となるリザーバ用凹部13aをエッチング加工する。
(i)そして、貫通孔部20をアライメントマークとして、第1ノズル孔11aになる部分111aの熱酸化膜101を、下面側から除去する。つまり、実施の形態1と同様に、貫通穴部20を構成する第1貫通孔部20aをアライメントマークとして利用し、フォトリソグラフィー法で第1ノズル部11aとなる部分111aを開口するのである。
【0063】
(j)その後、第1ノズル孔11aとなる部分111aをICPドライエッチングで20μmエッチング加工する。
(k)第1ノズル孔11aとなる部分111aをエッチング加工したら、第1ノズル孔11aと、第2ノズル孔11bとの間に存在する熱酸化膜102を除去して、連通させることによって、ノズル孔11が貫通形成される。そして、熱酸化膜101を除去した後に、再度、厚さ0.1μmの熱酸化膜103をインク保護膜として形成する。以上のように、流路基板1aが作製される。
【0064】
このように作製された流路基板1aに、振動板基板2aと電極基板3とが接合された接合基板をエッチングポーラス樹脂等の接着剤を用いて接着し、液滴吐出ヘッド50が作製される。以上のように、実施の形態2に係る液滴吐出ヘッド50の製造方法では、流路基板基材100aに貫通孔部20を形成することによって、この貫通孔部20(特に、第1貫通孔部20a)をアライメントマークとして利用でき、流路基板基材100aの位置合わせ高精度で実行することができる。すなわち、ノズル孔11を両側からエッチング加工する場合であっても、加工精度の向上を図ることができるのである。
【0065】
また、エッチング量の多いリザーバ13を形成するに際し、キャビティ12の深さまではキャビティ12を製造する工程と同時にドライエッチングで形成し、リザーバ13の残部についてはウェットエッチングで形成するようにしたので、実施の形態1に比べて効率良く高スループットでリザーバ13を形成することができる。さらに、リザーバ13の残部をウェットエッチングにより形成する際のマスク部材として熱酸化膜102を用いるようにしたため、緻密で均一性の良好なマスクを良好なスループットで形成できる。
【0066】
次に、貫通孔部20の形状について詳細に説明する。図10は、貫通孔部20の形状を示す平面図である。図10に基づいて、貫通孔部20の形状、特に第1貫通孔部20aの開口形状について説明する。流路基板1及び流路基板1aに形成する貫通孔部20は、実施の形態1及び実施の形態2で説明したように、第1貫通孔部20aと、第2貫通孔部20bと、第3貫通孔部20cとで構成されている。そして、この貫通孔部20を両面アライメントマークとして利用することで、ノズル孔11を高精度に加工することが可能になっている。
【0067】
上述したように、貫通孔部20は、ICPドライエッチングで形成されている。貫通孔部20が形成される流路基板1及び流路基板1aは、リザーバ13容積を確保するために、所定の厚み(200μm以上)を有したシリコン基板等の流路基板基材100及び流路基板基材100aで形成されている。このような厚みのあるシリコン基板にノズル孔11をエッチングで加工形成する場合、深く加工する部位(第1ノズル孔11a)ほど、エッチング時間が長くなり、加工精度が低下してしまう。そこで、実施の形態1及び実施の形態2では、第1ノズル孔11aになる部分111aについては、A面(加工面)とは反対側の面(吐出面)側からエッチングすることで、高精度に加工するようにしている。
【0068】
このとき問題となるのが、流路基板1及び流路基板1aの位置合わせ(アライメント)である。つまり、流路基板1及び流路基板1aに加工形成されている第2ノズル孔11a及び第3ノズル孔11cと、第1ノズル孔11aとを軸ズレさせずに加工形成しなければ、ノズル孔11全体としての加工精度が低下することになってしまうため、アライメントが非常に重要になってくる。そのために、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド10及び実施の形態2に係る液滴吐出ヘッド50では、流路基板基材100及び流路基板基材100aに両面アライメントマークとしての貫通孔部20を、各部位と同時に形成しているのである。
【0069】
貫通孔部20(特に第1貫通孔部20a)の平面形状を、たとえば図10(a)に示すように、四辺(A、B、C及びD)で構成される四角形状とし、この貫通孔部20を1つのウエハ内に2ヶ所以上形成する。そして、アライメント装置等を使用して、流路基板基材100及び流路基板基材100aに形成した貫通孔部20を認識し、画像処理等で貫通孔部20の四辺を検出する。四辺を検出したら、その四辺を延長した破線a、b、c及びdを求める。
【0070】
次に、破線a、b、c及びdの交点(四角形の各頂点)a−b、b−c、c−d及びd−aの座標を求める。それから、交点a−b及び交点c−dを結ぶ線(ア)と、交点b−c及び交点d−aを結ぶ線(イ)との交点(中心点)Eの座標を求める。このE点をアライメントの基準とする。このような方法でアライメントの基準点Eを求めることで、貫通孔部20の平面形状の精度が低くても、たとえばエッチング後の四角形の頂点が丸くなったとしても、基準点Eを正確に求めることができる。
【0071】
すなわち、図10(b)に示すように、貫通孔部20の平面形状が予定より小さくなった場合(図で示す破線F)や、大きくなった場合(図で示す破線G)であっても、基準点Eを正確に求めることができるのである。この基準点Eは、貫通孔部20のできあがり平面形状にかかわらず、ズレることがないために、正確に算出することができれば、高精度なアライメントを実現することができるのである。ここでは、貫通孔部20の平面形状が四角形状である場合を例に説明したが、基準点Eを算出することができる形状であればよい。
【0072】
たとえば、貫通孔部20の平面形状を、図10(c)に示すような形状としてもよい。図10(c)に示すように、各頂点が貫通孔部20の平面形状の中心を向くような大小2パターンのV字形状とし、この貫通孔部20を1つのウエハ内に2ヶ所以上形成する。そして、アライメント装置等を使用して、流路基板基材100及び流路基板基材100aに形成した貫通孔部20を認識し、大小2パターンの各頂点の座標を少なくとも2つ以上(たとえば、A1及びA2、B1及びB2、C1及びC2、D1及びD2)を求める。
【0073】
それから、頂点A1、頂点A2、頂点C1及び頂点C2を結ぶ線(ア’)と、頂点B1、頂点B2、頂点D1及び頂点D2を結ぶ線(イ’)との交点(中心点)Eの座標を求める。このE点をアライメントの基準とする。このような方法でアライメントの基準点Eを求めることで、より正確に基準点Eを算出することができる。なお、流路基板基材100及び流路基板基材100aに形成した貫通孔部20は、ウエハから個々の液滴吐出ヘッド10及び液滴吐出ヘッド50をダイシングする際に、切り落とされることになる。
【0074】
実施の形態3.
図11は、実施の形態1の液滴吐出ヘッド10又は実施の形態2の液滴吐出ヘッド50を搭載した液滴吐出装置150の一例を示した斜視図である。図11に示す液滴吐出装置150は、一般的なインクジェットプリンタである。なお、この液滴吐出装置150は、周知の製造方法によって製造することができる。実施の形態1で得られた液滴吐出ヘッド10及び実施の形態2で得られた液滴吐出ヘッド50は、1枚の流路基板1及び流路基板1aに、インク流路(リザーバ13、オリフィス14、キャビティ12及びノズル孔11)が形成されているものである。
【0075】
なお、実施の形態1の液滴吐出ヘッド10及び実施の形態2の液滴吐出ヘッド50は、図11に示す液滴吐出装置150の他に、液滴を種々変更することで、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、生体液体の吐出等にも適用することができる。また、本発明の流路基板の製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法及び液滴吐出装置の製造方法は、本発明の実施の形態1〜実施の形態3で説明した内容に限定されるものではなく、本発明の思想の範囲内において変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドを分解した状態を示す分解斜視図である。
【図2】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの断面構成を示す縦断面図である。
【図3】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの流路基板の製造工程を示した縦断面図である。
【図4】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの流路基板の製造工程を示した縦断面図である。
【図5】実施の形態2に係る液滴吐出ヘッドを分解した状態を示す分解斜視図である。
【図6】実施の形態2に係る液滴吐出ヘッドの断面構成を示す縦断面図である。
【図7】実施の形態2に係る液滴吐出ヘッドの流路基板の製造工程を示した縦断面図である。
【図8】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの流路基板の製造工程を示した縦断面図である。
【図9】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの流路基板の製造工程を示した縦断面図である。
【図10】貫通孔部の形状を示す平面図である。
【図11】実施の形態1の液滴吐出ヘッド又は実施の形態2の液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置の一例を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0077】
1 流路基板、1a 流路基板、2 振動板基板、2a 振動板基板、3 電極基板、10 液滴吐出ヘッド、11 ノズル孔、11a 第1ノズル孔、11b 第2ノズル孔、11c 第3ノズル孔、12 キャビティ、12a キャビティ用凹部、13 リザーバ、13a リザーバ用凹部、14 オリフィス、20 貫通孔部、20a 第1貫通孔部、20b 第2貫通孔部、20c 第3貫通孔部、21 振動板、22 圧電素子、24 上電極膜、25 下電極膜、26 インク供給孔、31 電極用凹部、32 個別電極、33 封止材、34 インク供給孔、50 液滴吐出ヘッド、100 流路基板基材、100a 流路基板基材、101 熱酸化膜、102 熱酸化膜、103 熱酸化膜、111a 第1ノズル孔になる部分、111b、111b 第2ノズル孔になる部分、111c 第3ノズルになる部分、112 キャビティになる部分、113 リザーバになる部分、114 オリフィスになる部分、120a 第1貫通孔部になる部分、120b、 第2貫通孔部になる部分、120c 第3貫通孔部になる部分、130 マスク基板、131 開口部、140 開口、150 液滴吐出装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル孔と、
前記ノズル孔に連通するキャビティと、
前記キャビティに連通し、所定の容積を有するリザーバとで構成される液体流路を1つのシリコン基板に形成する流路基板の製造方法であって、
前記シリコン基板の一方の面から、前記ノズル孔、前記キャビティ及び前記リザーバになる部分を所定の深さまでエッチング加工する際、前記シリコン基板に貫通させるアライメント用貫通孔部を併せて形成しておき、
前記ノズル孔を所定の深さまでエッチングした後、
前記シリコン基板をアライメントして、前記シリコン基板の他方の面から前記ノズル孔を貫通させる
ことを特徴とする流路基板の製造方法。
【請求項2】
前記ノズル孔の径及び前記アライメント用貫通孔部の径を、
前記シリコン基板の一方の面から他方の面に向かって段階的に小さくするように形成するものにおいて、
前記シリコン基板の全面に酸化膜を形成し、
前記ノズル孔、前記キャビティ、前記リザーバ及び前記アライメント用貫通孔部になる部分における前記シリコン基板の一方の面の前記酸化膜にフォトリソグラフィーにより、各部の膜厚を変化させてパターニングし、
各部を順次ドライエッチングで加工する際に、前記アライメント用貫通孔部のみを貫通させ、
熱酸化により前記シリコン基板の加工部の内壁に酸化膜を形成してから、
前記シリコン基板をアライメントして、前記シリコン基板の反対の面における前記酸化膜に、前記ノズル孔になる部分をフォトリソグラフィーによりパターニングし、前記ノズル孔をドライエッチングで貫通させる
ことを特徴とする請求項1に記載の流路基板の製造方法。
【請求項3】
前記シリコン基板に貫通させた前記アライメント用貫通孔部の小さい方の開口面の平面形状から基準点を算出し、
その基準点に基づいて、前記シリコン基板をアライメントする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の流路基板の製造方法。
【請求項4】
前記平面形状を複数の頂点を有する1又は2以上の多角形状とした
ことを特徴とする請求項3に記載の流路基板の製造方法。
【請求項5】
前記シリコン基板の一方の面からICPドライエッチングで前記ノズル孔、前記キャビティ、前記リザーバ及び前記アライメント用貫通孔部になる部分を加工形成し、
前記シリコン基板の他方の面からRIEドライエッチングで前記ノズル孔を貫通させる
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の流路基板の製造方法。
【請求項6】
前記シリコン基板の厚さを200μm以上とした
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の流路基板の製造方法。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれかに記載の流路基板に、
前記流路基板のキャビティ内に圧力を発生させる振動板を有する振動板基板を接合し、
前記振動板を変形させて前記キャビティ内に圧力変化を与えるアクチュエータを形成する
ことを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記振動板基板に圧電素子を設け、
前記振動板基板に設けた前記圧電素子とは反対側の面に前記流路基板を接合させる
ことを特徴とする請求項7に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記振動板基板の前記流路基板の接合面とは反対側の面に、前記振動板に一定距離を隔てた電極を形成する電極用凹部が設けられた電極基板を接合する
ことを特徴とする請求項7に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記請求項7〜9のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して液滴吐出装置を製造する
ことを特徴とする液滴吐出装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−273001(P2008−273001A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118107(P2007−118107)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】