説明

海水由来酵母培養物含有皮膚外用用組成物

【課題】抗酸化作用、細胞賦活化作用、コラーゲンゲル収縮作用、保湿作用、血小板凝集抑制作用、ヒアルロン酸産生促進作用、コラゲナーゼ活性阻害作用及び/又は肌弾力性改善作用に優れた皮膚外用用組成物を提供する。
【解決手段】以下の工程(a)〜(c):(a) 海水をフィルターで濾過する工程;(b) フィルター不透過物を嫌気条件下、糖類高含有分離培地で培養し、海水由来酵母を分離する工程;及び(c) 分離した海水由来酵母を培養培地で培養する工程;を含む方法によって得られる海水由来酵母培養物を、1又は複数含有する、皮膚状態改善作用を有する、皮膚外用用組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水由来酵母培養物含有皮膚外用用組成物及びその製造方法に関する。本発明の組成物は、抗酸化作用、細胞賦活化作用、コラーゲンゲル収縮作用、保湿作用、血小板凝集抑制作用、ヒアルロン酸産生促進作用、コラゲナーゼ活性阻害作用、肌弾力性改善作用に優れ、化粧品及び皮膚外用剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
酵母は、生活環の大半において単細胞性を示す真菌類の総称であり、様々な工業的利用が試みられている微生物である。海水、海藻等から単離された酵母について、非特許文献1は、海洋環境からのS. cerevisiaeの分離及び特定の株を用いたパン及び清酒の製造方法について開示する。海水から分離したS.cerevisiaeの特定の株の利用方法として、特許
文献1及び2は、香りの良いパンの製造方法を開示し、特許文献3は、香りに深みがありマイルドな清酒の製造方法を開示し、特許文献4は甘みやうまみを増強させる調味料としての酵母エキスの製造方法を開示する。
【0003】
酵母の培養液を用いた皮膚外用用組成物に関する技術として、特許文献5は、西瓜果実から分離された特定のRhodotorula属の酵母や、桃果実から分離された特定のPichia属の酵母の培養液を含む組成物が、チロシナーゼ活性抑制効果、メラニン生成抑制効果、沈着色素淡色化効果、活性酸素消去効果、線維芽細胞賦活効果を有したことを記載する。特許文献6は、海洋由来S.cerevisiaeから自己消化、酵素処理、物理的分解又は酸加水分解処理を経て得た酵母エキスが、保湿効果を有し、酵母臭及び着色が従来の市販のパン酵母より低減されることを記載する。特許文献7は、分裂酵母Schizosaccharomycespompeの水懸濁物を酵素処理して得た酵母エキスが、メラニン合成抑制作用、線維芽細胞賦活作用、美白作用、角質水分量保持作用を有したことを記載する。特許文献8は、海洋由来のSaccharomyces属酵母をすり潰すか酵素処理して得た抽出物が、線維芽細胞活性化作用、肌のカサカサ感改善作用を有したことを記載する。
【特許文献1】特開平6-52号公報(特許第3086331号)
【特許文献2】特開平10-28517号公報
【特許文献3】特開平11-169168号公報
【特許文献4】特開2002-355008号公報(特許第3484428号)
【特許文献5】特開平7-10735号公報
【特許文献6】2002-265326号公報
【特許文献7】特開2005-1995号公報(特許第3806419号)
【特許文献8】特開2005-119979号公報
【非特許文献1】生物工学 第77巻 第4号 148-150 (1999)
【発明の開示】
【0004】
特に多忙な女性が増加する昨今の社会において、単独の使用によって皮膚への多様な効果が得られる新規皮膚外用用組成物が渇望されている。また、化粧品、特にスキンケア化粧品においては、毎日の使用に適した無香料、低刺激の製品が求められている。ここで、化粧品原料全般において、原料それぞれには独特の臭いがあり、これらをマスキングする為に香料の添加が行われているが、香料を添加することで生ずる刺激による肌トラブルが問題となっている。酵母の培養液においても酵母培養液独特の臭気がある。有効性を求め、酵母培養液の臭気が著しい化粧品が上市されてはいるが、酵母培養液をスキンケアに少量配合された場合であっても酵母独特の臭気が顕著に現われ、利用者の使用意欲を低減させる要因となる。
【0005】
このような背景の中、本発明者らは、生命誕生の源である海洋由来成分に着目し、酵母とヒトとの遺伝子配列が類似するとの報告等にも着目し、海水由来酵母の単離、該酵母の培養方法、培養液の特性について鋭意研究を重ねた。その結果、特定の手法を用いて単離した海水由来酵母が、高耐塩性であり、該酵母の培養液が陸上由来酵母培養液と比較して好ましい香りを有するといった特性を見出した。また、これまで存在の知られていなかった海洋深層水由来酵母も見出した。さらに、培地組成を変化させることにより酵母の効率の良い増殖が可能なこと、海水由来酵母培養液が、抗酸化作用、細胞賦活化作用、コラーゲンゲル収縮作用、保湿作用、血小板凝集抑制作用、ヒアルロン酸産生促進作用、コラゲナーゼ活性阻害作用、肌弾力性改善作用等、皮膚状態の改善に関する優れた作用を有することをも見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、
以下の工程(a)〜(c):
(a) 海水をフィルター(好ましくは孔径0.2μm〜0.6μmのメンブランフィルター、より好ましくは孔径0.4μm〜0.5μmのメンブランフィルター)で濾過する工程;
(b) フィルター不透過物を嫌気条件下、糖類(好ましくはグルコース及び/又はスクロース)高含有分離培地(好ましくは5〜25w/w%糖類含有培地、より好ましくは10〜20w/w%糖類含有培地であって、溶媒が海洋深層水である培地)で培養し、(所望により、集積培養及び平板培養を繰り返す純粋分離を行い、)海水由来酵母を分離する工程;及び
(c) 分離した海水由来酵母を(所望により、前培養工程に付し、次いで)培養培地(好ましくはpH6〜7の培養培地)で培養する工程;
を含む方法によって得られる海水由来酵母培養物を、1又は複数含有する、
皮膚状態改善作用を有する、皮膚外用用組成物を提供する。
【0007】
本発明はまた、前記工程(a)における海水が、海洋深層水である、前記の皮膚外用用組成物を提供する。
本発明はまた、前記皮膚状態改善作用が、以下の群:抗酸化作用、細胞賦活化作用、コラーゲンゲル収縮作用、保湿作用、血小板凝集抑制作用、ヒアルロン酸産生促進作用、コラゲナーゼ活性阻害作用及び肌弾力性改善作用、から選択される、1以上の作用(好ましくは、コラーゲンゲル収縮作用)である、前記の皮膚外用用組成物を提供する。
本発明はまた、前記工程(c)における培養培地が海水濃縮物及び/又は湯の花処理物(好ましくは海水濃縮物及び湯の花処理物)を含む、前記の皮膚外用用組成物を提供する。
本発明はまた、前記海水由来酵母が、Zygosaccharomyces属、Pichia属、Torulaspora属、Candida属、又はSaccharomycetales属である、前記の皮膚外用用組成物を提供する。
本発明はまた、前記海水由来酵母が、SW 26株(NITE P-371)又はDSW 69株(NITE P-372)、SW42株(NITE AP-585)、DSW89株(NITE AP-586)、DSW92株(NITE AP-587)、若しくはDSW110株(NITE AP-588)、又はそれと同じ菌学的性質を有する菌株である、前記の皮膚外用用組成物を提供する。
本発明はまた、前記海水由来酵母が高耐塩性である、前記の皮膚外用用組成物を提供する。
本発明はまた、前記海水由来酵母培養物が改善された臭いを有し、前記海水由来酵母培養物を0.05〜20 w/w%(好ましくは0.1〜15w/w%、更に好ましくは0.5〜10w/w%)含有する、前記の皮膚外用用組成物を提供する。
本発明はまた、さらに海水濃縮物及び/又は湯の花処理物を含む、前記の皮膚外用用組成物を提供する。
本発明はまた、以下の工程(a)〜(d):
(a) 海水をフィルターで濾過する工程;
(b) フィルター不透過物を嫌気条件下、糖類高含有分離培地で培養し、海水由来酵母を分離する工程;
(c) 分離した海水由来酵母を培養培地で培養する工程;及び
(d) 培養後の培地の、皮膚状態改善作用(好ましくは、抗酸化作用、細胞賦活化作用、コラーゲンゲル収縮作用、保湿作用、血小板凝集抑制作用、ヒアルロン酸産生促進作用、コラゲナーゼ活性阻害作用及び肌弾力性改善作用から選択される、1以上の作用)を評価する工程;
を含む、海水由来酵母培養物の製造方法を提供する。
本発明はまた、以下の工程(a)’及び(b)’:
(a)’ 海洋深層水をフィルターで(好ましくは、濾過速度の減少が確認できるまで)濾過する工程;及び
(b)’ フィルター不透過物を嫌気条件下、糖類高含有培地で培養する工程(好ましくは人工海水及び/又は海水、より好ましくは海洋深層水を溶媒とした、グルコース及び/又はスクロース5〜30w/w%、好ましくは10〜25%含有培地で3日以上培養する工程);
を含み、所望により以下の工程:
液体培地を用いた集積培養と、寒天培地を用いた平板培養とを、それぞれ3〜5日間、2〜3回ずつ繰り返す工程(ここで、好ましくは液体培地と比べ寒天培地の糖類含有量が高い);及び
酵母の分離を確認する工程;
を含む、海洋深層水由来酵母の分離方法を提供する。
【0008】
さらに本発明は、前記の方法によって得られる海水由来酵母培養物を提供する。
さらに本発明は、前記海水由来酵母が、Zygosaccharomyces属(例えばZygosaccharomyces microellipsoides)又はPichia属(例えばPichiacarribbicaPichia guilliermondii又はPichia anomala)に属する、前記の皮膚外用用組成物を提供する。
さらに本発明は、前記工程(a)における海水が海洋深層水である方法によって得られる海洋深層水由来酵母培養物、及び前記工程(a)における海水が海洋表層水である方法によって得られる海洋表層水由来酵母培養物を含有する、前記の皮膚外用用組成物を提供する。さらに本発明は、海水濃縮物及び湯の花処理物を含有する、海洋由来酵母の培養培地を提供する。
さらに本発明は、皮膚細胞を賦活するための、好ましくはサイトカイン産生を促進することにより皮膚細胞を賦活するための、より好ましくはVEGF産生を促進することにより皮膚細胞を賦活するための、及び/又は線維芽細胞の増殖を促進することにより皮膚細胞を賦活するための、前記の皮膚外用用組成物を提供する。
【0009】
海水、海洋深層水、海洋表層水
本発明の皮膚外用用組成物は、海水由来酵母の培養物を含有することを特徴とする。
【0010】
本明細書中において、単に海水というときは、海洋深層水及び海洋表層水を含む。本明細書中において、「海洋深層水」とは、特別な場合を除き、太陽光の届かない水深200m以深にある海水を指す。海洋深層水以外の海水、すなわち、水深200m以浅の海水を、本明細書中においては特別な場合を除き、「海洋表層水」という。海洋深層水は、富栄養性(表層の海水に比べて窒素、リン、珪酸などの無機栄養塩を豊富に含む)、ミネラル特性(Ca、Fe、Zn、Na、Mgなどの微量元素やミネラルをバランス良く含有する)、清浄性(地上の細菌、化学物質による汚染が少ない)、低温安定性(水温が表層よりかなり低く、通年にわたって温度変化が少ない)等の特徴を有する。海洋深層水の採取場所は特に限定されないが、取水が地形上有利な、北海道、岩手県、宮城県、山形県、新潟県、富山県、石川県、福井県、千葉県、神奈川県、静岡県、三重県、和歌山県、兵庫県、高知県、鹿児島県、沖縄県等で得たものを利用することができる。本明細書中では、特に言及のない限り、南西諸島海域、特に鹿児島県与論島沖で取水した海洋深層水を用いる。海洋深層水の取水は、当業者によく知られた方法を用いて行うことが出来る。
【0011】
上述の通り、海洋深層水は清浄性が高く、海洋深層水由来の酵母は、存在が知られていないか、知られていても実用的な利用がなされていなかった。その生育環境である海洋深層水の特徴により、海洋深層水由来酵母は陸上由来酵母や海洋表層水由来酵母と異なる様々な特性を有する。
【0012】
工程(a)
本発明における工程(a)である、海水をフィルターで濾過する工程において、フィルターは、所望の酵母を得ることを考慮した孔径を有するものであることができ、例えば孔径0.2μm〜0.6μm、好ましくは孔径0.4μm〜0.5μmのメンブランフィルターを用いることができる。フィルターの直径は、濾過装置に合わせて適宜設定することができる。濾過水量は、得ようとする酵母の量に応じて適宜設定することができ、海洋深層水を海水として用いる場合、上述の通り海洋深層水は非常に清浄なので、海洋表層水の場合と比較して、多量の容積を濾過して海洋由来酵母を得る。濾過水量が多ければ多いほど、海水中の微生物がフィルターに捕捉される確率が高くなるが、必要以上に長時間にわたる濾過は雑菌・汚物混入(コンタミ)の原因となるとも考えられる。フィルターへの捕捉に伴って濾過速度が減少するため、この濾過速度の減少を濾過工程の終点の判断基準とすることができる。例えば、後述の実施例に記載のように、孔径0.45μm、直径90mmのメンブランフィルターを用いた場合、海洋深層水は20〜40L/フィルターの海水を30分程度で濾過して工程(a)の濾過を行うことができ、海洋表層水は0.03〜3L/フィルターの海水を数分濾過して工程(a)の濾過を行うことができる。
【0013】
工程(b)
本発明における工程(b)は、上記工程(a)で得られたフィルター不透過物を嫌気条件下、糖類高含有分離培地で培養し、海水由来酵母を分離する工程である。
【0014】
分離培地の組成は、例えば非特許文献1を参照することによって設定することができる。例えば当業者に公知の炭素源、窒素源を所望の濃度で添加し、さらに必要に応じて、抗生物質、無機イオン、ビタミン類等微量栄養源、黴やバクテリアの繁殖抑制を目的としたエタノール等を添加する。市販の培地を用い、これにさらに添加物を加えて用いることもできる。また、糖類高含有分離培地で培養することで、糖類(例えばグルコース、スクロース)を強く発酵する株を嫌気条件下で海水から選択的に分離することが可能となる。糖類は、酵母培養培地に炭素源として添加できるものであれば特に限定されず、例えば酵母が嫌気条件下で発酵に用いることができる糖類である、グルコース、フラクトース、キシロース、サッカロース、マルトース、可溶性デンプン、糖蜜、グリセロール、マンニトール、スクロース、ソルビトール、ガラクトース、糖化澱粉等を単独であるいは組合せて、さらにはこれらのものを含有するサトウキビ搾汁等を用いることができ、簡便にはグルコース及び/又はスクロースを用いることができる。糖類を強く発酵する株を分離するという観点から、該培地中の糖類(例えばグルコースやスクロース)の量は、培地に対し、好ましくは5〜25w/w%、より好ましくは10〜20w/w%である。また、該分離培地の溶媒として精製水を用いることもできるが、海水(好ましくは海洋深層水濾過後のフィルターに対しては海洋深層水、海洋表層水濾過後のフィルターに対しては海洋表層水)を所望により濾過して用いることで、分離しようとする酵母の生育環境により近い環境で分離を行うことができる。培地を調製した後、適当な酸又は塩基を用いてpHを6〜7の範囲に調製し、オートクレーブ等を用いて滅菌することができる。
【0015】
その後、工程(a)で得られたフィルター不透過物を嫌気条件下、上記の培地で培養する。寒天培地を使用すればフィルターごと培養が可能となり好都合である。糖類高含有培地で嫌気培養することで、発酵力が強く、嫌気的な条件でも旺盛な生育を示す酵母の分離が可能になる。嫌気条件下での分離培養は、後述の実施例の記載を参照して当業者に公知の手法で行うことができる。例えば、培養温度10℃〜35℃(好ましくは15℃〜30℃)にて、通常3〜15日間(例えば、10日前後)、嫌気ジャー中で培養を行う。培養後、酵母の増殖が確認できた時点を最初の嫌気培養の終点とする。培養開始後3日目程度において酵母が生えているか否か確認し、生えていなければ、引き続き嫌気条件下の培養を行う。
【0016】
通常、この1回の嫌気培養のみでは酵母の純度が低く様々な微生物が混在しているため、その後、液体培地における培養と寒天培地における培養とを用いて酵母の純粋分離を行う。すなわち、嫌気培養後、フィルター上に生育したコロニーを釣菌し、糖類含有液体培地で集積培養を行う。その後、糖類含有寒天培地に塗抹して平板培養を行う。集積培養及び平板培養は嫌気下で行う必要はない。この集積培養と平板培養とを、等しい培養温度で、3〜5日間ずつ、数回(例えばそれぞれ2〜3回ずつ)繰り返す。最終的に顕微鏡で酵母の形状観察を行い、純粋であることが確認された時点を酵母の分離工程の終点とすることができる。
【0017】
海水由来酵母
上記の工程を経て分離された海水由来酵母は、生活環の大半において単細胞性を示す真菌類であって、その培養物が所望の皮膚状態改善作用を有するものであれば、特に限定されず、例えば、Zygosaccharomyces属(Zygosaccharomyces microellipsoides等)、Pichia属(PichiacarribbicaPichia guilliermondii又はPichia anomala等)、Candida属(CandidafermentatiCandida GuilliermondiiCandida parapsilosisCandidasp. NM-2004等)、Saccharomyces属(Saccharomyces cerevisiae等)、Shizosaccharomyces属(Shizosaccharomycespombe等)、Yarrowia属、Hansenula属、Kluyveromyces属、Debaryomeces属、Endomycetales属、Tremellales属、Aessosporon属(Bullera属、Sporobolomyces属)、Sporidiobolus(Sporobolomyces)属、Rhodosporidium(Rhodotorula)属、Leucosporidium(Vanrija)属、Filobasidiella属、Filobasidiella属、Torulaspora属(Torulaspora delbrueckii等)、Saccharomycetales 属(Saccharomycetalessp. LM475)等に属する微生物が挙げられる。例えば、後述の実施例において分離されている酵母SW16〜SW54株及びDSW55〜DSW105株であって、その培養物が所望の皮膚状態改善作用を有するものが挙げられる。例えば、前記海水由来酵母は、SW 26株(NITE P-371)、DSW 69株(NITE P-372)、SW42株(NITE AP-585)、DSW89株(NITE AP-586)、DSW92株(NITE AP-587)、若しくはDSW110株(NITE AP-588)、さらにこれらの変異体であって該株と実質的に同一の菌学的性質を有する菌株、塩基配列(例えば後述の実施例に記載のような18S リボソーム及びその近傍に関する塩基配列等)が該株と99.3%以上相同である菌株であることができる。そのような菌株であるか否かは、菌学的性質を観察することにより、及び/又はDNA解析により、当業者であれば容易に判断することが出来る。
【0018】
得られた海水由来酵母は、当業者に公知の手法を用いて分類・同定することができ、例えば菌学的性質(形状、大きさ、各糖の発酵性の有無、コロニーの形状・色相、胞子の形成等)を観察することによって、及び/又はFASTAやBLAST等のデータベースを用いた塩基配列解析によって、分類・同定を行うことができる。前記海水由来酵母には新規な微生物(株)も含まれる。特に海洋深層水由来の酵母はこれまで知られていなかったか、知られていても有効利用されていなかった。本発明者らは後述の実施例に記載のように、皮膚状態の改善に有用な多くの海洋由来酵母を分離し、そのうちのSW26株(NITE P-371)及びDSW 69株(NITE P-372)を特許微生物寄託センターに寄託している。
【0019】
得られた海洋由来酵母の変異体及び/又は組換え体もまた、本発明の範囲内に含まれる。このような変異体及び/又は組換え体は、その培養物が本発明の皮膚外用用組成物に含有させたときに望ましい皮膚状態改善作用を有するよう意図して設計されたものが含まれる。
【0020】
好ましくは、前記海水由来酵母は、高耐塩性である。本明細書中において、酵母が高耐塩性である、とは、陸上由来の酵母と比較して高い塩濃度の培地(例えば、4%以上、好ましくは8%以上)で培養しても生育可能であることをいい、酵母が高耐塩性であるか否かは、例えば後述の実施例に示すように、酵母を各種塩濃度の培地で培養することで判断することができる。高耐塩性であることにより、塩濃度の高い、様々な成分を含有する培地で培養することが可能となり、培養物を皮膚外用用組成物に配合する場合に好都合である。
【0021】
好ましくは、前記海水由来酵母は、その培養物が改善された臭いを有する。本明細書中において、培養物が改善された臭いを有する、とは、陸上由来の標準的な公知酵母と比較して、同条件で培養して得られた酵母の培養物が好ましい香りを有することをいい、例えば後述の実施例に示す手法によって、所定時間培養後の培地の臭気を評価した場合に、培養物(培養液)が、パンの臭い、濃厚な甘さ、腐敗臭ではなく、すっきりしたワイン様の匂いを有することを指す。酵母の培養物は独特の臭気があることが知られ、皮膚外用用組成物に少量配合した場合であっても酵母独特の臭気が顕著に現われ、利用者の使用意欲を低減させる要因となる。改善された臭いを有する培養物は、このような問題を解決し、使用上好ましくない臭いの付与を防止しつつ、培養物を皮膚外用用組成物中に有効量配合させることが可能となる。
【0022】
工程(c)
本発明における工程(c)は、上記の工程(b)で分離した海洋由来酵母を培養培地で培養する工程である。
【0023】
培養培地は、例えば寒天培地及び/又は液体培地を用いることができる。培地には、適宜当業者に公知の炭素源、窒素源を所望の濃度で添加し、さらに、必要に応じて、酵母エキス、無機イオン、ビタミン類等微量栄養源を添加する。市販の培地を用い、これにさらに添加物を加えて用いることもできる。培養の際、酵母の増殖を高めるよう操作を加えることができ、例えば、培地に後述する湯の花処理物及び/又は海水濃縮物を添加することで、後述の実施例に記載のように、海洋由来酵母の増殖が高まることを本発明者らは見出した。培養培地を調製した後、適当な酸又は塩基を用いてpHを6〜7の範囲に調製し、オートクレーブ等を用いて滅菌することができる。
【0024】
培養培地での培養(本培養)に先立って、上記海洋由来酵母を前培養液で前培養し、前培養液を培養培地に接種して培養を開始することもできる。例えば、冷蔵保存した酵母(休眠状態)を用いる場合には、前培養を行うことで酵母が活性化され、本培養における培養効率が向上する。前培養は、例えば後述の実施例に記載のような、当業者に公知の一般的な組成の培地を用いて行うことができる。酵母を培養培地に接種し、培養温度20℃〜35℃にて、通常1〜5日間、振盪培養、静地培養、タンク中での工業的培養、寒天培地等の固形培地での培養等により、培地中で酵母を増殖させることができる。
【0025】
酵母が増殖する際に糖を消費するため、培養に伴ってBrixが減少する。また、酵母が産生する代謝産物、特に酸物質(アミノ酸、有機酸等)等により、培養に伴ってpHが減少する。従って、培養前後の培地のBrix、pHの変化を測定することで、酵母の培養の進行度合を推定することができ、培養の終点の判断指標とすることができる。培養前後におけるBrix、pHの値の変化は、培養する酵母によって異なり、例えば、培地のBrixが1以上、2以上、3以上、4以上減少した時点や、培地のpHが1以上、2以上、2.5以上、3以上減少した時点を、培養の終点とすることができる。代表値として、例えば、酵母としてSW26株を用いた場合、培養前の培地のBrix 6.3が2.4に下がった時点で培養を終了することができ、酵母と
してDSW69株を用いた場合、培養前の培地のBrix 6.2が4.0に減少した時点で培養を終了することができる。
【0026】
酵母培養物
酵母を培養後、酵母を含む培養液から酵母培養物を得る。酵母培養物とは、酵母を含む培養液から遠心分離等で酵母を除いたもの;遠心分離等で分離した酵母のみ;又は酵母を含む培養液を、そのまま、あるいは、(i) 水性溶媒等を用いて抽出する;(ii) 酵素処理する;(iii) 酸加水分解する;(iv) 自己消化させる;(v) 物理的に破砕する、等の方法を単独又は組合せて用いて処理して得たものを指す。これらの処理は、当業者に公知の手法を用いて行うことができる。例えば、酵母を含む培養液から酵母を除き、そのまま酵母培養物として用いることもできるし、溶媒抽出、酵素処理、酸加水分解、物理的破砕等を行い、酵母培養物を得ることができる。その後、凍結乾燥処理を施してもよい。
【0027】
得られた酵母培養物には、処理方法によって量は異なるが、核酸やその他関連物質をはじめ、蛋白質、各種アミノ酸、ビタミン類ミネラルなどの栄養素が多く含まれる。
【0028】
本明細書中において、海水由来酵母培養物を1又は複数含有する、というとき、上記の工程(a)〜(c)を含む方法で得られた、1フィルター由来の酵母培養物を1培養物として考える。複数の酵母培養物を含有させることにより、それぞれの酵母培養物が有する異なる皮膚状態改善作用を組合せて皮膚外用用組成物に付与することができる。
【0029】
海水由来酵母培養物に関し、特に、上記工程(a)における海水が海洋深層水であるものを海洋深層水由来酵母培養物といい、特に、上記工程(a)における海水が海洋表層水であるものを海洋表層水由来酵母培養物ということがある。本発明の1態様によれば、海洋深層水由来酵母培養物及び海洋表層水由来酵母培養物を含む皮膚外用用組成物が提供される。
【0030】
皮膚状態改善作用
本発明はまた、上記工程(a)〜(c)及び次の工程:
(d) 培養後の培地の、皮膚状態改善作用(好ましくは、抗酸化作用、細胞賦活化作用、コラーゲンゲル収縮作用、保湿作用、血小板凝集抑制作用、ヒアルロン酸産生促進作用、コラゲナーゼ活性阻害作用及び肌弾力性改善作用から選択される、1以上の作用)を評価する工程;
を含む、海水由来酵母培養物の製造方法を提供する。該工程における皮膚状態改善作用の評価は、例えば以下に詳述するように、後述の実施例の記載を参照して当業者に公知の手法を用いて行うことができる。
【0031】
本発明の皮膚外用用組成物は、上記の海洋由来酵母培養物を含有することにより、皮膚状態改善作用を有する。本明細書中において、皮膚状態改善作用とは、悪化した皮膚状態を改善すること、皮膚状態の悪化を防ぐこと、皮膚状態をより良好な状態に改善することを含み、例えば、以下の群:抗酸化作用、細胞賦活化作用、コラーゲンゲル収縮作用、保湿作用、血小板凝集抑制作用、ヒアルロン酸産生促進作用、コラゲナーゼ活性阻害作用及び肌弾力性改善作用、から選択される、作用を含む。
【0032】
抗酸化作用は、例えば後述の実施例6に記載のように、試料の過酸化水素消去能を測定することで判定可能である。抗酸化作用により、皮膚における過酸化脂質産生抑制、活性酸素によるコラーゲンやエラスチン等の変性抑制作用、さらにそれらに付随するシミ予防や老化抑制効果が期待でき、皮膚状態が改善する。
【0033】
細胞賦活化作用は、例えば後述の実施例7や8に記載のように、線維芽細胞に試料を添加し、細胞賦活度をMTT法により算出することで判定可能である。線維芽細胞賦活効果により、真皮組織代謝の改善や老化抑制効果が期待でき、皮膚状態が改善する。特に、後述の実施例8に記載のように、細胞賦活化作用と下記のコラーゲンゲル収縮作用とを共に有することを確認することで、これらの作用の相乗効果によって、細胞の損傷抑制効果、いわゆる擬似的な光老化細胞に対する活性化効果、それに伴う老化抑制効果、真皮組織代謝の改善効果が期待でき、皮膚状態が改善する。
【0034】
コラーゲンゲル収縮作用は、例えば後述の実施例8に記載のように、作製したコラーゲンゲル(収縮前の状態)にUVAを照射して線維芽細胞にダメージを与え、そこに試料を添加して収縮度を観察することで判定可能である。通常であれば線維芽細胞とコラーゲンの相互作用によりゲルが収縮し、真皮構造に類似のコラーゲンゲル構造になる。コラーゲンゲル収縮効果により、肌のはり、弾力改善効果が期待でき、皮膚状態が改善する。
【0035】
保湿作用は、例えば後述の実施例9に記載のように、試料をヒトの前腕内側部位に塗布し、塗布前後における水分量を測定することで判定可能である。水分保持効果により肌の保湿、乾燥改善が期待でき、皮膚状態が改善する。
【0036】
血小板凝集抑制作用は、例えば後述の実施例10に記載のように、洗浄血小板浮遊液に試料を添加後、コラーゲン溶液添加により凝集を惹起させ、10分後の凝集度を測定することで判定可能である。血小板が凝集すると、炎症性メディエーターであるヒスタミンやセロトニンの放出、また炎症に深く関与するホスホリパーゼA2の活性化が起こり、炎症、アレルギー反応が生じるため、血小板凝集抑制効果により抗炎症、抗アレルギー効果が期待でき、皮膚状態が改善する。
【0037】
ヒアルロン酸産生促進作用は、例えば後述の実施例11に記載のように、線維芽細胞に試料を添加し、培養後、培地中のヒアルロン酸量をELISA法により測定することで判定可能である。ヒアルロン酸産生促進効果により、肌のうるおい、はり、弾力改善効果が期待でき、皮膚状態が改善する。
【0038】
コラゲナーゼ活性阻害作用は、例えば後述の実施例12に記載のように、基質(ペプチド)に試料を添加後、コラゲナーゼを添加して反応させた後、吸光度測定によりコラゲナーゼ活性率を調べることで判定可能である。コラゲナーゼ活性阻害効果により、肌の抗老化作用、シワの予防効果が期待でき、皮膚状態が改善する。
【0039】
肌弾力性改善作用は、例えば後述の実施例13に記載のように、試料を所望の濃度で配合した皮膚外用用組成物を一定期間肌に使用し、使用前後の肌の弾力性を測定することで判定可能である。肌の弾力性の改善により、皮膚状態が改善する。
【0040】
さらに本発明の皮膚外用用組成物は、湯の花処理物及び/又は海水濃縮物を含むことにより、サイトカイン(好ましくはVEGF、KGF)産生促進作用、線維芽細胞賦活作用を有し、該作用によって皮膚細胞が賦活化され、皮膚状態が改善する。
【0041】
本発明の組成物により活性化され得るサイトカインとしては、上皮細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、肝細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子、血管内皮細胞増殖因子(Vascular Endotherial Growth Factor、VEGF)、各種形質転換因子、角化細胞増殖因子)、インシュリン様成長因子、各種インターロイキン等が挙げられる。ある種のサイトカイン産生量増加により、皮膚の老化防止が期待でき、それに伴い、例えば、線維芽細胞から産生されるコラーゲンやヒアルロン酸の量が増加すれば、皮膚の柔軟性、保湿性が向上し、はりやしわの改善が期待でき、皮膚状態が改善する。
【0042】
VEGFは、ヒト下垂体前葉由来細胞株の培養上清から発見された血管内皮細胞に特異性の高い増殖因子であり、培養血管内皮細胞の増殖、遊走、プロテアーゼ活性の亢進、コラーゲンゲル内での血管様構造の形成など血管新生の為のすべてのステップを促進し、in vivoでも血管新生や血管透過性を促進する。VEGF産生促進により、例えば、創傷、火傷、褥
そう、潰瘍、外傷、老化、しわ、しみ、くすみ、乾燥、紫外線による損傷、粘膜炎等の改善が期待でき、皮膚状態が改善する。
【0043】
全体的な皮膚状態の改善は、例えば、水分量の測定、角層細胞状態の観察、肌のキメの観察等によっても判定することが可能である。
【0044】
湯の花処理物
本明細書中において、湯の花処理物とは、例えば特開2006-193447号公報に開示されたものを指し、ここで、湯の花は、地下から温泉水や温泉ガスが噴出したときに岩石や粘土表面に析出するもの、又は水中に沈殿する固体状のものであり、場合によっては水に不溶の成分を含有する場合もあり、好ましくは、温泉の噴気を例えば青粘土上で結晶化させて得られたものである。前記の湯の花を例えば、水、鉱泉水(日本温泉協会による鉱泉の規
定に該当するもの)、エタノール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の溶媒で抽出したものを、湯の花抽出物という。これらの溶媒は、単独で用いても二種以上を混合して用いても良い。このように得られた湯の花抽出物をそのまま湯の花処理物として使用してもよく、必要に応じて、濃縮、希釈、濾過、濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行って用いてもよい。湯の花及び鉱泉水は、源泉から採取しても、市販されているものを使用しても良い。湯の花抽出物をオゾン酸化処理して湯の花処理物として使用してもよい。温泉の噴気を青粘土にあてて結晶化させて得られた湯の花の、鉱泉水抽出物を、オゾン酸化処理して得られた湯の花処理物の、線維芽細胞賦活作用、培養真皮におけるVEGF産生促進作用を本発明者らは確認している。
【0045】
湯の花処理物の、酵母培養培地への配合量は、酵母の増殖を高める範囲で適宜設定することができ、例えば培地に対し、凍結乾燥物を0.001〜0.1w/w%、好ましくは0.005〜0.05w/w%配合することができる。湯の花処理物の、皮膚外用用組成物への配合量は、組成物の安全性、安定性等を考慮し、所望の効果を著しく損なわない範囲で適宜設定することができ、例えば凍結乾燥物を組成物全重量の0.005〜2w/w%、好ましくは0.01〜1w/w%配合する
ことが出来る。
【0046】
海水濃縮物
本明細書中において、海水濃縮物とは、例えば後述の実施例15に記載のように、硫酸イオンを90%以上、好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上除去し得るNF膜で海洋深層水を濾過し、得られたNF膜透過水を濃縮してNF膜透過水濃縮物を得る工程を含む方法によって得られる。ここで、NF膜(ナノフィルター膜)とは、イオン、低分子、一価イオンを通すが、多価イオン、農薬、有機物、高分子、ウイルス、コロイド、粘土、大腸菌及びバクテリアを少なくとも一部は除去することができる膜を指し、特に二価のイオンの分離能が高い膜が好ましい。例えば、孔径が0.3〜0.8nmである、架橋ポリアミド系複合膜で出来たNF膜を用いることが出来る。
【0047】
上記のNF膜透過水はBrixが例えば3.0〜3.4、Mgイオン濃度が例えば500〜700mg/L、Caイオン濃度が例えば300〜400mg/L、及びSO4イオン濃度が例えば100mg/L以下であり、並びに、上記のNF膜透過水濃縮物はBrixが例えば40.0〜50.0、Mgイオン濃度が例えば45,000〜75,000mg/L、Caイオン濃度が例えば23,000〜30,000mg/L、及びSO4イオン濃度が例えば100mg/L以下である。上記NF膜透過水の濃縮物への濃縮倍率は、例えば35〜45倍である。上記の工程を経て得られたNF膜透過水濃縮物は、単に海水(海洋深層水を含む)を濃縮したニガリとは、その成分が大きく異なる。後述の実施例15に記載の手法によって得られた海水濃縮物の、線維芽細胞賦活作用、培養真皮におけるVEGF及びKGF産生促進作用を本発明者らは確認している。
【0048】
海水濃縮物の、酵母培養培地への配合量は、酵母の増殖を高める範囲で適宜設定することができ、例えば培地に対し、41倍濃縮物を0.001〜1.0w/w%、好ましくは0.01〜0.5w/w%配合することができる。海水濃縮物の、皮膚外用用組成物の配合量は、組成物の安全性、安定性等を考慮し、所望の効果を著しく損なわない範囲で適宜設定することができ、例えば41倍濃縮物を組成物全重量の0.005〜2w/w%、好ましくは0.01〜1w/w%配合することが出来る。
【0049】
皮膚外用用組成物
本発明の皮膚外用用組成物は、上記の海水由来酵母培養物を含有し、化粧品、皮膚外用剤、医薬品の形態とすることができる。医薬品の形態とした際の、投与経路、投与回数は、当業者であれば適宜設計することができる。また、従来技術に基づき、投与経路等に応じた剤形に適宜製剤化することができる。
【0050】
本発明の皮膚外用用組成物には、所望の効果を損なわない範囲で、通常の外用剤に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、抗炎症剤、抗しわ剤、肌荒れ改善剤、ニキビ用薬剤、アルカリ類、キレート剤、金属封鎖剤、海泥等の成分を配合することもできる。
【0051】
本発明の皮膚外用用組成物はまた、その使用目的に応じて、固形剤、半固形剤、液剤等の各種剤形に調製することが可能である。
【0052】
本発明の皮膚外用用組成物はまた、スキンケア化粧品として洗顔石鹸、洗顔クリーム、洗顔フォーム、化粧水、パック、マッサージクリーム、乳液、モイスチャークリーム、リップクリーム(リップベース)等、メーキャップ化粧品としてファンデーション、白粉、口紅(リップ)、ほほ紅、アイシャドウ、化粧下地等、ボディケア化粧品として石鹸、液体洗浄料、日焼け止めクリーム、入浴剤等、ヘアケア化粧品としてシャンプー、リンス、ヘアトリートメント、整髪料、ヘアトニック、育毛剤、スキャルプトリートメント等とすることができる。また、医薬品である場合、硬膏剤、軟膏剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤等の外用剤とすることができる。上記のうち、特に、ローション(高圧処理ローションを含む)、リップベース、リップ、美容液及びクリームとすることができる。
【0053】
本発明の皮膚外用用組成物を化粧品として用いることにより、例えば、抗酸化作用、細胞賦活化作用、コラーゲンゲル収縮作用、保湿作用、血小板凝集抑制作用、ヒアルロン酸産生促進作用、コラゲナーゼ活性阻害作用及び肌弾力性改善作用により皮膚状態を改善することができる。
【0054】
化粧品、皮膚外用剤を含む本発明の皮膚外用用組成物の製造工程において、海洋酵母培養物の配合の方法は、その特性を著しく損なわない限り特に制限されない。例えば、水溶液状のまま他の原料と混合することにより配合しても良い。又は定法により凍結乾燥して得られた凍結乾燥物を、そのまま用いても良いし、他の粉末原料と混合することにより配合しても良い。海洋酵母培養物の臭いや色が著しく変質することを防ぐという観点から、配合の際には過剰に熱を加えないことが好ましい。また、同様の観点から、培養物は冷蔵保存することが好ましい。
【0055】
本発明の皮膚外用用組成物における、海水由来酵母培養物の配合量は、組成物の安全性、安定性等を考慮し、所望の効果を著しく損なわない範囲で、最終製品に含ませたい配合量を、その組成物を使用する対象者、目的とする効果、使用する回数等を考慮して決定し、適宜設定することができ、例えば未濃縮の培養液量に換算して、組成物全重量の0.001
〜20w/w%、好ましくは0.05〜20 w/w%、更に好ましくは0.1〜15w/w%、例えば0.5〜10w/w%とすることが出来る。特に本発明の皮膚外用用組成物がメーキャップ化粧品(リップ等)である場合には、上記の配合量を低くすることもできる。なお、本発明の海水由来酵母培養物は、上述の通り改善された臭いを有するため、皮膚外用用組成物中に有効量配合させても該組成物への使用上好ましくない臭いの付与を防止することができる。また、酵母培養液独特の臭気をマスキングするための組成物への香料の添加も不要となり、毎日の使用に適した、無香料、低刺激であって、かつ皮膚状態を改善するのに有用な組成物を提供することができる。
【0056】
なお、本発明の皮膚外用用組成物には、その具体的な用途(例えば皮膚状態改善のため
、保湿のため、ヒアルロン酸産生促進のため、肌の老化防止のため、シワ予防のため、肌弾力性改善のため、細胞賦活化のため、サイトカイン産生促進のため)及び/又はその具体的な用い方(例えば、使用量、使用回数、使用方法)を表示することができる。
【実施例】
【0057】
次に本発明を詳細に説明するため、実験例を挙げるが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。実施例14-1〜14-7に示す表中の配合量はw/w%を示す。実施例3、4、6〜13、14-2中の「海水濃縮物」は、実施例15で得たもの(液体)を使用し、「湯の花FD」は湯の花(製造元:(株)脇屋商会)を10%溶液にしたものの凍結乾燥品を使用した。
【0058】
実施例1 海水由来酵母の分離
実施例1-1. 海洋深層水由来酵母の分離
南西諸島の海域で取水した海洋深層水20〜40Lを孔径0.45μmのメンブランフィルター(フィルター直径90mm、ADVANTEC製)を用いて直ちに濾過した。濾過時間は約30分程度であった。濾過後のフィルターは嫌気パックを用いて、嫌気状態を保った。生物工学 第77巻 第4号 148-150, (1999)を参照し、同文献中の人工海水の代わりに海洋深層水(孔径0.22μmのメンブランフィルターで濾過処理済)を溶媒として、表1に示す組成の寒天培地を作製した。該寒天培地はスクロースを強く発酵する株を嫌気条件下で海水から選択的に分離するために適した培地である。フィルターを寒天培地に乗せ、恒温器で嫌気ジャーを用いて嫌気培養を行った。嫌気培養は、微生物の生育が確認できるまで行った。嫌気培養開始約3日後に微生物の生育を一旦確認した。微生物の生育が完全に確認出来なかった場合、さらに嫌気培養を27℃で10日間程度行った。その後、微生物の純度を高める(他の微生物を排除する)ため、表1中の液体培地を用いた集積培養と、表1中の寒天培地を用いた平板培養とを繰り返し、微生物の選択的分離(純粋分離)を行った。集積培養及び平板培養は、同じ培養温度(27℃)でそれぞれ3〜5日間ずつ行い、これを通常各培養2〜3回ずつ繰り返した。最終的に顕微鏡でコロニーの形状観察を行い、微生物が単一であると確認された時点を純粋分離の終点とし、海洋深層水由来酵母を得た。
上記の分離を136回(136枚のフィルターについて)行い、うち、51枚のフィルターについて酵母の分離・生育を確認し、51株の酵母(DSW55〜DSW105)を保存した。
【0059】
実施例1-2. 海洋表層水由来酵母の分離
与論島周辺(6箇所)より採水した表層水を用い、上記1-1の海洋深層水の場合の手法に準じて海洋表層水由来酵母を得た。分離には、表1の培地の海洋深層水を表層水に換えた組成の培地を用い、海洋表層水の濾過時間が数分であった。分離を144回(144枚のフィルターについて)行い、うち、39枚のフィルターについて酵母の分離・生育を確認し、39株の酵母(SW16〜SW54)を保存した。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例1-1及び実施例1-2において濾過したフィルターごとの水量を以下の表2に示す。深層水は清浄で菌体数も少ないため、表層水と比較して長時間多量の水を濾過して菌体を得た。深層水、表層水とも、濾過速度の減少を判断基準として濾過を終了した。
【0062】
【表2】

【0063】
実施例2 海洋由来酵母の耐塩性試験
実施例1において分離した酵母(冷蔵保存)のうち、SW 26株(海洋表層水由来酵母)及びDSW 69株(海洋深層水由来酵母)、並びに市販の陸上由来酵母(S.CerevisiaeC. Guilliermondii)を、それぞれMY培地(酵母エキス0.3%、麦芽エキス0.3%、ポリペプトン0.5%、グル
コース1.0%)を使用し、振盪機を用いて前培養を行った(27℃、2日間)。希釈を行った前培養液を塩濃度0, 2, 4, 6, 8又は10%のMY寒天培地に均一に混ぜた。恒温器で27℃、2日間培養を行い、菌の生育状態を観察した。結果を以下の表3に示す。陸上由来酵母 < 表層水由来酵母 < 深層水由来酵母、の順で、耐塩性が高いことが明らかになった。深層水由来酵母は塩濃度の高い組成物中への配合にも適すると考えられた。それぞれの酵母について、増殖に最適な培地組成が異なることも考えられた。
【0064】
【表3】

【0065】
実施例3 海洋由来酵母の培養試験(臭気評価)
実施例1において分離した酵母をMY培地(酵母エキス0.3%、麦芽エキス0.3%、ポリペプトン0.5%、グルコース1.0%)に1白金耳植菌し、振盪機を用いて前培養を行った(27℃、2日間)。表4に示す培地を作製後、前培養液(1v/v%)を加え、前培養と同様に振盪機を用いて培養を行った(27℃、2日間)。遠心機で菌体を除去後、培地について、パネラー3名による臭気評価を行った。香りの判定は、○(好ましい香り)、△(やや好ましくない香り)、×(好ましくない香り)、の3段階評価で行った。結果を表5に示す。表5、パネラーコメント欄中「匂い」は好ましい香り、「臭い」は好ましくない香りを意味する。また、培養前後の培地のpH及びBrixを、それぞれ測定した。Brixは、手持屈折計(ATAGO社製、Brix0〜10)を用い、20℃の条件下で測定した。
【0066】
【表4】

【0067】
【表5】

【0068】
培養前後におけるBrixの変化からは酵母が増殖する際に糖を消費していることが、pHの変化からは酵母が代謝産物、特に酸物質(アミノ酸、有機酸等)を産生していることが示唆される。表層水由来酵母、深層水由来酵母共に、培養前後でBrix及びpHが減少していることから、酵母が増殖することで糖を消費し、それによりアミノ酸、有機酸を産生していると考えられた。また培養後の培地の臭気に関して表層水由来酵母よりも深層水由来酵母の方が比較的好ましい香りを有する傾向があることが明らかになった。好ましい香りを有する酵母培養液を用いることで、酵母培養物の量が臭気的な問題のない皮膚外用用組成物を提供することができると考えられた。
【0069】
実施例4 様々な組成の培地における酵母の培養試験(菌数)
市販の海洋表層水由来酵母(S. cerevisiae)を用い、様々な組成の培地における増殖の差異を調べた。酵母をMY培地(酵母エキス0.3%、麦芽エキス0.3%、ポリペプトン0.5%、グルコース1.0%)に1白金耳植菌し、振盪機を用いて前培養を行った(27℃、2日間)。表6に示す各培地を作製後、前培養液(1v/v%)を加え、前培養と同様に振盪機を用いて培養を行った(27℃、2日間)。培養後、トーマ氏血球計算盤を用いて酵母の菌数のカウントを行った。結果を表6に示す。いずれの培地でも、海水濃縮物及び/又は湯の花FDを添加することで、酵母の増殖率が高まることが明らかになった。特に海水濃縮物及び湯の花FDの両方を添加することで、酵母の増殖率が高まった。培養後の培地の香りに関する差異はみられなかった。
【0070】
【表6】

【0071】
実施例5 海洋由来酵母のDNA解析
実施例1で得た海洋由来酵母のうち、SW26株(海洋表層水由来酵母)及びDSW69株(海洋深層水由来酵母)の菌体から分離、精製したDNAを、ユニバーサルプライマー(18S リボソーム及びその近傍配列を特異的に増幅するプライマー(フォワード側))を用いてPCRで増幅した。このPCR産物をシークエンサーで解析し、得られたSW26株及びDSW69株の塩基配列をFASTAを用いて同定を試みたところ、それぞれの株は、
SW26: Zygosaccharomyces microellipsoides(相同性:98.845%)、
DSW69: Candida fermentati (相同性:99.294%)又は
Pichia carribbica (相同性:99.294%)
であると考えられた。DSW69株については胞子形成培地を用いて培養後、子のう胞子が観察されたことから、Pichia carribbicaと同定した。類似の手法を用いて、分離酵母にはPichiaguilliermondii及びPichia anomala に属する株も含まれることを確認した。なお、DSW 101〜DSW 117株に関しても現在同定を試みている。SW26株(NITE P-371)及びDSW69株(NITE P-372)を、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託した。それぞれの株について確認した菌学的性質を以下の表7に示す。
【0072】
【表7】

【0073】
実施例6〜13
実施例6〜13中で用いた試料を以下に示す:
培地:表4の培地
培養液26:実施例1で得た酵母SW26株を、実施例3と同様の手法を用いて表4の培地で培養し、遠心分離して菌体を除去して得た培養液
培養液69:実施例1で得た酵母DSW69株を、実施例3と同様の手法を用いて表4の培地で培養し、遠心分離して菌体を除去して得た培養液
培養液26・69混合物:上記培養液26及び培養液69を、1:1で混合したもの
比較液 A:市販の海洋表層水由来酵母(S. cerevisiae)を、実施例3と同様の手法を用いて表4の培地で培養し、遠心分離して菌体を除去して得た培養液
比較液 B: 市販の酵母(S. cerevisiae)抽出液
比較液 C: 海洋由来好熱性菌株Thermus thermophilus GY1211培養物(グリセリン5%)
比較液 D: 市販のショウガ科植物抽出液
実施例6 過酸化水素消去試験(in vitro)
方法:表8に示す各試料を精製水で15v/v%濃度に調整し、96穴プレートに25μL添加し、さらに0.15mM H2O210μL、0.1M PIPES緩衝液(pH 7.0) 25μLを添加し、37℃で20分間反応させた。反応後、速やかに172μM DA-67 180μLを添加した後、エタノール10μLを加え、37℃で5分間発色反応を行い、マイクロプレートリーダーにて630nmの吸光度を測定した。精製水を対照とし次式を用いて消去率を算出した。
過酸化水素消去率(%) = {1−(A−B) / (C−D)}×100
A:試料添加時の吸光度、 B:試料添加、H2O2無添加時の吸光度
C:精製水添加時の吸光度、 D:精製水添加、H2O2無添加時の吸光度
結果:結果を以下の表8に示す。表8中、IC50は、本試験において過酸化水素を50%消去したときの各試料の終濃度(%)を示す。培養液の培地のみよりも培養液26、69において効果が高かった。過酸化水素消去効果により、抗酸化効果が期待できる。
【0074】
【表8】

【0075】
実施例7 線維芽細胞賦活試験(細胞試験)
方法:正常ヒト新生児由来の線維芽細胞(クラボウNHDF)を1×104cell/cm2の密度で48穴プレートに播種し、培地は10%牛胎児血清含有D-MEM(GIBCO社)を使用して、CO2インキュベーター(5%CO2、37℃)内で24時間培養した。24時間後、表9に示す各試料を作用濃度1v/v%になるよう1%牛胎児血清含有D-MEMで調製した培地に置換し、2日間培養した。2日後、MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)を1.0mg/mL添加したD-MEM培地に交換し、4時間培養した。生成したホルマザンを酸性イソプロパノール(0.04N塩酸になるようにイソプロパノールで調製した溶液)により抽出し、波長570nm、630nmの吸光度をプレートリーダー(BIO-TEC INSTRUMENTS,INC、EL808)で測定した。両測
定値の差(570の吸光度−630nmの吸光度)により細胞賦活効果を評価した。コントロールとして、精製水添加の場合の値を100%とした。
結果:結果を以下の表9に示す。1%の濃度において、線維芽細胞賦活率は、比較液Bでは98%、培地のみで105%であったのに対し、培養液26で108%、培養液69で124%を示した。線維芽細胞賦活効果により、真皮組織代謝の改善や老化抑制効果が期待できる。
【0076】
【表9】

【0077】
実施例8 コラーゲンゲル収縮試験(細胞試験)
方法:10%牛胎児血清含有D-MEM(GIBCO社)、コラーゲン(セルマトリックスタイプI-A、3.0 mg/mL、pH 3.0)、線維芽細胞懸濁液(15×104cells/mL)を氷冷下で等量混合し、35mmシャーレに2mLずつ入れ、37℃で3時間インキュベートした。3時間後、シャーレに10%牛胎児血清含有D-MEMを0.5mL加えた後、ゲルをヘラで剥がし浮遊させた。小型紫外線照射装置(TP-26アトー社製)を用い、作製したコラーゲンゲル(収縮前の状態)にUVAを2.2J/cm2で照射して線維芽細胞にダメージを与えた。その後、表10に示す各試料を3%になるよう添加し、37℃で7日間インキュベートした。7日後にコラーゲンゲルの直径を測定した。コントロールは精製水を添加したものとした。また、MTT法によりコラーゲンゲル内の線維芽細胞賦活効果を調べた。コントロールである精製水添加の場合の値を100%とした。
【0078】
結果:結果を以下の表10に示す。通常であれば線維芽細胞とコラーゲンの相互作用によりゲルが収縮し、真皮構造に類似のコラーゲンゲル構造になる。UVA照射により細胞(コラーゲンゲル)にダメージを与えると、培養液の培地のみではほとんど収縮しないが、培養液26、69では収縮し、ポジコン同等レベルの活性がみられた。またコラーゲンゲル内線維芽細胞賦活試験により、細胞の生存及び線維芽細胞賦活効果が確認された。コラーゲンゲル収縮効果により、肌のはり、弾力改善効果が期待できる。コラーゲンゲル収縮効果と共に細胞賦活効果を有することで、コラーゲンゲルの収縮作用と細胞賦活作用の相乗効果によって、細胞の損傷抑制効果、いわゆる擬似的な光老化細胞に対する活性化効果、それに伴う老化抑制効果、真皮組織代謝の改善効果が期待できる。
【0079】
【表10】

【0080】
実施例9 水分保持(保湿)試験(in vivo)
方法:前腕内側を石けんで洗浄し、室温20℃設定の部屋で20分間安静にした後、試料塗布前の、前腕内側の水分量をSKICON-200EX(IBS社製)により測定した。表11に示す各試料を0.02mL塗布し、塗布60分後の水分量を測定した。塗布前の水分量を100%として塗布後の水分量を算出した。
【0081】
結果:結果を以下の表11に示す。培養液は、塗布60分後でも150%程度(塗布前100%)の水分量を保持していた。水分保持効果により肌の保湿、乾燥改善が期待できる。
【0082】
【表11】

【0083】
実施例10 血小板凝集抑制試験(in vitro)
方法:採血したウサギの血液に77mmol/L EDTA(pH 7.4)を1/10量加えて遠心(180 x g、10分)し、血小板浮遊液を得た後、さらに遠心(810 x g、10分)し、上清を除去して血小板を得た。これを血小板洗浄液(0.15mol/L NaCl:0.15mol/L Tris-HCl緩衝液(pH 7.4):77mmol/L EDTA溶液(pH 7.4)を90:8:2で混合)に浮遊させ、同様に遠心し、得られた血小板を血小板浮遊液(145mmol/L NaCl、5mmol/L KCl及び5.5mmol/L グルコースを含む、10mmol/L HEPES緩衝液(pH 7.4))に浮遊させて血小板を調整(3.0×105cells/μL)し、洗浄血小板浮遊液とした。
洗浄血小板浮遊液222μLに、200mmol/L塩化カルシウム溶液1μLを加え、37℃で1分間反応させた。その後、表12に示す各試料の固形分(凍結乾燥物)濃度0.01%水溶液2μLを加え、さらに2分間反応させ、1分間攪拌した後、コラーゲン溶液(アークレーファクトリー社)を25μL添加して37℃で10分間後の凝集を測定した。血小板凝集抑制率の計算方法は以下のとおりである:
血小板凝集抑制率(%)=(A−B)/ A × 100
A:コントロールの凝集率 B:試料添加時の凝集率
結果:結果を以下の表12に示す。培地のみと比べ、培養液の活性が強かった。血小板が凝集すると、炎症性メディエーターであるヒスタミンやセロトニンの放出、また炎症に深く関与するホスホリパーゼA2の活性化が起こり、炎症、アレルギー反応が生じる。血小板凝集抑制効果により抗炎症、抗アレルギー効果が期待できる。
【0084】
【表12】

【0085】
実施例11 ヒアルロン酸産生促進試験(in vitro)
方法:正常ヒト新生児由来の線維芽細胞(クラボウNHDF)を3×104cell/cm2の密度で48穴プレートに播種し、培地は10%牛胎児血清含有D-MEM(GIBCO社)を使用して、CO2インキュベーター(5%CO2、37℃)内で2日間培養した。表13に示す各試料を作用濃度1%になるよう1%牛胎児血清含有D-MEMで調製した培地に置換し、3日間培養した。各培養液を抜き取り、ELISA法(生化学工業)によりヒアルロン酸産生量を測定した。コントロールとして精製水を作用させた場合のヒアルロン酸産生量を100%とした。
【0086】
結果:結果を以下の表13に示す。培養液26で118%、培養液69で106%を示し、培地(94%)、比較液B(97%)に比べ高いヒアルロン酸産生促進効果が見られた。ヒアルロン酸産生促進効果により、肌のうるおい、はり、弾力改善効果が期待できる。
【0087】
【表13】

【0088】
実施例12 コラゲナーゼ活性阻害試験(in vitro)
方法:pz-peptide(Bachem Ag社)を基質として用い、これを0.1M Tris-HCl緩衝液(pH7.1、20mM CaCl2含有)で0.5Mに調製した。コラゲナーゼ(Clostridium由来、SIGMA-ALDRICH社)は精製水を用いて50CDU/mLに調製した。24穴プレートに、表14に示す各試料60μL、0.5M
pz-peptide 480μl及び50CDU/mLコラゲナーゼ 60μLを添加し、37℃で30分間反応させた。反応後、速やかに2.5mM クエン酸 1.2mLを添加し、1.5Lを遠沈チューブに分注し、その後、酢酸エチル5.0mLを加え、遠心分離した。その後、酢酸エチル層の320nmにおける吸光度を測定した。精製水を対照とし次式を用いてコラゲナーゼ活性阻害率を算出した。
コラゲナーゼ活性阻害効果(%) = {1−(A−B) / (C−D)}×100
A:試料添加時の吸光度、 B:試料添加、酵素無添加時の吸光度
C:精製水添加時の吸光度、 D:精製水添加、酵素無添加時の吸光度
結果:結果を以下の表14に示す。培地のみの場合コラゲナーゼ活性阻害効果はほとんどみられないが、培養液26、培養液69では阻害効果が見られ、特に培養液26ではポジコンと同等の活性阻害効果がみられた。コラゲナーゼ活性阻害効果により、肌の抗老化効果、シワの予防効果が期待できる。
【0089】
【表14】

【0090】
実施例13 弾力性改善試験(in vivo)
方法:培養液を1.5w/w%配合した実施例14-3のローション、培養液を1w/w%配合した実施例14-6、14-7の美容液及びクリームを、35〜64歳の女性12名に5ヶ月間使用してもらった。美容液は1円玉大、ローションは500円玉大、クリームはパール大2〜4を、期間中1日2回、朝晩使用してもらった。使用前後の弾力性を以下の手順で測定した。使用前の弾力性を100%としたときの、使用後の弾力性を算出し、さらに使用後の弾力性について12人の平均を求めた。
弾力性測定方法:洗顔をし、室温20℃設定の部屋で10分程度安静にした後、キュートメーター MPA580(CK社製)により瞼部下の弾力性を測定した。
結果:結果を以下の表15に示す。培養液添加組成物の使用により、肌の弾力性の改善が見られた。
【0091】
【表15】

【0092】
実施例14-1:ローションの製造
製造方法:A相を75℃に加熱し、攪拌溶解した。35℃まで冷却し、ローションを得た。
【0093】
【表16】

【0094】
実施例14-2:高圧処理ローションの製造(前処理)
製造方法:油相Aと水相Bをそれぞれ80℃に加熱し、溶解した。AをBに加え、乳化機で乳化し、35℃まで冷却した。乳化物を高圧処理(25℃、200Mpa、1Pass)にかけ、高圧処理ローション(前処理)を得た。
【0095】
【表17】

【0096】
実施例14-3:高圧処理ローションの製造
製造方法:水相Bを70℃まで加熱し、攪拌溶解した。35℃まで冷却し、実施例14-2で得た高圧処理ローション(前処理)を加えて攪拌し、高圧処理ローションを得た。
【0097】
【表18】

【0098】
実施例14-4:リップベースの製造
製造方法:油相Aと水相Bをそれぞれ80℃に過熱し、溶解した。BをAに加え、攪拌溶解した。金型へ流し込み12℃まで冷却し、リップベースを得た。
【0099】
【表19】

【0100】
実施例14-5:リップの製造
製造方法:油相Aと水相Bをそれぞれ80℃に過熱し、溶解した。CをAに加え、攪拌溶解した。更にBを加えて、攪拌溶解した。金型へ流し込み12℃まで冷却し、リップベースを得た。
【0101】
【表20】

【0102】
実施例14-6:美容液の製造
製造方法:油相Aと水相Bをそれぞれ80℃に加熱し、溶解した。AをBに加え、乳化機で可溶化した。35℃まで冷却し、美容液を得た。
【0103】
【表21】

【0104】
実施例14-7:クリームの製造
製造方法:油相Aと水相Bをそれぞれ80℃に加熱し、溶解した。AをBに加え、乳化機で乳化した。35℃まで冷却し、クリームを得た。
【0105】
【表22】

【0106】
実施例15 海水濃縮物の製造
鹿児島県与論島太平洋側沖5〜6kmの海上から船上に設置したポンプにて、約500m深の部分の海水を採取し、ナノフィルター膜(東レ社製、ROMEMBRA SU-610、膜材質:架橋全芳香族ポリアミド系複合膜、エレメント形式:スパイラル型、海水試験前NaCl標準性能(500ppm、3.5kg/cm2):脱塩率52.7%及び造水量4.9t/日)(給水圧力0.35MPa、給水温度25℃、給水濃度500mg/L(NaCl)、濃縮水量20L/分でのNa2SO4除去率99.6%、MgSO4除去率99.2%)を備えた装置(水道機工株式会社製、処理能力(25℃、24時間運転/日、12kg/cm2):原水18m3/日から透過水3m3/日及び濃縮水15m3/日を生産)を用いて24時間処理し(25℃、12kg/cm2)、18m3の海洋深層水原水からNF膜透過水3m3及びNF膜濃縮水15m3を得た。装置運転条件は、濃縮水量:10.5L/分、濃縮水量/透過水量比 = 5、透過水量:10.5/5 = 2.1L/分であった。得られたNF膜透過水を、ロータリーエバポレーター(東京理化器械株式会社製)を用いた減圧濃縮(50〜60℃、10〜50mmHg)により濃縮し、濾過にて固液分離して液体(水溶液)を得た。さらに得られた液体を同様に減圧濃縮し、濾過にて固液分離して液体(水溶液)を得た。濃縮前の全体量と比較して容積が41分の1になった、41倍濃縮物を得た。濃縮物中のNa、K、Mg及びCaイオンの含有量並びに屈折率は、以下の通りであった:Na=19,733mg/L、K=28,333mg/L、Mg=63,867mg/L、Ca=25,333mg/L、Brix(屈折率)=44.6。屈折率の測定は、手持屈折計(ATAGO社製、Brix28〜62)を用いて25℃の条件で行った。各イオンの濃度は、イオン分析計(イオンクロマトグラフ法)を用いて測定した。このようにして得られた海水濃縮物は、線維芽細胞賦活作用、培養真皮線維芽細胞賦活作用、培養真皮におけるVEGF及びKGF産生促進作用を有していた。
【0107】
実施例16 他の海水由来酵母に関する検討
実施例1で得た海洋由来酵母のうち、SW42(海洋表層水由来酵母)、及びDSW89、DSW92、DSW107、DSW110、DSW113、DSW116(海洋深層水由来酵母)の菌体各々から分離、精製したDNAを、実施例5と同様に、18S リボソームDNAについて解析した。その結果、
SW42: Torulaspora delbrueckii
DSW89: Candida parapsilosis
DSW92: Candida sp. NM-2004
DSW107: Candida parapsilosis
DSW110: Saccharomycetales sp. LM475
DSW113: Saccharomycetales sp. LM475
DSW116: Saccharomycetales sp. LM475
であることを確認した。SW42株(NITE AP-585)、及びDSW89株(NITE AP-586)、DSW92株(NITE AP-587)、DSW110株(NITE AP-588)を、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託した。それぞれの株について確認した菌学的性質を以下の表23に示す。
【0108】
【表23】

【0109】
本実施例で新たに同定した酵母について、実施例3と同様の方法で培養後の培地の臭気評価を行い、また、培養前後の培地のpH及びBrixを、それぞれ測定した。結果を下表に示す。
【表24】

【0110】
また、実施例5で同定した酵母、及び本実施例で新たに同定した酵母について、実施例6〜12にと同様の方法で評価した。結果を下表に示す。
【表25】

【0111】
【表26】

【0112】
【表27】

【0113】
【表28】

【0114】
【表29】

【0115】
以上の結果より、幅広い種にわたるの酵母を用いて、皮膚状態改善作用を有する、皮膚外用用組成物が調製できることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)〜(c):
(a) 海水をフィルターで濾過する工程;
(b) フィルター不透過物を嫌気条件下、糖類高含有分離培地で培養し、海水由来酵母を分離する工程;及び
(c) 分離した海水由来酵母を培養培地で培養する工程;
を含む方法によって得られる海水由来酵母培養物を、1又は複数含有する、
皮膚状態改善作用を有する、皮膚外用用組成物。
【請求項2】
前記工程(a)における海水が、海洋深層水である、請求項1の皮膚外用用組成物。
【請求項3】
前記皮膚状態改善作用が、以下の群:抗酸化作用、細胞賦活化作用、コラーゲンゲル収縮作用、保湿作用、血小板凝集抑制作用、ヒアルロン酸産生促進作用、コラゲナーゼ活性阻害作用及び肌弾力性改善作用、から選択される、1以上の作用である、請求項1又は2に記載の皮膚外用用組成物。
【請求項4】
前記工程(c)における培養培地が海水濃縮物及び/又は湯の花処理物を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮膚外用用組成物。
【請求項5】
前記海水由来酵母が、Zygosaccharomyces属、Pichia属、Torulaspora属、Candida属、又はSaccharomycetales属である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の皮膚外用用組成物。
【請求項6】
前記海水由来酵母が、SW 26株(NITE P-371)、DSW 69株(NUTE P-372)、SW42株(NITE AP-585)、DSW89株(NITE AP-586)、DSW92株(NITE AP-587)、若しくはDSW110株(NITE AP-588)、又はそれと同じ菌学的性質を有する菌株である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の皮膚外用用組成物。
【請求項7】
前記海水由来酵母が高耐塩性である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の皮膚外用用組成物。
【請求項8】
前記海水由来酵母培養物が改善された臭いを有し、前記海水由来酵母培養物を0.05〜20w/w%含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の皮膚外用用組成物。
【請求項9】
さらに海水濃縮物及び/又は湯の花処理物を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の皮膚外用用組成物。
【請求項10】
以下の工程(a)〜(d):
(a) 海水をフィルターで濾過する工程;
(b) フィルター不透過物を嫌気条件下、糖類高含有分離培地で培養し、海水由来酵母を分離する工程;
(c) 分離した海水由来酵母を培養培地で培養する工程;及び
(d) 培養後の培地の、皮膚状態改善作用を評価する工程;
を含む、海水由来酵母培養物の製造方法。
【請求項11】
以下の工程(a)’及び(b)’:
(a)’ 海洋深層水をフィルターで濾過する工程;及び
(b)’ フィルター不透過物を嫌気条件下、糖類高含有培地で培養する工程;
を含む、海洋深層水由来酵母の分離方法。

【公開番号】特開2009−29788(P2009−29788A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160289(P2008−160289)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(593196643)ワミレスコスメティックス株式会社 (5)
【Fターム(参考)】