説明

液体収納容器および液体供給装置

【課題】気液分離膜を用いた耐久性の優れた液体収納容器および液体供給装置を提供すること。
【解決手段】液体収納容器の通気口に配備される気液分離膜2は、繊維状部によって構成されるフィブリル部2Aと、フィブリル部2Aの繊維状部の端部を結束しかつフィブリル部2Aを囲むように閉じた環状のノード部2Bと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクなどの液体を収納するための液体収納容器、および液体供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液体を収納するための容器としては、気体を通過させ、かつ液体の通過は制御する気液分離膜を有する液体収納容器が知られている。例えば、特許文献1には、気液分離膜が設置されたインクタンクを有するインクジェットプリントヘッドが提案されている。そのインクタンクの一部に設けた開口部は気液分離膜によって覆われており、その気液分離膜によってインクの漏れを防ぎつつ、その気液分離膜を通してインクタンク内の気泡を除去する構成となっている。
【0003】
このような気液分離能力を有する膜を液体収納容器の開口部に設置することにより、液体を漏らさずに収納することができ、かつ、その膜を通して液体収納容器内の気体を除去することができる。
【0004】
【特許文献1】特開昭61−24458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の気液分離膜を用いた液体収納容器は、その耐久性が不十分であった。例えば、従来の気液分離膜を特許文献1のように設置したインクタンクを長期間使用した場合には、その気液分離膜中にインク(液体)が染み込むことによって、その気液分離膜の通気性が低減したり、その気液分離膜によってインクが遮断されなくなることがある。このような場合には、そのインクがインクタンクの外側に漏れ出て記録装置の汚染や動作不良の原因となるおそれがあった。
【0006】
このような不具合は、インクの表面張力が小さいほど顕著に発生する傾向がある。しかし、例えばインクジェット記録装置用のインクとしては、表面張力が小さいインクの要求も高まっている。
【0007】
具体的に、液体収納容器の内外に気圧差を発生させて、気液分離膜を通じて容器内の気体を外部に除去する動作を繰り返した場合には、気液分離膜の液体遮断能力が早い段階で損なわれ、その内部に液体が染み込むことによって液体の漏れが発生することがある。特に、引用文献1のようなインクタンクにおいては、気液分離膜を通して内部の気体を除去する動作を複数回繰り返して行わなければならない場合が多く、気液分離膜の繰り返し耐久性を確保することは重要となる。
【0008】
また、このようなインクタンクに用いられる気液分離膜には、インクタンク内の気体の除去に必要な圧力差や時間を低減するために、できるだけその通気度(単位面積あたりの通気量)が高いことが求められる。またさらに、温度変化によるインクの膨張、またはインクタンクの輸送時の振動や転倒等によってインクに一時的に大きな陽圧が発生した場合に、そのインクが気液分離膜を通して外部に漏れる危険性を低減するために、気液分離膜には高い耐液圧が求められる。耐液圧とは、気液分離膜に密着したインクなどの液体に圧力を掛けて、その気液分離膜を通過させるために必要な限界圧力のことである。
【0009】
本発明の目的は、気液分離膜を用いた耐久性の優れた液体収納容器および液体供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の液体収納容器は、気体の通過は許容しかつ液体の通過は制限する気液分離膜を配備可能な開口部を有する液体収納容器であって、前記気液分離膜は、繊維状部によって構成される繊維状領域と、前記繊維状部の端部を結束しかつ前記繊維状領域を囲むように閉じた環状の結束領域と、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の液体供給装置は、インク供給経路中に、気体の通過は許容しかつ液体の通過は制限する気液分離膜を配備可能な開口部を有する液体供給装置であって、前記気液分離膜は、繊維状部によって構成される繊維状領域と、前記繊維状部の端部を結束しかつ前記繊維状領域を囲むように閉じた環状の結束領域と、を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明は、以下のような実験およびその分析、検討の結果から見出した見地に基づくものである。
【0013】
まず、内部に残存した気体を除去するための開口部に、液体の流出を制御するための一般的な気液分離膜を設けた液体収納容器を作成した。この液体収納容器内に、液体としてのインクを収納して、実使用耐久試験を行ったところ、その気液分離膜にインクの染み込みが発生し、さらにインクの漏れが発生した。特に、気液分離膜を介して、容器内と容器外との間に気圧差を繰り返し発生させて、容器内の気体の除去を繰り返し行った場合に、気液分離膜へのインクの染み込み、および気液分離膜からの液体の漏れが顕著に発生した。
【0014】
ここで、気液分離膜は多孔質構造のものであり、非常に細い繊維状の構造を持つ領域(「フィブリル」と呼ばれる)と、その繊維状部の端部が結束された構造の領域(「ノード」と呼ばれる)の2種類から構成されている。この多孔質構造の孔径は気体分子の大きさよりは遙かに大きいため、気液分離膜は通気性を有する。その気液分離膜に液体が接触した場合には、その液体が孔に浸透するため、その液体を通すには有限のエネルギーが必要となる。そのため、液体が所定の限界圧力以下のときは、その液体は気液分離膜を通過できない。
【0015】
本発明者は、上記のような容器内の気体の除去の繰り返しにより生じた現象の原因を精査に分析、検討した結果、インクの染み込みや漏れが発生した気液分離膜の箇所においては、その膜の構造が一部破壊していることを突き止めた。さらに、その破壊は気液分離膜のノード部分においてではなく、そのフィブリル部分における繊維構造の断裂であることを見出した。気液分離膜の気液分離メカニズムにはフィブリル部分の繊維構造が大きく関与しており、この繊維構造の断裂が液体の漏れに大きく関連していると考えられる。
【0016】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、気液分離膜を備えた開口部の機能を長期間に渡って維持して、液体の漏れなどの発生を防止することにより、液体収納容器および液体供給装置の耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
図1から図4は、本発明の第1の実施形態を説明するための図である。本実施形態においては、樹脂材料を用いて箱形形状の液体収納容器1を作成した。
【0019】
液体収納容器1の上面に開口部としての小窓を明け、その小窓を塞ぐように気液分離膜2を熱融着により取り付けて通気口3を形成した。気液分離膜2の設置方法として熱融着が好適であるが勿論これに限られることはなく、例えば、機械的固定(かしめ)や接着剤を用いて接着する等の方法によってもよい。さらに、この液体収納容器1は不図示の液体供給系中に接続されて、自由に液体としてのインク4の充填および排出可能となっている。その液体供給系は、例えば、インクタンクから記録ヘッドにインクを供給するためのものである。この場合には、液体収納容器1に形成された液体導入口に開閉バルブを介してインクタンクを接続し、液体収納容器1に形成された液体導出口に開閉バルブを介して記録ヘッドを接続することができる。
【0020】
本例において用いた気液分離膜2は、ポリテトラフルオロエチレンを含む樹脂フィルムを一軸延伸して多孔質構造の膜とした後、その表面に撥液処理を施して作成したものである。本例における撥液処理は、フッ素化合物の層を膜表面に形成する手法を用いた。しかし、膜の素材および収納する液体の種類に応じて、一般に知られている各種処理方法を適宜用いることができ、また不必要であればしなくともよい。
【0021】
この気液分離膜2の表面形状は、非常に細い繊維状の構造を持つ領域(フィブリル部)2Aと、その繊維状部の端部が結束された構造の領域(ノード部)2Bと、から成っている。図2は、その気液分離膜2の表面構造を模式的に表している。図3(a)は、気液分離膜2の構造を理解しやすくするために、図2の表面構造からフィブリル部2Aのみを抽出した図である。同様に、図3(b)は、気液分離膜2の構造を理解しやすくするために、図2の表面構造からノード部2Bのみを抽出した図である。
【0022】
この気液分離膜2は一軸延伸により形成されているため、フィブリル部2Aの繊維構造は実質的に一方向に並んだ構造となっており、その末端は結束してノード部2Bを形成している。さらに特徴的な表面形状として、ノード部2Bが環状であって、その環状構造が大部分において連続した構造となっている。ここでいう環状とは必ずしも円形のみではなく、繊維状の領域としてのフィブリル部2Aを「囲むように閉じた構造」となる形態の全てを含んでいる。例えば、円形はもちろん、菱形、長円形、楕円形、台形、また不定形であってもよく、繊維状の領域としてのフィブリル部2Aを囲むように閉じた構造となる全てが含まれる。
【0023】
ノード部2Bは、フィブリル部2Aを構成する繊維状部の端部を結束して、フィブリル部2Aを囲むように閉じた環状の結束領域であればよい。そのため、図2からも明らかなように、ノード部2Bが囲むフィブリル部2Aの大きさや形態、そのフィブリル部2Aを構成する繊維状部の数などは特に特定されない。またノード部2Bは、図3(b)からも明らかなように、異なるフィブリル部2Aを囲む複数のもの同士が連なるように形成される。
【0024】
このような構造において、繊維状のフィブリル部2Aは環状のノード部2Bに連結し、あたかもテニスラケットのフレームとガットのような構造をとっている。このような構造においてフィブリル部2Aの繊維構造に掛かる引っ張り方向の力は、環状のノード部2Bによって制限されるため、そのフィルブリル部2Aの変形が少なく破壊に対する強度は向上する。
【0025】
このようにして作成した液体収納容器1に、液体として染料系のインク4(表面張力=28mN/m)を充填した。そして、その容器1内の気体5と容器1外に気圧差を繰り返し生じさせて、容器1内の気体5を気液分離膜2を通して容器1外に排出する動作を繰り返す試験を行った。図4(a),(b)は、その試験の様子の説明図である。すなわち、まずは図4(a)のように、容器1内の気体5の圧力よりも容器1外の気圧を小さくして、図4(b)のように、その気体5を気液分離膜2を通して排出する。その後、図4(a)のように容器1内に気体5を導入してから、それを図4(b)のように排出する。このような動作を繰り返した。気液分離膜2の初期状態における通気度は5.7μm/(Pa・s)、このときに容器1の内外に発生させた気圧差は最大で20kPa、図4(a),(b)のような気体5の排出動作の繰り返し回数は10000回とした。
【0026】
ここでいう通気度とは、膜の単位面積当りにおいて、単位圧力差によって単位時間内にどれだけの気体(空気)が膜を透過可能かを表す値である。特に、ISO−5636/5あるいはJIS−P8117に規定されている通気度の定義が一般的に用いられており、本例においてもこれにしたがった。このように定義された通気度は、ISO透気度とも呼ばれる。
【0027】
そして、図4(a),(b)のような動作の試験中、および試験後において、気液分離膜2の様子および通気量の変化を詳細に観測した。その結果、従来において多発していた気液分離膜内部への液体の染み込みや外部への液体漏れは見られず、また通気量の大きな低下も見られなかった。さらに、気液分離膜2の表面の構造を精査に分析した結果、その膜構造の破壊は見受けられなかった。
【0028】
従来においては、このような用途に用いられる気液分離膜への液体の染み込みや液体漏れを低減するためには、気液分離膜の耐液圧の増加が不可欠であると考えられてきた。しかしながら一般的に、耐液圧は通気度と背反する関係にある。すなわち、耐液圧を向上させるには気液分離膜の孔径を小さくする必要があり、そのためは通気度を犠牲にせざるを得なかった。しかしながら本発明者の鋭意検討の結果、通気度を低下させなくても、すなわち耐液圧を必要以上に向上させなくとも、上述したような気液分離膜を用いることにより充分な効果が得られることが分かった。つまり、上述したような気液分離膜を用いることにより、充分な耐久性、特に気体の除去を繰り返し行う場合の液体の染み込みや液体漏れが発生し難くして、繰り返し耐久性を向上させることができる。
【0029】
本例において、気液分離膜2の染料インク4に対する耐液圧は60kPaであった。この値は、一般的なインクタンクなどの液体収納容器の実使用条件内における温度変化や転倒時に、その内部に一時的に発生しうる陽圧よりも充分に高い。そのため実際の使用状態においては、温度変化や転倒を原因として液体収納容器1から液体が漏れることは無かった。
【0030】
(第2の実施形態)
第2の実施形態においては、フィブリル部2Aの繊維構造を成す繊維の平均太さを0.2ミクロンとした。その他は、全て第1の実施形態と同様である液体収納容器1を作成した。
【0031】
フィブリル部2Aの繊維構造を成す繊維が太いほど、応力に対する剛性が増して破壊し難くなる。例えば、その繊維が円柱形であると仮定した場合、その太さが2倍になると、その引っ張り剛性は4倍にもなる。しかし、その繊維の太さを極端に太くしてしまうと孔径が小さくなってしまい、充分な通気度が得られなくなる可能性がある。
【0032】
そこで本発明者は検討の結果、上述したような構造の気液分離膜2において、フィブリル部2Aの繊維構造を成す繊維の平均太さが少なくとも0.1ミクロン以上であれば、破壊に対して充分な強度が得られることを見出した。ここでいう繊維の平均太さとは、フィブリル部2Aを形成する繊維の最も細い部分の直径の平均値であり、気液分離膜2の電子顕微鏡像などから実測することができる。無論、平均値を算出するためのサンプル数は多い程良い。例えば、繊維の本数として100本以上を計算に供すれば、統計上充分に信頼しうる精度の平均値を得ることができる。本例の場合、フィブリル部2Aにおける繊維の平均太さは、100μm×100μmの領域の電子顕微鏡像から、その領域内の繊維(約300本)の各々最も細い部分の直径を実測して、その平均値を算出した。
【0033】
本実施形態の液体収納容器1に、前述した第1の実施形態と同様に、液体を充填して気体5の排出動作の繰り返し試験を行った。その試験の条件も第1の実施形態と同様とした。その結果、繰り返し試験後にも気液分離膜2の内部への液体の染み込みや、気液分離膜2の外部への液体の漏れは発生しなかった。さらに、気液分離膜2の通気量の低下や膜構造の破壊も見受けられなかった。
【0034】
(第3の実施形態)
本実施形態においては、液体収納容器1上部に、通気方向に対する断面が3mm×7mmの長方形である開口部3を設け(図1A及び図1B参照)、そこに気液分離膜を配置して通気口3とした。その際、気液分離膜は、その繊維状領域を構成する繊維の実質的に並んでいる方向が開口部3の短軸(長さ3mmの方向)と平行になるように配した。
【0035】
本発明者は検討の結果、このような構成を採るとことで我々の目的に対して特異的に良好な効果を生むことを見出した。上述したように、気液分離膜の繊維部の断裂による液体の漏れについては、気液分離膜の膜強度が影響している。即ち、断裂を防ぐためには繊維になるべく伸縮の力を与えないようにする必要があり、そのためには膜全体の変形を抑えることが効果的である。
【0036】
しかし、例えば膜全体の変形を抑えるために容器に開ける開口部を小さくすると、通気面積が減少して全体としての通気度が低下してしまうという問題がある。
【0037】
検討の結果、繊維状の領域を構成する繊維が実質的に一方向に並んでいる気液分離膜においては、膜強度、言い換えれば外力に対する変形のしにくさに異方性が認められた。即ち、気液分離膜は、繊維の配向方向に対し垂直方向には柔らかいが、平行方向に対しては非常に強い膜強度を有していることが判った。
【0038】
そこで、これらを鑑み、面積を減らさずに、繰り返し気体除去時の液体漏れを抑える方法を検討し、以下の構成に到った。つまり、開口部3を長軸と短軸を有する断面形状(長方形)とし、気液分離膜の強度の大きい方向、即ち繊維の配向方向を長方形の開口部3の短軸に平行になるように配置した場合に、気液分離膜の耐久性が格段に優れる液体収納容器が得られることが判った。
【0039】
ここでは開口部3を長方形とした。しかし、開口部の通気方向に対する断面が短軸と長軸を有する形状であって、気液分離膜の繊維状領域を構成する繊維の実質的に並んでいる方向を、その開口部断面の短軸と平行となるように配置すれば同様の効果が得られることは勿論である。ここでいう「短軸と長軸を有する形状」とは、線対称軸を2本以下しか有しないために中心からの距離が不均一で、短軸と長軸が定義できる全ての図形のことを言い、長方形、長円形、楕円形、菱形、平行四辺形、台形などが代表的なものである。またこれらの角を僅かに丸めたり、面取りした図形も含まれることは言うまでもない。
【0040】
また本実施形態は、後述する第4及び第5の実施形態において特に効果のあるものである。
【0041】
(第4の実施形態)
図5および図6は、本発明の第4の実施形態を説明するための図である。本実施形態の場合は、前述した第2の実施形態において作成した液体収納容器をインク収納容器(インクタンク)1として用いて、その内部に収納されるインクを噴射するインク噴射装置を作成した。
【0042】
本装置におけるインク収納容器1は図5および図6のように構成されており、気液分離膜2は、インク収納容器1の内部と外部の圧力差を利用して、インク収納容器1内に存在する気体5を排出することができる位置に備えられている。すなわち本例におけるインク収納容器1は、その上面に気液分離膜2を有する通気口3が設けられ、さらに通気口3に対してキャップ6が接離可能に備えられている。キャップ6は、図6のように通気口3を覆うことにより、気液分離膜2の上方に圧力制御可能な気密室R(図6参照)を形成する。キャップ6は、開閉可能な不図示の開閉弁を通して負圧ポンプなどの負圧発生手段に連結されている。そして、図6のように形成した気密室R内に負圧を導入することにより、気液分離膜を介して、インク収納容器1の内部と外部との間に圧力差を生じさせることができるようになっている。
【0043】
またインク収納容器1の下部には、インク導入系7およびインク導出系8を構成するための管路7A,8Aが接続されている。それらの管路7A,8Aには、インクの流通を制御可能な弁7B,8Bが備えられている。管路7Aは、インク収納容器1内にインクの補給する不図示のインク補給部に接続されており、管路8Aは、インク収納容器1内のインクを噴射するための不図示のインク噴射部に接続されている。インク噴射部は、例えばインクジェット記録ヘッドである。インクジェット記録ヘッドの場合には、インク収納容器1内から供給されたインクをノズルから被記録媒体上に吐出することによって、その被記録媒体上に画像を記録することができる。
【0044】
このようなインク収納容器1を使用する場合には、まず、インク導入系7の管路7Aを通してインク収納容器1内にインクを充填する。その際には、図5のようにキャップ6を通気口3の上方に離間させ、またインク収納容器1の内外において気圧差が生じないように、インク導出系8のバルブ8Bを開いて管路8Aは解放しておく。
【0045】
このようにしてインク収納容器1内にインクを充填して後は、弁7B,8Bを閉じると共に、図6のようにキャップ6により通気口3を塞いで気密室Rを形成する。そして、その気密室R内に負圧を導入して減圧させる。これにより、気液分離膜2を介してインク収納容器1内が減圧され、その内部に混入し残存していた気体5は、図6のように、気液分離膜2を通して気密室Rからインク収納容器1の外に排出される。
【0046】
このように、インク収納容器1内の気体5を排出した後は、図5のようにキャップ6を離してから弁7B,8Bを適宜開閉制御する。これにより、インク導入系7を通してインク補給部からインク収納容器1内にインクを補給しつつ、インク導出系8を通してインク収納容器1内のインクをインク噴射部に供給することができる。気液分離膜2を通してインク収納容器1内の気体5を排出して、その気体5をインク収納容器1内に気体5を残存させないことにより、その気体5がインク噴射部に導入される事態を回避することができる。例えば、インク噴射部がインクジェット記録ヘッドである場合には、その内部に気泡が入ると、インクをノズルから噴射するためのエネルギーが気泡の体積変化によって吸収されたり、温度変化に伴って気泡の体積が変化したりする。このような場合には、ノズルからのインクの噴射が不安定となるおそれがある。インク収納容器1内に気体5を残存させないことにより、このような不具合の発生を回避することができる。
【0047】
気体5は、インクと共にインク導入系7からインク収納容器1内に入り込むおそれがある。そのため、気液分離膜2を通しての気体5を排出動作は、定期的または適宜のタイミングで繰り返し実施する。その排出動作時には、前述したように、弁7B,8Bを閉じると共に、図6のようにキャップ6によって気密室Rを形成してから、その気密室R内に負圧を導入すればよい。また、インク導入系7の弁7Bとしては、インク収納容器1内の気体5を排出させるために、インク収納容器1内が所定圧以下となるときに自動的に閉じる常開の弁であってもよい。また、図6のようにキャップ6によって常に密閉室Rを形成し、インク収納容器1内の気体5を排出させるときに密閉室R内に負圧を導入し、それ以外のときは密閉室Rを大気に解放するようにしてもよい。
【0048】
本実施形態においては、上述したようなインクの補給および供給動作に関連して、気体5の排出動作を繰り返し行った。気体5の排出動作時におけるインク収納容器1の内外の気圧差は20kPa、気体5の排出動作の繰り返し回数は10000回とした。その結果、気液分離膜2へのインクの染み込みやインク漏れは発生せず、繰り返し耐久性を向上させることができた。
【0049】
(第5の実施形態)
図7は、本発明の第5の実施形態を説明するための図である。本実施形態のインク収納容器1においては、その内部にインク4を補給するために気液分離膜2が用いられている。
【0050】
インク収納容器1には、インク補給口1Aと、インク供給口1Bと、吸引口1Cが設けられている。インク補給口1Aはインク4の供給経路11に接続され、インク供給口1Bは、インクジェット記録ヘッドなどにインク4を供給するための不図示のインク供給経路に接続され、吸引口1Cは負圧ポンプなどの負圧供給経路12に接続される。吸引口1Cには気液分離膜2が備えられており、この気液分離膜2を通して、インク収納容器1内に負圧が導入される。
【0051】
インク収納容器1内におけるインク4の液面レベルLが図7中の実線のように下がって、そのインク収納容器1内に対するインク4の補給が必要なときには、まずは、インク供給口1Bに接続されるインク供給経路を閉じる。それから、気液分離膜2を通して、吸引口1Cからインク収納容器1内に負圧を導入する。その負圧により、インク補給経路11からインク補給口1Aを通ってインク収納容器1内にインクが吸引補給される。このようなインクの吸引補給に伴って液面レベルLが徐々に上昇し、そして液面レベルLが図7中の2点鎖線の位置まで上昇して、インク4が気液分離膜2に接したときに、インク4の吸引補給が自動的に停止する。すなわち、気液分離膜2がインク収納容器1内の気体5の通過を許容し、かつインク4の通過を阻止するため、液面レベルLが気液分離膜2の位置に達した時点においてインクの吸引補給が自動的に停止することになる。
【0052】
このように気液分離膜2は、インク収納容器1内にインク4を所定量補給するためにも用いることができる。
【0053】
なお、本実施形態においては、インク収納容器の外部から減圧することで、インク収納容器の内外に差圧を生じさせ気体を排除しながらインクを充填する構成を示した。しかし、インク収納容器の内部を加圧してインク収納容器の内外に差圧を生じさせて気体を排除しながらインクを充填する構成とすることもできる。
【0054】
(他の実施形態)
本発明の液体収納容器は、インクのみにならず、種々の液体を収容するための容器として広く適用することができる。
【0055】
また、本発明では、液体収納容器の内外に差圧(内部が低く、外部が高い差圧)を生じさせることで、気液分離膜を介して液体収納容器の内部から外部に気体を排出することが達成できる。また、前述した第1から第4の実施形態において、気液分離膜を配備可能な液体収納容器の開口部は、気液分離膜を通して液体収納容器内の気体を外部に排出可能な通気口とした。また、前述した第5の実施形態において、気液分離膜を配備可能な液体収納容器の開口部は、気液分離膜を通して液体を吸引するための負圧を導入可能な吸引口とした。しかし、気液分離膜を配備可能な液体収納容器の開口部は、その他に、気液分離膜を通して液体収納容器内に気圧を作用させるための開口部であってもよい。
【0056】
また本発明は、液体の供給経路中に上述した液体収納容器と同様の構成部分を備えた液体供給装置、または液体の供給経路中に上述した開口部を備えた液体供給装置にも適用することができる。その液体の供給経路は、液体の補給部から液体収納容器、またはインクジェット記録ヘッドなどのような液体の使用部に対して液体を供給するための経路である。また、このような液体の供給経路中に上述したような開口部を備える場合には、上述したように、その開口部に配備した気液分離膜の内側と外側に圧力差を積極的に生じさせるための構成を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態における液体収納容器の概略斜視図、(b)は、その液体収納容器の概略断面図である。
【図2】図1における気液分離膜の表面構造の模式図である。
【図3】(a)は、図2からフィブリル部のみを抽出した模式図、(b)は、図2からノード部のみを抽出した図である。
【図4】(a),(b)は、図1の液体収納容器に対する気体の排出動作の繰り返し試験を説明するための概略断面図である。
【図5】本発明の第4の実施形態における液体収納容器の概略断面図である。
【図6】図5の液体収納容器の気体排出動作時における概略断面図である。
【図7】本発明の第5の実施形態のおける液体収納容器の概略構成図である。
【符号の説明】
【0058】
1 液体収納容器(インク収納容器)
2 気液分離膜
2A フィブリル部
2B ノード部
3 通気口(開口部)
4 液体(インク)
5 気体
6 キャップ
7 インク導入系
8 インク導出系
R 気密室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体の通過は許容しかつ液体の通過は制限する気液分離膜を配備可能な開口部を有する液体収納容器であって、
前記気液分離膜は、繊維状部によって構成される繊維状領域と、前記繊維状部の端部を結束しかつ前記繊維状領域を囲むように閉じた環状の結束領域と、を含む
ことを特徴とする液体収納容器。
【請求項2】
前記繊維状部の平均太さが0.1ミクロン以上であることを特徴とする請求項1に記載の液体収納容器。
【請求項3】
前記繊維状部が実質的に一方向に配列していることを特徴とする請求項1または2に記載の液体収納容器。
【請求項4】
前記気液分離膜の材質がポリテトラフルオロエチレンを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の液体収納容器。
【請求項5】
前記液体収納容器の内部の圧に対して、外部の圧が低い差圧を生じさせて、前記気液分離膜を通して、前記液体収納容器内に存在する気体を外部に排出することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の液体収納容器。
【請求項6】
断面が短軸と長軸とからなる開口部を有し、該開口部に配される前記気液分離膜の繊維配列方向は前記開口部の短軸方向と略平行であることを特徴とする請求項3に記載の液体収納容器。
【請求項7】
液体のインクを収納したインクタンクを構成することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の液体収納容器。
【請求項8】
液体の供給経路中に、気体の通過は許容しかつ液体の通過は制限する気液分離膜を配備可能な開口部を有する液体供給装置であって、
前記気液分離膜は、繊維状部によって構成される繊維状領域と、前記繊維状部の端部を結束しかつ前記繊維状領域を囲むように閉じた環状の結束領域と、を含む
ことを特徴とする液体供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−206190(P2006−206190A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340567(P2005−340567)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】