説明

液体吐出ヘッド、画像形成装置、及び液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】吐出面の平坦性を向上させ、不良の少ない液体吐出ヘッド、この液体吐出ヘッドを備えるが形成装置及び液体吐出ヘッドの製造方法を提供することにある。
【解決手段】導電層7上のメッキ層によって形成された液室3を有する流路層と、この流路層へのメッキによって形成されかつ前記液室3の天板11となる天板層を有する液体吐出ヘッドにおいて、前記天板11の前記液室3内壁面には前記メッキ層とは異なる導電層8が形成され、この導電層8は複数の前記液室3間で連続して形成されている液体吐出ヘッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギーを液体に作用させることによって液体を吐出する液体吐出ヘッド、この液体吐出ヘッドを用いた画像形成装置、及び液体吐出ヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサ等の装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業用記録装置においては、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の被記録媒体に対して記録を行なう。
なお、ここで「記録」とは、文字や図形等の意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、全面あるいはパターン等の意味を持たない画像を被記録媒体に付与することをも意味し、画像形成、印写、印字、印刷も同義語で使用する。
産業用記録装置において、これらの画像を被記録媒体に付与するためにはこの被記録媒体に液体を吐出する液体吐出ヘッドを使用することが知られており、かかる液体吐出ヘッドの構成も種々提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
特許文献1には、基板上に第1の導電層を形成し、基板上に流路のパターン状に型材を形成し、続いて第1の導電層に接触しないように、型材上に第2の導電層を形成し、第1の導電層及び前記第2の導電層を利用して、メッキ処理による金属膜を型材の周囲に形成することによって、基板上に吐出口と吐出口に連通する流路を貼り合せ工程なしで製造する技術が開示されている。
特許文献2には、電気機械変換素子の変位で変形されるダイヤフラム部を有する振動板あるいはインク液室に連通するノズル孔を有するノズル板と、ダイヤフラム部に対応するインク液室を形成する液室隔壁とを、電鋳金属で一体的に形成する技術が開示されている。
また、本出願人は公開前の技術であるが、特願2006−02984において、流路板と別部材を接合する時に問題となる流路板の偏肉量を低減するための技術として、流路が形成された流路板がメッキ金属で形成され、複数の流路が並ぶ流路列領域の外側に、この流路列に沿って金属がない複数の肉抜き部を設けることを提案している。
パターンの或る面に電気メッキを行なう場合、細いパターンあるいは面積の小さいパターンに電界が集中し、その部分の成長速度が他に比べて大きくなる。特許文献1に記載の第2の導電層にメッキ層を成長させる場合、メッキ層が成長する部分である型材の溝部の幅によって、メッキ層の成長速度が異なる。
【0004】
溝の細い部分で電界強度が大きくなり、メッキ層は速く成長する。そのため、パターンによって高さのバラツキが生じる。その結果、第2の導電層に第2のメッキ層を成長させる時点で、第2のメッキ層の成長の始点が、パターンにより差が生じて、第2のメッキ層の厚さにバラツキが生じる。
かかる第2のメッキ層を振動板に応用した場合、振動板の厚さは吐出性能に大きく影響するので、振動板の厚さがばらつくと吐出バラツキが生じてしまう。振動板の厚さに求められる精度は非常に高く、従来の方法によれば振動板を実用に耐えうる均一性で作製することはできない。また、第2のメッキ層に吐出口を形成した場合、吐出面がフラットにならない問題が生じる。
また、第1の導電層から成長したメッキ層が第2の導電層に到達するのはパターンによって異なることになる。第1の導電層から成長したメッキ層がどこかで第2の導電層に到達すると、導通している第2の導電層上にメッキ層が成長し始め、それによってメッキ面積が増加し、メッキ層成長速度は低下する。
第2の導電層に到達していないメッキ層の成長速度も低下し、パターンやメッキ条件によっては第2の導電層に到達した部分と到達していない部分が生じ、液室が封止できなく不良となることがある。
さらに、第1の導電層上のメッキ層から第2の導電層上のメッキ層と連続して行なう場合、第1の導電層上のメッキ層から第2の導電層上のメッキ層へ変わるところでメッキ面積が変化する。そのため、第1の導電層上のメッキ層と第2の導電層上のメッキ層で電流密度が異なることになる。しかし、第1の導電層上のメッキ層内、あるいは第2の導電層上のメッキ層内では同じ電流密度であり、各層の面内では均一である。
【特許文献1】特開2006−69203公報
【特許文献2】特開平11−105283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、この場合、第1の導電層上のメッキ層が面内で厚さムラを生じていたら、徐々に電鋳面積が変わっていき、それに伴い電流密度が時間的に変化していく。
そのため、第1の導電層上のメッキ層、あるいは第2の導電層上のメッキ層のぞれぞれで面内における電流密度が異なり、電流密度に依存する表面性、結晶構造などに面内ムラが生じることになる。表面性、結晶構造などにムラが生じると、液体との接触抵抗、液体に対する耐液性などにムラが生じたり、制御できなくなったりして、液体吐出ヘッドとしてバラツキや不良の原因となる。
また、第1の導電層上のメッキ層から第2の導電層上のメッキ層へ変わる時に、第1の導電上のメッキ層と第2の導電層上のメッキ層の表面性、結晶構造、メッキ層成長速度などを補正するため、第1の導電層上へのメッキから第2の導電層上へ変わる時に、電流値を変えることもあり得る。
この場合も、第1の導電層上のメッキ層が面内で厚さムラが生じていたら、電流値を切り換えるタイミングを設定できないという問題が生じる。電流値を切り換えたとしても、上記と同様に徐々に面積が変わっていってしまい、電流密度が徐々に変わるので、電鋳の表面性、結晶構造などに面内ムラが生じることになる。
徐々に変化する面積に伴い、電流値を調整するのは現実的ではない。第1の導電層上へのメッキから第2の導電層上へのメッキは連続して行なうので、第1の導電層上でのメッキ層の厚さムラを研磨などの方法で均一にすることもできない。
特許文献2では、ダイヤフラム部に対応するインク液室を形成する液室隔壁と、電気機械変換素子の変位で変形されるダイヤフラム部を有する振動板とを、電鋳金属で一体的に形成しているが、液室隔壁層の厚さムラにより上記と同様の問題が生じるが、対策は示されていない。
そこで、本発明の目的は、上述した実情を考慮して、吐出面の平坦性を向上させ、不良の少ない液体吐出ヘッド、この液体吐出ヘッドを備えるが形成装置及び液体吐出ヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、導電層上のメッキ層によって形成された液室を有する流路層と、該流路層へのメッキによって形成されかつ前記液室の天板となる天板層と、を備え、前記天板の前記液室内壁面には前記メッキ層とは異なる導電層が形成され、前記導電層は複数の前記液室間で連続して形成されていることを特徴とする。
また請求項2に記載の発明は、前記天板層には変形可能な振動板が形成されている請求項1の液体吐出ヘッドを特徴とする。
また請求項3に記載の発明は、前記天板層には液体を吐出する吐出口が形成されている請求項1の液体吐出ヘッドを特徴とする。
また請求項4に記載の発明は、複数の前記液室が配列された液室列が複数設けられ、前記導電層は複数の液室列間で連続している請求項1乃至3の何れか1項記載の液体吐出ヘッドを特徴とする。
また請求項5に記載の発明は、複数の液室が流体抵抗部を介して共通して連通する共通液室を、前記流路層に設けた請求項1乃至4の何れか1項記載の液体吐出ヘッドを特徴とする。
また請求項6に記載の発明は、前記流路層には前記液室に連通しないパターンが設けられており、前記パターン間の隔壁の間隔は前記液室間の隔壁の幅と略同一である請求項1乃至5の何れか1項記載の液体吐出ヘッドを特徴とする。
また請求項7に記載の発明は、前記パターンは形状と間隔が液室と類似したパターンである請求項6の液体吐出ヘッドを特徴とする。
また請求項8に記載の発明は、給紙部から送られた記録媒体上に画像を印字形成する画像形成装置において、印字部の液体吐出ヘッドとして請求項1乃至7の何れか1項記載の液体吐出ヘッドを搭載する画像形成装置を特徴とする。
また請求項9に記載の発明は、少なくとも2層以上のメッキ層からなり、前記メッキ層のうち少なくとも1層は液室が形成された流路層であり、別のメッキ層は液室の天板となる天板層であり、天板の液室内壁面にメッキ層とは別の導電層が形成されている液体吐出ヘッドの製造方法おいて、基板上に液室形状に型材を形成する工程と、前記型材上に複数の前記型材間で連続する導電層を形成する工程と、メッキ処理による流路層を前記型材の周囲に形成する工程と、前記流路層上と前記導電層が電気的に接続した後にさらにメッキ処理を行ない、前記天板層を形成する工程と、所定の厚さで前記天板層のメッキ処理を停止する工程と、前記型材を除去して前記液室を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、導電層は複数の前記液室間で連続しているので、液室間の隔壁を形成するためのメッキ層の成長速度が場所によってばらついていたとしても、或る1部分でメッキ層が導電層に達した時点で、すべての液室上の導電層に通電され、液室上の天板となるメッキ層の成長が同時に始まる。これによって、すべての液室上の天板の厚さは同じ液体吐出ヘッドが得られる。
また、本発明による液体吐出ヘッドを搭載する画像形成装置は、吐出バラツキの小さいヘッドによって、記録媒体に正確な液滴の大きさや着弾位置で液滴を着弾させることができ、画像を印字形成した場合には高品質な画像を得ることができる。
また、本発明による製造方法によれば、液室間の隔壁を形成するためのメッキ層の成長速度が場所によってばらついていたとしても、或る1部分でメッキ層が導電層に達した時点で、すべての液室上の導電層に通電され、液室上の天板となるメッキ層の成長が同時に始まる。これによって、すべての液室上の天板の厚さが同じ液体吐出ヘッドを作製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施の形態である熱エネルギーを利用したサーマルインクジェット方式の液体吐出ヘッドを示す図である。図1(a)は平面透視図、図1(b)は(a)のAA’断面図、図1(c)は(a)のBB’断面図、そして図1(d)は(a)のCC’断面図である。
図1(a)〜(d)を参照して、液体吐出ヘッド1は、液室3と液体吐出口となる貫通口2とを備えた流路構造体(流路層)を有している。図1では、基板10を貫通する開口部5から液体が液室3に供給され、供給された液体は、液室3内の基板10上に形成されたヒーター14で加熱されて発泡し、生じた圧力によって液体吐出口2となる貫通口から吐出される。
後で詳細に説明するように、液室3の隔壁9、9bは基板10の上方に形成されたメッキ層6によって形成される。このメッキ層6は金属層(導電層)7の上方に形成される。液室3の上面を形成する天板11は、導電層8とメッキ層6の積層構造となっている。
【0009】
図1において、複数の液室3が配列され、液室3よりも幅の狭くなった流体抵抗部12や共通液室4などの流路を持ち、共通液室4から流体抵抗部12を介して液室3へ液体が供給される。
本発明の液体吐出ヘッド1では、導電層8は複数の液室3間で連続していることが特徴となっている。後で製造方法に関して詳細に説明するように、導電層8が複数の液室3間で連続することによって、すべての液室3上の天板11の厚さdは同じものが得られる。
また、本発明の液体吐出ヘッド1では液室3に連通しないパターン25が形成されており、流路の周辺の隔壁9は、液室3間の隔壁9bとほぼ同じ幅となるようになっている。流路の周辺の隔壁9の幅は、液室3間の隔壁幅と流体抵抗部12間の隔壁幅の間に設定すればよい。
【0010】
図2は熱エネルギーを利用した液体吐出ヘッドの製造工程を模式的に示す工程断面図である。次に、図1に示した第1の実施の形態の熱エネルギーを利用した液体吐出ヘッドを例として、製造方法の概念を説明する。以下、図1(a)〜(l)の各工程について、図面を用いて説明する。
図2(a)では、基板10の表面に、ヒーターとなる発熱素子(ここでは図示せず)と基板10とを絶縁する絶縁膜15を形成する。基板10の裏面、絶縁膜15と反対の側の表面に、この基板10を貫通する開口部を形成する際に所定の部分以外の基板10がエッチングされることを防止するための保護膜16を形成する。裏面に形成された保護膜16の開口部に対応する部位の保護膜16を除去する。
ここで、基板10の材料としては、シリコン基板やガラス基板、プラスチック基板などを用いることができる。所望の強度があればどの基板を用いても構わないが、微細加工技術による高集積・高密度な駆動回路を形成し易い点や酸化して良質な絶縁膜を形成し易い点からシリコン基板を用いることが好ましい。
基板10がシリコン基板の場合、絶縁膜15及び保護膜16は、微細加工が容易なので、酸化シリコン(SiO)膜、窒化シリコン(SiNx)膜や酸窒化シリコン(SiON)膜等のシリコン系の絶縁膜が好ましい。
基板10を貫通する開口部は、シリコン基板の場合、TMAH(テトラ・メチル・アンモニウム・ハイドライド)、KOH(水酸化カリウム)などのアルカリ系エッチング液による異方性エッチングや、RIE、DeepRIE(ICP)などのドライエッチング、サンドブラストなどによる方法が可能である。
しかし、アルカリ系エッチング液による異方性エッチングやDeepRIE(ICP)は微細加工が容易なので、これらを用いることが好ましく、一度に多数の基板の処理を行なえるので、アルカリ系エッチング液を用いた異方性エッチングを採用することがより好ましい。
【0011】
アルカリ系エッチング液による異方性エッチングやDeepRIE(ICP)を用いて基板10をエッチングする場合、酸化シリコン(SiO)膜、窒化シリコン(SiNx)膜や酸窒化シリコン(SiON)膜等のシリコン系の絶縁膜15は、これらのエッチングに耐性があるので好ましく用いられる。
保護膜16にシリコン系の絶縁膜を用いた場合、開口部に対応する保護膜16は、フォトリソグラフィー法を用い、フォトレジストからなるパターンをマスクに、通常のドライエッチングにより除去することができる。
膜応力の調整や密着性の向上のために、絶縁膜15及び保護膜16は、例えば、酸化シリコン膜と窒化シリコン膜の積層膜のように2種以上の膜を積層した積層膜を使用しても良い。
【0012】
次に、図2(b)では、絶縁膜15上に発熱抵抗素子14を形成する。発熱抵抗素子14は、ヒーター、電極及び配線等を通常の半導体プロセスを用いて製造することができる。
発熱抵抗素子14は、例えば、HfB、ZrB、TaN及びTaSi等の耐熱抵抗材上に、中間層(例えば、Ti、Cr等)を介して形成される。この場合に、発熱抵抗素子14は、電気良導体である金属からなる配線部(例えば、Al、Au、Ag、Cu等)を上記中間層が露出するように積層して形成され、その露出した部分がヒーター14となる。
また、吐出する液体による電食、酸化を防ぐための保護膜等が必要に応じてヒーター及び電極上に形成される。図では、ヒーターとしてヒーター14の一部となる耐熱抵抗体のみを図示している。
例えば、耐熱抵抗材は、絶縁膜15上にスパッター法を用いて、HfBからなる膜を形成し、フォトリソグラフィー法を用い、フォトレジストからなる所望のパターンをマスクとして、通常のドライエッチングにより形成することができる。
【0013】
図2(c)では、次に、基板10上に、メッキのシード膜となる導電層(第1の導電層)17(図1の金属層7に相当)を形成する。この導電層17としては、Pt、Au、Ag、Cu、Ni等を使用することができる。
導電層17としては、低抵抗の材質が好ましく、Pt、Au、Ag、Cu等を用いるのが好ましい。なお、絶縁膜15との密着性を向上させるためにバインダーメタルとしてTiとの積層構造にすることも可能である。
メッキにより液室の壁面を形成するので、導電層17は、液室の内部となる領域に形成される必要がない。導電層17の液室の内部となる領域は、フォトリソグラフィー法を用い、フォトレジストからなる所望のパターンをマスクに、通常のドライエッチングにより導電層17をエッチング除去することで形成することができる。
通常、ヒーター14上に保護膜となる絶縁膜が形成されているがこの説明では省略してある。
なお、導電層17は、メッキのシード膜となるので、導電層17の一箇所から電圧を供給することによってメッキのシード層全体に電圧が供給されることが好ましい。このため、導電層17は、基板10上で不連続な部分がないようにすることが好ましい。
【0014】
図2(d)では、次に、基板10上に、液室の形状を構成する第1のパターン22(後述)を形成するための、溶媒により溶解可能な樹脂層18を形成する。所望の樹脂膜を用いて所望のパターンを得る方法として、印刷法やフォトリソグラフィー法等がある。しかし、微細な形状を得るためには感光性樹脂を用い、フォトリソグラフィー法を用いることが好ましい。
本工程において、後で除去することによって液室となる第1のパターン22を形成する溶解可能な樹脂層18は、例えば、スピン塗布法を用いて塗布した後、乾燥することで形成される。
図2(e)では、溶解可能な樹脂層18上に導電層(第2の導電層)19(図1の導電層8に相当)を形成する。この導電層としては、Ti、Pt、Au、Ag、Cu、Ni等を使用することができる。
基板10上の導電層としては低抵抗で、メッキ液に耐性がある材質が好ましく、Pt、Au、Agなどのイオン化傾向の小さい材料が好適に用いられる。この工程においては、後工程における型材除去時に貫通口を形成するのが容易になるので、第2のパターンを形成する領域の導電層をレーザーなどで除去しておいてもよい。
【0015】
図2(f)では、後で除去することで液室の吐出口となる第2のパターンを形成する溶解可能な樹脂層20を、樹脂層18と同様の樹脂を同様の方法で塗布して乾燥する。液室の吐出口はテーパー形状を有しているのが好ましく、ポジ型の感光性樹脂を用いるのが好ましい。
図2(g)では、第1のパターン22上の導電層をパターニングするために、第2のパターンを形成する溶解可能な樹脂層20を液室の上面となる部分を残すようにマスクを用いて露光・現像する。この樹脂パターンをマスクとして第2の導電層19を除去する。
第2の導電層19がPtの場合は、イオンミーリング法を、Au及びAgの場合は、イオンミーリングあるいはウェットエッチング法を用いてエッチング除去することができる。
ここで、本発明の特徴でもあるが、第2の導電層19は液室間で連続している(図中、奥行き方向に配列された複数の液室間で連続している)。
【0016】
次に、図2(h)では、第2の導電層19上に残った樹脂層20に、吐出口となる第2のパターン21を形成するためにマスクを用いて露光する。その後、樹脂層18を露光した後、現像して吐出口となる第2のパターン21及び液室を形成する樹脂層18と第2の導電層19の積層膜からなる第1のパターン22を形成することによって液室と吐出口とが一体形成された流路パターン22aが形成される。
ここで、本発明の液体吐出ヘッドでは、樹脂層18に流路パターン22aとは別のパターン22bが形成されている。なお、液室で発生した吐出圧力を効率良く液体の吐出に変換するために、第2のパターン21は、順テーパー形状であることが好ましい。
つまり、第2のパターン21は、第1のパターン22側の面積より上面側の面積を小さくすることが好ましい。この形状は、露光においてプロジェクション・アライナを使用した場合にはフォーカスをずらしたり、プロキシミティ・アライナを使用した場合にはフォトマスクと基板のギャップを広げたりすることで実現することができる。
また、現像においてオーバーエッチングを行なったり、フォトマスクにグラデーションマスクを使用したり、レーザーによる露光を行なうなどしても順テーパー形状にすることができる。
第1のパターン22a、22bを示している、図2(i)では、導電層17の液室の壁面を形成する領域のみが露出するようにフォトリソグラフィー法を用いてフォトレジストからなるマスク23を形成する。
【0017】
図2(j)では、メッキ処理により液室・貫通口を覆うように導電層17をシード膜として液室の壁面となるメッキ層24を形成する。メッキの種類としてはCu、Ni、Cr、Zn、Sn、Ag、Auなどの単金属メッキ、合金メッキ、PTFEなどを析出させる複合メッキなどがあげられる。耐薬品性、強度、コストの点からNiを用いること好ましい。
電解メッキ法でメッキ層24を形成する場合、このメッキ層24が第1のパターン22の上面に形成されている第2の導電層19に達するまでは第1のパターン22の壁面にメッキ層24が形成される。
メッキ層24が第1のパターン22の上面に形成された第2の導電層19に達すると、第2の導電層19上と、その外周囲に形成されているメッキ層24上とにメッキ層24が形成される。よって、メッキ層24が第2の導電層19に達する以前と達した後では、第2の導電層19の面積分だけメッキ面積が増加する。
【0018】
本発明では、第2の導電層19は液室列の液室間で連続するように構成されている。図2(k)では、共通液室が流路層22aに設けられており、共通液室は各液室に連通している。共通液室上にも第2の導電層19が形成されており、共通液室上の第2の導電層19を介して、各液室上の第2の導電層19が導通している。
これによって、液室間の隔壁を形成するためのメッキ層の成長速度が場所によってばらついていたとしても、或る1部分でメッキ層が第2の導電層19に達した時点で、すべての液室上と共通液室上の導電膜に通電され、液室上の天板となるメッキ層24は同時に成長が始まる。これによって、すべての液室上の天板は同じ厚さで得られる。
前述のように吐出口をテーパー形状とした場合、天板の厚さによって、吐出口径が異なることになる。吐出口径は液吐出速度や液滴の大きさに大きな影響を与える。
そこで、本発明のように導電膜(導電層)を液室配列間で導通させることにより、均一な吐出口が得られる。また、共通液室を流路層22aに設けたことにより、特別なパターンや構成を設けることなく、第2の導電層19を液室間で連続するように作製することができる。
【0019】
また、図2(l)では、図1(b)と同じである液体吐出ヘッド1の完成品を示している。流路以外に液室に連通しないパターン25(22b)が形成されている。流路の周辺の隔壁9(図1)は、液室間の隔壁9b(25(22b))とほぼ同じ幅となるようになっているので、メッキ面積の差による電界の差が緩和され、メッキ層成長速度が面内で均一になる。そのため、電流密度に依存する表面性、結晶構造などに面内ムラが小さい。
表面性、結晶構造などにムラが生じると、液体との接触抵抗、液体に対する耐液性などにムラが生じたり、制御できなくなったりして、液体吐出ヘッドとしてバラツキや不良の原因となることがあるが、そのようなバラツキや不良を防止することができる。
また、上述した工程で、第1の導電層17上のメッキ層から第2の導電層19上のメッキ層へ変わる時、第1の導電層17上のメッキ層と第2の導電層19上のメッキ層の表面性、結晶構造、メッキ層成長速度などを補正するため、第1の導電層17上のメッキから第2の導電層19上のメッキへ変わる時に、電流値を変えることも可能である。
この場合も、第1の導電層17上のメッキ層が面内で厚さムラが生じていたら、電流値を切り換えるタイミングを設定できないという問題が生じる。しかし、本発明では、メッキ層厚さの面内バラツキが小さいので、第2の導電層19上のメッキ層は面内でほぼ同時に開始し、その時点で電流値を切り換えることができる。
【0020】
図3は比較のために示す従来の構成の製造過程を示す図である。図3(a)は平面透視図であり、図3(b)は図3(a)のABCにおける断面図である。
本発明による液体吐出ヘッドの製造工程において作成した、液室に連通しないパターン22bを形成した別の効果を説明する。図3は、本発明の製造工程を示している図2(i)の工程に対応する構成を示している。
液室、流体抵抗部や共通液室の周辺の隔壁の幅(図に示す工程では第1のパターン409の溝幅)は本発明とは異なり、液室間隔壁となる部分の溝420と、液室や共通液室周囲の隔壁となる部分の溝420bの幅が異なる。図3には、さらに、第1の導電層404、第2の導電層406、吐出口を形成するための第2のパターン408、マスク410が示されている。
【0021】
図4は比較のために示す従来の構成の製造過程を示す図である。図4は図3の構成で前述のように電界メッキを施し、液室、共通液室や吐出口を形成する過程を示している。
図4(a)は電気メッキの初期段階を示す断面図、図4(b)は電気メッキが導電層に達した状態を示す断面図、そして図4(c)はメッキ工程終盤を示す断面図である。
図4(a)の電気メッキの初期段階において、電界は細いパターンに集中するという性質があるので、電気メッキの初期段階において、溝の細いパターン部分(A)で電界強度が大きくなり、メッキ層は速く成長し、溝の太いパターン部分(B)では電界強度が小さく、メッキ層の成長は遅い。
図4(b)では、電気メッキが導電層406に達し、導電層406上に形成され始めると、細いパターンへの電界集中は緩和される。しかし、初期段階でのパターン幅によるメッキ層成長速度差により、メッキ厚にバラツキが生じる。
図4(c)のメッキ工程終盤では、第2のパターン408の上面を超えないあたりでメッキを終了する。しかし、上述したように、パターン幅の太い部分(B)である420bはメッキ層成長速度が小さく、薄くなったり、最悪の場合には、液室が閉じられないといった不具合が生じる。図4には、さらに、導電層404、406、マスク410を示している。
【0022】
本発明の構成では、流路周辺の隔壁は、液室間の隔壁とほぼ同じ幅で形成されているので、液室周囲の隔壁の高さにバラツキが生じて、吐出口面の高さがばらついたり、液室が閉じられないといった不具合を防止することができる。
また、メッキを行なう面積が小さくなるので、メッキ層成長速度が大きくなり、製造スループットが向上する。さらに、メッキ面積が小さくなることによって、材料となるペレット材の消耗が少なくなり、製造コストを下げることができる。
流路層の厚さの面内バラツキが小さいので、第2の導電層406(19)上のメッキ層厚さも均一になる。よって吐出口2(図1)部分の厚さも各吐出口間で均一となり、バラツキのない液吐出性能が得られる。
【0023】
図2(h)で説明したように、吐出口2(第2のパターン21)の形状を順テーパーとした場合は、吐出口部の厚さのバラツキが吐出口2の大きさのバラツキとなり、吐出バラツキに大きな影響を与える。本発明では吐出口部分の厚さが面内均一となるので、吐出口の大きさも均一となり、吐出バラツキの小さい液体吐出ヘッドの作製が可能となる。
また、液体が貫通口周辺で濡れ拡がると、液体の吐出方向に乱れを生じるので、メッキ層24の表面は撥水性であることが好ましい。このために、少なくとも金属膜(メッキ層24)の最上面は、PTFEなどを析出させる複合メッキを行ない、撥液性を高めることが好ましい。また、添加剤を加えてメッキ処理を行なうことで硬さや表面粗さを制御することもできる。
【0024】
メッキによって形成される金属膜は第2のパターン21の上面を超えないことが好ましい。メッキによる金属膜が第2のパターン21の上面を超えた場合、貫通口断面形状の角が丸まってしまい、着弾精度が下がってしまう。これを防ぐために研磨などの工程を行なわなければならない。
ここで第2のパターン21上面の高さとは、第2のパターン21を形成する溶解可能な樹脂の塗布・乾燥を行なった際の表面がパターニング後に残った領域から基板までの距離の最小値を指す。
例えば、Ni電気メッキを行なう場合、メッキ前処理として5%の希硫酸に浸漬し、所望の濃度と温度のスルファミン酸Ni電鋳浴に入れ、電気メッキ処理を行なう。金属膜の最大厚さが30μmで電気メッキ処理を止める。
その後、スルファミン酸Ni、塩化Ni、ホウ酸、PTFEの微粒子(粒径0.3μm)などを所望の配合で混ぜ、所望の濃度と温度にした電鋳浴に入れ、電気メッキ処理を行なう。Ni−PTFE層が2μmで電気メッキを止め、水洗、乾燥する。
【0025】
図2(k)では、基板の裏面に形成された保護膜16の開口部を介してアルカリ系エッチング液による異方性エッチングやDeepRIE(ICP)法によるエッチングを利用して基板10をエッチング除去する。基板表面に形成された絶縁膜15は、このエッチングエッチング停止層の役割を果たし、絶縁膜15に達すると停止する。
その後、絶縁膜15をドライエッチング法あるいはウェットエッチング法を用いて除去することで溶媒により溶解可能な樹脂膜18が露出した開口部5が形成される。この開口部5は熱エネルギーを利用した液体吐出ヘッドの場合、液室への液体の供給口となる。
アルカリ系エッチング液による異方性エッチングやDeepRIE(ICP)法によるエッチングから基板表面を保護するために、後に除去可能な樹脂を基板表面に塗布したり、裏面側のみ処理可能な治具に基板を装着したりする(図示せず)。
【0026】
図2(l)では、最後に、図2(f)に示すような、溶媒により溶解可能な樹脂膜18、20からなる第1のパターン22及び第2のパターン21を溶媒により溶解して取り除く。
その後、液体の吐出口となる第2のパターン21が除去された後の開口部の底面に露出する第2の導電層19を、ドライエッチングあるいはウェットエッチングなどで除去して吐出口2、液室3及び共通液室4を形成し、図1と同様な液体吐出ヘッド1が完成する。
ここで、第1のパターン22のうちメッキ隔壁の間の溝である22bは、溶媒で除去できないが、機能上、とくに問題はなく、除去する必要はない。除去しないことによって、中空部分がなくなるので、剛性を向上させることができる。
流路層には液室に連通しないパターン22bが設けられており、このパターン間の隔壁の間隔は液室間の隔壁の幅と略同一であるので、液室周囲の隔壁の高さにばらつきが生じて、吐出口面の高さがばらついたり、液室が閉じられないといった不具合を防止することができる。
また、メッキを行う面積が小さくなるので、メッキ層成長速度が大きくなり、製造スループットが向上する。さらに、メッキ面積が小さくなることにより、材料となるペレット材の消耗が少なくなり、製造コストを下げることができる。
後述するように、液室と貫通口を備えた流路構造体を有する圧電素子をアクチュエータに持つ液体吐出ヘッドの場合も、ヒーターでなく圧電素子を形成する点が異なるだけで、液室と貫通口を備えた流路構造体を製造する方法は上記と同様に製造できることは言うまでもない。
【0027】
図5は本発明の液体吐出ヘッドの第2の実施の形態を示す平面透視図である。この第2の実施の形態では、1つの共通液室4から2列の吐出口列110a、110bを千鳥状に配置したものである。一列の吐出口列のピッチを600dpi(約42.3μm)に配列した場合、2列の千鳥状では1200dpiの印字が1パスで可能となる。
天板の液室内壁面の導電層(図示せず)は液室3間、及び2列の液室列間で共通液室4内壁面の導電層を介して連続している。そのため、各液室3、及び共通液室4上の天板の厚さは均一なものが得られる。
また、本実施の形態では、液室3、共通液室4等の流路以外にパターン25が形成されており、周辺の隔壁9は、液室3間の隔壁9bとほぼ同じ幅で、複数形成されている。図5には、さらに、吐出口2、ヒーター14を示している。
このような構成により、電気メッキによりメッキ層を成長させた隔壁の幅は液体吐出ヘッドの全体に渡りほぼ同じものとなり、電気メッキ時の電界は、液体吐出ヘッド全体で均一となる。
よって、電気メッキによるメッキ層の成長速度が均一となり、完成した液体吐出ヘッドの吐出口面は高さバラツキの少ないものが得られる。そのため、吐出口面の余剰液を拭き取るワイピングの特性も良くなり、吐出バラツキの少ない液体吐出ヘッドを得ることができる。
【0028】
図6は本発明の液体吐出ヘッドの第3の実施の形態を示す平面透視図である。第3の実施の形態の液室配列では、流路以外のパターン25が第2の実施の形態とは異なるっている。図6に示す第3の実施の形態は、液室3との擬似パターン25を並べたものである。1つの共通液室4から2列の吐出口列110a、110bを千鳥状に配置している。
パターン25の間の隔壁幅は、液室3間の隔壁9bの幅とほぼ同一としている。本実施の形態のパターンでは、液室3部分と、液室3周辺部分のパターンが同一であるので、パターンによるメッキ層の成長速度の差はより小さくすることができる。
図7は本発明の液体吐出ヘッドの第3の実施の形態の変形例を示す平面透視図である。この変形例は、液室3、流体抵抗部と共通液室4との擬似パターン25を並べたものである。
本変形例のパターンでは、共通液室4も含めた擬似パターンを設けているので、液室周辺部のパターンによるメッキ層の成長速度の差はなくすことができる。この変形例でも、1つの共通液室4から2列の吐出口列110a、110bを千鳥状に配置している。
【0029】
図8は圧電アクチュエータを有する液体吐出ヘッドを示す模式的断面図である。図8の液体吐出ヘッドでは、フレーム50、圧電素子51、フレーム50に形成された、圧電素子51が収まる開口部52及び液体の供給口となる液体供給口53、フレーム50に接合された振動板54を有している。
圧電素子51の力による振動板54の変形で生じた圧力によって液体供給口より液室55に供給された液体は吐出口56から吐出される。図8には、天板57、導電層58、導電層(金属膜)59が示されている。
図9は圧電素子を用いた本発明の液体吐出ヘッドの第2の実施の形態を示す模式的断面図である。フレーム50、圧電素子51、フレーム50に形成された圧電素子51が収まる開口部52、液体の供給口となる液体供給口53、及びフレーム50上に接合された振動板60を有している。
圧電素子51の力による振動板60の変形で生じた圧力によって液体供給口53から液室55に供給された液体は吐出口56から吐出される。本実施の形態では、振動板60と、液室55の隔壁61を電鋳で作製している。吐出口56が設けられた吐出口板62は別部材で作製し、天板57を含む隔壁61に接着接合される。
【0030】
図10は振動板と液室隔壁の作製方法を示す模式的工程断面図である。次に、図9に示した第2の実施の形態の液体吐出ヘッドの振動板60と液室隔壁61の各作成工程(a)〜(h)について、図面を用いて説明する。
図10(a)では、図1の実施の形態の製造方法を示す図2と同様に、基板10上に、メッキのシード膜となる導電層(第1の導電層)17、液室の形状を構成する第1のパターンを形成するための溶媒により溶解可能な樹脂膜18、導電層(第2の導電層)19、後に除去することで液室への液供給口となる第2パターンを形成する溶解可能な樹脂20を順に積層形成する。
図10(b)では、第1のパターン上の導電層19をパターニングするために、第2パターン21を形成する溶解可能な樹脂20を、液室の上面となる部分を残すようにマスクを用いて露光・現像する。この樹脂パターンをマスクとして導電層19を除去する。
【0031】
次に、図10(c)では、導電層19上に残った樹脂膜20に、液供給口となる第2のパターン21を形成するためにマスクを用いて露光する。その後、樹脂膜18を露光した後、現像して液供給口となる21及び液室を形成する樹脂膜18と導電層19の積層膜からなる第1のパターン22を形成することで液室と吐出口とが一体形成された流路パターンが形成される。本実施の形態においても導電層19は液室列の液室間で連続するように構成されている。
図10(d)では、第1のパターン22の周囲にメッキ処理により液室を覆うように導電層17をシード膜として液室の壁面となるメッキ層24を形成する。本実施の形態の構成においても、流路周辺の隔壁は、液室間の隔壁とほぼ同じ幅で形成されているので、液室周囲の隔壁の高さにバラツキが生じて、液供給口面の高さがばらついたり、液室が閉じられないといった不具合を防止することができる。
図10(e)では、第1のパターン22の上方に溶解可能な樹脂を塗布し、フォトリソにより第3の樹脂パターン63を形成する。図10(f)では、導電層17をシード膜とするメッキ処理によりメッキ層24上に振動板の凸形状となるメッキ層64を形成する。
【0032】
図10(g)では、基板10(図10(a))から第1のパターン22及びメッキ層24を剥離する。最後に、図10(h)では、溶媒により溶解可能な樹脂膜からなる第1のパターン22、第2のパターン20及び第3のパターン63(図10(a)、(e))を溶媒により溶解して取り除く。
その後、図9に示すように、図10(h)の製品を、上下を逆にして吐出口板62、圧電素子51、フレーム50を隔壁61に接合接着することによって組み立てることにより、圧電素子51を用いた本発明の液体吐出ヘッドの第2の実施の形態が完成する。
図9及び図10の本実施の形態においても、導電層19は液室列の液室55間で連続するように構成されている。これによって、液室55間の隔壁61を形成するためのメッキ層の成長速度が場所によって僅かにばらついていたとしても、或る1部分でメッキ層が導電層19に達した時点で、すべての液室55上と共通液室上の導電層に通電され、図10(h)で、液室55上の振動板60のメッキ層は同時に成長が始まる。
従って、すべての液室55上の振動板60の同じ厚さで得られる。振動板60の厚さは吐出性能に大きく影響を与えるものであるので、各液室55に対応する振動板60の厚さは高精度に均一にする必要がある。従来のような構成においては、このように高精度な均一性を得ることは不可能であった。
本実施の形態によれば、各液室55に対応する振動板60のメッキ層の成長は同時に開始されるので、高精度に厚さの制御が可能となる。よって、高精度な均一性の要求される振動板の形成にも適用が可能となる。
また、本実施の形態では、流路層には、液室以外のパターンが形成されており、流路層の厚さの面内バラツキが小さいので、導電層19上のメッキ層厚さも均一になる。よって振動板60の厚さも面内均一となり、バラツキのない液吐出性能が得られる。
【0033】
図11は圧電素子を用いた本発明の液体吐出ヘッドの第3の実施の形態を示す模式的断面図である。図12は吐出口板、流路、振動板をメッキで形成する作製方法を示す模式的工程断面図である。
図11及び図12は、圧電素子を用いた本発明の液体吐出ヘッドの第2の実施の形態の吐出口板62、流路、振動板60をメッキで形成する構成及び製造方法を示している。
図11の液体吐出ヘッドは、フレーム50、圧電素子51、液体の供給口となる液体供給口53、液室55、吐出口56、天板57、金属層58、フレーム50上に接合された振動板60、吐出口板62を有している。
図12(a)では、基板10上に、メッキのシード膜となる導電層(第1の導電層)65、液室の形状を構成する第1のパターンを形成するための溶媒により溶解可能な樹脂膜66を形成する。
【0034】
次に、図12(b)では、導電層65上に残った樹脂膜66に、吐出口となる第2のパターン67を形成するためにマスクを用いて露光、現像する。
図12(c)では、メッキ処理により、導電層65をシード膜として吐出口板62となるメッキ層を形成する。メッキ層62がパターン67の厚さより厚くなった後は、メッキ層62はパターン67の上にも成長する。パターン67の大きさは、吐出口56となる開口の大きさと、このパターン67上へのメッキ層62の成長を加味して設計する。
図12(d)では、吐出口板62となるメッキ層の上に、液室の形状を構成する第1のパターン20を形成するための溶媒により溶解可能な樹脂膜18、導電層(第2の導電層)19、後で除去することで液室への液供給口となる第2パターン21を形成する溶解可能な樹脂20を順に積層形成する。
この後は、第2の実施の形態の(b)〜(h)と同じ工程により、図12(e)に示すような吐出口板62、流路、振動板54を一体にメッキで形成したものが得られる。図1に示すように、圧電素子51、及びフレーム50を振動板54に接合接着することによって組み立てることにより、液体吐出ヘッドが完成する。
【0035】
本発明で用いることができる液体吐出ヘッドは、電歪素子に電圧を印加して電歪素子を変形させることでインクを吐出する、いわゆるピエゾ方式であっても良いし、電熱変換素子に電流を流すことで発熱させて、発熱によりインクを発泡させることでインクを吐出する、いわゆるサーマルインクジェット方式であっても良い。
ピエゾ方式を用いる場合、ピエゾ(圧電)素子を拡張させたり縮小したり、ピエゾ素子の変形量を調整したりしてそれらの駆動波形を調整することで、様々な大きさのインク滴を吐出させることができる。そのため、階調性が良好な画像を形成するのに有利である。
一方、サーマルインクジェット方式は、吐出口の高集積化が容易であるため、多ノズルヘッドの作製に向いている。そのため、解像度が高い画像を高速で印刷するのに有利である。
本発明で用いることができるインクジェットヘッドは、インク流路から吐出口にかけての形状が直線的であるエッジシューター方式であっても良いし、インク流路の向きと吐出口の向きが異なるサイドシューター方式であっても良い。
【0036】
図13はエッジシューター方式の液体吐出ヘッドの例を示す概略図である。この液体吐出ヘッドは、ヒーター等の吐出エネルギー発生体4を有する基板に、液室3の側壁及び吐出口2を構成する壁材68及び液室3の覆いを構成する天板11を積層した構成を有する。吐出エネルギー発生体4に吐出信号を印加する電極及び吐出エネルギー発生体4に必要に応じて設けられる保護層などは省略してある。
この液体吐出ヘッドにおいては、インクが貯えられている共通液室(図示せず)からインクの流れ方向68bで液室3にインクが充填された状態で、図示してない電極を介して記録信号を吐出エネルギー発生体4に印加する。
この時、吐出エネルギー発生体4から発生した吐出エネルギーが液室3内のインクに吐出エネルギー発生体4上方(吐出エネルギー作用部)で作用し、その結果、インクが吐出口2から液滴として吐出される。吐出されたインク滴は吐出口2前方に送り込まれた紙などの被記録材に付着される。
【0037】
図13に示したようなエッジシューター方式の液体吐出ヘッドにおいては、各部分の精度良い微細化や吐出口のマルチ化、あるいは小型化が極めて容易であり、また、量産性に富むという利点を有する。その一方で、インク滴吐出の際の応答周波数やインク滴の飛行速度に限界がある。
また、電熱変換素子が発熱することによってインク中に気泡が発生するが、この気泡が温度低下により収縮し、吐出エネルギー発生体4近辺で消滅する際の衝撃により吐出エネルギー発生体4は徐々に破壊される。この現象は、いわゆるキャビテーション現象と呼ばれ、エッジシューター方式において顕著である。そのため、エッジシューター方式の記録ヘッドは寿命が比較的短い。
【0038】
図14はサイドシューター方式の液体吐出ヘッドの例を示す概略図である。図14において、この液体吐出ヘッドは、天板11に吐出口2を設け、破線68cで示されたように液室3内の吐出エネルギー作用部へのインクの流れ方向と吐出口2の開口中心軸とを直角となした構成を有する。
このような構成とすることによって、吐出エネルギー発生体4からのエネルギーを、より効率良くインク滴の形成とその飛行の運動エネルギーへと変換できる。また、インクの供給によるメニスカスの復帰も速いという構造上の利点を有し、吐出エネルギー発生体4に発熱素子を用いた場合にとくに効果的である。
また、図13に示したエッジシューター方式の液体吐出ヘッドにおいて問題となる気泡が消滅する際の衝撃により吐出エネルギー発生体4を徐々に破壊する、いわゆるキャビテーション現象は、サイドシューター方式であれば回避することができる。つまり、サイドシューターにおいて気泡が成長し、その気泡が吐出口2に達すれば、気泡が大気に通じることになり、温度低下による気泡の収縮が起こらない。そのため、液体吐出ヘッドの寿命が長いという長所を有する。
【0039】
図15は本発明に係る液体吐出ヘッドを搭載したインクジェット記録装置の一例を示す概略斜視図である。図16は図15のインクジェット記録装置の機構部を説明する側面図である。
図15及び図16を参照して、このインクジェット記録装置Aは、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ93、このキャリッジ93に搭載した本発明を実施したインクジェットヘッドからなる液体吐出ヘッド、液体吐出ヘッドへインクを供給するインクカートリッジ等で構成される印字機構部82等を収納している。
装置本体81の下方部には前方側から多数枚の記録媒体(用紙)83を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)84を抜き差し自在に装着することができる。また、記録媒体83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができる。
給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される記録媒体83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、記録媒体83を後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
【0040】
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向(図16で紙面垂直方向)に摺動自在に保持している。
このキャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係るインクジェットヘッドからなるヘッド94を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。またキャリッジ93には、ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
インクカートリッジ95は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有している。
この多孔質体の毛管力によってインクジェットヘッドへ供給されるインクを僅かな負圧に維持している。また、記録ヘッドとしてここでは各色のヘッド94を用いているが、各色のインク滴を吐出する吐出口を有する1個のヘッドでもよい。
【0041】
ここで、キャリッジ93は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。
そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装している。このタイミングベルト100はキャリッジ93に固定しており、主走査モータ97の正/逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。
一方、給紙カセット84にセットした記録媒体83をヘッド94の下方側に搬送するために、給紙カセット84から記録媒体83を分離給装する給紙ローラ101及びフリクションパッド102と、記録媒体83を案内するガイド部材103と、給紙された記録媒体83を反転させて搬送する搬送ローラ134と、この搬送ローラ134の周面に押し付けられる搬送コロ105及び搬送ローラ134からの記録媒体83の送り出し角度を規定する先端コロ106とを設けている。この場合、搬送ローラ134は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
そして、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ134から送り出された記録媒体83を記録ヘッド94の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材109を設けている。
【0042】
この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、記録媒体83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設け、さらに、記録媒体83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115、116とを配設している。
記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド94を駆動することにより、停止している記録媒体83にインクを吐出して1行分を記録し、記録媒体83を所定量搬送後次の行の記録を行なう。記録終了信号または、記録媒体83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ、記録媒体83を排紙する。
【0043】
また、キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を配置している。回復装置117はキャッピング手段と吸引手段とクリーニング手段を含んでいる。
キャリッジ93は印字待機中にはこの回復装置117側に移動されてキャッピング手段でヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド94の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され、吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(図示せず)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1の実施の形態である熱エネルギーを利用したサーマルインクジェット方式の液体吐出ヘッドを示す図である。
【図2】熱エネルギーを利用した液体吐出ヘッドの製造工程を模式的に示す工程断面図である。
【図3】比較のために示す従来の構成の製造過程を示す図である。
【図4】比較のために示す従来の構成の製造過程を示す図である。
【図5】本発明の液体吐出ヘッドの第2の実施の形態を示す平面透視図である。
【図6】本発明の液体吐出ヘッドの第3の実施の形態を示す平面透視図である。
【図7】本発明の液体吐出ヘッドの第3の実施の形態の変形例を示す平面透視図である。
【図8】圧電アクチュエータを有する液体吐出ヘッドを示す模式的断面図である。
【図9】圧電素子を用いた本発明の液体吐出ヘッドの第2の実施の形態を示す模式的断面図である。
【図10】振動板と液室隔壁の作製方法を示す模式的工程断面図である。
【図11】圧電素子を用いた本発明の液体吐出ヘッドの第3の実施の形態を示す模式的断面図である。
【図12】吐出口板、流路、振動板をメッキで形成する作製方法を示す模式的工程断面図である。
【図13】エッジシューター方式の液体吐出ヘッドの例を示す概略図である。
【図14】サイドシューター方式の液体吐出ヘッドの例を示す概略図である。
【図15】本発明に係る液体吐出ヘッドを搭載したインクジェット記録装置の一例を示す概略斜視図である。
【図16】図15のインクジェット記録装置の機構部を説明する側面図である。
【符号の説明】
【0045】
A 画像形成装置、1 液体吐出ヘッド、2 流路層(吐出口)、3 流路層(液室)、4 流路層(共通液室)、6 メッキ層、7 導電層(第1の導電層)、8 導電層(第2の導電層)、9 隔壁、10 基板、11 天板、12 流体抵抗部、14 ヒーター、17 導電層(第1の導電層)、18 樹脂膜(第1のパターン22)、19 導電層(第2の導電層)、20 樹脂膜(第2のパターン21)、24 メッキ層、51 圧電素子、54 振動板、81 記録装置本体、82 印字部(印字機構部)、84 給紙部(給紙カセット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電層上のメッキ層によって形成された液室を有する流路層と、該流路層へのメッキによって形成されかつ前記液室の天板となる天板層と、を備え、前記天板の前記液室内壁面には前記メッキ層とは異なる導電層が形成され、前記導電層は複数の前記液室間で連続して形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記天板層には変形可能な振動板が形成されていることを特徴とする請求項1の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記天板層には液体を吐出する吐出口が形成されていることを特徴とする請求項1の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
複数の前記液室が配列された液室列が複数設けられ、前記導電層は複数の液室列間で連続していることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
複数の液室が流体抵抗部を介して共通して連通する共通液室を、前記流路層に設けたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記流路層には前記液室に連通しないパターンが設けられており、前記パターン間の隔壁の間隔は前記液室間の隔壁の幅と略同一であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記パターンは形状と間隔が液室と類似したパターンであることを特徴とする請求項6の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
給紙部から送られた記録媒体上に画像を印字形成する画像形成装置において、印字部の液体吐出ヘッドとして請求項1乃至7の何れか1項記載の液体吐出ヘッドを搭載することを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
少なくとも2層以上のメッキ層からなり、前記メッキ層のうち少なくとも1層は液室が形成された流路層であり、別のメッキ層は液室の天板となる天板層であり、天板の液室内壁面にメッキ層とは別の導電層が形成されている液体吐出ヘッドの製造方法おいて、
基板上に液室形状に型材を形成する工程と、前記型材上に複数の前記型材間で連続する導電層を形成する工程と、メッキ処理による流路層を前記型材の周囲に形成する工程と、前記流路層上と前記導電層が電気的に接続した後にさらにメッキ処理を行ない、前記天板層を形成する工程と、所定の厚さで前記天板層のメッキ処理を停止する工程と、前記型材を除去して前記液室を形成する工程と、を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−12434(P2009−12434A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180300(P2007−180300)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】