説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】所望の波形を印加することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置、並びに液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】導電性液体を噴射する液体噴射面にノズル開口21が穿設された金属製のノズルプレート20と、ノズル開口21に連通する圧力発生室12が設けられた流路形成基板10と、電気信号に応じて圧力発生室12に圧力を発生させる圧電素子300とを備えた液体噴射ヘッドであって、ノズルプレート20の液体噴射面のノズル開口21の周囲に撥液膜24が設けられ、ノズルプレート20の少なくとも噴射させる導電性液体と接触する領域に絶縁膜(下地膜23)が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドI。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに液体噴射ヘッドの製造方法に関し、特に、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置並びにインクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表例としては、液滴としてインク滴を噴射するインクジェット式記
録ヘッドが挙げられる。このインクジェット式記録ヘッドの構造としては、例えば、圧力
発生室が形成された流路形成基板の一方面側に圧電素子等の圧力発生手段が設けられると
共に、流路形成基板の他方面側にノズル開口が穿設されたノズルプレートが接合されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、このようなインクジェット式記録ヘッドでは、ノズルプレートが金属等の導電性材料からなるものがある。
【0004】
【特許文献1】特開2004−98672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなインクジェット式記録ヘッドを駆動させた場合、圧力発生室からノズル開口に至るまで満たされたインクを媒介して、圧電素子の下電極からノズルプレートへ電流のリークが発生する場合がある。この際に流れる電流が大きくなると、圧電素子を実駆動する際に正確な電圧が得られず、所望の波形が印加されなくなってしまう。
【0006】
このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけではなく、勿論、インク以外を吐出する他の液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。また、薄膜型の圧電素子を有する液体噴射ヘッドだけではなく、電気信号に応じて圧力発生室に圧力を発生させる圧力発生手段を有する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0007】
本発明は、上記従来技術に鑑み、所望の波形を印加することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置、並びに液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の態様は、導電性液体を噴射する液体噴射面にノズル開口が穿設された金属製のノズルプレートと、前記ノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板と、電気信号に応じて前記圧力発生室に圧力を発生させる圧力発生手段とを備え、前記ノズルプレートの液体噴射面の前記ノズル開口の周囲に撥液膜が設けられ、
前記ノズルプレートの少なくとも前記圧力発生室側の噴射させる導電性液体と接触する領域に絶縁膜が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、噴射する導電性液体が金属製のノズルプレートの圧力発生室側の噴射させる導電性液体と接触する領域に直接接触することがなく、導電性液体を介した圧力発生手段からノズルプレートへ電流のリークの発生を有効に防止することができる。これにより、所望の波形を印加することができるものとなる。
【0009】
ここで、前記ノズルプレートの前記ノズル開口の壁面にまで絶縁膜が設けられていることが好ましい。噴射する導電性液体が金属製のノズルプレートに直接接触することがなく、導電性液体を介した圧力発生手段からノズルプレートへ電流のリークの発生をより有効に防止することができる。
【0010】
また、前記撥液膜は、無機酸化膜からなる下地膜表面に設けられ金属アルコキシドの分子膜からなり、前記絶縁膜は前記下地膜からなることが好ましい。撥液膜の下地膜を絶縁膜とすることにより、導電性液体を介した圧力発生手段からノズルプレートへ電流のリークの発生を有効に防止することができる低コストの液体噴射ヘッドを提供できる。
【0011】
また、本発明の他の態様は、上記のような液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。かかる態様では、導電性液体を介した圧力発生手段からノズルプレートへ電流のリークの発生を有効に防止した液体噴射装置を提供できる。
【0012】
さらに、本発明の他の態様は、導電性液体を噴射する液体噴射面にノズル開口が穿設された金属製のノズルプレートと、前記ノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板と、電気信号に応じて前記圧力発生室に圧力を発生させる圧力発生手段とを備え、前記ノズルプレートの液体噴射面の前記ノズル開口の周囲に撥液膜が設けられ、前記ノズルプレートの少なくとも前記圧力発生室側の噴射させる導電性液体と接触する領域に絶縁膜が設けられた液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記ノズルプレートの全面にケイ素を含有する材料をプラズマ重合することによりプラズマ重合膜を形成する工程と、前記プラズマ重合膜の表面を活性化処理により酸化することにより絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜表面に前記金属アルコキシドの分子膜からなる撥液膜を形成する工程と、前記ノズルプレートの少なくとも前記圧力発生室側の噴射させる導電性液体と接触する領域の前記撥液膜を除去して絶縁膜を表出させる工程と、前記圧電素子を設けた流路形成基板と前記ノズルプレートとを接合する工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、工程数を増やすことなく、ノズルプレートの少なくとも圧力発生室側の噴射させる導電性液体と接触する領域に絶縁膜を容易に形成することができる。
【0013】
ここで、前記ノズルプレートの前記圧力発生室側の噴射させる導電性液体と接触する領域をアルゴンプラズマガスにより処理して、前記ノズルプレートの噴射させる導電性液体と接触する面の前記撥液膜を除去することが好ましい。これによれば、より容易にノズルプレートの撥液膜を除去することができ、ノズルプレートの圧力発生室側の噴射させる導電性液体と接触する領域に絶縁膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図であり、図3は、その要部を示す拡大断面図である。
【0015】
図示するように、本実施形態では、流路形成基板10はシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化によって二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。この流路形成基板10には、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12がその幅方向(短手方向)に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、インク供給路14と連通路15とが隔壁11によって区画されている。また、連通路15の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成されている。すなわち、本実施形態では、流路形成基板10に形成された液体流路として、圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13が設けられている。
【0016】
流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。このノズルプレート20は、金属製の材料、例えば、ステンレス鋼(SUS)で形成されている。なお、ノズルプレート20のノズル開口21は、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部で連通されている。そして、本実施形態では、このノズルプレート20のノズル開口21が開口する液体噴射面Aには、下地膜23を介して撥液膜24が設けられている。
【0017】
下地膜23は、ノズルプレート20の全面、すなわち、液体噴射面A、液体流路面B(圧力発生室側)及びノズル開口21の壁面に形成されている。この下地膜23は、ケイ素を含有する材料をプラズマ重合することによりプラズマ重合膜とし、このプラズマ重合膜の表面を活性化処理により酸化することで形成されるものであり、本実施形態では、シリコーン材料のプラズマ重合膜の表面を酸化して二酸化シリコンとしたものからなる。下地膜23は、液体噴射面Aにおいては、撥液膜24とノズルプレート20との密着性を向上する役割があり、液体流路面Bの噴射させる導電性液体と接触する領域及びノズル開口21の壁面においては、後述する圧電素子300の下電極膜60部分からノズルプレート20への電流のリークを防止する絶縁膜として作用する。このため、下地膜23は、ノズルプレート20の液体流路面Bにおいては、少なくとも噴射させる導電性液体と接触する領域に形成されていれば良い。ここでいう噴射させる導電性液体と接触する領域とは、具体的には、ノズルプレート20の圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13の底面のことである。
【0018】
また、下地膜23の液体噴射面Aの全面に亘って、撥液膜24が形成されている。なお、撥液膜24は、液体噴射ヘッドの目的に応じてその一部が除去されていてもよく、例えば、撥液膜24は、液体噴射面Aの中央部のみに形成していてもよい。すなわち、ノズルプレート20の液体噴射面Aのノズル開口21が開口する領域を含む中央部は、撥液膜24が設けられた撥液領域とし、ノズルプレート20の液体噴射面Aの四方の外周に沿って撥液膜24が設けられていない非撥液領域としてもよい。
【0019】
撥液膜24は、撥液性を有する金属アルコキシドの分子膜からなり、例えば、フルオロカーボン基を有するシランカップリング剤をシンナー等の溶媒と混合して金属アルコキシド溶液を形成し、この金属アルコキシド溶液にノズルプレート20を浸漬することで、金属アルコキシドの重合した撥液膜24を形成することができる。この分子膜からなる撥液膜24は、共析メッキによる撥液膜よりも薄く形成できると共に、ヘッド面をクリーニングする際にワイピングによって液体噴射面Aが拭かれることによっても撥液性が劣化しない「耐擦性」、及び撥液性を向上できるという利点を有する。勿論、「耐擦性」、「撥液性」は劣るが、共析メッキによる撥液膜を用いることもできる。
【0020】
流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には下電極膜60と、圧電体層70と、上電極膜80とで構成される圧電素子300が形成されている。本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエータと称する。なお、振動板とは圧力発生室12の一方面を構成し圧電素子300の駆動により変形が生じる部分をいう。本実施形態では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0021】
また、このような各圧電素子300の上電極膜80には、流路形成基板10のインク供給路14とは反対側の端部近傍まで延設された金(Au)等のリード電極90がそれぞれ接続されている。このリード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加される。
【0022】
さらに、圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、連通部13に対向する領域にリザーバ部31が設けられた保護基板30が接着層35を介して接合されている。このリザーバ部31は、上述したように、流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。
【0023】
また、保護基板30には、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。なお、圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバ部31のみをリザーバとしてもよい。すなわち、流路形成基板10に圧力発生室12とインク供給路14のみを形成してもよい。
【0024】
また、保護基板30上には、圧電素子300を駆動するための駆動回路120が実装されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とはボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0025】
保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましい。
【0026】
また、保護基板30の圧電素子保持部32とリザーバ部31との間の領域には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。各圧電素子300から引き出されたリード電極90は、その端部近傍が貫通孔33内で露出されている。
【0027】
保護基板30のリザーバ部31に対応する領域には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0028】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0029】
上述した構成からなる液体噴射ヘッドは、ノズルプレート20の液体流路面Bの少なくとも噴射させる導電性液体と接触する領域及びノズル開口21の壁面が絶縁膜(下地膜)23により覆われていることにより、噴射する導電性液体が金属製のノズルプレート20の表面に直接接触することがなく、圧力発生室12からノズル開口21に至るまで満たされた導電性液体(本実施形態ではインク)を媒介として、圧電素子300からのリーク電流の発生を有効に防止することができる。
【0030】
ここで、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明する。なお、図3〜5は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【0031】
まず、図3(a)に示すように、所定厚さのシリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110上に振動板を介して圧電素子300及びリード電極90を形成する。すなわち、流路形成基板用ウェハ110上に所定材料を順次積層及びパターニングして、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60、圧電体層70、上電極膜80及びリード電極90を形成する。なおこれら圧電素子300等の製造方法は、公知の技術であるため詳しい説明は省略する。
【0032】
次に、図3(b)に示すように、保護基板30が複数一体的に形成されるシリコンウェハである保護基板用ウェハ130を、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、エポキシ系の接着剤等からなる接着層35によって接合する。ここで、保護基板用ウェハ130には、圧電素子保持部32、リザーバ部31及び貫通孔33が予め形成されている。
【0033】
次いで、図3(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110を所定の厚さとなるまで薄くした後、図4(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、保護膜52を新たに形成して所定形状にパターニングする。そして、図4(b)に示すように、この保護膜52をマスクとして流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチング(ウェットエッチング)して、流路形成基板用ウェハ110に圧力発生室12、インク供給路14、連通路15、連通部13を形成する。
【0034】
その後は、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハ110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによってインクジェット式記録ヘッドが製造される。このノズルプレート20は、以下説明する方法により製造した。
【0035】
まず、SUS板からなるノズルプレート20に打ち抜き加工等によりノズル開口21を形成し、図5(a)に示すように、ノズルプレート20の全面に亘って下地膜23を形成する。下地膜23は、ノズルプレート20の全面にプラズマ重合膜を成膜し、このプラズマ重合膜に表面活性化処理を行うことにより形成される。プラズマ重合膜は、例えば、シロキサンを気化させた原料ガスにアルゴンガス等を混合して原料を重合させ、プラズマ重合装置を用いて形成することができる。このプラズマ重合膜の表面活性化処理では、プラズマまたは紫外線照射処理・熱処理等によりプラズマ重合膜の表面を酸化する。なお、下地膜23は、液体成膜法(塗布、スプレー、浸漬等)で成膜された膜、蒸着膜、スパッタリング膜等を活性化処理により酸化したものであってもよい。
【0036】
次に、図5(b)に示すように、ノズルプレート20の全面に亘って金属アルコキシドの分子膜からなる撥液膜24を形成する。すなわち、ノズルプレート20の下地膜23上全面に亘って撥液膜24を形成する。なお、撥液膜24の形成方法は、特に限定されず、例えば、フルオロカーボン基を有するシランカップリング剤をシンナー等の溶媒と混合して金属アルコキシド溶液を形成し、この金属アルコキシド溶液にノズルプレート20を浸漬することで形成することができる。フルオロカーボン基としては、パーフルオロアルキル基、アルキル基の水素の一部がフッ素置換されたフルオロアルキル基、パーフルオロポリエーテルからなる基等が挙げられる。フルオロカーボン基を有するシランカップリング剤の具体例としては、ヘプタトリアコンタフルオロイコシルトリメトキシシランなどが挙げられ、本実施形態ではヘプタトリアコンタフルオロイコシルトリメトキシシランを重合した膜を撥液膜とした。勿論、本発明において、このヘプタトリアコンタフルオロイコシルトリメトキシシランに限定されるものではない。
【0037】
そして、図5(c)に示すように、ノズルプレート20の液体噴射面Aのみに保護膜25を形成し、プラズマ処理することにより、保護膜25によって覆われていない露出された領域(液体流路面B及びノズル開口21の壁面)の撥液膜24を選択的に除去する。プラズマ処理には、大気圧下でプラズマ化したアルゴンガスを用いる。保護膜25に覆われていない部分の撥液膜24は、プラズマ化したアルゴンガスにより分解されて除去される。なお、保護膜25は、プラズマ処理に対して耐性を有し、且つ剥離性の良いものであれば特に限定されないが、例えば、樹脂製フィルムやレジスト膜などが挙げられる。
【0038】
図5(d)に示すように、保護膜25を除去することで、所望の領域(ここでは液体噴射面A)のみに撥液膜24を形成することができる。すなわち、液体噴射面Aには、下地膜23及び撥液膜24が形成され、液体流路面B及びノズル開口21の壁面には、絶縁膜となる下地膜23のみが形成された状態となる。なお、液体噴射面Aに非撥液領域を形成する場合も同様に、ノズルプレート20の液体噴射面Aの撥液領域のみを選択的に覆うことで、非撥液領域を選択的に容易に形成することができる。
【0039】
ところで、ノズルプレート20と、一方面側に圧電素子等を備えた流路形成基板用ウェハ110とを接着する際には、ノズルプレート20と流路形成基板用ウェハ110の接着領域に、プライマ液を塗布するプライマ処理を行ってから接着する。プライマ液の塗布方法は特に限定されず、例えば、接着領域にプライマ液を噴射や流出させて塗布すればよい。このようにプライマ処理を行うことにより、除去した撥液膜の撥液性が残っていた場合も確実に接着することができる。また、ノズルプレート20と流路形成基板用ウェハ110との接着強度が向上して、さらに剥離等の破壊が発生するのを確実に防止できる。なお、下地膜23が導電性液体と接触する領域にのみ形成されている場合は、プライマ処理を行わなくてもよい。
【0040】
本実施形態の液体噴射ヘッドの製造方法では、工程数を増やすことなく、ノズルプレートの導電性液体が接触する面に絶縁膜を容易に形成することができる。
【0041】
また、本実施形態では、撥液膜24を形成する際に形成される下地膜23を絶縁膜として使用することで、液体流路面B及びノズル開口21の壁面に絶縁膜を新たに形成するのに比べて製造工程を簡略化することができる。製造工程を簡略化することによりコストを低減することができる。
【0042】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態1を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
【0043】
上述した実施形態1では、ノズルプレート20の液体流路面B及びノズル開口21の壁面の下地膜23を絶縁膜としたが、これに限定されず、新たに絶縁膜を形成してもよい。例えば、ノズルプレート20の全面に下地膜23及び撥液膜24を形成し、ノズルプレート20の液体流路面Bの少なくとも噴射させる導電性液体と接触する領域及びノズル開口21の壁面の下地膜23及び撥液膜24を除去した後に、ノズルプレート20の液体流路面Bの少なくとも噴射させる導電性液体と接触する領域及びノズル開口21の壁面にスパッタリング法又はCVD法により絶縁膜を成膜してもよい。このとき、絶縁膜の材料は、絶縁性を有する材料であれば特に限定されない。ここでいう絶縁性を有するとは、液体噴射ヘッドを駆動させた際に所望の波形を印加することができる、すなわち、駆動させた際に問題となるほどの電流が流れない程度の電気抵抗値を有することをいう。かかる絶縁性を有する材料としては、例えば、硬質プラスチック等の樹脂材料、あるいは酸化シリコン(SiOx)、窒化シリコン(SiN)、酸化タンタル(TaOx)、酸化ジルコニウム、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化タングステン、窒化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭化珪素、炭化チタン、炭化タングステン、炭化タンタル等が挙げられる。
【0044】
新たに絶縁膜を設ける場合は、下地膜23を設けずに、撥液膜として、例えば、フッ素系高分子を含む金属膜をノズルプレート20上に直接形成してもよい。このような金属膜からなる撥液膜は、例えば、共析メッキにより所定の厚さで高精度に形成することができる。なお、金属膜からなる撥液膜は、ノズルプレート20の全面に亘って撥液膜を形成し、撥液膜を残したい領域を保護膜等の保護部材で保護した後、撥液膜の余分な領域をドライエッチングやウェットエッチングなどで除去することにより撥液領域と非撥液領域とを形成すればよい。その後、上述したように、スパッタリング法又はCVD法により絶縁膜を成膜する。
【0045】
また、金属製のノズルプレート20の全面を酸化処理して絶縁膜を形成した後に、液体噴射面Aのみに撥液膜24を設けようにしてもよい。なお、撥液膜24と絶縁膜との接着性が低い場合は、液体噴射面Aの絶縁膜を除去した後に、撥液膜24を設けるようにする。
【0046】
上述した実施形態1では、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として、薄膜型の圧電素子300を有するアクチュエータ装置を用いて説明したが、特にこれに限定されず、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のアクチュエータ装置や、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型のアクチュエータ装置などを使用することができる。また、圧力発生手段として、圧力発生室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズル開口から液滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口から液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエータなどを使用することができる。
【0047】
なお、上述した実施形態1のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図6は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0048】
図6に示すように、インクジェット式記録装置IIは、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bを具備する。記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0049】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0050】
また、液体噴射ヘッドとしてインクジェット式記録ヘッドIを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。適用可能な液体噴射ヘッドとしては、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図6】一実施形態に係るインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0052】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、10 流路形成基板、12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 15 連通路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 23 下地膜(絶縁膜)、 24 撥液膜、 30 保護基板、 31 リザーバ部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 90 リード電極、 100 リザーバ、 300 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性液体を噴射する液体噴射面にノズル開口が穿設された金属製のノズルプレートと、前記ノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板と、電気信号に応じて前記圧力発生室に圧力を発生させる圧力発生手段とを備え、
前記ノズルプレートの液体噴射面の前記ノズル開口の周囲に撥液膜が設けられ、
前記ノズルプレートの少なくとも前記圧力発生室側の噴射させる導電性液体と接触する領域に絶縁膜が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記ノズルプレートの前記ノズル開口の壁面にまで絶縁膜が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記撥液膜は、無機酸化膜からなる下地膜表面に設けられ金属アルコキシドの分子膜からなり、前記絶縁膜は前記下地膜からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
導電性液体を噴射する液体噴射面にノズル開口が穿設された金属製のノズルプレートと、前記ノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板と、電気信号に応じて前記圧力発生室に圧力を発生させる圧力発生手段とを備え、前記ノズルプレートの液体噴射面の前記ノズル開口の周囲に撥液膜が設けられ、前記ノズルプレートの少なくとも前記圧力発生室側の噴射させる導電性液体と接触する領域に絶縁膜が設けられた液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記ノズルプレートの全面にケイ素を含有する材料をプラズマ重合することによりプラズマ重合膜を形成する工程と、前記プラズマ重合膜の表面を活性化処理により酸化することにより絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜表面に前記金属アルコキシドの分子膜からなる撥液膜を形成する工程と、前記ノズルプレートの少なくとも前記圧力発生室側の噴射させる導電性液体と接触する領域の前記撥液膜を除去して絶縁膜を表出させる工程と、前記圧電素子を設けた流路形成基板と前記ノズルプレートとを接合する工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記ノズルプレートの少なくとも前記圧力発生室側の噴射させる導電性液体と接触する領域をアルゴンプラズマガスにより処理して、前記ノズルプレートの噴射させる導電性液体と接触する面の前記撥液膜を除去することを特徴とする請求項5に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−190296(P2009−190296A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34110(P2008−34110)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】