液体噴射装置
【課題】液体噴射ヘッドを保守する保守手段への導入圧を調整するバルブユニットを備え、バルブユニットにおいて3種類の開閉の組合せを実現できるとともに小型化を図りやすい液体噴射装置を提供する。
【解決手段】バルブユニットは、弁体部201を共有する吸引流路弁210及び大気流路弁216からなる流路弁204を複数内蔵する。弁体部201は大気閉弁バネ202により大気流路弁216を閉弁させる方向へ付勢されている。バルブ加圧体191が押し込まれると与圧バネ194を介してバルブ押圧体193が弁体部201を押し、その押し込み量に応じて流路弁204の開閉状態が3段階に切り換えられる。弁体部201が弁座211aに密接する同図の状態で大気流路弁216が閉じ、弁体部201が弁座211aから離れると大気流路弁216及び吸引流路弁210が共に開き、弁体部201が弁座207aに密接すると、吸引流路弁210が閉じる。
【解決手段】バルブユニットは、弁体部201を共有する吸引流路弁210及び大気流路弁216からなる流路弁204を複数内蔵する。弁体部201は大気閉弁バネ202により大気流路弁216を閉弁させる方向へ付勢されている。バルブ加圧体191が押し込まれると与圧バネ194を介してバルブ押圧体193が弁体部201を押し、その押し込み量に応じて流路弁204の開閉状態が3段階に切り換えられる。弁体部201が弁座211aに密接する同図の状態で大気流路弁216が閉じ、弁体部201が弁座211aから離れると大気流路弁216及び吸引流路弁210が共に開き、弁体部201が弁座207aに密接すると、吸引流路弁210が閉じる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタ等の液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばプリンタなどの液体噴射装置は、液体を噴射するノズルを有する液体噴射ヘッド(例えば記録ヘッド)を備え、ノズルから液体を噴射することで印刷が行われる。印刷を行う記録ヘッドの方式には、記録ヘッドを走査させながら液滴を吐出して印刷を行う走査方式と、印刷可能な最大幅全域に渡ってノズル群が配列された長尺のラインヘッドあるいはノズル群が跨って設けられた複数個の記録ヘッドからなるマルチヘッドを用いて、記録ヘッドは固定したまま記録媒体が搬送されて印刷が行われる非走査方式とがある。
【0003】
液体を噴射するノズルは、インクが吐出されない期間が長くなるとそのノズル内のインクの増粘や固着が原因で目詰まりを起こす。このため、プリンタには記録ヘッドをメンテナンスするメンテナンス装置が設けられている(例えば特許文献1〜7等)。
【0004】
メンテナンス装置は、記録ヘッドのノズルが開口する面(以下、「ノズル形成面」という)にノズル開口を囲うように当接することによりノズル形成面を封止可能に形成されたキャップと、ノズル形成面を封止したキャップ内に吸引作用を及ぼして該キャップの封止空間に負圧を発生させる吸引ポンプとを備える。キャップの封止空間に負圧が発生することで、ノズルからインク(液体)を吸引する吸引クリーニング(吸引回復処理)が行われる。この吸引クリーニングによってノズル内の増粘または固着したインクやインク中の気泡が除去され、ノズルはインクを良好に吐出可能な状態に回復する。また、メンテナンス装置はノズル形成面をワイピングするワイパを備え、吸引クリーニング後は、ワイパでノズル形成面をワイピングしてノズル形成面に付着したインクや紙粉等を取り除くようにしている。さらに、ワイピングはノズル内のインクのメニスカス(以下、「ノズルメニスカス」という)の形状等を整える機能も果たしている。ノズルメニスカスの形状等のばらつきは、液滴の吐出量のばらつきをもたらし、この液滴のばらつきがもたらす印刷ドットサイズのばらつきによる印刷品質の低下に繋がるが、ワイピングでノズルメニスカスを整えることで、良好な印刷品質を保つようにしている。
【0005】
また、特許文献1には、異なるインクを吐出可能な複数のノズル群を備えた記録ヘッドの吸引クリーニングを行う装置が開示されている。この装置は、複数のノズル群を有するノズル形成面に当接と離間が可能なインク受け手段(キャップ)と、インク受け手段内のインクを吸引する吸引手段とを備える。インク受け手段は、記録ヘッドのノズル形成面に当接した状態で互いに区画された複数の空間部を形成可能な複数のインク受け部を備え、隣接するインク受け部は記録ヘッドのノズル形成面に当接可能な単一の区画手段(遮断リブ)により区画されていた。吸引手段はインク受け手段内の区画ごとに個別にインクを吸引可能となっており、吸引動作によって吸引する区画が切り替わる切り替え弁手段(弁装置)を有していた。この弁装置は、ポンプチューブを介してポンプに連結されたシリンダとピストンからなる。シリンダにはキャップ内のリブで区画されたカラーインク吐出口用キャップ部と黒インク吐出口用キャップ部にそれぞれ対応したチューブが接続される吸引チューブ接続用孔と、吸引ポンプに接続されるポンプチューブ接続用孔とが設けられていた。モータ等の駆動によってピストンが上下動する際、シリンダの内壁面を摺動するOリングの位置が移動することでポンプチューブ接続用孔との連通先が2つの吸引チューブ接続孔のうちどちらかに切り換えられる構成となっていた。また、特許文献1には、この弁装置とポンプとが一体化された構成の弁付きポンプも開示されている。この特許文献1の技術によれば、インクタンクを交換した場合の記録ヘッドのノズル群からのインク吸引を、交換されなかったインクタンクと対応するノズル群からはインクを吸引しない構成をとることができ、インクの無駄をなくすことができるうえ、ノズルにおけるインクの混色を防止することができる。
【0006】
また、インク吸引後には、キャップ内やキャップに接続された吸引用チューブ内に残存したインクを廃液タンクへ回収するために空吸引が行われる。空吸引は、ノズルからインクを吸引しないように、キャップを大気開放した状態で吸引ポンプが駆動される。例えば特許文献2には、キャップ本体内部を大気開放する大気開放弁と吸引ポンプを備え、インク吸引後に大気開放弁を開いた状態で吸引ポンプを駆動して空吸引を行うメンテナンス機構が開示されている。大気開放弁は、キャップ本体が付勢部材の付勢力によりキャップホルダから突出する状態で開弁し、キャップ本体を付勢部材の付勢力に逆らって所定量だけ押し込むと、閉状態に切り換わる構成となっていた。キャップホルダはキャップ駆動用のキャップ側移動ピンが、円筒カムの回転に伴って円筒カムのカム溝に案内されることで上下動する。キャップホルダがノズル形成面に最も接近したインク吸引位置では、キャップ本体は大気開放弁が閉状態でノズル形成面にキャッピングされ、インク吸引位置から後退したインク空吸引位置では、キャップ本体は大気開放弁が開状態でノズル形成面にキャッピングされる構成となっていた。
【0007】
また、吸引クリーニングは一定時間以上経過する度に行われる定期クリーニングとして通常行われるが、定期クリーニングの実施時期の前でも吐出不良ノズルが発生する場合がある。このため、吐出不良ノズルの有無を検出して、吐出不良ノズルが検出されれば定期クリーニングの前でもクリーニングを実施することが望ましい。この種の吐出不良ノズルの有無を判定する装置としては、特許文献6に開示されたレーザー光を利用する方式や、特許文献7に開示された印刷パターンに照射した光の反射光を検出する方式が知られている。
【特許文献1】特許第3155871号
【特許文献2】特開2003−154686号公報
【特許文献3】特開平11−91140号公報
【特許文献4】特開平11−115275号公報
【特許文献5】特開2002−264350号公報
【特許文献6】特開2002−210983号公報
【特許文献7】特開2004−330495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献6及び特許文献7に記載の検出装置を用いて、吐出不良ノズルが検出された場合に、その検出された吐出不良ノズルを含むノズル列を選択して吸引クリーニングを行えば、クリーニング等の印刷以外で消費される無駄なインクの消費量を低減することができる。
【0009】
しかしながら、吸引・非吸引の選択をする構成を採用しようとすると、キャップ毎に個別に吸引・非吸引・空吸引の選択をする必要がある。このため、吸引ポンプから各キャップに接続される各流路上に吸引流路弁が必要となる。また、大気開放弁もキャップ毎に設ける必要がある。また、非吸引を選択したキャップでは、特許文献2の技術のように、キャップがノズル形成面に当接するときに大気開放流路が開いていることが望ましい。これは、キャップがノズル形成面に当接したときにキャップの弾性部分が変形してキャップ内の圧力が上昇しその圧がノズル内に加わってノズルメニスカスを破壊する虞があるからである。特許文献3に開示された大気開放弁であれば、キャップ毎に設けることは可能であるが、円筒カムを含むカム機構をキャップ毎に設ける必要があるので、大気開放弁機構が大型なものになるという問題がある。また、大気開放弁とは別にキャップ毎に吸引流路弁を設ける必要がある。この場合、特許文献1又は特許文献2に開示された弁装置を採用することが考えられる。しかし、特許文献1の弁装置は、シリンダとピストンを備えた体格の比較的大型なものになり、この弁装置を吸引流路弁として採用した場合は、バルブユニットが大型になって、メンテナンス装置の大型化、ひいては液体噴射装置の大型化を招くという問題があった。
【0010】
なお、吸引・空吸引・非吸引の3種類を実現するためには、吸引流路弁と大気開放弁の開閉の組合せを、吸引時に吸引流路弁を開弁状態・大気開放弁を閉弁状態とし、空吸引時には両方を開弁状態とし、非吸引時は吸引流路弁を閉弁状態・大気開放弁を開弁状態とする必要がある。このように選択的に吸引を行うメンテナンス装置に備えられるバルブユニットには、3種類の開閉の組合せを実現できるとともに体格が小型であることが求められる。
【0011】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであってその目的は、液体噴射ヘッドを保守する保守手段への導入圧を調整するバルブユニットを備えた液体噴射装置において、バルブユニットにおいて3種類の開閉の組合せを実現できるとともに小型化を図りやすい液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、液体を噴射するノズルを有する液体噴射ヘッドと、該液体噴射ヘッドの保守に用いられる保守手段と、該保守手段に圧力を導入するために用いられる圧力源と、該圧力源から前記保守手段への導入圧を切り換えるために用いられるバルブユニットとを備え、該バルブユニットは、弁体と、該弁体を間に挟んで配置された第1流路形成部材及び第2流路形成部材とを備え、前記弁体の両側には該弁体と前記第1流路形成部材との間に第1流路が形成されるとともに、該弁体と前記第2流路形成部材との間に第2流路が形成され、前記弁体は、該弁体を一方向に移動させると前記第1流路を閉弁する第1流路弁と、前記弁体を他方向に移動させると前記第2流路を閉弁する第2流路弁とが、前記弁体を間に挟んで該弁体を共有して構成され、前記第1流路弁は、前記保守手段と前記圧力源との間の流路の一部を構成する圧力流路を開閉する圧力流路弁であり、前記第2流路弁は、前記保守手段を大気に開放するための大気流路を開閉する大気開放弁であることを要旨とする。なお、保守手段とは、液体噴射装置にクリーニング等を含む各種の保守のために備えられた手段であり、導入圧の切り換えにより保守を行うものである。保守手段の一例としては、液体噴射装置が備える液体噴射ヘッドのノズルクリーニングを行うためのメンテナンス装置に備えられるキャッピング手段等が挙げられる。以下、保守手段の一つであるキャッピング手段としてキャップ部という場合は、一つのキャップに限定されることなく、1つのキャップ内を区画して形成されるキャップ区画部を含むものとする。
【0013】
これによれば、液体噴射ヘッドの保守のために備えられた保守手段への導入圧を切り換えるバルブユニットでは、弁体を間に挟んだ両側に、第1流路弁により開閉される第1流路と第2流路弁により開閉される第2流路が各々位置し、第1流路弁及び第2流路弁は共有する弁体を間に挟んでその両側に対峙するように配置される。そして、弁体を一方向に移動させると第1流路が閉弁し、弁体を他方向に移動させると第2流路が閉弁する。これによりバルブユニットは2つの流路を一つの弁体の移動により選択的に開閉させることが可能である。
【0014】
ここで、第1流路及び第2流路の開閉の組合せは、弁体の位置に応じて3種類のうちで切り換わることが可能である。すなわち、第1流路及び第2流路の開閉の組合せは、それぞれ閉・開と、開・開と、開・閉との3種類となる。そして、バルブユニットはこの3種類の開閉の組合せで切り換え可能な構成でありながら、第1流路側の流路弁(第1流路弁)及び第2流路側の流路弁(第2流路弁)が弁体を共有し、かつ該弁体が第1流路及び第2流路の隔壁を兼ねた構造であることから、バルブユニットを比較的小型に構成することができる。なお、用途に応じては、バルブユニットを2段階の切り換えで使用することもできる。
【0015】
しかも、第2流路弁が大気開放弁であるため、大気開放弁からなる第2流路弁においては弁室をシールする必要がないとともに、第1流路弁が圧力流路弁であるので、保守手段の圧力状態として、大気開放、圧力源からの圧力導入、大気開放下での圧力導入のいずれかを切換え選択できる。
【0016】
また、本発明の液体噴射装置では、前記圧力源は、前記保守手段に負圧を導入する負圧源であり、前記圧力流路弁は、前記保守手段と負圧源の間の流路を開閉する吸引流路弁であることが好ましい。
【0017】
これによれば、圧力流路弁が吸引流路弁であることから、保守手段の圧力状態として、大気開放、負圧導入、大気開放下での負圧導入のいずれかを切換え選択できる。
また、本発明の液体噴射装置では、前記第2流路弁を閉弁させる前記他方向へ前記弁体を付勢する付勢手段と、前記第1流路弁を閉弁させる前記一方向へ前記弁体を前記付勢手段の付勢力に抗して移動させるために操作される被操作手段とを備えていることが好ましい。
【0018】
これによれば、バルブユニットが備える弁体は付勢手段によって第2流路弁が閉弁する他方向へ付勢されているので、バルブユニットは、被操作手段が操作されなければ、第2流路弁が常閉(つまり第1流路弁が常開)の状態となる。被操作手段が操作されることで、弁体が付勢手段の付勢力に抗して変位すると、該弁体が一方向へ変位してそれまで閉じていた第2流路弁が開弁する。このとき被操作手段の操作量が小さく第1流路弁が閉じる前の操作位置では、第1流路弁及び第2流路弁が共に開弁した状態となる。そして、被操作手段がさらに操作されて弁体が付勢手段の付勢力に抗してさらに変位した操作位置では、第1流路弁が閉弁し、第1流路弁が閉弁し第2流路弁が開弁した状態となる。このように、第1流路弁及び第2流路弁の開閉の組合せは、被操作手段の操作量に応じて3種類のうちで切り換わる。すなわち、第1流路弁及び第2流路弁の開閉の組合せは、それぞれ閉・開と、開・開と、開・閉との3種類となる。そして、バルブユニットはこの3種類の開閉の組合せで切り換え可能な構成でありながら、第1及び第2流路弁が弁体を共有し、かつ該弁体が各弁室の隔壁を兼ねた構造であることから、バルブユニットを比較的小型に構成することができる。
【0019】
なお、用途に応じては、バルブユニットを2段階の切り換えで使用することもできる。例えば付勢手段の付勢力を少し弱めに設定して、被操作手段が操作されていないときに、第1及び第2流路弁が共に開弁する構成での使用も可能である。また、3段階の切り換えが可能なバルブユニットにおいて、被操作手段の操作位置(切り換え位置)を2段階のみの使用とし、2種類の開閉の組合せのうちで2段階切り換えされるバルブユニットとして使用してよい。
【0020】
また、本発明の液体噴射装置では、前記被操作手段の操作量に応じて前記第1流路弁及び前記第2流路弁の開閉の組合せが、それぞれ開・閉と、開・開と、閉・開との3段階に切り換え可能に構成されていることが好ましい。
【0021】
これによれば、被操作手段の押込み量に応じて第1流路弁及び前記第2流路弁の開閉状態が、押込み量の小さい側から順に、開弁・閉弁の組合せと、開弁・開弁の組合せと、閉弁・開弁の組合せの3段階に切り換えられる。例えば液体噴射ヘッドの吸引回復処理を行うメンテナンス装置にこのバルブユニットを採用すれば、複数のキャップ部(保守手段)のうち吸引回復処理を行うものを選択する吸引選択を行うことができる。例えば第1流路弁を吸引流路弁、第2流路弁を大気開放弁として用いると、被操作手段の操作量が小さい側から順に、それぞれ第1操作位置、第2操作位置、第3操作位置とすると、第1操作位置のときに吸引、第2操作位置のときに空吸引、第3操作位置のときに非吸引がそれぞれ選択される。
【0022】
また、本発明の液体噴射装置では、前記被操作手段は、前記弁体を前記付勢手段の付勢力に抗して押し込むことが好ましい。
これによれば、弁体を押し込みによって移動させる構成なので、被操作手段を弁体に固定する必要がない。このため、バルブユニットの構成が簡単になる。なお、弁体を引き込んで移動させる構成とした場合は、被操作手段と弁体とを固定又は係止等する必要があり、弁体の気密性を保持しつつ加わる力で外れないように強固に固定や係止等する必要があるので、その部品の製造・加工や組み立てが面倒になる。
【0023】
また、本発明の液体噴射装置では、前記弁体を共有する前記第1流路弁及び前記第2流路弁の一組で構成される弁手段を複数内蔵し、前記被操作手段は前記弁手段毎に備えられていることが好ましい。
【0024】
これによれば、複数の被操作手段の操作位置を個々に変えることにより、内蔵された複数の弁手段の開閉状態を個別に選択することが可能となる。例えばメンテナンス装置が複数のキャップ部を有する場合に、キャップ部毎に吸引の有無を選択することが可能になる。
【0025】
また、本発明の液体噴射装置では、前記複数の弁手段は少なくとも2つの弁体が弁手段間で連接して構成された一つ以上のバルブ板からなり、前記バルブユニットの筐体を構成する複数の筐体部材が該バルブ板を介して接合されていることが好ましい。
【0026】
これによれば、バルブユニットの筐体は、複数の筐体部材がバルブ板を介して接合されることで構成される。この際、バルブ板は少なくとも2つの弁体が連接されたものであるので、弁体を1つずつ組み付ける場合に比べ、バルブ板の組み付け数は少なく済むので、組み付け工数を削減できる。また、筐体は複数の筐体部材をバルブ板を介して接合することで組み立てられるが、このとき間に挟んだバルブ板がシール部材として機能するので、第1及び第2流路弁の弁室の気密性を高めることができるうえ、別途シール部材を組み付ける必要がない。
【0027】
また、本発明の液体噴射装置では、前記被操作手段は、前記弁体に当接する押圧体と、前記押圧体を押し込むために操作される被操作部と、弾性部材とを備え、前記被操作部と前記押圧体とが前記弾性部材を介して互いに離間する方向に付勢された状態で被操作方向に相対移動可能に連結されることによって、与圧状態に保持されていることが好ましい。なお、押圧体が弾性部材の付勢力により弁体を押圧することになるが、弁体が弾性部材から受ける付勢力よりも付勢手段から受ける付勢力の方が大きく設定されることが望ましい。但し、弾性部材が弁体を押す付勢力を弱められるように被操作部が押圧体を引き込むことができる構成であれば、被操作部の被操作状態において弁体に与える付勢力が付勢手段よりも弾性部材の方が大きい構成も採用できる。
【0028】
これによれば、被操作手段は、被操作部と押圧体とが弾性部材を介して被操作方向に相対移動可能な状態に連結されることによって与圧状態に保持されている。例えば第1流路弁を閉弁させるべく被操作部を操作したときに、押圧体が弁体を押し込むその押し込み量がばらついても、与圧状態にある押圧体が弁体を押すため、確実な荷重で第1流路弁を閉めることができる。ここで、仮に押圧体が与圧状態に保持されていないとすると、押圧体の押込み量のばらつきによって第1流路弁の閉まり具合がばらつき弁の密閉状態が安定しない。一方、その押込み量のばらつきを見込んで押圧体の押し込み量を必要以上に過剰にすると、弁体を膜材等から構成した場合に押圧体から過剰な圧が弁体にかかって弁体を傷つけることになり、傷ついてできた凹み痕等が弁の密閉性を悪くさせる。しかし、本発明では、押圧体が与圧状態に保持されていることから、被操作部を操作したときに押圧体の押込み量にばらつきがあっても、第1流路弁を確実な荷重で閉弁できることから、第2流路弁の密閉状態を安定化でき、さらに必要以上に押圧体が弁体を押し込まないので弁体を膜材等から構成しても傷つけることがなく、長期に渡って信頼性のある弁機能を維持できる。
【0029】
また、本発明の液体噴射装置では、前記被操作手段はバルブユニットの筐体と相対する位置に設けられた貫通孔に挿通される部分として被操作体を有し、該被操作体は前記貫通孔に挿通されて前記弁体に当接可能に配置されており、前記筐体は、前記大気流路が内部を通る支柱管部が前記貫通孔を横切るように位置するとともに該支柱部の途中から前記弁体側へ向かって延出しその先端部の開口が前記大気流路と連通する状態で前記弁体と対向して位置している弁座部を有し、前記被操作体は前記支柱管部を避けるスリット及び前記弁座部を避ける孔を介して前記貫通孔に挿通されて前記弁体に当接可能な状態で一部を前記筐体の外方へ突出させた状態で該貫通孔内を摺動可能に設けられていることが好ましい。
【0030】
これによれば、被操作部が弁体を付勢手段の付勢力に抗して押し込み動作、あるいは引き出し動作をして、弁体を有効に変位させるためには、該被操作部が弁体の略中央部を大きく変位させられるように、弁体の略中央付近に当接又は固定されることが望ましい。一方、弁座部はその開口が弁体の変位の大きい略中央部と対向する位置に配置されることが望ましく、被操作体と弁座部の望ましい配置位置が互いに干渉し合う。しかしながら、本発明では、被操作体が挿通される貫通孔を横切る支柱管部に弁座部が支持されることで、弁座部の開口を弁体の略中央部と対向する状態に配置することができる。一方、被操作体は、支柱管部をスリットで避け、弁座部を孔で避けた状態で、弁室の内側から外側へ向かって貫通孔を挿通させた状態に組み付けられ、その弁室側の先端部は中央の孔で弁座部を避けた状態で環状の面で弁体に対してその略中央部に当接又は固定される。よって、被操作体は弁座部の周囲に相当する弁体の略中央部分を環状の面で当接又は固定された箇所を押込み又は引出しすることができる。よって、被操作体が弁体を有効に変位させられる略中央部に力を付与できる要請と、弁座部がその開口を弁体の変位の大きい略中央部に対向させた配置の要請とを両立できる。
【0031】
また、本発明の液体噴射装置では、前記被操作手段はバルブユニットの筐体と相対する位置に設けられた貫通孔に挿通される部分として被操作体を有し、該被操作体は前記貫通孔に挿通され前記弁体に当接可能に配置され、前記大気流路に連通する第2弁座部が前記弁体の略中央部に相対して配置されており、前記弁体は、その略中央部において前記被操作体側へ突出した厚肉の弁部と、該弁部の周囲に延在して該弁部より薄肉の膜状部とを有し、前記第2弁座部及び前記被操作体は前記弁部と当接可能に設けられ、前記吸引流路と連通する第1弁座部が前記弁体の前記被操作体側と反対側の面における前記弁部に相当する部位に当接可能に配置されていることが好ましい。
【0032】
これによれば、被操作体が弁体を付勢手段の付勢力に抗して押し込むと、弁体が変位して、第1流路弁及び第2流路弁の開閉状態が切り換えられる。被操作体が肉厚の弁部を押し込んだときには、弁体は弁部においては撓まずその周囲の膜状部で撓むことで変位する。このとき、弁体は弁部の部分の面を弁座部の開口面に略平行に保持したまま被操作体の移動方向に変位するので、弁部が弁座部に当接したときに確実に密閉できる。また、弁座部及び被操作体は肉厚の弁部に当接することから、弁部は弁座部及び被操作体から繰り返し力を受ける割りに、その耐久性が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
(第1実施形態)
以下、本発明を液体噴射装置における液体噴射ヘッドのメンテナンスに用いられるメンテナンスシステム及びメンテナンス装置に具体化した一実施形態を、図1〜図64に基づいて説明する。
【0034】
<メンテナンスシステム>
まずメンテナンスシステムについて図1〜図5に基づいて説明する。図1は、複数の記録ヘッドを有するマルチヘッド型プリンタに装備されて使用されるマルチヘッド対応のメンテナンスシステム(マルチヘッドクリーニングシステム)を記録ヘッドシステムと共に示した斜視図を示す。図2は、メンテナンスシステムの斜視図、図3は一部の記録ヘッドシステムを共に示したメンテナンスシステムの平面図、図4は同じく一部の記録ヘッドシステムを共に示したメンテナンスシステムの側面図、図5は同じくメンテナンスシステムの正面図である。
【0035】
図1〜図5では、複数の記録ヘッドを有するマルチヘッドシステムとメンテナンスシステムが、メンテナンス作業を行うときの所定位置関係に配置された状態で示している。
液体噴射装置としてのインクジェット式プリンタ(以下「プリンタ」と称す)(図示せず)は、複数(本実施形態では8つ)の記録ヘッド12を有する記録ヘッドシステム11を備える。プリンタの印刷方式が記録ヘッドを走査させながら液滴を吐出して印刷を行う走査方式である場合、複数の記録ヘッド12は、プリンタ本体に主走査方向(以下、「X方向」ともいう)への移動可能に設けられる。この場合、記録媒体としての用紙は、X方向と直交する副走査方向(以下、「Y方向」ともいう)に沿って搬送される。一方、プリンタの印刷方式が記録ヘッドは固定配置したままで記録媒体としての用紙の紙送り動作のみにより印刷が行われる非走査方式である場合、複数の記録ヘッド12は、図1及び図2に示すY方向における最大用紙サイズの全幅に亘って配置され、記録媒体としての用紙は同図におけるX方向に沿って搬送される。
【0036】
また、図1及び図2に示すように、複数の記録ヘッド12は、隣り合う記録ヘッド12同士がX方向及びY方向に沿った千鳥配置となるように配置されている。そして、これらの記録ヘッド12に対してノズル目詰まり等の予防・解消のための保守を行うメンテナンスシステム10は、記録ヘッド12と同数のメンテナンス装置20からなる。すなわち、複数(本実施形態では8つ)のメンテナンス装置20が、それぞれ対応する記録ヘッド12の直下にクリーニング機構22を配置する状態で隣接配置されている。
【0037】
メンテナンスシステム10と記録ヘッドシステム11が図1に示す所定位置関係に配置されるのは、少なくとも保守作業を行うときであり、記録ヘッドシステム11とメンテナンスシステム10のうち少なくとも一方が移動し、両者は同図に示す所定位置関係に配置される。
【0038】
なお、複数の記録ヘッド12は、印刷時に記録ヘッド12のノズル形成面12a(図6に示す)と対向する下方位置に配置された図示しないプラテンとの間のギャップ(以下、「プラテンギャップ」と称す)を調整するために装備された、図示しないプラテンギャップ調整機構によって、鉛直方向(上下方向)に位置調整可能に設けられている。プラテンギャップ調整機構が、例えばコントローラ27(図4に示す)により駆動制御される自動調整式のものであれば、印刷設定情報中の記録用紙の紙厚に応じて複数の記録ヘッド12が高さ調整されてプラテンギャップが自動調整され、紙厚に依らず記録ヘッド12と用紙表面とのギャップが常に一定になるように構成されている。このため、プラテンギャップ調整機構により記録ヘッドシステム11(記録ヘッド12)の高さが変化すると、メンテナンス時の所定の位置関係に配置されたメンテナンスシステム10(メンテナンス装置20)と記録ヘッドシステム11(記録ヘッド12)との対向方向の距離が変化することになる。なお、プラテンギャップ調整機構は、用紙の紙厚に応じてユーザが手動操作でプラテンギャップを調整する構成でも構わない。プラテンギャップ調整機構としては、例えば特許文献4に開示された自動調整方式の構成、あるいは特許文献5に開示された手動方式の構成を採用できる。
【0039】
<マルチヘッドシステム>
図6は、複数の記録ヘッドを備えた記録ヘッドシステム(マルチヘッドシステム)を示す。同図(a)は底面図、同図(b)は正面図である。なお、図6では、8個の記録ヘッド12のうち一部のみ示している。
【0040】
図6(a)に示すように、記録ヘッド12が印刷時に記録媒体と対向する面(底面)はノズル形成面12aとなっており、ノズル形成面12aには2列ずつが近接して組をなす4組のノズル列13が形成されている。1列のノズル列は例えば180個のノズルからなる。
【0041】
本実施形態の記録ヘッド12には、例えばシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色のインクが供給される。そして、記録ヘッド12における4組のノズル列13は組をなす2列が同色のインクが噴射(吐出)し、1つの記録ヘッド12からは4色のインクが吐出される構成となっている。
【0042】
プリンタの印刷方式が非走査方式である場合、記録ヘッド12と記録媒体(記録用紙)は、ノズル列13と直交するX方向に相対移動する。1列の記録ヘッド12に着目した場合、記録ヘッド12のノズル列13と、ノズル列の延設方向であるY方向において隣接する記録ヘッド12のノズル列13との間には隙間ができるが、ノズル列と直交するX方向に隣接する記録ヘッド12を千鳥配置することにより、その隙間に相当する位置に他列の記録ヘッド12のノズル列13が配置される。このように記録ヘッド12が千鳥配置されることにより、同色のノズル列13は、異なる記録ヘッド12間で図6(a)における左右方向において連続的に繋がり、記録媒体としての用紙の最大紙幅範囲に渡る全域で印刷が可能となっている。
【0043】
記録ヘッド12の内部にはノズル列13を構成している180個の各ノズルと対応する位置に圧電振動子(圧電振動素子)が配列されている。インクを吐出すべきノズルと対応する圧電振動子に駆動電圧パルスが印加されることにより、駆動電圧パルスが印加された圧電振動子が振動し、その振動によりノズルに連通するインク室が膨張・圧縮することで、膨張したときにインク室に流入したインクの一部がインク室の圧縮時にノズルから吐出される構成となっている。こうして駆動電圧パルスを印加すべき圧電振動子が印刷データに基づき選択されることで、ドット形成位置に対応するノズルから選択的にインクが吐出され、印刷データに基づく印刷が行われる。
【0044】
図1及び図2に示すように、8台のメンテナンス装置20を構成する8つのクリーニング機構22は、千鳥配置された記録ヘッド12の各々と対応する直下に千鳥状に配置される。そして、平面視において、クリーニング機構22は、記録ヘッド12の範囲内にその構成部品を集約させた構造となっている。つまり、本実施形態では、平面視において、略四角形状のクリーニング機構22のX方向及びY方向の2辺の長さを、記録ヘッド12のX方向及びY方向の2辺の長さと略等しくしている。そして、千鳥配列された記録ヘッド12の直下にクリーニング機構22を千鳥配列できるように、クリーニング機構22の平面視4辺のうち千鳥配置した場合に互いに隣接させる必要がある3辺については、平面視において、その3辺の外側に構造体が飛び出ていない形状に、メンテナンス装置20は製造されている。
【0045】
但し、クリーニング機構22を千鳥配置するうえで形状制限を受けない他の1辺側へは、吸引ポンプ40などの一部の構造部品が、クリーニング機構22の範囲の外側へ飛び出て配置されており、こうすることで、メンテナンス装置20の高さをある程度抑えた構造となっている。なお、クリーニング機構22を千鳥配置できる限りにおいて、クリーニング装置の構造・形状は任意に設定できる。
【0046】
8台のメンテナンス装置20は、4台ずつのクリーニング機構22を1列に並べるとともに吸引ポンプ40側が外側にくる配置向きで、各列を互いに付き合わせて配置するとともにクリーニング機構22の各列がY方向に半ピッチ分ずつずらす状態に配列されている。この結果、マルチヘッド構造をとる千鳥配置の記録ヘッド12に対応する直下に、複数個(8個)のクリーニング機構22がX方向及びY方向に隣接して千鳥配置された状態に配置されている。
【0047】
<選択クリーニング機構>
メンテナンス装置20は、記録ヘッド12のノズル形成面12aに対してノズル列13を囲うようにキャップ24を当接させたキャッピング状態でキャップ24内を吸引ポンプ40で吸引することによりキャップ24内に負圧を発生させてノズル(図示省略)からインクを強制的に吸引する吸引クリーニングと、吸引クリーニング後にノズル形成面12aをワイパ25で払拭するワイピングとをメンテナンス作業として行う。吸引クリーニングによって、ノズルの目詰まりを解消したりノズル内の増粘したインクを除去したりする。また、ワイピングによって、ノズル形成面12a上に残存する付着インクや塵埃等の異物を拭き取ったりノズル内のインクのメニスカスを整えたりする。
【0048】
図2及び図3に示すように、記録ヘッド12と対向するクリーニング機構22の上端部にはヘッドガイドユニット90が配置され、ヘッドガイドユニット90の格子の開口に臨むように4つのキャップ24が配置されている。4つのキャップ24は記録ヘッド12のノズル形成面12a上に形成された複数のノズル列を4分割した列毎にノズル列を個別に封止するキャッピングが可能となっている。また、キャップ24と対応する位置にはキャップ24の長手方向外側であり、ノズル列の延びる方向外側の位置を退避位置とする4つのワイパ25が配置されている。4つのワイパ25は互いに同軸上に連結されており、キャップ24の上方位置をその長手方向に沿って往復移動可能となっていて、4分割した列毎にノズル列の延びる方向に動いてノズル形成面12aを払拭する。
【0049】
ここで、記録ヘッドシステム11を構成する記録ヘッド12は、ノズル形成面12aにおけるノズル列方向になるべく広範囲に渡る長さにノズル列を形成しているため、ノズル列方向において記録ヘッド12のエッジとノズル列13の端部との隙間が比較的狭くなっている。このため、ワイパ25でノズル列13を払拭する開始位置でワイパ25が記録ヘッド12のエッジに当たりやすいが、本実施形態では、メンテナンス装置20側でワイパ25がエッジに当たらない工夫がなされているので、図6(a)(b)に示すように、ノズル列13と直交するエッジの部分は、カバーヘッド12bにより保護されていない。
【0050】
また、図4に示すように、コントローラ27には記録ヘッド12のノズル形成面12aに形成された多数のノズルのうち目詰まり等の発生した不良ノズルを検出する不良ノズル検出装置28が電気的に接続されている。不良ノズルが検出された場合は、記録ヘッド12のノズル形成面12aに形成された複数のノズル列13(図6に示す)のうち不良ノズルを含むノズル列13(不良ノズル列)だけを選択的にクリーニング可能な構成となっている。不良ノズル検出装置としては、ノズルから噴射された液滴の有無をレーザー光の照射により検出するレーザー方式、あるいは、検査用紙に所定パターンを印刷して光学式にパターンを検査することで、非吐出のノズルや着弾径が許容値未満であったノズルを不良ノズルとして検出する装置を挙げることができる。レーザー方式は、例えば特許文献6に記載の構成を採用でき、パターン検査方式は、特許文献7に記載の構成を採用することができる。
【0051】
本実施形態では、キャッピングした4つのキャップ24のうち不良ノズル列を封止するキャップの封止空間内のみに負圧を発生させての選択吸引が可能となっている。また、4つのワイパ25のうち選択吸引が実施されたノズル列に対応するワイパ25を選択して、選択したワイパ25だけに払拭圧(すなわち、ノズル形成面12aを払拭可能とする払拭力)を与える選択ワイピングが可能となっている。これは、吸引クリーニングが行われなかったノズル列に対して空ワイピングをしてしまうと、ノズル内のインクのメニスカスを破壊する虞があるからであり、このようなインク吐出性能に悪影響を及ぼすメニスカスの破壊を防ぐために吸引が実施されなかったノズル列に対しては空ワイピング動作が行われないようにしている。4つのワイパ25を選択的にワイピング動作させるワイピング装置の詳細については後述する。
【0052】
また、キャップ24によるキャッピングやワイパ25によるワイピングは、クリーニング機構22がヘッドガイドユニット90により記録ヘッド12に対して位置決めされた状態で行われるので、クリーニング対象がノズル列毎に分割されていても、位置精度のよい適切なクリーニングを実施できる。クリーニング機構22には、キャップ24及びワイパ25の選択手段及び作動手段などが組み込まれおり、ベースユニット21には前記選択手段や作動手段などの駆動源となる電動モータ30や吸引クリーニングのためにキャップ24内に負圧を発生させる吸引ポンプ40などが配設されている。メンテナンス装置20では、クリーニング機構22と吸引ポンプ40とが隣接した状態でベースユニット21に備えられており、電動モータ30はクリーニング機構22の配置面より下側に配置されている。
【0053】
<メンテナンス装置>
以下、メンテナンス装置の詳細について説明する。
図7はメンテナンス装置の正面斜視図、図8はメンテナンス装置の背面斜視図である。
【0054】
メンテナンス装置20は、ベースユニット21と、保守作業を主に行う構成部分であるクリーニング機構22とを備える。クリーニング機構22は、記録ヘッド12と対応する位置に配置されて記録ヘッド12のノズル列に対して選択的なクリーニングを施す。そして、クリーニング機構22は、記録ヘッド12に対する接近・離間が可能な方向に移動可能(本例では昇降可能)な状態でベースユニット21上に支持されている。
【0055】
ベースユニット21を構成するベースフレーム31の裏面には電動モータ30が配設され、ベースフレーム31の上面においてクリーニング機構22と隣接する位置には吸引ポンプ40が固定されている。吸引ポンプ40は、複数のリブにネジ止めされてベースフレーム31の上面から少し離間して配置され、その離間した隙間に図7に示すポンプギヤ40aが配置されている。また、ベースフレーム31の上面には電動モータ30の駆動力を吸引ポンプ40のポンプギヤ40a及びクリーニング機構22に伝達する動力伝達機構33が配設されている。
【0056】
電動モータ30から延びる配線30aに接続されたコネクタ30bは、図4に示すコントローラ27と電気的に接続されている。電動モータ30は正逆転駆動が可能なモータであり、コントローラ27により回転駆動制御される。
【0057】
クリーニング機構22は、不良ノズル列に対応する列を選択する選択ユニット110(図7〜図11に示す)を収容するホルダ23と、ホルダ23の上部に取着されたヘッドガイドユニット90とを備える。電動モータ30から動力伝達機構33を介してホルダ23内の選択ユニット110に伝達された駆動力は、クリーニング機構22の昇降、キャップ24及びワイパ25の列の選択、選択列におけるキャップ24の吸引動作及びワイパ25のワイピング動作等の動力として使用される。ベースフレーム31の上面端部にはガイドロッド32が突設され、ベースフレーム31上の他の端部には昇降ユニット50が支持されている。
【0058】
クリーニング機構22は、ガイドロッド32がホルダ23から下方に突出したガイド筒61に挿通されるとともに、昇降ユニット50の上端部がホルダ23内に組み付けられた選択ユニット110に作動連結されることで、昇降ユニット50及びガイドロッド32を介してベースフレーム31に対し昇降可能に支持されている。ホルダ23からは動力伝達機構33の一部を構成する図8に示すロッドギヤ36を収容したガイド枠62が下方に延出しており、その下部がベースフレーム31上の凹部に上下方向へのスライド可能に挿通されている。
【0059】
ホルダ23の上面には4つのキャップ24がその長手方向が互いに平行になる状態で且つその長手方向と直交する方向に等間隔に配置されており、4つのキャップ24を有するホルダ23の上側部分によってキャップユニット70が構成されている。クリーニング機構22が昇降することにより、ホルダ23上の4つのキャップ24は記録ヘッド12に対して接近・離間するように構成されている。
【0060】
ヘッドガイドユニット90は、ホルダ23に対して上下方向に相対移動可能に取着されるとともに上方に付勢された状態にありホルダ23から所定距離だけ上方に離間した位置を待機位置とする。ヘッドガイドユニット90は4つのキャップ24と相対する部位がそれぞれ開口する四角格子板状であり、その四辺に相当する部位から上方へ突出する2組のガイド部91,92を有している。クリーニング機構22の上昇時に2組のガイド部91,92が記録ヘッド12の側面に嵌ることで、クリーニング機構22は記録ヘッド12に位置決めされる構成となっている。そのため、ヘッドガイドユニット90、クリーニング機構22共に記録ヘッド12の位置に合わせて水平方向に移動できる。
【0061】
クリーニング機構22が上昇すると、まずヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12の側面に嵌って記録ヘッド12に位置決めされ、その位置決めされたヘッドガイドユニット90に対してホルダ23がさらに上昇して位置決めされた後、ヘッドガイドユニット90の格子の開口から突出したキャップ24がノズル形成面12aに当接する構成となっている。ノズル形成面12aに当接した4つのキャップ24はそれぞれ1組のノズル列13を封止する。このとき、ヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12の側面に嵌ることにより、キャップ24は、ノズル形成面12a上における対応するノズル列13を確実に封止できるよう位置決めされる。
【0062】
4つのワイパ25は図7におけるホルダ23の上部背面側を退避位置とし、それぞれ同列に位置するキャップ24の上方位置をその長手方向(すなわちノズル列方向)に沿って往復動するように構成されている。4つのワイパ25を駆動させるワイパ駆動ユニット220はホルダ23に組み付けられている。ワイパ駆動ユニット220はワイピング時期になるとホルダ23内の選択ユニット110から補助力を受けて動力伝達機構33の歯車と噛合するようになり、動力伝達機構33から伝達された動力により駆動されることで4つのワイパ25を往復動させる。4つのワイパ25はその往復動のうちその復動時にノズル形成面12a上の対応するノズル列13を含む部位をワイピングする。このように本実施形態のメンテナンス装置20が有するワイピング装置は、電動モータ30からの動力によりワイパ25が記録ヘッド12のノズル形成面12aに沿って移動する自己駆動方式のものであり、例えば固定式の記録ヘッド12に対してもワイピングの実施が可能となっている。
【0063】
図7においてホルダ23の背面に配設されたバルブユニット190は、吸引ポンプ40と4つのキャップ24とを接続するチューブ上に介在し、4つのキャップ24のそれぞれに対応する4つの流路弁を内蔵する。バルブユニット190に内蔵された4つの流路弁は、4つのキャップ24と吸引ポンプ40とを接続する各流路を開閉する弁を少なくとも含み、ホルダ23内の選択ユニット110により個別に操作されることで4つのうち選択列に対応する流路弁が吸引ポンプ40と流路が連通するように開弁する構成となっている。
【0064】
ホルダ23内の選択ユニット110は、キャップ24及びワイパ25の列に応じた回動可能なカム機構を同軸上に4連有し、クリーニング機構22を上昇させる過程で電動モータ30の回転にカムの選択制御を加えるなど必要な回転制御をコントローラ27が行うことで、吸引及びワイピングを実施する選択列の選択が行われる。これにより、クリーニング機構22の昇降、キャップ24の吸引選択(バルブユニット190の流路弁切り換え)、吸引ポンプ40の駆動、ワイパ25の選択、ワイパ25の払拭駆動などを、電動モータ30一個を用いて共通の駆動源によって行う構成となっている。
【0065】
電動モータ30の回転制御により行なわれる一連の処理動作をここで簡単に説明する。まず電動モータ30の正転駆動によりクリーニング機構22を上昇させてキャップ24をノズル形成面12aに当接させるキャッピングが行われる。キャッピングのための上昇過程では不良ノズル列だけにクリーニングを施すための選択ユニット110における列の選択動作が行われる。この選択動作により、バルブユニット190内の選択列に対応する流路弁の開弁選択、及びワイピング時に選択列に対応するワイパ25をノズル形成面12aを払拭可能な起き上がり姿勢に誘導するためのワイパ25の選択が行われる。
【0066】
キャッピングに引き続き吸引ポンプ40が駆動されてキャップ24の内部に負圧を発生させることにより記録ヘッド12のノズルからインクを強制的に吸引する吸引クリーニングが行われる。吸引クリーニング後に選択ユニット110を動作させてバルブユニット190内の選択列に対応する流路弁をキャップ24の内部を大気開放しつつ吸引ポンプ40にも連通する開弁状態に切り換えられ、この状態で吸引ポンプ40を駆動することでキャップ24やチューブ内に残存するインクを図示しない廃液タンク等へ回収する空吸引が行われる。
【0067】
この空吸引終了後、電動モータ30の逆転駆動によりクリーニング機構22を下降させてキャップ24をノズル形成面12aから離間させる。クリーニング機構22が下降位置に達した後、ホルダ23内では電動モータ30からの動力の伝達経路が選択ユニット110からワイパ駆動ユニット220に切り換わり、ワイパ25がキャップ24の上方位置を所定経路に沿って往復動するとともに復動時に払拭可能な姿勢に起き上がった選択列に対応するワイパ25によるワイピングが行われる。このワイピング過程ではワイパ駆動ユニット220の駆動機構の一部がヘッドガイドユニット90に当接してこれを記録ヘッド12に嵌る位置まで持ち上げることで、ワイピングはワイパ25が記録ヘッド12に位置決めされた状態で行われる。ワイパ25が往復動作を終了するとヘッドガイドユニット90は元の位置に下降し、ワイパ25が図8に示す退避位置まで戻ることで、「キャッピング」→「選択吸引クリーニング」→「選択空吸引」→「選択ワイピング」という1サイクルのクリーニング動作が終了する。
【0068】
図9はメンテナンス装置の分解斜視図である。
メンテナンス装置20は、ベースユニット21、ベースユニット21に昇降可能に支持された支持ホルダ60、ホルダ23の上側部分を構成するとともに複数(4つ)のキャップ24を上部に有するキャップユニット70、及びヘッドガイドユニット90を備える。また、ホルダ23に収容されてキャップ24の吸引選択およびワイピングさせるべきワイパ25の選択を行う選択ユニット110、バルブユニット190、ワイパ駆動ユニット220、昇降ユニット50、及びロック機構170を備える。以下、各ユニット及び機構について説明する。
【0069】
まず、バルブユニット190は、バルブレバー153に操作されるバルブ加圧体191の押し込み量の違い(3段階)に応じて、内蔵された4つの流路弁の開閉状態がそれぞれ個別に切り換えられる。詳しくは4つの流路弁は、吸引ポンプ40に連通される吸引流路を開閉する吸引流路弁と、大気に開放された大気流路を開閉する大気流路弁とを有し、吸引流路弁と大気流路弁のそれぞれの開閉の組み合わせのうちキャップ24における吸引・非吸引・空吸引を選択する3種類の開閉弁状態のうち一つが選択される構成となっている。リフト板ベース151がリフトしていないとき(リフト量「0」)が非吸引、リフトしているときが吸引、最大リフト量のときが空吸引の開閉弁状態である。
【0070】
また、ワイパ駆動ユニット220は、選択カム軸125の両端に連結されるワイパ駆動歯車221及びワイパ駆動車222と、選択中間歯車37から伝達される動力でワイパ駆動歯車221が所定角度範囲を往復回動することにより下端を中心に揺動運動が可能な2本のワイパ駆動レバー223,224とを有している。4つのワイパ25は2本のワイパ駆動レバー223,224が一往復の揺動をすることでキャップ24の長手方向に沿って往復移動する。4つのワイパ25は対応する移動体としてのリフト板ベース151がリフトしていればその上面に当接して押し上げ力を受けて払拭可能な起き上がり姿勢に誘導され、リフト板ベース151がリフトしていなければその上面から押し上げ力を受けず起き上がり姿勢をとることがない。よって、選択されたノズル列13についてはワイピングが実施され、非選択のノズル列13についてはワイピングが実施されない。
【0071】
図10は、ベースユニット21を構成する動力伝達機構33を含む部分の斜視図である。動力伝達機構33は、二段歯車34、中間歯車35、ロッドギヤ36及び選択中間歯車37からなる。ベースフレーム31上に回転可能に支持された二段歯車34は、その小歯車部34aが電動モータ30の駆動軸に固着されたピニオンギヤと噛合し、その大歯車部34bは、小歯車部35bがポンプギヤ40aと噛合している中間歯車35の大歯車部35aと噛合している。吸引ポンプ40は、電動モータ30が正転駆動されると、ポンプ駆動されて負圧を発生させる吸引動作を行い、電動モータ30が逆転駆動されるとレリース状態となって負圧は発生しない。本実施形態の吸引ポンプ40は、公知のチューブポンプであり、回転駆動されると内蔵されているホイールに巻回されたチューブが一方向に扱かれてチューブ内の気体や液体が押し出されることでチューブの上流側一端側に吸引力(負圧)が発生する構造である。この吸引ポンプ40は、ポンプギヤ40aと一体回転可能なチューブポンプ機構(図示せず)が駆動軸方向に二段配列された状態に内蔵されており、2つの吸引用配管接続部を有している。なお、吸引ポンプ40は、ポンプギヤ40aが逆転から正転に切り換わってもポンプギヤ40aが内部の駆動軸と係合するまでに1回転未満の所定回転量を要する遅延機構が内蔵されており、逆転から正転に切り換わっても所定回転量の空転の後にポンプ駆動が開始される構造となっている。
【0072】
図8に示すように、ロッドギヤ36は、ベースフレーム31の軸(図示しない)に挿通され、支持ホルダ60から下方へ所定長さで延出する枠板状のガイド枠62に軸回転可能な状態で収容されており、その下部にスプラインギヤ部36a、上部にウォームギヤ部36bをそれぞれ有している。図10(b)に示すようにスプラインギヤ部36aは二段歯車34の大歯車部34bと噛合し、ウォームギヤ部36bは選択中間歯車37と噛合している。
【0073】
よって、電動モータ30が正転駆動されると、その回転力は二段歯車34およびロッドギヤ36に回転伝達され、ロッドギヤ36の軸回転によりその上部のウォームギヤ部36bと噛合する選択中間歯車37に回転が伝達されるようになっている。この選択中間歯車37は、選択ユニット110を構成する4つの選択カム121〜124のうちの1つの選択カム121と噛合している。このロッドギヤ36の下部にスプラインギヤ部36aが形成されているので、クリーニング機構22と共に昇降するロッドギヤ36がその昇降範囲のどの位置にあっても、ロッドギヤ36と二段歯車34が噛合できるようになっている。
【0074】
図11は、選択ユニット及びバルブユニットを含むメンテナンス装置の要部斜視図である。選択ユニット110は、カム機構を含む選択歯車ユニット120と、選択歯車ユニット120のカムにカムフォロアが案内されてリフト動作するリフトユニット150とを備える。選択歯車ユニット120は、選択カム軸125上に回動可能に設けられた4つの選択カム121〜124を有している。4つの選択カム121〜124は、キャップ24及びワイパ25の4つの列にそれぞれ対応しており、側面に形成された同一カム形状のカムの周方向の位相が所定角度ずつずれた状態を保ったまま一体回動できるように選択カム軸125が挿通された状態にある。なお、以下において、選択カム121〜124については、必要に応じて第1選択カム121,第2選択カム122、第3選択カム123、第4選択カム124と呼び、4つの選択カム121〜124の群を総称して選択カム群135を呼ぶことにする。また、選択中間歯車37は、選択歯車ユニット120を構成する選択カム121及び摩擦ギヤ126と噛合している。そして、摩擦ギヤ126は第2選択カム122の側面と摩擦係合している。
【0075】
選択ユニット110は、選択カム121〜124と係合するリフトカム可動板152を介してリフト板ベース151のリフト量を選択することにより、バルブレバー153の押し込み量を選択する。リフト板ベース151のリフト量が高いときに、ワイピングの実施が選択される。また、このときには、バルブレバー153が傾動し、バルブ加圧体191を押圧して、キャップ24内に負圧を発生させる状態とし、吸引クリーニングを実施させるキャップ24も同時に選択される。
【0076】
図12及び図13は、選択ユニット、昇降ユニット及びロック機構の分解斜視図であり、図12は上側から見た斜視図、図13は下側から見た斜視図である。同図に示すように、選択カム121〜124は、それぞれカム本体128と、カム補助板131と圧縮バネ133とからなる。カム補助板131はカム本体128に対し相対回転不能かつ圧縮バネ133によりカム本体128に嵌挿される方向へ付勢された状態で一体に組み付けられている。同一カム形状を有する4つの選択カム121〜124は、周方向にカムの位相が20度ずつ順番にずれた状態で一体に連結され、選択カム軸125に対して相対回動可能となるように該選択カム軸125が挿通される。昇降ユニット50のリフトレバー54はその先端部が第3選択カム123の偏心位置に係合され、またロック機構170のストッパカム171は第3選択カム123と第4選択カム124との間に挟持された状態で選択カム121〜124と共に一体回動するように組み付けられる。
【0077】
昇降ユニット50は、支持部51と、該支持部51の圧力調整軸ホルダ52内に上方に付勢された状態で挿通支持された圧力調整軸53と、この圧力調整軸53に基端部が連結されるとともに先端部が選択歯車ユニット120の選択カム123と係合するリフトレバー54とを有している。リフトレバー54の先端部との係合位置を支点として選択カム123が回動しながら上昇することでクリーニング機構22は上昇し、選択カム123が上昇過程とは逆方向に回動してその係合位置を支点として回動しながら下降することでクリーニング機構22は下降する。こうして選択カム123の往復回動によりクリーニング機構22は昇降する。なお、圧力調整軸53はクリーニング機構22をフローティング状態に支持する。
【0078】
ロック機構170は、圧力調整軸ホルダ52を先端部に有する支持部51、圧力調整軸53、圧縮バネ55、ストッパカム171、ストッパレバー172及びチョーク部材173を有している。圧力調整軸53は圧縮バネ55により圧力調整軸ホルダ52から突出する方向に付勢された状態に組み付けられる。チョーク部材173は圧力調整軸ホルダ52の上端面に固定され、圧力調整軸53の先端に圧力調整軸ホルダ52の外側から遊嵌される。選択カム121〜124が回動して昇降ユニット50によりクリーニング機構22が上昇した上昇位置のタイミングでストッパレバー172がストッパカム171により傾動すると、ストッパレバー172は作動連結されたチョーク部材173のリングの内径を小径化させることで、該リング内に挿通された状態でクリーニング機構22を支持する圧力調整軸53を絞めてロックする。
【0079】
リフトユニット150は、各選択カム121〜124のカムにカムフォロアを係合させた4つのリフトカム可動板152を介してリフト動作可能な4つのリフト板ベース151を有している。リフトカム可動板152が選択カム121〜124のカム面に案内されてリフト板ベース151をリフトさせる。リフト板ベース151のリフト量に応じた押込み量でバルブレバー153が傾動しバルブユニット190のバルブ加圧体191を操作してキャップ24におけるインク吸引・非吸引・空吸引を選択するとともに、リフト板ベース151を上昇させてワイピング手段に払拭力(払拭圧)を提供してワイピング可能とする構成となっている。
【0080】
<選択ユニット>
図14は、選択ユニットを示し、同図(a)は正面斜視図、同図(b)は背面斜視図である。図15は、選択ユニットの選択カム軸を外した状態を示す分解斜視図、図16(a)は選択ユニットの平面図、同図(b)は正面図、同図(c)は側面図である。図17は、図16(a)におけるA−A線断面図である。
【0081】
4つの選択カム121〜124には選択カム軸125が挿通されている。4つの選択カム121〜124は、一側面に同一形状のカム面を有するカム部を各々有し、各カム面の回動方向の位相が20度ずつ順次ずれるように一体回転可能に連結されている。
【0082】
第2選択カム122の隣接位置には、摩擦ギヤ126が第2選択カム122と側面同士を摩擦係合させた状態で選択カム軸125を中心に回転可能な状態に配置されている。選択中間歯車37は、図11に示すように、第1選択カム121、摩擦ギヤ126及びワイパ駆動歯車221と噛合可能となっている。通常、リフトユニット150を上昇選択する際は、選択カム軸125、ワイパ駆動歯車221、ワイパ駆動車222は回転せず、選択カム軸125上の選択カム群135だけが回転する。リフトカム可動板152は、選択カム121〜124の側面に接近・離間が可能な方向に傾動可能にリフト板ベース151に係合支持されている。
【0083】
次に選択カムのカム面に誘導されてリフト板ベースが昇降する機構について説明する。まず、選択カムの構造を説明する。各選択カム121〜124は基本構造が同じであるので、第1選択カム121を例にして説明する。図18は選択カムを示し、同図(a)は分解斜視図、同図(b)は斜視図である。
【0084】
図18(a)に示すように、選択カム121は、間欠歯車からなるカム本体128と、その内方に嵌挿状態に組み付けられるカム補助板131と、カム本体128のカム部130が形成された一側面側へカム補助板131を突出する状態に付勢する圧縮バネ133とから構成される。カム本体128の一側面には周方向に渡りカム部130が形成されており、そのカム部130は軸線方向に複数段(本例では軸部129の外周面を含めて3段)のカム面を有する。なお、これら複数段のカム面については後述する。
【0085】
カム補助板131には、カムとなる第1カム部132a,第2カム部132b及び第3カム部132cが突設されている。カム補助板131は、圧縮バネ133に付勢されてカム本体128に嵌挿された状態においては、図18(b)に示すように、第1カム部132a,第2カム部132bが、カム本体128のカム部130と結合して滑らかなカム面を形成する。カム補助板131はカム本体128に対して選択カム軸125に沿って変位できるように組み付けられ、かつこの圧縮バネ133によって通常位置(突出位置)に復帰できるように構成されている。カム補助板131は、圧縮バネ133の付勢力に抗する方向へ押されると、カム本体128内に退避して突出量を減少させるように構成されている。カム補助板131は、カム本体128内を軸方向に例えば1mm程度移動できる。
【0086】
また、カム補助板131から側方へ突設する半円弧状の規制壁131a,131bが、カム本体128側の貫通孔128d,128eにそれぞれ嵌合される。また、カム補助板131は、その第1カム部132a,第2カム部132bがカム本体128の軸部129の外周面上に軸方向に沿って形成された係合溝129aに嵌挿されることにより、カム本体128に対して相対回転不能に組み付けられる。なお、カム本体128の軸線方向においてカム部130が設けられた側(以下、「軸方向手前側」という)の側面に突出する軸部129の端面には、軸孔128cの周囲4箇所で凹む係合溝129bが形成されている。一方、カム本体128の軸線方向においてカム部130が設けられた側とは反対側(以下、「軸方向奥側」という)の側面に突出する軸部129の端面には軸孔128cの周囲4箇所が突出する十字型の係合凸部129cが図15に示すように形成されている。そして、4つの選択カム121〜124は、カム本体128の軸部129の一方の端面に形成された係合溝129bが、図13に示すように軸方向で隣接する他の選択カムにおけるカム本体の軸部129の他方の端面に形成された係合凸部129c(図15に示す)と嵌合されることにより、20度ずつ位相が順次ずれた状態で相対回動不能に連結される。なお、第1〜第4選択カム121〜124は、外周面上の一部が欠歯部128bとなった間欠歯車であり、約270度の範囲に渡り歯部128aが形成されている。但し、選択中間歯車37と噛合する第1選択カム121以外の選択カム122〜124については歯部の機能は不用なので、歯部128aに替えて歯部の128aの外径と同一径の周面とすることができる。
【0087】
<リフトユニット>
図14〜図17に示すように、リフトユニット150は、4つの選択カム121〜124の各々に対応する4組のリフト機構154〜157からなる。リフト機構154〜157は、リフト板ベース151、リフトカム可動板152及びバルブレバー153を備える。リフト板ベース151は、長手方向両端部から略直角に屈曲して延出するレール部159,160を有している。リフト板ベース151は、両レール部159,160が、ホルダ23の内側面上の相対する箇所に形成された図示しないレール溝に係合案内されることにより、各リフト機構154〜157はホルダ23内をそれぞれ独立して上下動可能な状態に支持されている。また、リフト板ベース151にはその中央部に略長方形の係止孔158が形成されるとともに、その長手方向両端部に2つの円孔151b,151cが形成されている。2つの円孔151b,151cは、キャップ24の裏面(下面)から突出する2本の接続管24c,24d(図25に示す)をそれぞれ挿通するために設けられている。2本の接続管24c,24dにはキャップ24とバルブユニット190間を接続するために設けられる後述するチューブ218A,218B(図47に示す)の一端部がそれぞれ接続される。図14(b)に示すように、リフト板ベース151のレール部160側の端部に形成された係合凹部151dには、バルブレバー153の上端部に形成された係合軸部153aが係合により連結されている。この連結状態においてバルブレバー153は上端部の係合軸部153aを中心に傾動可能となっている。ノズル列13に対応する1つの選択カム及びリフト機構からなる1ユニットの基本構造は4組すべて同一であるので、以下、リフトユニットの基本構造について、第1選択カム121を含む1ユニットに着目して説明する。
【0088】
図19は選択カム及びリフト機構の斜視図である。
リフト機構154を構成するリフトカム可動板152は、略五角形の板状であり、鈍角に尖ったカムフォロア部152bを下側に配置する状態でその上端部にてリフト板ベース151の係止孔158に係合支持されている。すなわち、リフトカム可動板152の上端部には、係止孔158に挿着可能な円柱状の係合軸部152a(図17参照)が突設されており、リフトカム可動板152は、係合軸部152aが係止孔158に係合されることによりその係合箇所を支点として選択カム121〜124の軸線方向(図17における左右方向)に傾動可能に支持されている。そして、図19に示すように、略五角形板状のリフトカム可動板152は選択カム121に対してカム部130側に位置し、その尖った突端であるカムフォロア部152bがカム面に当接する状態に配置される。
【0089】
そこで次に、選択カムのカム面について図20〜図22に基づいて説明する。図20は選択カムの斜視図、図21は選択カムの側面図、図22は選択カムの図20の下側から見た斜視図である。なお、選択カム121の軸心からカム面までの半径方向の距離を、カム面の高さとする。また、カムフォロア部152bが当接できる選択カム121の角度範囲は、歯部128aが選択中間歯車37と噛合できる範囲から決まる約270度の角度範囲である。また、選択カム121のカム部130は、選択カム121の軸部129の外周面と同一高さとなる非選択カム面138と、該非選択カム面138よりも選択カム121の軸方向奥側に位置しかつ一段高くなった吸引カム面141と、さらに該吸引カム面141よりも選択カム121の軸方向奥側に位置しかつさらに一段高くなった空吸引カム面144とを有するカム形状を有している。そして、選択カム121の軸部129の外周面で構成される非選択カム面138がリフト下降位置を決めるカム面となり、吸引カム面141がリフト中間位置を決めるカム面となり、空吸引カム面144がリフト最上昇位置を決めるカム面となる。
【0090】
一方、リフトカム可動板152において、対応する選択カム121のカム部130側の側面と面しない側の側面上には、図19に示すように、傾動支点寄りの位置にバネ掛止用の凸部152cが形成されている。そして、この凸部152cには引張りバネ163の一端が掛止されるとともに、この引張りバネ163の他端がホルダ23の内壁面上に突設された図示しない掛止部に掛止されている。ここで、リフトカム可動板152の凸部152cはリフトカム可動板152の揺動支点よりもオフセットされているため、引張りバネ163の付勢力によって、リフトカム可動板152には選択カム121のカム部130側の側面に接する向きの力が働いている。リフトカム可動板152は、引張りバネ163の付勢力によりカムフォロア部152bが選択カム121の軸心に接近する方向(下方)かつ選択カム121のカム部130側の側面に圧接される方向(軸方向奥側)に付勢されている。このため、カムフォロア部152bは選択カム121のカム部130の外周面に軽く圧接された状態に当接するとともに選択カム121の軸方向手前側の側面にも軽く圧接された状態に付勢されている。
【0091】
図20に示すように、選択カム121が待機時の回転角にあるときのカムフォロア部152bのカム部130に対する当接点の初期位置は軸部129の外周面で構成される非選択カム面138上に位置する。なお、第2〜第4選択カム122〜124については、第1選択カム121の初期位置に対して20度ずつ反時計方向に位相が順次ずれた位置が初期位置となる。
【0092】
カムフォロア部152bの当接点が初期位置にある状態から、選択カム121が図20における反時計方向に回転(正転)したときにカムフォロア部152bの当接点が非選択カム面138及びカム部132aの外周面を通過した直後の位置が第1選択位置(図23(a)に示す)となる。この第1選択位置は、軸部129の外周面で構成された非選択カム面138上にあるので、初期位置の場合とカム面の高さは変わらない。しかし、カムフォロア部152bは、選択カム121の軸方向奥側に付勢されていることから、第1選択位置では選択カム121の軸方向手前側の側面において、それまで通ってきた第2カム部132bの斜面を有した側面137aよりも軸方向奥側の側面137bに接するように位置する。
【0093】
吸引選択する場合は、カムフォロア部152bの当接点がこの第1選択位置に位置する状態から選択カム121が逆転すると、カムフォロア部152bは軸方向奥側に付勢されているので、それまで通ってきたカム面(第2カム部132bの斜面を有した側面137aと対応するカム面)に戻ることはなく、径方向外側へ登る斜面となった戻り面139を通り(図23(c)に示す)、非選択カム面138より高いカム面である第2カム部132bの外周面に至る。カムフォロア部152bは戻り面139を登る途中でさらに軸方向奥側に移動する。この状態から選択カム121が正転すると、カムフォロア部152bは、戻り面139を降りて戻ることになるが、引張りバネ163の付勢力により戻り面139内において登り始めに通った経路よりも軸方向奥側の経路を通ることになり、非選択カム面138へは戻ることなく、その経路の延長上で登る斜面となった登り面140を通って空吸引カム面141へ至る(図23(d)参照)。つまり、選択カム121には戻り面139の斜面と共に側面視V字状をなす傾斜向きの登り面140が、戻り面139の斜面の幅のうち軸方向奥側寄りの約半分の幅で形成されている。側面視V字状をなす戻り面139と登り面140の谷部に相当する、選択カム121の回転方向(周方向)上の位置よりも若干時計方向側の位置がリフト上昇・非上昇を選択する分岐位置となる第1選択位置となる。
【0094】
従って、カムフォロア部152bが非選択カム面138上の初期位置に当接する状態から選択カム121が図20における反時計方向(正転方向)に回転して第1選択位置に達した段階で、選択カム121が回転を停止し、少量逆転させた後、再び正転すると、カムフォロア部152bは選択カム121の軸方向手前側の側面に圧接する方向、つまり軸方向奥側へ付勢されていることから、第1選択位置から戻り面139を登って一段高い(半径の大きい)吸引時のカム面である吸引カム面141に至るように構成されている。そして、リフト上昇選択時は、このようにカムフォロア部152bの当接点が選択点近傍にあるときに回転停止・逆転・正転の回転制御を加えることによりリフト板ベース151を上昇位置へ上昇させる選択が行われる。
【0095】
ここで、カム補助板131の第1カム部132a及び第2カム部132bは圧縮バネ133の付勢力で選択カム121の軸方向手前側(図20の手前側)へ押し出されており、選択カム121の軸方向奥側への圧縮バネ133の付勢力に抗する荷重を軸方向手前側から受けると軸方向奥側へ退避可能な構造となっている。カムフォロア部152bは初期位置から第1選択位置まで摺動する過程で、カム補助板131の第2カム部132bの斜面を有する側面137aに沿ってカムフォロア部152bの付勢方向に抗する軸方向手前側へ押し出されるように案内されながら摺動することになり、カムフォロア部152bの第2カム部132bの側面137aに対する接触圧が過大になり易い。このとき、リフトカム可動板152を選択カム121の軸方向手前側の側面に圧接する付勢力は弱めに設定されているものの、ばらつき等によりその付勢力が多少強くなっても、カムフォロア部152bから受ける荷重によって第1カム部132a及び第2カム部132bが圧縮バネ133の付勢力に抗して軸方向奥側へ少し没入するように退避する。これによりカムフォロア部152bは第2カム部132bの側面137aの斜面に引っ掛かかることなく、図20の時計方向への経路に沿ってより確実に移動できる構成となっている。この場合、カムフォロア部152bがカム補助板131の第1カム部132aの外周面上の右端を過ぎると、退避していた第1カム部132a及び第2カム部132bが圧縮バネ133の付勢力により元の位置に復帰するので、選択カム121の停止後の逆転時にカムフォロア部152bは第2カム部132bに形成された戻り面139を登ることができる。
【0096】
一方、吸引非選択時は、カムフォロア部152bの当接点が第1選択位置を通過しても選択カム121の回転を停止することなく(図23(b)参照)、正転を継続することで、リフト板ベース151を下降位置に維持する選択が行われる。そして、吸引非選択がなされた場合、今回の保守作業終了までリフト下降状態に維持されることになる。
【0097】
図20〜図22に示すように、吸引カム面141は、約180度の範囲に渡って形成されている。そして、吸引カム面141の周方向略中間位置に相当する位置に第2選択位置が設定されている。第2選択位置ではリフト上昇位置からリフト最上昇位置への選択が可能であり、本実施形態では第1選択位置でリフト上昇選択がなされた場合、吸引カム面141での吸引動作などを実行した後(図24(a))に第2選択位置において必ずリフト最上昇選択が実施される設定となっている。第2選択位置でリフト最上昇選択を実現可能とするカム構造は、第1選択位置における前述のカム構造と基本的に同じである。カムフォロア部152bが選択カム121の逆転に伴い選択カム121の軸方向手前側の側面に圧接されながら反時計方向へ戻るときに、カムフォロア部152bの当接点が吸引カム面141上を摺動して第2選択位置に達すると、ここからは戻り面142を登り(図24(b)参照)、周方向に延びるカム面145に至ることになる。さらに選択カム121の反転後の正転により、カムフォロア部152bの当接点が戻り面142を少し降りた後に斜面となった登り面143を登ってリフト最上昇選択位置のカム面である空吸引カム面144に至る構成となっている(図24(c)参照)。なお、空吸引カム面144は、第2選択位置から選択カム121の時計方向へ約90度の範囲に渡り形成されている。
【0098】
さて、4つの選択カム121〜124は20度ずつ位相のずれた状態で連結されている。そして、第1選択位置での選択動作(選択カムの逆転・正転動作)は第1選択位置を中心に各選択カム121〜124の回転角度として正逆方向に15度以内の動作である。このため、1つの選択カムで選択動作をしている間に他の選択カムが選択動作に入ることはなく、各選択動作を独立的に行うことが可能である。また、第1〜第4選択カム121〜124を全て吸引選択した場合、第4選択カム124の選択動作が終了するまで、第1選択カム121が第2選択位置を通過しないような位置に第2選択位置は配置されている。本実施形態では第4選択カム124と第1選択カム121は60度位相がずれているのに対し、吸引カム面141は第2選択位置に至るまで約90度の範囲に渡って形成されていることから、4つの選択カム121〜124の全てにおいてリフト上昇選択が可能であり、かつその場合に4つのカムフォロア部152bの全てが吸引カム面141に当接する状態を経た後にリフト最上昇選択が可能となっている。なお、選択の動作に必要な角度は、中心からカムまでの距離を大きくすることで小さくすることができ、位相もずらし角度も小さくできる。つまり選択カムの動作に問題ない範囲で位相がずれていればよい。
【0099】
カムフォロア部152bの当接点が空吸引カム面144上に位置する状態から選択カム121を逆転させると、カムフォロア部152bは登り面143を下ると共に戻り面142を登り、空吸引カム面144より若干低い高さで形成されているカム面145へ至る。このカム面145は戻り面142を登り切った位置から選択カム121の反時計方向に約200度の範囲に渡って形成されている。このカム面145の終端領域においては、選択カム121の軸方向手前側の側面が図20における反時計方向を登り方向として軸方向手前側に膨らむ斜面になった押し出し面146となっている。この押し出し面146の終端よりも選択カム121の同図の反時計方向側には、カム面145よりも軸方向手前側に一段ずれた位置にカム面145と同一高さのカム面が形成されており、このカム面がワイピング時のカム面であるワイピングカム面147となる。カムフォロア部152bがカム面145に至った後、さらに選択カム121を逆転させると、カムフォロア部152bはカム面145から前述した押し出し面146を通りワイピングカム面147へ至る(図24(d))。ワイピングカム面147は選択カム121の周方向に約70度の範囲に渡って形成されている。よって、4つのカムフォロア部152bの全てが同時にワイピングカム面147に当接することが可能となっている。
【0100】
ワイピングカム面147の図20における時計方向終端部には、下降する斜面となった降り面148が形成されている。カムフォロア部152bがワイピングカム面147に当接する状態でワイピングが行われる。このワイピングの後、選択カム121が図20における反時計方向に正転すると、カムフォロア部152bは降り面148を降る。この降り面148を降る過程でカムフォロア部152bの側面が当接(圧接)する選択カム121の軸方向手前側の側面は、同図の時計方向に至るに連れて軸方向手前側に向かって徐々に傾斜する押し出し面149に案内されて軸方向手前側に押し出されることにより、軸部129の外周面にて構成される非選択カム面138上に落ちる構成となっている。そして、その落ちた位置から選択カム121が図20における時計方向に逆転することで、カムフォロア部152bの当接点は同図に示す初期位置に戻ることになる。なお、選択カム121の各部のカム面の径は、「非選択位置<吸引時<ワイピング時<空吸引時」となっている。但し、ワイピングカム面147の径(高さ)は、非選択位置よりも大きければよいし、空吸引時より大きくてもよい。
【0101】
<昇降ユニット>
次に、クリーニング機構22の昇降機構について図25〜図33に基づいて説明する。図25はクリーニング機構22及び昇降ユニット等を示す側断面図である。図26は、昇降ユニットをロック機構の一部と共に描いた斜視図である。
【0102】
昇降ユニット50は、クリーニング機構22を記録ヘッド12に対して接近・離間させられるようにクリーニング機構22をベースユニット21に対して昇降させる機構である。昇降ユニット50は、第3選択カム123に係合して第3選択カム123の回転を動力にしてクリーニング機構22を昇降させる機構である。このため、昇降装置としては、昇降ユニット50と、電動モータ30と、動力伝達機構33と、選択歯車ユニット120のうち選択カム123を回転させる回転駆動部分とにより構成される。
【0103】
図25及び図26に示すように、昇降ユニット50は、ベースフレーム31の上面に配置された支持部51と、支持部51が先端部に有する圧力調整軸ホルダ52内に上部を突出させた状態で上下方向に移動可能に挿通支持されている圧力調整軸53とを備える。図25に示すように、圧力調整軸53は、圧力調整軸ホルダ52内に配置された圧縮バネ55によって上部が突出する方向(上方向)へ付勢され、かつ圧力調整軸53の基部に突設された抜け止め用の規制部53bにより圧力調整軸ホルダ52からの最大突出量が規制されている。圧力調整軸53は有底筒状であり、圧縮バネ55は圧力調整軸53の下面に開口する穴部に上端側の一部を挿通するとともにその下端部が二段歯車34の上面に当接した状態で配置されている。
【0104】
圧力調整軸53が先端部に有する連結孔53a(図35参照)には前述のリフトレバー54の基部に突設されたピン部54bが挿通され、リフトレバー54は圧力調整軸53に連結されたピン部54bの軸線を中心に回動可能に連結されている。リフトレバー54は選択カムの軸部129等との干渉を避けるように基部以外の部分がアーチ状をなしている。リフトレバー54は、第2選択カム122と第3選択カム123の間に配置され、図25及び図26に示すように、第3選択カム123の一側面(カム部が形成された側とは反対側で図25では手前側の側面)に形成された2つの凸部(第1凸部123aと第2凸部123b)間の凹部123cに前記ピン部54aを挿入することで第3選択カム123と係合している。
【0105】
図25は、クリーニング機構22が下降位置に配置された状態である。この下降状態においては、リフトレバー54のピン部54aが第3選択カム123の軸心よりも高い位置で第3選択カム123に係合している。このため、選択カム群135の軸心が圧力調整軸53に最も接近してクリーニング機構22が下降位置に配置される。
【0106】
また、図28は、クリーニング機構22が上昇位置に配置された状態である。この上昇位置においては、ヘッドガイドユニット90のガイド部91,92が記録ヘッド12に嵌ることで、クリーニング機構22が記録ヘッド12に位置決めされた状態で、キャップ24がノズル形成面12aに密接する。リフトレバー54のピン部54aと第3選択カム123との係合位置が第3選択カム123の下縁近傍に位置しており、このとき選択歯車ユニット120の軸心と圧力調整軸53とが高さ方向に最も離れてクリーニング機構22が上昇位置に配置される。但し、上昇位置とは、第3選択カム123とリフトレバー54が図28に示す位置関係になってキャップ24がノズル形成面12aにノズル列13を囲うように当接して封止空間を形成しているときのクリーニング機構22の位置を指す。キャップ24がノズル形成面12aに密接するまでクリーニング機構22に必要な上昇距離はその時々のプラテンギャップに依存するため、最上昇位置に配置されたクリーニング機構22のベースフレーム31からの高さは、プラテンギャップに応じて異なる。プラテンギャップが狭く設定されている場合は記録ヘッド12の位置が低いためにクリーニング機構22が上昇位置に配置されたとき圧力調整軸53が相対的に圧力調整軸ホルダ52内に没入する。一方、プラテンギャップが広く設定されている場合は記録ヘッド12の位置が高いためにクリーニング機構22が上昇位置に配置されたとき圧力調整軸ホルダ52からの圧力調整軸53の突出量が相対的に多くなる。
【0107】
次に昇降ユニットの動作を図27に従って説明する。
同図(a)は下降位置、同図(b)は上昇過程、同図(c)は上昇位置、同図(d)は下降過程、同図(e)は下降位置にある状態をそれぞれ示す。
【0108】
図27(a)に示す下降位置の状態から選択カム123が同図における時計方向に正転すると、選択カム123は高さを変えずにその第1凸部123aがリフトレバー54と係合しない期間がしばらく(約130度)続いた後、同図(b)に示すように第1凸部123aがリフトレバー54のピン部54aに当たる。そして、以後の選択カム123の正転過程で第1凸部123aがピン部54aを押し下げる方向に力が働くが、その力より圧縮バネ55の付勢力が大きいため選択カム123自体は圧力調整軸53から離間する上方へ移動する。このとき選択カム123と共にキャップ24も上昇し、そしてキャップ24がノズル形成面12aに当接する。この時点まで圧縮バネ55は図27(a)とほぼ同じ状態である。キャップ24がノズル形成面12aに当接すると、クリーニング機構22はそれ以上上昇しなくなるが、選択カム123の第1凸部123aは最下点に来ておらず、選択カム123がさらに回転して第1凸部123aはさらに下方の位置へ来るので、リフトレバー54が下方に押し出され、選択カム群135が同図(c)に示す上昇位置に配置される。このとき第1凸部123aはほぼ最下点にある。この上昇位置は、クリーニング機構22により吸引・空吸引が行われる位置であり、リフトレバー54が下方に押し出されることで圧縮された圧縮バネ55の付勢力が確実にキャッピングする力となる。なお、クリーニング機構22は、ガイドロッド32がホルダ23のガイド筒61に挿通されているため、図27では垂直方向に移動する。このとき第1凸部123aは上下方向とともに左右方向にも移動するので、第1凸部123aの動きに合わせてリフトレバー54も動くことができるようリフトレバー54は圧力調整軸53に対して回動可能に連結されている。
【0109】
次に図27(c)に示す上昇位置の状態から選択カム123が同図における反時計方向に逆転すると、選択カム123の第2凸部123bがリフトレバー54と係合しない期間がしばらく(約130度)続く。その間、ピン部54aが選択カム123の溝の側面に当接する状態になり、選択カム123は上下動しない。その後、同図(d)に示すように第2凸部123bがリフトレバー54のピン部54aに当たる。そして、以後の選択カム123の逆転過程で第2凸部123bがピン部54aを押し上げ、リフトレバー54が上方へ移動する。リフトレバー54が上方へ移動しきると、リフトレバー54は圧力調整軸53に連結されているので、第2凸部123bがピン部54aをさらに押し上げる方向に力が働くが、抜け止め用の規制部53bによりそれ以上押し上げることはできず、逆に選択カム群135自体は下降する。そして、さらに選択カム123を逆転させると、選択カム群135が同図(e)に示す最下降位置に配置される。この最下降位置は、クリーニング機構22によりワイピングが行われる位置であり、印字を行う位置である。
【0110】
<キャップユニット>
図29は、キャップユニット及びヘッドガイドユニットを示す斜視図である。
キャップユニット70は、載置ホルダ71と該載置ホルダ71の上面に配置された4つのキャップ24を有している。載置ホルダ71は、キャップベースフレーム72と、キャップベースフレーム72にその左右両側を覆うように固定された左右二枚のサイドフレーム73,74とを有している。4つのキャップ24はその長手方向が互いに平行となるとともにその長手方向と直交する方向に等間隔となるようにキャップベースフレーム72の上面に固定されている。キャップベースフレーム72においてキャップ24の間隔に相当する部位には、長方形状の開口を有するスリット72aがその長手方向両側で貫通する状態に形成されている。キャップベースフレーム72は、4つのキャップ24がそれぞれ上面に固定されているとともに隣同士の間が所定幅で所定深さにまで切り欠かれて裏面側に貫通しているスリット72aで隔てられた4本のベース板部72bを有する。キャップ24は、ベース板部72bの上面に固定されたキャップ基材24aと、このキャップ基材24aの上面に固着されたエラストマからなるキャップ弾性部材24bとを有する。
【0111】
左右のサイドフレーム73,74の上側位置には、上下に並列してキャップの長手方向に沿って延びる第1ガイド孔80と第2ガイド孔81が、それぞれ左右で対をなして一組(但し図29では片側のみ図示)形成されている。また、サイドフレーム73,74の下部には前記ワイパ駆動歯車221及びワイパ駆動車222を配置するための半円弧面状の凹部が形成されている。さらに凹部の前側(図29における左側)から下方へ延出する部分の下部には前記支持ホルダ60と固定する固定ピン64を挿通するためのピン孔79aが穿孔されている。また、キャップベースフレーム72の背面左右両端部には固定ピン65を挿通するための一対のピン孔79bが穿孔されている。そして、支持ホルダ60と載置ホルダ71は複数の固定ピン64,65(図7に示す)により複数箇所で固定される。
【0112】
図29に示すように、ヘッドガイドユニット90は、キャップベースフレーム72と対向する底面部分に、4つのキャップ24が出没可能な4つの開口94を有する四角格子板状のワイパガイド93を有している。ヘッドガイドユニット90の前側左右両端位置には一対の位置決め突起97(同図では一対のうち片方のみ図示)が載置ホルダ71側へ向かって突出している。また、サイドフレーム73,74の上端部において位置決め突起97と対応する位置には位置決め凹部78が凹設されている。ヘッドガイドユニット90のガイド部91,92が記録ヘッド12に嵌ることで記録ヘッド12とヘッドガイドユニット90が位置決めされ、その状態でホルダ23がヘッドガイドユニット90側へ上昇して位置決め突起97が位置決め凹部78に係入することにより、ヘッドガイドユニット90に対してホルダ23が位置決めされる。これによりキャップ24が記録ヘッドに対して位置決めされる。
【0113】
ヘッドガイドユニット90のガイド部91,92によって記録ヘッド12とメンテナンス装置20、特に記録ヘッド12とキャップベースフレーム72の上面に固定されているキャップ24との位置を安定に保ち、キャップ24がノズル形成面12aと弾性接触できるノズル形成面12a上におけるその弾性部先端部とノズル列13までの距離をより小さくできるので、キャップ24の小型化が容易になる。
【0114】
また、ヘッドガイドユニット90の前面左右両端部からはレール溝を有する左右一対のレールガイド部76が下方に延出している。載置ホルダ71の前側左右両端部からは一対のガイドレール部95が下方へ延出している。ヘッドガイドユニット90は一対のガイドレール部95が載置ホルダ71側の一対のレールガイド部76に挿通されることで、載置ホルダ71に対して上下動可能に取り付けられる。ヘッドガイドユニット90のガイドレール部95の外側にはコイルバネ96の上端部が掛止されており、その下端部は載置ホルダ71の前面下端左右両側に突出するバネ掛止用の凸部77に掛止されるようになっている。左右一対のコイルバネ96は、ヘッドガイドユニット90のホルダ23からの抜け止めのために設けられている。さらにヘッドガイドユニット90には一対のガイドレール部95の背面側に両端が挟持により固定されている線バネ98が略水平に張設されている。載置ホルダ71の前面中央には円柱状の凸部75が形成されており、ヘッドガイドユニット90は線バネ98が凸部75に当たる位置で載置ホルダ71(ホルダ23)に対して所定距離だけ離間する状態で位置決めされるようになっている。これによりキャップ24がノズル形成面12aと離間しているときはヘッドガイドユニット90と載置ホルダ71も離間する。
【0115】
クリーニング機構22の上昇過程で行われる記録ヘッドに対する位置決め及びキャッピング動作について、図30〜図33に基づいて説明する。クリーニング機構22が図30に示す下降位置に配置された状態においては、ヘッドガイドユニット90がホルダ23から上方へスライドした待機位置にある。この下降位置からクリーニング機構22が上昇すると、図31に示すように、まずヘッドガイドユニット90のガイド部91,92が記録ヘッド12の側面に嵌ってこれをガイドし、ヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12に対して位置決めされる。引き続き上昇するクリーニング機構22では、図32(a)に示すように、ヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12に当接して上方への移動を規制されたまま、ホルダ23部分が上昇するので、線バネ98の付勢力に抗してホルダ23部分がヘッドガイドユニット90に接近する。この結果、ヘッドガイドユニット90の位置決め突起97がホルダ23側の位置決め凹部78に係止される。この位置決め突起97のホルダ23への係止によりホルダ23部分が記録ヘッド12に対して位置決めされる。
【0116】
このとき、図32(b)に示すように、4つのキャップ24はヘッドガイドユニット90の対応する開口94から若干突出しており、図33に示すように、この突出したキャップ24は記録ヘッド12のノズル形成面12aに密接する。このキャップ24のノズル形成面12aへの密接位置は、前述のようにホルダ23部分がヘッドガイドユニット90を介して記録ヘッド12に位置決めされるため、キャップ24は対応するノズル列13を位置精度よく封止することが可能となっている。
【0117】
<ロック機構>
次にロック機構の構成について図34〜図39に基づき説明する。図34はロック機構を含む要部斜視図、図35はロック機構の斜視図である。
【0118】
図34に示すように、ストッパカム171は選択カム軸125が挿通されることで選択カム群135と一体的に回動可能に連結されている。ストッパカム171は側面に所定形状のカム部171bを有し、カム部171bの外周面で形成されるカム面にはストッパレバー172の上部が当接するように組み付けられる。
【0119】
図34及び図35に示すように、ストッパレバー172は略L字状のレバーであり、カムフォロア部172aがストッパカム171のカム面に当接するとともにその基部は、圧力調整軸53が挿通された状態で圧力調整軸ホルダ52の上面に固定されたチョーク部材173と連結されている。チョーク部材173は圧力調整軸53のうち圧力調整軸ホルダ52から突出した部分が挿通可能な内径を有するとともに一部が切断されたチョークリング部181とチョークリング部181の切断された部分両側から略平行に延出する一対の板状の連結片部182とを有している。両連結片部182はストッパレバー172の基部側面から垂直に延出する挿通軸172bが挿通されることで、両連結片部182の間隔が変更可能な状態でストッパレバー172の基部に連結されている。一方の連結片部182の外側面にストッパレバー172の基部側面は係合している。これら係合面上には、この一方の連結片部182の外側面上にV字溝からなる係合溝183が形成され、一方、ストッパレバー172の基部側面上には断面山型の係合突起184が垂直に突出している。
【0120】
図34及び図35に示すように、ストッパレバー172が垂立する姿勢にある状態では、係合溝183と係合突起184が深く噛み合ってチョーク部材173は自身の弾性によってそのチョークリング部181が拡径した状態にある。この状態では、圧力調整軸53はチョークリング部181に遊嵌された状態となり軸方向への相対移動が可能なアンロック状態にある。一方、ストッパレバー172がストッパカム171のロックカム面177に当接することにより傾動した姿勢をとる状態においては、係合溝183と係合突起184の噛み合いが浅くなり、ストッパレバー172の係合突起184によって一方の連結片部182が他方の連結片部182に接近する方向へ押し出される。その結果、チョークリング部181が縮径して、チョークリング部181が圧力調整軸53の先端部を外側から挟持するようにロックするように構成されている。
【0121】
図36は、ストッパカムの斜視図である。同図に示すように、ストッパカム171は選択カム軸125が挿通される軸孔171aを有しており、その一側面に突設された軸方向に二段のカム部171bは、軸心からの半径が最小であるアンロック時のカム面(以下、「非ロックカム面175」という)と、軸方向側面側へ一段シフトするとともに軸心からの半径が非ロックカム面175よりも大きいロック時のカム面(以下、ロックカム面177という)とを有する。非ロックカム面175とロックカム面177の間は、同図における反時計方向へ向かうに連れて半径が徐々に大きくなる向きで傾斜する斜面176によって連接されている。斜面176と軸心を挟んで反対側付近に位置するロックカム面177の終端部分は側面が軸方向外側に斜面をなして張り出した押出し案内面178となっており、この押出し案内面178によってストッパレバー172がストッパカム171の軸方向外側へ押し出されるように案内される。そして、押し出された後にストッパカム171の軸方向一段外側にシフトした位置にロックカム面177と略同一半径のカム面179が形成されている。このカム面179はワイピング時にストッパレバー172が当接するカム面である。また、ワイピング時のカム面179から同図における時計方向に少し移動した部位には、カム面179から非ロックカム面175に至るに連れて徐々に半径が小さくなる斜面180が形成されている。
【0122】
図37は、ストッパカムの回動位置とストッパレバーの傾動位置との関係を示す側面図である。同図(a)はストッパレバー172が非ロックカム面175に当接した状態、同図(b)はストッパカムが逆転すればストッパレバーが斜面176を乗り上げることになる位置関係の状態、同図(c)はストッパレバーがロックカム面177に当接した状態をそれぞれ示す。
【0123】
図37(a)に示すように、ストッパレバー172がストッパカム171の非ロックカム面175に当接する状態においては、ストッパレバー172は略垂立状態にある。この状態で、ストッパカム171が同図における反時計方向へ回動すると、ストッパレバー172はストッパカム171に対して同図(b)に示す位置関係となる。この状態は、ストッパカム171が時計方向へ反転すれば斜面176を乗り上げることになる。この状態からストッパカム171が時計方向へ反転すると、ストッパレバー172のカムフォロア部172aが斜面176を乗り上げて同図(c)に示すようにロックカム面177に当接する。ストッパレバー172が斜面176を乗り上げてロックカム面177に到達する過程でストッパレバー172は垂立状態から所定角度だけ傾動した傾動姿勢をとる。
【0124】
図38は、ロック機構の動作を説明する平面図であり、同図(a)はアンロック状態、同図(b)はロック状態をそれぞれ示す。
同図(a)に示すように、ストッパレバー172が非ロックカム面175に当接する状態では、係合突起184が係合溝183に噛み合いチョーク部材173の連結片部182の間隔が離れており、チョークリング部181が圧力調整軸53に遊嵌される拡径状態にある。
【0125】
次に同図(b)に示すように、ストッパレバー172がロックカム面177に当接する状態では、ストッパレバー172が傾動して係合突起184と係合溝183との噛み合いがずれて浅くなり係合突起184が連結片部182を、一対の連結片部182の間隔が狭くなる方向に押し込む構成となっている。この連結片部182の間隔を狭くする押し込み作用により、チョークリング部181が縮径して圧力調整軸53を絞めることで圧力調整軸53をそのときの突出量の状態にロックする。このようにロック機構170は図37(a)のようにストッパレバー172が垂立状態にある場合はアンロック状態になり、図37(c)のようにストッパレバー172が傾動するとロック状態となる。
【0126】
図39は、ストッパカムの回動位置とストッパレバーの傾動位置の関係を示す側面図である。同図(a)はストッパカムが初期位置にある待機状態、同図(b)はクリーニング開始後、同図(c)は吸引時・空吸引時の位置、同図(d)はロック状態、同図(e)はワイピング時・クリーニング終了をそれぞれ示す。
【0127】
ストッパカム171(つまり選択カム121〜124)が図39(a)に示す初期位置にあるとき、ストッパレバー172は、ストッパカム171の初期位置のカム面179に当接している。選択カム121〜124及びストッパカム171が吸引時の回動角位置に向かって正転し始めると、同図(b)に示すようにストッパレバー172は斜面180に沿って非ロックカム面175へ降り、非ロックカム面175に当接した状態で吸引時の回動角位置まで正転する。同図(c)に示す吸引時においては、ストッパレバー172はストッパカム171の非ロックカム面175に当接し、ストッパレバー172は垂立した姿勢に配置される。吸引終了後に選択カム121〜124が逆転後に正転して先の回動角位置に戻り空吸引時の状態となる。同図(c)の状態で空吸引が行われる。空吸引終了後に選択カム121〜124及びストッパカム171が逆転すると、ストッパレバー172は斜面176を登りロックカム面177に当接する同図(d)に示すロック状態になる。このロック状態では、ストッパレバー172が同図(d)に示すように傾動するため、この傾動によって縮径したチョークリング部181に絞められることによって圧力調整軸53はそのときの圧力調整軸ホルダ52からの突出量を保持した状態のままロックされる。このロックは選択カム121〜124及びストッパカム171がワイピング時の回動角位置へ向かって逆転する過程で行われ、同図(e)に示す状態で逆転は停止する。この停止状態でワイピングが実施され、ワイピング完了に伴いクリーニングが終了する。このクリーニング終了状態においては当初の待機状態(同図(a))と同じ状態になっている。このように一サイクルのクリーニングを終了すると元の待機位置に復帰する。なお、ワイピング終了後、待機位置に復帰するまでにロック状態が維持される範囲内で少量の正転を伴っても構わない。
【0128】
図40〜図42は、リフトユニットの側面図をそれぞれ示し、各図において(a)は左側面図、(b)は右側面図である。図40は、リフトユニットのノズル列非選択状態、図41はノズル列選択状態、図42は空吸引状態をそれぞれ示す。
【0129】
図40(b)に示すようにリフトカム可動板152が下降時の非選択カム面138に当接した状態では、リフト板ベース151は下降位置に配置され、選択カム121の軸心からリフト板ベース151の上面(リフト面)までの高さはL1となっている。図40〜図42に示すように、リフト板ベース151に係合支持されているバルブレバー153は、選択カム121に対向するその内面形状が選択カム121の外周面(歯部128a)に当接して押圧されその上端部の係合箇所を中心に姿勢を傾動させることが可能な状態に形成されている。このため、図40に示すリフト板ベース151が下降位置にある状態では、バルブレバー153はその内面の高さ方向中段付近に突設された第1レバーカム部153bが歯部に当たることで、その上端部の係合箇所を中心に下端を選択カムから離間させる側へ傾動し、その背面を外側へ大きく押し出す。このバルブレバー153の背面下端部がバルブユニット190の後述するバルブ加圧体191を押圧する押圧面153dとなる。なお、このときの操作部としてのバルブレバー153の操作位置が第3操作位置となる。
【0130】
図41(b)に示すようにリフトカム可動板152が吸引時の吸引カム面141に当接した状態では、リフト板ベース151は上昇位置に配置され、選択カム121の軸心からリフト板ベース151の上面(リフト面)までの高さはL2(>L1)となっている。このため、図41(a),(b)に示すように、リフト板ベース151が上昇位置にある状態では、第1レバーカム部153bも上昇し選択カム121の外周面(歯部128a)と当接するが押圧されない状態となる。そして、バルブレバー153はその内面の下側部位に凹設された第2レバーカム部153cに歯部128aが収まることで、その上端部の係合箇所から鉛直な姿勢をとり、その押圧面153dは外側へ押し出されない。なお、このときの操作部としてのバルブレバー153の操作位置が第1操作位置となる。
【0131】
図42(b)に示すようにリフトカム可動板152が空吸引時の空吸引カム面144に当接した状態では、リフト板ベース151は最上昇位置に配置され、選択カム121の軸心からリフト板ベース151の上面(リフト面)までの高さはL3(>L2)となっている。このため、図42(a),(b)に示すように、リフト板ベース151が最上昇位置にある状態では、バルブレバー153はその内面のうち第2レバーカム部153cが歯部128aに当たることで、その上端部の係合箇所を中心に下端を選択カムから少量離間させる状態に傾動し、その押圧面153dを外側へ少量押し出す。なお、このときの操作部としてのバルブレバー153の操作位置が第2操作位置となる。
【0132】
このようにバルブレバー153の押し出し量は、リフト板ベース151が吸引列非選択時で下降位置にあるときに「最大」(多量)、リフト板ベース151が吸引時の上昇位置にあるときに「最小」(「0」)、リフト板ベース151が空吸引時の最上昇位置にあるときに「中間」(少量)となるように構成されている。つまり、バルブレバー153はリフト板ベース151の選択されたリフト位置に応じた3段階の押し込み量でバルブ加圧体191を押圧可能に構成されている。
【0133】
<バルブユニット>
次にバルブユニットの構成を図43〜図47に基づいて説明する。
図43はリフト機構と共に描かれているバルブユニットを正面から見た斜視図、図44はバルブユニットを背面から見た斜視図である。
【0134】
バルブユニット本体192は、4本の大気管部195が上面に突設された大気バルブ本体198と、4本の吸引管部196と2本のポンプ管部197が上面に突設された吸引バルブ本体199とが接合されて構成されている。また、図44に示すようにバルブユニット190の背面に封止フィルム217が溶着されるなどして内部の流路は封止されている。
【0135】
図45は、バルブユニットの分解斜視図である。同図に示すように、バルブユニット190は、大気バルブ本体198、吸引バルブ本体199、4つの円形状の弁体部201が一列に連接された多連型のバルブ板200、4個のバルブ押圧体193、4個のバルブ加圧体191、与圧バネ194及び大気閉弁バネ202等を備える。
【0136】
大気バルブ本体198と吸引バルブ本体199は、その間に4個のバルブ押圧体193、バルブ板200、4個の大気閉弁バネ202をこの順に挟んで接合された状態でネジ203の締結により固定される。この組み付けられたバルブユニット本体192の前面から突出する4つのバルブ押圧体193に与圧バネ194を介して4つのバルブ加圧体191がそれぞれ取着される。こうして組み立てられたバルブユニット190では、そのバルブユニット本体192の内部に4つの流路弁204が形成される。
【0137】
図45に示すように、バルブ押圧体193の筒状部193bには、その外周面先端部に前述の突起193aが一対形成されるとともに、仕切部214と対応する位置にスリット193eが形成されている。スリット193eは、筒状部193bにおいて突起193a側の端部から軸方向へ底部近くに至る範囲に渡り径方向に貫通するように形成され、図43に示すように筒状部193bを仕切部214と干渉することなく貫通孔213に内側から外方へ向かって差し込むことが可能となっている。
【0138】
また、バルブ加圧体191は、有底円筒形状をなし、その端面中央部には柱状の加圧軸191aが突設されている。また、バルブ加圧体191において、バルブ押圧体193の突起193aと対応する位置には、その軸方向に所定長さを有する案内孔191bが形成されている。バルブ加圧体191は、バルブ押圧体193の筒状部193bに与圧バネ194を間に挟んで外挿されるとともに、筒状部193bの突起193aがバルブ加圧体191の案内孔191bに係合案内された状態で組み付けられている。このため、バルブ加圧体191は与圧バネ194により軸方向外側(バルブレバー153側)へ付勢された状態にあり、与圧バネ194の付勢力に抗する方向に押されると、突起193aが案内孔191b内を相対移動することにより所定のストロークで押し込み変位可能に構成されている。
【0139】
図46は、図43のB−B線断面図である。図47は、同じくB−B線で切断したバルブユニットの斜視図である。
図46に示すように、流路弁204は、バルブ板200を構成する弁体部201を挟む両側に吸引室205(負圧室)と大気室206を備える。略円形の弁体部201は、大気バルブ本体198及び吸引バルブ本体199に挟持される周縁部分が厚肉に形成され、バルブ押圧体193と対向する側の面の中央部に円板状の弁部201aが突設されて中央部分も厚肉となっている。弁部201aの周囲は円環状の薄肉部201bとなって撓み変形し易い膜状に形成されている。薄肉部201bが撓み変形することで弁部201aは円板形状をほぼ保ったまま厚み方向への変位が可能となっている。バルブ板200は例えばエラストマ又はゴムなどの弾性材料からなる。
【0140】
吸引室205内には、吸引バルブ本体199の背面側の壁部内面からバルブ板200に接近する方向へ略円錐台形状の弁座部207が突出しており、弁座部207の先端面は弁部201aが接触・離間可能な弁座207aとなっている。吸引バルブ本体199には、弁座207aの中央部で開口するとともに吸引バルブ本体199の背面側に貫通する吸引流路208が形成されている。各流路弁204をそれぞれ構成する4つの吸引流路208は吸引バルブ本体199の背面にその長手方向に沿う直線状に開口する共通流路209に連通されている。この共通流路209には2本のポンプ用の接続管(以下、「ポンプ管部197」という)が連通するように突出している。これらのポンプ管部197は吸引ポンプ40から延出する2本のチューブ219(図47参照)とそれぞれ接続される。なお、図47に示すように、共通流路209は封止フィルム217が吸引バルブ本体199の背面に固着されることで外部とは密閉状態に封止されている。また、吸引バルブ本体199の上面には吸引用の接続管(以下、「吸引管部196」という)が各吸引室205と連通するようにそれぞれ1本ずつ計4本突出している。吸引管部196に接続された各チューブ218B(図47に各チューブの1本ずつを示す)は、それぞれ対応するキャップ24の裏面(下面)から突出する接続管24d(図25に示す)と接続される。
【0141】
弁体部201は、吸引室205内に圧縮状態で収容された大気閉弁バネ202が薄肉部201bに当接する状態に配置され、大気閉弁バネ202の弾性力により弁座207aから離間する方向へ付勢されている。ここで、弁部201aが弁座207aから離間した同図の状態が、流路弁204の一部を構成する吸引流路弁210が開弁した状態であり、弁部201aが弁座207aに密接して吸引流路208の開口を閉塞することで吸引流路弁210が閉弁される構成となっている。
【0142】
一方、大気室206内には、吸引流路弁210側の弁座207aと対向する吸引バルブ本体199の内面上の位置に略円錐台形状の弁座部211が突出している。弁座部211はその先端面からなる弁座211aが、弁体部201が撓み変形していない状態(図46の状態)にあるときの弁部201aに密接できる長さで突出している。弁部201aと弁座211aの接する状態(図46の状態)が大気流路弁216の閉弁した状態である。そして弁部201aがバルブ押圧体193に押されて弁座211aと離間した状態が大気流路弁216の開弁した状態となる。大気バルブ本体198には、弁座211aの中央部で開口するとともに大気管部195と連通する大気流路212が貫通形成されている。大気管部195に接続された各チューブ218A(図47に各チューブの1本ずつを示す)は、それぞれ対応するキャップ24の裏面(下面)から突出する接続管24c(図25に示す)と接続される。
【0143】
大気バルブ本体198の各大気室206と対応する部位には、大気室206側から筒状部193bを外側へ突出させた状態にバルブ押圧体193を組み付けるための貫通孔213が形成されている。大気バルブ本体198の筒状部193bが貫通される部分には、内部に大気流路212が通る板状の仕切部214が大気管部195の軸方向に貫通孔213を2つに分断する状態で延びており、貫通孔213は仕切部214を避けてその両側に開口する2つの半円状の孔からなる。なお、貫通孔213は、バルブ押圧体193の筒状部193bの外径よりも若干大きい内径を有している。
【0144】
バルブ押圧体193の大気室206に収容される部分である底部193cの中央部には、弁座部と対応する位置に貫通孔193dが形成され、弁座部211はこの貫通孔193dを介してバルブ押圧体193を貫通して弁体部201の弁部201aに当接している。バルブ押圧体193の底部193cは、貫通孔193dの周囲となる底面部分において弁部201aの外周縁部分と接触している。詳しくは、弁体部201の弁部201aの面上には弁座部211が当接する部位を囲むように例えば円環状の凸部215が形成されており、バルブ押圧体193の底部193cはこの凸部215に接触する構成となっている。
【0145】
また、大気室206は、貫通孔213と筒状部193bとの隙間によりバルブユニット190の外部と連通している。こうしてバルブユニット190内においてバルブ板200を挟んで大気室206側の位置には、弁部201aが弁座211aに対して密接・離間することで大気流路212を開閉する大気流路弁216が、流路弁204の一部として構成されている。このように、バルブユニット190は、共通のバルブ板200を用いてその両側に吸引流路弁210及び大気流路弁216が構成されている。
【0146】
図46では、バルブレバー153が鉛直状態の姿勢をとる吸引選択時の状態(図41の状態、つまり押し出し量「最小」の状態)にあり、この状態では、バルブレバーは加圧軸に軽く接触するかこれを軽く押す状態にある。この吸引選択時の状態では、与圧バネ194よりも大気閉弁バネ202の付勢力が勝り、弁体部の弁部が大気室側の弁座部に密接する。よって、大気弁が閉弁し負圧弁が開弁する。
【0147】
一方、バルブレバー153が図42に示す空吸引時の傾動姿勢をとるときは、バルブレバー153が押し出し量「中間」の状態となり、バルブ加圧体191が半押しされる。この半押し状態では、圧縮された与圧バネ194の付勢力が大気閉弁バネ202の付勢力を少し上回ることによってバルブ押圧体193が弁部201aを押圧して弁部201aが大気室206側の弁座211aから少し離間し、弁部201aは両弁座207a,211aから共に離間した状態となる。このため、大気流路弁216が開弁しかつ吸引流路弁210も開弁する。
【0148】
またバルブレバー153が図40に示す吸引非選択時の傾動姿勢をとるときは、バルブレバー153の押し出し量「最大」の状態となり、バルブ加圧体191が完全に押し込まれる。この完全押し込み状態では、与圧バネ194の付勢力が大気閉弁バネ202の付勢力に打ち勝ってバルブ押圧体193が弁部201aを押圧して弁部201aが大気室206側の弁座211aから離間し、かつ弁部201aが吸引室205側の弁座207aに密接した状態となる。このため、大気流路弁216が開弁し吸引流路弁210が閉弁する。
【0149】
<ワイピング装置>
次にメンテナンス装置に備えられたワイピング装置について、図48〜図64に基づいて説明する。本実施形態のワイピング装置は、電動モータ30と、動力伝達機構33と、払拭列のワイパ25を選択する選択ユニット110と、ワイパ25を往復駆動させるワイパ駆動ユニット220と、載置ホルダ71と、ワイパ25のノズル形成面12aへの接触を往動時に規制しつつ復動時に許容する機能等をもつヘッドガイドユニット90とから構成される。
【0150】
まず、ワイパ駆動ユニット220の構成を説明する。
図48はワイパ駆動ユニットが支持ホルダ60に組み付けられた状態を示す斜視図、図49は4つのワイパを取り外した状態のワイパ駆動ユニットを示す斜視図である。図50は、載置ホルダに組み付けられたワイパ駆動ユニットを示す斜視図である。
【0151】
図48に示すように、選択カム軸125の両端部に連結固定されたワイパ駆動歯車221及びワイパ駆動車222は、支持ホルダ60に側部上面の凹部63に摺動可能に支持されている。ワイパ駆動歯車221及びワイパ駆動車222の各外側面の突起221d(図51参照),222bは、左右一組のワイパ駆動レバー223,224とその長手方向中央よりやや下寄りの箇所にある長孔223b、224bと係合されている。左右一組のワイパ駆動レバー223,224はそれぞれの下端部が支持ホルダ60の左右側面下端部に回動可能に軸支された状態で支持ホルダ60に組み付けられ、ワイパ駆動歯車221及びワイパ駆動車222の往復回動により各下端部を中心に一往復の揺動運動をする。左右一組のワイパ駆動レバー223,224の各先端部にある長孔223c、224cに係着された左右一組のワイパ駆動カム体225,226間には同軸上に4つのワイパ25が整列して組み付けられている。ワイパ駆動カム体225,226は凸部225a,226aが長孔223c,224c内をその長手方向に移動可能な範囲においてワイパ駆動レバー223,224に対してその長手方向に相対移動可能かつ凸部225a、226aを中心に回動可能な状態で連結されている。ワイパ駆動レバー223,224の一往復の揺動運動により4つのワイパ25がノズル列方向に往復動する構成となっている。
【0152】
ワイパ駆動歯車221は選択中間歯車37と噛合可能な歯部221a(図49に示す参照)を有するが、選択カム121が選択中間歯車37と噛合する期間はそのうちの僅かな最終時期を除き選択中間歯車37と噛合しない。つまり、各選択カム121〜124が選択動作をしているときはワイパ25が駆動されることはない。選択するべきカムフォロアを全てワイパカム面に位置させた後、さらに選択カム121を逆転させると、選択カム121がその欠歯のため選択中間歯車37と噛合できなくなる直前のタイミングで選択カム121の側面に突設された回転伝達用の凸部121a(図15、52に示す)がワイパ駆動歯車221の周方向端面にあるワイパ回転伝達用の受け面221cの端部に当たってこれを押すと、それまで噛合していなかったワイパ駆動歯車221の歯部221aが選択中間歯車37と噛合する構成となっている。そして、選択カム121は選択中間歯車37と噛合しなくなって停止し、ワイパ駆動歯車221の逆転が開始され、ワイピングが行われる。このワイピング中は、選択カム121〜124が停止状態のまま、選択カム軸125とその両端部に連結されたワイパ駆動歯車221及びワイパ駆動車222が、所定角度範囲(例えば120度)の一往復回動する。
【0153】
図49に示すように、ワイパ駆動歯車221は円筒部221bと間欠歯である歯部221aとを有している。円筒部221bはワイパ駆動歯車221が凹部63に摺動可能に支持される部分である。一方、円筒状のワイパ駆動車222はその外周面で凹部63に摺動可能に支持される。また、ワイパ駆動レバー223,224の下端部には係止ピン部223a,224aが突設されており、これら係止ピン部223a,224aが支持ホルダ60の側面下端部の凹部に係着されることで、ワイパ駆動レバー223,224はその係着された係止ピン部223a,224aを中心として揺動する。
【0154】
ワイパ駆動レバー223,224の先端部は扇状のガイド板部223d,224dが延出形成されている。ワイパ駆動カム体225,226の外側面から延出する断面L字形状のガイド延出部225d(図52に示す),226dの凹所にはガイド板部223d,224dが挿入された状態にある。ワイパ駆動カム体225,226は長孔223c,224cに挿入された凸部225a,226aを中心として回動するときにガイド延出部225d,226dがガイド板部223d,224dに案内されながら回動する。
【0155】
また、ワイパ駆動歯車221は、支持ホルダ60の受け面となる凹部63の内面を摺動する円筒部221bと、該円筒部221bの一側面(内側面)に隣接して一体成形された間欠歯からなる歯部221aとを有し、歯部221aは扇型で約120度の範囲に渡って形成されている。扇型の歯部の片側端面は回転伝達用の受け面221cとなっている。空吸引終了後に逆転を開始した選択カム群135が停止する直前のタイミングでワイパ駆動歯車221はその動力伝達用の受け面221cが第1選択カム121の動力伝達用の凸部121aに押されることでその歯部221aが選択中間歯車37と噛合するようになり、それまで停止していたワイパ駆動歯車221の逆転が開始される構成となっている。
【0156】
図49及び図50に示すように、載置ホルダ71を構成する左右のサイドフレーム73,74における上側寄りにキャップ24の長手方向と平行に延びる第1ガイド孔80及び第2ガイド孔81には、ワイパ駆動カム体225,226の第1ガイド軸部225b及び第2ガイド軸部225c,226cが挿入されている。第1ガイド軸部225b及び第2ガイド軸部225c,226cはワイパ駆動カム体225,226においてサイドフレーム73,74と対向する側面上に突設されている。第1ガイド軸部225bはワイパ駆動カム体225,226の長手方向中央部に位置し、第2ガイド軸部225c,226cはワイパ駆動カム体225,226のワイパ駆動軸227と反対側端部に位置する。なお、ワイパ駆動カム体226の第1ガイド軸部は、図49及び図50では図示していないが、ワイパ駆動カム体226のサイドフレーム74と対向する側面上においてワイパ駆動カム体225の第1ガイド軸部225bと対向する位置に突設されている。第1ガイド軸部225b及び第2ガイド軸部225c,226cの間隔は、第1及び第2ガイド孔80,81の間隔よりも広いので、ワイパ駆動カム体225,226は図50に示す所定角度に傾く一定の姿勢角を保持したまま第1及び第2ガイド孔80,81に案内されて移動する。なお、第1ガイド孔80には図51(c)に示すように背面側の端部が下方へ曲がった斜孔部80aがある。この斜孔部80aに案内される過程でワイパ駆動カム体225,226は先端側の第1ガイド軸部225bだけが下降することになるので、先端側を下降させるように姿勢を傾倒させる。
【0157】
図54は、ワイパの斜視図、図55は同じく分解斜視図である。
ワイパ25は、ワイパ本体230と、ワイパ押さえレバー235と、付勢部材としてのワイパ押付けバネ238とからなる。ワイパ本体230は、樹脂製のワイパ基材231と、ワイパ基材231の上面のうち先端側の所定領域に固着された弾性体かならなるワイパ部材232とを有する。ワイパ部材232はエラストマやゴム等の弾性材料を用いることができる。本実施形態では、ワイパ基材231はエラストマからなり、ワイパ基材231の樹脂と二色成形されている。ワイパ部材232の先端部にはブレード25aが突設されている。ワイパ本体230はブレード25aの幅方向両側に一対のガイド部231bを有している。ガイド部231bは、ワイパ25の往動時にヘッドガイドユニット90を構成するワイパガイド93の下面と当接する部分である。
【0158】
ワイパ本体230の基部側面には一対の円柱状のピン部231cが突設されている。この一対のピン部231cにはワイパ押さえレバー235の支点となる部分に形成された一対の孔235bが挿通される。また、ワイパ本体230の長手方向略中央部にはワイパ駆動軸用の軸孔231aが両側面を貫通するように形成されている。この軸孔231aにはワイパ駆動軸227が挿通される。
【0159】
ワイパ押付けバネ238はワイパ本体230の両側に2つ取着される。ワイパ押付けバネ238は捩りコイルバネであり、一端部が略直角に屈曲して形成されている引掛部238aがワイパ本体230の先端部背面に掛止されるとともに、他端部がワイパ押さえレバー235のレバー部235aの上面に当接して掛止されている。ワイパ本体230とワイパ押さえレバー235は、ワイパ押付けバネ238の付勢力により支点となるピン部231cの位置を中心として互いが押し広げられる構成となっている。ワイパ本体230とワイパ押さえレバー235は、両者の開き角度が所定角度に達するとそれぞれの度当たり面231d,235cが当たることで、図54に示す所定角度をなす状態に開き角度の上限が規制されるようになっている。
【0160】
なお、吸引クリーニング終了後にクリーニング機構22が下降位置に達するまでの下降量は、ロック機構170の働きによって、クリーニング機構22の下降量から線バネ98の復元量を差し引いた一定距離となる。このため、ノズル形成面12aとリフト板ベース151との高さ方向の位置関係が、プラテンギャップの違いによらず常に略一定となる。これにより、ワイピング時にノズル形成面12aに接触するワイパ25の接触圧は略一定となる。
【0161】
図52は、リフトユニットと共にワイパ駆動ユニットを背面側から見た斜視図である。また、図53は、ワイパ駆動ユニットの分解斜視図である。ワイパ駆動レバー223,224の先端間に横架されたワイパ駆動軸227はリフト板ベース151の上方位置をベース面151a(及び、ノズル形成面12a)と平行に移動する。4つのワイパ25はワイパ駆動軸227が挿通された状態で支持されており、該ワイパ駆動軸227を中心に回動可能となっている。ワイパ25はその基端部から下側へ延出する一対のレバー部235aを有している。4つのワイパ25のレバー部235aは、図50に示すように対応するキャップ24の両側に設けられたスリット72aから載置ホルダ71内に挿入されて、図52に示すようにリフト板ベース151のベース面151aに対向して配置されている。そして、図52に示すように、リフト板ベース151が上昇している吸引選択列のワイパ25は、そのレバー部235aがベース面151aに当接して上向きの力を受けてワイパ駆動軸227を中心に回動し、ブレード25aが突設された先端側を上方に位置させた起き上がり姿勢をとる構成になっている。一方、リフト板ベース151が下降している非選択列のワイパ25はそのレバー部235aがベース面151aから離間するか接触する程度であり、水平又は先端部を傾倒させた姿勢をとる構成になっている。
【0162】
一方のワイパ駆動カム体225は、その先端部から垂直に延びるとともに4つのワイパ25を挿通支持できるだけの軸長を有するワイパ駆動軸227が一体成形されている。他方のワイパ駆動カム体226の先端部には、ワイパ駆動軸227を挿入するための軸孔226eが形成されている。左右一対のワイパ駆動カム体225,226は、ワイパ駆動軸227の有無等の違いを除けば、左右で対称な形状を有している。また、ワイパ駆動レバー223,224についても左右で対称な形状を有している。
【0163】
<ヘッドガイドユニット>
ここで、ワイピング装置の一部をなすヘッドガイドユニットの構成について説明する。図56はヘッドガイドユニットを示し、同図(a)は下側から見た斜視図、同図(b)は上側から見た斜視図である。ヘッドガイドユニット90には、四角格子板状のワイパガイド93が一体に組み付けられている。
【0164】
ヘッドガイドユニット90は四角格子板状のワイパガイド93を有している。ワイパガイド93は、格子をなすとともに開口94の両側にその長手方向と平行に延びる5本のワイパガイド部100を備える。ワイパガイド部100は、その長手方向両端部を除く部分が幅広に形成される。幅広のワイパガイド部100の間に位置する開口94の狭い部分はキャップ24が出没可能な開口サイズ、すなわちキャップ24が固定されているベース板部72b(図50に示す)の幅より若干広く、かつ、ワイパ25の先端最大幅、すなわちワイパ25のガイド部231bの部分の幅よりも狭くなっている。また、ワイパブレード25aよりも広い。そして、ワイパガイド部100の長手方向両端部は開口94が広くなっており、この部分が開口101,102となっている。開口101、102の幅は、ワイパ25の先端最大幅より若干広くなっている。ワイパ25のガイド部231bが開口94を挟んで両側に位置するワイパ規制面100a,100bに当接して上方への移動が規制されるようになっている。なお、5本のワイパガイド部100のうち両端部二本の下面であるワイパ規制面100aは、図51に示したようにワイパ駆動カム体225(226)がワイピング過程でヘッドガイドユニット90を持ち上げるときの当接面を兼ねている。
【0165】
ワイパ25は後述するように往動過程においてはワイパガイド部100の下を移動する。このときガイド部231bがワイパガイド部100の下面に当接して上方への移動が規制されるので、ワイパガイド部100の下面はワイパ規制面として作用する。なお、5本のワイパガイド部100のうち両端部二本の下面をワイパ規制面100aと呼び、両端二本を除く三本の下面をワイパ規制面100bと呼ぶ。ワイパ25がワイパ規制面に当接している状態ではブレード25aはノズル形成面12aに当接しない構成となっている。そのためワイパ25の往動時はノズル形成面12aを払拭しないが退避位置から斜孔部80aに案内されて上昇した後、水平孔部80bに案内されて往動するときにワイパの復動時に吸引選択されたノズル列に対応するワイパ25はワイパガイド部100の上を通る。
【0166】
開口101は復動開始時のワイパ25が位置する箇所に相当し、開口102は復動終了時のワイパ25が位置する箇所に相当する。復動開始時にワイパ25は開口101を介して先端部をワイパガイド部100の上側へ移動させてノズル形成面12aに接触可能な位置まで上昇させることができる。一旦開口101から上方へガイド部231bを移動すると、ガイド部231bはワイパガイド部100の上に位置した状態で復動可能となっている。復動終了時には開口102を通ってワイパ25がガイド部231bをワイパガイド部100よりも下方へ移動する。このため、ワイパ25が復動時にのみノズル形成面12aを払拭可能である。
【0167】
図57(a),(b)は、ワイパガイド部の両端部分を示し、同図(a)はワイパの復動開始位置付近を示す要部斜視図であり、同図(b)はワイパの復動終了位置付近を示す要部斜視図である。
【0168】
ワイパガイド部100の長手方向両端部には、開口101に相当する位置に第1規制部103が形成されるとともに、開口102に相当する位置に第2規制部104が形成されている。第1規制部103及び第2規制部104はワイパ規制面100a,100bより少し上側に位置し、開口101,102毎に一対(図57(a)では一方のみ図示)ずつ設けられている。この第1規制部103及び第2規制部104の下面は、内側ほど高くなる斜面に形成されている。一対の第1規制部103及び第2規制部104の間隔は、ワイパ25のガイド部231b部分の幅よりも狭くなっている。
【0169】
このため、ワイパガイド部100の下面であるワイパ規制面100a,100bに規制されていたガイド部231bが開口101から上方へ変位したときに第1規制部103に当たり上方への移動が一時的に規制される。この状態ではブレード25aがノズル形成面に当接しない。第1規制部103の辺りでワイパ25が上方へ起き上がり、ブレード25aが記録ヘッド12のノズル形成面12aに当たるとブレード25aが損傷する。また、ノズル形成面12aに当てずに記録ヘッド12の側方にブレード25aを位置するようにワイパ25を起き上がらせた場合、払拭のためにブレード25aをノズル形成面12aに当接させる際に記録ヘッド12のエッジに当接するためにブレード25aが傷つき、払拭性能が劣化する。そこで、ワイパ25の復動開始時に一時的に位置規制してワイパ25を少し起き上がらせ、さらに斜面103aを通過させることで徐々にブレード25aがノズル形成面12aに当接するようにした。またワイパ25のガイド部231bが斜面103aを通過したときには、ブレード25aが記録ヘッド12の側部ではなく、ノズル形成面12aに当接する位置となるように構成している。これにより、ブレード25aと記録ヘッド12のエッジ部が接触することはないので、記録ヘッド12のエッジを隠すための部材が不要になる。
【0170】
そこで、ワイパ25が第1規制部103で一時的に規制された後、復動方向に移動するに連れてガイド部231bは第1規制部103の斜面103aに沿って徐々に上昇し、斜面103aから外れた直後、または外れる手前で、ブレード25aはノズル形成面12aに当接するように構成されている。これにより、ブレード25aがノズル形成面12aに急激に当接して損傷することもなく、また、ブレード25aは記録ヘッド12の側方に位置せずにノズル形成面12aに当接するようにしたので、ブレード25aがエッジに当たってしまうこともない。
【0171】
ワイパ25の復動終了時には、ワイパ25のガイド部231bが第2規制部104の斜面104aに当たり、斜面104aに摺動案内されながらワイパ25は開口102を通って下方へ退避するよう構成されている。このときワイパ25はノズル列13の払拭を終えたブレード25aが記録ヘッド12のエッジに至る手前でノズル形成面12aから離間するように第2規制部104の位置が設定されている。このため、ノズル形成面12aに所定の接触圧で接触して弾性変形したブレード25aが記録ヘッド12のエッジでその弾性変形が解放されて、ワイパ25が掻き取ったインク等を跳ね飛ばすことが回避される構成となっている。
【0172】
図58は、ヘッドガイドユニットを千鳥配置したときの平面図を示す。ヘッドガイドユニット90は、コーナ部分がテーパ状にカットされた平面視略八角形形状となっている。すなわち、キャップ24の長手方向(開口94の長手方向)と直交する幅方向に対向する一対のガイド部92が立設されている板状の枠部分は、ガイド部92の両側から両端へ向かうほど幅が狭くなる平面視斜状に面取りされた面取り部105が形成されている。これは、図2及び図3に示すように、記録ヘッド12の千鳥配置に対応してメンテナンス装置20を千鳥配置とした場合、斜め前に配置されるヘッドガイドユニット90と自身のヘッドガイドユニット90のそれぞれの面取り部105が平面視で平行に対峙することで近接配置でき、千鳥配置された2列のメンテナンス装置20の列間方向の間隔を短くでき、これにより千鳥配置された記録ヘッド12を列間方向に近接配置できる。すなわち、隣接する2つのヘッドガイドユニット90の隣合う2つの面取り部105でできた平面視で谷型との凹部と、他の列のヘッドガイドユニット90の2つの面取り部105でできた山型の凸部とが互いに入り込んで、ヘッドガイドユニット90を列間方向に近接配置できる。よって、ヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12にガイドされるためにはガイド部が記録ヘッドの外側にはみ出るが、その割に記録ヘッドを列間方向に近接配置できる。よって、記録ヘッド12もメンテナンス装置も列間方向に近接配置できることから、本実施形態のプリンタは列間方向に比較的小型に構成されている。
【0173】
次に、ワイパの動作を説明する。ワイパの動作を説明する上で、ワイパとワイパ駆動ユニットを一緒の図にすると重なって動作がわからないので、ワイパの動作とワイパ駆動ユニットの動作を別の図を用いて説明する。図59及び図60は、ワイピング選択時におけるワイパの動作を説明する側面図である。図51はワイパ駆動ユニットとヘッドガイドユニットを示す側面図である。但し、同図ではワイパを省略したワイパ駆動機構のみを示している。同図(a)はワイパが退避位置にあるワイパ駆動機構の待機状態、同図(b)は往動開始状態、同図(c)は往動過程、同図(d)は往動終了状態をそれぞれ示す。以下、吸引選択されたときのワイパの動作について説明する。
【0174】
図51(a)、図59(a)に示す退避位置は、ワイパ25が動く直前の状態である。選択カム121はリフトカム可動板152がワイピングカム面147(図20参照)に当接した位置にあり、リフト板ベース151は最上昇に近い位置に配置される。図51(a)に示すようにワイパ駆動カム体225の第1ガイド軸部225bが第1ガイド孔80のうちの斜孔部80aの下端に位置する。このため、ワイパ駆動カム体225が相対的に低く位置するとともに姿勢を傾倒させた状態になり、その先端のワイパ駆動軸227の配置位置が低くなる。この結果、ワイパ25は、図59(a)に示すようにホルダ23に対してキャップ長手方向外側に配置されるとともに下方へ退避して位置する。
【0175】
図59(b)はワイパの往動開始位置を示す。ワイパ駆動歯車221が図51(b)に示すように反時計方向に回転(逆転)し始めると、突起221dに押されてワイパ駆動レバー223が待機位置から下端を中心とする揺動を開始し、これに伴いワイパ駆動カム体225が斜孔部80aに案内されて相対的に上方へ変位するとともにその姿勢を起き上がらせる。このときワイパ駆動カム体225(226)がヘッドガイドユニット90の下面(ワイパ規制面100a)を所定距離だけ押し上げる。この押し上げ量は空吸引後のホルダ23の下降ストロークにほぼ匹敵するので、この押し上げによりヘッドガイドユニット90のガイド部91,92が記録ヘッド12に嵌まりヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12に対して位置決めされる。また、この往動開始位置まで移動したワイパ駆動カム体225(226)の姿勢角は、第1ガイド孔80及び第2ガイド孔81とこれらそれぞれに挿通される第1及び第2ガイド軸部225b,225cとの位置関係から一義的に決まる。
【0176】
これに伴い、図59(b)に示すようにワイパも上昇する。このときワイパ押さえレバー235がリフト板ベース151のベース面151aに当接する。ワイパ25はワイパ押付けバネ238による与圧のために先端部側(ブレード25a側)を高くする起き上がり姿勢をとろうとするが、ガイド部231bがワイパ規制面100bに当接して上方への移動が規制される。このため、ワイパ25は先端部側を若干低くした傾倒姿勢に保持され、ブレード25aはワイパガイド部100より低く位置に配置される。
【0177】
その後、引き続きワイパ駆動歯車221が逆転するに連れて、同図(c)に示すようにワイパ駆動レバー223の往動方向への回動が継続されて、ワイパ駆動カム体225が一定の姿勢角を保持したまま第1及び第2ガイド孔80,81に沿って略水平に往動する。このとき図59(c)に示すように、ワイパ25はガイド部231bがワイパ規制面100bに当接した傾倒姿勢を保持したまま往動する。このため、ブレード25aをノズル形成面12aから離間させた状態を保持した姿勢でワイパ25は往動する。
【0178】
ワイパ駆動歯車221が約120度逆転し終えると、図51(d)に示す位置までワイパ駆動レバー223が傾倒して往動を終える。このときワイパ25は図60(a)に示すように開口101に相当する位置に到達する。ガイド部231bがワイパ規制面100bから外れ、ワイパ押付けバネ238の与圧によりこの状態から先端部側を高くするように起き上がることになるが、ガイド部231bが第1規制部103に当接することになる。
【0179】
往動を終えた状態から、ワイパ駆動歯車221が反転されて正転に切り替わると、復動の動作をする。復動のとき、ワイパ駆動レバーは往動時と逆の動きをする。つまり図51(d)の状態から、図51(c)、図51(b)の状態を順に経て、図51(a)に示す退避位置に復帰するようになっている。ここで、図51(d)から図51(b)までは、ワイパ駆動カム体225(226)は同じ姿勢を保っている。しかし、その間においてワイパは異なる動きをするので、以下はワイパについての動作のみを説明する。
【0180】
図60(b)はワイパの復動開始時の状態を示す。復動開始時はガイド部231bが第1規制部103の下面に当接した状態にあり、ワイパ25が復動を開始するとガイド部231bはワイパ押付けバネ238の与圧により第1規制部103の下面に沿って移動し、ガイド部231bが斜面103a(図57(a)参照)を移動する過程でワイパ25は徐々に起き上がる。これに伴いブレード25aも徐々に上昇してワイパガイド部100の上面よりも上方へ突出してノズル形成面12aに接触する。ガイド部231bが斜面103aから外れると、ブレード25aはワイパ押付けバネ238の与圧でノズル形成面12aに押し付けられるので略一定の払拭圧でノズル形成面12aに当接することになる。なお、ノズル形成面12aの高さが高くなった場合でも、ブレード25aはノズル形成面12aに当接するまで移動可能であり、この場合でもワイパ押付けバネ238の与圧で押し付けられるのでノズル形成面12aの高さによらず略一定の払拭圧にできる。また、バネの与圧力で払拭圧はほぼ決まるのでワイパ部品の寸法精度やブレードの硬度ばらつきなどの影響を受けにくい。
【0181】
図60(c)はワイパの復動過程を示す。復動過程では、ブレード25aが略一定の払拭圧でノズル形成面12aに当接する起き上がり姿勢を保持したままワイパ25は同図における右端側から左端側に向かって往動する。この往動過程で実施されるワイパ25によるワイピングにより、ノズル形成面12aにおける対応するノズル列13の周辺域に残存するインクが掻き取られる。
【0182】
図60(d)はワイパの復動終了を示す。復動終了時はガイド部231bが第2規制部104に当接し、ガイド部231bは図57(b)に示す斜面104aに沿って徐々に下方へ移動する。これに伴いブレード25aはノズル列13の払拭が終わると徐々に下降して記録ヘッド12のエッジに達する前にノズル形成面12aから離間する。本願ではブレード25aを弾性変形させていないのでブレード25aの払拭時の弾性変形がエッジで解放されることに起因するインクの飛散等が抑制される。そして、ワイパ25が斜孔部80aに案内されて下降しつつ先端部を高くするように回動して図59(a)に示す退避位置に配置される。
【0183】
次に吸引非選択時のワイパの動作について図61に基づいて説明する。なおワイパ駆動ユニットの動作は吸引選択時でも吸引非選択時でも同じなので、ワイパの動作のみを説明する。
【0184】
図61(a)は退避位置にある状態を示す。選択カム121はリフトカム可動板152が非選択カム面138(図40参照)に当接する位置にあり、リフト板ベース151は下降位置にある。このため、リフト板ベース151とワイパガイド部100との間隔が相対的に広くなる。
【0185】
図61(b)はワイパの往動過程、あるいは複動過程の一例を示す。往動過程ではワイパ押さえレバー235はリフト板ベース151のベース面151aから離間している。このため、ワイパ25は自由回動可能な状態にある。ワイパ本体230とワイパ押さえレバー235は前述したように所定角度をなす状態に開き角度の上限が規制されるようになっているので、ガイド部231bはワイパ規制面100bに離間するか軽く接触する状態でワイパ25は往動する。
【0186】
図61(c)は復動開始時の状態を示す。復動開始時は、ガイド部231bが開口101に相当する位置に配置されているが、ワイパ押さえレバー235がベース面151aから離間して与圧が作用しないので、ワイパ25は起き上がらない。このため、復動過程ではガイド部231bはワイパ規制面100bの下側を通ってワイパ25は復動する。つまり、ブレード25aがノズル形成面12aから離間した状態のままワイパ25は復動する。復動終了時は斜孔部80aに案内されてワイパ25は退避位置に戻る。
【0187】
<メンテナンス装置の動作説明>
図64は選択ユニットによる選択動作と共にメンテナンス装置の動作を説明するタイミングチャートである。メンテナンス装置20が実施するクリーニングの1サイクルについて図64に基づいて説明する。
【0188】
図64は、4つのノズル列のうち例えば第3選択カム123に相当する第3ノズル列13が不良ノズル検出装置28により正常と判定され吸引選択の必要がなく、他の3つのノズル列に不良ノズルがあると判定され吸引選択をする場合の例で説明する。同図は、選択カム121〜124の回動制御が実施されたときの各選択カム121〜124に対応するカムフォロア部152bのカム面に対する当接点のシフトの様子を示す。選択カム121〜124の回転制御は、コントローラ27が電動モータ30を回転駆動制御することにより行われる。
【0189】
図64では、第1選択カム121の欠歯により駆動が切れる一方の位置を「0度」とし、選択カム121〜124の図19における反時計方向(正転方向)をプラス、時計方向(逆転方向)をマイナスにとって、選択カム121〜124の回転方向の位置を回転角で示した横軸に対して、各カムフォロア部152bの当接点の高さに応じたリフト板ベース151のリフト量を縦軸にとって示している。また、同図において、選択カム121〜124の回動角を示した横軸に対してクリーニング機構22の昇降状態を縦軸に示しており、さらに同横軸に対してロック機構170のロック・アンロックの状態を縦軸に示している。また、同図における最終段にクリーニングの1サイクルの流れを示している。
【0190】
クリーニング開始前の段階では、各リフト機構154〜157のカムフォロア部152bが当接するカム面は、非選択カム面138上に係合している。不良ノズル検出を行ったとき、キャッピングはされていない状態なので、クリーニング機構22が下降した状態で、かつ第1〜第4の選択カムが非選択の状態である図64に示す位置が初期位置となる。選択カム121〜124はカム面形状が20°ずつ位相がずれているため各選択カムにおける初期位置も20度ずつずれている。
【0191】
クリーニング開始に伴い電動モータ30が正転駆動されると、選択カム群135は初期位置の状態から正転し始める。
まず第1選択カム121に対応するカムフォロア部152b(第1カムフォロア部)が第1選択位置に到達する。第1選択カム121は吸引選択対象であるため、コントローラ27は電動モータ30を正転から逆転に切り換えて再び正転に戻す吸引選択制御(リフト上昇選択制御)を加える(図64における(2))。この結果、選択カム121の吸引選択用の回動制御により、第1選択カム121に対応するカムフォロア部152bが、図23(a),(c),(d)に示す順の経路で吸引カム面141に当接する高さまで上昇する。
【0192】
電動モータ30は第1選択カム121の引選択制御の終了後、正転を継続する。次に第2選択カム122に対応するカムフォロア部152bが第1選択位置に達すると、第2選択カム122も吸引選択対象であるので、コントローラ27は電動モータ30に吸引選択制御を再び加える。この結果、第2カムフォロア部152bは吸引カム面141に当接する高さまで上昇する。さらに正転を継続し、第3選択カム123に対応するカムフォロア部152bが第1選択位置に達する。第3選択カム123に対応するノズル列13は正常であって吸引選択の必要がないので、吸引選択制御が加えられることはなく、第3選択カム123はそのまま正転を継続する。このため第3選択カム123に対応するカムフォロア部152bは吸引カム面141には上昇せず、非選択カム面138に当接したままとなる。第4選択カム124については、吸引選択するため、第1選択カム121、第2選択カム122と同様に吸引選択制御が加えられ、対応するカムフォロア部152bが吸引カム面141に当接する高さまで上昇する。
【0193】
こうして選択カム群135の正転開始後、第1カムフォロア部152bが第1選択位置に到達した後、選択カム群135が20度ずつ正転する度に次の選択カムが第1選択位置に到達するので、吸引を選択する場合は、約20度ずつのタイミングで吸引選択制御が実施される。吸引選択制御は選択カムの回転角で20度より小さいため、1つの選択カムが選択動作しているときに他の選択カムは選択動作に入ることはないので、選択動作をしていない選択カムに対応するカムフォロア部は同じカム面上を移動するだけである。第1〜第4カムフォロア部152bがすべて第1選択位置を過ぎると、電動モータは正転を継続して、選択カム121が欠歯部128bにより選択中間歯車37と噛合しなくなると選択カム群135の正転は停止する(図64の(5)参照)。
【0194】
こうして第1、第2、第4列のカムフォロア部152bが吸引カム面に上昇すると、それと共にリフト板ベース151がリフト量L2の上昇位置に配置される。第3列のカムフォロア部152bは非選択カム面138にいるので、リフト板ベース151はリフト量L1の下降位置に配置されたままとなる。
【0195】
リフト板ベース151が上昇位置に配置されると、バルブレバー153は押出し量「0」(P2)の位置に配置され、バルブ加圧体191を押し込まなくなる(図41)。この結果、バルブユニット190において、その吸引選択された列のキャップ24に繋がる吸引流路弁210が開弁されるとともに大気流路弁216が閉弁される第1位置に配置される。一方、リフト板ベース151が下降位置に配置されている場合は、バルブレバー153が押出し量「最大」の位置に配置される(図40)。この場合、バルブユニット190において、その吸引非選択列のキャップ24に繋がる吸引流路弁210が閉弁されるとともに大気流路弁216が開弁状態にある。
【0196】
<昇降機構の動作>
一方、電動モータ30の正転の結果、クリーニング機構22は上昇する。選択カム群135が初期位置から正転方向に回転すると、第3選択カム123の裏面側(カム部130と反対側の側面側)に形成された昇降動力伝達用の第1凸部123aがリフトレバー54の先端部のピン部54aを押す。この結果、選択カム群135の軸心高さが圧力調整軸53の先端から離間することになって、選択カム群135を内包するホルダ23を有するクリーニング機構22全体が上昇する。
【0197】
クリーニング機構22が上昇位置に到達する途中でヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12に当接することで、ヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12に対して位置決めされる(図31)。そして、ヘッドガイドユニット90は記録ヘッド12に当接した後はそれ以上の上昇が規制されるが、クリーニング機構22のホルダ23部分がさらに上昇する。この結果、4つのキャップ24が、ワイパガイド93の格子の開口94から上方へ突出し、記録ヘッド12のノズル形成面12aに当接する(図32(b),図33)。キャップ24が記録ヘッド12に当接した状態では、ヘッドガイドユニット90の位置決め突起97がホルダ23側の位置決め凹部78に係入されることでクリーニング機構22が記録ヘッド12に対して位置決めされる(図32(a))。
【0198】
このキャップ24の当接後、さらにクリーニング機構22を上昇させようとする力は反力となってリフトレバー54を介して圧力調整軸53を圧力調整軸ホルダ52内へ押し込む。この結果、圧力調整軸53は圧縮バネ55の付勢力に抗して下方へ押し込まれる(図27,図28参照)。
【0199】
圧力調整軸53が圧力調整軸ホルダ52内を上下方向に摺動でき、圧力調整軸53とベースフレーム31側との間の圧縮バネ55によって、圧力調整軸53は与圧を与えられている。従って、記録ヘッド12とメンテナンス装置20の距離(ギャップ)が変化しても、圧力調整軸53の動作によって干渉を吸収できる。なお、圧縮バネ55の与圧力は記録ヘッド12とキャップ24の密着させる力でもあり、これにより確実に記録ヘッド12をキャッピングできる。
【0200】
こうして4つのキャップ24がノズル形成面12aに圧接された状態の下で、吸引ポンプ40が駆動される。すなわち、選択カム121が欠歯部128bにより選択中間歯車37と噛合しなくなり選択カム群135の正転が停止した後も電動モータ30が正転を継続すると吸引ポンプ40の駆動が開始される。これは、電動モータ30が正転開始から所定回転量の正転をし終えた段階からポンプ軸と係合するように遅延機構が吸引ポンプ40のポンプギヤ40aに内蔵されているためである。
【0201】
これにより、例えばキャップ24がノズル形成面12aに密接した直後のタイミングで吸引ポンプ40が駆動される。4つのキャップ24は全て同じ吸引ポンプ40に連結されている。しかし、第3のノズル列は吸引非選択のためキャップ24に繋がる吸引流路弁210が閉弁されているため吸引ポンプ40による負圧は導入されない。一方、吸引選択されたキャップ24に繋がる吸引流路弁210は開弁されているので負圧が導入される。この結果、選択ユニット110で吸引選択されたキャップ24においてのみノズル列13のインク吸引が選択的に実施される。このインク吸引過程において電動モータ30は正転し続けている間、選択カム群135は停止し、摩擦ギヤ126だけが空回りする。
【0202】
<吸引→空吸引>
インク吸引が終了すると、電動モータ30の正転駆動が停止され、次に空吸引動作が行われる。コントローラ27は電動モータ30を駆動制御し、吸引選択列のカムフォロア部152bの当接点が空吸引カム面144に移行するように制御する。吸引時の回動角(約270°)にある選択カム群135は逆転を開始する。この逆転開始時は、第1選択カム121の歯部は選択中間歯車37と噛み合っていないが、第2選択カム122が摩擦ギヤ126から摩擦係合力を受けてこれを補助力として選択カム群135は逆転を開始し始め、第1選択カム121の歯部が選択中間歯車37と噛み合い回転する。選択カム群135が逆転を開始した後、4つのカムフォロア部152bがそれぞれの第2選択位置を通過し終えると、逆転から正転に切り換えられる。
【0203】
すなわち、図24(a)に示す吸引時の状態から図24(b)中の矢印(1)の方向へ逆
転すると、カムフォロア部152bが第2選択位置に到達して戻り面142を登りカム面145に到達する。このとき、図64に示すように、まず第4カムフォロア部152bが第2選択位置に到達して戻り面142を登り、さらに40°逆転すると次に第2カムフォロア部152bが戻り面142を登り、さらに20°逆転すると第1カムフォロア部152bが戻り面142を登る。こうして選択列である第1、第2及び第4カムフォロア部152bがすべてカム面145に到達する回転角で、図24(b)中の矢印(2)の方向への正転に切り換えられる(図64における(6),(7),(8))。そして、選択カム群135の正転は選択カム121の欠歯部128bが選択中間歯車37と相対するようになって選択カム群135の駆動が停止するまで行われる。この正転の過程で、第1、第2、第4の順にカムフォロア部152bはカム面145から戻り面142、登り面143を経て空吸引カム面144に上昇する。なお、非選択列である第3カムフォロア部152bは非選択カム面138上を移動するに留まる。
【0204】
また、リフト板ベース151を吸引時の位置から空吸引時の位置へ移動する過程で選択カム群135が約70°逆転されるが、このときクリーニング機構22は上昇位置に保持される。これは、図27(c),(d)に示すように、昇降ユニット50では図27(c)に示す上昇位置から選択カム123が逆転されても、図27(d)に示すように第2凸部123bがリフトレバー54のピン部54aに当接するまでに約150°の逆転が必要なため、約150°未満の逆転が加わってもクリーニング機構22は上昇位置から下降しないからである。
【0205】
こうして吸引選択列のカムフォロア部152bが、吸引カム面141から一段高い空吸引カム面144に到達する(図24(c))。この過程において、リフト板ベース151は上昇位置から最上昇位置に上昇するため、バルブレバー153は押出し量が「0」から「中間」(P3)の中間位置に配置される(図42)。そのときバルブ加圧体191は第2位置(中間位置)に配置され、バルブユニット190において吸引選択列のキャップ24に繋がる吸引流路弁210と大気流路弁216が共に開の状態となる。一方、吸引非選択列のカムフォロア部152bは吸引非選択カム面138に当接した状態に維持されるため、リフト板ベース151は下降位置に維持され、バルブレバー153は押出し量「最大」の位置に維持されるのでキャップ24に繋がる吸引流路弁210が閉弁しかつ大気流路弁216が開弁した状態にあり、キャップ24が大気開放される。
【0206】
また、リフト板ベース151を吸引時の位置から空吸引時の位置へ移動する過程で選択カム群135が約70°逆転されるが、このときクリーニング機構22は上昇位置に保持される。これは、図27(c),(d)に示すように、昇降ユニット50では図27(c)に示す上昇位置から選択カム123が逆転されても、図27(d)に示すように第2凸部123bがリフトレバー54のピン部54aに当接するまでに約150°の逆転が必要なため、約150°未満の逆転が加わってもクリーニング機構22は上昇位置から下降しないからである。
【0207】
クリーニング機構22は上昇位置に保持されているので、4つのキャップ24はノズル形成面12aに当接している状態を維持する。選択カム群135の正転停止後も、電動モータ30は正転を継続し、吸引ポンプ40が駆動される。このとき吸引非選択のキャップ24に繋がる吸引流路弁210が閉弁しているので負圧は導入されない。吸引選択されたキャップ24に繋がる吸引流路弁210と大気流路弁216が共に開の状態であるので、キャップ内は大気開放されつつ、負圧が導入される。この結果、吸引選択列のキャップ24ではバルブユニット190の大気管部195から吸い込まれた空気が吸引管部196を通って吸引ポンプ40に送られる状態となり、これによって記録ヘッドからインクを吸引せずにキャップ24内及びチューブ内に残存するインク等を吸引する空吸引が行われる。空吸引されたインクは図示しない廃液タンクに回収される。
【0208】
空吸引を終了した後、記録ヘッド12のノズル形成面12aのインクを払拭するワイピング動作を行う。本願ではワイパ25はキャップ24の上を移動してワイピングを行うので、キャップを下げる必要がある。また、全てのワイパ25を移動させるが、吸引選択されたワイパに払拭力を付与し、吸引非選択のワイパには払拭力を付与しないようにしており、これをリフト板ベース151によって行っている。
【0209】
空吸引終了後、選択カム群135を逆転させる。このときの駆動の伝え方は、インク吸引後の選択カム群135への駆動伝達と同じである。選択カム群135は270°回転させる。この動作により吸引選択されたカムフォロア部152bは、空吸引カム面144から登り面143、戻り面142、カム面145を経て、ワイピングカム面147へ至る。ワイピングカム面147は空吸引カム面144より若干低い高さである。このときのリフト板ベース151は最上昇位置より若干低い高さ(リフト量L3より若干低い高さ)で、この高さにおいてワイパ25がワイパ押し付けバネ238により適切な払拭力を与えられる。一方、非選択列のカムフォロア部152bは非選択カム面138上を移動するだけなので、リフト板ベース151は下降位置に維持され、ワイパ25には払拭力は付与されない。
【0210】
<ロック機構の動作>
選択カム群135が270°回転する過程でロック機構によるロック動作が行われる。選択カム群135が回動するときこれと一体にストッパカム171が回動する。選択カム群135が初期位置にあるとき、ストッパレバー172は、ストッパカム171の待機位置のカム面179(図39(a)参照)に当接している。選択カム群135が正転してカムフォロア部152bが吸引カム面141に当接する回動角まで移動した吸引時の状態において、ストッパレバー172はストッパカム171の非ロックカム面175に当接し、ストッパレバー172が垂立した姿勢に配置される(図39(c)参照)。この状態ではロック機構はロックされないアンロック状態となる。吸引後の空吸引時においても、同様に、アンロック状態となる。
【0211】
空吸引終了後、選択カム群135の逆転により、ストッパレバー172のストッパカム171への当接点は、斜面176を登りロックカム面177に移行する(図39(d)参照)。この結果、ストッパレバー172が傾動してチョーク部材173のチョークリング部181が縮径し、この縮径したチョークリング部181によって圧力調整軸53はロックされる。図64に示すように、ロック機構170によるロックは、クリーニング機構22が上昇位置にある状態、すなわちキャップ24が記録ヘッド12に密接する状態で行われる。記録ヘッド12の高さは、図示しないプラテンギャップ調整機構によりそのとき使用される記録用紙の紙厚に応じて適切なプラテンギャップが確保されるよう決められ、キャップ24が記録ヘッドに密接した状態における圧力調整軸53の圧力調整軸ホルダ52からの突出量はプラテンギャップに依存する。そして、このプラテンギャップに依存する圧力調整軸53の圧力調整軸ホルダ52からの突出量がロックにより固定される。言い換えると圧縮バネ55が伸縮しないようにしており、また、圧力調整軸53が動かないようにしている。なお、吸引時の位置から空吸引の位置へ移行する過程で選択カム群135が一時的に逆転するときにも、圧力調整軸53は一時的にロックされる。
【0212】
図64に示すように、圧力調整軸53のロックの後、選択カム群135の逆転がさらに進むと、やがて図27(d)に示すように第3選択カム123の第2凸部123bがリフトレバー54のピン部54aを押すようになり、クリーニング機構22が下降を開始する。クリーニング機構22が下降を開始すると、まずキャップ24がヘッドガイドユニット90の開口94に没入してノズル形成面12aから離間する。そして、線バネ98の弾性変形がなくなると、次にヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12から離間する。やがて選択カム121の回動角が約0°付近の所定角度に達して、欠歯部128bが選択中間歯車37に相対する位置となって選択カム群135の逆転が停止すると、クリーニング機構22の下降が完了する。ここで圧力調整軸53がロックされており、圧縮バネ55が伸縮しないので、クリーニング機構22の下降量はプラテンギャップに依存せず一定である。また、キャップ24の下降量もクリーニング機構22と同じ量となる。つまり、プラテンギャップによらず記録ヘッド12のノズル形成面12aとキャップ24との距離は一定になる。
【0213】
<ワイピング動作>
次にワイピング動作について説明する。
選択カム群135の逆転が停止する少し前のタイミングで、選択カム121の回転伝達用の凸部121aがワイパ駆動歯車221の受け面221cを押すことで、ワイパ駆動歯車221の歯部221aが選択中間歯車37と噛合するようになり、その後、選択カム群135の逆転の停止と入れ替わってワイパ駆動歯車221が逆転を開始する。このワイパ駆動歯車221の逆転開始によりワイピング動作が開始される。この後、コントローラ27はワイパ駆動歯車221を約120°往復回動させるように電動モータ30を駆動制御する。
【0214】
なお、クリーニング機構22が吸引時の上昇位置からワイピング時の下降位置まで下降する下降過程において、圧力調整軸53がロックされているので、圧縮バネ55はキャップ24がノズル形成面12aに当接した際の圧縮状態に維持されている。この結果、吸引時の状態からワイピングの状態へクリーニング機構22が下降したとき圧縮バネ55の復元がないことから、そのときのプラテンギャップの値によらずワイピング時におけるノズル形成面12aとリフト板ベース151の間隔が常に一定となる。これによりブレード25aによる払拭力を一定にできる。本願ではさらに、ワイパ本体230とワイパ押さえレバー235との開き角度がワイパ押付けバネ238により可変となっている。このため、ワイピング時にノズル形成面12aの高さに応じてブレード25aの位置は追従できるので、確実に払拭でき、払拭力も安定する。
【0215】
図64の最下段に示すように、選択カム群135の逆転停止後に、ワイパ駆動歯車221に約120°の逆転と約120°の正転を実施させて、ワイパ25の一往復動のワイピング動作が行われる。ワイピング動作では往動時にはワイパ25は記録ヘッド12に当接せず、復動時に当接して払拭動作を行う。
【0216】
その後、復動を終えたワイパ25は、第1ガイド軸部225bが第1ガイド孔80の斜孔部80aに案内され、ワイパ25はノズル形成面12aから遠ざかった状態に退避する。ワイピング終了時にワイパ駆動歯車221が正転し終わる直前にその受け面221cが回転伝達用の凸部121aを押すので、選択カム121の歯部128aが選択中間歯車37と噛合した状態となる。さらなる選択カム121〜124の正転によって、ワイピングカム面147上の初期位置であった列のカムフォロア部152bは降り面148に沿って下降して軸部129の外周面にて構成される非選択カム面138に至る。こうして電動モータ30の駆動が停止されると、1サイクルのクリーニングが終了する。クリーニング終了時には選択カム群135は初期位置の状態に復帰している。このとき、4つのカムフォロア全ての当接点が初期位置のカム面上に復帰した位置であるので、ロック機構170はロック状態にある。
【0217】
このようにクリーニング終了後も、圧力調整軸53はロックされた状態に保持される。このため、その後、フラッシング時期になって、キャップ24がノズル列13と相対する位置関係となるように、記録ヘッド12の直下にメンテナンス装置20が配置されたときには、ノズル形成面12aとキャップ24との間隔がプラテンギャップの値によらず常に一定のギャップに保たれる。このため、フラッシング時におけるノズル形成面12aとキャップ24との間隔が常に一定になることから、フラッシングに適した間隔(ギャップ)を確保でき、フラッシング時の液滴がキャップ24の外側に漏れ出る可能性が低くなる。例えば、圧力調整軸53がロックされない場合、フラッシング時のギャップは、プラテンギャップの値に応じて変化することになり、プラテンギャップが大きい場合にギャップが広くなり、プラテンギャップが小さい場合にギャップが狭くなる。例えばギャップが広い状態でフラッシングが行われると、キャップ24までの距離が長くなって液滴が噴霧状になって飛散し、プリンタの筐体内を汚染したりする。また、ギャップが狭い状態でフラッシングが行われると、液滴がキャップ24に跳ね返ってノズル形成面12aを汚染する心配がある。しかし、本実施形態の構成であれば、ギャップが常に一定に保持されるので、フラッシングによる上記の汚染を回避できる。
【0218】
なお、コントローラ27は、複数のメンテナンス装置20のうち、吐出不良ノズルが検出されたメンテナンス装置20については電動モータ30を駆動させて上記の制御内容で吐出不良ノズルを含むノズル列13を選択的にクリーニングするが、吐出不良ノズルを1つも検出されなかったメンテナンス装置20については電動モータ30を駆動させない。
【0219】
以上詳述したように第1実施形態によれば以下の効果が得られる。
(1)バルブレバー153がバルブユニット190のバルブ加圧体191を押さない最小操作量の位置に配置された状態では、常時閉の大気閉弁バネ202の付勢力により大気流路弁216が閉弁し吸引流路弁210が開弁する。バルブ加圧体191を少量押す中間位置の状態では、大気閉弁バネ202の付勢力に抗して弁体部201を撓ませて弁座部211と弁座部207から離間させることで大気流路弁216と吸引流路弁210が共に開弁する。さらにバルブレバー153がバルブ加圧体191を大きく押す最大操作量の位置に配置された状態では、大気流路弁216が開弁し吸引流路弁210が閉弁する。このように、バルブユニット190内の流路弁204は、操作部であるバルブレバー153によって被操作部であるバルブ加圧体191が操作されることにより、吸引流路弁210及び大気流路弁216の開閉の組合せを、それぞれ開・閉と、開・開と、閉・開との3種類とすることができる。よって、吸引流路弁210と大気流路弁216が1つのバルブ板200(弁体部201)を共有する比較的小型のバルブユニット190を実現しつつ、メンテナンス装置20に必要な吸引・非吸引の選択ができるとともに、吸引選択列のキャップ24において残留インクを吸引除去する空吸引も行うことができる。
【0220】
(2)複数のキャップ24の各々に対応した、吸引流路弁210と大気流路弁216とを有するバルブユニット190を各々押圧することで上記の弁を開閉できる。記録ヘッド12にキャップ24が当接するまでの過程で吸引クリーニングを実施したいキャップ24に対応したリフト板ベース151だけが上昇し、バルブレバー153が押し込み量「0」の状態になって大気閉弁バネ202によって大気流路弁216が閉弁するとともに吸引流路弁210を開弁させる。また、吸引クリーニングを実施しないキャップ24に対応したリフト板ベース151だけが下降状態のままに保持され、バルブレバー153が大きく傾動してバルブ加圧体191を介してバルブ板200(弁体部201)を大きく押して大気流路弁216を開弁させるとともに吸引流路弁210を閉弁させる。よって、吸引したいキャップ24だけから選択的にインクを吸引できる。
【0221】
(3)バルブユニット190のバルブ加圧体191とバルブ押圧体193は、与圧バネ194を介して与圧状態に保持されているので、弁体部201をバルブレバー153によって押し込む際に、押し込み量がばらついても確実な荷重で吸引流路弁210を閉めることができる。よって、大気流路弁216の密閉状態を安定化でき、さらに必要以上に押し込まないので膜材からなる弁体部201を傷つけることがなく、長期に渡って信頼性のある弁機能が維持できる。
【0222】
(4)バルブ加圧体191が操作されることで弁体部201を押すバルブ押圧体193は、弁体部201を挟んでバルブ加圧体191側の大気室206に挿通されることになるが、この大気室206に挿通されたバルブ押圧体193の挿通箇所にできる隙間があってもこの大気室206が大気開放される室であることから隙間の存在は大気開放流路となるのでなんら問題ではない。一方、弁体部201を挟んでバルブ加圧体191側の室が負圧源である吸引ポンプ40に接続される吸引室205である構成であると、バルブ押圧体193の挿通箇所にできる隙間をシールする必要が生じ、シール構造が必要になるうえ、長年の使用によるシール部材の劣化等に起因してシール異常が起きることが懸念される。しかし、弁体部201を挟んでバルブ加圧体191側の室が大気室206である構成なので、この種のシールに関する問題を心配しなくて済む。
【0223】
(5)弁体部201を押し込みによって変位させる構成なので、バルブ押圧体193を弁体部201に固定することなく、当接可能な状態に配置すればよい。例えば弁体を引き込みによって変位させる構成であると、引込体と弁体とを固定又は係止等する必要があり、弁体の気密性を保持しつつ加わる力で外れないように強固に固定や係止等する必要があるので、そのような要求を満たす部品の製造・加工や組み立てが面倒になる。これに対し、押し込み方式であれば、そのような面倒さが無くなるので、バルブユニット190の構成及びその組み立てを簡単にすることができる。
【0224】
(6)バルブ押圧体193が弁体部201を大気閉弁バネ202の付勢力に抗して、弁体部201を大きく変位させるためには、バルブ押圧体193が弁体部201の略中央部付近に当接することが望ましい。一方、弁座部211はその開口が弁体部201の変位の大きい略中央部と対向する位置に配置されることが望ましい。このため、バルブ押圧体193と弁座部211の望ましい配置位置が互いに干渉する。しかしながら、本実施形態では、バルブ押圧体193が挿通される貫通孔213を横切る仕切部214に弁座部211が突設されることで、弁座部211の開口を弁体部201の略中央部の弁部201aと対向する状態に配置することができる。一方、バルブ押圧体193は、仕切部214をスリット193eで避け、弁座部211を貫通孔193dで避けた状態で、大気室206側から外側へ向かって貫通孔213を挿通させた状態に組み付けられ、その大気室206側の先端部は貫通孔193dで弁座部211を避けた環状の面で弁体部201の略中央部の弁部201aに当接する。よって、バルブ押圧体193は弁座部の周囲に相当する弁体部201の略中央部分を環状の面で当接箇所を押込むことができる。よって、バルブ押圧体193が弁体部201を大きく変位させられるように弁体部201の略中央部に力を付与する要請と、弁座部211を開口が弁体部201の変位の大きい略中央部に対向するように配置する要請とを両立できる。
【0225】
(7)バルブ押圧体193が弁体部201を大気閉弁バネ202の付勢力に抗して押し込むと、弁体部201が変位して、吸引流路弁210及び大気流路弁216の開閉状態が切り換えられる。バルブ押圧体193が肉厚の弁部201aを押し込んだときには、弁体部201は弁部201aにおいては撓まずその周囲の薄肉部201bで撓むことで変位する。このとき、弁部201aの部分はその面を弁座部207,211の開口面に略平行に保持したままバルブ押圧体193の軸方向に変位するので、弁部201aが弁座部207,211に当接したときに弁座部207,211の開口を確実に密閉できる。また、弁体部201は、弁座部207,211及びバルブ押圧体193に当たる弁部201aが肉厚に形成されていることから、弁部201aは弁座部207,211及びバルブ押圧体193から当接時に繰り返し力を受ける割りに、その耐久性が確保される。
【0226】
(8)バルブユニット190に内蔵された各流路弁204の弁体となる複数の弁体部201を1つに連接した1枚のバルブ板200を用い、大気バルブ本体198及び吸引バルブ本体199を1枚のバルブ板200を間に介して接合することでバルブユニット190の筐体を構成した。よって、例えば各流路弁204に1枚ずつ弁体を組み付ける構成に比べ、組み付け工数を低減できる。また、大気バルブ本体198と吸引バルブ本体199の間に挟んだバルブ板200がシール部材として機能するので、吸引室205及び大気室206の気密性を高めることができるうえ、別途シール部材を組み付ける必要がない。
【0227】
(9)バルブユニット190の弁体部201を大気閉弁バネ202によって、大気流路弁216の常時閉弁側である弁座部211へ押し付けることで大気流路212は閉じ、大気流路弁216は開弁している。このため、非選択列のキャップ24が記録ヘッド12に当接する際に大気流路弁216を開弁させておくことができる。さらに同じ弁体部201を押し付け位置を変えることで開閉するので、大気流路弁216が閉じる状態では、吸引流路弁210は確実に開けることができる。
【0228】
(10)バルブユニット190に複数(4つ)の流路弁204を内蔵し、各流路弁204を複数のバルブレバー153の操作量に応じた量でバルブ加圧体191を押し込み操作することにより対応するキャップ24毎に流路弁204の開閉状態を選択できる構成とした。このため、吸引クリーニングを実施するキャップ24を選択することができ、不良ノズルを含むノズル列13を選択してクリーニングを実施することができる。
【0229】
(11)選択カム121〜124の特定位置(第1選択位置及び第2選択位置)において逆転の有無によって、バルブレバー153の操作位置を切り換える吸引選択機構である。選択カム121〜124の回動において特定位置での逆転の有無によって選択する機構なので、ステッピングモータなどの電動モータ30の制御だけで、特別な電磁弁を不要とすることができる。よって、吸引回復装置の動力源を吸引ポンプ40を駆動させる電動モータ30と兼用できるので、メンテナンス装置20のより小型化が可能である。さらに選択カム121〜124の特定位置での逆転の有無で選択する機構なので、選択カム121〜124の径を大きくして円周長を長くするだけで、吸引・非吸引を選択可能なキャップの数(吸引列数)を容易に増やすことができる。
【0230】
(12)選択カム121〜124の特定位置(第1選択位置及び第2選択位置)における逆転の有無によって、バルブレバー153の操作位置が選択されてバルブユニット190の各流路弁204が個別に切り換えられる吸引選択機構である。よって、ステッピングモータなどの電動モータ30の制御だけで、特別な電磁弁を不要とすることができる。また、電動モータ30を用いることができることから、動力源を吸引ポンプ40と兼用できるので、選択ユニット110と吸引ポンプ40で電動モータ30を兼用することで、メンテナンス装置20の小型化が可能となる。さらに選択カム121〜124の特定位置での逆転の有無で選択する機構なので、選択カム121〜124の径を大きくして円周長を長くするだけで、吸引・非吸引を選択可能なキャップの数(吸引列数)を容易に増やすことができる。
【0231】
(13)選択ユニット110はキャップ24を退避位置から封止位置へ上昇させるキャッピング過程で電動モータ30から出力される動力によって駆動されて選択動作を行い、非選択列のキャップ24は大気開放状態でノズル形成面12aに当接する。このため、キャップ24がノズル形成面12aに当接したときにキャップ24の弾性部分が変形して上昇した内圧がノズル内に加わってノズルメニスカスが破壊されることを回避し易くなる。
【0232】
(14)不良ノズル検出装置28により吐出不良ノズルを検出して、その検出結果に基づき、吐出不良ノズルを含むノズル列13については対応するキャップ24に負圧が導入される開閉状態に流路弁204を切り換え、一方、吐出不良ノズルを含まないノズル列13については対応するキャップ24に負圧が導入されない開閉状態に流路弁204を切り換えた。よって、吐出不良ノズルを含むノズル列13を選択して吸引クリーニングを行うことができる。この結果、良好に吐出できる良好ノズルでありながら吸引クリーニングが行われる良好ノズル数を低減し、吸引クリーニングによるインクの無駄な消費を抑制することができる。
【0233】
(第2実施形態)
他のメンテナンスシステムの構成を、図65〜図72に基づいて説明する。
前記実施形態では、千鳥配置された2列の記録ヘッドに対応してメンテナンス装置を2列に千鳥配置する構成であったが、本実施形態は、記録ヘッドが3列以上に千鳥配置された場合でも対応できるように3列以上の千鳥配置も可能な構造のメンテナンス装置を提供する。
【0234】
2列千鳥配置の場合である前記第1実施形態では、メンテナンス装置20の高さを低く抑えるためにクリーニング機構22の隣接位置に吸引ポンプ40を配置し、平面視において記録ヘッド12から吸引ポンプ40がはみ出した構造であった。これに対し、本実施形態では、電動モータ30、吸引ポンプ40、クリーニング機構22を、記録ヘッドと対向する方向に縦列に配置した。これにより、ノズル形成面と直交する方向におけるメンテナンス装置の投影面積をX・Y両方向に小さく抑えた構造としている。
【0235】
図65〜図70は、本実施形態におけるメンテナンスシステムを示す。図65は正面斜視図、図66は背面斜視図、図67は平面図、図68は左側面図、図70は右側面図を示す。
【0236】
図65〜図70に示すように、本実施形態の記録ヘッドシステム11は、3列に千鳥配置された複数の記録ヘッド12を備える。メンテナンスシステム300は、記録ヘッドシステム15を構成する記録ヘッド12と対応する直下位置に、記録ヘッドと対応するように千鳥配置された複数のメンテナンス装置310を備える。
【0237】
メンテナンス装置310は、ノズル形成面と直交する方向における投影形状及び投影面積が、記録ヘッド12の同投影形状及び投影面積と略等しくなるように、電動モータ30、吸引ポンプ40、クリーニング機構22が、下から順に縦列配置された構造を有する。このため、メンテナンス装置310は3列に千鳥配置された記録ヘッド12の直下に、記録ヘッドと対応する3列の千鳥配置で配置されている。
【0238】
メンテナンス装置310は、ベースユニット311と、ベースユニット311に対して昇降可能に設けられたクリーニング機構22とを備える。電動モータ30と吸引ポンプ40は、下からこの順に縦列配置された状態でベースユニット311を構成するベースフレーム312に固定されている。
【0239】
図69及び図70に示すように、ベースフレーム312の上面には2本のガイドロッド317,318が垂直に延びており、これら2本のガイドロッド317,318が、クリーニング機構22から下方へ延出する2本のガイド筒319,320にそれぞれ挿通されることで、クリーニング機構22はベースフレーム312に対して昇降可能に設けられている。ロック機構170は、前記第1実施形態では昇降ユニットの圧力調整軸53に取り付けられていたが、本実施形態では、二本のうち一方のガイドロッド318に取り付けられている。
【0240】
また、図66及び図68に示すように、メンテナンス装置310の左側面部には、電動モータ30の動力をクリーニング機構22に伝達する動力伝達機構313が設けられている。動力伝達機構313はメンテナンス装置310の下端部に配置された電動モータ30からの動力を、上端部に配置されたクリーニング機構22へ伝達するためにタイミングベルト方式を採用している。また、本実施形態の動力伝達機構313は、クリーニング機構22をベースフレーム312に対して昇降させる昇降装置を兼ね備えている。
【0241】
クリーニング機構22は昇降方式が異なるものの前記第1実施形態と同様の構造であり、選択中間歯車37に伝達された回転力がホルダ23内の選択ユニット110(図71,図72に示す)に伝達されることで記録ヘッド12の不良ノズルを含むノズル列だけを選択的にクリーニングできるものである。このため、以下の説明では、前記第1実施形態と同様の構成であるクリーニング機構22の説明は省略し、動力伝達系や昇降系について説明する。
【0242】
図71はメンテナンス装置のベースフレームを取り除いた状態の斜視図、図72はメンテナンス装置の背面図を示す。図72(a)はクリーニング機構22が下降位置に配置された下降状態、同図(b)はクリーニング機構22が上昇位置に配置された上昇状態をそれぞれ示す。
【0243】
メンテナンス装置310の左側面部には、電動モータ30の駆動軸に固着されたピニオン30cの回転駆動力を、選択中間歯車37と作動連結された状態でホルダ23内に収容された選択ユニット110に伝達する動力伝達機構313が設けられている。動力伝達機構313は、前記ピニオン30c、二段歯車321、二段歯車322、両二段歯車321,322間に掛装されたタイミングベルト323、中間歯車324、選択中間歯車37、二段歯車322と中間歯車324の軸間を連結するリンクレバー325、及び中間歯車324と選択中間歯車37の軸間を連結するリンクレバー326を備える。
【0244】
ピニオン30cは二段歯車321の大歯車部321aと噛合している。吸引ポンプ40の上部近傍位置には、大歯車部322bがポンプギヤ40aと噛合する二段歯車322が配置されている。二段歯車322は、ベースフレーム312に回転可能に支持された回転軸327に固定されている。二段歯車321の小歯車部321bと二段歯車322の小歯車部322aとの間には、タイミングベルト323が掛装されている。
【0245】
リンクレバー325は、その一端部が二段歯車322の回転軸327と回動可能に連結されるとともに、その他端部に中間歯車324を回転可能に支持する支軸(図示せず)を支持している。このリンクレバー325の他端部にはリンクレバー326の一端部が回動可能に連結されている。リンクレバー326の他端部は選択中間歯車37の軸部の位置に配置された連結軸328に回動可能に連結されている。中間歯車324と二段歯車322の軸間距離は、両者の軸間を連結するリンクレバー325により両者が噛合可能な一定値に保持されている。また、中間歯車324と選択中間歯車37の軸心間距離は、両者の軸間を連結するリンクレバー326により両者が噛合可能な一定値に保持されている。
【0246】
図72(a)に示す下降位置に配置された状態において、コントローラにより電動モータ30が正転駆動されると、その回転が、ピニオン30c、二段歯車321、タイミングベルト323を介して二段歯車322に伝達され、さらに二段歯車322と噛合する中間歯車324を介して選択中間歯車37に伝達される。このとき二段歯車322が正転してリンクレバー325が回転軸327を中心として時計方向に回動すると、リンクレバー325とリンクレバー326とのなす角度が広がって、連結軸328には二段歯車322と選択中間歯車37との軸間距離を長くする上向きの力が加わるため、クリーニング機構22が上昇する。
【0247】
また、図72(b)に示す上昇位置に配置された状態において、コントローラにより電動モータ30が逆転駆動されると、その回転が、ピニオン30c、二段歯車321、タイミングベルト323を介して二段歯車322に伝達され、さらに二段歯車322と噛合する中間歯車324を介して選択中間歯車37に伝達される。このとき二段歯車322が逆転してリンクレバー325が回転軸327を中心として反時計方向に回動すると、リンクレバー325とリンクレバー326とのなす角度が狭まり、連結軸328には二段歯車322と選択中間歯車37との軸間距離を短くする下向きの力が加わるため、クリーニング機構22が下降する。
【0248】
前記各実施形態に限定されず、以下の構成で実施することもできる。
(変形例1)前記各実施形態において、以下の制御方式を採用することができる。ワイピング時にはインクが飛び散って隣接する記録ヘッド12のノズル形成面12aを汚染する虞がある。このため、コントローラ27は、一のメンテナンス装置20がワイピング時期にあるときにはワイピング方向側の隣に位置する他のメンテナンス装置20のクリーニング機構22を上昇させて各キャップ24がノズル形成面12aを封止するキャッピング状態に制御し、このキャッピング状態の下で一のメンテナンス装置20におけるワイピングを行うように制御する。つまり、ワイピング時にはワイピング方向下流側に位置する隣のメンテナンス装置20のクリーニング機構22を上昇させて、隣接の記録ヘッド12のノズル列13をキャップ24で覆って保護する構成とする。
【0249】
これにより、ワイパ25のワイピングによって仮に拭き取ったインクがワイピング方向下流側周辺に飛び散っても、キャップ24で保護された隣のメンテナンス装置20のノズル形成面12aはその飛び散ったインクから保護される。よって、飛び散ったインクがノズル形成面12aに付着することで誘発されるノズルメニスカスの破壊等を回避できる。また、飛び散ったインクがノズル形成面12aに付着することで誘発される噴射された液滴の飛行経路を曲げる不具合を回避しやすくなる。
【0250】
この場合、記録ヘッド12をノズル列方向に1個おきに同期させるシーケンスを挙げることができ、ワイピング過程では隣接するメンテナンス装置ではキャップ24がノズル形成面12aに当接した吸引過程にあるタイミングのシーケンスでメンテナンスシステムを駆動制御することが望ましい。また、他のシーケンス方法として、メンテナンス装置は全て同期させて吸引までは同期駆動されるが、ワイピングはノズル列方向に1個おきに実施し、そのときワイピングが実施されるメンテナンス装置とノズル列方向に隣接したメンテナンス装置では例えば空吸引のタイミングの後に電動モータ30を逆転駆動を開始させることなくキャップ24を上昇位置に保持してノズル列13をキャップ24で保護し、隣接のメンテナンス装置のワイパ25がワイピング時にインクを跳ねてもそのインクからノズル列13を保護できる。その後、ワイピングが終了したら、キャップ24を上昇位置に保持させていたメンテナンス装置20は、電動モータ30の逆転を開始してキャップ24を下降させるとともにキャップ24の下降に引き続きワイピングを行う。このとき、既にワイピングを終えたメンテナンス装置20では、電動モータ30が正転駆動されてキャップ24を上昇させてノズル形成面12aを保護することで、隣のメンテナンス装置からワイピングの際に仮にインクの飛び散ってもその飛び散ったインクがノズル形成面12aに付着することは防止される。このとき、隣のメンテナンス装置20の電動モータ30は途中で逆転を加えることなく正転のみされ、選択ユニット110は非選択時のカム選択を行いキャップ24は大気開放された状態にあり、また電動モータ30はキャッピング終了すれば吸引ポンプ40がポンプ駆動開始する前に駆動停止される。よって、隣のメンテナンス装置20をワイピング終了後にキャッピングしても、ノズルメニスカスを破壊することはない。その後、一のメンテナンス装置20のワイピングが終了すると、隣のメンテナンス装置20では、クリーニング機構22が上昇位置に配置されたキャッピング状態から、電動モータ30を逆転させてクリーニング機構22を下降させるとともにワイピング動作に移行する直前のタイミングで電動モータ30の駆動を停止する。
【0251】
(変形例2)前記実施形態では、被操作手段側の第2流路弁である大気流路弁216を常に閉弁させるように常時閉弁用バネ(大気閉弁バネ202)を設けたが、大気流路弁と吸引流路弁の配置位置を逆にして第2流路弁である吸引流路弁を常時閉弁用バネにより閉弁させる構成としてもよい。この場合、バルブ押圧体193が筐体部材の貫通孔に挿通された部分の隙間を該バルブ押圧体193が摺動できる状態にシールすれば吸引室205を気密状態に保つことはできる。さらに第1流路弁を常時閉弁用バネにより常に閉じるように付勢した構成を採用してもよい。この場合、流路弁を切り換えるためには、弁体を常時閉弁用バネの付勢力に抗して引き出す動作が必要になるので、押圧体に置き換え、先端部が弁体に固定されて弁体を常時閉弁用バネの付勢力に抗して引き出す運動をする引込体を用いる。
【0252】
(変形例3)前記各実施形態では、複数の流路弁204の弁体部201を1つの共通のバルブ板200により構成したが、これに限定されない。例えば弁体部201を2つずつ連接させたバルブ板を2枚設けてもよい。もちろん弁体数が4つ以外の場合でも同様に、複数の弁体を連接させたバルブ板を2枚以上設けてもよい。この場合、一つのバルブユニットに設けられるバルブ板はそれぞれ連接される弁体数が異なっていてもよい。このようなバルブ板を使用すれば弁体1枚ずつ組み付ける場合に比べ、組み付け工数を低減できるうえ弁体の組付け向きの間違い等の作業ミスを回避し易い。もちろん各流路弁204に一枚ずつ弁体を設けても構わない。
【0253】
(変形例4)選択カム121〜124は、カムフォロア部152bが第1選択位置又は第2選択位置に到達した特定の回動角位置で逆転を加えたときに、より半径の大きいカム面に移行したが、これに限定されない。例えば特定の回動角位置で逆転を加えなければそのままカム面の半径が徐々に大きくなって一段高いカム面へ登り、特定の回動角位置で逆転が加えられたときには同一半径のカム面に維持される構成を採用できる。また、特定回動角位置での逆転の有無によって異なるカム面に移行する場合、より半径の小さいカム面へ移行する構成でも構わない。
【0254】
(変形例5)前記実施形態では、バルブユニットの切り換えを3段階としたが、これに限定されない。さらに4段階以上とすることもできる。さらに操作量を連続変化させる構成としてもよい。4段階以上とする場合、前記3段階に加え、開弁時の開度を2段階以上で段階的に切り換え可能な構成が挙げられる。例えばキャップ24へ圧導入開始から安定した内圧に到達するまでの圧力変化速度を開度の大小により調整したり、安定する内圧が目標値に近づけるために開度を調整する目的で使用することができる。
【0255】
(変形例6)前記各実施形態では、第2流路弁を大気流路弁216としたが、負圧室又は加圧室などの圧力室としてもよい。例えばバルブ押圧体193が貫通孔213に挿通されたときに大気バルブ本体198の内壁面との間の隙間を、バルブ押圧体193が摺動可能な気密状態にシールすることにより大気室を圧力室に置き換えた構成を採用できる。
【0256】
(変形例7)前記各実施形態では、1つのバルブユニットに4つの流路弁を内蔵させたが、内蔵された流路弁の数は、キャップ24等の保守手段の数に応じて適宜変更できる。例えば内蔵される流路弁を、2つ、3つあるいは5つ以上の複数個とすることができ、もちろん1つだけとした構成も採用できる。内蔵される流路弁が1つのバルブユニットの場合、メンテナンス装置に選択ユニット110の各バルブレバー153とバルブ加圧体191が相対するように複数個配列して取り付ければ、前記各実施形態と同様の吸引選択を行うことはできる。
【0257】
(変形例8)前記各実施形態では、バルブユニットの流路弁の開閉状態を3段階に切り換える構成としたが、これに限定されない。例えば2段階の切り換えで使用することもできる。2段階の切り換えとしては、第1流路弁と第2流路弁の開閉状態の組合せが、開弁と閉弁、閉弁と開弁の2通りの切り換えで使用できる。また、第1流路弁と第2流路弁の開閉状態の組合せが、開弁と閉弁、開弁と開弁の2通り、あるいは開弁と開弁、閉弁と開弁の2通りとすることもできる。
【0258】
(変形例9)前記実施形態では、被操作手段側の第2流路弁である大気流路弁216を常に閉弁させるように付勢手段としての大気閉弁バネ202を設けたが、付勢手段は必須ではない。例えば被操作手段としての操作レバーにより弁体を一方向及び他方向へ移動させて弁の開閉を行う構成を採用できる。例えば操作レバーを弁体に連結し、操作レバーを一方向に操作することで第1流路(吸引流路)を閉弁させ、他方向へ移動させることで第2流路(大気流路)を閉弁させる構成とする。また、この場合、操作レバーに力が掛かっていない通常状態は、第1流路弁及び第2流路弁が共に開弁状態であってもよい。操作レバーを押して第1流路弁を閉弁させ、操作レバーを引いて第2流路弁を閉弁させる構成を採用できる。
【0259】
(変形例10)前記各実施形態では、バルブユニットを1台のメンテナンス装置に設け、メンテナンス装置に備えられた複数のキャップへの導入圧を供給するための流路の開閉を行う構成としたが、選択吸引を行う構成ではない複数台のメンテナンス装置に対して1つのバルブユニットで弁の切換えを行う構成を採用することができる。例えばメンテナンス装置には1つ又は複数のキャップを備えるが、キャップと接続された流路の開閉は、バルブユニット内の共通の流路弁が行い、バルブユニットが複数台のメンテナンス装置への導入圧供給用の流路の開閉の切換えを行う構成としてもよい。
【0260】
(変形例11)前記各実施形態では、圧力源を負圧源としての吸引ポンプ40を採用したが、これに限定されない。例えば圧力源として加圧源である加圧ポンプを採用することもできる。例えば液体噴射ヘッドの液体流路を強制的に加圧してノズルから液体を噴射するメンテナンスを行う構成を採用することができる。例えば液体噴射ヘッド内の流路の洗浄のために流路内からインク等の不要な液体を排出したり、流路内へ洗浄液やリンス液等の液体を流入したりすることもできる。また、液体噴射ヘッドへの液体の補充のために加圧源と補充液タンクの間に介在するバルブユニットの弁を開いて補充液タンクを加圧して液体噴射ヘッドへ液体を補充する構成に適用することも可能である。その他、テストインクを液体噴射ヘッドへ加圧により供給する加圧式液体供給装置におけるバルブユニットとして用いることもできる。これらの場合、負圧源や加圧源などの圧力源に接続されたバルブユニットの開閉により圧力が導入される対象が保守手段となる。例えばインクや洗浄液、リンス液等の液体を供給するタンク等の液体供給源の加圧ポートに接続される接続具が保守手段となる。
【0261】
(変形例12)前記各実施形態では、液体噴射ヘッドに対してクリーニング等の保守を行う保守手段としてキャップ24とワイパ25の両方を備えたが、これに限定されない。例えばメンテナンス装置が複数のキャップ24による吸引回復処理をキャップ個別に選択できる吸引回復装置のみを備える構成でもよい。また、キャップ及びワイパ以外の他の保守手段を追加したり、ワイパを他の保守手段に置き換えてもよい。
【0262】
(変形例13)前記各実施形態では、非走査方式の記録ヘッドシステム11(マルチヘッド)を構成する記録ヘッド12の吸引クリーニングのためにメンテナンス装置を適用したが、ラインヘッドに対して適用することもできる。ラインヘッドの場合は、その記録ヘッド一つにつき複数台のメンテナンス装置を配列するとよい。さらに走査方式の記録ヘッドのクリーニングに本メンテナンス装置を採用することもできる。走査方式の液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置のメンテナンス装置に適用する場合、キャップ部を移動させる移動手段は、電動モータ等の動力源(回転駆動源)の動力により移動させるものではなく、液体噴射ヘッドが走査方向にクリーニング位置へ向かって移動する過程でメンテナンス装置側の係合部を押し込むことでスライダが上昇し、このスライダに支持されたキャップが上昇するスライダ方式の移動機構を採用することができる。
【0263】
(変形例14)前記各実施形態では、メンテナンス装置20が記録ヘッド12に対して下側に配置され、メンテナンス装置20はクリーニング機構22を昇降させる構成としたが、メンテナンス装置20が配置される向きは、記録ヘッド12の向きに応じて適宜設定できる。例えば記録ヘッド12がノズル形成面12aを鉛直とする向きに配置された構成では、メンテナンス装置20がクリーニング機構22を横方向に往復移動できる向きに配置することができる。この場合、移動体を構成するリフト板ベース151の移動方向も、ノズル形成面に接近・離間が可能な方向である水平方向に移動体が移動する構成を採用できる。その他、移動体の移動方向は上下方向及び水平方向以外の方向であってもよい。
【0264】
(変形例15)前記実施形態ではノズル列13をインク色毎に異なるキャップで吸引を行うことができるように4つのキャップ24を備えたが、同色のノズル列をさらに複数分割した小ノズル群を個別に封止するキャップを設けることができる。
【0265】
(変形例16)前記各実施形態では、ノズル群をインク色別に分割した各分割ノズル群(ノズル列13)を個別に封止可能にインク色と同数のキャップを設けたが、これに限定されない。検出された吐出不良ノズルの有無に応じて吸引回復処理を行うべきキャップ部を選択する構成の場合、ノズル群の分割の仕方は適宜設定できる。記録ヘッドのノズル群を分割してキャッピングできる構成であれば、例えば複数色のノズル群を一つのキャップ部で封止する構成も採用可能である。
【0266】
(変形例17)前記各実施形態では、各分割ノズル群(ノズル列13)を個別に封止可能に複数のキャップを設けたが、これに限定されない。キャップ内を区画してその区画された各キャップ区画部が別々のノズル群を封止する構造のキャップを採用することもできる。この構成でも、検出された吐出不良ノズルの有無に応じて吸引回復処理を行うべきキャップ部を選択することにより、キャップ部で分割された分割ノズル群別に吸引選択を行うことができる。例えば記録ヘッド一つにつきキャップを1つとし、色別のノズル群(ノズル列13)を個別に封止可能な複数のキャップ区画部を有する構成を採用できる。
【0267】
(変形例18)前記各実施形態では、選択手段としての選択ユニット110がバルブユニット190を操作して流路の開閉を切り換える構成としたが、これに限定されない。例えば各バルブ加圧体191と相対するように複数列配置されたソレノイド等の各アクチュエータによってバルブ加圧体191を個々に操作する構成を採用することもできる。
【0268】
(変形例19)前記実施形態では、クリーニング機構を昇降させる構成であったが、記録ヘッドシステム側を昇降させることによりクリーニング機構はベースユニット21に対して固定された構成であってもよい。
【0269】
(変形例20)前記実施形態では、メンテナンス装置20を複数配置してメンテナンスシステム10を構成したが、メンテナンス装置単独で使用する構成を採用することもできる。
【0270】
(変形例21)前記実施形態では、液体噴射装置を印刷に用いられるインクジェット式記録装置に具体化したが、この限りではなく、インク以外の他の液体を噴射する液体噴射装置に具体化することもできる。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液状体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとしての試料噴射装置であってもよい。そして、これらの液体噴射装置に装備され、液滴噴射ヘッドのノズル形成面をクリーニングするメンテナンス装置及びメンテナンス装置に本発明を適用することもできる。この場合、噴射される液状材料等の液体の種類毎にノズル群を個別に封止できるようにキャップ部を設ける構成とすることが好ましい。なお、このような印刷以外の工業用途の液体噴射ヘッドで噴射される液体には、分散媒として用いた液体中に材料粒子が分散されてなる液状材料があり、この種の固体を含む液状材料も本発明でいう液体に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0271】
【図1】第1実施形態における記録ヘッドシステムと共に示すメンテナンスシステムの斜視図。
【図2】メンテナンスシステムの斜視図。
【図3】メンテナンスシステムの平面図。
【図4】メンテナンスシステムの側面図。
【図5】メンテナンスシステムの正面図。
【図6】記録ヘッドシステムを示し、(a)は底面図、(b)は正面図。
【図7】メンテナンス装置の正面斜視図。
【図8】メンテナンス装置の背面斜視図。
【図9】メンテナンス装置の分解斜視図。
【図10】(a),(b)ベースユニットの要部斜視図。
【図11】メンテナンス装置の要部斜視図。
【図12】選択ユニット等の上側から見た分解斜視図。
【図13】同じく下側から見た分解斜視図。
【図14】選択ユニットを示し、(a)は正面斜視図、(b)は背面斜視図。
【図15】選択ユニットの分解斜視図。
【図16】選択ユニットを示し、(a)平面図、(b)正面図、(c)側面図。
【図17】図16のA−A線断面図。
【図18】選択カムを示し、(a)は分解斜視図、(b)は斜視図。
【図19】選択カム及びリフト機構の斜視図。
【図20】選択カムの斜視図。
【図21】選択カムの側面図。
【図22】選択カムの図20の下側から見た斜視図。
【図23】(a)〜(d)リフトユニットの各状態を示す斜視図。
【図24】リフトユニットの各状態を示し、(a)吸引時,(c)空吸引時,(d)ワイピング位置への移動過程のそれぞれ斜視図、(b)第2選択位置にあるときの側面図。
【図25】クリーニング機構が下降位置にあるときの側断面図。
【図26】昇降ユニット等の斜視図。
【図27】(a)〜(e)昇降ユニットの動作を説明する側断面図。
【図28】クリーニング機構が上昇位置にあるときの側断面図。
【図29】キャップユニット及びヘッドガイドユニットを示す斜視図。
【図30】下降位置にあるクリーニング機構の斜視図。
【図31】クリーニング機構が記録ヘッドに当接した状態を示す斜視図。
【図32】(a),(b)クリーニング機構が上昇位置にあるときを示す斜視図。
【図33】クリーニング機構のキャップ付近を示す一部破断した側面図。
【図34】ロック機構を含む要部斜視図。
【図35】ロック機構の斜視図。
【図36】ストッパカムの斜視図。
【図37】(a)〜(c)ロック機構の動作を説明する側面図。
【図38】(a),(b)ロック機構の動作を説明する平面図。
【図39】(a)〜(e)ロック機構の動作を説明する要部側面図。
【図40】非選択時のリフトユニットを示す(a)左側面図、(b)右側面図。
【図41】吸引選択時のリフトユニットを示す(a)左側面図、(b)右側面図。
【図42】空吸引選択時のリフトユニットを示す(a)左側面図、(b)右側面図。
【図43】リフト機構と共に示すバルブユニットの斜視図。
【図44】バルブユニットの背面斜視図。
【図45】バルブユニットの分解斜視図。
【図46】図43のB−B線断面図。
【図47】図43のB−B線で切断したバルブユニットの斜視図。
【図48】支持ホルダに組み付けられたワイパ駆動ユニットを示す斜視図。
【図49】ワイパを取り外したワイパ駆動ユニットの斜視図。
【図50】載置ホルダに組み付けられたワイパ駆動ユニットを示す斜視図。
【図51】(a)〜(d)ワイパ駆動ユニットの動作を説明する側面図。
【図52】リフトユニットと共にワイパ駆動ユニットを背面側から見た斜視図。
【図53】ワイパ駆動ユニットの分解斜視図。
【図54】ワイパの斜視図。
【図55】ワイパの分解斜視図。
【図56】(a)(b)ヘッドガイドユニットの斜視図。
【図57】(a)(b)ヘッドガイドユニットの要部斜視図。
【図58】ヘッドガイドユニットの平面図。
【図59】(a)〜(c)払拭選択時におけるワイパの動作を説明する側面図。
【図60】(a)〜(d)払拭選択時におけるワイパの動作を説明する側面図。
【図61】(a)〜(c)非選択時におけるワイパの動作を説明する側面図。
【図62】(a)ワイパ退避位置の斜視図、(b)ワイパ往動過程の斜視図。
【図63】(a)ワイパ復動開始時の斜視図、(b)ワイパ復動終了時の斜視図。
【図64】メンテナンス装置の動作を説明するタイミングチャート。
【図65】第2実施形態におけるメンテナンスシステムの正面斜視図。
【図66】同じくメンテナンスシステムの背面斜視図。
【図67】メンテナンスシステムの平面図。
【図68】メンテナンスシステムの左側面図。
【図69】メンテナンスシステムの右側面図。
【図70】メンテナンスシステムの正面図。
【図71】メンテナンス装置のフレームを取り外した状態を示す斜視図。
【図72】(a)下降状態と(b)上昇状態を示すメンテナンス装置の左側面図。
【符号の説明】
【0272】
10…メンテナンスシステム、11…記録ヘッドシステム、12…記録ヘッド、12a…ノズル形成面、13…ノズル列、20…メンテナンス装置、21…ベースユニット、22…クリーニング機構、23…ホルダ、24…吸引回復手段を構成するとともに保守手段及びキャップ部としてのキャップ、25…ワイパ、25a…ブレード、27…制御手段としてのコントローラ、28…検出手段としての不良ノズル検出装置、30…動力源(回転駆動源)としての電動モータ、33…動力伝達機構、40…吸引回復手段を構成するとともに圧力源及び負圧源としての吸引ポンプ、50…移動手段を構成する昇降ユニット、51…支持部、52…圧力調整軸ホルダ、53…圧力調整軸、54…リフトレバー、55…圧縮バネ、60…支持ホルダ、70…キャップユニット、71…載置ホルダ、90…ヘッドガイドユニット、91,92…ガイド部、93…ワイパガイド、100…ワイパガイド部、98…線バネ、105…面取り部、110…バルブシステムを構成するとともに選択手段としての選択ユニット、120…選択歯車ユニット、121〜124…回動カムとしての選択カム、130…カム部、38…カム面としての非選択カム面、141…カム面としての吸引カム面、144…カム面としての空吸引カム面、147…ワイピングカム面、150…リフトユニット、151…リフト板ベース、152…カムフォロアとしてのリフトカム可動板、152b…カムフォロア部、153…操作部としてのバルブレバー、154〜157…リフト機構、163…引張りバネ、170…ロック機構、171…ストッパカム、172…ストッパレバー、173…チョーク部材、175…非ロックカム面、177…ロックカム面、190…バルブシステム及び吸引回復手段を構成するバルブユニット、191…被操作手段を構成するとともに被操作部としてのバルブ加圧体、193…被操作手段を構成するとともに押圧体及び被操作体としてのバルブ押圧体、193d…孔としての貫通孔、193e…スリット、194…弾性部材としての与圧バネ、198…第2流路形成部材としての大気バルブ本体、199…第1流路形成部材としての吸引バルブ本体、200…弁体としてのバルブ板、201…弁体としての弁体部、201a…弁部、201b…膜状部としての薄肉部、202…付勢手段としての大気閉弁バネ、204…弁手段としての流路弁、205…第1流路を構成する吸引室、206…第2流路を構成する大気室、207…第1弁座部としての弁座部、208…第1流路を構成する吸引流路、210…第1流路弁としての吸引流路弁、212…流路を構成する大気流路、211…第2弁座部としての弁座部、213…貫通孔、214…支柱管部としての仕切部、216…第2流路弁及び大気開放弁としての大気流路弁、220…ワイパ駆動ユニット、300…メンテナンスシステム、310…メンテナンス装置、311…ベースユニット、313…動力伝達機構。
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタ等の液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばプリンタなどの液体噴射装置は、液体を噴射するノズルを有する液体噴射ヘッド(例えば記録ヘッド)を備え、ノズルから液体を噴射することで印刷が行われる。印刷を行う記録ヘッドの方式には、記録ヘッドを走査させながら液滴を吐出して印刷を行う走査方式と、印刷可能な最大幅全域に渡ってノズル群が配列された長尺のラインヘッドあるいはノズル群が跨って設けられた複数個の記録ヘッドからなるマルチヘッドを用いて、記録ヘッドは固定したまま記録媒体が搬送されて印刷が行われる非走査方式とがある。
【0003】
液体を噴射するノズルは、インクが吐出されない期間が長くなるとそのノズル内のインクの増粘や固着が原因で目詰まりを起こす。このため、プリンタには記録ヘッドをメンテナンスするメンテナンス装置が設けられている(例えば特許文献1〜7等)。
【0004】
メンテナンス装置は、記録ヘッドのノズルが開口する面(以下、「ノズル形成面」という)にノズル開口を囲うように当接することによりノズル形成面を封止可能に形成されたキャップと、ノズル形成面を封止したキャップ内に吸引作用を及ぼして該キャップの封止空間に負圧を発生させる吸引ポンプとを備える。キャップの封止空間に負圧が発生することで、ノズルからインク(液体)を吸引する吸引クリーニング(吸引回復処理)が行われる。この吸引クリーニングによってノズル内の増粘または固着したインクやインク中の気泡が除去され、ノズルはインクを良好に吐出可能な状態に回復する。また、メンテナンス装置はノズル形成面をワイピングするワイパを備え、吸引クリーニング後は、ワイパでノズル形成面をワイピングしてノズル形成面に付着したインクや紙粉等を取り除くようにしている。さらに、ワイピングはノズル内のインクのメニスカス(以下、「ノズルメニスカス」という)の形状等を整える機能も果たしている。ノズルメニスカスの形状等のばらつきは、液滴の吐出量のばらつきをもたらし、この液滴のばらつきがもたらす印刷ドットサイズのばらつきによる印刷品質の低下に繋がるが、ワイピングでノズルメニスカスを整えることで、良好な印刷品質を保つようにしている。
【0005】
また、特許文献1には、異なるインクを吐出可能な複数のノズル群を備えた記録ヘッドの吸引クリーニングを行う装置が開示されている。この装置は、複数のノズル群を有するノズル形成面に当接と離間が可能なインク受け手段(キャップ)と、インク受け手段内のインクを吸引する吸引手段とを備える。インク受け手段は、記録ヘッドのノズル形成面に当接した状態で互いに区画された複数の空間部を形成可能な複数のインク受け部を備え、隣接するインク受け部は記録ヘッドのノズル形成面に当接可能な単一の区画手段(遮断リブ)により区画されていた。吸引手段はインク受け手段内の区画ごとに個別にインクを吸引可能となっており、吸引動作によって吸引する区画が切り替わる切り替え弁手段(弁装置)を有していた。この弁装置は、ポンプチューブを介してポンプに連結されたシリンダとピストンからなる。シリンダにはキャップ内のリブで区画されたカラーインク吐出口用キャップ部と黒インク吐出口用キャップ部にそれぞれ対応したチューブが接続される吸引チューブ接続用孔と、吸引ポンプに接続されるポンプチューブ接続用孔とが設けられていた。モータ等の駆動によってピストンが上下動する際、シリンダの内壁面を摺動するOリングの位置が移動することでポンプチューブ接続用孔との連通先が2つの吸引チューブ接続孔のうちどちらかに切り換えられる構成となっていた。また、特許文献1には、この弁装置とポンプとが一体化された構成の弁付きポンプも開示されている。この特許文献1の技術によれば、インクタンクを交換した場合の記録ヘッドのノズル群からのインク吸引を、交換されなかったインクタンクと対応するノズル群からはインクを吸引しない構成をとることができ、インクの無駄をなくすことができるうえ、ノズルにおけるインクの混色を防止することができる。
【0006】
また、インク吸引後には、キャップ内やキャップに接続された吸引用チューブ内に残存したインクを廃液タンクへ回収するために空吸引が行われる。空吸引は、ノズルからインクを吸引しないように、キャップを大気開放した状態で吸引ポンプが駆動される。例えば特許文献2には、キャップ本体内部を大気開放する大気開放弁と吸引ポンプを備え、インク吸引後に大気開放弁を開いた状態で吸引ポンプを駆動して空吸引を行うメンテナンス機構が開示されている。大気開放弁は、キャップ本体が付勢部材の付勢力によりキャップホルダから突出する状態で開弁し、キャップ本体を付勢部材の付勢力に逆らって所定量だけ押し込むと、閉状態に切り換わる構成となっていた。キャップホルダはキャップ駆動用のキャップ側移動ピンが、円筒カムの回転に伴って円筒カムのカム溝に案内されることで上下動する。キャップホルダがノズル形成面に最も接近したインク吸引位置では、キャップ本体は大気開放弁が閉状態でノズル形成面にキャッピングされ、インク吸引位置から後退したインク空吸引位置では、キャップ本体は大気開放弁が開状態でノズル形成面にキャッピングされる構成となっていた。
【0007】
また、吸引クリーニングは一定時間以上経過する度に行われる定期クリーニングとして通常行われるが、定期クリーニングの実施時期の前でも吐出不良ノズルが発生する場合がある。このため、吐出不良ノズルの有無を検出して、吐出不良ノズルが検出されれば定期クリーニングの前でもクリーニングを実施することが望ましい。この種の吐出不良ノズルの有無を判定する装置としては、特許文献6に開示されたレーザー光を利用する方式や、特許文献7に開示された印刷パターンに照射した光の反射光を検出する方式が知られている。
【特許文献1】特許第3155871号
【特許文献2】特開2003−154686号公報
【特許文献3】特開平11−91140号公報
【特許文献4】特開平11−115275号公報
【特許文献5】特開2002−264350号公報
【特許文献6】特開2002−210983号公報
【特許文献7】特開2004−330495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献6及び特許文献7に記載の検出装置を用いて、吐出不良ノズルが検出された場合に、その検出された吐出不良ノズルを含むノズル列を選択して吸引クリーニングを行えば、クリーニング等の印刷以外で消費される無駄なインクの消費量を低減することができる。
【0009】
しかしながら、吸引・非吸引の選択をする構成を採用しようとすると、キャップ毎に個別に吸引・非吸引・空吸引の選択をする必要がある。このため、吸引ポンプから各キャップに接続される各流路上に吸引流路弁が必要となる。また、大気開放弁もキャップ毎に設ける必要がある。また、非吸引を選択したキャップでは、特許文献2の技術のように、キャップがノズル形成面に当接するときに大気開放流路が開いていることが望ましい。これは、キャップがノズル形成面に当接したときにキャップの弾性部分が変形してキャップ内の圧力が上昇しその圧がノズル内に加わってノズルメニスカスを破壊する虞があるからである。特許文献3に開示された大気開放弁であれば、キャップ毎に設けることは可能であるが、円筒カムを含むカム機構をキャップ毎に設ける必要があるので、大気開放弁機構が大型なものになるという問題がある。また、大気開放弁とは別にキャップ毎に吸引流路弁を設ける必要がある。この場合、特許文献1又は特許文献2に開示された弁装置を採用することが考えられる。しかし、特許文献1の弁装置は、シリンダとピストンを備えた体格の比較的大型なものになり、この弁装置を吸引流路弁として採用した場合は、バルブユニットが大型になって、メンテナンス装置の大型化、ひいては液体噴射装置の大型化を招くという問題があった。
【0010】
なお、吸引・空吸引・非吸引の3種類を実現するためには、吸引流路弁と大気開放弁の開閉の組合せを、吸引時に吸引流路弁を開弁状態・大気開放弁を閉弁状態とし、空吸引時には両方を開弁状態とし、非吸引時は吸引流路弁を閉弁状態・大気開放弁を開弁状態とする必要がある。このように選択的に吸引を行うメンテナンス装置に備えられるバルブユニットには、3種類の開閉の組合せを実現できるとともに体格が小型であることが求められる。
【0011】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであってその目的は、液体噴射ヘッドを保守する保守手段への導入圧を調整するバルブユニットを備えた液体噴射装置において、バルブユニットにおいて3種類の開閉の組合せを実現できるとともに小型化を図りやすい液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、液体を噴射するノズルを有する液体噴射ヘッドと、該液体噴射ヘッドの保守に用いられる保守手段と、該保守手段に圧力を導入するために用いられる圧力源と、該圧力源から前記保守手段への導入圧を切り換えるために用いられるバルブユニットとを備え、該バルブユニットは、弁体と、該弁体を間に挟んで配置された第1流路形成部材及び第2流路形成部材とを備え、前記弁体の両側には該弁体と前記第1流路形成部材との間に第1流路が形成されるとともに、該弁体と前記第2流路形成部材との間に第2流路が形成され、前記弁体は、該弁体を一方向に移動させると前記第1流路を閉弁する第1流路弁と、前記弁体を他方向に移動させると前記第2流路を閉弁する第2流路弁とが、前記弁体を間に挟んで該弁体を共有して構成され、前記第1流路弁は、前記保守手段と前記圧力源との間の流路の一部を構成する圧力流路を開閉する圧力流路弁であり、前記第2流路弁は、前記保守手段を大気に開放するための大気流路を開閉する大気開放弁であることを要旨とする。なお、保守手段とは、液体噴射装置にクリーニング等を含む各種の保守のために備えられた手段であり、導入圧の切り換えにより保守を行うものである。保守手段の一例としては、液体噴射装置が備える液体噴射ヘッドのノズルクリーニングを行うためのメンテナンス装置に備えられるキャッピング手段等が挙げられる。以下、保守手段の一つであるキャッピング手段としてキャップ部という場合は、一つのキャップに限定されることなく、1つのキャップ内を区画して形成されるキャップ区画部を含むものとする。
【0013】
これによれば、液体噴射ヘッドの保守のために備えられた保守手段への導入圧を切り換えるバルブユニットでは、弁体を間に挟んだ両側に、第1流路弁により開閉される第1流路と第2流路弁により開閉される第2流路が各々位置し、第1流路弁及び第2流路弁は共有する弁体を間に挟んでその両側に対峙するように配置される。そして、弁体を一方向に移動させると第1流路が閉弁し、弁体を他方向に移動させると第2流路が閉弁する。これによりバルブユニットは2つの流路を一つの弁体の移動により選択的に開閉させることが可能である。
【0014】
ここで、第1流路及び第2流路の開閉の組合せは、弁体の位置に応じて3種類のうちで切り換わることが可能である。すなわち、第1流路及び第2流路の開閉の組合せは、それぞれ閉・開と、開・開と、開・閉との3種類となる。そして、バルブユニットはこの3種類の開閉の組合せで切り換え可能な構成でありながら、第1流路側の流路弁(第1流路弁)及び第2流路側の流路弁(第2流路弁)が弁体を共有し、かつ該弁体が第1流路及び第2流路の隔壁を兼ねた構造であることから、バルブユニットを比較的小型に構成することができる。なお、用途に応じては、バルブユニットを2段階の切り換えで使用することもできる。
【0015】
しかも、第2流路弁が大気開放弁であるため、大気開放弁からなる第2流路弁においては弁室をシールする必要がないとともに、第1流路弁が圧力流路弁であるので、保守手段の圧力状態として、大気開放、圧力源からの圧力導入、大気開放下での圧力導入のいずれかを切換え選択できる。
【0016】
また、本発明の液体噴射装置では、前記圧力源は、前記保守手段に負圧を導入する負圧源であり、前記圧力流路弁は、前記保守手段と負圧源の間の流路を開閉する吸引流路弁であることが好ましい。
【0017】
これによれば、圧力流路弁が吸引流路弁であることから、保守手段の圧力状態として、大気開放、負圧導入、大気開放下での負圧導入のいずれかを切換え選択できる。
また、本発明の液体噴射装置では、前記第2流路弁を閉弁させる前記他方向へ前記弁体を付勢する付勢手段と、前記第1流路弁を閉弁させる前記一方向へ前記弁体を前記付勢手段の付勢力に抗して移動させるために操作される被操作手段とを備えていることが好ましい。
【0018】
これによれば、バルブユニットが備える弁体は付勢手段によって第2流路弁が閉弁する他方向へ付勢されているので、バルブユニットは、被操作手段が操作されなければ、第2流路弁が常閉(つまり第1流路弁が常開)の状態となる。被操作手段が操作されることで、弁体が付勢手段の付勢力に抗して変位すると、該弁体が一方向へ変位してそれまで閉じていた第2流路弁が開弁する。このとき被操作手段の操作量が小さく第1流路弁が閉じる前の操作位置では、第1流路弁及び第2流路弁が共に開弁した状態となる。そして、被操作手段がさらに操作されて弁体が付勢手段の付勢力に抗してさらに変位した操作位置では、第1流路弁が閉弁し、第1流路弁が閉弁し第2流路弁が開弁した状態となる。このように、第1流路弁及び第2流路弁の開閉の組合せは、被操作手段の操作量に応じて3種類のうちで切り換わる。すなわち、第1流路弁及び第2流路弁の開閉の組合せは、それぞれ閉・開と、開・開と、開・閉との3種類となる。そして、バルブユニットはこの3種類の開閉の組合せで切り換え可能な構成でありながら、第1及び第2流路弁が弁体を共有し、かつ該弁体が各弁室の隔壁を兼ねた構造であることから、バルブユニットを比較的小型に構成することができる。
【0019】
なお、用途に応じては、バルブユニットを2段階の切り換えで使用することもできる。例えば付勢手段の付勢力を少し弱めに設定して、被操作手段が操作されていないときに、第1及び第2流路弁が共に開弁する構成での使用も可能である。また、3段階の切り換えが可能なバルブユニットにおいて、被操作手段の操作位置(切り換え位置)を2段階のみの使用とし、2種類の開閉の組合せのうちで2段階切り換えされるバルブユニットとして使用してよい。
【0020】
また、本発明の液体噴射装置では、前記被操作手段の操作量に応じて前記第1流路弁及び前記第2流路弁の開閉の組合せが、それぞれ開・閉と、開・開と、閉・開との3段階に切り換え可能に構成されていることが好ましい。
【0021】
これによれば、被操作手段の押込み量に応じて第1流路弁及び前記第2流路弁の開閉状態が、押込み量の小さい側から順に、開弁・閉弁の組合せと、開弁・開弁の組合せと、閉弁・開弁の組合せの3段階に切り換えられる。例えば液体噴射ヘッドの吸引回復処理を行うメンテナンス装置にこのバルブユニットを採用すれば、複数のキャップ部(保守手段)のうち吸引回復処理を行うものを選択する吸引選択を行うことができる。例えば第1流路弁を吸引流路弁、第2流路弁を大気開放弁として用いると、被操作手段の操作量が小さい側から順に、それぞれ第1操作位置、第2操作位置、第3操作位置とすると、第1操作位置のときに吸引、第2操作位置のときに空吸引、第3操作位置のときに非吸引がそれぞれ選択される。
【0022】
また、本発明の液体噴射装置では、前記被操作手段は、前記弁体を前記付勢手段の付勢力に抗して押し込むことが好ましい。
これによれば、弁体を押し込みによって移動させる構成なので、被操作手段を弁体に固定する必要がない。このため、バルブユニットの構成が簡単になる。なお、弁体を引き込んで移動させる構成とした場合は、被操作手段と弁体とを固定又は係止等する必要があり、弁体の気密性を保持しつつ加わる力で外れないように強固に固定や係止等する必要があるので、その部品の製造・加工や組み立てが面倒になる。
【0023】
また、本発明の液体噴射装置では、前記弁体を共有する前記第1流路弁及び前記第2流路弁の一組で構成される弁手段を複数内蔵し、前記被操作手段は前記弁手段毎に備えられていることが好ましい。
【0024】
これによれば、複数の被操作手段の操作位置を個々に変えることにより、内蔵された複数の弁手段の開閉状態を個別に選択することが可能となる。例えばメンテナンス装置が複数のキャップ部を有する場合に、キャップ部毎に吸引の有無を選択することが可能になる。
【0025】
また、本発明の液体噴射装置では、前記複数の弁手段は少なくとも2つの弁体が弁手段間で連接して構成された一つ以上のバルブ板からなり、前記バルブユニットの筐体を構成する複数の筐体部材が該バルブ板を介して接合されていることが好ましい。
【0026】
これによれば、バルブユニットの筐体は、複数の筐体部材がバルブ板を介して接合されることで構成される。この際、バルブ板は少なくとも2つの弁体が連接されたものであるので、弁体を1つずつ組み付ける場合に比べ、バルブ板の組み付け数は少なく済むので、組み付け工数を削減できる。また、筐体は複数の筐体部材をバルブ板を介して接合することで組み立てられるが、このとき間に挟んだバルブ板がシール部材として機能するので、第1及び第2流路弁の弁室の気密性を高めることができるうえ、別途シール部材を組み付ける必要がない。
【0027】
また、本発明の液体噴射装置では、前記被操作手段は、前記弁体に当接する押圧体と、前記押圧体を押し込むために操作される被操作部と、弾性部材とを備え、前記被操作部と前記押圧体とが前記弾性部材を介して互いに離間する方向に付勢された状態で被操作方向に相対移動可能に連結されることによって、与圧状態に保持されていることが好ましい。なお、押圧体が弾性部材の付勢力により弁体を押圧することになるが、弁体が弾性部材から受ける付勢力よりも付勢手段から受ける付勢力の方が大きく設定されることが望ましい。但し、弾性部材が弁体を押す付勢力を弱められるように被操作部が押圧体を引き込むことができる構成であれば、被操作部の被操作状態において弁体に与える付勢力が付勢手段よりも弾性部材の方が大きい構成も採用できる。
【0028】
これによれば、被操作手段は、被操作部と押圧体とが弾性部材を介して被操作方向に相対移動可能な状態に連結されることによって与圧状態に保持されている。例えば第1流路弁を閉弁させるべく被操作部を操作したときに、押圧体が弁体を押し込むその押し込み量がばらついても、与圧状態にある押圧体が弁体を押すため、確実な荷重で第1流路弁を閉めることができる。ここで、仮に押圧体が与圧状態に保持されていないとすると、押圧体の押込み量のばらつきによって第1流路弁の閉まり具合がばらつき弁の密閉状態が安定しない。一方、その押込み量のばらつきを見込んで押圧体の押し込み量を必要以上に過剰にすると、弁体を膜材等から構成した場合に押圧体から過剰な圧が弁体にかかって弁体を傷つけることになり、傷ついてできた凹み痕等が弁の密閉性を悪くさせる。しかし、本発明では、押圧体が与圧状態に保持されていることから、被操作部を操作したときに押圧体の押込み量にばらつきがあっても、第1流路弁を確実な荷重で閉弁できることから、第2流路弁の密閉状態を安定化でき、さらに必要以上に押圧体が弁体を押し込まないので弁体を膜材等から構成しても傷つけることがなく、長期に渡って信頼性のある弁機能を維持できる。
【0029】
また、本発明の液体噴射装置では、前記被操作手段はバルブユニットの筐体と相対する位置に設けられた貫通孔に挿通される部分として被操作体を有し、該被操作体は前記貫通孔に挿通されて前記弁体に当接可能に配置されており、前記筐体は、前記大気流路が内部を通る支柱管部が前記貫通孔を横切るように位置するとともに該支柱部の途中から前記弁体側へ向かって延出しその先端部の開口が前記大気流路と連通する状態で前記弁体と対向して位置している弁座部を有し、前記被操作体は前記支柱管部を避けるスリット及び前記弁座部を避ける孔を介して前記貫通孔に挿通されて前記弁体に当接可能な状態で一部を前記筐体の外方へ突出させた状態で該貫通孔内を摺動可能に設けられていることが好ましい。
【0030】
これによれば、被操作部が弁体を付勢手段の付勢力に抗して押し込み動作、あるいは引き出し動作をして、弁体を有効に変位させるためには、該被操作部が弁体の略中央部を大きく変位させられるように、弁体の略中央付近に当接又は固定されることが望ましい。一方、弁座部はその開口が弁体の変位の大きい略中央部と対向する位置に配置されることが望ましく、被操作体と弁座部の望ましい配置位置が互いに干渉し合う。しかしながら、本発明では、被操作体が挿通される貫通孔を横切る支柱管部に弁座部が支持されることで、弁座部の開口を弁体の略中央部と対向する状態に配置することができる。一方、被操作体は、支柱管部をスリットで避け、弁座部を孔で避けた状態で、弁室の内側から外側へ向かって貫通孔を挿通させた状態に組み付けられ、その弁室側の先端部は中央の孔で弁座部を避けた状態で環状の面で弁体に対してその略中央部に当接又は固定される。よって、被操作体は弁座部の周囲に相当する弁体の略中央部分を環状の面で当接又は固定された箇所を押込み又は引出しすることができる。よって、被操作体が弁体を有効に変位させられる略中央部に力を付与できる要請と、弁座部がその開口を弁体の変位の大きい略中央部に対向させた配置の要請とを両立できる。
【0031】
また、本発明の液体噴射装置では、前記被操作手段はバルブユニットの筐体と相対する位置に設けられた貫通孔に挿通される部分として被操作体を有し、該被操作体は前記貫通孔に挿通され前記弁体に当接可能に配置され、前記大気流路に連通する第2弁座部が前記弁体の略中央部に相対して配置されており、前記弁体は、その略中央部において前記被操作体側へ突出した厚肉の弁部と、該弁部の周囲に延在して該弁部より薄肉の膜状部とを有し、前記第2弁座部及び前記被操作体は前記弁部と当接可能に設けられ、前記吸引流路と連通する第1弁座部が前記弁体の前記被操作体側と反対側の面における前記弁部に相当する部位に当接可能に配置されていることが好ましい。
【0032】
これによれば、被操作体が弁体を付勢手段の付勢力に抗して押し込むと、弁体が変位して、第1流路弁及び第2流路弁の開閉状態が切り換えられる。被操作体が肉厚の弁部を押し込んだときには、弁体は弁部においては撓まずその周囲の膜状部で撓むことで変位する。このとき、弁体は弁部の部分の面を弁座部の開口面に略平行に保持したまま被操作体の移動方向に変位するので、弁部が弁座部に当接したときに確実に密閉できる。また、弁座部及び被操作体は肉厚の弁部に当接することから、弁部は弁座部及び被操作体から繰り返し力を受ける割りに、その耐久性が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
(第1実施形態)
以下、本発明を液体噴射装置における液体噴射ヘッドのメンテナンスに用いられるメンテナンスシステム及びメンテナンス装置に具体化した一実施形態を、図1〜図64に基づいて説明する。
【0034】
<メンテナンスシステム>
まずメンテナンスシステムについて図1〜図5に基づいて説明する。図1は、複数の記録ヘッドを有するマルチヘッド型プリンタに装備されて使用されるマルチヘッド対応のメンテナンスシステム(マルチヘッドクリーニングシステム)を記録ヘッドシステムと共に示した斜視図を示す。図2は、メンテナンスシステムの斜視図、図3は一部の記録ヘッドシステムを共に示したメンテナンスシステムの平面図、図4は同じく一部の記録ヘッドシステムを共に示したメンテナンスシステムの側面図、図5は同じくメンテナンスシステムの正面図である。
【0035】
図1〜図5では、複数の記録ヘッドを有するマルチヘッドシステムとメンテナンスシステムが、メンテナンス作業を行うときの所定位置関係に配置された状態で示している。
液体噴射装置としてのインクジェット式プリンタ(以下「プリンタ」と称す)(図示せず)は、複数(本実施形態では8つ)の記録ヘッド12を有する記録ヘッドシステム11を備える。プリンタの印刷方式が記録ヘッドを走査させながら液滴を吐出して印刷を行う走査方式である場合、複数の記録ヘッド12は、プリンタ本体に主走査方向(以下、「X方向」ともいう)への移動可能に設けられる。この場合、記録媒体としての用紙は、X方向と直交する副走査方向(以下、「Y方向」ともいう)に沿って搬送される。一方、プリンタの印刷方式が記録ヘッドは固定配置したままで記録媒体としての用紙の紙送り動作のみにより印刷が行われる非走査方式である場合、複数の記録ヘッド12は、図1及び図2に示すY方向における最大用紙サイズの全幅に亘って配置され、記録媒体としての用紙は同図におけるX方向に沿って搬送される。
【0036】
また、図1及び図2に示すように、複数の記録ヘッド12は、隣り合う記録ヘッド12同士がX方向及びY方向に沿った千鳥配置となるように配置されている。そして、これらの記録ヘッド12に対してノズル目詰まり等の予防・解消のための保守を行うメンテナンスシステム10は、記録ヘッド12と同数のメンテナンス装置20からなる。すなわち、複数(本実施形態では8つ)のメンテナンス装置20が、それぞれ対応する記録ヘッド12の直下にクリーニング機構22を配置する状態で隣接配置されている。
【0037】
メンテナンスシステム10と記録ヘッドシステム11が図1に示す所定位置関係に配置されるのは、少なくとも保守作業を行うときであり、記録ヘッドシステム11とメンテナンスシステム10のうち少なくとも一方が移動し、両者は同図に示す所定位置関係に配置される。
【0038】
なお、複数の記録ヘッド12は、印刷時に記録ヘッド12のノズル形成面12a(図6に示す)と対向する下方位置に配置された図示しないプラテンとの間のギャップ(以下、「プラテンギャップ」と称す)を調整するために装備された、図示しないプラテンギャップ調整機構によって、鉛直方向(上下方向)に位置調整可能に設けられている。プラテンギャップ調整機構が、例えばコントローラ27(図4に示す)により駆動制御される自動調整式のものであれば、印刷設定情報中の記録用紙の紙厚に応じて複数の記録ヘッド12が高さ調整されてプラテンギャップが自動調整され、紙厚に依らず記録ヘッド12と用紙表面とのギャップが常に一定になるように構成されている。このため、プラテンギャップ調整機構により記録ヘッドシステム11(記録ヘッド12)の高さが変化すると、メンテナンス時の所定の位置関係に配置されたメンテナンスシステム10(メンテナンス装置20)と記録ヘッドシステム11(記録ヘッド12)との対向方向の距離が変化することになる。なお、プラテンギャップ調整機構は、用紙の紙厚に応じてユーザが手動操作でプラテンギャップを調整する構成でも構わない。プラテンギャップ調整機構としては、例えば特許文献4に開示された自動調整方式の構成、あるいは特許文献5に開示された手動方式の構成を採用できる。
【0039】
<マルチヘッドシステム>
図6は、複数の記録ヘッドを備えた記録ヘッドシステム(マルチヘッドシステム)を示す。同図(a)は底面図、同図(b)は正面図である。なお、図6では、8個の記録ヘッド12のうち一部のみ示している。
【0040】
図6(a)に示すように、記録ヘッド12が印刷時に記録媒体と対向する面(底面)はノズル形成面12aとなっており、ノズル形成面12aには2列ずつが近接して組をなす4組のノズル列13が形成されている。1列のノズル列は例えば180個のノズルからなる。
【0041】
本実施形態の記録ヘッド12には、例えばシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色のインクが供給される。そして、記録ヘッド12における4組のノズル列13は組をなす2列が同色のインクが噴射(吐出)し、1つの記録ヘッド12からは4色のインクが吐出される構成となっている。
【0042】
プリンタの印刷方式が非走査方式である場合、記録ヘッド12と記録媒体(記録用紙)は、ノズル列13と直交するX方向に相対移動する。1列の記録ヘッド12に着目した場合、記録ヘッド12のノズル列13と、ノズル列の延設方向であるY方向において隣接する記録ヘッド12のノズル列13との間には隙間ができるが、ノズル列と直交するX方向に隣接する記録ヘッド12を千鳥配置することにより、その隙間に相当する位置に他列の記録ヘッド12のノズル列13が配置される。このように記録ヘッド12が千鳥配置されることにより、同色のノズル列13は、異なる記録ヘッド12間で図6(a)における左右方向において連続的に繋がり、記録媒体としての用紙の最大紙幅範囲に渡る全域で印刷が可能となっている。
【0043】
記録ヘッド12の内部にはノズル列13を構成している180個の各ノズルと対応する位置に圧電振動子(圧電振動素子)が配列されている。インクを吐出すべきノズルと対応する圧電振動子に駆動電圧パルスが印加されることにより、駆動電圧パルスが印加された圧電振動子が振動し、その振動によりノズルに連通するインク室が膨張・圧縮することで、膨張したときにインク室に流入したインクの一部がインク室の圧縮時にノズルから吐出される構成となっている。こうして駆動電圧パルスを印加すべき圧電振動子が印刷データに基づき選択されることで、ドット形成位置に対応するノズルから選択的にインクが吐出され、印刷データに基づく印刷が行われる。
【0044】
図1及び図2に示すように、8台のメンテナンス装置20を構成する8つのクリーニング機構22は、千鳥配置された記録ヘッド12の各々と対応する直下に千鳥状に配置される。そして、平面視において、クリーニング機構22は、記録ヘッド12の範囲内にその構成部品を集約させた構造となっている。つまり、本実施形態では、平面視において、略四角形状のクリーニング機構22のX方向及びY方向の2辺の長さを、記録ヘッド12のX方向及びY方向の2辺の長さと略等しくしている。そして、千鳥配列された記録ヘッド12の直下にクリーニング機構22を千鳥配列できるように、クリーニング機構22の平面視4辺のうち千鳥配置した場合に互いに隣接させる必要がある3辺については、平面視において、その3辺の外側に構造体が飛び出ていない形状に、メンテナンス装置20は製造されている。
【0045】
但し、クリーニング機構22を千鳥配置するうえで形状制限を受けない他の1辺側へは、吸引ポンプ40などの一部の構造部品が、クリーニング機構22の範囲の外側へ飛び出て配置されており、こうすることで、メンテナンス装置20の高さをある程度抑えた構造となっている。なお、クリーニング機構22を千鳥配置できる限りにおいて、クリーニング装置の構造・形状は任意に設定できる。
【0046】
8台のメンテナンス装置20は、4台ずつのクリーニング機構22を1列に並べるとともに吸引ポンプ40側が外側にくる配置向きで、各列を互いに付き合わせて配置するとともにクリーニング機構22の各列がY方向に半ピッチ分ずつずらす状態に配列されている。この結果、マルチヘッド構造をとる千鳥配置の記録ヘッド12に対応する直下に、複数個(8個)のクリーニング機構22がX方向及びY方向に隣接して千鳥配置された状態に配置されている。
【0047】
<選択クリーニング機構>
メンテナンス装置20は、記録ヘッド12のノズル形成面12aに対してノズル列13を囲うようにキャップ24を当接させたキャッピング状態でキャップ24内を吸引ポンプ40で吸引することによりキャップ24内に負圧を発生させてノズル(図示省略)からインクを強制的に吸引する吸引クリーニングと、吸引クリーニング後にノズル形成面12aをワイパ25で払拭するワイピングとをメンテナンス作業として行う。吸引クリーニングによって、ノズルの目詰まりを解消したりノズル内の増粘したインクを除去したりする。また、ワイピングによって、ノズル形成面12a上に残存する付着インクや塵埃等の異物を拭き取ったりノズル内のインクのメニスカスを整えたりする。
【0048】
図2及び図3に示すように、記録ヘッド12と対向するクリーニング機構22の上端部にはヘッドガイドユニット90が配置され、ヘッドガイドユニット90の格子の開口に臨むように4つのキャップ24が配置されている。4つのキャップ24は記録ヘッド12のノズル形成面12a上に形成された複数のノズル列を4分割した列毎にノズル列を個別に封止するキャッピングが可能となっている。また、キャップ24と対応する位置にはキャップ24の長手方向外側であり、ノズル列の延びる方向外側の位置を退避位置とする4つのワイパ25が配置されている。4つのワイパ25は互いに同軸上に連結されており、キャップ24の上方位置をその長手方向に沿って往復移動可能となっていて、4分割した列毎にノズル列の延びる方向に動いてノズル形成面12aを払拭する。
【0049】
ここで、記録ヘッドシステム11を構成する記録ヘッド12は、ノズル形成面12aにおけるノズル列方向になるべく広範囲に渡る長さにノズル列を形成しているため、ノズル列方向において記録ヘッド12のエッジとノズル列13の端部との隙間が比較的狭くなっている。このため、ワイパ25でノズル列13を払拭する開始位置でワイパ25が記録ヘッド12のエッジに当たりやすいが、本実施形態では、メンテナンス装置20側でワイパ25がエッジに当たらない工夫がなされているので、図6(a)(b)に示すように、ノズル列13と直交するエッジの部分は、カバーヘッド12bにより保護されていない。
【0050】
また、図4に示すように、コントローラ27には記録ヘッド12のノズル形成面12aに形成された多数のノズルのうち目詰まり等の発生した不良ノズルを検出する不良ノズル検出装置28が電気的に接続されている。不良ノズルが検出された場合は、記録ヘッド12のノズル形成面12aに形成された複数のノズル列13(図6に示す)のうち不良ノズルを含むノズル列13(不良ノズル列)だけを選択的にクリーニング可能な構成となっている。不良ノズル検出装置としては、ノズルから噴射された液滴の有無をレーザー光の照射により検出するレーザー方式、あるいは、検査用紙に所定パターンを印刷して光学式にパターンを検査することで、非吐出のノズルや着弾径が許容値未満であったノズルを不良ノズルとして検出する装置を挙げることができる。レーザー方式は、例えば特許文献6に記載の構成を採用でき、パターン検査方式は、特許文献7に記載の構成を採用することができる。
【0051】
本実施形態では、キャッピングした4つのキャップ24のうち不良ノズル列を封止するキャップの封止空間内のみに負圧を発生させての選択吸引が可能となっている。また、4つのワイパ25のうち選択吸引が実施されたノズル列に対応するワイパ25を選択して、選択したワイパ25だけに払拭圧(すなわち、ノズル形成面12aを払拭可能とする払拭力)を与える選択ワイピングが可能となっている。これは、吸引クリーニングが行われなかったノズル列に対して空ワイピングをしてしまうと、ノズル内のインクのメニスカスを破壊する虞があるからであり、このようなインク吐出性能に悪影響を及ぼすメニスカスの破壊を防ぐために吸引が実施されなかったノズル列に対しては空ワイピング動作が行われないようにしている。4つのワイパ25を選択的にワイピング動作させるワイピング装置の詳細については後述する。
【0052】
また、キャップ24によるキャッピングやワイパ25によるワイピングは、クリーニング機構22がヘッドガイドユニット90により記録ヘッド12に対して位置決めされた状態で行われるので、クリーニング対象がノズル列毎に分割されていても、位置精度のよい適切なクリーニングを実施できる。クリーニング機構22には、キャップ24及びワイパ25の選択手段及び作動手段などが組み込まれおり、ベースユニット21には前記選択手段や作動手段などの駆動源となる電動モータ30や吸引クリーニングのためにキャップ24内に負圧を発生させる吸引ポンプ40などが配設されている。メンテナンス装置20では、クリーニング機構22と吸引ポンプ40とが隣接した状態でベースユニット21に備えられており、電動モータ30はクリーニング機構22の配置面より下側に配置されている。
【0053】
<メンテナンス装置>
以下、メンテナンス装置の詳細について説明する。
図7はメンテナンス装置の正面斜視図、図8はメンテナンス装置の背面斜視図である。
【0054】
メンテナンス装置20は、ベースユニット21と、保守作業を主に行う構成部分であるクリーニング機構22とを備える。クリーニング機構22は、記録ヘッド12と対応する位置に配置されて記録ヘッド12のノズル列に対して選択的なクリーニングを施す。そして、クリーニング機構22は、記録ヘッド12に対する接近・離間が可能な方向に移動可能(本例では昇降可能)な状態でベースユニット21上に支持されている。
【0055】
ベースユニット21を構成するベースフレーム31の裏面には電動モータ30が配設され、ベースフレーム31の上面においてクリーニング機構22と隣接する位置には吸引ポンプ40が固定されている。吸引ポンプ40は、複数のリブにネジ止めされてベースフレーム31の上面から少し離間して配置され、その離間した隙間に図7に示すポンプギヤ40aが配置されている。また、ベースフレーム31の上面には電動モータ30の駆動力を吸引ポンプ40のポンプギヤ40a及びクリーニング機構22に伝達する動力伝達機構33が配設されている。
【0056】
電動モータ30から延びる配線30aに接続されたコネクタ30bは、図4に示すコントローラ27と電気的に接続されている。電動モータ30は正逆転駆動が可能なモータであり、コントローラ27により回転駆動制御される。
【0057】
クリーニング機構22は、不良ノズル列に対応する列を選択する選択ユニット110(図7〜図11に示す)を収容するホルダ23と、ホルダ23の上部に取着されたヘッドガイドユニット90とを備える。電動モータ30から動力伝達機構33を介してホルダ23内の選択ユニット110に伝達された駆動力は、クリーニング機構22の昇降、キャップ24及びワイパ25の列の選択、選択列におけるキャップ24の吸引動作及びワイパ25のワイピング動作等の動力として使用される。ベースフレーム31の上面端部にはガイドロッド32が突設され、ベースフレーム31上の他の端部には昇降ユニット50が支持されている。
【0058】
クリーニング機構22は、ガイドロッド32がホルダ23から下方に突出したガイド筒61に挿通されるとともに、昇降ユニット50の上端部がホルダ23内に組み付けられた選択ユニット110に作動連結されることで、昇降ユニット50及びガイドロッド32を介してベースフレーム31に対し昇降可能に支持されている。ホルダ23からは動力伝達機構33の一部を構成する図8に示すロッドギヤ36を収容したガイド枠62が下方に延出しており、その下部がベースフレーム31上の凹部に上下方向へのスライド可能に挿通されている。
【0059】
ホルダ23の上面には4つのキャップ24がその長手方向が互いに平行になる状態で且つその長手方向と直交する方向に等間隔に配置されており、4つのキャップ24を有するホルダ23の上側部分によってキャップユニット70が構成されている。クリーニング機構22が昇降することにより、ホルダ23上の4つのキャップ24は記録ヘッド12に対して接近・離間するように構成されている。
【0060】
ヘッドガイドユニット90は、ホルダ23に対して上下方向に相対移動可能に取着されるとともに上方に付勢された状態にありホルダ23から所定距離だけ上方に離間した位置を待機位置とする。ヘッドガイドユニット90は4つのキャップ24と相対する部位がそれぞれ開口する四角格子板状であり、その四辺に相当する部位から上方へ突出する2組のガイド部91,92を有している。クリーニング機構22の上昇時に2組のガイド部91,92が記録ヘッド12の側面に嵌ることで、クリーニング機構22は記録ヘッド12に位置決めされる構成となっている。そのため、ヘッドガイドユニット90、クリーニング機構22共に記録ヘッド12の位置に合わせて水平方向に移動できる。
【0061】
クリーニング機構22が上昇すると、まずヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12の側面に嵌って記録ヘッド12に位置決めされ、その位置決めされたヘッドガイドユニット90に対してホルダ23がさらに上昇して位置決めされた後、ヘッドガイドユニット90の格子の開口から突出したキャップ24がノズル形成面12aに当接する構成となっている。ノズル形成面12aに当接した4つのキャップ24はそれぞれ1組のノズル列13を封止する。このとき、ヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12の側面に嵌ることにより、キャップ24は、ノズル形成面12a上における対応するノズル列13を確実に封止できるよう位置決めされる。
【0062】
4つのワイパ25は図7におけるホルダ23の上部背面側を退避位置とし、それぞれ同列に位置するキャップ24の上方位置をその長手方向(すなわちノズル列方向)に沿って往復動するように構成されている。4つのワイパ25を駆動させるワイパ駆動ユニット220はホルダ23に組み付けられている。ワイパ駆動ユニット220はワイピング時期になるとホルダ23内の選択ユニット110から補助力を受けて動力伝達機構33の歯車と噛合するようになり、動力伝達機構33から伝達された動力により駆動されることで4つのワイパ25を往復動させる。4つのワイパ25はその往復動のうちその復動時にノズル形成面12a上の対応するノズル列13を含む部位をワイピングする。このように本実施形態のメンテナンス装置20が有するワイピング装置は、電動モータ30からの動力によりワイパ25が記録ヘッド12のノズル形成面12aに沿って移動する自己駆動方式のものであり、例えば固定式の記録ヘッド12に対してもワイピングの実施が可能となっている。
【0063】
図7においてホルダ23の背面に配設されたバルブユニット190は、吸引ポンプ40と4つのキャップ24とを接続するチューブ上に介在し、4つのキャップ24のそれぞれに対応する4つの流路弁を内蔵する。バルブユニット190に内蔵された4つの流路弁は、4つのキャップ24と吸引ポンプ40とを接続する各流路を開閉する弁を少なくとも含み、ホルダ23内の選択ユニット110により個別に操作されることで4つのうち選択列に対応する流路弁が吸引ポンプ40と流路が連通するように開弁する構成となっている。
【0064】
ホルダ23内の選択ユニット110は、キャップ24及びワイパ25の列に応じた回動可能なカム機構を同軸上に4連有し、クリーニング機構22を上昇させる過程で電動モータ30の回転にカムの選択制御を加えるなど必要な回転制御をコントローラ27が行うことで、吸引及びワイピングを実施する選択列の選択が行われる。これにより、クリーニング機構22の昇降、キャップ24の吸引選択(バルブユニット190の流路弁切り換え)、吸引ポンプ40の駆動、ワイパ25の選択、ワイパ25の払拭駆動などを、電動モータ30一個を用いて共通の駆動源によって行う構成となっている。
【0065】
電動モータ30の回転制御により行なわれる一連の処理動作をここで簡単に説明する。まず電動モータ30の正転駆動によりクリーニング機構22を上昇させてキャップ24をノズル形成面12aに当接させるキャッピングが行われる。キャッピングのための上昇過程では不良ノズル列だけにクリーニングを施すための選択ユニット110における列の選択動作が行われる。この選択動作により、バルブユニット190内の選択列に対応する流路弁の開弁選択、及びワイピング時に選択列に対応するワイパ25をノズル形成面12aを払拭可能な起き上がり姿勢に誘導するためのワイパ25の選択が行われる。
【0066】
キャッピングに引き続き吸引ポンプ40が駆動されてキャップ24の内部に負圧を発生させることにより記録ヘッド12のノズルからインクを強制的に吸引する吸引クリーニングが行われる。吸引クリーニング後に選択ユニット110を動作させてバルブユニット190内の選択列に対応する流路弁をキャップ24の内部を大気開放しつつ吸引ポンプ40にも連通する開弁状態に切り換えられ、この状態で吸引ポンプ40を駆動することでキャップ24やチューブ内に残存するインクを図示しない廃液タンク等へ回収する空吸引が行われる。
【0067】
この空吸引終了後、電動モータ30の逆転駆動によりクリーニング機構22を下降させてキャップ24をノズル形成面12aから離間させる。クリーニング機構22が下降位置に達した後、ホルダ23内では電動モータ30からの動力の伝達経路が選択ユニット110からワイパ駆動ユニット220に切り換わり、ワイパ25がキャップ24の上方位置を所定経路に沿って往復動するとともに復動時に払拭可能な姿勢に起き上がった選択列に対応するワイパ25によるワイピングが行われる。このワイピング過程ではワイパ駆動ユニット220の駆動機構の一部がヘッドガイドユニット90に当接してこれを記録ヘッド12に嵌る位置まで持ち上げることで、ワイピングはワイパ25が記録ヘッド12に位置決めされた状態で行われる。ワイパ25が往復動作を終了するとヘッドガイドユニット90は元の位置に下降し、ワイパ25が図8に示す退避位置まで戻ることで、「キャッピング」→「選択吸引クリーニング」→「選択空吸引」→「選択ワイピング」という1サイクルのクリーニング動作が終了する。
【0068】
図9はメンテナンス装置の分解斜視図である。
メンテナンス装置20は、ベースユニット21、ベースユニット21に昇降可能に支持された支持ホルダ60、ホルダ23の上側部分を構成するとともに複数(4つ)のキャップ24を上部に有するキャップユニット70、及びヘッドガイドユニット90を備える。また、ホルダ23に収容されてキャップ24の吸引選択およびワイピングさせるべきワイパ25の選択を行う選択ユニット110、バルブユニット190、ワイパ駆動ユニット220、昇降ユニット50、及びロック機構170を備える。以下、各ユニット及び機構について説明する。
【0069】
まず、バルブユニット190は、バルブレバー153に操作されるバルブ加圧体191の押し込み量の違い(3段階)に応じて、内蔵された4つの流路弁の開閉状態がそれぞれ個別に切り換えられる。詳しくは4つの流路弁は、吸引ポンプ40に連通される吸引流路を開閉する吸引流路弁と、大気に開放された大気流路を開閉する大気流路弁とを有し、吸引流路弁と大気流路弁のそれぞれの開閉の組み合わせのうちキャップ24における吸引・非吸引・空吸引を選択する3種類の開閉弁状態のうち一つが選択される構成となっている。リフト板ベース151がリフトしていないとき(リフト量「0」)が非吸引、リフトしているときが吸引、最大リフト量のときが空吸引の開閉弁状態である。
【0070】
また、ワイパ駆動ユニット220は、選択カム軸125の両端に連結されるワイパ駆動歯車221及びワイパ駆動車222と、選択中間歯車37から伝達される動力でワイパ駆動歯車221が所定角度範囲を往復回動することにより下端を中心に揺動運動が可能な2本のワイパ駆動レバー223,224とを有している。4つのワイパ25は2本のワイパ駆動レバー223,224が一往復の揺動をすることでキャップ24の長手方向に沿って往復移動する。4つのワイパ25は対応する移動体としてのリフト板ベース151がリフトしていればその上面に当接して押し上げ力を受けて払拭可能な起き上がり姿勢に誘導され、リフト板ベース151がリフトしていなければその上面から押し上げ力を受けず起き上がり姿勢をとることがない。よって、選択されたノズル列13についてはワイピングが実施され、非選択のノズル列13についてはワイピングが実施されない。
【0071】
図10は、ベースユニット21を構成する動力伝達機構33を含む部分の斜視図である。動力伝達機構33は、二段歯車34、中間歯車35、ロッドギヤ36及び選択中間歯車37からなる。ベースフレーム31上に回転可能に支持された二段歯車34は、その小歯車部34aが電動モータ30の駆動軸に固着されたピニオンギヤと噛合し、その大歯車部34bは、小歯車部35bがポンプギヤ40aと噛合している中間歯車35の大歯車部35aと噛合している。吸引ポンプ40は、電動モータ30が正転駆動されると、ポンプ駆動されて負圧を発生させる吸引動作を行い、電動モータ30が逆転駆動されるとレリース状態となって負圧は発生しない。本実施形態の吸引ポンプ40は、公知のチューブポンプであり、回転駆動されると内蔵されているホイールに巻回されたチューブが一方向に扱かれてチューブ内の気体や液体が押し出されることでチューブの上流側一端側に吸引力(負圧)が発生する構造である。この吸引ポンプ40は、ポンプギヤ40aと一体回転可能なチューブポンプ機構(図示せず)が駆動軸方向に二段配列された状態に内蔵されており、2つの吸引用配管接続部を有している。なお、吸引ポンプ40は、ポンプギヤ40aが逆転から正転に切り換わってもポンプギヤ40aが内部の駆動軸と係合するまでに1回転未満の所定回転量を要する遅延機構が内蔵されており、逆転から正転に切り換わっても所定回転量の空転の後にポンプ駆動が開始される構造となっている。
【0072】
図8に示すように、ロッドギヤ36は、ベースフレーム31の軸(図示しない)に挿通され、支持ホルダ60から下方へ所定長さで延出する枠板状のガイド枠62に軸回転可能な状態で収容されており、その下部にスプラインギヤ部36a、上部にウォームギヤ部36bをそれぞれ有している。図10(b)に示すようにスプラインギヤ部36aは二段歯車34の大歯車部34bと噛合し、ウォームギヤ部36bは選択中間歯車37と噛合している。
【0073】
よって、電動モータ30が正転駆動されると、その回転力は二段歯車34およびロッドギヤ36に回転伝達され、ロッドギヤ36の軸回転によりその上部のウォームギヤ部36bと噛合する選択中間歯車37に回転が伝達されるようになっている。この選択中間歯車37は、選択ユニット110を構成する4つの選択カム121〜124のうちの1つの選択カム121と噛合している。このロッドギヤ36の下部にスプラインギヤ部36aが形成されているので、クリーニング機構22と共に昇降するロッドギヤ36がその昇降範囲のどの位置にあっても、ロッドギヤ36と二段歯車34が噛合できるようになっている。
【0074】
図11は、選択ユニット及びバルブユニットを含むメンテナンス装置の要部斜視図である。選択ユニット110は、カム機構を含む選択歯車ユニット120と、選択歯車ユニット120のカムにカムフォロアが案内されてリフト動作するリフトユニット150とを備える。選択歯車ユニット120は、選択カム軸125上に回動可能に設けられた4つの選択カム121〜124を有している。4つの選択カム121〜124は、キャップ24及びワイパ25の4つの列にそれぞれ対応しており、側面に形成された同一カム形状のカムの周方向の位相が所定角度ずつずれた状態を保ったまま一体回動できるように選択カム軸125が挿通された状態にある。なお、以下において、選択カム121〜124については、必要に応じて第1選択カム121,第2選択カム122、第3選択カム123、第4選択カム124と呼び、4つの選択カム121〜124の群を総称して選択カム群135を呼ぶことにする。また、選択中間歯車37は、選択歯車ユニット120を構成する選択カム121及び摩擦ギヤ126と噛合している。そして、摩擦ギヤ126は第2選択カム122の側面と摩擦係合している。
【0075】
選択ユニット110は、選択カム121〜124と係合するリフトカム可動板152を介してリフト板ベース151のリフト量を選択することにより、バルブレバー153の押し込み量を選択する。リフト板ベース151のリフト量が高いときに、ワイピングの実施が選択される。また、このときには、バルブレバー153が傾動し、バルブ加圧体191を押圧して、キャップ24内に負圧を発生させる状態とし、吸引クリーニングを実施させるキャップ24も同時に選択される。
【0076】
図12及び図13は、選択ユニット、昇降ユニット及びロック機構の分解斜視図であり、図12は上側から見た斜視図、図13は下側から見た斜視図である。同図に示すように、選択カム121〜124は、それぞれカム本体128と、カム補助板131と圧縮バネ133とからなる。カム補助板131はカム本体128に対し相対回転不能かつ圧縮バネ133によりカム本体128に嵌挿される方向へ付勢された状態で一体に組み付けられている。同一カム形状を有する4つの選択カム121〜124は、周方向にカムの位相が20度ずつ順番にずれた状態で一体に連結され、選択カム軸125に対して相対回動可能となるように該選択カム軸125が挿通される。昇降ユニット50のリフトレバー54はその先端部が第3選択カム123の偏心位置に係合され、またロック機構170のストッパカム171は第3選択カム123と第4選択カム124との間に挟持された状態で選択カム121〜124と共に一体回動するように組み付けられる。
【0077】
昇降ユニット50は、支持部51と、該支持部51の圧力調整軸ホルダ52内に上方に付勢された状態で挿通支持された圧力調整軸53と、この圧力調整軸53に基端部が連結されるとともに先端部が選択歯車ユニット120の選択カム123と係合するリフトレバー54とを有している。リフトレバー54の先端部との係合位置を支点として選択カム123が回動しながら上昇することでクリーニング機構22は上昇し、選択カム123が上昇過程とは逆方向に回動してその係合位置を支点として回動しながら下降することでクリーニング機構22は下降する。こうして選択カム123の往復回動によりクリーニング機構22は昇降する。なお、圧力調整軸53はクリーニング機構22をフローティング状態に支持する。
【0078】
ロック機構170は、圧力調整軸ホルダ52を先端部に有する支持部51、圧力調整軸53、圧縮バネ55、ストッパカム171、ストッパレバー172及びチョーク部材173を有している。圧力調整軸53は圧縮バネ55により圧力調整軸ホルダ52から突出する方向に付勢された状態に組み付けられる。チョーク部材173は圧力調整軸ホルダ52の上端面に固定され、圧力調整軸53の先端に圧力調整軸ホルダ52の外側から遊嵌される。選択カム121〜124が回動して昇降ユニット50によりクリーニング機構22が上昇した上昇位置のタイミングでストッパレバー172がストッパカム171により傾動すると、ストッパレバー172は作動連結されたチョーク部材173のリングの内径を小径化させることで、該リング内に挿通された状態でクリーニング機構22を支持する圧力調整軸53を絞めてロックする。
【0079】
リフトユニット150は、各選択カム121〜124のカムにカムフォロアを係合させた4つのリフトカム可動板152を介してリフト動作可能な4つのリフト板ベース151を有している。リフトカム可動板152が選択カム121〜124のカム面に案内されてリフト板ベース151をリフトさせる。リフト板ベース151のリフト量に応じた押込み量でバルブレバー153が傾動しバルブユニット190のバルブ加圧体191を操作してキャップ24におけるインク吸引・非吸引・空吸引を選択するとともに、リフト板ベース151を上昇させてワイピング手段に払拭力(払拭圧)を提供してワイピング可能とする構成となっている。
【0080】
<選択ユニット>
図14は、選択ユニットを示し、同図(a)は正面斜視図、同図(b)は背面斜視図である。図15は、選択ユニットの選択カム軸を外した状態を示す分解斜視図、図16(a)は選択ユニットの平面図、同図(b)は正面図、同図(c)は側面図である。図17は、図16(a)におけるA−A線断面図である。
【0081】
4つの選択カム121〜124には選択カム軸125が挿通されている。4つの選択カム121〜124は、一側面に同一形状のカム面を有するカム部を各々有し、各カム面の回動方向の位相が20度ずつ順次ずれるように一体回転可能に連結されている。
【0082】
第2選択カム122の隣接位置には、摩擦ギヤ126が第2選択カム122と側面同士を摩擦係合させた状態で選択カム軸125を中心に回転可能な状態に配置されている。選択中間歯車37は、図11に示すように、第1選択カム121、摩擦ギヤ126及びワイパ駆動歯車221と噛合可能となっている。通常、リフトユニット150を上昇選択する際は、選択カム軸125、ワイパ駆動歯車221、ワイパ駆動車222は回転せず、選択カム軸125上の選択カム群135だけが回転する。リフトカム可動板152は、選択カム121〜124の側面に接近・離間が可能な方向に傾動可能にリフト板ベース151に係合支持されている。
【0083】
次に選択カムのカム面に誘導されてリフト板ベースが昇降する機構について説明する。まず、選択カムの構造を説明する。各選択カム121〜124は基本構造が同じであるので、第1選択カム121を例にして説明する。図18は選択カムを示し、同図(a)は分解斜視図、同図(b)は斜視図である。
【0084】
図18(a)に示すように、選択カム121は、間欠歯車からなるカム本体128と、その内方に嵌挿状態に組み付けられるカム補助板131と、カム本体128のカム部130が形成された一側面側へカム補助板131を突出する状態に付勢する圧縮バネ133とから構成される。カム本体128の一側面には周方向に渡りカム部130が形成されており、そのカム部130は軸線方向に複数段(本例では軸部129の外周面を含めて3段)のカム面を有する。なお、これら複数段のカム面については後述する。
【0085】
カム補助板131には、カムとなる第1カム部132a,第2カム部132b及び第3カム部132cが突設されている。カム補助板131は、圧縮バネ133に付勢されてカム本体128に嵌挿された状態においては、図18(b)に示すように、第1カム部132a,第2カム部132bが、カム本体128のカム部130と結合して滑らかなカム面を形成する。カム補助板131はカム本体128に対して選択カム軸125に沿って変位できるように組み付けられ、かつこの圧縮バネ133によって通常位置(突出位置)に復帰できるように構成されている。カム補助板131は、圧縮バネ133の付勢力に抗する方向へ押されると、カム本体128内に退避して突出量を減少させるように構成されている。カム補助板131は、カム本体128内を軸方向に例えば1mm程度移動できる。
【0086】
また、カム補助板131から側方へ突設する半円弧状の規制壁131a,131bが、カム本体128側の貫通孔128d,128eにそれぞれ嵌合される。また、カム補助板131は、その第1カム部132a,第2カム部132bがカム本体128の軸部129の外周面上に軸方向に沿って形成された係合溝129aに嵌挿されることにより、カム本体128に対して相対回転不能に組み付けられる。なお、カム本体128の軸線方向においてカム部130が設けられた側(以下、「軸方向手前側」という)の側面に突出する軸部129の端面には、軸孔128cの周囲4箇所で凹む係合溝129bが形成されている。一方、カム本体128の軸線方向においてカム部130が設けられた側とは反対側(以下、「軸方向奥側」という)の側面に突出する軸部129の端面には軸孔128cの周囲4箇所が突出する十字型の係合凸部129cが図15に示すように形成されている。そして、4つの選択カム121〜124は、カム本体128の軸部129の一方の端面に形成された係合溝129bが、図13に示すように軸方向で隣接する他の選択カムにおけるカム本体の軸部129の他方の端面に形成された係合凸部129c(図15に示す)と嵌合されることにより、20度ずつ位相が順次ずれた状態で相対回動不能に連結される。なお、第1〜第4選択カム121〜124は、外周面上の一部が欠歯部128bとなった間欠歯車であり、約270度の範囲に渡り歯部128aが形成されている。但し、選択中間歯車37と噛合する第1選択カム121以外の選択カム122〜124については歯部の機能は不用なので、歯部128aに替えて歯部の128aの外径と同一径の周面とすることができる。
【0087】
<リフトユニット>
図14〜図17に示すように、リフトユニット150は、4つの選択カム121〜124の各々に対応する4組のリフト機構154〜157からなる。リフト機構154〜157は、リフト板ベース151、リフトカム可動板152及びバルブレバー153を備える。リフト板ベース151は、長手方向両端部から略直角に屈曲して延出するレール部159,160を有している。リフト板ベース151は、両レール部159,160が、ホルダ23の内側面上の相対する箇所に形成された図示しないレール溝に係合案内されることにより、各リフト機構154〜157はホルダ23内をそれぞれ独立して上下動可能な状態に支持されている。また、リフト板ベース151にはその中央部に略長方形の係止孔158が形成されるとともに、その長手方向両端部に2つの円孔151b,151cが形成されている。2つの円孔151b,151cは、キャップ24の裏面(下面)から突出する2本の接続管24c,24d(図25に示す)をそれぞれ挿通するために設けられている。2本の接続管24c,24dにはキャップ24とバルブユニット190間を接続するために設けられる後述するチューブ218A,218B(図47に示す)の一端部がそれぞれ接続される。図14(b)に示すように、リフト板ベース151のレール部160側の端部に形成された係合凹部151dには、バルブレバー153の上端部に形成された係合軸部153aが係合により連結されている。この連結状態においてバルブレバー153は上端部の係合軸部153aを中心に傾動可能となっている。ノズル列13に対応する1つの選択カム及びリフト機構からなる1ユニットの基本構造は4組すべて同一であるので、以下、リフトユニットの基本構造について、第1選択カム121を含む1ユニットに着目して説明する。
【0088】
図19は選択カム及びリフト機構の斜視図である。
リフト機構154を構成するリフトカム可動板152は、略五角形の板状であり、鈍角に尖ったカムフォロア部152bを下側に配置する状態でその上端部にてリフト板ベース151の係止孔158に係合支持されている。すなわち、リフトカム可動板152の上端部には、係止孔158に挿着可能な円柱状の係合軸部152a(図17参照)が突設されており、リフトカム可動板152は、係合軸部152aが係止孔158に係合されることによりその係合箇所を支点として選択カム121〜124の軸線方向(図17における左右方向)に傾動可能に支持されている。そして、図19に示すように、略五角形板状のリフトカム可動板152は選択カム121に対してカム部130側に位置し、その尖った突端であるカムフォロア部152bがカム面に当接する状態に配置される。
【0089】
そこで次に、選択カムのカム面について図20〜図22に基づいて説明する。図20は選択カムの斜視図、図21は選択カムの側面図、図22は選択カムの図20の下側から見た斜視図である。なお、選択カム121の軸心からカム面までの半径方向の距離を、カム面の高さとする。また、カムフォロア部152bが当接できる選択カム121の角度範囲は、歯部128aが選択中間歯車37と噛合できる範囲から決まる約270度の角度範囲である。また、選択カム121のカム部130は、選択カム121の軸部129の外周面と同一高さとなる非選択カム面138と、該非選択カム面138よりも選択カム121の軸方向奥側に位置しかつ一段高くなった吸引カム面141と、さらに該吸引カム面141よりも選択カム121の軸方向奥側に位置しかつさらに一段高くなった空吸引カム面144とを有するカム形状を有している。そして、選択カム121の軸部129の外周面で構成される非選択カム面138がリフト下降位置を決めるカム面となり、吸引カム面141がリフト中間位置を決めるカム面となり、空吸引カム面144がリフト最上昇位置を決めるカム面となる。
【0090】
一方、リフトカム可動板152において、対応する選択カム121のカム部130側の側面と面しない側の側面上には、図19に示すように、傾動支点寄りの位置にバネ掛止用の凸部152cが形成されている。そして、この凸部152cには引張りバネ163の一端が掛止されるとともに、この引張りバネ163の他端がホルダ23の内壁面上に突設された図示しない掛止部に掛止されている。ここで、リフトカム可動板152の凸部152cはリフトカム可動板152の揺動支点よりもオフセットされているため、引張りバネ163の付勢力によって、リフトカム可動板152には選択カム121のカム部130側の側面に接する向きの力が働いている。リフトカム可動板152は、引張りバネ163の付勢力によりカムフォロア部152bが選択カム121の軸心に接近する方向(下方)かつ選択カム121のカム部130側の側面に圧接される方向(軸方向奥側)に付勢されている。このため、カムフォロア部152bは選択カム121のカム部130の外周面に軽く圧接された状態に当接するとともに選択カム121の軸方向手前側の側面にも軽く圧接された状態に付勢されている。
【0091】
図20に示すように、選択カム121が待機時の回転角にあるときのカムフォロア部152bのカム部130に対する当接点の初期位置は軸部129の外周面で構成される非選択カム面138上に位置する。なお、第2〜第4選択カム122〜124については、第1選択カム121の初期位置に対して20度ずつ反時計方向に位相が順次ずれた位置が初期位置となる。
【0092】
カムフォロア部152bの当接点が初期位置にある状態から、選択カム121が図20における反時計方向に回転(正転)したときにカムフォロア部152bの当接点が非選択カム面138及びカム部132aの外周面を通過した直後の位置が第1選択位置(図23(a)に示す)となる。この第1選択位置は、軸部129の外周面で構成された非選択カム面138上にあるので、初期位置の場合とカム面の高さは変わらない。しかし、カムフォロア部152bは、選択カム121の軸方向奥側に付勢されていることから、第1選択位置では選択カム121の軸方向手前側の側面において、それまで通ってきた第2カム部132bの斜面を有した側面137aよりも軸方向奥側の側面137bに接するように位置する。
【0093】
吸引選択する場合は、カムフォロア部152bの当接点がこの第1選択位置に位置する状態から選択カム121が逆転すると、カムフォロア部152bは軸方向奥側に付勢されているので、それまで通ってきたカム面(第2カム部132bの斜面を有した側面137aと対応するカム面)に戻ることはなく、径方向外側へ登る斜面となった戻り面139を通り(図23(c)に示す)、非選択カム面138より高いカム面である第2カム部132bの外周面に至る。カムフォロア部152bは戻り面139を登る途中でさらに軸方向奥側に移動する。この状態から選択カム121が正転すると、カムフォロア部152bは、戻り面139を降りて戻ることになるが、引張りバネ163の付勢力により戻り面139内において登り始めに通った経路よりも軸方向奥側の経路を通ることになり、非選択カム面138へは戻ることなく、その経路の延長上で登る斜面となった登り面140を通って空吸引カム面141へ至る(図23(d)参照)。つまり、選択カム121には戻り面139の斜面と共に側面視V字状をなす傾斜向きの登り面140が、戻り面139の斜面の幅のうち軸方向奥側寄りの約半分の幅で形成されている。側面視V字状をなす戻り面139と登り面140の谷部に相当する、選択カム121の回転方向(周方向)上の位置よりも若干時計方向側の位置がリフト上昇・非上昇を選択する分岐位置となる第1選択位置となる。
【0094】
従って、カムフォロア部152bが非選択カム面138上の初期位置に当接する状態から選択カム121が図20における反時計方向(正転方向)に回転して第1選択位置に達した段階で、選択カム121が回転を停止し、少量逆転させた後、再び正転すると、カムフォロア部152bは選択カム121の軸方向手前側の側面に圧接する方向、つまり軸方向奥側へ付勢されていることから、第1選択位置から戻り面139を登って一段高い(半径の大きい)吸引時のカム面である吸引カム面141に至るように構成されている。そして、リフト上昇選択時は、このようにカムフォロア部152bの当接点が選択点近傍にあるときに回転停止・逆転・正転の回転制御を加えることによりリフト板ベース151を上昇位置へ上昇させる選択が行われる。
【0095】
ここで、カム補助板131の第1カム部132a及び第2カム部132bは圧縮バネ133の付勢力で選択カム121の軸方向手前側(図20の手前側)へ押し出されており、選択カム121の軸方向奥側への圧縮バネ133の付勢力に抗する荷重を軸方向手前側から受けると軸方向奥側へ退避可能な構造となっている。カムフォロア部152bは初期位置から第1選択位置まで摺動する過程で、カム補助板131の第2カム部132bの斜面を有する側面137aに沿ってカムフォロア部152bの付勢方向に抗する軸方向手前側へ押し出されるように案内されながら摺動することになり、カムフォロア部152bの第2カム部132bの側面137aに対する接触圧が過大になり易い。このとき、リフトカム可動板152を選択カム121の軸方向手前側の側面に圧接する付勢力は弱めに設定されているものの、ばらつき等によりその付勢力が多少強くなっても、カムフォロア部152bから受ける荷重によって第1カム部132a及び第2カム部132bが圧縮バネ133の付勢力に抗して軸方向奥側へ少し没入するように退避する。これによりカムフォロア部152bは第2カム部132bの側面137aの斜面に引っ掛かかることなく、図20の時計方向への経路に沿ってより確実に移動できる構成となっている。この場合、カムフォロア部152bがカム補助板131の第1カム部132aの外周面上の右端を過ぎると、退避していた第1カム部132a及び第2カム部132bが圧縮バネ133の付勢力により元の位置に復帰するので、選択カム121の停止後の逆転時にカムフォロア部152bは第2カム部132bに形成された戻り面139を登ることができる。
【0096】
一方、吸引非選択時は、カムフォロア部152bの当接点が第1選択位置を通過しても選択カム121の回転を停止することなく(図23(b)参照)、正転を継続することで、リフト板ベース151を下降位置に維持する選択が行われる。そして、吸引非選択がなされた場合、今回の保守作業終了までリフト下降状態に維持されることになる。
【0097】
図20〜図22に示すように、吸引カム面141は、約180度の範囲に渡って形成されている。そして、吸引カム面141の周方向略中間位置に相当する位置に第2選択位置が設定されている。第2選択位置ではリフト上昇位置からリフト最上昇位置への選択が可能であり、本実施形態では第1選択位置でリフト上昇選択がなされた場合、吸引カム面141での吸引動作などを実行した後(図24(a))に第2選択位置において必ずリフト最上昇選択が実施される設定となっている。第2選択位置でリフト最上昇選択を実現可能とするカム構造は、第1選択位置における前述のカム構造と基本的に同じである。カムフォロア部152bが選択カム121の逆転に伴い選択カム121の軸方向手前側の側面に圧接されながら反時計方向へ戻るときに、カムフォロア部152bの当接点が吸引カム面141上を摺動して第2選択位置に達すると、ここからは戻り面142を登り(図24(b)参照)、周方向に延びるカム面145に至ることになる。さらに選択カム121の反転後の正転により、カムフォロア部152bの当接点が戻り面142を少し降りた後に斜面となった登り面143を登ってリフト最上昇選択位置のカム面である空吸引カム面144に至る構成となっている(図24(c)参照)。なお、空吸引カム面144は、第2選択位置から選択カム121の時計方向へ約90度の範囲に渡り形成されている。
【0098】
さて、4つの選択カム121〜124は20度ずつ位相のずれた状態で連結されている。そして、第1選択位置での選択動作(選択カムの逆転・正転動作)は第1選択位置を中心に各選択カム121〜124の回転角度として正逆方向に15度以内の動作である。このため、1つの選択カムで選択動作をしている間に他の選択カムが選択動作に入ることはなく、各選択動作を独立的に行うことが可能である。また、第1〜第4選択カム121〜124を全て吸引選択した場合、第4選択カム124の選択動作が終了するまで、第1選択カム121が第2選択位置を通過しないような位置に第2選択位置は配置されている。本実施形態では第4選択カム124と第1選択カム121は60度位相がずれているのに対し、吸引カム面141は第2選択位置に至るまで約90度の範囲に渡って形成されていることから、4つの選択カム121〜124の全てにおいてリフト上昇選択が可能であり、かつその場合に4つのカムフォロア部152bの全てが吸引カム面141に当接する状態を経た後にリフト最上昇選択が可能となっている。なお、選択の動作に必要な角度は、中心からカムまでの距離を大きくすることで小さくすることができ、位相もずらし角度も小さくできる。つまり選択カムの動作に問題ない範囲で位相がずれていればよい。
【0099】
カムフォロア部152bの当接点が空吸引カム面144上に位置する状態から選択カム121を逆転させると、カムフォロア部152bは登り面143を下ると共に戻り面142を登り、空吸引カム面144より若干低い高さで形成されているカム面145へ至る。このカム面145は戻り面142を登り切った位置から選択カム121の反時計方向に約200度の範囲に渡って形成されている。このカム面145の終端領域においては、選択カム121の軸方向手前側の側面が図20における反時計方向を登り方向として軸方向手前側に膨らむ斜面になった押し出し面146となっている。この押し出し面146の終端よりも選択カム121の同図の反時計方向側には、カム面145よりも軸方向手前側に一段ずれた位置にカム面145と同一高さのカム面が形成されており、このカム面がワイピング時のカム面であるワイピングカム面147となる。カムフォロア部152bがカム面145に至った後、さらに選択カム121を逆転させると、カムフォロア部152bはカム面145から前述した押し出し面146を通りワイピングカム面147へ至る(図24(d))。ワイピングカム面147は選択カム121の周方向に約70度の範囲に渡って形成されている。よって、4つのカムフォロア部152bの全てが同時にワイピングカム面147に当接することが可能となっている。
【0100】
ワイピングカム面147の図20における時計方向終端部には、下降する斜面となった降り面148が形成されている。カムフォロア部152bがワイピングカム面147に当接する状態でワイピングが行われる。このワイピングの後、選択カム121が図20における反時計方向に正転すると、カムフォロア部152bは降り面148を降る。この降り面148を降る過程でカムフォロア部152bの側面が当接(圧接)する選択カム121の軸方向手前側の側面は、同図の時計方向に至るに連れて軸方向手前側に向かって徐々に傾斜する押し出し面149に案内されて軸方向手前側に押し出されることにより、軸部129の外周面にて構成される非選択カム面138上に落ちる構成となっている。そして、その落ちた位置から選択カム121が図20における時計方向に逆転することで、カムフォロア部152bの当接点は同図に示す初期位置に戻ることになる。なお、選択カム121の各部のカム面の径は、「非選択位置<吸引時<ワイピング時<空吸引時」となっている。但し、ワイピングカム面147の径(高さ)は、非選択位置よりも大きければよいし、空吸引時より大きくてもよい。
【0101】
<昇降ユニット>
次に、クリーニング機構22の昇降機構について図25〜図33に基づいて説明する。図25はクリーニング機構22及び昇降ユニット等を示す側断面図である。図26は、昇降ユニットをロック機構の一部と共に描いた斜視図である。
【0102】
昇降ユニット50は、クリーニング機構22を記録ヘッド12に対して接近・離間させられるようにクリーニング機構22をベースユニット21に対して昇降させる機構である。昇降ユニット50は、第3選択カム123に係合して第3選択カム123の回転を動力にしてクリーニング機構22を昇降させる機構である。このため、昇降装置としては、昇降ユニット50と、電動モータ30と、動力伝達機構33と、選択歯車ユニット120のうち選択カム123を回転させる回転駆動部分とにより構成される。
【0103】
図25及び図26に示すように、昇降ユニット50は、ベースフレーム31の上面に配置された支持部51と、支持部51が先端部に有する圧力調整軸ホルダ52内に上部を突出させた状態で上下方向に移動可能に挿通支持されている圧力調整軸53とを備える。図25に示すように、圧力調整軸53は、圧力調整軸ホルダ52内に配置された圧縮バネ55によって上部が突出する方向(上方向)へ付勢され、かつ圧力調整軸53の基部に突設された抜け止め用の規制部53bにより圧力調整軸ホルダ52からの最大突出量が規制されている。圧力調整軸53は有底筒状であり、圧縮バネ55は圧力調整軸53の下面に開口する穴部に上端側の一部を挿通するとともにその下端部が二段歯車34の上面に当接した状態で配置されている。
【0104】
圧力調整軸53が先端部に有する連結孔53a(図35参照)には前述のリフトレバー54の基部に突設されたピン部54bが挿通され、リフトレバー54は圧力調整軸53に連結されたピン部54bの軸線を中心に回動可能に連結されている。リフトレバー54は選択カムの軸部129等との干渉を避けるように基部以外の部分がアーチ状をなしている。リフトレバー54は、第2選択カム122と第3選択カム123の間に配置され、図25及び図26に示すように、第3選択カム123の一側面(カム部が形成された側とは反対側で図25では手前側の側面)に形成された2つの凸部(第1凸部123aと第2凸部123b)間の凹部123cに前記ピン部54aを挿入することで第3選択カム123と係合している。
【0105】
図25は、クリーニング機構22が下降位置に配置された状態である。この下降状態においては、リフトレバー54のピン部54aが第3選択カム123の軸心よりも高い位置で第3選択カム123に係合している。このため、選択カム群135の軸心が圧力調整軸53に最も接近してクリーニング機構22が下降位置に配置される。
【0106】
また、図28は、クリーニング機構22が上昇位置に配置された状態である。この上昇位置においては、ヘッドガイドユニット90のガイド部91,92が記録ヘッド12に嵌ることで、クリーニング機構22が記録ヘッド12に位置決めされた状態で、キャップ24がノズル形成面12aに密接する。リフトレバー54のピン部54aと第3選択カム123との係合位置が第3選択カム123の下縁近傍に位置しており、このとき選択歯車ユニット120の軸心と圧力調整軸53とが高さ方向に最も離れてクリーニング機構22が上昇位置に配置される。但し、上昇位置とは、第3選択カム123とリフトレバー54が図28に示す位置関係になってキャップ24がノズル形成面12aにノズル列13を囲うように当接して封止空間を形成しているときのクリーニング機構22の位置を指す。キャップ24がノズル形成面12aに密接するまでクリーニング機構22に必要な上昇距離はその時々のプラテンギャップに依存するため、最上昇位置に配置されたクリーニング機構22のベースフレーム31からの高さは、プラテンギャップに応じて異なる。プラテンギャップが狭く設定されている場合は記録ヘッド12の位置が低いためにクリーニング機構22が上昇位置に配置されたとき圧力調整軸53が相対的に圧力調整軸ホルダ52内に没入する。一方、プラテンギャップが広く設定されている場合は記録ヘッド12の位置が高いためにクリーニング機構22が上昇位置に配置されたとき圧力調整軸ホルダ52からの圧力調整軸53の突出量が相対的に多くなる。
【0107】
次に昇降ユニットの動作を図27に従って説明する。
同図(a)は下降位置、同図(b)は上昇過程、同図(c)は上昇位置、同図(d)は下降過程、同図(e)は下降位置にある状態をそれぞれ示す。
【0108】
図27(a)に示す下降位置の状態から選択カム123が同図における時計方向に正転すると、選択カム123は高さを変えずにその第1凸部123aがリフトレバー54と係合しない期間がしばらく(約130度)続いた後、同図(b)に示すように第1凸部123aがリフトレバー54のピン部54aに当たる。そして、以後の選択カム123の正転過程で第1凸部123aがピン部54aを押し下げる方向に力が働くが、その力より圧縮バネ55の付勢力が大きいため選択カム123自体は圧力調整軸53から離間する上方へ移動する。このとき選択カム123と共にキャップ24も上昇し、そしてキャップ24がノズル形成面12aに当接する。この時点まで圧縮バネ55は図27(a)とほぼ同じ状態である。キャップ24がノズル形成面12aに当接すると、クリーニング機構22はそれ以上上昇しなくなるが、選択カム123の第1凸部123aは最下点に来ておらず、選択カム123がさらに回転して第1凸部123aはさらに下方の位置へ来るので、リフトレバー54が下方に押し出され、選択カム群135が同図(c)に示す上昇位置に配置される。このとき第1凸部123aはほぼ最下点にある。この上昇位置は、クリーニング機構22により吸引・空吸引が行われる位置であり、リフトレバー54が下方に押し出されることで圧縮された圧縮バネ55の付勢力が確実にキャッピングする力となる。なお、クリーニング機構22は、ガイドロッド32がホルダ23のガイド筒61に挿通されているため、図27では垂直方向に移動する。このとき第1凸部123aは上下方向とともに左右方向にも移動するので、第1凸部123aの動きに合わせてリフトレバー54も動くことができるようリフトレバー54は圧力調整軸53に対して回動可能に連結されている。
【0109】
次に図27(c)に示す上昇位置の状態から選択カム123が同図における反時計方向に逆転すると、選択カム123の第2凸部123bがリフトレバー54と係合しない期間がしばらく(約130度)続く。その間、ピン部54aが選択カム123の溝の側面に当接する状態になり、選択カム123は上下動しない。その後、同図(d)に示すように第2凸部123bがリフトレバー54のピン部54aに当たる。そして、以後の選択カム123の逆転過程で第2凸部123bがピン部54aを押し上げ、リフトレバー54が上方へ移動する。リフトレバー54が上方へ移動しきると、リフトレバー54は圧力調整軸53に連結されているので、第2凸部123bがピン部54aをさらに押し上げる方向に力が働くが、抜け止め用の規制部53bによりそれ以上押し上げることはできず、逆に選択カム群135自体は下降する。そして、さらに選択カム123を逆転させると、選択カム群135が同図(e)に示す最下降位置に配置される。この最下降位置は、クリーニング機構22によりワイピングが行われる位置であり、印字を行う位置である。
【0110】
<キャップユニット>
図29は、キャップユニット及びヘッドガイドユニットを示す斜視図である。
キャップユニット70は、載置ホルダ71と該載置ホルダ71の上面に配置された4つのキャップ24を有している。載置ホルダ71は、キャップベースフレーム72と、キャップベースフレーム72にその左右両側を覆うように固定された左右二枚のサイドフレーム73,74とを有している。4つのキャップ24はその長手方向が互いに平行となるとともにその長手方向と直交する方向に等間隔となるようにキャップベースフレーム72の上面に固定されている。キャップベースフレーム72においてキャップ24の間隔に相当する部位には、長方形状の開口を有するスリット72aがその長手方向両側で貫通する状態に形成されている。キャップベースフレーム72は、4つのキャップ24がそれぞれ上面に固定されているとともに隣同士の間が所定幅で所定深さにまで切り欠かれて裏面側に貫通しているスリット72aで隔てられた4本のベース板部72bを有する。キャップ24は、ベース板部72bの上面に固定されたキャップ基材24aと、このキャップ基材24aの上面に固着されたエラストマからなるキャップ弾性部材24bとを有する。
【0111】
左右のサイドフレーム73,74の上側位置には、上下に並列してキャップの長手方向に沿って延びる第1ガイド孔80と第2ガイド孔81が、それぞれ左右で対をなして一組(但し図29では片側のみ図示)形成されている。また、サイドフレーム73,74の下部には前記ワイパ駆動歯車221及びワイパ駆動車222を配置するための半円弧面状の凹部が形成されている。さらに凹部の前側(図29における左側)から下方へ延出する部分の下部には前記支持ホルダ60と固定する固定ピン64を挿通するためのピン孔79aが穿孔されている。また、キャップベースフレーム72の背面左右両端部には固定ピン65を挿通するための一対のピン孔79bが穿孔されている。そして、支持ホルダ60と載置ホルダ71は複数の固定ピン64,65(図7に示す)により複数箇所で固定される。
【0112】
図29に示すように、ヘッドガイドユニット90は、キャップベースフレーム72と対向する底面部分に、4つのキャップ24が出没可能な4つの開口94を有する四角格子板状のワイパガイド93を有している。ヘッドガイドユニット90の前側左右両端位置には一対の位置決め突起97(同図では一対のうち片方のみ図示)が載置ホルダ71側へ向かって突出している。また、サイドフレーム73,74の上端部において位置決め突起97と対応する位置には位置決め凹部78が凹設されている。ヘッドガイドユニット90のガイド部91,92が記録ヘッド12に嵌ることで記録ヘッド12とヘッドガイドユニット90が位置決めされ、その状態でホルダ23がヘッドガイドユニット90側へ上昇して位置決め突起97が位置決め凹部78に係入することにより、ヘッドガイドユニット90に対してホルダ23が位置決めされる。これによりキャップ24が記録ヘッドに対して位置決めされる。
【0113】
ヘッドガイドユニット90のガイド部91,92によって記録ヘッド12とメンテナンス装置20、特に記録ヘッド12とキャップベースフレーム72の上面に固定されているキャップ24との位置を安定に保ち、キャップ24がノズル形成面12aと弾性接触できるノズル形成面12a上におけるその弾性部先端部とノズル列13までの距離をより小さくできるので、キャップ24の小型化が容易になる。
【0114】
また、ヘッドガイドユニット90の前面左右両端部からはレール溝を有する左右一対のレールガイド部76が下方に延出している。載置ホルダ71の前側左右両端部からは一対のガイドレール部95が下方へ延出している。ヘッドガイドユニット90は一対のガイドレール部95が載置ホルダ71側の一対のレールガイド部76に挿通されることで、載置ホルダ71に対して上下動可能に取り付けられる。ヘッドガイドユニット90のガイドレール部95の外側にはコイルバネ96の上端部が掛止されており、その下端部は載置ホルダ71の前面下端左右両側に突出するバネ掛止用の凸部77に掛止されるようになっている。左右一対のコイルバネ96は、ヘッドガイドユニット90のホルダ23からの抜け止めのために設けられている。さらにヘッドガイドユニット90には一対のガイドレール部95の背面側に両端が挟持により固定されている線バネ98が略水平に張設されている。載置ホルダ71の前面中央には円柱状の凸部75が形成されており、ヘッドガイドユニット90は線バネ98が凸部75に当たる位置で載置ホルダ71(ホルダ23)に対して所定距離だけ離間する状態で位置決めされるようになっている。これによりキャップ24がノズル形成面12aと離間しているときはヘッドガイドユニット90と載置ホルダ71も離間する。
【0115】
クリーニング機構22の上昇過程で行われる記録ヘッドに対する位置決め及びキャッピング動作について、図30〜図33に基づいて説明する。クリーニング機構22が図30に示す下降位置に配置された状態においては、ヘッドガイドユニット90がホルダ23から上方へスライドした待機位置にある。この下降位置からクリーニング機構22が上昇すると、図31に示すように、まずヘッドガイドユニット90のガイド部91,92が記録ヘッド12の側面に嵌ってこれをガイドし、ヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12に対して位置決めされる。引き続き上昇するクリーニング機構22では、図32(a)に示すように、ヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12に当接して上方への移動を規制されたまま、ホルダ23部分が上昇するので、線バネ98の付勢力に抗してホルダ23部分がヘッドガイドユニット90に接近する。この結果、ヘッドガイドユニット90の位置決め突起97がホルダ23側の位置決め凹部78に係止される。この位置決め突起97のホルダ23への係止によりホルダ23部分が記録ヘッド12に対して位置決めされる。
【0116】
このとき、図32(b)に示すように、4つのキャップ24はヘッドガイドユニット90の対応する開口94から若干突出しており、図33に示すように、この突出したキャップ24は記録ヘッド12のノズル形成面12aに密接する。このキャップ24のノズル形成面12aへの密接位置は、前述のようにホルダ23部分がヘッドガイドユニット90を介して記録ヘッド12に位置決めされるため、キャップ24は対応するノズル列13を位置精度よく封止することが可能となっている。
【0117】
<ロック機構>
次にロック機構の構成について図34〜図39に基づき説明する。図34はロック機構を含む要部斜視図、図35はロック機構の斜視図である。
【0118】
図34に示すように、ストッパカム171は選択カム軸125が挿通されることで選択カム群135と一体的に回動可能に連結されている。ストッパカム171は側面に所定形状のカム部171bを有し、カム部171bの外周面で形成されるカム面にはストッパレバー172の上部が当接するように組み付けられる。
【0119】
図34及び図35に示すように、ストッパレバー172は略L字状のレバーであり、カムフォロア部172aがストッパカム171のカム面に当接するとともにその基部は、圧力調整軸53が挿通された状態で圧力調整軸ホルダ52の上面に固定されたチョーク部材173と連結されている。チョーク部材173は圧力調整軸53のうち圧力調整軸ホルダ52から突出した部分が挿通可能な内径を有するとともに一部が切断されたチョークリング部181とチョークリング部181の切断された部分両側から略平行に延出する一対の板状の連結片部182とを有している。両連結片部182はストッパレバー172の基部側面から垂直に延出する挿通軸172bが挿通されることで、両連結片部182の間隔が変更可能な状態でストッパレバー172の基部に連結されている。一方の連結片部182の外側面にストッパレバー172の基部側面は係合している。これら係合面上には、この一方の連結片部182の外側面上にV字溝からなる係合溝183が形成され、一方、ストッパレバー172の基部側面上には断面山型の係合突起184が垂直に突出している。
【0120】
図34及び図35に示すように、ストッパレバー172が垂立する姿勢にある状態では、係合溝183と係合突起184が深く噛み合ってチョーク部材173は自身の弾性によってそのチョークリング部181が拡径した状態にある。この状態では、圧力調整軸53はチョークリング部181に遊嵌された状態となり軸方向への相対移動が可能なアンロック状態にある。一方、ストッパレバー172がストッパカム171のロックカム面177に当接することにより傾動した姿勢をとる状態においては、係合溝183と係合突起184の噛み合いが浅くなり、ストッパレバー172の係合突起184によって一方の連結片部182が他方の連結片部182に接近する方向へ押し出される。その結果、チョークリング部181が縮径して、チョークリング部181が圧力調整軸53の先端部を外側から挟持するようにロックするように構成されている。
【0121】
図36は、ストッパカムの斜視図である。同図に示すように、ストッパカム171は選択カム軸125が挿通される軸孔171aを有しており、その一側面に突設された軸方向に二段のカム部171bは、軸心からの半径が最小であるアンロック時のカム面(以下、「非ロックカム面175」という)と、軸方向側面側へ一段シフトするとともに軸心からの半径が非ロックカム面175よりも大きいロック時のカム面(以下、ロックカム面177という)とを有する。非ロックカム面175とロックカム面177の間は、同図における反時計方向へ向かうに連れて半径が徐々に大きくなる向きで傾斜する斜面176によって連接されている。斜面176と軸心を挟んで反対側付近に位置するロックカム面177の終端部分は側面が軸方向外側に斜面をなして張り出した押出し案内面178となっており、この押出し案内面178によってストッパレバー172がストッパカム171の軸方向外側へ押し出されるように案内される。そして、押し出された後にストッパカム171の軸方向一段外側にシフトした位置にロックカム面177と略同一半径のカム面179が形成されている。このカム面179はワイピング時にストッパレバー172が当接するカム面である。また、ワイピング時のカム面179から同図における時計方向に少し移動した部位には、カム面179から非ロックカム面175に至るに連れて徐々に半径が小さくなる斜面180が形成されている。
【0122】
図37は、ストッパカムの回動位置とストッパレバーの傾動位置との関係を示す側面図である。同図(a)はストッパレバー172が非ロックカム面175に当接した状態、同図(b)はストッパカムが逆転すればストッパレバーが斜面176を乗り上げることになる位置関係の状態、同図(c)はストッパレバーがロックカム面177に当接した状態をそれぞれ示す。
【0123】
図37(a)に示すように、ストッパレバー172がストッパカム171の非ロックカム面175に当接する状態においては、ストッパレバー172は略垂立状態にある。この状態で、ストッパカム171が同図における反時計方向へ回動すると、ストッパレバー172はストッパカム171に対して同図(b)に示す位置関係となる。この状態は、ストッパカム171が時計方向へ反転すれば斜面176を乗り上げることになる。この状態からストッパカム171が時計方向へ反転すると、ストッパレバー172のカムフォロア部172aが斜面176を乗り上げて同図(c)に示すようにロックカム面177に当接する。ストッパレバー172が斜面176を乗り上げてロックカム面177に到達する過程でストッパレバー172は垂立状態から所定角度だけ傾動した傾動姿勢をとる。
【0124】
図38は、ロック機構の動作を説明する平面図であり、同図(a)はアンロック状態、同図(b)はロック状態をそれぞれ示す。
同図(a)に示すように、ストッパレバー172が非ロックカム面175に当接する状態では、係合突起184が係合溝183に噛み合いチョーク部材173の連結片部182の間隔が離れており、チョークリング部181が圧力調整軸53に遊嵌される拡径状態にある。
【0125】
次に同図(b)に示すように、ストッパレバー172がロックカム面177に当接する状態では、ストッパレバー172が傾動して係合突起184と係合溝183との噛み合いがずれて浅くなり係合突起184が連結片部182を、一対の連結片部182の間隔が狭くなる方向に押し込む構成となっている。この連結片部182の間隔を狭くする押し込み作用により、チョークリング部181が縮径して圧力調整軸53を絞めることで圧力調整軸53をそのときの突出量の状態にロックする。このようにロック機構170は図37(a)のようにストッパレバー172が垂立状態にある場合はアンロック状態になり、図37(c)のようにストッパレバー172が傾動するとロック状態となる。
【0126】
図39は、ストッパカムの回動位置とストッパレバーの傾動位置の関係を示す側面図である。同図(a)はストッパカムが初期位置にある待機状態、同図(b)はクリーニング開始後、同図(c)は吸引時・空吸引時の位置、同図(d)はロック状態、同図(e)はワイピング時・クリーニング終了をそれぞれ示す。
【0127】
ストッパカム171(つまり選択カム121〜124)が図39(a)に示す初期位置にあるとき、ストッパレバー172は、ストッパカム171の初期位置のカム面179に当接している。選択カム121〜124及びストッパカム171が吸引時の回動角位置に向かって正転し始めると、同図(b)に示すようにストッパレバー172は斜面180に沿って非ロックカム面175へ降り、非ロックカム面175に当接した状態で吸引時の回動角位置まで正転する。同図(c)に示す吸引時においては、ストッパレバー172はストッパカム171の非ロックカム面175に当接し、ストッパレバー172は垂立した姿勢に配置される。吸引終了後に選択カム121〜124が逆転後に正転して先の回動角位置に戻り空吸引時の状態となる。同図(c)の状態で空吸引が行われる。空吸引終了後に選択カム121〜124及びストッパカム171が逆転すると、ストッパレバー172は斜面176を登りロックカム面177に当接する同図(d)に示すロック状態になる。このロック状態では、ストッパレバー172が同図(d)に示すように傾動するため、この傾動によって縮径したチョークリング部181に絞められることによって圧力調整軸53はそのときの圧力調整軸ホルダ52からの突出量を保持した状態のままロックされる。このロックは選択カム121〜124及びストッパカム171がワイピング時の回動角位置へ向かって逆転する過程で行われ、同図(e)に示す状態で逆転は停止する。この停止状態でワイピングが実施され、ワイピング完了に伴いクリーニングが終了する。このクリーニング終了状態においては当初の待機状態(同図(a))と同じ状態になっている。このように一サイクルのクリーニングを終了すると元の待機位置に復帰する。なお、ワイピング終了後、待機位置に復帰するまでにロック状態が維持される範囲内で少量の正転を伴っても構わない。
【0128】
図40〜図42は、リフトユニットの側面図をそれぞれ示し、各図において(a)は左側面図、(b)は右側面図である。図40は、リフトユニットのノズル列非選択状態、図41はノズル列選択状態、図42は空吸引状態をそれぞれ示す。
【0129】
図40(b)に示すようにリフトカム可動板152が下降時の非選択カム面138に当接した状態では、リフト板ベース151は下降位置に配置され、選択カム121の軸心からリフト板ベース151の上面(リフト面)までの高さはL1となっている。図40〜図42に示すように、リフト板ベース151に係合支持されているバルブレバー153は、選択カム121に対向するその内面形状が選択カム121の外周面(歯部128a)に当接して押圧されその上端部の係合箇所を中心に姿勢を傾動させることが可能な状態に形成されている。このため、図40に示すリフト板ベース151が下降位置にある状態では、バルブレバー153はその内面の高さ方向中段付近に突設された第1レバーカム部153bが歯部に当たることで、その上端部の係合箇所を中心に下端を選択カムから離間させる側へ傾動し、その背面を外側へ大きく押し出す。このバルブレバー153の背面下端部がバルブユニット190の後述するバルブ加圧体191を押圧する押圧面153dとなる。なお、このときの操作部としてのバルブレバー153の操作位置が第3操作位置となる。
【0130】
図41(b)に示すようにリフトカム可動板152が吸引時の吸引カム面141に当接した状態では、リフト板ベース151は上昇位置に配置され、選択カム121の軸心からリフト板ベース151の上面(リフト面)までの高さはL2(>L1)となっている。このため、図41(a),(b)に示すように、リフト板ベース151が上昇位置にある状態では、第1レバーカム部153bも上昇し選択カム121の外周面(歯部128a)と当接するが押圧されない状態となる。そして、バルブレバー153はその内面の下側部位に凹設された第2レバーカム部153cに歯部128aが収まることで、その上端部の係合箇所から鉛直な姿勢をとり、その押圧面153dは外側へ押し出されない。なお、このときの操作部としてのバルブレバー153の操作位置が第1操作位置となる。
【0131】
図42(b)に示すようにリフトカム可動板152が空吸引時の空吸引カム面144に当接した状態では、リフト板ベース151は最上昇位置に配置され、選択カム121の軸心からリフト板ベース151の上面(リフト面)までの高さはL3(>L2)となっている。このため、図42(a),(b)に示すように、リフト板ベース151が最上昇位置にある状態では、バルブレバー153はその内面のうち第2レバーカム部153cが歯部128aに当たることで、その上端部の係合箇所を中心に下端を選択カムから少量離間させる状態に傾動し、その押圧面153dを外側へ少量押し出す。なお、このときの操作部としてのバルブレバー153の操作位置が第2操作位置となる。
【0132】
このようにバルブレバー153の押し出し量は、リフト板ベース151が吸引列非選択時で下降位置にあるときに「最大」(多量)、リフト板ベース151が吸引時の上昇位置にあるときに「最小」(「0」)、リフト板ベース151が空吸引時の最上昇位置にあるときに「中間」(少量)となるように構成されている。つまり、バルブレバー153はリフト板ベース151の選択されたリフト位置に応じた3段階の押し込み量でバルブ加圧体191を押圧可能に構成されている。
【0133】
<バルブユニット>
次にバルブユニットの構成を図43〜図47に基づいて説明する。
図43はリフト機構と共に描かれているバルブユニットを正面から見た斜視図、図44はバルブユニットを背面から見た斜視図である。
【0134】
バルブユニット本体192は、4本の大気管部195が上面に突設された大気バルブ本体198と、4本の吸引管部196と2本のポンプ管部197が上面に突設された吸引バルブ本体199とが接合されて構成されている。また、図44に示すようにバルブユニット190の背面に封止フィルム217が溶着されるなどして内部の流路は封止されている。
【0135】
図45は、バルブユニットの分解斜視図である。同図に示すように、バルブユニット190は、大気バルブ本体198、吸引バルブ本体199、4つの円形状の弁体部201が一列に連接された多連型のバルブ板200、4個のバルブ押圧体193、4個のバルブ加圧体191、与圧バネ194及び大気閉弁バネ202等を備える。
【0136】
大気バルブ本体198と吸引バルブ本体199は、その間に4個のバルブ押圧体193、バルブ板200、4個の大気閉弁バネ202をこの順に挟んで接合された状態でネジ203の締結により固定される。この組み付けられたバルブユニット本体192の前面から突出する4つのバルブ押圧体193に与圧バネ194を介して4つのバルブ加圧体191がそれぞれ取着される。こうして組み立てられたバルブユニット190では、そのバルブユニット本体192の内部に4つの流路弁204が形成される。
【0137】
図45に示すように、バルブ押圧体193の筒状部193bには、その外周面先端部に前述の突起193aが一対形成されるとともに、仕切部214と対応する位置にスリット193eが形成されている。スリット193eは、筒状部193bにおいて突起193a側の端部から軸方向へ底部近くに至る範囲に渡り径方向に貫通するように形成され、図43に示すように筒状部193bを仕切部214と干渉することなく貫通孔213に内側から外方へ向かって差し込むことが可能となっている。
【0138】
また、バルブ加圧体191は、有底円筒形状をなし、その端面中央部には柱状の加圧軸191aが突設されている。また、バルブ加圧体191において、バルブ押圧体193の突起193aと対応する位置には、その軸方向に所定長さを有する案内孔191bが形成されている。バルブ加圧体191は、バルブ押圧体193の筒状部193bに与圧バネ194を間に挟んで外挿されるとともに、筒状部193bの突起193aがバルブ加圧体191の案内孔191bに係合案内された状態で組み付けられている。このため、バルブ加圧体191は与圧バネ194により軸方向外側(バルブレバー153側)へ付勢された状態にあり、与圧バネ194の付勢力に抗する方向に押されると、突起193aが案内孔191b内を相対移動することにより所定のストロークで押し込み変位可能に構成されている。
【0139】
図46は、図43のB−B線断面図である。図47は、同じくB−B線で切断したバルブユニットの斜視図である。
図46に示すように、流路弁204は、バルブ板200を構成する弁体部201を挟む両側に吸引室205(負圧室)と大気室206を備える。略円形の弁体部201は、大気バルブ本体198及び吸引バルブ本体199に挟持される周縁部分が厚肉に形成され、バルブ押圧体193と対向する側の面の中央部に円板状の弁部201aが突設されて中央部分も厚肉となっている。弁部201aの周囲は円環状の薄肉部201bとなって撓み変形し易い膜状に形成されている。薄肉部201bが撓み変形することで弁部201aは円板形状をほぼ保ったまま厚み方向への変位が可能となっている。バルブ板200は例えばエラストマ又はゴムなどの弾性材料からなる。
【0140】
吸引室205内には、吸引バルブ本体199の背面側の壁部内面からバルブ板200に接近する方向へ略円錐台形状の弁座部207が突出しており、弁座部207の先端面は弁部201aが接触・離間可能な弁座207aとなっている。吸引バルブ本体199には、弁座207aの中央部で開口するとともに吸引バルブ本体199の背面側に貫通する吸引流路208が形成されている。各流路弁204をそれぞれ構成する4つの吸引流路208は吸引バルブ本体199の背面にその長手方向に沿う直線状に開口する共通流路209に連通されている。この共通流路209には2本のポンプ用の接続管(以下、「ポンプ管部197」という)が連通するように突出している。これらのポンプ管部197は吸引ポンプ40から延出する2本のチューブ219(図47参照)とそれぞれ接続される。なお、図47に示すように、共通流路209は封止フィルム217が吸引バルブ本体199の背面に固着されることで外部とは密閉状態に封止されている。また、吸引バルブ本体199の上面には吸引用の接続管(以下、「吸引管部196」という)が各吸引室205と連通するようにそれぞれ1本ずつ計4本突出している。吸引管部196に接続された各チューブ218B(図47に各チューブの1本ずつを示す)は、それぞれ対応するキャップ24の裏面(下面)から突出する接続管24d(図25に示す)と接続される。
【0141】
弁体部201は、吸引室205内に圧縮状態で収容された大気閉弁バネ202が薄肉部201bに当接する状態に配置され、大気閉弁バネ202の弾性力により弁座207aから離間する方向へ付勢されている。ここで、弁部201aが弁座207aから離間した同図の状態が、流路弁204の一部を構成する吸引流路弁210が開弁した状態であり、弁部201aが弁座207aに密接して吸引流路208の開口を閉塞することで吸引流路弁210が閉弁される構成となっている。
【0142】
一方、大気室206内には、吸引流路弁210側の弁座207aと対向する吸引バルブ本体199の内面上の位置に略円錐台形状の弁座部211が突出している。弁座部211はその先端面からなる弁座211aが、弁体部201が撓み変形していない状態(図46の状態)にあるときの弁部201aに密接できる長さで突出している。弁部201aと弁座211aの接する状態(図46の状態)が大気流路弁216の閉弁した状態である。そして弁部201aがバルブ押圧体193に押されて弁座211aと離間した状態が大気流路弁216の開弁した状態となる。大気バルブ本体198には、弁座211aの中央部で開口するとともに大気管部195と連通する大気流路212が貫通形成されている。大気管部195に接続された各チューブ218A(図47に各チューブの1本ずつを示す)は、それぞれ対応するキャップ24の裏面(下面)から突出する接続管24c(図25に示す)と接続される。
【0143】
大気バルブ本体198の各大気室206と対応する部位には、大気室206側から筒状部193bを外側へ突出させた状態にバルブ押圧体193を組み付けるための貫通孔213が形成されている。大気バルブ本体198の筒状部193bが貫通される部分には、内部に大気流路212が通る板状の仕切部214が大気管部195の軸方向に貫通孔213を2つに分断する状態で延びており、貫通孔213は仕切部214を避けてその両側に開口する2つの半円状の孔からなる。なお、貫通孔213は、バルブ押圧体193の筒状部193bの外径よりも若干大きい内径を有している。
【0144】
バルブ押圧体193の大気室206に収容される部分である底部193cの中央部には、弁座部と対応する位置に貫通孔193dが形成され、弁座部211はこの貫通孔193dを介してバルブ押圧体193を貫通して弁体部201の弁部201aに当接している。バルブ押圧体193の底部193cは、貫通孔193dの周囲となる底面部分において弁部201aの外周縁部分と接触している。詳しくは、弁体部201の弁部201aの面上には弁座部211が当接する部位を囲むように例えば円環状の凸部215が形成されており、バルブ押圧体193の底部193cはこの凸部215に接触する構成となっている。
【0145】
また、大気室206は、貫通孔213と筒状部193bとの隙間によりバルブユニット190の外部と連通している。こうしてバルブユニット190内においてバルブ板200を挟んで大気室206側の位置には、弁部201aが弁座211aに対して密接・離間することで大気流路212を開閉する大気流路弁216が、流路弁204の一部として構成されている。このように、バルブユニット190は、共通のバルブ板200を用いてその両側に吸引流路弁210及び大気流路弁216が構成されている。
【0146】
図46では、バルブレバー153が鉛直状態の姿勢をとる吸引選択時の状態(図41の状態、つまり押し出し量「最小」の状態)にあり、この状態では、バルブレバーは加圧軸に軽く接触するかこれを軽く押す状態にある。この吸引選択時の状態では、与圧バネ194よりも大気閉弁バネ202の付勢力が勝り、弁体部の弁部が大気室側の弁座部に密接する。よって、大気弁が閉弁し負圧弁が開弁する。
【0147】
一方、バルブレバー153が図42に示す空吸引時の傾動姿勢をとるときは、バルブレバー153が押し出し量「中間」の状態となり、バルブ加圧体191が半押しされる。この半押し状態では、圧縮された与圧バネ194の付勢力が大気閉弁バネ202の付勢力を少し上回ることによってバルブ押圧体193が弁部201aを押圧して弁部201aが大気室206側の弁座211aから少し離間し、弁部201aは両弁座207a,211aから共に離間した状態となる。このため、大気流路弁216が開弁しかつ吸引流路弁210も開弁する。
【0148】
またバルブレバー153が図40に示す吸引非選択時の傾動姿勢をとるときは、バルブレバー153の押し出し量「最大」の状態となり、バルブ加圧体191が完全に押し込まれる。この完全押し込み状態では、与圧バネ194の付勢力が大気閉弁バネ202の付勢力に打ち勝ってバルブ押圧体193が弁部201aを押圧して弁部201aが大気室206側の弁座211aから離間し、かつ弁部201aが吸引室205側の弁座207aに密接した状態となる。このため、大気流路弁216が開弁し吸引流路弁210が閉弁する。
【0149】
<ワイピング装置>
次にメンテナンス装置に備えられたワイピング装置について、図48〜図64に基づいて説明する。本実施形態のワイピング装置は、電動モータ30と、動力伝達機構33と、払拭列のワイパ25を選択する選択ユニット110と、ワイパ25を往復駆動させるワイパ駆動ユニット220と、載置ホルダ71と、ワイパ25のノズル形成面12aへの接触を往動時に規制しつつ復動時に許容する機能等をもつヘッドガイドユニット90とから構成される。
【0150】
まず、ワイパ駆動ユニット220の構成を説明する。
図48はワイパ駆動ユニットが支持ホルダ60に組み付けられた状態を示す斜視図、図49は4つのワイパを取り外した状態のワイパ駆動ユニットを示す斜視図である。図50は、載置ホルダに組み付けられたワイパ駆動ユニットを示す斜視図である。
【0151】
図48に示すように、選択カム軸125の両端部に連結固定されたワイパ駆動歯車221及びワイパ駆動車222は、支持ホルダ60に側部上面の凹部63に摺動可能に支持されている。ワイパ駆動歯車221及びワイパ駆動車222の各外側面の突起221d(図51参照),222bは、左右一組のワイパ駆動レバー223,224とその長手方向中央よりやや下寄りの箇所にある長孔223b、224bと係合されている。左右一組のワイパ駆動レバー223,224はそれぞれの下端部が支持ホルダ60の左右側面下端部に回動可能に軸支された状態で支持ホルダ60に組み付けられ、ワイパ駆動歯車221及びワイパ駆動車222の往復回動により各下端部を中心に一往復の揺動運動をする。左右一組のワイパ駆動レバー223,224の各先端部にある長孔223c、224cに係着された左右一組のワイパ駆動カム体225,226間には同軸上に4つのワイパ25が整列して組み付けられている。ワイパ駆動カム体225,226は凸部225a,226aが長孔223c,224c内をその長手方向に移動可能な範囲においてワイパ駆動レバー223,224に対してその長手方向に相対移動可能かつ凸部225a、226aを中心に回動可能な状態で連結されている。ワイパ駆動レバー223,224の一往復の揺動運動により4つのワイパ25がノズル列方向に往復動する構成となっている。
【0152】
ワイパ駆動歯車221は選択中間歯車37と噛合可能な歯部221a(図49に示す参照)を有するが、選択カム121が選択中間歯車37と噛合する期間はそのうちの僅かな最終時期を除き選択中間歯車37と噛合しない。つまり、各選択カム121〜124が選択動作をしているときはワイパ25が駆動されることはない。選択するべきカムフォロアを全てワイパカム面に位置させた後、さらに選択カム121を逆転させると、選択カム121がその欠歯のため選択中間歯車37と噛合できなくなる直前のタイミングで選択カム121の側面に突設された回転伝達用の凸部121a(図15、52に示す)がワイパ駆動歯車221の周方向端面にあるワイパ回転伝達用の受け面221cの端部に当たってこれを押すと、それまで噛合していなかったワイパ駆動歯車221の歯部221aが選択中間歯車37と噛合する構成となっている。そして、選択カム121は選択中間歯車37と噛合しなくなって停止し、ワイパ駆動歯車221の逆転が開始され、ワイピングが行われる。このワイピング中は、選択カム121〜124が停止状態のまま、選択カム軸125とその両端部に連結されたワイパ駆動歯車221及びワイパ駆動車222が、所定角度範囲(例えば120度)の一往復回動する。
【0153】
図49に示すように、ワイパ駆動歯車221は円筒部221bと間欠歯である歯部221aとを有している。円筒部221bはワイパ駆動歯車221が凹部63に摺動可能に支持される部分である。一方、円筒状のワイパ駆動車222はその外周面で凹部63に摺動可能に支持される。また、ワイパ駆動レバー223,224の下端部には係止ピン部223a,224aが突設されており、これら係止ピン部223a,224aが支持ホルダ60の側面下端部の凹部に係着されることで、ワイパ駆動レバー223,224はその係着された係止ピン部223a,224aを中心として揺動する。
【0154】
ワイパ駆動レバー223,224の先端部は扇状のガイド板部223d,224dが延出形成されている。ワイパ駆動カム体225,226の外側面から延出する断面L字形状のガイド延出部225d(図52に示す),226dの凹所にはガイド板部223d,224dが挿入された状態にある。ワイパ駆動カム体225,226は長孔223c,224cに挿入された凸部225a,226aを中心として回動するときにガイド延出部225d,226dがガイド板部223d,224dに案内されながら回動する。
【0155】
また、ワイパ駆動歯車221は、支持ホルダ60の受け面となる凹部63の内面を摺動する円筒部221bと、該円筒部221bの一側面(内側面)に隣接して一体成形された間欠歯からなる歯部221aとを有し、歯部221aは扇型で約120度の範囲に渡って形成されている。扇型の歯部の片側端面は回転伝達用の受け面221cとなっている。空吸引終了後に逆転を開始した選択カム群135が停止する直前のタイミングでワイパ駆動歯車221はその動力伝達用の受け面221cが第1選択カム121の動力伝達用の凸部121aに押されることでその歯部221aが選択中間歯車37と噛合するようになり、それまで停止していたワイパ駆動歯車221の逆転が開始される構成となっている。
【0156】
図49及び図50に示すように、載置ホルダ71を構成する左右のサイドフレーム73,74における上側寄りにキャップ24の長手方向と平行に延びる第1ガイド孔80及び第2ガイド孔81には、ワイパ駆動カム体225,226の第1ガイド軸部225b及び第2ガイド軸部225c,226cが挿入されている。第1ガイド軸部225b及び第2ガイド軸部225c,226cはワイパ駆動カム体225,226においてサイドフレーム73,74と対向する側面上に突設されている。第1ガイド軸部225bはワイパ駆動カム体225,226の長手方向中央部に位置し、第2ガイド軸部225c,226cはワイパ駆動カム体225,226のワイパ駆動軸227と反対側端部に位置する。なお、ワイパ駆動カム体226の第1ガイド軸部は、図49及び図50では図示していないが、ワイパ駆動カム体226のサイドフレーム74と対向する側面上においてワイパ駆動カム体225の第1ガイド軸部225bと対向する位置に突設されている。第1ガイド軸部225b及び第2ガイド軸部225c,226cの間隔は、第1及び第2ガイド孔80,81の間隔よりも広いので、ワイパ駆動カム体225,226は図50に示す所定角度に傾く一定の姿勢角を保持したまま第1及び第2ガイド孔80,81に案内されて移動する。なお、第1ガイド孔80には図51(c)に示すように背面側の端部が下方へ曲がった斜孔部80aがある。この斜孔部80aに案内される過程でワイパ駆動カム体225,226は先端側の第1ガイド軸部225bだけが下降することになるので、先端側を下降させるように姿勢を傾倒させる。
【0157】
図54は、ワイパの斜視図、図55は同じく分解斜視図である。
ワイパ25は、ワイパ本体230と、ワイパ押さえレバー235と、付勢部材としてのワイパ押付けバネ238とからなる。ワイパ本体230は、樹脂製のワイパ基材231と、ワイパ基材231の上面のうち先端側の所定領域に固着された弾性体かならなるワイパ部材232とを有する。ワイパ部材232はエラストマやゴム等の弾性材料を用いることができる。本実施形態では、ワイパ基材231はエラストマからなり、ワイパ基材231の樹脂と二色成形されている。ワイパ部材232の先端部にはブレード25aが突設されている。ワイパ本体230はブレード25aの幅方向両側に一対のガイド部231bを有している。ガイド部231bは、ワイパ25の往動時にヘッドガイドユニット90を構成するワイパガイド93の下面と当接する部分である。
【0158】
ワイパ本体230の基部側面には一対の円柱状のピン部231cが突設されている。この一対のピン部231cにはワイパ押さえレバー235の支点となる部分に形成された一対の孔235bが挿通される。また、ワイパ本体230の長手方向略中央部にはワイパ駆動軸用の軸孔231aが両側面を貫通するように形成されている。この軸孔231aにはワイパ駆動軸227が挿通される。
【0159】
ワイパ押付けバネ238はワイパ本体230の両側に2つ取着される。ワイパ押付けバネ238は捩りコイルバネであり、一端部が略直角に屈曲して形成されている引掛部238aがワイパ本体230の先端部背面に掛止されるとともに、他端部がワイパ押さえレバー235のレバー部235aの上面に当接して掛止されている。ワイパ本体230とワイパ押さえレバー235は、ワイパ押付けバネ238の付勢力により支点となるピン部231cの位置を中心として互いが押し広げられる構成となっている。ワイパ本体230とワイパ押さえレバー235は、両者の開き角度が所定角度に達するとそれぞれの度当たり面231d,235cが当たることで、図54に示す所定角度をなす状態に開き角度の上限が規制されるようになっている。
【0160】
なお、吸引クリーニング終了後にクリーニング機構22が下降位置に達するまでの下降量は、ロック機構170の働きによって、クリーニング機構22の下降量から線バネ98の復元量を差し引いた一定距離となる。このため、ノズル形成面12aとリフト板ベース151との高さ方向の位置関係が、プラテンギャップの違いによらず常に略一定となる。これにより、ワイピング時にノズル形成面12aに接触するワイパ25の接触圧は略一定となる。
【0161】
図52は、リフトユニットと共にワイパ駆動ユニットを背面側から見た斜視図である。また、図53は、ワイパ駆動ユニットの分解斜視図である。ワイパ駆動レバー223,224の先端間に横架されたワイパ駆動軸227はリフト板ベース151の上方位置をベース面151a(及び、ノズル形成面12a)と平行に移動する。4つのワイパ25はワイパ駆動軸227が挿通された状態で支持されており、該ワイパ駆動軸227を中心に回動可能となっている。ワイパ25はその基端部から下側へ延出する一対のレバー部235aを有している。4つのワイパ25のレバー部235aは、図50に示すように対応するキャップ24の両側に設けられたスリット72aから載置ホルダ71内に挿入されて、図52に示すようにリフト板ベース151のベース面151aに対向して配置されている。そして、図52に示すように、リフト板ベース151が上昇している吸引選択列のワイパ25は、そのレバー部235aがベース面151aに当接して上向きの力を受けてワイパ駆動軸227を中心に回動し、ブレード25aが突設された先端側を上方に位置させた起き上がり姿勢をとる構成になっている。一方、リフト板ベース151が下降している非選択列のワイパ25はそのレバー部235aがベース面151aから離間するか接触する程度であり、水平又は先端部を傾倒させた姿勢をとる構成になっている。
【0162】
一方のワイパ駆動カム体225は、その先端部から垂直に延びるとともに4つのワイパ25を挿通支持できるだけの軸長を有するワイパ駆動軸227が一体成形されている。他方のワイパ駆動カム体226の先端部には、ワイパ駆動軸227を挿入するための軸孔226eが形成されている。左右一対のワイパ駆動カム体225,226は、ワイパ駆動軸227の有無等の違いを除けば、左右で対称な形状を有している。また、ワイパ駆動レバー223,224についても左右で対称な形状を有している。
【0163】
<ヘッドガイドユニット>
ここで、ワイピング装置の一部をなすヘッドガイドユニットの構成について説明する。図56はヘッドガイドユニットを示し、同図(a)は下側から見た斜視図、同図(b)は上側から見た斜視図である。ヘッドガイドユニット90には、四角格子板状のワイパガイド93が一体に組み付けられている。
【0164】
ヘッドガイドユニット90は四角格子板状のワイパガイド93を有している。ワイパガイド93は、格子をなすとともに開口94の両側にその長手方向と平行に延びる5本のワイパガイド部100を備える。ワイパガイド部100は、その長手方向両端部を除く部分が幅広に形成される。幅広のワイパガイド部100の間に位置する開口94の狭い部分はキャップ24が出没可能な開口サイズ、すなわちキャップ24が固定されているベース板部72b(図50に示す)の幅より若干広く、かつ、ワイパ25の先端最大幅、すなわちワイパ25のガイド部231bの部分の幅よりも狭くなっている。また、ワイパブレード25aよりも広い。そして、ワイパガイド部100の長手方向両端部は開口94が広くなっており、この部分が開口101,102となっている。開口101、102の幅は、ワイパ25の先端最大幅より若干広くなっている。ワイパ25のガイド部231bが開口94を挟んで両側に位置するワイパ規制面100a,100bに当接して上方への移動が規制されるようになっている。なお、5本のワイパガイド部100のうち両端部二本の下面であるワイパ規制面100aは、図51に示したようにワイパ駆動カム体225(226)がワイピング過程でヘッドガイドユニット90を持ち上げるときの当接面を兼ねている。
【0165】
ワイパ25は後述するように往動過程においてはワイパガイド部100の下を移動する。このときガイド部231bがワイパガイド部100の下面に当接して上方への移動が規制されるので、ワイパガイド部100の下面はワイパ規制面として作用する。なお、5本のワイパガイド部100のうち両端部二本の下面をワイパ規制面100aと呼び、両端二本を除く三本の下面をワイパ規制面100bと呼ぶ。ワイパ25がワイパ規制面に当接している状態ではブレード25aはノズル形成面12aに当接しない構成となっている。そのためワイパ25の往動時はノズル形成面12aを払拭しないが退避位置から斜孔部80aに案内されて上昇した後、水平孔部80bに案内されて往動するときにワイパの復動時に吸引選択されたノズル列に対応するワイパ25はワイパガイド部100の上を通る。
【0166】
開口101は復動開始時のワイパ25が位置する箇所に相当し、開口102は復動終了時のワイパ25が位置する箇所に相当する。復動開始時にワイパ25は開口101を介して先端部をワイパガイド部100の上側へ移動させてノズル形成面12aに接触可能な位置まで上昇させることができる。一旦開口101から上方へガイド部231bを移動すると、ガイド部231bはワイパガイド部100の上に位置した状態で復動可能となっている。復動終了時には開口102を通ってワイパ25がガイド部231bをワイパガイド部100よりも下方へ移動する。このため、ワイパ25が復動時にのみノズル形成面12aを払拭可能である。
【0167】
図57(a),(b)は、ワイパガイド部の両端部分を示し、同図(a)はワイパの復動開始位置付近を示す要部斜視図であり、同図(b)はワイパの復動終了位置付近を示す要部斜視図である。
【0168】
ワイパガイド部100の長手方向両端部には、開口101に相当する位置に第1規制部103が形成されるとともに、開口102に相当する位置に第2規制部104が形成されている。第1規制部103及び第2規制部104はワイパ規制面100a,100bより少し上側に位置し、開口101,102毎に一対(図57(a)では一方のみ図示)ずつ設けられている。この第1規制部103及び第2規制部104の下面は、内側ほど高くなる斜面に形成されている。一対の第1規制部103及び第2規制部104の間隔は、ワイパ25のガイド部231b部分の幅よりも狭くなっている。
【0169】
このため、ワイパガイド部100の下面であるワイパ規制面100a,100bに規制されていたガイド部231bが開口101から上方へ変位したときに第1規制部103に当たり上方への移動が一時的に規制される。この状態ではブレード25aがノズル形成面に当接しない。第1規制部103の辺りでワイパ25が上方へ起き上がり、ブレード25aが記録ヘッド12のノズル形成面12aに当たるとブレード25aが損傷する。また、ノズル形成面12aに当てずに記録ヘッド12の側方にブレード25aを位置するようにワイパ25を起き上がらせた場合、払拭のためにブレード25aをノズル形成面12aに当接させる際に記録ヘッド12のエッジに当接するためにブレード25aが傷つき、払拭性能が劣化する。そこで、ワイパ25の復動開始時に一時的に位置規制してワイパ25を少し起き上がらせ、さらに斜面103aを通過させることで徐々にブレード25aがノズル形成面12aに当接するようにした。またワイパ25のガイド部231bが斜面103aを通過したときには、ブレード25aが記録ヘッド12の側部ではなく、ノズル形成面12aに当接する位置となるように構成している。これにより、ブレード25aと記録ヘッド12のエッジ部が接触することはないので、記録ヘッド12のエッジを隠すための部材が不要になる。
【0170】
そこで、ワイパ25が第1規制部103で一時的に規制された後、復動方向に移動するに連れてガイド部231bは第1規制部103の斜面103aに沿って徐々に上昇し、斜面103aから外れた直後、または外れる手前で、ブレード25aはノズル形成面12aに当接するように構成されている。これにより、ブレード25aがノズル形成面12aに急激に当接して損傷することもなく、また、ブレード25aは記録ヘッド12の側方に位置せずにノズル形成面12aに当接するようにしたので、ブレード25aがエッジに当たってしまうこともない。
【0171】
ワイパ25の復動終了時には、ワイパ25のガイド部231bが第2規制部104の斜面104aに当たり、斜面104aに摺動案内されながらワイパ25は開口102を通って下方へ退避するよう構成されている。このときワイパ25はノズル列13の払拭を終えたブレード25aが記録ヘッド12のエッジに至る手前でノズル形成面12aから離間するように第2規制部104の位置が設定されている。このため、ノズル形成面12aに所定の接触圧で接触して弾性変形したブレード25aが記録ヘッド12のエッジでその弾性変形が解放されて、ワイパ25が掻き取ったインク等を跳ね飛ばすことが回避される構成となっている。
【0172】
図58は、ヘッドガイドユニットを千鳥配置したときの平面図を示す。ヘッドガイドユニット90は、コーナ部分がテーパ状にカットされた平面視略八角形形状となっている。すなわち、キャップ24の長手方向(開口94の長手方向)と直交する幅方向に対向する一対のガイド部92が立設されている板状の枠部分は、ガイド部92の両側から両端へ向かうほど幅が狭くなる平面視斜状に面取りされた面取り部105が形成されている。これは、図2及び図3に示すように、記録ヘッド12の千鳥配置に対応してメンテナンス装置20を千鳥配置とした場合、斜め前に配置されるヘッドガイドユニット90と自身のヘッドガイドユニット90のそれぞれの面取り部105が平面視で平行に対峙することで近接配置でき、千鳥配置された2列のメンテナンス装置20の列間方向の間隔を短くでき、これにより千鳥配置された記録ヘッド12を列間方向に近接配置できる。すなわち、隣接する2つのヘッドガイドユニット90の隣合う2つの面取り部105でできた平面視で谷型との凹部と、他の列のヘッドガイドユニット90の2つの面取り部105でできた山型の凸部とが互いに入り込んで、ヘッドガイドユニット90を列間方向に近接配置できる。よって、ヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12にガイドされるためにはガイド部が記録ヘッドの外側にはみ出るが、その割に記録ヘッドを列間方向に近接配置できる。よって、記録ヘッド12もメンテナンス装置も列間方向に近接配置できることから、本実施形態のプリンタは列間方向に比較的小型に構成されている。
【0173】
次に、ワイパの動作を説明する。ワイパの動作を説明する上で、ワイパとワイパ駆動ユニットを一緒の図にすると重なって動作がわからないので、ワイパの動作とワイパ駆動ユニットの動作を別の図を用いて説明する。図59及び図60は、ワイピング選択時におけるワイパの動作を説明する側面図である。図51はワイパ駆動ユニットとヘッドガイドユニットを示す側面図である。但し、同図ではワイパを省略したワイパ駆動機構のみを示している。同図(a)はワイパが退避位置にあるワイパ駆動機構の待機状態、同図(b)は往動開始状態、同図(c)は往動過程、同図(d)は往動終了状態をそれぞれ示す。以下、吸引選択されたときのワイパの動作について説明する。
【0174】
図51(a)、図59(a)に示す退避位置は、ワイパ25が動く直前の状態である。選択カム121はリフトカム可動板152がワイピングカム面147(図20参照)に当接した位置にあり、リフト板ベース151は最上昇に近い位置に配置される。図51(a)に示すようにワイパ駆動カム体225の第1ガイド軸部225bが第1ガイド孔80のうちの斜孔部80aの下端に位置する。このため、ワイパ駆動カム体225が相対的に低く位置するとともに姿勢を傾倒させた状態になり、その先端のワイパ駆動軸227の配置位置が低くなる。この結果、ワイパ25は、図59(a)に示すようにホルダ23に対してキャップ長手方向外側に配置されるとともに下方へ退避して位置する。
【0175】
図59(b)はワイパの往動開始位置を示す。ワイパ駆動歯車221が図51(b)に示すように反時計方向に回転(逆転)し始めると、突起221dに押されてワイパ駆動レバー223が待機位置から下端を中心とする揺動を開始し、これに伴いワイパ駆動カム体225が斜孔部80aに案内されて相対的に上方へ変位するとともにその姿勢を起き上がらせる。このときワイパ駆動カム体225(226)がヘッドガイドユニット90の下面(ワイパ規制面100a)を所定距離だけ押し上げる。この押し上げ量は空吸引後のホルダ23の下降ストロークにほぼ匹敵するので、この押し上げによりヘッドガイドユニット90のガイド部91,92が記録ヘッド12に嵌まりヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12に対して位置決めされる。また、この往動開始位置まで移動したワイパ駆動カム体225(226)の姿勢角は、第1ガイド孔80及び第2ガイド孔81とこれらそれぞれに挿通される第1及び第2ガイド軸部225b,225cとの位置関係から一義的に決まる。
【0176】
これに伴い、図59(b)に示すようにワイパも上昇する。このときワイパ押さえレバー235がリフト板ベース151のベース面151aに当接する。ワイパ25はワイパ押付けバネ238による与圧のために先端部側(ブレード25a側)を高くする起き上がり姿勢をとろうとするが、ガイド部231bがワイパ規制面100bに当接して上方への移動が規制される。このため、ワイパ25は先端部側を若干低くした傾倒姿勢に保持され、ブレード25aはワイパガイド部100より低く位置に配置される。
【0177】
その後、引き続きワイパ駆動歯車221が逆転するに連れて、同図(c)に示すようにワイパ駆動レバー223の往動方向への回動が継続されて、ワイパ駆動カム体225が一定の姿勢角を保持したまま第1及び第2ガイド孔80,81に沿って略水平に往動する。このとき図59(c)に示すように、ワイパ25はガイド部231bがワイパ規制面100bに当接した傾倒姿勢を保持したまま往動する。このため、ブレード25aをノズル形成面12aから離間させた状態を保持した姿勢でワイパ25は往動する。
【0178】
ワイパ駆動歯車221が約120度逆転し終えると、図51(d)に示す位置までワイパ駆動レバー223が傾倒して往動を終える。このときワイパ25は図60(a)に示すように開口101に相当する位置に到達する。ガイド部231bがワイパ規制面100bから外れ、ワイパ押付けバネ238の与圧によりこの状態から先端部側を高くするように起き上がることになるが、ガイド部231bが第1規制部103に当接することになる。
【0179】
往動を終えた状態から、ワイパ駆動歯車221が反転されて正転に切り替わると、復動の動作をする。復動のとき、ワイパ駆動レバーは往動時と逆の動きをする。つまり図51(d)の状態から、図51(c)、図51(b)の状態を順に経て、図51(a)に示す退避位置に復帰するようになっている。ここで、図51(d)から図51(b)までは、ワイパ駆動カム体225(226)は同じ姿勢を保っている。しかし、その間においてワイパは異なる動きをするので、以下はワイパについての動作のみを説明する。
【0180】
図60(b)はワイパの復動開始時の状態を示す。復動開始時はガイド部231bが第1規制部103の下面に当接した状態にあり、ワイパ25が復動を開始するとガイド部231bはワイパ押付けバネ238の与圧により第1規制部103の下面に沿って移動し、ガイド部231bが斜面103a(図57(a)参照)を移動する過程でワイパ25は徐々に起き上がる。これに伴いブレード25aも徐々に上昇してワイパガイド部100の上面よりも上方へ突出してノズル形成面12aに接触する。ガイド部231bが斜面103aから外れると、ブレード25aはワイパ押付けバネ238の与圧でノズル形成面12aに押し付けられるので略一定の払拭圧でノズル形成面12aに当接することになる。なお、ノズル形成面12aの高さが高くなった場合でも、ブレード25aはノズル形成面12aに当接するまで移動可能であり、この場合でもワイパ押付けバネ238の与圧で押し付けられるのでノズル形成面12aの高さによらず略一定の払拭圧にできる。また、バネの与圧力で払拭圧はほぼ決まるのでワイパ部品の寸法精度やブレードの硬度ばらつきなどの影響を受けにくい。
【0181】
図60(c)はワイパの復動過程を示す。復動過程では、ブレード25aが略一定の払拭圧でノズル形成面12aに当接する起き上がり姿勢を保持したままワイパ25は同図における右端側から左端側に向かって往動する。この往動過程で実施されるワイパ25によるワイピングにより、ノズル形成面12aにおける対応するノズル列13の周辺域に残存するインクが掻き取られる。
【0182】
図60(d)はワイパの復動終了を示す。復動終了時はガイド部231bが第2規制部104に当接し、ガイド部231bは図57(b)に示す斜面104aに沿って徐々に下方へ移動する。これに伴いブレード25aはノズル列13の払拭が終わると徐々に下降して記録ヘッド12のエッジに達する前にノズル形成面12aから離間する。本願ではブレード25aを弾性変形させていないのでブレード25aの払拭時の弾性変形がエッジで解放されることに起因するインクの飛散等が抑制される。そして、ワイパ25が斜孔部80aに案内されて下降しつつ先端部を高くするように回動して図59(a)に示す退避位置に配置される。
【0183】
次に吸引非選択時のワイパの動作について図61に基づいて説明する。なおワイパ駆動ユニットの動作は吸引選択時でも吸引非選択時でも同じなので、ワイパの動作のみを説明する。
【0184】
図61(a)は退避位置にある状態を示す。選択カム121はリフトカム可動板152が非選択カム面138(図40参照)に当接する位置にあり、リフト板ベース151は下降位置にある。このため、リフト板ベース151とワイパガイド部100との間隔が相対的に広くなる。
【0185】
図61(b)はワイパの往動過程、あるいは複動過程の一例を示す。往動過程ではワイパ押さえレバー235はリフト板ベース151のベース面151aから離間している。このため、ワイパ25は自由回動可能な状態にある。ワイパ本体230とワイパ押さえレバー235は前述したように所定角度をなす状態に開き角度の上限が規制されるようになっているので、ガイド部231bはワイパ規制面100bに離間するか軽く接触する状態でワイパ25は往動する。
【0186】
図61(c)は復動開始時の状態を示す。復動開始時は、ガイド部231bが開口101に相当する位置に配置されているが、ワイパ押さえレバー235がベース面151aから離間して与圧が作用しないので、ワイパ25は起き上がらない。このため、復動過程ではガイド部231bはワイパ規制面100bの下側を通ってワイパ25は復動する。つまり、ブレード25aがノズル形成面12aから離間した状態のままワイパ25は復動する。復動終了時は斜孔部80aに案内されてワイパ25は退避位置に戻る。
【0187】
<メンテナンス装置の動作説明>
図64は選択ユニットによる選択動作と共にメンテナンス装置の動作を説明するタイミングチャートである。メンテナンス装置20が実施するクリーニングの1サイクルについて図64に基づいて説明する。
【0188】
図64は、4つのノズル列のうち例えば第3選択カム123に相当する第3ノズル列13が不良ノズル検出装置28により正常と判定され吸引選択の必要がなく、他の3つのノズル列に不良ノズルがあると判定され吸引選択をする場合の例で説明する。同図は、選択カム121〜124の回動制御が実施されたときの各選択カム121〜124に対応するカムフォロア部152bのカム面に対する当接点のシフトの様子を示す。選択カム121〜124の回転制御は、コントローラ27が電動モータ30を回転駆動制御することにより行われる。
【0189】
図64では、第1選択カム121の欠歯により駆動が切れる一方の位置を「0度」とし、選択カム121〜124の図19における反時計方向(正転方向)をプラス、時計方向(逆転方向)をマイナスにとって、選択カム121〜124の回転方向の位置を回転角で示した横軸に対して、各カムフォロア部152bの当接点の高さに応じたリフト板ベース151のリフト量を縦軸にとって示している。また、同図において、選択カム121〜124の回動角を示した横軸に対してクリーニング機構22の昇降状態を縦軸に示しており、さらに同横軸に対してロック機構170のロック・アンロックの状態を縦軸に示している。また、同図における最終段にクリーニングの1サイクルの流れを示している。
【0190】
クリーニング開始前の段階では、各リフト機構154〜157のカムフォロア部152bが当接するカム面は、非選択カム面138上に係合している。不良ノズル検出を行ったとき、キャッピングはされていない状態なので、クリーニング機構22が下降した状態で、かつ第1〜第4の選択カムが非選択の状態である図64に示す位置が初期位置となる。選択カム121〜124はカム面形状が20°ずつ位相がずれているため各選択カムにおける初期位置も20度ずつずれている。
【0191】
クリーニング開始に伴い電動モータ30が正転駆動されると、選択カム群135は初期位置の状態から正転し始める。
まず第1選択カム121に対応するカムフォロア部152b(第1カムフォロア部)が第1選択位置に到達する。第1選択カム121は吸引選択対象であるため、コントローラ27は電動モータ30を正転から逆転に切り換えて再び正転に戻す吸引選択制御(リフト上昇選択制御)を加える(図64における(2))。この結果、選択カム121の吸引選択用の回動制御により、第1選択カム121に対応するカムフォロア部152bが、図23(a),(c),(d)に示す順の経路で吸引カム面141に当接する高さまで上昇する。
【0192】
電動モータ30は第1選択カム121の引選択制御の終了後、正転を継続する。次に第2選択カム122に対応するカムフォロア部152bが第1選択位置に達すると、第2選択カム122も吸引選択対象であるので、コントローラ27は電動モータ30に吸引選択制御を再び加える。この結果、第2カムフォロア部152bは吸引カム面141に当接する高さまで上昇する。さらに正転を継続し、第3選択カム123に対応するカムフォロア部152bが第1選択位置に達する。第3選択カム123に対応するノズル列13は正常であって吸引選択の必要がないので、吸引選択制御が加えられることはなく、第3選択カム123はそのまま正転を継続する。このため第3選択カム123に対応するカムフォロア部152bは吸引カム面141には上昇せず、非選択カム面138に当接したままとなる。第4選択カム124については、吸引選択するため、第1選択カム121、第2選択カム122と同様に吸引選択制御が加えられ、対応するカムフォロア部152bが吸引カム面141に当接する高さまで上昇する。
【0193】
こうして選択カム群135の正転開始後、第1カムフォロア部152bが第1選択位置に到達した後、選択カム群135が20度ずつ正転する度に次の選択カムが第1選択位置に到達するので、吸引を選択する場合は、約20度ずつのタイミングで吸引選択制御が実施される。吸引選択制御は選択カムの回転角で20度より小さいため、1つの選択カムが選択動作しているときに他の選択カムは選択動作に入ることはないので、選択動作をしていない選択カムに対応するカムフォロア部は同じカム面上を移動するだけである。第1〜第4カムフォロア部152bがすべて第1選択位置を過ぎると、電動モータは正転を継続して、選択カム121が欠歯部128bにより選択中間歯車37と噛合しなくなると選択カム群135の正転は停止する(図64の(5)参照)。
【0194】
こうして第1、第2、第4列のカムフォロア部152bが吸引カム面に上昇すると、それと共にリフト板ベース151がリフト量L2の上昇位置に配置される。第3列のカムフォロア部152bは非選択カム面138にいるので、リフト板ベース151はリフト量L1の下降位置に配置されたままとなる。
【0195】
リフト板ベース151が上昇位置に配置されると、バルブレバー153は押出し量「0」(P2)の位置に配置され、バルブ加圧体191を押し込まなくなる(図41)。この結果、バルブユニット190において、その吸引選択された列のキャップ24に繋がる吸引流路弁210が開弁されるとともに大気流路弁216が閉弁される第1位置に配置される。一方、リフト板ベース151が下降位置に配置されている場合は、バルブレバー153が押出し量「最大」の位置に配置される(図40)。この場合、バルブユニット190において、その吸引非選択列のキャップ24に繋がる吸引流路弁210が閉弁されるとともに大気流路弁216が開弁状態にある。
【0196】
<昇降機構の動作>
一方、電動モータ30の正転の結果、クリーニング機構22は上昇する。選択カム群135が初期位置から正転方向に回転すると、第3選択カム123の裏面側(カム部130と反対側の側面側)に形成された昇降動力伝達用の第1凸部123aがリフトレバー54の先端部のピン部54aを押す。この結果、選択カム群135の軸心高さが圧力調整軸53の先端から離間することになって、選択カム群135を内包するホルダ23を有するクリーニング機構22全体が上昇する。
【0197】
クリーニング機構22が上昇位置に到達する途中でヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12に当接することで、ヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12に対して位置決めされる(図31)。そして、ヘッドガイドユニット90は記録ヘッド12に当接した後はそれ以上の上昇が規制されるが、クリーニング機構22のホルダ23部分がさらに上昇する。この結果、4つのキャップ24が、ワイパガイド93の格子の開口94から上方へ突出し、記録ヘッド12のノズル形成面12aに当接する(図32(b),図33)。キャップ24が記録ヘッド12に当接した状態では、ヘッドガイドユニット90の位置決め突起97がホルダ23側の位置決め凹部78に係入されることでクリーニング機構22が記録ヘッド12に対して位置決めされる(図32(a))。
【0198】
このキャップ24の当接後、さらにクリーニング機構22を上昇させようとする力は反力となってリフトレバー54を介して圧力調整軸53を圧力調整軸ホルダ52内へ押し込む。この結果、圧力調整軸53は圧縮バネ55の付勢力に抗して下方へ押し込まれる(図27,図28参照)。
【0199】
圧力調整軸53が圧力調整軸ホルダ52内を上下方向に摺動でき、圧力調整軸53とベースフレーム31側との間の圧縮バネ55によって、圧力調整軸53は与圧を与えられている。従って、記録ヘッド12とメンテナンス装置20の距離(ギャップ)が変化しても、圧力調整軸53の動作によって干渉を吸収できる。なお、圧縮バネ55の与圧力は記録ヘッド12とキャップ24の密着させる力でもあり、これにより確実に記録ヘッド12をキャッピングできる。
【0200】
こうして4つのキャップ24がノズル形成面12aに圧接された状態の下で、吸引ポンプ40が駆動される。すなわち、選択カム121が欠歯部128bにより選択中間歯車37と噛合しなくなり選択カム群135の正転が停止した後も電動モータ30が正転を継続すると吸引ポンプ40の駆動が開始される。これは、電動モータ30が正転開始から所定回転量の正転をし終えた段階からポンプ軸と係合するように遅延機構が吸引ポンプ40のポンプギヤ40aに内蔵されているためである。
【0201】
これにより、例えばキャップ24がノズル形成面12aに密接した直後のタイミングで吸引ポンプ40が駆動される。4つのキャップ24は全て同じ吸引ポンプ40に連結されている。しかし、第3のノズル列は吸引非選択のためキャップ24に繋がる吸引流路弁210が閉弁されているため吸引ポンプ40による負圧は導入されない。一方、吸引選択されたキャップ24に繋がる吸引流路弁210は開弁されているので負圧が導入される。この結果、選択ユニット110で吸引選択されたキャップ24においてのみノズル列13のインク吸引が選択的に実施される。このインク吸引過程において電動モータ30は正転し続けている間、選択カム群135は停止し、摩擦ギヤ126だけが空回りする。
【0202】
<吸引→空吸引>
インク吸引が終了すると、電動モータ30の正転駆動が停止され、次に空吸引動作が行われる。コントローラ27は電動モータ30を駆動制御し、吸引選択列のカムフォロア部152bの当接点が空吸引カム面144に移行するように制御する。吸引時の回動角(約270°)にある選択カム群135は逆転を開始する。この逆転開始時は、第1選択カム121の歯部は選択中間歯車37と噛み合っていないが、第2選択カム122が摩擦ギヤ126から摩擦係合力を受けてこれを補助力として選択カム群135は逆転を開始し始め、第1選択カム121の歯部が選択中間歯車37と噛み合い回転する。選択カム群135が逆転を開始した後、4つのカムフォロア部152bがそれぞれの第2選択位置を通過し終えると、逆転から正転に切り換えられる。
【0203】
すなわち、図24(a)に示す吸引時の状態から図24(b)中の矢印(1)の方向へ逆
転すると、カムフォロア部152bが第2選択位置に到達して戻り面142を登りカム面145に到達する。このとき、図64に示すように、まず第4カムフォロア部152bが第2選択位置に到達して戻り面142を登り、さらに40°逆転すると次に第2カムフォロア部152bが戻り面142を登り、さらに20°逆転すると第1カムフォロア部152bが戻り面142を登る。こうして選択列である第1、第2及び第4カムフォロア部152bがすべてカム面145に到達する回転角で、図24(b)中の矢印(2)の方向への正転に切り換えられる(図64における(6),(7),(8))。そして、選択カム群135の正転は選択カム121の欠歯部128bが選択中間歯車37と相対するようになって選択カム群135の駆動が停止するまで行われる。この正転の過程で、第1、第2、第4の順にカムフォロア部152bはカム面145から戻り面142、登り面143を経て空吸引カム面144に上昇する。なお、非選択列である第3カムフォロア部152bは非選択カム面138上を移動するに留まる。
【0204】
また、リフト板ベース151を吸引時の位置から空吸引時の位置へ移動する過程で選択カム群135が約70°逆転されるが、このときクリーニング機構22は上昇位置に保持される。これは、図27(c),(d)に示すように、昇降ユニット50では図27(c)に示す上昇位置から選択カム123が逆転されても、図27(d)に示すように第2凸部123bがリフトレバー54のピン部54aに当接するまでに約150°の逆転が必要なため、約150°未満の逆転が加わってもクリーニング機構22は上昇位置から下降しないからである。
【0205】
こうして吸引選択列のカムフォロア部152bが、吸引カム面141から一段高い空吸引カム面144に到達する(図24(c))。この過程において、リフト板ベース151は上昇位置から最上昇位置に上昇するため、バルブレバー153は押出し量が「0」から「中間」(P3)の中間位置に配置される(図42)。そのときバルブ加圧体191は第2位置(中間位置)に配置され、バルブユニット190において吸引選択列のキャップ24に繋がる吸引流路弁210と大気流路弁216が共に開の状態となる。一方、吸引非選択列のカムフォロア部152bは吸引非選択カム面138に当接した状態に維持されるため、リフト板ベース151は下降位置に維持され、バルブレバー153は押出し量「最大」の位置に維持されるのでキャップ24に繋がる吸引流路弁210が閉弁しかつ大気流路弁216が開弁した状態にあり、キャップ24が大気開放される。
【0206】
また、リフト板ベース151を吸引時の位置から空吸引時の位置へ移動する過程で選択カム群135が約70°逆転されるが、このときクリーニング機構22は上昇位置に保持される。これは、図27(c),(d)に示すように、昇降ユニット50では図27(c)に示す上昇位置から選択カム123が逆転されても、図27(d)に示すように第2凸部123bがリフトレバー54のピン部54aに当接するまでに約150°の逆転が必要なため、約150°未満の逆転が加わってもクリーニング機構22は上昇位置から下降しないからである。
【0207】
クリーニング機構22は上昇位置に保持されているので、4つのキャップ24はノズル形成面12aに当接している状態を維持する。選択カム群135の正転停止後も、電動モータ30は正転を継続し、吸引ポンプ40が駆動される。このとき吸引非選択のキャップ24に繋がる吸引流路弁210が閉弁しているので負圧は導入されない。吸引選択されたキャップ24に繋がる吸引流路弁210と大気流路弁216が共に開の状態であるので、キャップ内は大気開放されつつ、負圧が導入される。この結果、吸引選択列のキャップ24ではバルブユニット190の大気管部195から吸い込まれた空気が吸引管部196を通って吸引ポンプ40に送られる状態となり、これによって記録ヘッドからインクを吸引せずにキャップ24内及びチューブ内に残存するインク等を吸引する空吸引が行われる。空吸引されたインクは図示しない廃液タンクに回収される。
【0208】
空吸引を終了した後、記録ヘッド12のノズル形成面12aのインクを払拭するワイピング動作を行う。本願ではワイパ25はキャップ24の上を移動してワイピングを行うので、キャップを下げる必要がある。また、全てのワイパ25を移動させるが、吸引選択されたワイパに払拭力を付与し、吸引非選択のワイパには払拭力を付与しないようにしており、これをリフト板ベース151によって行っている。
【0209】
空吸引終了後、選択カム群135を逆転させる。このときの駆動の伝え方は、インク吸引後の選択カム群135への駆動伝達と同じである。選択カム群135は270°回転させる。この動作により吸引選択されたカムフォロア部152bは、空吸引カム面144から登り面143、戻り面142、カム面145を経て、ワイピングカム面147へ至る。ワイピングカム面147は空吸引カム面144より若干低い高さである。このときのリフト板ベース151は最上昇位置より若干低い高さ(リフト量L3より若干低い高さ)で、この高さにおいてワイパ25がワイパ押し付けバネ238により適切な払拭力を与えられる。一方、非選択列のカムフォロア部152bは非選択カム面138上を移動するだけなので、リフト板ベース151は下降位置に維持され、ワイパ25には払拭力は付与されない。
【0210】
<ロック機構の動作>
選択カム群135が270°回転する過程でロック機構によるロック動作が行われる。選択カム群135が回動するときこれと一体にストッパカム171が回動する。選択カム群135が初期位置にあるとき、ストッパレバー172は、ストッパカム171の待機位置のカム面179(図39(a)参照)に当接している。選択カム群135が正転してカムフォロア部152bが吸引カム面141に当接する回動角まで移動した吸引時の状態において、ストッパレバー172はストッパカム171の非ロックカム面175に当接し、ストッパレバー172が垂立した姿勢に配置される(図39(c)参照)。この状態ではロック機構はロックされないアンロック状態となる。吸引後の空吸引時においても、同様に、アンロック状態となる。
【0211】
空吸引終了後、選択カム群135の逆転により、ストッパレバー172のストッパカム171への当接点は、斜面176を登りロックカム面177に移行する(図39(d)参照)。この結果、ストッパレバー172が傾動してチョーク部材173のチョークリング部181が縮径し、この縮径したチョークリング部181によって圧力調整軸53はロックされる。図64に示すように、ロック機構170によるロックは、クリーニング機構22が上昇位置にある状態、すなわちキャップ24が記録ヘッド12に密接する状態で行われる。記録ヘッド12の高さは、図示しないプラテンギャップ調整機構によりそのとき使用される記録用紙の紙厚に応じて適切なプラテンギャップが確保されるよう決められ、キャップ24が記録ヘッドに密接した状態における圧力調整軸53の圧力調整軸ホルダ52からの突出量はプラテンギャップに依存する。そして、このプラテンギャップに依存する圧力調整軸53の圧力調整軸ホルダ52からの突出量がロックにより固定される。言い換えると圧縮バネ55が伸縮しないようにしており、また、圧力調整軸53が動かないようにしている。なお、吸引時の位置から空吸引の位置へ移行する過程で選択カム群135が一時的に逆転するときにも、圧力調整軸53は一時的にロックされる。
【0212】
図64に示すように、圧力調整軸53のロックの後、選択カム群135の逆転がさらに進むと、やがて図27(d)に示すように第3選択カム123の第2凸部123bがリフトレバー54のピン部54aを押すようになり、クリーニング機構22が下降を開始する。クリーニング機構22が下降を開始すると、まずキャップ24がヘッドガイドユニット90の開口94に没入してノズル形成面12aから離間する。そして、線バネ98の弾性変形がなくなると、次にヘッドガイドユニット90が記録ヘッド12から離間する。やがて選択カム121の回動角が約0°付近の所定角度に達して、欠歯部128bが選択中間歯車37に相対する位置となって選択カム群135の逆転が停止すると、クリーニング機構22の下降が完了する。ここで圧力調整軸53がロックされており、圧縮バネ55が伸縮しないので、クリーニング機構22の下降量はプラテンギャップに依存せず一定である。また、キャップ24の下降量もクリーニング機構22と同じ量となる。つまり、プラテンギャップによらず記録ヘッド12のノズル形成面12aとキャップ24との距離は一定になる。
【0213】
<ワイピング動作>
次にワイピング動作について説明する。
選択カム群135の逆転が停止する少し前のタイミングで、選択カム121の回転伝達用の凸部121aがワイパ駆動歯車221の受け面221cを押すことで、ワイパ駆動歯車221の歯部221aが選択中間歯車37と噛合するようになり、その後、選択カム群135の逆転の停止と入れ替わってワイパ駆動歯車221が逆転を開始する。このワイパ駆動歯車221の逆転開始によりワイピング動作が開始される。この後、コントローラ27はワイパ駆動歯車221を約120°往復回動させるように電動モータ30を駆動制御する。
【0214】
なお、クリーニング機構22が吸引時の上昇位置からワイピング時の下降位置まで下降する下降過程において、圧力調整軸53がロックされているので、圧縮バネ55はキャップ24がノズル形成面12aに当接した際の圧縮状態に維持されている。この結果、吸引時の状態からワイピングの状態へクリーニング機構22が下降したとき圧縮バネ55の復元がないことから、そのときのプラテンギャップの値によらずワイピング時におけるノズル形成面12aとリフト板ベース151の間隔が常に一定となる。これによりブレード25aによる払拭力を一定にできる。本願ではさらに、ワイパ本体230とワイパ押さえレバー235との開き角度がワイパ押付けバネ238により可変となっている。このため、ワイピング時にノズル形成面12aの高さに応じてブレード25aの位置は追従できるので、確実に払拭でき、払拭力も安定する。
【0215】
図64の最下段に示すように、選択カム群135の逆転停止後に、ワイパ駆動歯車221に約120°の逆転と約120°の正転を実施させて、ワイパ25の一往復動のワイピング動作が行われる。ワイピング動作では往動時にはワイパ25は記録ヘッド12に当接せず、復動時に当接して払拭動作を行う。
【0216】
その後、復動を終えたワイパ25は、第1ガイド軸部225bが第1ガイド孔80の斜孔部80aに案内され、ワイパ25はノズル形成面12aから遠ざかった状態に退避する。ワイピング終了時にワイパ駆動歯車221が正転し終わる直前にその受け面221cが回転伝達用の凸部121aを押すので、選択カム121の歯部128aが選択中間歯車37と噛合した状態となる。さらなる選択カム121〜124の正転によって、ワイピングカム面147上の初期位置であった列のカムフォロア部152bは降り面148に沿って下降して軸部129の外周面にて構成される非選択カム面138に至る。こうして電動モータ30の駆動が停止されると、1サイクルのクリーニングが終了する。クリーニング終了時には選択カム群135は初期位置の状態に復帰している。このとき、4つのカムフォロア全ての当接点が初期位置のカム面上に復帰した位置であるので、ロック機構170はロック状態にある。
【0217】
このようにクリーニング終了後も、圧力調整軸53はロックされた状態に保持される。このため、その後、フラッシング時期になって、キャップ24がノズル列13と相対する位置関係となるように、記録ヘッド12の直下にメンテナンス装置20が配置されたときには、ノズル形成面12aとキャップ24との間隔がプラテンギャップの値によらず常に一定のギャップに保たれる。このため、フラッシング時におけるノズル形成面12aとキャップ24との間隔が常に一定になることから、フラッシングに適した間隔(ギャップ)を確保でき、フラッシング時の液滴がキャップ24の外側に漏れ出る可能性が低くなる。例えば、圧力調整軸53がロックされない場合、フラッシング時のギャップは、プラテンギャップの値に応じて変化することになり、プラテンギャップが大きい場合にギャップが広くなり、プラテンギャップが小さい場合にギャップが狭くなる。例えばギャップが広い状態でフラッシングが行われると、キャップ24までの距離が長くなって液滴が噴霧状になって飛散し、プリンタの筐体内を汚染したりする。また、ギャップが狭い状態でフラッシングが行われると、液滴がキャップ24に跳ね返ってノズル形成面12aを汚染する心配がある。しかし、本実施形態の構成であれば、ギャップが常に一定に保持されるので、フラッシングによる上記の汚染を回避できる。
【0218】
なお、コントローラ27は、複数のメンテナンス装置20のうち、吐出不良ノズルが検出されたメンテナンス装置20については電動モータ30を駆動させて上記の制御内容で吐出不良ノズルを含むノズル列13を選択的にクリーニングするが、吐出不良ノズルを1つも検出されなかったメンテナンス装置20については電動モータ30を駆動させない。
【0219】
以上詳述したように第1実施形態によれば以下の効果が得られる。
(1)バルブレバー153がバルブユニット190のバルブ加圧体191を押さない最小操作量の位置に配置された状態では、常時閉の大気閉弁バネ202の付勢力により大気流路弁216が閉弁し吸引流路弁210が開弁する。バルブ加圧体191を少量押す中間位置の状態では、大気閉弁バネ202の付勢力に抗して弁体部201を撓ませて弁座部211と弁座部207から離間させることで大気流路弁216と吸引流路弁210が共に開弁する。さらにバルブレバー153がバルブ加圧体191を大きく押す最大操作量の位置に配置された状態では、大気流路弁216が開弁し吸引流路弁210が閉弁する。このように、バルブユニット190内の流路弁204は、操作部であるバルブレバー153によって被操作部であるバルブ加圧体191が操作されることにより、吸引流路弁210及び大気流路弁216の開閉の組合せを、それぞれ開・閉と、開・開と、閉・開との3種類とすることができる。よって、吸引流路弁210と大気流路弁216が1つのバルブ板200(弁体部201)を共有する比較的小型のバルブユニット190を実現しつつ、メンテナンス装置20に必要な吸引・非吸引の選択ができるとともに、吸引選択列のキャップ24において残留インクを吸引除去する空吸引も行うことができる。
【0220】
(2)複数のキャップ24の各々に対応した、吸引流路弁210と大気流路弁216とを有するバルブユニット190を各々押圧することで上記の弁を開閉できる。記録ヘッド12にキャップ24が当接するまでの過程で吸引クリーニングを実施したいキャップ24に対応したリフト板ベース151だけが上昇し、バルブレバー153が押し込み量「0」の状態になって大気閉弁バネ202によって大気流路弁216が閉弁するとともに吸引流路弁210を開弁させる。また、吸引クリーニングを実施しないキャップ24に対応したリフト板ベース151だけが下降状態のままに保持され、バルブレバー153が大きく傾動してバルブ加圧体191を介してバルブ板200(弁体部201)を大きく押して大気流路弁216を開弁させるとともに吸引流路弁210を閉弁させる。よって、吸引したいキャップ24だけから選択的にインクを吸引できる。
【0221】
(3)バルブユニット190のバルブ加圧体191とバルブ押圧体193は、与圧バネ194を介して与圧状態に保持されているので、弁体部201をバルブレバー153によって押し込む際に、押し込み量がばらついても確実な荷重で吸引流路弁210を閉めることができる。よって、大気流路弁216の密閉状態を安定化でき、さらに必要以上に押し込まないので膜材からなる弁体部201を傷つけることがなく、長期に渡って信頼性のある弁機能が維持できる。
【0222】
(4)バルブ加圧体191が操作されることで弁体部201を押すバルブ押圧体193は、弁体部201を挟んでバルブ加圧体191側の大気室206に挿通されることになるが、この大気室206に挿通されたバルブ押圧体193の挿通箇所にできる隙間があってもこの大気室206が大気開放される室であることから隙間の存在は大気開放流路となるのでなんら問題ではない。一方、弁体部201を挟んでバルブ加圧体191側の室が負圧源である吸引ポンプ40に接続される吸引室205である構成であると、バルブ押圧体193の挿通箇所にできる隙間をシールする必要が生じ、シール構造が必要になるうえ、長年の使用によるシール部材の劣化等に起因してシール異常が起きることが懸念される。しかし、弁体部201を挟んでバルブ加圧体191側の室が大気室206である構成なので、この種のシールに関する問題を心配しなくて済む。
【0223】
(5)弁体部201を押し込みによって変位させる構成なので、バルブ押圧体193を弁体部201に固定することなく、当接可能な状態に配置すればよい。例えば弁体を引き込みによって変位させる構成であると、引込体と弁体とを固定又は係止等する必要があり、弁体の気密性を保持しつつ加わる力で外れないように強固に固定や係止等する必要があるので、そのような要求を満たす部品の製造・加工や組み立てが面倒になる。これに対し、押し込み方式であれば、そのような面倒さが無くなるので、バルブユニット190の構成及びその組み立てを簡単にすることができる。
【0224】
(6)バルブ押圧体193が弁体部201を大気閉弁バネ202の付勢力に抗して、弁体部201を大きく変位させるためには、バルブ押圧体193が弁体部201の略中央部付近に当接することが望ましい。一方、弁座部211はその開口が弁体部201の変位の大きい略中央部と対向する位置に配置されることが望ましい。このため、バルブ押圧体193と弁座部211の望ましい配置位置が互いに干渉する。しかしながら、本実施形態では、バルブ押圧体193が挿通される貫通孔213を横切る仕切部214に弁座部211が突設されることで、弁座部211の開口を弁体部201の略中央部の弁部201aと対向する状態に配置することができる。一方、バルブ押圧体193は、仕切部214をスリット193eで避け、弁座部211を貫通孔193dで避けた状態で、大気室206側から外側へ向かって貫通孔213を挿通させた状態に組み付けられ、その大気室206側の先端部は貫通孔193dで弁座部211を避けた環状の面で弁体部201の略中央部の弁部201aに当接する。よって、バルブ押圧体193は弁座部の周囲に相当する弁体部201の略中央部分を環状の面で当接箇所を押込むことができる。よって、バルブ押圧体193が弁体部201を大きく変位させられるように弁体部201の略中央部に力を付与する要請と、弁座部211を開口が弁体部201の変位の大きい略中央部に対向するように配置する要請とを両立できる。
【0225】
(7)バルブ押圧体193が弁体部201を大気閉弁バネ202の付勢力に抗して押し込むと、弁体部201が変位して、吸引流路弁210及び大気流路弁216の開閉状態が切り換えられる。バルブ押圧体193が肉厚の弁部201aを押し込んだときには、弁体部201は弁部201aにおいては撓まずその周囲の薄肉部201bで撓むことで変位する。このとき、弁部201aの部分はその面を弁座部207,211の開口面に略平行に保持したままバルブ押圧体193の軸方向に変位するので、弁部201aが弁座部207,211に当接したときに弁座部207,211の開口を確実に密閉できる。また、弁体部201は、弁座部207,211及びバルブ押圧体193に当たる弁部201aが肉厚に形成されていることから、弁部201aは弁座部207,211及びバルブ押圧体193から当接時に繰り返し力を受ける割りに、その耐久性が確保される。
【0226】
(8)バルブユニット190に内蔵された各流路弁204の弁体となる複数の弁体部201を1つに連接した1枚のバルブ板200を用い、大気バルブ本体198及び吸引バルブ本体199を1枚のバルブ板200を間に介して接合することでバルブユニット190の筐体を構成した。よって、例えば各流路弁204に1枚ずつ弁体を組み付ける構成に比べ、組み付け工数を低減できる。また、大気バルブ本体198と吸引バルブ本体199の間に挟んだバルブ板200がシール部材として機能するので、吸引室205及び大気室206の気密性を高めることができるうえ、別途シール部材を組み付ける必要がない。
【0227】
(9)バルブユニット190の弁体部201を大気閉弁バネ202によって、大気流路弁216の常時閉弁側である弁座部211へ押し付けることで大気流路212は閉じ、大気流路弁216は開弁している。このため、非選択列のキャップ24が記録ヘッド12に当接する際に大気流路弁216を開弁させておくことができる。さらに同じ弁体部201を押し付け位置を変えることで開閉するので、大気流路弁216が閉じる状態では、吸引流路弁210は確実に開けることができる。
【0228】
(10)バルブユニット190に複数(4つ)の流路弁204を内蔵し、各流路弁204を複数のバルブレバー153の操作量に応じた量でバルブ加圧体191を押し込み操作することにより対応するキャップ24毎に流路弁204の開閉状態を選択できる構成とした。このため、吸引クリーニングを実施するキャップ24を選択することができ、不良ノズルを含むノズル列13を選択してクリーニングを実施することができる。
【0229】
(11)選択カム121〜124の特定位置(第1選択位置及び第2選択位置)において逆転の有無によって、バルブレバー153の操作位置を切り換える吸引選択機構である。選択カム121〜124の回動において特定位置での逆転の有無によって選択する機構なので、ステッピングモータなどの電動モータ30の制御だけで、特別な電磁弁を不要とすることができる。よって、吸引回復装置の動力源を吸引ポンプ40を駆動させる電動モータ30と兼用できるので、メンテナンス装置20のより小型化が可能である。さらに選択カム121〜124の特定位置での逆転の有無で選択する機構なので、選択カム121〜124の径を大きくして円周長を長くするだけで、吸引・非吸引を選択可能なキャップの数(吸引列数)を容易に増やすことができる。
【0230】
(12)選択カム121〜124の特定位置(第1選択位置及び第2選択位置)における逆転の有無によって、バルブレバー153の操作位置が選択されてバルブユニット190の各流路弁204が個別に切り換えられる吸引選択機構である。よって、ステッピングモータなどの電動モータ30の制御だけで、特別な電磁弁を不要とすることができる。また、電動モータ30を用いることができることから、動力源を吸引ポンプ40と兼用できるので、選択ユニット110と吸引ポンプ40で電動モータ30を兼用することで、メンテナンス装置20の小型化が可能となる。さらに選択カム121〜124の特定位置での逆転の有無で選択する機構なので、選択カム121〜124の径を大きくして円周長を長くするだけで、吸引・非吸引を選択可能なキャップの数(吸引列数)を容易に増やすことができる。
【0231】
(13)選択ユニット110はキャップ24を退避位置から封止位置へ上昇させるキャッピング過程で電動モータ30から出力される動力によって駆動されて選択動作を行い、非選択列のキャップ24は大気開放状態でノズル形成面12aに当接する。このため、キャップ24がノズル形成面12aに当接したときにキャップ24の弾性部分が変形して上昇した内圧がノズル内に加わってノズルメニスカスが破壊されることを回避し易くなる。
【0232】
(14)不良ノズル検出装置28により吐出不良ノズルを検出して、その検出結果に基づき、吐出不良ノズルを含むノズル列13については対応するキャップ24に負圧が導入される開閉状態に流路弁204を切り換え、一方、吐出不良ノズルを含まないノズル列13については対応するキャップ24に負圧が導入されない開閉状態に流路弁204を切り換えた。よって、吐出不良ノズルを含むノズル列13を選択して吸引クリーニングを行うことができる。この結果、良好に吐出できる良好ノズルでありながら吸引クリーニングが行われる良好ノズル数を低減し、吸引クリーニングによるインクの無駄な消費を抑制することができる。
【0233】
(第2実施形態)
他のメンテナンスシステムの構成を、図65〜図72に基づいて説明する。
前記実施形態では、千鳥配置された2列の記録ヘッドに対応してメンテナンス装置を2列に千鳥配置する構成であったが、本実施形態は、記録ヘッドが3列以上に千鳥配置された場合でも対応できるように3列以上の千鳥配置も可能な構造のメンテナンス装置を提供する。
【0234】
2列千鳥配置の場合である前記第1実施形態では、メンテナンス装置20の高さを低く抑えるためにクリーニング機構22の隣接位置に吸引ポンプ40を配置し、平面視において記録ヘッド12から吸引ポンプ40がはみ出した構造であった。これに対し、本実施形態では、電動モータ30、吸引ポンプ40、クリーニング機構22を、記録ヘッドと対向する方向に縦列に配置した。これにより、ノズル形成面と直交する方向におけるメンテナンス装置の投影面積をX・Y両方向に小さく抑えた構造としている。
【0235】
図65〜図70は、本実施形態におけるメンテナンスシステムを示す。図65は正面斜視図、図66は背面斜視図、図67は平面図、図68は左側面図、図70は右側面図を示す。
【0236】
図65〜図70に示すように、本実施形態の記録ヘッドシステム11は、3列に千鳥配置された複数の記録ヘッド12を備える。メンテナンスシステム300は、記録ヘッドシステム15を構成する記録ヘッド12と対応する直下位置に、記録ヘッドと対応するように千鳥配置された複数のメンテナンス装置310を備える。
【0237】
メンテナンス装置310は、ノズル形成面と直交する方向における投影形状及び投影面積が、記録ヘッド12の同投影形状及び投影面積と略等しくなるように、電動モータ30、吸引ポンプ40、クリーニング機構22が、下から順に縦列配置された構造を有する。このため、メンテナンス装置310は3列に千鳥配置された記録ヘッド12の直下に、記録ヘッドと対応する3列の千鳥配置で配置されている。
【0238】
メンテナンス装置310は、ベースユニット311と、ベースユニット311に対して昇降可能に設けられたクリーニング機構22とを備える。電動モータ30と吸引ポンプ40は、下からこの順に縦列配置された状態でベースユニット311を構成するベースフレーム312に固定されている。
【0239】
図69及び図70に示すように、ベースフレーム312の上面には2本のガイドロッド317,318が垂直に延びており、これら2本のガイドロッド317,318が、クリーニング機構22から下方へ延出する2本のガイド筒319,320にそれぞれ挿通されることで、クリーニング機構22はベースフレーム312に対して昇降可能に設けられている。ロック機構170は、前記第1実施形態では昇降ユニットの圧力調整軸53に取り付けられていたが、本実施形態では、二本のうち一方のガイドロッド318に取り付けられている。
【0240】
また、図66及び図68に示すように、メンテナンス装置310の左側面部には、電動モータ30の動力をクリーニング機構22に伝達する動力伝達機構313が設けられている。動力伝達機構313はメンテナンス装置310の下端部に配置された電動モータ30からの動力を、上端部に配置されたクリーニング機構22へ伝達するためにタイミングベルト方式を採用している。また、本実施形態の動力伝達機構313は、クリーニング機構22をベースフレーム312に対して昇降させる昇降装置を兼ね備えている。
【0241】
クリーニング機構22は昇降方式が異なるものの前記第1実施形態と同様の構造であり、選択中間歯車37に伝達された回転力がホルダ23内の選択ユニット110(図71,図72に示す)に伝達されることで記録ヘッド12の不良ノズルを含むノズル列だけを選択的にクリーニングできるものである。このため、以下の説明では、前記第1実施形態と同様の構成であるクリーニング機構22の説明は省略し、動力伝達系や昇降系について説明する。
【0242】
図71はメンテナンス装置のベースフレームを取り除いた状態の斜視図、図72はメンテナンス装置の背面図を示す。図72(a)はクリーニング機構22が下降位置に配置された下降状態、同図(b)はクリーニング機構22が上昇位置に配置された上昇状態をそれぞれ示す。
【0243】
メンテナンス装置310の左側面部には、電動モータ30の駆動軸に固着されたピニオン30cの回転駆動力を、選択中間歯車37と作動連結された状態でホルダ23内に収容された選択ユニット110に伝達する動力伝達機構313が設けられている。動力伝達機構313は、前記ピニオン30c、二段歯車321、二段歯車322、両二段歯車321,322間に掛装されたタイミングベルト323、中間歯車324、選択中間歯車37、二段歯車322と中間歯車324の軸間を連結するリンクレバー325、及び中間歯車324と選択中間歯車37の軸間を連結するリンクレバー326を備える。
【0244】
ピニオン30cは二段歯車321の大歯車部321aと噛合している。吸引ポンプ40の上部近傍位置には、大歯車部322bがポンプギヤ40aと噛合する二段歯車322が配置されている。二段歯車322は、ベースフレーム312に回転可能に支持された回転軸327に固定されている。二段歯車321の小歯車部321bと二段歯車322の小歯車部322aとの間には、タイミングベルト323が掛装されている。
【0245】
リンクレバー325は、その一端部が二段歯車322の回転軸327と回動可能に連結されるとともに、その他端部に中間歯車324を回転可能に支持する支軸(図示せず)を支持している。このリンクレバー325の他端部にはリンクレバー326の一端部が回動可能に連結されている。リンクレバー326の他端部は選択中間歯車37の軸部の位置に配置された連結軸328に回動可能に連結されている。中間歯車324と二段歯車322の軸間距離は、両者の軸間を連結するリンクレバー325により両者が噛合可能な一定値に保持されている。また、中間歯車324と選択中間歯車37の軸心間距離は、両者の軸間を連結するリンクレバー326により両者が噛合可能な一定値に保持されている。
【0246】
図72(a)に示す下降位置に配置された状態において、コントローラにより電動モータ30が正転駆動されると、その回転が、ピニオン30c、二段歯車321、タイミングベルト323を介して二段歯車322に伝達され、さらに二段歯車322と噛合する中間歯車324を介して選択中間歯車37に伝達される。このとき二段歯車322が正転してリンクレバー325が回転軸327を中心として時計方向に回動すると、リンクレバー325とリンクレバー326とのなす角度が広がって、連結軸328には二段歯車322と選択中間歯車37との軸間距離を長くする上向きの力が加わるため、クリーニング機構22が上昇する。
【0247】
また、図72(b)に示す上昇位置に配置された状態において、コントローラにより電動モータ30が逆転駆動されると、その回転が、ピニオン30c、二段歯車321、タイミングベルト323を介して二段歯車322に伝達され、さらに二段歯車322と噛合する中間歯車324を介して選択中間歯車37に伝達される。このとき二段歯車322が逆転してリンクレバー325が回転軸327を中心として反時計方向に回動すると、リンクレバー325とリンクレバー326とのなす角度が狭まり、連結軸328には二段歯車322と選択中間歯車37との軸間距離を短くする下向きの力が加わるため、クリーニング機構22が下降する。
【0248】
前記各実施形態に限定されず、以下の構成で実施することもできる。
(変形例1)前記各実施形態において、以下の制御方式を採用することができる。ワイピング時にはインクが飛び散って隣接する記録ヘッド12のノズル形成面12aを汚染する虞がある。このため、コントローラ27は、一のメンテナンス装置20がワイピング時期にあるときにはワイピング方向側の隣に位置する他のメンテナンス装置20のクリーニング機構22を上昇させて各キャップ24がノズル形成面12aを封止するキャッピング状態に制御し、このキャッピング状態の下で一のメンテナンス装置20におけるワイピングを行うように制御する。つまり、ワイピング時にはワイピング方向下流側に位置する隣のメンテナンス装置20のクリーニング機構22を上昇させて、隣接の記録ヘッド12のノズル列13をキャップ24で覆って保護する構成とする。
【0249】
これにより、ワイパ25のワイピングによって仮に拭き取ったインクがワイピング方向下流側周辺に飛び散っても、キャップ24で保護された隣のメンテナンス装置20のノズル形成面12aはその飛び散ったインクから保護される。よって、飛び散ったインクがノズル形成面12aに付着することで誘発されるノズルメニスカスの破壊等を回避できる。また、飛び散ったインクがノズル形成面12aに付着することで誘発される噴射された液滴の飛行経路を曲げる不具合を回避しやすくなる。
【0250】
この場合、記録ヘッド12をノズル列方向に1個おきに同期させるシーケンスを挙げることができ、ワイピング過程では隣接するメンテナンス装置ではキャップ24がノズル形成面12aに当接した吸引過程にあるタイミングのシーケンスでメンテナンスシステムを駆動制御することが望ましい。また、他のシーケンス方法として、メンテナンス装置は全て同期させて吸引までは同期駆動されるが、ワイピングはノズル列方向に1個おきに実施し、そのときワイピングが実施されるメンテナンス装置とノズル列方向に隣接したメンテナンス装置では例えば空吸引のタイミングの後に電動モータ30を逆転駆動を開始させることなくキャップ24を上昇位置に保持してノズル列13をキャップ24で保護し、隣接のメンテナンス装置のワイパ25がワイピング時にインクを跳ねてもそのインクからノズル列13を保護できる。その後、ワイピングが終了したら、キャップ24を上昇位置に保持させていたメンテナンス装置20は、電動モータ30の逆転を開始してキャップ24を下降させるとともにキャップ24の下降に引き続きワイピングを行う。このとき、既にワイピングを終えたメンテナンス装置20では、電動モータ30が正転駆動されてキャップ24を上昇させてノズル形成面12aを保護することで、隣のメンテナンス装置からワイピングの際に仮にインクの飛び散ってもその飛び散ったインクがノズル形成面12aに付着することは防止される。このとき、隣のメンテナンス装置20の電動モータ30は途中で逆転を加えることなく正転のみされ、選択ユニット110は非選択時のカム選択を行いキャップ24は大気開放された状態にあり、また電動モータ30はキャッピング終了すれば吸引ポンプ40がポンプ駆動開始する前に駆動停止される。よって、隣のメンテナンス装置20をワイピング終了後にキャッピングしても、ノズルメニスカスを破壊することはない。その後、一のメンテナンス装置20のワイピングが終了すると、隣のメンテナンス装置20では、クリーニング機構22が上昇位置に配置されたキャッピング状態から、電動モータ30を逆転させてクリーニング機構22を下降させるとともにワイピング動作に移行する直前のタイミングで電動モータ30の駆動を停止する。
【0251】
(変形例2)前記実施形態では、被操作手段側の第2流路弁である大気流路弁216を常に閉弁させるように常時閉弁用バネ(大気閉弁バネ202)を設けたが、大気流路弁と吸引流路弁の配置位置を逆にして第2流路弁である吸引流路弁を常時閉弁用バネにより閉弁させる構成としてもよい。この場合、バルブ押圧体193が筐体部材の貫通孔に挿通された部分の隙間を該バルブ押圧体193が摺動できる状態にシールすれば吸引室205を気密状態に保つことはできる。さらに第1流路弁を常時閉弁用バネにより常に閉じるように付勢した構成を採用してもよい。この場合、流路弁を切り換えるためには、弁体を常時閉弁用バネの付勢力に抗して引き出す動作が必要になるので、押圧体に置き換え、先端部が弁体に固定されて弁体を常時閉弁用バネの付勢力に抗して引き出す運動をする引込体を用いる。
【0252】
(変形例3)前記各実施形態では、複数の流路弁204の弁体部201を1つの共通のバルブ板200により構成したが、これに限定されない。例えば弁体部201を2つずつ連接させたバルブ板を2枚設けてもよい。もちろん弁体数が4つ以外の場合でも同様に、複数の弁体を連接させたバルブ板を2枚以上設けてもよい。この場合、一つのバルブユニットに設けられるバルブ板はそれぞれ連接される弁体数が異なっていてもよい。このようなバルブ板を使用すれば弁体1枚ずつ組み付ける場合に比べ、組み付け工数を低減できるうえ弁体の組付け向きの間違い等の作業ミスを回避し易い。もちろん各流路弁204に一枚ずつ弁体を設けても構わない。
【0253】
(変形例4)選択カム121〜124は、カムフォロア部152bが第1選択位置又は第2選択位置に到達した特定の回動角位置で逆転を加えたときに、より半径の大きいカム面に移行したが、これに限定されない。例えば特定の回動角位置で逆転を加えなければそのままカム面の半径が徐々に大きくなって一段高いカム面へ登り、特定の回動角位置で逆転が加えられたときには同一半径のカム面に維持される構成を採用できる。また、特定回動角位置での逆転の有無によって異なるカム面に移行する場合、より半径の小さいカム面へ移行する構成でも構わない。
【0254】
(変形例5)前記実施形態では、バルブユニットの切り換えを3段階としたが、これに限定されない。さらに4段階以上とすることもできる。さらに操作量を連続変化させる構成としてもよい。4段階以上とする場合、前記3段階に加え、開弁時の開度を2段階以上で段階的に切り換え可能な構成が挙げられる。例えばキャップ24へ圧導入開始から安定した内圧に到達するまでの圧力変化速度を開度の大小により調整したり、安定する内圧が目標値に近づけるために開度を調整する目的で使用することができる。
【0255】
(変形例6)前記各実施形態では、第2流路弁を大気流路弁216としたが、負圧室又は加圧室などの圧力室としてもよい。例えばバルブ押圧体193が貫通孔213に挿通されたときに大気バルブ本体198の内壁面との間の隙間を、バルブ押圧体193が摺動可能な気密状態にシールすることにより大気室を圧力室に置き換えた構成を採用できる。
【0256】
(変形例7)前記各実施形態では、1つのバルブユニットに4つの流路弁を内蔵させたが、内蔵された流路弁の数は、キャップ24等の保守手段の数に応じて適宜変更できる。例えば内蔵される流路弁を、2つ、3つあるいは5つ以上の複数個とすることができ、もちろん1つだけとした構成も採用できる。内蔵される流路弁が1つのバルブユニットの場合、メンテナンス装置に選択ユニット110の各バルブレバー153とバルブ加圧体191が相対するように複数個配列して取り付ければ、前記各実施形態と同様の吸引選択を行うことはできる。
【0257】
(変形例8)前記各実施形態では、バルブユニットの流路弁の開閉状態を3段階に切り換える構成としたが、これに限定されない。例えば2段階の切り換えで使用することもできる。2段階の切り換えとしては、第1流路弁と第2流路弁の開閉状態の組合せが、開弁と閉弁、閉弁と開弁の2通りの切り換えで使用できる。また、第1流路弁と第2流路弁の開閉状態の組合せが、開弁と閉弁、開弁と開弁の2通り、あるいは開弁と開弁、閉弁と開弁の2通りとすることもできる。
【0258】
(変形例9)前記実施形態では、被操作手段側の第2流路弁である大気流路弁216を常に閉弁させるように付勢手段としての大気閉弁バネ202を設けたが、付勢手段は必須ではない。例えば被操作手段としての操作レバーにより弁体を一方向及び他方向へ移動させて弁の開閉を行う構成を採用できる。例えば操作レバーを弁体に連結し、操作レバーを一方向に操作することで第1流路(吸引流路)を閉弁させ、他方向へ移動させることで第2流路(大気流路)を閉弁させる構成とする。また、この場合、操作レバーに力が掛かっていない通常状態は、第1流路弁及び第2流路弁が共に開弁状態であってもよい。操作レバーを押して第1流路弁を閉弁させ、操作レバーを引いて第2流路弁を閉弁させる構成を採用できる。
【0259】
(変形例10)前記各実施形態では、バルブユニットを1台のメンテナンス装置に設け、メンテナンス装置に備えられた複数のキャップへの導入圧を供給するための流路の開閉を行う構成としたが、選択吸引を行う構成ではない複数台のメンテナンス装置に対して1つのバルブユニットで弁の切換えを行う構成を採用することができる。例えばメンテナンス装置には1つ又は複数のキャップを備えるが、キャップと接続された流路の開閉は、バルブユニット内の共通の流路弁が行い、バルブユニットが複数台のメンテナンス装置への導入圧供給用の流路の開閉の切換えを行う構成としてもよい。
【0260】
(変形例11)前記各実施形態では、圧力源を負圧源としての吸引ポンプ40を採用したが、これに限定されない。例えば圧力源として加圧源である加圧ポンプを採用することもできる。例えば液体噴射ヘッドの液体流路を強制的に加圧してノズルから液体を噴射するメンテナンスを行う構成を採用することができる。例えば液体噴射ヘッド内の流路の洗浄のために流路内からインク等の不要な液体を排出したり、流路内へ洗浄液やリンス液等の液体を流入したりすることもできる。また、液体噴射ヘッドへの液体の補充のために加圧源と補充液タンクの間に介在するバルブユニットの弁を開いて補充液タンクを加圧して液体噴射ヘッドへ液体を補充する構成に適用することも可能である。その他、テストインクを液体噴射ヘッドへ加圧により供給する加圧式液体供給装置におけるバルブユニットとして用いることもできる。これらの場合、負圧源や加圧源などの圧力源に接続されたバルブユニットの開閉により圧力が導入される対象が保守手段となる。例えばインクや洗浄液、リンス液等の液体を供給するタンク等の液体供給源の加圧ポートに接続される接続具が保守手段となる。
【0261】
(変形例12)前記各実施形態では、液体噴射ヘッドに対してクリーニング等の保守を行う保守手段としてキャップ24とワイパ25の両方を備えたが、これに限定されない。例えばメンテナンス装置が複数のキャップ24による吸引回復処理をキャップ個別に選択できる吸引回復装置のみを備える構成でもよい。また、キャップ及びワイパ以外の他の保守手段を追加したり、ワイパを他の保守手段に置き換えてもよい。
【0262】
(変形例13)前記各実施形態では、非走査方式の記録ヘッドシステム11(マルチヘッド)を構成する記録ヘッド12の吸引クリーニングのためにメンテナンス装置を適用したが、ラインヘッドに対して適用することもできる。ラインヘッドの場合は、その記録ヘッド一つにつき複数台のメンテナンス装置を配列するとよい。さらに走査方式の記録ヘッドのクリーニングに本メンテナンス装置を採用することもできる。走査方式の液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置のメンテナンス装置に適用する場合、キャップ部を移動させる移動手段は、電動モータ等の動力源(回転駆動源)の動力により移動させるものではなく、液体噴射ヘッドが走査方向にクリーニング位置へ向かって移動する過程でメンテナンス装置側の係合部を押し込むことでスライダが上昇し、このスライダに支持されたキャップが上昇するスライダ方式の移動機構を採用することができる。
【0263】
(変形例14)前記各実施形態では、メンテナンス装置20が記録ヘッド12に対して下側に配置され、メンテナンス装置20はクリーニング機構22を昇降させる構成としたが、メンテナンス装置20が配置される向きは、記録ヘッド12の向きに応じて適宜設定できる。例えば記録ヘッド12がノズル形成面12aを鉛直とする向きに配置された構成では、メンテナンス装置20がクリーニング機構22を横方向に往復移動できる向きに配置することができる。この場合、移動体を構成するリフト板ベース151の移動方向も、ノズル形成面に接近・離間が可能な方向である水平方向に移動体が移動する構成を採用できる。その他、移動体の移動方向は上下方向及び水平方向以外の方向であってもよい。
【0264】
(変形例15)前記実施形態ではノズル列13をインク色毎に異なるキャップで吸引を行うことができるように4つのキャップ24を備えたが、同色のノズル列をさらに複数分割した小ノズル群を個別に封止するキャップを設けることができる。
【0265】
(変形例16)前記各実施形態では、ノズル群をインク色別に分割した各分割ノズル群(ノズル列13)を個別に封止可能にインク色と同数のキャップを設けたが、これに限定されない。検出された吐出不良ノズルの有無に応じて吸引回復処理を行うべきキャップ部を選択する構成の場合、ノズル群の分割の仕方は適宜設定できる。記録ヘッドのノズル群を分割してキャッピングできる構成であれば、例えば複数色のノズル群を一つのキャップ部で封止する構成も採用可能である。
【0266】
(変形例17)前記各実施形態では、各分割ノズル群(ノズル列13)を個別に封止可能に複数のキャップを設けたが、これに限定されない。キャップ内を区画してその区画された各キャップ区画部が別々のノズル群を封止する構造のキャップを採用することもできる。この構成でも、検出された吐出不良ノズルの有無に応じて吸引回復処理を行うべきキャップ部を選択することにより、キャップ部で分割された分割ノズル群別に吸引選択を行うことができる。例えば記録ヘッド一つにつきキャップを1つとし、色別のノズル群(ノズル列13)を個別に封止可能な複数のキャップ区画部を有する構成を採用できる。
【0267】
(変形例18)前記各実施形態では、選択手段としての選択ユニット110がバルブユニット190を操作して流路の開閉を切り換える構成としたが、これに限定されない。例えば各バルブ加圧体191と相対するように複数列配置されたソレノイド等の各アクチュエータによってバルブ加圧体191を個々に操作する構成を採用することもできる。
【0268】
(変形例19)前記実施形態では、クリーニング機構を昇降させる構成であったが、記録ヘッドシステム側を昇降させることによりクリーニング機構はベースユニット21に対して固定された構成であってもよい。
【0269】
(変形例20)前記実施形態では、メンテナンス装置20を複数配置してメンテナンスシステム10を構成したが、メンテナンス装置単独で使用する構成を採用することもできる。
【0270】
(変形例21)前記実施形態では、液体噴射装置を印刷に用いられるインクジェット式記録装置に具体化したが、この限りではなく、インク以外の他の液体を噴射する液体噴射装置に具体化することもできる。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液状体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとしての試料噴射装置であってもよい。そして、これらの液体噴射装置に装備され、液滴噴射ヘッドのノズル形成面をクリーニングするメンテナンス装置及びメンテナンス装置に本発明を適用することもできる。この場合、噴射される液状材料等の液体の種類毎にノズル群を個別に封止できるようにキャップ部を設ける構成とすることが好ましい。なお、このような印刷以外の工業用途の液体噴射ヘッドで噴射される液体には、分散媒として用いた液体中に材料粒子が分散されてなる液状材料があり、この種の固体を含む液状材料も本発明でいう液体に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0271】
【図1】第1実施形態における記録ヘッドシステムと共に示すメンテナンスシステムの斜視図。
【図2】メンテナンスシステムの斜視図。
【図3】メンテナンスシステムの平面図。
【図4】メンテナンスシステムの側面図。
【図5】メンテナンスシステムの正面図。
【図6】記録ヘッドシステムを示し、(a)は底面図、(b)は正面図。
【図7】メンテナンス装置の正面斜視図。
【図8】メンテナンス装置の背面斜視図。
【図9】メンテナンス装置の分解斜視図。
【図10】(a),(b)ベースユニットの要部斜視図。
【図11】メンテナンス装置の要部斜視図。
【図12】選択ユニット等の上側から見た分解斜視図。
【図13】同じく下側から見た分解斜視図。
【図14】選択ユニットを示し、(a)は正面斜視図、(b)は背面斜視図。
【図15】選択ユニットの分解斜視図。
【図16】選択ユニットを示し、(a)平面図、(b)正面図、(c)側面図。
【図17】図16のA−A線断面図。
【図18】選択カムを示し、(a)は分解斜視図、(b)は斜視図。
【図19】選択カム及びリフト機構の斜視図。
【図20】選択カムの斜視図。
【図21】選択カムの側面図。
【図22】選択カムの図20の下側から見た斜視図。
【図23】(a)〜(d)リフトユニットの各状態を示す斜視図。
【図24】リフトユニットの各状態を示し、(a)吸引時,(c)空吸引時,(d)ワイピング位置への移動過程のそれぞれ斜視図、(b)第2選択位置にあるときの側面図。
【図25】クリーニング機構が下降位置にあるときの側断面図。
【図26】昇降ユニット等の斜視図。
【図27】(a)〜(e)昇降ユニットの動作を説明する側断面図。
【図28】クリーニング機構が上昇位置にあるときの側断面図。
【図29】キャップユニット及びヘッドガイドユニットを示す斜視図。
【図30】下降位置にあるクリーニング機構の斜視図。
【図31】クリーニング機構が記録ヘッドに当接した状態を示す斜視図。
【図32】(a),(b)クリーニング機構が上昇位置にあるときを示す斜視図。
【図33】クリーニング機構のキャップ付近を示す一部破断した側面図。
【図34】ロック機構を含む要部斜視図。
【図35】ロック機構の斜視図。
【図36】ストッパカムの斜視図。
【図37】(a)〜(c)ロック機構の動作を説明する側面図。
【図38】(a),(b)ロック機構の動作を説明する平面図。
【図39】(a)〜(e)ロック機構の動作を説明する要部側面図。
【図40】非選択時のリフトユニットを示す(a)左側面図、(b)右側面図。
【図41】吸引選択時のリフトユニットを示す(a)左側面図、(b)右側面図。
【図42】空吸引選択時のリフトユニットを示す(a)左側面図、(b)右側面図。
【図43】リフト機構と共に示すバルブユニットの斜視図。
【図44】バルブユニットの背面斜視図。
【図45】バルブユニットの分解斜視図。
【図46】図43のB−B線断面図。
【図47】図43のB−B線で切断したバルブユニットの斜視図。
【図48】支持ホルダに組み付けられたワイパ駆動ユニットを示す斜視図。
【図49】ワイパを取り外したワイパ駆動ユニットの斜視図。
【図50】載置ホルダに組み付けられたワイパ駆動ユニットを示す斜視図。
【図51】(a)〜(d)ワイパ駆動ユニットの動作を説明する側面図。
【図52】リフトユニットと共にワイパ駆動ユニットを背面側から見た斜視図。
【図53】ワイパ駆動ユニットの分解斜視図。
【図54】ワイパの斜視図。
【図55】ワイパの分解斜視図。
【図56】(a)(b)ヘッドガイドユニットの斜視図。
【図57】(a)(b)ヘッドガイドユニットの要部斜視図。
【図58】ヘッドガイドユニットの平面図。
【図59】(a)〜(c)払拭選択時におけるワイパの動作を説明する側面図。
【図60】(a)〜(d)払拭選択時におけるワイパの動作を説明する側面図。
【図61】(a)〜(c)非選択時におけるワイパの動作を説明する側面図。
【図62】(a)ワイパ退避位置の斜視図、(b)ワイパ往動過程の斜視図。
【図63】(a)ワイパ復動開始時の斜視図、(b)ワイパ復動終了時の斜視図。
【図64】メンテナンス装置の動作を説明するタイミングチャート。
【図65】第2実施形態におけるメンテナンスシステムの正面斜視図。
【図66】同じくメンテナンスシステムの背面斜視図。
【図67】メンテナンスシステムの平面図。
【図68】メンテナンスシステムの左側面図。
【図69】メンテナンスシステムの右側面図。
【図70】メンテナンスシステムの正面図。
【図71】メンテナンス装置のフレームを取り外した状態を示す斜視図。
【図72】(a)下降状態と(b)上昇状態を示すメンテナンス装置の左側面図。
【符号の説明】
【0272】
10…メンテナンスシステム、11…記録ヘッドシステム、12…記録ヘッド、12a…ノズル形成面、13…ノズル列、20…メンテナンス装置、21…ベースユニット、22…クリーニング機構、23…ホルダ、24…吸引回復手段を構成するとともに保守手段及びキャップ部としてのキャップ、25…ワイパ、25a…ブレード、27…制御手段としてのコントローラ、28…検出手段としての不良ノズル検出装置、30…動力源(回転駆動源)としての電動モータ、33…動力伝達機構、40…吸引回復手段を構成するとともに圧力源及び負圧源としての吸引ポンプ、50…移動手段を構成する昇降ユニット、51…支持部、52…圧力調整軸ホルダ、53…圧力調整軸、54…リフトレバー、55…圧縮バネ、60…支持ホルダ、70…キャップユニット、71…載置ホルダ、90…ヘッドガイドユニット、91,92…ガイド部、93…ワイパガイド、100…ワイパガイド部、98…線バネ、105…面取り部、110…バルブシステムを構成するとともに選択手段としての選択ユニット、120…選択歯車ユニット、121〜124…回動カムとしての選択カム、130…カム部、38…カム面としての非選択カム面、141…カム面としての吸引カム面、144…カム面としての空吸引カム面、147…ワイピングカム面、150…リフトユニット、151…リフト板ベース、152…カムフォロアとしてのリフトカム可動板、152b…カムフォロア部、153…操作部としてのバルブレバー、154〜157…リフト機構、163…引張りバネ、170…ロック機構、171…ストッパカム、172…ストッパレバー、173…チョーク部材、175…非ロックカム面、177…ロックカム面、190…バルブシステム及び吸引回復手段を構成するバルブユニット、191…被操作手段を構成するとともに被操作部としてのバルブ加圧体、193…被操作手段を構成するとともに押圧体及び被操作体としてのバルブ押圧体、193d…孔としての貫通孔、193e…スリット、194…弾性部材としての与圧バネ、198…第2流路形成部材としての大気バルブ本体、199…第1流路形成部材としての吸引バルブ本体、200…弁体としてのバルブ板、201…弁体としての弁体部、201a…弁部、201b…膜状部としての薄肉部、202…付勢手段としての大気閉弁バネ、204…弁手段としての流路弁、205…第1流路を構成する吸引室、206…第2流路を構成する大気室、207…第1弁座部としての弁座部、208…第1流路を構成する吸引流路、210…第1流路弁としての吸引流路弁、212…流路を構成する大気流路、211…第2弁座部としての弁座部、213…貫通孔、214…支柱管部としての仕切部、216…第2流路弁及び大気開放弁としての大気流路弁、220…ワイパ駆動ユニット、300…メンテナンスシステム、310…メンテナンス装置、311…ベースユニット、313…動力伝達機構。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルを有する液体噴射ヘッドと、
該液体噴射ヘッドの保守に用いられる保守手段と、
該保守手段に圧力を導入するために用いられる圧力源と、
該圧力源から前記保守手段への導入圧を切り換えるために用いられるバルブユニットとを備え、
該バルブユニットは、
弁体と、
該弁体を間に挟んで配置された第1流路形成部材及び第2流路形成部材とを備え、
前記弁体の両側には該弁体と前記第1流路形成部材との間に第1流路が形成されるとともに、該弁体と前記第2流路形成部材との間に第2流路が形成され、
前記弁体は、
該弁体を一方向に移動させると前記第1流路を閉弁する第1流路弁と、前記弁体を他方向に移動させると前記第2流路を閉弁する第2流路弁とが、前記弁体を間に挟んで該弁体を共有して構成され、
前記第1流路弁は、前記保守手段と前記圧力源との間の流路の一部を構成する圧力流路を開閉する圧力流路弁であり、前記第2流路弁は、前記保守手段を大気に開放するための大気流路を開閉する大気開放弁であることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置において、
前記圧力源は、前記保守手段に負圧を導入する負圧源であり、
前記圧力流路弁は、前記保守手段と負圧源の間の流路を開閉する吸引流路弁であることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の液体噴射装置において、
前記第2流路弁を閉弁させる前記他方向へ前記弁体を付勢する付勢手段と、
前記第1流路弁を閉弁させる前記一方向へ前記弁体を前記付勢手段の付勢力に抗して移動させるために操作される被操作手段とを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
請求項3に記載の液体噴射装置において、
前記被操作手段の操作量に応じて前記第1流路弁及び前記第2流路弁の開閉の組合せが、それぞれ開・閉と、開・開と、閉・開との3段階に切り換え可能に構成されていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の液体噴射装置において、
前記被操作手段は、前記弁体を前記付勢手段の付勢力に抗して押し込むことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項6】
請求項3乃至請求項5のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記弁体を共有する前記第1流路弁及び前記第2流路弁の一組で構成される弁手段を複数内蔵し、前記被操作手段は前記弁手段毎に備えられていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項7】
請求項6に記載の液体噴射装置において、前記複数の弁手段は少なくとも2つの弁体が弁手段間で連接して構成された一つ以上のバルブ板からなり、前記バルブユニットの筐体を構成する複数の筐体部材が該バルブ板を介して接合されていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項8】
請求項3乃至請求項7のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記被操作手段は、前記弁体に当接する押圧体と、前記押圧体を押し込むために操作される被操作部と、弾性部材とを備え、前記被操作部と前記押圧体とが前記弾性部材を介して互いに離間する方向に付勢された状態で被操作方向に相対移動可能に連結されることによって、与圧状態に保持されていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項9】
請求項3乃至請求項8のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記被操作手段はバルブユニットの筐体における相対する位置に設けられた貫通孔に挿通される部分として被操作体を有し、該被操作体は前記貫通孔に挿通されて前記弁体に当接可能に配置されており、
前記筐体は、前記大気流路が内部を通るとともに前記貫通孔を横切るように設けられた支柱管部と、該支柱管部の途中から前記弁体側へ向かって突出するとともに前記大気流路と連通する先端部の開口が前記弁体と対向して位置する弁座部とを有し、
前記被操作体は前記支柱管部と対応する位置に設けられたスリット及び前記弁座部と対応する位置に設けられた孔を介して前記支柱管部及び前記弁座部を避けた状態で弁室側から前記貫通孔に挿通されて一部を前記筐体の外方へ突出させるとともに弁室内側の端部が前記弁体と当接可能な状態に配置されて該貫通孔内を摺動可能に設けられていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項10】
請求項3乃至請求項8のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記被操作手段はバルブユニットの筐体と相対する位置に設けられた貫通孔に挿通される部分として被操作体を有し、該被操作体は前記貫通孔に挿通され前記弁体に当接可能に配置され、
前記大気流路に連通する第2弁座部が前記弁体の略中央部に相対して配置されており、
前記弁体は、その略中央部において前記被操作体側へ突出した厚肉の弁部と、該弁部の周囲に延在して該弁部より薄肉の膜状部とを有し、前記第2弁座部及び前記被操作体は前記弁部と当接可能に設けられ、
吸引流路と連通する第1弁座部が前記弁体の前記被操作体側と反対側の面における前記弁部に相当する部位に当接可能に配置されていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項1】
液体を噴射するノズルを有する液体噴射ヘッドと、
該液体噴射ヘッドの保守に用いられる保守手段と、
該保守手段に圧力を導入するために用いられる圧力源と、
該圧力源から前記保守手段への導入圧を切り換えるために用いられるバルブユニットとを備え、
該バルブユニットは、
弁体と、
該弁体を間に挟んで配置された第1流路形成部材及び第2流路形成部材とを備え、
前記弁体の両側には該弁体と前記第1流路形成部材との間に第1流路が形成されるとともに、該弁体と前記第2流路形成部材との間に第2流路が形成され、
前記弁体は、
該弁体を一方向に移動させると前記第1流路を閉弁する第1流路弁と、前記弁体を他方向に移動させると前記第2流路を閉弁する第2流路弁とが、前記弁体を間に挟んで該弁体を共有して構成され、
前記第1流路弁は、前記保守手段と前記圧力源との間の流路の一部を構成する圧力流路を開閉する圧力流路弁であり、前記第2流路弁は、前記保守手段を大気に開放するための大気流路を開閉する大気開放弁であることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置において、
前記圧力源は、前記保守手段に負圧を導入する負圧源であり、
前記圧力流路弁は、前記保守手段と負圧源の間の流路を開閉する吸引流路弁であることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の液体噴射装置において、
前記第2流路弁を閉弁させる前記他方向へ前記弁体を付勢する付勢手段と、
前記第1流路弁を閉弁させる前記一方向へ前記弁体を前記付勢手段の付勢力に抗して移動させるために操作される被操作手段とを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
請求項3に記載の液体噴射装置において、
前記被操作手段の操作量に応じて前記第1流路弁及び前記第2流路弁の開閉の組合せが、それぞれ開・閉と、開・開と、閉・開との3段階に切り換え可能に構成されていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の液体噴射装置において、
前記被操作手段は、前記弁体を前記付勢手段の付勢力に抗して押し込むことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項6】
請求項3乃至請求項5のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記弁体を共有する前記第1流路弁及び前記第2流路弁の一組で構成される弁手段を複数内蔵し、前記被操作手段は前記弁手段毎に備えられていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項7】
請求項6に記載の液体噴射装置において、前記複数の弁手段は少なくとも2つの弁体が弁手段間で連接して構成された一つ以上のバルブ板からなり、前記バルブユニットの筐体を構成する複数の筐体部材が該バルブ板を介して接合されていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項8】
請求項3乃至請求項7のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記被操作手段は、前記弁体に当接する押圧体と、前記押圧体を押し込むために操作される被操作部と、弾性部材とを備え、前記被操作部と前記押圧体とが前記弾性部材を介して互いに離間する方向に付勢された状態で被操作方向に相対移動可能に連結されることによって、与圧状態に保持されていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項9】
請求項3乃至請求項8のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記被操作手段はバルブユニットの筐体における相対する位置に設けられた貫通孔に挿通される部分として被操作体を有し、該被操作体は前記貫通孔に挿通されて前記弁体に当接可能に配置されており、
前記筐体は、前記大気流路が内部を通るとともに前記貫通孔を横切るように設けられた支柱管部と、該支柱管部の途中から前記弁体側へ向かって突出するとともに前記大気流路と連通する先端部の開口が前記弁体と対向して位置する弁座部とを有し、
前記被操作体は前記支柱管部と対応する位置に設けられたスリット及び前記弁座部と対応する位置に設けられた孔を介して前記支柱管部及び前記弁座部を避けた状態で弁室側から前記貫通孔に挿通されて一部を前記筐体の外方へ突出させるとともに弁室内側の端部が前記弁体と当接可能な状態に配置されて該貫通孔内を摺動可能に設けられていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項10】
請求項3乃至請求項8のうちいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記被操作手段はバルブユニットの筐体と相対する位置に設けられた貫通孔に挿通される部分として被操作体を有し、該被操作体は前記貫通孔に挿通され前記弁体に当接可能に配置され、
前記大気流路に連通する第2弁座部が前記弁体の略中央部に相対して配置されており、
前記弁体は、その略中央部において前記被操作体側へ突出した厚肉の弁部と、該弁部の周囲に延在して該弁部より薄肉の膜状部とを有し、前記第2弁座部及び前記被操作体は前記弁部と当接可能に設けられ、
吸引流路と連通する第1弁座部が前記弁体の前記被操作体側と反対側の面における前記弁部に相当する部位に当接可能に配置されていることを特徴とする液体噴射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図59】
【図60】
【図61】
【図62】
【図63】
【図64】
【図65】
【図66】
【図67】
【図68】
【図69】
【図70】
【図71】
【図72】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図59】
【図60】
【図61】
【図62】
【図63】
【図64】
【図65】
【図66】
【図67】
【図68】
【図69】
【図70】
【図71】
【図72】
【公開番号】特開2007−307895(P2007−307895A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107709(P2007−107709)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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