説明

液体塗布装置及び方法並びに画像形成装置

【課題】塗布液による装置内の汚染を防止しつつ、媒体に対する均一塗布を実現する。
【解決手段】塗布ローラ(11)の塗布面(11A)に当接することにより、該塗布面に液体を供給する液体保持ユニット(14)を備える液体塗布装置(10)において、塗布ローラ(11)に対する媒体(P)の相対位置に基づき、塗布ローラ(11)と液体保持ユニット(14)の間の第1の当接圧力及び塗布ローラ(11)と媒体(P)の間の第2の当接圧力のうち少なくとも一方の当接圧力を変化させる制御を行う。例えば、媒体(P)の先端が塗布ローラ(11)に接触する直前に第1の当接圧力を弱くして塗布ローラ上の液膜厚を増やし、媒体(P)の後端が塗布ローラ(11)を通過する直前に第1の当接圧力を強くして塗布ローラ(11)上の液膜厚を減らす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体塗布装置及び方法に係り、特に、インクジェット記録装置におけるインク打滴前に色材の凝集促進等を目的として記録媒体に処理液を付与する手段として好適な液体塗布技術及びこれを用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録装置の分野において印刷画像の高画質化を図るため、インクジェット描画に先立って、インク着色剤を印刷媒体表面上で凝集させるコーティング液(処理液)を付与する液体塗布機構を用いたものが知られている。特許文献1では、枚葉紙のような比較的小さなサイズの塗布媒体(記録媒体)への塗布性と、装置運搬時の姿勢変化による液体漏れ防止の観点から、液体塗布の機構として、記録媒体に接触回転する塗布ローラと、該塗布ローラの周面(塗布面)に当接することでローラ面との間に形成される液体保持空間に塗布液を保持する液体保持部材と、を備えた液体塗布装置が開示されている。
【0003】
同文献1に記載の液体塗布装置は、塗布ローラを回転させることにより、液体保持空間から塗布ローラの塗布面に塗布液を供給しつつ、塗布面から記録媒体上に塗布液を転写する構成となっている。
【特許文献1】特開2007−83180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された液体塗布装置は、枚葉紙と次の枚葉紙の間でローラ塗布面が枚葉紙背面に設置されたバックアップローラと直接触れてしまい、装置が汚染され、ひどい場合には液漏れを生じたり、バックアップローラからの処理液の再転写により枚葉紙裏面が汚れたりしてしまうという問題がある。
【0005】
また、塗布ローラを用いた塗布工程では、媒体(枚葉紙)と塗布ローラの間にビードと呼ばれる液溜まりが形成されることによって所定膜厚の均一塗布が可能となるが、断続的に供給される枚葉紙の先端部分において、この液体ビードが安定せず、均一塗布が困難である。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、断続的に供給される記録媒体への塗布から派生する問題を解消し、種々のシート状記録媒体(枚葉紙)に対して所要の厚みに均一に塗設することが可能な液体塗布装置を提供することを目的とする。また、かかる液体塗布装置を用いて高画質の画像記録が可能な画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、第1の発明に係る液体塗布装置は、シート状の媒体に液体を塗布する塗布面を有する塗布ローラと、前記塗布ローラの塗布面に当接することにより液体保持空間を形成し当該液体保持空間から前記塗布面に液体を供給する液体保持ユニットと、前記塗布ローラの前記塗布面に対向し当該塗布ローラとともに前記媒体を挟持する媒体支持部材と、を備え、前記媒体支持部材と前記塗布ローラによって前記媒体を挟持しつつ前記塗布ローラを回転させることにより前記液体保持ユニットから前記塗布面に液体を供給し、当該塗布面から前記媒体に液体を転写する液体塗布装置であって、前記塗布ローラの前記塗布面と前記液体保持ユニットの間の第1の当接圧力及び前記塗布ローラの前記塗布面と前記媒体の間の第2の当接圧力のうち少なくとも一方の当接圧力を変化させる当接圧力可変手段と、前記塗布ローラに対する前記媒体の相対位置に基づいて前記当接圧力可変手段を制御して前記少なくとも一方の当接圧力を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、媒体が途切れる前後で第1の当接圧力及び第2の当接圧力の少なくとも一方を制御することにより、塗布開始時における液体ビードの乱れを解消して媒体への均一塗布が可能である。また、塗布終了時に塗布ローラから媒体支持部材への塗布液の転移量を低減することができ、媒体支持部材の汚染を抑制できる。
【0009】
「媒体」は、液体の塗布を受ける被塗布媒体を総称したものであり、例えば、インクジェット記録装置における印字媒体、被画像形成媒体、被記録媒体、受像媒体、被吐出媒体、中間転写体、などと呼ばれるものが含まれる。媒体の形態や材質については、特に限定されず、連続用紙、カット紙、シール用紙、OHPシート等の樹脂シート、フイルム、布、配線パターン等が形成されるプリント基板、ゴムシート、金属シート、その他材質や形状を問わず、様々な媒体を含む。
【0010】
「媒体支持部材」としては、バックアップローラ、ベルト、平板部材などの形態が可能であるが、特に、バックアップローラであることが好ましい。
【0011】
なお、第2の当接圧力は、媒体に接触する塗布ローラの接触ニップ幅と相関があるため、本願でいう第2の当接圧力の制御は、接触ニップ幅を制御することを内包する。
【0012】
第2の発明は、第1の発明に係る液体塗布装置において、前記液体保持ユニットには、前記塗布ローラの塗布面との接触部に弾性体からなる当接部材が設けられていることを特徴とする。
【0013】
この当接部材は、押し付け圧(第1の当接圧力)によって変形し、液体保持ユニットの液体保持空間をシールするシール部材として機能する。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2の発明に係る液体塗布装置において、前記当接圧力可変手段は、前記液体保持ユニットを前記塗布ローラの塗布面に向けて押し付ける可動機構であることを特徴とする。
【0015】
塗布ローラの塗布面に対する液体保持ユニットの押し付け力を強弱させる手段として、液体保持ユニットを塗布ローラの塗布面に対して接離移動させる可動機構を適用できる。
【0016】
第4の発明は、第3の発明に係る液体塗布装置において、前記可動機構は、前記塗布ローラの塗布面に向けて前記液体保持ユニットを付勢する付勢部材と、前記付勢部材の変形量を変化させるカムと、を含んで構成されることを特徴とする。
【0017】
かかる態様によれば、液体保持ユニットの当接部が摩耗しても一定の当接圧を確保することができるとともに、低コストで実現できる。
【0018】
第5の発明は、第1又は第2の発明に係る液体塗布装置において、前記当接圧可変手段は、前記塗布ローラを前記媒体から離す方向及び前記媒体に押し付ける方向に移動させ得る移動手段であることを特徴とする。
【0019】
塗布ローラを媒体に対して接離移動可能に構成することによって、媒体、塗布ローラ、液体保持ユニットの三者の相対的な位置関係を変更することができる。例えば、塗布ローラの軸を媒体から離す方向に移動させることで第2の当接圧力を弱めることができ、塗布ローラと液体保持ユニットとの間の当接圧力(第1の当接圧力)を強めることが可能である。
【0020】
第6の発明は、第5の発明に係る液体塗布装置において、前記移動手段によって前記塗布ローラを前記媒体から離す方向に移動させると、前記液体保持ユニットにおける前記塗布ローラの回転方向下流側の前記塗布ローラとの当接部の押し付け圧力が増加し、前記塗布ローラの回転方向上流側の前記塗布ローラとの当接部の押し付け圧力が減少することを特徴とする。
【0021】
かかる態様によれば、液体保持ユニットから塗布ローラの塗布面に液体を送り出す供給側の当接部(塗布ローラの回転方向下流側の当接部)について押し付け圧力を増加させて液の供給を抑制する一方、塗布ローラの回転方向上流側の当接部(塗布ローラ面からの液の回収側)について押し付け圧力を減少させてローラ上の余剰液を液体保持ユニットに回収できる。
【0022】
第7の発明は、第1乃至6の発明のいずれか1項に係る液体塗布装置において、前記制御手段は、前記媒体の先端が前記塗布ローラに接触する所定時間前に前記第1の当接圧力を弱くして第1の圧力値とし、その後、前記第1の圧力値よりも高い第2の圧力値として前記媒体への液体塗布を行うことを特徴とする。
【0023】
かかる態様によれば、塗布開始時における液供給不足を補償して、一定の塗布膜厚を実現できる。すなわち、媒体の先端部(塗布の開始部分)で早期にビード(薄い液溜まり)が安定し、媒体に対して所望の膜厚による均一塗布が可能である。特に、本態様は、断続的に供給される媒体の塗布開始初期におけるビードの安定化に寄与し、枚葉紙などに対して均一な塗布を実現し得る。
【0024】
なお、ここでの「所定時間」は、塗布ローラ上における液体保持ユニットの液供給位置から塗布点(媒体との接触点)に到達するまでに要する塗布面の移動時間に基づいて設定されることが望ましい。いわば「所定時間前」は、塗布ローラのローラ径や媒体搬送速度、或いはローラ回転速度に応じて決定される時間差を考慮しての「直前」である。
【0025】
第8の発明は、第1乃至7の発明のいずれか1項に係る液体塗布装置において、前記制御手段は、前記媒体への液体塗布の動作中に、前記第1の当接圧力を第2の圧力値とし、当該媒体の後端が前記塗布ローラを通過する所定時間前に前記第1の当接圧力を前記第2の圧力値よりも高い第3の圧力値とすることを特徴とする。
【0026】
媒体への液体塗布時における標準的な第1の当接圧力を「第2の圧力値」とするとき、媒体の後端が塗布ローラを通過する直前に第1の当接圧力を強くして塗布ローラへの液供給を減らす。つまり、塗布動作中に当該媒体内において当接圧力の制御が行われる。かかる態様によれば、媒体が途切れた(通過した)際の媒体支持部材への塗布液の転移量を抑えることができる。
【0027】
第9の発明は、第1乃至8の発明のいずれか1項に係る液体塗布装置において、前記制御手段は、前記媒体の先端が前記塗布ローラに接触する所定時間前に前記第2の当接圧力を強く第4の圧力値とし、その後、前記第4の圧力値よりも低い第5の圧力値として前記媒体への液体塗布を行うことを特徴とする。
【0028】
かかる態様によれば、上述した第7の発明と同様に、塗布開始時における液供給不足を補償して一定の塗布膜厚を実現できる。
【0029】
第10の発明は、第1乃至9の発明のいずれか1項に係る液体塗布装置において、前記制御手段は、前記媒体への液体塗布の動作中に、前記第2の当接圧力を第5の圧力値とし、当該媒体の後端が前記塗布ローラを通過する所定時間前に前記第2の当接圧力を前記第5の圧力値よりも低い第6の圧力値とすることを特徴とする。
【0030】
塗布時における標準的な第2の当接圧力を「第5の圧力値」とするとき、媒体の後端が塗布ローラを通過する直前に第2の当接圧力を弱くすることで、媒体と塗布ローラの接触ニップ幅が減少し、媒体が途切れた(通過した)際の媒体支持部材への塗布液の転移量を抑えることができる。
【0031】
第11の発明は、第1乃至10の発明のいずれか1項に係る液体塗布装置において、前記塗布ローラの塗布面と接触させる前記媒体の先端位置を検出する媒体位置検出手段を備えることを特徴とする。
【0032】
媒体を塗布ローラに接触させる手前(媒体搬送方向について塗布ローラの上流側)に媒体位置検出手段を配置するなどして、媒体の先端位置を把握し、その情報を基に当接圧可変手段を制御することが好ましい。
【0033】
第12の発明は、第1乃至11の発明のいずれか1項に係る液体塗布装置と、前記液体塗布装置によって第1の液体が塗布された前記媒体に、第2の液体を打滴する液体吐出ヘッドと、を備えたことを特徴とする画像形成装置を提供する。
【0034】
「画像形成装置」は写真プリントやポスター印刷などのいわゆるグラフィック印刷の用途に限定されず、レジスト印刷装置、電子回路基板の配線描画装置、微細構造物形成装置など、画像として把握できるパターンを形成し得る工業用途の装置も包含する。
【0035】
第13の発明は、第12の発明に係る画像形成装置において、前記第2の液体は色材を含有するインクであり、前記第1の液体は前記色材を凝集させる作用を持つ凝集剤であることを特徴とする。
【0036】
本態様によれば、凝集剤の塗布量の精度を向上させることができ、凝集剤不均一による画像ムラ等を防止することができ、高品質の画像形成が可能である。なお、画像形成装置の一態様としてのインクジェット記録装置は、ドットを形成するためのインク液滴を吐出するノズル及び吐出圧を発生させる圧力発生手段(圧電素子や加熱素子など)を有する液体吐出ヘッド(「記録ヘッド」に相当)と、画像データから生成されたインク吐出データに基づいて記録ヘッドからの液滴の吐出を制御する吐出制御手段とを備え、ノズルから吐出した液滴によって記録媒体上に画像を形成する。
【0037】
第14の発明は、媒体に液体を塗布する塗布面を有する塗布ローラと、前記塗布ローラの塗布面に当接することにより液体保持空間を形成し当該液体保持空間から前記塗布面に液体を供給する液体保持ユニットと、前記塗布ローラの前記塗布面に対向し当該塗布ローラとともに前記媒体を挟持する媒体支持部材と、を備える液体塗布装置を用い、前記塗布ローラを回転させることにより前記液体保持ユニットから前記塗布面に液体を供給し、当該塗布面から前記媒体に液体を転写する液体塗布方法であって、前記塗布ローラに対する前記媒体の相対位置に基づいて、前記塗布ローラの前記塗布面と前記液体保持ユニットの間の第1の当接圧力及び前記塗布ローラの前記塗布面と前記媒体の間の第2の当接圧力のうち少なくとも一方の当接圧力を変化させる制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、種々のシート状媒体に対して所要の厚みに均一に液体を塗布することができる。また、媒体が途切れたときの媒体支持部材への塗布液の転移を抑制でき、装置汚染を防止できる。さらに、かかる液体塗布装置を用いて高画質の画像記録が可能な画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0040】
図1は本発明の第1実施形態に係る液体塗布装置の要部構成を示す断面図である。同図に示すように、液体塗布装置10は、塗布対象の媒体Pに接触回転しながら塗布液を塗布する塗布ローラ11と、当該塗布ローラ11に対して媒体P(「シート状記録媒体」に相当)の搬送路を挟んで対向して配置されるバックアップローラ12と、塗布ローラ11の外周面11A(「塗布面」に相当)に処理液Lを供給する処理液保持キャップ14(「液体保持ユニット」に相当)と、を含んで構成される。
【0041】
媒体Pを挟む塗布ローラ11およびバックアップローラ12は、それぞれ媒体Pの搬送方向Sと直交する軸線方向(図1において紙面に垂直方向、以下、「媒体Pの幅方向」という場合がある。)に沿う回転軸11B、12Bを有し、図示せぬローラ支持機構によりそれぞれ回転自在に支持されている。塗布ローラ11は媒体Pの幅方向について、媒体Pの幅寸法以上のローラ幅を有する。
【0042】
バックアップローラ12は、塗布ローラ11のローラ幅と同等或いはそれ以上のローラ幅を有し、不図示の付勢手段によって塗布ローラ11の外周面11Aに向けて付勢されている。
【0043】
塗布ローラ11の回転駆動手段としてモータ16を備え、該モータ16の動力が図示せぬ動力伝達機構(歯車伝動機構やベルト伝動機構など)によって回転軸11Bに伝達されることにより、塗布ローラ11は図1の時計回り方向に回転する。モータ16には、例えば、ステッピングモータが用いられ、該モータ16の駆動制御を介して塗布ローラ11の回転、停止、回転速度などが制御される。バックアップローラ12は塗布ローラ11の回転に従動し、図1の反時計回り方向に回転する。
【0044】
図示せぬ媒体供給機構により、塗布ローラ11とバックアップローラ12のニップ部に供給された媒体Pは、図示せぬ搬送ローラ等の搬送手段により、図1の矢印S方向に一定の速度で搬送される。塗布ローラ11の塗布面(外周面11A)は媒体Pの搬送速度と同等の速度で回転する。
【0045】
この塗布ローラ11及びバックアップローラ12のニップ部の手前(媒体Pの搬送方向に対して上流側)には、媒体Pの位置(枚葉紙先端)を検出するセンサ20が配置されている。媒体Pの先端を検出する手段としては、種々の方式による公知の手段を使用できるが、例えば、発光素子21と受光素子(光電変換素子)22から成る光学的検出装置が好適に使用され、媒体Pの搬送経路に配置される。媒体Pの通過によって受光素子22に入射する光が遮られることにより、受光素子22からの出力信号が変化する。つまり、受光素子22への入射光を遮ったら媒体Pの先端、遮られた状態から光りが入るようになったら後端であることが検知できる。媒体Pの搬送速度と、センサ20の位置から塗布ローラ11の位置までの距離から媒体Pの先端が塗布ローラ11に到達するタイミングを把握できる。なお、透過型のフォトインタラプタに代えて、反射型のセンサを用いることもできる。
【0046】
処理液保持キャップ14は、処理液貯留部26の空間を形成する凹部28A形状を有する空間形成基材28と、塗布ローラ11の外周面11Aに当接する当接部材30とを備える。この当接部材30は、塗布ローラ11の停止時において塗布ローラ11の外周面11Aと密着し、処理液貯留部26からの液漏れを防止するシール部材として機能する。当接部材30の素材としては、ある程度弾性を有するものが好ましく、摺擦抵抗を低くする観点から、硬度30〜80°の範囲であることが好ましい。さらに、かかる硬度範囲のシリコンゴム又はフッ素ゴムであることが好ましい。また、当接部材30は、摩耗した場合に交換できる構成とすることが好ましい。
【0047】
当接部材30を備えた空間形成基材28の背後には、バネ部材などの付勢部材32が設けられており、当該付勢部材32の付勢力によって処理液保持キャップ14は塗布ローラ11の外周面11Aに向けて付勢される。また、この付勢部材32による付勢力を可変調整する手段としてカム33が設けられている。このカム33をモータ18によって駆動制御し、付勢部材32の後端部の押し込み量を制御することにより、処理液保持キャップ14の押し付け圧を制御することができる。このように、付勢部材32を介して処理液保持キャップ14を押し付ける構造を採用することにより、塗布ローラ11が多少摩耗した場合でも押し付け圧を一定化することができる。
【0048】
付勢部材32に対して押し込み量を制御する機構としては、カム機構の他、ラックピニオン、エアシリンダ、ボールネジ、リニアモータ等の手段を使用できるが、コストの観点から好適にはカムが使用される。
【0049】
上記の付勢部材32及びカム33を含んだ押し付け機構により、処理液保持キャップ14の当接部材30が塗布ローラ11の外周面11Aに押し付けられて密着した状態となる。このような当接状態では、塗布ローラ11の外周面11Aと、当接部材30及び空間形成基材28の凹部28Aによって閉塞された処理液貯留部26(「液体保持空間」ともいう。)が形成される。そして、この密閉された液保持空間(処理液貯留部26)に処理液が充填される。
【0050】
処理液貯留部26に処理液が充填された状態で塗布ローラ11を図1の時計回り方向に回転させると、塗布ローラ11は当接部材30に対して摺動し、図1の下側の当接部材30(以下、「下縁部30A」という。)との摺動面を介して処理液貯留部26から塗布ローラ11の外周面11Aに処理液Lが供給される。すなわち、塗布ローラ11の回転に伴い、塗布ローラ11の外周面11Aに処理液Lが付着して処理液貯留部26から塗布ローラ11が出て行く。このように、当接部材30の下縁部30Aは、塗布ローラ11の外周面11Aに対する処理液の出口部分(供給部)を構成する摺動部材として機能する。こうして、塗布ローラ11に付与された処理液Lは、当該塗布ローラ11の回転とともに媒体Pに接触し、媒体Pに転写される。
【0051】
一方、図1の上側に位置する当接部材30(以下、「上縁部30B」という。)は、塗布ローラ11が処理液貯留部26に戻る際の入り口(戻り口)部分の摺動部材として機能する。
【0052】
図2は、処理液保持キャップ14を当接部材30側から見た平面図である。本例の当接部材30は、継ぎ目のない環(リング)状に形成されており、図1で説明した付勢部材32の付勢力によって塗布ローラ11の外周面11Aに密着状態で当接する。この当接部材30で囲まれる処理液貯留部26は、塗布ローラ11(図1参照)の液体塗布幅と同等の開口幅Wを有する(図2参照)。
【0053】
空間形成基材28の背面側には、処理液貯留部26の空間に連通する貫通孔による液体供給口34と液体排出口36とが形成されている。図3に示すように、液体供給口34と液体排出口36にはそれぞれ処理液の供給流路44と回収流路46が接続されており、ポンプ48の駆動により、処理液貯留部26に対する処理液の供給および処理液貯留部26からの処理液の強制排出が可能となっている。
【0054】
図3は、処理液保持キャップ14に接続される処理液供給装置40の概略構成図である。処理液供給装置40は、処理液41を貯蔵する貯蔵タンク42と、該貯蔵タンク42から処理液保持キャップ14の液体供給口34に処理液を導く供給流路44と、処理液保持キャップ14の液体排出口36から貯蔵タンク42に処理液を戻す回収流路46と、ポンプ48と、供給流路44の途中に設けられる切換弁(ここでは、三方弁)50と、を含んで構成される。
【0055】
供給流路44の一端は処理液保持キャップ14の液体供給口34に連結され、他端は貯蔵タンク42の液層内に繋がっている。この供給流路44は、切換弁50により、流路の開閉、大気との連通、遮断を切り換えることができる。
【0056】
回収流路46の一端は処理液保持キャップ14の液体排出口36に連結され、他端は貯蔵タンク42の液層内に繋がっている。ポンプ48は、回収流路46の途中(好ましくは、貯蔵タンク42の近く)に設けられ、図3の矢印方向に液体または空気を強制的に流動させる流れを発生させる。
【0057】
貯蔵タンク42には、大気連通口52が設けられており、当該大気連通口52には、大気との連通および遮断を切り換える大気連通弁54が設けられている。
【0058】
<制御系の説明>
図4は、本実施形態に係る液体塗布装置10の制御系の構成を示すブロック図である。
【0059】
図4において、制御部60(「制御手段」に相当)は、液体塗布装置10の全体を統括して制御する制御手段である。制御部60は、所定のプログラムに従い各種の処理を実行するCPU(Central Processing Unit)61と、前記プログラムや各種データなどを格納するROM(Read OnlyMemory)62と、各種の処理に用いられるデータなどを一時的に格納するRAM(Random AccessMemory)63を含んで構成されている。
【0060】
入力操作部66は、所定の指令あるいはデータの入力などに用いるキーボード、マウス(あるいは各種スイッチなど)を含んで構成されている。表示部68は、入力操作部66とともにユーザインターフェースを構成するものであり、制御部60と連携して各種の表示を行う。表示部68は、例えば、液晶表示装置によって構成される。
【0061】
液体塗布装置10は、媒体P(図1参照)の位置を検出するセンサ(図1の符号20で説明した媒体位置検出用センサ)、その他、各部の動作状態を検出するセンサなどを含む検出部70を備える。検出部70からの信号は制御部60に送られ、ローラ駆動その他の動作制御に利用される。
【0062】
また、液体塗布装置10は、塗布ローラ11(図1参照)を駆動するモータ16(図4中「塗布ローラ駆動モータ」と記載)、カム33(図1参照)を駆動するモータ18(図4中「カム駆動モータ」と記載)、ポンプ48(図4参照)、切換弁50、大気連通弁54、並びにこれら各要素に対応する駆動回路80、82、84、86、88を備えており、制御部60はプログラムにしたがって各駆動回路80〜88に制御信号を送り、各要素の動作を制御する。
【0063】
次に、上記のごとく構成された本実施形態に係る液体塗布装置10において、塗布ローラ11と処理液保持キャップ14(以下、単に「キャップ」と記載する場合がある。)間の押し付け圧力を枚葉紙(媒体P)が途切れる前後で制御する方法について説明する。
【0064】
<制御例1:キャップ押し付け圧力の制御について>
塗布ローラ11上の処理液の膜厚は、塗布ローラ11と処理液保持キャップ14間の押し付け圧で制御できる。すなわち、塗布ローラ11上の処理液の膜厚は、塗布ローラ11とキャップ14の間隙及びニップ幅を制御することで制御できる。
【0065】
本実施形態では、枚葉紙後端が塗布ローラ11を過ぎる直前にキャップ14の押し付け圧を強くして塗布ローラ11上の処理液膜厚を減らす。そして、次の枚葉紙の先端が塗布ローラ11に差し掛かる直前には、キャップ14の押し付け圧を弱くして塗布ローラ11上の処理液膜厚を増やす。この際に、塗布量の均一性が保たれるように、キャップ14の押し付け圧を制御する時間プロファイルを制御する(図5参照)。
【0066】
図5にその一例を示す。図5中(a)は媒体P上の塗布膜厚を示し、(b)はバックアップローラ上に転移した処理液膜厚を示す。(c)は塗布ローラ11上の処理液膜厚であり、ここでは、処理液保持キャップ14の供給側(出口側)の当接部材30(30A)との当接位置における塗布ローラ11上の処理液膜厚を示している。また、図5(d)は(a)〜(c)の膜厚を実現するキャップの押し付け圧である。いずれも横軸は時間であり、(d)に示すキャップの押し付け圧を制御する時間プロファイルと、膜厚の関係を対応させてある。ここでは、媒体P上に3μmの膜厚で処理液を塗布することを目標とした設計例を示す。
【0067】
図5(a)に示した時間t1〜t2の区間が塗布ローラ11と媒体Pが接触する時間(枚葉紙の通過時間)を表している。この間、バックアップローラ12には処理液は付着しない((b)参照)。
【0068】
図5(c)で示した塗布ローラ11のキャップ当接位置(キャップ出口位置)から塗布点(媒体Pとの接触点)までローラ面が回転するために時間ΔTを要することから、この時間ΔTの分だけ、キャップ14の押し付け圧の制御タイミングと、媒体P上への塗布タイミングとに時間差が生じている。つまり、(a)に示す塗布膜厚を実現するために、ΔTの時間差を見込んで、時刻t1よりもΔT手前のタイミング(t0)でキャップ押し付け圧の制御を開始する。なお、塗布ローラ11の直径が20mmの場合、ΔTは0.5〜2.0秒程度である。
【0069】
図5(d)に示すように、媒体Pへの塗布を停止しているとき(非塗布時)のキャップ押し付け圧P0を、例えば20kPaとする。媒体Pの供給により、媒体Pの先端が塗布ローラ11に接触する時刻(t1)よりもΔTだけ手前のタイミング(t0)でキャップ14の押し付け圧をP(「第1の圧力値」に相当)とし、その後時刻taのタイミングで押し付け圧をP(「第2の圧力値」に相当)とする(ただし、t0<ta<t1,0<P<P<P)。
【0070】
このように、制御プロセスの初期段階(t0〜t)において、安定塗布動作時の押し付け圧Pよりも一層弱い押し付け圧Pに制御することの作用効果は、次のとおりである。すなわち、キャップ14からの処理液の送り出し開始直後は、塗布ローラ11面に対する処理液の供給量が規定量よりも不足する。この不足量を補うために、制御開始直後の初期段階(t0〜t)において、押し付け圧を一層弱くして処理液の供給量を増やす。そして、この初期供給量不足が解消されたタイミング(t)で押し付け圧を標準の値(P)に戻す。こうすることで、塗布開始時における液体ビード(図1の符号92部分)が早期に安定化し、均一塗布を実現できる。
【0071】
その後、(d)に示すとおり、一定の押し付け圧Pを維持し、媒体Pの後端部(時刻t〜t)で再び押し付け圧を強くしてP0(「第3の圧力値」に相当)に戻し、処理液の供給を絞る。
【0072】
これにより、塗布が必要な領域について一定膜厚の均一塗布が可能であるとともに、塗布が不要な領域についてバックアップローラ12の汚染を防止できる。
【0073】
<第2実施形態(制御例2):塗布ローラの押し付け圧力の制御について>
上記第1実施形態では、処理液保持キャップ14の押し付け圧を制御する例を説明したが、以下に述べる第2実施形態では、塗布ローラ11をキャップ14の方向に移動させることによって、塗布ローラ面と処理液保持キャップ14間の押し付け圧を制御するとともに、塗布ローラ11とバックアップローラ12との間のニップ圧を制御する。
【0074】
図6は、第2実施形態の構成図である。図6中図1と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。なお、図6では、図示の便宜上、塗布ローラ11を回転駆動するモータ16を省略した。
【0075】
図6に示した液体塗布装置100は、塗布ローラ11を同図の白抜き矢印Eの方向に移動させる移動機構(不図示)を備えている。当該移動機構に支持されている塗布ローラ11はモータ19の動力により、矢印E方向に平行移動可能である。図示の矢印E方向は、塗布ローラ11の塗布点(媒体Pとの接触点)と、キャップ14の処理液出口(供給)側の当接部材30(下縁部30A)とを結ぶ直線の方向であり、本例の場合、媒体Pの面に対して垂直の方向である。
【0076】
このような移動方向に沿って、塗布ローラ11をキャップ14に近づける方向に移動させると、キャップ14の処理液出口(供給)側の当接部材30(下縁部30A)との間の押し付け圧力は増加し、キャップ14の処理液戻り口(回収)側の当接部材30(上縁部30B)との間の押し付け圧力は減少する。これにより、塗布ローラ面への処理液の供給を抑制しつつ、塗布ローラ面上の余剰液を効果的に回収することができる。
【0077】
図6に示す構造において、塗布ローラ11を矢印E方向に移動させることにより、塗布ローラ11とキャップ14間の押し付け圧を変えるとともに、塗布ローラ11と媒体Pとの接触具合(塗布ローラ11と媒体Pとの接触ニップ幅、或いは、塗布ローラ11とバックアップローラ12とによるニップ圧)を制御する。
【0078】
すなわち、媒体Pの後端が塗布ローラを過ぎる直前に塗布ローラを媒体Pから離す側に移動させると、キャップ14の押し付け圧が上がり塗布ローラ11上の処理液膜厚が減少するとともに、媒体Pと塗布ローラ11の接触ニップ幅(媒体Pに対する塗布ローラ11の接触部の搬送方向Sに沿った距離)が減るため、転移量が減少する。このとき、塗布ローラ11を媒体Pから完全に離しても良いが、その場合は、媒体Pの搬送を補佐する機構を設けることが必要である。
【0079】
その後、次の媒体Pの先端が塗布ローラ11に差し掛かる直前には、塗布ローラ11を媒体P方向(バックアップローラ12の方向)に移動してキャップ14の押し付け圧を弱くして塗布ローラ11上の処理液膜厚を増やすとともに、媒体Pと塗布ローラ11の接触ニップ幅を増やして転移量を増加させる。この際に、媒体P上での塗布量の均一性が保たれるように塗布ローラ移動の時間プロファイルを制御する。
【0080】
図7にその制御の一例を示す。図7中(a)は媒体P上の塗布膜厚を示し、(b)はバックアップローラ上に転移した処理液膜厚を示す。(c)はキャップの押し付け圧、(d)は接触ニップ幅である。いずれも横軸は時間であり、(c),(d)に示すキャップの押し付け圧を制御する時間プロファイルと、膜厚の関係を対応させてある。ここでは、媒体P上に3μmの膜厚で処理液を塗布することを目標とした設計例を示す。
【0081】
本例によれば、図7(b)から明らかなように、枚葉紙の通過範囲以外の領域におけるバックアップローラ12への処理液の転移量が少なくなる(図5(b)と比較)。
【0082】
また、図7(d)に示す接触ニップ幅に注目すると、媒体Pへの塗布を停止しているとき(非塗布時)の接触ニップ幅がWであり、媒体Pの先端が塗布ローラ11に接触する時刻(t1)よりもΔTだけ手前のタイミング(t0)で接触ニップ幅はW(例えば2mm)となる。その後時刻taのタイミングで接触ニップ幅をW(例えば1.7mm)とする。安定塗布動作中は接触ニップ幅Wを維持し、媒体Pの後端部(時刻t〜t)で接触ニップ幅をWに戻し、処理液の供給を絞りつつ、媒体Pへの転移量を減少させる。
【0083】
これにより、一定膜厚の均一塗布が可能であるとともに、塗布が不要な領域についてバックアップローラ12の汚染を防止できる。
【0084】
なお、本例における接触ニップ幅Wは「第4の圧力値」に相当する当接圧力で実現される接触ニップ幅である。また、Wは「第5の圧力値」に相当する当接圧力で実現される接触ニップ幅であり、Wは「第6の圧力値」に相当する相当する当接圧力で実現される接触ニップ幅である。
【0085】
上述した第2実施例に係る液体塗布装置100における制御系の構成は、図4のカム駆動モータ(符号18)に代えて、塗布ローラ11の移動機構を駆動するためのモータ19(図6参照)を備えるものとなる。その他は図4と同様であるため、ブロック図の提示は省略する。
【0086】
<塗布工程の説明>
図8は、液体塗布装置10、100の動作シーケンスを示すフローチャートである。当該動作は図4で説明した制御部60の制御によってプログラムに従い実行される。
【0087】
まず、本シーケンスの開始時における初期状態では処理液貯留部26に処理液は導入されておらず、空(カラ)の状態であるため、ステップS10では、処理液保持キャップ14の処理液貯留部26に処理液を充填する工程を実行する。この充填工程は、供給流路44の切換弁50を供給流路側(供給流路44を開通させる状態)にするとともに、貯蔵タンク42の大気連通弁54を開け、貯蔵タンク42を大気連通させた状態でポンプ48を一定時間駆動する。
【0088】
これにより、内部の空気が貯蔵タンク42へと送られ、貯蔵タンク42から大気へ排気されるとともに、供給流路44、処理液貯留部26、回収流路46の各部に処理液が充填される。こうして、処理液貯留部26と接する塗布ローラ11に対して処理液を供給できる状態になる。かかる初期充填が完了する時間を見込んでポンプ48の駆動時間が設定されている。所定時間駆動後、ポンプ48は停止される。
【0089】
その後、塗布開始指令の有無を判断する(ステップS12)。塗布開始指令の信号は、媒体Pの搬送に連動して発せられる。媒体Pが塗布ローラ11とバックアップローラ12のニップ部に到達するタイミングで処理液の塗布が開始されるように、所定の時間差で塗布開始指令信号が発せられる。
【0090】
塗布開始指令が入力され、ステップS12においてYES判定となると、ポンプ48を作動させるとともに(ステップS14)、塗布ローラ11を図1の時計回り方向に回転させるローラ駆動を開始する(ステップS16)。この塗布ローラ11の回転により、空間形成基材28内の処理液が塗布ローラ11表面上に供給される。
【0091】
こうして、塗布ローラ11の外周面11Aに処理液が層状態となって付着する。塗布ローラ11の周面上に付着した処理液は塗布ローラ11の回転とともに、バックアップローラ12との当接部に送られる。
【0092】
次いで、媒体搬送機構によって媒体Pが搬送されることにより、塗布ローラ11とバックアップローラ12の間に媒体Pが供給される。両ローラ11,12間にニップされた媒体Pは、ローラ間を通過する際に、塗布ローラ11の外周面の処理液が媒体Pに転写される(ステップS18)。この塗布動作の際に、図5、図7で説明した押し付け圧力の制御が行われる。
【0093】
上述した媒体Pへの塗布動作が実行されると、制御部60は塗布動作の終了タイミングの判断を行う(図8のステップS20)。媒体Pの全面に塗布を行う場合、媒体Pが通過し終えるまで、ステップS20の判断はNO判定となり、ステップS18に戻る。
【0094】
媒体Pの後端が通過するタイミングが検知される、或いは指定枚数のジョブの終了が検知されるなど、必要な塗布範囲の塗布工程が終了したと判断した場合(ステップS20においてYES判定時)、塗布ローラ11を停止させる(ステップS22)。
【0095】
また、塗布ローラ11の停止(ステップS22)とともに、ポンプ48を停止させる(ステップS24)。ステップS24の後は、ステップS12に戻る。
【0096】
ステップS12において、塗布開始指令が新たに入力されていれば、上述したステップS14〜ステップS24の処理を繰り返す。その一方、ステップS12において、塗布開始指令が入力されていなければ、ステップS30に進み、塗布の終了指令の有無を判定する(ステップS30)。終了指令は、タイマーなどの時間管理によって規定の待機時間を経過したら自動的に終了指令が発せられる態様、指定した媒体枚数の塗布が終了することによって発せられる態様、入力操作部66からの操作による態様、装置の電源OFF操作など様々な態様があり得る。
【0097】
終了指令が入力されなければ、ステップS12に戻る。ステップS30において終了指令が入力されると、ステップS32の後処理工程へと進む。この後処理工程(ステップS32)は、処理液保持キャップ14の処理液貯留部26およびこれに繋がる供給流路44、回収流路46内の処理液を貯蔵タンク42に回収する動作を行う。
【0098】
当該回収動作は、切換弁50を大気開放するとともに、貯蔵タンク42の大気連通弁54を開け、ポンプ48を一定時間駆動することによって行う。各部内に残った処理液を全て貯蔵タンク42に流入させるために十分なポンプ駆動時間が設定される。
【0099】
回収動作後は、大気連通弁54を閉じるとともに、切換弁50を閉じ、供給流路44を遮断するとともに、大気との連通を遮断する。これにより、貯蔵タンク42を大気から遮断し、蒸発や外部流出を防止する。
【0100】
<画像形成装置への適用例>
図9は本発明による液体塗布装置を備えた画像形成装置の一例に係るインクジェット記録装置の構成図である。
【0101】
このインクジェット記録装置110は、記録媒体112(図1で説明した「媒体P」に相当)を供給する給紙部114と、給紙部114から送りされた記録媒体112に処理液を塗布する処理液塗布部116と、処理液塗布後の記録媒体112にインクを打滴するインク打滴部118と、インク打滴部118によって画像形成された記録媒体112が排出される排出トレイ120を備えている。
【0102】
給紙部114には、所定サイズの枚葉紙による複数枚の記録媒体112が装填される給紙カセットを用いる方式が採用されている。複数種類のサイズの用紙を供給できるように、複数の給紙カセットを設けてもよい。また、枚葉紙に代えて、ロール紙(連続紙)を用い、カッターによって適宜のサイズに切断する態様も可能である。
【0103】
給紙部114に載置された記録媒体112は、給紙ローラ130によって1枚ずつ繰り出され、搬送路132に送られる。搬送路132の経路中に設けられた処理液塗布部116には、図1〜図8で説明した液体塗布装置10または100の構成が採用されている。図9中、図1〜図8で説明した液体塗布装置10、100と同一又は類似の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。なお、図9では、図示の便宜上、液体塗布装置10、100のうち処理液保持キャップ14の部分のみを示した。
【0104】
処理液塗布部116の塗布ローラ11によって処理液が塗布された記録媒体112は、搬送ローラ対134,135によりプラテン136上を搬送される。
【0105】
インク打滴部118は、処理液保持キャップ14よりも媒体搬送方向の下流に設けられている。本例のインク打滴部118は、イエロー(Y),マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクにそれぞれ対応したインクジェット方式の記録ヘッドによって構成されている。図には示されていないが、各色の記録ヘッドには、それぞれ図示せぬインクタンクから対応する色のインクが供給される。
【0106】
インク打滴部118の各色の記録ヘッドは、それぞれ記録媒体112における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有し、そのインク吐出面には画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたフルライン型のヘッドとなっている。
【0107】
各色の記録ヘッドは記録媒体112の搬送方向と直交する方向(図9の紙面に垂直な方向)に延在するように固定設置され、プラテン136上の記録媒体112に向けてそれぞれ対応する色インクの液滴を吐出する。
【0108】
このように、記録媒体112の画像形成領域の全幅をカバーするノズル列を有するフルラインヘッドがインク色毎に設けられる構成によれば、記録媒体112の搬送方向(副走査方向)について、記録媒体112と記録ヘッドを相対的に移動させる動作を1回行うだけで(即ち1回の副走査で)、記録媒体112の画像形成領域に画像を記録することができる。
【0109】
フルライン型のヘッドに代えて、記録媒体112の搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に往復動作するシリアル(シャトル)型ヘッドを採用する態様も可能であるが、フルライン型(ページワイド)ヘッドによるシングルパス方式の画像形成は、シリアル(シャトル)型ヘッドによるマルチパス方式を適用する場合に比べて高速印字が可能であり、プリント生産性を向上させることができる。
【0110】
また、本例では、CMYKの4色の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出する記録ヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
【0111】
本例のインクジェット記録装置110で使用するインクとしては、液体の溶媒に色材が分子の状態(イオンの状態でもよい)で溶解している染料インク、液体の溶媒に色材が微小な塊の状態で分散している顔料インクなどが挙げられる。
【0112】
一方、処理液は、インクと混合した場合に色材の凝集体を生成する液体である。具体的には、インクと反応してインク中の色材を析出あるいは不溶化させる処理液、インク中の色材を含む半固体状の物質(ゲル)を生成する処理液等が挙げられる。
【0113】
インクと処理液との反応を引き起こす手段は、インク中のアニオン性の色材と処理液中のカチオン性の化合物を反応させる方法、互いにpHの異なるインクと処理液を混合させることでインクのpHを変化させてインク中の顔料の分散破壊を起こし顔料を凝集させる方法、処理液中の多価金属塩との反応によりインク中の顔料の分散破壊を起こし顔料を凝集させる方法、などがある。
【0114】
例えば、本実施形態のインク打滴部118から打滴されるインクに含有される色材を凝集させる作用を有する処理液の例は、凝集処理剤として多価金属塩、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン誘導体、酸性液体、カチオン性界面活性剤などを含んでなるものである。このような処理液によって記録媒体112上の色材の凝集を促進することにより、記録濃度の向上と、ブリーディングの軽減または防止が可能となる。
【0115】
インク打滴部118からのインク打滴により画像が形成された記録媒体112(記録済みの媒体)は、排出ローラ対144,145によって、排出トレイ120に排出される。
【0116】
なお、記録媒体112の搬送路132には記録媒体112の先端を検出する媒体先端検出センサ151、152が配置されている。第1の媒体先端検出センサ151は、図1の符号20で説明したセンサと等価なものであり、塗布ローラ11の給紙側入口の近傍に配置されている。第2の媒体先端検出センサ152は、インク打滴部118の給紙側入口の近傍に配置されている。
【0117】
これらセンサ(151,152)によって記録媒体112の位置を検出して、処理液の塗布タイミング、塗布ローラ11及びバックアップローラ12の回転駆動、インクの打滴タイミングなどが制御される。
【0118】
<処理液の例>
本発明による液体塗布装置10、100によって塗布する液体は、所定粘度の範囲であればいかなる液体も適用できるが、図9に示したインクジェット記録装置においては、以下に示す凝集処理液剤が好ましく使用できる。
【0119】
すなわち、インクと反応する処理液(反応液)の例は、反応剤として多価金属塩、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン誘導体、酸性液体、カチオン性界面活性剤などを含んでなるものである。
【0120】
反応剤が多価金属塩である場合、その好ましい例としては、二価以上の多価金属イオンとこれら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成され、水に可溶な塩が挙げられる。多価金属イオンの具体例としては、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+などの二価金属イオンAl3+、Fe3+、Cr3+などの三価金属イオンがあげられる。陰イオンとしては、Cl- 、NO3-、I- 、Br- 、ClO3-よびCH3COO- などがあげられる。
【0121】
とりわけ、Ca2+またはMg2+より構成される金属塩は、反応液のpH、得られる印刷物の品質という二つの観点から、好適な結果を与える。
【0122】
これら多価金属塩の反応液中における濃度は印字品質等の観点から適宜決定されてよいが、好ましくは0.1〜40重量%程度であり、より好ましくは5〜25重量%程度である。
【0123】
本発明の好ましい態様においては、反応液に含まれる多価金属塩は、二価以上の多価金属イオンと、これら多価金属イオンに結合する硝酸イオンまたはカルボン酸イオンとから構成され、水に可溶なものである。
【0124】
ここで、カルボン酸イオンは、好ましくは炭素数1〜6の飽和脂肪族モノカルボン酸または炭素数7〜11の炭素環式モノカルボン酸から誘導されるものである。炭素数1〜6の飽和脂肪族モノカルボン酸の好ましい例としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、ヘキサン酸などが挙げられる。特に蟻酸、酢酸が好ましい。
【0125】
このモノカルボン酸の飽和脂肪族炭化水素基上の水素原子は水酸基で置換されていてもよく、そのようなカルボン酸の好ましい例としては、乳酸が挙げられる。
【0126】
さらに、炭素数6〜10の炭素環式モノカルボン酸の好ましい例としては、安息香酸、ナフトエ酸等が挙げられ、より好ましくは安息香酸である。
【0127】
反応剤として好ましく用いられるポリアリルアミン及びポリアリルアミン誘導体は水に可溶で、水中でプラスに荷電するカチオン系高分子である。例えば、下記の式(I)、式(II)、および式(III)が挙げられる。
【0128】
【化1】

【0129】
(式中、X- は塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硝酸イオン、燐酸イオン、硫酸イオン、酢酸イオン等を表す)
これら以外にもアリルアミンとジアリルアミンが共重合したポリマーやジアリルメチルアンモニウムクロライドと二酸化硫黄との共重合体を使用することもできる。これらポリアリルアミン及びポリアリルアミン誘導体の含有量は、反応液の0.5〜10重量%であることが好ましい。
【0130】
また、処理液の成分として、以下のような酸を用いることも好ましい。ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ビリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等の中から選ばれることが好ましい。
【0131】
本発明の好ましい態様によれば、反応液は高沸点有機溶媒からなる湿潤剤を含んでいてもよい。高沸点有機溶媒は、反応液の乾燥を防ぐ。高沸点有機溶媒の好ましい例としては、前記ポリオールとも一部重なるが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの多価アルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルなどの多価アルコールのアルキルエーテル類、尿素、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、トリエタノールアミンなどがあげられる。
【0132】
高沸点有機溶媒の添加量は特に限定されないが、好ましくは0.5〜40重量%程度であり、より好ましくは2〜20重量%程度である。
【0133】
本発明の好ましい態様によれば、反応液は低沸点有機溶剤を含んでいてもよい。低沸点有機溶剤の好ましい例としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、iso−ブタノール、n−ペンタノールなどがあげられる。特に一価アルコールが好ましい。低沸点有機溶剤は、インクの乾燥時間を短くする効果がある。低沸点有機溶剤の添加量は0.5〜10重量%が好ましく、より好ましくは1.5〜6重量%の範囲である。
【0134】
本発明の好ましい態様によれば、反応液は浸透剤を含んでいてもよい。浸透剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の各種界面活性剤、メタノール、エタノール、iso−プロピルアルコール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテルなどがあげられる。
【0135】
なお、反応液は後記のインク組成物の項で説明するカラー着色剤を添加して着色され、インク組成物の機能を兼ね備えたものとされてもよい。
【0136】
塗布液(処理液)の粘度は10mPa・s〜200mPa・sの間であることが好ましい。また、10mPa・s〜100mPa・sであることがさらに好ましく、10mPa・s〜50mPa・sであることが特に好ましい。
【0137】
塗布液体の粘度を上記の粘度範囲に調節する手段としては、上述の高沸点有機溶媒の種類、添加量によって合わせる方法、水溶性高分子を添加することによって合わせる方法などがある。
【0138】
水溶性高分子としては水溶性高分子であれば如何なる水溶性高分子であってもかまわない。ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、増粘多糖類等を用いることができるが、少量添加で増粘効果が大きい点からポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、増粘多糖類が特に好ましい。分子量としては10000〜500000程度が好ましい。
【0139】
<インクの例>
本実施形態で使用するインクとしては、例えば、特開2006−142665号公報に記載されている公知のインクを用いることができる。すなわち、同文献の記載を引用して紹介すると、本実施形態で使用される顔料インクの顔料は、顔料インクの全重量に対して、重量比で1〜20重量%、好ましくは2〜12重量%の範囲で用いられる。ブラック顔料としては、カーボンブラックが挙げられ、例えば、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックであって、一次粒子径が15〜40mμ(nm)、BET法による比表面積が50〜300m/g、DBP吸油量が40〜150ml/100g、揮発分が0.5〜10%、pH値が2〜9等の特性を有するものが好ましく適用できる。この様な特性を有する市販品としては、例えば、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、No.2200B(以上、三菱化成製)、RAVEN1255(以上、コロンビア製)、REGAL400R、REGAL330R、REGAL660R、MOGUL L(以上、キャボット製)、Color Black FWl、COLOR Black FW18、Color Black S170、Color Black S150、Printex 35、PrintexU(以上、デグッサ製)等が挙げられる。
【0140】
また、イエローの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 1、C.I.Pigment Yellow 2、C.I.Pigment Yellow 3、C.I.Pigment Yellow 13、C.I.Pigment Yellow 16、C.I.Pigment Yellow 83等が挙げられる。
【0141】
更に、マゼンタの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 5、C.I.PigmentRed 7、C.I.Pigment Red12、C.I.Pigment Red 48(Ca)、C.I.Pigment Red 48(Mn)、C.I.Pigment Red 57(Ca)、C.I.Pigment Red 112、C.I.PigmentRed 122等が挙げられる。
【0142】
更に、シアンの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue 1、C.I.PigmentBlue 2、C.I.Pigment Blue3、C.I.Pigment Blue 15:3、C.I.Pigment Blue 16、C.I.PigmentBlue 22、C.I.Vat Blue4、C.I.Vat Blue 6等が挙げられる。なお、以上の他、自己分散型顔料など新たに製造された顔料も、勿論、使用することは可能である。
【0143】
顔料の分散剤としては、水溶性樹脂であればどの様なものでもよい。但し、重量平均分子量が1,000〜30,000の範囲のものが好ましく、更に3,000〜15,000の範囲のものであればより好ましい。具体的には、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びその誘導体等から選ばれた少なくとも2つ以上の単量体(このうち少なくとも1つは親水性の重合性単量体)からなるブロック共重合体、或いは、ランダム共重合体、グラフト共重合体、又はこれらの塩等が挙げられる。更に、ロジン、シェラック、デンプン等の天然樹脂も、好ましい状態で使用することができる。これらの樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶であり、アルカリ可溶型樹脂である。尚、これらの顔料分散剤として用いられる水溶性樹脂は、顔料インクの全重量に対して0.1〜5重量%の範囲で含有させるのが好ましい。
【0144】
上記した顔料が含有されている顔料インクの場合には、顔料インクの全体が中性又はアルカリ性に調整されていることが好ましい。この様なものとすれば、顔料分散剤として使用される水溶性樹脂の溶解性を向上させ、長期保存性に一層優れた顔料インクとすることができるからである。但し、この場合、インクジェット記録装置に使われている種々の部材の腐食の原因となる恐れがあるので、出来れば、7〜10のpH範囲に調整されていることが望まれる。この際に使用されるpH調整剤としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の各種有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等の無機アルカリ剤、有機酸や鉱酸等が挙げられる。上記した顔料及び分散剤である水溶性樹脂は、水性液媒体中に分散又は溶解される。
【0145】
本実施形態の顔料インクにおいて、好適に用いられる水性液媒体は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である。この場合、水としては種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用することが好ましい。
【0146】
水と混合して使用される水溶性有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。これらの多くの水溶性有機溶剤の中でも、ジエチレングリコール等の多価アルコール、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテルがより好ましく適用できる。
【0147】
上記した水溶性有機溶剤の顔料インク中の含有量は、一般的には、顔料インクの全重量の3〜50重量%の範囲、より好ましくは3〜40重量%の範囲で使用する。又、使用される水の含有量としては、顔料インクの全重量の10〜90重量%、好ましくは30〜80重量%の範囲とする。
【0148】
又、本実施形態に適用可能な顔料インクとしては、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つ顔料インクとする為に、界面活性剤、消泡剤、防腐剤等を適宜に添加することができる。特に浸透促進剤として機能する界面活性剤は、記録媒体に顔料インクの液体成分を速やかに浸透させる役割を担うための適量を添加することが強く望まれる。添加量としては、0.05〜10重量%、更には0.5〜5重量%がより好適である。アニオン性界面活性剤の例としては、カルボン酸塩型、硫酸エステル型、スルホン酸塩型、燐酸エステル型等、一般に使用されているものを何れも好ましく使用することができる。
【0149】
上記顔料インクの作製方法としては、始めに、分散剤としての水溶性樹脂と、水とが少なくとも含有された水性媒体に上記顔料を添加し、混合撹拌する。その後、後述の分散手段を用いて分散を行い、必要に応じて遠心分離処理を行って所望の分散液を得る。次に、この分散液にサイズ剤、及び、上記で挙げた様な適宜に選択された添加剤成分を加え撹拌して顔料インクとする。
【0150】
尚、分散剤としてアルカリ可溶型樹脂を使用する場合には、樹脂を溶解させる為に塩基を添加することが要される。この際の塩基類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミンメチルプロパノール、アンモニア等の有機アミン、或いは水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基が好ましく適用できる。
【0151】
又、顔料が含有されている顔料インクの作製方法においては、顔料を含む水性媒体を攪拌し、分散処理する前に、プレミキシングを30分間以上行うのが効果的である。何故なら、この様なプレミキシング操作は、顔料表面の濡れ性を改善し、顔料表面への分散剤の吸着を促進することができるからである。
【0152】
上記した顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機なら、如何なるものでもよいが、例えば、ボールミル、ロールミル及びサンドミル等が挙げられる。その中でも、高速型のサンドミルが好ましく使用される。この様なものとしては、例えば、スーパーミル、サンドグラインダー、ビーズミル、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミル(何れも商品名)等が挙げられる。
【0153】
又、一般に顔料インクを適用するインクジェット記録装置においては、吐出口の目詰りを極力防止するために、最適な粒度分布を有する顔料を選択し、これを適用する。この際、所望の粒度分布を得るための方法としては、分散機の粉砕メディアのサイズを小さくする、粉砕メディアの充填率を大きくする、処理時間を長くする、吐出速度を遅くする、粉砕後フィルタや遠心分離機等で分級する、及びこれらの手法を組合せて適用する、等の手法を採用することが出来る。
【0154】
上述した本実施形態に係るインクジェット記録装置110によれば、記録媒体112に対して必要とされる数μm程度の厚みの処理液膜を均一に塗布することができ、高画質な画像記録が可能である。
【0155】
上述の実施形態では、印刷用のインクジェット記録装置への適用を例に説明したが、本発明の適用範囲はこの例に限定されない。例えば、電子回路の配線パターンを描画する配線描画装置、マテリアルデポジション用の材料を用いて微細構造物を形成する微細構造物形成装置など、液状機能性材料を用いて様々な形状やパターンを得る装置にも広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0156】
【図1】本発明の実施形態に係る液体塗布装置の要部構成を示す断面図
【図2】処理液保持キャップの平面図
【図3】処理液保持キャップに接続される処理液供給装置の概略構成図
【図4】本実施形態に係る液体塗布装置の制御系の構成を示すブロック図
【図5】本実施形態によるキャップの押し付け圧力の制御例を示す図
【図6】本発明の他の実施形態に係る液体塗布装置の要部構成を示す断面図
【図7】図6に示した形態における塗布ローラの押し付け圧力の制御例を示す図
【図8】液体塗布装置の動作シーケンスを示すフローチャート
【図9】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の構成図
【符号の説明】
【0157】
10…液体塗布装置、11…塗布ローラ、11A…外周面、12…バックアップローラ、14…処理液保持キャップ、16…モータ、18…モータ、20…センサ、26…処理液貯留部、28…空間形成基材、32…付勢部材、33…カム、60…制御部、110…インクジェット記録装置、112…記録媒体、118…インク打滴部、P…媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の媒体に液体を塗布する塗布面を有する塗布ローラと、
前記塗布ローラの塗布面に当接することにより液体保持空間を形成し当該液体保持空間から前記塗布面に液体を供給する液体保持ユニットと、
前記塗布ローラの前記塗布面に対向し当該塗布ローラとともに前記媒体を挟持する媒体支持部材と、を備え、
前記媒体支持部材と前記塗布ローラによって前記媒体を挟持しつつ前記塗布ローラを回転させることにより前記液体保持ユニットから前記塗布面に液体を供給し、当該塗布面から前記媒体に液体を転写する液体塗布装置であって、
前記塗布ローラの前記塗布面と前記液体保持ユニットの間の第1の当接圧力及び前記塗布ローラの前記塗布面と前記媒体の間の第2の当接圧力のうち少なくとも一方の当接圧力を変化させる当接圧力可変手段と、
前記塗布ローラに対する前記媒体の相対位置に基づいて前記当接圧力可変手段を制御して前記少なくとも一方の当接圧力を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする液体塗布装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体塗布装置において、
前記液体保持ユニットには、前記塗布ローラの塗布面との接触部に弾性体からなる当接部材が設けられていることを特徴とする液体塗布装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体塗布装置において、
前記当接圧力可変手段は、前記液体保持ユニットを前記塗布ローラの塗布面に向けて押し付ける可動機構であることを特徴とする液体塗布装置。
【請求項4】
請求項3に記載の液体塗布装置において、
前記可動機構は、前記塗布ローラの塗布面に向けて前記液体保持ユニットを付勢する付勢部材と、前記付勢部材の変形量を変化させるカムと、を含んで構成されることを特徴とする液体塗布装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の液体塗布装置において、
前記当接圧可変手段は、前記塗布ローラを前記媒体から離す方向及び前記媒体に押し付ける方向に移動させ得る移動手段であることを特徴とする液体塗布装置。
【請求項6】
請求項5に記載の液体塗布装置において、
前記移動手段によって前記塗布ローラを前記媒体から離す方向に移動させると、前記液体保持ユニットにおける前記塗布ローラの回転方向下流側の前記塗布ローラとの当接部の押し付け圧力が増加し、前記塗布ローラの回転方向上流側の前記塗布ローラとの当接部の押し付け圧力が減少することを特徴とする液体塗布装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体塗布装置において、
前記制御手段は、前記媒体の先端が前記塗布ローラに接触する所定時間前に前記第1の当接圧力を弱くして第1の圧力値とし、その後、前記第1の圧力値よりも高い第2の圧力値として前記媒体への液体塗布を行うことを特徴とする液体塗布装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の液体塗布装置において、
前記制御手段は、前記媒体への液体塗布の動作中に、前記第1の当接圧力を第2の圧力値とし、当該媒体の後端が前記塗布ローラを通過する所定時間前に前記第1の当接圧力を前記第2の圧力値よりも高い第3の圧力値とすることを特徴とする液体塗布装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の液体塗布装置において、
前記制御手段は、前記媒体の先端が前記塗布ローラに接触する所定時間前に前記第2の当接圧力を強く第4の圧力値とし、その後、前記第4の圧力値よりも低い第5の圧力値として前記媒体への液体塗布を行うことを特徴とする液体塗布装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の液体塗布装置において、
前記制御手段は、前記媒体への液体塗布の動作中に、前記第2の当接圧力を第5の圧力値とし、当該媒体の後端が前記塗布ローラを通過する所定時間前に前記第2の当接圧力を前記第5の圧力値よりも低い第6の圧力値とすることを特徴とする液体塗布装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の液体塗布装置において、
前記塗布ローラの塗布面と接触させる前記媒体の先端位置を検出する媒体位置検出手段を備えることを特徴とする液体塗布装置。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の液体塗布装置と、
前記液体塗布装置によって第1の液体が塗布された前記媒体に、第2の液体を打滴する液体吐出ヘッドと、を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項13】
請求項12に記載の画像形成装置において、
前記第2の液体は色材を含有するインクであり、前記第1の液体は前記色材を凝集させる作用を持つ凝集剤であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項14】
媒体に液体を塗布する塗布面を有する塗布ローラと、前記塗布ローラの塗布面に当接することにより液体保持空間を形成し当該液体保持空間から前記塗布面に液体を供給する液体保持ユニットと、前記塗布ローラの前記塗布面に対向し当該塗布ローラとともに前記媒体を挟持する媒体支持部材と、を備える液体塗布装置を用い、前記塗布ローラを回転させることにより前記液体保持ユニットから前記塗布面に液体を供給し、当該塗布面から前記媒体に液体を転写する液体塗布方法であって、
前記塗布ローラに対する前記媒体の相対位置に基づいて、前記塗布ローラの前記塗布面と前記液体保持ユニットの間の第1の当接圧力及び前記塗布ローラの前記塗布面と前記媒体の間の第2の当接圧力のうち少なくとも一方の当接圧力を変化させる制御を行うことを特徴とする液体塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−233603(P2009−233603A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84486(P2008−84486)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】