説明

液体塗布装置

【課題】気流を抑制することで基板面に形成される膜パターンの形状のばらつきを低減させ、各膜パターンにおける膜厚を均一にすること。
【解決手段】液体塗布装置100は、液体吐出ヘッド10を備えており、液体吐出ヘッド10を基板1に対して相対的に移動させて基板1の片面1aに液体を塗布する。この液体塗布装置100は、液体吐出ヘッド10の基板1の片面1aにおける液体2が塗布されている部位に配置されたプレート4を備えている。プレート4には、基板1の片面1aとプレート4の一方の面4aとで挟まれた空間Rに揮発した液体揮発成分を、プレート4の基板と対向しない面4b側に通過させる複数の細孔が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子、カラーフィルタ、導電性膜を有する電子放出素子、有機半導体等の表示装置や露光装置等の画像形成装置、機能性膜や配線など電子デバイスの製造の際に用いられる、液体塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置、電子デバイスの製造工程において、導電性膜を有する電子放出素子や、カラーフィルタ、機能性膜など微細なパターニングを行う場合に、液体吐出ヘッドから液滴を噴射させて基板上に塗布し、乾燥させて膜パターンを形成させることが行われている。インクジェット法により基板に膜を形成させる際、液体吐出ヘッドのノズルが基板を走査するように、液体吐出ヘッドと基板のいずれか一方又は両方を移動させることにより基板に対して液体吐出ヘッドを相対移動させて、基板の片面の所定領域に液体を塗布している。
【0003】
しかしながら、インクジェット法を利用した塗布方法では、塗布された液体の乾燥が、基板の片面に塗布された領域内で均一にならない場合があり、乾燥ムラの発生や、乾燥した塗布物の膜形状が一様にならないなどの問題が生じることがあった。このような乾燥ムラや塗布物の膜形状のばらつきは、画像形成装置、電子デバイス等の製造に影響を及ぼすため、抑制する必要がある。
【0004】
従来、液体吐出ヘッドの後部にガスフロー用チューブを固定し、チューブから基板の片面に向けて気体を吹き出し、基板の片面に先に塗布されている液体から蒸発した溶媒蒸気を強制的に基板の片面上から除去する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、ノズルと基板との相対的な移動方向の軸上に基板上の溶液材料を上方から加熱乾燥するヒータを配置し、膜形成材料をノズルから吐出して基板の所定位置に塗布する工程に続いて、加熱乾燥工程を順次行う方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−341296号公報
【特許文献2】特開2004−165140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、基板の片面に膜パターンを形成する際、特許文献1に記載の方法では、基板上に凹凸があると、気流が乱れてしまうため、基板に塗布した各液体の蒸発速度が一様にはならない。また、特許文献2に記載の方法では、加熱による対流が発生し、基板上に温度ムラが発生し、基板に塗布した各液体の蒸発速度が一様にはならない。このように基板に塗布した各液体の蒸発速度が異なると、乾燥ムラとなるので、膜パターンの形状のばらつきを低減させることができなかった。
【0008】
そこで、本発明は、気流を抑制することで基板の片面に形成される膜パターンの形状のばらつきを低減させ、各膜パターンにおける膜厚を均一にすることができる液体塗布装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基板に対して相対的に移動させて前記基板に液体を塗布する液体吐出ヘッドを備えた液体塗布装置において、前記基板に対して間隔をあけて配置されたプレートを備え、前記プレートには、液体揮発成分を通過させる複数の細孔が設けられていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、基板に対して相対的に移動させて前記基板に液体を塗布する液体吐出ヘッドを備えた液体塗布装置において、前記基板に対して間隔をあけて配置されたプレートを備え、前記プレートは、前記プレートの前記基板に対向する面と前記基板の片面とで挟まれた空間に揮発した液体揮発成分を分解する電解質膜で形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基板とプレートとで挟まれる空間において、気流を抑制することができる。これにより、基板に塗布した各液体の蒸発速度が一様となり、各膜パターンの形状を均一にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る液体塗布装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る液体塗布装置の概略構成を示す模式図である。
【図3】本発明の実施例1に係る液体塗布装置の概略構成を示す模式図である。
【図4】乾燥後の膜形状を模式的に示す図である。
【図5】本発明の実施例2に係る液体塗布装置の概略構成を示す模式図である。
【図6】本発明の実施例3に係る液体塗布装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、機能性膜を所定領域内に均一に形成することを可能とする液体塗布装置に関するものである。ここで、本発明の液体塗布装置によって形成される機能性膜とは、熱、電気、光等の何らかのエネルギー入力によって、所望の機能を発現する膜である。具体的には、例えば液晶表示装置等に用いられるカラーフィルタや、表面伝導型電子放出素子の電極や電子放出膜(導電性膜)、有機EL素子の正孔注入層、発光層などが好ましく挙げられる。また、各種デバイスに搭載される電気配線、絶縁層、有機半導体などにも本発明は好ましく適用される。以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、その相対配置などは、特に特定な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0014】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る液体塗布装置の概略構成を示す模式図である。図1において、液体塗布装置100は、X軸移動ステージ14と、X軸移動ステージ14上に配置され、X軸移動ステージ14に対して直交する方向に移動するY軸移動ステージ15とを備えており、Y軸移動ステージ15上に基板1が載置される。
【0015】
また、液体塗布装置100は、液体吐出用の液体吐出ヘッド10を備えており、液体吐出ヘッド10は、基板1の上方に配置されている。液体吐出ヘッド10は、吐出ノズルから液滴3を吐出し、基板1の片面(以下、「基板面」という)1aに着弾させる。この基板面1aに液滴3が着弾することで、基板面1aに液体2が塗布される。この液滴3(液体2)は、導電膜等の膜パターンを形成するための微粒子と、微粒子を分散させる溶媒とからなる。
【0016】
ここで、液体塗布装置100の吐出方式としては、流路の体積変化により液体材料を吐出させる圧電体素子を用いたピエゾ方式であっても、熱印加により急激に気泡を発生させ液体材料を吐出させるサーマル方式等であっても良い。液体吐出ヘッド10には、ヘッド駆動制御機構12が接続されており、X軸移動ステージ14及びY軸移動ステージ15には、ステージ駆動制御機構13が接続されている。
【0017】
これらヘッド駆動制御機構12及びステージ駆動制御機構13は、演算処理装置11によって駆動動作が制御される。具体的には、演算処理装置11によりヘッド駆動制御機構12が動作し、ヘッド駆動制御機構12により液体吐出ヘッド10が駆動され、液体吐出ヘッド10から液滴3が吐出される。
【0018】
本第1実施形態では、液体吐出ヘッド10は、液体吐出ヘッド走査用ステージ16に固定されており、液体吐出ヘッド10を基板面1aに沿うXY方向に移動させることができる。したがって、基板1をX軸移動ステージ14及びY軸移動ステージ15によりXY方向に移動させるとともに、液体吐出ヘッド10をXY方向に移動させることで、液体吐出ヘッド10を基板面1aに対して相対的に移動させることができる。なお、液体吐出ヘッド10及び基板1のうちの両方を移動させる場合について説明したが、液体吐出ヘッド10及び基板1のうちの一方を移動させることで、液体吐出ヘッド10を基板面1aに対して相対的に移動させてもよい。このように液体吐出ヘッド10を基板面1aに対して相対的に移動させることにより、基板面1aの目的位置に液体2を塗布することができる。
【0019】
本第1実施形態では、液体塗布装置100は、複数の細孔が設けられたプレート4を備えている。プレート4は、例えば多数の細孔を有する多孔質部材やメッシュ部材である。このプレート4は、基板と対向する面4aが基板面1aに間隔をあけて対向して配置される。具体的には、基板と対向する面4aが基板面1aにおける液体2が塗布された部位に対して間隔をあけて配置される。本第1実施形態では、プレート4は、液体吐出ヘッド10の基板1に対する相対的な移動方向(図1中、矢印A方向)の上流側に配置されている。これにより、液体吐出ヘッド10により基板面1aに塗布された液体2は、基板面1aとプレート4の基板と対向する面4aとで挟まれて形成される空間(以下、「乾燥空間」という)Rに位置することとなる。
【0020】
このように、プレート4の面4aを基板面1aにおける液体2が塗布された部分に対向して配置したことにより、乾燥空間Rの気流が抑制される。つまり、プレート4の基板と対向する面4aの反対側の面(基板と対向しない面)4b側で生じている気流によって移動する空気が、乾燥空間Rに流れ込むのをプレート4で遮断している。したがって、乾燥空間R内で気流が生じるのを抑制することができる。そして、気流が抑制されるので、基板面1aの液体2の液体揮発成分の拡散は濃度拡散が支配的になり、各液体2の周囲の液体揮発成分濃度が各液体2において同様の分布になり、各液体2の蒸発速度を均一にすることができる。
【0021】
プレート4は、外周が枠体18に一体に固定されている。枠体18は、プレート用ステージ23に固定され、プレート用ステージ23は、液体吐出ヘッド10の側面に固定されている。これにより、プレート4は、液体吐出ヘッド10とともに基板面1aに沿って基板面1aに対して相対的に移動する。
【0022】
基板面1aに対するプレート4(つまり液体吐出ヘッド10)の移動速度は、プレート4の後端(移動方向上流端)に対向する液体2の溶媒成分が全て揮発している速度に設定されている。なお、プレート4に対向する全ての液体2の溶媒成分が全て揮発するまで、プレート4の移動を停止させてもよい。
【0023】
プレート用ステージ23は、プレート4を、プレート4の面4aに垂直な方向であるZ方向に移動させるように構成されている。これにより、基板面1aとプレート4の基板と対向する面4aとの距離を調整することができる。
【0024】
プレート4に形成されている細孔の直径は、空間Rに揮発した液体2の液体揮発成分を、プレート4の基板と対向しない面4b側に通過させる大きさに形成されている。つまり、細孔は、基板面1aに塗布された液体2の乾燥速度を制御するために形成されている。
【0025】
これにより、乾燥空間R内に揮発した液体揮発成分は、プレート4の細孔を通過し、プレート4の基板と対向しない面4b側に拡散するので、乾燥空間R内において液体2の液体揮発成分が飽和蒸気圧になるのが抑制され、液体2の乾燥を促進することができる。そして、乾燥空間R内の気流が抑制されているので、最終的に形成される各膜パターンの形状を均一にすることができる。
【0026】
ここで、細孔の直径は、少なくとも液体2の揮発した溶媒を通過させる必要があるため、0.2nm以上であるのが好ましい。そして、液体吐出ヘッド10による塗布速度は最大5m/s程度であるため、レイノルズ数を層流にするために、細孔の直径は、5mm以下であることが好ましい。
【0027】
さらには、液体吐出ヘッド10より吐出した液滴3が基板面1aに着弾した際の液体2の径が1μm〜300μmの範囲であるため、基板面1aの液体2の乾燥を均一にさせるためには、各液体2に対し1個以上の細孔であることが好ましい。そして、細孔の直径は、300μm以下であることがより好ましい。
【0028】
また、基板面1aとプレート4の基板と対向する面4aとの間隔を広げるほど、乾燥空間Rの体積が増加するため、乾燥空間R内の温度分布等により気流が発生するのを抑制する間隔にしなければならない。したがって、基板面1aとプレート4の基板と対向する面4aとの間隔は、気流を抑制する条件として、乾燥空間Rのレイノルズ数が層流となる条件が好ましい。さらには、対流の形成条件であるレイリー数が臨界レイリー数以下になるような間隔に決定することがより好ましい。
【0029】
基板面1aとプレート4の基板と対向する面4aとの間隔は、プレート用ステージ23によって調整することが可能である。本第1実施形態では、プレート用ステージ23を駆動制御するステージ駆動制御装置31を備えている。プレート4の基板と対向する面4a側には、気体の流速を検知する流速センサ22が設けられている。ステージ駆動制御装置31は、流速センサ22の検知結果を示す検知信号を入力し、レイノルズ数の層流条件又は臨界レイリー数を満たす乾燥空間Rとなるように、基板面1aとプレート4の基板と対向する面4aとの間隔を、ステージ23を移動させて調整する。このように、基板面1aとプレート4の基板と対向する面4aとの間隔を調整することで、気流の発生を抑制できる。また、乾燥空間Rの体積を調整することができ、その結果、乾燥空間R内での液体2の液体揮発成分が飽和蒸気圧になることを防ぐことができる。
【0030】
さらに、本第1実施形態では、枠体18には、プレート4の外周を囲うように、プレート4の基板と対向する面4a側から基板1側に突出する壁部5が設けられている。なお、この壁部5は、枠体18に固定して設けられているが、プレート4の外周縁に固定して設けられていてもよい。この壁部5で囲われた内側の空間が乾燥空間Rとなる。この壁部5により乾燥空間Rと壁部5の外側の空間との空気の流出入が規制される。つまり、壁部5により、基板面1aに沿う気流を遮断することができる。したがって、乾燥空間R内において気流が発生するのをより効果的に抑制することができる。
【0031】
また、乾燥空間Rが乾燥空間R以外の空間と接する領域が狭くなるので、プレート4と基板1との間から液体揮発成分が拡散するのを抑制することができる。したがって、プレート4の外周縁部における液体揮発成分の濃度がプレート4の中央部よりも極端に低くなることはない。ゆえに、乾燥空間R内の液体揮発成分の濃度分布を均一に保つことができ、より均一な膜パターンを形成することが可能となる。
【0032】
さらに、本第1実施形態では、プレート4の基板と対向する面4aには、基板1側に突出する1つ以上の突起部6が設けられている。このように形成した突起部6は、乾燥空間R内において、気流の抵抗となる。したがって、乾燥空間R内において気流が発生するのをより効果的に抑制することができる。なお、突起部6は、プレート4と一体に形成されて、多数の細孔が設けられていてもよい。
【0033】
また、プレート4の細孔は液滴3の塗布量または塗布間隔に応じ、細孔の開口面積を変更させる機能を持っているのが好ましい。細孔の開口面積を変更させる方法として、開口面積が異なる複数の細孔を有するプレート4を用意し、プレート4を交換する方法又は複数の細孔を有するプレート4を重ね合わせ、開口面積を変化させる方法がある。
【0034】
さらに、本第1実施形態では、液体塗布装置100は、プレート4の基板と対向しない面4bを覆うチャンバ17を備えている。また、液体塗布装置100は、乾燥空間Rにおける液体2の液体揮発成分の気体の分圧を検知する第1の分圧センサ19aを備えている。また、液体塗布装置100は、プレート4の基板と対向しない面4b側の液体揮発成分と同じ成分の気体の分圧を検知する第2の分圧センサ19bを備えている。
【0035】
第1の分圧センサ19aは、プレート4の基板と対向する面4a側、例えば、壁部5に設けられ、第2の分圧センサ19bは、プレート4の基板と対向しない面4b側、例えば、プレート4の基板と対向しない面4bの端部に設けられている。各分圧センサ19a,19bの検知結果を示す検知信号は、分圧調整機構21に入力される。
【0036】
分圧調整機構21は、チャンバ17に気体を供給する不図示の供給管に設けられた不図示の弁を調整することにより、チャンバ17に供給する気体の量を調整することで分圧を調整可能である。ここで、チャンバ17に供給される気体には、液体揮発成分と同じ成分の気体が含まれている。
【0037】
分圧調整機構21の動作について具体的に説明すると、まず、分圧調整機構21は、第1の分圧センサ19aの検知結果と、第2の分圧センサ19bの検知結果とを比較する。そして、分圧調整機構21は、第2の分圧センサ19bにより検知された分圧が、第1の分圧センサ19aにより検知された分圧よりも低くなるように、チャンバ17へ供給する気体の量を調整する。チャンバ17には、不図示の排気口が設けられており、新たな気体の供給によりチャンバ17内の気体が排出される。
【0038】
このように、チャンバ17内(プレート4の基板と対向しない面4b側)の気体に含まれる液体揮発成分と同じ成分による分圧が、乾燥空間R(プレート4の基板と対向する面4a側)の気体に含まれる液体揮発成分による分圧よりも低く設定されている。したがって、液体揮発成分は、分圧の高い方である基板と対向する面4a側から分圧の低い方である基板と対向しない面4b側に細孔を通過して拡散する。
【0039】
そして、プレート4の基板と対向しない面4b側の液体2の揮発成分と同じ成分による分圧を制御することにより、基板と対向する面4aから基板と対向しない面4bへの細孔を介した液体揮発成分の拡散量を制御することができる。その結果、乾燥空間Rでの液体2の液体揮発成分の分圧制御及び液体2の蒸発速度を制御することができる。なお、プレート4の基板と対向する面4a側の全圧と基板と対向しない面4b側の全圧とを同一にすることで、プレート4の細孔を介した気流の発生を抑止することができる。
【0040】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る液体塗布装置について説明する。図2は、本発明の第2実施形態に係る液体塗布装置の概略構成を示す模式図である。なお、上記第1実施形態と同様の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
【0041】
本第2実施形態では、液体塗布装置100Aは、細孔を有するプレート4の代わりに、電解質膜であるプレート25を備えている。このプレート25は、基板と対向する面25aが基板面1aに間隔をあけて対向して配置される。具体的には、基板と対向する面25aが基板面1aにおける液体2が塗布された部位に対して間隔をあけて配置される。本第2実施形態では、プレート25は、液体吐出ヘッド10の基板1に対する相対的な移動方向(図2中、矢印A方向)の上流側に配置されている。これにより、液体吐出ヘッド10により基板面1aに塗布された液体2は、基板面1aとプレート25の基板と対向する面25aとで挟まれて形成される乾燥空間Rに位置することとなる。
【0042】
このように、プレート25の面25aを基板面1aにおける液体2が塗布された部分に対向して配置したことにより、乾燥空間Rの気流が抑制される。つまり、プレート25の基板と対向する面25aの反対側の面(基板と対向しない面)25b側で生じている気流によって移動する空気が、乾燥空間Rに流れ込むのをプレート25で遮断している。したがって、乾燥空間R内で気流が生じるのを抑制することができる。そして、気流が抑制されるので、基板面1aの液体2の液体揮発成分の拡散は濃度拡散が支配的になり、各液体2の周囲の液体揮発成分濃度が各液体2において同様の分布になり、各液体2の蒸発速度を均一にすることができる。
【0043】
プレート25は、外周が枠体18に一体に固定されている。枠体18は、プレート用ステージ23に固定され、プレート用ステージ23は、液体吐出ヘッド10の側面に固定されている。これにより、プレート25は、液体吐出ヘッド10とともに基板面1aに沿って基板面1aに対して相対的に移動する。
【0044】
電解質膜であるプレート25には、その両面に多孔質の電極が設けられている。この電解質膜は、固体高分子電解質膜である。液体2に含まれる溶媒の主成分が水である場合、液体揮発成分は水分子であり、電解質膜であるプレート25の両側の電極に直流電圧を印加すると、陽極側(プレート25の基板と対向する面25a側)の水分子が、水素イオン(H)と酸素に分解される。水素イオンは固体高分子電解質膜であるプレート25中を移動し、陰極側(プレート25の基板と対向しない面25b側)に達する。陰極側で水素イオンは空気中の酸素と反応し、水分子(気体)となって放出され、乾燥空間Rの液体揮発成分(湿度)を制御することができる。
【0045】
本第2実施形態では、電解質膜であるプレート25を用いたので、一対の電極間に印加される電圧によってプレート25内に流れる電流を制御することにより、プレート25の基板と対向する面25a側の液体揮発成分の濃度を調整することができる。
【0046】
このように、乾燥空間R内に揮発した液体揮発成分は、プレート25の基板と対向する面25a側で分解されるので、乾燥空間R内において液体2の液体揮発成分が飽和蒸気圧になるのが抑制され、液体2の乾燥を促進することができる。そして、乾燥空間R内の気流が抑制されているので、最終的に形成される各膜パターンの形状を均一にすることができる。
【0047】
より高精度に乾燥空間R内の液体揮発成分の分圧を制御するために、プレート25の基板と対向する面25a側には、液体揮発成分の分圧を検知する分圧センサ19が設けられている。電流調整機構26は、分圧センサ19により検知された分圧を示す検知信号を入力し、電解質膜であるプレート25に流れる電流を調整する。なお、分圧センサ19をプレート25の基板と対向する面25a側に複数配置し、複数の分圧センサ19の出力値によりプレート25を複数に分割しそれぞれ電流制御を行ってもよい。
【0048】
さらに、本第2実施形態では、枠体18には、プレート25の外周を囲うように、プレート25の基板と対向する面25a側から基板1側に突出する壁部5が設けられている。なお、この壁部5は、枠体18に固定して設けられているが、プレート25の外周縁に固定して設けられていてもよい。この壁部5で囲われた内側の空間が乾燥空間Rとなる。この基板側に突出する壁部5により乾燥空間Rと壁部5の外側の空間との空気の流出入が規制される。つまり、壁部5により、基板面1aに沿う気流を遮断することができる。したがって、乾燥空間R内において気流が発生するのをより効果的に抑制することができる。
【0049】
また、乾燥空間Rが乾燥空間R以外の空間と接する領域が狭くなるので、プレート25と基板1との間から液体揮発成分が拡散するのを抑制することができる。したがって、乾燥空間R内の液体揮発成分の濃度分布を均一に保つことができ、より均一な膜パターンを形成することが可能となる。
【0050】
さらに、本第2実施形態では、プレート25の基板と対向する面25aには、基板1側に突出する1つ以上の突起部6が設けられている。このように形成した突起部6は、乾燥空間R内において、気流の抵抗となる。したがって、乾燥空間R内において気流が発生するのをより効果的に抑制することができる。ここで、突起部6は、プレート25と一体に形成された電解質膜であってもよい。つまり、プレート25の基板と対向する面25aが凹凸形状に形成されていてもよい。
【0051】
なお、上記第1及び第2実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。上記第1及び第2実施形態では、プレート4,25が、液体吐出ヘッド10に固定されて液体吐出ヘッド10と一体に基板面1aに対して相対的に移動する場合について説明したがこれに限定するものではない。プレート4,25を液体吐出ヘッド10と独立して移動可能に構成し、プレート4,25を基板面1aにおける液体2を塗布した部分に移動させてもよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の液体吐出装置を用いた実施例について説明する。
【0053】
[実施例1]
図3に示す本発明の実施例1に係る液体塗布装置を用いて、ガラス基板上に機能成膜を形成し、プレート4を設置しない液体塗布装置を用いて形成した機能成膜と比較を行った。ガラス基板上には、ステージ走査方向のドット間隔が300μm、走査方向と直交する方向のドット間隔が300μmとなるように走査方向に500ドット、走査方向と直交する方向に80ドットの液滴3を塗布した。液滴3としては、純水99重量%、パラジウム1重量%の組成の液体を使用した。
【0054】
液体吐出ヘッド10には、細孔を有するプレート4が固定されており、プレート4は基板1との距離を調整できる機構となっている。なお、本実施例1において、プレート4の外周には、壁部5が設けられているが、プレート4の基板と対向する面4aには、突起部は設けられていない。また、液体吐出ヘッド10により液体を塗布後、基板1のステージ14,15を用い、基板1と細孔を有するプレート4は対向する位置へ移動させる機構となっている。
【0055】
細孔を有するプレート4は線幅39μmのメッシュで形成され、各細孔の面積は3844μmであり、枠体18により固定されている。また細孔を有するプレート4のサイズは5cm角であり、プレート4の基板と対向する面4aと基板1の基板面1aとの距離は1cmに保持されている。壁部5の形状は、プレート4端部全域に、プレート4の面4aと平行な方向の厚さを2mmに固定し、プレート4の面4aに垂直な方向への高さをそれぞれ、9mm又は7mmの2種類作製し、壁部5と基板1の距離はそれぞれ1mm又は3mmとした。
【0056】
プレート4の基板と対向しない面側において、液体揮発成分と同じ成分による分圧を制御するため、プレート4の基板と対向しない面4b上に液体2の揮発成分である水蒸気分圧が制御されたガスを導入し、プレート4上に保持されるチャンバ17を設置した。チャンバ17に送り込むガスの温度は液体塗布装置の周囲環境である23℃に設定し、チャンバ17内の全圧は大気圧、水蒸気分圧は421Paに設定した。
【0057】
基板1へ塗布した液体2の乾燥後の膜形状均一性を検証するために、下記のように細孔を有するプレート4の影響について比較を行った。
【0058】
細孔を有するプレート4を設置しない場合を条件1とした。細孔を有するプレート4を設置し、基板1とプレート4の端部の壁部5との距離を3mmに調整した場合を条件2とした。細孔を有するプレート4を設置し、基板1とプレート4の端部の壁部5との距離を1mmに調整した場合を条件3とした。
【0059】
以上の組み合わせについて塗布乾燥後の機能成膜の膜形状を評価した。具体的には、図4に示すように、各々の機能成膜24の中心部27の膜厚を計測し、全機能成膜24の平均値を算出し、全機能成膜24の中心部27の膜厚の平均値に対する各条件における標準偏差を算出した。その評価結果は次表に示す通りであった。
【0060】
【表1】

【0061】
上記のように、液体塗布後、細孔を有するプレート4の設置効果及び基板1とプレート4の距離を調整する機構の効果が示された。
【0062】
[実施例2]
図5に示す本発明の実施例2に係る液体塗布装置を用いて、機能性膜としてのカラーフィルタを製造したときの手順について説明する。本実施例2の液体塗布装置では、液体吐出ヘッド10に細孔を有するプレート4が固定されており、プレート4は基板1との距離を調整できる機構となっている。また、液体吐出ヘッド10側にステージ16を設け、液体吐出ヘッド10により基板1に液滴3を塗布後、ステージ16により、基板1とプレート4とが対向する位置へプレート4を移動させる機構となっている。
【0063】
細孔を有するプレート4は、AGCエンジニアリング株式会社製、中空糸膜を用い、枠体18により固定されている。プレート4の基板と対向しない面4b側において、液体揮発成分と同じ成分による分圧を制御するため、プレート4の基板と対向しない面4b上に液体2の揮発成分である水蒸気分圧が制御されたガスを導入し、プレート4上に保持されるチャンバ17を設置した。
【0064】
チャンバ17に送り込むガスの温度は液体塗布装置の周囲環境である23℃に設定し、チャンバ17内の全圧は大気圧、水蒸気分圧が1200Paである気体をチャンバ17内に流量15L/minで供給した。また、液体塗布装置が設置されている雰囲気の温度は23℃、水蒸気分圧が1264Paであった。
【0065】
本実施例2では、細孔を有するプレート4の基板と対向する面4aに突起部6及びプレート周囲に気流を抑制する壁部5を設置した。プレート4のサイズは30cm×30cmであり、プレート4の基板と対向する面4aには600μm間隔で径120μm、基板方向の高さ2mmの突起部6をプレート4全面に形成し、プレート4の端部には長さ30cm、高さ2mm、幅1mmの壁部5を設置した。また、プレート4の基板と対向する面4a側には分圧センサ19aが、基板と対向しない面4b側には分圧センサ19bがそれぞれ設けられている。分圧調整機構21は、分圧センサ19a,19bの出力値を入力値として、プレート4の基板と対向しない面4bに分散する液体揮発成分の分圧の制御を行う。
【0066】
まず、黒色レジストを用い、フォトリソグラフィにより、ガラス基板1上にブラックマトリクス28を形成した。このブラックマトリクス28の1つの開口部サイズは70μm×220μm、膜厚は2μmとした。従って、硬化性インクを付与する領域の容積は30800μmである。
【0067】
ブラックマトリクス28の各開口部に、本実施例2の液体塗布装置を用い、1つの開口部に付与する液体量を20000μm(20pl)となるような条件で液滴3を付与した。ステージ16を走査させながら、演算処理装置11、ヘッド駆動制御機構12及びステージ駆動制御機構13により、各開口部に液滴3が着弾できる吐出タイミングで吐出信号を送り、液体吐出ヘッド10から液滴3を吐出、基板1上に塗布した。液滴3として、染料、水溶性有機溶剤、水、N−メチロールアクリルアミドとメタクリル酸メチルの2元共重合体からなる樹脂組成物を用い、樹脂濃度が5重量%、染料成分が10重量%となるように調整した。Red染料としては、C.I.Acid Red 158を用いた。Green染料としては、C.I.Direct Blue(DBL)86をC.I.Acid Yellow(AY)23で調色したものを用いた。Blue染料としては、DBL86をC.I.Acid Red(AR)289を調色したものを用いた。水溶性有機溶剤としては、エチレングリコールを2重量%用いた。
【0068】
液滴3を塗布後、基板1をプレート4に対向する位置へ移動させ、分圧センサ19a,19bの出力値を入力値として、プレート4の基板と対向しない面4b側に分散する液体揮発成分の分圧の制御を行った。液体塗布直後は、基板と対向しない面4b側の分圧は1200Paであり、プレート4が塗布領域の対向する位置へ移動し、3秒経過後、基板と対向する面4a側の水蒸気分圧が2200Paの出力を示した。そのため、分圧調整機構21にて基板と対向しない面4b側の水蒸気分圧を112Paに設定、保持した。この結果、細孔を有するプレート4の基板と対向する面4a側の水蒸気分圧が1405〜1680Paで推移し、液体2が乾燥後、112Paまで低下した。
【0069】
上記のようにして作製したブラックマトリクス28の開口部内の表面形状を、表面粗さ測定機により測定したところ、カラーフィルタの膜厚は平均0.6μm、膜厚ムラは0.1μm以下であった。また、色ムラや白抜け等の問題は観察されなかった。カラーフィルタに保護膜の形成、電極形成、配向膜形成、液晶材料封入等の作業を行ない、液晶素子を作製した。この液晶素子を0℃〜60℃の温度範囲にて連続1000時間駆動したところ、表示上の問題は生じなかった。
【0070】
[実施例3]
図6に示す本発明の実施例3に係る液体塗布装置を用いて、表面伝導型電子放出素子の電子放出膜(導電性膜)を形成したときの手順について説明する。本実施例3の液体塗布装置では、液体吐出ヘッド10に電解膜であるプレート25が固定されており、プレート25は基板1との距離を調整できる機構となっている。また、液体吐出ヘッド10側にステージ16を設け、液体吐出ヘッド10により基板1に液滴3を塗布後、ステージ16により、基板1とプレート25とが対向する位置へプレート25を移動させる機構となっている。
【0071】
電解質膜であるプレート25は菱彩テクニカ株式会社製、固体高分子電解質膜を用い、枠体18により固定されている。また、固体高分子電解質膜は電流調整機構26に接続され、電解質膜であるプレート25内を流れる電流を制御できるようになっている。また、液体塗布装置が設置されている雰囲気の温度は23℃、水蒸気分圧が1264Paであった。
【0072】
本実施例3では、電解質膜であるプレート25の基板と対向する面25aにプレート周囲に気流を抑制する壁部5を設置した。プレート25のサイズは30cm×30cmであり、プレート25の基板と対向する面25aには600μm間隔で径120μm、高さ2mmの突起部6をプレート25全面に形成し、プレート25の端部は長さ30cm、高さ2mm、幅1mmの壁部5を設置した。また、プレート25の基板と対向する面25a側には分圧センサ19が設けられ、電流調整機構26が、分圧センサ19の出力値を入力値として、プレート25内に流れる電流を制御する。
【0073】
まず、絶縁性の基板1としてガラス基板を用い、洗浄後、120℃で乾燥させた。この基板1上に、Pt膜により、電極幅500μm、電極間ギャップ20μmの一対の素子電極を複数形成し、各素子電極に配線を接続した。この配線としては、列方向配線と行方向配線とを層間絶縁層を介して交差配置したマトリクス配線とした。基板1をアルカリ洗浄にて洗浄後、撥水処理剤を用いて表面処理を行った。次に1つの開口部が100μm×630μmであるフォトマスクを使用してUV露光し、各々の素子電極上に100μm×630μmの親液領域を形成した。ここで、露光された部分が親液領域となる。親液領域と親液領域外の水に対する接触角を計測したところ、親液領域の接触角が平均15[deg]、親水領域外の接触角が平均55[deg]であった。その後、基板1を、液体塗布装置の基板ステージ上に吸着させ、液体付与位置の位置調整を行った。
【0074】
本実施例3の液体塗布装置を用い、1つの開口部に付与する液体量を30000μm(30pl)となるような条件で液滴3を付与した。ステージ16を用いて液体吐出ヘッド10をスキャンニングさせながら、演算処理装置11、ヘッド駆動制御機構12及びステージ駆動制御機構13により、基板1上の親液領域内に液滴3が着弾できる吐出タイミングで吐出信号を送って、液滴3を吐出、着弾させた。液滴3としては、純水80重量%、イソプロピルアルコール19重量%、パラジウム1重量%の組成の液体を使用した。
【0075】
液滴3を塗布後、基板1をプレート25に対向する位置へ移動させ、分圧センサ19の出力値を入力値として、乾燥空間Rを水蒸気分圧が1264Paに保持するようにプレート25に流れる電流制御を行った。
【0076】
乾燥後、基板1上に形成された各々の導電性膜のサイズは100μm×630μmであり、各導電性膜の膜厚のばらつきは800nm±10%であった。さらに基板1を1350℃で30分間加熱し、酸化パラジウムからなる導電性膜を得た。その後、水素を含む雰囲気中での導電性膜への通電、及び、有機化合物を含む雰囲気中での導電性膜への通電を経て、上記導電性膜に電子放出部を形成した。こうして作成された電子源基板に、フェースプレート及び支持枠等を組み合わせて表示パネルを作成し、更に、駆動回路を接続して画像表示装置を作成したところ、画像表示装置を歩留まりよく得ることができた。
【符号の説明】
【0077】
1…基板、1a…基板面(基板の片面)、4…プレート、4a…基板と対向する面、4b…基板と対向しない面、5…壁部、6…突起部、10…液体吐出ヘッド、17…チャンバ、25…プレート(電解質膜)、25a…基板と対向する面、25b…基板と対向しない面、100,100A…液体塗布装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に対して相対的に移動させて前記基板に液体を塗布する液体吐出ヘッドを備えた液体塗布装置において、
前記基板に対して間隔をあけて配置されたプレートを備え、
前記プレートには、液体揮発成分を通過させる複数の細孔が設けられていることを特徴とする液体塗布装置。
【請求項2】
前記プレートの前記基板と対向しない方の面を覆うように配置され、前記プレートの前記基板と対向しない方の面側の前記液体揮発成分と同じ成分による分圧が、前記基板と前記プレートとの間の空間の前記液体揮発成分による分圧よりも低く設定されるチャンバを備えたことを特徴とする請求項1に記載の液体塗布装置。
【請求項3】
基板に対して相対的に移動させて前記基板に液体を塗布する液体吐出ヘッドを備えた液体塗布装置において、
前記基板に対して間隔をあけて配置されたプレートを備え、
前記プレートは、前記プレートの前記基板に対向する面と前記基板の片面とで挟まれた空間に揮発した液体揮発成分を分解する電解質膜で形成されていることを特徴とする液体塗布装置。
【請求項4】
前記プレートの外周を囲うように設けられ、前記基板側に突出する壁部を備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体塗布装置。
【請求項5】
前記プレートの前記基板に対向する面に設けられ、前記基板側に突出する突起部を備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液体塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−96200(P2012−96200A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248186(P2010−248186)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】