説明

液圧ブレーキ装置

【課題】
自動ブレーキ中に運転者がブレーキ操作を行った場合においても、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができるようにする。
【解決手段】
第1の制御処理は、インプットロッド7の変位量に比例ゲインを乗じた量だけプライマリピストン40を変位させる制御処理である。第2の制御処理は、所定のオフセット量だけプライマリピストン40を推進させたうえで、第1の制御処理を実行する制御処理である。第3の制御処理は、特に減圧要求時に、インプットロッド7の変位量に比例ゲインを乗じた量だけプライマリピストン40を変位させる制御処理である。ブレーキ力制御装置2は、自動ブレーキ中に運転者がブレーキ操作を行った場合に、自動ブレーキの解除条件、運転者のブレーキ要求等に基づいて、プライマリピストン40の制御処理を第1〜第3の制御処理から適切に選択し、実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両各輪のホイールシリンダの作動液圧を制御することで、ブレーキ力を制御する液圧ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキペダルとは独立にマスタシリンダを加減圧して自動ブレーキを行う構成として、従来、バイワイヤモードで、自動車のブレーキシステムの力の反動から機械的に第1作動部材を分離するために、特にブレーキペダルあるいはブレーキペダルに関節結合される部材等の第1作動部材と、特に入力部材である力の流れの下流に接続される第2作動部材との間に空動距離が設けられる構成が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
【特許文献1】特表2005−532220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の構成においては、自動ブレーキ等のために、第1作動部材と無関係に第2作動部材を動作させている状態において、運転者のブレーキ操作によって第1の作動部材が動作した場合については、この時の第2作動部材の動作のさせ方が開示されていない。すなわち、自動ブレーキ中の運転者のブレーキ操作に対して、適切なブレーキ力を発生させられるかどうかは不明であった。この点において、上述した従来の構成は改善の余地があると言える。
【0005】
本発明の目的は、自動ブレーキ中に運転者がブレーキ操作を行った場合においても、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる、安全性が高く、操作性と快適性に優れた液圧ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は主として次のような構成を採用する。
【0007】
マスタシリンダを加減圧する第1の加減圧手段と、第1の加減圧手段とは独立にマスタシリンダを加減圧する第2の加減圧手段と、目標ブレーキ力を算出するとともに、これに基づいて目標マスタシリンダ圧を決定するブレーキ力制御手段と、マスタシリンダから供給される作動液圧により動作する複数のホイールシリンダとを備えてなる液圧ブレーキ装置において、目標マスタシリンダ圧に応じて第2の加減圧手段を制御する第1のブレーキ制御状態と、第1の加減圧手段の変位に応じて第2の加減圧手段を制御する第2のブレーキ制御状態とを有し、第1のブレーキ制御状態において運転者のブレーキ操作により第1の加減圧手段が動作した場合に、第2のブレーキ制御状態に遷移する構成とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、自動ブレーキ中に運転者がブレーキ操作を行った場合においても、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させられるため、ブレーキ時の車両挙動が安定化するとともに、ブレーキペダルの操作性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下で説明する各実施例のブレーキ装置では、以下のような構成を揃えている。
(1)マスタシリンダを加減圧する第1の加減圧手段と、第1の加減圧手段とは独立にマスタシリンダを加減圧する第2の加減圧手段と、目標ブレーキ力を算出するとともに、これに基づいて目標マスタシリンダ圧を決定するブレーキ力制御手段と、マスタシリンダから供給される作動液圧により動作する複数のホイールシリンダとを備えてなる液圧ブレーキ装置において、目標マスタシリンダ圧に応じて第2の加減圧手段を制御する。
(2)マスタシリンダを加減圧する第1の加減圧手段と、第1の加減圧手段とは独立にマスタシリンダを加減圧する第2の加減圧手段と、目標ブレーキ力を算出するとともに、これに基づいて目標マスタシリンダ圧を決定するブレーキ力制御手段と、マスタシリンダから供給される作動液圧により動作する複数のホイールシリンダとを備えてなる液圧ブレーキ装置において、目標マスタシリンダ圧に応じて第2の加減圧手段を制御する第1のブレーキ制御状態と、第1の加減圧手段の変位に応じて第2の加減圧手段を制御する第2のブレーキ制御状態とを有し、第1のブレーキ制御状態において運転者のブレーキ操作により第1の加減圧手段が動作した場合に、第2のブレーキ制御状態に遷移する。
(3)(2)に記載の液圧ブレーキ装置において、第1のブレーキ制御状態において動作させているホイールシリンダの個数に応じて、第2のブレーキ制御状態における第2の加減圧手段の制御方式が異なる。
(4)(2)に記載の液圧ブレーキ装置において、第2のブレーキ制御状態において、第1の加減圧手段の動作がマスタシリンダを加圧する方向の動作か、減圧する方向の動作かによって、第2のブレーキ制御状態における第2の加減圧手段の制御方式が異なる。
(5)(2)に記載の液圧ブレーキ装置において、第2のブレーキ制御状態における第2の加減圧手段の制御方式には、第1の加減圧手段の変位量に比例した量だけ第2の加減圧手段を変位させる第1の制御と、第1の加減圧手段の変位量に比例した量に所定の変位量を上乗せした量だけ第2の加減圧手段を変位させる第2の制御と、第1の加減圧手段の変位量が零位置に戻った状態で第2の加減圧手段によるマスタシリンダの加圧が解除されるように第2の加減圧手段を変位させる第3の制御のいずれか、またはすべてが含まれる。
(6)(5)に記載の液圧ブレーキ装置において、第1のブレーキ制御状態においてすべてのホイールシリンダを動作させている場合には、第2のブレーキ制御状態において、第1の加減圧手段の動作がマスタシリンダを加圧する方向に動作した場合に第1の制御を選択し、第1の加減圧手段の動作がマスタシリンダを減圧する方向に動作した場合に第1の制御または第3の制御を選択する。
(7)(5)に記載の液圧ブレーキ装置において、第1のブレーキ制御状態において少なくとも1輪以上のホイールシリンダを動作させていない場合には、第2のブレーキ制御状態において、第1の加減圧手段の動作がマスタシリンダを加圧する方向に動作した場合に第2の制御を選択し、第1の加減圧手段の動作がマスタシリンダを減圧する方向に動作した場合に第1の制御または第3の制御を選択する。
(8)(1)〜(7)に記載の液圧ブレーキ装置において、第1の加減圧手段は、第2の加減圧手段を動作させることでマスタシリンダを加減圧する。
【0010】
本発明の第1〜第2の実施形態に係る液圧ブレーキ装置1について、図面を参照しながら以下、説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る液圧ブレーキ装置1の全体構成を示す図である。なお、FL輪は左前輪、FR輪は右前輪、RL輪は左後輪、RR輪は右後輪をそれぞれ意味する。また、矢印付きの破線は信号線であり、矢印の向きによって信号の流れを表している。
【0012】
図1に示すように、液圧ブレーキ装置1は、ブレーキ力制御手段としてのブレーキ力制御装置2と、第2の加減圧手段としてのマスタ圧制御装置3及びマスタ圧制御機構4と、ホイール圧制御装置5と、ホイール圧制御機構6と、第1の加減圧手段としてのインプットロッド7と、ブレーキセンサ8と、マスタシリンダ9と、リザーバタンク10と、ホイールシリンダ11a〜dとを備えている。なお、第1の加減圧手段には、ブレーキペダル100を含む。また、第2の加減圧手段には、マスタシリンダ9を構成するプライマリピストン40を含む。
【0013】
ブレーキ力制御装置2は、演算処理回路であり、ブレーキセンサ8の信号、先行車との車間距離,道路情報,車両状態量等に基づいて各輪で発生させるべき目標ブレーキ力を算出し、この結果に基づいてマスタ圧制御装置3とホイール圧制御装置5に制御指令を送信する。車両状態量としては、例えば、ヨーレート,前後加速度,横加速度,ハンドル舵角,車輪速,車体速等がある。
【0014】
なお、ブレーキ力制御装置2と、マスタ圧制御装置3及びホイール圧制御装置5とは双方向の通信を行っており、制御指令,車両状態量,故障情報,作動状態、等を共有している。
【0015】
マスタ圧制御装置3は、演算処理回路であり、ブレーキ力制御装置2からの制御指令、ブレーキセンサ8の信号等に基づいて、マスタ圧制御機構4を構成する駆動モータ20の制御を行う。
【0016】
マスタ圧制御機構4は、マスタ圧制御装置3の制御指令に従ってプライマリピストン40を押圧するものであり、回転トルクを発生する駆動モータ20と、駆動モータ20の回転トルクを増幅する減速装置21と、回転動力を並進動力に変換する回転−並進変換装置25とを備えている。
【0017】
ホイール圧制御装置5は、演算処理回路であり、ブレーキ力制御装置2からの制御指令等に基づいてホイール圧制御機構6の制御を行う。
【0018】
ホイール圧制御機構6は、ホイール圧制御装置5の制御指令に従って、マスタシリンダ9で加圧された作動液の各ホイールシリンダ11a〜dへの供給を制御する。
【0019】
インプットロッド7は、ブレーキペダル100に連結され、その片端がプライマリ液室42に挿入されている。このような構成を採ることにより、運転者のブレーキ操作によってもマスタ圧を上昇させられるため、万一駆動モータ20が停止した場合にも、所定のブレーキ力が確保される。また、マスタ圧に応じた力がインプットロッド7を介してブレーキペダル100に作用し、ブレーキペダル反力として運転者に伝達させられるため、上述の構成を採らない場合に必要となる、バネ等のブレーキペダル反力を生成する装置が不要となる。これにより、液圧ブレーキ装置1の小型・軽量化が図られ、車両への搭載性が向上する。
【0020】
ブレーキセンサ8は、運転者の要求ブレーキ力を検出するセンサであり、インプットロッド7の変位量を検出するストロークセンサである。
【0021】
なお、ブレーキセンサ8としては、ストロークセンサを複数個組み合わせた構成が望ましい。これにより、一つのセンサからの信号が途絶えた場合にも、残りのセンサによって運転者のブレーキ要求が検出,認知されるため、フェイルセーフが確保される。
【0022】
また、ブレーキセンサ8としては、ブレーキペダル100の踏力を検出する踏力センサや、ストロークセンサと踏力センサを組み合わせた構成であっても良い。
【0023】
マスタシリンダ9は、プライマリピストン40によって加圧されるプライマリ液室42と、セカンダリピストン41によって加圧されるセカンダリ液室43の二つの加圧室を有するタンデム式のものであり、プライマリピストン40の推進によって各加圧室で加圧された作動液が、マスタ配管102a〜bを経由してホイール圧制御機構6に供給されるように構成されている。
【0024】
リザーバタンク10は、図示しない隔壁によって仕切られた少なくとも二つの液室を有するものであり、それぞれの液室はマスタシリンダ9の各加圧室と連通可能に接続されている。
【0025】
ホイールシリンダ11a〜dは、図示しないシリンダ,ピストン,パッド等から構成されており、ホイール圧制御機構6から供給された作動液によってピストンが推進され、ピストンに連結されたパッドがディスクロータ101a〜dに押圧されるものである。
【0026】
なお、ディスクロータ101a〜dは、図示しない車輪とともに回転している。そのため、ディスクロータ101a〜dに作用したブレーキトルクは、車輪と路面との間に作用するブレーキ力となる。
【0027】
続いて、マスタ圧制御機構4の構成と動作について説明する。
【0028】
前述の通り、マスタ圧制御機構4は駆動モータ20と減速装置21と回転−並進変換装置25とを備えている。
【0029】
駆動モータ20は、マスタ圧制御装置3の制御指令に基づいて供給される電力によって動作し、所望の回転トルクを発生する。
【0030】
なお、駆動モータ20としては、DCモータ,DCブラシレスモータ,ACモータ等が適当であるが、制御性,静粛性,耐久性の点においては、DCブラシレスモータが望ましい。
【0031】
また、駆動モータ20には、図示しない位置センサが備わっており、この信号がマスタ圧制御装置3に入力されるように構成されている。これにより、マスタ圧制御装置3は、位置センサの信号に基づいて駆動モータ20の回転角を算出することができ、これに基づいて回転−並進変換装置25の推進量、すなわちプライマリピストン40の変位量を算出することができる。
【0032】
減速装置21は、駆動モータ20の回転トルクを自身の減速比分だけ増幅させるものである。
【0033】
なお、減速の方式としては、歯車減速,プーリ減速等が適当であるが、第1の実施形態では、駆動側プーリ22と従動側プーリ23とベルト24とを備えてなるプーリ減速による方式を採っている。
【0034】
また、駆動モータ20の回転トルクが十分に大きく、減速によるトルクの増幅が必要でない場合には、減速装置21を備えずに駆動モータ20と回転−並進変換装置25とを直結することができる。これにより、減速装置21の介在に起因して発生する、信頼性,静粛性,搭載性等に係る諸問題を回避することができる。
【0035】
回転−並進変換装置25は、駆動モータ20の回転動力を並進動力に変換してプライマリピストン40を押圧するものである。
【0036】
なお、変換の機構としては、ラックピニオン,ボールネジ等が適当であるが、第1の実施形態ではボールネジによる方式を採っている。
【0037】
図1に示すように、ボールネジナット26の外側には従動側プーリ23が嵌合されており、その回転によるボールネジナット26の回転によりボールネジ軸27が並進運動し、この推力によって可動部材28を介してプライマリピストン40が押圧される。
【0038】
なお、可動部材28には、片端が固定部に接続された戻しバネ29の一端が係合されており、ボールネジ軸27の推力と逆方向の力が可動部材28を介してボールネジ軸27に作用するように構成されている。これにより、ブレーキ中、すなわちプライマリピストン40が押圧されマスタ圧が加圧されている状態において、駆動モータ20が停止しボールネジ軸27の戻し制御が不能となった場合にも、戻しバネ29の反力によってボールネジ軸27が初期位置に戻され、マスタ圧が概ね零付近まで低下するため、ブレーキ力の引きずりに起因して車両挙動が不安定になることが回避される。
【0039】
続いて、マスタ圧制御装置3とマスタ圧制御機構4による、インプットロッド7の推力の増幅について説明する。
【0040】
第1の実施形態では、運転者のブレーキ操作によるインプットロッド7の変位量に応じてプライマリピストン40を変位させることで、インプットロッド7の推力が増幅される形でプライマリ液室42が加圧される。その増幅比(以下、倍力比と称す。)は、インプットロッド7とプライマリピストン40の変位量の比、インプットロッド7とプライマリピストン40の断面積(以下、それぞれAIRをAPPと称す。)の比、等によって任意の値に決定される。特に、インプットロッド7の変位量と同量だけプライマリピストン40を変位させた場合には、倍力比は(AIR+APP)/AIRに一意に定まることが一般に知られている。すなわち、必要な倍力比に基づいてAIRとAPPを設定し、変位量がインプットロッド7の変位量に等しくなるようにプライマリピストン40を制御することで、常に一定の倍力比を得ることができる。
【0041】
なお、前述の通り、インプットロッド7の変位量はブレーキセンサ8によって検出される。
【0042】
また、プライマリピストン40の変位量は、図示しない位置センサの信号に基づいてマスタ圧制御装置3によって算出される。
【0043】
続いて、ホイール圧制御機構6の構成と動作について説明する。
【0044】
図1に示すように、ホイール圧制御機構6は、マスタシリンダ9で加圧された作動液の各ホイールシリンダ11a〜dへの供給を制御するゲートOUT弁50a〜bと、マスタシリンダ9で加圧された作動液のポンプ54a〜bへの供給を制御するゲートIN弁51a〜bと、マスタシリンダ9またはポンプ54a〜bから各ホイールシリンダ11a〜dへの作動液の供給を制御するIN弁52a〜dと、ホイールシリンダ11a〜dを減圧制御するOUT弁53a〜dと、マスタシリンダ9で生成された作動圧を昇圧するポンプ54a〜bと、ポンプ54a〜bを駆動するポンプモータ55と、マスタ圧を検出するマスタ圧センサ56とを備えている。
【0045】
なお、ホイール圧制御機構6としては、アンチロックブレーキ制御用の液圧制御ユニット,車両挙動安定化制御用の液圧制御ユニット,ブレーキバイワイヤ用の液圧制御ユニット等が適当である。
【0046】
また、ホイール圧制御機構6は、プライマリ液室42から作動液の供給を受け、FL輪とRR輪のブレーキ力を制御する第1のブレーキ系統と、セカンダリ液室43から作動液の供給を受け、FR輪とRL輪のブレーキ力を制御する第2のブレーキ系統の二つの系統から構成されている。このような構成を採ることにより、一方のブレーキ系統が失陥した場合にも、正常なもう一方のブレーキ系統によって対角2輪分のブレーキ力が確保されるため、車両の挙動が安定に保たれる。
【0047】
図1において、ゲートOUT弁50a〜bは、マスタシリンダ9とIN弁52a〜dとの間に備えられており、マスタシリンダ9で加圧された作動液をホイールシリンダ11a〜dに供給する際に開弁される。
【0048】
ゲートIN弁51a〜bは、マスタシリンダ9とポンプ54a〜bとの間に備えられており、マスタシリンダ9で加圧された作動液をポンプ54a〜bで昇圧してホイールシリンダ11a〜dに供給する際に開弁される。
【0049】
IN弁52a〜dは、ホイールシリンダ11a〜dの上流に備えられており、マスタシリンダ9またはポンプ54a〜bで加圧された作動液をホイールシリンダ11a〜dに供給する際に開弁される。
【0050】
OUT弁53a〜dは、ホイールシリンダ11a〜dの下流に備えられており、ホイール圧を減圧する際に開弁される。
【0051】
なお、ゲートOUT弁50a〜bとゲートIN弁51a〜bとIN弁52a〜dとOUT弁53a〜dは、内部の図示しないソレノイドへの通電によって弁の開閉が行われる電磁式のものであり、ホイール圧制御装置5が行う電流制御によって弁の開閉量が各弁個々に調節される。
【0052】
また、ゲートOUT弁50a〜bとゲートIN弁51a〜bとIN弁52a〜dとOUT弁53a〜dは、常開弁,常閉弁のいずれであっても構わないが、第1の実施形態では、ゲートOUT弁50a〜bとIN弁52a〜dが常開弁、ゲートIN弁51a〜bとOUT弁53a〜dが常閉弁である。このような構成を採ることにより、それぞれの弁への電力供給が停止した場合にも、ゲートIN弁51a〜bとOUT弁53a〜dが閉じ、ゲートOUT弁50a〜bとIN弁52a〜dが開いて、マスタシリンダ9で加圧された作動液がすべてのホイールシリンダ11a〜dに到達するため、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。
【0053】
ポンプ54a〜bは、例えば、車両挙動安定化制御,自動ブレーキ等を行うために、マスタシリンダ9の作動圧を超える圧力が必要な場合に、マスタ圧を昇圧してホイールシリンダ11a〜dに供給する。
【0054】
なお、ポンプ54a〜bとしては、プランジャポンプ,トロコイドポンプ,ギヤポンプ等が適当であるが、静粛性の点においてはギヤポンプが望ましい。
【0055】
ポンプモータ55は、ホイール圧制御装置5の制御指令に基づいて供給される電力によって動作し、自身に連結されたポンプ54a〜bを駆動する。
【0056】
なお、ポンプモータ55としては、DCモータ,DCブラシレスモータ,ACモータ等が適当であるが、制御性,静粛性,耐久性の点においてはDCブラシレスモータが望ましい。
【0057】
マスタ圧センサ56は、セカンダリ側のマスタ配管102bの下流に備えられており、マスタ圧を検出する圧力センサである。
【0058】
なお、マスタ圧センサ56の個数及び設置位置に関しては、制御性,フェイルセーフ等を考慮して任意に決定することができる。
【0059】
本発明の実施形態に係る液圧ブレーキ装置1で行われる処理、特に、自動ブレーキを実施する際の処理と、自動ブレーキ中に運転者がブレーキ操作を行った場合の処理について、図2〜図5を参照しながら以下、説明する。
【0060】
まず、ブレーキ力制御装置2が実行する第1の自動ブレーキ制御ルーチン(以下、第1のルーチンと称す。)と、第2の自動ブレーキ制御ルーチン(以下、第2のルーチンと称す。)で実行されるプライマリピストン40の制御処理、具体的には、マスタ圧制御処理,第1の制御処理,第2の制御処理,第3の制御処理について説明する。
【0061】
マスタ圧制御処理は、マスタシリンダ9の作動圧を自動ブレーキの要求液圧(以下、自動ブレーキ要求液圧と称す。)に調節すべく、プライマリピストン40を前進及び後退させる制御処理である。
【0062】
なお、この場合のプライマリピストン40の制御方法としては、テーブルとして事前に取得したプライマリピストン40の変位量とマスタ圧との関係に基づいて、自動ブレーキ要求液圧を実現するプライマリピストン40の変位量を抽出し、これを目標値とする方法、マスタ圧センサ56で検出されたマスタ圧をフィードバックする方法等があるが、いずれの方法を採っても構わない。
【0063】
第1の制御処理は、インプットロッド7の変位量に比例ゲイン(以下、K1と称す。)を乗じた量だけプライマリピストン40を変位させる制御処理である。
【0064】
なお、K1は制御性の点からは1であることが望ましいが、緊急ブレーキ等により運転者のブレーキ操作量を上回るブレーキ力が必要な場合には、一時的に、K1を、1を上回る値に変更することができる。これにより、同量のブレーキ操作量でも、マスタ圧を通常時(K1=1の場合)に比べて引き上げられるため、より大きなブレーキ力を発生させることができる。ここで、緊急ブレーキの判定は、例えば、ブレーキセンサ8の信号の時間変化率が所定値を上回るか否かで判定することができる。
【0065】
以上述べた通り、第1の制御処理によれば、運転者のブレーキ要求に従うインプットロッド7の変位量に応じてマスタ圧が増減圧されるため、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。
【0066】
第2の制御処理は、所定のオフセット量だけプライマリピストン40を推進させたうえで、第1の制御処理を実行する制御処理である。
【0067】
第2の制御処理は、例えば、車線逸脱回避制御,障害物回避制御等により、左右片側の2輪のみに自動ブレーキの作動圧を作用させている状態(以下、2輪ブレーキと称す。)から、運転者のブレーキ要求に従って4輪すべてに作動圧を作用させる状態(以下、4輪ブレーキと称す。)に切り替える必要性が生じた場合に適用されるものであり、主に、2輪ブレーキから4輪ブレーキに切り替わる際に発生する作動液量の不足を回避することを狙いとした制御処理である。すなわち、第2の制御処理によれば、作動液量の減少に起因するマスタ圧の低下が抑制されるため、マスタ圧の低下に伴うブレーキ力の低下が回避される。
【0068】
なお、オフセット量の決定方法としては、例えば以下、の二つがあるが、いずれの方法を採っても構わない。
【0069】
第1の決定方法は、テーブルとして事前に取得した、2輪ブレーキ時及び4輪ブレーキ時それぞれのプライマリピストン40の変位量とマスタ圧との関係に基づいて、目標ブレーキ液圧を実現するプライマリピストン40の変位量を2輪ブレーキ時と4輪ブレーキ時でそれぞれ抽出し、両者の差分(4輪ブレーキ時の変位量−2輪ブレーキ時の変位量)をオフセット量とする方法である。
【0070】
第2の決定方法は、2輪ブレーキから4輪ブレーキに切り替わる際に、マスタ圧が目標ブレーキ液圧に到達するように、マスタ圧センサ56の出力を参照するフィードバック制御を行い、これによりプライマリピストン40を推進させる方法である。
【0071】
なお、目標ブレーキ液圧については、運転者のブレーキ要求に応じて任意に決定することができるが、例えば、自動ブレーキ要求液圧であっても構わない。
【0072】
また、第2の制御処理において実行される第1の制御処理は、前述した第1の制御処理と同じである。
【0073】
以上述べた通り、第2の制御処理によれば、2輪ブレーキから4輪ブレーキに切り替わる際のマスタ圧の低下が抑制されるように、第1の制御処理とは別にプライマリピストン40の制御が行われるため、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。
【0074】
第3の制御処理は、インプットロッド7の変位量に比例ゲイン(以下、K3と称す。)を乗じた量だけプライマリピストン40を変位させる制御処理である。
【0075】
第3の制御処理は、運転者のブレーキ要求が特に減圧要求である場合に適用されるものであり、インプットロッド7の変位量が概ね零に達すると同時にマスタ圧が概ね零に達するようにプライマリピストン40を変位させる制御である。
【0076】
なお、K3としては、第3の制御処理開始時におけるインプットロッド7とプライマリピストン40の変位量の初期値(以下、それぞれXIR0,XPP0と称す。)を記憶しておき、これらの比であるXPP0/XIR0が適当である。ここで、K3の決定に際しては、XPP0にマスタシリンダ9の無効ストローク量を考慮しても良い。
【0077】
以上述べた通り、第3の制御処理によれば、運転者のブレーキ要求が概ね零に達した段階でマスタ圧が概ね零に達するように、プライマリピストン40の制御が行われるため、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。
【0078】
図2は、ブレーキ力制御装置2が実行する第1のルーチンのフローチャートを示す図である。
【0079】
なお、第1のルーチンは、4輪ブレーキによる制御、例えば、車間距離制御,衝突回避制御等に適用される。
【0080】
また、第1のルーチンは、所定の時間間隔で繰り返し起動される。
【0081】
第1のルーチンが起動されると、まず、ステップ100の処理が実行される。
【0082】
ステップ100では、自動ブレーキの継続が可能か否かが判定され、これが成立する場合にはステップ101の処理が実行され、成立しない場合にはステップ102の処理が実行される。
【0083】
なお、ステップ100では、例えば、運転者がブレーキ操作を行っていない場合や、マスタ圧が自動ブレーキ要求液圧に等しいかまたは下回る場合等に自動ブレーキの継続が可能と判定される。
【0084】
ステップ101では、マスタ圧制御処理が実行され、マスタシリンダ9の作動圧が自動ブレーキ要求液圧に調節される。
【0085】
なお、この場合の自動ブレーキ要求液圧は、ブレーキ力制御装置2において算出された目標ブレーキ力に基づいて決定される。
【0086】
ステップ102では、自動ブレーキを解除するか否かが判定され、これが成立する場合にはステップ103の処理が実行され、成立しない場合にはステップ104の処理が実行される。
【0087】
なお、ステップ102では、例えば、車両状態量,先行車との車間距離等に基づいて自動ブレーキを解除するか否かが判定される。
【0088】
但し、衝突被害軽減ブレーキ制御を行っている場合には、自動ブレーキを解除しないことが望ましい。
【0089】
ステップ103では、運転者のブレーキ要求が、増圧要求または保持要求であるか否かが判定され、これが成立する場合にはステップ105の処理が実行され、成立しない場合にはステップ106の処理が実行される。
【0090】
なお、ステップ103では、例えば、ブレーキセンサ8によって検出されるインプットロッド7の変位量の時間変化率に基づいて、増圧要求,保持要求,減圧要求のいずれかが判定される。
【0091】
ステップ105では、第1の制御処理が実行され、これにより今回のルーチンは終了する。
【0092】
ステップ106では、第3の制御処理が実行され、これにより今回のルーチンは終了する。
【0093】
ステップ104では、ステップ103と同様に、運転者のブレーキ要求が増圧要求または保持要求であるか否かが判定され、これが成立する場合にはステップ107の処理が実行され、成立しない場合にはステップ108の処理が実行される。
【0094】
ステップ107では、第1の制御処理が実行され、これにより今回のルーチンは終了する。
【0095】
ステップ108では、第1の制御処理が実行される。
【0096】
ステップ109では、マスタ圧(PMC)が自動ブレーキ要求液圧(PDMND)に等しいか、または下回るか否かが判定され、これが成立する場合にはステップ110の処理が行われ、成立しない場合には今回のルーチンは終了する。
【0097】
ステップ110では、自動ブレーキ移行処理が実行される。
【0098】
なお、自動ブレーキ移行処理は、例えば、自動ブレーキ可能フラグをオンにする処理である。
【0099】
以上述べた通り、ブレーキ力制御装置2が実行する第1のルーチンによれば、適切な自動ブレーキが実現されるとともに、自動ブレーキ中に運転者がブレーキ操作を行った場合においても、自動ブレーキの解除条件,運転者のブレーキ要求、等に基づいてプライマリピストン40の制御処理が適切に選択され、実行されるため、ブレーキ時の車両挙動が安定化するとともに、ブレーキペダル100の操作性が向上する。
【0100】
図3は、第1のルーチンが起動している場合の各状態量のタイムチャートを示す図である。なお、ここでは、一例としてステップ102において自動ブレーキが解除される場合を想定しているが、他の場合においても、図2に示すフローチャートに従って適切な制御処理が選択,実行される。
【0101】
以下、各状態量の変化をチャートに従って説明する。
【0102】
まず、自動ブレーキオンからブレーキペダル100オンまでの期間では、マスタ圧が自動ブレーキ要求液圧に維持されるように、マスタ圧制御によってプライマリピストン40の制御が行われる。
【0103】
第1のルーチンでは、すべての輪のIN弁52a〜dが開状態にあるため、各ホイール圧はマスタ圧に概ね等しく制御される。これにより、目標ブレーキ力に合致した減速度が実現される。
【0104】
つぎに増圧要求の期間では、ブレーキペダル100踏力が、自動ブレーキ要求液圧に維持されているマスタ圧に応じた力を上回った段階でインプットロッド7が変位し始め、これと同時に第1の制御によってプライマリピストン40の制御が開始される。
【0105】
なお、インプットロッド7が変位し始めた段階で、ブレーキセンサ8により運転者のブレーキ要求が検出されるため、これに基づいて自動ブレーキ要求液圧が零に引き下げられている。
【0106】
つぎに保持要求の期間では、増圧要求の期間と同様に、第1の制御によってプライマリピストン40の制御が継続され、これにより、所定の減速度が維持される。
【0107】
つぎに減圧要求の期間では、第3の制御によってプライマリピストン40の制御が行われ、これにより、所定の減速度が実現される。
【0108】
なお、図2のフローチャートに示すように、第3の制御中に、運転者のブレーキ要求が増圧要求または保持要求に切り替わった場合には、第1の制御に切り替えることができる。
【0109】
図4は、ブレーキ力制御装置2が実行する第2のルーチンのフローチャートを示す図である。なお、第2のルーチンは、2輪ブレーキによる制御、例えば、車線逸脱回避制御,障害物回避制御等に適用される。また、第2のルーチンは所定の時間間隔で繰り返し起動される。
【0110】
第2のルーチンが起動されると、まず、ステップ200の処理が実行される。
【0111】
ステップ200では、自動ブレーキの継続が可能か否かが判定され、これが成立する場合にはステップ201の処理が実行され、成立しない場合にはステップ202の処理が実行される。
【0112】
なお、ステップ200では、例えば、運転者がブレーキ操作を行っていない場合や、マスタ圧が自動ブレーキ要求液圧に等しいかまたは下回る場合等に自動ブレーキの継続が可能と判定される。
【0113】
ステップ201では、自動ブレーキを行わない輪(以下、非制御輪と称す。)のIN弁52a〜dが閉弁され、かつホイール圧の減圧が完了しているか否かが判定され、これが成立する場合にはステップ204の処理が実行され、成立しない場合にはステップ203の処理が実行される。
【0114】
ステップ203では、非制御輪のIN弁52a〜dを閉弁するとともにホイール圧を減圧する処理が実行される。これにより、非制御輪のホイールシリンダ11a〜dにマスタシリンダ9で加圧された作動液が供給されなくなるとともに、4輪ブレーキ時のホイール圧が概ね零に低下するため、自動ブレーキを行う輪(以下、制御輪と称す。)のみにブレーキ力を発生させることができる。
【0115】
ステップ204では、マスタ圧制御処理が実行され、マスタシリンダ9の作動圧が自動ブレーキ要求液圧に調節される。
【0116】
なお、この場合の自動ブレーキ要求液圧は、ブレーキ力制御装置2において算出された目標ブレーキ力に基づいて決定される。
【0117】
ステップ202では、非制御輪のIN弁52a〜dが開弁されているか否かが判定され、これが成立する場合にはステップ206の処理が実行され、成立しない場合にはステップ205の処理が実行される。
【0118】
ステップ205では、非制御輪のIN弁52a〜dを開弁する処理が実行される。これにより、非制御輪のホイールシリンダ11a〜dにもマスタシリンダ9で加圧された作動液が供給されるようになるため、4輪すべてでブレーキ力を発生させることができる。
【0119】
ステップ206では、自動ブレーキを解除するか否かが判定され、これが成立する場合にはステップ207の処理が実行され、成立しない場合にはステップ208の処理が実行される。
【0120】
なお、ステップ206では、例えば、車両状態量,先行車との車間距離等に基づいて自動ブレーキを解除するか否かが判定される。
【0121】
但し、衝突被害軽減ブレーキ制御を行っている場合には、自動ブレーキを解除しないことが望ましい。
【0122】
ステップ207では、運転者のブレーキ要求が増圧要求または保持要求であるか否かが判定され、これが成立する場合にはステップ209の処理が実行され、成立しない場合にはステップ210の処理が実行される。
【0123】
なお、ステップ207では、例えば、ブレーキセンサ8によって検出されるインプットロッド7の変位量の時間変化率に基づいて、増圧要求,保持要求,減圧要求のいずれかが判定される。
【0124】
ステップ209では、第2の制御処理が実行され、これにより今回のルーチンは終了する。
【0125】
ステップ210では、第3の制御処理が実行され、これにより今回のルーチンは終了する。
【0126】
ステップ208では、ステップ207と同様に、運転者のブレーキ要求が増圧要求または保持要求であるか否かが判定され、これが成立する場合には、ステップ211の処理が実行され、成立しない場合にはステップ212の処理が実行される。
【0127】
ステップ211では、第2の制御処理が実行され、これにより今回のルーチンは終了する。
【0128】
ステップ212では、第1の制御処理が実行される。
【0129】
ステップ213では、マスタ圧(PMC)が自動ブレーキ要求液圧(PDMND)に等しいかまたは下回るか否かが判定され、これが成立する場合にはステップ214の処理が行われ、成立しない場合には今回のルーチンは終了する。
【0130】
ステップ214では、自動ブレーキ移行処理が実行される。
【0131】
なお、自動ブレーキ移行処理は、例えば、自動ブレーキ可能フラグをオンにする処理である。
【0132】
以上述べた通り、ブレーキ力制御装置2が実行する第2のルーチンによれば、適切な自動ブレーキが実現されるとともに、自動ブレーキ中に運転者がブレーキ操作を行った場合においても、自動ブレーキの解除条件,運転者のブレーキ要求、等に基づいてプライマリピストン40の制御処理が適切に選択され、実行されるため、ブレーキ時の車両挙動が安定化するとともに、ブレーキペダル100の操作性が向上する。
【0133】
図5は、第2のルーチンが起動している場合の各状態量のタイムチャートを示す図である。なお、ここでは、一例としてステップ206において自動ブレーキが解除されない場合を想定しているが、他の場合においても、図4に示すフローチャートに従って適切な制御処理が選択,実行される。また、ここでは、制御輪がFL輪とRL輪の左側2輪である場合を示しているが、他の場合においても、図4に示すフローチャートに従って適切な制御処理が選択,実行される。
【0134】
以下、各状態量の変化をチャートに従って説明する。
【0135】
まず、自動ブレーキオンからブレーキペダル100オンまでの期間では、マスタ圧が自動ブレーキ要求液圧に維持されるように、マスタ圧制御によってプライマリピストン40の制御が行われる。
【0136】
なお、自動ブレーキオンに先立って、非制御輪であるFR輪とRR輪のIN弁52b,dが閉弁されている。
【0137】
つぎに増圧要求の期間では、ブレーキペダル100踏力が自動ブレーキ要求液圧に維持されているマスタ圧に応じた力を上回った段階で、インプットロッド7が変位し始め、これと同時に第2の制御によってプライマリピストン40の制御が開始される。
【0138】
なお、インプットロッド7が変位し始めた段階で、ブレーキセンサ8により運転者のブレーキ要求が検出されるため、これに基づいて非制御輪であるFR輪とRR輪のIN弁52b,dが開弁されている。この時、それぞれのIN弁52b,dの開弁のタイミングをずらしてもよい。これにより、プライマリピストン40の変位量の時間変化率が小さく抑えられるため、減速度の変化がさらに改善される。
【0139】
つぎに保持要求の期間では、増圧要求の期間と同様に、第2の制御によってプライマリピストン40の制御が継続され、これにより、所定の減速度が維持される。
【0140】
つぎに減圧要求の期間では、第1の制御によってプライマリピストン40の制御が行われ、これにより、所定の減速度が実現される。
【0141】
なお、インプットロッド7の変位量が概ね零に達した段階で、ブレーキセンサ8の信号に基づいて運転者のブレーキ要求が解除されたと判断されるため、これに基づいて2輪ブレーキを継続すべく、非制御輪であるFR輪とRR輪のIN弁52b,dが閉弁されている。
【0142】
以上述べた通り、本発明の第1の実施形態に係る液圧ブレーキ装置1によれば、自動ブレーキ中に運転者がブレーキ操作を行った場合においても、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させられるため、ブレーキ時の車両挙動が安定化するとともに、ブレーキペダル100の操作性が向上する。
【実施例2】
【0143】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る液圧ブレーキ装置1の全体構成を示す図である。なお、第1の実施形態と同一部分については、同一番号を付して説明を省略する。
【0144】
第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、インプットロッド7がプライマリ液室42に挿入されていない点、可動部材28に伝達部材30が連結されている点、インプットロッド7と伝達部材30とが空隙もって配設されている点、ブレーキペダル100に反力生成機構103が連結されている点である。ここで、反力生成機構103は、ブレーキ力制御装置2の制御指令に従って所定の反力を生成し、これをブレーキペダル100に作用させるものである。
【0145】
すなわち、ブレーキ力制御装置2が実行する第1のルーチンと、第2のルーチンで実行されるプライマリピストン40の制御処理は第1の実施形態となんら変わらないため、第1の実施形態と同様に、自動ブレーキ中に運転者がブレーキ操作を行った場合においても、運転者の要求通りのブレーキ力を発生させることができる。
【0146】
なお、第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、運転者のブレーキ操作によるインプットロッド7の変位量に応じてプライマリピストン40を変位させることで、インプットロッド7の推力が増幅される形でプライマリ液室42を加圧することができる。
【0147】
また、万一駆動モータ20が停止した場合にも、運転者のブレーキペダル100踏力がインプットロッド7,伝達部材30,可動部材28を介してプライマリピストン40に伝達されマスタ圧が上昇するため、所定のブレーキ力が確保される。
【0148】
また、インプットロッド7がプライマリ液室42に挿入されていないことにより、マスタ圧に応じた力がブレーキペダル100に作用しないため、ハイブリッド車,電気自動車等で行われる回生協調制動の際に、マスタ圧の変動の影響を受けることがない。
【0149】
また、反力生成機構103により、ブレーキペダル100反力を任意に決定できるため、ブレーキペダル100の操作感を容易に変更することができる。
【0150】
以上、本発明の実施形態を図面に従って説明したが、これらはあくまでも一つの実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る液圧ブレーキ装置の全体構成を示す図である。
【図2】ブレーキ力制御装置が実行する第1の自動ブレーキ制御ルーチンのフローチャートを示す図である。
【図3】第1の自動ブレーキ制御ルーチンが起動している場合の各状態量のタイムチャートを示す図である。
【図4】ブレーキ力制御装置が実行する第2の自動ブレーキ制御ルーチンのフローチャートを示す図である。
【図5】第2の自動ブレーキ制御ルーチンが起動している場合の各状態量のタイムチャートを示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る液圧ブレーキ装置の全体構成を示す図である。
【符号の説明】
【0152】
1 液圧ブレーキ装置
2 ブレーキ力制御装置
3 マスタ圧制御装置
4 マスタ圧制御機構
5 ホイール圧制御装置
6 ホイール圧制御機構
7 インプットロッド
8 ブレーキセンサ
9 マスタシリンダ
10 リザーバタンク
11a〜d ホイールシリンダ
20 駆動モータ
21 減速装置
22 駆動側プーリ
23 従動側プーリ
24 ベルト
25 回転−並進変換装置
26 ボールネジナット
27 ボールネジ軸
28 可動部材
29 戻しバネ
30 伝達部材
40 プライマリピストン
41 セカンダリピストン
42 プライマリ液室
43 セカンダリ液室
50a〜b ゲートOUT弁
51a〜b ゲートIN弁
52a〜d IN弁
53a〜d OUT弁
54a〜b ポンプ
55 ポンプモータ
56 マスタ圧センサ
100 ブレーキペダル
101a〜d ディスクロータ
102a〜b マスタ配管
103 反力生成機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダを加減圧する第1の加減圧手段と、第1の加減圧手段とは独立にマスタシリンダを加減圧する第2の加減圧手段と、目標ブレーキ力を算出するとともに、これに基づいて目標マスタシリンダ圧を決定するブレーキ力制御手段と、マスタシリンダから供給される作動液圧により動作する複数のホイールシリンダとを備えてなる液圧ブレーキ装置において、
目標マスタシリンダ圧に応じて第2の加減圧手段を制御することを特徴とする液圧ブレーキ装置。
【請求項2】
マスタシリンダを加減圧する第1の加減圧手段と、第1の加減圧手段とは独立にマスタシリンダを加減圧する第2の加減圧手段と、目標ブレーキ力を算出するとともに、これに基づいて目標マスタシリンダ圧を決定するブレーキ力制御手段と、マスタシリンダから供給される作動液圧により動作する複数のホイールシリンダとを備えてなる液圧ブレーキ装置において、
目標マスタシリンダ圧に応じて第2の加減圧手段を制御する第1のブレーキ制御状態と、第1の加減圧手段の変位に応じて第2の加減圧手段を制御する第2のブレーキ制御状態とを有し、第1のブレーキ制御状態において運転者のブレーキ操作により第1の加減圧手段が動作した場合に、第2のブレーキ制御状態に遷移することを特徴とする液圧ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の液圧ブレーキ装置において、第1のブレーキ制御状態において動作させているホイールシリンダの個数に応じて、第2のブレーキ制御状態における第2の加減圧手段の制御方式が異なることを特徴とする液圧ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項2に記載の液圧ブレーキ装置において、第2のブレーキ制御状態において、第1の加減圧手段の動作がマスタシリンダを加圧する方向の動作か、減圧する方向の動作かによって、第2のブレーキ制御状態における第2の加減圧手段の制御方式が異なることを特徴とする液圧ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項2に記載の液圧ブレーキ装置において、第2のブレーキ制御状態における第2の加減圧手段の制御方式には、第1の加減圧手段の変位量に比例した量だけ第2の加減圧手段を変位させる第1の制御と、第1の加減圧手段の変位量に比例した量に所定の変位量を上乗せした量だけ第2の加減圧手段を変位させる第2の制御と、第1の加減圧手段の変位量が零位置に戻った状態で第2の加減圧手段によるマスタシリンダの加圧が解除されるように第2の加減圧手段を変位させる第3の制御のいずれか、またはすべてが含まれることを特徴とする液圧ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項5に記載の液圧ブレーキ装置において、第1のブレーキ制御状態においてすべてのホイールシリンダを動作させている場合には、第2のブレーキ制御状態において、第1の加減圧手段の動作がマスタシリンダを加圧する方向に動作した場合に第1の制御を選択し、第1の加減圧手段の動作がマスタシリンダを減圧する方向に動作した場合に第1の制御または第3の制御を選択することを特徴とする液圧ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項5に記載の液圧ブレーキ装置において、第1のブレーキ制御状態において少なくとも1輪以上のホイールシリンダを動作させていない場合には、第2のブレーキ制御状態において、第1の加減圧手段の動作がマスタシリンダを加圧する方向に動作した場合に第2の制御を選択し、第1の加減圧手段の動作がマスタシリンダを減圧する方向に動作した場合に第1の制御または第3の制御を選択することを特徴とする液圧ブレーキ装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の液圧ブレーキ装置において、第1の加減圧手段は、第2の加減圧手段を動作させることでマスタシリンダを加減圧することを特徴とする液圧ブレーキ装置。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の液圧ブレーキ装置を搭載した自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−29265(P2009−29265A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195317(P2007−195317)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】