説明

液封式防振装置

【課題】相異なった振動周波数領域のそれぞれにおいて効果的に振動を低減することのできる液封式防振装置を提供する。
【解決手段】剛性のアウタ部材14と、剛性のインナ部材12と、本体ゴム部16と、主液室36と、副液室38と、それらを区画する剛性の仕切部材34と、主液室36と副液室38とを連通させるオリフィス流路43を内側に形成する筒状部42とを有する液封式防振装置10において、筒状部42全体を、筒状のゴムばね50及びマス部材52を有するダイナミックダンパ54として構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は液封式防振装置に関し、詳しくは液室を仕切部材によって主液室と副液室とに区画するとともに、その仕切部材に設けた筒状部によって、主液室と副液室との間で液を流動させるオリフィス流路をその内側に形成した形式の液封式防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液室内部に液を封入してその液の流動による減衰を利用してゴム弾性体(本体ゴム部)単体による防振機能の不足を補うようにした液封式防振装置がエンジンマウントその他として広く用いられている。
【0003】
図7はその具体例を示している。
この図7に示すものは、仕切部材によって液室を主液室と副液室とに区画するとともに、仕切部材に設けた筒状部によってその内側にオリフィス流路を形成した形式のものである。
図中200はその液封式防振装置を、202,204はそれぞれインナ金具(剛性のインナ部材)及びアウタ金具(剛性のアウタ部材)を示している。
【0004】
206はこれらインナ金具202及びアウタ金具204を内外方向に連結するゴム弾性体から成る本体ゴム部で、全体としてインナ金具202周りに環状をなしている。
この液封式防振装置200は、本体ゴム部206を壁としてその上側に液室が形成されており、その液室が仕切金具(剛性の仕切部材)208にて本体ゴム部206側の主液室210と副液室212とに区画されている。
【0005】
214は仕切金具208の中心部に一体に設けられた筒状部で、この筒状部214の内側に主液室210と副液室212との間で液を行き来させ流動させるオリフィス流路216が形成されている。
【0006】
この液封式防振装置200は、インナ金具202において図示を省略するブラケットにより振動体例えばエンジン側に固定され、またアウタ金具204においてブラケット218により例えば車体側に固定される。
【0007】
即ちこの図7に示す液封式防振装置200は振動体を吊下げ式に支持する形式のものである。
この液封式防振装置200にあっては、図中上下方向の振動入力によって液室内の液がオリフィス流路216を通じて主液室210から副液室212に若しくはその逆に行き来して、その際の粘性流動に基づくエネルギー吸収によって入力振動を減衰する。
【0008】
その減衰作用は液柱共振を生ずる際に最も高く、そこで目的とする振動周波数の領域において最も効果的に振動を低減するように液柱共振の共振周波数を合わせる(チューニングする)。
【0009】
例えば車両のアイドリング時における振動低減を目的とする場合には、そのアイドリング時の周波数に対して液柱共振の共振周波数をチューニングして減衰を大きくし、アイドリング時における動ばね定数を低ばね化する。
【0010】
しかしながらこの液封式防振装置200にあっては、単一の振動周波数領域においてのみ効果的な振動低減を果たすことができるに過ぎず、他の振動周波数領域、例えば車室内のこもり音の原因となる高周波数振動領域においては、液柱共振に基づく振動低減を発揮することができないといった問題がある。
【0011】
尚、下記特許文献1には吊下げ式の液封式防振装置という点で図7に示すものと同種形式の液封式防振装置が開示されている。
また下記特許文献2,特許文献3には液室内にダイナミックダンパを設けた液封式防振装置が開示されている。
しかしながらこれら特許文献2及び特許文献3に開示のものは、本発明とは液封式防振装置の構成において、また解決手段において異なったものである。
【0012】
【特許文献1】特開平8−128491号公報
【特許文献2】特開平9−133178号公報
【特許文献3】特開平11−141595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は以上のような事情を背景とし、相異なった振動周波数領域のそれぞれにおいて効果的に振動を低減することのできる、液封式防振装置を提供することを目的として成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
而して請求項1のものは、(a)剛性のアウタ部材と(b)剛性のインナ部材と(c)それらアウタ部材及びインナ部材を内外方向に連結する、該インナ部材周りに環状をなす本体ゴム部と(d)該本体ゴム部を壁として形成された液室と(e)該液室を該本体ゴム部側の主液室と反対側の副液室とに区画する剛性の仕切部材と(f)該仕切部材に設けられ、前記主液室と副液室とを連通させるオリフィス流路を内側に形成する筒状部とを有し、該オリフィス流路を通じて前記主液室と副液室との間で液を流動させて減衰作用をなす液封式防振装置であって、前記筒状部の全体若しくは一部を、前記仕切部材の側から前記主液室側に軸方向に突き出した形態の筒状のゴムばねと、該ゴムばねの軸方向の先端部に固定された筒状のマス部材とを有するダイナミックダンパとして構成してあることを特徴とする。
【0015】
請求項2のものは、請求項1において、前記防振装置が前記インナ部材側において振動体を吊り下げ支持するものであって、該インナ部材がカップ状部を有しており、前記筒状部の一部を成す前記マス部材が該カップ状部の内部に挿入されていて、それらマス部材とカップ状部との間に液の流路を形成していることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0016】
以上のように本発明は、内側にオリフィス流路を形成する筒状部の全体若しくは一部を、主液室側に軸方向に突き出した筒状のゴムばねと、そのゴムばねの軸方向の先端部に固定した筒状のマス部材とを有するダイナミックダンパとして構成したものである。
本発明によれば、筒状部としての本来の機能、即ちその内側にオリフィス流路を形成して、その流路の液の流動に基づく減衰、特に液柱共振による減衰の機能を失うことなく、そこにダイナミックダンパとしての機能も併せ持たせることができる。
詳しくは、本発明によればオリフィス流路を通じて流動する液の液柱共振と、ダイナミックダンパの共振とを利用して、互いに異なる振動周波数領域の振動をそれぞれ効果的に低減すること、例えば車両のアイドリング時の振動と、車室内にこもり音を生ぜしめる高周波の振動周波数領域の振動をぞれぞれ効果的に低減することが可能となる。
【0017】
また本発明では、そのオリフィス流路を内側に形成する筒状部それ自体(全体若しくはその一部)をダイナミックダンパとして構成しているため、かかる筒状部とは別にダイナミックダンパを構成した場合に比べて、液封式防振装置の内部構造を簡素化することができる。
加えて液の流れが最も活発に生ずる部分において、その液の流れを利用してダイナミックダンパを振動せしめることができる。
また本発明においては筒状をなすゴムばねのゴムの厚みを変えることによって液柱共振の周波数を調節できる利点が得られる。
詳しくは、ゴムばねのゴムの厚みを変えるだけで仕切り部材その他の変更を要することなく、筒状部の内側のオリフィス流路の流路断面積を容易に変更でき、これによってその筒状部の内側のオリフィス流路を流通する液の共振周波数を容易に目的とする共振周波数にチューニングすることができる。
【0018】
次に請求項2は、液封式防振装置をインナ部材側において振動体を吊下げ支持する吊下げ式のものとなし、そしてそのインナ部材をカップ状を有するものとなしてそのカップ状部の内部に、筒状部の一部を成す上記のマス部材を挿入させ、それらマス部材とインナ部材との間に液の流路を形成したもので、この請求項2によればそのマス部材とインナ部材との間の流路を別途のオリフィス流路として形成することが可能となる。
このようにすれば、更に第3の共振を生ぜしめることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に本発明の液封式防振装置をエンジンマウントに適用した場合の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1〜図3において、10はそのエンジンマウントとして用いられる液封式防振装置で、この液封式防振装置10は、インナ金具(剛性のインナ部材)12と、アウタ金具(剛性のアウタ部材)14及びそれらを内外方向に連結する本体ゴム部16とを有している。
【0020】
ここでインナ金具12は上部のカップ状部18と下部の雌ねじ孔20を有する軸部22とを有しており、その軸部22においてエンジンに固定されるようになっている。
即ちこの液封式防振装置10は、インナ金具12においてエンジンに固定されてこれを吊下げ式に支持するようになっている。
【0021】
一方アウタ金具14は、その本体を成す下部24と上部26とに分割されていて、それらが後述の仕切金具34とともにかしめ部28においてかしめ付け固定され一体化されている。
尚上部26には開口30が設けられていて、その開口30にゴム製のダイヤフラム壁32が構成されている。
このダイヤフラム壁32は、後述の副液室38の壁をなすものである。
【0022】
上記本体ゴム部16はインナ金具12周りに環状をなしており、その上側にかかる本体ゴム部16を下部の壁として液室が形成されている。
34はその液室に配設された仕切金具(剛性の仕切部材)で、その仕切金具34により液室が本体ゴム部16側の下部の主液室36と、上部の副液室38とに区画されている。
【0023】
上記仕切金具34には、その中心部に貫通の開口40が形成されていて、その開口40から円筒形状の筒状部42が下向きに突き出しており、その内側に主液室36と副液室38とを連通させるオリフィス流路43が形成されている。
この仕切金具34にはまた、開口40の周縁から上向きに起立する円筒部44が一体に形成されている。
46は筒状をなすゴム弾性体でその上部が固定部48とされ、その固定部48が円筒部44の内周面に加硫接着にて一体に固定されている。
【0024】
ゴム弾性体46の下部は仕切金具34から主液室36側に突き出した筒状のゴムばね50とされており、そのゴムばね50の先端に同じく筒状をなす金属製のマス部材52が加硫接着にて一体に固定されている。
ここで互いに筒状をなすマス部材52とゴムばね50とは同心上に設けられており、またマス部材52の内径とゴムばね50の内径とは同じ内径とされている。
【0025】
本実施形態において、これらゴムばね50とマス部材52とはダイナミックダンパ54を構成している。即ちこの実施形態では、仕切金具34から下向きに突き出した筒状部42の全体がダイナミックダンパ54として構成されている。
このダイナミックダンパ54における筒状のマス部材52は、インナ金具12におけるカップ状部18内部に挿入されており、そのマス部材52とカップ状部18との間においても流路56が形成されている。
【0026】
本実施形態の液封式防振装置10では、エンジンからの振動入力がインナ金具12に対して上下方向に加わったとき、その振動が、本体ゴム部16の弾性変形により、更には主液室36から副液室38若しくはその逆にオリフィス流路43を通じて流動する液の減衰作用に基づいて低減される。
その液の流動による減衰作用は液柱共振を生じたときに最も大となる。
【0027】
この実施形態では、アイドリング時の振動周波数領域において振動伝達が最も低減するように、液柱共振の共振周波数が設定されている。
但し他の振動周波数領域において振動伝達が低減するように液柱共振の共振周波数を設定することも可能である。
【0028】
本実施形態の液封式防振装置10ではまた、ダイナミックダンパ54によって別の振動周波数領域においてもその振動を良好に低減することができる。
例えばそのダイナミックダンパ54の共振周波数を、車室内にこもり音を発生させる高周波数振動領域において振動低減するように設定しておくことで、こもり音を良好に抑制することができる。
【0029】
図4はダイナミックダンパ54単品状態での振動特性を表わしている。尚図中横軸は加振力の周波数を、縦軸はゲインを表わしている。
同図に示しているようにこのダイナミックダンパ54は、単品状態で約140Hzに共振点を有している。即ち約140Hzで加振したときにダイナミックダンパ54が共振を生ずる。
尚図4中実線はゲインを、また破線は加振力に対する変位の位相遅れ角度を表わしている。
【0030】
図5はダイナミックダンパ54を備えた本実施形態の液封式防振装置10の振動特性を、図7に示す液封式防振装置200の振動特性と比較して表わしたものである。
但し図中横軸は加振周波数を、縦軸は絶対ばね定数及び減衰係数を表わしている。
【0031】
ここでKは液封式防振装置10の絶対ばね定数を、KAは液封式防振装置200の絶対ばね定数を表わしている。
またCは本実施形態の液封式防振装置10の減衰係数を、CAは液封式防振装置200における減衰係数をそれぞれ表わしている。
【0032】
図に示しているように本実施形態の液封式防振装置10も従来例の液封式防振装置200も、ともに同様の振動特性を示している。
即ち本実施形態に従ってダイナミックダンパ54を設けても、その振動特性において特に影響は生じていないことが分る。
但しこの図5に示す振動特性は低周波数振動領域、具体的にはアイドリング時の振動周波数(約27Hz)前後の周波数領域における振動特性を表わしたものである。
【0033】
本実施形態品,従来例品の何れもオリフィス流路43,216を流動する液の液柱共振周波数が、目的とするアイドリング時の振動周波数(約27Hz)において振動低減するように設定されており、その結果として本実施形態品,従来例品何れも27Hzでの絶対ばね定数が低ばね化しており、27Hzにおける振動伝達が良好に低減されている。
【0034】
一方、図6は車室内のこもり音を発生させる高周波数振動領域における振動特性を表わしている。
同図に示しているように本実施形態品の場合、約140Hzにおいてダイナミックダンパ54が共振を生ずることに起因して、その共振を生ずるまでの絶対ばね定数Kが比較例品の絶対ばね定数KAに比べて低ばね化している。
【0035】
また減衰係数についてみると、本実施形態品における減衰係数Cは、従来例品の減衰係数CAに比べて約140Hzで共振による減衰のピークを示している。
その結果として本実施形態品の場合、こもり音の高周波数振動領域における振動伝達が良好に低減され、従って本実施形態に従いダイナミックダンパ54を設けることによって、こもり音を良好に抑制できることが分る。
【0036】
かかる本実施形態によれば筒状部42としての本来の機能、即ちその内側にオリフィス流路43を形成して、その流路における液の流動に基づく減衰、特に液柱共振による減衰の機能を失うことなく、そこにダイナミックダンパ54としての機能も併せ持たせることができる。
そしてこれによりオリフィス流路43を通じて流動する液の液柱共振と、ダイナミックダンパ54の共振とを利用して互いに異なる振動周波数領域の振動をそれぞれ効果的に低減すること、具体的には車両のアイドリング時の振動と、車室内のこもり音の原因となる高周波の振動周波数領域の振動とをぞれぞれ効果的に低減することができる。
【0037】
また本実施形態では、そのオリフィス流路43を内側に形成する筒状部(全体)42それ自体をダイナミックダンパ54として構成しているため、かかる筒状部42とは別にダイナミックダンパ54を構成した場合に比べて、液封式防振装置10の内部構造を簡素化することができる。
加えて液の流れが最も活発に生ずる部分において、その液の流れを利用してダイナミックダンパ54を振動せしめることができる。
また本実施形態においては筒状をなすゴムばね50のゴムの厚みを変えることによって液柱共振の周波数を調節できる利点が得られる。
【0038】
更に本実施形態では、液封式防振装置10をインナ金具12側において振動体を吊下げ支持する吊下げ式のものとなし、そしてそのインナ金具12をカップ状部18を有するものとなして、そのカップ状部18の内部にマス部材52を挿入させていることから、それらマス部材52とインナ金具12との間にも液の流路56を形成でき、流路56をオリフィス流路43とは別途のオリフィス流路となしてその作用を発揮させることも可能となる。
【0039】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態の液封式防振装置の縦断面図である。
【図2】同液封式防振装置を分解して示す縦断面図である。
【図3】同液封式防振装置の分解斜視図である。
【図4】同液封式防振装置におけるダイナミックダンパ単品の振動特性を表わす図である。
【図5】同液封式防振装置の低周波数振動領域の振動特性を従来例品とともに比較して表わす図である。
【図6】同液封式防振装置の高周波数振動領域の振動特性を従来例品とともに比較して表わす図である。
【図7】従来の液封式防振装置を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
10 液封式防振装置
12 インナ金具(インナ部材)
14 アウタ金具(アウタ部材)
16 本体ゴム部
18 カップ状部
34 仕切金具(仕切部材)
36 主液室
38 副液室
42 筒状部
43 オリフィス流路
46 ゴム弾性体
50 ゴムばね
52 マス部材
54 ダイナミックダンパ
56 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)剛性のアウタ部材と
(b)剛性のインナ部材と
(c)それらアウタ部材及びインナ部材を内外方向に連結する、該インナ部材周りに環状をなす本体ゴム部と
(d)該本体ゴム部を壁として形成された液室と
(e)該液室を該本体ゴム部側の主液室と反対側の副液室とに区画する剛性の仕切部材と
(f)該仕切部材に設けられ、前記主液室と副液室とを連通させるオリフィス流路を内側に形成する筒状部と
を有し、該オリフィス流路を通じて前記主液室と副液室との間で液を流動させて減衰作用をなす液封式防振装置であって
前記筒状部の全体若しくは一部を、前記仕切部材の側から前記主液室側に軸方向に突き出した形態の筒状のゴムばねと、該ゴムばねの軸方向の先端部に固定された筒状のマス部材とを有するダイナミックダンパとして構成してあることを特徴とする液封式防振装置。
【請求項2】
請求項1において、前記防振装置が前記インナ部材側において振動体を吊り下げ支持するものであって、該インナ部材がカップ状部を有しており、前記筒状部の一部を成す前記マス部材が該カップ状部の内部に挿入されていて、それらマス部材とカップ状部との間に液の流路を形成していることを特徴とする液封式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−97717(P2006−97717A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281277(P2004−281277)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】