説明

液滴評価装置および液滴評価方法

【課題】液滴吐出ヘッドにおける液滴の挙動を観察する。
【解決手段】ノズル13が連通する液室12に充填された液に振動印加または加熱により液滴15をノズル孔14から射出させる液滴吐出ヘッド10に対しエックス線をパルス照射する照射手段と、照射手段により照射された液滴吐出ヘッドのエックス線透過像または反射像を画像化する画像化手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴評価装置および液滴評価方法に関する。さらに詳述すると、液滴吐出ヘッドにおける液滴の界面形状(以下、メニスカス挙動ともいう)を評価する液滴評価装置および液滴評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小液滴を射出する液滴吐出装置は、液滴吐出ヘッド(以下、単にヘッドともいう)のノズル孔からインク液滴を噴射して、紙面上に着弾させることにより画像を形成するインクジェット方式の画像形成装置において用いられている。当該画像形成装置の製品開発等においては、液滴吐出ヘッドから射出される液滴の挙動を観察、計測、評価等することは非常に重要なプロセスである。
【0003】
例えば、非特許文献1には、液滴吐出の様子を、3次元ナビエ−ストークス方程式の差分法を用いた数値流体シミュレーションにより再現し、設計開発に役立てようとする試みが開示されている。
【0004】
また、特許文献1、2には、射出される液滴の側面からストロボ光源でパルス照明し、その瞬間を反対側に設けた対物レンズを通してCCDカメラで撮像することにより液滴の画像を取得し、その液滴の中心位置から吐出速度あるいは吐出方向を求めるという技術が記載されている。
【0005】
また、飛翔する液滴にレーザ光を照射してそのレーザ光のドップラー効果を利用することにより、液滴の吐出速度を計測する手法も広範に使用されている。さらに、近年毎秒100万コマの撮影可能な高速度カメラが実用化され液滴のメニスカス挙動の観察がなされている。
【0006】
【非特許文献1】浅井朗「バブルジェットプリンタの開発」ながれ,24(2005),603-608.
【特許文献1】特開平11−105307号公報
【特許文献2】特開2006−112841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の技術のように数値流体シミュレーションを行うには、液滴の各種特性を予め計測しておくことや、特定の条件で行った実験結果、例えば液滴射出速度やメニスカス挙動によって結果を評価し、計算モデルを構築しなければならない。
【0008】
また、特許文献1、2に記載の技術では、ヘッド内部のメニスカス挙動を直接観察することはできないという問題がある。可視光ではヘッドを透過してその内部の液滴を観察することはできないからである。
【0009】
さらに、ヘッド内部では種々の理由で気泡が発生しており、その気泡が目詰まりを発生させたり、印字性能を低下させたりする原因と推測されているが、同様の理由により観察することはできない。このため数値流体シミュレーションにおいてもヘッド内部のメニスカス挙動は評価対象とはならず、現在においても不明な物理現象を多数残しているという問題がある。
【0010】
そこで本発明は、液滴を射出する液滴吐出ヘッドの構造体内部における液滴のメニスカス挙動を観察、計測、評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため、請求項1に記載の液滴評価装置は、ノズルが連通する液室に充填された液に振動印加または加熱により液滴をノズル孔から射出させる液滴吐出ヘッドに対しエックス線をパルス照射する照射手段と、照射手段により照射された液滴吐出ヘッドのエックス線透過像または反射像を画像化する画像化手段とを備えるものである。したがって、エックス線が照射された状態の液滴吐出ヘッドのエックス線透過像または反射像を画像化するようにしている。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の液滴評価装置において、エックス線は、軟エックス線としている。したがって、軟エックス線を用いて、より明確な液滴観察画像を得るようにしている。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2のいずれかに記載の液滴評価装置において、照射手段は、エックス線を液滴吐出ヘッドのノズル孔付近に照射するものである。したがって、特に液滴吐出ヘッドのヘッド孔付近の液滴のメニスカス挙動を画像化するようにしている。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3までのいずれかに記載の液滴評価装置において、照射手段は、エックス線のパルスの周期を、液滴吐出ヘッドからの液滴射出周期と一致または液滴射出周期の整数倍とさせる同期手段を備えるものである。したがって、撮影に最適な条件を調整して、より明確な液滴観察画像を得るようにしている。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4までのいずれかに記載の液滴評価装置において、照射手段は、エックス線のパルスの周期を可変にできるものである。したがって、撮影に最適な条件を調整して、より明確な液滴観察画像を得るようにしている。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5までのいずれかに記載の液滴評価装置において、液にトレーサーを懸濁させるものである。したがって、トレーサーを用いて、より明確な液滴観察画像を得るようにしている。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6までのいずれかに記載の液滴評価装置において、画像化手段により画像化された透過像または反射像を記録する画像記録手段と、画像記録手段により記録された透過像または反射像に対し、所定の演算処理を実行する演算手段とを備えるものである。したがって、得られたエックス線透過像または反射像に対し、各種の画像処理をすることで、より明確な液滴観察画像を得るようにしている。
【0018】
請求項8に記載の液滴評価方法は、ノズルが連通する液室に充填された液に振動印加または加熱により液滴をノズル孔から射出させる液滴吐出ヘッドに対しエックス線をパルス照射し、該照射された液滴吐出ヘッドのエックス線透過像または反射像を画像化し、該画像により液滴の界面形状を評価するようにしている。したがって、エックス線が照射された状態の液滴吐出ヘッドのエックス線透過像または反射像を画像化し、当該画像により液滴のメニスカス挙動を評価するようにしている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、液滴吐出ヘッドの構造体内部における不可視の液滴のメニスカス挙動を観察し、諸物性の計測をすることができる。ひいては、現在不明な物理現象を明らかにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の構成を図1から図7に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1に本実施形態(第1の実施形態)の液滴評価装置の全体構成図を示す。液滴評価装置1は、液滴吐出ヘッド10に対してエックス線を照射する軟エックス線発生装置2、シャッター機構3および同期手段としての同期装置4からなる照射手段と、照射手段により軟エックス線が照射された状態における液滴吐出ヘッド10の画像を取得するためのシンチレータ5、イメージインテンシファイア(画像増幅装置)6およびCCDカメラ7からなる画像化手段により構成される。
【0022】
液滴吐出ヘッド10は、ピエゾ振動機構11によりノズル13に振動を印加して、液室12に充填されたインクを、ノズル孔14からインク液滴15として外部に向けて射出するものである。尚、液滴吐出ヘッド10は、加熱によりインク液滴15をノズル孔14から射出するものであっても良い。ここで、液滴吐出ヘッド10の液滴射出周波数は、一般的に約10〜100kHzであり、球形近似で約1〜10ミクロン直径の等量インク液滴の射出動作が行われる。
【0023】
液滴吐出ヘッド10の外部における液滴については、例えば、特許文献1に記載の技術により、可視光での液滴観察ができるが、液滴吐出ヘッド10の内部における液滴の挙動は、構造体が視線を遮蔽するために観察を行うことはできない。
【0024】
そこで、本発明はエックス線を照射することにより液滴吐出ヘッド10内部の液滴の挙動についての観察を可能とするものである。先ず、エックス線吸収率と透過距離について説明する。エックス線は透過した物質内での通過距離xに対して数式1にしたがってその強度Iが減衰する。
【0025】
【数1】

【0026】
ここで、
I0:物体厚さゼロの際のエックス線強度
μ:物体の線減弱係数
である。
【0027】
数式1において、物体の線減弱係数μは物体を構成する物質とエックス線のエネルギーに依存する量である。一般に高密度物質では値が大きくなり、エックス線のエネルギーが高いと値が小さくなる。尚、一般にエックス線は種々の周波数を含む白色光であり、単純に上式を用いて計算することは難しいが、代表的なエネルギー、例えばスペクトルのうち最大周波数の80%の周波数のエネルギーをもって計算を簡易にするようにすれば良い。
【0028】
説明のため、図2に示すような液滴吐出ヘッドを例にとる。ここでは、液滴吐出ヘッド10はシリコンにより形成され、液滴15は水であるものとする。
【0029】
水が存在しない領域の透過強度をInとし、水が存在する領域(液滴領域)の透過強度をIeとすると、その強度比iは、例えば、数式2で表される。
【0030】
【数2】

【0031】
ここで、
μsi:ある特定のエックス線周波数におけるシリコンの線減弱係数
μwater:ある特定のエックス線周波数における液滴の線減弱係数
d:液滴の比直径
である。
【0032】
図3はこの強度比の逆数を縦軸にして、液滴領域が水の場合と鉄の場合にエックス線のエネルギー(周波数)を変化させた際のグラフである。値がゼロに近いほど、画像上のS/N比がよいことを示している。図3のグラフから分かるように、エックス線のエネルギーが低いほどコントラストがよいことになる。透過力が強すぎる場合、エックス線の殆どが透過してしまうからである。
【0033】
そこで照射には、低エネルギーのエックス線、すなわち軟エックス線を用いることが好ましい。尚、本実施形態では、熱電子線をベリリウム材料などのターゲットに照射させた際に発生させたエックス線を使用しているが、特に限られるものではない。
【0034】
図1の説明に戻る。液滴吐出ヘッド10のノズル孔14の直径は約10〜50ミクロンである。このノズル孔14の周辺(ノズル先端部)に対して、軟エックス線発生装置2から軟エックス線が照射されている。
【0035】
また、軟エックス線は同期装置4により周波数制御がされ、パルス状に照射される。パルスを発振させる機構としては、本実施形態のように、照射路に高速にシャッターリングを行う障害物(シャッター機構3)を置く方法や、ターゲットの一部にエックス線を遮蔽する領域を設けて高速回転させて発生させる方法等があるが、特に限られるものではない。
【0036】
ここで、同期装置4によってインク液滴を射出させる周波数と照射するエックス線のパルス周波数を同一、または整数倍にすることが好ましい。
【0037】
図4を用いて具体的に説明する。図4は、各イベントのタイミングを表した模式図である。例えば、インク液滴の射出トリガーの信号周期(液滴射出周期)をT1とし、エックス線パルスの周期をT2とすると、T2=nT1(n:整数)であることが好ましい。尚、本実施形態では、n=2としているがこれには限られない。
【0038】
また、画像化に要する線量を得るため、CCDのシャッター開放時間T3はT2より長くとることが好ましい。本実施形態では、T3=2×T2としているがこれに限られるものではない。
【0039】
このように使用する線源の種類やインクジェットノズル構造体の材質、透過距離に応じてエックス線パルス周波数とCCDのシャッター開放時間等を可変にすることで、撮影に最適な条件を調整し、より明確な液滴観察画像を得ることができる。
【0040】
さらに、ノズル13の先端部付近に照射させた軟エックス線の透過光を対面する画像化手段に入射させる。即ち、当該透過光は、シンチレータ5によって可視光化され、さらにイメージインテンシファイア6等の画像増幅装置により増幅され、CCDカメラ7(記憶手段を含む)で画像化される。尚、画像化手段の配置位置等を適宜変更して反射像を得るようにしても良い。また、画像化手段の構成は一例であって、エックス線透過像または反射像を得るものであれば、その構成は特に限られるものではない。
【0041】
また、液滴吐出ヘッド10のノズル13内部において、液滴中に外部由来の気泡が存在し、インクの目詰まりの原因となると考えられているが、これまでは確認することができなかった。上述のように、可視光では構造体内部の観察は不可能であり、また超音波等を用いても現象が高速で計測できないからである。
【0042】
そこで、本発明の液滴評価装置によれば、図5に示すように、軟エックス線をノズル13に照射するようにすることで、ノズル13内部の気泡16を画像化して確認することができる。
【0043】
図6は、第2の実施形態における液滴評価装置を示す全体構成図である。尚、第1の実施形態と同様の構成、処理についての説明は省略する。
【0044】
上述の通り、インク液滴とシリコン構造体に対し、軟エックス線を照射して、十分なS/N比を有する画像が撮影することができる。しかしながら、例えば、非常にインクの射出速度が速い場合や構造体の透過距離が厚い場合等は、液滴観察に十分な画像を得ることが困難な場合がある。
【0045】
そこで、本実施形態では、液室12にトレーサー供給機構17を設けることで、トレーサーを随時供給することを可能としている。尚、トレーサーとは、一般に流れの可視化技術で用いられる不透明な流体中に懸濁させる微粒子であり、例えば、直径0.1μの球形金属粒子等である。
【0046】
また、トレーサー供給機構17を設ける代わりに、インク液滴に十分均等となるようにトレーサーを予め懸濁させておいても良い。
【0047】
本実施形態の液滴評価装置1によれば、トレーサーの動きから間接的に流体の挙動を知ることができる。即ち、インク液滴中のトレーサー粒子はエックス線を吸収するので、その存在箇所だけエックス線の線量が減少し、結果として液滴画像の特徴を表現することが可能となる。尚、トレーサーは、観察対象であるインクジェット液滴射出現象に影響を与えないよう十分粒子直径が小さく比重がインク液滴に近いトレーサー粒子が望ましい。
【0048】
また、トレーサー粒子の位置はパルスエックス線の発生周期に対して等価ではないため、パルスエックス線の発生周期に応じた薄い軌跡状(パスライン)の状態で画像中に写りこむことになるが、多数のトレーサーのパスラインにより、インク流体の流動方向を可視的に表現することが可能となる。
【0049】
図7は、第3の実施形態の液滴評価装置を示す全体構成図である。尚、第1〜2の実施形態と同様の構成、処理についての説明は省略する。
【0050】
画像化手段により可視化された電子画像は、画像記録手段としてのハードディスク等の画像記録装置8に記録、蓄積される。さらに、当該画像記録装置8に接続された演算手段としての演算装置9によって各種画像処理を行うことが可能となる。尚、本実施形態では、画像記録装置8および演算装置9を夫々異なるハードウェアを用いて実現しているが、単一のハードウェアにより実現するようにしても良い。例えば、画像記録装置8および演算装置9としては、ディスプレイ等の出力装置と、キーボード、マウス等の入力装置と、演算処理を行う中央処理演算装置(CPU)と、演算中のデータ、パラメータ等が記憶される主記憶装置(RAM)と、計算結果等の各種データが記録される補助記憶装置等を備えたパーソナルコンピュータ等を用いることができる。
【0051】
このように構成することにより、演算装置9により線量が足りない場合の積算処理や画像強調などの各種画像処理を適切に行い、より明確な液滴観察画像を得ることができる。
【0052】
尚、上述の実施形態は本発明の好適な実施の例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】液滴評価装置の一例を示す全体構成図である。
【図2】液滴として水が充填された液滴吐出ヘッドの一例を示す模式図である。
【図3】液滴領域が水の場合と鉄の場合にエックス線のエネルギーを変化させた際のグラフである。
【図4】各イベントのタイミングの一例を表した模式図である。
【図5】液滴評価装置による気泡の観察を示す模式図である。
【図6】液滴評価装置の他の例を示す全体構成図である。
【図7】液滴評価装置の他の例を示す全体構成図である。
【符号の説明】
【0054】
1 液滴評価装置
2 軟エックス線発生装置
3 シャッター機構
4 同期装置
5 シンチレータ
6 イメージインテンシファイア
7 CCDカメラ
8 画像記録装置
9 演算装置
10 液滴吐出ヘッド
11 ピエゾ振動素子
12 液室
13 ノズル
14 ノズル孔
15 液滴
16 気泡
17 トレーサー供給機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルが連通する液室に充填された液に振動印加または加熱をして液滴をノズル孔から射出させる液滴吐出ヘッドに対し、エックス線をパルス照射する照射手段と、
前記照射手段により照射された前記液滴吐出ヘッドのエックス線透過像または反射像を画像化する画像化手段と
を備えたことを特徴とする液滴評価装置。
【請求項2】
前記エックス線は、軟エックス線であることを特徴とする請求項1に記載の液滴評価装置。
【請求項3】
前記照射手段は、前記エックス線を前記液滴吐出ヘッドの前記ノズル孔付近に照射することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の液滴評価装置。
【請求項4】
前記照射手段は、前記エックス線のパルスの周期を、前記液滴吐出ヘッドからの液滴射出周期と一致または前記液滴射出周期の整数倍とさせる同期手段を備えたことを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の液滴評価装置。
【請求項5】
前記照射手段は、前記エックス線のパルスの周期を可変させることを特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載の液滴評価装置。
【請求項6】
前記液にトレーサーを懸濁させることを特徴とする請求項1から5までのいずれかに記載の液滴評価装置。
【請求項7】
前記画像化手段により画像化された前記透過像または前記反射像を記録する画像記録手段と、
前記画像記録手段により記録された前記透過像または前記反射像に対し、所定の演算処理を実行する演算手段と
を備えることを特徴とする請求項1から6までのいずれかに記載の液滴評価装置。
【請求項8】
ノズルが連通する液室に充填された液に振動印加または加熱をして液滴をノズル孔から射出させる液滴吐出ヘッドに対してエックス線をパルス照射し、
該照射された液滴吐出ヘッドの前記エックス線透過像または反射像を画像化し、
該画像により前記液滴の界面形状を評価することを特徴とする液滴評価方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−71655(P2010−71655A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235963(P2008−235963)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】