説明

液状フェノール樹脂組成物

【課題】 耐熱性、硬化性など、フェノール樹脂の優れた特性を有し、かつ、柔軟性にも優れた成形品を得られるフェノール樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 レゾール型フェノール樹脂とポリアミド樹脂を含有することを特徴とする、フェノール樹脂組成物であり、前記ポリアミド樹脂は、メトキシメチル化ポリアミド樹脂であることが好ましい。また、ポリアミド樹脂割合は、フェノール組成物中の固形分全体に対して、2〜50重量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状フェノール樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂は、主に成形品の基材となる材料同士を結合させるバインダーとして広く用いられ、優れた機械的特性や電気的特性、接着性を有することから、様々な分野で使用されている。特に近年、自動車、鉄道車両などにおける、フェノール樹脂をバインダーとして使用した摩擦材の使用量が増加している。その中でも湿式摩擦材と呼ばれる、オートマチック車等の自動変速機等において使用される摩擦材には、一般的にレゾール型液状フェノール樹脂が用いられる。その湿式摩擦材用フェノール樹脂に対する要求特性は年々高まっており、特に、摩擦係数の向上を目的として、フェノール樹脂の柔軟性向上への要求が高まってきている。しかしながら、一般的なフェノール樹脂の硬化物は、機械的特性に優れる反面、堅くてもろいという性質をもち、柔軟性に優れているとは言えない。
【0003】
そこで、上記問題を解決する方法として、フェノール樹脂の反応において、変性剤としてアクリル系重合物のようなエラストマーを用いて柔軟性を改善する試みが検討されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、このようなエラストマー変性のフェノール樹脂は、エラストマー自身の耐熱性に劣るため、最終的な硬化物の耐熱性も低下してしまうという欠点があった。
【0004】
【特許文献1】特開昭56−133354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐熱性、硬化性など、フェノール樹脂の優れた特性を有し、かつ、柔軟性にも優れた成形品を得られる液状フェノール樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、以下の本発明(1)〜(3)により達成される。
(1) アルコール可溶性ポリアミド樹脂、及び、水溶性ポリアミド樹脂から選ばれる1種以上であるポリアミド樹脂と、レゾール型液状フェノール樹脂とを含有することを特徴とする、液状フェノール樹脂組成物。
(2) 前記フェノール樹脂組成物は、組成物中の固形分全体に対して、ポリアミド樹脂割合が2〜50重量%である、(1)項に記載の液状フェノール樹脂組成物。
(3) 摩擦材の製造に用いられるものである、(1)又は(2)項に記載の液状フェノール樹脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の液状フェノール樹脂組成物を、バインダーに用いた場合、耐熱性、硬化性、及び、柔軟性に優れた成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の液状フェノール樹脂組成物(以下、単に「組成物」ということがある)について詳細に説明する。
本発明の組成物は、アルコール可溶性ポリアミド樹脂、及び、水溶性ポリアミド樹脂から選ばれる1種以上であるポリアミド樹脂と、レゾール型液状フェノール樹脂とを含有することを特徴とする。
【0009】
本発明の組成物で用いられるレゾール型液状フェノール樹脂は、例えば、フェノール類とアルデヒド類とを、アルカリ性触媒の存在下で反応させて得ることができる。
【0010】
ここで用いられるフェノール類としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール類、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール類、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール類、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール類、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール類、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール類、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体、及び、1−ナフトール、2−ナフトール等の1価のフェノール類、レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類などが挙げられる。これらを単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。
これらのフェノール類の中でも、フェノール、クレゾール類、ビスフェノールAから選ばれるものが好ましい。これにより、本発明の組成物を用いた成形品において、機械的強度を高めることができる。
【0011】
また、アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
これらのアルデヒド類の中でも、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドから選ばれるものが好ましい。これにより、オイル変性ノボラック型フェノール樹脂を合成する際の反応性を高くすることができる。
【0012】
上記アルカリ性触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、アンモニア水、トリエチルアミンなどの第3級アミン、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物、炭酸ナトリウム、ヘキサメチレンテトラミンなどのアルカリ性物質等を単独または2種類以上併用することができる。
上記アルカリ性触媒の使用量としては特に限定されないが、フェノール類1モルに対して、通常、0.01〜0.1モルとすることができる。
【0013】
上記レゾール型液状フェノール樹脂の合成方法としては、例えば、反応装置にフェノール類とアルデヒド類とをアルカリ性触媒とともに仕込み反応させる方法、などが挙げられる。
また、得られたレゾール型液状フェノール樹脂は、有機溶剤により溶解希釈して、液状の形態とすることができる。
希釈に用いられる有機溶剤としては特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系有機溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤が挙げられる。
【0014】
上記レゾール型液状フェノール樹脂の合成において、フェノール類とアルデヒド類との反応モル比としては、フェノール類1モルに対して、アルデヒド類0.80〜3.00モルとすることが好ましい。さらに好ましくは、アルデヒド類0.90〜2.50モルであり、より好ましくは、アルデヒド類0.95〜2.10モルである。
これにより、本発明の組成物を湿式摩擦材の製造に適用した場合に、良好な含浸性を有するとともに、成形品の柔軟性を向上させることができる。
【0015】
次に、ポリアミド樹脂について説明する。
本発明の組成物で用いられるポリアミド樹脂は、アルコール可溶性ポリアミド樹脂、及び、水溶性ポリアミド樹脂から選ばれる1種以上であるポリアミド樹脂である。
これらのポリアミド樹脂の中でも、メトキシメチル化ポリアミド樹脂が好ましい。メトキシメチル化ポリアミド樹脂はその側鎖にメトキシメチル基を保有しており、これにより有機溶剤や水への溶解性が増大し、レゾール型液状フェノール樹脂と混合することができる。
【0016】
本発明の組成物において、レゾール型フェノール樹脂とポリアミド樹脂の含有比率としては、組成物中の固形分全体に対して、ポリアミド樹脂が2〜50重量%であることが好ましく、更に好ましくは5〜40重量%である。
これにより、組成物の硬化性、接着性を良好な水準に保ち、かつ、耐熱性と柔軟性に優れた成形品を得ることができる。
【0017】
本発明の組成物の調製方法としては特に限定されないが、例えば、レゾール型フェノール樹脂の製造時、反応終了後に有機溶剤、あるいは水を添加・溶解して液状のレゾール型フェノール樹脂とし、これに、ポリアミド樹脂を溶解する方法、上記液状のレゾール型フェノール樹脂に、有機溶剤あるいは水に溶解させたポリアミド樹脂を混合する方法、などが挙げられる。
【0018】
本発明の組成物には、このほか、必要に応じて、各種添加剤などを配合することができる。
本発明の組成物は、例えば繊維状基材に含浸し、硬化することにより、耐熱性、柔軟性に優れた湿式摩擦材を得ることができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
ここに記載されている「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を示す。
【0020】
(実施例1)
撹拌装置、還流冷却器及び温度計を備えた反応装置に、フェノール1000部、濃度37%のホルマリン1294部、濃度50%の水酸化ナトリウム水溶液10部を加え、80℃にて1時間反応させた。その後650mmHgの減圧下で脱水を行いながら、系内の温度が70℃に達したところでメタノール1040部を加えて溶解・冷却して、不揮発分40%のレゾール型フェノール樹脂2800部を得た。更にフレーク状のメトキシメチル化ポリアミド樹脂を125部添加し、50℃にて1時間にて混合後、冷却してフェノール樹脂組成物2925部を得た。(ポリアミド樹脂量10%)
【0021】
(実施例2)
実施例1において、メトキシメチル化ポリアミド樹脂の添加量を480部とした以外は同様にして、フェノール樹脂組成物3280部を得た。(ポリアミド樹脂量30%)
【0022】
(比較例1)
実施例1において、メトキシメチル化ポリアミド樹脂の添加量を0部とした以外は同様にして、フェノール樹脂組成物2800部を得た。(ポリアミド樹脂量0%)
【0023】
組成物の評価
引張り強度、引張り弾性率の評価
(1)評価用試験片の作製方法
実施例及び比較例で得られたフェノール樹脂組成物に、メタノールを添加して濃度30%に調整した。これに、濾紙(厚さ1mm、アドバンテック社製)を30秒間浸した後、常温で30分間風乾、80℃で30分間乾燥後、200℃で30分間焼成し、摩擦材相当の試験片を作製した。
【0024】
(2)評価方法
JIS P 8113「紙及び板紙−引張特性の試験方法」に準拠して、常態、及び、200℃4時間処理後について、各々、引張り強度、引張り弾性率を測定した。
【0025】
上記評価結果を、表1にまとめた。
【0026】
【表1】

【0027】
実施例1〜2はいずれも、レゾール型液状フェノール樹脂とメトキシメチル化ポリアミド樹脂を含有する本発明のフェノール樹脂組成物であり、これらの組成物を用いた摩擦材相当試験片の評価の結果、比較例1のフェノール樹脂組成物を用いた場合と比べて、常温での引張り強度、200℃4時間の加熱処理後の引張り強度化性を同等水準に維持しながら、常温、200℃4時間の加熱処理後の引張弾性率をいずれも小さくして、柔軟性に優れたものとすることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール可溶性ポリアミド樹脂、及び、水溶性ポリアミド樹脂から選ばれる1種以上であるポリアミド樹脂と、レゾール型液状フェノール樹脂とを含有することを特徴とする、液状フェノール樹脂組成物。
【請求項2】
前記フェノール樹脂組成物は、組成物中の固形分全体に対して、ポリアミド樹脂割合が2〜50重量%である、請求項1に記載の液状フェノール樹脂組成物。
【請求項3】
摩擦材の製造に用いられるものである、請求項1又は2に記載の液状フェノール樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−63441(P2008−63441A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242780(P2006−242780)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】