説明

液状物質混合物をフィルム蒸発器中で分離する方法

少なくとも1つの易揮発性成分および少なくとも1つの難揮発性成分を含有する液状物質混合物を、(i)液状の出発物質混合物の連続的な流れを準備し、(ii)この連続的な流れから液体被膜を製造し、前記フィルム蒸発器の熱交換面と接触させ、(iii)前記液体被膜を部分的に蒸発させ、この場合少なくとも1つの易揮発性成分の含量に富んだガス流および少なくとも1つの難揮発性成分の含量に富んだ液体流が得られるようなフィルム蒸発器中で分離する方法であって、(iv)前記熱交換面を触媒活性材料で被覆し、(v)前記液体被膜中で化学反応を促進させ、その際少なくとも1つの易揮発性成分を形成させることを特徴とする、液状物質混合物をフィルム蒸発器中で分離する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状物質混合物をフィルム蒸発器中で分離する方法、殊にポリオキシメチレングリコールの液状混合物を分離する方法に関する。
【0002】
ホルムアルデヒドは、重要な工業用化学薬品であり、数多くの工業製品および消費製品の製造に使用されている。現在、ホルムアルデヒドは、50種類を超える工業分野において使用されており、本質的に水溶液またはホルムアルデヒドを含有する合成樹脂の形で商業的に得ることができる、ホルムアルデヒド水溶液は、モノマーのホルムアルデヒド、メチレングリコールおよびオリゴマーのポリオキシメチレングリコールの形でホルムアルデヒド20〜55質量%の全濃度を有する。
【0003】
水、モノマー(遊離)ホルムアルデヒド、メチレングリコールおよび異なる鎖長のオリゴマーのポリオキシメチレングリコールは、互いの水溶液で熱力学的平衡で存在し、この場合この熱力学的平衡は、異なる長さのポリオキシメチレングリコールの一定の分布を示す。この場合、”ホルムアルデヒド水溶液”の概念は、実際に遊離水を含有せずに、本質的になおメチレングリコールの形でかまたはポリオキシメチレングリコールの末端のOH基中で化学結合された水を含有するホルムアルデヒド溶液に基づく。これは、殊に濃縮されたホルムアルデヒド溶液の場合である。この場合、ポリオキシメチレングリコールは、例えば2〜9個のオキシメチレン単位を有することができる。また、ホルムアルデヒド水溶液中には、ジオキシメチレングリコール、トリオキシメチレングリコール、テトラオキシメチレングリコール、ペンタオキシメチレングリコール、ヘキサオキシメチレングリコール、ヘプタオキシメチレングリコール、オクタオキシメチレングリコールおよびノナオキシメチレングリコールが同時に存在していてよい。分布は、濃度に依存する。即ち、希釈されたホルムアルデヒド溶液中での分布の最大は、短い鎖長が均一の場合に存在し、他方、濃縮されたホルムアルデヒド溶液においては、長い鎖長が均一の場合に存在する。長鎖状(高分子量)ポリオキシメチレングリコールへの平衡移動は、水の取出し、例えばフィルム蒸発器中での1回の蒸留によって行なうことができる。この場合、平衡への調節は、緩徐な速度でメチレングリコールと低分子量のポリオキシメチレングリコールの分子内縮合によって高分子量のポリオキシメチレングリコールへの水分離下に行なわれる。
【0004】
更に、ホルムアルデヒド水溶液は、しばしばなお副成分を含有する。即ち、例えばメタノールは、数質量%の濃度で含有されていてよい。このメタノールは、ホルムアルデヒドの連続反応で損なわれてもよく、したがって殆んど完全に分離されなければならない。更に、メチレングリコールは、メタノールと最も簡単に水和されたホルムアルデヒドとしてアセタール(メチラール)を形成し、このアセタールは、ホルムアルデヒド、水、メチレングリコール−半アセタールおよびメチレングリコール−全アセタールの全体系中で最も易揮発性の成分である。従って、メタノールは、メチレングリコール−全アセタールとしてホルムアルデヒド水溶液から蒸発によって除去されることができる。この場合、メチレングリコールとメタノールとメチレングリコール−半アセタールとメチレングリコール−全アセタールとの間の平衡への調節は、緩徐な速度で行なわれ、触媒反応によって促進させることができる。
【0005】
更に、ホルムアルデヒドを使用しながらの一定の化学合成のためには、ホルムアルデヒド溶液中に含有されているポリオキシメチレングリコールの一定の分子量分布を有するホルムアルデヒド溶液を使用することが望ましい。即ち、例えばポリオキシメチレングリコールとモノマーホルムアルデヒドおよびメチレングリコールとのモル比が1:0.6より大きく、有利には1:0.4より大きい場合には、オキシメチレンホモポリマーまたはオキシメチレンコポリマーの製造のためにホルムアルデヒド溶液を直接に重縮合に移行させることができることが見い出された。メチレンジ(フェニルアミン)をアニリンおよびホルムアルデヒドから製造する場合には、ホルムアルデヒドを高級類似物の形で添加し、望ましくない副生成物N−メチル−MDAの形成を中断することが望ましい。閉環によるトリオキサンおよびテトラオキサンの製造のためには、トリオキシメチレングリコールおよびテトラオキシメチレングリコールの高い含量を有するホルムアルデヒド分画が望ましい。更に、ホルムアルデヒド水溶液の使用が必要とされる合成においては、できるだけ高度に濃縮されたホルムアルデヒド水溶液を使用することにより、水の負荷量を減少させることが望ましい。
【0006】
前記の高い濃度は、系から絶えず水を取り出すことによって達成させることができ、この場合には、ポリオキシメチレングリコールの縮合によって絶えず水が再形成され、その際、ポリオキシメチレングリコール鎖は、成長する。縮合反応は、触媒により促進させることができる。
【0007】
本発明の課題は、高いホルムアルデヒド濃度を有しおよび/またはポリオキシメチレングリコールの意図的な分布を有するホルムアルデヒド溶液で得ることができる簡単な方法を提供することである。更に、本発明の課題は、メタノールを殆んど完全にホルムアルデヒド水溶液から分離させることができる簡単な方法を提供することである。
【0008】
前記課題は、少なくとも1つの易揮発性成分および少なくとも1つの難揮発性成分を含有する液状物質混合物を、
(i)液状の出発物質混合物の連続的な流れを準備し、
(ii)この連続的な流れから液体被膜を製造し、前記フィルム蒸発器の熱交換面と接触させ、
(iii)前記液体被膜を部分的に蒸発させ、この場合易揮発性成分の含量に富んだガス流および難揮発性成分の含量に富んだ液体流が得られるようなフィルム蒸発器中で分離する方法によって解決され、この場合この方法は、
(iv)前記熱交換面を触媒活性材料で被覆し、
(v)前記液体被膜中で化学反応を促進させ、その際少なくとも1つの易揮発性成分を形成させることによって特徴付けられる。
【0009】
分離することができる液状物質混合物は、少なくとも1つの易揮発性成分および少なくとも1つの難揮発性成分を含有する。前述の使用された”易揮発性”および”難揮発性”の概念は、絶対的な意味を有するのではなく、相対的な意味を有する。”易揮発性”とは、単数または複数の”難揮発性”成分と比較して易揮発性であることを意味し、逆に”難揮発性”とは、単数または複数の”易揮発性”成分と比較して難揮発性であることを意味する。この場合、易揮発性成分の沸点と難揮発性成分の沸点は、一般に既に1回の蒸発によって液相と比較して気相中での易揮発性成分の含量の著しい増加を生じるように遙かに離れている。
【0010】
単数または複数の易揮発性成分または単数または複数の難揮発性成分は、既にフィルム蒸発器に供給される出発物質混合物中に存在することができるかまたは促進された化学反応の間に初めて形成されてもよい。エダクトおよび/または形成された生成物が当該物質混合物中で相対的な揮発性の十分な差を有する限り、例えば(単分子的)除去、断片化、再貯蔵および分解反応によって、難揮発性物質が1つ以上の易揮発性物質へ反応するかまたは難揮発性物質および易揮発性物質へ反応するような全ての可能な反応型を考えることができる。また、1つ以上の異なる物質(2分子的)は、易揮発性物質を遊離しながら例えば縮合またはオリゴマー化によって難揮発性物質へ反応することもできる。
【0011】
フィルム蒸発器中での形成された易揮発性成分の化学反応と蒸発との本発明による結合は、一連の利点を有する。
【0012】
化学反応中に形成された易揮発性成分を化学平衡から除去することによって、この化学平衡は、生成物の側にシフトする。熱交換壁の触媒による被覆によって、(新規の)平衡状態の急速な調節が達成される。
【0013】
また、液状物質混合物からの反応中に形成された易揮発性成分の急速な除去は、この易揮発性成分が例えば反応のエダクトと連続反応を生じ、この連続反応が反応の選択性を減少させるかまたは望ましくない副生成物の形成をまねく場合にも望ましい。
【0014】
液状物質混合物の分離は、フィルム蒸発器中で実施される。フィルム蒸発器は、極めて良好な熱移動を有する。それというのも、反応体積と熱交換面積との比は、小さいからである。それによって、擬似的な等温の反応の実施および均一な温度分布(温度勾配の阻止)が反応混合物中で可能になる。これは、特に反応混合物中での温度上昇によって望ましくない平行反応または連続反応が好ましい場合に有利に作用する。
【0015】
フィルム蒸発器中で、このフィルム蒸発器が循環して運転されない限り、狭い滞留時間分布で短い滞留時間を実現させることができる。狭い滞留時間分布は、なかんずく形成された生成物が望ましくない連続反応の化学反応を生じうる場合には、有利である。
【0016】
本発明により使用されるフィルム蒸発器の適当な構造形式は、例えば落下型フィルム蒸発器、薄膜型蒸発器およびらせん管型蒸発器ならびにこれらの装置の組合せである。
【0017】
本発明により使用されるフィルム蒸発器において、被覆された壁セグメントと被覆されていない壁セグメントは、交互に現れてよい。
【0018】
また、本発明の対象は、触媒活性材料で被覆された熱交換壁を有するフィルム蒸発器それ自体である。
【0019】
本発明による方法の実施態様において、
液状の出発物質混合物は、ホルムアルデヒド水溶液であり、
易揮発性成分は、遊離ホルムアルデヒド(CHO)、メチレングリコール(HOCHOH)および水であり、
難揮発性成分は、2〜20個のオキシメチレン単位を有するポリオキシメチレングリコール(HO(CHO)H)(n=2〜20)からなる群れから選択され、
促進された化学反応は、メチレングリコールとポリオキシメチレングリコールとの酸的または塩基的に促進された縮合であり、この場合には、低分子量のポリオキシメチレングリコールは、高分子量のポリオキシメチレングリコールへ反応し、水は、易揮発性成分として形成される。
【0020】
ホルムアルデヒド水溶液からの水の蒸発、またメチレングリコールおよび遊離ホルムアルデヒドの蒸発によって、溶液中でオリゴマーのポリオキシメチレングリコールの非平衡分布が発生する。触媒活性材料を熱交換面上で被覆することによって、縮合反応が促進され、この縮合反応は、他の水を分離しながら進行し、それによって溶液中でのポリオキシメチレングリコールの分布は、平衡分布の方向にシフトする。それによって、(濃縮された)溶液中でのポリオキシメチレングリコールの分布が達成され、この場合この分布は、触媒活性材料の存在なしの場合よりも少なくとも平衡分布に近似している。蒸発速度、触媒の酸濃度および蒸発器中での溶液の滞留時間によって、縮合反応の規模は、制御されうる。
【0021】
更に、本発明による方法の実施態様において、
液状の出発物質混合物は、水、水和された形のホルムアルデヒド(メチレングリコール)、このホルムアルデヒドとメタノールとの半アセタールおよび完全アセタールならびにメタノールそれ自体を含有する溶液であり、
易揮発性成分は、メチレングリコール/メタノール−完全アセタール(メチラール)であり、
難揮発性成分は、残りの成分であり、
促進された化学反応は、メチレングリコールまたはメチレングリコール/メタノール−半アセタールおよびメタノールからのメチラールの形成である。
【0022】
適当な触媒は、例えば酸性触媒である。本方法は、ホルムアルデヒド水溶液からのメタノールの分離に使用されうる。しかし、また、前記触媒は、ホルムアルデヒドおよびメタノールからのメタノールの意図的な製造に使用されてもよい。また、高度に含量の増加されたホルムアルデヒドは、メチラールから得ることもできる。
【0023】
適当な触媒活性材料は、原則的に上記の化学反応を促進させる全ての物質である。ホルムアルデヒドのオリゴマー化の場合には、この触媒活性材料は、酸性または塩基性の性質、特に酸性の性質を有する物質である。例えば、酸性のイオン交換材料からのフィルムが使用されてもよく、例えばこのフィルムは、所謂”水分解”によるNaClからのNaOHおよびHClの製造に使用されてよい。イオン交換材料は、有利にスルホン化スチレン−ジビニルベンゼン−コポリマーまたは酸基を結合して含有する型Nafion(登録商標)の過弗素化ポリマーである。この種のフィルムは、フィルム蒸発器の熱交換面上に接着することができ、低圧により保持し、機械的に固定するかまたは直接に熱交換面上に重合させることもできる。
【0024】
酸性の性質を有する適当な触媒活性材料は、多孔質またはゲル状のポリマーと不均一な酸からの粒子とからなる複合体である。好ましい不均一な酸は、ゼオライト、殊に斜方沸石、マッザイト(Mazzit)、毛沸石、フェリエライト、フォージャサイト、ゼオライトL、モルデナイト、オフレタイト(Offretit) 、ゼオライトρ、ZBM−10、ZSM−5、ZSM−12、MCM−22およびゼオライトβ、さらに粘土、殊にモンモリロン石、ムスコバイト(Muskovit)、カオリナイトおよびその活性化された形、酸性の混合酸化物、殊にWO−TiO、MoO−TiO、MoO−ZrO、Al−SiO、ZrO−SiO、TiO−SiO、TiO−ZrOおよびニオブ酸、さらに型Deloxan(登録商標)のSiO−スルホン酸複合体およびスルホン化され酸化された活性炭である。
【0025】
また、本発明によるフィルム蒸発器の熱交換面を接着剤または高分子量結合剤なしに被覆することも可能である。この場合、酸化物被覆層は、結合機能を引き受け、この酸化物被覆層上には、直接に金属−酸素結合により酸性酸化物が結合されている。適当な方法は、J. Yamazaki, K. Tsutsumi, Micropor. Mat. 5 (1995),第245頁以降、 O.L. Oudshoorn他, Chem. Eng. Sci. 54 (1999),第1413頁以降、ドイツ連邦共和国特許出願公開第19607577号明細書およびドイツ連邦共和国特許出願公開第4216846号明細書に記載されている。即ち、例えば粒径3〜500μmのゼオライト系またはゼオライト類似の大きなモレキュラーシーブ結晶を完成の際に軟化温度に予熱し、予熱された表面上に前記結晶の細流状粉末を散布することにより、前記結晶を熱交換面上に固定することができる。この場合、この結晶は、例えば5個までの結晶層の薄手の層で軟化表面上に付着したままであり、前記表面の冷却後に持続してこの表面上に固着されている。特に硬質の被覆を製造するために、熱交換面は、散布前になお付着助剤で前処理されていてよい。
【0026】
更に、フィルム蒸発器の熱交換面は、巨視的部材、例えば不均一な酸からなる円筒体、円筒体セグメントまたは板で被覆されていてよい。この部材は、加圧、注型または押出によって製造され、接着されるかまたは焼結され、引続き熱交換面上に接着されるか、ねじ止めされるか、リベット留めされるか、または他の方法で機械的に固定される。
【0027】
触媒活性材料で被覆された、本発明によるフィルム蒸発器の熱交換面は、使用することができる全部の熱交換面であるかまたはその一部分のみである。例えば、熱交換面の被覆されたセグメントと被覆されていないセグメントが交互に現れてよい。
【0028】
記載された方法に特に好適なフィルム蒸発器は、図1に示されている。この場合には、薄膜型蒸発器が重要である。粗製溶液(出発物質混合物)および場合によっては返送流からなる供給流1は、最初に液体分配器2に供給される。この液体分配器は、粗製溶液を蒸発器面3上に分配する。蒸発器面3(熱交換面)は、通常、円筒形に形成されているが、しかし、少なくとも部分的に円錐形を有していてもよい。この蒸発器面は、使用する場合に応じて、例えばガラス、金属、プラスチックまたはセラミックからなることができ、それ自体触媒的性質を有することができるか、触媒により被覆することができるか、または触媒活性材料でドープされていてよい。この蒸発器面は、蒸発器面3への熱供給に役立つ、加熱ジャケット4の内面と熱的に接触している。液体分配器2は、供給流溶液が均一に蒸発器面3の周囲に分布されることに貢献する。
【0029】
次に、回転するワイパーブレード5は、溶液を蒸発器面3に亘って分布させ、蒸発器面3上での液体被膜の保持および供給に役立ち、液体中での熱輸送および物質輸送の強化に貢献する。このワイパーブレード5は、駆動装置6によって駆動される回転子上に固定して取り付けられているかまたは可動するように取り付けられている。この場合、ワイパーブレード5の形状および位置決めに応じて、液体被膜は、むしろ薄手に保持されていてもよいし、せき止められていてよい。それによって、フィルム蒸発器中での溶液の滞留時間または滞留時間分布の変化が可能になる。フィルム蒸発器中での溶液の典型的な滞留時間は、1秒間ないし10分間、有利に2秒間ないし2分間である。
【0030】
熱媒体、例えば水蒸気は、熱媒体供給流7によって加熱ジャケット中に導入される。この熱媒体は、蒸発器面を加熱する。冷却された熱媒体、例えば熱媒体としての水蒸気の場合の凝縮水は、熱媒体排出流8により導出される。
【0031】
フィルム蒸発器に供給される溶液の一部分は、蒸発器面3への熱供給によって蒸発され、それによって、溶液の蒸発されなかった部分の組成は、変化する。混合物の成分の化学反応は、蒸発器面の触媒活性被覆によって促進され、この化学反応は、蒸発処理に重なり合っており、望ましい成分の高められた収量を導く。
【0032】
生成された蒸発物(即ち、蒸気またはガス)は、相分離空間9内に到達し、この相分離空間から液滴分離器10中に達する。この場合、蒸発物と一緒に連行される液体液滴は、気相から除去され、液体(溶液)中に返送される。濃縮物13は、適当な方法で相分離空間9から導出され、一方、蒸発物12は、液滴分離器10から取り出される。蒸発物は、図示されていない凝縮器中に導入され、そこでこの蒸発物は、少なくとも部分的に凝縮物に凝縮される。
【0033】
気相と液相は、図1に示されているように、対向流で導かれうる。しかし、気相と液相は、並行流で導かれてもよい。
【0034】
ホルムアルデヒド水溶液が記載されたフィルム蒸発器中に導入された場合には、液体13中でポリオキシメチレングリコールの含量は、増加し、一方で、蒸発物12からの凝縮物は、ポリオキシメチレングリコール含量が少なく、ホルムアルデヒドおよびメチレングリコールの含量は、多い。こうして、2つの画分、即ち濃縮物13および(部分的)凝縮物は、元来供給された粗製溶液1の特定の成分の含量が選択的に増加されているような蒸発物12から生成されている。
【0035】
メチラールの製造の場合には、この濃縮物の含量は、蒸発物中で増加されている。
【0036】
凝縮器は、1つの特殊な実施態様において、蒸発体中に組み込まれていてよく、それによって蒸気相中ならびにコンパクトな構造形式での蒸発された成分の短い滞留時間が生じる。
【0037】
フィルム蒸発器に適した運転条件は、一般に0.5ミリバール〜20バール、有利に30ミリバール〜2バールで10℃〜200℃、有利に50℃〜150℃の温度である。
【0038】
また、フィルム蒸発器の図1に示された実施形式とともに、蒸発面上で液体被膜の機械的な影響のない装置を使用することもできる。この場合、前記の落下型フィルム蒸発器または落下流型蒸発器の熱伝導面は、管、板またはらせん管(螺旋状の管)として形成されていてよい。
【0039】
フィルム蒸発器は、具体的な方法要件に依存して種々の運転形式で使用されることができる。図2は、可能な運転形式に関する略示的概要を示す。この場合、固有のフィルム蒸発器は、15で示されており、蒸発物分離器(即ち、液滴分離器を有する相分離空間)は、16で示されている。フィルム蒸発器15ならびに蒸発物分離器16は、図1に示されているような特殊な構造形式とは偏倚していてよく、図1とは異なり、さらに供給流および排出流を有する。V1、V2およびV3は、蒸気状の流れを示し、別の全ての流れは、通常液状である。
【0040】
フィルム蒸発器15は、流出する蒸発されなかった液体に関連して、1回の通過でかまたは循環運転形式で運転されてよい。循環路Uは、工業的に循環運転形式での運転に必要とされる。
【0041】
次表中には、それぞれ可能な運転形式のための活性流が記載されている。
【0042】
【表1】

【0043】
前記のフィルム蒸発器は、適当な個所で側方の取出し口を有することができ、この側方の取出し口により、一定の濃縮度を有する液体画分を取り出すことができる。また、多数のフィルム蒸発器は、連続的に接続されて蒸発器カスケードを形成していてもよく、この場合1つのフィルム蒸発器の濃縮された液状の排出流は、場合によっては側方の流れの取出し後に、蒸発器カスケードの直ぐ次のフィルム蒸発器のための供給流を形成する。
【0044】
また、液体流とは異なり、反応性のガス状成分を、フィルム蒸発器中に導入することも可能であり、この場合この反応性のガス状成分は、液状の出発物質混合物の1つ以上の成分または形成された難揮発性成分の1つ以上と反応する。即ち、フィルム蒸発器の下部中での排出される液体被膜中の形成された難揮発性成分は、上昇するガス流中に含有されている成分との連続反応を生じる。この場合、熱交換面は、触媒活性材料で被覆されていてよく、この触媒活性材料は、1つ以上の形成された難揮発性成分の前記連続反応を促進させる。この触媒活性材料は、難揮発性成分の形成を促進する触媒活性材料とは異なっていてよい。また、同様の触媒活性材料も重要である。種々の触媒活性材料は、熱交換面の異なるセグメント中に存在することができる。
【0045】
例えば、熱交換壁上での液体被膜の流れ方向と対向流でおよび蒸発された水、ホルムアルデヒドおよびメチレングリコールと並行流で、反応性のガス状エダクトは、蒸発器中に導入されてよい。更に、この反応性ガス状エダクトは、ポリオキシメチレングリコールと反応して(難揮発性)生成物を生じ、この生成物は、蒸発器の底面から排出される。更に、蒸発器は、例えば縮合反応の促進のために酸性または塩基性物質で被覆されているセグメントを有することができ、およびポリオキシメチレングリコールの連続反応の促進のために触媒活性材料で被覆されているセグメントを有することができる。
【0046】
この種の反応の例は、
レッペ反応でのブチンジオールへのアセチレンとホルムアルデヒド溶液との反応、この場合このブチンジオールは、ブタンジオールへさらに水素化されうる;
多価アルコールおよび糖、ペンタエリトリット、トリメチロールプロパンおよびネオペンチルグリコールへのホルムアルデヒドとホルムアルデヒドそれ自体または高級アルデヒドとのアルドール化反応;
グリコール酸へのホルムアルデヒドとCOとの反応;
ホルムアルデヒド溶液からのキレート化物質、例えばグリコールニトリルの製造;
α−ヒドロキシメチル化合物へのプリンス反応(Prins-Reaktion)でのホルムアルデヒドとオレフィンとの反応;
シッフ塩基へのホルムアルデヒドとアミン、例えばアニリンまたはトルイジンとの縮合反応、この場合このシッフ塩基は、ジフェニルメタン誘導体、例えばメタンジフェニルジアミンへさらに反応することができる;
オキシムへのヒドロキシルアミンとホルムアルデヒドとの反応;
環式エーテルへのホルムアルデヒドとジオールとの反応、例えばジオキソランへのグリコールとホルムアルデヒドとの反応;
エーテル、例えばポリオキシメチレンジアルキルエーテル、有利にポリオキシメチレンジメチルエーテルへのホルムアルデヒドとアルコールとの反応である。
【0047】
上記の一覧は、完全ではない。有機化学および工業化学の教科書は、他の反応例を含む。しかし、上記の一覧は、例示的に有機化学の全範囲において、合成成分としてのホルムアルデヒド工業的重要性を明らかにするはずである。これは、製薬学的範囲または植物保護範囲での僅かなトン数の中間生成物ならびに大きなトン数の生成物、例えばジフェニルメタン誘導体およびポリオキシメチレンジアルキルエーテルに関する。
【0048】
本発明は、次の実施例によって詳説される。
【実施例】
【0049】
実施例
液体で外側から加熱される実験室用薄膜型蒸発器の頭部中に、ホルムアルデヒド5質量%、水55質量%およびメタノール40質量%からなるホルムアルデヒド水溶液500ml/hを供給する。薄膜型蒸発器の加熱ジャケット温度を100℃に加熱し、圧力を内部空間で200ミリバールに調節する。蒸発速度は、2.33である。
【0050】
蒸発管の内面は、5.2モルH/kgの能力を有する強酸性のイオン交換樹脂で被覆されている。ワイパーは、600rpmで運転され、供給する溶液を蒸発管の内面上に分配するという課題を有している。使用された薄膜型蒸発器の望ましい長さは、300mmであり、蒸発管の内径は、50mmである。蒸発器それ自体は、高価な特殊鋼から完成されている。
【0051】
メチラールへのホルムアルデヒドとメタノールとの酸触媒による反応を、内壁上で反応式
2CHOH+CHO←→CHOCHOCH+H
により行なう。
【0052】
生成されるメチラールを連続的に水およびメタノールと一緒に蒸発させ、頭部を介して導き、後方に接続された凝縮器中で凝縮させる。凝縮された気相中でのメチラールの含量は、13.0質量%である。塔底生成物は、メチラールの痕跡のみを含有する。ホルムアルデヒドの変換率は、80%を上廻る。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】液状物質混合物をフィルム蒸発器中で分離する本発明による方法を実施するのに特に好適なフィルム蒸発器を示す略図。
【図2】可能な運転形式に関する略示的概要を示す略図。
【符号の説明】
【0054】
1 粗製溶液、 2 液体分配器、 3 蒸発器面、 4 加熱ジャケット、 5 ワイパーブレード、 6 駆動装置、 7 熱媒体供給流、 8 熱媒体排出流、 9 相分離空間、 10 液滴分離器、 12 蒸発物、 13 濃縮物、 15 フィルム蒸発器、 16 蒸発物分離器、 V1,V2,V3 蒸気状の流れ、 U 循環路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの易揮発性成分および少なくとも1つの難揮発性成分を含有する液状物質混合物を、
(i)液状の出発物質混合物の連続的な流れを準備し、
(ii)この連続的な流れから液体被膜を製造し、前記フィルム蒸発器の熱交換面と接触させ、
(iii)前記液体被膜を部分的に蒸発させ、この場合少なくとも1つの易揮発性成分の含量に富んだガス流および少なくとも1つの難揮発性成分の含量に富んだ液体流が得られるようなフィルム蒸発器中で分離する方法において、
(iv)前記熱交換面を触媒活性材料で被覆し、
(v)前記液体被膜中で化学反応を促進させ、その際少なくとも1つの易揮発性成分を形成させることを特徴とする、液状物質混合物をフィルム蒸発器中で分離する方法。
【請求項2】
フィルム蒸発器を落下型フィルム蒸発器、薄膜型蒸発器、らせん管型蒸発器またはこれらの装置の組合せとして形成させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
液状の出発物質混合物がホルムアルデヒド水溶液であり、易揮発性成分が遊離ホルムアルデヒド(CHO)、メチレングリコール(HOCHOH)および水からなる群れから選択され、難揮発性成分が2〜20個のオキシメチレン単位を有するポリオキシメチレングリコール(HO(CHO)H)(n=2〜20)からなる群れから選択され、促進された化学反応がメチレングリコールとポリオキシメチレングリコールとの酸的または塩基的に促進された縮合であり、この場合には、低分子量のポリオキシメチレングリコールから高分子量のポリオキシメチレングリコールが形成され、水が易揮発性成分として形成される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
液状の出発物質混合物が水、水和された形のホルムアルデヒド(メチレングリコール)、このホルムアルデヒドとメタノールとの半アセタールおよび完全アセタールならびにメタノールそれ自体を含有する溶液であり、易揮発性成分がメチレングリコール/メタノール−完全アセタール(メチラール)であり、難揮発性成分が残りの成分であり、促進された化学反応がメチレングリコールまたはメチレングリコール/メタノール−半アセタールおよびメタノールからのメチラールの形成である、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
メタノールを前記溶液から分離する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
メチラールを製造する、請求項4記載の方法。
【請求項7】
触媒活性材料が酸性の性質を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
触媒活性材料がイオン交換材料であるかまたは多孔質もしくはゲル状のポリマーとゼオライトとからなる複合体である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
熱交換面が被覆されたセグメントおよび被覆されていないセグメントを有する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
液体流との対向流で反応性のガス状成分をフィルム蒸発器中に導入し、この反応性のガス状成分を液状の出発物質混合物の1つ以上の成分または形成された難揮発性成分の1つ以上と反応させる、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
熱交換面を触媒活性材料で被覆し、形成された難揮発性成分の1つ以上の連続反応を促進させる、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
触媒活性材料で被覆された熱交換壁を有するフィルム蒸発器。
【請求項13】
被覆された壁セグメントと被覆されていない壁セグメントとが交互に現れる、請求項12記載のフィルム蒸発器。
【請求項14】
メタンジフェニルジアミンおよびポリオキシメチレンジアルキルエーテルを製造するための、請求項3記載の方法で得ることができるポリオキシメチレングリコールの使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの易揮発性成分および少なくとも1つの難揮発性成分を含有する液状物質混合物を、
(i)液状の出発物質混合物の連続的な流れを準備し、
(ii)この連続的な流れから液体被膜を製造し、前記フィルム蒸発器の熱交換面と接触させ、
(iii)前記液体被膜を部分的に蒸発させ、この場合少なくとも1つの易揮発性成分の含量に富んだガス流および少なくとも1つの難揮発性成分の含量に富んだ液体流が得られるようなフィルム蒸発器中で分離し、この場合
(iv)前記熱交換面を触媒活性材料で被覆し、
(v)前記液体被膜中で化学反応を促進させ、その際少なくとも1つの易揮発性成分を形成させることにより、液状物質混合物をフィルム蒸発器中で分離する方法において、
液状の出発物質混合物がホルムアルデヒド水溶液であり、易揮発性成分が遊離ホルムアルデヒド(CHO)、メチレングリコール(HOCHOH)および水からなる群れから選択され、難揮発性成分が2〜20個のオキシメチレン単位を有するポリオキシメチレングリコール(HO(CHO)H)(n=2〜20)からなる群れから選択され、促進された化学反応がメチレングリコールとポリオキシメチレングリコールとの酸的または塩基的に促進された縮合であり、この場合には、低分子量のポリオキシメチレングリコールから高分子量のポリオキシメチレングリコールが形成され、水が易揮発性成分として形成されることを特徴とする、液状物質混合物をフィルム蒸発器中で分離する方法。
【請求項2】
フィルム蒸発器を落下型フィルム蒸発器、薄膜型蒸発器、らせん管型蒸発器またはこれらの装置の組合せとして形成させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
触媒活性材料が酸性の性質を有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
触媒活性材料がイオン交換材料であるかまたは多孔質もしくはゲル状のポリマーとゼオライトとからなる複合体である、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
熱交換面が被覆されたセグメントおよび被覆されていないセグメントを有する、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの易揮発性成分および少なくとも1つの難揮発性成分を含有する液状物質混合物を、
(i)液状の出発物質混合物の連続的な流れを準備し、
(ii)この連続的な流れから液体被膜を製造し、前記フィルム蒸発器の熱交換面と接触させ、
(iii)前記液体被膜を部分的に蒸発させ、この場合少なくとも1つの易揮発性成分の含量に富んだガス流および少なくとも1つの難揮発性成分の含量に富んだ液体流が得られるようなフィルム蒸発器中で分離し、この場合
(iv)前記熱交換面を触媒活性材料で被覆し、
(v)前記液体被膜中で化学反応を促進させ、その際少なくとも1つの易揮発性成分を形成させることにより、液状物質混合物をフィルム蒸発器中で分離する方法において、
液状の出発物質混合物が水、水和された形のホルムアルデヒド(メチレングリコール)、このホルムアルデヒドとメタノールとの半アセタールおよび完全アセタールならびにメタノールそれ自体を含有する溶液であり、易揮発性成分がメチレングリコール/メタノール−完全アセタール(メチラール)であり、難揮発性成分が残りの成分であり、促進された化学反応がメチレングリコールまたはメチレングリコール/メタノール−半アセタールおよびメタノールからのメチラールの形成であることを特徴とする、液状物質混合物をフィルム蒸発器中で分離する方法。
【請求項7】
フィルム蒸発器を落下型フィルム蒸発器、薄膜型蒸発器、らせん管型蒸発器またはこれらの装置の組合せとして形成させる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
メタノールを前記溶液から分離する、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
メチラールを製造する、請求項6または7記載の方法。
【請求項10】
触媒活性材料が酸性の性質を有する、請求項7から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
触媒活性材料がイオン交換材料であるかまたは多孔質もしくはゲル状のポリマーとゼオライトとからなる複合体である、請求項7から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
熱交換面が被覆されたセグメントおよび被覆されていないセグメントを有する、請求項7から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つの易揮発性成分および少なくとも1つの難揮発性成分を含有する液状物質混合物を、
(i)液状の出発物質混合物の連続的な流れを準備し、
(ii)この連続的な流れから液体被膜を製造し、前記フィルム蒸発器の熱交換面と接触させ、
(iii)前記液体被膜を部分的に蒸発させ、この場合少なくとも1つの易揮発性成分の含量に富んだガス流および少なくとも1つの難揮発性成分の含量に富んだ液体流が得られるようなフィルム蒸発器中で分離し、この場合
(iv)前記熱交換面を触媒活性材料で被覆し、
(v)前記液体被膜中で化学反応を促進させ、その際少なくとも1つの易揮発性成分を形成させることにより、液状物質混合物をフィルム蒸発器中で分離する方法において、
触媒活性材料がイオン交換材料であるかまたは多孔質もしくはゲル状のポリマーとゼオライトとからなる複合体であることを特徴とする、液状物質混合物をフィルム蒸発器中で分離する方法。
【請求項14】
フィルム蒸発器を落下型フィルム蒸発器、薄膜型蒸発器、らせん管型蒸発器またはこれらの装置の組合せとして形成させる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
熱交換面が被覆されたセグメントおよび被覆されていないセグメントを有する、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
液体流との対向流で反応性のガス状成分をフィルム蒸発器中に導入し、この反応性のガス状成分を液状の出発物質混合物の1つ以上の成分または形成された難揮発性成分の1つ以上と反応させる、請求項13から15までのいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−519174(P2006−519174A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−518671(P2005−518671)
【出願日】平成16年3月3日(2004.3.3)
【国際出願番号】PCT/EP2004/002122
【国際公開番号】WO2004/078307
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】