説明

液状食品処理方法及び装置

【課題】 加熱殺菌処理やろ過処理に代わる殺菌処理方法として、日本酒など液状食品の旨味成分や香り成分を損なうことなく、微生物の殺菌と酵素の失活とが可能な処理方法および装置を提供する。
【解決手段】 液状食品に衝撃液圧を加えることにより液状食品中の生物を死滅させることを特徴とする。
また、静的超高圧処理、高電圧パルス放電処理、光パルス処理、紫外線照射処理、ろ過処理、電解処理、オゾン処理のうちのいずれかまたは複数からなる処理工程と、液状食品に衝撃液圧を加える衝撃液圧処理工程とを、備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日本酒やワインなどの醸造酒、牛乳、飲料類などの液状食品の殺菌を行う液状食品処理方法に関し、特に醸造酒等の処理対象となる液状食品の味や香りを変化させることなく、微生物の殺菌と酵素の失活を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
日本酒などの醸造酒は原料をアルコール発酵したものであり、発酵終了直後の発酵液には酵母や乳酸菌等の微生物や種々の酵素が含まれている。
醸造酒のうちでも特に日本酒は、微生物や酵素が酒中に残存していると、保存中に風味、香り、色が劣化して品質の低下を招くことから、発酵終了後に微生物の殺菌及び酵素失活を行う必要がある。
【0003】
この微生物の殺菌及び酵素失活は、以下のように行われるのが一般的である。
通常、日本酒は、発酵終了後、圧搾し、さらにろ過をして新酒を得、その後火入れと呼ばれる60〜65℃で加熱殺菌されて貯蔵される。
そして、これを原酒として調合し、アルコール濃度や味の調整を行った後、再び加熱殺菌してびん詰めされ製品とされる。
この2回の加熱によって日本酒に含まれている酵母や乳酸菌等の微生物を殺菌するとともにアミラーゼ、プロテアーゼ等の酵素を失活させて保存性を付与しているのである。
【0004】
また、日本酒などの醸造酒以外の液状食品である牛乳、コーヒー、茶、ジュース類、清涼飲料水、健康飲料、醤油、つゆ類等についても殺菌処理が必要とされるが、通常は加熱殺菌されている。
【0005】
以上のように、液状食品における殺菌処理は加熱殺菌が主流であり、従来の液状食品の加熱殺菌装置として、例えば熱交換器の伝熱板を介して加熱媒体と被処理液と熱交換をする殺菌装置において、加熱媒体の温度を目標温度に調整する手段と、被処理液の送液開始後、被処理液が液管路を通過した後の液温検知手段と、この液温検知手段の信号により液流量を制御する自動制御手段とを設けた殺菌装置がある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−93136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように従来の日本酒製造においては、その製造工程で2回の殺菌処理が行われるが、この2回の殺菌処理を上記特許文献1に示されるような殺菌装置によって加熱処理にて行っているために、酒中の旨味成分、香り成分の損失が大きく、これが日本酒の風味低下の要因となっている。
また、加熱殺菌を行うと加熱によってアルコール分が蒸発するため、これを防ぐために密閉耐圧容器を用いる必要があり、このため設備費が嵩み、また運転操作も煩雑となっている。
【0007】
なお、近年、味の良い日本酒の要望が高まり、なるべく温和な条件で加熱処理されるか若しくは限外ろ過、精密ろ過などの分離技術を用いて処理された生酒も製造されている。
このように日本酒の製造において、限外ろ過、精密ろ過などの分離技術を用いることも可能であるが、この分離技術で酒を処理すると、微細な孔径を有する膜によっては、微生物や酵素とともに、旨味成分や香り成分までも取り除かれてしまう場合がある。
【0008】
このように、日本酒の加熱処理には種々の問題があり、また分離技術においてもやはり問題があった。そして、このような加熱処理や分離技術の問題は日本酒以外の液状食品である牛乳やジュース類、清涼飲料水、醤油、つゆ類等についても同様であり、風味低下の要因となっている。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、加熱殺菌処理やろ過処理に代わる殺菌処理方法として、日本酒などの液状食品の旨味成分や香り成分を損なうことなく、微生物の殺菌と酵素の失活とが可能な処理方法および装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る液状食品処理方法は、液状食品に衝撃液圧を加えることにより液状食品中の生物を死滅させることを特徴とするものである。
【0011】
(2)また、静的超高圧処理、高電圧パルス放電処理、光パルス処理、紫外線照射処理、ろ過処理、電解処理、オゾン処理のうちのいずれかまたは複数からなる処理工程と、液状食品に衝撃液圧を加える衝撃液圧処理工程とを、備えたことを特徴とするものである。
前記処理工程により液状食品中の微生物の活性を低下させ、細胞膜の破壊強度を低下させた後、衝撃液圧を加える衝撃液圧処理工程により液状食品中の微生物を確実に死滅させる。
【0012】
なお、前記処理工程における静的超高圧処理としては数百MPa程度の静水圧を加圧するものが考えられる。また、高電圧パルス電界処理としては液中の微生物の細胞膜を破壊する臨界電圧以上の高電圧を極短時間のパルス印加するものが考えられる。さらに、光パルス処理としては、高エネルギー密度のレーザー光を極短時間のパルス照射するものが考えられる。また、紫外線照射処理としては、紫外線ランプから照射や、γ線照射が考えられる。さらに、ろ過処理としては限外ろ過膜、ミクロフィルター等によるろ過が考えられる。
また、電解処理としては、電気分解して殺菌効果をもつ成分を発生させるものが考えられる。さらに、オゾン処理としてはオゾンを注入し強酸化性により殺菌するものが考えられる。
【0013】
なお、液状食品に対して衝撃液圧処理工程を先に行ない、その後で前記処理工程を行うようにしても、一定の効果が得られるので、本発明はこれを排除するものではない。
【0014】
(3)また、液状食品を60℃以下の温度に加熱した後、前記液状食品に衝撃液圧を加えることを特徴とするものである。
なお、加熱処理の方法としては、熱交換器により温水等の加熱媒体により加熱するものや、マイクロ波加熱、あるいは通電加熱が考えられる。
60℃以下の温度で加熱するため液状食品の風味を低下させることなく、微生物の活性を低下させ、細胞膜の破壊強度を低下させた後、衝撃液圧を加えることにより液状食品中の微生物を確実に死滅させる。
なお、液状食品に対して衝撃液圧処理工程を先に行ない、その後で前記加熱処理を行うようにしても、一定の効果が得られるので、本発明はこれを排除するものではない。
【0015】
(4)また、上記(1)〜(3)に記載のものにおいて、その衝撃液圧が、収束爆轟波によって誘起された衝撃液圧であることを特徴とするものである。
なお、ここにいう爆轟とは、化学反応を伴う爆発のうち反応の起こる面(火炎面)が静止媒質における音速よりも大きい速度で移動する現象、すなわち衝撃波をともなって火炎が伝播する現象をいう。そして、爆轟波とは火炎面の移動を波と捉えて表現したものである。
【0016】
(5)また、上記(1)〜(3)に記載のものにおいて、その衝撃液圧が、液中放電によって誘起された衝撃液圧であることを特徴とするものである。
【0017】
(6)また、上記(5)に記載のものにおいて、その衝撃液圧が、複数箇所での液中放電によって誘起された衝撃波同士を干渉させて得られた衝撃液圧であることを特徴とするものである。
【0018】
(7)本発明に係る液状食品処理装置は、液状食品を貯留して処理するための処理室と、該処理室内の液状食品に衝撃液圧を発生させる衝撃液圧発生装置と、を備えてなることを特徴とするものである。
【0019】
(8)また、上記(7)に記載のものにおいて、衝撃液圧発生装置が気体収束爆轟発生装置から構成されていることを特徴とするものである。
【0020】
(9)また、上記(8)に記載のものにおいて、その気体収束爆轟発生装置は、一端部から他端部へ向け断面積が小さくなる燃焼室と、燃料の供給を受けると共に点火栓が配設された着火室と、着火室から分岐して延び上記燃焼室の一端部へ連通する複数の誘導路とを備え、前記燃焼室の最小断面積部たる他端部の開口側と処理室とが連通してなることを特徴とするものである。
【0021】
(10)また、液状食品に加熱処理、静的超高圧処理、高電圧パルス電界処理、光パルス処理、紫外線照射処理、ろ過処理、電解処理、オゾン処理のうちのいずれか一つまたは複数を行う処理装置と、液状食品を貯留して処理するための処理室と、該処理室内の液状食品に衝撃液圧を発生させる衝撃液圧発生装置と、を備えてなることを特徴とするものである。
【0022】
(11)また、液状食品を60℃以下の温度に加熱する加熱装置と、液状食品を貯留して処理するための処理室と、該処理室内の液状食品に衝撃液圧を発生させる衝撃液圧発生装置と、を備えてなることを特徴とするものである。
【0023】
(12)また、液状食品を貯留して処理するための処理室と、該処理室内の液状食品に衝撃液圧を発生させる衝撃液圧発生装置とを備え、前記衝撃液圧発生装置における衝撃液圧発生部が複数の液中放電部と、該複数の液中放電部で発生した液中衝撃波同士を干渉させるための収束室とから構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明においては液状食品に衝撃液圧を加えることにより液状食品中の生物を死滅させるようにしたので、液状食品中の生物の死滅や酵素を失活させることに対する信頼性に優れると共に、加熱殺菌の場合のような旨味成分や香り成分を損なうことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[実施の形態1]
図1は本発明の一実施の形態の説明図であり、液状食品の殺菌装置を示したものである。
本実施の形態の主な構成要素を概説する。本実施の形態に係る液状食品の殺菌装置は、殺菌処理前の液状食品を貯留する処理前貯蔵タンク1、この処理前貯蔵タンク1内の殺菌処理前の液状食品を処理するために一時的に貯留する処理室3、処理室3に貯留された液状食品に衝撃液圧を発生させる衝撃液圧発生装置としての気体収束爆轟発生装置5、処理室内の衝撃液圧を緩和するバッファタンク7、殺菌処理した液状食品を瓶詰して製品化するまで貯蔵(熟成)する貯蔵タンク9、殺菌処理した液状食品に割水等や添加剤を添加し調製する調整タンク11、調整タンク内の調製された液状食品を瓶詰めして製品化する前に殺菌処理するために処理室3に再供給する再供給管12、製品を瓶詰めするための瓶詰装置13を備えている。
さらに、各装置を接続する管に設けられた制御弁の開閉制御、気体収束爆轟発生装置5への燃料ガス及び燃料用空気の供給、着火等の各操作を自動的に行う制御装置14を備えている。
以下、上記各構成要素の主なものについて詳細に説明する。
【0026】
(1)処理室
処理室3は、この例では長片と短片が逆になった略L字状をしている。略L字状の処理室3における屈曲部近傍には処理室3に液状食品を供給する供給管15が接続され、長片の一端側には処理された液状食品を排出するための排液管17が接続され、さらに短片の一端側には気体収束爆轟発生装置5が接続されている。
供給管15には処理室3に処理前貯蔵タンク1内の液状食品を供給し、また処理室3で処理された液状食品を、バッファタンク7を介して貯蔵タンク9に送液するためのポンプ19が設置されている。
また、供給管15、排液管17および再供給管12にはそれぞれ制御弁21,23,25が設置されている。また、供給管15と処理室3の接続部には液状食品の供給を制御する供給開閉弁27が設けられている。
【0027】
供給開閉弁27は弁体が弁閉時には処理室3の内壁との間で凹凸を生じることなく滑らかに連続するようになっている。このため、処理室3内に液中衝撃波を発生させたときに、衝撃波が減衰されることなく処理室内を伝播することができる。また、凹部がないので衝撃圧力が十分に到達せず殺菌されない領域が生じることを防止できる。
【0028】
なお、本実施の形態において処理室3を略L字状にしたのは、処理室3内の処理液状食品(以下、「処理液」という。)が気体収束爆轟発生装置5側に浸入しないようにするためである。つまり、処理室3を上下方向に屈曲させて上方に向けて屈曲した上端側に気体収束爆轟発生装置5を設置することで、気体収束爆轟発生装置5が常に処理液よりも上方に配置されることになるので、処理液の浸入を防止できるのである。
【0029】
なお、液中を伝播する衝撃波は、伝播経路の断面積が一定の場合、距離減衰が非常に小さいため、処理室3の形状は細長い管状が好ましい。管長を長くすることで処理量を大きくすることができる。なお、処理室3の形状は液中衝撃波の伝播しやすさ、配管等の接続の便宜等を考慮して適宜変更することができる。
【0030】
(2)気体収束爆轟発生装置
気体収束爆轟発生装置5は、爆轟波を発生させる気体収束爆轟発生部57と、気体収束爆轟発生部57に燃料を供給する燃料供給系統59と、気体収束爆轟発生部57に酸化剤としての燃焼用空気を供給する空気供給系統61とを備えている。
【0031】
図2は気体収束爆轟発生部57の断面図であり、以下図2に基づいて気体収束爆轟発生部57の構成を詳細に説明する。
気体収束爆轟発生部57は、図2に示されるように、燃料及び酸化剤の供給を受けて爆轟波を発生させる着火室63と、着火室63に連通する後述の分散部67及び収束室73からなる燃焼室64とを有している。
着火室63は円筒状に形成され、着火室63の一端部には、燃料を間欠的に着火させる着火装置としての点火栓63aが設けられている。
また、着火室63には、着火室63の軸線方向に延びる螺旋状の金属からなるシェルキンスパイラル63bが設けられている。このシェルキンスパイラル63bは、点火栓63aで燃料に着火されて生じた火炎を加速させることにより爆轟を誘起させる。なお、着火室63には、図2に示すように、プロパン等の燃料及び酸化剤(燃焼用空気)が供給される。
【0032】
燃焼室64を構成する本体65は、上本体65Aと下本体65Bとに分割され、シール65Cにより密封状態で、図示しないボルト等で連結されている。
上本体65Aには分散部67が設けられ、この分散部67に前述の着火室63が連通している。分散部67は、上部材69と下部材71によって形成されており、着火室63から半径方向に大きく拡径する円盤状空間67Aと、該円盤状空間67Aの外周部で周方向の複数位置に貫通形成された一次細孔67Bと、該複数の一次細孔67Bが連通する環状空間67Cと、該環状空間67Cの範囲で貫通形成された複数の二次細孔67Dとから構成されている。着火室63、分散部67、及び後述する収束室73には燃料と酸化剤の混合気が供給される。かくして、着火室63の混合気に着火され誘起された爆轟により発生した爆轟波は、円盤状空間67A、一次細孔67B、環状空間67C、そして二次細孔67Dを経て伝播されることにより分散されて次の収束室73へ導入される。
【0033】
収束室73は、下本体65Bの湾曲回転内面と下部材71の下側突出部71Aの外周面との間で形成されており、下方に向けて空間横断面が次第に小さくしかも中央部へ向けて変向するように形成されている。
下部材71の下側突出部71Aの内部空間には、段状ピストン75が上下移動自在に収められている。この段状ピストン75の大径部材75Aの上下空間のそれぞれには、油圧制御装置77からの配管77A、77Bが連通している。
【0034】
段状ピストン75の小径部材の下端部は、テーパ部分を有する弁部75Bを形成していて、下本体65Bの湾曲回転面の中央部に取り付けられた管状弁座体79と協働する。管状弁座体79は、上部に形成された大径の弁座部79Aと、ここから下方に延びる管状部79Bとを有している。弁座部79Aの上面中央には、上記段状ピストン75の下端部に形成されたテーパ部分である弁部75Bが係止するテーパ状の弁座が設けられていて、該弁座からは下方に延びて開口する筒状の噴射口81が形成され、その出口開口端部81Aで処理室3に接続されている。また収束室73には燃焼排ガスを排出する排出孔82が設けられていて、排気弁32が設置された排ガス管33に接続されている。
【0035】
処理室3の内部上部にはベローズ式ダイヤフラム120が設けられ、ダイヤフラム120の下面は処理液の液面と接している。
また、噴射口81には注液孔102と排液孔103が設けられていて、噴射口81内部の段状ピストン75とダイヤフラム120との空隙に圧力媒体液101を充填するようになっている。圧力媒体液101としては水が用いられる。気体収束爆轟発生部57で発生した爆轟波は噴射口81内部の圧力媒体液101に液中衝撃波を発生させ、液中衝撃波はダイヤフラム120を通過し、処理液に伝播される。ダイヤフラム120の材質はゴム製であり、ショックインピーダンスが水や処理液とほぼ一致するため、液中衝撃波は反射、減衰することなく通過する。
【0036】
このとき、ダイヤフラム120により燃焼排ガスが処理室に流入するのを防止される。また、衝撃波が圧力媒体液101を伝播し、ダイヤフラム120に伝播する際に、圧力媒体液101が移動するが、ダイヤフラム120はベローズ式であるため、圧力媒体液101の移動量を吸収するだけの伸びが許容されるので、破断することを防止できる。
また、処理室3のダイヤフラム120の下部にエアベンド104が設けられていて、処理室3に処理液を供給する際に処理室3内の空気を排出するようになっている。処理室3内に空気が滞留していると衝撃波は著しく減衰されるが、このようにすることにより防止できる。
なお、着火室63及び燃焼室64内では爆轟の発生により高温になるので、これを冷却するために液冷ジャケット83が設けられている。
【0037】
燃料供給系統59は燃料供給源84と、燃料供給源84の燃料を着火室63に供給するための燃料供給配管85と、燃料供給配管85に設けられて燃料ガスのガス圧力を調整する減圧弁86と、燃料ガスの流量を計測する流量計87と、を備えている。
空気供給系統61は、燃焼用空気の供給源となる小型空気圧縮機88と、小型空気圧縮機88の圧縮空気を着火室63に供給するための空気配管89と、空気配管89に設けられて空気圧力を調整する減圧弁91と、圧縮空気の流量を計測する流量計92と、を備えている。また、空気配管89の途中には熱交換器93が設けられており、気体収束爆轟発生装置5の排ガスを熱源として空気配管89から供給される空気を予熱できるようになっている。
【0038】
上記のように構成された気体収束爆轟発生装置5においては、気体収束爆轟発生部57を稼動して、収束爆轟波を発生させて該収束爆轟波により処理室3内の処理液に液中衝撃波を伝播させることになるが、ここで、気体収束爆轟発生部57による収束爆轟波発生のための動作及びメカニズムを説明する。
【0039】
まず、図2に示す状態で、気体収束爆轟発生部57の着火室63において燃料と酸化剤(空気)の混合気の燃焼が行われ、爆轟を生じさせ爆轟波を発生させる。発生した爆轟波は分散部67を経て分散され収束室73へ導入される。段状ピストン75は、この状態では図2に示されるように、油圧制御装置77によって配管77Aからの背圧を受けて、該段状ピストン75の弁部75Bが弁座部79Aを閉じている。
【0040】
分散部67から収束室73に導入された複数の爆轟波は、収束室73内を下方に向けて進行するが、収束室73の断面積が下方に向けて小さくなるために、複数の爆轟波は互いに強め合いながら収束され超高圧の収束爆轟波となる。
収束爆轟波の発生に同期して、油圧制御装置77によって配管77Bから油圧が瞬間的に作用し、この瞬時の圧力により段状ピストン75が上昇し、上記弁部75Bと弁座部79Aとの間に流路が形成される。したがって、収束爆轟波は、この流路から、瞬間的に噴射口81内に充填された圧力媒体液101に伝播され、液中衝撃波が発生する。液中衝撃波はダイヤフラム120を介して処理室3内の処理液に伝播される。この動作は一秒間に数回〜数十回行うことが可能であり、処理対象の量や、処理液中の微生物のサイズ等により収束爆轟波の処理液への伝播回数を適宜調整するようにすればよい。
なお、収束室73内の燃焼排ガスが処理室側に流入することを防ぐために、収束爆轟波を伝播直後に段状ピストン75を下降させ流路を閉じる。その後、着火室63にパージガスを送気し、着火室63及び燃焼室64内の燃焼排ガスを排気孔82から排気する。
【0041】
処理液に伝播された収束爆轟波は処理液に液中衝撃波を誘起し、この液中衝撃波が微生物や細菌類に伝播し、衝撃的な圧縮、膨張、せん断等の力を加え、これらを死滅させる。
【0042】
次に、上記のように構成された本実施の形態の動作を説明する。
(1)まず、供給開閉弁27を稼働して供給管15と処理室3の連通を開にすると共に制御弁23を稼働して処理室3と排液管17の連通を閉にする。この状態でポンプ19を稼働して処理前貯蔵タンク1の液状食品を処理室3に供給する。
処理室3に所定の液量が注入されると、供給開閉弁27を稼働して供給管15と処理室3の連通を閉にする。
(2)気体収束爆轟発生部57においては、着火室63、燃焼室64内に、理論混合比よりも空気不足条件で、燃料と酸化剤(予熱空気)を充填する。
この状態で、着火室63において燃料と酸化剤との混合気に着火され、生じた火炎がシェルキンスパイラル63bにより加速されて爆轟が誘起される。その後は前述した動作メカニズムによって処理室3内の処理液に液中衝撃波を誘起して処理液中の微生物及び細菌類を死滅処理する。
【0043】
(3)その後、気体収束爆轟発生装置5の排気弁32を全開にし、燃焼排ガスを排ガス管33を介して図示しない排ガス処理装置に排気する。このとき、排ガス管33に流した排ガスは、熱交換器93を介して燃焼用空気を加熱して排出される。
(4)気体収束爆轟発生装置5の排気弁32を全閉にしたのち、処理室下流側の制御弁23を稼働して処理室3と排出管17の連通を開にすると共に、処理室上流側の供給開閉弁27を稼働して供給管15と処理室3の連通を開にする。これによって、処理済み液状食品が排出管17から排出されると共に処理前液状食品が処理室3の上流側から供給される。このとき、処理前の液状食品が直接処理室外に漏洩するのを防止するため、毎回、処理室内に処理済液状食品が一部残留するように供給開閉弁27及び制御弁23を開閉制御するのが好ましい。
また、供給開閉弁27及び制御弁23の開放タイミングを同期させることで、流入量と同量が排出されることになり、液撃現象を防止できると共に処理液の注入及び処理済み液状食品の排出のサイクルタイムを短縮できる。
【0044】
排出管17から排出された処理済液状食品はバッファタンク7を介して貯蔵タンク9に供給される。貯蔵タンク9内では熟成も行われる。
(5)上記(1)〜(4)の工程を所定回数繰り返し、処理前貯蔵タンク内の処理前液状食品を処理室3に移送して死滅処理を行う。
【0045】
気体収束爆轟発生部57に供給する燃料、酸化剤の諸条件を適切に設定して、衝撃液圧を500Mpa以上とすることにより、酵母等の微生物、細菌を確実に殺菌することができる。
なお、液状食品中の処理対象物のサイズが小さいなどの理由で死滅しにくい場合には、衝撃液圧処理毎に処理室内のバラスト液を置換するのではなく、(2)〜(4)の工程を複数回繰り返すことにより、死滅処理効果を高めることができる。複数回衝撃液圧を加える場合には、衝撃液圧を250Mpa以上とするように、諸条件を設定すればよい。
殺菌処理対象物としては、液状食品中のバクテリア、ウィルス、細菌、酵母、カビ、植物性又は動物性プランクトンなどの比較的微小サイズの生物が対象である。また、アミラーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ等の酵素を失活させて液状食品の保存性を付与できる。
【0046】
なお、貯蔵タンク内に貯蔵されている液状食品は、調製タンク11に供給され、割水の添加、味の調整、添加剤の添加等を行って製品食品を調製した後、製品食品を再供給管12により処理室3に供給し、上記と同様の殺菌処理を行い、瓶詰装置13等に送液する。この製品食品の殺菌処理により、保存性がよく変質、風味の低下しない食品を製造できる。
【0047】
以上のように本実施の形態によれば、液状食品が高温に加熱されないので、液状食品の旨味成分や香り成分を損なうことなく、微生物の殺菌と酵素の失活とが可能となる。また、液中衝撃波の伝播により衝撃液圧を加えるので、均一な殺菌処理が行なえ、さらに、瞬時に殺菌処理できるので食品の製造が効率的に行なえる。
【0048】
なお、上記の実施の形態では、気体収束爆轟発生装置5へ供給する燃料としてプロパンガス等の燃料ガスを用いたが、灯油、軽油、重油等の液体燃料を蒸発させ気体燃料として供給したり、微粉炭等の固体燃料を供給したりしてもよい。
また、上記の実施の形態では、気体収束爆轟発生装置5へ供給する酸化剤として、空気を用いたが、酸素、酸素富化空気を用いると、爆轟発生効率を高くでき、装置をコンパクトにできる。
【0049】
さらに、上記の実施の形態では、衝撃液圧処理のみによって殺菌をする例を示したが、例えば60℃以下の温度に加熱する処理を行なって、微生物、細菌の細胞膜の強度を低下させたり、あるいは活性を低下させたりした後、衝撃液圧による処理をするようにしてもよい。このようにすれば、衝撃液圧発生装置5により発生させる衝撃液圧を比較的低くすることができるため、衝撃液圧発生装置5をコンパクトにでき、運転条件の設定が容易になり運転費用を安価にできる。
また、60℃以下の温度での加熱であれば、液状食品の風味を低下させることもなく、液状食品の品質に大きな悪影響を及ぼすこともない。
【0050】
なお、上記の60℃以下の温度に加熱する処理の他の前処理として、例えば静的超高圧処理、高電圧パルス放電処理、光パルス処理、紫外線照射処理、ろ過処理、電解処理、オゾン処理を行うようにしてもよい。
【0051】
[実施の形態2]
図3は本発明の他の実施の形態の説明図である。実施の形態1においては気体収束爆轟発生装置5によって衝撃液圧を誘起していたが、本実施の形態においては気体収束爆轟発生装置5に代えて液中放電によって衝撃液圧を誘起するものである。
以下、液中放電による衝撃液圧発生装置204について詳細に説明する。
【0052】
衝撃液圧発生装置204は、処理室203に連通すると共に処理室203側に向かって収束する収束室227と、収束室227の拡径側に設けられて収束室内の水中で水中放電する複数の放電プラグ229と、複数の放電プラグ229に高電圧を印加するパルス電源231と、を備えている。
放電プラグの材質としてはタングステンが非消耗性であり好ましい。収束室227には供給管207が接続され、収束室227と処理室203に液状食品の供給ができるように構成されている。
なお、パルス電源231は通常の電源とコンデンサに接続されて電力の供給を受ける。
【0053】
<動作説明>
次に、上記のように構成された本実施の形態の動作を説明する。
(1)収束室227に設けた排気管208の排気弁218を全開にし、空気抜きすると共に収束室227に接続されている供給管207の開閉弁213を全開にして、収束室227及び処理室203内に液状食品を注入する。
【0054】
(2)処理室203及び収束室227への液状食品の注入が完了すると、パルス電源231から複数の放電プラグ229に例えば数十KV、1A程度の高圧のパルス電圧を印加する。パルス電圧が印加された複数の放電プラグ229は水中放電し、各放電プラグ229の周囲の水が加熱され水蒸気が発生し体積膨張して強力な衝撃波が発生する。
衝撃波は収束室227を処理室側に向かって進行するが、収束室227が処理室側に向かって収束しているため、衝撃波が干渉しあい、さらに収束してその圧力がさらに上昇して処理室203の入り口側ではきわめて高圧、例えば500Mpaの衝撃液圧となる。この超高圧の衝撃液圧により、処理室203内の液状食品中の微生物、細菌に衝撃的な圧縮、膨張、せん断等の力が作用し、これらを死滅させる。
【0055】
(3)液状食品の処理が完了すると、収束室227の排気弁218を開にし、水蒸気を排気し、処理室上流端側及び下流端側の開閉弁213、215を全開にし、処理前液状食品を注入すると共に、処理済み液状食品を下流側に押し出す。この場合、処理前の液状食品が直接処理室外に漏洩するのを防止するため、毎回、処理室内に処理済液状食品が一部残留するように運転する。
なお、処理室203内の処理済液状食品を迅速かつ確実に排出するために排出ポンプを設けることも好ましい。
【0056】
なお、液状食品中の処理対象物のサイズが小さいなどの理由で死滅しにくい場合には、処理毎に処理室内の液状食品を置換するのではなく、(2)の衝撃波による処理工程を複数回繰り返すことにより、死滅処理効果を高めることができる。
【0057】
以上のように本実施の形態によれば、液中放電により誘起された衝撃液圧で死滅処理をするようにしたので、再現性が良くかつその効果が大きく、結果的に省エネルギーである。
また、装置がコンパクトにでき、設備費安価となり、保守・点検も容易なことから維持費も安価である。
また、放電プラグ229の設置数あるいは作動数また、印加電圧、電流を調整することにより、液状食品の性状に応じて簡単な操作で液中衝撃波の強度(死滅処理効果)を大幅に変更することができるので、フレキシビリティに優れる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施の形態に係る液状食品処理装置の説明図である。
【図2】図1に示した液状食品処理装置を構成する装置の詳細説明図である。
【図3】本発明の他の実施の形態に係る液状食品処理装置の説明図である。
【符号の説明】
【0059】
1 処理前貯蔵タンク、3 処理室、5 気体収束爆轟発生装置、9 貯蔵タンク、57 気体収束爆轟発生部、204 衝撃液圧発生装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状食品に衝撃液圧を加えることにより液状食品中の生物を死滅させることを特徴とする液状食品処理方法。
【請求項2】
静的超高圧処理、高電圧パルス放電処理、光パルス処理、紫外線照射処理、ろ過処理、電解処理、オゾン処理のうちのいずれかまたは複数からなる処理工程と、液状食品に衝撃液圧を加える衝撃液圧処理工程とを、備えたことを特徴とする液状食品処理方法。
【請求項3】
液状食品を60℃以下の温度に加熱した後、前記液状食品に衝撃液圧を加えることを特徴とする液状食品処理方法。
【請求項4】
衝撃液圧が、収束爆轟波によって誘起された衝撃液圧であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液状食品水処理方法。
【請求項5】
衝撃液圧が、液中放電によって誘起された衝撃液圧であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液状食品水処理方法。
【請求項6】
衝撃液圧が、複数箇所での液中放電によって誘起された衝撃波同士を干渉させて得られた衝撃液圧であることを特徴とする請求項5に記載の液状食品水処理方法。
【請求項7】
液状食品を貯留して処理するための処理室と、該処理室内の液状食品に衝撃液圧を発生させる衝撃液圧発生装置と、を備えてなることを特徴とする液状食品処理装置。
【請求項8】
衝撃液圧発生装置が気体収束爆轟発生装置から構成されていることを特徴とする請求項7記載の液状食品処理装置。
【請求項9】
気体収束爆轟発生装置は、一端部から他端部へ向け断面積が小さくなる燃焼室と、燃料の供給を受けると共に点火栓が配設された着火室と、着火室から分岐して延び上記燃焼室の一端部へ連通する複数の誘導路とを備え、前記燃焼室の最小断面積部たる他端部の開口側と処理室とが連通してなることを特徴とする請求項8記載の液状食品処理装置。
【請求項10】
液状食品に加熱処理、静的超高圧処理、高電圧パルス電界処理、光パルス処理、紫外線照射処理、ろ過処理、電解処理、オゾン処理のうちのいずれか一つまたは複数を行う処理装置と、
液状食品を貯留して処理するための処理室と、該処理室内の液状食品に衝撃液圧を発生させる衝撃液圧発生装置と、を備えてなることを特徴とする液状食品処理装置。
【請求項11】
液状食品を60℃以下の温度に加熱する加熱装置と、液状食品を貯留して処理するための処理室と、該処理室内の液状食品に衝撃液圧を発生させる衝撃液圧発生装置と、を備えてなることを特徴とする液状食品処理装置。
【請求項12】
液状食品を貯留して処理するための処理室と、該処理室内の液状食品に衝撃液圧を発生させる衝撃液圧発生装置とを備え、前記衝撃液圧発生装置における衝撃液圧発生部が複数の液中放電部と、該複数の液中放電部で発生した液中衝撃波同士を干渉させるための収束室とから構成されていることを特徴とする液状食品処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−223248(P2006−223248A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−43907(P2005−43907)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】