説明

液相成長法

【課題】シリコンカーバイド半導体デバイスなどの製造に適した液相成長法を提供する。
【解決手段】本発明の液相成長法は、イオン化された第1の元素を含むプラズマに直流電流を重畳することにより、基板上(S) に形成される導電性の溶媒(A) に前記プラズマ中のイオン化された第1の元素を供給する工程と、この溶媒に供給された第1の元素と、この溶媒に予め含まれる第2の元素とを反応せしめて溶質を形成する工程と、この形成された溶質を前記溶媒中に形成される温度差と前記溶質の濃度差に基づき前記溶媒(A) 中を移動せしめて、前記溶質の成長層を前記基板(S) の表面に形成せしめる工程とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンカーバイドをはじめとするワイド・バンドギャプ半導体デバイスなどの製造に利用される液相成長法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各国の経済発展に伴って急速に進みつつある環境悪化を抑制するために、エネルギー消費量の節減が焦眉の急となりつつある。特に、電力消費量は各国における経済規模の拡大と連動しているため、これを節減することは容易ではないというのが現状である。その解決策の一つとして研究されるようになったのが、いわゆるワイド・バンドギャップ半導体デバイスを利用してエネルギー変換効率の向上を図ることより、電力消費量を節減しようとするものである。特に、大きな成果がみられたのは、窒化ガリウム系発光ダイオードの開発の成功であった。この発光ダイオードは、光/電変換効率が高い上に、従来の発光デバイス、例えばタングステン電球や蛍光灯などに較べると、遙かに長寿命で、しかも、発光スペクトルがRGBのすべてに渡って得られることから、急速に応用範囲を広げて来ている。
【0003】
しかしながら、上記窒化ガリウム系のデバイスは、大電力用半導体デバイスへの適用に関しては、困難が伴う。その理由は、成分の一方が気体元素の窒素であるため、母材(バルク)単結晶を作るのが困難なことによる。このため、シリコンなどの異種の基板上に結晶を堆積することによって利用しており、自ずと応用範囲が限定的にならざるを得ない。
【0004】
その点、シリコンカーバイドは、最近では、実用的なサイズのバルク結晶が供給されるようになり、電力用半導体デバイスや高周波素子に適用する研究が各所で行われている。その理由は、数々の物性的利点があるからである。すなわち、表1に示すように、従来、シリコンカーバイドは、電力用半導体デバイスとして専ら用いられて来たシリコン半導体デバイスと比較して、その物性的な性能指数がはるかに高いことが分る。もし、シリコンカーバイド半導体デバイスの実用化に成功すれば、電力用半導体デバイスとして効率の大幅な向上が見込まれ、大幅な電力の節減が可能となる。
【0005】
【表1】

【0006】
表1によれば、シリコンカーバイドの絶縁破壊電界は、シリコンの約10倍にも達する。このため、同じ降伏電圧を実現するのに10分の1の空乏層幅で済み、PN接合の両側の不純物濃度を100 倍程度高くすることができる。結果として、ドリフト領域の抵抗値を低減できる。また、シリコンカーバイドは、その熱伝導度がシリコンの2倍もの大きな値であるため、放熱による温度上昇の抑圧が可能である点で、大きな利点の一つである。
【0007】
シリコンカーバイド、特に、4H構造と6H構造のものは、それぞれの物性値通りの性能を発揮できるものとすれば、大きな利点となる。例えば、シリコン半導体デバイスと、同一の耐圧とすれば、電力損失は二桁ほど低減できる可能性がある。発熱損失を同一とすれば、チップサイズを約一桁も小さく作ることができるという利点がある。シリコンカーバイド半導体デバイスは、200 ℃以上650 ℃付近まで安定に動作できるので、許容損失を緩和でき、冷却システムが簡易化できるという利点もある。特に、シリコンカーバイドのバイポーラ・トランジスタは、熱的破壊が生じ難く、二次降伏をほとんど考慮しないで済むほどである。
【0008】
このような潜在能力が予見されることから、シリコンカーバイドについては、世界各国で集中的な研究が行われている。しかし、現実的には多くの難問が立ちはだかっている。その一つに、母材結晶に含まれるマイクロパイプの問題がある。このマイクロパイプの低減化は着実に進んではいるものの、大電力用の半導体デバイスは大面積を必要とするために、まだ、問題は残されている。
【0009】
一方、この問題を別の観点から解決しようして、MOCVD法による異種基板上(主としてシリコン基板上)に、厚膜を堆積する方法が研究されている。この場合、基板との格子整合が取れないために、厚さ方向に徐々に欠陥を低減する方法が採用されている。このような基板では、厚さ方向に欠陥が分布している。このため、最上部の表面だけを利用する電界効果型デバイスや、発光デバイスには利用できるが、空乏層内に多量の欠陥が存在するようになるので、電力用半導体デバイスへの利用は難しいという問題がある。
【0010】
また、シリコン基板上にシリコンカーバイドの結晶を析出させることによって得られる構造は、シリコンカーバイドが持つ多くの結晶構造のうち、低温相といわれる3C構造である。この3C構造は、昇華法で作られる4H構造と6H構造のシリコンカーバイドと比較すると、物性上の優位性が劣るという問題がある。このため、電力用半導体デバイスを実現するには、シリコンカーバイドをシリコン基板上ではなく、シリコンカーバイド基板上に、エピタキシャル成長させた膜を利用することが必須の要件になろう。
【0011】
シリコンカーバイドのエピタキシャル成長においては、成長温度が非常に高いため、ドーパント、特に、P型ドーパントの蒸気圧がそうとう高くなる。このため、ドーパント、特に、P型ドーパントをエピタキシャル層内に十分な高濃度で、取り込むことが困難になる。典型的には、1018/cc台が限界である。
【0012】
この結果、シリコンカーバイドについては、金属電極との接触抵抗を下げることが困難で、現状は、10-5Ωcm2 より少し低い値に留まっている(非特許文献1,2)。この程度の値では、大電流を扱う電力用半導体デバイスとしては、大きな欠点となる。実用化を図るためには、現状の接触抵抗値をさらに、一桁下げる必要がある。
【0013】
従来、シリコンカーバイドの液相エピタキシャル成長については、実験室段階のものが知られている。例えば、カーボン・ボート中に、シリコンを溶媒として満たし、このカーボン・ボートからシリコン溶媒中に融け込むカーボン分子と、この溶媒中のシリコンとを反応させることによってシリコンカーバイドの溶質を生成し、ディップ法などで液相成長を行わせるというシリコンカーバイドの液相成長法が知られている。
【0014】
また、アルミ・シリコン(AlSi)の溶媒中に、メタンガスの分解によって生成されるカーボンを供給し、この溶媒に含まれるシリコンと化合させてシリコンカーバイドの溶質を形成する、というシリコンカーバイドの製造方法も知られている。しかしながら、この方法も、シリコンカーバイドの製造方法としては、実用的な段階には達していない。
【0015】
これらの方法が実用的でない理由の一つは、シリコンやアルミ・シリコンなどの溶媒に対する溶質のシリコンカーバイドの溶解度が小さいということである。このアルミ・シリコン溶媒の温度を高めてゆくと、この溶媒に対する溶質シリコンカーバイドの溶解度は増加する。しかしながら、蒸気圧が高くなりすぎて、アルミニュウムやシリコンが蒸発してしまうという問題が生じる。このため、温度を高めることによって溶解度を高めるという手法には限界がある。従来の製造実用的でない他の理由は、一般的に、液相成長のプロセスが、最も平衡状態に近い結晶成長法であることにある。
【0016】
上述したエピタキシャル成長層や、高不純物濃度の成長層を形成することの困難性を克服するために試みられているのが、イオン注入法である。特に、500 ℃もの高温でイオン注入を行い、なおかつ1500℃前後の高温でアニールを施すことが必要になる。しかし、イオン注入によって一旦非晶質化したシリコンカーバイド(SiC )が、熱処理によって結晶性を回復するのは、単純ではない。第1に、シリコンカーバイドが二元系化合物であり、非晶質化によって昇華温度が低下するという問題がある。第2に、シリコンカーバイドは本質的に結晶多形の性質があるために、結晶性回復の過程で、複数の異なる結晶形が混在してしまうという問題がある。異なる結晶形の混在に伴い、表面の平坦性が損なわれるという欠点が生じる。
【0017】
また、高温イオン注入であっても、活性化後のキャリア濃度は、ドーズ量に較べて低くなりやすい。活性化過程で、かなりの不純物原子が格子間に残ってしまうおそれがある。このため、1019/cc台が、せいぜいキャリア濃度の上限値というのが現状である。すなわち、アルミニュウムの高温イオン注入を用いても、シート抵抗は4〜10kΩ/□程度に留まっているのが現状である。これは、シリコンの場合には、燐ドープで1020/cc、砒素ドープで1022/ccと高濃度が得られやすいという実情に較べると、大きな問題である。
【0018】
特に、PN接合や、PIN接合を用いる大電力用整流器においては、小数キャリアの注入効率が低下するため、大電流領域での伝導度変調が低下して直列抵抗が増大し、本来発揮できるはずの効率が実現できなくなる。勿論、大電力用トランジスタでも同様な現象が起こる。つまり、内部抵抗によるネガティブフィードバックが掛かるために、サチュレーション電圧が高くなるという欠点が現れる。
【0019】
シリコンカーバイドについては、熱拡散法が利用できないため、上述した高温イオン注入法を利用せざるを得ない。しかしながら、この高温イオン注入法にしても、十分に利用可能なほど、まだ、問題が解決されていない。すなわち、現状は、理論予測値よりも一桁以上も劣る実績しか得られていない。
【0020】
【非特許文献1】「シリコンカーバイド(SiC)研究の進展」松波弘之 "FED レビューVol.1 No.17 2001"
【非特許文献2】「IMPATT oscillation in SiC p+ - n - - n + diodes with a guardring formed by vanadium ion implantation 」M.Arai,S.Ono and C.Kimura "ELECTRONICS LETTERS 5th Augast 2004 Vol.40 No.16"
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従って、本発明の一つの目的は、実用的な温度や圧力の範囲内で、シリコンカーバイドなどワイド・バンドギャップ半導体層を同種の基板の表面に、高濃度の不純物を含む状態で、あるいは、不純物を含まない真性の状態で、形成する方法を提供することにある。
【0022】
本発明の他の目的は、結晶性を一旦破壊することなく、従って、シリコンカーバイドなどについては、好ましい4Hタイプや6Hタイプの結晶構造の半導体デバイスを製造可能な製造方法を提供することにある。
【0023】
さらに、本発明の他の目的は、処理装置自体も、その操作方法も簡単で、各種の半導体デバイスの製造コストの低減が可能な製造方法を提供することにある。
【0024】
本発明の更に他の目的は、窒化ガリウム、酸化亜鉛などの気体元素を含む種々の化合物半導体デバイスの製造に適用可能な、応用範囲の広い製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記従来技術の課題を解決する本発明の液相成長法は、イオン化された第1の原子を含むプラズマに直流電流を重畳することにより、基板上に形成される導電性の溶媒に前記プラズマ中の前記イオン化された第1の原子を供給する工程と、この溶媒に供給された前記第1の原子と、この溶媒に予め含まれる第2の原子とを反応せしめて溶質を形成する工程と、この形成された溶質を、前記溶媒中に形成される温度差と前記溶質の濃度差とに基づきこの溶媒中を移動せしめて、前記基板の表面に前記溶質の成長層を形成せしめる工程とを含んでいる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の液相成長法によれば、実用的な温度や圧力の範囲内で、シリコンカーバイドなどのワイド・バンドギャップ半導体層を同種の基板の表面に、高濃度の不純物を含む状態で、あるいは、不純物を含まないアンドープの状態で形成できるという効果が奏される。
【0027】
また、本発明の液相成長法によれば、従来のイオン注入法などとは異なり、結晶性を一旦破壊することなく、従って、シリコンカーバイドなどについては、好ましい物性値を有する4Hタイプや6Hタイプの結晶構造の半導体デバイスを製造できるという効果が奏される。
【0028】
さらに、本発明の液相成長法によれば、処理装置が、汎用のプラズマ発生装置に、簡単な直流電流の供給機構を付加しただけの極めて簡易なものでよい。その結果、処理装置自体も、その操作方法も簡易化され、シリコンカーバイドなどの半導体デバイスの製造コストの低減が実現できるという利点がある。
【0029】
さらに、本発明の液相成長法は、プラズマを構成する気体の種類を任意に選択することにより、窒化ガリウム(GaN)や、酸化亜鉛(ZnO) など、成分の一部が気体であるような、化合物半導体にも適用できるという利点がある。もちろん、本願発明の液相成長法は、気体の成分を含まない、通常の各種の二元系、あるいは、三元系の化合物半導体にもひろく適用可能という利点がある。
【0030】
本発明の液相成長法は、溶媒として、各種の二元合金はもちろん、三元以上の多元合金を使用することも、また、プラズマを形成する気体も複数の気体元素を含むプラズマを形成することも可能であるという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の好適な実施の形態によれば、溶媒がアルミニュウムなどの金属の第3の元素を含み、この第3の元素のアルミニュウムが、シリコンカーバイドなどの溶質の液相エピタキシャル成長層の内部に、十分な濃度の不純物として取り込まれる。
【0032】
本発明の他の好適な実施の形態によれば、基板が水平に保持され、鉛直軸の周りに回転せしめられることにより、基板上に形成される溶媒の層の厚みが水平方向に均一に保持される。
【0033】
本発明の他の好適な実施の形態によれば、溶質はシリコン・カーバイドであり、第1の元素はカーボンであり、第2の元素はシリコンであり、前記導電性の溶媒はアルミ・シリコンである。
【0034】
本発明の他の好適な実施の形態によれば、シリコンを溶媒としてカーボンをイオン電流として注入し、不純物を含まないアンドープのシリコンカーバイドを基板の上に堆積させる。このラテラル・グロースでマイクロパイプが消滅せしめられる。
【0035】
〔本発明の基本原理〕
本発明の基本原理は、従来、ほぼ化学的平衡状態のもとで行われてきた既存の液相エピタキシャル成長機構に、電気エネルギーを導入することによって、大幅な化学的非平衡状態を実現し、その結果、従来に比べてかなり低温・低蒸気圧の実用的な温度範囲で、液相結晶成長可能にしたものである。
【0036】
本発明の一例によれば、メタンなどを主成分とするプラズマに直流電流を流すことにより、カーボン・イオンを加速し、この高速のカーボン・イオンを陰極を形成するアルミ・シリコンなどの溶媒の表面に激突させ、大きな発熱を生じさせる。この発熱の一部は、高温になった溶媒中でのカーボンとシリコンの化学反応によるシリコンカーバイドなどの溶質の生成に費やされ、残りの一部は、溶媒の表面から下方に設置された結晶基板の表面までの大きな温度勾配を発生させる。このような、局部的かつ大きな熱的不平衡状態は、電流の供給によって初めて実現されるものであり、外部加熱のような他の方法によっては到底実現できない性質のものである。
【0037】
アルミ−シリコン融液にイオンを供給してシリコンカーバイドの液相成長を行わせる場合、メタンガス等のハイドロカーボンとキャリアガスとのプラズマから、カーボンイオンだけを供給することもできるし、カーボン・イオンと同時にシリコン・イオンを融液に供給することもできる。後者の場合、キャリアガスと共にテトラメチル・シランなどのアルキル・シラン系列のようなガスを混合してプラズマを形成したり、これに更にハイドロカーボンを混合してプラズマを形成したり、あるいは、アルキル・ジシランやヘキサメチル・ジシランなどカーボン、シリコン、水素を含む化合物をガス化して供給すればよい。
【0038】
本発明の液相成長法は、従来のほぼ熱的平衡状態で行われる液相成長に、イオンビーム注入を組合せたような性質も有する。イオンビームは、プラズマからの成分元素の供給機構と、溶媒の加熱機構とを兼用することになる。加速されたイオンビームの運動エネルギーは、成分元素どうしの化学反応に利用され、残りは熱に変換されて溶媒の中には表面から内部に向かって大きな熱の流れを生じさせる。すなわち、イオンビームの照射に伴って、溶媒の上下に自動的に大きな温度差が生じる。
【0039】
上述した本発明の基本原理を考慮すると、本発明の液相成長法が、単に、シリコンカーバイドの製造方法だけに限定されるものではないことは、明らかである。例えば、例示したメタン・プラズマの代わりに、アンモニア・プラズマを用いて、高速の窒素イオンを陰極のガリウム溶媒に衝突させる構成も適用できる。この構成では、ガリウム溶媒の表面で生じた発熱の一部が溶質の窒化ガリウム(GaN)の生成反応に利用され、残りの一部は、溶媒の表面から下方の基板表面にかけて大きな温度勾配を形成するのに利用される。このため、通常では起りにくい溶質の窒化ガリウムの熱拡散による移動が可能となる。この結果、化合物半導体の成分が、たとえ窒素のような気体元素であっても、良質な液相成長層を安定に生成することが可能になる。
【0040】
このように、本発明の液相成長法によれば、窒素などの気体元素を一成分とする窒化ガリウムなどの化合物半導体であっても、結晶成長が可能となる。当然のことながら、本発明の液相成長法は、ガリウム砒素(GaAs)や、ガリウム・アルミ砒素(GaAlAs)に代表される III−V族化合物半導体などについても適用可能である。
【0041】
一般的には、V族成分の、例えば、アルキル化合物のプラズマを生成し、このプラズマ中からV族元素のイオンを陰極の溶媒に供給し、溶媒中に反応生成物を溶質として生成し、過剰状態にすれば、持続的な結晶成長が可能となる。例えば、高純度の厚膜結晶も実現が可能となる。この場合、一定温度のまま、組成変動を起こさずに、結晶成長が可能となることが特徴的である。同様に、本発明の液相成長法を、II−VI族化合物半導体に適用可能なことは言うまでもない。
【実施例】
【0042】
図1は、本発明の一実施例の液相成長法に使用する液相成長装置の構成を示す機能ブロック図であり、1は電気絶縁性の気密容器、2は反応ガス導入管、3はガス排出管、4,5は導波管、6は導電性の回転台、7はバイアス電極、8は回転シャフト、9は接触子、10は直流電源、11は電動機、12はガードリングである。
【0043】
金属などを素材とする導電性回転台6の上には、6Hや4H構造のシリコンカーバイドの基板Sが配置される。基板Sの底面に形成されたオーミックコンタクト層と、導電性回転台6の金属の表面との間にNi蝋付けなどによる接合面が形成される。さらに、このシリコンカーバイドの基板Sの上には、アルミ−シリコン合金層Aが予め形成される。
【0044】
アルミニュウムは、反応性の高い金属融液になる。しかし、アルミ−シリコン合金層Aを形成する箔を、シリコンカーバイドの基板S上に載置しただけでは、液相成長に必要な平坦な金属融液層を作ることができない。この載置したアルミ−シリコン合金層Aを形成する箔を加熱して融かした場合、融液の表面張力によって、いわゆるボールアップしてしまうからである。この問題を解決するため、本実施例では、次の方法が採用される。
【0045】
まず、シリコンカーバイドの基板Sの表面に、厚さ1μmほどのアルミニュウム層を、蒸着やスパッター法で被着する。その後、RTA(Rapid Thermal Anneal)法や、予備加熱された炉体の移動法によって、 560℃〜 660℃の温度に急激に加熱することにより、アルミニュウムとシリコンカーバイドとの合金層を、シリコンカーバイドの基板Sの表面に形成する。
【0046】
この前処理を行うことにより、シリコンカーバイドの基板Sと、この上に載置されるアルミ−シリコン合金層Aを形成する箔とのなじみが良くなり、その後、アルミ−シリコン合金層Aの融点以上に温度を上昇させてもボールアップは生じない。このようにして、アルミニュウム膜を予めシンターしたシリコンカーバイドの基板Sの上に、アルミ−シリコン合層Aを形成する箔を載置し、水素炉や、真空炉中で融点以上に温度を上昇させる。この結果、融けたアルミ−シリコン合金層Aを形成する箔は、すでに、シリコンカーバイドの基板Sを覆っている、アルミニュウムの中に融け込んで、一体化した、箔状のアルミ−シリコン合金層Aを形成することができる。
【0047】
このようにして、シリコンカーバイドの基板S上の準備が整うと、反応ガス導入管2から、電気絶縁性の気密容器1の内部に、反応ガスとしてのメタンガスと、キャリアガスとしての水素ガスとの混合ガスが供給される。続いて、導波管4,5からガラス製の絶縁性気密容器1の器壁を通して、その内部に2.45GHzのマイクロ波が供給される。メタンガス中のメタン分子CH4 は、2.45GHzのマイクロ波のエネルギーを吸収することにより、高温となって電離し、カーボン・イオンと、水素イオンと、電子とから成るプラズマを生成する。このようにして、カーボン・イオンを含むプラズマが絶縁性気密容器1の内部に形成される。
【0048】
プラズマ中に生成された正極性のカーボン・イオンは、絶縁性気密容器1の上部に設置された正極性のバイアス電極7と、負極性の導電性回転台6上に配置されたシリコンカーバイドの基板Sの表面に載置されたアルミ−シリコン合金層Aとの間に形成される電界によって加速される。加速された高速のカーボン・イオンは、アルミ−シリコン合金層Aの表面に激突する。なお、直流電源10から絶縁性気密容器1に供給される、最大350 ボルト程度の電圧の大部分は、放電管の技術分野で良く知られたように、いわゆる陰極降下として、アルミ−シリコン合金層Aのごく近傍に集中的に印加される。
【0049】
この陰極降下領域内の強電界によって加速された正イオンの運動エネルギーは、極めて大きな値となる。ちなみに、図1の絶縁性の気密容器1に類似の構造を有する放電管では、この正イオンの運動エネルギーを低減して長寿命化を図るため、陰極降下をいかにして低減するかが問題で、種々の工夫が凝らされる。すなわち、陰極降下部分の強電界で加速されて陰極に衝突するイオンの運動エネルギーがあまりにも大きいため、陰極の温度がこのイオン衝撃によって急激に上昇し、極く短時間で、昇華してしまうからである。陰極降下を抑圧するための対策として、例えば、陰極の素材として酸化物などを用いることによって電子放射を促進することなどが行われる。これに加えて、高圧の放電管ではバリウム含浸型タングステン・カソードを用いることによって、電子放射の促進と耐熱性の確保が行われる。
【0050】
本発明の液相成長法では、上述した放電管の場合とは異なり、陰極の温度上昇を期待することから、陰極降下を抑圧する対策はまったく必要ない。すなわち、図1の装置では、アルミ−シリコン合金層Aの表面に激突するカーボン・イオンの大きな運動エネルギーが、熱エネルギーに変換される。
【0051】
この熱エネルギーによって、アルミ−シリコン合金層Aが融解して融液となり、この融液中のシリコン原子がプラズマから供給されたカーボン原子と結合して、シリコンカーバイドの溶質を生成する。この生成された溶質は、溶媒(融液)中の鉛直方向に形成された温度勾配と溶質の濃度勾配とに従って、熱拡散によって、鉛直下方に向けて移動する。この下方に移動した溶質は、シリコンカーバイドの基板Sの表面に到達し、ここで溶媒中から析出して、基板Sの表面にシリコンカーバイドの結晶層を生成する。
【0052】
このように、溶媒の表面近傍で化学反応によって生成され、その濃度勾配と温度勾配によって種結晶の基板Sの表面まで輸送された溶質のシリコンカーバイドが平衡濃度を越えていれば、溶質は結晶として基板Sの表面に析出する。溶質の流れは、その濃度も温度も溶媒の表面で最高なので、溶質は自動的に基板の表面まで熱拡散し、最低温部に配置された基板上に析出する。本実施例のように、溶質と基板が同質の場合には、単結晶として基板Sの上にエピタキシャル成長する。この単結晶層の成長は、プラズマに直流電流が流れている間持続する。
【0053】
融解したアルミ−シリコン層Aの溶媒は、そのままでは、表面張力によって基板S上の中心部分が盛り上がる。このようにして、溶媒の厚さが一様でなくなると、成長層も溶媒の形状に従って、中心部が厚くなることが観察される。これを避けるために、基板Sを水平の状態で保持する導電性の回転台(サセプター)6を、回転シャフト8を介して電動機11で鉛直軸の周りに回転させ、アルミ−シリコンの溶媒の層に遠心力を作用させ、その厚みを一定に保つ。
【0054】
さらに、アルミ−シリコンAの溶媒が導電性の回転台6の周縁部からこぼれ落ちないようにすると同時に、電流をアルミ−シリコンAの溶媒に集中させるために、基板Sの周辺は、溶媒の液面よりも高い、電気絶縁性のガードリング12で取り囲む。このガードリングの素材の条件としては、溶媒と反応しないことと、電流を溶媒に集中させるため高温状態でも電気抵抗が高いことが必要である。これらの条件を満たす素材として、例えば、六方晶窒化硼素(BN)の焼結体などが適している。
【0055】
導電性の回転台6の表面にNi蝋付けなどによって固定されるシリコンカーバイドの基板Sの下面には、電流を均一に流すための耐熱性オーミック電極が予め形成される。シリコンカーバイドの基板の裏面に蒸着やスパッタリグでNiの薄膜を形成し、850 °C 前後の温度でRTA処理を施し、続いて1000°C 〜1200°C の温度でシンターすることにより、良好なオーミックコンタクトを形成できる。シリコンカーバイドの基板Sの表面の液相成長温度は十分に高いので、基板がどの導電型であるかを問わず、高キャリア密度の真性半導体の状態に近くなり、比較的小さな電圧降下の状態で大電流を流すことが出来る。
【0056】
シリコンカーバイドの基板Sの表面の液相成長温度は、シリコンカーバイドの溶質の溶解度を高める上では高いほど好ましく、アルミ−シリコンAの溶媒の蒸気圧を低く保つ上では低いほど好ましい。両者を勘案した液相成長の好適温度として、1000℃から1200℃の範囲が設定される。
【0057】
アルミ−シリコンの溶媒に対するシリコンカーバイドの溶解度は、それほど大きくはない。このため、溶媒の厚み、従って、アルミ−シリコンの合金層Aの厚みを、あまり大きくするのは好ましくなく、高々1mm程度である。ただし、本発明の液相成長法によれば、通常の温度差法などでは到底実現できないほど大きな温度差が形成される。
【0058】
このため、アルミ−シリコン合金層の溶媒、特にその上部では大きな熱的不平衡状態となる。これが、溶媒の下方に設置したシリコンカーバイドの基板Sに向けた溶質の輸送を可能にし、冷却法や、通常の光や炉温によって作られる温度差を利用した温度差法に比べると、はるかに効率の良い成長が実現される。
【0059】
上述したように、溶質のシリコンカーバイドは、アルミニュウムに対する溶解度が低いので、容易に、シリコンカーバイドの基板S上に単結晶として析出する。この時、アルミ−シリコン層A中のアルミニュウムは、シリコンカーバイドの成長層中に、金属原子のドーパントして取り込まれる。シリコンもカーボンも、ともに四族なので、アルミニュウム原子がシリコンと、カーボンのどちらの格子位置に取り込まれたとしても、P型不純物として機能する。可能性としては、シリコンの格子位置に入る割合が大きくなるものと考えられる。その理由は、シリコンがアルミニュウムと共晶合金を作るからである。
【0060】
アルミニュウム原子は溶媒のアルミ−シリコン合金の一部を形成しているので、シリコンカーバイドの再結晶層に取り込まれる量は、固溶限界の最大値にまで達するものとみられる。しかも、液相成長法は、他の方法に較べて、最も平衡に近い状態での成長であるから、不純物原子となるアルミニュウムは、シリコンや、カーボンの格子位置に置換的(サブスティチューショナル)に取り込まれ、格子間にインタースティシャルに入る可能性は低い。この点においても、本発明の液相成長は、気相成長やイオン注入による不純物のドーピングに較べて優れている。
【0061】
ちなみに、イオン注入では、注入領域の結晶が一旦破壊されるが、通常の半導体材料では、アニール過程で結晶性が回復する。しかし、シリコンカーバイドでは、基板の多くは高温フェーズの6Hタイプか、4Hタイプが多用される。ところが、シリコンカーバイドは本質的に結晶多形なので、アニール温度において、イオン注入によって一旦非晶質化したシリコンカーバイドは、再結晶化過程でいくつかの結晶タイプが混在した状態で結晶化しやすくなる。このため、表面の平坦性は著しく低下する。また、このような結晶多形という事情から、イオン注入したドーパントが必ずしも格子位置に入らず、格子間に残留してしまう可能性も高くなる。
【0062】
例えば、アルミニュウムをイオン注入した場合、ドーズした不純物濃度は1020/ccであっても活性化したキャリア濃度は1018/cc程度の値しか得られない。また気相成長においても、アルミニュウムは成長温度での蒸気圧が高いので、成長層内に取り込まれる割合が低下し、やはり、キャリア濃度は1018/cc程度が上限となってしまう。この結果、P型のシリコンカーバイドにおいては、P型キャリアの濃度を1020/cc以上にして、コンタクト抵抗を低下させることが困難であり、PN接合を含むシリコンカーバイド半導体デバイスの性能を実用上必要な値にできないと言う問題があった。
【0063】
その点、本発明の方法では、シリコンカーバイド中にアルミニュウム原子を1020/ccの濃度で入れることが容易である。この実現によって、シリコンカーバイドが本来有している、物性上の優位点を生かしたデバイスが実現出来る。
【0064】
以上、プラズマを形成する反応ガスとしてメタンガスを使用する場合を例示した。しかしながら、エタンガス、プロパンガス、アセチレンガスなど他の炭化水素のガスを反応ガスとして使用することもできる。また、キャリアガスとして水素ガスを使用する場合を例示した。しかしながら、アルゴンガスなどをキャリアガスとして使用することもできることは、言うまでもない。
【0065】
また、溶媒としてアルミ−シリコン合金を使用して、シリコンカーバイド中にアルミニュウム原子を不純物原子として取り込む場合を例示した。しかしながら、アルミ−シリコン合金の箔の代わりにシリコンの箔を使用することなどにより、アルミニュウムを不純物原子として含まないアンドープのシリコンカーバイドを液相成長させる構成とすることもできる。このアンドープ層の形成は、ラテラル・グロースによってマイクロパイプを消すのに利用できる。
【0066】
また、アルミニュウムを不純物原子としてドープする場合を例示した。しかしながら、アルミニュウム以外の適宜な金属原子を不純物原子としてトープする構成を採用することもできる。
【0067】
上記アンドープのシリコンカーバイドを基板の上に堆積する場合、例えば、溶媒として鉄系元素とシリコンの合金の融液を使用する。この鉄系元素は、カーボンとの親和力が強いので、融液に対する溶質としてのシリコンカーバイドの溶解度を高める性質があり、厚膜の成長層の形成には適している。融液の一部を成す鉄系元素は、イオン半径が大きいので、成長層の内部には取り込まれ難く、不純物として残留する濃度はたかだか1015/cc にすぎない。このため、そのような鉄系不純物の存在は、その後の半導体デバイスの形成の工程や、最終的な半導体デバイスの動作にほとんど影響を及ぼさない。
【0068】
また、液相成長させる物質がシリコンカーバイドの場合を例示した。しかしながら、シリコンカーバイドに限らず、適宜な化合物半導体に対して、本発明の液相成長法を適用できることは明らかである。特に、窒化ガリウム(GaN)や、酸化亜鉛(ZnO)など、気体元素の窒素や酸素を含む化合物半導体の液相成長に本発明を適用できる。
【0069】
窒化ガリウムの場合、基板上に載置したガリウムの箔にプラズマ中から窒素イオンを入射する。酸化亜鉛の場合、基板上に載置した亜鉛の箔に酸素イオンを入射する。この場合、酸素または酸素を含む導入ガスに窒素を添加し、かつ、酸素と窒素の比率を制御しながら各イオンを入射することにより、窒素イオンをP型不純物として含む酸化亜鉛を液相成長させることができる。また、1500℃程度まで、処理温度を上昇させることによって、鉄系元素とシリコンの合金に対しても本発明を適用できる。
【0070】
シリコンカーバイドの液相成長の場合、プラズマ中からカーボン元素のみを導電性の溶媒中に取り込む構成を例示したが、シリコン元素もプラズマ中から取り込む構成を採用することもできる。
【0071】
また、二元系半導体に限らず、GaAlAsなどの三元系半導体に対しても本発明の液相成長法を適用できる。また、プラズマを形成する気体も複数の気体元素を含むものを使用したり、溶媒が多元系の導電性材料を使用できる。

【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の一実施例の液相成長法を適用する装置の構成を示す機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0073】
1 電気絶縁性の気密容器
2 反応ガス導入管
3 ガス排出管
4,5 導波管
6 導電性の回転台
7 バイアス電極
8 回転シャフト
9 接触子
10 直流電源
11 電動機
12 ガードリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン化された第1の元素を含むプラズマに直流電流を重畳することにより、基板上に形成される導電性の溶媒に前記プラズマ中の前記イオン化された第1の元素を供給する工程と、
この溶媒に供給された前記第1の元素と、この溶媒に予め含まれる第2の元素とを反応せしめて溶質を形成する工程と、
この形成された溶質を、前記溶媒中に形成される温度差と前記溶質の濃度差とに基づき前記溶媒中を移動せしめて、前記溶質の成長層を前記基板の表面に形成せしめる工程と
を含むことを特徴とする液相成長法。
【請求項2】
請求項1において、
前記導電性の溶媒は、金属の第3の元素を含み、この第3の元素が前記溶質の成長層の内部に不純物として取り込まれることを特徴とする液相成長法。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかにおいて、
前記溶媒に予め含まれる第2の元素が、前記プラズマからもこの溶媒に供給されることを特徴とする液相成長法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記基板は、水平に保持され、鉛直軸の周りに回転せしめられることを特徴とする液相成長法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記溶質は、シリコン・カーバイドであることを特徴とする液相成長法。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれかにおいて、
前記第1の元素はカーボンであり、前記第2の元素はシリコンであり、前記導電性の溶媒はアルミ・シリコンであることを特徴とする液相成長法。
【請求項7】
請求項6において、
前記アルミ・シリコン中のアルミニュウム原子が、前記第3の元素による不純物として前記シリコン・カーバイドの成長層の中に取り込まれることを特徴とする液相成長法。
【請求項8】
請求項5において、
前記導電性の溶媒は鉄系元素とシリコンとを含み、シリコンカーバイドの液相成長層の内部に1015/cc 以下の低濃度の鉄系元素が不純物として取り込まれることを特徴とする液相成長法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−39267(P2007−39267A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223894(P2005−223894)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(305006761)
【出願人】(597125863)株式会社ケミトロニクス (18)
【Fターム(参考)】