説明

混成差動歯車装置

【課題】装置全体の小型・軽量化を図ることができる混成差動歯車装置を提供する。
【解決手段】遊星歯車5,太陽歯車6及び内歯車7を有し、車両の駆動力を前輪側及び後輪側に分配する第1プラネタリギヤ式差動装置2と、第1プラネタリギヤ式差動装置2によって分配された分配駆動力を内歯車7から受ける内歯車12、内歯車12からの入力を受ける太陽歯車15及びキャリア51を有し、前輪側又は後輪側の左右輪に分配駆動力を分配する第2プラネタリギヤ式差動装置3と、第1プラネタリギヤ式差動装置2及び第2プラネタリギヤ式差動装置3を収容するデフケース4とを備え、第2プラネタリギヤ式差動装置3は、内歯車12が第1プラネタリギヤ式差動装置3の内歯車7に一体に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混成差動歯車装置に関し、特にプラネタリギヤ式差動装置を備えた混成差動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の混成差動歯車装置として、例えば2つの差動歯車装置を車軸方向に互いに並列して配置されたものがある(特許文献1)。
【0003】
この混成差動歯車装置は、プラネタリギヤ式差動装置からなるセンターデフとしての第1差動歯車装置と、ベベルギヤ式差動装置からなるフロントデフとしての第2差動歯車装置と、第1差動歯車装置及び第2差動歯車装置を収容するデフケースとを備えている。
【0004】
第1差動歯車装置は、第1入力部材としての遊星歯車と、遊星歯車に噛合する第1出力部材としての内歯車と、内歯車と同一の軸線上で遊星歯車に噛合する第2出力部材としての太陽歯車とを有している。第2差動歯車装置は、太陽歯車に支持されたピニオンギヤシャフトと、このピニオンギヤシャフトに回転自在に支持された第2入力部材としての1対のピニオンギヤと、これら1対のピニオンギヤに噛合する第3出力部材及び第4出力部材としての1対のサイドギヤとを有している。デフケースは、第1リングギヤ取付用フランジを有するケース本体と、第2リングギヤ取付用フランジを有するキャップとによって形成されている。
【0005】
遊星歯車は、デフケースの回転力を受けて回転し、この回転力を太陽歯車と内歯車に伝達する。内歯車は、遊星歯車の回転力を受けて回転し、この回転力をリヤ車軸に伝達する。太陽歯車は、遊星歯車の回転力を受けて回転し、この回転力をピニオンギヤシャフトに伝達する。
【0006】
ピニオンギヤシャフトは、太陽歯車の回転力を受けて回転し、この回転力を1対のピニオンギヤに伝達する。1対のピニオンギヤは、ピニオンギヤシャフト(太陽歯車)の回転力を受けて回転(自転又は公転)し、この回転力を1対のサイドギヤに伝達する。1対のサイドギヤは、1対のピニオンギヤの回転力を受けて回転し、この回転力を左右のフロント車軸に伝達する。
【0007】
デフケースは、車両のエンジン側(リングギヤ)からのトルクを受けて回転し、この回転力を第1差動歯車装置の遊星歯車に伝達する。
【0008】
以上の構成により、車両のエンジン側からのトルクがデフケースに入力されると、デフケースが回転軸線の回りに回転する。デフケースが回転すると、この回転力が遊星歯車に伝達され、さらに遊星歯車から内歯車及び太陽歯車に伝達される。これにより、内歯車及び太陽歯車が回転し、この回転力(太陽歯車の回転力)がピニオンギヤシャフトを介して1対のピニオンギヤに伝達される。このため、1対のピニオンギヤが自転又は公転し、これら自転又は公転力が1対のサイドギヤに伝達される。
【0009】
この場合、太陽歯車にはリヤ車軸が出力歯車等を介して、また1対のサイドギヤには左右のフロント車軸がそれぞれ連結されているため、エンジン側のトルクがデフケース及び第1差動歯車装置(遊星歯車,内歯車)を介してリヤ車軸に伝達されるとともに、デフケース,第1差動歯車装置(遊星歯車,太陽歯車)及び第2差動歯車装置(ピニオンギヤ,サイドギヤ)を介して左右のフロント車軸に伝達される。
【特許文献1】特開2003−130178号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1によると、第2差動歯車装置としてベベルギヤ式差動装置が用いられているため、デフケースの軸線方向寸法が大きくなり、またベベルギヤ式差動装置を第1差動歯車装置の太陽歯車(ハウジング形状の太陽歯車)によって収容し、さらに太陽歯車をデフケースによって収容する構造であるため、デフケースの径方向寸法が大きくなり、装置全体が大型・重量化するという問題があった。
【0011】
従って、本発明の目的は、デフケースの軸線方向寸法及び径方向寸法を短縮することができ、もって装置全体の小型・軽量化を図ることができる混成差動歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、第1入力エレメント,第1出力エレメント及び第2出力エレメントを有し、車両の駆動力を前輪側及び後輪側に分配するプラネタリギヤ式差動装置からなる第1差動歯車装置と、前記第1差動歯車装置によって分配された分配駆動力を前記第1出力エレメント又は前記第2出力エレメントから受ける第2入力エレメント,前記第2入力エレメントからの入力を受ける第3出力エレメント及び第4出力エレメントを有し、前記前輪側又は前記後輪側の左右輪に前記分配駆動力を分配するプラネタリギヤ式差動装置からなる第2差動歯車装置と、前記第1差動歯車装置及び前記第2差動歯車装置を収容するデフケースとを備え、前記第2差動歯車装置は、前記第2入力エレメントが前記第1差動歯車装置の前記第1出力エレメント又は前記第2出力エレメントに一体化されていることを特徴とする混成差動歯車装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、デフケースの軸線方向寸法及び径方向寸法を短縮することができ、装置全体の小型・軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る混成差動歯車装置を説明するために示す断面図である。図2は、本発明の実施の形態に係る混成差動歯車装置のプロペラシャフトへの連結状態を概略化して示す平面図である。図3は、図1のA−A断面図である。図4は、図1のB−B断面図である。
【0015】
(混成差動歯車装置の全体構成)
図1及び図2において、符号1で示す車両用の混成差動歯車装置は、第1差動歯車装置としての第1プラネタリギヤ式差動装置2と、第2差動歯車装置としての第2プラネタリギヤ式差動装置3と、第1プラネタリギヤ式差動装置2及び第2プラネタリギヤ式差動装置3を収容するデフケース4とから大略構成されている。
【0016】
(第1プラネタリギヤ式差動装置2の構成)
第1プラネタリギヤ式差動装置2は、図1及び図3に示すように、第1入力エレメントとしての複数の遊星歯車5と、これら複数の遊星歯車5に噛合する第1出力エレメントとしての太陽歯車6と、この太陽歯車6の軸線上で複数の遊星歯車5に噛合する第2出力エレメントとしての内歯車7とを有し、図1に示すようにデフケース4の回転軸線O上に第2プラネタリギヤ式差動装置3と並列して配置されている。そして、センターデフとして機能し、4輪駆動車におけるエンジン(駆動源)側の駆動力を前輪側及び後輪側に分配するように構成されている。第1プラネタリギヤ式差動装置2の各歯車5〜7にはヘリカルギヤが用いられる。
【0017】
複数の遊星歯車5は、軸線両方向に開口する中空部5Aを有し、太陽歯車6と内歯車7との間に配置され、かつデフケース4(後述するキャリア50)に回転自在に保持されている。そして、デフケース4(キャリア50)の回転力を受けて回転(公転又は自転)するように構成されている。
【0018】
太陽歯車6は、デフケース4の回転軸線Oと同一の軸線をもつ円筒体からなり、遊星歯車5の内側に車軸回りに回転自在に配置されている。そして、遊星歯車5からの回転力を受け、傘歯車61,62及びプロペラシャフトPS(図2に示す)を介してリヤ車軸(図示せず)に出力するように構成されている。太陽歯車6には、左右のフロント車軸63,64(図2に示す)のうち右フロント車軸64を挿通させる車軸挿通孔19を有する歯車装着用の筒部6Aが一体に設けられている。筒部6Aと太陽歯車6との間には段差面20が設けられている。
【0019】
内歯車7は、遊星歯車5とデフケース4との間に車軸回りに回転自在に配置され、全体が回転軸線Oの両方向に開口する円筒体によって形成されている。
【0020】
(第2プラネタリギヤ式差動装置3の構成)
第2プラネタリギヤ式差動装置3は、図1及び図4に示すように、第2入力エレメントとしての内歯車12と、この内歯車12に噛合する複数の第1遊星歯車13と、これら第1遊星歯車13に噛合する複数の第2遊星歯車14と、これら第2遊星歯車14に噛合する第3出力エレメントとしての太陽歯車15と、この太陽歯車15の外側で第1遊星歯車13及び第2遊星歯車14を回転可能に収容する第4出力エレメントとしてのキャリア51とを有し、デフケース4(ケース本体)の底部と第1プラネタリギヤ式差動装置2との間に介在してデフケース4の回転軸線O上に配置されている。そして、フロントデフとして機能し、第1プラネタリギヤ式差動装置2によって分配された分配駆動力を4輪駆動車における前輪側の左右輪に分配するように構成されている。第2プラネタリギヤ式差動装置3の各歯車12〜15にはヘリカルギヤが用いられる。
【0021】
内歯車12は、第1プラネタリギヤ式差動装置2の内歯車7の出力側開口端面に環状の連結部16を介して一体に設けられ、全体が回転軸線Oの両方向に開口する円筒体によって形成されている。そして、キャリア50及び遊星歯車5を介してエンジン側のトルクを第1プラネタリギヤ式差動装置2の内歯車7から受け、第1遊星歯車13に入力するように構成されている。内歯車12の内外径は、内歯車7の内外径より大きい寸法に設定されている。内歯車12の開放側端面とデフケース4(ケース本体)の底部との間にはスラストワッシャ17が介装されている。
【0022】
第1遊星歯車13は、内歯車12と第2遊星歯車14との間に配置され、かつキャリア51(第1収容空間)に回転軸13Aを介して回転自在に保持されている。そして、第1遊星歯車13を介して内歯車12の回転力を第2遊星歯車14に伝達するように構成されている。
【0023】
第2遊星歯車14は、太陽歯車15と第1遊星歯車13との間に配置され、かつキャリア51(第2収容空間)に回転軸14Aを介して回転自在に保持されている。そして、第1遊星歯車13の回転力を太陽歯車15及びキャリア51に伝達するように構成されている。
【0024】
太陽歯車15は、デフケース4の回転軸線O上に回転自在に配置され、かつキャリア51内に収容され、全体が回転軸線Oの両方向に開口する円筒体によって形成されている。太陽歯車15の内面には、左右のフロント車軸63,64の左フロント車軸63がスプライン嵌合されている。
【0025】
キャリア51は、内歯車12と太陽歯車15との間に介在し、デフケース4の回転軸線O上に回転自在に配置され、全体が太陽歯車15を収容可能な空間部51Aを有する環状体によって形成されている。キャリア51には、円周方向に等間隔をもって並列する第1収容空間52A及び第2収容空間52Bからなる複数の収容部52が設けられている。第1収容空間52Aは、キャリア51の外側に配置され、内歯車12に向かって開放されている。第1収容空間52Aには、第1遊星歯車13が回転可能に収容されている。第2収容空間52Bは、キャリア51(第1収容空間52A)の内側に配置され、太陽歯車15に向かって開放されている。第2収容空間52Bには、第2遊星歯車14が回転可能に収容されている。第2収容空間52B及び第1収容空間52Aは互いに連通されている。キャリア51の出力側開口周縁には、太陽歯車15と反対側に突出する筒状のボス部53が一体に設けられている。ボス部53の内面には、左右のフロント車軸63,64の右フロント車軸64がスプライン嵌合されている。
【0026】
(デフケース4の構成)
デフケース4は、図1に示すように、一方に開口するケース本体4Aと、ケース本体4Aの開口部側を閉塞するキャップ4Bと、キャップ4Bとケース本体4Aとの間に介在する胴部4Cとを備えている。
【0027】
ケース本体4Aは、回転軸線Oに沿って開口する車軸挿通孔24を有し、全体が段状の円筒体によって形成されている。車軸挿通孔24には左フロント車軸63が挿通されている。ケース本体4Aの内周面には、キャップ4B(フランジ)を胴部4Cの開口端面に圧接する内フランジ25Aを有するキャップ固定用のリングボルト25がねじ止めされている。ケース本体4Aの外周面には、回転軸線Oと直角な平面内で円周方向に沿う円環状のリングギヤ取付用フランジ26が一体に設けられている。リングギヤ取付用フランジ26は、フランジ両端面に開口するボルト取付孔26Aを有し、ドライブピニオン(図示せず)を介してエンジン側のトルクを受けるリングギヤ(図示せず)を取り付けるように構成されている。
【0028】
キャップ4Bは、太陽歯車6の筒部6Aを挿通させる筒部挿通孔27を有し、ケース本体4Aの開口内周面に胴部4Cを介して装着されている。筒部挿通孔27の内周面と筒部6Aの外周面にはブッシュ28が介装されている。キャップ4Bの内側開口端部には、リングギヤ取付用フランジ26のフランジ端面と平行なフランジ端面を有するフランジ29が一体に設けられている。フランジ29(フランジ端面)と段差面20との間にはスラストワッシャ30が介装されている。
【0029】
胴部4Cは、リングボルト25と太陽歯車6との間に配置され、かつケース本体4Aの内周面にねじ止めされ、全体が環状体によって形成されている。胴部4Cには、複数の遊星歯車5を回転可能に収容する収容空間50Aを有するキャリア50が一体に設けられている。キャリア50には、第1プラネタリギヤ式差動装置2の太陽歯車5に発生するスラスト力を受ける壁部50Bが一体に設けられている。
【0030】
〔混成差動歯車装置1の動作〕
車両のエンジン側からのトルクがドライブピニオン及びリングギヤを介してデフケース4に入力されると、デフケース4が回転軸線Oの回りに回転する。デフケース4が回転すると、この回転力が遊星歯車5に伝達され、さらに遊星歯車5を介して太陽歯車6と内歯車7とに伝達される。これにより、太陽歯車6及び内歯車7が共に回転し、この回転力が内歯車12,第1遊星歯車13及び第2遊星歯車14を介してキャリア51に伝達され、さらに第2遊星歯車14から太陽歯車15に伝達される。
【0031】
この場合、太陽歯車6には筒部6A及び傘歯車61,62を介してプロペラシャフトPSが、また太陽歯車15及びキャリア51にはそれぞれ左フロント車軸63と右フロント車軸64が連結されているため、エンジン側からのトルクがドライブピニオン及びリングギヤ・デフケース4・第1プラネタリギヤ式差動装置2(遊星歯車5及び太陽歯車6)を介してリヤ車軸(プロペラシャフトPS)に伝達されるとともに、デフケース4・第1プラネタリギヤ式差動装置2(遊星歯車5及び内歯車7)・第2プラネタリギヤ式差動装置3(内歯車12,第1遊星歯車13,第2遊星歯車14,太陽歯車15及びキャリア51)を介して左右のフロント車軸63,64に伝達される。
【0032】
ここで、車両が直線上を等速で走行する等の非差動時には、エンジン側からのトルク(回転力)が遊星歯車5を介して太陽歯車6及び内歯車7に伝達され、太陽歯車6及び内歯車7が車軸に対して等速で回転する。これら太陽歯車6及び内歯車7のうち太陽歯車6からの回転力を受けてリヤ車軸が回転する。また、第1遊星歯車13及び第2遊星歯車14が内歯車7からの回転力を受けてキャリア51と共に太陽歯車15上を公転し、第1遊星歯車13,第2遊星歯車14,太陽歯車15及びキャリア51がデフケース4と共に一体に回転する。このため、エンジン側からのトルクが前後の左右車軸に等分に伝達され、前後の左右各車輪が等しい回転数で回転される。
【0033】
一方、走行中に車両が例えば左方に旋回したり、あるいは前方の右車輪がぬかるみに落ち込んだりした場合等には、エンジン側からのトルクが第1プラネタリギヤ式差動装置2を介して第2プラネタリギヤ式差動装置3とリヤ車軸に差動分配される。さらに、第2プラネタリギヤ式差動装置3では、第1遊星歯車13及び第2遊星歯車14が太陽歯車15上で自転し、この回転力がフロント車軸63,64の左右車輪間で差動分配される。このため、前方の左車輪及びリヤ車軸(左右車輪)がデフケース4の回転速度より低い速度で回転され、前方の右車輪がデフケース4の回転速度より高い速度で回転される。
【0034】
このような混成差動歯車装置1においては、第2差動歯車装置としてプラネタリギヤ式差動装置(第2プラネタリギヤ式差動装置3)を用いて第1差動歯車装置(第1プラネタリギヤ式差動装置2)とデフケース4の回転軸線O上に並列して配置する構造であるため、第2差動歯車装置としてベベルギヤ式差動装置が用いられる場合と比較してデフケース4の軸線方向寸法を短縮することができる。また、第2プラネタリギヤ式差動装置2の内歯車12(第2入力エレメント)が第1プラネタリギヤ式差動装置3の内歯車7(第2出力エレメント)に一体に設けられているため、第2差動歯車装置(第2プラネタリギヤ式差動装置3)のハウジングをその入力エレメント(内歯車12)によって兼用することができ、デフケース4の径方向寸法を短縮することができる。
【0035】
[実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0036】
(1)第1プラネタリギヤ式差動装置2及び第2プラネタリギヤ式差動装置3が回転軸線O上に並列して配置され、第2プラネタリギヤ式差動装置3の内歯車12が第1プラネタリギヤ式差動装置2の内歯車7に一体に設けられているため、デフケース4の軸線方向寸法及び径方向寸法を短縮することができ、装置全体の小型・軽量化を図ることができる。
【0037】
(2)第1プラネタリギヤ式差動装置2と第2プラネタリギヤ式差動装置3とは機能的に独立しているため、各歯車をヘリカルギヤとして差動制限力を発生させた場合に左右輪でバランスの良好な差動制限力を得ることができる。
【0038】
(3)第1プラネタリギヤ式差動装置2と第2プラネタリギヤ式差動装置3とが機能的に独立していることは、左右のフロント車軸のトルクを同一のトルクに設定するために歯数比の制約を受けず、このため歯車サイズの自由度を高めることができ、車両の仕様に応じて最適な設計を行うことができる。
【0039】
以上、本発明の混成差動歯車装置を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0040】
(1)本実施の形態では、第2プラネタリギヤ式差動装置3の内歯車12(第2入力エレメント)が第1プラネタリギヤ式差動装置2の内歯車7(第2出力エレメント)に一体に設けられている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、太陽歯車6(第1出力エレメント)に内歯車12を一体に設けてもよい。この場合、内歯車7には、例えば左右のフロント車軸63,64のうち右フロント車軸64を挿通させる筒部(図示せず)が一体に設けられている。また、太陽歯車6(第1出力エレメント)又は内歯車7(第2出力エレメント)に内歯車12を取り付けてもよい。すなわち要するに、第2入力エレメントが第1出力エレメント又は記第2出力エレメントに一体化されていればよい。
【0041】
(2)本実施の形態では、第1入力エレメントとして遊星歯車5、第1出力エレメントとして太陽歯車6、第2出力エレメントとして内歯車7である場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、第1入力エレメントとして遊星歯車、第1出力エレメントとして内歯車、第2出力エレメントとして太陽歯車であってもよい。また、第1入力エレメントとして太陽歯車、第1出力エレメントとして内歯車又は遊星歯車、第2出力エレメントとして遊星歯車又は内歯車であってもよく、さらには第1入力エレメントとして内歯車、第1出力エレメントとして太陽歯車又は遊星歯車、第2出力エレメントとして遊星歯車又は太陽歯車であっても実施可能である。すなわち要するに、本発明においては、第1エレメントとして内歯車、第2エレメントとしての太陽歯車、及び第3エレメントとして遊星歯車である場合に、第1エレメント,第2エレメント及び第3エレメントのうちいずれか1つのエレメントが第1入力エレメントとされ、他の2つのエレメントがそれぞれ第1出力エレメントと第2出力エレメントとされていればよい。
【0042】
(3)本実施の形態では、第2入力エレメントとして内歯車12、第3出力エレメントとして太陽歯車15、第4出力エレメントとしてキャリア51である場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、第2入力エレメントとして内歯車12、第3出力エレメントとしてキャリア51、第4出力エレメントとして太陽歯車15であってもよい。また、第2入力エレメントとして太陽歯車15、第3出力エレメントとしてキャリア51又は内歯車12、第4出力エレメントとして内歯車12又はキャリア51であってもよく、さらには第2入力エレメントとしてキャリア、第3出力エレメントとして内歯車12又は太陽歯車15、第4出力エレメントとして太陽歯車15又は内歯車12であっても実施可能である。すなわち要するに、本発明においては、第4エレメントとして内歯車、第5エレメントとしての太陽歯車、及び第6エレメントとしてキャリアである場合に、第4エレメント,第5エレメント及び第6エレメントのうちいずれか1つのエレメントが第2入力エレメントとされ、他の2つのエレメントがそれぞれ第3出力エレメントと第4出力エレメントとされていればよい。
【0043】
(4)本実施の形態では、第1プラネタリギヤ式差動装置2及び第2プラネタリギヤ式差動装置3をそれぞれセンターデフとフロントデフとする混成差動歯車装置1である場合について説明したが、センターデフとリヤデフとする混成差動歯車装置としてもよい。
【0044】
(5)本実施の形態では、太陽歯車5に発生するスラスト力を受ける壁部50Bがキャリア50に設けられている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、内歯車12(内歯車7)に壁部(図示せず)を設け、この壁部によってスラスト力を受ける構造としてもよい。
【0045】
(6)本実施の形態では、デフケース4がケース本体4A,キャップ4B及び胴部4C(3ピースの部材)からなる場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、デフケースを2ピース部材によって形成してもよく、また4個以上のケースエレメントからなるデフケースであっても勿論よい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態に係る混成差動歯車装置を説明するために示す断面図。
【図2】本発明の実施の形態に係る混成差動歯車装置のプロペラシャフトへの連結状態を概略化して示す平面図。
【図3】図1のA−A断面図。
【図4】図1のB−B断面図。
【符号の説明】
【0047】
1…混成差動歯車装置、2…第1プラネタリギヤ式差動装置、3…第2プラネタリギヤ式差動装置、4…デフケース、4A…ケース本体、4B…キャップ、4C…胴部、5…遊星歯車、5A…中空部、6,15…太陽歯車、6A…筒部、7,12…内歯車、13…第1遊星歯車、13A…回転軸、14…第2遊星歯車、14A…回転軸、16…連結部、17,30…スラストワッシャ、…19,24…車軸挿通孔、20…段差面、25…リングボルト、25A…内フランジ、26…リングギヤ取付用フランジ、26A…ボルト取付孔、27…筒部挿通孔、28…ブッシュ、29…フランジ、50,51…キャリア、50A…収容空間、50B…壁部、51A…空間部、52…収容部、52A…第1収容空間、52B…第2収容空間、53…ボス部、61,62…傘歯車、63…左フロント車軸、64…右フロント車軸、O…回転軸線、PS…ブロペラシャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1入力エレメント,第1出力エレメント及び第2出力エレメントを有し、車両の駆動力を前輪側及び後輪側に分配するプラネタリギヤ式差動装置からなる第1差動歯車装置と、
前記第1差動歯車装置によって分配された分配駆動力を前記第1出力エレメント又は前記第2出力エレメントから受ける第2入力エレメント,前記第2入力エレメントからの入力を受ける第3出力エレメント及び第4出力エレメントを有し、前記前輪側又は前記後輪側の左右輪に前記分配駆動力を分配するプラネタリギヤ式差動装置からなる第2差動歯車装置と、
前記第1差動歯車装置及び前記第2差動歯車装置を収容するデフケースとを備え、
前記第2差動歯車装置は、前記第2入力エレメントが前記第1差動歯車装置の前記第1出力エレメント又は前記第2出力エレメントに一体化されている
ことを特徴とする混成差動歯車装置。
【請求項2】
前記第1差動歯車装置及び前記第2差動歯車装置は、車軸方向に互いに並列して配置されている請求項1に記載の混成差動歯車装置。
【請求項3】
前記第1差動歯車装置は、前記第1入力エレメントとしての複数の遊星歯車、前記第1出力エレメントとしての太陽歯車、及び前記第2出力エレメントとしての内歯車から構成され、
前記第2差動歯車装置は、前記第2入力エレメントとしての内歯車、前記第3出力エレメントとしての太陽歯車、及び前記第2入力エレメントと前記第3出力エレメントとの間に介在する複数の遊星歯車を回転可能に収容する第4出力エレメントとしてのキャリアから構成されている請求項1に記載の混成差動歯車装置。
【請求項4】
前記第2差動歯車装置は、前記複数の遊星歯車が前記内歯車に噛合する第1遊星歯車と前記太陽歯車に噛合する第2遊星歯車とからなる請求項3に記載の混成差動歯車装置。
【請求項5】
前記デフケースは、前記第1差動歯車装置の前記太陽歯車に発生するスラスト力を受ける壁部を有する請求項3に記載の混成差動歯車装置。
【請求項6】
前記第1差動歯車装置は、前記内歯車,前記太陽歯車及び前記複数の遊星歯車がヘリカルギヤからなり、
前記第2差動歯車装置は、前記内歯車,前記太陽歯車及び前記複数の遊星歯車がヘリカルギヤからなる請求項3に記載の混成差動歯車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−222106(P2008−222106A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65208(P2007−65208)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】